特許第5979060号(P5979060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979060
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】火花点火式エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20160817BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20160817BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20160817BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20160817BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20160817BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20160817BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   F02D19/08 D
   F02D13/02 J
   F02D13/02 H
   F02D41/06 330A
   F02D41/06 335Z
   F02D41/14 310D
   F02D41/34 H
   F02D43/00 301Z
   F02D43/00 301H
   F02D43/00 301J
   F02D45/00 312B
   F02D45/00 364K
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-72499(P2013-72499)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196695(P2014-196695A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】安田 京平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友巳
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274789(JP,A)
【文献】 特開2009−062862(JP,A)
【文献】 特開2012−215096(JP,A)
【文献】 特開2010−164007(JP,A)
【文献】 特開2007−198308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−28/00
F02D 41/00−41/40
F02D 43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒、気筒に燃料を噴射するインジェクタ、および噴射された燃料に点火する点火プラグを含むエンジン本体と、エンジン本体から排出された排気ガスが流通する排気通路と、排気ガス中の有害成分を浄化するために排気通路に設けられた触媒装置とを備えるとともに、上記燃料としてアルコール、ガソリン、またはこれらの混合燃料が供給される火花点火式エンジンを制御する装置であって、
上記触媒装置よりも上流側の排気通路を流通する排気ガスに含まれる酸素の濃度を検出する酸素濃度センサと、
上記気筒への吸気の充填量を調節する吸気可変機構と、
上記インジェクタに供給される燃料に含まれるアルコールの濃度を推定する濃度推定部と、
上記触媒装置の温度が所定値未満となるエンジン冷間時に、触媒装置の活性化を早めるAWSモードとして、排気ガスの温度が上昇するように上記インジェクタ、点火プラグ、および吸気可変機構を制御する触媒活性促進部とを備え、
上記酸素濃度の検出精度が安定する基準温度まで上記酸素濃度センサが昇温していない上記AWSモードの初期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が未完である場合、上記触媒活性促進部は、アルコール濃度が想定最大値よりも低いことが推定により既に分かっている場合と比べて気筒への吸気充填量が増大するように上記吸気可変機構を制御するとともに、その増量された吸気に対し燃料リッチになる噴射量を上記酸素濃度センサによらず決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の火花点火式エンジンの制御装置において、
上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度未満となるAWSモードの初期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が完了している場合、上記触媒活性促進部は、推定されたアルコール濃度に応じた量の吸気が気筒に充填されるように上記吸気可変機構を制御するとともに、そのアルコール濃度に応じた量の吸気に対し燃料リッチになる噴射量を上記酸素濃度センサによらず決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の火花点火式エンジンの制御装置において、
上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が未完である場合、上記触媒活性促進部は、アルコール濃度が想定最大値よりも低いことが推定により既に分かっている場合と比べて気筒への吸気充填量が増大するように上記吸気可変機構を制御するとともに、その増量された吸気と上記インジェクタからの燃料噴射とにより所定の目標空燃比の混合気が形成されるように、上記酸素濃度センサの検出値をフィードバックしつつ上記燃料の噴射量を決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、
上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が完了している場合、上記触媒活性促進部は、推定されたアルコール濃度に応じた量の吸気が気筒に充填されるように上記吸気可変機構を制御するとともに、そのアルコール濃度に応じた量の吸気と上記インジェクタからの燃料噴射とにより所定の目標空燃比の混合気が形成されるように、上記酸素濃度センサの検出値をフィードバックしつつ上記燃料の噴射量を決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、
上記吸気可変機構は、上記気筒に吸気を導入するための吸気ポートを開閉する吸気弁の閉時期を少なくとも変更するものであり、
上記触媒活性促進部は、上記気筒への吸気充填量を増大させるとき、上記吸気弁の閉時期が下死点に近づくように上記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の火花点火式エンジンの制御装置において、
上記触媒活性促進部は、上記AWSモードのとき、一部の燃料が圧縮行程後半に、残りの燃料が吸気行程中に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とする火花点火式エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料としてアルコール、ガソリン、またはこれらの混合燃料が供給される火花点火式エンジンを制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題を改善する視点から、植物資源(例えばサトウキビやトウモロコシ)から精製されたいわゆるバイオマスエタノールを車両用のエンジンに使用することが考案され、実用化されている。
【0003】
バイオマスエタノールは、しばしばガソリンと混合された状態で使用される。例えば、ブラジルでは、エタノールが25%混合されたE25と呼ばれる燃料と、エタノール100%のE100と呼ばれる燃料とが主に流通している。ところが、車両を使用するユーザは、そのときどきの値段等によってどちらの燃料を給油するかを決めるため、車両の燃料タンク内の燃料は、E25とE100とが任意の割合で混合したものになる。このため、燃料中のエタノールの濃度は、給油のたびに変動し、25%から100%まで任意の数値を取り得る。
【0004】
そこで、エタノール含有燃料が使用される国では、エタノール濃度が変動しても対応できるように、燃料中のエタノール濃度を推定したりその濃度推定値に応じて燃料噴射量を変更したりする等の機能を備えたエンジンが車両に搭載される。このように任意のエタノール濃度の燃料を使用可能な車両のことを、FFV(Flexible Fuel Vehicle)という。
【0005】
ここで、エタノールのようなアルコールを含有した燃料においては、ガソリン100%の燃料と比べて、アルコール濃度が高いほど燃料の気化性能が悪化するという問題がある。このため、アルコール濃度の高い燃料を使用した場合には、特にエンジンの冷間始動時に、燃料が充分に気化せず、失火等を引き起こすことが懸念される。
【0006】
このような問題を解消すべく、例えば下記特許文献1に示されるように、2種類の燃料タンクを備えた車両が考案されている。具体的に、この特許文献1に示されるFFVでは、任意のエタノール濃度の燃料を貯留可能なメインタンクと、気化性能に優れたガソリン濃度の高い燃料が貯留されるサブタンクとが別々に設けられている。そして、エンジンの始動時やアイドリング運転時といった燃料が気化し難い条件のときには、サブタンクからガソリン濃度の高い燃料が供給され、それによってエンジンの始動性やアイドリング運転の安定性が確保されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−133288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1のように、メインタンクとは別にサブタンクを必要とするFFVでは、燃料の供給系が2系統になるので、構造の複雑化やコストアップを招くことが避けられないという問題がある。しかしながら、FFV用のエンジンでは、燃料に含まれるアルコール濃度にかかわらず、冷間時であっても安定してエンジンを始動させる必要があるので、上記のようにコストアップ等の要因となるサブタンクであっても、これを省略できなかったのが現実である。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、燃料の供給系を簡略化しつつ、冷間始動時の燃焼安定性を確保することが可能な火花点火式エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒、気筒に燃料を噴射するインジェクタ、および噴射された燃料に点火する点火プラグを含むエンジン本体と、エンジン本体から排出された排気ガスが流通する排気通路と、排気ガス中の有害成分を浄化するために排気通路に設けられた触媒装置とを備えるとともに、上記燃料としてアルコール、ガソリン、またはこれらの混合燃料が供給される火花点火式エンジンを制御する装置であって、上記触媒装置よりも上流側の排気通路を流通する排気ガスに含まれる酸素の濃度を検出する酸素濃度センサと、上記気筒への吸気の充填量を調節する吸気可変機構と、上記インジェクタに供給される燃料に含まれるアルコールの濃度を推定する濃度推定部と、上記触媒装置の温度が所定値未満となるエンジン冷間時に、触媒装置の活性化を早めるAWSモードとして、排気ガスの温度が上昇するように上記インジェクタ、点火プラグ、および吸気可変機構を制御する触媒活性促進部とを備え、上記酸素濃度の検出精度が安定する基準温度まで上記酸素濃度センサが昇温していない上記AWSモードの初期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が未完である場合、上記触媒活性促進部は、アルコール濃度が想定最大値よりも低いことが推定により既に分かっている場合と比べて気筒への吸気充填量が増大するように上記吸気可変機構を制御するとともに、その増量された吸気に対し燃料リッチになる噴射量を上記酸素濃度センサによらず決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0011】
本発明によれば、エンジンが冷間始動されたときに、冷えた触媒を迅速に暖めるためのAWSモードが開始される。このとき、酸素濃度センサの検出値から求まる空燃比の実測値と、燃料に含まれるアルコール濃度の推定値とがともに不明なことがある。このような場合に、本発明では、気筒への吸気充填量が増大されるので、より多くの空気が気筒内で圧縮されることにより、圧縮行程後半における気筒内の温度が上昇させられる。さらに、増量された吸気に対し燃料リッチになる噴射量が酸素濃度センサによらず(つまりオープンループ制御により)決定され、その噴射量の一部が圧縮行程後半に噴射されるので、実測値のフィードバックがないために気筒内の空燃比が目標値と多少ずれていたとしても、空燃比が着火困難なリーンな値になることを防止できるとともに、噴射した燃料を、圧縮行程後半に実現される高温環境下で確実に気化させて燃焼させることができる。
【0012】
このように、本発明の構成によれば、供給される燃料のアルコール濃度がかなり高かったとしても、失火を確実に防止することができるので、例えばガソリン濃度の高い燃料を貯留する専用の燃料タンクを通常の燃料タンクとは別に設けるといった措置をとらなくても、冷間始動時(AWSモード)のときの燃焼安定性を充分に確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度未満となるAWSモードの初期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が完了している場合、上記触媒活性促進部は、推定されたアルコール濃度に応じた量の吸気が気筒に充填されるように上記吸気可変機構を制御するとともに、そのアルコール濃度に応じた量の吸気に対し燃料リッチになる噴射量を上記酸素濃度センサによらず決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する(請求項2)。
【0014】
この構成によれば、アルコール濃度が最大値よりも低いことが分かっているときに、気筒への吸気充填量が減らされるので、燃料の気化性能を確保しつつ吸気充填量を減らすことができる。すなわち、ガソリンに比べて気化性能が悪いアルコールの濃度が低いときには、圧縮行程後半における気筒内の温度をそれほど上昇させなくても燃料が充分に気化するので、燃料の気化性能を悪化させることなく吸気充填量を減らすことができる。そして、吸気充填量が減少すれば、それに伴い燃料の噴射量も減少するので、未燃のまま排出される燃料の量を減らすことができ、燃費性能を向上させることができる。さらには、主に未燃燃料が原因で発生するHCやCO等が削減されるので、エミッション性を改善することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が未完である場合、上記触媒活性促進部は、アルコール濃度が想定最大値よりも低いことが推定により既に分かっている場合と比べて気筒への吸気充填量が増大するように上記吸気可変機構を制御するとともに、その増量された吸気と上記インジェクタからの燃料噴射とにより所定の目標空燃比の混合気が形成されるように、上記酸素濃度センサの検出値をフィードバックしつつ上記燃料の噴射量を決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する(請求項3)。
【0016】
この構成によれば、目標空燃比を実現するための燃料の噴射量をフィードバック制御により正確に求めることができるので、着火可能な空燃比の中でもできるだけリーンな空燃比に設定することができる。これにより、未燃燃料量を減らすことができので、燃費性能およびエミッション性を改善することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、上記酸素濃度センサの温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、かつ上記濃度推定部によるアルコール濃度の推定が完了している場合、上記触媒活性促進部は、推定されたアルコール濃度に応じた量の吸気が気筒に充填されるように上記吸気可変機構を制御するとともに、そのアルコール濃度に応じた量の吸気と上記インジェクタからの燃料噴射とにより所定の目標空燃比の混合気が形成されるように、上記酸素濃度センサの検出値をフィードバックしつつ上記燃料の噴射量を決定し、決定した燃料噴射量の少なくとも一部が圧縮行程の後半に噴射されるように上記インジェクタを制御する(請求項4)。
【0018】
この構成によれば、アルコール濃度が最大値よりも低いことが分かっているときに、これに伴い吸気充填量が減らされるので、燃料の気化性能を確保しつつ吸気充填量を減らすことができる。加えて、燃料の噴射量をフィードバック制御により正確に求めることができるので、着火可能な空燃比の中でもできるだけリーンな空燃比に設定することができる。これにより、未燃燃料量を最大限減らすことができるので、燃費性能およびエミッション性をさらに改善することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、上記吸気可変機構は、上記気筒に吸気を導入するための吸気ポートを開閉する吸気弁の閉時期を少なくとも変更するものであり、上記触媒活性促進部は、上記気筒への吸気充填量を増大させるとき、上記吸気弁の閉時期が下死点に近づくように上記吸気可変機構を制御する(請求項5)。
【0020】
この構成によれば、吸気充填量が増えるのと同時に、吸気閉弁時期の下死点への接近に伴い有効圧縮比が増大するので、多量の吸気が気筒内で充分に圧縮される結果、圧縮行程後半での気筒内の温度が効果的に上昇し、燃料の気化性能をより高めることができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、上記触媒活性促進部は、上記AWSモードのとき、一部の燃料が圧縮行程後半に、残りの燃料が吸気行程中に噴射されるように上記インジェクタを制御する(請求項6)。
【0022】
この構成によれば、圧縮行程後半にある程度の量の燃料を噴射しつつ、残りの燃料を吸気行程中の適切なタイミング(負圧が増大するタイミング)に噴射することにより、多量の燃料であってもこれを充分に気化させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の火花点火式エンジンの制御装置によれば、燃料の供給系を簡略化しつつ、冷間始動時の燃焼安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態にかかる火花点火式エンジンの全体構成を示す図である。
図2】燃料中のエタノール濃度と理論空燃比との関係を示すグラフである。
図3】AWSモード実行時の制御手順を示すフローチャートである。
図4】AWSモード実行時の吸気閉弁時期、吸気充填量、燃料噴射量、および目標空燃比をエタノール濃度との関係で示すグラフである。
図5】酸素濃度センサが未活性のときの噴射量の決定の仕方を説明するためのブロック線図である。
図6】酸素濃度センサが活性化しているときの噴射量の決定の仕方を説明するためのブロック線図である。
図7】AWSモード実行時の燃料噴射の態様を示す説明図である。
図8】エンジンのブースト圧、未燃燃料量、および燃焼安定性指標が、吸気充填量との関係でどのように変化するかを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式エンジンである。具体的に、このエンジンは、紙面に直交する方向に列状に並ぶ複数の気筒2(図1にはそのうちの1つの気筒のみを示す)を有するエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路30と、エンジン本体1に供給される燃料を貯留する燃料タンク40とを備えている。
【0026】
エンジン本体1は、車両のエンジンルーム(図示省略)に配設されている。当実施形態において、車両は、エタノールとガソリンとが任意の割合で混合された燃料を使用可能なFFVである。このため、燃料タンク40に貯留されている燃料は、エタノール100%の燃料(E100)、ガソリン100%の燃料(E0)、またはエタノールとガソリンとが混合された混合燃料(E1〜E99)のいずれかである。なお、エタノール100%の燃料(E100)といっても、エタノールの精製過程で充分に水分が除去されていないものがあり、このような水分含有のエタノール(例えばブラジルでは5%程度の水分を含有するE100が流通している)も燃料タンク40に貯留されることがある。
【0027】
エンジン本体1は、上記複数の気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0028】
ピストン5は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15とコネクティングロッド16を介して連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じてクランク軸15が中心軸回りに回転するようになっている。
【0029】
ピストン5の上方には燃焼室10が形成されており、この燃焼室10には、後述するインジェクタ11からの噴射によって燃料が供給される。そして、噴射された燃料が燃焼室10で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。
【0030】
各気筒2の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室10の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室10の容積との比は、ガソリンエンジンとしては高めの値である12.5以上20以下に設定されている。
【0031】
燃焼室10の天井面に対応するシリンダヘッド4の下面は、いわゆるペントルーフ型に形成されており、天井面の中央部から吸気側および排気側にそれぞれ延びる2つの傾斜面を有している。
【0032】
ピストン5の上面は、上述したペントルーフ型の燃焼室10の天井面に対応するように、周縁部から中央部に向かって隆起する隆起部を有し、この隆起部の中央部には、概ね球面状に凹陥したキャビティ17が形成されている。ピストン5の上面がこのように隆起していることで、ピストン5が上死点に達したときの燃焼室10の容積が小さくなり、12.5以上の高い幾何学的圧縮比が実現されている。
【0033】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気(吸気)を各気筒2の燃焼室10に導入するための吸気ポート6と、各気筒2の燃焼室10で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート7と、吸気ポート6の燃焼室10側の開口を開閉する吸気弁8と、排気ポート7の燃焼室10側の開口を開閉する排気弁9とが設けられている。
【0034】
吸気弁8および排気弁9は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸18a,19a等を含む動弁機構18,19により、クランク軸15の回転に連動して開閉駆動される。
【0035】
吸気弁8用の動弁機構18には、吸気弁8の開弁特性を変更可能な吸気VVT(Variable Valve Timing mechanism)18bが組み込まれている。この吸気VVT18bは、本発明にかかる「吸気可変機構」に相当するものである。
【0036】
具体的に、当実施形態における吸気VVT18bは、吸気弁8の開弁期間(開弁から閉弁までの期間)を一定としながら吸気弁8の開時期および閉時期の双方を連動して変化させる位相式の可変機構である。このタイプの可変機構は従来から種々知られているため詳細な構造の図示および説明は省略するが、例えば、タイミングベルトを介してクランク軸15の回転が伝達されるカムプーリと、カムプーリにより同軸に回転駆動されるカム軸18aとの間に、両者を相対回転可能とする位相変更部材を備えたものを、上記吸気VVT18bとして使用することができる。位相変更部材は、油圧もしくは電動で駆動され、カムプーリとカム軸18aとの間の位相差を所定範囲内で連続的に変更することが可能である。
【0037】
シリンダヘッド4には、燃焼室10に向けて燃料を噴射するインジェクタ11と、インジェクタ11から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ12とが、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。
【0038】
点火プラグ12は、各気筒2の中心線に沿い、かつピストン5の上面のキャビティ17を上から臨むような姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。
【0039】
インジェクタ11は、各気筒2の吸気側の側方から燃焼室10に向けて斜め下方に燃料を噴射し得る姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。各気筒2のインジェクタ11にはそれぞれ燃料供給管13が接続されており、各燃料供給管13には、燃料タンク40に貯留された燃料が図略の高圧燃料ポンプを通じて圧送される。
【0040】
吸気通路20は、1本の共通通路21(図1には紙面に直交する方向に延びる通路の断面を示す)と、共通通路21の下流端部に接続された所定容積のサージタンク22と、サージタンク22から下流側に延びて各気筒2の吸気ポート6とそれぞれ連通する複数本の独立通路23(図1にはそのうちの1本のみを示す)とを有している。
【0041】
吸気通路20の共通通路21には、吸気通路20を流通する吸気の流量を調節するための開閉可能なスロットル弁25が設けられている。スロットル弁25は、バタフライ式の弁本体25aと、弁本体25aを駆動する電動式のアクチュエータ25bとを有している。
【0042】
排気通路30には、その内部を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒を内蔵した触媒装置35が設けられている。なお、詳しい図示は省略するが、排気通路30は、各気筒の排気ポート7と連通する複数本の独立通路と、独立通路の下流端部が集合した排気集合部と、排気集合部から下流側に延びる1本の共通通路とを有しており、このうちの共通通路の途中部に、上述した触媒装置35が設けられている。
【0043】
(2)制御系
次に、エンジンの制御系について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサからなるものである。
【0044】
ECU50には、エンジンの各部に設けられた複数のセンサから種々の情報が入力される。具体的に、当実施形態のエンジンには、そのエンジン本体1のクランク軸15の回転速度を検出するエンジン速度センサSN1と、エンジン本体1の冷却水の温度を検出する水温センサSN2と、サージタンク22を通過する吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、触媒装置35の温度を検出する触媒温度センサSN4と、触媒装置35よりも上流側の排気通路30を流通する排気ガスに含まれる酸素の濃度を検出するリニアO2センサからなる酸素濃度センサSN5と、燃料タンク40に貯留されている燃料の液位を検出する燃料レベルセンサSN6とが設けられている。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル60の開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN7が設けられている。ECU50は、これらのセンサSN1〜SN7と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(エンジンの回転速度、冷却水温、吸気流量‥‥など)を取得する。
【0045】
また、ECU50は、上記各センサSN1〜SN7からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ11、点火プラグ12、吸気VVT18b、およびスロットル弁25と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
【0046】
ECU50のより具体的な機能について説明する。ECU50は、本発明に特有の機能的要素として、濃度推定部50aおよび触媒活性促進部50bを有している。
【0047】
濃度推定部50aは、燃料タンク40に貯留されている燃料に含有されるエタノールの濃度を推定するものである。具体的に、濃度推定部50aは、エタノール濃度によって理論空燃比が異なるという性質を利用して、燃料中のエタノール濃度を推定する。
【0048】
図2は、燃料中のエタノール濃度と理論空燃比との関係を示している。本図に示すように、理論空燃比、つまり、混合気中の酸素と燃料とが過不足なく反応するとき(当量比φ=1のとき)の空燃比は、エタノール濃度が高いほど低下する。例えば、エタノール濃度が0%(ガソリン濃度が100%)のときの理論空燃比が14.7であるのに対し、エタノール濃度が100%(ガソリン濃度が0%)のときの理論空燃比は9.0である。エタノール濃度が0%より高く100%より低いときは、9.0から14.7の範囲で任意の値を取り得るが、その値はエタノール濃度が大きいほど小さく(9.0に近く)なる。例えば、エタノール濃度が50%のおきの理論空燃比は約11.9である。
【0049】
上記のようなエタノール濃度に応じた理論空燃比の変化に合わせて、エンジンの通常運転時においては、現在分かっているエタノール濃度を考慮してインジェクタ11からの燃料噴射量が決定される。例えば、気筒2への吸気充填量が同じでかつ当量比φ(燃料の過濃度合い)の目標値が同じであると仮定すると、エタノール濃度が100%であるときの燃料の噴射量は、エタノール濃度が0%のときに比べて、約1.6倍(=14.7/9.0)に設定される。このとき、エタノール濃度100%が正しい値であれば、上記約1.6倍の燃料を噴射することで、当量比φは目標値と一致するはずであるが、仮にエタノール濃度100%が間違った値であれば、当量比φは目標値からずれることになる。この当量比φの目標値からのずれ量は、エタノール濃度の見当違いが大きいほど大きくなる。このため、当量比φのずれ量が分かれば、そのずれ量に基づいて、正しいエタノール濃度を推定することができる。
【0050】
例えば、真のエタノール濃度が50%であるにもかかわらず、エタノール濃度が誤って100%と推定され、その結果、燃料の噴射量がQに設定されたとする。これに対し、本来必要な噴射量は、真のエタノール濃度50%に対応する値、つまり0.76Q(=Q×9.0/11.9)である。したがって、上記決定された噴射量Qは、本来必要な噴射量に対し0.24Qだけ多いことになる。このような噴射量の余剰は、当量比φのずれとなって現れる(燃料の余剰分0.24Qの分だけ当量比φが大きくなる)ので、その当量比φのずれ量に基づいて、真のエタノール濃度を推定することができる。
【0051】
ここで、当量比φが目標値からずれているかどうかは、酸素濃度センサSN5の検出値に基づいて判断される。酸素濃度センサSN5は、上述したとおり、触媒装置35に導入される前の排気ガスに含まれる酸素(O2)の濃度をリニアに検出するリニアO2センサであるので、当該センサが検出する酸素濃度に基づいて、当量比φを特定することができる。つまり、気筒2で燃焼する混合気の空燃比がリッチなほど(つまり当量比φが大きいほど)、多くの酸素が消費されて排気ガス中に含まれる酸素の濃度が低下するので、この酸素濃度の値に基づいて当量比φを特定することができる。
【0052】
ただし、酸素濃度センサSN5は、そのセンサ素子の性質上、所定の基準温度(製品にもよるが、例えば500〜600℃のいずれか)以上にならないと安定した検出精度を出すことができない。このため、上述した当量比φのずれ量に基づくエタノール濃度の推定は、酸素濃度センサSN5が上記基準温度以上の活性状態にあるときにしか行うことができない。例えば、エンジンが冷間始動された直後は、酸素濃度センサSN5の温度が低く、当該センサSN5が未活性状態にある(よって酸素濃度の検出精度が悪い)ので、エタノール濃度を推定することはできない。
【0053】
触媒活性促進部50bは、触媒装置35の温度が所定値未満となるエンジンの冷間始動時に、触媒装置35の活性化を早めるAWS(Accelerated Warm-up System)モードとして、排気ガスの温度が通常よりも上昇するようにインジェクタ11、点火プラグ12、および吸気VVT18bを制御するものである。
【0054】
具体的に、触媒活性促進部50bは、触媒温度センサSN4により検出される触媒装置35の温度が所定値未満のときに、触媒装置35内の触媒が活性化されていないと判定し、上記AWSモードを実行する。すなわち、触媒は、排気ガス自身の熱や排気ガスとの反応熱によって所定の高温度(ライトオフ温度)まで昇温しなければ、充分な浄化性能を発揮することができない。そこで、触媒活性促進部50bは、特に触媒の温度が低下し易いエンジンの冷間始動時に、触媒温度センサSN4による検出値が所定値(上記ライトオフ温度に対応する値)未満であるか否かを判定し、所定値未満であるとき(触媒が未活性であるとき)には、触媒の活性化を早めるAWSモードを実行する。
【0055】
上記AWSモードでは、触媒が活性化している通常運転時と比べて、インジェクタ11からの燃料噴射量が増大されるとともに、点火プラグ12が火花を放電する時期である点火時期がより遅角側に設定される。これにより、気筒2での燃焼による熱発生量が増大するとともに、排気損失(排気ガスとともに気筒2の外に捨てられる熱量)が増大するので、排気ガスの温度が上昇し、触媒装置35の早期活性化が図られる。
【0056】
(3)AWSモード時の制御
次に、AWSモード実行時の制御手順について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。このフローチャートに示す処理(AWSモード)は、エンジンが暖機されていないために触媒装置35が未活性である場合に実行される。ECU50は、触媒温度センサSN4により検出された温度が所定値未満(つまり触媒装置35が未活性)であり、かつAWSモードと両立できない他の制御の要求がないことを確認した上で、図3の処理をスタートさせる。このような状況は、典型的には、エンジンが冷間始動された直後の軽負荷運転時(特にアイドリング運転時)に起こり得る。
【0057】
図3に示す処理がスタートすると、ECU50は、各種センサ値を読み込む処理を実行する(ステップS1)。すなわち、ECU50は、エンジン速度センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、触媒温度センサSN4、酸素濃度センサSN5、燃料レベルセンサSN6、およびアクセル開度センサSN7からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの回転速度、冷却水の温度、吸気流量、触媒装置35の温度、排気ガス中の酸素濃度、燃料タンク40内の液位、アクセル開度といった各種情報を取得する。
【0058】
次いで、ECU50は、燃料中のエタノール濃度を推定する濃度推定が完了しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS2)。具体的に、このステップS2の判定では、ECU50の濃度推定部50aによって過去に推定されたエタノール濃度が存在すればYESとされ、そのようなエタノール濃度が存在しなければNOとされる。後者のように判定がNOとなる具体例としては、例えば、燃料タンク40への燃料の補充(給油)が行われた後、新しい濃度推定値が確定しないままエンジンが停止された場合や、ECU50に記憶されていたエタノールの濃度推定値がバッテリの交換等によって消去された場合が挙げられる。なお、前者のパターンでエタノール濃度推定値が不明となる理由は、給油によって燃料タンク40に新しい燃料が補充されると、燃料タンク40内で新旧の燃料が混じり合う結果、真のエタノール濃度が不明となるからである。このような事情から、当実施形態では、給油があった場合(例えば燃料レベルセンサSN6による検出液位が5%以上上昇した場合)にはエタノールの濃度推定値が一旦リセットされるようになっている。そして、このように給油によってエタノールの濃度推定値がリセットされた後、車両がほとんど走行しなかった(あるいは全く走行しなかった)場合には、新しい濃度推定値が確定しないままエンジンが停止されるので、その後エンジンが再始動されたときのAWSモードにおいて、上記判定がNOとなる。
【0059】
上記ステップS2でYESと判定されてエタノールの濃度推定が完了していることが確認された場合、ECU50は、酸素濃度センサSN5が活性化しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS3)。上述したように、酸素濃度センサSN5は、所定の基準温度以上まで昇温して活性化しないと安定した検出精度を出すことができない。そこで、ステップS3では、酸素濃度センサSN5がそのような活性状態になっているか、つまり酸素濃度センサSN5の検出精度が充分に安定した状態になっているか否かを判定する。判定の具体的手法は種々考えられるが、例えば、酸素濃度センサSN5からの出力信号の波形に基づいて活性の有無を判定してもよいし、酸素濃度センサSN5の温度を直接検出することによって活性の有無を判定してもよい。あるいは、酸素濃度センサSN5が充分に活性するまでの時間を経験的に求めておき、その時間が経過したことをもって同センサが活性したと判断してもよい。
【0060】
ここで、AWSモードが開始された直後(AWSモードの初期)は、酸素濃度センサSN5が充分に昇温していないため、酸素濃度センサSN5は未活性であり、上記ステップS3での判定はNOとなる。すると、ECU50は、過去に推定された既知のエタノール濃度(推定エタノール濃度)に基づいて吸気弁8の閉時期(IVC)を設定する処理を実行する(ステップS4,S5)。
【0061】
図4(a)は、燃料中のエタノール濃度と吸気弁8の閉時期(IVC)との関係を示す図である。本図に示すように、吸気弁8の閉時期は、エタノール濃度が比較的低い領域(ここでは濃度0%以上50%未満の領域)では一定のタイミングに設定されるが、エタノール濃度が比較的高い領域(ここでは濃度50%以上100%以下の領域)では、濃度が高いほど進角側に設定される。より具体的に、吸気弁8の閉時期は、エタノール濃度が0%以上50%未満の領域で、下死点(BDC)から最も遅れたタイミングT1に設定される。一方、エタノール濃度が50%以上の領域では、吸気弁8の閉時期がタイミングT1よりも進角側(BDCに近い側)に移動させられ、しかもその時期はエタノール濃度が高いほどより進角される。ここでは、濃度50%のときの閉時期をT2、濃度100%のときの閉時期をT3としている。濃度50%のときの閉時期T2は、濃度50%未満のときの閉時期T1よりも進角側にあり、濃度100%のときの閉時期T3は、全ての濃度領域の中で最も進角側(BDCに近い側)にある。ECU50は、この図4(a)に相当するマップデータと、現在分かっているエタノール濃度の推定値とに基づいて、エタノール濃度に応じた吸気弁8の閉時期を決定し、その時期に合わせて吸気VVT18bを駆動する。
【0062】
上記のように吸気弁8の閉時期が設定されることで、気筒2への吸気充填量は、エタノール濃度との関係で図4(b)のように設定される。すなわち、エタノール濃度が0%以上50%未満の領域では、吸気充填量がC1で一定とされ、エタノール濃度が50%以上100%以下の領域では、吸気充填量がC1よりも増やされ、しかもその増大幅はエタノール濃度が高いほど大きくされる(つまり濃度50%から100%にかけて吸気充填量が徐々に増やされる)。その値は、濃度50%のときでC2(>C1)、濃度100%のときでC3(>C2)である。
【0063】
また、吸気弁8の閉時期に基づき、吸気充填量だけでなく有効圧縮比も変化する。有効圧縮比とは、ピストン5が吸気弁8の閉時期に対応する位置にあるときの燃焼室10の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室10の容積との比で定義される値であり、実質的な圧縮比を表している。吸気弁8の閉時期が図4(a)のように変化したとき、これに伴い有効圧縮比も変化するが、12.5以上の高い幾何学的圧縮比を有する当実施形態のエンジンでは、有効圧縮比は最小の場合でも10以上に設定される。
【0064】
以上のようにして吸気弁8の閉時期の設定が終了すると、ECU50は、燃料の噴射量を決定する処理を実行する(ステップS6)。ここでの噴射量は、図5に示すように、目標とする空燃比(目標A/F)と吸気充填量とに基づいてオープンループ制御により決定される。具体的に、ECU50は、エアフローセンサSN3の検出値や上記ステップS5で決定した吸気弁8の閉時期から各気筒2への吸気充填量を特定するとともに、この吸気充填量と目標空燃比とに基づいて、当該目標空燃比が実現されるような燃料の噴射量を演算により決定する。
【0065】
上記目標空燃比は、図4(d)に示すように、エタノール濃度に応じた値に設定される。具体的に、AWSモードのときの目標空燃比は、理論空燃比(当量比φ=1となる空燃比)よりもリッチな値に設定され、そのリッチ度合いは、エタノール濃度が高いほど大きくされる(φ=1のラインの傾きよりも目標空燃比のラインの傾きが大きいことが、そのことを表している)。さらに、目標空燃比は、酸素濃度センサSN5の検出値に基づく燃料噴射量のフィードバック制御が可能か否か(つまり酸素濃度センサSN5の活性の有無)によって変更され、酸素濃度センサSN5が未活性であるときの目標空燃比(破線のライン)は、当該センサSN5が活性化しているときの目標空燃比(実線のライン)よりもさらにリッチ側に設定される。
【0066】
上記のように、AWSモードのときの目標空燃比が理論空燃比よりもリッチにされるのは、AWSモードでは未暖機の(冷間状態の)エンジン本体1から高温の排気ガスを排出して触媒装置35を暖める必要があり、そのために点火時期もかなり遅角側に設定されるからである。そのような状況で充分な熱量と着火性を確保するために、AWSモードでは、目標空燃比が理論空燃比よりもリッチに設定され、燃料が過剰気味に供給される。しかも、気化性能が悪いエタノールの濃度が高いときは、失火が起きる可能性が相対的に高まるため、リッチ度合いをより大きくする必要があり、このような事情から、理論空燃比に対する目標空燃比のリッチ度合いは、エタノール濃度が高いほど大きく設定される。さらに、酸素濃度センサSN5が未活性であるときには、当該センサSN5の検出値に基づく実際の空燃比を知ることができず、オープンループ制御により噴射量を決定せざるを得ないので、空燃比の設定精度はどうしても悪くなる。このため、酸素濃度センサSN5が未活性であるときは、安全を見越して(失火を確実に防ぐために)目標空燃比をよりリッチ側に設定する必要があり、このような事情から、酸素濃度センサSN5が未活性のときの目標空燃比(破線のライン)は、当該センサSN5が活性化しているときの目標空燃比(実線のライン)よりもさらにリッチ側に設定される。
【0067】
以上のことから、酸素濃度センサSN5が未活性の状態で噴射量を決定する上記ステップS6では、目標空燃比がよりリッチ側の破線ライン上の値に設定される。例えば、エタノール濃度の推定値が50%である場合には、破線ライン上の点A2に対応する空燃比が、目標空燃比として設定される。そして、この目標空燃比に対応する噴射量として、図4(c)に示すように、破線ライン上の点Q2に対応する噴射量が決定される。
【0068】
上記ステップS6でオープンループ制御による噴射量の決定が終了すると、ECU50は、決定した噴射量に相当する燃料を各気筒2に噴射する処理を実行する(ステップS7)。このときの燃料噴射の態様は、図7に示すように、吸気行程中と圧縮行程後半とに2分して燃料を噴射する分割噴射とされる。なお、圧縮行程後半とは、圧縮上死点前90〜0°CA(CAはクランク角を指す)の範囲のことである。
【0069】
より具体的に、上記ステップS7では、噴射した燃料を気筒2内で効果的に気化させるべく、気筒2内の温度が高くなる圧縮行程の後半に比較的多くの燃料を噴射する。ただし、気化に有利な期間(気筒2内が充分に高温化する期間)は限られるので、その期間内に噴射することのできない残余の燃料については、吸気行程中、より詳しくは吸気行程の中でも気筒2内の負圧が増大する期間に噴射される。このような態様で噴射された燃料は、その多くが圧縮上死点までに気化し、その後に行われる火花点火をきっかけに確実に燃焼させられる。なお、AWSモードでの燃焼であるので、火花点火のタイミングは、圧縮上死点を過ぎた遅めのタイミングに設定される。
【0070】
上記のようにオープンループ制御により決定したリッチな量の燃料に基づく燃焼制御がしばらく(例えば10秒程度)繰り返されると、未活性だった酸素濃度センサSN5の温度が充分に上昇し、当該センサSN5が活性化するので、上記ステップS3における判定がYESとなる。すると、ECU50は、過去に推定された既知のエタノール濃度に基づいて吸気弁8の閉時期(IVC)を設定する処理を実行する(ステップS8,S9)。例えば、エタノール濃度の推定値が50%である場合には、吸気弁の閉時期が図4(a)に示すタイミングT2に設定される。
【0071】
次いで、ECU50は、酸素濃度センサSN5の検出値に基づくフィードバック制御により燃料の噴射量を決定する処理を実行する(ステップS10)。具体的に、ECU50は、エアフローセンサSN3の検出値や上記ステップS9で決定した吸気弁8の閉時期から各気筒2への吸気充填量を特定するとともに、この吸気充填量と目標空燃比とに基づいて、当該目標空燃比が実現されるような燃料の噴射量を演算により決定する。さらに、酸素濃度センサSN5の検出値に基づき特定される実測空燃比に基づいて、実測空燃比が正しく目標空燃比に一致するように、燃料の噴射量を補正する。
【0072】
このように、ステップS10では、フィードバック制御により精緻に噴射量を決定できるので、目標空燃比を極端にリッチにする必要はなくなる。このため、ステップS10で噴射量を決定する際の目標空燃比は、図4(d)の実線のラインに示すような値、つまり、理論空燃比よりもリッチでかつフィードバック制御不能時(オープンループ制御時)の目標空燃比(破線のライン)よりもリーンな値に設定される。例えば、エタノール濃度の推定値が50%である場合には、実線ライン上の点A1に対応する空燃比が、目標空燃比として設定される。そして、この目標空燃比に対応する噴射量として、図4(c)に示すように、実線ライン上の点Q1に対応する噴射量が決定される。
【0073】
上記ステップS10でフィードバック制御による噴射量の決定が終了すると、ECU50は、決定した噴射量に相当する燃料を吸気行程と圧縮行程後半とに分けて各気筒2に噴射し、その噴射した燃料を、通常よりも遅れたタイミングで行われる火花点火により燃焼させる処理を実行する(ステップS11)。
【0074】
次いで、ECU50は、エタノール濃度を推定する処理を実行する(ステップS12)。すなわち、酸素濃度センサSN5の検出値に基づく実測空燃比が目標空燃比とずれた場合に、そのずれ量がエタノール濃度推定値の見当違いに由来するものと仮定して、正しいエタノール濃度を改めて推定し直す。これにより、過去に推定されたエタノール濃度の推定値に誤差があったとしても、その誤差が修正されることになる。
【0075】
次いで、ECU50は、触媒温度センサSN4により検出された触媒装置35の温度が所定値以上か否かを判定する処理を実行する(ステップS13)。そして、ここでYESと判定されて触媒装置35が活性化されたことが確認された場合に、AWSモードを終了し、通常モード(排気ガスを故意に温度上昇させる必要のない通常の運転モード)へと移行する。
【0076】
次に、上記ステップS2でNOと判定された場合、つまり、エタノール濃度の推定が完了していない場合の処理について説明する。この場合、ECU50は、上記ステップS3のときと同様に、酸素濃度センサSN5が活性化しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS15)。
【0077】
AWSモードの初期においては、酸素濃度センサSN5の温度が低く当該センサSN5が未活性状態にあるので、上記ステップS15での判定はNOとなる。すると、ECU50は、現在のエタノール濃度が想定範囲内の最大値(ここでは100%)であると仮定して、吸気弁8の閉時期を、その最大エタノール濃度(100%)に対応する最も進角側のタイミング、つまり図4(a)に示すタイミングT3に設定する処理を実行する(ステップS16,S17)。
【0078】
次いで、ECU50は、酸素濃度センサSN5の検出値に基づかないオープンループ制御により、燃料の噴射量を決定する処理を実行する(ステップS18)。すなわち、エアフローセンサSN3の検出値や上記ステップS17で決定した吸気弁8の閉時期から各気筒2への吸気充填量を特定するとともに、この吸気充填量と目標空燃比とに基づいて、当該目標空燃比が実現されるような燃料の噴射量を演算により決定する。
【0079】
ここでは、酸素濃度センサSN5の検出値をフィードバックできない状態であるので、目標空燃比は、図4(d)においてよりリッチ側に位置する破線ライン上の値に設定される。しかも、ここではエタノール濃度が最大値の100%であると仮定されているので、目標空燃比は、図4(d)の破線ライン上における最も右側の点A4に対応する値に設定される。そして、この最もリッチな空燃比に対応する噴射量として、図4(c)に示す破線ライン上の点Q4に対応する噴射量が決定される。
【0080】
上記ステップS18でオープンループ制御による噴射量の決定が終了すると、ECU50は、決定した噴射量に相当する燃料を吸気行程と圧縮行程後半とに分けて各気筒2に噴射し、その噴射した燃料を、通常よりも遅れたタイミングで行われる火花点火により燃焼させる処理を実行する(ステップS19)。
【0081】
上記のようにオープンループ制御により決定したリッチな量の燃料に基づく燃焼制御がしばらく(例えば10秒程度)繰り返されると、未活性だった酸素濃度センサSN5の温度が充分に上昇し、当該センサSN5が活性化するので、上記ステップS15における判定がYESとなる。すると、ECU50は、現在仮定されている最大エタノール濃度(100%)に基づいて吸気弁8の閉時期(IVC)を最も進角側のタイミングT3に設定する処理を実行する(ステップS20,S21)。
【0082】
次いで、ECU50は、酸素濃度センサSN5の検出値に基づくフィードバック制御により燃料の噴射量を決定する処理を実行する(ステップS22)。具体的に、ECU50は、エアフローセンサSN3の検出値や上記ステップS21で決定した吸気弁8の閉時期から各気筒2への吸気充填量を特定するとともに、この吸気充填量と目標空燃比とに基づいて、当該目標空燃比が実現されるような燃料の噴射量を演算により決定する。さらに、酸素濃度センサSN5の検出値に基づき特定される実測空燃比に基づいて、実測空燃比が正しく目標空燃比に一致するように、燃料の噴射量を補正する。
【0083】
このように、ステップS22では、フィードバック制御により精緻に噴射量を決定できるので、目標空燃比を極端にリッチにする必要はなくなる。このため、ステップS22で噴射量を決定する際の目標空燃比は、図4(d)の実線のラインに示すような値、つまり、理論空燃比よりもリッチでかつフィードバック制御不能時(オープンループ制御時)の目標空燃比(破線のライン)よりもリーンな値に設定される。加えて、ここではエタノール濃度が100%であると仮定されているので、目標空燃比としては、実線ライン上の最も右側の点A3に対応する空燃比が設定される。そして、この目標空燃比に対応する噴射量として、図4(c)に示すように、実線ライン上の点Q3に対応する噴射量が決定される。
【0084】
上記ステップS22でフィードバック制御による噴射量の決定が終了すると、ECU50は、決定した噴射量に相当する燃料を吸気行程と圧縮行程後半とに分けて各気筒2に噴射し、その噴射した燃料を、通常よりも遅れたタイミングで行われる火花点火により燃焼させる処理を実行する(ステップS23)。
【0085】
次いで、ECU50は、エタノール濃度を推定する処理を実行する(ステップS12)。すなわち、酸素濃度センサSN5の検出値に基づく実測空燃比が目標空燃比とずれた場合に、そのずれ量がエタノール濃度推定値の見当違いに由来するものと仮定して、正しいエタノール濃度を推定する。仮に、現在仮定しているエタノール濃度100%が間違っていた場合には、このステップS12の推定を経ることで、エタノール濃度が正しい濃度推定値に書き換えられることになる。
【0086】
次いで、ECU50は、触媒温度センサSN4により検出された触媒装置35の温度が所定値以上か否かを判定し(ステップS13)、所定値以上になれば、AWSモードを終了する。
【0087】
(4)作用等
以上説明したとおり、当実施形態の火花点火式エンジンは、エタノール、ガソリン、またはこれらの混合燃料を貯留する燃料タンク40と、この燃料タンク40から供給される燃料を気筒2に噴射するインジェクタ11と、噴射された燃料に点火する点火プラグ12と、排気ガスを浄化するための触媒装置35と、触媒装置35よりも上流側の排気通路30を流れる排気ガス中の酸素の濃度を検出する酸素濃度センサSN5と、気筒への吸気の充填量を調節する吸気VVT18b(吸気可変機構)と、インジェクタ11、点火プラグ12、および吸気VVT18b等を制御するECU50とを備える。さらに、ECU50は、インジェクタ11に供給される燃料に含まれるエタノールの濃度を推定する機能(濃度推定部50a)と、触媒装置35の温度が所定値未満となるエンジン冷間時に、触媒装置の活性化を早めるために排気ガスの温度を上昇させるAWSモードを実行する機能(触媒活性促進部50b)とを有する。
【0088】
また、酸素濃度の検出精度が安定する基準温度まで酸素濃度センサSN5が昇温していない上記AWSモードの初期であって、かつエタノール濃度の推定が未完である場合(つまり図3のステップS2,S15でともにNOと判定された場合)には、エタノール濃度が想定最大値(ここでは100%)よりも低いことが推定により既に分かっている場合(例えば50%と分かっている場合)と比べて気筒2への吸気充填量が増大するように吸気VVT18bが制御され、その結果、吸気弁8の閉時期が図4(a)に示すタイミングT3まで進角させられる。さらに、その進角によって増量された吸気に対し燃料リッチになる噴射量(図4(c)のQ4)が酸素濃度センサSN5によらず決定され、決定された燃料の噴射量の一部が圧縮行程後半に噴射されるようにインジェクタ11が制御される。
【0089】
このような構成によれば、燃料の供給系を簡略化しつつ、冷間始動時の燃焼安定性を確保できるという利点がある。
【0090】
すなわち、上記実施形態では、エンジンが冷間始動されたときに、冷えた触媒を迅速に暖めるためのAWSモードが開始される。このとき、酸素濃度センサSN5の検出値から求まる空燃比の実測値と、燃料に含まれるエタノールの濃度の推定値とがともに不明なことがある。このような場合に、上記実施形態では、気筒2への吸気充填量が増大されるので、より多くの空気が気筒2内で圧縮されることにより、圧縮行程後半における気筒2内の温度が上昇させられる。さらに、増量された吸気に対し燃料リッチになる噴射量が酸素濃度センサSN5によらず(つまりオープンループ制御により)決定され、その噴射量の一部が圧縮行程後半に噴射されるので、実測値のフィードバックがないために気筒2内の空燃比が目標値と多少ずれていたとしても、空燃比が着火困難なリーンな値になることを防止できるとともに、噴射した燃料を、圧縮行程後半に実現される高温環境下で確実に気化させて燃焼させることができる。
【0091】
このように、上記実施形態の構成によれば、燃料タンク40に貯留された燃料のエタノール濃度がかなり高かったとしても、失火を確実に防止することができるので、例えばガソリン濃度の高い燃料を貯留する専用の燃料タンクを通常の燃料タンクとは別に設けるといった措置をとらなくても、冷間始動時(AWSモード)のときの燃焼安定性を充分に確保することができる。
【0092】
図8(a)〜(c)は、ある特定の運転条件におけるエンジンのブースト圧(気筒2に吸入される空気の圧力)、未燃燃料量、および燃焼安定性指標が、吸気充填量との関係でどのように変化するかを示したグラフである。各グラフにおいて、エタノール濃度および空燃比(当量比φ)はともに同一であるとする。このため、吸気充填量が多いグラフ右側ほど、燃料の噴射量も多いことになる。また、図8(c)の燃焼安定性指標とは、エンジンの図示平均有効圧の最小値を同有効圧の平均値で割った値のことであり、縦軸の上側ほど燃焼安定性が良好なことを表す。
【0093】
上記実施形態のように吸気弁8の閉時期を進角させて吸気充填量を増やすことは、図8(a)〜(c)において、吸気充填量をXからYに変化させることを意味する。このうち、図8(a)(c)から明らかなように、吸気充填量が増えれば、これに伴いブースト圧が増大し、燃焼安定性が改善される。これは、吸気充填量が増やされることで、圧縮行程後半での気筒2内の温度が高くなり、圧縮行程後半で噴射した燃料の気化性が改善されたためである。もちろん、吸気充填量に比例して未燃燃料量も増えているが(図8(b))、これは吸気充填量に比例して増量された燃料のうちの一部がほぼ一定の割合で未燃のまま排出されるためであり、燃焼安定性に特に関係しているわけではない。
【0094】
また、上記実施形態において、酸素濃度センサSN5の温度が上記基準温度未満となるAWSモードの初期であって、かつエタノール濃度の推定が完了している場合(つまり図3のステップS2でYESと判定されかつステップS3でNOと判定された場合)には、推定エタノール濃度に応じた量の吸気が気筒2に充填されるように、吸気弁8の閉時期が上述したタイミングT3よりも遅角側(例えば濃度50%であれば図4(a)のタイミングT2)に設定されるとともに、そのエタノール濃度に応じた吸気に対し燃料リッチになる噴射量(濃度50%であれば図4(c)のQ2)が酸素濃度センサSN5によらず決定され、決定された燃料の噴射量の一部が圧縮行程後半に噴射されるようにインジェクタ11が制御される。このような構成によれば、エタノール濃度が最大値よりも低いことが分かっているときに、気筒2への吸気充填量が減らされるので、燃料の気化性能を確保しつつ吸気充填量を減らすことができる。すなわち、ガソリンに比べて気化性能が悪いエタノールの濃度が低いときには、圧縮行程後半における気筒2内の温度をそれほど上昇させなくても燃料が充分に気化するので、燃料の気化性能を悪化させることなく吸気充填量を減らすことができる。そして、吸気充填量が減少すれば、それに伴い燃料の噴射量も減少するので、未燃のまま排出される燃料の量を減らすことができ、燃費性能を向上させることができる。さらには、主に未燃燃料が原因で発生するHCやCO等が削減されるので、エミッション性を改善することができる。
【0095】
また、上記実施形態において、酸素濃度センサSN5の温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、かつエタノール濃度の推定が未完である場合(つまり図3のステップS2でNOと判定されかつステップS15でYESと判定された場合)には、気筒2への吸気充填量が増大するように吸気弁8の閉時期がタイミングT3に設定されるとともに、酸素濃度センサSN5の検出値を利用したフィードバック制御により、所定の目標空燃比(図4(d)のA3)の混合気が形成されるように燃料の噴射量(図4(c)のQ3)が決定され、決定された燃料の噴射量の一部が圧縮行程の後半に噴射されるようにインジェクタ11が制御される。このような構成によれば、目標空燃比を実現するための燃料の噴射量をフィードバック制御により正確に求めることができるので、着火可能な空燃比の中でもできるだけリーンな空燃比に設定することができる。これにより、未燃燃料量を減らすことができので、燃費性能およびエミッション性を改善することができる。
【0096】
また、上記実施形態では、酸素濃度センサSN5の温度が上記基準温度以上となるAWSモードの後期であって、しかもエタノール濃度の推定が完了している場合(つまり図3のステップS2,S3でともにYESと判定された場合)には、推定エタノール濃度に応じた量の吸気が気筒2に充填されるように、吸気弁8の閉時期が上述したタイミングT3よりも遅角側(例えば濃度50%であれば図4(a)のタイミングT2)に設定されるとともに、酸素濃度センサSN5の検出値を利用したフィードバック制御により、所定の目標空燃比(濃度50%であれば図4(d)のA1)の混合気が形成されるように燃料の噴射量(図4(c)のQ1)が決定され、決定された燃料の噴射量の一部が圧縮行程の後半に噴射されるようにインジェクタ11が制御される。このような構成によれば、エタノール濃度が最大値よりも低いことが分かっているときに、これに伴い吸気充填量が減らされるので、燃料の気化性能を確保しつつ吸気充填量を減らすことができる。加えて、燃料の噴射量をフィードバック制御により正確に求めることができるので、着火可能な空燃比の中でもできるだけリーンな空燃比に設定することができる。これにより、未燃燃料量を最大限減らすことができるので、燃費性能およびエミッション性をさらに改善することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、AWSモードでの運転中に気筒2への吸気充填量を変化させるとき、吸気VVT18bが駆動されて吸気弁8の閉時期が変更される。このような構成によれば、吸気充填量が増えるのと同時に、吸気弁8の閉時期の進角(下死点への接近)に伴い有効圧縮比が増大するので、多量の吸気が気筒2内で充分に圧縮される結果、圧縮行程後半での気筒2内の温度が効果的に上昇し、燃料の気化性能をより高めることができる。
【0098】
なお、上記実施形態では、図7に示したように、吸気行程と圧縮行程後半とに2分して燃料を噴射したが、圧縮行程後半における適切なタイミング(気筒2内が充分に高温化する燃料気化に有利なタイミング)に所望量の燃料を全て噴射し切れる場合には、吸気行程中の噴射は省略してもよい。一方、上記実施形態のように吸気行程と圧縮行程後半とに2分して燃料を噴射した場合には、圧縮行程後半にある程度の量の燃料を噴射しつつ、残りの燃料を吸気行程中の適切なタイミング(負圧が増大するタイミング)に噴射することにより、多量の燃料であってもこれを充分に気化させることができるという利点がある。
【0099】
また、上記実施形態では、AWSモードでの運転中に気筒2への吸気充填量を変化させるために、吸気弁8の閉時期を変更するようにしたが、吸気弁8の閉時期が進角し過ぎると、吸気弁8と排気弁9とがともに開く期間であるバルブオーバーラップ期間が長くなり過ぎて、気筒2に逆流する高温の既燃ガス(内部EGRガス)が過度に増えることにより、かえって着火性が悪化することが懸念される。そこで、このような事態を回避するため、吸気弁8を進角させるときには、これに合わせてスロットル弁25の開度を若干増大させるとよい。これにより、内部EGRガスが増え過ぎて着火性が悪化するのを回避しつつ、吸気充填量を増やすことができる。なお、この場合は、吸気VVT18bとスロットル弁25の双方が、本発明にかかる吸気可変機構に該当することになる。
【0100】
また、上記実施形態では、図4(a)〜(d)に示したように、エタノール濃度の想定範囲を0〜100%としているが、例えば車両の仕向け先の国が決まっており、その国で使用される燃料のエタノール濃度がある特定の範囲(例えば0〜85%)に定まっている場合がある。あるいは、エタノール濃度を複数の区分に区切り、各区分内ではエタノール濃度にかかわらず同一の制御を行うことが考えられる。例えば、使用され得るエタノール濃度の最大値が100%であったとしても、濃度85〜100%の範囲では同一の制御を行うことが考えられる。この場合は、エタノール濃度が100%であっても85%として制御が行われるので、エタノール濃度の想定範囲の最大値(想定最大値)は85%ということになる。仮に、エタノール濃度の想定範囲の最大値が85%であるとすると、図4(a)〜(d)において、AWSモード時における吸気弁8の閉時期の最進角値はT2とT3の間になり、吸気充填量の最大値はC2とC3の間になる。このことは、燃料噴射量の設定値および目標空燃比でも同様である。
【0101】
上記の点からも理解されるように、本発明におけるエタノール濃度の「想定最大値」とは、制御上の事情から決められるものであって、実際に使用されるエタノール濃度の最大値とは必ずしも一致しない。
【0102】
また、上記実施形態では、図4(a)(b)に示したように、エタノール濃度が0%以上50%未満の範囲のとき、吸気充填量を一定の値(C1)に維持するべく、吸気弁8の閉時期を一定のタイミング(T1)に設定したが、吸気充填量および吸気弁8の閉時期は、エタノール濃度50%以上のときと同様、エタノール濃度に応じて変化させてもよい。また、図4(a)(b)のように、ある特定のエタノール濃度を境に吸気弁8の閉時期等の設定の仕方を変える場合でも、その境界となるエタノール濃度は50%に限られず、適宜変更可能である。
【0103】
また、上記実施形態では、燃料としてエタノール、ガソリン、またはこれらの混合燃料を使用することを想定したが、ガソリン以外の燃料はアルコールであればよく、エタノールに代えてメタノールを使用してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン本体
2 気筒
6 吸気ポート
8 吸気弁
11 インジェクタ
12 点火プラグ
18a 吸気VVT(吸気可変機構)
30 排気通路
35 触媒装置
50a 濃度推定部
50b 触媒活性促進部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8