(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照し、本発明を詳細に説明する。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図では、同一又は相当する部分に、同一の符号を付している。
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるプロセス制御装置の構成を示す図である。
図1において、1は伝達関数がG(s)で表されるn入力n出力の制御対象である。G(s)は、(1)式のようにn入力n出力の伝達関数行列で表される。即ち、
図1は、多変数プロセスを制御するプロセス制御装置を示している。sはラプラス変数である。なお、実際にはn(n≧2)個の制御対象1が存在するが、
図1では伝達関数行列G(s)を用いることにより、1つの制御対象1によって全体を示している。後述の制御器についても同様である。
【0016】
制御対象1の出力からなる制御量y(s)は、(2)式のようなn変数からなる縦ベクトル信号である。また、制御器の出力からなる操作量u(s)は、(3)式のようなn変数からなる縦ベクトル信号である。(2)式及び(3)式において「´」は転置を意味する。なお、制御器は、IMC制御部2、PD補償器3、逆デカップラ演算手段4、操作量演算手段5を備える。
【0018】
制御量y(s)は、制御対象1の伝達関数行列G(s)と操作量u(s)とを用いて(4)式のように表すことができる。
【0020】
伝達関数行列G(s)の対角要素からなる伝達関数行列をG
diag(s)とする。G
diag(s)は、(5)式のように表される。
【0024】
伝達関数行列D
f(s)を具体的に書き下すと(7)式のようになる。
【0026】
したがって、操作量u(s)のi要素u
i(s)について具体的に示すと(8)式のようになる。i要素u
i(s)は、他のj要素u
j(s)(j≠i)に、ある演算を経て影響を与えることが分かる。
【0028】
IMC制御部2は、例えば、SVフィルタ6、ゲイン7、Qフィルタ8、モデル9を備える。IMC制御部2に、目標値r(s)と制御量y(s)とが入力される。v(s)は、IMC制御部2の出力である。例えば、v
i(s)は、i番目のIMC制御部2の出力を意味する。また、y
i(s)はi番目の制御対象1が出力する制御量である。v
i(s)からy
i(s)までの伝達関数がG
ii(s)である。操作量u(s)は(9)式で表現でき、更に(4)式及び(5)式の関係から、v(s)からy(s)までは(10)式で表現できる。したがって、n個の制御対象1は非干渉化されることが分かる。
【0030】
本プロセス制御装置の特徴は、非干渉化されたn個の制御対象1に対してn個のモデル駆動PID制御器を用いることである。これを多変数モデル駆動PID制御器と称する。以下に、多変数モデル駆動PID制御器の各要素について詳しく説明する。
【0031】
PD補償器3の伝達関数F
diag(s)は、(11)式で表される。F
diag(s)は、対角要素のみからなる対角行列である。F
diag(s)のii要素は、比例演算と不完全微分演算とからなる(12)式で示す伝達関数である。(12)式において、K
fiiは比例ゲインを示す。また、T
fiiは微分時間を、κ
iiは不完全微分の係数を示す。
【0033】
IMC制御部2の出力v(s)から制御量y(s)までは、外乱d(s)、ノイズn(s)を用いて(13)式で表現できる。
【0035】
各PDフィードバックループの動特性は、伝達関数行列G
diag(s)に対して対角要素だけに働きかけるF
diag(s)を伝達関数とするPD補償器3を用いて、むだ時間を持つ1次遅れ系で表現できるように設計される。そのむだ時間を持つ1次遅れ系の伝達関数をG
F diag(s)とする。G
F diag(s)は、(14)式のように表される。
【0037】
また、G
F diag(s)は(15)式のように表現できる。
【0039】
K
F diagは、(16)式のような対角行列である。また、T
F diagは、(17)式のような対角行列である。L
F diagは、(18)式のような対角行列である。
【0041】
PD補償器3のF
diag(s)の設計と等価なむだ時間を持つ1次遅れ系からなるG
F diag(s)の決定とについては、各ループについて実施すれば良い。その決定方法として、例えば、波形合わせ法、周波数領域から導く方法、分母系列から導く方法等がある。これらの方法によって、K
F diag、T
F diag、L
F diagを適切な値に設定することができる。
【0044】
(19)式及び(20)式において、T
C diagは時定数行列、L
C diagはむだ時間行列である。ゲイン行列K
C diagは(21)式のような対角行列である。また、時定数行列T
C diagは(22)式のような対角行列である。むだ時間行列L
C diagは(23)式のような対角行列である。
【0046】
したがって、Qフィルタ8のQ
diag(s)は、(24)式のように表される。また、SVフィルタ6のSV
diag(s)は、(25)式のように表される。
【0048】
Λ
diagは、応答速度に係るパラメータからなる対角行列である。A
diagは、外乱抑制に係るパラメータからなる対角行列である。Λ
diagは(26)式のように表される。また、A
diagは(27)式のように表される。
【0050】
以上は、対角行列形式の表現を用いた場合の説明である。実際のプロセス制御装置では、n個の独立したモデル駆動PID制御器を用いることにより、上記構成を容易に実現できる。
【0051】
以上の説明より、制御量y(s)は、目標値r(s)、外乱d(s)及びノイズn(s)を用いて(28)式のように表される。また、操作量u(s)は、制御量y(s)及びIMC制御部2の出力v(s)を用いて(29)式のように表される。IMC制御部2の出力v(s)は、目標値r(s)及び外乱d(s)を用いて(30)式のように表される。
【0053】
目標値r(s)から出力y(s)の間は、(28)式の最初の項で示されているように非干渉化され、Λ
diagによって応答速度を可変できるようになっている。一方、外乱d(s)から出力y(s)の間は、(28)式の2項目に示すように非干渉化されていない。しかし、制御が定常状態になると、(28)式の2項目の[ ]で示す部分が0に収束する。このため、ステップ状の外乱d(s)が発生しても、定常状態であれば影響が無くなるようにレギュレーションされる。
【0054】
また、操作量u(s)についても、目標値r(s)、外乱d(s)及びノイズn(s)から簡単な式で計算できることが分かる。
【0056】
このように、本プロセス制御装置は、PDフィードバック(F
diag(s))を用い、更にPDフィードバックループの動特性(G
F diag(s))をむだ時間を持つ1次遅れ系に設計し、その結果から多変数モデル駆動PID制御器を用いることを特徴とする。即ち、多変数プロセスを制御する本プロセス制御装置は、以下の特徴を備える。
・逆デカップラ演算を用いる。
・従来のPID制御をモデル駆動PID制御に置き換える。
・PDフィードバックを用いる。
このPDフィードバックによって他ループの応答性に影響を与えることなく、当該ループだけの応答性を改善することができる。即ち、外乱抑制性能を向上させることができる。
図2は、
図1に示すプロセス制御装置の具体的な構成例を示す図である。
図2は、一例として、非干渉制御方式の2入力2出力の構成を示している。
【0057】
図2において、y
1(s)は、制御対象1aが出力する制御量である。制御量y
1(s)は、IMC制御部2aに入力される。また、IMC制御部2aに、目標値r
1(s)が入力される。C
1(s)は、IMC制御部2aの伝達関数である。IMC制御部2aは、入力された目標値r
1(s)と制御量y
1(s)とに基づいて、出力v
1(s)を出力する。
【0058】
また、制御量y
1(s)は、PD補償器3aに入力される。F
11(s)は、PD補償器3aの伝達関数である。PD補償器3aは、入力された制御量y
1(s)に基づいて、その演算結果を出力する。
【0059】
操作量演算手段5aは、制御対象1aに対する操作量u
1(s)を出力する。操作量演算手段5aからの操作量u
1(s)は、外乱d
1(s)が加算された上で制御対象1aに入力される。外乱d
1(s)が加算された操作量u
1(s)は、制御対象1bにも入力される。
【0060】
また、操作量u
1(s)は、逆デカップラ演算手段4bに入力される。D
f21(s)は、逆デカップラ演算手段4bの伝達関数である。逆デカップラ演算手段4bは、入力された操作量u
1(s)に基づいて逆デカップラ演算を行い、その演算結果を出力する。
【0061】
y
2(s)は、制御対象1bが出力する制御量である。制御量y
2(s)は、IMC制御部2bに入力される。また、IMC制御部2bに、目標値r
2(s)が入力される。C
2(s)は、IMC制御部2bの伝達関数である。IMC制御部2bは、入力された目標値r
2(s)と制御量y
2(s)とに基づいて、出力v
2(s)を出力する。
【0062】
また、制御量y
2(s)は、PD補償器3bに入力される。F
22(s)は、PD補償器3bの伝達関数である。PD補償器3bは、入力された制御量y
2(s)に基づいて、その演算結果を出力する。
【0063】
操作量演算手段5bは、制御対象1bに対する操作量u
2(s)を出力する。操作量演算手段5bからの操作量u
2(s)は、外乱d
2(s)が加算された上で制御対象1bに入力される。外乱d
2(s)が加算された操作量u
2(s)は、制御対象1aにも入力される。
【0064】
操作量u
1(s)に起因する制御対象1aからの出力(伝達関数G
11(s))と操作量u
2(s)に起因する制御対象1aからの出力(伝達関数G
12(s))とを加算したものが制御量y
1(s)に相当する。また、操作量u
2(s)に起因する制御対象1bからの出力(伝達関数G
22(s))と操作量u
1(s)に起因する制御対象1bからの出力(伝達関数G
21(s))とを加算したものが制御量y
2(s)に相当する。
【0065】
また、操作量u
2(s)は、逆デカップラ演算手段4aに入力される。D
f12(s)は、逆デカップラ演算手段4aの伝達関数である。逆デカップラ演算手段4aは、入力された操作量u
2(s)に基づいて逆デカップラ演算を行い、その演算結果を出力する。
【0066】
操作量演算手段5aに、IMC制御部2aからの出力v
1(s)とPD補償器3aからの出力と逆デカップラ演算手段4aからの出力とが入力される。操作量演算手段5aは、これらの入力に基づいて操作量u
1(s)を演算する。例えば、操作量演算手段5aは、IMC制御部2aからの出力v
1(s)からPD補償器3aからの出力と逆デカップラ演算手段4aからの出力とを減算し、操作量u
1(s)を得る。
【0067】
操作量演算手段5bに、IMC制御部2bからの出力v
2(s)とPD補償器3bからの出力と逆デカップラ演算手段4bからの出力とが入力される。操作量演算手段5bは、これらの入力に基づいて操作量u
2(s)を演算する。例えば、操作量演算手段5bは、IMC制御部2bからの出力v
2(s)からPD補償器3bからの出力と逆デカップラ演算手段4bからの出力とを減算し、操作量u
2(s)を得る。
【0068】
図3は、プロセス制御装置の他の構成例を示す図である。
図3は、非干渉制御方式の3入力3出力の構成を一例として示している。
図3に示す構成は、
図2に示す構成に第3の制御対象1cと第3の制御器とが追加されたものに相当する。
【0069】
図3において、y
3(s)は、制御対象1cが出力する制御量である。制御量y
3(s)は、IMC制御部2cに入力される。また、IMC制御部2cに、目標値r
3(s)が入力される。C
3(s)は、IMC制御部2cの伝達関数である。IMC制御部2cは、入力された目標値r
3(s)と制御量y
3(s)とに基づいて、出力v
3(s)を出力する。
【0070】
また、制御量y
3(s)は、PD補償器3cに入力される。F
33(s)は、PD補償器3cの伝達関数である。PD補償器3cは、入力された制御量y
3(s)に基づいて、その演算結果を出力する。
【0071】
操作量演算手段5cは、制御対象1cに対する操作量u
3(s)を出力する。操作量演算手段5cからの操作量u
3(s)は、外乱d
3(s)が加算された上で制御対象1cに入力される。外乱d
3(s)が加算された操作量u
3(s)は、制御対象1a及び1bにも入力される。
【0072】
即ち、操作量u
1(s)に起因する制御対象1aからの出力(伝達関数G
11(s))と操作量u
2(s)に起因する制御対象1aからの出力(伝達関数G
12(s))と操作量u
3(s)に起因する制御対象1aからの出力(伝達関数G
13(s))とを加算したものが制御量y
1(s)に相当する。また、操作量u
2(s)に起因する制御対象1bからの出力(伝達関数G
22(s))と操作量u
1(s)に起因する制御対象1bからの出力(伝達関数G
21(s))と操作量u
3(s)に起因する制御対象1bからの出力(伝達関数G
23(s))とを加算したものが制御量y
2(s)に相当する。同様に、操作量u
3(s)に起因する制御対象1cからの出力(伝達関数G
33(s))と操作量u
1(s)に起因する制御対象1cからの出力(伝達関数G
31(s))と操作量u
2(s)に起因する制御対象1cからの出力(伝達関数G
32(s))とを加算したものが制御量y
3(s)に相当する。
【0073】
また、逆デカップラ演算手段4aに、操作量u
2(s)及びu
3(s)が入力される。D
f12(s)は、操作量u
2(s)に対する逆デカップラ演算手段4aの伝達関数である。D
f13(s)は、操作量u
3(s)に対する逆デカップラ演算手段4aの伝達関数である。逆デカップラ演算手段4aは、入力された操作量u
2(s)及びu
3(s)のそれぞれについて逆デカップラ演算を行い、演算結果を出力する。
【0074】
逆デカップラ演算手段4bに、操作量u
1(s)及びu
3(s)が入力される。D
f21(s)は、操作量u
1(s)に対する逆デカップラ演算手段4bの伝達関数である。D
f23(s)は、操作量u
3(s)に対する逆デカップラ演算手段4bの伝達関数である。逆デカップラ演算手段4bは、入力された操作量u
1(s)及びu
3(s)のそれぞれについて逆デカップラ演算を行い、演算結果を出力する。
【0075】
逆デカップラ演算手段4cに、操作量u
1(s)及びu
2(s)が入力される。D
f31(s)は、操作量u
1(s)に対する逆デカップラ演算手段4cの伝達関数である。D
f32(s)は、操作量u
2(s)に対する逆デカップラ演算手段4cの伝達関数である。逆デカップラ演算手段4cは、入力された操作量u
1(s)及びu
2(s)のそれぞれについて逆デカップラ演算を行い、演算結果を出力する。
【0076】
操作量演算手段5cに、IMC制御部2cからの出力v
3(s)とPD補償器3cからの出力と逆デカップラ演算手段4cからの出力とが入力される。操作量演算手段5cは、これらの入力に基づいて操作量u
3(s)を演算する。例えば、操作量演算手段5cは、IMC制御部2cからの出力v
3(s)からPD補償器3cからの出力と逆デカップラ演算手段4cからの出力とを減算し、操作量u
3(s)を得る。
【0077】
4以上の入力及び出力を有する非干渉制御方式については、上記と同様に構成することができるため、その詳細な説明は省略する。
【0078】
このように、本プロセス制御装置であれば、DCSレベルでの多変数制御系が実現できる。更に、多変数制御対象の動特性が局所部分で把握できれば、その部分の多変数制御系の性能確認を踏まえた上で、残りの部分の動特性の把握レベルに応じて多変数制御系の規模を大きくすることができる。他の利点として、制御性向上に向けた具体的な調整方法及び指針が分かり易い、DCSでの制御周期で実行されるため対応遅れがない、下位ループの介入時に稼働率の低下度合いが小さいといった点が挙げられる。
【0079】
次に、多入力多出力プロセスの具体例として、重油分留塔の2入力2出力プロセスについて説明する。なお、本プロセス制御装置は、石化プラントの蒸留塔への適用に限定されない。
【0080】
制御量及び操作量を以下のように定義すると、制御量及び操作量は(31)式のように表現できる。
制御量:変数y=[塔頂抜出し流量、サイド抜出し流量]´
操作量:変数u=[塔頂成分、サイド成分]´
【0082】
したがって、制御対象の伝達関数G(s)は、(32)式のように表される。
【0084】
伝達関数G(s)の干渉度についてRGA(Relative Gain Allay)を計算すると、(33)式に示すように2に近い成分があり、干渉が強いことが分かる。なお、1に近い成分があれば干渉は少ない。
【0088】
逆デカップラ演算手段4では、操作量u(t)間でループが形成されるため、その実現性が問題になる。しかし、実現性については、次の逆デカップラ部分の行列式即ち(35)式の分子多項式が右半面の根を持たないことと、むだ時間を含む演算が実効可能なこととから判断ができる。
【0090】
実際には、(34)式の要素は実行可能である。また、(35)式を計算すると(36)式になり、(36)式の分子多項式=0の根は全て左半面に存在する。このため、上記実現性に問題がないことが分かる。
【0092】
伝達関数G(s)の対角要素からなる伝達関数行列G
diag(s)は(37)式のように表現できる。
【0094】
表1に設計結果をまとめた。ケース1は、PDフィードバックを用いずに逆デカップラ演算を行い、λ
ii=1、α
ii=1(ii=1、2)に設定した場合を示している。ケース2は、PDフィードバックを用いずに逆デカップラ演算を行い、λ
iiとα
ii(ii=1、2)については、応答性を改善させるために表1に示す値に設定した場合を示している。ケース3は、PDフィードバックを用いて逆デカップラ演算を行い、且つλ
ii=1、α
ii=1(ii=1、2)としてPDフィードバック系を表1のK
fを用いて設計した場合を示している。
【0095】
ケース1及びケース2は、
図2に示す構成においてF
ii=0(ii=1、2)に設定した場合に相当する。ケース3は、
図2に示す構成において、F
ii(s)を表1の数値を用いて設計した場合に相当する。なお、C
i(s)は、モデル駆動PID制御器の伝達関数である。
【0097】
図4及び
図5は、多変数モデル駆動PID制御系におけるシミュレーション結果を示す図である。
図4及び
図5に示すシミュレーションでは、先ずt=1secで、r
2(t)=0のままr
1(t)を0から1にステップ状に変化させる。次に、t=500secで、d
1(t)に0.5を印加する。次に、t=1000secで、r
2(t)を0から1にステップ状に変化させる。そして、t=1500secで、d
2(t)に0.5を印加している。
【0098】
図4は、ケース1における応答波形(破線)とケース3における応答波形(一点鎖線)とを比較したものである。PDフィードバックを追加したケース3の方が、目標値が変化した時の応答性が良いことが確認できる。また、ケース3の方が、印加された外乱を速やかに抑制することができ、制御性が優れていることが確認できる。
図5は、ケース2における応答波形(破線)とケース3における応答波形(一点鎖線)とを比較したものである。
図5においても、PDフィードバックを追加したケース3の方が、目標値応答及び外乱抑制応答について制御性が向上していることが分かる。これにより、逆デカップラ演算を用いて更に外乱抑制性を高めるためには、PDフィードバックを用いることが有効であることが証明できた。
【0099】
なお、IMC制御部2にモデル駆動PID制御器を用いることにより、操作量u(t)と制御量y(t)との応答を計算することができる。このため、本プロセス制御装置の応答性をオンラインでチェックできるように構成しても良い。
【0100】
かかる場合、例えば、本プロセス制御装置に、操作量u(t)の推定値と制御量y(t)の推定値とを演算によって求める制御量推定手段を備える。制御量推定手段は、例えば、目標値r(t)をステップ状に変化させた時の各推定値を演算する。ステップ状に変化させる目標値r(t)は、例えば、r
1(t)及びr
2(t)の一方だけでも良い。制御量推定手段は、例えば、PD補償器3のパラメータを0に設定して上記演算を行う。即ち、(12)式において、K
fii=0、T
fii=0、κ
ii=0に設定する。
【0101】
更に、本プロセス制御装置に、操作量u(t)と制御量y(t)とを実測する実測手段を備える。実測手段は、例えば、目標値r(t)をステップ状に変化させた時の各値を実測する。そして、制御量推定手段によって求められた推定値と実測手段によって測定された実測値とを表示器に表示させる。この時、操作量u(t)及び制御量y(t)の一方のみを表示器に表示させても良い。表示器に表示された内容を確認することにより、本プロセス制御装置の応答性をオンラインでチェックできる。
【0102】
また、本プロセス制御装置に、応答性の良し悪しを判定するための比較手段を備えても良い。かかる場合、比較手段は、制御量推定手段による推定値と実測手段による実測値とを比較し、その差等が基準範囲内であれば応答性について「良」の判定を行う。また、比較手段は、推定値と実測値との差等が基準範囲から外れていれば、応答性について「否」の判定を行う。
【0103】
上記説明の他に、出願人は、逆デカップラ演算とPDフィードバックとを用いた多変数モデル駆動PID制御系において各操作量に飽和対策を施した時の他ループへの影響を調べた。具体的には、操作量u
1(t)を0.4で飽和させてそのループの積分動作を止める現実的アンチリセットワインドアップ(Anti−Reset Windup)を施した。更に、操作量u
2(t)を−0.1で飽和させてそのループの積分動作を止める現実的なアンチリセットワインドアップを施した。その応答波形を
図6に示す。なお、シミュレーションの条件は、
図4及び
図5で説明した条件と同じである。
【0104】
t=1secでr
1(t)が0から1にステップ状に変化すると、u
1(t)は0.4で飽和し、y
1(t)はt=500secまでオフセットを生じる。しかし、この時、u
2(t)は飽和に達していない。このため、y
2(t)はr
2(t)=0で制御されており、y
1(t)の影響を受けていない。
【0105】
t=500secでd
1(t)に0.5が印加されると、u
1(t)が飽和しなくなる。即ち、u
1(t)及びu
2(t)の双方が飽和していない。このため、外乱を抑制することができ、制御量y
1(t)及びy
2(t)は、目標値r
1(t)=1及びr
2(t)=0によって良好に制御される。
【0106】
t=1000secでr
2(t)が0から1にステップ状に変化すると、u
2(t)は−0.1で飽和し、y
2(t)は、r
2(t)=1に達しなくなってオフセットを生じる。一方、u
1(t)は飽和していないため、y
1(t)はr
1(t)=1に良好に制御される。その後、t=1500secでd
2(t)に0.5が印加されると、u
2(t)が飽和以下になり、y
2(t)はr
2(t)=1に良好に制御される。
【0107】
このように、逆デカップラ演算は、飽和時或いは手動介入時に当該操作端にのみ働き、他への影響は殆どない。このため、稼働率の劣化が少ない現実的な多変数制御対策であることが分かる。
【0108】
以上の説明から分かるように、本プロセス制御装置を用いることにより以下の効果が期待できる。
逆デカップリング技術を用いるため、非干渉化が実現できる。また、操作量u(t)が他の制御系にフィードフォワード演算で繋がっているため、操作量u(t)が飽和した場合は、当該ループの制御器内の積分器成分をホールドすれば良い。飽和していないループは、制御動作が継続される。このため、オペレータの介入等によってループが切られた場合でも、その影響は当該ループに極小化され、多変数制御系の稼働率を向上させることができる。
【0109】
また、本プロセス制御装置であれば、得られた部分モデルを用いて小規模の多変数制御系をDCSレベルで構築できる。更に、プロセスの運転操作を継続しながらモデルの精度を向上させることができる。このため、より広い制御対象モデルが入手でき次第、規模の大きな多変数制御系へグレードアップでき、長期的に見て稼働率の良い多変数制御系を実現できる。
【0110】
モデル駆動PID制御器を用いることにより、操作量u(t)と制御量y(t)との応答を計算することができる。このため、プロセス制御装置の応答性をオンラインでチェックできる。
【0111】
また、現状において主流であるモデル予測制御では、調整パラメータが干渉していてその目的が明確でなく、現場での調整が難しい。しかし、本プロセス制御装置であれば、各PD補償器3の制御パラメータの役割が明確である。例えば、外乱抑制を強化させるためにはPD補償器3の制御パラメータを変更すれば良い。更に、多変数プロセスにおいて局所的に制御性を向上させることが可能である。