特許第5979115号(P5979115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979115
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-215705(P2013-215705)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78635(P2015-78635A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2015年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】山川 芳明
(72)【発明者】
【氏名】上田 一生
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−172110(JP,A)
【文献】 特開2013−19282(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/077220(WO,A1)
【文献】 特開2005−146922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L1/34−1/356
9/00−9/04
13/00−13/08
F02D13/00−28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の駆動軸と同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体の内側で前記駆動側回転体の軸心と同軸心に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される流体圧室と、
作動流体の給排により、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相に拘束されるロック状態と前記中間ロック位相の拘束が解除されたロック解除状態とが選択的に切り替えられる中間ロック機構と、
前記中間ロック機構に給排される前記作動流体の流通を許容するロック解除流路と、
前記中間ロック機構へ供給される前記作動流体の流通を許容せずに、前記中間ロック機構から外部へ排出される前記作動流体の流通を許容するロック排出流路と、
前記従動側回転体の内側で前記軸心と同軸心に配置され、給電量を変化させることにより、前記流体圧室及び前記中間ロック機構に対する前記作動流体の給排を制御する電磁弁と、を備え、
前記電磁弁への前記給電量が0及び最大の場合に、前記ロック排出流路は前記作動流体が外部へ排出されるように前記作動流体の流通を許容する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記電磁弁への前記給電量が0の場合に、前記ロック解除流路は前記作動流体が外部へ排出されるように前記作動流体の流通を許容する請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記電磁弁への前記給電量が最大且つ前記中間ロック機構が前記ロック状態にある場合に前記内燃機関の運転が停止したときには、前記中間ロック機構に作用する前記作動流体の流体圧が前記ロック解除状態に切り換わらない前記流体圧以下に低下してから前記給電量が最大から0にされる請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(以下「エンジン」とも称する)の運転状況に応じて吸気弁及び排気弁の開閉時期を変更可能とする弁開閉時期制御装置が実用化されている。この弁開閉時期制御装置は、例えば、エンジンの作動による駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相(以下、単に「相対回転位相」とも称する)を変化させることにより、従動側回転体の回転に伴って開閉される吸排気弁の開閉時期を変更する機構を有している。
【0003】
一般に、吸排気弁の最適な開閉時期はエンジンの始動時や車両の走行時などエンジンの運転状況により異なる。エンジンの始動時には、相対回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の所定位相に拘束することにより、エンジンの始動に最適な吸排気弁の開閉時期を実現すると共に、駆動側回転体と従動側回転体によって形成される流体圧室の仕切部が揺動して打音が発生するのを抑制している。そのため、エンジンを停止させる前には、相対回転位相を所定位相に拘束しておくことが望まれる。
【0004】
特許文献1には、エンジンの停止信号に基づいて相対回転位相を中間ロック位相にロックさせることができる弁開閉時期制御装置が開示されている。この弁開閉時期制御装置においては、1個の油圧制御弁(電磁弁)で進角制御、遅角制御、中間位相保持制御、中間ロック位相でのロック制御を行う。これらの制御は、油圧制御弁のスプールの位置をソレノイドへの給電量に応じて変化させることにより行われる。具体的には、ソレノイドへの給電量を0から増加させるにつれて、(1)「全ドレイン」、「進角作動による中間ロック位相へのロック」、「ロック解除した状態での進角作動」、「中間位相保持」、「ロック解除した状態での遅角作動」の順に制御される場合と、(2)「ロック解除した状態での遅角作動」、「中間位相保持」、「ロック解除した状態での進角作動」、「進角作動による中間ロック位相へのロック」、「全ドレイン」の順に制御される場合とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−172109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された弁開閉時期制御装置の上記(1)、(2)の制御においては、「遅角作動による中間ロック位相へのロック」の状態はない。そのため、相対回転位相が中間ロック位相より進角側にあって中間ロック位相でロック状態にするためには、一旦「ロック解除した状態での遅角作動」の制御を行って相対回転位相を中間ロック位相より遅角側に変化させ、その後「進角作動による中間ロック位相へのロック」の制御に切り換える、いわゆる折り返し制御によりロック状態にする必要があった。そのため、ロック状態に到達するまで長時間を要するという問題があった。
【0007】
特許文献1の図21には、ソレノイドへの給電量が0の時に「遅角作動による中間ロック位相へのロック」となり、給電量が最大の時に「進角作動による中間ロック位相へのロック」となるように制御される油圧制御弁の作動工程図が開示されている。しかし、図21では、油圧制御弁の作動工程が描かれているにすぎず、図21の説明が記載されている明細書の段落〔0067〕には、この油圧制御弁の作動工程の制御を実現するための油圧制御弁の具体的な構造が一切開示されていない。他の実施形態で開示されている油圧制御弁においても「遅角作動による中間ロック位相へのロック」と「進角作動による中間ロック位相へのロック」の両方の制御が可能な構造は開示されておらず、当業者が開示に基づいて想到することもできなかった。従って、特許文献1に基づいて、1個の油圧制御弁で「遅角作動による中間ロック位相へのロック」と「進角作動による中間ロック位相へのロック」の両方の制御が可能な構造は実施することができず、当該構造を実現するために弁開閉時期制御装置を更に改良する余地があった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明は、1個の電磁弁で「遅角作動による中間ロック位相へのロック」と「進角作動による中間ロック位相へのロック」の両方の制御が可能な弁開閉時期制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関の駆動軸と同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体の内側で前記駆動側回転体の軸心と同軸心に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される流体圧室と、作動流体の給排により、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間の中間ロック位相に拘束されるロック状態と前記中間ロック位相の拘束が解除されたロック解除状態とが選択的に切り替えられる中間ロック機構と、前記中間ロック機構に給排される前記作動流体の流通を許容するロック解除流路と、前記中間ロック機構へ供給される前記作動流体の流通を許容せずに、前記中間ロック機構から外部へ排出される前記作動流体の流通を許容するロック排出流路と、前記従動側回転体の内側で前記軸心と同軸心に配置され、給電量を変化させることにより、前記流体圧室及び前記中間ロック機構に対する前記作動流体の給排を制御する電磁弁と、を備え、前記電磁弁への前記給電量が0及び最大の場合に、前記ロック排出流路は前記作動流体が外部へ排出されるように前記作動流体の流通を許容する点にある。
【0010】
このような特徴構成とすれば、給電量が0と最大の場合に中間ロック機構から作動流体が外部へ排出されるように作動流体の流通が許容されるので、中間ロック機構はロック可能な状態になる。そして、例えば、給電量が0の場合に進角制御を行い、給電量が最大の場合に遅角制御を行うように電磁弁を構成することにより、相対回転位相が中間ロック位相より遅角側にある場合でも進角側にある場合でも、特許文献1の弁開閉時期制御装置のように折り返し制御を行うことなく、直接中間ロック位相に到達させることができる。すなわち、「遅角作動による中間ロック位相へのロック」と「進角作動による中間ロック位相へのロック」の両方の制御が可能になる。これにより、短時間でロック状態を実現することができる。
【0011】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記電磁弁への前記給電量が0の場合に、前記ロック解除流路は前記作動流体が外部へ排出されるように前記作動流体の流通を許容すると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、給電量が0の場合には、ロック解除流路とロック排出流路の両方の流路において、作動流体が外部へ排出されるように作動流体の流通を許容する状態になる。従って、従前のロック解除流路だけを備えた弁開閉時期制御装置と比較すると、短時間で中間ロック機構から作動流体を排出することができる。そのため、駆動回転体に対する従動回転体の相対回転位相を短時間で変化させても確実に中間ロック位相でロック状態を実現することができる。
【0013】
駆動回転体に対する従動回転体の相対回転位相が中間ロック位相よりも遅角方向の側にあるときに内燃機関がストールすると、カム平均トルクは相対回転位相が遅角方向になるように発生することから、相対回転位相は遅角方向に向かって最遅角位相近傍まで変化する。このように、相対回転位相が最遅角位相近傍にある状態で放置した後に内燃機関を再始動する場合には、カム変動トルクにより相対回転位相を中間ロック位相まで変化させてロック状態にすることが必要であり、確実にロック状態にするために中間ロック機構に残存している作動流体を短時間で排出する必要がある。本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、給電量が0で作動流体がロック解除流路とロック排出流路の両方を流通して外部に排出されるので、内燃機関の再始動時における排出流路の断面積を従前の構造と比較して大きくすることができ、短時間で作動流体を排出することができる。これにより、内燃機関の再始動時の中間ロック位相でのロック状態を確実に実現することができる。特に、マイナス20℃のような低温下で内燃機関の再始動を行う場合には、作動流体の粘性が大きく排出されにくいため、給電量が0で排出流路の断面積を大きくすることができる本発明に係る弁開閉時期制御装置の構造は特に望ましい。
【0014】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記電磁弁への前記給電量が最大且つ前記中間ロック機構が前記ロック状態にある場合に前記内燃機関の運転が停止したときには、前記中間ロック機構に作用する前記作動流体の流体圧が前記ロック解除状態に切り換わらない前記流体圧以下に低下してから前記給電量が最大から0にされると好適である。
【0015】
このような制御を行うと、内燃機関の運転の停止前に駆動回転体に対する従動回転体の相対回転位相を中間ロック位相に変化させてロック状態にし、その後に内燃機関の運転を停止しても、ロック解除状態に切り換わることなく、相対回転位相を中間ロック位相に維持したままにすることが可能になる。その結果、次回の内燃機関の始動は、最適な給排気弁の開閉時期を実現する相対回転位相である中間ロック位相にロックされた状態で開始することができ、スムーズな内燃機関の始動が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る弁開閉時期制御装置の構成を表す縦断面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3】OCVの作動による、各流路における作動油の流通状態を表す図である。
図4】W1におけるOCVの作動状態を表す拡大断面図である。
図5】W2におけるOCVの作動状態を表す拡大断面図である。
図6】W3におけるOCVの作動状態を表す拡大断面図である。
図7】W4におけるOCVの作動状態を表す拡大断面図である。
図8】W5におけるOCVの作動状態を表す拡大断面図である。
図9】第1実施形態の変形例に係る弁開閉時期制御装置の構成を表す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1実施形態
以下に、自動車用エンジン(以下、単に「エンジン」と称する)における吸気弁側の弁開閉時期制御装置に本発明を適用した第1実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明において、エンジンEは内燃機関の一例である。
【0018】
〔全体構成〕
図1に示すように、弁開閉時期制御装置10は、クランクシャフトCと同期回転するハウジング1と、ハウジング1の内側でハウジング1の軸心Xと同軸心に配置され、エンジンEの弁開閉用のカムシャフト101と一体回転する内部ロータ2とを備えている。カムシャフト101は、エンジンEの吸気弁103の開閉を制御するカム104の回転軸であり、内部ロータ2、及び固定ボルト5と同期回転する。カムシャフト101は、エンジンEのシリンダヘッドに回転自在に組み付けられている。なお、クランクシャフトCは駆動軸の一例であり、ハウジング1は駆動側回転体の一例であり、内部ロータ2は従動側回転体の一例である。
【0019】
固定ボルト5のカムシャフト101に近い側の端部には雄ねじ5bが形成されている。ハウジング1と内部ロータ2を組み合わせた状態で固定ボルト5を中心に挿通し、固定ボルト5の雄ねじ5bとカムシャフト101の雌ねじ101aとを螺着することで、固定ボルト5がカムシャフト101に対して固定されると共に、内部ロータ2とカムシャフト101も固定される。
【0020】
ハウジング1は、カムシャフト101が接続される側とは反対側に配置されているフロントプレート11と、内部ロータ2に外装される外部ロータ12と、タイミングスプロケット15を一体的に備えカムシャフト101が接続される側に配置されているリヤプレート13とを締結ボルト16により組み付けて構成される。ハウジング1には内部ロータ2が収容され、内部ロータ2と外部ロータ12との間に、後述する流体圧室4が形成される。内部ロータ2と外部ロータ12とは、軸心Xを中心にして相対回転自在に構成されている。なお、リヤプレート13にタイミングスプロケット15を備えずに、外部ロータ12の外周部にタイミングスプロケット15を備えていてもよい。
【0021】
ハウジング1とカムシャフト101との間に軸心Xを中心とする回転方向に付勢力を作用させる戻しばね70を備えている。この戻しばね70は、ハウジング1に対する内部ロータ2の相対回転位相(以下、単に「相対回転位相」とも称する)が最遅角にある状態から進角側の所定の相対回転位相に達するまで付勢力を作用させ、相対回転位相が所定回転位相より進角側の領域では付勢力を作用させない機能を有するものであり、例えば、トーションばねやゼンマイばねが用いられる。なお、戻しばね70は、ハウジング1と内部ロータ2との間に配置されていてもよい。
【0022】
クランクシャフトCが回転駆動すると、動力伝達部材102を介してタイミングスプロケット15にその回転駆動力が伝達され、ハウジング1が図2に示す回転方向Sに回転駆動する。ハウジング1の回転駆動に伴い、内部ロータ2が回転方向Sに回転駆動してカムシャフト101が回転し、カムシャフト101に設けられたカム104がエンジンEの吸気弁103を押し下げて開弁させる。
【0023】
図2に示すように、外部ロータ12に、径方向内側に突出し且つ内部ロータ2の外周面に当接する3個の突出部14を回転方向Sに沿って互いに離間させて形成することにより、内部ロータ2と外部ロータ12との間に流体圧室4が形成されている。突出部14は、内部ロータ2の外周面に対するシューとしても機能する。内部ロータ2の外周面のうち流体圧室4に面する部分に、外部ロータ12の内周面に当接する突出部21が形成されている。突出部21によって、流体圧室4は進角室41と遅角室42とに分割されている。なお、本実施形態においては、流体圧室4が3箇所となるよう構成されているが、これに限られるものではない。
【0024】
進角室41及び遅角室42には作動油(作動流体の一例)が供給、排出され、又はその給排が遮断されることにより、突出部21に作動油の油圧を作用させ、その油圧により相対回転位相を進角方向又は遅角方向へ変化させ、あるいは、任意の位相に保持する。進角方向とは、進角室41の容積が大きくなる方向であり、図2に矢印S1で示す方向である。遅角方向とは、遅角室42の容積が大きくなる方向であり、図2に矢印S2で示す方向である。突出部21が進角方向S1の移動端(軸心Xを中心にした揺動端)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、突出部21が遅角方向S2の移動端(軸心Xを中心にした揺動端)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称する。なお、最進角位相は突出部21の進角方向S1の移動端だけはなく、この近傍を含む概念である。これと同様に、最遅角位相は突出部21の遅角方向S2での移動端だけではなく、この近傍を含む概念である。
【0025】
図2に示すように、内部ロータ2には、進角室41に連通する進角流路43と、遅角室42に連通する遅角流路44と、後述する中間ロック機構8に給排する作動油が流通するロック解除流路45と、中間ロック機構8から弁開閉時期制御装置10の外部へ排出される作動油が流通するロック排出流路46が形成されている。図1に示すように、この弁開閉時期制御装置10では、エンジンEのオイルパン61に貯留される潤滑油を作動油として用いており、この作動油が進角室41、遅角室42、中間ロック機構8に供給される。
【0026】
〔中間ロック機構〕
弁開閉時期制御装置10は、ハウジング1に対する内部ロータ2の相対回転位相の変化を拘束することにより、相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間にある中間ロック位相Pに拘束する中間ロック機構8を備えている。エンジン始動直後の作動油の油圧が安定しない状況で相対回転位相が中間ロック位相Pに拘束されることによって、クランクシャフトCの回転位相に対するカムシャフト101の回転位相を適正に維持し、エンジンEの安定的な回転を実現することができる。
【0027】
図2に示すように、中間ロック機構8は、第1ロック部材81と、第1スプリング82と、第2ロック部材83と、第2スプリング84と、第1凹部85と、第2凹部86により構成される。
【0028】
第1ロック部材81と第2ロック部材83はプレート状の部材で構成され、軸心Xに平行な姿勢で内部ロータ2の方向に向けて接近、離間できるように外部ロータ12に対し移動自在に支持されている。第1ロック部材81は第1スプリング82の付勢力により内部ロータ2の方向に移動し、第2ロック部材83は第2スプリング84の付勢力により内部ロータ2の方向に移動する。
【0029】
第1凹部85は、内部ロータ2の外周に軸心Xの方向に沿って溝状に区画形成されている。第1凹部85は周方向で遅角方向S2に向かって浅い溝と深い溝が連続して形成されている。浅い溝の溝幅は第1ロック部材81の厚みより広く、深い溝の溝幅は浅い溝と同等の溝幅で第1ロック部材81の厚みよりも広い。第2凹部86は、内部ロータ2の外周に軸心Xの方向に沿って溝状に区画形成されている。第2凹部86は周方向で遅角方向S2に向かって浅い溝と深い溝が連続して形成されている。浅い溝の溝幅は第2ロック部材83の厚みと同程度で、深い溝の溝幅は第2ロック部材83の厚みよりも十分に広く、第1凹部85の深い溝の溝幅よりも広い。
【0030】
図2に示すように、第1凹部85と第2凹部86に作動油がない状態における中間ロック位相Pでは、第1スプリング82の付勢力により内部ロータ2に向けて移動した第1ロック部材81が第1凹部85と嵌合し、第1ロック部材81が第1凹部85の深い溝の進角方向S1の端部に当接して内部ロータ2の遅角方向S2への変化を規制する。また、第2スプリング84の付勢力により内部ロータ2に向けて移動した第2ロック部材83が第2凹部86と嵌合し、第2ロック部材83が第2凹部86の深い溝の遅角方向S2の端部に当接して内部ロータ2の進角方向S1への変化を規制する。このように、内部ロータ2の進角方向S1と遅角方向S2への変化を同時に規制することにより相対回転位相を中間ロック位相Pに拘束する。これがロック状態である。
【0031】
ロック解除流路45は、第1凹部85の深い溝と第2凹部86の深い溝のそれぞれの底面に接続されており、ロック状態にあるときに作動油がロック解除流路45を流通して第1凹部85と第2凹部86に供給されると、第1ロック部材81と第2ロック部材83は作動油の油圧を受ける。この油圧が第1スプリング82と第2スプリング84の付勢力を上回ると第1ロック部材81と第2ロック部材83は第1凹部85と第2凹部86からそれぞれ離間し、ロック解除状態となる。また、ロック解除状態において第1凹部85と第2凹部86にある作動油は、ロック解除流路45を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されうる。このように、ロック解除流路45は、第1凹部85と第2凹部86へ給排される作動流体の流通を許容する。
【0032】
ロック排出流路46も、第1凹部85の深い溝と第2凹部86の深い溝のそれぞれの底面に接続されているが、ロック排出流路46は第1凹部85と第2凹部86に供給される作動油の流通を許容せず、第1凹部85と第2凹部86から弁開閉時期制御装置10の外部へ排出される作動油の流通を許容する。
【0033】
〔OCV〕
図1に示すように、本実施形態においては、OCV(オイルコントロールバルブ)51が、内部ロータ2の内側で且つ軸心Xと同軸心に配設されている。OCV51は電磁弁の一例である。OCV51は、スプール52と、スプール52を付勢する第1スプリング53aと、スプール52を駆動する電磁ソレノイド54とを備えて構成される。なお、電磁ソレノイド54については、公知の技術であるので詳細な説明を省略する。
【0034】
スプール52は、固定ボルト5のカムシャフト101から遠い側の端部である頭部5c側から軸心Xの方向に沿って形成された断面円形の孔である収容空間5aに収容されており、収容空間5aの内部で軸心Xの方向に沿って摺動可能である。スプール52も軸心Xの方向に沿った断面円形の有底穴である主排出流路52bを有している。主排出流路52bは入口付近では奥に比べて内径が大きくなっており、段差が形成されている。
【0035】
第1スプリング53aは収容空間5aの奥部に配設されており、スプール52を電磁ソレノイド54の方向(図1の左方向)に常時付勢している。スプール52は、収容空間5aに取り付けられたストッパ55により、収容空間5aから飛び出さない。主排出流路52bに形成された段差が第1スプリング53aの一方を保持している。収容空間5aとそこから連続して形成されている内径の小さい有底穴である第2貫通孔47cとの境界にはパーティション5dが挿入されており、パーティション5dは第1スプリング53aの他方を保持している。電磁ソレノイド54に給電すると、電磁ソレノイド54に設けられたプッシュピン54aが、スプール52の端部52aを押圧する。その結果、スプール52は第1スプリング53aの付勢力に抗してカムシャフト101の方向に摺動する。OCV51は、電磁ソレノイド54への給電量を0から最大まで変化させることにより、スプール52の位置調節ができるよう構成されている。電磁ソレノイド54への給電量は、不図示のECU(電子制御ユニット)によって制御される。
【0036】
OCV51は、スプール52の位置に応じて進角室41及び遅角室42への作動油の供給、排出、保持を切り換えると共に、中間ロック機構8への作動油の供給と排出を切り換える。図3に、電磁ソレノイド54へ給電量に応じてスプール52の位置がW1〜W5に変化したときのOCV51の作動構成を示す。
【0037】
〔油路構成〕
図1に示すように、オイルパン61に貯留されている作動油は、クランクシャフトCの回転駆動力が伝達されることにより駆動する機械式のオイルポンプ62によって汲み上げられ、後述する供給流路47を流通する。そして、供給流路47を流通した作動油は、OCV51を経由して、進角流路43、遅角流路44、ロック解除流路45に供給される。
【0038】
図1図4図8に示すように、進角室41に接続される進角流路43は、固定ボルト5に形成された第1貫通孔43aと、第1貫通孔43aに繋がり内部ロータ2に形成された第2貫通孔43bとにより構成されている。遅角室42に接続される遅角流路44は、固定ボルト5に形成された第1貫通孔44aと、第1貫通孔44aに繋がり内部ロータ2に形成された第2貫通孔44bとにより構成されている。第1凹部85、第2凹部86に接続されるロック解除流路45は、固定ボルト5に形成された第1貫通孔45aと、第1貫通孔45aに繋がり内部ロータ2に形成された第2貫通孔45bとにより構成されている。第1凹部85、第2凹部86に接続されるロック排出流路46は、固定ボルト5に形成された第1貫通孔46aと、第1貫通孔46aに繋がり内部ロータ2に形成された第2貫通孔46bとにより構成されている。
【0039】
供給流路47は、カムシャフト101に形成された第1貫通孔47aと、カムシャフト101と固定ボルト5との間の空間である第1環状流路47bと、固定ボルト5に形成された第2貫通孔47cと、固定ボルト5の周囲に形成された第2環状流路47dと、内部ロータ2に形成された第1流路47eと、固定ボルト5に形成された第3貫通孔47fとにより構成され、各流路はこの順で繋がっている。
【0040】
第2貫通孔47cは、軸心Xの方向に沿って固定ボルト5に形成された有底穴と、これに対して軸心X方向の異なる2箇所で外周まで貫通する複数の孔とにより構成されている。該有底穴の途中にはチェックバルブ48が備えられており、パーティション5dとチェックバルブ48とで保持される第2スプリング53bにより、チェックバルブ48は第2貫通孔47cの有底穴を閉じる方向に付勢されている。
【0041】
第1流路47eは、軸心Xの方向に沿って固定ボルト5に形成され且つ両端が閉塞された流路と、該流路から軸心X方向の異なる3箇所で径方向内側に向かって内周面まで形成された3個の環状溝により構成されている。3個の環状溝のうちの1個は第2環状流路47dに対向しており、残りの2個の環状溝は第3貫通孔47fに対向している。すなわち、第3貫通孔47fは固定ボルト5の軸心Xの方向に沿った異なる2箇所に形成されている。
【0042】
スプール52には、供給流路47を流通する作動油を進角流路43、遅角流路44、ロック解除流路45のいずれかに供給する第1環状溝52c、第2環状溝52dが形成されている。スプール52には、さらに、進角流路43、遅角流路44、ロック解除流路45、ロック排出流路46を流通する作動油を主排出流路52bに排出する第1貫通孔52eと第2貫通孔52fが形成されている。さらに、主排出流路52bを流通する作動油を弁開閉時期制御装置10の外部に排出する第3貫通孔52gが形成されている。
【0043】
〔OCVの動作〕
図4に示すように、電磁ソレノイド54に給電を行わない場合(給電量が0)においてOCV51は図3のW1の状態にあり、第1スプリング53aの付勢力によりスプール52はストッパ55に当接し、最も左方に位置している。この状態において供給流路47に作動油を供給すると、作動油は第1貫通孔47a、第1環状流路47b、第2貫通孔47cを流通する。第2貫通孔47cにおいてチェックバルブ48に作用する油圧が第2スプリング53bの付勢力を上回ると、チェックバルブ48は開弁する。そして作動油は、第2環状流路47d、第1流路47e、第3貫通孔47fを流通し、第1環状溝52c、第2環状溝52dに到達する。第1環状溝52cはいずれの流路にも繋がっておらずそれ以上作動油は流れない。第2環状溝52dは進角流路43に繋がっているので、作動油は進角流路43を流通し、進角室41に供給される。すなわち、進角流路43は供給状態である。一方、遅角流路44は第2貫通孔52fと、ロック解除流路45は第1貫通孔52eと、ロック排出流路46は主排出流路52bに繋がる収容空間5aと、それぞれ繋がっている。そのため、遅角室42、第1凹部85、第2凹部86にある作動油は、主排出流路52bから第3貫通孔52gを通って、弁開閉時期制御装置10の外部に排出される。すなわち、遅角流路44、ロック解除流路45、ロック排出流路46はいずれもドレン状態である。
【0044】
突出部21が中間ロック位相Pよりも遅角方向S2の側にあるときにOCV51が上記W1の状態に制御されると、内部ロータ2は進角方向S1に変化して、相対回転位相が中間ロック位相Pになった時に第1ロック部材81と第1凹部85、第2ロック部材83と第2凹部86がそれぞれ嵌合し、ロック状態となる。これは、「進角作動による中間ロック位相Pへのロック」に相当する。なお、「電磁ソレノイド54に給電を行わない」場合とは、W1の状態を維持する範囲で電磁ソレノイド54に給電を行う場合も含むものとする。
【0045】
図5に示すように、電磁ソレノイド54に給電を行ってOCV51が図3のW2の状態になった場合には、スプール52はW1の状態よりも少し右方に移動している。この状態において供給流路47に作動油を供給すると、作動油は第1環状溝52c、第2環状溝52dに到達する。第1環状溝52cはロック解除流路45に繋がっているので、作動油はロック解除流路45を流通し、第1凹部85、第2凹部86に供給される。すなわち、ロック解除流路45は供給状態である。このとき、ロック排出流路46は第1貫通孔52e、第2貫通孔52f、収容空間5aのいずれの流路にも繋がっておらず、作動油がロック排出流路46を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されることはない。すなわち、ロック排出流路46は閉状態である。従って、作動油の油圧が第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力を上回ると、第1ロック部材81と第2ロック部材83は第1凹部85と第2凹部86からそれぞれ離間し、ロック解除状態になる。
【0046】
第2環状溝52dは依然として進角流路43に繋がっているので、作動油は進角流路43を流通し、進角室41に供給される。すなわち、進角流路43は供給状態である。一方、遅角流路44も依然として第2貫通孔52fと繋がっているので、遅角室42にある作動油は、主排出流路52bから第3貫通孔52gを通って、弁開閉時期制御装置10の外部に排出される。すなわち、遅角流路44はドレン状態である。
【0047】
突出部21が中間ロック位相Pよりも遅角方向S2の側にあるときにOCV51が上記W2の状態に制御されると、内部ロータ2は進角方向S1に変化する。このとき、第1凹部85と第2凹部86は作動油で満たされてロック解除状態になっているので、相対回転位相が中間ロック位相Pに到達してもロック状態になることはない。これは、「ロック解除した状態での進角作動」に相当する。
【0048】
図6に示すように、電磁ソレノイド54にさらに給電を行ってOCV51が図3のW3の状態になった場合には、スプール52はW2の状態よりも少し右方に移動している。この状態において供給流路47に作動油を供給すると、作動油は第1環状溝52c、第2環状溝52dに到達する。第1環状溝52cは依然としてロック解除流路45に繋がっているので、作動油はロック解除流路45を流通し、第1凹部85、第2凹部86に供給される。すなわち、ロック解除流路45は供給状態である。このとき、ロック排出流路46はW2の状態の時と同様、第1貫通孔52e、第2貫通孔52f、収容空間5aのいずれの流路にも繋がっておらず、作動油がロック排出流路46を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されることはない。すなわち、ロック排出流路46は閉状態である。従って、作動油の油圧が第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力を上回ると、第1ロック部材81と第2ロック部材83は第1凹部85と第2凹部86からそれぞれ離間し、ロック解除状態になる。
【0049】
第2環状溝52dはいずれの流路にも繋がっておらずそれ以上作動油は流れない。すなわち、進角流路43と遅角流路44には作動油は供給されない。また、進角流路43と遅角流路44は、第1貫通孔52e、第2貫通孔52fのいずれの流路とも繋がっていないので、進角室41、遅角室42の作動油が弁開閉時期制御装置10の外部に排出されることはない。従って、OCV51が上記W3の状態に制御されると、進角室41、遅角室42への作動油の給排は行われないため、内部ロータ2はそのままの相対回転位相を保持し、進角方向S1にも遅角方向S2にも変化しない。すなわち、進角流路43と遅角流路44は共に閉状態であり、これは、「中間位相保持」に相当する。
【0050】
図7に示すように、電磁ソレノイド54にさらに給電を行ってOCV51が図3のW4の状態になった場合には、スプール52はW3の状態よりも少し右方に移動している。この状態において供給流路47に作動油を供給すると、作動油は第1環状溝52c、第2環状溝52dに到達する。第1環状溝52cは依然としてロック解除流路45に繋がっているので、作動油はロック解除流路45を流通し、第1凹部85、第2凹部86に供給される。すなわち、ロック解除流路45は供給状態である。このとき、ロック排出流路46はW2、W3の時と同様、第1貫通孔52e、第2貫通孔52f、収容空間5aのいずれの流路にも繋がっておらず、作動油がロック排出流路46を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されることはない。すなわち、ロック排出流路46は閉状態である。従って、作動油の油圧が第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力を上回ると、第1ロック部材81と第2ロック部材83は第1凹部85と第2凹部86からそれぞれ離間し、ロック解除状態になる。
【0051】
第2環状溝52dは遅角流路44に繋がっているので、作動油は遅角流路44を流通し、遅角室42に供給される。すなわち、遅角流路44は供給状態である。一方、進角流路43は第1貫通孔52eと繋がっているので、進角室41にある作動油は、主排出流路52bから第3貫通孔52gを通って、弁開閉時期制御装置10の外部に排出される。すなわち、進角流路43はドレン状態である。
【0052】
突出部21が中間ロック位相Pよりも進角方向S1の側にあるときにOCV51が上記W4の状態に制御されると、内部ロータ2は遅角方向S2に変化する。このとき、第1凹部85と第2凹部86は作動油で満たされてロック解除状態になっているので、相対回転位相が中間ロック位相Pに到達してもロック状態になることはない。これは、「ロック解除した状態での遅角作動」に相当する。
【0053】
図8に示すように、電磁ソレノイド54への給電量を最大にしてOCV51が図3のW5の状態になった場合には、スプール52はW4の状態よりも少し右方に移動している。この状態において供給流路47に作動油を供給すると、作動油は第2環状溝52dには到達するが、第1環状溝52cは第3貫通孔47fと繋がっていないため、第1環状溝52cには作動油は到達しない。第2環状溝52dは依然として遅角流路44に繋がっているので、作動油は遅角流路44を流通し、遅角室42に供給される。すなわち、遅角流路44は供給状態である。一方、進角流路43は第1貫通孔52eと、ロック排出流路46は第2貫通孔52fと、それぞれ繋がっている。そのため、遅角室42、第1凹部85、第2凹部86にある作動油は、主排出流路52bから第3貫通孔52gを通って、弁開閉時期制御装置10の外部に排出される。すなわち、進角流路43とロック排出流路46は共にドレン状態である。ロック解除流路45は依然として第1環状溝52cに繋がっているが、上述したように、第1環状溝52cは第3貫通孔47fと繋がっていないため、ロック解除流路45には作動油の供給も排出も行われない。すなわち、ロック解除流路45は閉状態である。ただし、ロック排出流路46が第2貫通孔52fと繋がっているため、第1凹部85、第2凹部86にある作動油は、ロック排出流路46を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出される。
【0054】
突出部21が中間ロック位相Pよりも進角方向S1の側にあるときにOCV51が上記W5の状態に制御されると、内部ロータ2は遅角方向S2に変化して、相対回転位相が中間ロック位相Pになった時に第1ロック部材81と第1凹部85、第2ロック部材83と第2凹部86がそれぞれ嵌合し、ロック状態となる。これは、「遅角作動による中間ロック位相Pへのロック」に相当する。なお、「電磁ソレノイド54への給電量を最大にする」場合とは、W5の状態を維持する範囲で給電量を最大から下げて給電を行う場合も含むものとする。
【0055】
以上のように構成した弁開閉時期制御装置10においては、突出部21が中間ロック位相Pよりも遅角方向S2の側にあるときに内部ロータ2を進角方向S1に変化させて中間ロック位相Pでロック状態にすることも、突出部21が中間ロック位相Pよりも進角方向S1の側にあるときに内部ロータ2を遅角方向S2に変化させて中間ロック位相Pでロック状態にすることも可能になる。従って、突出部21の位置に関わらず、短時間で中間ロック位相Pでのロック状態を実現することができる。
【0056】
本実施形態においては、ロック解除流路45とロック排出流路46の両方が、第1凹部85の深い溝と第2凹部86の深い溝のそれぞれの底面に接続されている。そして、給電量が0であるW1の状態では、作動油はロック解除流路45とロック排出流路46の両方を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されるので、従前のロック解除流路45だけを備えた弁開閉時期制御装置10と比較して、第1凹部85と第2凹部86にある作動油を短時間で排出することができる。そのため、相対回転位相を短時間で変化させても確実に中間ロック位相Pでロック状態を実現することができる。
【0057】
突出部21が中間ロック位相Pよりも遅角方向S2の側にあるときにエンジンEがストールすると、カム平均トルクは相対回転位相が遅角方向S2になるように発生することから、相対回転位相は遅角方向S2に向かって最遅角位相近傍まで変化する。進角方向S1に向かって変化して、中間ロック位相Pに到達することはほとんどない。このように、相対回転位相が最遅角位相近傍にある状態で放置した後にエンジンEを再始動する場合には、カム変動トルクにより相対回転位相を中間ロック位相Pまで変化させてロック状態にすることが必要であり、確実にロック状態にするためには第1凹部85と第2凹部86に残存している作動油を短時間で排出する必要がある。弁開閉時期制御装置10においては、給電量が0で作動油が第1凹部85と第2凹部86の両方を流通して外部に排出されるので、エンジンEの再始動時における排出流路の断面積を従前の構造と比較して大きくすることができ、短時間で作動油を排出することができる。これにより、エンジンEの再始動時の中間ロック位相Pでのロック状態を確実に実現することができる。特に、マイナス20℃のような低温下でエンジンEの再始動を行う場合には、作動油の粘性が大きく排出されにくいため、給電量が0で排出流路の断面積を大きくすることができる弁開閉時期制御装置10の構造は特に望ましい。
【0058】
本実施形態において、W5の状態で中間ロック位相Pのロック状態にある時にエンジンEのイグニッションをオフにした場合、オイルポンプ62から吐出される作動油の油圧は低下して最終的に0になる。イグニッションのオフと同時に電磁ソレノイド54への給電量を最大から0にすると、第1スプリング53aの付勢力により、OCV51はW5の状態からW1の状態へと変化する。この変化過程におけるW2、W3、W4の状態にあるときに、作動油がロック解除流路45を通って第1凹部85と第2凹部86に供給されるので、オイルポンプ62から吐出される作動油の油圧が十分に低下していないと、第1ロック部材81と第2ロック部材83に第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力を上回る油圧が作用し、ロック解除状態になるおそれがある。
【0059】
このような意図しないロック解除状態に至るのを避けるために、電磁ソレノイド54の給電量を最大から0にするのは、イグニッションオフと同時ではなく、第1ロック部材81と第2ロック部材83に作用する油圧が第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力以下に低下してから後に実行することが望ましい。このような制御を行うことにより、イグニッションオフの前のロック状態をイグニッションオフの後も維持することができ、最適な給排気弁の開閉時期を実現する相対回転位相である中間ロック位相Pにロックされた状態で次回のエンジンEの始動を行うことができる。その結果、スムーズにエンジンEを始動させることができる。なお、第1ロック部材81と第2ロック部材83に作用する油圧が第1スプリング82、第2スプリング84の付勢力以下に低下したことを判断するのは、油圧センサによる作動油の油圧の検出や、イグニッションオフ後の所定時間の経過など、任意の方法を採ることができる。
【0060】
2.第1実施形態の変形例
次に、第1実施形態の変形例について、図面を用いて説明する。本変形例においては、ロック排出流路46の構成が第1実施形態とは異なっており、その他の構造は同じである。よって、本変形例の説明においては、第1実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付し、同様の構成に関する説明は省略する。
【0061】
図9に示すように、本変形例に係る弁開閉時期制御装置10においては、ロック排出流路46の第2貫通孔46bはロック解除流路45の第2貫通孔45bに接続されており、第1凹部85、第2凹部86に接続されていない。このような構造であっても、第1実施形態の弁開閉時期制御装置10と同じ効果を得ることができる。特に、第2貫通孔46bが接続された箇所から第1凹部85、第2凹部86までの第2貫通孔45bの断面積を、第2貫通孔46bの接続前の第2貫通孔45bの断面積と第2貫通孔46bの断面積の合計に拡大することにより、エンジンEのストール後の再始動時における作動油の排出性も同等にすることができる。
【0062】
上記の実施形態と変形例においては、給電量が0の場合に、進角流路43が供給状態で、遅角流路44、ロック解除流路45、ロック排出流路46がドレン状態であったが、この構造に限られるものではない。進角流路43と遅角流路44の配置を逆にすることにより、給電量が0の場合に、遅角流路44が供給状態で、進角流路43、ロック解除流路45、ロック排出流路46がドレン状態となる構成を得ることができる。このような構成にすることにより、突出部21が中間ロック位相Pよりも進角方向S1の側にあるときにエンジンEがストールした場合にでも、給電量が0で作動油が第1凹部85と第2凹部86の両方を流通して弁開閉時期制御装置10の外部に排出されるので、エンジンEの再始動時における排出流路の断面積を従前の構造と比較して大きくすることができ、短時間で作動油を排出することができる。
【0063】
上記の実施形態と変形例においては、第1ロック部材81と第2ロック部材83はいずれも径方向に移動するように構成されていたが、これだけに限られるものではない。第1ロック部材81と第2ロック部材83が軸心Xに沿う方向に移動するように中間ロック機構8が構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 ハウジング(駆動側回転体)
2 内部ロータ(従動側回転体)
4 流体圧室
8 中間ロック機構
10 弁開閉時期制御装置
45 ロック解除流路
46 ロック排出流路
51 OCV(電磁弁)
101 カムシャフト
C クランクシャフト(駆動軸)
E エンジン(内燃機関)
P 中間ロック位相
X 軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9