(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979133
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】相乗的な非平衡アルデヒド殺生物剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/02 20060101AFI20160817BHJP
A01N 35/04 20060101ALI20160817BHJP
A01N 43/24 20060101ALI20160817BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20160817BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20160817BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
A01N25/02
A01N35/04
A01N43/24
A01P3/00
A01N25/30
A61L2/18
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-506413(P2013-506413)
(86)(22)【出願日】2011年4月27日
(65)【公表番号】特表2013-525378(P2013-525378A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】AU2011000472
(87)【国際公開番号】WO2011134005
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年4月17日
(31)【優先権主張番号】2010901760
(32)【優先日】2010年4月27日
(33)【優先権主張国】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509268624
【氏名又は名称】ホワイトリー コーポレイション ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】グラスビー, トレヴァー, オーウェン
(72)【発明者】
【氏名】プロバート, グレイム, デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトリー, グレゴリー, スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトリー, レジナルド, キース
【審査官】
中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】
特表平07−500311(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/116271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.o−フタルアルデヒドと、
b.ポリオールと、
c.前記o−フタルアルデヒドと前記o−フタルアルデヒド1モルに対して2〜20モルの前記ポリオールとの反応により形成された1種又は複数種のアセタール誘導体と、
d.アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の一般的部類から選択される1種又は複数種の界面活性剤と、
e.リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、及びクエン酸からなる群から選択される1種又は複数種のpH緩衝剤と、
を含み、
前記アセタールは、前記d成分及びe成分を添加する前にo−フタルアルデヒドと前記ポリオールとが酸性条件下で反応したものである、消毒剤溶液。
【請求項2】
ポリオールが、ジオールである、請求項1に記載の消毒剤溶液。
【請求項3】
ジオールが、1,2−ジオールである、請求項2に記載の消毒剤溶液。
【請求項4】
ジオールが、1,3−ジオールである、請求項2に記載の消毒剤溶液。
【請求項5】
ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルグリコール、及びシクロへキサンジオールからなる群から選択される、請求項1に記載の消毒剤溶液。
【請求項6】
ポリオールが、プロピレングリコール、ブチルグリコール、及びシクロへキサンジオールからなる群から選択される、請求項1に記載の消毒剤溶液。
【請求項7】
モノアセタール及びジアセタールの両方が、o−フタルアルデヒドと前記ジオールとの間の酸触媒反応によって生成される、請求項2〜4のいずれか一項に記載の消毒剤溶液。
【請求項8】
溶液のpHが、pH7.0〜pH10.0の間に保持される、請求項7に記載の消毒剤溶液。
【請求項9】
遊離o−フタルアルデヒドとアセタール誘導体とのモル比率が、非平衡比率で保持される、請求項7に記載の消毒剤溶液。
【請求項10】
pH3での滴定により得られたo−フタルアルデヒドの分析値が、中性条件下での気−液クロマトグラフィーにより得られたo−フタルアルデヒドの分析値よりも大きい、請求項1〜9のいずれか一項に記載の消毒剤溶液。
【請求項11】
アセタール誘導体を含有しない溶液よりも、マイコバクテリアの高いログリダクションを示す、請求項8に記載の消毒剤溶液。
【請求項12】
pH3での滴定により得られたo−フタルアルデヒドの分析値と中性条件下での気−液クロマトグラフィーにより得られたo−フタルアルデヒドの分析値とが等しい溶液よりも、マイコバクテリアの高いログリダクションを示す、請求項8に記載の消毒剤溶液。
【請求項13】
着色剤、消泡剤、腐食防止剤、第2の殺生物剤、及びキレート剤からなる群から選択される、任意選択の1つ又は複数の成分を含有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の消毒剤溶液。
【請求項14】
消毒剤溶液を製造する方法であって、
前記消毒剤溶液が、
a.o−フタルアルデヒドと、
b.ポリオールと、
c.前記o−フタルアルデヒドと前記o−フタルアルデヒド1モルに対して2〜20モルの前記ポリオールとの反応により形成された1種又は複数種のアセタール誘導体と、
d.アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の一般的部類から選択される1種又は複数種の界面活性剤と、
e.リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、及びクエン酸からなる群から選択される1種又は複数種のpH緩衝剤と、を含み、
残りの成分を添加する前に、前記o−フタルアルデヒドが前記ポリオールと酸性条件下で反応する、方法。
【請求項15】
前記o−フタルアルデヒドと前記ポリオールとの混合物に酸が添加される、請求項14に記載の消毒剤溶液を製造する方法。
【請求項16】
o−フタルアルデヒドに対するポリオールのモル比が、2〜5の間に調整される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリオールと前記o−フタルアルデヒドとの酸性溶液が、前記o−フタルアルデヒドの水溶液に添加される、請求項14に記載の消毒剤溶液を製造する方法。
【請求項18】
熱に敏感な医療機器を消毒及び/又は滅菌する方法であって、消毒剤溶液で、前記医療機器を処理することを含み、
前記消毒剤溶液が、
a.o−フタルアルデヒドと、
b.ポリオールと、
c.前記o−フタルアルデヒドと前記o−フタルアルデヒド1モルに対して2〜20モルの前記ポリオールとの反応により形成された1種又は複数種のアセタール誘導体と、
d.アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の一般的部類から選択される1種又は複数種の界面活性剤と、
e.リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、及びクエン酸からなる群から選択される1種又は複数種のpH緩衝剤と、を含み、
前記アセタールは、前記d成分及びe成分を添加する前にo−フタルアルデヒドと前記ポリオールとが酸性条件下で反応したものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
オルトフタルアルデヒド(OPA)は、1990年11月20日に、米国特許第4,971,999号が公開された後、重要な化学的な高水準消毒剤(chemical high level disinfectant)となった。それ以来、OPAは、内視鏡及び再使用可能な金属製手術器具の消毒に有効な、一般に認められ、且つ広く器具を消毒する化学物質となっている。現在、OPAは、すぐに使用できる0.3又は0.5%w/wの緩衝された水溶液として、各国で販売されている。OPAは、いくつかのモデルのものが利用可能である全閉型の洗浄消毒機(totally enclosed washer−disinfector machine)において、主に使用されている。
【0002】
OPAは、内視鏡を消毒することが同様に意図された、グルタルアルデヒド又は過酢酸を主体とする化学滅菌剤と競合して販売されている。各化学タイプの製剤は、それが、通常のプロセスサイクルにおいて殺滅する(又は永久に不活化する)ことになる微生物に対する有効スペクトル、化学的危害、金属及び外科用プラスチックへの腐食性、包装製品としての化学的安定性、及び最も重要なこととして、使用の経済性に関して、独特の特性を有する。
【0003】
これらの代替的化学滅菌剤のうち、過酢酸は、最も腐食性で、有毒で、高価であるが、より優れた抗菌スペクトル(anti−microbial spectrum)を有する。
【0004】
OPAは、低い蒸気濃度で無臭でありつつ、それでも極めて有毒であり、非常に優れた抗菌スペクトルを有するが、殺芽胞活性(sporicidal activity)が弱いという重大な制限を有する。
【0005】
グルタルアルデヒドは、二液性アルカリ活性化溶液(two part alkali activated solution)として使用される場合、臭いが強烈で、独特で、刺激的であるという使用上の問題を有する。米国特許第4,748,279号で保護されている、より広く使用されているグルタルアルデヒド製剤は、グリコール及び非イオン界面活性剤と共に複合体を形成した、グルタルアルデヒドを含有する。そのグルタルアルデヒド製剤は、臭いをあまり放たず、且つ殺生物スペクトル(biocidal spectrum)が改善されている。OPAのように、そのグルタルアルデヒド製剤は、非常に優れた抗菌スペクトルを有し、その群の中で、飛び抜けて経済的でフレキシブル(flexile)である。密閉型処理装置において、推奨された使用法で用いられた場合、各群の化学物質は、使用上の危険を引き起こすことはない。
【0006】
ほんのわずかしか水に溶けないOPAは、0.3又は0.5パーセントw/wの活性物質を含有するものとして販売されている単純な水溶液を含む、化学消毒剤として現在製造されている。その溶液は、OPAが、殺生物剤(biocide)として最も有効であり、摂氏15〜30度の温度で、数か月間化学的に安定なままであるpH7〜8に緩衝される。
【0007】
Johnson&Johnsonによる、シデックス(CIDEX)0.5%OPAという商品の一般的な殺生物特性は、Alfa M Jらによる研究論文、「In hospital evaluation of orthophthaldehyde as a high level disinfectant for endoscopes.」J.Hospital Infection(1994)26、15〜26において、十分に検討されている。
【0008】
水中で、OPAは、他のジアルデヒドのように、いくつかの水和物の平衡混合物を形成し、その特性は、pHに強く影響される。OPA水溶液の化学は、Zhu P Cら、「Solvent or Matrix mediated Molecular Switches in Lipophilic dialdehyde(OPA)and the Ampholytic 1,3−phthaladiol and OPA Disinfection Machanism」Current Organic Chemistry、2005、1155〜1166により十分に説明されている。カルボニル基上の水和物は、濃度、温度及びpHに応じて、分解してOPAと1,3−フタランジオール(phthalandiol)との平衡混合物を形成する。
【0009】
この機構は、0.3及び0.5%w/w希薄水溶液として与えられた場合、OPAの殺生物性の制限として例示されるが、その殺生物作用は、制限されたpH範囲内の平衡混合物に応じて、親油性又は両親媒性のいずれかである。
【0010】
希薄(0.5%)OPA水溶液の重要な特徴は、医療用洗浄剤で一般に見出される種類の界面活性剤の存在に敏感なことである。希薄(0.5%)水溶液のOPAと1,3−フタランジオールとの平衡混合物の存在は、ほとんどの部類の界面活性剤と混合された場合、分子OPA(及びそれの水性誘導体)がミセル中に取り込まれるために、重大な影響を受ける。これは、微生物の潜在的に反応性の表面構成成分に対するOPA(及びその誘導体)の利用度(availability)及び反応性を制限するものであり、器具がOPAにさらされる前に、一次洗浄用(pre−cleaning)洗浄剤が十分に除去されていないことが実際に多い洗浄消毒機において、希薄OPAを用いる場合、重要な問題となる。
【0011】
包装された希薄OPAの使用上の他の重大な欠点は、保管条件に敏感なこと、及び、すぐに使用できる製品としての、使用者に対するコストの両方である。
【0012】
最近の研究は、改良されたOPA製剤が、これらの後者の欠点を克服できると同時に、内視鏡及び金属製手術器具の自動洗浄及び消毒に非常に必要とされる要件である、改善された殺生物スペクトルをもたらすことを明確に示している。
【0013】
OPAを化学消毒剤として使用する問題の大部分を克服することが、R K Whiteleyらへの近年の国際特許WO2008/116271Aの基礎であった。その特許は、(OPAを含めた)少なくとも1つのモノ又はジアルデヒド、少なくとも1つのグリコール若しくはポリオール又はそれらの誘導体、非イオン性の第1の界面活性剤、30〜50℃の範囲の曇り点を有し、第2の界面活性剤が四級化合物である、組成物を記載した。
【0014】
アルデヒドが、アルコールと反応してアセタールを生成できることは、よく理解されている。1,2−ジオール又は1,3ジオールの場合では、アルデヒドとの反応により、全体的に非環状アセタールよりも安定である傾向がある環状アセタールが生成されることとなる。
【0015】
これは、平衡プロセスであるので、モル大過剰のアルコールでは、アセタールの生成が促されるであろうが、モル大過剰の水の存在下では、平衡は、遊離アルデヒドの生成を促すであろう(
図1参照)。酸の非存在下では、この平衡プロセスは、抑制されるであろう。
【0016】
OPAなどのジアルデヒドの場合では、酸触媒条件下で、一連のより複雑な平衡が確立でき、遊離アルデヒドと、モノアセタール及びジアセタール誘導体との平衡混合物がもたらされる。その混合物が、ヘミアセタールを含有することも可能である。
【0017】
アルデヒド系消毒液からのアセタールの形成は、以前から説明され、グルタルアルデヒド系消毒剤の臭いを抑制する手段として利用されている。例えば、豪州特許第562017号は、殺生物組成物を記載し、そこでは、グルタルアルデヒドを、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールなどの多価アルコールと反応させて、臭いが弱まった殺生物組成物を形成させる。豪州特許第562017号で提示された試験データから、アセタール含有製剤の殺生物活性は、グルタルアルデヒド自体の殺生物活性と類似した。しかし、豪州特許第562017号に記載されている製剤は、7より低いpH値を有しており、そのため、記載された製造物は、平衡混合物として存在したであろうことに注意すべきである。
【0018】
遊離OPAの水溶液を得る手段としてではあるが、OPAのアセタールの使用も例示されており、例えば、米国特許第5,872,153号は、OPA−グルタルアルデヒド消毒組成物の製造方法を記載し、そこでは、OPAアセタールが、グルタルアルデヒドの水溶液に添加され、その混合物が、減圧下で蒸留され、アセタールから遊離したアルコールが除去される。最終の殺生物混合物が、遊離OPAとグルタルアルデヒドとの混合物であるので、OPAアセタールに起因する任意の殺生物効力を示唆するデータがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,971,999号
【特許文献2】国際公開第2008/116271号公報
【特許文献3】豪州特許第562017号
【特許文献4】米国特許第5,872,153号
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】アセタールを生成する、アルデヒドとアルコールとの反応を示す略図である。
【
図2】モノアセタール及びジアセタールを生成する、OPAとプロピレングリコールとの反応を示す図である。
【
図3】実施例1から得られたHPLCトレースである。
【
図4】実施例2から得られたHPLCトレースである。
【
図5】実施例3から得られたHPLCトレースである。
【
図6】
図6は、最終消毒剤溶液中の遊離OPA、OPAモノアセタール及びOPAジアセタールのレベルを調節することができるプロセスの流れを、概略的に示す。
【0021】
[発明の説明]
第1の態様によれば、本発明は、ジアルデヒドと、ジアルデヒドのモノ及びジアセタール誘導体の非平衡混合物(non−equilibrium mixture)との相乗的混合物(synergistic mixture)に基づく高水準の消毒剤又は滅菌剤を提供する。第2の態様では、本発明は、OPAと、マイコバクテリウム・テラエ(Mycobacterium Terrae)などのマイコバクテリウムに対して特に有効である、OPAモノ及びジアセタール誘導体との相乗的ブレンド(synergistic blend)を製造する手段を提供する。
【0022】
OPAに基づく消毒剤溶液は、軟性内視鏡(flexible endoscope)などの熱に敏感な医療機器の高水準の消毒及び/又は滅菌用に市販されている。高水準消毒剤として分類されるためには、米国食品医薬品局(US Food and Drugs Administration)(FDA)及び豪州政府薬品医薬品行政局(Australian Therapeutic Goods Agency)(TGA)などのほとんどの規制機関により、その溶液は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(E.coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの細菌種、及びM.テラエなどのマイコバクテリア(mycobacterium)を含む、細菌、マイコバクテリア属の種、一連のウイルス、真菌、及び好気性と嫌気性の芽胞形成細菌(spore forming bacteria)の両方を含めた一団の生物に対して、最低でも6logの減少(log reduction)を達成することが要求される。消毒剤の試験は、活性成分の最小有効濃度(minimum effective concentration、MEC)として行われる。そして、要求される6ログリダクション(log reduction)を達成するのに必要とされる時間は、消毒剤と消毒すべき機器との最短の推奨接触時間として使用される。
【0023】
高水準消毒剤にとって最も厄介な生物は、一般に、マイコバクテリアである。なぜなら、これらの生物は、化学消毒剤に対する該細菌の感受性を低下させる蝋質の外膜を有するからである。
【0024】
1つの市販の消毒剤、すなわち、シデックスOPA(Johnson and Johnsonにより製造されている)は、MECが、0.3%OPAであり、最短の高水準消毒時間(minimum high level disinfection time)が、用手消毒の場合、20℃で、10分であり、内視鏡自動洗浄装置(automatic endoscope reprocessor)において使用される場合、25℃で、5分であった。
【0025】
特定の内視鏡を、1日の間に数回使用することが必要となり得ること、及び各使用前に、前記内視鏡の高水準消毒が必要とされることを考えれば、最短の可能時間で確実な消毒を実現する明らかな必要性がある。また、消毒剤を設定温度で加熱し、維持する必要性が回避されるため、必要とされる消毒をより低い温度で実現できる任意の解決法に対して、明らかな市場的な利点もある。
【0026】
アルデヒドと、ポリオールと、アルデヒド及びポリオールの対応するモノ及びジアセタール反応生成物とを含む消毒水溶液は、アセタール種が存在しない消毒剤溶液と比較すると、マイコバクテリアに対する効力の顕著な増大を示すことが、本発明者らによって発見された。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、アルデヒドは、芳香族アルデヒドであり、特に好ましい実施形態では、アルデヒドは、芳香族ジアルデヒドである。
【0028】
最も好ましいのは、アルデヒドが、o−フタルアルデヒド(OPA)である場合である。最終消毒剤溶液のアルデヒド含有率は、0.2%w/v〜5%w/vの間となるであろう。
【0029】
ポリオールは、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチルグリコール、1,3−ブチルグリコール、1,4−ブチルグリコール、1,2−シクロプロパンジオール、1,2−シクロヘキサンジオールを含む非限定的リストから選択することができる。好ましい実施形態では、ポリオールは、1,2−ジオール又は1,3−ジオールとすべきであり、非常に好ましい実施形態では、ポリオールは、1,2−ジオールとすべきである。最も好ましいのは、1,2−プロパンジオール(以下、プロピレングリコール又はPGと呼ぶ)である。最終消毒剤溶液内のポリオールに対するアルデヒドのモル比は、好ましくは2〜20の間、より好ましくは、10〜20の間である。
【0030】
好ましくは、消毒剤溶液は、界面活性剤も含有することとなろう。これらの界面活性剤は、非イオン性、アニオン性、カチオン性、又は双性イオン性でもよい。好ましくは、界面活性剤は、本出願人らの同時係属出願WO2008116271に開示されているように、非イオン性であろう。
【0031】
好ましい実施形態では、アルデヒドは、微量の酸と共に、過剰のポリオールに溶解され、混合物は、穏やかに温められ、アルデヒドと、ポリオールと、アルデヒド及びポリオールから誘導されたアセタールとを含む混合物を形成する。次いで、混合物は、緩衝塩、界面活性剤、及び場合によっては、腐食防止剤、消泡剤、着色剤などの他の成分を含有する、水溶液に添加される。
【0032】
好ましくは、消毒剤溶液のpHは、7.00〜10.00の間、より好ましくは7.00〜8.00の間に保持されるであろう。pHは、これらに限定されないが、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムから選択される、1種又は複数の緩衝剤によって制御される。当業者は、他の塩も同様に適することも認識されよう。
【0033】
より好ましい実施形態では、アルデヒドは、ポリオールに溶解され、溶液は、リン酸などの酸で処理され、次いで、30〜50℃の間に加熱される。そして、アセタール誘導体の混合物を含有する得られた溶液は、水と、遊離アルデヒドと、緩衝塩と界面活性剤とを含む溶液に、少量の遊離アルデヒドと共に添加される。
【0034】
溶液はまた、着色剤、消泡剤、腐食防止剤及びキレート剤などの任意選択の他の成分を含有することもできる。第2の殺菌剤(biocide)も、その製剤に組み込むことができる。第2の殺生物剤の非限定的な例としては、トリクロサン、o−フェニルフェノールなどのフェノール誘導体、塩化ベンザルコニウムなどの四級アンモニウム殺生物剤、ポリヘキサメチレンビグアニドなどがある。
【0035】
実施例1
プロピレングリコール(46.0)を、ビーカーに入れて、30℃〜40℃の間に温め、撹拌しながらOPA(5.75g)を添加した。OPAがすべて溶解するまで、この温度で混合物を撹拌した。次いで、溶液を、室温に冷却させて、その後、一晩静置した。プロピレングリコール中に存在する微量の酢酸により、酸触媒作用がもたらされた。
【0036】
その一方で、リン酸二ナトリウム(11.34g)及びリン酸一ナトリウム(0.96g)の脱イオン水(918.77g)溶液を調製した。この溶液に、ネオドール91−6(Neodol91−6)(21.56g)及びプルロニック(Pluronic)PE6200(7.19g)を添加し、混合物を、均一になるまで撹拌した。次いで、OPAプロピレングリコール溶液を添加した。得られた溶液の分析は、0.307%w/vのOPA濃度を示した。次いで、追加の3.35gのOPAを添加し、溶解するまで、混合物を撹拌した。滴定による分析は、0.575%w/vのOPA濃度を示した。最終製造物のpHは、7.80であった。
【0037】
実施例2
ネオドール91−6(21.56g)とプルロニックPE6200(7.19g)との混合物に、OPA(5.75g)を添加した。OPAが完全に溶解するまで、室温で、混合物を撹拌した(3時間)。
【0038】
その一方で、リン酸二ナトリウム(11.34g)、リン酸一ナトリウム(0.96g)及びプロピレングリコール(46.0g)の脱イオン水(918.77g)溶液を調製した。この溶液に、界面活性剤−OPA溶液を添加した。混合物を、均一になるまで撹拌した。得られた溶液の分析は、0.575%w/vのOPA濃度を示した。溶液のpHは、7.82であった。
【0039】
消毒剤の両サンプルは、滴定によって分析した場合、OPAの濃度が同じであることが分かった。しかし、GLCで分析した場合、OPA濃度の顕著な違いが見られた(表1参照)。
【0040】
【表1】
【0041】
GLC分析は、本質的に中性の条件下で行う(分析サンプルのpHは7.8であった)が、滴定は、酸性条件下で行う(pH3:方法の詳細な説明については、以下を参照)ので、したがって、サンプル1は、酸に不安定な物質を含有する可能性が高い。
【0042】
HPLCによる定性分析を受けたとき、実施例1では、実施例2に存在しなかった追加のピークが見られた(
図3及び4参照)。
【0043】
LC−MS分析は、保持時間4分でのピークに、分子量192があり、5分でのピークに、分子量250があることを示した。これらの分子量は、それぞれ、OPAモノアセタール及びOPAジアセタールと一致する(
図2参照)。
【0044】
したがって、サンプル1の滴定分析とGLC分析との間で見られた違いは、サンプル内のOPAモノアセタールの存在によるものである可能性が高い。サンプルを酸性化する時に、追加のOPAが放出されることを考えれば、OPA及びアセタールは、溶液のpHが7を超えるため、非平衡溶液中に存在することが明らかである。
【0045】
酸性化(したがって、酸触媒の添加)時、OPA及びアセタールの濃度は、大過剰の水の存在下では遊離OPA及びプロピレングリコールの側にある、平衡位置に移動する。
【0046】
したがって、所期の重量測定濃度と滴定された濃度との間の違いは、ジアセタールによるものである可能性が高い。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ジアセタール誘導体は、水に難溶性であり、したがって、消毒剤内の界面活性剤により形成されたミセル内に限定的に存在し得る可能性が最も高い。ミセルは、ジアセタールを隔離し、水性の酸による加水分解を妨げると思われる。
【0047】
殺生物性能の比較
豪州政府薬品医薬品行政局のTherapeutic Goods Order No.54(TGO54)の消毒剤に関する性能基準(performance standards for disinfectants)に記載されているOption B試験を使用して、サンプル1とサンプル2の両方を、4種の微生物の一団に対するそれらの殺生物性能(biocidal property)について評価した。Option Bテストの場合において、2つの濃度、すなわち、水による1:1希釈物、及び水での1:3希釈物を評価した。
【0048】
AOAC試験法を使用して、サンプルを、マイコバクテリウム・テラエに対しても試験した。M.テラエに対する試験においては、サンプルを希釈し、OPA濃度を0.3%にした。
【0049】
TGO54 Option Bテスト(50%希釈物)
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
上述の殺生物効力の結果に見られるように、実施例1の消毒剤は、4種の生物の一団に対するOption B試験において、実施例2の消毒剤と同程度の性能を示す(表2〜5)一方で、M.テラエに対する試験の場合、実施例2と比較して、実施例1の殺生物活性の明白で明瞭な向上がある(表6)。
【0056】
したがって、実施例1中のアセタール誘導体の存在が、マイコバクテリアに対して、遊離OPAと相乗的に作用することが明らかである。
【0057】
実施例1のOPA−プロピレングリコール予混合物(premix)に存在するアセタール誘導体の量は、いくつかの手段で調節することができる。
【0058】
第一に、予混合物を溶解する温度を上昇させることによって、最終製造物内のアセタール誘導体の相対量が増加するであろう。
【0059】
第二に、OPA−プロピレングリコール予混合物の作成と、残りの成分へのその添加との間の時間を長くすれば、形成されるアセタール誘導体の量が増加するであろう。
【0060】
最後に、酸性度の増大は、アセタール誘導体の形成を促すであろう。このことを、実施例3に例示する。
【0061】
実施例3
プロピレングリコール(46.0)をビーカーに入れて、30℃〜40℃の間に温め、85%リン酸(0.40g)を添加した。次いで、撹拌しながら、OPA(5.75g)を添加した。OPAがすべて溶解するまで、混合物を、この温度で撹拌した。次いで、溶液を、室温に冷却させて、その後、一晩静置した。
【0062】
その一方で、リン酸二ナトリウム(11.92g)の脱イオン水(918.77g)溶液を調製した。この溶液に、ネオドール91−6(21.56g)及びプルロニックPE6200(7.19g)を添加し、混合物を、均一になるまで撹拌した。次いで、OPAプロピレングリコール溶液を添加した。得られた溶液の分析は、0.146%w/vのOPA濃度を示した。最終製造物のpHは、7.80であった。
【0063】
表7に見られるように、実施例2は、検出可能なアセタール誘導体を含有していない。プロピレングリコールを意図的に酸性化させてから、OPAを添加すること(実施例3)によって、モノ及びジアセタール誘導体の両方のレベルが増大すると共に、モノアセタールと比較して、ジアセタールのレベルが相対的に増大する。
【0064】
【表7】
【0065】
ジアセタールに対するモノアセタールの比率は、プロピレングリコールに対するOPAの初期比率によって調節することができる。実施例1及び3では、OPAに対するプロピレングリコールのモル比が、14.7である。モル比の減少は、ジアセタールよりもモノアセタールの生成を促す傾向があり、したがって、最終製造物の組成をある程度調節することを可能にするであろう。
【0066】
したがって、最終消毒剤溶液中の遊離OPA、OPAモノアセタール及びOPAジアセタールのレベルは、調節することができる。プロセスの流れを、
図6に概略的に示す。
【0067】
ステップ1
初めに、プロピレングリコールを85%
リン酸で酸性化させ、OPAを添加する。混合物を穏やかに温め、OPAがすべて溶解するまで撹拌する。最終製造物において、モノ及びジアセタールが所望のモル比になるように、プロピレングリコール:OPAのモル比を選択することができる。得られた溶液は、溶液中で未反応のままの残っているOPAの量を評価するために、GLCによって分析することができる。
【0068】
ステップ2
第2の混合容器中で、各界面活性剤を混合し、OPAを添加する。添加すべきOPAの量は、所望の最終OPA含有量から、プロピレングリコール−OPA溶液中に残る遊離OPAの量を差し引いたものに等しくなろう。OPAがすべて溶解するまで、界面活性剤/OPA混合物を撹拌する。
【0069】
ステップ3
ステップ2からのOPA−界面活性剤混合物を、リン酸二ナトリウム水溶液に添加する。ステップ1においてプロピレングリコールにリン酸を添加することを考慮し、リン酸二ナトリウムの量を、最終消毒剤溶液においてpHが7.5〜8.0の間になるように計算する。
【0070】
ステップ4
ステップ1からのOPAプロピレングリコール溶液を、ステップ3で作製した溶液に添加し、均一になるまで撹拌する。
【0071】
ステップ5
着色剤、消泡剤、腐食防止剤、キレート剤などの任意の他の成分を、任意の追加のプロピレングリコールと共に、ステップ4の溶液に添加する。
【0072】
最終消毒剤溶液は、すぐにボトルに入れられる状態である。
【0073】
アセタール誘導体はまた、溶媒抽出により、場合によっては、それに続いてカラムクロマトグラフィーにより単離し、(実施例2に記述したものなどの)アセタール非含有消毒剤溶液に添加することもできる。単離の手順を、実施例4に例示する。
【0074】
実施例4
プロピレングリコール(46.0)を、ビーカーに入れて、30℃〜40℃の間に温め、85%リン酸(0.40g)を添加した。次いで、撹拌しながら、OPA(5.75g)を添加した。OPAがすべて溶解するまで、混合物を、この温度で撹拌した。次いで、溶液を、室温に冷却させて、その後、一晩静置した。
【0075】
次いで、得られた溶液を分液漏斗に注ぎ、炭酸ナトリウム(sodium carbonate)水溶液(100ml)を、100mlのジクロロメタンと共に添加する。混合物を振とうし、その後、そのまま静置する。次いで、下の有機層を取り出し、水層を、ジクロロメタン(50ml)でさらに2回抽出した。
【0076】
有機抽出物を混合し、水(2×100ml)で洗浄し、続いてブラインで洗浄した。次いで、有機層を、硫酸マグネシウムで乾燥させて、溶媒を除去すると、わら色の流動性のある液体が得られる。この液体のHPLCは、その液体が、少量の遊離OPAと共に、OPAのモノ及びジアセタール誘導体を主に含有することを示す。
【0077】
ヘキサンと酢酸エチルとの混合物で溶出する、アルミナ上のクロマトグラフィーにより、遊離OPA、モノアセタール誘導体、及びジアセタール誘導体の分離が可能になる。
【0078】
試験方法
滴定によるOPA分析(OPA assay)
10%塩酸ヒドロキシルアミン溶液を用意し、そのpHを、0.1M水酸化ナトリウム溶液の添加によって、3.00に調整した。
【0079】
20gの0.55%OPA溶液を150mlビーカーに正確に量り取り、脱イオン水で100mlに希釈する。次いで、得られた溶液のpHを、塩酸の添加によって、3.00に調整する。この溶液に、水酸化ナトリウム溶液でpHを3.00に調整した、20mlの10%塩酸ヒドロキシルアミン溶液を添加する。
【0080】
混合物を、少なくとも5分間撹拌し、次いで、0.1M水酸化ナトリウム溶液で滴定して、pHを3.00にする。
【0081】
次いで、OPAの濃度は、
%OPA=[v
*N
*67.05
*100/(WX1000)]
(ここで、v=NaOH滴定液のml
N=NaOHのモル濃度
W=グラム単位のサンプル重量
67.05=OPAの当量)
によって与えられる。
【0082】
GLCによるOPA
濃度が0.5%w/vである5mlの標準OPA溶液を、5mlの1%ベンジルアルコール水溶液と共に、ピペットでバイアルに入れる。ベンジルアルコールを、内部標準として添加する。得られた溶液を一定分量取り、12×32mmオートサンプラーバイアルに入れて、以下の条件を使用するGLCによって分析する:
カラム: Restek スタビルワックス(Stabilwax)30m×0.32
キャリアガス ヘリウム
カラム流速 2.17ml/分
注入口温度 200℃
スプリット比 46
FID温度 250℃
オーブン温度
初期温度 120℃
初期保持時間 0分
温度勾配(temperature ramp) 5℃/分
最終温度 220℃
最終保持時間 8分
【0083】
分析すべき5mlのOPA溶液を使用して、上述のことを繰り返す。未知のサンプルの濃度は、
%OPA=(WR
st×AR
unk×C
st)/(AR
st)
(ここでは、
AR
st=標準試薬におけるOPAと内部標準とのピーク面積比
AR
unk=試験サンプルにおけるOPAと内部標準とのピーク面積比
WR
st=標準試薬におけるOPAと内部標準との濃度比
C
st=内部標準溶液の濃度)
によって求める。
【0084】
HPLC
HPLC分析は、150×2mmのC18逆相カラムを使用し、アセトニトリル60%と10mMolリン酸緩衝液(pH6.0)水溶液40%との混合物で、0.2ml/分で溶出して行った。検出は、254nmに合わせたUV−可視検出器を使用して行った。
【0085】
LC−MSは、緩衝液を酢酸アンモニウムに変えたことを除いて、同じクロマトグラフィー条件を使用して行った。イオン化は、ESIプローブを使用して行った。
【0086】
定性GLC
GLC定性分析は、オーブンプログラムに追加の加熱段階を加えたことを除いて、OPA分析について説明した通りに行った。