特許第5979140号(P5979140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許59791403,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979140
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 13/28 20060101AFI20160817BHJP
   C07C 15/14 20060101ALI20160817BHJP
   C07C 2/74 20060101ALI20160817BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20160817BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20160817BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20160817BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160817BHJP
   B01J 29/08 20060101ALN20160817BHJP
   B01J 37/04 20060101ALN20160817BHJP
【FI】
   C07C13/28CSP
   C07C15/14
   C07C2/74
   C07C5/367
   B01J23/44 Z
   B01J23/46 301Z
   !C07B61/00 300
   !B01J29/08 Z
   !B01J37/04 101
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-515223(P2013-515223)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2012062792
(87)【国際公開番号】WO2012157749
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2015年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-111111(P2011-111111)
(32)【優先日】2011年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】山本 祥史
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 光
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−342644(JP,A)
【文献】 特開昭48−096566(JP,A)
【文献】 特開昭48−040753(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013469(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公告第1262491(GB,A)
【文献】 国際公開第2012/046857(WO,A1)
【文献】 特開2006−151946(JP,A)
【文献】 特開昭63−190853(JP,A)
【文献】 特開平2−115143(JP,A)
【文献】 特開昭61−106541(JP,A)
【文献】 特開昭55−141417(JP,A)
【文献】 特開昭48−54048(JP,A)
【文献】 特公平5−003857(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 13/28
B01J 23/44
B01J 23/46
C07C 2/74
C07C 5/367
C07C 15/14
B01J 29/08
B01J 37/04
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示されるo−ジアルキルベンゼンを水素と反応させて、ヒドロアルキル化させることにより、一般式(1)
【化3】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造する方法。
【請求項3】
o−ジアルキルベンゼンのヒドロアルキル化を、パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及びランタノイド金属を含有する固体酸触媒の存在下、o−ジアルキルベンゼンと水素とを反応させることによって行う請求項2記載の3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンの製造方法。
【請求項4】
一般式(1)
【化4】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを脱水素反応させることにより、一般式(3)
【化5】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを製造する方法。
【請求項5】
請求項2記載の方法により、前記一般式(2)で示されるo−ジアルキルベンゼンをヒドロアルキル化させて前記一般式(1)で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造した後、次いで、請求項4記載の方法により、これを脱水素反応させて前記一般式(3)で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを製造する方法。
【請求項6】
パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及び
ランタノイド金属を含有する固体酸触媒を含み、
請求項2記載の方法において使用されるものであるヒドロアルキル化反応用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン(以下、s−TACHBと称することもある)に関する。当該化合物は、例えば、3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを経由して、ポリイミドの原料となる3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(以下、s−BPTAと称することもある)及びその酸無水物(以下、s−BPDAと称することもある)に容易に誘導できる有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドの原料としては、ハロゲン化フタル酸類の脱ハロゲン二量化(例えば、特許文献1参照)や、3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル(s−TMBP)のメチル基の酸化(例えば、特許文献2参照)によって製造される3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸及びその酸無水物が広く知られている。
【0003】
前記3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル(s−TMBP)を製造する方法としては、例えば、塩化銅存在下、グリニャール試薬を用いてo−キシレンを二量化して製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。また、ビス(トリフルオロ酢酸)パラジウム、酢酸銅及びピリジン−2−カルボン酸の存在下、o−キシレンを二量化してTMBP(s−TMBPとa−TMBP(2,3,3’,4’−テトラメチルビフェニル)の混合物)を、特にはa−TMBPの選択性70モル%以上(s−TMBPの生成比(s/a)=30/70以下)で製造する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
一方、シクロヘキシルベンゼン骨格を有する化合物の製造方法としては、例えば、メソ多孔体を担体とする水添触媒と2族金属又は3族金属で修飾されている固体酸触媒とを含んでなるシクロヘキシルベンゼン製造用触媒の存在下、ベンゼンと水素とを反応させてシクロヘキシルベンゼンを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−3857号公報
【特許文献2】特開昭48−54048号公報
【特許文献3】特開昭61−22045号公報
【特許文献4】特許第3959602号公報
【特許文献5】特開2005−342644公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記、特許文献3記載の方法は、グリニャール試薬を用いなければならないため、反応が煩雑となるという問題がある。又、特許文献4記載の方法は、o−キシレンから簡易な方法でTMBPを製造できるものの、a−TMBPを選択的に製造することを目的とするものであり、s−TMBPの選択性については十分ではない。
【0007】
特許文献5には、シクロヘキシルベンゼンの製造方法が開示されているものの、o−キシレンのように置換基を有するベンゼンを出発原料として、置換基を有するシクロヘキシルベンゼン骨格の化合物を製造する場合において、数多くの副生成物(位置異性体)の中から目的物(例えば、3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン)のみを選択的に得る方法については全く考慮されておらず、容易に適用できるものではなかった。
【0008】
そのため、o−キシレン等のo−ジアルキルベンゼン(置換基を有するベンゼン)から、s−TMBP等の3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルへ容易に誘導可能な方法、及びその前駆体、あるいは中間体が求められていた。
【0009】
即ち、本発明の課題は、3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを経由して、ポリイミドの原料となる3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸及びその酸無水物に容易に誘導できる3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを提供することにある。
【0010】
本発明の課題は、又、単一の原料化合物であるo−ジアルキルベンゼンのみから、効率的且つ簡便な方法により、高い収率で高選択的に3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造する方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の事項に関する。
1. 一般式(1)
【0012】
【化1】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン。
2. 一般式(2)
【0013】
【化2】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示されるo−ジアルキルベンゼンを水素と反応させて、ヒドロアルキル化させることにより、一般式(1)
【0014】
【化3】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造する方法。
3. o−ジアルキルベンゼンのヒドロアルキル化を、パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及びランタノイド金属を含有する固体酸触媒の存在下、o−ジアルキルベンゼンと水素とを反応させることによって行う前記項2記載の3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンの製造方法。
4. 一般式(1)
【0015】
【化4】
(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを脱水素反応させることにより、一般式(3)
【0016】
【化5】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを製造する方法。
5. 前記項2記載の方法により、前記一般式(2)で示されるo−ジアルキルベンゼンをヒドロアルキル化させて前記一般式(1)で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造した後、次いで、前記項4記載の方法により、これを脱水素反応させて前記一般式(3)で示される3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを製造する方法。
6. パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及びランタノイド金属を含有する固体酸触媒を含むヒドロアルキル化反応用触媒。
7. 前記項2記載の方法において使用されるものである前記項6記載のヒドロアルキル化反応用触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、例えば、3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニル(以下、s−TABPと称することもある)を経由して、ポリイミドの原料となる3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(以下、s−BPTAと称することもある)及びその酸無水物(以下、s−BPDAと称することもある)に誘導できる3,3’,4,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン等の3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを提供することができる。
【0018】
また、本発明により、o−ジアルキルベンゼンから、効率的且つ簡便な方法により、高い収率で高選択的に3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン(s−TACHB))
本発明の3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン(s−TACHB)は、前記一般式(1)で示される新規な化合物である。
【0020】
その一般式(1)において、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、更に好ましくはメチル基である。
【0021】
当該化合物は、公知の方法によって脱水素反応させることで、s−TABPへ誘導することができる。
【0022】
【化6】
(式中、Rは前記と同義である。)
【0023】
一例を挙げると、触媒である1wt%Pd/活性炭を0.9g、その上に1mmガラスビーズを充鎮した縦型ガラス製反応器上部より窒素ガスを100ml/minで流通させながら管状炉が外温370℃になるように加熱する。次にs−TACHBを含む反応溶液をヘプタンにて30〜50wt%反応溶液/n−ヘプタンとなるように希釈した後、この溶液をシリンジポンプにて管状炉内のガラス製反応器上部に0.05ml/minで供給する。触媒層を通過した反応液をドライアイス−エタノールにて捕集すると脱水素反応によりs−TABPが得られる。なお、この方法に限定されるものではない。
【0024】
又、s−TABPは、公知の酸化方法によって、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(s−BPTA)及びその酸無水物(s−BPDA)に誘導できる。
【0025】
【化7】
(式中、Rは前記と同義である。)
【0026】
一例を挙げると、内容積100mLチタン製オートクレーブに、s−TABP2.10g(10mmol)、酢酸コバルト四水和物12.4mg(0.05mmol)、酢酸マンガン四水和物12.2mg(0.05mmol)、N−ヒドロキシフタルイミド(以下、NHPIと称する)163mg(1.0mmol)及び酢酸15mlを加え、空気雰囲気(内圧3MPa)にて、150℃で反応を開始する。反応開始1時間後、反応器を室温まで冷却し内ガスを開放する。そこへ先程と同量のNHPIを添加した後、150℃で反応を再開した。1時間後に再びこの一連の操作(冷却−開圧−添加−再加圧・加熱撹拌)を繰り返し、合計3時間反応を行う。反応終了後、反応器を室温まで冷却して内ガスを開放した。得られた反応液から溶媒を留去し、そこへ酢酸エチルと水を加えて分液した後、酢酸エチル層を水で洗浄して金属化合物を除去するとs−BPTAが得られる。なお、この方法に限定されるものではない。
【0027】
(3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン(s−TACHB)の製造(以下、ヒドロアルキル化反応と称することもある))
本発明のs−TACHBは、o−ジアルキルベンゼンをヒドロアルキル化させることによって得られるが、原料であるo−ジアルキルベンゼンが反応する部位によって多くの位置異性体が生ずる。即ち、まず、o−ジアルキルベンゼンは部分水素還元により4種類のo−ジアルキルシクロヘキセンとなる。例えば、Rがメチル基(Me)の場合を下記式で示す。
【0028】
【化8】
【0029】
次いで、この4種類の異性体にo−ジアルキルベンゼンが反応する。そのために、多数の異性体が生成することとなる。例えば、Rがメチル基(Me)の場合を下記式で示す。
【0030】
【化9】
【0031】
先に言及した異性体を大きく分類すると、下記式に示すように、脱水素反応によりs−TABPに誘導可能なs−TACHB、a−TABPに誘導可能なa−TACHB(2種)、i−TABPに誘導可能なi−TACHB、ビフェニルには誘導できないq−TABPの4種類に分けられる。
【0032】
【化10】
【0033】
本発明では、o−ジアルキルベンゼンのヒドロアルキル化反応終了後に、それら4種類の異性体を分離することは困難である。そのため、反応において目的物であるs−TACHBを選択的に得る必要があり(下記式)、そのために、パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及びランタノイド金属を含有する固体酸触媒の存在下、o−ジアルキルベンゼンと水素とを反応させる方法(ヒドロアルキル化)が好適に採用される(以下、本発明の反応と称することもある。)。
【0034】
【化11】
(式中、Rは、前記と同義である。)
【0035】
なお、下記式に示すように、本発明の反応において直接的に得られるs−TACHB(目的物)はシクロヘキシル基上のふたつのアルキル基が複数の立体配置を形成するが、いずれも脱水素反応によりs−TABPに誘導が可能であるため、これらのすべてが目的物といえる。
【0036】
【化12】
(式中、Rは、前記と同義である。)
【0037】
(o−ジアルキルベンゼン)
本発明の反応において使用されるo−ジアルキルベンゼンは、前記一般式(2)で示される化合物であるが、その一般式(2)において、Rは前記と同義であり、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。
【0038】
(パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒)
本発明において使用されるパラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒とは、パラジウムを含有するパラジウム触媒、ルテニウムを含有するルテニウム触媒、又はそれらの混合物である(以下、パラジウム/ルテニウム触媒と称することもある)。ここで、パラジウム触媒、ルテニウム触媒は、そのまま、又は不活性担体に担持させた触媒として使用しても良く、混合触媒の場合、パラジウム触媒又はルテニウム触媒のいずれかのみが担体に担持していても、両方が同時に担体に担持していても良い。
【0039】
前記パラジウム触媒としては、例えば、金属パラジウム、パラジウム黒;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパラジウム無機塩類;酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウム等の有機酸塩類;パラジウムに、アセチルアセトナト、一酸化炭素、ニトリル類、アミン類、ホスフィン類、オレフィン類等が配位したパラジウム錯化合物、例えば、テトラ(アンミン)パラジウムジクロライド、ジクロロジアセトニトリルパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム錯化合物が挙げられるが、好ましくは酢酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラ(アンミン)パラジウムジクロライドが使用される。なお、これらのパラジウム触媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良く、パラジウム錯化合物は、予め調製して使用しても、パラジウム錯化合物を形成させる化合物を別々に反応系内加え、その中で調製しても構わない。
【0040】
前記ルテニウム触媒としては、例えば、金属ルテニウム、ルテニウム黒;塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硫酸ルテニウム、硝酸ルテニウム等のルテニウム無機塩類;酢酸ルテニウム等の有機酸塩類;ルテニウムに、アセチルアセトナト、一酸化炭素、ニトリル類、アミン類、ホスフィン類、オレフィン類等が配位したルテニウム錯化合物、例えば、ヘキサ(アンミン)ルテニウムトリクロライド等のルテニウム錯化合物が挙げられるが、好ましくは塩化ルテニウム、ヘキサ(アンミン)ルテニウムトリクロライド、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウムが使用される。なお、これらのルテニウム触媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良く、ルテニウム錯化合物は、予め調製して使用しても、ルテニウム錯化合物を形成させる化合物を別々に反応系内加え、その中で調製しても構わない。
【0041】
パラジウム触媒やルテニウム触媒を担持させるための担体としては、例えば、カーボン、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、ゼオライト、メソポーラスシリカ、ヒドロキシアパタイトやハイドロタルサイトのような粘土等が挙げられる。
【0042】
担体に担持されたパラジウム/ルテニウム触媒の調製方法としては、通常行われる方法、例えば、蒸発乾固法、含浸法、ポアフィリング法、イオン交換法などを用いることができ、無機構造体に担持させる金属イオンの分散性を向上させる点で、ポアフィリング法、イオン交換法が好ましいが、これらに制限されるものではない。又、担持した後に不活性ガス雰囲気下で焼成しても良い。
【0043】
また、パラジウム/ルテニウム触媒(パラジウムを含有するパラジウム触媒、ルテニウムを含有するルテニウム触媒、又はそれらの混合物)は、反応前に、水素などの還元剤を用いて還元処理を行ってもよい。
【0044】
前記パラジウム/ルテニウム触媒の使用量は、o−ジアルキルベンゼン1モルに対して、金属モル比として、好ましくは10−7〜10−2モル、更に好ましくは10−6〜10−3モルである。当該範囲とすることでo−ジアルキルベンゼンの不完全水素還元や過水素還元を抑制して、s−TACHBを選択的に製造することができる。
【0045】
(ランタノイド金属を含有する固体酸触媒)
本発明の反応において使用されるランタノイド金属を含有する固体酸触媒とは、例えば、ランタノイド金属酸化物や、プロトン型ゼオライト等の担体にランタノイド金属を担持した触媒である。ここでランタノイド金属とは、原子番号57から71までの元素の総称であり、好ましくはランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、イッテルビウムである。
【0046】
前記ランタノイド金属酸化物は、固体酸触媒として機能するものであれば、1又は複数種のランタノイド金属の酸化物であっても、1又は複数種のランタノイド金属と1又は複数種の他の金属との複合酸化物であっても良く、これらの物理的混合物であっても良い。
【0047】
前記担体にランタノイド金属を担持した触媒における担体としては、例えば、ケイ素とアルミニウムを主成分とする無機構造体が好ましい。前記ケイ素とアルミニウムを主成分とする無機構造体としては、シリカ−アルミナ、ゼオライト、メソポーラスシリカ、ヒドロキシアパタイトやハイドロタルサイトのような粘土等が挙げられるが、これら中でも特にゼオライトが好適に使用される。
【0048】
前記ゼオライトは、特に制限されるものではないが、例えば、Y型、A型、フェリエライト型、ZSM−5(MFI型)、ZSM−12(MTW型)、モルデナイト型、ベータ型、X型、T型などのいずれも用いることができ、これらをカチオン(H、NH、金属イオン等)交換したもの、骨格中のSi/Al比を変えたもの、骨格中のSiやAlをTiやSn、Zrのような他の金属に変えたもの等を用いることもできる。なお、これらのゼオライトは市販品を用いることができる。
【0049】
ゼオライトのSi/Al比は、特に限定されないが、好ましくは0.01〜100、更に好ましくは1〜80、より好ましくは2〜60である。
【0050】
ランタノイド金属を担体に担持させる方法としては、特に限定されず、例えば、蒸発乾固法、含浸法、ポアフィリング法、イオン交換法等を用いることができるが、担体(固体酸)に担持させるランタノイド金属の分散性を向上させる点で、ポアフィリング法、イオン交換法が好適に採用される。
【0051】
前記ランタノイド金属の担持量は、好ましくは当該触媒総質量の1〜30質量%、更に好ましくは3〜20質量%である。当該範囲とすることで、o−ジアルキルベンゼンの水素還元により生成したo−ジアルキルシクロヘキセンとo−ジアルキルベンゼンとの反応を促進させつつ、選択的にs−TACHBを製造することができる。
【0052】
前記ランタノイド金属を含有する固体酸触媒は、触媒活性発現の観点から、吸着している水分を除去した後に反応に使用することが望ましい。その水分の除去方法としては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下にて、好ましくは400〜600℃で1〜12時間焼成する方法が好適に採用される。なお、担体にランタノイド金属を担持させた触媒の場合には、担持後の触媒を乾燥した後に焼成するのが望ましい。当該水分を除去することで、十分な触媒活性を発現させることができ、活性や目的物の選択性の低下を防ぐことができる。
【0053】
前記ランタノイド金属を含有する固体酸触媒の使用量は、o−ジアルキルベンゼンに対して、好ましくは0.01〜200質量%、更に好ましくは0.1〜100質量%である。アルキル化反応用触媒であるランタノイド金属を含有する固体酸触媒の使用量が少なすぎると、十分な反応速度が得られず、また多すぎると、経済的でない。当該範囲とすることで、o−ジアルキルベンゼンの水素還元により生成したo−ジアルキルシクロヘキセンとo−ジアルキルベンゼンとの反応を促進させつつ、選択的にs−TACHBを製造することができる。
【0054】
(反応条件)
本発明の反応は、例えば、o−ジアルキルベンゼン、パラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒、及びランタノイド金属を含有する固体酸触媒を混合して、水素ガス雰囲気にて、攪拌しながら反応させる等の方法によって行うことができる。その際の反応温度は、好ましくは80〜500℃、更に好ましくは100〜400℃であり、反応圧力は、好ましくは0.01〜8.0MPa、更に好ましくは0.05〜5.0MPaである。なお、反応形態は、バッチ又は流通、気相又は液相、固定床又は流動床のいずれの形態でも構わないが、好ましくは固定床流通反応で行われる。
【0055】
本発明の反応において使用する水素の量は、o−ジアルキルベンゼン1モルに対して、好ましくは2〜100000モル、更に好ましくは3〜10000モル、特に好ましくは6〜1000モルである。当該範囲とすることで、o−ジアルキルベンゼンの不完全水素還元や過水素還元を抑制して、s−TACHBを選択的に製造することができる。
【0056】
本発明の反応によって得られるs−TACHBは、反応終了後、例えば、濾過、抽出、蒸留、昇華、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製することができる。
【0057】
なお、得られたs−TACHBは、先述の通り、脱水素反応させることによりs−TABPに誘導することができ、このs−TABPのアルキル基を酸化することによりs−BPTAに、更に脱水することでs−BPDAに誘導することができる。
【0058】
(3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼン(s−TACHB)の分析)
先に述べたように、本発明の反応により、大別すると4種類の異性体が生成するが、これらを個別に分析することや分離することが困難であるため、これら4種類の異性体混合物を脱水素してビフェニル化合物に誘導することによって、各異性体の生成量を確認することができる。即ち、本願発明の目的物であるs−TACHBは、s−TMBP等のs−TABPに誘導することによって定量することができる。当該誘導を脱水素反応と称することもある。なお、s−TACHBをs−TABPへ誘導する脱水素反応は、先述の通り行うことができる。
【0059】
(本発明の触媒)
本発明の触媒は、前記のパラジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する触媒と、ランタノイド金属を含有する固体酸触媒とを含む。この触媒は、本発明の反応、即ちo−ジアルキルベンゼンのヒドロアルキル化反応以外のヒドロアルキル化反応の触媒としても有効である。
【実施例】
【0060】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、反応生成物の分析はガスクロマトグラフィー(FID検出器、内部標準法)により行い、得られた固体(触媒)中の金属原子量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)で分析した。
【0061】
なお、略称は以下の通りである。
o−Xy:o−キシレン(1,2−ジメチルベンゼン)
TMCHB:テトラメチルシクロヘキシルベンゼン(各種異性体を全て含む)
s−TMCHB:3,3’,4,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン
a−TMCHB:2,3,3’,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン及び2’,3,3’,4−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン
i−TMCHB:2,2’3,3’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン
q−TMCHB:1,2,3’,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン
DMCy:1,2−ジメチルシクロヘキサン
TMBP:テトラメチルビフェニル
s−TMBP:3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル
【0062】
(ランタノイド金属を含有する固体酸触媒の合成)
実施例1A(ランタン担持ゼオライト(以下、La/HY触媒とも称する)の合成)
H型Yゼオライト(東ソー製;HSZ−320HOA)6g(Si/Al比=2.8)とイオン交換水200mlとを混合した懸濁液に、硝酸ランタン六水和物3gをイオン交換水100mlに溶解させた液を室温で滴下後、110℃で4時間攪拌させた。攪拌終了後、遠心分離器で固体を分離し、イオン交換水45mlで5回洗浄した後に110℃で一晩乾燥させた。乾燥後、窒素雰囲気にて、550℃で3時間焼成させてランタノイド金属を含有する固体ルイス酸触媒La/HYを得た。得られた固体(La/HY)をICP(Inductively Coupled Plasma)で分析したところ、固体中のランタン原子の量は5.6質量%であった。
【0063】
実施例2A(サマリウム担持ゼオライト(以下、Sm/HY触媒とも称する)の合成)
実施例1Aにおいて、硝酸ランタン六水和物の代わりに硝酸サマリウム六水和物を用いたこと以外は、実施例1Aと同様にしてランタノイド金属を含有する固体ルイス酸触媒Sm/HYを得た。得られた固体(Sm/HY)中のサマリウム原子の量は5.6質量%であった。
【0064】
実施例3A(セリウム担持ゼオライト(以下、Ce/HY触媒とも称する)の合成)
実施例1Aにおいて、硝酸ランタン六水和物の代わりに硝酸セリウム六水和物を用いたこと以外は、実施例1Aと同様にしてランタノイド金属を含有する固体ルイス酸触媒Ce/HYを得た。得られた固体(Ce/HY)中のセリウム原子の量は4.6質量%であった。
【0065】
実施例4A(イットリウム担持ゼオライト(以下、Y/HY触媒とも称する)の合成)
実施例1Aにおいて、硝酸ランタン六水和物の代わりに硝酸イットリウム六水和物を用いたこと以外は、実施例1Aと同様にしてランタノイド金属を含有する固体ルイス酸触媒Y/HYを得た。得られた固体(Y/HY)中のイットリウム原子の量は2.9質量%であった。
【0066】
(パラジウム触媒、ルテニウム触媒、他の触媒の合成)
実施例5A(パラジウム担持γ−アルミナ(以下、Pd/γ−Al触媒とも称する)の合成)
酢酸パラジウム0.045gをアセトン5mlに溶解させた溶液を調製し、これにγ−Al(STREM CHEMICAL社製)2gを加えて室温で1時間含侵を行った。次いで、得られた懸濁液の液部分を蒸発乾固後に乾燥させた。これを水素気流下200℃で2時間還元処理を行った。得られた固体(Pd/γ−Al)中のパラジウム原子の量は1.0質量%であった。
【0067】
実施例6A(ルテニウム担持γ−アルミナ(以下、Ru/γ−Al触媒とも称する)の合成)
実施例5Aにおいて、酢酸パラジウムの代わりにルテニウムアセチルアセトナトを用いたこと以外は、実施例5Aと同様にしてルテニウムを含有するRu/γ−Alを得た。これを水素気流下200℃で2時間還元処理を行った。得られた固体(Ru/γ−Al)中のルテニウム原子の量は1.0質量%であった
【0068】
参考例1(白金担持カーボン(以下、Pt/C触媒とも称する)の合成)
実施例5Aにおいて、酢酸パラジウムの代わりに塩化白金酸を用い、担体に活性炭(東京化成製)を用いて、実施例5Aと同様にして白金を含有するPt/Cを得た。これを水素気流下200℃で2時間還元処理を行った。得られた固体(Pt/C)中の白金原子の量は3.4質量%であった。
【0069】
参考例2(ロジウム担持カーボン(以下、Rh/C触媒とも称する)の合成)
参考例1において、塩化白金酸の代わりに塩化ロジウムを用いたこと以外は、参考例1と同様にしてロジウムを含有するRh/Cを得た。得られた固体(Rh/C)中のロジウム原子の量は2.5質量%であった。
【0070】
参考例3(イリジウム担持カーボン(以下、Ir/C触媒とも称する)の合成)
参考例1において、塩化白金酸の代わりに塩化イリジウム酸を用いたこと以外は、参考例1と同様にしてイリジウムを含有するIr/Cを得た。得られた固体(Ir/C)中のイリジウム原子の量は1.0質量%であった。
【0071】
実施例1B(ヒドロアルキル化反応;3,3’,4,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン(s−TMCHB)の合成)
【0072】
【化13】
【0073】
内容積50mlのガラス内挿管付SUS製オートクレーブのガラス内挿管に、La/HY0.15g(触媒中のLaが0.05mmol)、Pd/γ−Alを0.03g(触媒中のPdが0.003mmol)及びo−キシレン1g(9.42mmol)を加えた。反応系内を水素ガスで置換した後、水素ガスを1.6MPaまで圧入した。次いで、前記オートクレーブを予め150℃に設定しておいたオイルバスに浸けて、4時間反応させた。
【0074】
反応終了後、オートクレーブを水冷して反応器内のガスを開放した。得られた反応液を分析したところ、o−キシレン(o−Xy)の転化率が36.9%、テトラメチルシクロヘキシルベンゼン(TMCHB)が、収率27.6%及び選択率74.8%(転化したo−Xy基準)で生成していた。なお、副生成物であるジメチルシクロヘキサン(DMCy)が、収率3.4%及び選択率9.2%(転化したo−Xy基準)で生成していた。
【0075】
次いで、TMCHBを脱水素反応させてTMBPに誘導することにより、TMCHB中のs−TMCHBの存在量を確認した。
【0076】
(脱水素反応;3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル(s−TMBP)の合成)
【0077】
【化14】
【0078】
SUS製縦型反応器に、1質量%Pd/C触媒1mlと、その上部に1mmガラスビーズを充填した後、窒素ガスを100ml/min.で流通しながら、環状炉にて外温370℃となるように加熱し1時間保持した。次いで、実施例1Bで得られた反応溶液を、30質量%TMCHB/n−ヘプタンとなるように希釈した後、この溶液を供給ポンプにてガラスビーズ層上部へ0.05ml/min.で供給した。触媒層を通過した反応液をドライアイス−エタノールにて捕集した。得られた反応液を分析したところ、3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル(s−TMBP)が、選択率49.7%(転化したTMCHB基準)で生成していた(即ち、前記ヒドロアルキル化反応でのs−TMCHBの選択率は37.1%(転化したo−Xy基準)である)。
【0079】
実施例2B〜10B及び比較例1〜5(3,3’,4,4’−テトラメチルシクロヘキシルベンゼン(s−TMCHB)及び3,3’,4,4’−テトラメチルビフェニル(s−TMBP)の合成)
実施例1Bにおいて、触媒の種類、反応温度、水素圧を表1に示す通りに変えたこと以外は、実施例1Bと同様に反応を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
以上の結果より、本発明のヒドロアルキル化反応、より具体的にはパラジウム触媒またはルテニウム触媒、及びランタノイド金属を含有する固体ルイス酸触媒の存在下、o−キシレンと水素とを反応させることにより、高収率及び高選択率で目的とする3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、新規な3,3’,4,4’−テトラアルキルシクロヘキシルベンゼンを提供することができる。当該化合物は、例えば、3,3’,4,4’−テトラアルキルビフェニルを経由して、ポリイミドの原料となる3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸及びその酸無水物に容易に誘導できる有用な化合物である。