(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979143
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】光学膜厚測定方法、光学膜厚測定システム及び光学膜厚測定プログラム他
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
G01B11/06 G
【請求項の数】27
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-522537(P2013-522537)
(86)(22)【出願日】2012年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2012063588
(87)【国際公開番号】WO2013001955
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-141348(P2011-141348)
(32)【優先日】2011年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-1095(P2012-1095)
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 直幹
(72)【発明者】
【氏名】柏崎 治
(72)【発明者】
【氏名】新 勇一
(72)【発明者】
【氏名】関矢 忠宣
(72)【発明者】
【氏名】吉原 由佳
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/013429(WO,A1)
【文献】
特許第3786073(JP,B2)
【文献】
特開2006−220525(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/111466(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/081445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
9/02
G01N 21/27
33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について関数で作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める光学膜厚測定方法。
【請求項2】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求め、
前記同定は、極値を与える波長が最も近似する光学膜厚を特定することより行い、当該最も近似する光学膜厚から、求める光学膜厚を推定する光学膜厚測定方法。
【請求項3】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を、該干渉膜上を液体層が覆う状態で反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める光学膜厚測定方法。
【請求項4】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、
光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、
前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、
第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておき、
反射干渉分光法により測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率を得、反射干渉分光法により同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率を得て、開始前に対する変化量の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める光学膜厚測定方法。
【請求項5】
前記関係を関数で作成する請求項4に記載の光学膜厚測定方法。
【請求項6】
前記関数が2次関数であり、当該2次関数を前記極値ごとに作成する請求項5に記載の光学膜厚測定方法。
【請求項7】
前記同定は、極値を与える波長が最も近似する光学膜厚を特定することより行い、当該最も近似する光学膜厚から、求める光学膜厚を推定する請求項4から請求項6のうちいずれか一に記載の光学膜厚測定方法。
【請求項8】
前記干渉膜上を液体層が覆う状態で測定する請求項4から請求項7のうちいずれか一に記載の光学膜厚測定方法。
【請求項9】
屈折率が既知の分子について、請求項4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚測定方法。
【請求項10】
特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定方法。
【請求項11】
特定方向の大きさが既知の分子について、請求項9に記載の膜厚測定方法により求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定方法。
【請求項12】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、請求項4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する光学膜厚測定方法。
【請求項13】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、請求項9に記載の膜厚測定方法により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する膜厚測定方法。
【請求項14】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定システムであって、
光源と、
前記光源からの光を前記積層体に照射する照射手段と、
前記積層体からの反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した反射光の分光特性を検出する分光検出手段と、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておくことにより構成されるデータを記憶する記憶手段と、
前記分光検出手段により検出した分光特性に基づき、測定対象の前記積層体における分光反射率について、当該分光反射率の極値を与える波長を特定し、前記記憶手段に記憶された前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める演算手段と、
前記干渉膜上に流路を形成する部材と、
前記流路に接続し前記干渉膜上に設けられた分子と相互作用する分子を含んだ液体を当該流路に流す送液手段と、
を備える光学膜厚測定システム。
【請求項15】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定システムであって、
光源と、
前記光源からの光を前記積層体に照射する照射手段と、
前記積層体からの反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した反射光の分光特性を検出する分光検出手段と、
予め、光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されるデータを記憶する記憶手段と、前記分光検出手段により検出した分光特性に基づき、測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率に対する、同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率の変化量の極値を与える波長を特定し、前記記憶手段に記憶された前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める演算手段と、
を備える光学膜厚測定システム。
【請求項16】
前記干渉膜上に流路を形成する部材と、前記流路に接続し前記干渉膜上に設けられた分子と相互作用する分子を含んだ液体を当該流路に流す送液手段を備える請求項15に記載の光学膜厚測定システム。
【請求項17】
請求項15に記載の光学膜厚測定システムを備え、屈折率が既知の分子について、請求項15に記載の光学膜厚測定システムにより求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚算出手段をさらに備える膜厚測定システム。
【請求項18】
請求項15に記載の光学膜厚測定システムを備え、特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項15に記載の光学膜厚測定システムにより求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定手段をさらに備える分子方向推定システム。
【請求項19】
請求項17に記載の膜厚測定システムを備え、特定方向の大きさが既知の分子について、請求項17に記載の膜厚測定システムにより求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定手段をさらに備える分子方向推定システム。
【請求項20】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、前記演算手段により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録手段をさらに備える請求項15に記載の光学膜厚測定システム。
【請求項21】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点において、前記膜厚算出手段により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録手段をさらに備える請求項17に記載の膜厚測定システム。
【請求項22】
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する処理をコンピュータに実行させるための光学膜厚測定プログラムであって、
予め、
光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、
前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、
第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されたデータを読み出す処理と、
反射干渉分光法により測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率を得、反射干渉分光法により同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率を得て、開始前に対する変化量の極値を与える波長を特定し、前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める演算処理と、
を前記コンピュータに行わせる光学膜厚測定プログラム。
【請求項23】
請求項22に記載の光学膜厚測定プログラムを備え、屈折率が既知の分子について、請求項22に記載の光学膜厚測定プログラムに基づき前記コンピュータが求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚算出処理をさらに前記コンピュータに実行させるための膜厚測定プログラム。
【請求項24】
請求項22に記載の光学膜厚測定プログラムを備え、特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項22に記載の光学膜厚測定プログラムによりに基づき前記コンピュータが求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定処理をさらに前記コンピュータに実行させるための分子方向推定プログラム。
【請求項25】
請求項23に記載の膜厚測定プログラムを備え、特定方向の大きさが既知の分子について、請求項23に記載の膜厚測定プログラムによりに基づき前記コンピュータが求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定処理をさらに前記コンピュータに実行させるための分子方向推定プログラム。
【請求項26】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、前記コンピュータが前記演算処理により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録処理をさらに前記コンピュータに実行させるための請求項22に記載の光学膜厚測定プログラム。
【請求項27】
前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点において、前記コンピュータが前記膜厚算出処理により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録処理をさらに前記コンピュータに実行させるための請求項23に記載の膜厚測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射干渉分光法を利用した光学膜厚測定方法、光学膜厚測定システム及び光学膜厚測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応などの生体分子同士の分子間相互作用や、有機高分子同士の分子間相互作用などの結合の測定は、一般的に、放射性物質や蛍光体などの標識を用いることで行われてきた。この標識には手間がかかり、特にタンパク質への標識は方法が煩雑な場合や標識によりタンパク質の性質が変化する場合があった。そこで、近年、生体分子や有機高分子間の結合を、簡便に標識を用いることなく直接的に検出する手段として、光学薄膜の干渉色変化を利用したRIfS方式(Reflectometric interference spectroscopy:反射干渉分光法)が提案され、既に実用化もされている。RIfS方式の基本原理は特許文献1や非特許文献1などに言及されている。
【0003】
RIfS方式について簡単に説明すると、この方式では、
図12Aに示すように、光学薄膜104が設けられた基板102が用いられる。
図12Aに示すように、基板102上の光学薄膜104に対し白色光を照射した場合、
図13の典型的な一例に示すとおり、白色光そのものの分光強度は実線106で表され、その反射光の分光強度は実線108で表される。照射した白色光とその反射光との各分光強度から反射率を求めると、
図14に示すとおり、実線で表されたボトムピーク(スペクトル曲線における極小部)を有する反射スペクトル110が得られる。
【0004】
分子間相互作用を検出するにあたっては、
図12Bに示すとおり、光学薄膜104上にリガンド120が設けられる。光学薄膜104上にリガンド120を設けると、リガンド120が設けられた部位における光学的厚さ112が変化して光路長が変化し、反射干渉効果により干渉波長も変化する。すなわち、反射光の分光強度分布のピーク位置がシフトし、その結果
図14に示すとおり、反射スペクトル110が反射スペクトル122(点線部参照)にシフトする。この状態において、光学薄膜104上にサンプル溶液を流すと、
図12Cに示すとおり、リガンド120とサンプル溶液中のアナライト130とが結合する。リガンド120とアナライト130とが結合すると、アナライト130が結合した部位における光学的厚さ112がさらに変化する。リガンド120に対してアナライト130が部分的に付着することによって不均質な層が生成されるが、この不均質層は巨視的にみればアナライト130の付着量に応じた所定の光学的厚さを有する均質層に置き換えられる。従って、入射光の通過する均質層の光学的厚さがアナライト130の付着量に応じて変化することとなる。これによって、
図14に示すとおり、反射スペクトル122が反射スペクトル132(1点鎖線部参照)にシフトする。そして、反射スペクトル122のボトムピーク波長(反射率が極小値となる波長)に対する反射スペクトル132のボトムピーク波長の変化を検出することにより、分子間相互作用の有無を検出することができる。また、反射スペクトル122のボトムピーク波長に対する反射スペクトル132のボトムピーク波長の変化量を検出することにより、分子間相互作用の進捗度を検出することができるようになっている。
【0005】
ボトムピーク波長の変化の推移を経時的に観測すると、
図15に示すとおり、曲線上の第1のショルダー部である時点140において、リガンド120によるボトムピーク波長の変化を確認することができ、曲線上の第2のショルダー部である時点142において、リガンド120とアナライト130との結合によるボトムピーク波長の変化を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3786073号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sandstrom et al, APPL.OPT., 24, 472, 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、ボトムピーク波長の変化の推移を経時的に観測する方式では、測定原理上、測定精度に限界があり、分子間相互作用の進捗度をより正確に捉えようとした場合に、十分に改善できないという問題があることが判明した。これは以下のような理由による。
すなわち、抗原抗体反応などの生体分子同士の分子間相互作用や、有機高分子同士の分子間相互作用などの結合は、微視的には結合と離脱を繰り返しながらも、全体としては結合の割合が一様に増加する、すなわち、
図16Aに示すように時間の経過に従って分子間相互作用の進捗度が増加する。
しかしながら、反射光の分光強度を検出する検出装置によって実際に出力されるデータは、例えば
図17に示す反射率データ151のように微小な変動を繰り返しており、ボトムピーク位置を定めるには、この反射率データ151に近似曲線152をフィッティングして、近似曲線152を算出し、その近似曲線の極小値を上述のボトムピーク位置として求めるなどの演算が必要となる。また、ボトムピーク付近は反射率の変化が小さいため、上述のような近似曲線を用いてボトムピーク位置を決定する方法では、原理上、ボトムピークの位置が不正確になりやすく、特に、分子間相互作用の進捗度をより高い精度で算出することが求められる場合は不利になる。結果として、ボトムピーク波長の変化量Δλは、
図16Bに示すように、分子間相互作用の進捗度とは異なった変化をすることがあり、このような場合は、ボトムピーク波長の変化量Δλは、分子間相互作用の進捗度を正確に判断するための値として適当ではなくなってしまう。
【0009】
また、ボトムピーク波長の変化量Δλを追跡する方法は、反射光の分光特性のグラフ上の1点だけを追跡し、グラフの全体的なシフトを捉えることをしておらず、変化を正確に捉えることに自ずと限界がある。
加えて、上述した近似曲線算出のための演算を行うために、高性能な演算装置や複雑な演算が必要になったり、分子間相互作用が速く進行するようなケースでは演算が追いつかなくなったりするという懸念もある。
【0010】
以上の事情を背景に研究し本発明者らは、検出される光の分光特性の極値に着目し、この極値が干渉膜の厚みに応じて一定の変化傾向を見せることを見出し、その関係を予め特定しておくことによって、干渉膜の光路長、すなわち、干渉膜の光学膜厚を測定する方法を見出した。本方法によれば、分子間相互作用によって形成される膜に限らず光学膜厚を測定することができるとともに、分子間相互作用のように時間経過によって光学膜厚に変化があれば、これを検出し、その変化した分の光学膜厚を測定することもできる。すなわち、分子間相互作用の測定においては、リガンドとアナライトとが結合すると、アナライトが結合した部位における光学膜厚の変化量を測定することができる。
【0011】
すなわち、本発明は、反射干渉分光法により干渉膜の光学膜厚を測定すること、干渉膜の光学膜厚に変化があれば、その変化した分の光学膜厚を測定することができる光学膜厚測定方法、光学膜厚測定システム及び光学膜厚測定プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について
関数で作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める光学膜厚測定方法である。
請求項2記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求め、
前記同定は、極値を与える波長が最も近似する光学膜厚を特定することより行い、当該最も近似する光学膜厚から、求める光学膜厚を推定する光学膜厚測定方法である。
請求項3記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を、該干渉膜上を液体層が覆う状態で反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておき、
反射干渉分光法により得られた測定対象の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める光学膜厚測定方法である。
【0013】
請求項
4記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定方法であって、
予め、
光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、
前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、
第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておき、
反射干渉分光法により測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率を得、反射干渉分光法により同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率を得て、開始前に対する変化量の極値を与える波長を、前記関係に当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める光学膜厚測定方法である。
【0015】
請求項
5記載の発明は、前記関係を関数で作成する請求項
4に記載の光学膜厚測定方法である。
【0016】
請求項
6記載の発明は、前記関数が2次関数であり、当該2次関数を前記極値ごとに作成する請求項
5に記載の光学膜厚測定方法である。
【0017】
請求項
7記載の発明は、前記同定は、極値を与える波長が最も近似する光学膜厚を特定することより行い、当該最も近似する光学膜厚から、求める光学膜厚を推定する請求項
4から請求項
6のうちいずれか一に記載の光学膜厚測定方法である。
【0019】
請求項8記載の発明は、前記干渉膜上を液体層が覆う状態で測定する請求項
4から請求項7のうちいずれか一に記載の光学膜厚測定方法である。
【0020】
請求項9記載の発明は、屈折率が既知の分子について、請求項
4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚測定方法である。
【0021】
請求項10記載の発明は、特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項
4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定方法である。
【0022】
請求項11記載の発明は、特定方向の大きさが既知の分子について、請求項9に記載の膜厚測定方法により求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定方法である。
【0023】
請求項12記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、請求項
4に記載の光学膜厚測定方法により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する光学膜厚測定方法である。
【0024】
請求項13記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、請求項9に記載の膜厚測定方法により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する膜厚測定方法である。
【0025】
請求項14記載の発明は、
基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体における該干渉膜の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定システムであって、
光源と、
前記光源からの光を前記積層体に照射する照射手段と、
前記積層体からの反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した反射光の分光特性を検出する分光検出手段と、
予め、干渉膜の光学膜厚が既知の前記積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておくことにより構成されるデータを記憶する記憶手段と、
前記分光検出手段により検出した分光特性に基づき、測定対象の前記積層体における分光反射率について、当該分光反射率の極値を与える波長を特定し、前記記憶手段に記憶された前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する光学膜厚を同定することにより、測定対象の前記積層体における光学膜厚を求める演算手段と、
前記干渉膜上に流路を形成する部材と、
前記流路に接続し前記干渉膜上に設けられた分子と相互作用する分子を含んだ液体を当該流路に流す送液手段と、
を備える光学膜厚測定システムである。
【0026】
請求項15記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する光学膜厚測定システムであって、
光源と、
前記光源からの光を前記積層体に照射する照射手段と、
前記積層体からの反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した反射光の分光特性を検出する分光検出手段と、
予め、光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されるデータを記憶する記憶手段と、前記分光検出手段により検出した分光特性に基づき、測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率に対する、同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率の変化量の極値を与える波長を特定し、前記記憶手段に記憶された前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める演算手段と、
を備える光学膜厚測定システムである。
【0029】
請求項
16記載の発明は、前記干渉膜上に流路を形成する部材と、前記流路に接続し前記干渉膜上に設けられた分子と相互作用する分子を含んだ液体を当該流路に流す送液手段を備える請求項
15に記載の光学膜厚測定システムである。
【0030】
請求項
17記載の発明は、請求項15に記載の光学膜厚測定システムを備え、屈折率が既知の分子について、請求項15に記載の光学膜厚測定システムにより求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚算出手段をさらに備える膜厚測定システムである。
【0031】
請求項
18記載の発明は、請求項15に記載の光学膜厚測定システムを備え、特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項15に記載の光学膜厚測定システムにより求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定手段をさらに備える分子方向推定システムである。
【0032】
請求項
19記載の発明は、請求項
17に記載の膜厚測定システムを備え、特定方向の大きさが既知の分子について、請求項
17に記載の膜厚測定システムにより求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定手段をさらに備える分子方向推定システムである。
【0033】
請求項
20記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、前記演算手段により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録手段をさらに備える請求項15に記載の光学膜厚測定システムである。
【0034】
請求項
21記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点において、前記膜厚算出手段により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録手段をさらに備える請求項
17に記載の膜厚測定システムである。
【0036】
請求項
22記載の発明は、基板上に1又は2以上の干渉膜が積層した積層体の該干渉膜上で行われる分子間相互作用により、該干渉膜上に吸着する分子の光学膜厚を反射干渉分光法により測定する処理をコンピュータに実行させるための光学膜厚測定プログラムであって、
予め、
光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、
前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、
第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されたデータを読み出す処理と、
反射干渉分光法により測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率を得、反射干渉分光法により同測定対象の前記積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率を得て、開始前に対する変化量の極値を与える波長を特定し、前記データに当てはめて、極値を与える波長が近似する第2干渉膜の光学膜厚を同定することにより、同測定対象の前記積層体における分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の光学膜厚を求める演算処理と、
を前記コンピュータに実行させるための光学膜厚測定プログラムである。
【0037】
請求項
23記載の発明は、請求項
22に記載の光学膜厚測定プログラムを備え、屈折率が既知の分子について、請求項
22に記載の光学膜厚測定プログラムに基づき前記コンピュータが求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める膜厚算出処理をさらに前記コンピュータに実行させるための膜厚測定プログラムである。
【0038】
請求項
24記載の発明は、請求項
22に記載の光学膜厚測定プログラムを備え、特定方向の光学的大きさが既知の分子について、請求項
22に記載の光学膜厚測定プログラムによりに基づき前記コンピュータが求めた分子の光学膜厚と、前記特定方向の光学的大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定処理をさらに前記コンピュータに実行させるための分子方向推定プログラムである。
【0039】
請求項
25記載の発明は、請求項
23に記載の膜厚測定プログラムを備え、特定方向の大きさが既知の分子について、請求項
23に記載の膜厚測定プログラムによりに基づき前記コンピュータが求めた分子の膜厚と、前記特定方向の大きさとを比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する分子方向推定処理をさらに前記コンピュータに実行させるための分子方向推定プログラムである。
【0040】
請求項
26記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点について、前記コンピュータが前記演算処理により求めた分子の光学膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録処理をさらに前記コンピュータに実行させるための請求項
22に記載の光学膜厚測定プログラムである。
【0041】
請求項
27記載の発明は、前記分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数が変化した異なる各時点において、前記コンピュータが前記膜厚算出処理により求めた分子の膜厚とともに、当該環境変数を対応付けて記録する記録処理をさらに前記コンピュータに実行させるための請求項
23に記載の膜厚測定プログラムである。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、干渉膜の光学膜厚を測定することができる、特に本件請求項
4、15、
22に係る発明によれば、分子間相互作用により干渉膜の光学膜厚に変化があれば、その変化した分の光学膜厚を測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分子間相互作用の測定システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る測定部材の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】分子間相互作用の測定システムの測定の様子を示す模式図である。
【
図4】分子間相互作用の測定システムの回路ブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るリガンドとアナライトとの結合の様子を模式的に表した断面図である。ここから新規図面
【
図6】反射干渉分光法の原理を説明するための模式的モデル図である。
【
図7】干渉膜をある基準膜厚から増加させた場合における分光反射率の変化量を示す各曲線である。
【
図8】シミュレーションによって得られた試料膜厚dと分光反射率Rの極値位置波長の関係を示すグラフである。
【
図9】
図8のグラフから、横軸を光路長(光学膜厚)ndに換算し、縦軸を1000/λに換算して作成したグラフである。
【
図10】シミュレーションによって得られた試料膜厚dと分光反射率変化量ΔRの極値位置波長との関係を示すグラフである。
【
図11】
図10のグラフから、横軸を光路長(光学膜厚)ndに換算し、縦軸を1000/λに換算して作成したグラフである。
【
図12A】RIfS方式の概略を説明するための模式図である。
【
図12B】RIfS方式の概略を説明するための模式図である。
【
図12C】RIfS方式の概略を説明するための模式図である。
【
図13】波長と分光強度との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【
図14】波長と反射率との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【
図15】ボトムピーク波長の変化の概略的な推移を示す一例のグラフである。
【
図16A】分子間相互作用の進捗度の時間変化を示すグラフである。
【
図16B】反射光のボトムピーク波長の変化量Δλの時間変化の一例を示すグラフである。
【
図17】分光反射率の検出データとその近似曲線の一例を示すグラフである。
【
図18A】分子方向の推定を説明するための模式図である。
【
図18B】分子方向の推定を説明するための模式図である。
【
図18C】分子方向の推定を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0045】
まず、
図1から
図5を参照して、本発明の光学膜厚測定システムを実施する一実施形態である分子間相互作用の測定システム1の概要につき説明する。分子間相互作用の測定システム1は、本発明の光学膜厚測定方法を実行するものであるとともに、システム構成に含まれるコンピュータには、本発明の光学膜厚測定プログラムが反映されたプログラムが実行可能に記憶されている。なお、以下では適宜に分子間相互作用の測定の場合を例として説明するが、本発明の用途は分子間相互作用の測定に限定されるものではない。また、分子間相互作用の測定システム1は、通常、各種の測定値を出力するよう構成されるが、以下では専ら本発明の実施に係る干渉膜の光学膜厚の測定につき説明する。
【0046】
図1に示すとおり、分子間相互作用の測定システム1は、測定対象となる試料を保持する測定部材10と後述する光源や分光器から構成される測定機構とを備えた測定装置80と、測定装置80に接続されたコンピュータである制御演算装置50と、制御演算装置50に接続されたディスプレイ91及び入出力装置92とによって構成されている。
測定システム1において制御演算装置50は、測定装置80に内蔵される光源や分光器などの測定機構の制御手段、検出情報の演算手段、及び、制御指令や検出情報の出入力を行う出入力手段(インターフェース)として機能する。
【0047】
測定装置80は、下側筺体82と、下側筺体82に回動自在に取り付けられた上側筺体81とを備える。下側筺体82には測定部材10を保持するためのテーブル83が設けられている。上側筺体81内側には、測定部材10に接続して試料を流通させるための射出口85及び吸引口87と、検出窓86とを有する接続部84が設けられている。上側筺体81内には、後述するように、白色光源20,分光器30,光ファイバ40、41(
図3参照)が設けられており、検出窓86から光を照射するとともに、検出窓86から入射する光を受光するように構成されている。測定を行う際は、まず、上側筺体81を上方に回動させて下側筺体82上のテーブル83を開放し、テーブル83に測定部材10をセットする。その後、上側筺体81を下方に回動させて閉じることにより、射出口85及び吸引口87が測定部材10に接続し、また、検出窓86が測定部材10に対向し、測定準備を完了する。
【0048】
図2に示すとおり、測定部材10は、光学薄膜の設けられたセンサーチップ12と、センサーチップ12とともに流路を形成するフローセル14とによって構成されている。センサーチップ12はシリコン基板12aを有している。シリコン基板12a上にはSiN膜12b(窒化シリコン)が蒸着されている。SiN膜12bは光学薄膜の一例である。
フローセル14はシリコーンゴム製の透明な部材である。フローセル14には溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、
図3に示すように密閉流路14bが形成される。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部がサンプル溶液の流入口14cとして、他方の端部がその流出口14dとしてそれぞれ機能する。溝14aの底部には予めリガンド16が結合されている(
図3参照)。
【0049】
測定部材10では、センサーチップ12に対しフローセル14を貼り替え可能となっており、フローセル14はディスポーザブル(使い捨て)使用が可能となっている。センサーチップ12の表面には、シランカップリング剤などにより、表面修飾をおこなってもよく、この場合フローセル14の貼り替えが容易となる。
【0050】
先に説明したように、測定部材10をセットした後、上側筺体81を下方に回動させて閉じることにより、
図3に示すとおり、検出窓86がフローセル14に対向し、フローセル14の密閉流路14bの上方には光ファイバ40が設置された状態となる。ここで、光ファイバ40の一方の端部には白色光源20が接続されている。白色光源20としては例えばハロゲン光源が使用される。また、例えばLED光源のような、可視光波長領域に複数の分光強度ピークを有する疑似白色光源を使用してもよい。光ファイバ40の他方の端部は検出窓86に面している。光ファイバ41の一方の端部には分光器30が接続され、他方の端部は検出窓86に面している。白色光源20が点灯すると、その光が光ファイバ40を介して密閉流路14bに照射され、その反射光が光ファイバ41を介して分光器30で検出される。白色光源20や分光器30は制御演算装置50に接続され、制御演算装置50はこれらモジュールの動作を制御する。
また、制御演算装置50は、後述する記憶装置503(
図4参照)に記憶されたプログラムの実行により、検出動作制御に連動した所定のタイミングでインターフェースを介して反射光の分光特性を表すデータの入力を得るとともに、入力されたデータに基づき光学膜厚の値を算出する演算手段として機能する。
【0051】
図4は、本測定システム1の模式的な回路ブロック図である。
図4に示すように、制御演算装置50は、CPU500、ROM501、RAM502、ハードディスクなどの記憶装置503、通信装置504、メモリカード等の記憶媒体のリーダー・ライター505、測定装置80の各部やディスプレイ及び入力装置との間で信号のやりとりを行うためのインターフェース506を備える。分子間相互作用における光学膜厚を測定するためのプログラム、その他の測定等のためのプログラムは記憶装置503に記憶されており、このプログラムによってCPU500が各種の動作を実行するように制御される。
【0052】
続いて、制御演算装置50に分光特性が入力されるまでの測定システム1の動作及び測定方法について説明する。
【0053】
図3に示すとおり、アナライト62を含むサンプル溶液60を、流入口14cから密閉流路14bを経て流出口14dに流通させる。このとき制御演算装置50は、サンプル溶液60を送液するための送液装置35(
図4参照)の制御を行う。アナライト62とは、リガンド16と特異的に結合する物質であり、検出しようとする目的の分子である。アナライト62としては、例えばタンパク質,核酸,脂質,糖などの生体分子や、薬剤物質,内分泌錯乱化学物質などの生体分子と結合する外来物質などが使用される。
制御演算装置50は、サンプル溶液60を測定部材10に流入させる前のタイミングにおいて、白色光源20を点灯させ、分光器30から分子間相互作用の開始前の光学薄膜(SiN膜12b)の反射光の強度を示すデータを含む分光特性データの入力を得る。
【0054】
制御演算装置50は、サンプル溶液60が密閉流路14bを流通している間も、白色光源20を点灯させる。白色光はフローセル14を透過してセンサーチップ12に照射され、その反射光が分光器30で検出される。分光器30により検出された反射光の分光特性は制御演算装置50に送信される。
【0055】
この場合に、
図5に示すとおり、サンプル溶液60中のアナライト62がリガンド16と結合すると、光学的厚さ、すなわち光学膜厚70が変化し、反射光の特性(例えば、分光器30による検出強度が最も小さくなる波長)が変化する。制御演算装置50は、分光器30から、分子間相互作用の進捗中又は終了後の反射光の強度を示すデータを含む分光特性データの入力を得る。
【0056】
以上説明するようにして、干渉膜の光学膜厚の測定のために必要な分光特性データが制御演算装置50に入力される。
【0057】
さて、以上説明した本測定システム1の構成、機能、動作からわかるように、センサーチップ12は、基板(シリコン基板12a)上に1又は2以上の干渉膜(SiN膜12b)が積層した積層体に相当するものであり、本測定システム1は、積層体における該干渉膜の光学膜厚(光学膜厚70など)を反射干渉分光法により測定することができる。
また、光ファイバ40は、光源(白色光源20)からの光を積層体(センサーチップ12)に照射する照射手段に、光ファイバ41は、積層体(センサーチップ12)からの反射光を受光する受光手段に、分光器30は、反射光の分光特性を検出する分光検出手段に相当する。
また、RAM502は、制御演算装置50が光学膜厚を演算する際に参照するデータの記憶手段として機能する。そのデータの読み出し元は、記憶装置503、通信装置504を介して接続されるサーバ、インターフェース506を介して接続される外部記憶装置、リーダー・ライター505によって読み取られるメモリカード等のいずれであってもよい。また、通信装置504を介して干渉膜の光学膜厚の測定のために必要な分光特性データを受け取った他のコンピュータが干渉膜の光学膜厚の測定のため演算を行う場合など、ハードウエア構成は問わない。その場合、当該他のコンピュータは、本発明の光学膜厚測定システムの組み込まれるとともに、本発明の光学膜厚測定プログラムがインストールされたコンピュータである。
また、フローセル14は、干渉膜上に流路を形成する部材に相当し、上で説明したように測定装置80に、このフローセル14により形成される流路に接続し干渉膜上に設けられた分子と相互作用する分子を含んだ液体を当該流路に流す送液手段が構成される。
【0058】
次に、光学膜厚の2つの測定原理1,2につき説明する。
〔測定原理1〕
まず、測定原理1として以下のとおり説明する。
(参照データの作成)
本測定原理で測定を行う場合、光学膜厚を演算する際に参照するデータは、予め、干渉膜の光学膜厚が既知の積層体における分光反射率の極値を与える波長と当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておくことにより構成されるデータである。以下これにつき詳細に説明する。
【0059】
図6は、反射干渉分光法の原理を説明するための模式的モデル図である。
図6に示すように積層体は、基板a1と、その上に積層された膜厚dの干渉膜a2で構成され、干渉膜a2上を液体層a3が覆う。液体層a3、干渉膜a2、基板a1はそれぞれ順に屈折率n1、n2,n3を有する。これに
図6に示すようにある波長λ0の光a4が入射すると、そのうち干渉膜a2の表面で反射する反射光a5と、干渉膜a2を通過して基板a1との界面で反射する反射光a6がa7部で示すように干渉する。このとき、反射光a6は反射光a5より2n2dだけ光路が長くなる。その光路差2n2dが、反射光a5と反射光a6とに2分の1波長のずれを生じさせるとき、a7部に示すように最も反射強度を弱めるように干渉する。これによって照射する光の波長によって反射強度が異なり、白色光等の広波長帯域の光を照射することによって、波長により反射強度が変化する分光分布を得ることができる。
したがって、干渉膜a2の光学膜厚n2dに依存して、反射光の分光分布が異なるから、反射光の分光特性を分析することで、干渉膜a2の光学膜厚n2dと特定することができる。これが、反射干渉分光法を利用した本発明の基本原理である。反射光をどのように分析して光学膜厚を特定するかを以下の説明で明らかにする。
なお、上述のシリコン基板12aは基板a1に相当し、SiN膜12bは干渉膜a2に相当する。
図5に示すようにSiN膜12b上にリガンド16が設置されたとき、さらにアナライト62がリガンド16と結合したときは、その光学膜厚70相当部分をSiN膜12bに加えたものが干渉膜a2に相当する。
【0060】
反射干渉による分光反射率やその変化量の曲線は、干渉膜の膜厚が厚いほど、あたかも長波長方向に移動していくように変化する。
図7にその一例が示される。
図7に示す分光反射率変化量の曲線b1,b2,b3,b4は、曲線b1より曲線b2,曲線b2より曲線b3,曲線b3より曲線b4の方が、干渉膜が厚いものから得たものである。分光反射率変化量ΔRは、ある膜厚の干渉膜における分光反射率を基準にした変化量である。
図7に示すように、曲線b1→曲線b2→曲線b3→曲線b4の順でピーク位置が長波長側に移動していく。
また、ピークが移動するだけでなく、ピークの数が増加するように変化する。
これらのグラフから膜厚が厚くなるに従って分光反射率変化量曲線のピークが長波長側への移動とともに、ピークの数が増加することがわかる。膜厚増に従って、極大値を与える一つのピーク(トップピーク)が長波長側へ移動する。さらに膜厚増に従って、はじめのピークがさらに長波長側へ移動するとともに、その短波長側に極小値を与えるピーク(ボトムピーク)が出現し、かつ、はじめのトップピークとともに長波長側へ移動する。さらに長波長側への移動及びピーク数の増加が進行する。
なお、分光反射率Rに対し、
図7の縦軸は分光反射率の変化量ΔRとしているが、RでもΔRでも、以上のように観察されるピークの移動と増加の変化は同じように現れる。
【0061】
この変化特性は、干渉膜の光学膜厚に依存した特性である。したがって、分光反射率曲線やその変化量曲線からその極値を与える波長に着目して特徴を抽出することにより、干渉膜の物性によらず、干渉膜の光学膜厚による光学的性質を抽出することができる。そして、異なる物性の干渉膜の光学膜厚の測定に展開することができる。
【0062】
シミュレーションにより異なる膜厚の試料について分光反射率Rの曲線を計算し、その曲線において極値位置の波長λを求め、試料膜厚dと極値位置波長λの関係を
図8のグラフに記載した。これは、基板a1をシリコン基板とし、その上の干渉膜a2としてのSiN膜を66.5nmから2000nmの範囲で変化させて調べたものである。
図8のグラフにおいて実線は、試料膜厚に対する極大値位置の波長を、破線は試料膜厚に対する極小値位置の波長を示す。
図8のグラフの横軸の試料膜厚dを、干渉膜の屈折率nを乗じて光路長(光学膜厚)ndに換算し、縦軸の波長λを、1000/λに換算して作成したグラフが
図9に示される。
図9のグラフにあっては、最も左に極小値位置の波長を示す曲線が現れる。これを曲線B1とする。曲線B1から右へ行くと、極大値位置の波長を示す曲線が現れる。これを曲線P1とする。さらに曲線P1から右へ行くと、極小値位置の波長を示す曲線、極大値位置の波長を示す曲線が交互に現れる。これを順に曲線B2,P2,B3,P3,・・・B24,P24とする。曲線B1から曲線P24までをそれぞれ2次関数で近似してその近似2次関数を数式で示す。表現形式をy=ax2+bx+cとして、曲線B1から曲線P24のそれぞれに対応する係数a,b及び定数cを示すと次の表1のとおりとなる。
【0064】
以上の関数データが、本測定原理によって光学膜厚を演算する際に参照するデータ、すなわち、予め、干渉膜の光学膜厚が既知の積層体における分光反射率の極値を与える波長λと当該光学膜厚との関係を異なる光学膜厚について作成しておくことにより構成されるデータである。
かかる関数データを、光学膜厚を演算する演算するコンピュータ(制御演算装置50)で利用できるように記憶しておく。
【0065】
(光学膜厚の同定演算)
測定システム1にあっては制御演算装置50が分光器30から入力を受けた分光特性データに基づき、まず、測定対象の積層体における分光反射率について、当該分光反射率の極値を与える波長を特定する。極値は、極大値と極小値の別も含めて特定する。
図9のグラフにおいて、光学膜厚(横軸x)の任意の値において縦軸yに平行な線を引くと、曲線B1から曲線P24のいずれかに交わる。その交点のy座標がその光学膜厚において分光反射率曲線に極値を与える1000/λの値であり、曲線B1−24に交わる交点であればその極値は極小値、曲線P1−24に交わればその極値は極大値である。
これを逆算的に利用し、制御演算装置50は、測定対象から得られた分光反射率の極値を与える波長λを1000/λに換算してy値を求め、極大値と極小値の別を含めたy値の数、極値を与える波長の大小関係等を考慮し、さらには誤差を考慮して、可能性のある当てはめパターンに絞込みながら、上記2次関数に入力し、共通の解x、すなわち、光学膜厚nd値を同定する。制御演算装置50は、同定された光学膜厚nd値から、測定対象の積層体における干渉膜の光学膜厚を推定して出力する。
実際の測定にあたっては、解xが完全一致する場合はほとんど無いから、同定は、最も解xがより狭い範囲で互いに近似するものを特定することで行う。そして、例えば、分散している解xの平均値を推定した測定値として出力する。また、測定値として出力してよい近似度と、測定エラーとして出力する近似度との閾値を設けて測定の信頼性を一定に確保する。また、近似度も併せて出力してもよい。
可能性のある当てはめパターンとは、測定対象から得られた分光反射率曲線の極大値を短波長側から長波長方向へSP1,SP2・・・とし、極小値のそれをSB1、SB2・・・としたとき、SP1,SP2・・・を順にP1,P2・・・の式に当てはめるパターン、SP1,SP2・・・を順にP2,P3・・・の式に当てはめるパターン・・・や、SB1,SB2・・・を順にB1,B2・・・の式に当てはめるパターン、SB1,SB2・・・を順にB2,B3・・・の式に当てはめるパターン・・・などである。
これに対し、SP1をB1の式に当てはめるパターンは極大値と極小値の別が誤っているため、SP1をP2の式にSP2をP1の式に当てはめるパターンは、極値を与える波長の大小関係が誤っているため、可能性のある当てはめパターンに含めないことが適当である。
SP1とSP2の間にSB2が特定された場合において、SP1,SP2・・・を順にP2,P3・・・の式に当てはめて計算しているときに、SB2をB2の式に当てはめるパターンなども、極値を与える波長の大小関係が誤っているため、可能性のある当てはめパターンに含めないことが適当である。
【0066】
以上説明したようにして、測定システム1は測定原理1により、干渉膜a2の光学膜厚を測定する。測定システム1は測定原理1により、干渉膜a2に分子間相互作用により形成された層が含まれているか否かの別を問わず、あらゆる膜の光学膜厚を反射干渉分光法を利用して測定することができる。
【0067】
〔測定原理2〕
次に、測定原理2として以下のとおり説明する。
(参照データの作成)
本測定原理で測定を行う場合、光学膜厚を演算する際に参照するデータは、予め、光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されるデータである。以下これにつき詳細に説明する。
【0068】
本測定原理においても、上記測定原理1の項において
図6及び
図7を参照した事項を前提とする。
図7に示すように、波長に対する分光反射率の変化量ΔRの曲線は、上述したように干渉膜が厚くなることに伴ったピークの移動と増加の変化を示す。
【0069】
シミュレーションにより異なる膜厚の試料について分光反射率の変化量ΔRの曲線を計算し、その曲線において極値位置の波長λを求め、試料膜厚dと極値位置波長の関係を
図10のグラフに記載した。これは、基板a1をシリコン基板とし、その上に積層する第1干渉膜を66.5nmのSiN膜とする。第1干渉膜の上に積層する第2干渉膜をBK7として、第2干渉膜(BK7)を0nmから1000nmの範囲で変化させて調べたものであり、分光反射率の変化量ΔRは、基板a1と第1干渉膜とからなる第1積層体における分光反射率に対する第2干渉膜が付いた第2積層体における分光反射率の変化量である。
図10のグラフにおける横軸の試料膜厚dは、第2干渉膜(BK7)についてのものである。なお、BK7は、屈折率等の性質が特定されたシミュレーション上の仮想試料で、ガラスの代表的な一種に相当し、生体材料や高分子材料と屈折率が近いものである。
図10のグラフにおいて実線は、試料膜厚に対する極大値位置の波長を、破線は試料膜厚に対する極小値位置の波長を示す。
図10のグラフの横軸の試料膜厚dを、屈折率nを乗じて光路長(光学膜厚)ndに換算し、縦軸の波長λを、1000/λに換算して作成したグラフが
図11に示される。
図11のグラフにあっては、最も左に極大値位置の波長を示す曲線が現れる。これを曲線P1とする。曲線P1から右へ行くと、極小値位置の波長を示す曲線が現れる。これを曲線B1とする。さらに曲線B1から右へ行くと、極大値位置の波長を示す曲線、極小値位置の波長を示す曲線が交互に現れる。これを順に曲線P2,B2,P3,B3・・・B7,P8とする。曲線P1から曲線P8までをそれぞれ2次関数で近似してその近似2次関数を数式で示す。表現形式をy=ax2+bx+cとして、曲線P1から曲線P8のそれぞれに対応する係数a,b及び定数cを示すと次の表2のとおりとなる。
【0071】
以上の関数データが、本測定原理によって光学膜厚を演算する際に参照するデータ、すなわち、予め、光学膜厚が既知の第1干渉膜が積層した第1積層体における分光反射率と、前記第1積層体の干渉膜の上に光学膜厚が既知の第2干渉膜が積層した第2積層体における分光反射率と、を求め、第1積層体における分光反射率に対する第2積層体における分光反射率の変化量の極値を与える波長と第2干渉膜の光学膜厚との関係を、異なる第2干渉膜の光学膜厚について予め作成しておくことにより構成されるデータである。
かかる関数データを、光学膜厚を演算する演算するコンピュータ(制御演算装置50)で利用できるように記憶しておく。
【0072】
(光学膜厚の同定演算)
測定システム1にあっては、まず分子間相互作用の開始前において制御演算装置50が分光器30から入力を受けた分光特性データに基づき、測定対象の積層体における分子間相互作用の開始前の分光反射率を得る。
分子間相互作用の開始後、制御演算装置50が分光器30から入力を受けた分光特性データに基づき、測定対象の積層体における分子間相互作用の開始後の分光反射率を得る。
開始後の分光反射率を得たら、制御演算装置50は、測定対象の積層体の分子間相互作用の開始前における分光反射率に対する、同測定対象の積層体の分子間相互作用の開始後における分光反射率の変化量ΔRの極値を与える波長を特定する。極値は、極大値と極小値の別も含めて特定する。
図11のグラフにおいて、光学膜厚(横軸x)の任意の値において縦軸yに平行な線を引くと、曲線P1,B1・・・曲線P8のいずれかに交わる。その交点のy座標がその光学膜厚において分光反射率変化量曲線に極値を与える1000/λの値であり、曲線P1−P8に交わる交点であればその極値は極大値、曲線B1−B7に交わればその極値は極小値である。
これを逆算的に利用し、制御演算装置50は、測定対象から得られた分光反射率変化量の極値を与える波長λを1000/λに換算してy値を求め、極大値と極小値の別を含めたy値の数、極値を与える波長の大小関係等を考慮し、さらには誤差を考慮して、可能性のある当てはめパターンに絞込みながら、上記2次関数に入力し、共通の解x、すなわち、光学膜厚nd値を同定する。後は測定原理1と同様にして制御演算装置50は、同定された光学膜厚nd値から、測定対象の積層体における干渉膜の光学膜厚を推定して出力する。
【0073】
以上説明したようにして、測定システム1は測定原理2により、干渉膜a2の分子間相互作用により増加した光学膜厚を測定することができる。すなわち、測定システム1は測定原理2により、
図5に示したようにリガンド16に結合したアナライト62相当分の光学膜厚を測定することができる。
分子間相互作用の進捗により、アナライト62が結合したリガンド16が次第に増加していく。一部でもアナライト62が結合すれば反射干渉する波長に変化があるため、分子間相互作用の初期においても分光反射率変化量の曲線が得られる。このとき、アナライト62が結合した部分の光学膜厚は分子間相互作用の進捗度によらず一定であるから、分子間相互作用の初期においても分光反射率変化量の極値を与える波長を特定することができる。すなわち、分子間相互作用の初期において特定した分光反射率変化量の極値は、その後に特定されるそれと変わらない。したがって、測定システム1は、はじめに分光反射率変化量の極値を与える波長を特定できた段階から光学膜厚の測定値を演算出力することができ、早期にユーザーに知らせることができる。
サンプル溶液60に複数種の分子が含まれる場合、各分子は固有の大きさを有することとなる。異なる大きさの分子が含まれていても、本発明を適用すれば、目的の分子(アナライト62)の分子間相互作用により変化する光学膜厚が既知である場合、当該既知の光学膜厚の値と、測定された光学膜厚の値とを照合し、一致すれば目的の分子の分子間相互作用があったと、一致しなければ目的の分子の分子間相互作用が無かったと判別できるので、目的の分子の分子間相互作用の有無を検出することができる。
【0074】
(膜厚測定)
以上の実施形態においては、リガンド16に結合したアナライト62相当分の光学膜厚を測定したが、屈折率が既知の分子については膜厚を求めることができる。膜厚を測定する膜厚算出手段として機能し膜厚測定システムを構成する場合、制御演算装置50は、当該分子(アナライト62)の屈折率を予めRAM502に記憶保持し、上述した通りに求めた分子の光学膜厚を当該分子の屈折率で除することにより、当該分子の膜厚を求める。
【0075】
(分子方向推定)
さらに分子の特定方向の大きさ又は光学的大きさが既知であれば、分子の干渉膜に対する方向を推定することができる。
図18Aに示すように、ある方向の大きさd1とこれと異なる方向の大きさd2を有する分子が、
図18Bに示すように大きさd1を積層方向として干渉膜に吸着する可能性と、
図18Cに示すように大きさd2を積層方向として干渉膜に吸着する可能性とがある場合において、分子方向推定手段として機能し分子方向推定システムを構成するために制御演算装置50は、大きさd1及び大きさd2を予めRAM502に記憶保持し、上述した通りに求めた分子の膜厚を、大きさd1及び大きさd2とそれぞれ比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する。
大きさd1及び大きさd2が光学的大きさ、すなわち、実際の大きさに屈折率を乗じた値である場合には、制御演算装置50は、これらの光学的大きさを予めRAM502に記憶保持し、上述した通りに求めた分子の光学膜厚を、これらの光学的大きさとそれぞれ比較することにより、分子間相互作用により干渉膜上に吸着した分子の当該干渉膜に対する方向を推定する。
一方向のみ大きさ又は光学的大きさが既知でRAM502に記憶保持している場合にも、その方向で吸着したか否かを推定することができる。
【0076】
(環境変化特性の記録)
分子の置かれる測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数の変化により、当該分子が伸縮することがあり、分子によってその変化特性が異なる。
測定システム1に測定環境制御装置又は測定環境検知装置を備えることで、環境変化による分子の大きさの変化特性を記録することができる。
例えば、測定環境制御装置として、測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数のうちいずれか一又は二以上を制御するものを備える。測定環境制御装置の検知部は、制御される環境変数の値を検知する。
制御演算装置50はプログラムに基づき測定環境制御装置に指令を与えて環境変数に変化を与えつつ、環境変数が変化した異なる各時点について上述した通りに求めた分子の光学膜厚又は膜厚を、同時点における当該環境変数と対応付けてRAM502に記憶する。
また環境変化原因が測定対象側にある場合など、環境変化原因を測定システム1から与える必要がない場合は、例えば、測定環境検知装置として、測定環境の温度、圧力、pH、塩濃度等の環境変数のうちいずれか一又は二以上を検知するものを備える。
制御演算装置50は、環境変数が変化した異なる各時点について上述した通りに求めた分子の光学膜厚又は膜厚を、同時点において測定環境検知装置が検知した環境変数と対応付けてRAM502に記憶する。
いずれの場合もさらに測定システム1は、以上の記録した情報に基づき、グラフを描画しディスプレイ91に表示出力する。
【0077】
なお、上記プログラムは、LANなどを通じてインターネットなどの公衆回線に接続された通信装置504を通じて、適宜、最新のものに更新することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、抗原抗体反応などの生体分子同士の分子間相互作用や、有機高分子同士の分子間相互作用などの結合の測定に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 測定システム
10 測定部材
12 センサーチップ(積層体)
12a シリコン基板
12b SiN膜
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40、41 光ファイバ
50 制御演算装置
60 サンプル溶液
62 アナライト
80 測定装置
R 分光反射率
ΔR 分光反射率の変化量
a1 基板
a2 干渉膜
a3 液体層