(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979149
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/46 20060101AFI20160817BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20160817BHJP
F16D 55/28 20060101ALI20160817BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20160817BHJP
【FI】
F16D65/46 S
F16D65/18
F16D55/28 B
F16D121:22
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-537545(P2013-537545)
(86)(22)【出願日】2012年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2012075767
(87)【国際公開番号】WO2013051643
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223341(P2011-223341)
(32)【優先日】2011年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】上野 真
【審査官】
佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−38043(JP,U)
【文献】
特開平11−230203(JP,A)
【文献】
特開平7−35175(JP,A)
【文献】
特開2010−106981(JP,A)
【文献】
特開2009−214954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面側に電磁コイルが配置されたヨークを有し、このヨークに所定間隔を隔ててエンドディスクを固定し、このヨークとエンドディスクとの間で移動可能なアーマチュアディスクを配置するとともに、このアーマチュアディスクを制動ばねによりヨークの端面から離れる方向に常時押圧するように構成する一方、前記アーマチュアディスクとエンドディスクとの間に外部の回転伝達軸に取付け可能なハブと一体に回転するインナディスクを配置し、アーマチュアディスクによりインナディスクを常時エンドディスク側に押圧するように構成した電磁ブレーキであって、
前記ハブの端面側に保持リングを配置し、この保持リングにインナディスクを一体に固定する一方、回転伝達軸が挿通可能でかつ保持リングと螺合するアジャストリングを配置するとともにアジャストリングの先端をハブの端面に当接可能に配置し、さらにアジャストリングおよびハブを磁性体で構成したことを特徴とする電磁ブレーキ。
【請求項2】
保持リングは中心側にめねじ部を設け、アジャストリングに前記めねじ部と螺合するおねじ部を設け、このおねじ部をハブの端面に当接可能に配置したことを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ。
【請求項3】
インナディスクは非磁性体でなることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁ブレーキ。
【請求項4】
インナディスクおよび保持リングは磁性体でなることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁ブレーキ。
【請求項5】
アーマチュアディスクとインナディスクとの間にアウタディスクを配置し、このアウタディスクのアーマチュアディスク側に消音シートを貼付したことを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの回転が伝達される回転伝達軸を組付ける時に簡単な調整作業でブレーキ解放時の異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無励磁作動形の電磁ブレーキとしては、
図10および
図11に示すものがある。この電磁ブレーキ51は、フランジ部52aを備えた円柱状の磁性体でなるヨーク52を有し、その中心部には後記ハブ53の先端が位置できるように中空孔52bが設けられている。前記ヨーク52には端面側に露出して電磁コイル55が配置されており、後記アーマチュアディスク56をヨーク52の端面側に吸着するように構成されている。また、前記ヨーク52には電磁コイル55の内側に位置して等間隔に4か所において制動ばね57が配置されており、アーマチュアディスク56をヨーク52の端面から離れる方向に常時押圧するように構成されている。さらに、前記ヨーク52には端面側に位置して等間隔に6個のスタッドボルト58が取付けられており、このスタッドボルト58の頭部58aに案内されてアーマチュアディスク56が配置されている。このアーマチュアディスク56は磁性体でなっており、電磁コイル55の通電時にヨーク52の端面側に吸着されるように構成されている。しかも、このスタッドボルト58はヨーク52と反対側に延びるねじ部58bを有し、このねじ部58bには調整ライナ61を介して磁性体でなるエンドディスク62が一体になるように固定されている。
【0003】
前記ヨーク52とエンドディスク62との間には、駆動源等の外部からの回転が伝達される回転伝達軸(図示せず)と一体のハブ53が配置されており、このハブ53のエンドディスク62側外周には外歯スプライン53aが形成されている。また、このハブ53の周囲には中心側に内歯スプライン63aを持つインナディスク63が配置されており、この内歯スプライン63aがハブ53の外歯スプライン53aと係合し、ハブ53とインナディスク63とが一体に回転かつインナディスク63がハブ53に対して移動可能に構成されている。さらに、前記ハブ53は磁性体で構成され、インナディスク63は非磁性体で構成されており、電磁コイル55の通電時にはハブ53は磁化されるが、インナディスク63は磁化されないように構成されている。しかも、前記インナディスク63の外周付近の両面にはブレーキライニング64が貼付されており、このブレーキライニング64を介してインナディスク63がアーマチュアディスク56とエンドディスク62とにより挟持される時、インナディスク63の滑りが解消されるように構成されている。
【0004】
また、前記ヨーク52とエンドディスク62との間隔はアーマチュアディスク56、インナディスク63、ブレーキライニング64の各厚みの合計よりもわずかに大きく設定されており、電磁コイル55の通電時のアーマチュアディスク56とインナディスク63とが移動できるギャップが形成されている。
【0005】
前記インナディスク63にはハブ53の端面を覆うように皿形状の保持リング67が固定ボルト73により固定されており、保持リング67とインナディスク63とが一体に移動するように構成されている。前記保持リング67は中央部に開口67aを有し、この開口67aには軸受(図示せず)を介して前記回転伝達軸が挿通可能に配置され、保持リング67がこの回転伝達軸に沿って移動可能に構成されている。また、前記保持リング67とインナディスク63とは非磁性体でなっており、電磁コイル55の通電時にヨーク52の端面側に吸着されないように構成されている。さらに、前記保持リング67にはハブ53の端面に当たる位置に等間隔に3か所において高さ位置調整ボルト72が配置されており、高さ位置調整ボルト72の先端がハブ53の端面に当接するように構成されている。この高さ位置調整ボルト72は、ブレーキ解放時にフリー状態となるインナディスク63の最前進位置を規制し、インナディスク63がアーマチュアディスク56に当接しないように保持リング67とハブ53の端面との間隙を調整できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭58−38043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記電磁ブレーキでは、インナディスク63の最前進位置の調整を3か所に取付けた高さ位置調整ボルト72で行うが、例えば、高さ位置調整ボルト72にM5ボルトを用いた場合には、1回転あたり、0.8mmの調整代しかない。しかも、M5ボルトのおねじ部と保持リング67の雌ねじ部とを螺合させるための間隔(バックラッシュ)の影響を受けるため、コンマ数mmの隙間調整を行うのは大変難しい上に、このような隙間調整を3か所にわたって行うのは非常に労力を要し、調整が不適切となることが少なくない。そして、調整が不適切であると、ブレーキ解放時にはフリー状態となったインナディスク63の回転にともないインナディスク63に貼付されたブレーキライニング64がアーマチュアディスク56に接触した場合、異音が発生する恐れがある。また、フリー状態のインナディスク63はハブ53の回転時の振動により動くので、インナディスク63の内歯スプライン63aとハブ53の外歯スプライン53aとが接触を繰り返し、異音が発生するなどの不具合も生じ得る。
【0008】
本発明の第1の目的は、このような不具合を払拭することであり、組立て時の簡単な調整作業でブレーキ解放時の異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することである。
【0009】
また、本発明の第2の目的は上記目的に加え、消音効果を高めた電磁ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の目的を達成するために、端面側に電磁コイルが配置されたヨークを有し、このヨークに所定間隔を隔ててエンドディスクを固定し、さらにこのヨークとエンドディスクとの間で移動可能なアーマチュアディスクを配置するとともに、このアーマチュアディスクを制動ばねによりヨークの端面から離れる方向に常時押圧するように構成する一方、前記アーマチュアディスクとエンドディスクとの間に外部の回転伝達軸に取付け可能なハブと一体に回転するインナディスクを配置し、インナディスクをアーマチュアディスクを介して常時エンドディスク側に押圧するように構成した電磁ブレーキであって、前記ハブの端面側に保持リングを配置し、この保持リングにインナディスクを一体に固定する一方、前記回転伝達軸が挿通可能でかつ保持リングと螺合するアジャストリングを配置し、このアジャストリングの先端をハブの端面に当接可能に配置し、さらにアジャストリングおよびハブを磁性体で構成したことを特徴とする。
【0011】
このように構成することにより、インナディスクの最前進位置の調整に際して、保持リングにアジャストリングを螺入すると、その先端面の全面がハブの端面に対して均等に前進する。そのため、アジャストリングの先端の全面が同時にハブ端面に当接できるので、アジャストリング、保持リングおよびインナディスクの位置を簡単に調整することができる。また、インナディスクの最前進位置の調整幅が1mm以下と小さくても不適切な調整が行われることがないので、ブレーキが解放された状態でインナディスクが回転しても、インナディスクがアーマチュアディスクに接触することがなく、異音の発生を皆無にすることができる。さらに、ブレーキが解放されるときには、インナディスクはフリー状態となっているが、同時に電磁コイルの通電によりアジャストリングはハブとともに磁化され、ハブ側に吸着される。そのため、保持リングに防振機構を設けなくても、アジャストリングと一体に設けられた保持リングは振動しないし、この保持リングに一体に設けられたインナディスクも振動しない。
【0012】
このように、インナディスクと保持リングとはアジャストリングを介してハブに吸着固定されており、これら各部同士が振動等により接触して異音が発生することがなくなる。
【0013】
前記保持リングとアジャストリングとの螺合の具体的構成として、保持リングの中心側にめねじ部を設け、アジャストリングに前記めねじ部と螺合するおねじ部を設け、このおねじ部を前記ハブの端面に当接可能に配置しても、同様の効果が得られる。
【0014】
また、前記インナディスクを非磁性体としても、同様の効果が得られる。
さらに、インナディスクを磁性体としてもよく、この場合保持リングを磁性体としても、同様の効果が得られる。
【0015】
本発明は第2の目的を達成するために、前述の構成に加え、アーマチュアディスクとインナディスクとの間に消音シートが貼り付けられたアウタディスクを配置したことを特徴とする。
【0016】
この構成により、電磁コイルが非通電になると、アーマチュアディスクがエンドディスク側に押圧されてインナディスクにブレーキが加わるが、インナディスク停止時の衝撃によりインナディスクとハブとの係合面で接触が起こって異音が発生しても、アウタディスクに貼付された消音シートとによりこの異音を解消することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した本発明によれば、外部からの回転が伝達される回転伝達軸を組付ける時に簡単な調整作業でブレーキ解放時の異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明の第1の実施形態にかかる電磁ブレーキの平面図
【
図4】本発明の第1の実施形態にかかる電磁ブレーキのブレーキ作動時の要部拡大断面図
【
図5】本発明の第1の実施形態にかかる電磁ブレーキのブレーキ解放時の要部拡大断面図
【
図6】本発明の第2の実施形態にかかる電磁ブレーキの要部断面図
【
図7】第2の実施形態にかかる電磁ブレーキのブレーキ作動時の要部拡大断面図
【
図8】第2の実施形態にかかる電磁ブレーキのブレーキ解放時の要部拡大断面図
【
図9】本発明の第3の実施形態にかかる2段積み電磁ブレーキの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1および
図2に示すように、この実施形態の無励磁形の電磁ブレーキ1は、縦置きに配置されて使用されるものである。この電磁ブレーキ1はフランジ部2aを備えた円柱状をなす磁性体のヨーク2を有し、その中心部には後記ハブ3の先端が位置できるように中空孔2bが設けられている。前記ヨーク2のフランジ部2aには等間隔に取付孔(図示せず)が設けられており、ヨーク2を固定ボルト4により任意の位置に取付け可能に構成されている。前記ヨーク2には端面側に露出して電磁コイル5が配置されており、後記アーマチュアディスク6をヨーク2の端面側に吸着できるように構成されている。また、前記ヨーク2には電磁コイル5の内側に位置して等間隔に4か所において制動ばね7が配置されており、アーマチュアディスク6を常時ヨーク2の端面から離れる方向に押圧するように構成されている。
【0021】
前記ヨーク2には端面側に位置して等間隔に6個のスタッドボルト8が取付けられており、このスタッドボルト8の頭部8aは案内軸を兼用し、この頭部8aに沿ってアーマチュアディスク6が移動可能なように配置されている。このアーマチュアディスク6には段付き開口6aが設けられており、この段付き開口6aにはハブ3が挿通可能に構成されている。また、このアーマチュアディスク6は磁性体でなっており、前記電磁コイル5の通電時にヨーク2の端面側に吸着されるように構成されている。さらに、このアーマチュアディスク6の外周にはドグ9が取付けられており、このドグ9の接近がヨーク2に取付けられた近接センサ10により検出されるように構成されている。
【0022】
前記スタッドボルト8はアーマチュアディスク6と反対側に延びるねじ部8bを有し、このねじ部8bには調整ライナ11を介して磁性体でなるエンドディスク12がスタッドボルト8と一体になるように固定されている。前記エンドディスク12とヨーク2との間隙は、アーマチュアディスク6と後記インナディスク13と後記ブレーキライニング14の各厚みの合計よりもわずかに大きく設定され、アーマチュアディスク6およびインナディスク13の移動を可能にするギャップが形成されている。また、アーマチュアディスク6の外周側の3か所には
図3に示すように遊挿孔6bが穿設されており、この遊挿孔6bにはヨーク2に螺合するブレーキ解放ボルト15が配置されている。このブレーキ解放ボルト15はアーマチュアディスク6を2か所からヨーク2側に押圧し、インナディスク13へのブレーキを強制的に解除できるように構成されている。
【0023】
前記アーマチュアディスク6とエンドディスク12との間には、駆動源等の外部の回転伝達軸16に取付け可能なハブ3が一部をヨーク2内に位置させて配置されており、このハブ3のエンドディスク12側外周には外歯スプライン3aが形成されている。また、このハブ3の周囲には中心側に内歯スプライン13aを持つインナディスク13が配置されており、この内歯スプライン13aがハブ3の外歯スプライン3aと係合し、ハブ3とインナディスク13とが一体に回転かつインナディスク13がハブ3に対して移動可能に構成されている。さらに、このインナディスク13は前記アーマチュアディスク6を介してエンドディスク12側に常時押圧されており、アーマチュアディスク6がヨーク2側に吸着されるときにはインナディスク13はフリー状態となるように構成されている。
【0024】
前記ハブ3は磁性体で構成され、インナディスク13は非磁性体で構成されており、電磁コイル5の通電時にはハブ3は磁化されるが、インナディスク13は磁化されないように構成されている。また、前記インナディスク13の外周付近の両面にはブレーキライニング14が貼付されており、このブレーキライニング14を介してインナディスク13がアーマチュアディスク6とエンドディスク12とにより挟持され(
図3参照)、インナディスク13にブレーキが加わる時インナディスク13の滑りが解消されるように構成されている。なお、前記インナディスク13は磁性体であってもよい。
【0025】
前記インナディスク13にはハブ3の端面側に位置してこれを覆うように皿形状をなす保持リング17が固定ボルト23により固定されており、インナディスク13と一体に回転するように構成されている。前記保持リング17は中央付近にめねじ部17aを有し、このめねじ部17aにはアジャストリング18のおねじ部18aが螺合するように構成されている。このおねじ部18aの先端は前記ハブ3の端面に当接可能に構成されており、インナディスク13の最前進位置を規制するように構成されている。また、前記アジャストリング18は開口18bを有し、この開口18b内には軸受(図示せず)を介して前記回転伝達軸16が挿通され、アジャストリング18が回転伝達軸16に沿って移動できるように構成されている。
【0026】
前記アジャストリング18はフランジ部18cを有し、その外周面にはローレットが設けられ、作業者が手作業でアジャストリング18に回転を与えることができるように構成されている。また、このアジャストリング18にはその外周を3分割する位置に取付ボルト19が配置され、この取付ボルト19の移動路に面して保持リング17には外周を12分割する位置にねじ孔17bが穿設されている。前記取付ボルト19とねじ孔17bとにより、アジャストリング18を30度ごとに回転させた各位置でアジャストリング18と保持リング17とを一体に固定できるように構成されている。前記アジャストリング18は磁性体で構成され、保持リング17は非磁性体で構成されており、電磁コイル5の通電時には保持リング17は磁化せず、アジャストリング18がハブ3の端面側に吸着されるように構成されている。
【0027】
なお、前記保持リング17にめねじ部17aを設けてアジャストリング18におねじ部18aを設けてこれらを螺合部とする代わりに、保持リング17の外周におねじ部(図示せず)を設けてアジャストリング18に前記おねじ部に螺合するめねじ部(図示せず)を設け、これらを螺合部としてもよい。また、インナディスク13を磁性体としてもよく、この場合保持リング17を磁性体としてもよい。
【0028】
以下に、電磁ブレーキ1を組立てる際の調整作業について説明する。上記電磁ブレーキでは、ヨーク2を所定位置に取付けた後、取付ボルト19を保持リング17から離脱するまで緩め、回転駆動源等の外部の回転を伝達する回転伝達軸16にハブ3を組付ける。この時、ハブ3の上部がアーマチュアディスク6とエンドディスク12との間に位置し、電磁コイル5が非通電状態の時には、制動ばね7によりアーマチュアディスク6がインナディスク13をエンドディスク12側(
図4中、矢印参照)に押圧する。この状態で、作業者が手作業でアジャストリング18を保持リング17に対して後退する方向に回転させた後、このアジャストリング18を締まる方向に螺入して保持リング17に対して前進させる。その後、作業者がアジャストリング18をハブ3側に押し込むことにより、保持リング17およびインナディスク13並びにブレーキライニング14を介してアーマチュアディスク6が制動ばね7に抗して押し込まれる。この時、近接センサ10がアーマチュアディスク6の接近を検出しているか否かを作業者が確認する。この作業が繰り返され、アーマチュアディスク6の接近が近接センサ10により検出されると、作業者はアジャストリング18をその位置から1分割分または2分割分(30〜60度)さらに締める方向に追加回転させる。そのため、アジャストリング18のおねじ部18aが保持リング17に対して1/12ピッチまたは1/6ピッチだけさらに前進する。この追加回転によるおねじ部18aの前進により、アジャストリング18のおねじ部18aがハブ3の端面に当接するときのインナディスクの位置、すなわちインナディスク13の最前進位置が後退することになる。この位置で保持リング17とアジャストリング18とが取付ボルト19により固定され、アジャストリング18の調整が完了する。この時、アジャストリング18の先端面の全面がハブ3の端面に対して均等に前進して、アジャストリング18の先端の全面が同時にハブ端面に当接できる。そのため、主にはアジャストリング18を保持リング17に螺入するだけといった簡単な作業で、保持リング17と一体のインナディスク13の最前進位置を調整することができる。
【0029】
また、インナディスク13の最前進位置の調整幅が1mm以下と小さくても保持リング17に設けられためねじ部17aのピッチを小さくすれば、たとえばこのめねじ部17aのピッチを1mmとすれば、アジャストリング18を1分割回転させることにより保持リング17およびインナリング13を約0.08mm後退させることができる。この後退量は、前記調整幅よりも十分に小さいので、アジャストリング18を保持リング17に螺入するだけで、インナディスク13の最前進位置の調整を適切に行うことができる。
【0030】
次に、実際の使用状態について説明する。前記アジャストリング18の調整が完了した後、電磁コイル5を通電状態にすると、
図5に示すようにアーマチュアディスク6がヨーク2側に(矢印参照)吸着され、ブレーキが解放されてインナディスク13はフリー状態となる。同時に、電磁コイル5の通電によりハブ3とアジャストリング18とが磁化され、アジャストリング18がハブ3に吸着される。この吸着によるアジャストリング18の移動にともない、保持リング17およびインナディスク13がアーマチュアディスク6側に移動するが、インナディスク13に貼付されたブレーキライニング14がアーマチュアディスク6に当接する直前で(アジャストリング18の調整時に行った追加回転による前進分を残して)アジャストリング18のおねじ部18aがハブ3の端面に当たって停止する。そのため、インナディスク13の両面のブレーキライニング14とアーマチュアディスク6、エンドディスク12それぞれとの間に間隙ができる。この間隙により、回転伝達軸16の回転時にインナディスク13が一体に回転するが、インナディスク13に貼付されたブレーキライニング14がアーマチュアディスク6、エンドディスク12のいずれにも接触することがなく、異音の発生を皆無にすることができる。また、保持リング17に防振機構を設けなくても、アジャストリング18がハブ3に吸着されるため、アジャストリング18の回転伝達軸16に沿った移動がなくなり、アジャストリング18と一体に設けられた保持リング17は振動しないし、この保持リング17に一体に設けられているインナディスク13も振動しない。
【0031】
このように、インナディスク13と保持リング17とはアジャストリング18を介してハブ3に吸着固定されており、これら各部同士が振動等により接触して異音が発生することがなくなる。また、インナディスク13の内歯スプライン13aとハブ3の外歯スプライン3aとの係合部での接触がなくなり、この係合部での異音の発生を皆無にすることができる。
【0032】
以上説明したように、本発明の実施形態は端面側に電磁コイル5が配置されたヨーク2を有し、このヨーク2に所定間隔を隔ててエンドディスク12を固定し、このヨーク2とエンドディスク12との間で移動可能なアーマチュアディスク6を配置するとともに、このアーマチュアディスク6を制動ばね7によりヨーク2の端面から離れる方向に常時押圧するように構成する一方、アーマチュアディスク6とエンドディスク12との間に外部の回転伝達軸に取付け可能なハブ3と一体に回転するインナディスク13を配置し、インナディスク13をアーマチュアディスク6を介して常時エンドディスク12側に押圧するように構成した電磁ブレーキであって、
【0033】
前記ハブ3の端面側に保持リング17を配置し、この保持リング17にインナディスク13を一体に固定する一方、回転伝達軸が挿通可能でかつ保持リング17と螺合するアジャストリング18を配置し、このアジャストリング18の先端をハブ3の端面に当接可能に配置し、さらにアジャストリング18およびハブ3を磁性体で構成したことを特徴とする。
【0034】
このように構成することにより、インナディスク13の最前進位置の調整に際して、保持リング17にアジャストリング18を螺入すると、その先端面の全面がハブ3の端面に対して均等に前進する。そのため、アジャストリング18の先端の全面が同時にハブ3の端面に当接できるので、アジャストリング18、保持リング17およびインナディスク13の最前進位置を簡単に調整することができる。また、インナディスク13の最前進位置の調整幅が1mm以下と小さくても不適切な調整が行われることがないので、電磁コイル5を通電させてブレーキを解放している時にはインナディスク13が回転していてもアーマチュアディスク6に接触することがなく、異音の発生を皆無にすることができる。さらに、ブレーキ解放時には、インナディスク13はフリー状態となるが、同時に電磁コイル5の通電によりアジャストリング18はハブ3とともに磁化され、ハブ3側に吸着される。そのため、保持リング17に防振機構を設けなくても、アジャストリング18と一体に設けられた保持リング17は振動しないし、この保持リング17に一体に設けられているインナディスク13も振動しない。
【0035】
このように、インナディスク13と保持リング17とはアジャストリング18を介してハブ3に吸着固定されており、これら各部同士が振動等により接触して異音が発生することがなくなる。また、インナディスク13の内歯スプライン13aとハブ3の外歯スプライン3aとの係合部での接触がなくなり、この係合部での異音の発生を皆無にすることができる。
【0036】
<第2実施形態>
本発明の第2の実施形態について説明する。本発明の第2の実施形態は第1の実施形態に記載のアーマチュアディスク6とインナディスク13との間に吸着シート20を貼付したアウタディスク21を挿入したことを特徴としている。すなわち、
図6および
図7に示すように電磁コイル5と制動ばね7とを備えたヨーク2が設けられており、このヨーク2にはスタッドボルト8および調整ライナ11を介してエンドディスク12が固定されている。前記スタッドボルト8の頭部8aに案内されるようにアーマチュアディスク6が配置されており、このアーマチュアディスク6は制動ばね7により常時ヨーク2の端面から離れる方向に押圧されている。また、前記スタッドボルト8の頭部8aに案内されて、アウタディスク21が配置されており、このアウタディスク21のアーマチュアディスク6側には消音シート20が貼付されている。さらに、前記アウタディスク21は磁性体でなっており、電磁コイル5の通電時にはアーマチュアディスク6とともにヨーク2側に吸着されるように構成されている。
【0037】
一方、前記アウタディスク21とエンドディスク12との間には、駆動源等の外部の回転伝達軸に取付け可能なハブ3が一部をヨーク2内に位置させて配置されており、このハブ3のエンドディスク12側外周には外歯スプライン3aが形成されている。また、前記ハブ3の周囲には中心側に内歯スプライン13aを持つインナディスク13が配置されており、この内歯スプライン13aがハブ3の外歯スプライン3aと係合し、ハブ3とインナディスク13とが一体に回転し、かつインナディスク13がハブ3に対して移動可能に構成されている。さらに、前記インナディスク13は前記アーマチュアディスク6を介してエンドディスク12側に常時押圧され、インナディスク13にブレーキが働くように構成されている。前記ハブ3は磁性体で、インナディスク13は非磁性体で構成されており、電磁コイル5通電時にはハブ3は磁化されるが、インナディスク13は磁化されないように構成されている。また、前記インナディスク13の外周付近にはブレーキライニング14が貼付されており、このブレーキライニング14を介してインナディスク13がアーマチュアディスク6とエンドディスク12とにより挟持され、インナディスク13の滑りが解消されるように構成されている。さらに、前記ヨーク2とエンドディスク12との間隔はアーマチュアディスク6、インナディスク13、ブレーキライニング14、アウタディスク21、消音シート20の各厚みの合計よりもわずかに大きく設定されており、電磁コイル5の通電時のアーマチュアディスク6、インナディスク13およびアウタディスク21が移動できるギャップが形成されておる。
【0038】
上記電磁ブレーキによれば、第1の実施形態と同様の作用効果のほかに、電磁コイル5の非通電時に発生する異音を解消することができる。すなわち、
図8に示すように電磁コイル5の通電時にはアーマチュアディスク6およびアウタディスク21はヨーク2側に吸着され、インナディスク13に貼付されたブレーキライニング14はアウタディスク21、エンドディスク12のいずれとも接触しない。そのため、インナディスク13の回転による異音の発生はない。また、電磁コイル5が非通電となる時には、アーマチュアディスク6がエンドディスク12側に押圧されてインナディスク13にブレーキを加える。このブレーキ時には、アウタディスク21とインナディスク13に貼付されたブレーキライニング14との間、ブレーキライニング14とエンドディスク12との間およびインナディスク13の内歯スプライン13aとハブ3の外歯スプライン3aとの間での接触による異音が発生する。しかしながら、これら異音が発生しても、アウタディスク21に貼付された消音シート20によりこれら異音を消音することができる
【0039】
なお、本発明の第1の実施形態、第2の実施形態のいずれも、縦置き配置について説明されているが、横置き配置であっても同様の効果がもたらされる。さらに、縦置き配置は正置、倒置を問わず、さらには縦置きと横置きの間の斜め置きにしても上記と同様の効果が奏されることを実験により確認している。
【0040】
<第3実施形態>
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した電磁ブレーキを2段積みとしたことを特徴とする。すなわち、2段積み電磁ブレーキ31(第1の実施形態に記載の電磁ブレーキについて説明する)は、
図9に示すように、外部の回転伝達軸16に所定の隙間をおいて連結される第1電磁ブレーキ31Aと第2電磁ブレーキ31Bとを有している。これら第1電磁ブレーキ31Aおよび第2電磁ブレーキ31Bは、第1の実施形態と同一の構成をなしており、その説明を省略する。また、前記回転伝達軸16は段付軸でなっており、この回転伝達軸16に第1電磁ブレーキ31Aのハブ3と、第1電磁ブレーキ31Aの上方に位置する第2電磁ブレーキ31Bのハブ3とが一体に回転するように固定されている。前記隙間は、第1電磁ブレーキ31Aの取付けボルト19を保持リング17に着脱するに際して支障がなく、また作業者がこの取付けボルト19を使用してアジャストリング18を回転させるに際して支障がない隙間となっている。
【0041】
上記2段積み電磁ブレーキ31では、第1電磁ブレーキ31Aと第2電磁ブレーキ31Bとの間の隙間に作業者が手を入れて、第1の実施形態と同様に取付けボルト19の着脱を行うとともに、アジャストリング18を保持リング17に対して螺入してインナディスク13の最前進位置の調整を行うことができ、従来の電磁ブレーキではなし得ない強力なブレーキ性能を持つ電磁ブレーキを提供できる。
【0042】
なお、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上に詳述した本発明によれば、外部からの回転が伝達される回転伝達軸を組付ける時に簡単な調整作業でブレーキ解放時の異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1…電磁ブレーキ
2…ヨーク
3…ハブ
5…電磁コイル
6…アーマチュアディスク
7…制動ばね
12…エンドディスク
13…インナディスク
17…保持リング
18…アジャストリング