特許第5979158号(P5979158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979158水蒸気バリア樹脂、水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979158
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】水蒸気バリア樹脂、水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/44 20060101AFI20160817BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20160817BHJP
   C08F 210/00 20060101ALI20160817BHJP
   C08F 222/04 20060101ALI20160817BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C08F8/44
   B32B27/32 101
   C08F210/00
   C08F222/04
   C08F220/04
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-554249(P2013-554249)
(86)(22)【出願日】2013年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2013000130
(87)【国際公開番号】WO2013108614
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2015年10月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-9922(P2012-9922)
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貫
(72)【発明者】
【氏名】木田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】中野 剛伸
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−098592(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/108440(WO,A1)
【文献】 特開2010−131756(JP,A)
【文献】 特開2008−094064(JP,A)
【文献】 特開2007−115657(JP,A)
【文献】 特開2002−308929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00−8/50
210/00−210/18
220/00−220/70
222/00−222/40
B32B 27/00−27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和炭化水素単量体(A)と不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)とを重合させてなる共重合体(C)のカルボン酸基および/または酸無水物基と、有機金属錯体(D)とを反応させてなり、共重合体(C)間に金属架橋を有する樹脂であり、
共重合体(C)において、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値が11〜80であり、
共重合体(C)の酸価が5〜470mgKOH/gであり、
共重合体(C)の酸価に対する有機金属錯体(D)の酸価当量が0.5〜2.0である、水蒸気バリア樹脂。
【請求項2】
共重合体(C)の酸価に対する有機金属錯体(D)の酸価当量が1.0である、請求項1記載の水蒸気バリア樹脂。
【請求項3】
請求項1または2記載の水蒸気バリア樹脂と溶剤(E)とを含有する水蒸気バリアコート剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の水蒸気バリア樹脂を含有する水蒸気バリア膜。
【請求項5】
基材フィルムの少なくとも片面に、請求項4記載の水蒸気バリア膜が積層された水蒸気バリア積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気バリア樹脂、並びに、これを用いた水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水蒸気等のガスに対するバリア性の付与のため、金属箔をガスバリア層として用いるのが一般的である。
【0003】
近年、基材フィルム上に、酸化ケイ素あるいは酸化アルミニウム等の無機酸化物を蒸着法により形成した蒸着層を有するガスバリアフィルムが注目されている。基材フィルムとしては例えば、透光性および剛性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムが用いられる。
上記ガスバリアフィルムにおいては、蒸着層が使用時の摩擦等に弱い傾向がある。そのため、各種用途へ展開する場合、積層、印刷、ラミネート、あるいは内容物の充填等の際に、擦れあるいは伸びにより蒸着層に微小なクラックが入り、ガスバリア性が低下することがある。
【0004】
特許文献1〜4には、蒸着層を保護するために、蒸着層上にコーティング層を積層する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1には、基材フィルムの表面に形成された金属又は金属酸化物の膜の上に、ポリビニルアルコール系樹脂層が積層されたガスバリアフィルムが開示されている(請求項1)。
【0006】
特許文献2には、基材フィルム上に、無機化合物からなる蒸着層を第1層とし、水溶性高分子と、アルコキシド、その加水分解物、または塩化錫とを含むコーティング剤を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア膜を第2層として積層したガスバリアフィルムが開示されている(請求項1)。
【0007】
特許文献3には、特定のオルガノシランと特定のシリル基含有フッ素系重合体とを主成分とするガスバリア用コーティング組成物が開示されている(請求項1)。
特許文献3にはまた、基材フィルム上に、金属および/または無機化合物の蒸着層と、上記のコーティング組成物から形成された塗膜とが積層されたガスバリアフィルムが開示されている(請求項11)。
【0008】
特許文献4には、ポリビニルアルコール系樹脂と特定の金属アルコレート類とを含むガスバリアコーティング組成物が開示されている(請求項1)。
特許文献4にはまた、基材フィルム上に、上記のガスバリアコーティング組成物から形成された塗膜が積層されたガスバリアフィルムが開示されている(請求項10)。
【0009】
その他、特許文献5には、(1)ポリ(メタ)アクリル酸とポリアルコール系ポリマーを主構成成分とする組成物の膜状物を形成する工程、(2)該膜状物を熱処理する工程、および(3)熱処理した膜状物を金属を含む媒体中に浸漬処理する工程を有するガスバリアフィルムの製造方法が開示されている(請求項15)。
特許文献6には、変性ビニルアルコール系重合体を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体からなるガスバリア膜が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−316025号公報
【特許文献2】特許第2790054号公報
【特許文献3】特開2000−63752号公報
【特許文献4】特開2002−173631号公報
【特許文献5】特開平10−237180号公報
【特許文献6】特開2007−092052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の、アルコキシド等を含むコーティング膜は靭性に劣り、使用状況によっては、膜が割れたりして、ガスバリアフィルムのガスバリア性が低下する恐れがある。また、特許文献1〜6に記載の、水溶性ポリマーあるいは高極性ポリマー(ポリアルコール系ポリマーあるいはアクリル樹脂等)を用いたガスバリアフィルムは、ポリマーが親水性を有するため、高い水蒸気バリア性を発現することができない。
【0012】
本発明は、より高い水蒸気バリア性を有する水蒸気バリア膜を形成することが可能な水蒸気バリア樹脂、並びに、これを用いた水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水蒸気バリア樹脂は、不飽和炭化水素単量体(A)と不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)とを重合させてなる共重合体(C)のカルボン酸基および/または酸無水物基と、有機金属錯体(D)とを反応させてなり、共重合体(C)間に金属架橋を有するものである。
【0014】
共重合体(C)において、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値は、11〜80であることが好ましい。
共重合体(C)の酸価は、5〜470mgKOH/gであることが好ましい。
【0015】
本発明の水蒸気バリアコート剤は、上記の本発明の水蒸気バリア樹脂と溶剤(E)とを含有するものである。
本発明の水蒸気バリア膜は、上記の本発明の水蒸気バリア樹脂を含有する膜である。
本発明の水蒸気バリア積層体は、基材フィルムの少なくとも片面に、上記の本発明の水蒸気バリア膜が積層されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より高い水蒸気バリア性を有する水蒸気バリア膜を形成することが可能な水蒸気バリア樹脂、並びに、これを用いた水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
「水蒸気バリア樹脂」
本発明の水蒸気バリア樹脂は、不飽和炭化水素単量体(A)と不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)とを重合させてなる共重合体(C)のカルボン酸基および/または酸無水物基と、有機金属錯体(D)とを反応させてなり、共重合体(C)間に金属架橋を有するものである。
【0018】
(不飽和炭化水素単量体(A))
本発明における不飽和炭化水素単量体(A)は、炭素-炭素二重結合を1つ以上持つ不飽和炭化水素である。不飽和炭化水素単量体(A)は特に制限はないが、炭素数2〜100のα‐オレフィン、β-オレフィン、環状オレフィン、ジエン、およびトリエン等を例示することができる。これらは単独で使用しても2種以上使用してもよい。上記のうち、炭素数11〜80のα−オレフィンが、水蒸気バリア性、塗膜性、および保存安定性の面で良好な物性が得られるため、特に好ましい。
【0019】
(不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B))
本発明における不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)としては、
アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、およびフマル酸などの不飽和モノカルボン酸;
マレイン酸、およびイタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;
マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物などが例示できる。
これらは単独で使用しても2種以上使用してもよい。
上記のうち、不飽和ジカルボン酸無水物が、溶剤溶解性の面で良好な結果が得られるため好ましく、特に好ましくは無水マレイン酸である。
【0020】
(共重合体(C))
本発明における共重合体(C)は、少なくとも、上記不飽和炭化水素単量体(A)と上記不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)とを重合させてなる共重合体である。重合の際、上記成分(A)、(B)以外の単量体を重合成分として加えてもよい。
共重合体(C)の酸価は小さすぎると、有機金属錯体(D)と反応する際に充分に金属架橋ができず、得られる水蒸気バリア樹脂の水蒸気バリア性が低下する恐れがある。
共重合体(C)の酸価は大きすぎると、有機金属錯体(D)との反応により得られる水蒸気バリア樹脂の架橋密度が高くなり、経時安定性が悪くゲル化したり、溶剤溶解性が悪くなる恐れがある。
共重合体(C)の酸価は5〜470mgKOH/gが好ましく、90〜350mgKOH/gがより好ましく、100〜250mgKOH/gがさらに好ましい。
【0021】
本明細書における「酸価」とは、JIS K 0070の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0022】
共重合体(C)の重合法としては特に制限はなく、溶液重合法もしくは塊状重合法が好ましい。
好ましくは、不飽和炭化水素単量体(A)と不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)とを含む複数種の単量体成分を、重合開始剤の存在下、不活性ガス気流下で反応させる。
重合反応は、溶剤存在下で行ってもよい。
重合温度、重合時間、および重合濃度は、使用する単量体成分の種類および比率、目標とするポリマーの分子量等によって異なる。好ましくは、重合温度50〜250℃、重合時間2〜10時間、重合濃度30%以上である。
ここで、「重合濃度」は下記式により定義される。
重合濃度(%)=[単量体成分の全質量/(単量体成分の全質量+溶剤質量)]×100
【0023】
共重合体(C)の合成に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物およびアゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、およびt−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。また、アゾ化合物としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
重合開始剤は、不飽和炭化水素単量体(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部の範囲で使用される。
【0024】
共重合体(C)の合成に用いられる溶剤としては、水、水混和性有機溶剤、酢酸エステル、ケトン類、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼン等が挙げられる。
水混和性有機溶剤としては、
エチルアルコール、イソプロピルアルコール、およびn−プロピルアルコール等のアルコール系溶剤;
および
エチレングリコールおよびジエチレングリコール等のモノまたはジアルキルエーテル等が挙げられる。
酢酸エステルとしては、エチルセルソルブアセテート、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
ケトン類としては、シクロヘキサノン、およびメチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0025】
共重合体(C)において、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値は、疎水性の程度を表す指標となる。
この平均値が小さすぎると、水蒸気バリア樹脂の疎水性が不充分となり、水蒸気バリア性が低下する恐れがある。
この平均値が大きすぎると、水蒸気バリア樹脂の疎水性が高くなりすぎ、溶剤溶解性が低下し、塗膜性および保存安定性が低下する恐れがある。
共重合体(C)において、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値は、11〜80が好ましく、28〜80がより好ましい。
【0026】
共重合体(C)が不飽和炭化水素単量体(A)と不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)のみの共重合体である場合、「互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数」は、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間にある、不飽和炭化水素単量体(A)に由来する部位の炭素数に相当する。
例えば、無水マレイン酸とα−ヘキセン(炭素数6)とを1:1のモル比で重合した場合、共重合体(C)において、「互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数」は、α−ヘキセン由来の部位の炭素数である6となる。
【0027】
共重合体(C)の酸価から、共重合体(C)のユニット分子量(X)を求め、そこから「互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数」の平均値を算出することができる。
ユニット分子量(X)は繰返し単位の分子量であり、以下の式で計算される。
ユニット分子量(X)=1000×(KOHの分子量)×(1ユニット当たりの酸価当量数)/(酸価 KOH mg/g)
この式によって計算されたユニット分子量(X)から1ユニット中の不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する部位の分子量を差し引き、メチレン鎖の分子量(CH2:14.03)で割ることで、「互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数」の平均値が計算される。
【0028】
共重合体(C)は単独で使用しても2種以上使用してもよい。
水蒸気バリア性、塗膜性、および保存安定性の面で、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数が11〜27の共重合体と、同炭素数が28〜80の共重合体との併用が好ましい。
【0029】
(有機金属錯体(D))
金属架橋方法としては、金属炭酸塩および水酸化物等の無機化合物を用いた中和法が一般に知られている。しかしながら、これらの無機化合物は疎水性の強い樹脂に対しては相溶性が悪く、充分な金属架橋が得られず、水蒸気バリア性の低下を起こしてしまう。よって、本発明においては、共重合体(C)および溶剤との相溶性がよい有機金属錯体(D)を使用して、金属架橋を行う。
【0030】
有機金属錯体(D)は、1族〜13族に所属する金属元素と任意の配位子からなる。
充分な金属架橋を得るためには、有機金属錯体(D)中の金属元素としては、1族〜13族に所属する2価以上の金属元素が好ましく、具体的には、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、およびチタン等が好ましい。
配位子としては、アセチルアセトンキレート、ヘキサフルオロアセチルアセトンキレート、トリフルオロアセチルアセトンキレート、アセト酢酸エチルキレート、オクチレングリコールキレート、トリエタノールアミンキレート、乳酸キレート、乳酸アンモニウムキレート、ジアルキルカルバミン酸キレート、およびエチレンジアミン等が挙げられる。入手の容易性などの観点から、アセチルアセトンキレート等が好ましい。
【0031】
本明細書における「金属架橋」とは、共重合体(C)中の、不飽和カルボン酸に由来するカルボキシル基、または、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する酸無水物基が加水分解して生成したカルボキシル基と、有機金属錯体(D)から遊離した金属とが、イオン結合、配位結合、または共有結合することによって形成されるものである。
金属架橋は、1つの共重合体(C)分子内で形成されてもよいし、2つ以上の共重合体(C)分子間で形成されていてもよい。
【0032】
金属架橋を形成する方法としては、1種類以上の共重合体(C)、1種類以上の有機金属錯体(D)、および必要に応じて1種類以上の溶剤(E)を混合し、加熱撹拌、分散処理またはエージング処理を行う方法が挙げられる。
溶剤(E)の詳細については、後述する。
例えば、以下の方法が好ましい。
共重合体(C)と有機金属錯体(D)と溶剤(E)とを含む反応液を調製する。この際、反応液中の共重合体(C)と有機金属錯体(D)との合計濃度は5〜50質量%が好ましい。
上記反応液に、1mm径のガラスビーズ等を加え、ペイントシェーカー等を用い、2〜20時間程度分散処理を実施する。ガラスビーズの添加量は、上記反応液とガラスビーズとの合計量100質量%に対して、10〜50質量%が好ましい。
上記分散処理後、80℃程度のオーブンで1〜5時間程度エージング処理を行う。
【0033】
上記方法において、共重合体(C)と有機金属錯体(D)との割合は任意の割合でよいが、有機金属錯体(D)が過少であると金属架橋が充分に進まなくなる恐れがあり、過多であると未反応の有機金属錯体(D)が系中に残り、水蒸気バリア性低下の原因に繋がる恐れがある。よって、共重合体(C)の酸価と同等量の有機金属錯体(D)を添加することが、水蒸気バリア性の向上には好ましい。
【0034】
共重合体(C)中の架橋部位がジカルボン酸無水物の場合、水分により無水環が開環してカルボキシル基が生成した後、金属との架橋が進行する。この場合、系中の水分においても無水物の開環は充分であるが、より効率的にするために、少量の水あるいはアルコールのような極性溶媒を含む溶剤(E)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明によれば、より高い水蒸気バリア性を有する水蒸気バリア膜を形成することが可能な水蒸気バリア樹脂を提供することができる。
本発明の水蒸気バリア樹脂では、共重合体(C)の単量体成分として不飽和炭化水素単量体(A)を使用することで、樹脂の疎水性の向上、および微小クラックの抑制等の塗膜物性の向上を可能とし、優れた水蒸気バリア性の発現を可能とする。
本発明の水蒸気バリア樹脂ではまた、共重合体中の不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)を効率よく反応させることで、共重合体(C)間を金属架橋により強固に結合させ、密な状態にすることができ、優れた水蒸気バリア性の発現を可能とする。
【0036】
「水蒸気バリアコート剤」
本発明の水蒸気バリアコート剤は、上記の水蒸気バリア樹脂と溶剤(E)とを含有するものである。
【0037】
(溶剤(E))
上記の本発明の水蒸気バリア樹脂は、その材料を分散または溶解させることのできる溶剤(E)を加えることで、水蒸気バリアコート剤とすることができる。
溶剤(E)としては、水、水混和性有機溶剤、酢酸エステル、ケトン類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼンなどを用いることができる。
水混和性有機溶剤としては、
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、およびn−プロピルアルコール等のアルコール系溶剤;
エチレングリコールおよびジエチレングリコール等のモノまたはジアルキルエーテル等が挙げられる。
酢酸エステルとしては、酢酸エチル、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および1,4ージオキサン等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、およびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0038】
溶剤(E)を加えるタイミングは、共重合体(C)の合成時、金属架橋時(共重合体(C)と有機金属錯体(D)との反応時)、および金属架橋後(共重合体(C)と有機金属錯体(D)との反応後)のいずれでもよい。
上記の本発明の水蒸気バリア樹脂と溶剤(E)とは、任意の割合で混ぜることができる。
本発明の水蒸気バリアコート剤は、上記以外の任意成分を含むことができる。
本発明の水蒸気バリアコート剤は、塗膜性および保存安定性が良好である。
【0039】
「水蒸気バリア膜、水蒸気バリア積層体」
本発明の水蒸気バリア膜は、上記の本発明の水蒸気バリア樹脂を含有する膜である。
本発明の水蒸気バリア積層体は、基材フィルムの少なくとも片面に、上記の本発明の水蒸気バリア膜が積層されたものである。
【0040】
本発明における基材フィルムは、好ましくは熱可塑性樹脂フィルムである。基材フィルムは、二軸延伸フィルムが好ましい。
基材フィルムの熱可塑性樹脂としては例えば、
ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4 − メチル・1 −ペンテン、およびポリブテン等) ;
環状オレフィンポリマー;
ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレート等);
ポリアミド(ナイロン− 6 、ナイロン− 6 6 、およびポリメタキシレンアジパミド等);
ポリフェニレンスルフィド、
およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
これらのうちでは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびポリアミド等が、延伸性、透光性、および剛性が良好なフィルムが得られるので好ましい。
基材フィルムとしては具体的には、ニ軸延伸ポリエステルフィルム、ニ軸延伸ポリプロピレンフィルム、およびニ軸延伸ポリアミドフィルム等が挙げられる。中でも、ニ軸延伸ポリエステルフィルムおよびニ軸延伸ポリプロピレンフィルムが、耐酸性、剛性、および透光性等に優れているので好ましい。
【0041】
基材フィルムは、本発明の効果を損ねない範囲で、1種または2種以上の任意成分を含有してもよい。
基材フィルムは、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、および蛍光増白剤等を含有してもよい。基材フィルムは、シリカ、炭酸カルシウム、または酸化チタン等を含む無機粒子、あるいは、アクリル樹脂またはスチレン樹脂等を含む有機粒子を含有してもよい。
【0042】
基材フィルムへの水蒸気バリア膜の積層方法としては、
基材フィルムに使用される樹脂と水蒸気バリア膜に使用される水蒸気バリア樹脂との共押出しによる積層方法(P1)、
ホットプレス機等を用い、基材フィルム上にフィルム化した水蒸気バリア樹脂を積層する方法(P2)、
および、
基材フィルム上に水蒸気バリアコート剤を塗布した後、溶剤(E)を除去する方法(P3)等が挙げられる。
【0043】
工程の簡易化、および均一な積層体の作製の観点から、方法(P3)が好ましい。
水蒸気バリアコート剤の塗布方法としては例えば、
ロットまたはワイヤーバーなどの塗布用部材を用いる方法;
マイクログラビアコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、カーテンコーティング、スロットコーティング、キャストコーティング、ディップコーティングまたはスピンコーティングなどの各種コーティング方法を用いることができる。
【0044】
水蒸気バリア膜の膜厚に特に制限はないが、フレキシブル性を向上させるという観点から、薄い方が好ましい。
水蒸気バリア膜の膜厚は、水蒸気バリアコート剤の固形分、あるいはバーコーダー等の塗布用部材の種類を変更することで、調節することができる。
【0045】
基材フィルムの1つの面に対して、1層または複数層の水蒸気バリア膜を積層することができる。
【0046】
水蒸気バリア積層体は、水蒸気バリア膜以外に、任意の有機層または無機層を含むことができる。これらの層は、1層または複数層含むことができる。
有機層または無機層の成膜方法としては、蒸着法またはコーティング法が挙げられる。
有機層の材料としては、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、およびポリブテン等) 、環状オレフィンポリマー、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6 、ナイロン−66 、およびポリメタキシレンアジパミド等) 、ポリフェニレンスルフィド、およびポリイミド等を挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上使用してもよい。
無機層の材料としては、クロム、亜鉛、コバルト、アルミニウム、錫および珪素等の金属、あるいはこれら金属の酸化物、窒化物、窒酸化物、硫化物、およびリン化物等が挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上使用してもよい。これらの中でも、酸化アルミニウムおよびシリカ(酸化珪素)等の酸化物、および珪素窒酸化物が好ましい。
【0047】
基材フィルムの1つの面に対して、1層または複数層の水蒸気バリア膜と1層または複数層の有機層または無機層とを含む場合、これらの積層順序は任意である。
【0048】
本発明によれば、より高い水蒸気バリア性を有する水蒸気バリア膜および水蒸気バリア積層体を提供することができる。本発明の水蒸気バリア膜および水蒸気バリア積層体は、フレキシブル性も良好である。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0050】
はじめに、共重合体(C)および比較用の共重合体(G)の製造例について説明する。
表1および表2に、製造例1〜6において製造した共重合体(C)、(G)の単量体成分、酸価、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数(表中、「間の炭素数」と略記。)の平均値、および質量平均分子量(Mw)を記載する。
【0051】
共重合体(C)、(G)における、「酸価」および「互いに隣接する、不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値」は、上記方法によって計算した。
質量平均分子量(Mw)は、Shodex GPC−101(昭和電工社製)を用いて測定した値である。
【0052】
(製造例1)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに、70.56gのリニアレン10(出光社製)、63.74gの無水マレイン酸(東京化成社製)を入れ、窒素下、150℃で溶液状態にした。その後、0.69gのジ−t−ブチルパーオキサイドを少量づつ加え、160℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をメチルエチルケトン(MEK)200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(C1)を得た。
【0053】
(製造例2)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに78.55gのリニアレン14(出光社製)、50.99gの無水マレイン酸(東京化成社製)を入れ、窒素下、150℃で溶液状態にした。その後、0.49gのジ−t−ブチルパーオキサイドを少量づつ加え、200℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をMEK200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(C2)を得た。
【0054】
(製造例3)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに88.37gのリニアレン18(出光社製)、44.62gの無水マレイン酸(東京化成社製)を入れ、窒素下、150℃で溶液状態にした。その後、0.42gのジ−t−ブチルパーオキサイドを少量づつ加え、200℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をMEK200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(C3)を得た。
【0055】
(製造例4)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに49.99gの1−ドコセン(東京化成社製)、20.65gの無水マレイン酸(東京化成社製)を入れ、窒素下、150℃で溶液状態にした。その後、0.20gのジ−t−ブチルパーオキサイドを少量づつ加え、200℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をMEK200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(C4)を得た。
【0056】
(製造例5)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに59.08gの1−ヘキサコセン、20.65gの無水マレイン酸(東京化成社製)を入れ、窒素下、150℃で溶液状態にした。その後、0.20gのジ−t−ブチルパーオキサイドを少量づつ加え、200℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をMEK200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(C5)を得た。
【0057】
(製造例6)
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を装備した300mlフラスコに、11.44gの無水マレイン酸(東京化成社製)と35gのシクロヘキサノンを入れ、窒素下、80℃で溶液状態にした。その後、25.00gのメタクリル酸メチル(東京化成社製)、0.19gのAIBN(東京化成社製)および30gのシクロヘキサノンの入った溶液を30分間かけて滴下し、80℃で5時間反応させた。放冷後、得られた反応生成物をMEK200gに溶解させ、エバポレーターで溶剤を除去した。得られた固体を80℃の真空乾燥機で一晩乾燥させ、共重合体(G1)を得た。
【0058】
(市販の共重合体)
また、共重合体(C)として、下記市販品を用意した。
共重合体(C6):三菱樹脂社製の「ダイヤカルナ30」、
共重合体(C7):東洋インキ製造社製「リオフレックス4188H−C」、
共重合体(C8):クラレ社製「イソバン600」。
これらについても、単量体成分、酸価、互いに隣接する不飽和カルボン酸および/または不飽和ジカルボン酸無水物(B)に由来する2つの部位の間の炭素数の平均値、および質量平均分子量(Mw)を記載しておく。
【0059】
有機金属錯体(D)としては、以下のものを用意した。
(D1):Zn(II)アセチルアセトナト、
(D2):Ca(II)アセチルアセトナト、
(D3):Al(III)アセチルアセトナト、
(D4):Ti(IV)アセチルアセトナト、
(D5):Mg(II)アセチルアセトナト、
(D6):Cu(II)アセチルアセトナト、
(D7):Co(II)アセチルアセトナト、
(D8):EDTA(エチレンジアミン四酢酸)の亜鉛塩(ナガセケムテックス社製、クレワットZn)、
(D9):トリス(トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナイト)Al(III)、
(D10):ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)Co(II)。
【0060】
<水蒸気バリア樹脂および水蒸気バリアコート剤の作製>
(実施例1)
70mlマヨネーズ瓶(M−70)に6gの共重合体(C6)、1.47g(共重合体の酸価1当量)の有機金属錯体(D1)、21.5gの混合溶剤(トルエン/エタノール/水=16.8/4.2/0.5(質量比))および20gの1mm径のガラスビーズを入れ、ペイントシェーカー(Skandex社製 SO400)で12時間分散撹拌した。その後、80℃のオーブンで3時間エージング処理を行い、200メッシュのナイロン網で不純物を取り除き、水蒸気バリア樹脂と溶剤とを含む水蒸気バリアコート剤X1を得た。
配合組成を表3に示す。
【0061】
(実施例2〜24)
表3に示す配合組成とした以外は実施例1と同様の方法で、水蒸気バリア樹脂と溶剤とを含む水蒸気バリアコート剤X2〜X24を作製した。
なお、分散処理に用いる1mm径のガラスビーズ量は以下の通りとした。
<ガラスビーズ量>
実施例2−20:20g、
実施例21:25g、
実施例22−24:15g。
【0062】
<コート剤の作製>
(比較例1)
6gの共重合体(C6)に20gのトルエンを加え、混合溶解させて、コート剤Y1を得た。
【0063】
(比較例2)
70mlマヨネーズ瓶(M−70)に6gの共重合体(C6)、0.70g(共重合体の酸価1当量)の炭酸亜鉛(II)、19gの混合溶剤(トルエン/エタノール/水=16.8/4.2/0.5)および20gの1mm径のガラスビーズを入れ、スキャンデックスで12時間分散撹拌した。その後、80℃のオーブンで3時間エージング処理を行い、200メッシュのナイロン網で不純物を取り除き、コート剤Y2を得た。
【0064】
(比較例3)
70mlマヨネーズ瓶(M−70)に6gの共重合体(C8)、0.99gの水酸化亜鉛(II)、26gの25%アンモニア水溶液および20gの1mm径のガラスビーズを入れ、スキャンデックスで12時間分散撹拌し、200メッシュのナイロン網で不純物を取り除き、コート剤Y3を得た。
【0065】
(比較例4)
70mlマヨネーズ瓶(M−70)に6gの共重合体(G1)、5.22g(共重合体の酸価1当量)の亜鉛(II)アセチルアセトナト、31gの混合溶剤(トルエン/エタノール/水=16.8/4.2/0.5)および20gの1mm径のガラスビーズを入れ、スキャンデックスで12時間分散撹拌した。その後、80℃のオーブンで3時間エージング処理を行い、200メッシュのナイロン網で不純物を取り除き、コート剤Y4を得た。
【0066】
(比較例5、6)
共重合体(C)を変更した以外は比較例1と同様の方法で、コート剤Y5、Y6を作製した。
【0067】
比較例1〜6における配合組成を表4に示す。
【0068】
<水蒸気バリア積層体の作製>
(実施例25)
水蒸気バリアコート剤X1を100μm厚のPETフィルム(東洋紡社製A4100)上へバーコーダー(No.30)を用いて塗布し、140℃のオーブンで2分間乾燥させ、水蒸気バリア積層体L1を得た。
主な製造条件を表5に示す。
【0069】
(実施例26〜51)
水蒸気バリアコート剤、基材、およびバーコーダーを表5に示すものとした以外は実施例25と同様の方法で、水蒸気バリア積層体L2〜L27を作製した。
【0070】
<積層体の作製>
(比較例7〜12)
水蒸気バリアコート剤X1の代わりにコート剤Y1〜Y6のいずれかを用い、基材およびバーコーダーを表6に示すものとした以外は実施例25と同様の方法で、積層体M1〜M6を作製した。
【0071】
表5、表6中、基材の略号は以下の通りである。
PET:100μm厚のPETフィルム、
SiO/PET:100μm厚のPETフィルム上に12μm厚のSiO膜が蒸着されたフィルム(三菱樹脂社製テックバリアLX)。
【0072】
(評価)
実施例および比較例で作製した水蒸気バリアコート剤またはコート剤、並びに、水蒸気バリア積層体または積層体に関して、以下の評価を実施した。
【0073】
(保存安定性)
実施例1〜24および比較例1〜6で作製した水蒸気バリアコート剤X1〜X24およびコート剤Y1〜Y6を1日静置し、保存安定性(ゲル化の有無)を観察した。以下に記載する基準により、保存安定性を判定した。評価結果を表3、表4に示す。
○(良):溶液状態を保ち、塗工可能、
△(可):ゲル化しているが、50℃エージングで溶液状態になり、塗工可能、
×(不可):ゲル化しており、50℃エージングしても固体状態。
【0074】
(水蒸気バリア性)
実施例25〜51および比較例7〜12で作製した水蒸気バリア積層体L1〜L27および積層体M1〜M6について、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製PERMATRAN)を使用し、40℃・100%RHの条件において、水蒸気透過率を測定した。得られた実測値を厚さ100μmにおいての換算値に計算した。以下に記載する基準により、水蒸気バリア性を判定した。評価結果を表5、表6に示す。
◎(優):水蒸気透過率が1g/(m2・day)未満、
○(良):水蒸気透過率が1g/(m2・day)以上10g/(m2・day)未満、
△(可):水蒸気透過率が10g/(m2・day)以上100g/(m2・day)未満、
×(不可):バリア性なし(基材の水蒸気バリア性と変化なし)。
【0075】
(塗膜性)
実施例25〜51および比較例7〜12で作製した水蒸気バリア積層体L1〜L27および積層体M1〜M6の外観を観察し、以下に記載する基準により、塗膜性を判定した。評価結果を表5、表6に示す。
○(良):良好、
△(可):ムラまたはブツ有、
×(不可):ひびまたははがれ有。
【0076】
(フレキシブル性)
実施例25〜51および比較例7〜12で作製した水蒸気バリア積層体L1〜L27および積層体M1〜M6について、直径の異なるバーに巻きつけた後、膜の状態を観察した。以下に記載する基準により、フレキシブル性を判定した。評価結果を表5、表6に示す。
○(良):直径10mm未満で、ヒビ、クラック、および剥がれ発生なし、
△(可):直径10mm以上20mm未満で、ヒビ、クラック、および剥がれ発生なし、
×(不可):直径20mmで、ヒビ、クラック、または剥がれ発生あり。
【0077】
(結果)
実施例1〜24で作製した水蒸気バリアコート剤X1〜X24はいずれも、良好な保存安定性を示した。実施例25〜51で作製した水蒸気バリア積層体L1〜L27はいずれも、良好な水蒸気バリア性、塗膜性、およびフレキシブル性を示した。
【0078】
実施例25〜27および比較例7の比較において、金属架橋のしていない積層体M1に比べ金属架橋のしてある水蒸気バリア積層体L1〜L3は水蒸気バリア性の向上が見られた。金属錯体添加量が共重合体の酸価と同当量である水蒸気バリア積層体L1は、水蒸気バリア積層体L2および水蒸気バリア積層体L3よりも水蒸気バリア性が向上した。
【0079】
実施例28および比較例11の比較において、金属架橋のしてある水蒸気バリア積層体L4は、金属架橋のしてない積層体M5よりも水蒸気バリア性の向上が見られた。
【0080】
実施例40および比較例12の比較において、金属架橋のしてある水蒸気バリア積層体L16は、金属架橋のしてない積層体M6よりも水蒸気バリア性の向上が見られた。
【0081】
実施例25〜42および比較例8、9の比較において、有機金属錯体(D)で架橋した水蒸気バリア積層体L1〜L18は、無機金属化合物で架橋を行なった積層体M2、M3よりも水蒸気バリア性の向上が見られた。
【0082】
実施例25〜44および比較例10の比較において、不飽和炭化水素単量体(A)を使用した水蒸気バリア積層体L1〜L20は、不飽和炭化水素単量体(A)を使用しなかった積層体M4よりも、水蒸気バリア性および塗膜性の面で向上が見られた。
【0083】
水蒸気バリア膜/無機膜(シリカ膜)/PETフィルムの3層構造とした実施例44において、塗膜性を損なうことなく高い水蒸気バリア性が見られた。
【0084】
以上の結果から、本発明の水蒸気バリア樹脂、水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア積層体は、良好な水蒸気バリア性を発現することが示された。
本発明の水蒸気バリア樹脂および水蒸気バリアコート剤は、塗膜性および保存安定性が良好であることが示された。
本発明の水蒸気バリア積層体は、フレキシブル性が良好であることが示された。
【0085】
【表1】
【0086】

【表2】
【0087】

【表3】
【0088】

【表4】
【0089】

【表5】
【0090】

【表6】
【0091】
この出願は、2012年1月20日に出願された日本出願特願2012−009922号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の水蒸気バリア樹脂、水蒸気バリアコート剤、水蒸気バリア膜、および水蒸気バリア積層体は、太陽電池および有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子等のデバイスに好ましく利用できる。