(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979187
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】建設機械のキャブ支持構造
(51)【国際特許分類】
E02F 9/08 20060101AFI20160817BHJP
E02F 9/16 20060101ALI20160817BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
E02F9/08 Z
E02F9/16 A
E02F9/16 C
F16F15/08 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-157590(P2014-157590)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-35149(P2016-35149A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】木下 明
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓二
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄司
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−189089(JP,A)
【文献】
特開2010−270557(JP,A)
【文献】
特開2006−103661(JP,A)
【文献】
特開2006−232010(JP,A)
【文献】
特開2008−238876(JP,A)
【文献】
特開2007−069877(JP,A)
【文献】
特開2005−344394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/08
E02F 9/16
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、この下部走行体上に旋回自在に搭載された上部旋回体と、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側に配置されたキャブと、このキャブの振動を抑制する防振マウントと、上記アッパーフレームから浮き上がる方向のキャブの変位量を一定以下に規制する規制手段を備え、上記キャブは、キャブ底壁を構成する下枠と、下端がこの下枠の上面に接合された状態でキャブ周囲に立設された複数本のピラーと、上記アッパーフレームの外側を向く乗降口とを有する建設機械のキャブ支持構造において、上記各ピラーのうち上記乗降口側に位置する外側ピラーの上記下枠に対する接合部分を補強する補強部材をピラー下端部に取付け、上記規制手段として、上記補強部材及び上記下枠を上下方向に貫通する状態で上記アッパーフレームに軸体を取付けるとともに、この軸体と上記補強部材に、上記キャブの浮き上がり方向の変位時に、上記下枠に対する上記外側ピラーの取付位置よりも上方で上記軸体の軸方向に相接触して荷重の伝達作用を行う接触面を設けたことを特徴とする建設機械のキャブ支持構造。
【請求項2】
上記補強部材に、上記軸体が貫通する軸体通し穴を備えた水平壁を設ける一方、上記軸体にワッシャを嵌装し、上記水平壁の上面を上記補強部材側の接触面、上記ワッシャの下面を上記軸体側の接触面としたことを特徴とする請求項1記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項3】
上記補強部材側及び軸体側の両接触面間に弾性体から成るシール部材を介在させ、このシール部材は、上記防振マウントの常用ストローク領域で上記軸体貫通部分をシールし、常用ストロークを超える領域で上記接触面の荷重伝達作用を行うように構成したことを特徴とする請求項2記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項4】
上記補強部材を、前後左右の各側面及び上下両面が閉じ、かつ、上面壁の上面が上記補強部材側の接触面となる箱体として形成し、一側面が上記外側ピラーの一側面に対し面接触状態で取付けたことを特徴とする請求項2または3記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項5】
上記外側ピラーに面接触する上記補強部材の一側面の平面視寸法をA、上記外側ピラーの一側面の平面視寸法をBとして、A≧Bに設定したことを特徴とする請求項4記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項6】
上記補強部材を、複数本の外側ピラーのうち上記キャブ後部に配置された後部ピラーに対して設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項7】
上記補強部材を、キャブ内で上記外側ピラーに対して設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、オペレータが搭乗するキャブをアッパーフレーム上に支持するキャブ支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、この上部旋回体にブーム等を備えた作業アタッチメントが装着されて構成される。
【0004】
上部旋回体は、
図9に示すアッパーフレーム1を備え、このアッパーフレーム1の左右片側(一般的には左側)にキャブ2が設置される。
【0005】
以下、実施形態を含めて、このキャブ2の位置を左前部として各部についての「前後」「左右」の方向性をいうものとする。
【0006】
アッパーフレーム1は、その一部として左サイドデッキ3を有し、キャブ2がこの左サイドデッキ3の前部において、乗降口2aがアッパーフレーム1の幅方向外側を向く状態で、底部四隅に配置された防振マウント4を介して搭載される。
【0007】
この防振マウント4は、特許文献1に示されるように、弾性体(通常は防振ゴム)によってキャブ2を一定ストローク(常用ストローク)範囲で上下及び水平方向に変位可能に弾性支持し、これによってキャブ2の振動が緩和される。
【0008】
また、防振マウント4は、キャブ2をアッパーフレーム1(左サイドデッキ3)から浮き上がらせる方向の荷重に対して弾性体が伸びることによって抗力を発揮する。
【0009】
但し、機械の転倒時に、キャブ2の変位量が防振マウント4の常用ストロークを超えると、防振マウント4の弾性体が伸びきって破壊されるおそれがあるため、防振マウント4を保護するためにキャブ2の変位量を抑える規制手段が設けられる。
【0010】
この規制手段として、たとえば特許文献1には、
図10に示すようにアッパーフレーム1(具体的には左サイドデッキ3)と、キャブ底部の周縁に設けられたキャブ下枠5とに亘ってボルト6を貫挿し、キャブ2の浮き上がり変位時に、ボルト6の上端にねじ込んだナット7とキャブ下枠5の上面を当接させてキャブ2の変位量を規制する構造が開示されている。
【0011】
図10中、9はキャブ下枠5とともにキャブ底壁を構成するフロアプレート、cはナット7とキャブ下枠5の間に設けられた、防振マウント4の常用ストロークに相当するクリアランスである。
【0012】
なお、キャブ2には、骨格としてのキャブフレームを構成する複数本のピラー(中空の角柱。
図10中に一本のみを示す)8が、たとえば右側は前後二個所に、左側(乗降口2a)側は前後と中間の三個所にそれぞれ設けられる。
【0013】
ピラー8は、下端がキャブ下枠5の上面に接合(通常は溶接)された状態で立設され、機械転倒時に、乗降口側のピラー(以下、「外側ピラー」という)8が側方荷重、すなわち、左右方向または前後方向の荷重を受ける。
【0014】
また、規制手段の他の構造として、特許文献2に示されているようにアッパーフレーム1に穴付きのプレートを上向きに取付け、キャブ側から水平に突出させた軸体をこのプレートの穴に防振マウント4の常用ストローク分の余裕をもって貫通させ、常用ストロークを超える領域で軸体とプレートを当接させてキャブ2の浮き上がり変位を止める構造も公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−193103号公報
【特許文献2】特開2009−133119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記公知技術は、いずれもアッパーフレーム1に対するキャブ2の浮き上がり変位量を防振マウント4の常用ストローク範囲内に規制することを主眼としており、外側ピラー8が受ける側方荷重(左右方向または前後方向荷重)に対しては抗力を発揮しない。
【0017】
このため、機械転倒時に、キャブ下枠5に対するピラー下端の接合部分(以下、「下端接合部分」という)に大荷重が作用して同部分が破壊され、ピラー8が倒れてキャブ2が変形し易くなっていた。
【0018】
そこで本発明は、アッパーフレームに対するキャブの浮き上がり規制作用を確保しながら、機械転倒時の外側ピラーの倒れを抑制することができる建設機械のキャブ支持構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、下部走行体と、この下部走行体上に旋回自在に搭載された上部旋回体と、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側に配置されたキャブと、このキャブの振動を抑制する防振マウントと、上記アッパーフレームから浮き上がる方向のキャブの変位量を一定以下に規制する規制手段を備え、上記キャブは、キャブ底壁を構成する下枠と、下端がこの下枠の上面に接合された状態でキャブ周囲に立設された複数本のピラーと、上記アッパーフレームの外側を向く乗降口とを有する建設機械のキャブ支持構造において、上記各ピラーのうち上記乗降口側に位置する外側ピラーの上記下枠に対する接合部分を補強する補強部材をピラー下端部に取付け、上記規制手段として、上記補強部材及び上記下枠を上下方向に貫通する状態で上記アッパーフレームに軸体を取付けるとともに、この軸体と上記補強部材に、上記キャブの浮き上がり方向の変位時に、上記下枠に対する上記外側ピラーの取付位置よりも上方で上記軸体の軸方向に相接触して荷重の伝達作用を行う接触面を設けたものである。
【0020】
この構成によれば、外側ピラーの下端部(根元)に取付けた補強部材によって同ピラーの下端接合部分を補強できるため、いいかえればピラーに作用する側方荷重を補強部材によって分散させ、ピラーの下端接合部分にかかる荷重を低減することができる。
【0021】
しかも、補強部材と軸体を、外側ピラーの下端接合部分よりも上方で接触させて規制手段を構成し、機械転倒時の側方荷重をピラー下端接合部分よりも上方で補強部材を介して軸体(アッパーフレーム)に伝達する構成としているため、下端接合部分が受ける荷重をさらに低減することができる。
【0022】
この二点の作用により、機械転倒時のピラーの倒れを効果的に抑制することができる。
【0023】
この場合、上記補強部材に、上記軸体が貫通する軸体通し穴を備えた水平壁を設ける一方、上記軸体にワッシャを嵌装し、上記水平壁の上面を上記補強部材側の接触面、上記ワッシャの下面を上記軸体側の接触面とするのが望ましい(請求項2)。
【0024】
このように、補強部材を規制手段の一部として機能させる構成とすることにより、公知技術のようにキャブ下枠等のキャブの構成要素そのものに補強を加えて規制手段の一部とする場合と比較して、キャブ構造が簡単ですむ。
【0025】
この請求項2の構成をとる場合、上記補強部材側及び軸体側の両接触面間に弾性体から成るシール部材を介在させ、このシール部材は、上記防振マウントの常用ストローク領域で上記軸体貫通部分をシールし、常用ストロークを超える領域で上記接触面の荷重伝達作用を行うように構成するのが望ましい(請求項3)。
【0026】
この構成によれば、シール部材により、軸体貫通部分でのキャブ内外の通気を遮断してキャブ内の気密性を保ちながら、防振マウントの常用ストロークを超える領域での両接触面間の荷重伝達作用を確保することができる。
【0027】
また、請求項2または3の構成において、上記補強部材を、前後左右の各側面及び上下両面が閉じ、かつ、上面壁の上面が上記補強部材側の接触面となる箱体として形成し、一側面が上記外側ピラーの一側面に対し面接触する状態で取付けるのが望ましい(請求項4,5)。
【0028】
こうすれば、
(I) 補強部材そのものを箱構造によって高強度に構成できること、
(II) 補強部材と外側ピラーの接触面積を広くとり易いこと
により、ピラー補強効果及び荷重分散効果の点で有利となる。
【0029】
この場合、上記外側ピラーに面接触する上記補強部材の一側面の平面視寸法をA、上記外側ピラーの一側面の平面視寸法をBとして、A≧Bに設定するのが望ましい(請求項5)。
【0030】
こうすれば、外側ピラーと補強部材の接触面積を大きくとり、より高い荷重分散効果を得ることができる。
【0031】
また、補強部材を外側ピラーに溶接で取付ける場合に、溶接範囲を広くとって両者の接合強度を高くとることができる。
【0032】
一方、本発明において、上記補強部材を、複数本の外側ピラーのうち上記キャブ後部に配置された後部ピラーに対して設けるのが望ましい(請求項6)。
【0033】
外側ピラーのうち後部ピラー(左後ピラー)は、運転席に近く、乗員保護の観点から、転倒時に変形しにくいように元々剛性が高くとられる。
【0034】
従って、荷重が逃げにくい分、下端接合部分の破壊が起こり易い状況にあるため、この左後ピラーに補強部材を設けることで倒れ防止の実効が高いものとなる。
【0035】
また、本発明において、上記補強部材を、キャブ内で上記外側ピラーに対して設けるのが望ましい(請求項7)。
【0036】
こうすれば、キャブ内に元々あるデッドスペースを利用できるため、補強部材をキャブの外側に設ける場合のようにキャブ外側に余分なスペースを作り出す必要も、そのためにキャブ外の構造物の配置を変える必要もなく、キャブまわりのレイアウトの点で有利となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、アッパーフレームに対するキャブの浮き上がり規制作用を確保しながら、機械転倒時の外側ピラーの倒れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施形態を示すアッパーフレーム及びキャブの斜視図である。
【
図8】(a)〜(c)は補強部材の配置に関するバリエーションを示す模式的平面図である。
【
図9】本発明が適用されるショベルのアッパーフレームとキャブの斜視図である。
【
図10】従来のキャブ支持構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施形態を
図1〜
図8によって説明する。
【0040】
実施形態はショベルを適用対象としている。
【0041】
実施形態において、次の点は
図9,10に示す従来技術と同じである。
【0042】
(i) クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、この上部旋回体にブーム等を備えた作業アタッチメントが装着されてショベルが構成される点。
【0043】
(ii) 上部旋回体は、
図1に示すアッパーフレーム11を備え、このアッパーフレーム11の左側前部にキャブ12が設置される点。
【0044】
(iii) アッパーフレーム11は、その一部として左サイドデッキ13を有し、キャブ12がこの左サイドデッキ13の前部において、乗降口(図示しない)がアッパーフレーム1の幅方向外側を向く状態で、底部四隅に配置された防振マウント14を介して搭載される点。
【0045】
(iv) 防振マウント14は、弾性体(通常は防振ゴム)によってキャブ12を一定ストローク(常用ストローク)範囲で上下及び水平方向に変位可能に弾性支持し、これによってキャブ12の振動が緩和される点。
【0046】
(v) また、防振マウント14は、キャブ12をアッパーフレーム11(左サイドデッキ13)から浮き上がらせる方向の荷重に対して弾性体が伸びることによって抗力を発揮する点。
【0047】
(vi) 機械の転倒時に、キャブ12の変位量が防振マウント14の常用ストロークを超えると、防振マウント14の弾性体が伸びきって破壊されるおそれがあるため、防振マウント14を保護するためにキャブ12の変位量を抑える規制手段(後述)が設けられる点。
【0048】
(vii) キャブ12には、骨格としてのキャブフレームを構成する複数本のピラーが、たとえば右側は前後二個所に、左側(乗降口)側は前後と中間の三個所にそれぞれ設けられる点。
【0049】
実施形態においては、外側ピラーのうちの後部ピラー(左後ピラー)15について、次のような倒れを抑制する構造が付加されている。以下、他のピラーと区別する必要がある場合を除き、左後ピラー15を単に「ピラー」という。
【0050】
ピラー15は、下端が、キャブ底部の周縁に設けられたキャブ下枠16の上面に接合(通常は溶接)された状態で立設され、機械転倒時に側方荷重(左右または前後方向の荷重)を受ける。
【0051】
図4,5中、17はキャブ下枠16とともにキャブ底壁を構成するフロアプレートである。
【0052】
ピラー15の下端部右側に補強部材18が設けられている。
【0053】
この補強部材18は、前後左右の各側面及び上下両面が閉じた箱体として形成され、左側面がピラー15の右側面に、底面がキャブ下枠16の上面にそれぞれ面接触する状態で、ピラー15及びキャブ下枠16にそれぞれ溶接(ボルト止め等の他の接合構造でもよい)によって取付けられている。
【0054】
ここで、
図3に示すように、補強部材18の左側面の平面視寸法をA、ピラー15の右側面の平面視寸法をBとして、A≧Bに設定され、補強部材18がピラー15よりも前方にはみ出す状態で取付けられている。
【0055】
一方、
図5等に示すように、補強部材18の底壁及び上面壁18a、キャブ下枠16、フロアプレート17、アッパーフレーム11(左サイドデッキ13)に、それぞれ上下方向に貫通する軸体通し穴としてのボルト通し穴(共通符号「19」を付している)が設けられ、軸体としての頭付きの規制ボルト20がこのボルト通し穴19に上から貫挿されている。
【0056】
この規制ボルト20は、下端部が、アッパーフレーム11(左サイドデッキ13)に固着されたタップドブロック(雌ねじ部材)21にねじ込まれることによってアッパーフレーム11に固定されている。
【0057】
ここで、規制ボルト20の頭部20aと補強部材18の上面壁18aの間に、ワッシャ22と、弾性体から成るシール部材23がワッシャ22を上にして嵌装されている。
【0058】
シール部材23は、防振マウント14の常用ストローク領域では弾性変形して補強部材上面壁18aのボルト貫通部分をシールする一方、常用ストロークを超える領域で弾性限界に達して、ワッシャ22と補強部材18の間の荷重伝達作用を行うように構成されている。
【0059】
すなわち、規制ボルト20と、ワッシャ22と、補強部材上面壁18aと、シール部材23によって規制手段が構成され、キャブ12の浮き上がり変位時に、ワッシャ22の下面と補強部材上面壁18aの上面がシール部材23を介して間接的に接触して浮き上がり変位量を一定以下に規制する。
【0060】
なお、アッパーフレーム上面とワッシャ22の下面の間において規制ボルト20に円筒状のカラー24が外嵌され、このカラー24によってアッパーフレーム上面とワッシャ下面の間の最小間隔、つまりシール部材23の最大圧縮量が規制される。
【0061】
こうして、機械の転倒によってピラー15に側方荷重(とくに左右方向の荷重)が作用すると、この荷重が補強部材18で受けられるとともに、補強部材18及び規制手段を介してアッパーフレーム11に伝達されるように構成されている。
【0062】
このキャブ支持構造によると、次の効果を得ることができる。
【0063】
(I) ピラー15の下端部(根元)に取付けた補強部材18によってピラー15の下端接合部分を補強できるため、いいかえればピラーに作用する側方荷重を補強部材18によって分散させ、ピラー15の下端接合部分にかかる荷重を低減することができる。
【0064】
しかも、補強部材18と規制ボルト20をピラー15の下端接合部分よりも上方で接触させて規制手段を構成し、機械転倒時の側方荷重をピラー下端接合部分よりも上方で補強部材18を介して規制ボルト20(アッパーフレーム11)に伝達する構成としているため、下端接合部分が受ける荷重をさらに低減することができる。
【0065】
この二点の作用により、機械転倒時のピラー15の倒れを効果的に抑制することができる。
【0066】
(II) 補強部材18に、規制ボルト20が貫通するボルト通し穴19を備えた水平壁(上面壁18a)を設ける一方、規制ボルト20にワッシャ22を嵌装し、上面壁18aの上面を補強部材18側の接触面、ワッシャ22の下面をボルト側の接触面としているため、いいかえれば、補強部材18を規制手段の一部として機能させる構成としているため、公知技術のようにキャブ下枠等のキャブの構成要素そのものに補強を加えて規制手段の一部とする場合と比較して、キャブ構造が簡単ですむ。
【0067】
(III) 補強部材18側及び規制ボルト20側の両接触面間に弾性体から成るシール部材23を介在させ、このシール部材23により、防振マウント14の常用ストローク領域でボルト貫通部分をシールし、常用ストロークを超える領域で接触面の荷重伝達作用を行うように構成しているため、シール部材23により、ボルト貫通部分でのキャブ12内外の通気を遮断してキャブ12内の気密性を保ちながら、防振マウント14の常用ストロークを超える領域での両接触面間の荷重伝達作用を確保することができる。
【0068】
(IV) 補強部材18を、前後左右の各側面及び上下両面が閉じ、かつ、上面壁18aの上面が補強部材18側の接触面となる箱体として形成し、一側面がピラー15の右側面に対し面接触する状態で取付けているため、
1) 補強部材18そのものを箱構造によって高強度に構成できること、
2) 補強部材18とピラー15の接触面積を広くとり易いこと
により、ピラー補強効果及び荷重分散効果の点で有利となる。
【0069】
(V) ピラー15に面接触する補強部材18の左側面の平面視寸法Aを、ピラー15の右側面の平面視寸法Bに対して同等以上に設定しているため、ピラー15と補強部材18の接触面積を大きくとり、より高い荷重分散効果を得ることができる。
【0070】
また、補強部材18をピラー15に溶接で取付ける場合に、溶接範囲を広くとって両者の接合強度を高くとることができる。
【0071】
(VI) 補強部材18を、複数本の外側ピラーのうちキャブ後部に配置されたピラー15、すなわち、転倒時に変形しにくいように元々剛性が高くとられ、荷重が逃げにくい分、下端接合部分の破壊が起こり易い状況にある左後ピラー15に対して設けているため、倒れ防止の実効が高いものとなる。
【0072】
(VII) 補強部材18をキャブ12内に、元々あるデッドスペースを利用して設けているため、補強部材18をキャブ12の外側に設ける場合のようにキャブ外側に余分なスペースを作り出す必要も、そのためにキャブ外の構造物の配置を変える必要もなく、キャブまわりのレイアウトの点で有利となる。
【0073】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、シール部材23をワッシャ22と補強部材18の上面壁18aの間に設け、防振マウント14の常用ストロークを超える領域で荷重伝達機能を果たす構成をとったが、シール機能のみを果たすように、たとえば補強部材18の上面壁18aの下面側や、下面壁の上面側または下面側、あるいはこれら複数個所に設けてもよい。
【0074】
(2) 補強部材18は、上記実施形態で挙げた箱形に限らず、機械転倒時の側方荷重を受け、かつ、規制手段を構成し得ることを条件として種々変更することができる。
【0075】
図7にはその変更例として、前後一対の大略三角形のプレート18b,18b間に水平壁18cが設けられた側面視H形の補強部材18を示す。
【0076】
この場合、水平壁18cにボルト通し穴19が設けられる。
【0077】
(3) 補強部材18の設置位置に関するバリエーションを
図8に示す。
【0078】
同図(a)〜(c)中、太線の実線もしくは破線または一点鎖線で補強部材18を示す。
【0079】
(a)に示すように、上記実施形態では補強部材18を左後ピラー15の右側に設けたのに対し、一点鎖線で示すように同ピラー15の前側、またはキャブ12外で同ピラー後側に設けてもよい。
【0080】
あるいは、(b)に示すように左中間ピラー25の左側または後側に設けてもよいし、(c)に示すように前ピラー26の右側に設けてよい。
【0081】
ピラー後側または前側に補強部材18を設ければ、側方荷重のうちとくに前後方向の荷重に対するピラー保護効果が高いものとなる。
【0082】
また、補強部材18を一本のピラーの複数の面に設けてもよいし、左側複数本のピラーに対して設けてもよい。
【0083】
図8中、27は右後ピラー、28は右前ピラーである。
【符号の説明】
【0084】
11 アッパーフレーム
12 キャブ
13 左サイドデッキ
14 防振マウント
15 左後ピラー
16 キャブ下枠
17 フロアプレート
18 補強部材
18a 補強部材の上面壁
18c 補強部材の水平壁
19 軸体通し穴としてのボルト通し穴
20 規制ボルト
22 ワッシャ
23 シール部材
A 補強部材左側面の平面視寸法
B ピラー右側面の平面視寸法