(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  現在、環境保護の立場から、クリーンなエネルギの研究開発が進められている。中でも太陽電池は、その資源である太陽光が無限であること、無公害であることなどから注目を集めている。従来、太陽電池による太陽光発電には、単結晶又は多結晶シリコンが多く用いられてきた。しかし太陽電池に使用するこれらのシリコンでは、結晶の成長に多くのエネルギと時間とを要し、かつ、続く製造工程においても複雑な工程が必要となるため、量産効率が上がり難く、低価格の太陽電池を提供することが困難であった。
【0003】
  一方、アモルファスシリコンなどの半導体を用いた、いわゆる薄膜半導体太陽電池(以下、薄膜太陽電池という。)は、ガラス又はステンレススチールなどの安価な基板上に、光電変換層である半導体層を必要なだけ形成すればよい。従って、この薄膜太陽電池は、薄型で軽量、製造コストの安さ、大面積化が容易であることなどから、今後の太陽電池の主流になると考えられている。
【0004】
  しかし、薄膜太陽電池は、その変換効率が結晶シリコンを用いた太陽電池に比べて低く、これまで本格的に使用されてこなかった。そこで薄膜太陽電池の性能を改善するために、現在様々な工夫がなされている。
【0005】
  その一つが、光電変換層の裏面側、つまり本発明の利用分野の一つである薄膜太陽電池の裏面電極からの光の反射特性を高めることである。これによって、光電変換層で吸収されなかった太陽光を、再び光電変換層に戻し、従来吸収されていなかった太陽光を有効に利用することが可能となる。
【0006】
  中でも、エネルギの低い長波長領域の光を光電変換層に効率的に吸収させるためには、裏面電極に数十ナノメートルからミクロンサイズの凹凸形状を有する表面構造、いわゆるテクスチャ構造を形成させることが大変効果的である。光電変換層で吸収されきれずに裏面電極に到達した光は、このテクスチャ構造を持つ裏面電極で散乱反射され、方向を変えて再び光電変換層に入っていく。この散乱により光路長が伸びるとともに、全反射条件により光が効果的に太陽電池内に閉じ込められる。この光閉じ込め効果と称される効果により、光電変換層での光吸収が促進されて太陽電池の変換効率が向上する。光閉じ込め効果は、太陽電池の高効率化技術として今や必須の技術となっている。
【0007】
  図1(d)に示すように、透光性基板側から光を入射させるスーパーストレート型太陽電池10では、通常、基板11−透明電極12−光電変換層13−裏面電極15の順で形成された構造をとっており、光の散乱と光閉じ込め効果を発現させるために、一般的にこの光入射側の透明電極12、例えばSnO
2といった材料にテクスチャ構造12aを形成させて光散乱を生じさせることで、光閉じ込め効果を発現させている。なお、このスーパーストレート型太陽電池では、光電変換層13の表面パッジベーション、裏面電極15とのオーミックコンタクト、並びに増反射光学設計のために、光電変換層13と裏面電極15の間に透明導電膜14が形成される。
【0008】
  一方、
図2(d)に示すように、光電変換層の表面から光を入射させるサブストレート型太陽電池20では、通常、基板21−裏面電極22−光電変換層23−透明電極24の順で形成された構造をとっており、一般的にこの裏面電極22にテクスチャ構造22aを形成させて光散乱を生じさせることで、光閉じ込め効果を発現させている。
【0009】
  このサブストレート型太陽電池のテクスチャ構造を有する裏面電極を形成する方法として、蒸着中に加熱することで金属膜を多結晶化する方法(例えば、特許文献1参照。)、金属電極を蒸着・熱処理後、スパッタエッチングする方法(例えば、特許文献2参照。)、蒸着中の加熱で局所的な銀の凝集を促し、凹凸を持つ半連続膜を形成させた後に、低温で銀を蒸着することで連続膜を形成する方法(例えば、特許文献3参照。)、基材を加熱しながらAl−Siの合金などを蒸着することで凹凸膜を形成し、その上に反射率の高い金属膜を蒸着する方法(例えば、特許文献4参照。)、更に、Ag−Al合金を蒸着することで凹凸膜を形成する方法(例えば、特許文献5参照。)等がそれぞれ提案されている。
 
【発明を実施するための形態】
【0024】
  次に本発明を実施するための形態を説明する。
 
【0025】
  本発明の電極形成用組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した組成物である。本発明の組成物では、この組成物中にPVP、PVPの共重合体、PVA及びセルロースエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機高分子を含むことを特徴とする。組成物中に窒素や酸素を含む上記種類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機高分子を所望の割合で含むことで、この組成物を用いてスーパーストレート型太陽電池の裏面電極を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長を制御することができ、粒成長を抑制する方向で制御すれば、透明導電膜と裏面電極との接合界面の裏面電極側に凹凸が発生せず、空気層などの空間を形成させないようにすることができる。
 
【0026】
  また、この組成物を用いてサブストレート型太陽電池の裏面電極を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果を与えるので、良好なテクスチャ構造を有する電極を形成することができる。この場合、テクスチャ構造の平均表面粗さ及び形状を制御することができる。なおかつ、この組成物を用いた電極は基材との密着性に優れる。
 
【0027】
  本発明の組成物を用いた電極の形成では、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
 
【0028】
  また、この組成物を用いて電子ペーパーの電極層を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長を制御することができ、粒成長を抑制する方向で制御すれば、動作層との接合界面を平滑にすることができる。
 
【0029】
  更に、この組成物を用いて電極を形成すると、従来のエポキシ樹脂やウレタン樹脂のような一般的なバインダを添加した場合ほどではないが、実用上十分な密着性を有し、かつ組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものの反射率に近い反射率と、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものが有する比抵抗に近い比抵抗とを有する電極が得られる。
 
【0030】
  例えば、PVPのような複素環を有する有機高分子を組成物中に添加すると、その組成物を用いて形成した塗膜の表面粗さを低下させる効果を有するため、上記有機高分子の添加割合を調整することで、所望の表面粗さを有する塗膜表面を形成することができる。有機高分子の含有率は金属ナノ粒子の0.1〜20質量%の範囲内で選択される。このうち、添加する種類にもよるが概ね0.2〜10.0質量%の範囲内が好ましい。有機高分子の含有率を金属ナノ粒子の0.1〜20質量%の範囲内としたのは、0.1質量%未満では焼結を抑制する効果が得られず、また、形成した膜と基材との密着性が十分に得られないためであり、20質量%を越えると比抵抗及び反射率が低下する不具合を生じるためである。具体的には、PVPの共重合体としては、PVP−メタクリレート共重合体、PVP−スチレン共重合体、PVP−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。またセルロースエーテルとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。
 
【0031】
  上記PVP等の有機高分子が含まれない組成物を用いて電極を形成すると、形成した電極の表面粗さが大きくなるが、電極表面の凹凸形状には光電変換効率を最適化する条件があるとされており、単に表面粗さが大きいだけでは、光電変換効率に優れた電極表面を形成することはできない。本発明の組成物のように、PVP等の種類、濃度等を調整することで、最適化された表面粗さの表面を形成することが可能となる。
 
【0032】
  上記金属ナノ粒子は75質量%以上、好ましくは80質量%以上の銀ナノ粒子を含有する。銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して75質量%以上の範囲としたのは、75質量%未満ではこの組成物を用いて形成された電極の反射率が低下してしまうからである。
 
【0033】
  上記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾されることが好適である。基材上に組成物を塗布した後、焼成すると、金属ナノ粒子の表面を保護していた保護剤中の有機分子が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に電極の導電性及び反射率に悪影響を及ぼす有機物残渣を含有しない金属を主成分とする電極が得られるためである。金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲としたのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記電極内に電極の導電性及び反射率に悪影響を及ぼす有機残渣が多く残るからである。
 
【0034】
  更に保護剤、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有する。水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用があり、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用がある。
 
【0035】
  金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲としたのは、70%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して保護剤の占める割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり電極の密度が低下し易くなって、電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内としたのは、統計的手法より一次粒径が10〜50nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。
 
【0036】
  また、上記金属ナノ粒子は75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、かつ、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンからなる群より選ばれた1種の粒子又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を更に含有することが好適である。この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満とすることが好ましく、0.03質量%〜20質量%とすることが更に好ましい。銀ナノ粒子以外の粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲としたのは、0.02質量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の電極の導電性及び反射率が耐候性試験前と比べて悪化しないという特徴があり、25質量%以上では焼成直後の電極の導電性及び反射率が低下し、しかも耐候性試験後の電極が耐候性試験前の電極より導電性及び反射率が低下してしまうからである。
 
【0037】
  また、組成物は、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むことができる。組成物に上記種類の添加物を1種又は2種以上更に含ませることで、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の更なる抑制効果を与えるので、
目的に応じた表面形状を作成することが可能となる。添加物の添加割合は組成物に対して0.1〜20質量%の範囲内が好ましい。このうち、1〜5質量%の範囲内が特に好ましい。添加物の添加割合が下限値未満では粒成長の抑制効果が得られず、添加物の含有割合が上限値を越えると比抵抗の著しい上昇という不具合を生じる。なお、本発明でいう金属酸化物には、金属元素の酸化物だけでなく、半金属元素の酸化物をも含む。また、本発明でいう金属水酸化物には、金属元素の水酸化物だけでなく、半金属元素の水酸化物をも含む。同様に、本発明でいう有機金属化合物には、金属元素だけでなく半金属元素を構成要素として含む。
 
【0038】
  前述した有機高分子及び上記種類の添加物の双方が含まれない組成物を用いて電極を形成すると、形成した電極の表面粗さが大きくなるが、電極表面の凹凸形状には光電変換効率を最適化する条件があるとされており、単に表面粗さが大きいだけでは、光電変換効率に優れた電極表面を形成することはできない。本発明の組成物のように、有機高分子及び添加物の種類、濃度等を調整することで、最適化された凹凸形状を形成することが可能となる。
 
【0039】
  添加物として使用する金属酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物が好適である。複合酸化物とは具体的には酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化アンチモン−酸化錫系複合酸化物(Antimony Tin Oxide:ATO)、酸化インジウム−酸化亜鉛系複合酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)等である。
 
【0040】
  添加物として使用する金属水酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物が好適である。
 
【0041】
  添加物として使用する有機金属化合物としては、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン及び錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドが好適である。例えば、金属石鹸は、酢酸クロム、ギ酸マンガン、クエン酸鉄、ギ酸コバルト、酢酸ニッケル、クエン酸銀、酢酸銅、クエン酸銅、酢酸錫、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、酢酸モリブデン等が挙げられる。また金属錯体はアセチルアセトン亜鉛錯体、アセチルアセトンクロム錯体、アセチルアセトンニッケル錯体等が挙げられる。また金属アルコキシドはチタニウムイソプロポキシド、メチルシリケート、イソアナトプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
 
【0042】
  添加物として使用するシリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイル並びに変性シリコーンオイルの双方を用いることができる。変性シリコーンオイルは更にポリシロキサンの側鎖の一部に有機基を導入したもの(側鎖型)、ポリシロキサンの両末端に有機基を導入したもの(両末端型)、ポリシロキサンの両末端のうちのどちらか一方に有機基を導入したもの(片末端型)並びにポリシロキサンの側鎖の一部と両末端に有機基を導入したもの(側鎖両末端型)を用いることができる。変性シリコーンオイルには反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとがあるが、その双方の種類ともに本発明の添加物として使用することができる。なお、反応性シリコーンオイルとは、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、並びに異種官能基変性(エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基)を示し、非反応性シリコーンオイルとは、ポリエーテル変性、メチルスチリル基変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、並びに親水特殊変性を示す。
 
【0043】
  また電極形成用組成物中の金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる分散体100質量%に対して2.5〜95.0質量%含有することが好ましく、3.5〜90.0質量%含有することが更に好ましい。金属ナノ粒子の含有量を金属ナノ粒子及び分散媒からなる分散体100質量%に対して2.5〜95.0質量%の範囲としたのは、2.5質量%未満では特に焼成後の電極の特性には影響はないけれども、必要な厚さの電極を得ることが難しく、95.0質量%を越えると組成物の湿式塗工時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。
 
【0044】
  また本発明の電極形成用組成物を構成する分散媒は、全ての分散媒100質量%に対して、1質量%以上、好ましくは2質量%以上の水と、2質量%以上、好ましくは3質量%以上のアルコール類とを含有することが好適である。例えば、分散媒が水及びアルコール類のみからなる場合、水を2質量%含有するときはアルコール類を98質量%含有し、アルコール類を2質量%含有するときは水を98質量%含有する。水の含有量を全ての分散媒100質量%に対して1質量%以上の範囲が好適であるとしたのは、1質量%未満では、組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまい、アルコール類の含有量を全ての分散媒100質量%に対して2質量%以上の範囲が好適であるとしたのは、2質量%未満では、上記と同様に組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまうからである。分散媒に用いる上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
 
【0045】
  アルコール類の添加は、基材との濡れ性の改善のためであり、基材の種類に合わせて水とアルコール類の混合割合を自由に変えることができる。
 
【0046】
  上記電極形成用組成物を製造する方法は以下の通りである。
 
【0047】
  (a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにする。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、更に引き続いてアルコール類で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50質量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
 
【0048】
  続いて、得られた分散体を分散体100質量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)が2.5〜95質量%の範囲内となるように調整する。また、分散媒をアルコール類含有水溶液とする場合には、溶媒の水及びアルコール類をそれぞれ1%以上及び2%以上にそれぞれ調整することが好ましい。次に、この分散体にPVP、PVPの共重合体及びセルロースエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機高分子を加える。有機高分子の含有率は金属ナノ粒子の0.1〜20質量%の範囲内となるように調整する。これにより炭素骨格の炭素数が3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散媒に分散し、PVP、PVPの共重合体及びセルロースエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機高分子が含まれた電極形成用組成物が得られる。また、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含ませてもよい。添加物を更に含ませる場合、有機高分子と上記添加物を併せた含有量は、得られる組成物100質量%に対して0.1〜20質量%の範囲内となるように調整する。
 
【0049】
  (b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体が得られる。
 
【0050】
  (c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体が得られる。
 
【0051】
  (d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
 
【0052】
  なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体が得られる。
 
【0053】
  金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、例えば、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75質量%以上の第1分散体と25質量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100質量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
 
【0054】
  このように製造された電極形成用組成物を用いて電極を形成する方法を説明する。
 
【0055】
  先ず上記電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して成膜する。上記基材は、シリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いはシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料及び金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体を使用することができる。また透明導電膜のいずれか1種を少なくとも含む基材や、透明導電膜を表面に成膜した基材を用いてもよい。透明導電膜としては、酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系が挙げられる。酸化インジウム系としては、酸化インジウム、ITO、IZOが挙げられる。酸化錫系としては、ネサ(酸化錫SnO
2)、ATO、フッ素ドープ酸化錫が挙げられる。酸化亜鉛系としては、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛が挙げられる。基材は太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかであることが好ましい。透明電極としては、ITO、ATO、ネサ、IZO、AZO等などが挙げられる。更に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のような誘電体薄膜が基材表面に形成されていてもよい。高分子基板としては、ポリイミドやPET(ポリエチレンテレフタレート)等の有機ポリマーにより形成された基板が挙げられる。上記分散体は太陽電池素子の光電変換半導体層の表面や、透明電極付き太陽電池素子の透明電極の表面に塗布される。
 
【0056】
  更に上記湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。
 
【0057】
  スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。
 
【0058】
  スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。
 
【0059】
  スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。
 
【0060】
  スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。
 
【0061】
  ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
 
【0062】
  次に上面に成膜された基材を大気中若しくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で130〜400℃、好ましくは170〜400℃の温度に、5分間〜1時間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。ここで、基材上に形成された電極形成用組成物の膜の焼成温度を130〜400℃の範囲としたのは、130℃未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性及び反射率が低下してしまい、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまい、特にアモルファスシリコン、微結晶シリコン、或いはこれらを用いたハイブリッド型シリコン太陽電池における光電変換の光波長域に影響を及ぼしてしまうからである。更に基材上に形成された電極形成用組成物の膜の焼成時間を5分間〜1時間の範囲としたのは、5分間未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまい、1時間を越えると特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。
 
【0063】
  また、基板上面に形成した焼成後の厚さは0.1〜2.0μm、好ましくは0.3〜1.5μmの範囲内となるように、成膜時に調整する。ここで、基材上に形成された電極形成用組成物を焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲となるようにしたのは、0.1μm未満では太陽電池に必要な電極の表面抵抗値が不十分となり、2.0μmを越えると特性上の不具合はないけれども、材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になるからである。
 
【0064】
  上記電極形成用組成物では、一次粒径10〜50nmとサイズの比較的大きい金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、保護剤の占める割合が小さくなる。この結果、上記組成物を用いて電極を形成すると、上記保護剤が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に電気伝導に悪影響を与える有機物を含有しない電極が得られる。
 
【0065】
  上記条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜からなる電極を形成することができる。形成した導電性塗膜は、密着性に優れ、また、基材との接合界面に細かな空気層などの空間を形成させないため、スーパーストレート型太陽電池の裏面電極とした場合に、太陽電池の変換効率の低下を抑制することができる。
 
【0066】
  また、形成した導電性塗膜は、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長を制御することが可能になり、サブストレート型太陽電池の裏面電極とした場合に、良好なテクスチャ構造を有する。また、使用する組成物中の添加物の種類及び添加量によって、テクスチャ構造の平均表面粗さ及び形状を制御した塗膜を得ることができる。基材上面に形成した導電性塗膜からなる電極は、平均表面粗さが10〜100nmの範囲内となっていることが好ましい。平均表面粗さが上記範囲内であれば、サブストレート型太陽電池を構成する裏面電極が有するテクスチャ構造に適した範囲となる。形成した導電性塗膜は、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものが有する比抵抗に近い比抵抗が得られ、また、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものの反射率に近い優れた反射率が得られる。
 
【0067】
  また、形成した導電性塗膜は、電子ペーパーの電極層とした場合、動作層との接合界面を平滑にすることができるので、電界集中を生じず、電子ペーパーに適する。
 
【0068】
  このように、本発明の電極の形成方法は、上記電極形成用組成物を基材上に湿式塗工して成膜し、成膜した基材を焼成する簡易な工程で電極を形成することができる。このように、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
 
【0069】
  本発明の電極形成用組成物を用いて形成したスーパーストレート型太陽電池について説明する。
 
【0070】
  先ず、
図1(a)に示すように、基材11の上に、透明導電膜をスパッタ法、蒸着法或いは噴霧熱分解法(例えば、塩化錫溶液のスプレイ噴霧による熱分解法:ネサガラス)により形成して透明電極12とする。基材としてはガラスのような透光性基板11が挙げられる。この透明導電膜は光の散乱と光閉じ込め効果を発現させるために、その表層がテクスチャ構造12aとなるように形成される。透明導電膜の材質としては、ネサガラス(SnO
2系)が一般的である。
 
【0071】
  次いで、
図1(b)に示すように、テクスチャ構造12aを有する透明電極12の上に、光電変換層13を形成する。この光電変換層13はプラズマCVD法により形成される。透明電極12のテクスチャ構造12aは、この光電変換層13にも反映される。なお、本実施の形態では、光電変換層13をアモルファスシリコン13aと微結晶シリコン13bをPIN接合積層膜としたが、アモルファスシリコン13aのみでもよいし、微結晶シリコン13bのみでも良い。このアモルファスシリコン13aと微結晶シリコン13bとのPIN接合積層膜から光電変換層13が形成された太陽電池は、ハイブリッド型或いはタンデム型と呼ばれる。
 
【0072】
  次に、
図1(c)に示すように、光電変換層13の上に、光電変換層の表面パッジベーション、裏面電極15とのオーミックコンタクト、並びに増反射光学設計のために、透明導電膜14をスパッタ法、蒸着法或いはMOCVD法により形成する。
 
【0073】
  最後に、
図1(d)に示すように、透明導電膜14の上に、本発明の電極形成用組成物を塗布、焼成して裏面電極15を形成することにより、透光性基板側から光を入射させるスーパーストレート型太陽電池10が得られる。このスーパーストレート型太陽電池10では基材11が受光面となる。形成した裏面電極15は、透明導電膜14との密着性に優れ、また、透明導電膜14との接合界面に細かな空気層などの空間を形成させないため、変換効率の低下を抑制したスーパーストレート型太陽電池とすることができる。
  本発明の電極形成用組成物を用いて形成したサブストレート型太陽電池について説明する。
 
【0074】
  先ず、
図2(a)に示すように、基材21の上に、本発明の電極形成用組成物を塗布、焼成して裏面電極22を形成する。基材21としては、ガラスや有機フィルムなどが挙げられる。形成した裏面電極22は、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果が与えられるため、その表層には光の散乱と光閉じ込め効果を効果的に発現させることが可能なテクスチャ構造22aを形成することができる。
 
【0075】
  次いで、
図2(b)に示すように、テクスチャ構造22aを有する裏面電極22の上に、光電変換層23を形成する。この光電変換層23は、前述したスーパーストレート型太陽電池の光電変換層13と同様にプラズマCVD法により形成され、裏面電極22のテクスチャ構造22aが反映される。
 
【0076】
  次に、
図2(c)に示すように、透明導電膜をスパッタ法、蒸着法或いは噴霧熱分解法により形成して透明電極24とする。透明導電膜の材質としては、ネサガラス(SnO
2系)が一般的である。
 
【0077】
  最後に、
図2(d)に示すように、透明電極24の上に、封止材を形成することにより、サブストレート型太陽電池20が得られる。このサブストレート型太陽電池20では封止材が受光面となる。
 
【0078】
  本発明の電極形成用組成物を用いて形成した電子ペーパーについて説明する。
 
【0079】
  本実施の形態では、
図3に示すように、電子ペーパー30は、基材31に透明導電膜32を介して動作層33が形成され、この動作層33の界面に電極層34が接合された構造を有する。基材31としては、ガラス、有機高分子フィルム、プラスチックフィルム、或いはシリカ薄膜が形成された有機高分子フィルムなどが挙げられる。透明導電膜32はスパッタ法により形成される。透明導電膜の材質としては、酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系が挙げられる。酸化インジウム系としては、酸化インジウム、ITO、IZOが挙げられる。酸化錫系としては、ネサ(酸化錫SnO
2)、ATO、フッ素ドープ酸化錫が挙げられる。酸化亜鉛系としては、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛が挙げられる。動作層33は、マイクロカプセル電気泳動型、電子粉流体型、コレスティック液晶型、有機ELといった様々な方式が提案されている。電極層34は、本発明の電極形成用組成物を塗布、焼成することで形成される。このように形成した電極層34は、動作層33との接合界面を平滑にすることができるので、電界集中を生じず、電子ペーパーに適する。
 
【実施例】
【0080】
  次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0081】
  <実施例1〜7、比較例1〜3>
先ず、硝酸銀を脱イオン水に溶解して濃度が25質量%の金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0082】
  次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。
【0083】
  還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0084】
  得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属の含有量を50質量%にした。
【0085】
  その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな金属粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nm範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた金属ナノ粒子は銀ナノ粒子からなり、この銀ナノ粒子には、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
【0086】
  次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表1に示す添加物を表1に示す割合となるように加えることで、実施例1〜7及び比較例1〜3の塗布試験用組成物をそれぞれ得た。
【0087】
  <実施例8>
実施例1〜7と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硝酸パラジウムに代え、実施例1〜7と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、パラジウムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのパラジウムナノ粒子を数平均で71%含有するように、即ち数平均で全てのパラジウムナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのパラジウムナノ粒子の占める割合が71%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体77質量%と第2分散体23質量%とを調整した。この分散体を実施例8で使用し、実施例1〜7と同様の評価を行った。次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表1に示す通り、PVPを表1に示す割合10.0質量%となるように加えることで調整した。また分散体中の銀ナノ粒子及びパラジウムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びパラジウムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基及びカルボニル基を含有した。
【0088】
  <実施例9>
  実施例1〜7と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を三塩化ルテニウムに代え、実施例1〜7と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、ルテニウムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのルテニウムナノ粒子を数平均で71%含有するように、即ち数平均で全てのルテニウムナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのルテニウムナノ粒子の占める割合が72%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体77質量%と第2分散体23質量%とを調整した。この分散体を実施例9で使用し、実施例1〜7と同様の評価を行った。次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表1に示す通り、PVPを表1に示す割合10.0質量%となるように加えることで調整した。また分散体中の銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基及びカルボニル基を含有した。
【0089】
  <比較試験1>
  実施例1〜9及び比較例1〜3で得られた塗布試験用組成物を次の表1に示す基材上に600nmの膜厚となるようにスピンコーティング法或いはスプレーコーティング法で塗布した後に、次の表1に示す熱処理条件で大気中焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。形成した導電性塗膜について、基材への密着性及び塗膜の反射率についてそれぞれ評価した。また、形成した導電性塗膜の比抵抗を求めた。
【0090】
  基材への密着性評価は、JIS  K  5600−5−6(クロスカット法)に準拠した方法により行い、定性的に評価した。具体的には、塗膜に著しい剥離が生じない場合、即ち、剥離分類が0〜2の範囲内の場合に「良好」と評価付けし、それ以外を「不良」と評価付けした。塗膜の反射率評価は、紫外可視分光光度計と積分球の組み合わせにより、塗膜の拡散反射率を測定した。その測定結果を
図4に示す。また、この測定結果をもとに相対的に評価した。具体的には、塗布試験用組成物中に添加物を加えていない比較例1の拡散反射率を基準値とし、この基準値よりも拡散反射率が向上する場合に「良好」と評価付けし、基準値とほぼ同じ値の場合に「同等」と評価付けし、基準値よりも悪化する場合に「不良」と評価付けした。塗膜の比抵抗は、四探針法により塗膜の表面抵抗を測定し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)により塗膜の膜厚を測定し、それぞれ測定した表面抵抗と膜厚とから計算により求めた。その結果を表1にそれぞれ示す。
【0091】
【表1】
【0092】
図4より明らかなように、組成物中に添加物を加えていない比較例1や、組成物中にウレタンやアクリル等の樹脂が添加された比較例2及び3に比べて、本発明の組成物中にPVP、PVPの共重合体又はセルロースエーテルが添加された実施例1〜7では、測定した全ての波長で高い拡散反射率となっていた。
【0093】
  表1より明らかなように、組成物中に添加物を加えていない比較例1では、基材との密着性が『不良』に劣る結果となった。また、組成物中にウレタンやアクリル等の樹脂が添加された比較例2及び3では、基材との密着性及び塗膜の比抵抗は優れた結果が得られていたが、塗膜の反射率に劣ることが確認された。
【0094】
  一方、組成物中にPVP、PVPの共重合体又はセルロースエーテルのいずれかを添加した実施例1〜9では、どのような種類の基材に対しても優れた密着性を示していた。また、実施例1〜7では優れた反射率が、実施例8及び9では基準値と同等の反射率がそれぞれ得られており、組成物中に添加する種類によっては添加物を加えても反射率が低下しないことが判った。更に、金属銀の比抵抗に近い比抵抗が得られており、本発明の組成物を用いて形成した塗膜は高い導電性を有していることが確認された。
【0095】
  このような性質を有する塗膜は太陽電池用電極の用途に好適である。
【0096】
  <実施例10〜21、比較例4>
先ず、次の表2に示す金属ナノ粒子を形成する種類の金属塩を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0097】
  次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0098】
  得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな金属粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nm範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた金属ナノ粒子は、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
【0099】
  次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表2に示す添加物を表2に示す割合となるように加えることで、実施例10〜21及び比較例4の塗布試験用組成物をそれぞれ得た。
【0100】
  <比較試験2>
実施例10〜21及び比較例4で得られた塗布試験用組成物を次の表2に示す基材上に10
2〜2×10
3nmの膜厚となるように様々な成膜方法で塗布した後に、次の表2に示す熱処理条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。
【0101】
  形成した導電性塗膜について、比抵抗、反射率、塗膜厚さ及び平均表面粗さをそれぞれ求めた。塗膜の比抵抗は、四探針法により塗膜の表面抵抗を測定し、SEMにより塗膜の膜厚を測定し、それぞれ測定した表面抵抗と膜厚とから計算により求めた。塗膜の反射率評価は、紫外可視分光光度計と積分球の組み合わせにより、波長800nmにおける塗膜の拡散反射率を測定した。塗膜厚さはSEMによる断面観察により測定した。平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)によって得られた表面形状に関する評価値をJIS  B0601に従って評価することで得た。その結果を表3にそれぞれ示す。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表3より明らかなように、実施例10〜21の組成物を用いて形成した導電性塗膜と、比較例4の組成物を用いて形成した導電性塗膜とを比較すると、比抵抗及び反射率は同等であるが、塗膜の平均表面粗さは比較例4が110nmであるのに対し、実施例10〜21が10〜40nmの範囲内と、サブストレート型太陽電池を構成する裏面電極が有するテクスチャ構造に適した範囲の表面粗さが得られていることが確認できた。
【0105】
  <実施例22〜58、比較例5〜8>
先ず、次の表4〜表6に示す金属ナノ粒子を形成する種類の金属塩を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0106】
  次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0107】
  得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな金属粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nm範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた金属ナノ粒子は、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
【0108】
  次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表4〜表6に示す添加物を表4〜表6に示す割合となるように加えることで、実施例22〜58及び比較例5〜8の塗布試験用組成物をそれぞれ得た。
【0109】
  <比較試験3>
実施例22〜58及び比較例5〜8で得られた塗布試験用組成物を次の表4〜表6に示す基材上に10
2〜2×10
3nmの膜厚となるように様々な成膜方法で塗布した後に、次の表4〜表6に示す熱処理条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。
【0110】
  形成した導電性塗膜について、基材への密着性、比抵抗、反射率、塗膜厚さ及び平均表面粗さをそれぞれ求めた。基材への密着性評価は、JIS  K  5600−5−6(クロスカット法)に準拠した方法により行い、定性的に評価した。具体的には、塗膜に著しい剥離が生じない場合、即ち、剥離分類が0〜2の範囲内の場合に「良好」と評価付けし、それ以外を「不良」と評価付けした。塗膜の比抵抗は、四探針法により塗膜の表面抵抗を測定し、SEMにより塗膜の膜厚を測定し、それぞれ測定した表面抵抗と膜厚とから計算により求めた。塗膜の反射率評価は、紫外可視分光光度計と積分球の組み合わせにより、波長800nmにおける塗膜の拡散反射率を測定した。塗膜厚さはSEMによる断面観察により測定した。平均表面粗さは、AFMによって得られた表面形状に関する評価値をJIS  B0601に従って評価することで得た。その結果を表7及び表8にそれぞれ示す。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
表7より明らかなように、組成物中に添加物を加えていない比較例5〜8では、基材との密着性が『不良』と、密着性に劣る結果となった。一方、表7及び表8より明らかなように、実施例22〜58の組成物を用いて形成した導電性塗膜は、基材と良好な密着性を有していた。また、実施例22〜58では、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものが有する比抵抗に近い比抵抗が得られており、本発明の組成物を用いて形成した塗膜は高い導電性を有していることが確認された。また、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものの反射率に近い優れた反射率が得られており、添加物を加えても反射率が低下しないことが判った。更に、塗膜の平均表面粗さも10〜100nmの範囲内と、サブストレート型太陽電池を構成する裏面電極が有するテクスチャ構造に適した範囲の面粗さが得られていることが確認できた。