(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明により、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる不純物、光透過率差の上昇に繋がる不純物、およびアミド化合物の重合率の低下に繋がる不純物が明らかとなり、これら不純物の除去方法も見出された。本発明は下記第1〜第3の態様により、より高品質なアミド化合物、特にラクタムを製造する方法に関する。
【0046】
本発明の第1の態様は、ベックマン転位反応の転化率の低下に繋がる不純物を特定し、これを除去する方法に関する。
【0047】
本発明の第2の態様は、アミド化合物の光透過率差を増加させる物質として、二重結合を有する不純物を特定し、これを除去する方法に関する。
【0048】
本発明の第3の態様は、橋かけ環状構造を有する不純物の除去方法に関する。
【0049】
まず、各態様における不純物の特徴とこれを除去する方法について説明する。第1〜第3の態様に共通して適用される事項に関しては後述する。
【0050】
<ベックマン転位反応を阻害する不純物>
本発明の第1の態様においては、ベックマン転位反応の転化率の低下に繋がる不純物を特定し、これを除去する方法を提供する。
【0051】
アミド化合物は、
(1)対応オキシムを製造する「オキシム化工程」、
(2)オキシムを、ベックマン転位触媒を用いてベックマン転位反応を行い、アミド化合物を製造する「転位工程」
を有する製造方法により製造される。その際、ベックマン転位反応後の反応溶液をアミド化合物と溶媒とに分離し、溶媒をオキシム化工程にリサイクルする「溶媒リサイクル工程」をさらに有することが好ましい。
【0052】
発明者らは、転位工程におけるベックマン転位反応の反応液中における不純物の反応への影響について検討した。その結果、アルドキシム、アミドキシム及びアルコールがベックマン転位反応を阻害することが判明した(実施例A参照)。ベックマン転位反応の後、溶媒リサイクル工程により溶媒がリサイクルされる場合、これらベックマン転位反応を阻害する物質の溶媒への蓄積、リサイクル溶媒への混入を避けることが好ましい。
【0053】
アルドキシム、アミドキシム及びアルコールがベックマン転位反応の反応液中に含まれることには、下記のような原因が考えられる。
【0054】
アルドキシム、アミドキシムは、それぞれアルデヒドやニトリルとヒドロキシルアミンとの反応によって生成する事が知られている(共立出版株式会社発行「化学大辞典」1993年6月1日縮刷版第34刷第1 p244およびp418)。また、ニトリルはアルドキシムの脱水反応により(共立出版株式会社発行「化学大辞典」1993年6月1日縮刷版第34刷第2巻 p99〜p100)、アルデヒドはR−CHCl
2の加水分解によって生成する事が知られている(共立出版株式会社発行「化学大辞典」1993年6月1日縮刷版第34刷第1巻 p412)。また、R−CHCl
2については、共立出版株式会社発行「化学大辞典」1993年6月1日縮刷版第34刷第1巻 p1071に、トルエンと三塩化リンからR−CHCl
2に対応するジクロロメチルベンゼンが生成することが示されている。
【0055】
アルコールはR−CH
2Clの加水分解又はアルデヒドのアルカリ分解で生じる事が知られている(共立出版株式会社発行「化学大辞典」1993年6月1日縮刷版第34刷第8巻 p466)。
【0056】
従って、ベックマン転位反応を阻害する上記アルドキシム、アミドキシム及びアルコールもこれらの反応から生成するものと推察される。
【0057】
実際、ベックマン転位反応に用いることができる触媒と溶媒の組合せ、例えば、室温で塩化チオニルをトルエンで希釈した場合、ガスクロマトグラフィー分析により塩化ベンジル、塩化ベンザル、ベンズアルデヒドが検出される。このことから、上記アルドキシム、アミドキシムの生成に向けた一連の反応はアミド化合物を製造する各プロセスで進行するものと推察される。
【0058】
転位工程とオキシム化工程における溶媒は共通して用いられることが多い。従って、溶媒リサイクル工程によりリサイクルされる溶媒中に、アルドキシム、アミドキシムの前駆物質であるニトリル、アルデヒド、R−CH
2ClやR−CHCl
2のような塩素化物が混入することを防止することが好ましい。また、アルコールの蓄積を避けるために、アルコール自体のリサイクル溶媒への混入を防止すると共に、塩素化物、アルデヒドの混入を避けなければならない。これらの化合物を除去することによって、前記ベックマン転位反応阻害物質の生成経路を断つことができ、少量のベックマン転位触媒で安定してアミド化合物を製造することができる。
【0059】
上記ベックマン転位反応阻害物質の許容される蓄積量は、オキシム化工程における原料ケトンの種類、転位工程におけるベックマン転位触媒の種類及び使用量、溶媒の種類等によって異なる。例えば、オキシム化工程の原料ケトンとしてシクロドデカノン、転位工程のベックマン転位触媒として塩化チオニル、溶媒としてトルエンを用いる場合、オキシム化工程から転位工程に送られるオキシム溶液中に含まれる副生物であるアミドキシムの量は、原料ケトンの使用量に対して0.4mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以下であることがより好ましい。
【0060】
転位工程において、転位反応液中のアミドキシム含有量が多すぎると、少量の触媒量では転位反応が完結せず、オキシムが残存してしまう。なお、ベックマン転位触媒の増量によって、ベックマン転位反応を完結することは可能であるが、大量の触媒が必要になるため好ましくない。
【0061】
アルドキシムやアルコールの転位反応への影響はアミドキシムと比較して軽微であるため、これらの含有量は、上記アミドキシムの許容量と同程度の範囲であればよい。
【0062】
前記の通り、副生物であるアミドキシム、アルドキシムはオキシム化工程で生成する。従って、転位反応への影響を避けるため、溶媒リサイクル工程によりリサイクルされる溶媒中の塩化物、アルデヒド、アルコール、ニトリルの含有量をそれぞれ、オキシム化に与る原料ケトンの使用量に対し、0.4mol%以下に抑えることが好ましく、0.1mol%以下に抑えることがより好ましい。
【0063】
上記副生物は以下の方法により、許容範囲内になるよう除去することができる。
【0064】
ベックマン転位反応後の反応液(以下、転位液と称する)は、通常、ろ過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらの組合せの方法による「後処理」が施されるが(詳しくは後述する)、上記副生物の一部はこの後処理によって除去される。また、前述の副生物の加水分解・抽出除去の目的で水洗、アルカリ洗浄、酸処理を行ってもよい。例えば、ニトリルは硫酸や水酸化ナトリウム等の強酸、強塩基を用いて加水分解することで、カルボン酸に転換することができる。
【0065】
転位液は、上記後処理を施された後、溶媒リサイクル工程で、溶媒とアミド化合物とに分離され、溶媒はオキシム化工程にリサイクルされる。溶媒リサイクル工程では、転位工程で生成され、反応液中に溶解しているベックマン転位触媒の脱離基由来の成分、ベックマン転位触媒の残渣、および副生物等が除去される。
【0066】
溶媒リサイクル工程において、溶媒と目的生成物であるアミド化合物を分離する方法としては、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の方法が挙げられるが、通常、蒸留が用いられる。ここで、溶媒リサイクル工程によりリサイクルされる溶媒中の不純物の含有量が、前述の許容範囲内に抑制される。
【0067】
溶媒リサイクル工程において、蒸留により溶媒の回収と不純物の除去を行う場合、一般的に反応原料であるケトンから生じる前記副生物(例えば、ケトンがシクロドデカノンの場合、1−クロロドデカン、ラウロニトリル、12−クロロドデカンニトリル等)より、溶媒から生じる前記副生物(例えば、溶媒がトルエンの場合、塩化ベンジル、塩化ベンザル、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、ベンゾニトリル等)の方が溶媒と沸点が近接している為、溶媒起源の副生物の混入を避けることが重要である。溶媒の蒸留回収は一回の蒸留操作で行うこともできるが、複数の蒸留操作を組合せて、副生物を含む留分は前段の蒸留工程に戻して溶媒の回収ロスを防ぐと共に、その一部を排出して副生物の蓄積を防ぐことにより溶媒を精製することは、さらに好ましい。なお、分離除去を容易にするために、前記の転位液の後処理において、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、還元処理等によって、副生物を転位反応に影響を与えない物質に転換したり、分離が容易な化合物に転換したりすることも好ましい。例えば、酸処理、アルカリ処理によって、ニトリルをカルボン酸に加水分解することやアルデヒドをアルコールに還元すること等が挙げられる。
【0068】
<光透過率差の増加を抑制する方法と光透過率差の増加に繋がる不純物>
本発明の第2の態様においては、光透過率差が好ましくは35%以下、より好ましくは35%未満のアミド化合物と、これを製造する方法を提供する。発明者らは光透過率差の増加に繋がる不純物の特定も行った。
【0069】
[アミド化合物の光透過率差]
アミド化合物をポリマー原料として用いる場合、重合を阻害する物質、物性を低下させる物質、劣化、着色の原因となる物質の存在が問題となる。その評価指標としては、光透過率差(differential light transmittance、以下これをLT.diff.と記す)、UV価、PAN価が用いられている。ここで光透過率差とは、アミド化合物の品質に関する規格値の1つであって、0.00909Nの過マンガン酸カリウムのメタノール溶液に試料を添加した場合と無添加の場合の410nmにおける吸光度差のことをいう。
【0070】
アミド化合物、特に、ラクタムは、前述の転位液の後処理や蒸留精製を施した後でも、その光透過率差が好ましくは35%以下、より好ましくは35%未満、さらに好ましくは25%以下を示さず、用途によっては満足できない品質の場合がある。ラクタム等のアミド化合物の精製方法として通常実施されている酸処理、アルカリ処理、酸化処理、抽出精製、晶析精製も実施したが、LT.diff.の顕著な減少は認められなかった。
【0071】
光透過率差が大きくなってしまう原因としては、転位工程において、後述する転位触媒、特に触媒aまたは触媒b(触媒a及び触媒bの詳細については後で説明する)を用いた場合、これらに関与して生成した不純物、すなわちオキシムや溶媒のハロゲン化物、及び溶媒のリサイクルも含めて逐次的に反応生成したアルデヒド、オレフィン、アルドキシム等が影響しているものと推定された。
【0072】
発明者らは、まず、アミド化合物、特にラクタムを蒸留精製後、又は蒸留精製する事無く水素化精製する事で、35%以下のLT.diff.である高純度のラクタム、特にラウロラクタムが得られる事を見出した(実施例B参照)。アミド化合物を水素化精製する方法は後述する。
【0073】
[二重結合を有する不純物]
さらに、本発明の発明者らは、蒸留精製して得られたラウロラクタムを、ガスクロマトグラフ・質量分析した結果、二重結合を有する不純物であるドデセノ12ラクタム(数種の異性体が存在)の濃度と光透過率差との間に相関があることを見出した(実施例C参照)。ここで、ベックマン転位反応における二重結合を有する不純物としては、出発原料であるケトンがシクロドデカノンの場合、ドデセノ12ラクタムが挙げられ、ケトンがシクロヘキサノンの場合、ヘキセノ6ラクタムが挙げられる。
【0074】
これら二重結合を有する不純物の含有量を抑えることにより、光透過率差(LT.diff.)が好ましくは35%以下のアミド化合物を得ることができる。アミド化合物中におけるこれら不純物の許容範囲は15ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。不純物濃度が許容範囲を越えて存在する場合は、光透過率差が35%を越えてしまう。
【0075】
アミド化合物の製造方法は、前記のようにオキシム化工程と転位工程を有するが、通常、オキシム化工程により出発原料ケトンからオキシムが製造され、転位工程によりオキシムからアミド化合物が製造される(下式参照)。本発明の発明者らは、上記二重結合を有する不純物は、上述のアミド化合物の水素化精製により除去されるだけでなく、アミド化合物の水素化精製、オキシムの晶析精製又は水素化精製、原料であるケトンの水素化精製のうち少なくともひとつの精製処理を行うことによって、許容範囲内に低減することができ、高純度のアミド化合物が得られることを見出した。以下、アミド化合物の水素化精製、ケトンの水素化精製、オキシムの水素化精製、およびオキシムの晶析精製の方法を記載する。
【0077】
[アミド化合物の水素化精製]
アミド化合物の水素化精製は、転位工程により生成したアミド化合物を含む反応混合物(転位液)、または転位液中の残存触媒及び/又は触媒残渣を除去するため、例えば後述の参考例B5で示すような、水洗浄および/またはアルカリ洗浄等の後処理を行った転位液を、そのまま水素化してもよい。この場合は、転位溶媒が存在するため、低温での水素化処理が可能である。なお、後処理を行わず、転位液を水素化精製する場合は、転位触媒および/または触媒残渣が残存しているため、転位触媒の種類によっては、水素化触媒を被毒する場合がある。また、水素化されやすい転位溶媒を含む場合は、水素化触媒の種類や水素化処理の条件が制約される場合もある。水洗浄および/またはアルカリ洗浄の後処理後の反応混合物は、後処理を施していない転位液と比較して転位触媒及び/又は触媒残渣の影響は軽減されるが、水素化触媒の種類や水素化処理の条件等が制約される場合もある。
【0078】
あるいは、アミド化合物の水素化精製は、転位液からベックマン転位反応で使用した溶媒を除去したもの、または、溶媒を除去した反応混合物をさらに蒸留精製したものを、そのまま(無溶媒状態で)水素化してもよい。蒸留精製後の反応混合物は触媒残渣の影響を受けず、水素化触媒の種類、水素化条件を幅広く選択できるため、水素化処理の対象として好ましい。また、水素還元条件で還元されない溶媒にこれを溶解させて水素化してもよい。溶媒としては、好適には、炭素原子数1〜3の脂肪族アルコール類(メタノール、エタノールなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロドデカンなど)などが挙げられ、水素化条件によっては、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)を用いることもできる。
【0079】
水素化処理プロセスは、水素化触媒の存在下において行われる。ここで、水素化触媒は、系中に懸濁させる懸濁床、固定床、その他通常用いられる水素化プロセスを採用することができる。また、代表的には、水素化触媒は、バルク触媒又は担持された触媒等が用いられる。
【0080】
好適な水素化触媒としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、金(Au)及び白金(Pt)からなる群より選ばれる一種又はこれらの組合せの金属に由来するものが挙げられる。
【0081】
触媒担体としては、例えば活性炭(C)、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)或は酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、珪藻土、粘土鉱物、酸化ランタン(La
2O
3)又は酸化セリウム(Ce
2O
3)のような希土類金属酸化物などを使用してもよい。また、これらの酸化物の混合物又は複合酸化物も使用してもよい。また、マグネシウム、アルミニウム又はホウ素のシリケート又はホスフェートも触媒担体として使用してもよい。
【0082】
水素化触媒の形状は、粒状、粉状のいずれを用いてもよく、粒状としては、球状、円柱状、不定形、特殊形状のいずれを用いてもよい。
【0083】
具体的には、パラジウム、白金を活性炭に担持させたもの(Pd/C、Pt/C)、Ni/アルミナ(耐硫黄性・Ni/Al
2O
3等)、Ni/珪藻土等が挙げられるが、ニッケルの活性を制御した所謂安定化ニッケル触媒(精製した珪藻土に担持されたニッケル塩を乾式還元し安定化処理した触媒)は、安価で取扱いが容易であり、特に好ましい触媒である。また、耐硫黄性・Ni/Al
2O
3などは前還元などの前処理したものが用いられる。
【0084】
水素化は、前記触媒単独で一段で実施してもよいが、多段で実施してもよい。例えば、転位液、水洗浄および/またはアルカリ洗浄した反応混合物を対象とする場合には、硫黄や塩素等の被毒に対する耐性の高い触媒(所謂ガード触媒)を用いた処理槽と、前記一般に用いられる水素化触媒を用いた処理槽とを直列に連結して、水素化処理を行ってもよい。
【0085】
担持された触媒の場合、触媒元素の濃度は、金属の重量として、触媒の全重量の0.01〜80重量%が好ましく、0.1〜50重量%がより好ましい。
【0086】
更に、触媒の活性を向上させる添加物、例えばジルコニウム、マンガン、銅、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、鉄又は亜鉛なども含有させても良い。
【0087】
これらの添加物は、触媒的に活性な金属に対して50重量%以下に相当する量にするのが一般的であり、0.1〜10重量%に相当する量が好ましい。
【0088】
これらの担持された又は未担持の触媒の製造については、Ullmann’s Encyclopaedia of Industrial Chemistry、第5版、A5巻、348〜350頁などの数多くの文献に記載されている。
【0089】
水素化処理は、大気圧又は圧力0.1〜10MPa、好ましくは0.1〜5MPa、より好ましくは0.1〜1MPaで実施される。
【0090】
水素化処理の温度は、通常、50℃以上、170℃以下であることが好ましく、70℃以上、160℃以下であると、アミド化合物の重合等を防ぐ事ができ、更に好ましい。また、例えば、アミド化合物がε−カプロラクタムである場合、160℃よりも低いことがより好ましい。また、例えば、アミド化合物がラウロラクタムで、無溶媒で水素化する場合は、ラウロラクタムの融点(152℃)以上であることが好ましい。
【0091】
[ケトン化合物の水素化精製]
オキシム化工程において、ケトンを原料として用いる場合、製造されたケトンに二重結合を有する不純物が認められる場合がある。二重結合を有する不純物としては、環状ケトンがシクロヘキサノンの場合はシクロヘキセノン、環状ケトンがシクロドデカノンの場合はシクロドデセノンが挙げられる。
【0092】
ケトン化合物の水素化処理は溶媒を使用しても差し支えないが、溶媒の水素化を避けるため、無溶媒で直接水素化することが好ましい。
【0093】
水素化触媒としては、アミド化合物の水素化処理で挙げた金属に由来するものを用いることができるが、これらの遷位金属のうち、特に、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)は、環状ケトンを水素化することなく、二重結合の選択水素化特性に優れており、不純物の除去において好ましい。
【0094】
これらの遷位金属は塩として又は錯体としてケトン又はその溶液に溶解させて使用することができるが、担体に担持して使用することもできる。
【0095】
触媒担体としては、例えば活性炭(C)又はアルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)或は酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、珪藻土、粘土鉱物、酸化ランタン(La
2O
3)又は酸化セリウム(Ce
2O
3)のような金属酸化物などが使用される。
【0096】
水素化の条件はケトン及び触媒の種類によって異なるが、例えば、ケトンとしてシクロドデカノン、触媒金属としてパラジウム(Pd)及び/又はルテニウム(Ru)及び/又は白金(Pt)を用いた場合、触媒金属/ケトン比は0.001〜1重量%が好ましく、0.01〜0.5重量%がより好ましく、水素分圧は0.1〜20MPaが好ましく、0.2〜10MPaがより好ましく、反応温度は75〜200℃が好ましく、90〜150℃がより好ましく、反応時間(連続流通装置使用の場合は平均滞留時間)は1分〜10時間が好ましく、10分〜3時間がより好ましい。
【0097】
上記、水素化条件の組合せにおいて、水素化が穏和にすぎる場合、不純物が残存し、好ましくない。水素化が過酷すぎる場合、ケトンの水素化によってアルコール等が生成し、収率が低下すると共にアルコール等の副生物除去のため、新たな精製装置が必要になり、好ましくない。
【0098】
[オキシムの水素化精製]
オキシムを含む溶液(以下「オキシム油」という)を水素化精製する方法もラクタムの光透過率差低減に有効である。
【0099】
オキシム油の水素化精製の触媒、溶媒、条件については、アミド化合物の水素化処理と同様である。なお、溶媒については、オキシム化工程に用いる溶媒又は転位溶媒と同じにすることが、プロセス構成上好ましい。
【0100】
[オキシムの晶析精製]
また、オキシムを晶析精製することにより、不純物を除去することもできる。オキシムの晶析精製の際の溶媒としては、オキシムと反応せず、オキシムが適度に溶解するものであれば、特に制約されない。例えば、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸、;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロドデカンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、トリフルオロエタノール等のフッ素系アルコール、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級脂肪族アルコールが挙げられる。
【0101】
これらのうち、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級脂肪族アルコールは不純物の溶解度が高く、晶析結晶中に不純物が残存し難いため、好ましい溶媒である。
【0102】
ただし、低級脂肪族アルコールは転位触媒と反応して、ベックマン転位反応の活性を低下させる場合があるため、転位触媒の選択によっては、晶析結晶を乾燥し、アルコール溶媒を除去しなければならない。
【0103】
<橋かけ環状構造を有する不純物とその除去方法>
本発明の第3の態様においては、ラクタムに含まれる橋かけ環状構造をもつ不純物を特定し、これを除去して高純度のラクタムを製造する方法を提供する。
【0104】
ラクタムをポリマー原料として用いる場合は、重合を阻害する物質、物性を低下させる物質、劣化、着色の原因となる物質の存在が問題となる。その評価方法としては、前記光透過率差、UV価、PAN価が用いられている。これらの評価指標を悪化させる具体的物質は特定されているわけではないが、原料であるシクロアルカノン中の不純物の分析結果とラクタムの上記評価指標との対応から、二重結合が残存した化合物、アルデヒド基を含有する化合物、カルボニル基を含有する化合物等と考えられている(例えば特開2004-99585号公報)。
【0105】
これらが不純物である場合は、化学的に活性な官能基や結合を持っていることから、例えば、上記第2の態様で示したように、水素化処理等を行うことで、所望のラクタムや分離除去可能な不純物に変換され除去される。
【0106】
発明者らは、ラクタム製造のためにシクロアルカノンをオキシム化工程の原料に用いたとき、上記水素化精製を行っても残存する不純物があることを見出した(実施例D参照)。
【0107】
発明者らは、目的とするラクタムをわずかに溶解する程度の溶解度が低い溶媒を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)により検出される不純物をラクタムから抽出、濃縮し、各不純物のガクロマトグラフィー−マススペクトル(GC−Mass)を丹念に解析した。その結果、目的とするラクタムより分子量が2又は4小さく、かつフラグメントのM/Z値も、目的とするラクタムのものより2又は4小さい不純物を複数個検出した。これらの不純物の大部分は水素化処理を行っても、GC(ガクロマトグラフィー)分析の保持時間、GC−Mass分析の親ピーク及びフラグメンテーションが変化しなかった。このことから、これらが橋かけ環状構造を有する化合物であるジシクロ環構造あるいはトリシクロ環構造のアミド化合物であると推定された。
【0108】
橋かけ環状構造を有するアミド化合物であって他に官能基及び/又は二重結合等の反応性に富んだ結合を持たない不純物(以下“橋かけ構造を有する不純物”という)は、上述した光透過率差等による評価方法では検出されず、水素化処理を行っても不純物としてラクタム化合物中に残存する。また、製品ラクタムの溶液を直接ガスクロマトグラフィーで分析しても、当該不純物が微量の場合は、ラクタムとの分離が困難であり、検出することが難しい。
【0109】
本発明の第3の態様においては、ラクタム中、これらの橋かけ構造を有する不純物は、50重量ppm以下であることが好ましく、30重量ppm以下であることがさらに好ましい。この不純物濃度が高い場合、ラクタムの重合においてアミド化合物の重合度が上がりにくく、環状の側鎖を有するポリマーが混在することになり、好ましくない。
【0110】
発明者らは橋かけ環状構造を有する不純物の生成起源を解明するため、シクロアルカノンとヒドロキシルアミンから製造されたシクロアルカノンオキシム及び、その出発原料であるシクロアルカノンの分析を行った。その結果、原料であるシクロアルカノン中に対応する橋かけ環状構造を有するケトンを検出した。
【0111】
原料であるシクロアルカノン中の橋かけ環状構造を有するケトンに関して、ジシクロ環構造のケトンの存在については、米国特許出願公開第2010/0191018号明細書に、環状ジケトンの分子内アルドール縮合に起因して生成することが記載されており、ジシクロ環構造の不純物が蒸留精製による除去が困難な不純物であることが示されている。
【0112】
一方、後述の実施例Dに示す通り、ラクタム中の不純物で主たるものはトリシクロ環構造のアミドである。トリシクロ環構造のアミドについてはもとより、その出発物質として想定されるトリシクロ環構造のケトンの存在については知られていないが、その生成経路のひとつとして、シクロドデカノンを例にとれば、ブタジエンの三量化の際にビシクロ[6,4,0]シクロドデカ−4,10−ジエンが副生し、酸化の際に生成したジケトンが分子内アルドール縮合して生じる経路が推定される。
【0113】
従って、ラクタム中の橋かけ環状構造を有する不純物の低減には、その原料であるシクロアルカノンを精製し、対応する橋かけ環状構造を有するケトンを除去する必要がある。発明者らは原料であるシクロアルカノンの精製方法を検討し、原料であるシクロアルカノン中の橋かけ環状構造を有する不純物の除去方法を見出し、これがラクタム中の橋かけ環状構造を有する不純物の低減に対応していることを確認した。すなわち、ラクタム中の橋かけ環状構造を有する不純物の低減には、反応に使用するシクロアルカノン中の橋かけ環状構造を持つケトンの量が、500重量ppm以下であることが好ましい。以下、ラクタム中の橋かけ環状構造を有する不純物を除去する方法を記載する。
【0114】
[シクロアルカノン中の橋かけ環状構造を有するケトンを除去する方法]
上述のように、ラクタム中の橋かけ環状構造を有する不純物を除去するためには、その生成起源であるシクロアルカノン中の橋かけ環状構造を有するケトンを除去することが有効である。発明者らは、鋭意検討の結果、シクロアルカノン中の不純物である橋かけ環状構造を有するケトンを、対象のシクロアルカノンを適度に溶解するが溶解度は低い溶媒を用いた再結晶によって除去できる事を見出した。適応溶媒は対象のシクロアルカノンを適度に溶解するが溶解度は低いという要件に加えシクロアルカノンと反応しないものであれば、特に制約はなく、鎖式炭化水素、脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物芳香族炭化水素、エーテル、エステル等が挙げられる。なお、アミン類等塩基性溶媒はシクロアルカノンとシッフベースを形成するため好ましくない。また、アルコールは、ケトン、アルコールの種類、処理条件によっては、アセタール、ヘミアセタールを形成するため、使用が制限される。一般的にケトン、アルコールともに立体障害が小さい場合、酸性条件下での使用は避けなければならない。ケトン、アルデヒドは再結晶自体に影響は及ぼさないが、溶媒が残存した場合、ヒドロキシルアミンと反応して、目的物と異なるオキシムを生成するため、好ましくない。溶媒の使用量はシクロアルカノンに対して好ましくは5重量%以上から80重量%以下、より好ましくは10重量%以上50重量%以下である。溶媒の使用量が過少の場合、不純物を溶解した溶液が精製されたシクロアルカノンの結晶間の空隙に留まり、不純物が残存するため好ましくない。溶媒使用量が過多の場合、再結晶のワンパス収率が低下し、溶媒の回収、リサイクルに大型の装置が必要になり、エネルギーを浪費するため、好ましくない。
【0115】
本発明の再結晶において、シクロアルカノンの溶解時の温度はシクロアルカノンの融点以下が好ましい。シクロアルカノンの融点より高いと、結晶析出時に融着し、不純物を抱き込む場合がある。結晶取得時の温度は溶媒の融点以上であれば任意に選択できるが、氷点下では冷媒の使用が必要になりコスト上昇に繋がるため好ましくない。再結晶溶媒の使用量は溶解温度でシクロアルカノンを溶解する量以上であれば、特に制約はないが、必要最少量用いることが、ワンパス収率の向上の観点から好ましい。
【0116】
再結晶の際の圧力は、常圧、加圧、減圧のいずれを採用しても差し支えないが、通常は常圧で行われる。シクロアルカノンの再結晶によって、不純物である橋かけ環状構造を有するケトンの含有率は、再結晶前の1/10〜1/50程度に低減される。得られたシクロアルカノンをオキシム化し、ベックマン転位する事により、ベックマン転位反応液中の橋かけ環状構造を持つ不純物が目的生成物であるラクタムに対して300重量ppm以下に制御され、橋かけ環状構造を有する不純物が50重量ppm以下である製品ラクタムが得られる。
【0117】
以下、シクロドデカノンを例にとって、橋かけ環状構造を有するケトンの除去方法を説明する。
【0118】
再結晶溶媒としては、シクロドデカノンを適度に溶解するが溶解度は低いものが好ましく、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、n−ドデカン等の鎖式炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素、テトラリン、デカリン等の縮合芳香環水添物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル等のエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール等のアルコールについても、シクロドデカノンの精製については使用できる。これらの再結晶溶媒のうち、再結晶のワンパス収率が高いn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の炭素原子数6〜8の鎖式脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の炭素原子数5〜8の脂環式炭化水素、メタノール、エタノール等の炭素原子数1又は2の脂肪族アルコールが好ましく、溶媒の回収を考慮すれば、n−ヘプタン、n−オクタン、メタノールが更に好ましい。
【0119】
シクロドデカノンの溶解時の温度はシクロドデカノンの融点である61℃以下が好ましい。シクロドデカノンの融点より高い場合は、結晶析出時に融着し、不純物を抱き込む場合がある。結晶取得時の温度は溶媒の融点以上であれば任意に選択できるが、氷点下では冷媒の使用が必要になりコスト上昇に繋がるため好ましくない。再結晶溶媒の使用量は溶解温度でシクロドデカノンを溶解する量以上であれば、特に制約はないが、必要最少量用いることが、ワンパス収率の向上の観点から好ましい。例えば上記鎖式炭化水素又は脂肪族アルコールを溶媒に用いた場合、溶媒の使用量は、シクロドデカノンと溶媒との合計重量に対して15重量%以下が好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0120】
再結晶の際の圧力は、通常は常圧で行われる。シクロドデカノンの再結晶によって、不純物である橋かけ環状構造を有するケトンの含有率は、1/10〜1/50程度に低減される。得られたシクロドデカノンをヒドロキシルアミンと反応させ、オキシム化し、ベックマン転位により得られたラウロラクタム中の橋かけ構造を有する不純物は50重量ppm以下である。
【0121】
上記のように得られたラウロラクタムからは、高純度、高物性のナイロン12が重合度よく得られる。
【0122】
上述のように、各態様のアミド化合物またはラクタムの製造方法において、
第1の態様では、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるケトンに対して0.4モル%以下とすること、
第2の態様ではケトン、オキシムおよびアミド化合物から成る群から選ばれる1種類以上の化合物の水素化精製および/または晶析精製を行うこと、
第3の態様ではケトンの再結晶を行うこと
を主な特徴とするが、各態様における精製方法を複数組み合わせてもよい。これにより、より高品質なアミド化合物またはラクタムを得ることができる。
【0123】
次に、本発明のアミド化合物およびアミド化合物の製造方法、特に、オキシムを製造するオキシム化工程と、ベックマン転位触媒を用いてオキシムをベックマン転位させる転位工程、転位工程後に通常行われているアミド化合物の精製について説明する。以下の説明は、特に言及しない限り、第1〜第3の態様に共通して適用される。
【0124】
<アミド化合物>
本発明のアミド化合物は、特に限定はされないが、ラクタムであることが好ましく、式(3)で表されるラクタムであることがより好ましい。
【0126】
式中、nは3〜20であり、好ましくは3〜15を示す。通常、糸、ファイバー、フィルムなどに用いられるポリマー又はコポリマーの原料として工業的に用いられるものは、nが5、7、8、9、10、11である。これらのラクタムのうち、可とう性、耐水性、耐溶剤性に優れたポリマーを得ることができるn=11のラクタム、すなわちラウロラクタムは特に有用な化合物である。また、本発明においては、nは7以上の大環状のラクタムが好適に適用される。
【0127】
次に、アミド化合物の製造方法の各工程等について説明する。
【0128】
<オキシム化工程>
本発明において、オキシム化工程とは、オキシムを製造する工程のことをいう。オキシム化工程により製造されるオキシムは、製造しようとするアミド化合物に応じて適宜選択することができる。製造しようとするアミド化合物がラクタムのとき、これに対応するオキシムは式(1)で表される。
【0129】
【化5】
式中、mは3以上の整数を示す。
【0130】
式中、mは、3〜20、好ましくは3〜15である。具体的には、シクロブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロへプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシム、シクロトリデカノンオキシム、シクロテトラデカノンオキシム、シクロペンタデカノンオキシム、シクロヘキサデカノンオキシム、シクロオクタデカノンオキシム、シクロノナデカノンオキシムなどが挙げられる。これらの中でシクロヘキサノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシムは有用なオキシムであり、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシムはより好ましく、シクロドデカノンオキシムは特に好ましい。
【0131】
式(1)において、環には置換基が結合していてもよく、他の環が縮合していてもよい。前記の環に結合していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基、芳香族性又は非芳香族性の複素環基などが挙げられる。
【0132】
ここで、アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜20のアルキル基が挙げられるが、好ましくは炭素原子数1〜12のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素原子数2〜8のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。
【0133】
アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルケニル基が挙げられるが、好ましくは炭素原子数2〜12のアルケニル基であり、さらに好ましくは炭素原子数2〜8のアルケニル基である。具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−オクテニル基などが挙げられる。
【0134】
アルキニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルキニル基が挙げられるが、好ましくは炭素原子数2〜12のアルキニル基であり、さらに好ましくは炭素原子数2〜8のアルキニル基である。具体的には、エチニル基、1−プロピニル基などが挙げられる。
【0135】
シクロアルキル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基が挙げられるが、好ましくは炭素原子数3〜15のシクロアルキル基である。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基などが挙げられる。
【0136】
シクロアルケニル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルケニル基が挙げられるが、好ましくは炭素原子数3〜15のシクロアルケニル基である。具体的には、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基などが挙げられる。
【0137】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0138】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0139】
芳香族性又は非芳香族性の複素環基としては、例えば、2−ピリジル基、2−キノリル基、2−フリル基、2−チエニル基、4−ピペリジニル基などが挙げられる。
【0140】
オキシムの製造方法としては、
(i)ケトンとヒドロキシルアミン水溶液とを反応させる方法、
(ii)チタノシリケートのような触媒の存在下、ケトンをアンモニア及び過酸化水素と反応させる方法、
(iii)N−ヒドロキシイミド化合物および該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基(例えば、アセチル基等のアシル基など)を導入することにより得られる化合物の存在下、メチル基又はメチレン基を有する化合物と、亜硝酸エステル又は亜硝酸塩とを反応させる方法(例えば、特開2009−298706号公報)、
(iv)アルカンを光ニトロソ化する方法
等が挙げられるが、本発明においては(i)の製造方法が最も好適に用いられる。
【0141】
上記オキシムの製造方法(i)の場合、ヒドロキシルアミンは不安定なため、安全上の観点から、通常、ケトンの存在下ヒドロキシルアミン塩を反応槽内で複分解させ、遊離したヒドロキシルアミンと、ケトンを反応させる方法が採られる。ここで、ケトンとヒドロキシルアミンを、等モルずつ反応させることが好ましい。
【0142】
上記オキシムの製造方法(iii)の場合、N−ヒドロキシイミド化合物は、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導される。
【0143】
[ケトン]
上記オキシムの製造方法(i)、(ii)において、用いるケトンは特に制限されず、製造目的のアミド化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、製造目的のアミド化合物がラクタムのとき、これに対応するオキシムとしては下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0144】
【化6】
式中、pは、3〜20、好ましくは3〜15である。pが5、7、8、9、10、11であることがより好ましく、pが11であることが特に好ましい。また、pは7以上であることも好ましい。
【0145】
式(4)で表されるケトンとしては、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロへプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロドデカノン、シクロトリデカノン、シクロテトラデカノン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデカノン、シクロオクタデカノン、シクロノナデカノンなどが挙げられる。これらの中でシクロヘキサノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンは有用なケトンであり、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンはより好ましく、シクロドデカノンは特に好ましい。
【0146】
また、式(4)において、環には置換基が結合していてもよく、他の環が縮合していてもよい。この置換基としては、上記式(1)で示されるオキシムの説明において例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0147】
原料ケトンは、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0148】
[ケトンの製造方法]
原料であるケトンの製造方法としては、対応する炭化水素を酸化する方法が挙げられる。炭化水素の酸化は飽和炭化水素の酸化であっても、不飽和炭化水素の酸化であってもよい。不飽和炭化水素の酸化の場合、酸化後に炭素・炭素不飽和結合が残存する場合は、水素化して飽和結合に変換しなければならない。炭化水素の酸化に用いる酸化剤としては、酸素(分子状酸素)、空気が一般的に用いられるが、過酸化水素、亜酸化窒素等を用いてもよい。
【0149】
例えば、環状ケトンは、対応するシクロアルカンを空気酸化する一般的な方法で得られる。シクロアルカンを空気酸化した場合、環状ケトン(シクロアルカノン)は環状アルコール(シクロアルカノール)との混合物として得られるため、混合物中のシクロアルカノールを脱水素して環状ケトン(シクロアルカノン)に変換する。
【0150】
例えば、ケトンとしてシクロドデカノンを製造する場合、シクロドデカトリエンを水素化してシクロドデカンとした後、空気酸化して、シクロドデカノン/シクロドデカノール混合物を製造し、シクロドデカノールを脱水素してシクロドデカノンを製造する方法を採用することができる。
【0151】
また、環状ケトンを製造する場合、アルカン製造の原料である不飽和化合物の二重結合を残したまま酸化し、その後水素化する方法により製造することもできる。例えば、シクロドデカトリエンを亜酸化窒素で酸化し、シクロドデカジエノンを製造し、更に残存二重結合の水素化を行い、シクロドデカノンを製造する方法(例えば、特表2007-506695号公報)、シクロドデカトリエンを過酸化水素で酸化して、エポキシシクロドデカジエンを製造した後、二重結合を水素化してエポキシシクロドデカンとし、さらに異性化を行ってシクロドデカノンを製造する方法(例えば、特開2000-256340号公報,特開2000-026441号公報,特開2001-302650号公報,特開2001-226311号公報)等を採用してもよい。また、ベンゼンの二重結合の一部を水素化しシクロヘキセンを製造して水和し、得られたシクロヘキサノールを脱水素してシクロヘキサノンを製造する方法、イソプロピルベンゼンを酸化してフェノールを製造し、これを水素化してシクロヘキサノンを製造する方法が挙げられる。これらの方法により環状ケトンを製造する際、ラクタム中の不純物の原因となる二重結合を有するケトンや橋かけ環状構造を有するケトンが残存したり、生成したりする場合がある。
【0152】
ケトンとしてシクロアルカノンを製造する場合、その出発原料となる環状化合物は、ジエン同士の付加反応を利用することによって得ることができる。例えばシクロドデカノンを製造する場合、上記いずれの方法を選択してもその出発原料はシクロドデカトリエンであり、これはブタジエンの三量化によって製造される。具体的には、例えば、チタンハライドとアルキルアルミニウムハロゲニドから調製された触媒(所謂チーグラー触媒)の活性を調整しつつブタジエンの付加反応を行い、反応後、触媒を適宜失活させることによって、シクロドデカトリエンを製造することができる(例えば、独国特許発明第1050333号明細書、特開平6-254398号公報、特開平5-124982号公報、特開平5-070377号公報)。同様に、例えばシクロオクタジエンは、ブタジエンの二量化によって製造することができる。
【0153】
[ヒドロキシルアミン]
上記オキシムの製造方法(i)において、用いるヒドロキシルアミンは不安定なため、ヒドロキシルアミン硫酸塩又はヒドロキシルアミン炭酸塩等のヒドロキシルアミンの酸塩の水溶液として製造、販売されている。反応時に、アンモニア水等の塩基を加えて、ヒドロキシルアミンを遊離させて使用する。オキシムの製造工程中においては、予めヒドロキシルアミンを遊離させたヒドロキシルアミン水溶液を供給してもよいが、通常は、オキシム化反応装置中に、ヒドロキシルアミンの酸塩(好ましくは硫酸塩)の水溶液と、塩基(好ましくはアンモニア水)を供給して、反応装置中でヒドロキシルアミンを遊離させる。
【0154】
[オキシム化工程の溶媒]
オキシムの製造工程では溶媒が用いられる。この溶媒は、オキシムに対する溶解性が高いことが望ましい。オキシムの種類によって、好適な溶媒は異なるが、オキシムがシクロドデカノンオキシムの場合、下式で定義される溶解度パラメーターδが7.5から13.0、特に8.0から12.5である溶媒が、シクロドデカノンオキシムの溶解性に優れており好ましい。
【0155】
ここで、溶解度パラメーターδは、水素結合等、分子間の結合力の強さを示し、大きいほど極性は高い。溶解度パラメーターが近いものは相溶性が高くなる。同パラメーターは、Δ(デルタ)E
V、標準沸点、密度のデータから計算でき、ΔE
Vについては分子構造から推算できる。
【0157】
(式中、δは溶解度パラメータ、ΔE
Vは蒸発の内部エネルギー変化、Vはモル容積を表す(「改訂5版 化学便覧,基礎編I」 (財)日本化学会編,丸善(株)発行 p770参照)。)
【0158】
なお、オキシムの製造工程で用いられる溶媒としては、オキシムに対する溶解性に優れる溶媒であっても、オキシム製造において、原料と反応する溶媒は除外されることが好ましい。例えば、溶媒としてケトン、アルデヒドを用いると、ヒドロキシルアミンと反応し、ケトキシム、アルドキシムを生成する。ニトリルを溶媒として用いると、ヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成する。アミドも、溶媒として用いるとヒドロキシルアミンと付加体を生成する。また、溶媒としてアミン用いると、ケトンと反応し、シッフベースを形成する。したがって、これらの溶媒はオキシムの溶解性が良好であっても、溶媒としての使用は除外される。
【0159】
また、オキシム化工程と後述する転位工程で使用される溶媒が同一であることは、溶媒交換を行う必要がなく、プロセスが簡素化され、設備費、エネルギーコストが低減されるため、好ましい態様である。この場合、転位工程の溶媒としては、1)アミドに対する溶解性が高いこと、2)アミドと反応しないこと、3)ベックマン転位触媒と反応しないことが好ましい。
【0160】
オキシム化工程と転位工程で同一の溶媒を使用する場合、上記1)、2)に関して問題となることは多くない。一般にアミド化合物の溶解度パラメーターは、対応するオキシムとほぼ同程度であり、反応性にも大きな差はないからである。一方、上記3)に関しては、後述の如くベックマン転位に用いられる触媒は電子吸引性脱離基を有するため、求核置換反応を受けやすい溶媒は除外されることが好ましい。具体的には水、アルコール類、アミン類、メルカプタン類、アミド類は溶媒として使用しないことが好ましい。また、反応性の高い転位触媒を使用する場合は、カルボン酸類、カルボン酸エステル類も使用しないことが好ましい。
【0161】
また、溶媒は、後述する油/水分離工程において、分離が容易で、水相への溶解ロスが小さいこと、溶媒リサイクル工程において、回収が容易であることが好ましい。
【0162】
具体的に、溶媒としては、芳香族炭化水素、縮合多環式炭化水素の水素化化合物および脂環式炭化水素(特に、側鎖を有する脂環式炭化水素)が好ましい。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンが好ましく、特に、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが好ましい。縮合多環式炭化水素の水素化化合物としては、テトラリン、デカリン、ジヒドロナフタレンが好ましく、特に、テトラリンおよびデカリンが好ましい。また、側鎖を有する脂環式炭化水素としては、イソプロピルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが好ましく、特に、イソプロピルシクロヘキサンが好ましい。以上例示した溶媒の中で最も好ましいものは、トルエン又はキシレンである。
【0163】
オキシム化反応を行う温度は、特に制限はないが、ヒドロキシルアミンは水溶液として用いるため、反応温度が高すぎる場合、例えば100℃以上で反応を行う場合には加圧容器が必要になる。一方、反応温度が低すぎる場合、反応速度が遅くなる。したがって、オキシム化反応は、100℃以下、常圧で行うことが好ましく、さらに、60℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましい。
【0164】
[オキシム化工程の反応装置]
オキシム化工程で用いられる反応装置としては回分式反応装置、半回分式反応装置、管型連続反応装置、攪拌槽型連続反応装置等の一般に用いられる反応装置を挙げることができるが、攪拌槽型連続多段反応装置が好ましい。攪拌槽型連続多段反応装置を用いる場合、第1槽にヒドロキシルアミン水溶液をフィードし、最終槽にケトン溶液(ケトンの前記溶媒の溶液)をフィードし、水相は後段の槽に向け、油相は前段の槽に向けて逐次送液して、未反応原料を残すことなく反応させることが望ましい。
【0165】
[オキシム化工程の反応時間]
オキシム化工程の反応時間は、ケトン、溶媒、温度等の反応条件、反応器形式によって異なるが、ケトンとしてシクロドデカノン、溶媒としてトルエンを用い、攪拌槽型連続多段反応装置を使用した場合、1時間から20時間、好ましくは5時間から15時間である。反応時間が過少の場合、原料であるヒドロキシルアミン及び/又はシクロドデカノンが残存し、これらをリサイクルする必要が生じるため好ましくない。反応時間が過大な場合、反応槽が長大になり好ましくない。なお、界面活性剤等の添加によって、油水間の物質移動速度を向上させ、反応時間を短縮することも可能である。
【0166】
<油/水分離工程>
本発明において、油/水分離工程とは、オキシム化工程後の反応液を、油相と水相に分離し、オキシムが溶解している油相を取得する工程のことをいう。油相と水相の分離方法としては、静置分離、遠心分離、サイクロンを用いた分離等の一般的な分離方法が利用できる。工業的な連続工程では、オキシム化工程の反応装置から反応液が分液装置に送られ、そこで油相と水相が分離されて抜き出される。オキシム化工程の反応装置の形式によっては、その反応装置から油相と水相を抜き出してもよい。
【0167】
さらに、油/水分離工程で油相として取得したオキシムを含む溶液から、溶媒の一部と、溶解する水分を除去し、転位工程に送る。このときの溶液の含有水分濃度は、1000ppm以下、好ましくは500ppm、より好ましくは100ppm以下とする。水分の除去は溶媒との共沸蒸留によって行われ、留出した水分を含む溶媒はオキシム化工程にリサイクルされる。
【0168】
<転位工程>
上記の通り、油/水分離工程後の脱水したオキシムを含有する溶液は、転位工程に送られる。転位工程では、ベックマン転位触媒を用いたベックマン転位反応により、オキシムからアミド化合物が製造される。オキシムは、1種または2種以上を選択して使用することができる。
【0169】
[ベックマン転位触媒]
ベックマン転位触媒としては、少なくとも2個の電子吸引性の脱離基を有する化合物を用いることができる。例えば、下記式(5)で示される構造を少なくとも2個含む化合物が挙げられる。なお、Aに複数のXが結合したものもこれに含む。また、複数のA−Xが存在するとき、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0170】
【化7】
(式中、Aは、C(炭素原子)、P、N、S、B又はSi原子を示し、Xは電子吸引性の脱離基を示す。AはX以外に、1又は2以上の原子又は基と結合している。)
【0171】
Xにおける電子吸引性の脱離基としては、一般的な脱離性の官能基であればよく、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、−OR基(Rは有機基を示す)、カルボキシル基、アミノ基、スルホニルオキシ基等が挙げられる。これらの官能基の中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0172】
ベックマン転位触媒としては、式(5)で示される構造を分子中に少なくとも2個含む化合物(Aに複数のXが結合したものもこれに含む。)であれば特に制限はなく、環状化合物であっても非環状化合物であってもよい。
【0173】
本発明における、ベックマン転位触媒の具体例としては、例えば、ホスファゼン化合物(ホスファゼン誘導体)、ポリハロホスフェート類を含むリン酸エステル化合物(リン酸エステル誘導体)、ホスフィン化合物(ホスフィン誘導体)、イミド化合物(イミド誘導体)、スルホニル又はスルフィニル化合物(スルホニル又はスルフィニル誘導体)、シラン化合物(シラン誘導体)、ケイ素原子を環の構成要素として含む環状化合物、リンハロゲン化物、ハロスルフリル類、あるいは、これらの混合物などが挙げられる。
【0174】
ホスファゼン化合物としては、例えば、ヘキサクロロホスファゼン、ヘキサフルオロホスファゼン、ヘキサブロモホスファゼン等のハロホスファゼン誘導体などが挙げられる。
【0175】
リン酸エステル化合物としては、例えば、ジメチルクロロホスフェート、ジエチルクロロホスフェート、2−クロロ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン−2−オキシド、メチルジクロロホスフェート、エチルジクロロホスフェート、ジフェニルクロロホスフェート、1,2−フェニレンホスフォロクロリデート、フェニルジクロロホスフェートが挙げられる。
【0176】
ホスフィン化合物としては、例えば、クロロジメチルホスフィン、クロロジエチルホスフィン、クロロジプロピルホスフィン、クロロジフェニルホスフィン、ジクロロエチルホスフィン、ジクロロブチルホスフィン、ジクロロヘキシルホスフィン等のハロホスフィン誘導体が挙げられる。
【0177】
イミド化合物としては、例えば、N−ハロスクシンイミド誘導体(N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N−フルオロスクシンイミド等)などのスクシンイミド誘導体;N−ハロフタルイミド誘導体(N−クロロフタルイミド、N−ブロモフタルイミド、N−ヨードフタルイミド、N−フルオロフタルイミド等)などのフタルイミド誘導体;N−ハロマレインイミド誘導体(N−クロロマレインイミド、N−ブロモマレインイミド、N−ヨードマレインイミド、N−フルオロマレインイミド等)などのマレインイミド誘導体;ハロヒダントイン誘導体(1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン等)などのヒダントイン誘導体、トリクロロトリアジン(別称:トリクロロシアヌル酸又は塩化シアヌル)、ジクロロシアヌル酸ナトリウム塩等のシアヌル酸ハライド誘導体などのシアヌル酸誘導体などが挙げられる。
【0178】
スルホニル又はスルフィニル化合物としては、例えば、メタンスルホニルクロリド、エタンスルホニルクロリド、プロパンスルホニルクロリド、トリクロロメタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、トルエンスルホニルクロリド、ニトロベンゼンスルホニルクロリド、クロロベンゼンスルホニルクロリド、フルオロベンゼンスルホニルクロリド、ナフタレンスルホニルクロリド等のスルホニルハライド誘導体;サルファニルクロリド;塩化チオニルなどが挙げられる。
【0179】
シラン化合物としては、例えば、クロロトリフェニルシラン、ジクロジフェニルシラン、フェニルトリクロロシラン等のハロシラン誘導体などが挙げられる。
【0180】
ケイ素原子を環の構成要素として含む環状化合物としては、例えば、ハロゲン化窒化珪素などが挙げられる。
【0181】
リンハロゲン化物としては、三塩化リン、五塩化リン等が挙げられる。
【0182】
ハロスルフリル類としては、塩化スルフリル等が挙げられる。
【0183】
また、本発明のベックマン転位触媒として、下記触媒aまたは触媒bを挙げることができ、特に、本発明の第2の態様においては、これらを用いることが好ましい。
【0184】
触媒aは、下記式(2)で示され、上記式(5)で表されるベックマン転位触媒に包含される。
【0185】
【化8】
(式中、ZはP、N、S、B又はSi原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。ZはX以外に、1又は2以上の原子又は基と結合している。)
【0186】
式(5)で示されるAが炭素原子である化合物では、以下に示す触媒bが特に好適である。
【0187】
触媒bは、以下の条件(b1)〜(b3)すべてを満足する芳香環含有化合物である。
(b1)芳香環を構成する原子として、脱離基としてハロゲン原子を有する炭素原子を少なくとも1つ含む。
(b2)芳香環を構成する原子として、ヘテロ原子又は電子吸引基を有する炭素原子のいずれかの原子の一方又は両方を少なくとも3つ含む。
(b3)前記ヘテロ原子又は電子吸引基を有する炭素原子のうちの2つが、前記脱離基であるハロゲン原子を有する炭素原子のオルトあるいはパラ位に位置する。
【0188】
ここで、「ヘテロ原子又は電子吸引基を有する炭素原子のいずれかの原子の一方又は両方を少なくとも3つ含み」とは、芳香環を構成する原子として、ヘテロ原子又は電子吸引基を有する炭素原子を、それぞれ単独又は混在して、少なくとも3個以上有するものであればよいことを意味する。
【0189】
芳香環含有化合物の芳香環は、ベンゼン環等の芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を意味する。ここで、芳香族炭化水素環含有化合物としては、ベンゼン環等の単環式炭化水素環、及び、多環式炭化水素環としての、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナントレン環、アズレン環、ピレン環等の縮合環以外にも、ビフェニル環、テルフェニル環、トリフェニル環等も含まれる。芳香族複素環としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン等の5員環や、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環等の6員環が例示され、特に、含窒素芳香環が好ましい。該芳香環を含む芳香環含有化合物としては、該芳香環からなる単環式芳香環含有化合物以外にも、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、キノリン環、ビピリジル環、フェナントロリン環等の縮合複素環化合物も含まれる。これらのうちベンゼン環、ピリジン環、トリアジン環を好適に例示することができる。また、これら芳香環を構成する原子は上記(b1)〜(b3)の条件をすべて満足するものであればよい。
【0190】
上記(b1)〜(b3)の条件における脱離基であるハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる、中でも塩素原子が好ましい。
【0191】
上記(b1)〜(b3)の条件における電子吸引基としては、公知の電子吸引基であれば特に制限されないが、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボニル基、スルホニル基等などを例示することができ、中でもシアノ基、ニトロ基が好ましい。
【0192】
上記(b1)〜(b3)の条件におけるヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、ケイ素等を具体的に例示でき、これらのうち特に窒素が好ましい。
【0193】
上記(b1)〜(b3)の条件をすべて満足する芳香環含有化合物として、4−クロロ−3,5−ジニトロベンゾニトリル、4−フルオロ−3,5−ジニトロベンゾニトリル、4−ブロモ−3,5−ジニトロベンゾニトリル、4−クロロ−1,3,5−トリニトロベンゼン、ピクリルクロリド、ピクリルブロミド、ピクリルフルオリド等のベンゼン環式化合物を挙げることができるが、中でも4−クロロ−3,5−ジニトロベンゾニトリル、ピクリルクロライドを好適に例示することができる。さらに、複素環式化合物としては、2-クロロ−3,5-ジニトロピリジン、2-ブロモ−3,5-ジニトロピリジン、2-フルオロ−3,5-ジニトロピリジン、トリクロロトリアジン(別称:塩化イソシアヌル酸、塩化シアヌル、トリクロロトリアゾール、トリクロロイソシアヌル酸)、トリブロモトリアジン、トリフルオロトリアジン等を挙げることができ、中でも、2-クロロ−3,5-ジニトロピリジン、トリクロロトリアジンを好適に例示することができる。
【0194】
これらの中で、本発明のベックマン転位触媒としては、少なくとも2個の式(5)の構造の間に共役π電子を有する化合物、あるいはAに複数のXが結合した化合物が好適であり、トリクロロトリアジン、塩化チオニル、三塩化リン、五塩化リンをより好適に使用することができる。
【0195】
[ベックマン転位触媒の前調製]
ここで、ベックマン転位触媒の前調製について詳しく説明する。
【0196】
転位工程においては、前記のベックマン転位触媒とオキシム全部とを混合し、転位工程の温度で転位反応を行うこともできるが、転位触媒の前調製を行ってから転位反応を行うことがより好ましい場合もある。ここで、触媒の前調製とは、オキシムの少なくとも一部とベックマン転位触媒とを混合し、転位工程の温度より低い温度で反応させることをいう。
【0197】
上記触媒aまたは触媒b、特に、触媒aを使用する場合は、該触媒と、少なくとも一部のオキシムとを混合して反応させる前調製工程と、前調製工程の温度より高い温度において、オキシムの転位反応を行う転位反応工程とを有する方法によってラクタムを製造する事が好ましい。
【0198】
この前調製工程により触媒活性種が生成する。例えば、触媒aとして塩化チオニルを用い、オキシムとしてシクロドデカノンオキシムを用いる場合、触媒活性種として下式(6)で示されるシクロドデカノンO−アザシクロトリデセン−2−イルオキシム塩酸塩(なお、本化合物は下式(6)で示される化合物、下式(6)で示される化合物以外の立体異性体、または、これらの組合せの混合物を表す。)が生成する事が発明者らによって確認されている。
【0200】
[オキシムと触媒aとの前調製工程]
オキシムと触媒aとを、オキシムのベックマン転位反応の反応温度より低温で調合する(以下、「前調製」と称する。)。前調製工程の目的はベックマン転位反応の触媒作用を示す(以下、「触媒活性種」と称する)を生成させることである。ここで、オキシムの一部を用いて前調製を行う場合、前調製工程におけるオキシムと転位反応工程におけるオキシムは同一である必要はないが、同一であることが好ましい。
【0201】
[前調製工程における調合比]
オキシムの一部を用いて前調製を行う場合、オキシムと触媒aの調合比((オキシム/触媒a)モル比)はオキシムと触媒aの選択によって異なるが、例えばオキシムとしてシクロドデカノンオキシム、触媒aとして塩化チオニルを選択した場合、好ましくは0.5以上10.0以下、より好ましくは1.0以上5.0以下、さらに好ましくは1より大きく5.0以下、特に好ましくは1.5以上3.0以下である。
【0202】
なお、触媒aの量は前調製工程および転位工程に投入する全オキシム量に対し、好ましくは0.01モル%から20モル%、より好ましくは0.1モル%から5モル%となるように混合する。
【0203】
オキシムが過少の場合、触媒aとして用いた塩化チオニルの大部分は触媒活性種を形成せず、前調製を行う効果が現れない。
【0204】
オキシムが過多の場合、前調製装置が長大になり好ましくない。例えば、オキシムとしてシクロドデカノンオキシム、触媒aとして塩化チオニルを用いた場合、シクロドデカノンオキシムは触媒活性種に比べ高融点で、後述する溶媒への後述する温度での溶解性が低いため、前調製工程での固体析出や閉塞を防止するため、大量の溶媒が必要となり、前調製装置が長大になり好ましくない。さらに、溶媒の回収、リサイクルに要するエネルギーコストが増大し、好ましくない。このような不活性化を避けるためにもオキシムの過多は避けなければならない。
【0205】
[前調製工程の温度]
前調製の温度は特に制限されないが、後述するベックマン転位反応の温度以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは30℃以下、最も好ましくは室温以下で行うことが好ましい。前調製の温度が高すぎる場合、触媒活性種の大部分がラクタムに変化すると共に、例えば、塩化チオニルを用いた場合、塩化水素が、脱離し、触媒活性が低下するため好ましくない。調製温度の下限は、反応系が凝固しない温度であれば、特に制約はないが、10℃以下、さらに0℃以下では、冷却装置が必要となり、経済的ではない。
【0206】
[前調製工程の溶媒]
本発明の前調製工程において溶媒を使用してもよい。各態様において好適な溶媒は下記のとおりである。
【0207】
転位触媒と少なくとも一部のオキシムを用いて前調製する場合、使用する溶媒は、転位触媒及びオキシムと反応しなければ特に制約はない。触媒aを使用する場合、使用可能な溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸、;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロドデカンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、トリフルオロエタノール等のフッ素系アルコール;或いは、これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0208】
なお、触媒aを用いる場合、水、アルコール類、アミン類、メルカプタン類、アミド類以外の溶媒が使用できる。
【0209】
触媒aとして塩化チオニルを用いる場合、前調製に使用する溶媒は、塩化チオニル及びオキシムと反応しなければ特に制約はない。使用可能な溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロドデカンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;或いは、これらの混合溶媒などが挙げられる。これらのうち、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の使用は前調製工程でのベックマン転位反応の速度のコントロールが容易であり、特に好適な溶媒である。
【0210】
なお、アミン類等の有機塩基、水、アルコール類、メルカプタン類等の活性なヒドロキシル基やそれに類する官能基を有するもの、カルボン酸やカルボン酸エステル等の塩化チオニルが塩素化剤として作用するものは使用できない。
【0211】
前調製工程における溶媒の使用量は特に制限はなく、温度や反応槽等の大きさにもよるが、オキシムとしてシクロドデカノンオキシム、溶媒としてトルエンを用いた場合、オキシムの重量濃度が、1%以上60%以下が好ましく、3%以上30%以下が特に好ましい。溶媒の量が少なすぎると、オキシムが十分に溶解できず、溶媒の量が多すぎると、回収に手間がかかり経済的でないため好ましくない。
【0212】
[前調製工程の時間]
転位触媒と少なくとも一部のオキシムを用いて前調製する場合、前調製に要する時間は、触媒aの種類、オキシム/触媒aの調合比、調製温度、溶媒の使用量などによって異なり特に限定されるものではないが、1分以上24時間以下が好ましく、1分以上10時間以下が更に好ましい。
【0213】
前調製に要する時間の下限は、転位触媒の均一混合に必要な時間等で決まるが、前調製に要する時間が短すぎると、転位触媒を直接転位反応槽に投入した場合とベックマン転位反応により生成するラクタムの収率等の結果は変わらないため、好ましくない。調製時間が長すぎると、触媒活性種の一部が徐々に不活性な化合物に変化するため、転位速度が低下し、好ましくない。
【0214】
例えば、触媒aとして塩化チオニル、オキシムとしてシクロドデカノンオキシム、調合比1、溶媒としてトルエン、調製温度を25℃、前調製時のシクロドデカノンオキシムの濃度3重量%とした場合、1分以上10時間以下が好適であり、さらに好ましくは1分以上3時間以下であるが、調合比が1より大きいときは、調製時間がさらに長くてもよい。
【0215】
なお、工業的には、前調製に要する時間の上限は、反応槽の大きさで決まるが、3時間以上の滞留時間を設けると装置が長大になるため、3時間未満であることが好ましい場合がある。
【0216】
[前調製に使用される装置]
本発明において、前調製は回分式、半回分式、連続式等の一般に用いられる混合槽のいずれを用いても差し支えない。また、所定の滞留時間を確保できれば、配管内で混合しても差し支えない。混合方式も攪拌翼による混合のほか、スタティックミキサー等を使用するライン内での混合でも差し支えない。
【0217】
[ベックマン転位反応]
次にベックマン転位反応について説明する。
【0218】
ベックマン転位反応においては、前調製工程で一部のオキシムを用いているときは、残りのオキシムを加えて転位反応を行う。ベックマン転位反応で用いられるベックマン転位触媒の量は、前調製後の反応物を全て用いるとして、触媒aが、前調製工程および転位反応工程に投入する全オキシム量に対し、好ましくは0.01モル%から20モル%、さらに好ましくは、0.1モル%から5モル%となるように混合する。ベックマン転位触媒の量が過少の場合には、ベックマン転位反応が停止するため好ましくない。一方、ベックマン転位触媒の量が過多の場合には、触媒コストが上がり、触媒の後処理またはリサイクルのためのコストが増大し工業的見地から好ましくない。
【0219】
なお、触媒bを用いる場合は、ベックマン転位の反応条件によっては前調製を特に必要としない場合もある。触媒bの使用量は、オキシム1モルに対して、好ましくは0.0001〜1モル、より好ましくは0.0005〜0.5モル、さらに好ましくは0.001〜0.2モルである。
【0220】
[助触媒]
本発明において、ルイス酸やブレンステッド酸を助触媒として添加することによって、転位反応速度を向上させることができる。特にルイス酸はオキシム、特にはシクロドデカノンオキシムの加水分解を加速することなく、転位反応速度を向上させることができるので好ましい。
【0221】
ルイス酸としては、亜鉛、コバルト、アンチモン、スズ及びビスマスからなる群より選ばれる1又は2以上の金属のハロゲン化物であり、具体的には、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、フッ化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、五フッ化アンチモン、五塩化アンチモン、五臭化アンチモン、四フッ化スズ、四塩化スズ、四臭化スズ、三フッ化ビスマス、三塩化ビスマス、三臭化ビスマス等が挙げられる。塩化亜鉛、塩化コバルト、五塩化アンチモン、四塩化スズ、三塩化ビスマスが好適であり、塩化亜鉛は安価で、反応速度の向上効果が顕著であり、特に好ましい。
【0222】
ブレンステッド酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0223】
助触媒を使用する場合、その添加量はベックマン転位触媒に対し、0.01倍モル量から10倍モル量が好ましく、0.1倍モル量から5倍モル量がより好ましい。助触媒の添加量が過少な場合、それによるベックマン転位反応の反応速度の向上の効果は乏しく、一方、必要以上に添加しても、さらに反応速度が向上することはない。
【0224】
[ベックマン転位反応に使用する溶媒]
転位反応に使用する溶媒(以下、転位溶媒と称する)として、前調製で用いた溶媒と同一の溶媒を用いることは製造プロセスが簡略化され好ましい態様であるが、異なる溶媒を用いても差し支えない。なお、異なる溶媒を用いる場合は、例えば、前調製液に転位溶媒を加え、前調製溶媒を留去することによって、転位溶媒へ溶媒交換を行う事ができる。また、前調製溶媒と転位溶媒を混合したまま、ベックマン転位反応を行ってもよい。
【0225】
[ベックマン転位反応の条件等]
ベックマン転位反応の温度は、好ましくは60℃から160℃、より好ましくは80から130℃である。反応温度が低すぎる場合、反応速度が遅くなり、反応が停止する事になるため好ましくない。一方、反応温度が高すぎると、ベックマン転位反応の発熱が激しくなり温度が急上昇し、反応が制御できなくなるため好ましくない。また、反応温度が高すぎる場合、縮合反応等の副反応ため転位収率が低下するとともに、着色等で製品品質が低下する。
【0226】
なお、反応条件は反応の制御が容易で、反応器の容積が過大にならないように制御される。
【0227】
ベックマン転位反応は減圧、常圧、加圧のいずれで行っても差し支えない。積極的に加圧下で反応を行う必要はないが、密閉して反応を行うことによって、転位触媒から生成する成分(例えば脱離する脱離基Xがハロゲン原子である場合は、ハロゲン化水素)の反応系外への飛散を防ぐことができる。このようなクローズドプロセスの採用は転位触媒から生成するハロゲン化水素などの成分の吸着・除害設備を別途設ける必要がない。また、ハロゲン化水素が生成する場合、それ自身が酸であり、助触媒として転位反応を促進するため、好ましい。
【0228】
なお、本発明の第1の態様、第2の態様においては、ベックマン転位反応は上で示した方法を用いることがより好ましい。本発明の第3の態様においては、上に示した方法のほか、一般的な硫酸、発煙硫酸等の強酸を加える転位方法や固体酸にオキシムを含む気体を通過させ転位を行う方法(気相転位法。特開2000−229939号公報等)を用いてもよい。
【0229】
[ベックマン転位反応で使用される装置]
ベックマン転位反応で使用される装置としては、回分式反応装置、管型連続反応装置、攪拌槽型連続反応装置等の一般に用いられる反応装置を使用することができるが、反応温度の制御が容易で運転操作も簡単である槽型連続多段反応装置が好適である。
【0230】
[ベックマン転位液の後処理]
ベックマン転位反応により生成された反応液(転位液)は、反応液中に溶解したベックマン転位触媒の脱離基由来の成分及びベックマン転位触媒の残渣の除去が行われることが好ましい。これら物質の除去方法としては、ろ過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらの組合せの方法を採用できる。特に、転位液を、水洗浄(水を加えて水溶液として除去する方法)および/またはアルカリ洗浄(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物の水溶液により、酸性の触媒成分等を除去する洗浄)により触媒成分等を除去する方法が、簡便であり好ましい。
【0231】
[溶媒の留去]
ベックマン転位液は、上記後処理を施した後、溶媒が留去される。その際、分離された溶媒は、上述したように溶媒リサイクル工程により、オキシム化工程にリサイクルされてもよい。
【0232】
[アミド化合物の蒸留精製]
分離されたアミド化合物、特にラクタムをさらに精製するために、蒸留精製、晶析・再結晶、溶融晶析等一般的な精製方法を用いることができる。典型的には、蒸留操作(留出液として抜き出すこと、缶出液として抜き出すこと、および精留等を含む)が好ましく、より好ましくは蒸留操作を多段で組合せて行う。
【0233】
なお、上記のアミド化合物、特にラクタムの製造方法においては、原料である脂肪族又は芳香族炭化水素類などを酸化し、中間原料であるケトンを製造する工程、ケトンからオキシムを製造する工程、該オキシムからアミド化合物を製造する工程とを段階を追って説明したが、所望により各工程を連結し、効率よくラクタム化合物製造プロセスを選択しても差し支えない。
【0234】
上記方法により、例えば、シクロアルカノンオキシムからは員数の1つ多いラクタムを効率よく製造できる(例えば、シクロヘキサノンオキシムからはε−カプロラクタム、シクロオクタノンオキシムからは8−オクタンラクタム、シクロドデカノンオキシムからは12−ラウロラクタム)。
【実施例】
【0235】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例は本発明の実施態様の一例を示すものであり、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0236】
<実施例A>
以下、参考例A1、A2においては、シクロドデカノンオキシムのベックマン転位反応により得られたラウロラクタム溶液(転位液)中の不純物の分析を行った。さらに、実施例A1〜A23および比較例A1〜A7では、不純物がシクロドデカノンオキシムの転化率に及ぼす影響について検討した。
【0237】
[参考例A1(塩化チオニル触媒を用いて製造したラウロラクタム転位液中不純物の分析)]
内部が4室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積30Lの枕型オキシム化第1反応器に、ヒドロキシルアミン硫酸塩(和光純薬工業社製)の15重量%水溶液を1.5kg/h及びオキシム化第2反応器から送液される油相をフィードした。反応温度を95℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を32g/hでフィードしオキシム化反応を行い、シクロドデカノンオキシムとトルエンからなる油相を得た。
【0238】
水相はオキシム化第2反応器へフィードした。オキシム化第2反応器は15Lで内部が4室に分割された枕型反応器で、前記オキシム化反応液の水相と25重量%のシクロドデカノンのトルエン溶液2kg/h(第1反応器へのヒドロキシルアミン硫酸塩と等モル量)を同反応器にフィードし、反応温度を95℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を16g/hでフィードしオキシム化反応を行った。得られた反応液は分液し、油相はオキシム化第1反応器にフィードした。
【0239】
オキシム化第1反応器で取得した油相10kgを20Lのエバポレータに入れ、トルエンを留去し、5.26kgのシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液を得た。シクロドデカノンオキシム含有量をガスクロマトグラフィーで定量した結果、シクロドデカノンオキシム含有率50重量%であった(以下、50重量%シクロドデカノンオキシム溶液という)。得られた50重量%シクロドデカノンオキシム溶液5.26kgに塩化亜鉛18.2gを加え、90℃に加熱して溶解した(以下、50重量%シクロドデカノンオキシム/塩化亜鉛溶液という)。これとは別に50重量%シクロドデカノンオキシム溶液をトルエンで希釈して20重量%シクロドデカノンオキシム/トルエン溶液を調製した(以下、20重量%シクロドデカノンオキシム溶液という)。
【0240】
オーバーフロー抜き出し口の付いた35mlの二口平底フラスコに10重量%の塩化チオニル(ベックマン転位触媒)のトルエン溶液を27.15g/h、50℃に加温した20重量%シクロドデカノンオキシム溶液を56.3g/hでフィードし、スターラー攪拌子で攪拌してベックマン転位触媒の前調製を行い、ベックマン転位反応の反応槽に流下させた。一方、ベックマン転位反応の反応槽には50重量%シクロドデカノンオキシム/塩化亜鉛溶液を580g/hでフィードした。転位反応槽は160mlのCSTR(Continuous Stirred Tank Flow Reactor:連続攪拌槽型流通反応器)2槽から構成され、液温が105℃となるようジャケットの熱媒温度を調整した。反応は10時間連続して行った。
【0241】
得られた転位反応液1kgに水100gを加え、85℃で10分間攪拌洗浄を行い、静置分液し、油相を取得し、さらに4重量%の水酸化ナトリウム水溶液100gで同様に洗浄して触媒及びその残渣を除去して、ラウロラクタムのトルエン溶液を得た。
【0242】
ラウロラクタムのトルエン溶液中をガスクロマトグラフィーで分析した結果、同溶液中にはベンズアルデヒド3ppm、ベンジルクロライド6ppm、ベンジルアルコール1ppm ベンゾニトリル9ppm、シクロドデセン19ppm、ベンズアルドキシム2ppm、1−クロロドデカン46ppm、ラウロニトリル15ppm、シクロドデカノン677ppm、シクロドデカノンオキシム293ppm、12−クロロドデカンニトリル197ppm、ドデカンジニトリル70ppmが検出され、ラウロラクタムの純度は99.35%であった。なお、副生物のラウロラクタムに対する生成比はベンズアルデヒド0.0012モル%、ベンジルクロライド0.0021モル%、ベンジルアルコール0.0004モル%、ベンゾニトリル0.0038モル%、シクロドデセン0.005モル%、ベンズアルドキシム0.0007モル%、1−クロロドデカン0.0098モル%、ラウロニトリル0.0036モル%、シクロドデカノン0.1618モル%、シクロドデカノンオキシム0.0647モル%、12−クロロドデカンニトリル0.0398モル%、ドデカンジニトリル0.0159モル%であった。
【0243】
なお、前調製に用いた塩化チオニルのトルエン溶液をガスクロマトグラフィー分析した結果、27ppmのベンズアルデヒドと79ppmのベンジルクロライドが検出されたことから、前調製工程ではトルエンがすでに塩素化され、アルデヒドを生成していることがわかった。なお、同副生物は製造されるラウロラクタムに対し、0.0005モル%、0.011モル%に相当する。
【0244】
[参考例A2(トリクロロトリアジン触媒を用いて製造したラウロラクタム転位液中不純物の分析)]
転位反応槽に流下させる触媒を3重量%トリクロロトリアジン/トルエン溶液とし、流下速度を90.5g/hとし、転位反応温度を95℃とした以外は参考例A1と同様にして、ラウロラクタムのトルエン溶液を取得した。ラウロラクタムのトルエン溶液中をガスクロマトグラフィーで分析した結果、同溶液中にはベンズアルデヒド3ppm、ベンジルクロライド4ppm、ベンジルアルコール2ppm、ベンゾニトリル7ppm、ベンズアルドキシム4ppm、1−クロロドデカノン8ppm、ラウロニトリル22ppm、シクロドデカノン5000ppm、シクロドデカノンオキシム2000ppm、12−クロロドデカンニトリル480ppm、ドデカンジニトリル25ppmが検出され、ラウロラクタムの純度は98.80%であった。なお、副生物のラウロラクタムに対する生成比はベンズアルデヒド0.0013モル%、ベンジルクロライド0.0015モル%、ベンジルアルコール0.0009モル%、ベンゾニトリル0.0031モル%、ベンズアルドキシム0.0015モル%、1−クロロドデカノン0.0017モル%、ラウロニトリル0.0056モル%、シクロドデカノン1.262モル%、シクロドデカノンオキシム0.4661モル%、12−クロロドデカンニトリル0.1023モル%、ドデカンジニトリル0.0060モル%であった。
【0245】
[実施例A1〜A9、比較例A1〜A3(塩化チオニル触媒を用いて転位反応を行った場合の副生物の影響評価)]
10重量%の塩化チオニル/トルエン溶液0.118g(0.099mmol)をジャケット付き平底フラスコに入れ、10℃に冷却し回転子で攪拌した。これに参考例A1で調製した20重量%シクロドデカノンオキシム/トルエン溶液0.244g(0.245mmol)を50℃に加熱して加え、10分間前調整を行った(前調製液:シクロドデカノンオキシム/塩化チオニル比2.5(mol/mol))。これとは別に参考例A1で調製した50重量%シクロドデカノンオキシム/塩化亜鉛溶液6.0g(シクロドデカノンオキシム14.147mmol、塩化亜鉛0.151mmol)に参考例A1のラウロラクタム/トルエン溶液中で検出された各副生物をシクロドデカノンオキシムに対して、それぞれ1モル%となるように添加し、転位反応原料液を調製した。転位反応原料液を105℃に加温攪拌し、均一な溶液とした後、前記前調製液を投入し(塩化チオニル/シクロドデカノンオキシム:0.7モル%、塩化亜鉛/シクロドデカノンオキシム0.96モル%)同温度で20分間反応させた。なお、アミドキシムについては、参考例A1のラウロラクタム/トルエン溶液中には検出されていないが、ニトリル化合物とヒドロキシルアミンから容易に生成すること、容易に加水分解を受けるため検出が難しいことから、一連の製造工程中で生成するものと見做し、副生物として加えた。
【0246】
評価結果を表1に示した。その結果、アミドキシム、アルドキシム、ベンジルアルコールが転位反応に悪影響を与え、他の副生物は直接的には影響を及ぼさないことが判明した。
【0247】
【表1】
【0248】
[実施例A10〜A13、比較例A4(アミドキシム添加量の影響)]
ベンズアミドキシムの添加量を表2に示す通りに変えた以外は比較例A3と同様に反応を行った(実施例A10〜A12及び比較例A4)。なお、実施例A13は添加したベンズアミドキシムのモル量相当量、前調製液量を増量した。実験結果を表2に示した。
【0249】
【表2】
【0250】
[実施例A14〜A22、比較例A5〜A7(トリクロロトリアジン触媒を用いて転位反応を行った場合の副生物の影響評価)]
転位触媒をトリクロロトリアジンに変え、前調製液を3重量%トリクロロトリアジン0.936gに変えた以外、実施例A1〜A9、比較例A1〜A3と同様に反応評価を行った。結果を表3に示した。
【0251】
【表3】
【0252】
[実施例A23(ベックマン転位反応後の溶媒をリサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行った場合の不純物の分析)]
参考例A1の方法で、ラウロラクタムのトルエン溶液6kgを取得した。同溶液を20Lのエバポレータに入れ90℃でトルエンを回収した。残存粗ラウロラクタム中のトルエンは0.2重量%であった。得られた回収トルエンは30cmのビグリュー管を用いて単蒸留し、3030gの留出液と150gの缶液を得た。留出液をGC分析した結果、ベンズアルデヒド6ppm、ベンゾニトリル18ppm、ベンジルクロライド12ppm、ベンジルアルコール2ppm、ベンズアルドキシム1ppm、シクロドデカノン20ppmが検出された。これは、オキシム化反応でフィードするシクロドデカノンに対しベンズアルデヒド0.0013モル%、ベンゾニトリル0.0041モル%、ベンジルクロライド0.0022モル%、ベンジルアルコール0.0004モル%、ベンズアルドキシム0.0002モル%、シクロドデカノン0.0026モル%に相当する。参考例A1のトルエンの替わりに前記留出液を用い、参考例A1と同条件でオキシム化、油/水分離、転位、洗浄を行い、ラウロラクタムのトルエン溶液を得た。このラウロラクタムのトルエン溶液に前記単蒸留缶液を加え、エバポレータでトルエン回収を行った後、単蒸留して留出液を取得した。これらの操作を5回繰返し、5回目の留出液を分析した結果、ベンズアルデヒド20ppm、ベンゾニトリル27ppm、ベンジルクロライド12ppm、ベンジルアルコール2ppm、ベンズアルドキシム1ppm、シクロドデカノン40ppmであった。これは、オキシム化反応でフィードするシクロドデカノンに対し、ベンズアルデヒド0.0044モル%、ベンゾニトリル0.0027モル%、ベンジルクロライド0.0050モル%、ベンジルアルコール0.0004モル%、ベンズアルドキシム0.0002モル%、シクロドデカノン0.0052モル%に相当する。5回目の留出液を用いてオキシム化・転位反応を行い、得られたラウロラクタムのトルエン溶液中の副生物についてGC分析を行った結果、ベンズアルデヒド11ppm、ベンジルクロライド6ppm、ベンジルアルコール1ppm ベンゾニトリル15ppm、シクロドデセン66ppm、ベンズアルドキシム2ppm、1−クロロドデカン139ppm、ラウロニトリル46ppm、シクロドデカノン826ppm、シクロドデカノンオキシム270ppm、12−クロロドデカンニトリル231ppm、ドデカンジニトリル66ppmであった。これをラウロラクタムに対する生成比で表すとベンズアルデヒド0.0045モル%、ベンジルクロライド0.0021モル%、ベンジルアルコール0.0004モル%、ベンゾニトリル0.0063モル%、シクロドデセン0.0173モル%、ベンズアルドキシム0.0007モル%、1−クロロドデカン0.0297モル%、ラウロニトリル0.0111モル%、シクロドデカノン0.1974モル%、シクロドデカノンオキシム0.0569モル%、12−クロロドデカンニトリル0.0466モル%、ドデカンジニトリル0.0150モル%であり、触媒活性の低下や顕著な副生物の蓄積は認められなかった。
【0253】
<実施例B>
以下、参考例B1、B2ではシクロドデカノンオキシムを製造および乾燥した。参考例B3〜B6では、シクロドデカノンオキシムを、触媒の存在下ベックマン転位することによりラウロラクタムを製造し、後処理、蒸留等を行い、各段階においてラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した。実施例B1〜B8では、参考例で製造したラウロラクタムを水素化処理することにより精製し、光透過率差(LT.diff)を測定した。
【0254】
<光透過率差(LT.diff)の測定>
以下、ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は、下記測定方法により測定された。
【0255】
供試ラウロラクタムサンプルの2wt/v%メタノール溶液100mlに、温度20℃において、0.01N過マンガン酸カリ溶液10mlを加え、その200秒後にこの反応混合液を50mmセルに移し、240秒後の透過率%(T2、波長410nm)を読み取った。なお、対照液としてメタノールを使用した。
【0256】
次に、メタノール100mlに20℃で0.01N過マンガン酸カリ溶液10mlを加え、その200秒後にこの混合液を5mmセルに移し、240秒後にその透過率%(T1、波長410nm)を読み取った。対照液としてメタノールを用いた。
【0257】
供試ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を下記式により算出した。
【0258】
光透過率差(%)=T1−T2
【0259】
[参考例B1:シクロドデカノンオキシムの製造]
硫酸ヒドロキシルアミン14.8重量%、硫酸9.5重量%、硫酸アンモニウム27.1重量%の組成の水溶液に25重量%アンモニア水溶液(和光純薬工業社製)を加え、pH4に調整(中和アミン)した。この中和アミン水溶液に、42.4重量%硫酸アンモニウム水溶液を硫酸ヒドロキシルアミン濃度7.69重量%になるように加えた。この調製した硫酸ヒドロキシルアミン溶液25383.3gを攪拌翼が設けられた液相部容積40Lの枕型オキシム反応器に加え、温度を85℃にし、さらにシクロドデカノン7241g、トルエン3113.7gを加えた。温度85℃でpH5.8になるように、25重量%アンモニア水溶液を加え続けて反応させた。水層中のヒドロキシルアミン濃度が1000ppm以下の時点で、攪拌ならびにアンモニア水溶液のフィードを止め、静置し、水層を抜き出した。残った油層にトルエン4127.3g、中和アミン25022.6gを加え、温度85℃でpH5.8になるように、25重量%アンモニア水溶液フィードを開始した。シクロドデカノン濃度が1000ppm以下になった時点で攪拌を停止し、静置後、水層を抜き出し、反応を停止させた。得られた油層(シクロドデカノンオキシム−トルエン溶液)をカールフィッシャー型水分測定器(平沼AQ−2100型微量水分測定装置)により分析した結果、水分濃度は2000ppmであった。
【0260】
[参考例B2:シクロドデカノンオキシムの乾燥]
参考例B1で得たシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液4kgに、800gのトルエンを加えた。これを、10Lのエバポレータに入れ、280torr、温度110℃でトルエンを留去し、シクロドデカノンオキシムの濃度が50重量%になるまで濃縮した。得られた50重量%シクロドデカノンオキシムのトルエン溶液について、カールフィッシャー型水分測定器を用いドライボックス内で水分測定を行った結果、350ppmの水分を含有していた。
【0261】
[参考例B3:ラウロラクタムの製造(塩化チオニル触媒)]
参考例B2で得られた50重量%シクロドデカノンオキシム−トルエン溶液に、塩化亜鉛を、シクロドデカノンオキシムに対して1.0mol%の比になるように温度100℃で溶かした(これを原料と称する。)。これを、攪拌機が設けられた500mlジャケット付きセパラブルフラスコ2つからなる多段反応装置に供給した。
【0262】
これとは別に、10重量%塩化チオニル−トルエン溶液と、参考例B2で得られた50重量%シクロドデカノンオキシム溶液を濃度20重量%に希釈したシクロドデカノンオキシム−トルエン溶液とをライン混合した。その後、これを水冷ジャケット付触媒前調製槽にフィードし、触媒活性種を調製し、第1槽に供給した。なお、塩化チオニルとシクロドデカノンオキシムのフィード量は原料のシクロドデカノンオキシムに対して、1.5mol%、3.75mol%、触媒前調製槽での滞留時間は30分であった。また、転位反応槽の温度は105℃、1、2槽の合計滞留時間は25分とした。
【0263】
また、反応装置の第2槽から得られた反応液について、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は100%、ラウロラクタム収率は99.7%であった。得られた反応液を濃縮し、ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定したところ、66.8%であった。
【0264】
[参考例B4:ラウロラクタムの製造(塩化シアヌル触媒)]
シクロドデカノンオキシム(東京化成)20g、塩化亜鉛0.13g、トルエン80gを、還流管を装着した500mlの3ツ口フラスコにいれ、温度90℃に設定した。塩化シアヌル0.28gをトルエン30gに溶かした溶液を、滴下漏斗を用いて3ツ口フラスコに滴下した。滴下終了から2時間後、反応液を1Lジャケット付きセパラブルフラスコに移し、超純水50gを加え温度80℃で15分攪拌した。その後、15分静置し水層を抜き出した。次に、濃度1重量%のNaOH水溶液50gを加え15分攪拌した後、15分静置し水層を抜き出した。この操作をさらに二回行った後、超純水50gを加えて15分攪拌した。その後、15分静置し、水層を抜き出し、得られた反応液を濃縮し、ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定したところ、69.5%であった。
【0265】
[参考例B5:転位反応液の後処理]
参考例B3で得られた反応液700gを、1Lジャケット付きセパラブルフラスコに入れ、ジャケット温度を80℃にした。反応液の10重量%の超純水を加え、15分攪拌した。その後、15分静置し、水層を抜き出した。この操作を2回行った後、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、反応液の10重量%加え、15分攪拌した。その後、15分静置し、水層を抜き出した。反応液の10重量%の超純水を加え、15分攪拌後した。その後、15分静置し水層を抜き出した。洗浄後の反応液をロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗ラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定したところ、66.8%であり、光透過率差(LT.diff)の低下は認められなかった。
【0266】
[参考例B6:ラウロラクタムの精留]
参考例B5で得られたラウロラクタムを蒸留(ボトム温度190℃、真空度3〜4torr、還流比1:1、スルーザパッキン7段)した。得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定したところ、45%であった。
【0267】
[実施例B1]
参考例B3で得られたラウロラクタムを蒸留(ボトム温度190℃、真空度3〜4torr、還流比1:1、スルーザパッキン7段)し、蒸留により得られたラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=44.7%)を3g、メタノール60g、2重量%Pd/C(粒状)0.6gを300ml二口ナスフラスコに加えた。系内を水素ガスで置換し、水素雰囲気下、密閉系にて室温で6.5時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を濃縮した(回収率91%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、9%であった。
【0268】
[実施例B2]
参考例B3で得られたラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=66.8%)を3g、トルエン200g、5重量%Pt/C(粉状)1.2gを300ml二口ナスフラスコに加えた。系内を水素ガスで置換し、水素雰囲気下、密閉系にて、室温で24時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を濃縮後(回収率91%)した。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、20%であった。
【0269】
[実施例B3]
実施例B1の蒸留ラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=44.7%)を4g、トルエン6g、5重量%Pd/C(粉状)1gを100mLオートクレーブに加えた。系内を水素ガスで置換し、圧力0.2MPa、温度90℃にて1時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、25.7%であった。
【0270】
[実施例B4]
実施例B1の蒸留ラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=44.7%)を4g、トルエン6g、5重量%Pd/C(粉状)0.1gを100mLオートクレーブに加えた。系内を水素ガスで置換し、圧力0.2MPa、温度90℃にて1時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、18.4%であった。
【0271】
[実施例B5]
実施例B1の蒸留ラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=44.7%)を4g、トルエン6g、36.6重量% Ni/Al
2O
3(粉状、前還元処理を行ったもの。130℃ 0.5Mpa・1h トルエン3g)0.1gを100mLオートクレーブに加え、系内を水素ガスで置換し、圧力0.5MPa、温度90℃にて1時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、22.9%であった。
【0272】
[実施例B6]
実施例B1の蒸留ラウロラクタム(光透過率差(LT.diff)=44.7%)を4g、トルエン6g、耐硫黄性・Ni/Al
2O
3(粉状、前還元処理を行ったもの。130℃ 0.5Mpa・1h トルエン3g)0.1gを100mLオートクレーブに加えた。系内を水素ガスで置換し、圧力0.5MPa、温度90℃にて1時間反応させた。反応終了後、温度90℃でメンブレンフィルターを用いてろ過し得られたろ液を濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)を測定した結果、12.6%であった。
【0273】
[実施例B7]
参考例B4で得られた洗浄後の反応液130g、5重量%Pt/C(粉状)13gを300mlオートクレーブに加え系内を水素ガスで置換し、圧力0.5Mpa、温度90℃にて2時間反応させた。反応終了後、温度90℃で5Cのろ紙を用いてろ過し得られたろ液を濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(Lt.diff)を測定したところ34.5%であった。
【0274】
[実施例B8]
参考例B6で得られたラウロラクタムを130g、5重量%Pt/C(粉状)15gを300mlオートクレーブに加え系内を水素ガスで置換し、圧力0.5Mpa、温度165℃にて2時間反応させた。反応終了後、トルエン600gで希釈し温度90℃で5Cのろ紙を用いてろ過した。得られたろ液をロータリーエバポレータで濃縮した(回収率90%)。これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(Lt.diff)を測定したところ7.9%であった。
【0275】
<実施例C>
以下、実施例C1〜C7では、まずシクロドデカノンを用いてシクロドデカノンオキシムを製造し、これを触媒の存在下ベックマン転位することによりラウロラクタムを製造する工程の中で、水素化処理または晶析精製を行った。そして、これにより得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)の測定、ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。なお、以下の実施例C1〜C7、参考例C1〜C6において、光透過率差(LT.diff)の測定方法は上記実施例Bと同様に行った。
【0276】
<ガスクロマトグラフィー分析>
実施例C1〜C7、および参考例C1におけるガスクロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
分析カラム:GLサイエンス社製TC−1キャピラリーカラム、カラム長30m、内径0.53mm、膜厚1.5μm)、カラム温度:70から300℃、昇温速度5℃/分)
【0277】
以下の実施例C1〜C7および参考例C1〜C6においては、下記[工程C1]〜[工程C5]により得られた化合物を用いた。
[工程C1:シクロドデカノンの調製]
シクロドデカノン/シクロドデカノール混合物(インビスタ社製)を脱水素反応に供して得られたシクロドデカノンを原料として用いた。このシクロドデカノンの光透過率差(LT.diff)は48%であった。また、ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、保持時間23分に230重量ppmの不純物が検出され、ガスクロマトグラフ質量分析装置(日本電子社製JMS−GC mate II)にて分析を行った結果、分子量は180であり、フラグメントイオンの解析の結果から、シクロドデセノンであった。
【0278】
[工程C2:シクロドデカノンオキシムの製造]
工程C1により調製したシクロドデカノン7241gを用いて、参考例B1と同様にしてシクロドデカノンオキシムを製造した。
【0279】
[工程C3:シクロドデカノンオキシムの乾燥]
工程C2により調製したシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液を、参考例B2と同様の方法により、水分が350ppmになるまで乾燥した。得られたシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液の一部を採取し、トルエンで希釈して、前記条件にてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、保持時間27.1分、28.1分、28.3分にそれぞれ51重量ppm、50重量ppm、51重量ppmの不純物が検出され、ガスクロマトグラフィー質量分析の結果、これら3種類の不純物の分子量はいずれも195であり、フラグメントイオンの解析の結果から、シクロドデセノンオキシムの異性体混合物であった。
【0280】
[工程C4:ラウロラクタムの製造(塩化チオニル触媒)]
工程C3により調製した50重量%シクロドデカノンオキシムのトルエン溶液に、塩化亜鉛を、シクロドデカノンオキシムに対して1.0mol%の比になるように溶かし、攪拌機が設けられた500mlジャケット付きセパラブルフラスコ2つからなる多段反応装置(転位反応第1槽、転位反応第2槽という)に供給した。これとは別に10重量%塩化チオニル−トルエン溶液と前記の50重量%シクロドデカノンオキシム溶液を、濃度15重量%となるようにトルエンで希釈したシクロドデカノンオキシム−トルエン溶液を混合して触媒活性種を調製し(当該混合槽を前調製槽という)、転位反応第1槽に供給した。なお、前調製槽は発熱による温度上昇を防ぐため水冷ジャケットを備え、温度が35℃を超えないように制御した。前調製槽にフィードされる塩化チオニルとシクロドデカノンオキシムのフィード量は前調製槽及び転位反応第1槽にフィードされるシクロドデカノンオキシムの合計量に対して、それぞれ1.5mol%、3.75mol%であり、前調製槽の滞留時間は20分であった。また、転位反応槽の温度は105℃に設定し、転位反応槽の滞留時間は、転位反応第1槽、転位反応第2槽合計で25分とした。
【0281】
転位反応槽の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析を行った結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は100%、ラウロラクタム収率は99.7%であった。得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は65.3%であった。
【0282】
[工程C5:転位液の後処理、蒸留精製]
工程C4により得られたラウロラクタム/トルエン溶液500gに、水50gを加え、85℃で10分間攪拌後静置分液して、軽液相を取得した。この操作をさらに2回繰返し、得られた軽液相に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液64gを加え85℃で10分間攪拌後静置し、軽液相を分取した(後処理液と称する)。得られた軽液相からトルエンを留去後さらに蒸留(ボトム温度190℃、真空度3〜4torr、還流比1、スルーザパッキン7段)を行ってラウロラクタムを取得した。
【0283】
[参考例C1]
上記工程C1〜工程C5により得られたラウロラクタムについてガスクロマトグラフィー分析(前記条件)を行った結果、27.5分、29.2分、32.6分に不純物が検出され、それぞれの濃度は4重量ppm、8重量ppm、21重量ppmであった。ガスクロマトグラフィー質量分析の結果、いずれも分子量は195であり、フラグメントイオンの解析の結果、ドデセノ12ラクタムの異性体混合物であった。また、得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は44.7%であった。
【0284】
[参考例C2]
ラウロラクタムの製造を、工程C4に示す方法から以下の工程C4´に示す方法に変えた以外、参考例C1と同様にしてラウロラクタムを製造した。
【0285】
[工程C4´:ラウロラクタムの製造(塩化シアヌル触媒)]
前記工程C4で示した多段反応装置に、前記工程C3の通り得られた50重量%シクロドデカノンオキシム−トルエン溶液に塩化亜鉛を、シクロドデカノンオキシムに対して1.0mol%の比になるように溶かして得た溶液を2槽での滞留時間の合計が25分になるように供給した。一方、塩化シアヌル−トルエン溶液をシクロドデカノンオキシムに対して塩化シアヌルが1.5mol%なるように第1槽に供給した。第2槽の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析を行った結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は100%、ラウロラクタム収率は99.7%であった。また、得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は66.8%であった。
【0286】
得られたラウロラクタムを工程C5に示す方法で精製した。得られた精製ラウロラクタムのガスクロマトグラフィー分析(前記条件)を行った結果、参考例C1に示した不純物(ドデセノ12ラクタムの異性体混合物)が検出され、それぞれの濃度は5重量ppm、9重量ppm、20重量ppmであった。また、得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は47.0%であった。
【0287】
[実施例C1(シクロドデカノンの水素化精製)]
前記工程C1で得られたシクロドデカノン10kgに白金を5重量%担持するPt/C触媒(エヌイーケムキャット社製)10gを加え、溶融均一化したスラリーを攪拌翼を供えた液容積1Lの加圧流通反応器に毎時1Lの速度(平均滞留時間1時間)で導入するとともに、水素を流通し、100℃、1.1MPaの条件下で水素化処理を行った。加圧流通反応器から排出された処理液の加圧連続濾過を行い、Pt/C触媒を濾別した後、シクロドデカノンを取得した。得られたシクロドデカノンをガスクロマトグラフィーで分析(前記条件)した結果、0.15重量%のシクロドデカノールの生成を確認したが、前記工程C1で見られた不純物ピークは検出されず、光透過率差(LT.diff)は6.5%であった。このシクロドデカノンを用いた以外参考例C1と同様にしてラウロラクタムを製造した。得られた精製ラウロラクタム中には参考例C1で見られたドデセノ12ラクタムは検出されず、光透過率差(LT.diff)は10.1%であった。
【0288】
[実施例C2(シクロドデカノンの水素化精製)]
ラウロラクタムの製造方法の一部を、参考例C2と同様、工程C4´の方法に変えた以外は実施例C1と同様にラウロラクタムを製造した。該ラウロラクタム中には参考例C1および参考例C2で見られたドデセノ12ラクタムは検出されず、光透過率差(LT.diff)は12.1%だった。
【0289】
[実施例C3(シクロドデカノンオキシムの水素化精製)]
工程C2と同様にしてシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液を得た。実施例C1に示した装置を用い、5%Pt/C添加量を1重量%、水素圧0.2MPa、平均滞留時間を60分として、シクロドデカノンオキシムの水添処理を行った。工程C3に従い乾燥処理を行った後、工程C4、C5と同様にして精製ラウロラクタムを製造した。シクロドデカノンオキシムの乾燥処理後のガスクロマトグラフ分析の結果、工程C3で見られた不純物は検出されず、精製ラウロラクタム中のドデセノ12ラクタムも検出されなかった。また、精製ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は15.0%であった。
【0290】
[実施例C4(シクロドデカノンオキシムの晶析精製)]
工程C2の溶媒をメタノールに変え、反応温度を65℃とした以外は参考例C1と同様にして、シクロドデカノンオキシムを製造した。反応終了後水相を分離し、反応液(シクロドデカノンオキシム/メタノールスラリー)を室温まで冷却し、シクドデカノンオキシム結晶を濾別した。シクロドデカノンオキシムを含むメタノール母液から常圧でメタノールを留去し、約10倍に濃縮後、室温に冷却し析出したシクロドデカノンオキシムの結晶を濾別した。得られたシクロドデカノンオキシムの結晶は前記反応液の冷却の際に析出した結晶とあわせ、500mlの水、メタノールでリンスし減圧乾燥機に入れ70℃にて乾燥した。乾燥したシクロドデカノンオキシムをトルエンに溶かして50重量%のシクロドデカノンオキシム/トルエン溶液を調製し、工程C4、C5と同様にして精製ラウロラクタムを製造した。精製ラウロラクタム中のドデセノ12ラクタムの異性体の濃度はそれぞれ、1重量ppm、3重量ppm、10重量ppmで光透過率差(LT.diff)は21.0%であった。
【0291】
[実施例C5(後処理液の水素化精製)]
工程C5の蒸留精製を行わなかった以外は参考例C1と同様にして、後処理液を調製し、これを自動試料燃焼装置(三菱化学社製AQF-100型)にて燃焼させ、発生ガスを水酸化ナトリウム水溶液に吸収させイオンクロマトグラフィー(三菱化学社製DIONEX−ICS1000システム)で分析した結果、塩素が180.4重量ppm、イオウが56.2重量ppm含まれていた。後処理液200gに安定化ニッケル触媒(日揮触媒化成社製F33B:Ni(56重量%)をシリカ−アルミナ担体に担持したもの)を10g加え、水素圧0.5MPa、130℃で1.5時間処理した。その結果、光透過率差(LT.diff)は29.7%であり、塩素が75.5ppm、イオウが5.3ppm含まれていた。
【0292】
触媒を濾別後、さらに別の安定化ニッケル触媒(日揮触媒化成社製N102F:Ni(62重量%)をシリカ−Mg担体に担持したもの)を10g加えて水素圧0.5MPa、130℃で1.5時間処理した。得られた処理液中の塩素濃度は3.0重量ppm、イオウ濃度は4.4ppm、ドデセノ12ラクタムは検出されず、光透過率差(LT.diff)は6.9%であった。
【0293】
[実施例C6(ラウロラクタムの水素化精製)]
参考例C1と同様にして、ラウロラクタムを製造し、得られたラウロラクタム120gに安定化ニッケル触媒(日揮触媒化成社製N113F:Ni(52重量%)担体:珪藻土)1.2gを加え、水素圧0.5MPa、165℃で2時間処理した。得られたラウロラクタムからは塩素、イオウともイオンクロマトグラフィー分析からは検出されず、ドデセノ12ラクタムも検出されなかった。光透過率差(LT.diff)は4.3%であった。
【0294】
[実施例C7(ラウロラクタムの水素化精製)]
ラウロラクタムの製造方法を参考例C2と同様に行った以外は実施例C6と同様にしてラウロラクタムの水素化精製を行った。得られたラウロラクタムからは塩素、イオウともイオンクロマトグラフィー分析からは検出されず、ドデセノ12ラクタムも検出されなかった。光透過率差(LT.diff)は5.1%であった。
【0295】
[参考例C3]
工程C5の蒸留条件の還流比を5に上げた以外は参考例C1と同様にして精製ラウロラクタムを製造した。得られた精製ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は44.0%であった。同条件で蒸留をくりかえしたところ、得られた精製ラウロラクタムにおいても光透過率差(LT.diff)は35.0%だった。
【0296】
[参考例C4]
工程C4で得られたラウロラクタム/トルエン溶液500gに活性炭50gを加え、85℃で1時間攪拌後、同温度にて活性炭をろ過した。得られた溶液を室温まで冷却し、析出結晶を濾別し、室温にてトルエン100gで洗浄後乾燥して、乾燥結晶を得た。該結晶の光透過率差(LT.diff)は38.5%であった。
【0297】
[参考例C5]
工程C5の蒸留精製において、粗ラウロラクタムに対して2000重量ppmの炭酸ナトリウム粉末を加えて蒸留した以外は参考例C1と同様にラウロラクタムを製造した。得られた精製ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は38.0%であった。
【0298】
[参考例C6]
工程C4の後処理の第1回目の水洗の際にラウロラクタムに対して1モル%の次亜塩素酸ナトリウムを加え処理を行った以外は参考例C1と同様にしてラウロラクタムを製造した。得られた精製ラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は43.0%であった。
【0299】
[参考例C7]
工程C4の後処理の第1回目の水洗の際にラウロラクタムに対して5重量%のイオン交換樹脂(オルガノ社:アンバーリスト15DRY)を加え処理を行った以外は参考例C1と同様にしてラウロラクタムを製造した。得られたラウロラクタムの光透過率差(LT.diff)は44.0%であった。
【0300】
<実施例D>
以下、実施例D1〜D4においては、再結晶による精製を行ったシクロドデカノンを用いてシクロドデカノンオキシムを製造し、ラウロラクタム溶液中等の不純物の分析を行った。
【0301】
[実施例D1]
[シクロドデカノンの製造]
特表2007−506695号公報に従い、シクロドデカノンを製造した。すなわち、まずブタジエンを四塩化チタン、エチルアルミニウムセスキクロライドを触媒に用いて三量化し、シクロドデカトリエンを製造した。次にシクロドデカトリエンを亜酸化窒素で酸化し、シクロドデカジエノンを製造し、残った炭素−炭素二重結合を、パラジウム触媒を用いて水添して粗シクロドデカノンを製造した。得られた粗シクロドデカノンを蒸留精製して原料であるシクロドデカノンを取得した。
【0302】
[シクロドデカノン中の不純物の分析]
得られたシクロドデカノンを、ガスクロマトグラフィー(カラム:GLサイエンス社製CP−SIL19CB、50mキャピラリーカラム カラム温度:70℃から300℃へ毎分5℃で昇温)による分析を行った結果、保持持間24.68分、24.73分、24.87分、25.12分に不純物が検出され、その重量濃度は165重量ppm、107重量ppm、147重量ppm、145重量ppmであった。また、ガスクロマトグラフィー−マススペクトル(日本電子社製JMS GC mateII)分析の結果、分子量はいずれも178であった。シクロドデカノン10gに5重量%の白金を含有する白金/カーボン(エヌイーケムキャット社製)を0.5g加え、水素圧1MPa、110℃、1時間水素化処理を行いガスクロマトグラフィー分析を行った結果、保持持間24.68分、24.73分、24.87分の不純物の濃度は変化しなかったが、25.12分の不純物は消失した。従って、保持持間24.68分、24.73分、24.87分の不純物はトリシクロ環構造のドデカノン、25.12分の不純物はジシクロ環構造のドデセノン又はシクロドデカジエノンと推定された。
【0303】
[シクロドデカノンの再結晶による精製]
シクロドデカノン100重量部に対し、n−ヘプタン8重量部を加え、60℃に加熱して溶解後、25℃まで冷却しシクロドデカノンの結晶を濾別した。n−ヘプタン3重量部で結晶を洗浄後、乾燥して精製シクロドデカノン結晶を得た。晶析のワンパス収率は76.6%であり、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、保持持間24.68分、24.73分、24.87分の不純物はそれぞれ4重量ppm、4重量ppm、6重量ppmに減少し、25.12分の不純物は検出されなかった。
【0304】
[ラウロラクタムの製造]
特開平5−4964号公報に記載の方法に従い、ラウロラクタムを製造した。まず、別途準備したシクロヘキサノンをオキシム化第1槽にフィードし、ヒドロキシルアミン硫酸塩と硫酸アンモニウム水溶液からなるオキシム化第2槽重液と攪拌混合し、pHを調整しながらアンモニア水を滴下して、シクロヘキサノンオキシムを製造した。得られたシクロヘキサノンオキシム融液はオキシム化第2槽へフィードした。オキシム化第2槽へは、上記方法で製造されたシクロドデカノン及びヒドロキシルアミン硫酸塩水溶液をフィードし、オキシム化第1槽と同様に攪拌下にアンモニア水を滴下して、シクロドデカノンオキシムを製造した。オキシム化第2槽にフィードするヒドロキシルアミン硫酸塩水溶液フィード量はシクロヘキサノンとシクロドデカノンの合計と等モル量とした。オキシム化第2槽から排出する軽液相はシクロヘキサノンオキシムとシクロドデカノンオキシムからなる融液であり転位工程に送られた。転位工程では濃硫酸と発煙硫酸によりシクロヘキサノンオキシムとシクロドデカノンオキシムの転位反応を行った。転位終了後、転位液にアンモニア水を加え、硫酸を中和して、カプロラクタム、ラウロラクタムを遊離させ、トルエンを加えて抽出した。得られたカプロラクタム、ラウロラクタムのトルエン溶液に水を加え、カプロラクタムを水相に抽出して両者を分離した。得られたカプロラクタム水溶液、ラウロラクタムのトルエン溶液はそれぞれ溶媒を留去して粗ラクタムとして取得し、更に蒸留精製を行って、製品ラクタムを得た。
【0305】
なお、ラウロラクタムの蒸留精製は3塔からなる連続蒸留で行い、第1塔は低沸点除去塔で、塔頂より低沸点物を留出させ、缶液は第2塔にフィードした。第2塔では塔頂より製品ラウロラクタムを留出させ、高沸点不純物を含む缶液は第3塔にフィードした。第3塔の塔頂留出液は第2塔にリサイクルし、塔底より、高沸点不純物を含むラウロラクタムを排出した。塔底からの排出量は製品ラウロラクタムの取得量に対して0.01重量%であった。
【0306】
[ラウロラクタム中の不純物の分析]
前記粗ラウロラクタム又は製品ラウロラクタム100gにメタノール100gを加え、65℃に加熱溶解した。ラウロラクタムのメタノール溶液を20℃まで冷却し、析出したラウロラクタムを濾別した。濾液は蒸発乾固した。得られた固体を65℃に加熱し、少量のメタノールを添加して65℃に加熱溶解後20℃まで冷却し、析出したラウロラクタムを濾別した。得られた濾液は5.0gにメスアップした。濾液をガスクロマトグラフィー(カラム:GLサイエンス社製TC−1、30mキャピラリーカラム。温度:70℃から300℃へ毎分5℃で昇温)で分析した結果、保持時間、31.3分、31.7分に不純物が検出され、その含有量は粗ラウロラクタム中では3.1重量ppm、6.0重量ppm、蒸留精製した製品ラウロラクタム中では0.5重量ppm、0.9重量ppmであった。また、ガスクロマトグラフィー−マススペクトル(日本電子社製JMS GC mateII)による分析の結果、これら不純物の分子量は193であった。さらに、濾液3gに5重量%の白金を含有する白金/カーボン(エヌイーケムキャット社製)を0.15g加え、水素圧1MPa、110℃、1時間で水素化処理を行い、次いでガスクロマトグラフィー分析を行った結果、いずれの不純物も濃度変化はなかった。従って、これらの不純物はトリシクロ環構造のドデカノラクタムと推定された。
【0307】
[参考例D1]
シクロドデカノンの精製を行わなかったこと、及びラウロラクタムの蒸留精製の際の塔底からの排出量を製品ラウロラクタムの取得量に対して0.12重量%としたこと以外は実施例D1と同様にして製品ラウロラクタムを取得した。粗ラウロラクタム中には保持時間30.9分、31.3分、31.6分、31.7分、32.0分、32.5分、32.7分不純物が検出され、粗ラウロラクタムに対し35重量ppm、96重量ppm、35重量ppm、163重量ppm、15重量ppm、32重量ppmであった。これらの不純物は製品ラウロラクタム中にも検出され、それぞれ7重量ppm、16重量ppm、7重量ppm、32重量ppm、2重量ppm、4重量ppmであった。また、ガスクロマトグラフィーマススペクトル分析では不純物の分子量は全て193であった。一方、製品ラウロラクタムの水添処理を行った結果、保持時間30.9分、31.3分、31.6分、31.7分、32.0分、32.5分の不純物濃度は処理後も変化しなかったが、32.7分の不純物は消失し、32.1分、32.6分に新たな不純物が検出され、それぞれ、製品ラウロラクタムに対し1重量ppm、3重量ppmであった。また、新たな不純物の分子量は195であった。以上の結果から、30.9分、31.3分、31.6分、31.7分、32.0分、32.5分の不純物はトリシクロ環構造のドデカノラクタム、32.7分の不純物はジシクロ環構造のドデセノラクタムと推定された。
【0308】
[実施例D2]
シクロドデカノンの再結晶溶媒をメタノールに変えた以外は実施例D1と同様にしてラウロラクタムを取得した。シクロドデカノンの晶析精製の際のワンパス収率は87.6%、保持持間24.68分、24.73分、の不純物はそれぞれ4重量ppm、6重量ppmであり、24.87分、25.12分の不純物は検出されなかった。また、製品ラウロラクタム中の31.3分の不純物は0.5重量ppmで31.7分の不純物は検出されなかった。
【0309】
[実施例D3]
シクロドデカノンの再結晶溶媒をトルエンに変えた以外は実施例D1と同様にしてラウロラクタムを取得した。シクロドデカノンの再結晶精製の際のワンパス収率は35.8%、保持持間24.68分、24.87分の不純物はそれぞれ4重量ppm、9重量ppmであり、24.73分、25.12分の不純物は検出されなかった。また、製品ラウロラクタム中の31.3分、31.7分の不純物はそれぞれ0.5重量ppm、1.1重量ppmであった。
【0310】
[実施例D4]
シクロドデカノンオキシムの製造及びその転位反応工程を以下に示す方法に変えた以外は実施例D1と同様にして、ラウロラクタムを製造した。
【0311】
内部が4室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積30Lの枕型オキシム化第1反応器に、ヒドロキシルアミン硫酸塩(和光純薬工業社製)の15重量%水溶液を1.5kg/h及びオキシム化第2反応器から送液される油相をフィードした。反応温度を95℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を32g/hでフィードしオキシム化反応を行い、シクロドデカノンオキシムとトルエンからなる油相を得た。
【0312】
水相はオキシム化第2反応器へフィードした。オキシム化第2反応器は15Lで内部が4室に分割された枕型反応器で、前記オキシム化反応液の水相と実施例D1で取得した精製シクロドデカノンをトルエンに溶解して調製した25重量%シクロドデカノン溶液2kg/h(第1反応器へのヒドロキシルアミン硫酸塩と等モル量)を同反応器にフィードし、反応温度を95℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を16g/hでフィードしオキシム化反応を行った。得られた反応液は分液し、油相はオキシム化第1反応器にフィードした。
【0313】
オキシム化第1反応器で取得した油相10kgを20Lのエバポレータに入れ、トルエンを留去し、5.26kgのシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液を得た。シクロドデカノンオキシム含有量をガスクロマトグラフィーで定量した結果、シクロドデカノンオキシムの含有率は50重量%であった。
【0314】
ジャケット付ガラス製の混合部(内容積2.5ml)に10重量%の塩化チオニル(転位触媒)のトルエン溶液を27.7g/h、前記50重量%シクロドデカノンのトルエン溶液をトルエンで希釈して調整した20重量%のシクロドデカノンオキシム/トルエン溶液を57.5g/hでフィードし、ジャケット冷媒にて混合部内部温度を25℃に制御しながら攪拌子で混合した。シクロドデカノンオキシムの塩化チオニルに対するモル比率は2.5である。混合液は導管を通して、内容積48mlのジャケット付ガラス製の前調製槽にフィードした。なお、混合部から前調製槽までの滞留時間は1.5分、前調製槽での滞留時間は29分であった。脱ガス槽内部温度はジャケット冷媒にて35℃に制御し、攪拌子で攪拌しながら窒素(40mL/min)で脱気し、前調製を行い、オーバーフロー液を転位反応槽に流下させた。
【0315】
一方、転位反応槽には50重量%シクロドデカノンオキシム/トルエン溶液に塩化亜鉛をシクロドデカノンオキシムに対して1mol%加えた液を613g/hでフィードした。転位反応槽は内容積163mlのCSTR(Continuous Stirred Tank Flow Reactor:連続攪拌槽型流通反応器)2槽から構成され、液温が105℃となるようジャケットの熱媒温度を調整した。反応時間(CSTR1,2槽の平均滞留時間の合計)は0.4時間であり、同条件で9.5時間継続して連続反応を行った。その結果、前調製で添加した塩化チオニルに対する脱ガス槽から転位反応槽へ導入される前調製液中の触媒活性種(式(6)で示されるシクロドデカノンO−アザシクロトリデセン−2−イルオキシム塩酸塩(なお、本化合物は式(6)で示される化合物、又は、式(6)で示される化合物以外の立体異性体、あるいは、式(6)で示される化合物を含む立体異性体の組合せの混合物を表す。))のモル生成割合は96.2%であった。また、この前調製液を用いた転位反応のシクロドデカノンオキシムの転化率は99.97%、ラウロラクタムの収率は99.8%であった。
【0316】
得られた転位反応液は水洗後、4重量%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して、触媒残渣等を除去し、トルエンを留去して粗ラウロラクタムを取得した。更に実施例D1と同様、蒸留精製を行い、製品ラウロラクタムを取得した。粗ラウロラクタム中及び蒸留精製を行った製品ラウロラクタム中の31.3分、31.7分の不純物はそれぞれ3.5重量ppm、5.5重量ppm、及び0.6重量ppm、0.8重量ppmであった。
【0317】
[実施例D5]
特開2000-256340号公報、特開2000-026441号公報、特開2001-302650号公報、特開2001-226311号公報に従って、粗シクロドデカノンを製造した。すなわち1,5,9−シクロドデカトリエンに過酸化水素水を混合し、触媒としてリンタングステン酸、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドを加えて酸化し、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンを製造した。未反応の1,5,9−シクロドデカトリンを蒸留回収後、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンを蒸留精製した。得られた1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンを白金/カーボンを触媒にて水添処理を行い、二重結合を水素化した。得られたエポキシシクロドデカンに触媒としてヨウ化リチウムを加え、230℃に加熱して異性化し、シクロドデカノンを得た。シクロドデカノンの精製、ラウロラクタムの製造は実施例D1と同様に行い不純物を分析した。精製後のシクロドデカノン中の24.68分、24.73分、24.87分の不純物はそれぞれ2.4重量ppm、2.1重量ppm、4.1重量ppmで、25.12分の不純物は検出されなかった。粗ラウロラクタム及び製品ラウロラクタム中の31.3分、31.7分の不純物はそれぞれ2.1重量ppm、4.0重量ppm、及び0.3重量ppm、0.6重量ppmであった。