(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持体に柱状結晶からなる蛍光体層と保護層を順次形成したシンチレータパネルを、複数の画素を2次元状に配置した平面受光素子の受光面と、カップリングしてなるフラットパネルディテクタにおいて、前記蛍光体層の基部の空隙率変化が、10%以上、25%以下あり、基部から端部にかけて空隙率が減少することを特徴とするフラットパネルディテクタ。
前記支持体がポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4に記載のフラットパネルディテクタ。
前記シンチレータパネルと前記平面受光素子の受光面が樹脂層によってカップリングしていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のフラットパネルディテクタ。
前記シンチレータパネルと前記平面受光素子のカップリングにFOP(ファイバオプティックプレート)が使用されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のフラットパネルディテクタ。
前記平面受光素子がガラス支持体上に形成された薄膜トランジスタ(TFT)を有する平板平面受光素子であることを特徴とする請求項13に記載のフラットパネルディテクタ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明と構成要素等について詳細な説明をする。
【0033】
(シンチレータパネルの構成)
本発明のシンチレータパネルは、支持体上に柱状結晶からなる蛍光体層を設けて成るシンチレータパネルであり、支持体と蛍光体層の間に下引層を有する態様が好ましい。また支持体上に反射層を設け、反射層、下引層、及び蛍光体層の構成であってもよい。以下、各構成層及び構成要素等について説明する。
【0034】
(蛍光体層:シンチレータ層)
本発明に係る蛍光体層は、蛍光体柱状結晶からなる蛍光体層であることを特徴とする。また蒸着後に所定サイズに断裁されており、支持体全面が蛍光体層形成領域となっている。
【0035】
蛍光体層を形成する材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができるが、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成出来るため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましい。
【0036】
但し、CsIのみでは発光効率が低いために、各種の賦活剤が添加される。例えば、特公昭54−35060号公報の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001−59899号公報に開示されているようなCsIを蒸着で、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)、インジウム(In)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活物質を含有するCsIが好ましい。本発明においては、特に、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)が好ましい。更に、タリウム(Tl)が好ましい。
【0037】
なお、本発明においては、特に、1種類以上のタリウム化合物を含む添加剤とヨウ化セシウムとを原材料とすることが好ましい。すなわち、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長をもつことから好ましい。
【0038】
本発明に係る1種類以上のタリウム化合物を含有する添加剤のタリウム化合物としては、種々のタリウム化合物(+Iと+IIIの酸化数の化合物)を使用することができる。
【0039】
本発明において、好ましいタリウム化合物は、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、又はフッ化タリウム(TlF,TlF3)等である。
【0040】
また、本発明に係るタリウム化合物の融点は、400〜700℃の範囲内にあることが好ましい。700℃以内を超えると、柱状結晶内での添加剤が不均一に存在してしまい、発光効率が低下する。なお、本発明での融点とは、常温常圧下における融点である。
【0041】
本発明に係る蛍光体層において、タリウム化合物の含有量は目的性能等に応じて、最適量にすることが望ましいが、ヨウ化セシウムの含有量に対して、0.001mol%〜50mol%、更に0.1〜10.0mol%であることが好ましい。
【0042】
ここで、ヨウ化セシウムに対し、タリウム化合物が0.001mol%以上であると、ヨウ化セシウム単独使用で得られる発光輝度の向上がみられ、目的とする発光輝度を得る点で好ましい。また、50mol%以下であるとヨウ化セシウムの性質・機能を保持することができて好ましい。
【0043】
なお、シンチレータ層(蛍光体層)の厚さは、50〜600μmであることが好ましく、支持体として樹脂を使用した場合は、断裁時のダメージの点から50〜500μmであることが好ましい。また輝度と鮮鋭性の特性のバランスから医療用として120〜400μmであることがより好ましい。
【0044】
なお、本発明においては、支持体上に蛍光体(シンチレータ)の原料の蒸着により蛍光体層を形成した後に、所定サイズに断裁することが好ましい。
【0045】
これにより、シンチレータパネルの画像形成領域が広くなる。また支持体として樹脂を使用することでシンチレータパネルの厚みが薄くなり、口腔内ディテクタ用やカセッテサイズのフラットパネルディテクタ用として好ましい。またまた可とう性の樹脂支持体の使用は、シンチレータパネルと平面受光素子面の接触が全面で均一となり、画像特性が面内で均一化することから好ましい。
【0046】
また蒸着後に断裁する為、個々の支持体への蒸着は不要であり。蒸着装置で作成可能な最大サイズで蒸着を実施し、必要に応じて、所望されるサイズに断裁すればよく、生産効率、出荷納期でのメリットが大きい。
【0047】
(空隙率)
前記蛍光体層の柱状結晶は支持体に対して垂直に伸びており、隣り合う柱状結晶の間は空隙になっている。柱状結晶と空隙の界面で光が反射することにより前記ライトガイド効果を発揮する。
【0048】
前記空隙率は、蛍光体層を支持体と平行に切断した断面において、柱状結晶の断面積と空隙の面積の総和に対する、空隙の面積の比率をいう。
【0049】
本発明は、前記蛍光体層の基部の平均空隙率から端部の平均空隙率を差し引いた差が5%以上25%以下であり、基部から端部にかけて空隙率が減少することを特徴とする。
【0050】
このように空隙率が蛍光体層の厚さ方向で傾斜を有することにより、鮮鋭性を保持しながら、耐衝撃性と輝度を向上させることが出来る。
【0051】
また、前記蛍光体層の基部の空隙率変化は10%以上、25%以下であることが好ましい。これは、基部の空隙率変化が25%以下であれば耐衝撃性が高いからであり、基部の空隙率は10%以上だとより鮮鋭性及び輝度が高くなるからである。(基部の空隙率変化は下記を参照。)
ここで、蛍光体層の基部とは、蛍光体層の支持体側の端面から厚み方向で30%までの領域であり、蛍光体の端部とは蛍光体層の支持体側の端面から厚み方向で60%〜100%の領域である。また、蛍光体層の支持体側の端面から厚み方向で30%〜60%の領域を中間部という。
【0052】
基部の平均空隙率は、支持体側の蛍光層の端面から厚さ方向で30%の位置まで、等間隔で5箇所切断したときの断面から求めた5箇所の空隙率の平均である。
【0053】
同様に、端部の平均空隙率は、蛍光体の端部を厚さ方向に、等間隔で5箇所切断したときの断面から求めた5箇所の空隙率の平均である。
【0054】
基部の空隙率変化=(支持体側の蛍光体層の端面から厚さ方向で蛍光体層の5%の位置の空隙率)−(支持体側の蛍光体層の端面から厚さ方向で蛍光体層の30%の位置の空隙率)
前記基部の空隙率変化は、鮮鋭性と輝度の点から10%〜25%が好ましい。
【0055】
基部から端部までの蛍光体層の全体の空隙率の平均は、耐衝撃性、鮮鋭性、相対輝度などの観点から10〜25%であることが好ましい。
【0056】
前記空隙率は、シンチレータパネルの蛍光体層を支持体と平行に切除し、断面の走査型電子顕微鏡写真を、画像処理ソフトを使用して蛍光体部分と空隙部の2値化することにより、求めることができる。
【0057】
本発明に係る蛍光体層において、柱状結晶の成長と共に賦活剤の濃度を変化させることで、厚み方向で空隙率を変化させ制御することが可能である。
【0058】
賦活剤を低濃度にすると空隙率が大きくなり、高濃度にすると空隙率が小さくなる。具体例として、蒸着装置の真空容器中に沃化セシウムの入ったボートと賦活剤と沃化セシウムが入ったボートを設置し、柱状結晶の成長の段階に応じて後者のボートの加熱温度を制御することにより、賦活剤の濃度を調整する方法が挙げられる。
【0059】
また、蒸着時の基板温度を低温にすることにより、空隙率は増加する。蛍光体層の基部
の蛍光体の柱径が端部の蛍光体の柱径に比べて小さく、蛍光体層の基部から端部まで蛍光
体が連続していることが好ましい。
【0060】
(反射層)
本発明においては、樹脂支持体上には反射層を設けることが好ましい、蛍光体(シンチレータ)から発した光を反射して、光の取り出し効率を高めるためのものである。当該反射層は、Al,Ag,Cr,Cu,Ni,Ti,Mg,Rh,Pt及びAuからなる元素群の中から選ばれるいずれかの元素を含む材料により形成されることが好ましい。特に、上記の元素からなる金属薄膜、例えば、Ag膜、Al膜などを用いることが好ましい。また、このような金属薄膜を2層以上形成するようにしても良い。なお、反射層の厚さは、0.005〜0.3μm、より好ましくは0.01〜0.2μmであることが、発光光取り出し効率の観点から好ましい。
【0061】
(下引層)
本発明においては、支持体と蛍光体層の間、又は反射層と蛍光体層の間に下引き層を設けることが好ましい。当該下引層は、CVD法(気相化学成長法)によりポリパラキシリレン膜を成膜する方法や高分子結合材(バインダー)による方法があるが、膜付の観点から高分子結合材(バインダー)による方法がより好ましい。また下引層の厚さは、0.5〜4μmが好ましい。4μm以下とすることで下引層内での光散乱が大きくなり鮮鋭性が悪化するのを防止できる点で好ましい。また下引層の厚さが0.5μm以上とすることでブレードダイシング時の発熱により柱状結晶性の乱れが発生するのを防止できる点で好ましい。以下、下引層の構成要素について説明する。
【0062】
〈高分子結合材〉
前記下引層は、溶剤に溶解又は分散した高分子結合材(以下「バインダー」ともいう。)を塗布、乾燥して形成することが好ましい。高分子結合材としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースを使用することが好ましい。
【0063】
前記高分子結合材としては、特に蛍光体層との密着の点でポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースなどが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が30〜100℃のポリマーであることが、蒸着結晶と支持体との膜付の点で好ましい。この観点からは、特にポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0064】
下引層の調製に用いることができる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテル及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0065】
なお、本発明に係る下引層には、蛍光体(シンチレータ)が発光する光の散乱の防止し、鮮鋭性等を向上させるために顔料や染料を含有させても良い。
【0066】
(保護層)
本発明に係る保護層は、ブレードダイシング時の切断部の蛍光体結晶割れの防止、及びディテクタ筐体にセットされるまでの期間の防湿と、シンチレータと平面受光素子の接触による平面受光素子側の腐食防止を主眼とするものである。すなわちシンチレータパネルと平面受光素子のカップリングまでの期間、湿度の低い環境で管理されることを前提とすれば、保護層は平面受光素子との接触面部分に存在すればよく、蛍光体層の断裁面側まで覆っている必要はない。但し、フラットパネルディテクタの筐体が、保護層よりも水分透過性の少ないことが好ましい。
【0067】
当該保護層は、種々の材料を用いて形成することができる。例えば、CVD法によりポリパラキシリレン膜を形成する。即ち、蛍光体(シンチレータ)及び支持体の表面全体にポリパラキシリレン膜を形成し、保護層とすることができる。
【0068】
ポリパラキシリレン膜厚は2μm以上10μm以下が好ましく、平面受光素子と接着する場合の接着剤層の厚みは10μm以上18μm以下がこのましい。すなわち接着剤層の厚みは接着力確保の観点から10μm以上が好ましいが、ポリパラキシリレン膜厚と接着剤層の厚みがトータルで20μm以下とすることで、平面受光素子とシンチレータパネルとの間隙でシンチレータからの発光の拡散が大きくなりフラットパネルディクタとしての鮮鋭性が低下するのを防止できる点で好ましい。
【0069】
また、別の態様の保護層として、蛍光体層上にホットメルト樹脂も使用できる。ホットメルト樹脂はシンチレータパネルと平面受光素子面との接着も兼ねることができる。ホットメルト樹脂はポリオレフィン系、ポリエステル系又はポリアミド系樹脂を主成分ものが好適であるがこれに限定されない。ホットメルト樹脂の厚みは20μm以下が好ましい。
【0070】
カーボン、アルミまたはガラスなどの剛直な支持体を使用した場合、蛍光体層表面にポリパラキシリレンやホットメルト樹脂などの保護層を形成しておくことで、結晶の割れを伴わずに所定サイズにブレードダイシングできることを見出した。本発明でいうブレードダイシングとはシリコンウエハーなどのダイシングに一般に使用されるブレードを使用した断裁であるが、支持体がガラスの場合は、レーザーダイシングも使用可能である。
【0071】
ポリパラキシリレンによりシンチレータ層(本発明の蛍光体層に該当する)の上部、側面及び支持体のシンチレータ層外周部を覆うことにより、高い防湿性が得られる。また、ホットメルト樹脂は防湿性だけでなく、シンチレータパネルと平面受光素子面との接着も兼ねることができる。
【0072】
また、衝撃吸収という観点からは、ポリパラキシリレンまたはホットメルト樹脂のように、蛍光体柱状結晶間にある程度、入り込む樹脂層を形成する方が望ましい。
【0073】
さらに別の態様の保護層として、蛍光体層上に高分子保護フィルムを設けることもできる。
【0074】
上記高分子保護フィルムの厚さは、空隙部の形成性、シンチレータ(蛍光体)層の保護性、鮮鋭性、防湿性、作業性等を考慮し、12μm以上、60μm以下が好ましく、更には20μm以上、40μm以下が好ましい。また、ヘイズ率が、鮮鋭性、放射線画像ムラ、製造安定性、作業性等を考慮し、3%以上40%以下が好ましく、更には3%以上、10%以下が好ましい。ヘイズ率は、日本電色工業株式会社NDH 5000Wにより測定した値を示す。必要とするヘイズ率は、市販されている高分子フィルムから適宜選択し、容易に入手することが可能である。
【0075】
保護フィルムの光透過率は、光電変換効率、シンチレータ発光波長等を考慮し、550nmで70%以上あることが好ましいが、99%以上の光透過率のフィルムは工業的に入手が困難であるため、実質的に99〜70%が好ましい。
【0076】
保護フィルムの透湿度は、蛍光体層の保護性、潮解性等を考慮し50g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましく、更には10g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましいが、0.01g/m2・day(40℃・90%RH)以下の透湿度のフィルムは工業的に入手が困難であるため、実質的に0.01g/m2・day(40℃・90%RH)以上、50g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましく、更には0.1g/m2・day(40℃・90%RH)以上、10g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましい。
【0077】
フラットパネルディテクタを構成する筐体の透湿度は、蛍光体層の保護性、潮解性等を考慮し全表面面積平均で、50g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましく、更には10g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましい。
【0078】
(支持体)
本発明のシンチレータパネルは、(1)炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、(2)カーボンボード(木炭及び紙を炭化処理して固めたもの)、(3)カーボン支持体(グラファイト支持体)、(4)プラスチック支持体、(5)ガラス支持体、(6)各種金属支持体、(7)上記(1)〜(6)の支持体を薄く形成し発泡樹脂でサンドイッチしたもの等、支持体として各種の材料を使用することができる。従来気相堆積法によるシンチレータパネル製造方法においては、その支持体が耐熱性を要することから、アルミやアモルファスカーボン等、剛直な支持体に蛍光体層を蒸着することが一般的であった。剛直な支持体を用いる場合、厚さは0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0079】
本発明の支持体としては、蛍光体を蒸着した後の断裁が容易なこと及び、シンチレータパネルと平面受光素子をカップリングする際、曲げることが出来て密着性が良いことから、樹脂フイルムを用いることが好ましい。樹脂フイルムとしては、セルロースアセテートフイルム、ポリエステルフイルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリアミドフイルム、ポリイミド(PI)フイルム、トリアセテートフイルム、ポリカーボネートフイルム、炭素繊維強化樹脂シート等の樹脂フイルム(プラスチックフイルム)を用いることができる。特に、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フイルムが、ヨウ化セシウムを原材料として気相法にて蛍光体柱状結晶を形成する場合に、好適である。
【0080】
なお、前記樹脂フイルムは、好ましくは、厚さ50〜200μmであり、更に、可とう性を有することが好ましい。
【0081】
ここで、「可とう性を有する支持体」とは、120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm2である支持体をいい、かかる支持体としてポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フイルムが好ましい。
【0082】
なお、「弾性率」とは、引張試験機を用い、JIS C 2318に準拠したサンプルの標線が示すひずみと、それに対応する応力が直線的な関係を示す領域において、ひずみ量に対する応力の傾きを求めたものである。これがヤング率と呼ばれる値であり、本発明では、かかるヤング率を弾性率と定義する。
【0083】
本発明に用いられる支持体は、上記のように120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm2であることが好ましい。より好ましくは1200〜5000N/mm2である。
【0084】
具体的には、ポリエチレンナフタレート(E120=4100N/mm2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=1500N/mm2)、ポリブチレンナフタレート(E120=1600N/mm2)、ポリカーボネート(E120=1700N/mm2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=2200N/mm2)、ポリエーテルイミド(E120=1900N/mm2)、ポリイミド(E120=1200N/mm2)、ポリアリレート(E120=1700N/mm2)、ポリスルホン(E120=1800N/mm2)、ポリエーテルスルホン(E120=1700N/mm2)等からなる樹脂フイルムが挙げられる。
【0085】
これらは単独で用いてもよく積層あるいは混合して用いてもよい。中でも、特に好ましい樹脂フイルムとしては、上述のように、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フイルムが好ましい。
【0086】
なお、シンチレータパネルと平面受光素子面を貼り合せる際に、支持体の変形や蒸着時の反りなどの影響を受け、フラットパネルデテイクタの受光面内で均一な画質特性が得られにくいという点に関して、該支持体を、厚さ50〜200μmの樹脂フイルムとすることで容易にシンチレータパネルが平面受光素子面形状に合った形状に変形し、フラットパネルデテイクタの受光面全体で均一な鮮鋭性が得られる。
【0087】
(フラットパネルディテクタの作製方法)
本発明に関わるフラットパネルディテクタの典型的例について、図を参照しながら説明する。
【0088】
図1(a)は、フラットパネルディテクタ1の概略構成を示す断面図である。シンチレータパネル12は接着層13で平面受光素子11に接着している。シンチレータパネルの支持体121と蛍光体層122は同一のサイズとなっている。平面受光素子11の信号取り出し部111を除いた受光画素部全面とシンチレータパネル12の蛍光体層122部分がカップリングされている。フラットパネルディテクタ全体は透湿度の低い樹脂筐体14で密閉されている。
【0089】
図1(b)は、本発明のシンチレータパネル12の断面図であり、支持体121、反射層121a、下引層121b、蛍光体層122、及び保護層123の順に形成されている。蛍光体層122の断面には保護層123は存在していない。
【0090】
(シンチレータパネルの断裁方法)
本発明に関わるシンチレータパネルの断裁方法の典型的例について、図を参照しながら説明する。
【0091】
図2(a)、
図2(b)は、保護層123が形成された後にシンチレータパネル12のブレートダイシングの例である。ダイシング装置2のダイシング台22にシンチレータパネル12は保護層123側を下にして配置される。ブレード21によりシンチレータパネル12は支持体121側より断裁せれる。支持体121は厚さ1mmのアモルファスカーボンである。
【0092】
ブレード21は回転軸21aを中心にして回転することでシンチレータパネル12を切断する。ダイシング台22には溝221が設けれている。またブレードの両側には支持部材24が設けられている。摩擦熱の冷却の為、冷却風がノズル23からブレード21の両側から断裁部に吹き付けられる。冷却風の温度は4℃以下であり、結露防止の為室内の湿度は20%以下になっている。
【0093】
支持体がガラスの場合はレーザーダイシング装置での断裁もできる。また支持体が樹脂の場合は
図3(a)に示したレーザー断裁装置を使用することが好ましい。
【0094】
図3(a)は、保護層が形成されていないシンチレータパネル12のレーザー断裁の例である。
【0095】
レーザー断裁装置3は、箱型に形成されたパージ室33を備えている。パージ室33は、外部の空間中に浮遊する塵等が内部に侵入しないように、内部がほぼ密閉された空間となっている。なお、パージ室33内は、低湿環境であることが好ましい。また、パージ室33の上面には、レーザー光を透過させる透光窓35が設けられている。また塵等の浮遊物をパージ室33の外に導く排出管34が設けられている。
【0096】
レーザー断裁装置3の支持台32上にシンチレータパネル12の支持体121側を下面として載置して、該支持台32上にシンチレータパネル12を吸着保持する。従って、シンチレータパネル12は、蛍光体層122を上側にして保持される。
【0097】
支持台32上に載置されたシンチレータパネル12は、支持台移動手段(図示しない)によってレーザー発生装置31のレーザー照射部直下に位置付けられる。レーザー発生装置31から出射し、該レーザー光をシンチレータパネル12に対して照射する。
【0098】
照射条件はYAG−UV(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶:波長266nm)、周波数5000Hzでビーム径20μmのパルスレーザー光、出力300mWである。支持台移動手段(図示しない)によって、シンチレータパネル12を移動することで断裁する。
【0099】
図3(b)はレーザー断裁によって切り出された複数のシンチレータパネルの例である。Sはレーザー断裁部分である。シンチレータパネル12から12a、12b、12c、12d、12e、12fが切り出されている。
【0100】
(シンチレータパネルの蒸着方法)
本発明に関わるシンチレータパネルの蒸着方法の典型的例について、図を参照しながら説明する。
【0101】
〈蒸着装置〉
図4に示す通り、蒸着装置961は箱状の真空容器962を有しており、真空容器962の内部には真空蒸着用のボート963が配されている。ボート963は蒸着源の被充填部材であり、当該ボート963には電極が接続されている。当該電極を通じてボート963に電流が流れると、ボート963がジュール熱で発熱するようになっている。放射線用シンチレータパネル12の製造時においては、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物がボート963に充填され、そのボート963に電流が流れることで、上記混合物を加熱・蒸発させることができるようになっている。
【0102】
なお、被充填部材として、ヒータを巻回したアルミナ製のるつぼを適用してもよいし、高融点金属製のヒータを適用してもよい。
【0103】
真空容器962の内部であってボート963の直上には支持体121を保持するホルダ64が配されている。ホルダ964にはヒータ(図示略)が配されており、当該ヒータを作動させることでホルダ964に装着した支持体121を加熱することができるようになっている。支持体121を加熱した場合には、支持体121の表面の吸着物を離脱・除去したり、支持体121とその表面に形成される蛍光体層122との間に不純物層が形成されるのを防止したり、支持体121とその表面に形成される蛍光体層122との密着性を強化したり、支持体121の表面に形成される蛍光体層2の膜質の調整をおこなったりすることができるようになっている。
【0104】
ホルダ964には当該ホルダ964を回転させる回転機構965が配されている。回転機構965は、ホルダ64に接続された回転軸65aとその駆動源となるモータ(図示略)から構成されたもので、当該モータを駆動させると、回転軸965aが回転してホルダ964をボート963に対向させた状態で回転させることができるようになっている。
【0105】
蒸着装置961では、上記構成の他に、真空容器962に真空ポンプ966が配されている。真空ポンプ966は、真空容器962の内部の排気と真空容器962の内部へのガスの導入とをおこなうもので、当該真空ポンプ966を作動させることにより、真空容器962の内部を一定圧力のガス雰囲気下に維持することができるようになっている。
【0106】
〈CVD装置〉
図5はシンチレータパネル12の蛍光体層122表面にポリパラキシリレン膜からなる保護層を形成する例である。
【0107】
CVD蒸着装置5は、ポリパラキシリレンの原料であるジパラキシリレンを挿入し気化させる気化室51、気化したジパラキシリレンを加熱昇温してラジカル化する熱分解室52、ラジカル化された状態のジパラキシリレンをシンチレータが形成された支持体121に蒸着させる蒸着室53、防臭、冷却を行う冷却室54及び真空ポンプを有する排気系55を備えて構成されている。ここで、蒸着室53は、
図5に示すように熱分解室52においてラジカル化されたポリパラキシリレンを導入する導入口53a及び余分なポリパラキシリレンを排出する排出口53bを有すると共に、ポリパラキシリレン膜の蒸着を行う試料を支持するターンテーブル(蒸着台)53cを有する。
【0108】
蒸着室53のターンテーブル53c上にシンチレータパネル12の蛍光体層122を上向きにして設置する。次に、気化室51において175℃に加熱して気化させ、熱分解室52において690℃に加熱昇温してラジカル化したジパラキシリレンを、導入口53aから蒸着室3に導入して、蛍光体層122の保護層(ポリパラキシリレン膜)123を3μmの厚さで蒸着する。この場合に、蒸着室53内は真空度13Paに維持されている。又、ターンテーブル53cは、4rpmの速度で回転させている。また、余分なポリパラキシリレンは、排出口53bから排出され、防臭、冷却を行う冷却室54及び真空ポンプを有する排気系55に導かれる。
【0109】
〈シンチレータパネル〉
次に、本発明に係るシンチレータパネル12の作製方法について説明する。
【0110】
当該放射線用シンチレータパネル12の作製方法においては、上記で説明した蒸発装置961を好適に用いることができる。蒸発装置961を用いて放射線用シンチレータパネル12を作製する方法について説明する。
【0111】
《反射層の形成》
支持体121の一方の表面に反射層としての金属薄膜(Al膜、Ag膜等)をスパッタ法により形成する。樹脂フィルムを支持体として使用する場合、樹脂フィルム上にAl膜をスパッタ蒸着したフィルムは、各種の品種が市場で流通しており、これらを本発明の支持体121として使用することも可能である。
【0112】
《下引層の形成》
下引層123は、有機溶剤に高分子結合材を分散・溶解した組成物を塗布、乾燥して形成する。高分子結合材としては接着性、反射層の耐腐食性の観点でポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の疎水性樹脂が好ましい。
【0113】
《蛍光体層の形成》
上記のように反射層と下引層を設けた支持体121をホルダ964に取り付けるとともに、複数個(図示しない)のボート963の1つのボートに沃化セシウムを充填し、もう1つのボートにヨウ化セシウムと賦活剤であるヨウ化タリウムとを含む粉末状の混合物を充填する(準備工程)。この場合、ボート963と支持体121との間隔を100〜1500mmに設定し、その設定値の範囲内のままで後述の蒸着工程の処理をおこなう。より好ましくはボート963と支持体121との間隔を400mm以上、1500mm以下とし、複数個のボート963を同時に加熱し蒸着を行う。
【0114】
本発明に係る蛍光体層において賦活剤の蛍光体層における相対含有量は0.1〜5モル%が好ましく、賦活剤の濃度を柱状結晶の成長方向に変化させることで空隙率を制御することが可能である。
【0115】
準備工程の処理を終えたら、真空ポンプ966を作動させて真空容器962の内部を排気し、真空容器962の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする(真空雰囲気形成工程)。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0116】
次にアルゴン等の不活性ガスを真空容器962の内部に導入し、当該真空容器962の内部を0.001〜5Pa、より好ましくは0.01〜2Paの真空雰囲気下に維持する。その後、ホルダ964のヒータと回転機構965のモータとを駆動させ、ホルダ964に取付け済みの支持体121をボート963に対向させた状態で加熱しながら回転させる。蛍光体層が形成される支持体121の温度は、蒸着開始時は室温25〜50℃に設定することが好ましく、蒸着中は100〜300℃、より好ましくは150〜250℃に設定することが好ましい。
【0117】
この状態において、電極からボート963に電流を流し、沃化セシウムの充填されたボートを700℃程度で加熱し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物の充填されたボートの温度を変化させて加熱し、その混合物を蒸発させる。その結果、支持体121の表面に、基部と端部で空隙率の異なる無数の柱状結晶体が順次成長して所望の厚さの結晶が得られる(蒸着工程)。この後、ヨウ化セシウムが蒸着された支持体を取り出し、粘着ローラにより蛍光体表面をクリーニングする。
【0118】
なお、上記記載事項においては、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計変更をおこなってもよい。
【0119】
一つの改良・設計変更事項として、上記蒸着工程では抵抗加熱法による処理としたが、当該各工程の処理は電子ビームによる処理であってもよいし、高周波誘導による処理でもよい。本実施形態では、比較的簡単な構成で取り扱いが容易、安価、かつ、非常に多くの物質に適用可能である点から、上記の通り、抵抗加熱法による加熱処理を適用するのが好ましい。抵抗加熱法による加熱処理を実行すると、同一のボート963において、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとの混合物の加熱処理と蒸着処理という両処理を両立することができる。
【0120】
他の改良・設計変更事項として、蒸着装置961のボート963とホルダ964との間に、ボート963からホルダ964に至る空間部を遮断するシャッタ(図示略)を配してもよい。この場合、当該シャッタによってボート963上の混合物の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着工程の初期段階で蒸発し、その物質が支持体121に付着するのを防止することができ、蒸着初期に発生する異物による柱状結晶の異常成長を防止できる。
【0121】
《保護層の形成》
図5に示したCVD装置にてポリパラキシリレンからなる保護層123を設ける。あるいは剥離剤がコーテングされた剥離シートに、ホットメルト樹脂を塗設後、ホットメルト樹脂面をシンチレータパネルの蛍光体層面に配置し、120℃に加熱したローラーで加圧しながら張り合わせることで保護層123を形成する。平面受光素子面との接着に接着剤を使用する場合は保護層と接着剤層の厚みのトータルが20μm以下になるように保護層の厚みを調整する。また支持体として樹脂フィルムを使用した場合は本保護層の形成は後述する、シンチレータパネルの断裁後に実施することもできる。
【0122】
(カップリング)
前記シンチレータパネルの蛍光体層側の面と前記平面受光素子の受光面とを合わせて、一体化することをカップリングという。カップリング方法としては、クッション部材等の補助材を用いて両者を圧着する方法、接着剤で接着する方法、マッチングオイルにより張り合わせる方法などが挙げられる。
【0123】
《シンチレータパネルと平面受光素子の接着》
シンチレータパネル12と平面受光素子11を接着剤13で張り合わせる。接着にあたっては接着剤が固化するまで10〜500g/cm2の圧力で加圧する。加圧により接着剤層から気泡が除去される。保護層123としてホットメルト樹脂を使用した場合は10〜500g/cm2の圧力で加圧しながら、ホットメルト樹脂の溶融開始温度より10℃程度高い温度まで加熱し1〜2時間静置後、徐々に冷却する。急冷するとホットメルト樹脂の収縮応力により平面受光素子の画素にダメージかある。好ましくは20℃/hour以下の速度で50℃以下まで冷却する。
【0124】
接着剤13としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系などの常温硬化型の接着剤が使用できる。特に弾力性を有する接着樹脂としてはゴム系の接着剤が使用しできる。
【0125】
ゴム系の接着剤の樹脂としては、スチレン−イソプレン−スチレン等のブロックコポリマー系や、ポリブタジエン、ポリブチレン等の合成ゴム系接着剤、及び天然ゴム等を使用できる。市販されているゴム系接着剤の例としては一液型RTVゴムKE420(信越化学工業社製)などが好適に使用される。
【0126】
シリコーン接着剤としては、過酸化物架橋タイプや付加縮合タイプを単体または混合で使用してもよい。さらにアクリル系やゴム系粘着剤と混合して使用することもできるし、アクリル系接着剤のポリマー主鎖や側鎖にシリコーン成分をペンダントした接着剤を使用してもよい。
【0127】
接着剤としてアクリル系樹脂を用いる場合は、単量体成分として炭素数1〜14のアルキル側鎖を有するアクリル酸エステルを含有するラジカル重合性モノマーを反応させた樹脂を用いることが好ましい。また、単量体成分として、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の極性基を有する、アクリル酸エステルやその他のビニル系単量体を添加するのが好ましい。
【0128】
またシンチレータパネル12と平面受光素子11には粘着性を有する光学グリース等も使用できる。透明性が高く粘着性があれば公知のいかなるものも使用できる。市販されている光学グリースの例としてはシリコンオイル KF96H(100万CS:信越化学工業社製)などが好適に使用される。
【実施例1】
【0129】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0130】
(支持体の作製)
縦横600mm×600mmサイズの下記A−1〜P−3の支持体に銀をスパッタして反射層(0.10μm)を形成した。
【0131】
以下に支持体の材質および厚みを記した。
【0132】
A−1 アルミニウム 0.2mm
A−2 アルミニウム 0.5mm
C−1 アモルファスカーボン 0.5mm
C−2 アモルファスカーボン 1.0mm
C−3 アモルファスカーボン 1.5mm
P−1 ポリイミドフイルム 0.030mm
P−2 ポリイミドフイルム 0.125mm
P−3 ポリイミドフイルム 0.225mm
(下引層の作製)
バイロン20SS(東洋紡社製:高分子ポリエステル樹脂)300質量部
メチルエチルケトン(MEK) 200質量部
トルエン 300質量部
シクロヘキサノン 150質量部。
【0133】
上記処方を混合し、ビーズミルにて15時間分散し、下引き塗設用の塗布液を得た。この塗布液を上記支持体の反射層側に乾燥層厚が1.0μmになるようにスピンコーターで塗布したのち100℃で8時間乾燥することで下引き層を作製した。
【0134】
(蛍光体層の形成)
蛍光体1(CsIのみ)をボート1に入れ、蛍光体2(CsIに対しTlを0.03mol%含有)をボート2に入れた。
【0135】
蒸着装置において、支持体回転機構を備えた支持体ホルダに、上記下引層を設けた支持体を設置した。次に上記蛍光体材料が入ったボート1とボート2を真空容器の内部の底面付近であって、支持体に垂直な中心線を中心とした一つの円の円周上に配置した。このとき、支持体と蒸発源との間隔を500mmに調節すると共に、支持体に垂直な中心線と蒸発源との間隔を300mmに調節した。また、各ボートとホルダとの間にシャッタ(図示略)を配し、蒸着開始時に目的物以外の物質が蛍光体層に付着するのを防止した。
【0136】
続いて蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で支持体を回転させながら支持体の温度を30℃に保持した。次いで抵抗加熱によりボート1内を所定の温度に上昇させて蛍光体1を蒸着開始したのち支持体(基板)温度を200℃まで上昇させ、次いで蛍光体2を蒸着し、蛍光体層の膜厚が200μmとなったところで蒸着を終了させた。蛍光体1及び蛍光体2の蒸着時の温度および時間を制御することにより、蛍光体の厚さ方向で柱状結晶のTlの濃度を変化させ、蛍光体層の全体の空隙率の平均が20%で、表1に示す空隙率変化の蛍光体層を得た。
【0137】
支持体A−1(アルミ、0.2mm)及び支持体P−1(ポリイミド、0.03mm)を使用したサンプルは、蒸着により支持体に弛み状の変形が発生し、以降の作業は困難であった。
【0138】
そこで、これらの支持体については、1mmのAl補助基板に貼り付けて蒸着を実施した。これらの試料は補助基板から剥離するときに蛍光体層がダメージを受けやすいので、補助基板から剥離せずに、平面受光素子との接着後、補助基板を剥離することでこの課題を解消し、実施例15及び実施例16として評価を行った。なお、実施例15、16は性能的には問題は無いが、支持体に補助基板を貼り付けて実施しなければならなかったため、表1の他の支持体を用いた場合より、多くの工数を要した。
【0139】
上記のように、これら蒸着による不具合は補助基板や、もしくはその他プロセスの変更により解消できるが、本発明の支持体の好ましい厚さは、工数を抑えられることから、支持体がカーボン、アルミまたはガラスを主成分とする剛直な物質である場合は0.3mm以上、樹脂フィルムを主成分とする物質である場合は0.05mm以上であることが分かる。
【0140】
(保護層の形成)
(ポリパラキシリレンからなる保護層)
上記で得られたシンチレータパネルを、
図5のCVD装置にセットしてポリパラキシレンからなる保護層を形成した。ポリパラキシレン膜の厚みは3μmになるように調整した。但し、樹脂フィルムを支持体とするP−1、P−2およびFP−3に関しては、後述のシンチレータパネルの断裁で所定サイズに断裁後、CVD装置にてポリパラキシリレンからなる厚み3μmの保護層を形成した。
【0141】
上記ポリパラキシリレン膜の保護膜を設けた例について、表1の保護層の欄にPaと記載した。
【0142】
(高分子保護フィルムからなる保護層)
上記で得られたシンチレータパネルのシンチレータ層を、バリアロックス(コート有り)1011HG−CW(#12)(ラミネート層付きバリアフィルム、東レフィルム加工株式会社製)で覆い、高分子保護フィルムからなる保護層を設けた。
【0143】
上記高分子保護フィルムからなる保護層を設けた例について、表1の保護層の欄にBRと記載した。
【0144】
(平面受光素子とのカップリング)
平面受光素子には受光面にCMOSを有する有効画像領域の平面受光素子(Rad−icon社製 Rad Eye 1/画素サイズ48μm)を使用し、上記により保護層まで形成し作成したシンチレータパネルとカップリングした。
【0145】
実施例11と比較例3はスポンジにより押圧してカップリングした。実施例1〜10、12〜16、比較例1、2、4〜7は接着剤によりカップリングした。
【0146】
(スポンジによるカップリング)
実施例11および比較例3において、シンチレータパネルの蛍光体層側と平面受光素子の受光面と対向させて合わせ、筐体の蓋側にシンチレータパネルの支持体が向くように筐体に装填し、シンチレータパネルの支持体上に圧力調整用のスポンジを置き、狂態の蓋をネジ止めし、30g/cm2の圧力で押圧し、カップリングした。
【0147】
(接着剤によるカップリング)
実施例11および比較例3以外では、シンチレータパネルの蛍光体層側と平面受光素子の受光面との接着に、下記組成のアクリル系接着剤を作成した。
【0148】
平面受光素子とのカップリング時、ある程度の曲率をもって押しつけつつカップリングさせることによって、巻き込みの気泡などが押し出されやすくプロセス上有利であることがわかっているので、曲げることが出来る樹脂支持体を用いたシンチレータパネルは、平面受光素子上に半径5cmの曲率で曲げながら貼合した。曲げることが出来ないアルミ、アモルファスカーボンおよびガラスの支持体を用いたシンチレータパネルは曲げずに貼合した。
【0149】
尚本組成の接着剤組成物は再剥離性が高く、加熱圧着までは容易に位置変更が可能である。
【0150】
(アクリル系接着剤)
下記(A)の固形分比の混合物100質量部に対し、下記(B)の芳香族系イソシアネート化合物を1質量部添加した。さらにジオクチル錫ジラウレートを固形分に対して60ppm添加し、酢酸エチルで希釈して固形分30%の接着剤組成物を得た。
【0151】
(A)
2−エチルヘキシルアクリレート 50質量部
ブチルアクリレート 30質量部
スチレン 19質量部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 3質量部
(B)
トリレンジイソシアネート・トリメチロールプロパンアダクト体(商品名;コロネートL 日本ポリウレタン(株)製)
上記接着剤をシンチレータパネル12の保護層123側に10μmの厚さになるように塗設し乾燥したのち、シンチレータパネルとCMOS部の位置を実体顕微鏡にて確認しながら両者を完全に一致させた。その後100g/cm2の圧力で加圧しながら、70℃の環境で90分間加熱後、徐冷することでシンチレータパネル12と平面受光素子11をカップリングした。
【0152】
次に平面受光素子(Rad Eye 1)のコネクタ部に信号取り出しのケーブルを接続し、再度、
図5のCVD装置にセットしシンチレータパネル及び平面受光素子の全面を50μmの厚みのポリパラキシリレン膜で被覆し、非水分透過性の筐体としフラットパネルディテクタを得た。
【0153】
(シンチレータパネルの評価)
得られたシンチレータパネルの、空隙率、耐屈曲性、耐衝撃性、鮮鋭性、DQEを以下に示す方法で評価した。
【0154】
(空隙率の測定)
得られたシンチレータパネルの蛍光体層を支持体と平行に切除し、断面の走査型電子顕微鏡写真を、画像処理ソフトを使用して蛍光体部分と空隙部の2値化することにより、基部、中間部および端部の空隙率および基部の空隙率変化を求めた。
【0155】
(フラットパネルディテクタの評価)
(耐衝撃性の評価)
フラットパネルディテクタに対して20cm離れた高さ位置から500gの鉄球を落下させた後、シンチレータパネルについて目視評価した。その後、管電圧40kVpのX線を支持体の裏面側から照射し得られたフラットパネルディテクタ上の画像を出力装置よりプリントアウトし得られたプリント画像を目視にて以下に示す基準に従って耐衝撃性の評価を行った。表1に結果を示す。
【0156】
5:ひび割れがなく、また均一な画像である
4:ひび割れがなく、画質的にほとんど気にならないレベルである
3:ひび割れが見られ、画欠(画像欠陥)が確認されるが実用上許容できるレベルである
2:ひび割れが見られ、明らかな画欠が認められ、実用上問題が発生するレベルである 1:ひび割れが多数見られ、画欠が多く、実用上問題が発生するレベルである。
【0157】
(耐屈曲性の評価)
得られたシンチレータパネルのうち、樹脂製支持体の実施例に関して、平面受光素子上に半径5cmの曲率をもってはりつけて作製したフラットパネルディテクタに、管電圧40kVpのX線を支持体の裏面側から照射し得られたフラットパネルディテクタ上の画像を出力装置よりプリントアウトし得られたプリント画像を観察し、以下に示す基準に従って耐屈曲性の評価を行った。表1に結果を示す。
【0158】
5:ひび割れがなく、また均一な画像である
4:ひび割れがなく、画質的にほとんど気にならないレベルである
3:ひび割れが見られ、画欠が確認されるが実用上許容できるレベルである
2:ひび割れが見られ、明らかな画欠が認められ、実用上問題が発生するレベルである
1:ひび割れが多数見られ、画欠が多く、実用上問題が発生するレベルである。
【0159】
(鮮鋭性の評価)
鉛製のMTFチャートを通して管電圧40kVpのX線をフラットパネルディテクタの放射線入射面側に照射し、画像データを検出しハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の変調伝達関数MTF(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値)を鮮鋭性の指標とした。表中MTF値が高いほど鮮鋭性に優れていることを示す。MTFはModulation Transfer Functionの略号である。
【0160】
実施例12のMTF値を100としたときの相対値を鮮鋭性として表1に示した。
【0161】
(輝度の評価)
X線効率を評価するために、輝度評価を実施した。管電圧40kVpのX線をフラットパネルディテクタの放射線入射面側に照射し、画像データを検出しハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の平均シグナル値を発光輝度とした。表1に示す相対輝度とは実施例13を100とした時の値である。
【0162】
【表1】
【0163】
表1より、本発明のフラットパネルディテクタは、耐衝撃性が高く、輝度が高いことが分かる。さらに、基部の空隙率変化が10〜25%となることにより、鮮鋭性及び輝度がさらに向上することが分かる。また、生産効率上有利な樹脂の支持体を用いた場合は、本発明の蛍光体層を用いることにより屈曲性が向上し、CCD、CMOS、TFTといった各種センサへのカップリング時にプロセス上有利となることがわかる。