特許第5979276号(P5979276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979276インクジェット用水性インク及びインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979276
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】インクジェット用水性インク及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20160817BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20160817BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C09D11/328
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-95633(P2015-95633)
(22)【出願日】2015年5月8日
(62)【分割の表示】特願2009-111943(P2009-111943)の分割
【原出願日】2009年5月1日
(65)【公開番号】特開2015-178624(P2015-178624A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【弁理士】
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 尚子
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266537(JP,A)
【文献】 特開2005−232233(JP,A)
【文献】 特開2001−064555(JP,A)
【文献】 特開2000−351923(JP,A)
【文献】 特開2005−126466(JP,A)
【文献】 特開2002−003756(JP,A)
【文献】 特開平08−269378(JP,A)
【文献】 米国特許第05605566(US,A)
【文献】 特開2001−049155(JP,A)
【文献】 特開2003−165933(JP,A)
【文献】 特開2009−126989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00〜C09D11/54
B05D1/00〜B05D7/26
B41M5/00〜B41M5/52
B41J2/00〜B41J2/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、C.I.アシッドレッド447と、水と、グリコールエーテルとを含有するインクジェット用水性インクにおいて、
該グリコールエーテルの含有量が0.5〜2.5質量%であり、
NaとKとLiとの該インクジェット用水性インク中での含有量の合計が1500〜8000ppmであることを特徴とする、インクジェット用水性インク。
【請求項2】
前記C.I.アシッドレッド447の含有量が5〜10質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット用水性インク。
【請求項3】
前記インクジェット用水性インクのpHが5〜9であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のインクジェット用水性インク。
【請求項4】
前記グリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGEE)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(テトラEGME)、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル(テトラEGEE)、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル(テトラEGPE)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(テトラEGBE)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(DPGEE)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(DPGPE)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用水性インク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用水性インクを用い、布帛上にインクジェット記録することを特徴とする、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用水性インクに関し、更に詳しくは、色再現性に優れ深みのある濃い赤を布帛上に表現し、保存安定性に優れ高速印刷にも対応可能なインクジェット用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像の印刷方法は、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドより飛翔させ、対象となる記録媒体に付着させて印刷を行う方法である。インクジェット方式は、その機構が比較的簡便で、安価であり、かつ高精細で高品位な画像を形成させることが利点である。
【0003】
インクジェット方式の利点を生かして、布帛への画像印字、いわゆるインクジェット捺染についても開発が進められている。インクジェット捺染は、従来の捺染とは異なり、版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成できる利点を有している。更に形成画像として必要な量のインクのみを使用するために、従来方式に比較すると廃液が少ない等の環境的利点も有する優れた画像形成方法であるといえる。
【0004】
プリンタが使用される環境温度は通常の室内温度(約20〜30℃)で使用することが大半であるが冬場であれば15℃前後に下がる事もある。そのような環境でも安定に射出するインクが求められている。温度が低下するとインクの粘度はある程度増大するが、印刷は可能である。
【0005】
色再現性に優れ深みのある濃い赤を表現するために、染料C.I.アシッドレッド447を含む水性レッドインクを使用する場合(例えば、特許文献1参照)、通常の室内温度を下回ると安定に吐出する事が困難となることがあり、C.I.アシッドレッド447を含む水性インクは、高濃度と環境温度による射出安定性の両立が困難であることがわかった。その上、C.I.アシッドレッド447を含む水性インクは、染料の溶解性が下がり、析出が起こりやすくなる。さらに無機塩などが存在するとその傾向は大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、画像品質が高く、保存安定性に優れ、環境温度変動にも安定なインクジェット用水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0009】
1.少なくとも、C.I.アシッドレッド447と、水と、グリコールエーテルとを含有するインクジェット用水性インクにおいて、該グリコールエーテルの含有量が0.5〜5質量%であり、かつ、NaとKとLiの該インクジェット用水性インク中での含有量の合計が1500〜8000ppmであることを特徴とするインクジェット用水性インク。
【0010】
2.前記C.I.アシッドレッド447の含有量が5〜10質量%であることを特徴とする前記1記載のインクジェット用水性インク。
【0011】
3.前記インクジェット用水性インクのpHが5〜9であることを特徴とする前記1又は2記載のインクジェット用水性インク。
【0012】
4.前記グリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGEE)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(テトラEGME)、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル(テトラEGEE)、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル(テトラEGPE)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(テトラEGBE)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(DPGEE)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(DPGPE)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項記載のインクジェット用水性インク。
【0013】
5.前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用水性インクを用い、布帛上にインクジェット記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保存安定性に優れ、環境温度変動にも安定なインクジェット用水性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明において使用するインクジェット用水性インク(以後、単にインクともいう)は、染料、水、有機溶剤、添加剤等から成る。
【0017】
まず、本発明の効果を発現するために必要な染料について説明する。
【0018】
本発明者らの検討の結果、印字後の濃度、インクとしての保存安定性、高速印字適性を確保できる染料として、C.I.アシッドレッド447が好ましいことが判った。更に、本発明の効果を得るためには染料濃度として5〜10質量%が好ましい。この範囲であると布帛への印字後濃度が高く、保存安定性も優れている。
【0019】
本発明においては、インク溶剤として水溶性有機溶剤であるグリコールエーテルの少なくとも1種を含有することが必須である。
【0020】
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGEE)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(テトラEGME)、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル(テトラEGEE)、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル(テトラEGPE)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(テトラEGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(DPGEE),ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(DPGPE)等が挙げられる。
【0021】
又、多価アルコール類を併用しても良く、多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0022】
その他に併用できる溶剤としては、アミン類(エタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール等)、1価アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、2,2′−チオジエタノール、スルホラン、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド等)、複素環類(2−ピロリドン等)、アセトニトリル等が挙げられる。
【0023】
これらの溶剤によって、射出安定性、高速印字性が向上するが、浸透性にも優れる。捺染の場合は、印字後の飽和蒸気中での定着処理及び水洗後に、印字したくない部分に色材が付着してしまう白地汚染が起き難いことも判った。
【0024】
上記水溶性有機溶剤量としては、全インク質量に対して10〜60質量%が好ましい。この範囲であると、射出安定性が高く乾燥性も安定する。
【0025】
本発明のインクジェット用水性インクは、NaとKとLiのインク中での含有量の合計が1500〜8000ppmである。この範囲にすることによって、上記本発明の目的を達成することが出来る。
【0026】
NaとKとLiのインク中での含有量の合計が1500ppmより小さいと染料の溶解性が悪くなり保存性が不安定となる。8000ppmより大きいとインクのゲル化や低温で異常な増粘が起こる。
【0027】
本発明に係るインクの粘度としては25℃において3〜10mPa・sが好ましい。粘度をこの範囲にすることで、射出安定性を保ち、滲みを抑制できる。
【0028】
インクの粘度や染料を安定に保つため、又、発色を良くするために、インク中に無機塩を添加してもよい。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫化マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明に係るインクの粘度としては25℃において3〜10mPa・sが好ましい。粘度をこの範囲にすることで、射出安定性を保ち、滲みを抑制できる。
【0030】
本発明のインクジェット用水性インクは、NaとKとLiのインク中での含有量の合計が1500〜8000ppmである。この範囲にすることによって、上記本発明の目的を達成することが出来る。
【0031】
NaとKとLiのインク中での含有量の合計を上記範囲にするため、インク組成物を吸着剤(活性炭、ゼオライト、ケイソウ土等)もしくはイオン交換樹脂とを混合し、攪拌後、濾別する、または液組成物を、吸着剤もしくはイオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填されたカラム中を通過させる、あるいは限外濾過装置によって脱塩精製を行うなどいずれかの精製過程単独であるいは組み合わせて脱塩する。
【0032】
脱塩後のインク組成物における、NaとKとLiのインク中での含有量の合計が、上記範囲以下の場合は、無機塩として、塩化ナトリウム又は、硫酸ナトリウムを添加して調整する。
【0033】
本発明のインクには、上記無機塩の他にキレート剤を添加してもよい。好ましく用いられるキレート剤としては、市販のよく知られるキレート剤でよく、例えばエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミンジ−o−ヒドロキシフェニル酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1,1−ジホスホノエタン−2−カルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシ−1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、カテコール−3,5−ジホスホン酸、ピロリン酸、テトラポリ燐酸、ヘキサメタ燐酸及びこれらの金属塩、有機塩基塩等が挙げられる。特に好ましくは、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸等である。
【0034】
又、界面活性剤として、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性の何れも用いることが出来る。
【0035】
陽イオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0036】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等が挙げられる。
【0037】
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばエマルゲン911)、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えばニューポールPE−62)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0039】
これらの界面活性剤を使用する場合、単独又は2種類以上を混合して用いることが出来、インク全量に対して0.001〜1.0質量%を添加することで、インクの表面張力を任意に調整することができ好ましい。
【0040】
インクの長期保存安定性を保つため、防腐剤、防黴剤をインク中に添加してもよい。防腐剤・防黴剤としては、芳香族ハロゲン化合物(例えばPreventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(例えばPROXEL GXL)等が挙げられる。
【0041】
本発明中、捺染において使用する布帛を構成する素材としては、ポリアミド繊維を含有するものである。中でもナイロン、絹、羊毛が好ましい。上記繊維は織物、編物、不織布等、何れの形態でも使用できる。布帛は、ポリアミド繊維100%のものが好適であるが、混紡率30%以上、好ましくは50%以上であれば、ポリアミド繊維と他の素材、例えばレーヨン、綿、アセテート、ポリウレタン、アクリル等との混紡織布又は混紡不織布等も捺染用布帛として使用することができる。
【0042】
布帛を構成するポリアミド繊維及び該繊維から成る糸の物理特性としては好適な範囲があり、例えばナイロンの場合、ナイロン繊維の平均太さが1〜10d(デニール)、更に好ましくは2〜6dに制御され、該ナイロン繊維から構成されるナイロン糸の平均太さが20〜100d、より好ましくは25〜80d、更に好ましくは30〜70dに制御されたものである。又、絹の場合は、繊維自体の特性として絹繊維の平均太さが2.5〜3.5d、更に好ましくは2.7〜3.3dに制御され、該絹繊維から構成される絹糸の平均太さが14〜147d、更に好ましくは14〜105dに制御され、公知の方法により布帛としたものがよい。
【0043】
上記のような本発明に使用する捺染用布帛は、必要に応じて従来の前処理法を併用することができる。特に、尿素、水溶性金属塩、水溶性高分子等を0.01〜20質量%含有させたものが好ましい。
【0044】
上記水溶性高分子としては、トウモロコシ、小麦等の澱粉物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の公知の天然水溶性高分子が挙げられる。又、合成高分子としては、公知のポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも、多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。
【0045】
水溶性金属塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物のように、典型的なイオン結晶を形成するものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。係る化合物の代表例としては、アルカリ金属ではNaCl、NaSO、KCl、CHCOONa等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはCaCl、MgCl等が挙げられる。中でも、Na、K、Caの塩類が好ましい。
【0046】
撥水剤としては、パラフィン系、弗素系化合物、ピリジニウム塩類、N−メチロールアルキルアミド、アルキルエチレン尿素、オキザリン誘導体、シリコーン系化合物、トリアジン系化合物、ジルコニウム系化合物、又はこれらの混合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら撥水剤の中でも、パラフィン系及び弗素系撥水剤が、滲み防止、濃度の点において特に好ましい。
【0047】
撥水剤は布帛に対して0.05〜40質量%付与することが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。これは、0.05質量%未満ではインクの過度の浸透を防止する効果が少なく、40質量%を超えて含有させても性能的に大きな変化がないからである。界面活性剤としては、アニオン系、非イオン系や両性界面活性剤等が使用できる。
【0048】
アニオン系界面活性剤としては、スルホン酸型、カルボン酸型、硫酸エステル型、燐酸エステル型等が挙げられ、スルホン酸型としてはアルキルスルホネート系、アルキルアリルスルホネートエステル系のスルホネート系界面活性剤等、カルボン酸型としては石鹸、脂肪蛋白質縮合物等、硫酸エステル型としては高級アルコール硫酸エステル、高級アルコールEO付加物硫酸エステル、オレフィンの硫酸エステル、脂肪酸の硫酸エステル等、燐酸エステル型としては高級アルコール燐酸エステル、高級アルコールEO付加物燐酸エステル等が挙げられる。
【0049】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル、アセチレングリコール等のエーテル型や、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアミノエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型等を使用することができる。特にHLB12.5以上、好ましくは14以上の非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0050】
両性界面活性剤としてはベタイン型等を使用することができる。界面活性剤は布帛に対して0.01〜30質量%付与することが好ましい。更に、使用する染料の特性等に応じて還元防止剤、酸化防止剤、均染剤、濃染剤、キャリヤー、還元剤、酸化剤といった添加剤を入れることが好ましい。
【0051】
前処理において上記物質等を布帛に含有させる方法は、特に制限されないが、通常行われる浸漬法、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等を挙げることができる。
【0052】
布帛に印字を行うインクジェット捺染方法は、インク射出後印字された布帛を巻き取り、加熱により発色し、布帛を洗浄、乾燥させることが望ましい。インクを布帛に印字し、ただ放置して置くだけでは上手く染着しない。又、長尺の布帛に長時間印字し続ける場合などでは、布帛が延々と出て来るため、床などに印字した布帛が重なって場所を取るし、それは不安全であり、又、予期せず汚れてしまう場合がある。そのために、印字後、巻き取る操作が必要となる。この操作時に、布帛と布帛の間に、紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んでも構わない。ただし、途中で切断する場合や短い布帛に対しては、必ずしも巻き取る必要はない。
【0053】
インク組成物の付着を受けた布帛は、好ましくは後処理に付され、酸性染料の繊維への定着を促進させ、その後、定着しなかった着色剤、その他のインク成分、前処理剤を十分除去することが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、後処理は幾つかの工程に別れる。まず、インク組成物を布帛に付着させた後、この布帛を常温〜150℃に0.5〜30分放置し、インク組成物を予備乾燥することが好ましい。この予備乾燥により印捺濃度を向上させ、かつ滲みを有効に防止できる。尚、この予備乾燥とは、インク組成物が布帛中に浸透することも含む。
【0054】
本発明の好ましい様態によれば、前記予備乾燥を連続工程で加熱乾燥することも可能である。布帛をロール状にしてインクジェット印捺機に供給して印捺し、その後、印捺布を巻き取る以前に乾燥工程を通す。乾燥機は印捺機に直結してもよく、分離したものでもよい。乾燥機における乾燥は150℃以下で0.5〜30分行われることが好ましい。又、好ましい乾燥方法としては、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、照射方式等が挙げられる。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、後処理工程の内、定着工程は布帛の種類によって、その条件、特に、時間を変化させることが好ましい。例えば、布帛が羊毛である場合、時間は20〜120分が好ましく、より好ましくは30〜90分程度である。又、布帛が絹である場合、時間は5〜40分が好ましく、より好ましくは15〜30分程度である。更に、布帛がナイロンである場合、5〜90分程度が好ましく、より好ましくは10〜60分程度である。
【0056】
このようにしてインクジェット記録されたインクの中の大部分の染料は布帛に固着するが、この中の一部の染料は繊維に染着しないものがある。この未固着染料は洗い流して置くことが好ましい。未固着染料の除去は、従来公知の洗浄方法が採用できる。数10〜100℃の湯を使用したり、アニオン、ノニオン系のソーピング剤を使用することが好ましい。未固着の色材が完全に除去されないと、洗濯堅牢性、耐水堅牢性、耐汗堅牢性において良好な結果が得られない場合がある。
【0057】
洗浄後は乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したり、あるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例より本発明をより具体的に説明するが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。尚、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0059】
表1に示すように、染料、グリコールエーテルを用いてインク1〜10を調製した。染料は市販品を精製して使用した。染料の精製方法は、液組成物を吸着剤(活性炭、ゼオライト、ケイソウ土等)もしくはイオン交換樹脂とを混合し、攪拌後、濾別する、または液組成物を、吸着剤もしくはイオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填されたカラム中を通過させる、あるいは限外濾過装置によって脱塩精製を行うなどいずれかの精製過程単独であるいは組み合わせて調製した。各インクには溶剤としてエチレングリコール20%、グリセリン10%を添加し、サーフィノール465(アセチレンジオールにエチレンオキサイドを65%付加したもの;エアープロダクツ社製)を添加することで、30〜40mN/mに調整した。また、防腐剤としてプロキセルGXL(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン;アーチケミカルズ社製)を一律に0.5質量%添加した。pH調整は希塩酸または水酸化ナトリウム水溶液を用い、イオン交換水で100%に調製した。表1に作製したインク1〜10と評価結果を示した。インク中のNaとKとLiの含有量はキャピラリー電気泳動により検出し、合計量を無機塩合計として表1に示した。
【0060】
<インク番号1の作製>
市販のC.I.アシッドレッド447の7.0質量%、エチレングリコール20質量%、グリセリン10質量%、サーフィノール465(アセチレンジオールにエチレンオキサイドを65%付加したもの;エアープロダクツ社製)を添加することで、30〜40mN/mに調整した。また、防腐剤としてプロキセルGXL(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン;アーチケミカルズ社製)を0.5質量%添加した。pH調整は希塩酸または水酸化ナトリウム水溶液を用い、イオン交換水で100%に調製した。得られた、粗製インク組成物を吸着剤(活性炭、ゼオライト、ケイソウ土等)もしくはイオン交換樹脂とを混合し、攪拌後、濾別する、または液組成物を、吸着剤もしくはイオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填されたカラム中を通過させる、あるいは限外濾過装置によって脱塩精製を行うなどいずれかの精製過程単独であるいは組み合わせて脱塩処理を行い、NaとKとLiの含有量がそれぞれ、4500ppm、450ppm、及び50ppmのインクジェット用水性インク(インク番号1)を得た。
【0061】
<インク番号2〜16の作製>
染料濃度、グリコールエーテルの種類と量、NaとKとLiの含有量及びpHをそれぞれ表1になるように変えた以外はインク番号1と同様にして、インク番号2〜16を作製した。
【0062】
<低温増粘の評価>
粘度は回転粘度計と恒温槽(東機産業社製:VISCOMETER TV−33、VISCOMATE VM−150III)を用いて測定した。恒温槽で15℃に設定し測定開始1分後と3分後の粘度を測定した。以下の基準で評価した。
【0063】
○;1分値と3分値に差がないもしくは3分値が低い
×;3分値が1分値より高い。
【0064】
<析出の評価>
φ5cmのシャーレにインクを10g入れふたをせずに室温で放置し、以下の基準で評価した。
【0065】
◎:7日以上放置しても析出が見られない
○:3日以上放置しても析出が見られない
△:3日以上放置すると小さな粒が数個見られる
×:3日以内に明らかに析出が見られる。
【0066】
<射出安定性の評価>
ノズル径20μm、駆動周波数30kHz、液滴体積4ng/drop、ノズル数が128個のインクジェットヘッドから各インクを吐出させ、吐出状態をストロボ発光方式の観察装置を用いて吐出と発光の同期をとることにより観察した。この時のノズルプレートとの垂線方向からの角度のズレが3度以上あるノズルを曲がりがある状態として以下のランク付けを行った。
【0067】
◎:128個のノズル全てで曲がりがなく正常である
○:1〜5個のノズルで曲がりがある
△:6〜10個のノズルで曲がりがある
×:11個以上のノズルで曲がりがある。
【0068】
<保存射出安定性>
インクを50℃14日間保存し、ノズル径20μm、駆動周波数30kHz、液滴体積4ng/drop、ノズル数が128個のインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタで100ドットを記録した。サテライト(主ドットから離れて記録されている主トッドに比較して小さいドット)の個数を数えて評価した。記録媒体には普通紙を用いて、以下の基準で評価した。
【0069】
○:サテライトが全く発生していない
△:サテライトが50個未満
×:サテライトが50個以上。
【0070】
<プリント画像の形成及び評価>
(絹布の前処理)
絹布(120g/m)に20g/lのアルギン酸ナトリウム及び100g/lの尿素を含む液体をパッド塗布(絞り率:70%)した後、乾燥した。
【0071】
(プリンタ)
上記調製した各インクを用いてインクジェットプリンタNassennger−V(コニカミノルタ社製)を用いて、上記前処理した絹布上にベタ画像をプリントした。
【0072】
(定着処理)
上記プリントした絹布を25℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、103℃の飽和蒸気中で12分間の定着処理を行い、ついで冷水で10分、ソーピング剤、炭酸ナトリウム処理した40℃の溶液で5分、40℃の温水で5分、更に冷水で10分すすいだ後、乾燥して、定着処理を行った。
【0073】
(プリント画像濃度の測定)
未プリントの布をプリント布と同様の定着処理を行い、20枚重ねた上にプリント布をおき、X−Rite938Spectordensitometerを用いて、レスポンスTにおける画像濃度を測定し、下記の基準に則り画像濃度の判定を行った。
【0074】
◎:画像濃度が1.5以上であり品質上問題なし
○:画像濃度が1.0以上、1.5未満であり品質上、若干問題がある
△:画像濃度が0.5以上、1.0未満であり品質上、相当問題である
×:画像濃度が0.4未満、実用不可。
【0075】
【表1】
【0076】
表1からわかるように、本発明のインクを適用することで、高濃でインク保存性が向上し、射出安定性に優れ環境温度変動にも安定なレッドインクが得られることがわかった。