(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ポリオレフィン微多孔フィルム>
本発明のポリオレフィン微多孔フィルムとしては、従来の蓄電デバイス用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔フィルムの中から、十分な力学物性とイオン透過性を有するものを好適に用いることができる。
【0012】
また、蓄電デバイス用セパレータとして本発明の積層多孔質フィルムを用いた際の熱閉塞温度は、高すぎると内部短絡発生時の安全性確保が困難になり、低すぎると通常使用範囲での温度領域で無孔化する可能性があるため電池の利便性を損なう。このため、電池の特性、使用環境に合わせて設定されるが、熱閉塞温度は120〜180℃、好ましくは120〜140℃となるように設定されることが好ましい。また、本発明の電池用セパレータは無機物を含む多孔層(耐熱層)を有するが、高い温度まで無孔化を維持するには、ポリオレフィン微多孔フィルム単独でも、170℃以上の無孔化維持温度を有することが好ましい。
【0013】
このような特性を満たすために、本発明を構成するポリオレフィン微多孔フィルムは、150℃以上の融点を有することが好ましく、積層ポリオレフィン微多孔フィルムであってもよい。積層ポリオレフィン微多孔フィルムの場合、好ましくは、150℃以上の融点を有するポリオレフィン微多孔フィルムの層と110℃〜140℃の範囲に融点を有するポリオレフィン微多孔フィルムの層とを有する。
【0014】
上記150℃以上の融点を有するポリオレフィン微多孔フィルムとしては、ポリプロピレン(PP)が挙げられ、110℃〜140℃の範囲に融点を有すポリオレフィン微多孔フィルムとしては、ポリエチレン(PE)が挙げられる。好ましくは、PP/PE/PPの順に積層された多孔質フィルムである。
【0015】
ポリオレフィン微多孔フィルムの膜厚は、使用される電池の種類にもよるが、例えば、3〜300μmが好ましく、10〜100μmがより好ましく、16〜50μmがさらに好ましい。
【0016】
また、ポリオレフィン微多孔フィルムは、製造条件やフィルムの組成等によっても異なるが、適切な通気度(ガス透過速度;ガーレー値として測定)を有することが必要であり、ガーレー値は10〜1000秒/100ccであることが好ましく、10〜800秒/100ccであることがより好ましく、30〜600秒/100ccであることが更に好ましい。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。また、ガーレー値が低すぎると電池の充放電時にLiデンドライトが析出してトラブルを引き起こす危険性が高まるので好ましくない。
【0017】
蓄電デバイス用セパレータとして本発明の積層多孔質フィルムを用いた際には、蓄電デバイス用セパレータとしての性能を損なわない程度において、フィラー、粒子、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤等に代表される樹脂添加剤、接着剤および無機物からなる補強剤が含まれても良い。
【0018】
本発明に用いられるポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開平7−307146号公報または特開平4−181651号公報、特開平3−80923号公報、特開平7−268118号公報、特開平8−138643号公報等に記載の方法を参照して製造することができる。
【0019】
例えば、ポリオレフィン微多孔フィルムを乾式延伸法により製造する場合は、ポリマーに、必要により核剤を添加して溶融し、押出法等によりシート化し、結晶化のための熱処理を施した後、延伸により結晶界面を剥離して開孔させることができる。
【0020】
また、後述するように、ポリオレフィン微多孔フィルムの少なくとも片面には、無機物を含む多孔層を形成するため、耐熱性微粒子を含有する塗工液が塗布されるが、塗工液を塗布する前にポリオレフィン微多孔フィルムの紫外線処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理などの表面処理を行うことにより、塗工液に対する濡れ性を調節することができる。これらの表面処理は、均質な塗工を行う観点からはポリオレフィン微多孔フィルムの表面にのみ行われることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルムの内部にまで処理の効果がおよぶと、塗工液が膜内部に浸透して裏面に抜けていく「裏抜け」が発生しやすくなるおそれがある。
【0021】
<無機物を含む多孔層>
本発明の無機物を含む多孔層は、耐熱性微粒子を含有することで、その耐熱性を確保している。なお、本明細書において「耐熱性」とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味する。耐熱性微粒子の有する耐熱性は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。また、無機物を含む多孔層は単層であっても複数の耐熱層が積層された多層であってもよい。
【0022】
耐熱性微粒子としては、電気絶縁性を有する無機微粒子であることが好ましく、具体的には、酸化鉄、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、TiO
2、マグネシア、ベーマイト、BaTiO
2などの無機酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;モンモリロナイトなどの粘土微粒子;などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物微粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などの微粒子であってもよい。また、これらの無機微粒子を構成する無機化合物は、必要に応じて、元素置換されていたり、固溶体化されていたりしてもよく、更に前記の無機微粒子は表面処理が施されていてもよい。また、無機微粒子は、金属、SnO
2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。
【0023】
耐熱性微粒子には、有機微粒子を用いることもできる。有機微粒子の具体例としては、ポリイミド、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)、架橋ポリスチレン(架橋PS)、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの架橋高分子の微粒子;熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子の微粒子;が挙げられる。これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0024】
耐熱性微粒子は、前記例示のものを1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
耐熱性微粒子は上記のとおり無機微粒子および有機微粒子を用いることができるが、用途に応じて適宜使い分けるとよい。例えばベーマイトの粒径は、平均粒径で、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは3μm以下である。なお、耐熱性微粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、耐熱性微粒子を溶解しない媒体に分散させて測定した数平均粒子径として規定することができる。
耐熱性微粒子の形状としては、例えば、球状に近い形状であってもよく、板状であってもよいが、短絡防止の点からは、板状の粒子であることが好ましい。板状に形成された耐熱性微粒子の代表的な例としては、板状のアルミナや板状のベーマイトなどが挙げられる。
【0026】
無機物を含む多孔層は耐熱性微粒子を主成分として含むが、本明細書において「主成分として含む」とは、耐熱性微粒子を、無機物を含む多孔層の構成成分の全体積中、70体積%以上含むことを意味する。無機物を含む多孔層における耐熱性微粒子の量は、耐熱層の構成成分の全体積中、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。無機物を含む多孔層中の耐熱性微粒子を前記のように高含有量とすることで、多層多孔質膜全体の熱収縮を良好に抑制することができる。
【0027】
また、無機物を含む多孔層には、主成分として含む耐熱性微粒子同士を結着したり無機物を含む多孔層とポリオレフィン微多孔フィルムとを結着したりするために有機バインダを含有させることが好ましく、このような観点から、無機物を含む多孔層における耐熱性微粒子量の好適上限値は、例えば、無機物を含む多孔層の構成成分の全体積中、99体積%である。なお、無機物を含む多孔層における耐熱性微粒子の量が少なすぎると、例えば、無機物を含む多孔層中の有機バインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には無機物を含む多孔層の空孔が有機バインダによって埋められてしまい、例えばセパレータとしての機能を喪失するおそれがあり、また、開孔剤などを用いて多孔質化した場合には、耐熱性微粒子同士の間隔が大きくなりすぎて、熱収縮を抑制する効果が低下するおそれがある。
【0028】
無機物を含む多孔層に用いる有機バインダとしては、耐熱性微粒子同士や無機物を含む多孔層とポリオレフィン微多孔フィルムとを良好に接着でき、電気化学的に安定で、二次電池用セパレータに使用する場合には、有機電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。これらの有機バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記例示の有機バインダの中でも、150℃以上の耐熱性を有する耐熱樹脂が好ましく、特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、フッ素系ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)などの柔軟性の高い材料がより好ましい。また、アクリル酸ブチルを主成分とし、これを架橋した構造を有する低ガラス転移温度の架橋アクリル樹脂(自己架橋型アクリル樹脂)も好ましい。
【0030】
なお、これら有機バインダを使用する場合には、無機物を含む多孔層を形成する塗工液(スラリーなど)の媒体(溶媒)に溶解させるか、または塗工液中に分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
【0031】
無機物を含む多孔層を形成する塗工液は、耐熱性微粒子や、必要に応じて有機バインダなどを含み、これらを水や有機溶剤などの媒体に分散(有機バインダは媒体に溶解していてもよい)させたスラリーなどである。
【0032】
塗工液の媒体として用いる有機溶剤としては、ポリオレフィン微多孔フィルムを溶解したり膨潤させたりするなどしてポリオレフィン微多孔フィルムにダメージを与えないものであり、また、有機バインダを使用する場合にあっては有機バインダを均一に溶解可能であるものであれば特に制限は無いが、テトラヒドロフラン(THF)などのフラン類;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類;などが好適である。なお、高沸点の有機溶剤は、無機物を含む多孔層形成用の組成物をポリオレフィン微多孔フィルムに塗布した後に乾燥などによって有機溶剤を除去する際に、ポリオレフィン微多孔フィルムに熱溶融などのダメージを与える虞があるので好ましくない。また、これらの有機溶剤に多価アルコール(エチレングリコール、トリエチレングリコールなど)や界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチルアルキルフェニルエーテルなど)などを適宜加えてもよい。
【0033】
また、塗工液の媒体には、水を用いることもでき、その場合にもアルコール(エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が6以下のアルコールなど)や界面活性剤(例えば、前記の有機溶剤を媒体とする無機物を含む多孔層形成用組成物に用い得るものとして例示したもの)を加えてもよい。
【0034】
本発明の蓄電デバイス用セパレータにおいて、無機物を含む多孔層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.5μm〜50μmであり、より好ましくは1μm〜10μmである。無機物を含む多孔層が薄すぎるとメルトダウン防止効果が不十分となり、厚すぎるとセパレータをロール形状にする際や電池に組み込む工程で耐熱層にひびが入るなどの欠陥が生じる危険性が高まるので好ましくない。また、電解液の注液量が増加し電池製造コストの増加の一因となること、電池の体積辺りおよび重量当たりのエネルギー密度が低下することからも、無機物を含む多孔層が厚すぎることは好ましくない。
【0035】
また、無機物を含む多孔層の膜厚の標準偏差は、好ましくは1.4μm以下であり、より好ましくは1.2μm以下であり、さらに好ましくは1.00μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下である。
【0036】
<積層多孔質フィルムの製造方法>
本発明の積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)の製造方法は、上記ポリオレフィン微多孔フィルムを提供する工程と、該ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に上記耐熱性微粒子を主成分として含む塗工液を塗布する工程と、塗布された塗工液を乾燥して無機物を含む多孔層を形成させる工程とを含む。
【0037】
ポリオレフィン微多孔フィルム上に塗工液を塗布する方法としては、通常、慣用の流延または塗布方法、例えば、ロールコーター、エヤナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、シルクスクリーンコーター、ダイコーター、マイクログラビアコーター法などの従来公知の塗工装置を用いる方法が挙げられる。後述する無機物を含む多孔層の溝は、上記塗布方法により塗工液を塗布する際に、所望のパターンとなるように塗布することで形成することもできる。
【0038】
ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に塗布された塗工液を乾燥して塗工液中の媒体を除去することにより、無機物を含む多孔層が形成される。
【0039】
本発明の積層多孔質フィルムの膜厚(ポリオレフィン微多孔フィルムの膜厚と無機物を含む多孔層の膜厚との合計)は、特に限定されないが、4〜300μm、好ましくは9〜100μm、更に好ましくは16〜50μmである。膜厚が薄すぎると、メルトダウン防止効果が不十分となる上にLiデンドライトによる短絡抑止効果も不十分となるので好ましくない。膜厚が厚すぎると電池セパレータとして使用したとき電解液の注液量が増加し電池製造コストの増加の一因となること、電池の体積辺りおよび重量当たりのエネルギー密度が低下することから、好ましくない。
【0040】
また、ポリオレフィン微多孔フィルムの平均膜厚をa(μm)、無機物を含む多孔層の平均膜厚をb(μm)としたとき、膜厚比a/bの値が、1以上20以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、3以上10以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の積層多孔質フィルムのガーレー値(透気度)は、特に限定されないが、10〜1000秒/100cc、好ましくは10〜800秒/100cc、更に好ましくは30〜600秒/100ccである。ガーレー値が高すぎると蓄電デバイス用セパレータとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低すぎると電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。
【0042】
また、本発明において、積層多孔質フィルムのガーレー値の標準偏差は、12秒/100cc以下であることが好ましく、10秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0043】
本発明の積層多孔質フィルムにおいて、蓄電デバイス用セパレータとしての機能を確保するため、熱閉塞温度は、110℃〜180℃であることが好ましい。
【0044】
<無機物含有多孔層を設けた積層多孔質フィルム(セパレータ)の熱延伸処理>
本発明の積層多孔質フィルムの製造方法は、更に熱延伸処理工程を含むことが好ましい。無機物を含む多孔層を有する積層多孔質フィルムを幅が長方形に切り出し、加熱条件で一定の速度で一定の荷重がかかるまで延伸した後、その荷重にて加熱しながら保持し、熱延伸処理を行う。
前記積層多孔質フィルムのサイズが、例えば、30〜120mmになるような長方形であることが好ましく、40〜80mmの方がより好ましい。加熱温度が80〜150℃の範囲であることが好ましく、90〜120℃であることがより好ましい。延伸速度が20〜100mm/分であることが好ましく、40〜80mm/分であることがより好ましい。荷重は幅辺りの荷重が0.01〜2.0N/mmになるように選択することが好ましく、0.1〜1.0N/mmの方がより好ましく、0.25〜1.0N/mmがもっとも好ましい。延伸した後の保持時間は、10秒以上30分以下、好ましく30秒以上10分以下である。
【0045】
<無機物を含む多孔層の溝の形成>
図1に示すように、本発明の積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、無機物を含む多孔層に一方の側端から他方の側端に向かって連続的に入り組みながら伸びた一条の溝を機械方向に複数形成させることを特徴とする。
【0046】
上記溝は、少なくともその一端が前記多孔層の一方の側端まで延びていることが好ましい。溝が多孔層の側端まで延びていない場合には、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に上記耐熱性微粒子を主成分として含む塗工液を塗布する工程によって、無機物を含む多孔層に残留した応力を十分には緩和できず、セパレータの反り(カール)を解消できないことがある。
また、
図2に示すように、無機物を含む多孔層上の、機械方向における隣り合った溝10、12、14の間隔は、セパレータの反り(カール)の解消と電池性能の両立を鑑みて適宜設定可能あるが、10μm〜40μmであることが好ましい。例えば、溝10と12の間隔d1が10μmより狭い場合には、塗布する無機粒子の大きさとの関係から、パターン形成が難しい場合や塗布した粒子が脱落する恐れがある。一方、溝12と14の間隔d2が40μmより広い場合には、無機物を含む多孔層に残留した応力を十分には緩和できず、セパレータの反り(カール)を解消できないことがある。以上の理由から、機械方向における隣り合った溝の間隔が10μm〜40μmであるのは好ましい。
【0047】
さらに、無機物を含む多孔層の溝は厚み方向に1〜6μmの深さを有することが好ましい。無機物を含む多孔層の溝の深さが1μmに満たない場合には、無機物を含む多孔層の平面応力状態が維持できなくなり厚み方向の応力が発生しカールを誘発するので好ましくない。一方、無機物を含む多孔層の溝の深さが6μmより大きい場合には、無機物を含む多孔層の力学特性が悪化するので好ましくない。
【0048】
また、無機物を含む多孔層の溝の幅は0.5〜6μm以下であることが好ましい。例えば、溝10、12、14の溝幅が0.5μm以下の場合では、非水電解液の粘度にもよるが、非水電解液の粘度に対して溝幅が小さすぎ、このために非水電解液の充填不良が発生する可能性がある。一方、溝幅が3μm以上の場合では、例えばリチウムデンドライト成長をブロックできないことが予想され、このため内部短絡が発生する危険性がある。
【0049】
また、上記溝は連続的に屈曲しており、前記屈曲点に基づいて算出された前記溝の延伸方向と前記機械方向とのなす角度が70°〜110°であることを好ましい。「前記屈曲点に基づいて算出された前記溝の延伸方向」とは、隣接する屈曲点を結んだ直線の平均の方向をいう。この延伸方向は、例えば、複数の屈曲点に基づいて算出された仮想線の方向から求めることができる。仮想線は、例えば、表面のSEM画像に基づいて複数の屈曲点を割り出し、これら複数の屈曲点からの距離の合計が最少となる直線として算出することができる。この仮想線の方向と機械方向とのなす角度が70°〜110°であることにより、例えば、幅方向への電解液の浸透速度を高めることができる。また、隣り合った溝との間隔を、10〜40μmとすることで、機械方向への電解液の浸透速度も高めることができる。
特に、電解液の粘度が低い場合は浸透速度の差は比較的問題にならないが、スルホランを含有した電解液など粘度が高い場合は浸透速度が問題になることがある。これに対し本発明のセパレータでは、溝の延伸方向と前記機械方向とのなす角度が70°〜110°とし、隣り合った溝との間隔を10〜40μmとすることで、比較的粘度の高い電解液でもより高速に浸透させることができる。
【0050】
上記溝は、塗布方法により塗工液を塗布する際に、所望のパターンとなるように塗布することで形成しても良いし、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機物を含む多孔層を形成した後、適当な処理を施すことにより形成しても良い。
後処理によって上記溝を形成する手段としては、所定の温度にてポリオレフィン微多孔フィルム上に無機物を含む多孔層を形成した膜の機械方向に一定の張力を付与する方法が選択できる。膜の機械方向に張力を付与することにより、無機物を含む多孔層に機械方向に周期的又は非周期的なひび割れ(溝)を形成することで効率的に上記溝を形成することが出来る。
【0051】
この際のフィルム張力は、膜への皺発生を抑制する点から、フィルム幅1mmあたりに0.1Nを越え、0.2N以上が好ましく、0.25N以上がより好ましい。また、効率的に無機物を含む多孔層に上記した溝を作製するため、処理温度に関しては、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0052】
後処理によって上記溝を形成する場合、上記積層多孔質フィルム(セパレータ)の熱延伸処理工程と独立した溝形成工程を設けてもよく、熱延伸処理工程において同時に上記溝を形成することが好ましい。
【0053】
<非水電解液>
非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステルが好適に挙げられる。広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0054】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、ECとVCの組み合わせ、PCとVCの組み合わせが特に好ましい。
【0055】
また、非水溶媒がエチレンカーボネートおよび/又はプロピレンカーボネートを含むと電極上に形成される被膜の安定性が増し、高温、高電圧サイクル特性が向上するので好ましく、エチレンカーボネートおよび/又はプロピレンカーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0056】
鎖状エステルとしては、非対称鎖状カーボネートとして、メチルエチルカーボネート(MEC)、対称鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、鎖状カルボン酸エステルとして酢酸エチル(以下、EA)が挙げられる。
【0057】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、広い温度範囲、特に高温での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0058】
<電解質塩>
非水電解液に含まれる電解質塩としては、リチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiN(SO
2F)
2、LiN(SO
2CF
3)
2からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、LiPF
6、LiBF
4およびLiN(SO
2F)
2から選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、LiPF
6を用いることが最も好ましい。
【0059】
<非水電解液の製造>
非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩および該非水電解液に対して溶解助剤などを特定の混合比率で混合させた組成物を添加する方法により得ることができる。この際、用いる非水溶媒および非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0060】
本発明のポリオレフィン微多孔フィルムは、下記の第1、第2の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用するリチウムイオン電池(第1の蓄電デバイス)用やリチウムイオンキャパシタ(第2の蓄電デバイス)用のセパレータとして用いることが好ましく、リチウムイオン電池用に用いることがより好ましく、リチウムイオン二次電池用に用いることが更に好ましい。
【0061】
<リチウムイオン二次電池>
本発明の蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液を有する。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、およびニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO
2、LiCo
1−xMxO
2(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、およびCuから選ばれる1種又は2種以上の元素、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiCo
1−xNi
xO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.8Mn
0.1Co
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、Li
2MnO
3とLiMO
2(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体、およびLiNi
1/2Mn
3/2O
4から選ばれる1種以上が好適に挙げられる。
【0062】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラックなどから選ばれる1種又は2種以上のカーボンブラック等が挙げられる。
【0063】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の結着剤と混合し、これに溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
【0064】
リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、およびリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物等から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
負極活物質として、黒鉛とケイ素、または黒鉛とケイ素化合物を組み合わせて用いる場合、全負極活物質中のケイ素およびケイ素化合物の含有量が1〜45質量%である場合、本発明に係るリチウムイオン二次電池の電気化学特性の低下や電極厚みの増加を抑制しつつ高容量化できるので好ましい。
【0066】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
【0067】
<リチウムイオン二次電池>
本発明の蓄電デバイスの1つとして、リチウムイオン二次電池の構造に特に限定はなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、又はラミネート型電池等を適用できる。
【0068】
巻回型のリチウムイオン二次電池は、例えば、電極体が非水電解液と共に電池ケースに収容された構成を有する。電極体は、正極と負極とセパレータとによって構成されている。非水電解液の少なくとも一部は、電極体に含浸されている。
【0069】
巻回型のリチウムイオン二次電池では、正極として、長尺シート状の正極集電体と、正極活物質を含み且つ正極集電体上に設けられた正極合材層とを含む。負極として、長尺シート状の負極集電体と、負極活物質を含み且つ負極集電体上に設けられた負極合材層とを含む。
本発明のセパレータは、本発明の積層多孔質フィルムを用いて、正極および負極と同様に、長尺シート状に形成されている。正極および負極は、それらの間にセパレータを介在させ筒状に巻回される。巻回後の電極体の形状は円筒状に限られない。例えば、正極とセパレータと負極とを巻回した後、側方から圧力を加えることにより、偏平形状に形成してもよい。
【0070】
電池ケースは、有底円筒状のケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐ蓋とを備える。蓋およびケース本体は例えば金属製であり互いに絶縁されている。蓋は正極集電体に電気的に接続され、ケース本体は負極集電体に電気的に接続されている。なお、蓋が正極端子、ケース本体が負極端子をそれぞれ兼ねるようにしてもよい。
【0071】
リチウムイオン二次電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。また、巻回型リチウムイオン二次電池の内圧上昇の対策として、電池の蓋に安全弁を設ける、電池のケース本体やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を蓋に設けることもできる。
【0072】
<巻回型リチウムイオン二次電池の製造>
一例として、リチウムイオン二次電池の製造手順について以下に説明する。
まず、正極、負極、および本発明のセパレータをそれぞれ作製する。次に、それらを重ね合わせて円筒状に巻回することにより、電極体を組み立てる。次いで電極体をケース本体に挿入し、ケース本体内に非水電解液を注入する。これにより、電極体に非水電解液が含浸する。ケース本体内に非水電解液を注入した後、ケース本体に蓋を被せ、蓋およびケース本体を密封する。なお、巻回後の電極体の形状は円筒状に限られない。例えば、正極とセパレータと負極とを巻回した後、側方から圧力を加えることにより、偏平形状に形成してもよい。
【0073】
上記のリチウムイオン二次電池は、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載され、車両を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等があげられる。かかるリチウムイオン二次電池は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数の電池を接続して使用してもよい。
【0074】
<ラミネート型電池>
なお、上記では巻回型リチウムイオン二次電池について記載したが、本発明はこれに限らず、ラミネート型リチウムイオン二次電池に適用してもよい。
例えば、正極または負極の電極を一対の本発明のセパレータによってサンドイッチして包装する。例えば、正極を袋詰電極にし、セパレータは、電極よりもやや大きいサイズを有する方形状に成形する。電極の本体を一対のセパレータで挟み込みつつ、電極端部から突出したタブがセパレータの端からはみ出すように重ね合わせる。重ねられた一対のセパレータの側縁同士を接合して袋詰めにし、このセパレータで袋詰めされた一方の電極と他方の電極とを交互に積層し電解液を含浸させることでラミネート型電池を作製することができる。このとき、厚みを薄型化するために、これらセパレータおよび電極を厚み方向に圧縮してもよい。
方形状に形成されたセパレータの四隅は平面状に形成されていることが好ましい。例えば、セパレータの四隅のうちの1角が反り返っていた(カールした)場合、このカールを平面状に戻さなければならず、このために電池製造の歩留りが悪くなってしまう。さらに、反り返りの程度が著しく大きな場合にはセパレータが折れ曲がった状態でラミネート型電池が形成されてしまい、内部短絡の危険性が生じてしまう。
上記の観点から、本発明のセパレータは平面状であることが好ましい。本発明のセパレータでは、幅方向(機械方向と直交する方向)に延在した溝を機械方向に所定の間隔を隔てて形成することによってセパレータの反り(カール)を低減もしくは解消している。
【0075】
<リチウムイオンキャパシタ>
本発明の他の蓄電デバイスとしてリチウムイオンキャパシタがあげられ、本発明の積層多孔質フィルム(セパレータ)、非水電解液、正極、負極を有し、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵することができる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF
6等のリチウム塩が含まれる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
下記実施例および比較例におけるポリオレフィン微多孔フィルムおよび蓄電デバイス用セパレータについての各測定方法は以下のとおりである。
【0078】
〈1〉膜厚
接触式厚み計(ピーコック製)により測定した。
【0079】
〈2〉ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締め付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し透気度(ガーレー値)とした。
【0080】
〈3〉積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)のカール高さ(浮き上がり量)の測定方法
実施例および比較例に記載した積層多孔質フィルム(セパレータ)から、延伸方向(機械方向)に60mm、この延伸方向と略直角をなす幅方向(機械方法と直交する方向)に60mmのサイズでセパレータを切り取った。切り取ったセパレータを平面上に載置し、無機物を含む多孔層を上面にした場合と下面にした2つの場合について、それぞれの機械方向、機械方向と直交する方向の平面からの反り上がりの高さを測定し、全ての合計をカール高さとした。
上記の測定を、温度23℃で露点−40℃環境下で行った。
【0081】
〈4〉積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)の電解液吸液性評価方法
実施例および比較例に記載した積層多孔質フィルム(セパレータ)をガラス基板上に静置し、電解液(1.2MのLiPF6を含むエチルカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)/ジメチルカーボネート(DMC)=40/30/30、重量%の溶液)10μlを1cmの高さから滴下し、1分後にセパレータに生じた染みの面積の大きさ(cm
2)を電解液吸液面積として測定することによって電解液吸液性を評価した。
【0082】
〈5〉積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)の溝の評価方法
実施例および比較例に記載した積層多孔質フィルム(セパレータ)の電子顕微鏡(SEM)写真より、積層多孔質フィルム表面に形成された溝の溝間隔、溝幅を測定する。積層多孔質フィルムの断面写真より、溝深さを測定する。
【0083】
〈6〉リチウム二次電池の作製および電池特性の測定方法
LiCoO
2 (正極活物質)を70重量%、アセチレンブラック(導電剤)を20重量%、ポリテトラフルオロエチレン(結着剤)を10重量%の割合で混合し、これを圧縮成型して正極を調製した。天然黒鉛(負極活物質)を95重量%、エチレンプロピレンジエンモノマー(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これを圧縮成型して負極を調製した。そして、実施例および比較例に記載した積層多孔質フィルム(セパレータ)を用い、電解液(1.2MのLiPF
6を含むエチルカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)/ジメチルカーボネート(DMC)=40/30/30、重量%の溶液)を含浸させてCR2032コイン電池を作製した。このコイン電池を用いて、室温(25℃)において、0.2、1、3Cの速度となるような定電流で終止電圧4.2Vまで充電した後、終止電圧3.0Vまで放電した。このようにして充放電を実施した際の活物質の重量あたりの放電容量を評価することにより、電池特性を評価した。
【0084】
<実施例1>
(PP/PE/PPの三層構造を有するポリオレフィン微多孔フィルムAの製造)
数平均分子量70000のポリプロピレンをTダイ成形装置を使用して膜厚7μmのフィルム状に溶融押出しした後、引取り方向を固定した状態で、135℃で60秒間の熱処理を行った。また、ポリエチレンとして、数平均分子量20000、密度0.964の高密度ポリエチレンをTダイ成型機を使用して膜厚5μmのフィルム状に溶融押出しした。ポリエチレンフィルムは、引取り方向を固定された状態で、120℃で60秒間の熱処理をした後、室温まで冷却した。
熱処理したポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルムを、ポリプロピレンを表面層に、ポリエチレンを内層(中間層)に配して三層構成に積層し、加熱ロールにより温度120℃、線圧1.8kg/cmで熱圧着し、その後50℃の冷却ロールにより冷却した。得られた未延伸積層フィルムの膜厚は20μmであった。
未延伸積層フィルムは、30℃で25%低温延伸した後に、引続き123℃に加熱した熱風循環オーブン中で総延伸量180%になるまでフィルム長さ方向に高温延伸した後、123℃で30%緩和した状態で70秒間熱固定を行い、PP/PE/PPの3層積層多孔質フィルムAを得た。得られたポリオレフィン微多孔フィルムAの膜厚は16μmであった。
【0085】
(積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)の製造)
ベーマイト(化学組成AlOOH、平均粒子径2μm、比表面積10.7m2/g)、PVB(ポリビニルブチラール)を水とイソプロピルアルコール(IPA)を溶媒として、各々の重量比が95:5:90:60になるように調整してアルミナ製の遊星ボールミル用ポットに投入した。遊星ボールミルで10分間攪拌混合を行い塗工液を得た。ガラス基板に固定したポリオレフィン微多孔フィルムAにコーターナイフで一定の膜厚で塗工液を塗布し、50℃で真空乾燥を行い、無機物を含む多孔層を形成した積層多孔質フィルム1(蓄電デバイス用セパレータ1)を得た。
得られた積層多孔質フィルム1(蓄電デバイス用セパレータ1)の膜厚は20μmであった。
【0086】
(無機物含有多孔層を設けた積層多孔質フィルム(セパレータ)の熱延伸処理と溝形成)
上記作製した無機物を含む多孔層を形成した積層多孔質フィルム1を幅が60mmになるような長方形に切り出し、INSTRON社製の万能試験機5582を用いて、100℃の温度条件で50mm/分の速度で一定の荷重(15N)がかかるまで延伸した後、その荷重にて3分間保持した。
【0087】
(カール高さの測定)
上記作製した積層多孔質フィルムに対して熱延伸処理を実施した、無機物を含む多孔層を形成した積層多孔質フィルムのカール高さを前述したカール高さの測定方法に基づいて評価した。得られた結果を表1に纏めて示した。熱延伸処理によって無機物を含む多孔層を形成した蓄電デバイス用セパレータのカールが軽減されていることを確認した。
【0088】
(電解液吸液性評価)
本実施例1の積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)の電解液吸液性を前述した電解液吸液性評価方法に基づいて評価した。吸液面積は2.1cm
2であった。得られた結果を表1に纏めて示した。
【0089】
(透気度ガーレー値の評価)
実施例3の方法にて作製した熱延伸処理を実施した、無機物を含む多孔層を形成した蓄電デバイス用セパレータのガーレー値を前述した評価方法に基づいて評価した。得られた結果を表1に示した。
【0090】
<実施例2>
上記熱延伸処理の荷重が40Nである以外は、実施例1と同じ方法で、積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)を作成した。
作製した積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)のガーレー値、カール高さ、電解液吸液性評価、溝間隔、溝幅、溝角度を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
<比較例1>
(熱延伸処理未実施 カール測定)
上記熱延伸処理工程がない以外は、実施例1と同じ方法で、積層多孔質フィルム1(蓄電デバイス用セパレータ1)を作成した。
熱延伸処理を実施していない、無機物を含む多孔層を形成した積層多孔質フィルム1(蓄電デバイス用セパレータ1)のガーレー値、カール高さ、電解液吸液性評価、溝間隔、溝幅、溝角度を測定した。カール量は12mmであった。吸液面積は1.5cm
2であった。ガーレー値は278秒/100ccであった。結果を表1に示す。
実施例1〜3と比較例1で示した結果との比較から、熱延伸処理によって無機物を含む多孔層を形成した蓄電デバイス用セパレータのカールが軽減されていることを確認した。また、熱延伸処理によって無機物を含む多孔層を形成した蓄電デバイス用セパレータの電解液吸液性が向上していることを確認した。また、熱延伸処理によって無機物を含む多孔層を形成した蓄電デバイス用セパレータの透気度が向上していることを確認した。
【0092】
<実施例3>
(熱延伸処理実施 電池の充放電性能評価)
実施例2の方法にて作製した積層多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)のコイン電池による充放電性能を前述したリチウム二次電池の作製および電池特性の測定方法に基づいて評価した。得られた結果を表2に示した。なお、0.2Cの速度にて充放電を実施した際の活物質の重量あたりの放電容量を100として、相対値で記載した。
【0093】
<比較例2>
(熱延伸処理未実施 電池の充放電性能評価)
比較例1の方法にて作製した、積層多孔質フィルム1(蓄電デバイス用セパレータ1)のコイン電池による充放電性能を前述したリチウム二次電池の作製および電池特性の測定方法に基づいて評価した。得られた結果を表2に示した。なお、値は、実施例3の条件で0.2Cの速度にて充放電を実施した際の活物質の重量あたりの放電容量を100として、相対値で記載した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【解決手段】ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機物を含む多孔層を層設した積層多孔質フィルムにおいて、前記多孔層に、一方の側端から他方の側端に向かって連続的に入り組みながら伸びた一条の溝を機械方向に複数形成されている。機械方向における隣り合った溝10、12、14の間隔は、セパレータの反り(カール)の解消と電池性能の両立を鑑みて適宜設定可能あるが、10〜40μmであることが好ましい。無機物を含む多孔層の溝の幅は0.5〜6μm以下であることが好ましい。例えば、溝10、12、14の溝幅が0.5μm以下の場合では、非水電解液の粘度にもよるが、非水電解液の粘度に対して溝幅が小さすぎる。