(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料電池スタックにカソードガスを供給するコンプレッサと、前記燃料電池スタックのカソードガスの圧力を調整する調圧弁と、を備え、アノードガスとカソードガスとを供給するとともに、負荷に応じた両ガスの電気化学反応により発電する燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池スタックに対する発電要求に基づいて目標カソード圧力を設定する圧力設定ステップと、
前記目標カソード圧力に基づいて前記コンプレッサの操作量と調圧弁開度とを制御する制御ステップと、
前記コンプレッサの実回転数を検出する検出ステップと、
コンプレッサ入口温度と、コンプレッサトルクとの2つのパラメータに基づいて、前記コンプレッサの操作量及び/又は調圧弁開度を制限する制限ステップと、を備え、
前記制限ステップでは、前記2つのパラメータに基づいて前記コンプレッサの制限回転数を設定するとともに、前記制限回転数と実回転数とに基づいて制限圧力を算出し、当該制限圧力に基づいて前記コンプレッサの操作量及び/又は調圧弁開度を制限する、
燃料電池システムの制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システムの基本的な構成を示す図である。
【0011】
最初に
図1を参照して、本実施形態における燃料電池システムの基本的な構成について説明する。
【0012】
燃料電池スタック10は、電解質膜が適度な湿潤状態に維持されつつ反応ガス(カソードガス、アノードガス)が供給されて発電する。このようにするために、燃料電池スタック10には、カソードライン20と、アノードライン30と、が接続される。
【0013】
カソードライン20には、燃料電池スタック10に供給されるカソードガスが流れる。カソードライン20には、コンプレッサ21と、インタークーラ22と、WRD(Water Recovery Device)23と、調圧弁24と、が設けられる。またカソードライン20には、ブリードライン200が並設される。ブリードライン200は、コンプレッサ21よりも下流であってインタークーラ22よりも上流から分岐して、調圧弁24よりも下流に合流する。このような構成になっているので、コンプレッサ21で送風された空気の一部がブリードライン200に流れて、燃料電池スタック10を迂回する。ブリードライン200には、ブリード弁210が設けられる。
【0014】
コンプレッサ21は、本実施形態では、たとえば遠心式のターボコンプレッサである。コンプレッサ21は、インタークーラ22よりも上流のカソードライン20に配置される。コンプレッサ21は、モーターによって駆動される。コンプレッサ21は、カソードライン20を流れるカソードガスの流量を調整する。カソードガスの流量は、コンプレッサ21の回転速度及びトルクによって調整される。
【0015】
インタークーラ22は、コンプレッサ21よりも下流であってWRD23よりも上流に設けられる。インタークーラ22は、コンプレッサ21から吐出されて燃料電池スタック10に導入される空気を冷却する。
【0016】
WRD23は、燃料電池スタック10に導入される空気を加湿する。WRD23は、加湿対象となるガスが流れる被加湿部と、加湿源となる水含有ガスが流れる加湿部と、を含む。被加湿部には、コンプレッサ21によって導入された空気が流れる。加湿部には、燃料電池スタック10を通流して水を含有しているガスが流れる。
【0017】
調圧弁24は、燃料電池スタック10よりも下流のカソードライン20に設けられる。調圧弁24は、カソードライン20を流れるカソードガスの圧力を調整する。カソードガスの圧力は、調圧弁24の開度によって調整される。
【0018】
コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの温度は、カソード温度センサ201で検出される。このカソード温度センサ201は、コンプレッサ21よりも上流に設けられる。
【0019】
コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの流量は、カソード流量センサ202で検出される。このカソード流量センサ202は、コンプレッサ21よりも上流に設けられる。カソード流量センサ202で検出された値は、燃料電池システムのコントローラに入力され、例えばコントローラは、カソード流量センサ202の検出値が、コンプレッサ21から吐出する流量の目標値となるようにコンプレッサ21を制御する。
【0020】
WRD23の入口のカソードガスの温度は、カソード温度センサ203で検出される。このカソード温度センサ203は、インタークーラ22よりも下流であってWRD23よりも上流に設けられる。WRD23の入口のカソードガスの圧力(WRD入口圧力)は、カソード圧力センサ204で検出される。このカソード圧力センサ204は、インタークーラ22よりも下流であってWRD23よりも上流に設けられる。
【0021】
なお本実施形態では、WRD23があるので、センサ203,204の検出値は、厳密には燃料電池スタックの直前の値とは、異なる。しかしながら、WRD23による圧力損失などは、既知であるので、これらの検出信号から、燃料電池スタックに供給するカソードガスの圧力などがわかる。すなわち請求項のカソード圧力,カソード流量は、WRD入口圧力,WRD入口流量と同義であると考えてよい。
【0022】
WRD23の入口のカソードガスの流量(WRD入口流量)は、スタック流量センサ205で検出される。このスタック流量センサ205は、インタークーラ22よりも下流であってWRD23よりも上流に設けられる。なお燃料電池スタック10に流れるカソードガスの流量は、このスタック流量センサ205で検出される流量と同じである。スタック流量センサ205で検出された値は、コントローラに入力され。コントローラは、例えば、水素希釈要求によってコンプレッサ21に要求される供給流量が、燃料電池スタック10の発電に必要とされるスタック要求流量よりも大きい場合には、スタック流量センサ205の検出値がスタック要求流量となるようにブリード弁210の開度を制御する。
【0023】
ブリード弁210は、ブリードライン200に設けられる。ブリード弁210は、ブリードライン200に逃がすカソードガスの流量を調整することで、燃料電池スタック10に流すカソードガスの流量を調整する。
【0024】
アノードライン30には、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスが流れる。アノードライン30には、ボンベ31と、アノード調圧弁32と、パージ弁33と、が設けられる。パージ弁33よりも下流のアノードライン30が、調圧弁24よりも下流のカソードライン20に合流する。
【0025】
ボンベ31には、アノードガス(水素H2)が高圧状態で貯蔵されている。ボンベ31は、アノードライン30の最上流に設けられる。
【0026】
アノード調圧弁32は、ボンベ31の下流に設けられる。アノード調圧弁32は、ボンベ31から新たにアノードライン30に供給するアノードガスの圧力を調整する。アノードガスの圧力は、アノード調圧弁32の開度によって調整される。
【0027】
パージ弁33は、燃料電池スタック10の下流に設けられる。パージ弁33が開くと、アノードガスがパージされる。
【0028】
図2A及び
図2Bは、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【0029】
燃料電池スタック10は、反応ガス(水素H2及び空気中の酸素O2)が供給されて発電する。燃料電池スタック10は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。そのうちの1枚のMEAが
図2Aに示される。ここではMEAにカソードガスが供給されて(カソードイン)、対角側から排出されながら(カソードアウト)、アノードガスが供給されて(アノードイン)、対角側から排出される(アノードアウト)、という例が示されている。
【0030】
各膜電極接合体(MEA)は、アノード電極触媒層及びカソード電極触媒層において以下の反応が、負荷に応じて進行して発電する。
【0032】
図2Bに示すように、反応ガス(空気中の酸素O2)がカソード流路を流れるにつれて上式(1-2)の反応が進行し、水蒸気が生成される。するとカソード流路の下流側では相対湿度が高くなる。この結果、カソード側とアノード側との相対湿度差が大きくなる。この相対湿度差をドライビングフォースとして、水が逆拡散しアノード上流側が加湿される。この水分がさらにMEAからアノード流路に蒸発してアノード流路を流れる反応ガス(水素H2)を加湿する。そしてアノード下流側に運ばれてアノード下流のMEAを加湿する。
【0033】
ところで、コンプレッサ21から吐出されるカソードガスの温度が高すぎると、コンプレッサ下流部品の耐熱温度を超えてしまう場合がある。このような場合には、コンプレッサが吐出するカソードガスの温度を下げることが望まれる。温度を下げるには、コンプレッサが吐出するカソードガスの圧力を下げればよい。コンプレッサの吐出温度は、コンプレッサの出口に温度センサを設けたり、コンプレッサの入口圧力及び出口圧力を検出するセンサを設ければ、検出できる。
【0034】
しかしながら、無闇にセンサを増やしては、コストアップを招いてしまう。
【0035】
そこで本実施形態では、コンプレッサ下流の温度センサや、コンプレッサ上下流の圧力センサを用いるのではなく、異なる手法でコンプレッサの吐出圧力を制限する方策を提供する。
具体的な手法は、以下に説明される。
【0036】
図3は、本実施形態の制御内容を示す制御ブロック図である。
図3には、燃料電池システムのコントローラに備えられる機能を制御ブロックにより示している。
【0037】
目標WRD入口圧力演算ブロックB110は、酸素分圧を確保するために最低限要求される空気圧力を演算する。燃料電池スタックは、カソードガスとして、空気を供給する。空気中の酸素O2が上式(1-2)のように反応して、発電反応が生じる。燃料電池スタック10に対する目標発電電流(目標スタック電流)が大きいほど、大きな発電反応が必要となり、多くの反応ガス(水素H2及び空気中の酸素O2)が必要となる。空気中には、窒素N2なども含まれているので、発電反応に必要な酸素O2が確保できるように、このブロックB110では、酸素分圧を確保するために最低限要求される空気圧力を演算する。具体的には、ブロックB110は、大気圧及び目標スタック電流に基づいて、目標WRD入口圧力を演算する。
【0038】
WRD入口制限圧力演算ブロックB120は、コンプレッサが吐出する空気の温度が過温度状態にならないようにするために必要なWRD23の入口の圧力制限値を演算する。上述のように、コンプレッサが吐出する空気の温度が高いと、燃料電池の電解質膜が乾燥しやすい。そこで、コンプレッサが吐出する空気の温度を下げることが望まれる。吐出空気の温度を下げるには、コンプレッサが吐出する空気の圧力を下げればよい。そこで、このブロックB120で、圧力制限値を演算する。具体的には、ブロックB120は、コンプレッサ21の回転数,空気温度,トルク,大気圧に基づいて、圧力制限値を演算する。さらに詳細な内容は、後述される。
【0039】
ミニマムセレクトブロックB130は、目標WRD入口圧力演算ブロックB110から出力される目標WRD入口圧力と、WRD入口制限圧力演算ブロックB120から出力される圧力制限値と、を比較して、小さいほうを目標WRD入口圧力として出力する。すなわち、ブロックB110の目標WRD入口圧力が圧力制限値よりも大きければ、圧力制限値で制限する。
【0040】
目標スタック流量演算ブロックB210は、酸素分圧を確保するために最低限要求される空気流量を演算する。具体的には、ブロックB210は、目標スタック電流、燃料電池スタック10の入口及び出口の冷却水温度に基づいて、目標スタック流量を演算する。
【0041】
スタック制限流量演算ブロックB220は、WRD入口制限圧力演算ブロックB120から出力される制限圧力によって要求されるスタック供給空気流量の制限値を演算する。具体的には、ブロックB220は、制限圧力,大気圧,燃料電池スタックの入口及び出口の冷却水温度に基づいて、制限流量を演算する。さらに詳細な内容は、後述される。
【0042】
ミニマムセレクトブロックB230は、目標スタック流量演算ブロックB210から出力される目標スタック流量と、スタック制限流量演算ブロックB220から出力される流量制限値と、を比較して、小さいほうを目標スタック供給空気流量として出力する。すなわち、ブロックB210の目標スタック流量が流量制限値よりも大きければ、流量制限値で制限する。
【0043】
制御ブロックB300は、コンプレッサトルク演算ブロックB310と、調圧弁開度演算ブロックB320と、を含む。
【0044】
コンプレッサトルク演算ブロックB310は、目標WRD入口圧力と、WRD入口圧力センサ値と、スタック流量センサ値と、目標スタック流量と、に基づいて、コンプレッサ21に指令するトルクを演算する。コンプレッサ21は、この指令値に基づいて制御される。
【0045】
調圧弁開度演算ブロックB320は、目標WRD入口圧力と、WRD入口圧力センサ値と、スタック流量センサ値と、目標スタック流量と、に基づいて、調圧弁24に指令する開度を演算する。調圧弁24は、この指令値に基づいて制御される。
【0046】
図4は、WRD入口制限圧力演算ブロックB120の詳細な内容について説明する図である。
【0047】
補正値演算ブロックB121は、ROM定数を大気圧力で除算して、コンプレッサ21の制限回転数を補正するための補正値を求める。本実施形態ではコンプレッサ21の吐出温度を一定の温度、例えば200℃に制限するためにコンプレッサ21に生じるトルクに基づいて、コンプレッサ21の回転数を制限する。この制限回転数は、コンプレッサ21のトルクが一定であっても燃料電池システムが使用される環境、例えば大気圧の違いによって変わる。
【0048】
図5は、コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの吸気温度(入口温度)が一定の場合における大気圧とコンプレッサ21のトルク及び回転数との相関を説明するための図である。
図5には、互い異なる大気圧においてコンプレッサ21の吐出温度を同一の温度に制限したときのコンプレッサ21のトルクと回転数の相関関係が例示されている。
【0049】
図5に示すように、大気圧が一定であれば、コンプレッサ21のトルクが大きくなるほど、コンプレッサ21の回転数が大きくなる。このコンプレッサ21のトルクと回転数の相関関係は、大気圧が高くなるほど、コンプレッサ21のトルクが大きくなる方向(図中右方向)にシフトする。このようにコンプレッサ21のトルクが全体的に大きくなると、コンプレッサ21の吐出温度が上昇してしまうので、コンプレッサ21の回転数を低く制限する必要がある。
【0050】
このため、仮に一定のトルクでコンプレッサ21を駆動するような場合には、大気圧が高くなるほど、コンプレッサ21の回転数を低く制限しないと、コンプレッサ21の吐出温度が上限温度を超えてしまう。この要因としては、大気圧が高くなるほど、コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの密度が高くなることが原因であると推測される。
【0051】
この対策として補正値演算ブロックB121は、ROM定数を大気圧力で除算して補正値を求める。ROM定数は、コンプレッサ21の実トルクを補正する際の基準となる大気圧の値であり、本実施形態では101.3kPa(キロパスカル)に設定される。また大気圧力は、燃料電池システム又は車室内に設けられた大気圧センサにより検出される。
【0052】
補正値演算ブロック121は、大気圧が高いほど補正値を小さくし、大気圧が低いほど補正値を大きくする。そして補正値演算ブロック121は、補正値を補正トルク演算ブロックB122に出力する。
【0053】
補正トルク演算ブロックB122は、コンプレッサ21の実トルクに補正値を乗算して補正トルクを求める。なお、コンプレッサ21の実トルクは、例えばコンプレッサ21に設けられたトルクセンサによって検出される。
【0054】
補正トルク演算ブロックB122は、大気圧が高くなるほど、コンプレッサ21の制限回転数が小さくなるように補正トルクを小さくし、大気圧が低いほど、コンプレッサ21の制限回転数が大きくなるように補正トルクを大きくする。
【0055】
制限回転数演算ブロックB123は、吸気温度及び補正トルクに基づいてコンプレッサ21の制限回転数を求める。コンプレッサ21の制限回転数は、大気圧の違いだけでなく、コンプレッサ21に吸入される空気の吸気温度の違いによっても変化する。
【0056】
吸気温度,補正トルク,コンプレッサの回転数の間には、たとえば
図6の関係がある。これについて説明する。コンプレッサの吐出温度は、たとえば200℃にすることが望まれる。大気圧(101.3kPa)の環境下で、吸気温度ごとにコンプレッサのトルクと回転数との相関を取ると、
図6のようになる。
【0057】
図6に示すように、吸気温度が一定であれば、トルクが大きいほど回転数が大になる。またトルクが一定であれば、吸気温度が低いほど回転数が大になる。このような特性を利用して、制限回転数演算ブロックB123は、コンプレッサ21の制限回転数を求める。
【0058】
具体的には、補正トルクごとに、コンプレッサ21の吸気温度と制限回転数との関係を示す制限回転数テーブルが制限回転数演算ブロックB123に予め記憶されている。そして制限回転数演算ブロックB123は、吸気温度と補正トルクとを取得すると、補正トルクで特定された制限回転数テーブルを参照し、吸気温度に対応付けられた制限回転数を算出する。
【0059】
偏差演算ブロックB124は、コンプレッサ21の実回転数と制限回転数との偏差を演算する。
【0060】
フィードバック制御ブロックB125は、偏差演算ブロックB124で出力される偏差がゼロになるように、WRD入口制限圧力を設定する。
【0061】
このようにWRD入口制限圧力演算ブロックB120は、WRD入口制限圧力を求めるために、コンプレッサ21のトルクと、コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの状態すなわち吸気温度及び大気圧と、に基づいて制限回転数を算出する。
【0062】
具体的には、WRD入口制限圧力演算ブロックB120は、吸気温度及び実トルクを取得すると、大気圧が大きくなるほどコンプレッサ21の制限回転数が小さくなるように実トルクを補正する。そしてWRD入口制限圧力演算ブロックB120は、コンプレッサ21の吐出温度の上限値に基づいて作成された制限回転数テーブルを参照し、補正トルクと吸気温度とに基づいてコンプレッサ21の制限回転数を算出する。
【0063】
これにより、コンプレッサ21に吸入されるカソードガスの状態に応じて、コンプレッサ21の吐出温度が上限値を超えないようにWRD入口制限圧力を適切に設定することができる。
【0064】
図7は、スタック制限流量演算ブロックB220の詳細な内容について説明する図である。
【0065】
ゲージ圧演算ブロックB221は、WRD入口制限圧力(絶対圧)と大気圧とに基づいて、WRD入口制限圧力(ゲージ圧)を演算する。
【0066】
制限流量演算ブロックB222は、WRD入口制限圧力の絶対圧及びゲージ圧に基づいてコンプレッサ21の制限流量(基本値)を求める。
【0067】
マキシマムセレクトブロックB223は、燃料電池スタックの入口及び出口の冷却水温度のうち大きいほうを出力する。
【0068】
流量補正値演算ブロックB224は、WRD入口制限圧力(絶対圧)と、マキシマムセレクトブロックB223から出力される冷却水温度とに基づいて、流量補正値を求める。
【0069】
制限流量演算ブロックB225は、制限流量演算ブロックB222から出力される制限流量(基本値)に、流量補正値演算ブロックB224から出力される流量補正値を乗算して、スタック制限流量を求める。
【0070】
図8は、本制御を実行したときの作用効果を示すタイムチャートである。
【0071】
図8では、コンプレッサの出口温度が徐々に上昇している状況である。何ら制御しなければ、破線のように出口温度が過昇温してしまう。
【0072】
これに対して、本実施形態では、コンプレッサの出口温度が上限温度(たとえば200℃)に達した時刻t1で、コンプレッサの回転数を、制限回転数演算ブロックB123で演算された制限回転数で制限する。これによってWRD入口圧力の過剰な上昇が防止され、コンプレッサ出口温度が上限温度に維持される。
【0073】
さらに本実施形態では、以下の制御も行っている。すなわち、WRD入口圧力が上がらないように制限するために、調圧弁の開度を大きくしているが(
図8(E))、時刻t2で調圧弁の開度が全開になったら、燃料電池スタックへ供給する空気の流量を制限するとともに(
図8(D))、その空気制限に応じてスタック電流を制限する(
図8(F))。このようにするので、コンプレッサ出口過温度を防止するために、圧力及び流量が制限されても発電を持続可能となるのである。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、コンプレッサ下流の温度センサを用いたり、コンプレッサ上下流の圧力センサを用いるのではなく、2つのパラメータ(コンプレッサ入口温度及びコンプレッサトルク)に基づいて、21コンプレッサの操作量及び/又は調圧弁24の開度を制限することで、無闇にセンサを増やすことなく、コンプレッサの吐出温度(吐出圧力)を制限することができる。
【0075】
また本実施形態では、目標WRD入口圧力(目標カソード圧力)及びWRD入口圧力センサ値(実カソード圧力)を用いて、コンプレッサ21操作量と調圧弁開度とを制御するようにした。
【0076】
単に、直接コンプレッサの操作量(回転数)を制限するだけでは、燃料電池スタックに対する発電要求に基づく目標カソード圧力と実カソード圧力とに不整合が生じたままになってしまう。たとえば、フィードバック制御(PI制御)でコンプレッサが制御されるのであれば、積分項が最大値になりうる。このような状況で、制限が解除されると、発電要求に基づくコンプレッサの操作量と調圧弁の開度とが意図しない値になっていることからハンチングが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態では、上記2つのパラメータに基づいて、目標カソード圧力を制限することにより、コンプレッサの操作量又は調圧弁開度の少なくとも一方が制限されるので、制限解除後であっても上記不都合を抑制できるのである。
【0077】
また本実施形態では、特に、上記2つのパラメータに基づいてコンプレッサ21の制限回転数を設定するとともに、コンプレッサ21の制限回転数と実回転数とに基づいて制限圧力(WRD入口制限圧力)を算出するようにした。
【0078】
一般的にコンプレッサ21は回転数を制御するために、回転数センサを用いることが多い。そして、回転数センサは、温度センサや圧力センサなどに比べてセンシング精度がよい。本実施形態では、このような回転数センサを流用することで、コンプレッサ下流の温度センサや、コンプレッサ上下流の圧力センサといったセンサを無闇に増やすことなく、コンプレッサ21の吐出温度(吐出圧力)を精度よく守れるのである。
【0079】
また本実施形態では、燃料電池スタックに対する発電要求に基づいて設定された目標スタック流量(第1目標流量)と、制限圧力に基づいて演算されたカソードガスの制限流量(第2目標流量)と、のうち小さいほうに基づいて、コンプレッサの操作量及び/又は調圧弁開度によってカソード流量を制御するようにした。
【0080】
コンプレッサ21よりも下流の耐熱温度を守るために圧力制限を行う場合、燃料電池スタック10の出力増加に伴ってカソード流量が増加していくと、調圧弁24を全開にしても、それ以上圧力が下げられなくなる可能性がある。調圧弁24が全開となっても、カソード流量が増加してしまうと圧力が上昇し、コンプレッサ下流の温度を耐熱温度に維持できないことが懸念される。
【0081】
これに対して、本実施形態では、カソードガスの制限圧力に基づく制限流量を算出し、カソードガスの流量を制御するようにしたので、燃料電池スタック10の出力増加に伴って調圧弁24が全開になり、さらに出力増加に伴って流量を増やそうとした場合に、コンプレッサ21の流量が制限され、上記の不都合を抑制できる。
【0082】
また本実施形態では、コンプレッサ21の制限回転数を算出するのに用いられるコンプレッサ21のトルク値を大気圧の変化に応じて補正することとした。燃料電池システムでは大気圧が高くなるほどコンプレッサ21のトルクが全体的に大きくなり、コンプレッサ21の吐出温度が上昇しやすくなる。この対策として大気圧が高くなるほど、コンプレッサ21の制限回転数が小さくなるようにコンプレッサ21のトルク値を補正する。これにより、大気圧が高い場合にはコンプレッサ21の回転数が低く制限されるので、コンプレッサ21の吐出温度が上限値を超過するのをより確実に防ぐことができる。
【0083】
さらに、標高の高い地域で燃料電池システムが使用される状況では、大気圧が低くなるため、コンプレッサ21のトルク値が大きくなるように補正される。これにより、コンプレッサ21の制限回転数が大きくなるので、コンプレッサ21の回転数を過剰に制限することを抑制できる。
【0084】
また本実施形態では、スタック流量センサ値(カソードガス流量)とWRD入口圧力センサ値(実カソード圧力)とに基づいて、スタック電流(燃料電池の出力)を制限する。
何らかの原因により、コンプレッサ下流の温度が耐熱温度を超える場合に、この耐熱温度を守るために圧力、さらに流量を制限してしまうと、燃料電池に対する要求出力が大きい場合には、最低酸素分圧を守れない可能性がある。
【0085】
これに対して、本実施形態では、制限した圧力及び流量に応じた最適な出力に燃料電池を制御することで、耐熱保護のための圧力、流量制限時に最低酸素分圧をしたまわることを抑制できるのである。すなわち、コンプレッサ出口過温度を防止するために、圧力及び流量が制限されても発電を持続可能となるのである。
【0086】
なお、本実施形態ではWRD入口制限圧力を演算するために、コンプレッサ21の吸気温度と実トルクとに基づいてコンプレッサ21の制限回転数を算出する例について説明したが、次に示すように、実トルクに代えてトルク推定値を用いてもよい。
【0087】
(第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態におけるWRD入口制限圧力演算ブロックB120を示す図である。WRD入口制限圧力演算ブロックB120は、
図4に示したWRD入口制限圧力演算ブロックの構成に加えて、推定トルク算出ブロックB126を備えている。他の構成については、
図4に示したものと同じであるため、同一符号が付してここでの説明を省略する。
【0088】
推定トルク算出ブロックB126には、コンプレッサ21に設けられた回転数センサで検出される実回転数と、カソード流量センサ202で検出される実吸気流量とが入力される。推定トルク算出ブロックB126は、コンプレッサ21の実回転数と実吸気流量とに基づいて、コンプレッサ21のトルクを推定する。
【0089】
例えば、推定トルク算出ブロックB126には、コンプレッサ21の回転数と吸気流量との運転点ごとにコンプレッサ21のトルク推定値を対応付けたトルク推定マップが記憶されている。そして推定トルク算出ブロックB126は、コンプレッサ21の実回転数と実吸気流量とを取得すると、トルク推定マップを参照し、実回転数と実吸気流量とで特定される運転点に対応付けられたトルク推定値を算出する。推定トルク算出ブロックB126は、そのトルク推定値をコンプレッサ21のトルクとして補正トルク演算ブロックB122に出力する。なお、トルク推定マップは、実験データ等により定められる。
【0090】
以上説明した第2実施形態によれば、コンプレッサ21に設けられている回転数センサ及び、コンプレッサ21の上流に設けられているカソード流量センサ202を流用して、コンプレッサ21のトルクを推定する。これにより、コンプレッサ21に新たにトルクセンサを設けずにコンプレッサ21のトルクを取得できるので、センサを増やすことなく、WRD入口制限圧力を演算することかできる。
【0091】
なお、本実施形態ではコンプレッサ21の実回転数及び実吸気流量に基づいてコンプレッサ21のトルクを推定する例について説明したが、実回転数の代わりにコンプレッサ21の下流圧力を用いてトルクを推定するようにしてもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0093】
例えば、本実施形態では目標スタック流量(第1目標流量)として、酸素分圧を確保するために最低限要求される空気流量を設定する例について説明したが、これに限られるものではない。例えば目標スタック流量は、酸素分圧を確保するために最低限要求される空気流量の他に、電解質膜の湿潤度を維持するために必要な空気流量などの要求空気流量によって設定されてもよい。
【0094】
本願は、2013年3月22日に日本国特許庁に出願された特願2013−59817に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。