特許第5979312号(P5979312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979312
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】プレコート鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20160817BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20160817BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20160817BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20160817BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160817BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   B32B15/08 G
   B32B15/09 Z
   B32B15/092
   B05D7/14 J
   B05D7/24 303B
   C23C28/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-513846(P2015-513846)
(86)(22)【出願日】2014年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2014061686
(87)【国際公開番号】WO2014175420
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-94215(P2013-94215)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】井上 郁也
(72)【発明者】
【氏名】小浦 規武
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227747(JP,A)
【文献】 特開2012−219101(JP,A)
【文献】 特開2007−119858(JP,A)
【文献】 特開2004−209787(JP,A)
【文献】 特開2002−225176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00− 7/26
C23C24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき層および化成処理皮膜を有し、
該化成処理皮膜中に酸化チタンおよびクロム化合物を含有せず、
さらに該化成処理皮膜上に形成した、酸化チタンと、防錆顔料と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗膜を1層のみ有し、
前記白色塗膜中の酸化チタンが30〜60質量%であり、
前記防錆顔料がカルシウム修飾シリカであり、該カルシウム修飾シリカが前記白色塗膜中に0.5〜10質量%含有され、
前記白色塗膜中のエポキシ樹脂が0.5〜5質量%であり、
前記白色塗膜の膜厚が8〜24μmであることを特徴とする、プレコート鋼板。
【請求項2】
前記白色塗膜に、Si系カップリング剤が含有されていることを特徴とする、請求項1に記載のプレコート鋼板。
【請求項3】
前記白色塗膜中における前記カルシウム修飾シリカの含有量Aと、前記白色塗膜中における前記エポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが、0.25〜20である、請求項1又は2に記載のプレコート鋼板。
【請求項4】
冷延鋼板上の少なくとも片面に亜鉛系めっきを施すめっき工程と、
さらにクロムおよび酸化チタンを含有しない化成処理皮膜を形成する化成処理工程と、
形成された前記化成処理皮膜の上に、酸化チタンと、カルシウム修飾シリカと、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗料を塗布する塗布工程と、
塗布された前記白色塗料を硬化させる硬化工程と、を連続的に有する製造ラインで製造し、
前記白色塗料中の固形分濃度が総計で30〜75質量%であり、
前記白色塗料の固形分中のカルシウム修飾シリカ含有量が0.5〜10質量%であり、
前記白色塗料の固形分中のエポキシ樹脂含有量が0.5〜5質量%である
ことを特徴とする、化成処理皮膜の上に形成した白色塗膜を1層のみ有するプレコート鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記白色塗料が、Si系カップリング剤を含有することを特徴とする、請求項4に記載の化成処理皮膜の上に形成した白色塗膜を1層のみ有するプレコート鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記白色塗料に含有されている前記カルシウム修飾シリカの含有量Aと、前記白色塗料に含有されている前記エポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが、0.25〜20である、請求項4又は5に記載の化成処理皮膜の上に形成した白色塗膜を1層のみ有するプレコート鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート鋼板およびその製造方法に関する。本発明のプレコート鋼板は、少なくとも片面に亜鉛系めっき層および化成処理皮膜を有し、該化成処理皮膜上に白色塗膜を1層のみ有し、上記化成処理皮膜中にクロム化合物および酸化チタンを含有せず、白色塗膜に酸化チタンとカルシウム修飾シリカとポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含有し、該白色塗膜の膜厚を8〜24μmとする。これにより、高い耐薬品性、耐汚染性、密着性および耐食性を並立できるものである。本発明のプレコート鋼板は、白物家電の筐体等の素材として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
家電や建材用途に、従来の加工後に塗装されるポストコート鋼板に代わって、着色した塗膜を被覆したプレコート鋼板が多く使用されている。一般的なプレコート鋼板では、亜鉛系めっき鋼板を原板として、前処理(化成処理など)→下層塗料塗布→焼付→上層塗料塗布→焼付、と逐次塗膜を形成して作製される。従来は耐食性向上のため、化成処理皮膜や下層塗膜にクロメート化合物が添加されてきたが、近年の環境規制を受け、クロム化合物を全く使用しないクロメートフリープレコート鋼板への切り替えが進んでいる。複数の塗膜を有する従来のクロメートフリープレコート鋼板では、下層塗膜に防錆顔料が添加される。防錆剤には無機系化合物を中心に、探索および実用化が検討されており、一例としてカルシウム修飾シリカ、リン酸アルミニウムおよびリン酸マグネシウム等が挙げられる。プレコート鋼板の各層には異なる性能が要求される。例えば、化成処理皮膜にはめっき層と塗膜の密着性、下層塗膜にはめっき層との密着性と耐食性、上層塗膜には意匠性・耐キズ付性・耐汚染性・耐薬品性・耐溶剤性等の並立が其々求められる。また、プレコート鋼板は、めっき層を形成するプロセスとは異なる、塗装プロセスで製造される。
【0003】
近年は製造コスト削減の観点から、白色プレコート鋼板における塗膜の薄膜化および1層化に関する検討が行われている。特許文献1には、有機インヒビターとZn系電気めっきを共析させることで、めっきの耐食性を向上させ、1層でも良好な耐食性を有するプレコート金属板が開示されている。また、特許文献2には、クロメートを含まず、白色顔料を含有した化成処理皮膜上に1層または2層の塗膜を付与することで、白色外観を実現するプレコート鋼板が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1では何れの実施例にも化成処理に環境負荷物質であるクロメートを使用しているため、近年の環境規制を満足することができない。また、白色層が1層の場合は白色粉体塗料を静電塗装で40μm、2層の場合でも合計25μmといった厚塗りを前提としており、薄膜化による製造コスト削減に関する検討は十分になされていない。加えて、開示技術のとおり有機インヒビターを添加した電気亜鉛めっき浴を用いて亜鉛系めっきを行った場合、電流効率の低下や有機物の劣化等に代表される製造課題が残されているため、工業生産は困難である。
【0005】
特許文献2では化成処理皮膜に白色顔料である酸化チタンを添加することで、薄膜において白色を呈するプレコート鋼板に関する技術が開示されている。但し、化成処理皮膜中に酸化チタンを添加しているため、化成処理皮膜が本来担うべき密着性が劣化する。
【0006】
このほか、白色プレコート鋼板として、化成処理層の表面に複数種類の塗膜(プライマー層および白色塗膜)を有する形態が考えられる。プライマー層は、単体では白色度を高め難いため、製造コスト削減等の観点から白色塗膜を省略すると、白色プレコート鋼板の白色度が低下する。したがって、白色度を高めた白色プレコート鋼板を得るためには、白色塗膜を設ける必要がある。しかしながら、薄膜化のために複数種類の塗膜の合計厚さを8μm程度にすると、白色塗膜の厚さを十分に確保することが困難になるため、白色度を高め難い。加えて、プライマー層と白色塗膜との界面で生じる光の反射により、白色度が抑制されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−49084号公報
【特許文献2】特開2000−212767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少なくとも鋼板の片面に亜鉛系めっき層およびクロム化合物を含有しない化成処理皮膜を有しており、該化成処理皮膜上に、酸化チタンとカルシウム修飾シリカとポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含有する白色塗膜を1層のみ形成することで、塗膜の厚さを8μm程度にまで薄くしても、白色度、密着性、耐薬品性および耐食性に優れた安価なプレコート鋼板を実現することをその課題としている。また、冷延鋼板上に亜鉛系めっき層を付与する工程と、化成処理皮膜を形成する工程と、酸化チタンとカルシウム修飾シリカとポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含有する白色塗料を塗布する工程と、該白色塗料を硬化させる工程を連続的に有する製造ラインで製造する方法を提供することもその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、従来のプレコート鋼板の下層塗膜中に含有させていた防錆顔料を上層塗膜に添加することで、耐食性を飛躍的に向上できること、防錆顔料の添加量が多くなるにしたがって塗膜密着性が劣化することを見出した。さらに、上層塗膜を形成する白色塗料中にエポキシ樹脂を添加することで塗膜密着性が向上することを見出した。また、上層塗膜にエポキシ樹脂を添加することにより、下地鋼板の色が表面に現れ難くなって白色度を高め易くなること、上層塗膜に添加する防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、塗膜の厚さを薄くしても白色度(L*値)を高め易くなること、上層塗膜にエポキシ樹脂およびカルシウム修飾シリカを含有させることによりエポキシ樹脂の色が表面に現れ難くなるので白色度(L*値)を高め易くなることを見出した。また、シラン系カップリング剤を併用することで塗膜密着性が更に向上することを見出した。さらに、従来化成処理皮膜上に2層以上形成していた白色塗膜を1層のみにすることで、めっき形成ラインのみで塗装まで実施することが可能になり、塗装ラインの工程省略が可能であることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいて完成させた。以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明の第1の態様は、鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき層および化成処理皮膜を有し、化成処理皮膜中に酸化チタンおよびクロム化合物を含有せず、さらに該化成処理皮膜上に形成した、酸化チタンと、防錆顔料と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗膜を1層のみ有し、上記白色塗膜中の酸化チタンが30〜60質量%であり、上記防錆顔料がカルシウム修飾シリカであり、該カルシウム修飾シリカが上記白色塗膜中に0.5〜10質量%含有され、上記白色塗膜中のエポキシ樹脂が0.5〜5質量%であり、上記白色塗膜の膜厚が8〜24μmであることを特徴とする、プレコート鋼板である。
【0012】
上記本発明の第1の態様において、白色塗膜に、Si系カップリング剤が含有されていることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様において、白色塗膜中における前記カルシウム修飾シリカの含有量Aと、白色塗膜中におけるエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが、0.25〜20であることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、冷延鋼板上の少なくとも片面に亜鉛系めっきを施すめっき工程と、さらにクロムおよび酸化チタンを含有しない化成処理皮膜を形成する化成処理工程と、形成された化成処理皮膜の上に、酸化チタンと、カルシウム修飾シリカと、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗料を塗布する塗布工程と、塗布された白色塗料を硬化させる硬化工程と、を連続的に有する製造ラインで製造し、上記白色塗料中の固形分濃度が総計で30〜75質量%であり、上記白色塗料の固形分中のカルシウム修飾シリカ含有量が0.5〜10質量%であり、上記白色塗料の固形分中のエポキシ樹脂含有量が0.5〜5質量%であることを特徴とする、化成処理皮膜の上に形成した白色塗膜を1層のみ有するプレコート鋼板の製造方法である。
【0015】
上記本発明の第2の態様において、白色塗料が、Si系カップリング剤を含有することが好ましい。
【0016】
また、上記本発明の第2の態様において、白色塗料に含有されているカルシウム修飾シリカの含有量Aと、白色塗料に含有されているエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが、0.25〜20であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき層および化成処理皮膜を有し、該化成処理皮膜中にクロム化合物および酸化チタンを含有せず、該化成処理皮膜上に、酸化チタンと、防錆顔料(カルシウム修飾シリカ)と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗膜を1層のみ有することで、該白色塗膜の膜厚が8〜24μmと薄くても、白色度、密着性、耐薬品性および耐食性に優れたプレコート鋼板を安価に提供することが可能となった。また、めっき層形成工程と同一製造ラインにおいて化成処理皮膜、白色塗膜を逐次形成できるため、生産効率を高めることが可能となった。従って、本発明は、産業上の極めて価値の高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のプレコート鋼板10を説明する図である。
図2】白色塗膜の膜厚と白色度との関係を説明する図である。
図3】本発明のプレコート鋼板の製造方法を説明するフロー図である。
図4】防錆顔料の濃度とL*値との関係を説明する図である。
図5】防錆顔料の濃度とG60との関係を説明する図である。
図6】白色塗膜の膜厚とL*値との関係を説明する図である。
図7】白色塗膜の膜厚とΔb*との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.プレコート鋼板
以下、本発明によるプレコート鋼板の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明のプレコート鋼板10を簡略化して示す断面図である。図1に示した本発明のプレコート鋼板10は、鋼板1の少なくとも片面に亜鉛系めっき層2および化成処理皮膜3を有し、該化成処理皮膜3中にクロム化合物および酸化チタンを含有せず、該化成処理皮膜3の上に8〜24μmの膜厚で形成した、酸化チタンと、カルシウム修飾シリカと、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗膜4を1層のみ有することを特徴とする。
本願のプレコート鋼板は従来のプレコート鋼板とは異なり薄い塗膜生成を目的として1層のみの着色層を設けたプレコート鋼板である。しかし、塗膜が薄い場合には塗膜の下にある鋼板の青みが表面に現れるようになる。これを防止する為には本来の色が黄色みかかっているエポキシ樹脂を塗膜内に含有し、これに加えて表面で乱反射を起こすカルシウム修飾シリカを用いて両者の量を適正にすると塗膜の下にある青みがかった色を抑えることが出来ることを見出した。更にエポキシ樹脂が存在する状態でカルシウム修飾シリカの量を調整すると光沢度を上げる事無く白色度が上がる事が判った。従来は白色度が上がると光沢度も上がり白さと共に反射率が高くなったが本願の構成では白色度と光沢度を独立して変更する事ができ色調の調整の自由度が高くなる効果も有することも発明者が見出した。
【0020】
(亜鉛系めっき鋼板)
本発明では、プレコート鋼板の下地鋼板として、亜鉛系めっき鋼板を使用することができる。亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−シリコン−マグネシウム複合めっき鋼板等の各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。
【0021】
(化成処理皮膜)
本発明のプレコート鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層上に化成処理皮膜を有する。本発明における化成処理皮膜は、環境規制の観点からクロム化合物を含有しないものとする。また、白色塗膜の密着性担保のため、酸化チタンを含有しないものとする。化成処理皮膜としては、主としてめっき層と白色塗膜の密着性向上のために形成され、クロム化合物および酸化チタンを含有していなければ、公知のものを使用することができる。例えば、該皮膜中にシリカ、シランカップリング剤、タンニン、タンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物を1種以上と、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から選ばれる樹脂を1種以上含むと、特に塗膜密着性に優れる。
【0022】
化成処理皮膜に含有される物質は、水溶性若しくは水分散可能であると、化成処理形成用処理液の溶媒に水を使用でき、取り扱いが容易なため好適である。
【0023】
化成処理皮膜に用いるシリカは一般に公知のものを使用することができ、特に微細な粒径を持つシリカは、化成処理液中に安定に分散できるため、より好適である。市販のシリカとしては、例えば、「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」(何れも日産化学工業製)、「アデライトAT−20Q」(旭電化工業製)等のシリカゲル、又はアエロジル#300(日本アエロジル製)等の粉末シリカを用いることができる。
【0024】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。グリシジルエーテル基を有するγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよびγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを使用すると、塗膜の加工密着性は特に向上する。さらに、トリエトキシタイプのシランカップリング剤を使用すると、下地処理液の保存安定性を向上させることができる。これは、トリエトキシシランが水溶液中で比較的安定であり、重合速度が遅いためであると考えられる。
【0025】
タンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニンでも縮合タンニンでも良く、これらの一部が分解されたものでも良い。タンニン又はタンニン酸は、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等、特に限定されるものではない。「タンニン酸:AL」(富士化学工業製)を使用すると、塗膜の加工密着性が特に向上する。
【0026】
ジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニルアンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムブトキシド1−ブタノール溶液、ジルコニウムn−プロポキシド等の一般に公知のものを使用することができる。
【0027】
チタニウム化合物としては、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、チタンイソプロポキシド、チタン酸イソプロピル、チタンエトキシド、チタン2−エチル−1−ヘキサノラート、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラn−ブチルチタンフッ化カリウム、チタンフッ化ナトリウム等の一般に公知のものを使用することができる。
【0028】
化成処理皮膜中に含まれるシリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか1種以上の含有物と樹脂との配合比率は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。化成処理液が水溶性の場合、樹脂添加量が1.0〜100g/Lで、シリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか1種以上がそれぞれ0.01〜100g/L含まれる化成処理液を金属板に塗布して乾燥して形成した化成処理皮膜が優れる。樹脂添加量が1.0g/L未満では耐食性や塗膜密着性に効果を発揮しない虞があり、100g/L超では化成処理液としての安定性が悪くなりゲル化し易くなる。樹脂添加量は2.0〜80g/Lが好ましく、5.0〜60g/Lがより好ましい。シリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか1種以上の添加量も同様に、それぞれ0.01g/L未満では耐食性や塗膜密着性に効果を発揮しない虞があり、100g/L超では化成処理液としての安定性が悪くなりゲル化し易くなる。シリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか1種以上の添加量は、それぞれ0.1〜80g/Lが好ましく、0.5〜60g/Lがより好ましい。
【0029】
化成処理皮膜の付着量も、特に限定されず、全固形分重量が10〜800mg/mの範囲であると好適であり、100〜700mg/mの範囲であると更に好適である。全固形分重量が10mg/m未満であると耐食性や塗膜密着性が劣化する虞があり、800mg/m超では化成処理皮膜の凝集破壊により加工部において塗膜密着性が低下する虞がある。
なお、化成処理皮膜の厚みは0.005〜0.7μm程度であるので、単独では下にある鋼板の青みがかった色を抑制する事は出来ない。
【0030】
化成処理液の塗装方法は、特に限定されず、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、リンガーロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬法、カーテンコート等が採用できる。さらに、これらの塗布装置を完備した一般的コイルコーティングライン、シートコーティングラインと呼ばれる連続塗装ラインで塗布すると、塗装作業効率が良く大量生産が可能であるため、より好適である。さらに、冷延鋼板上に亜鉛系めっき層を形成する連続ラインにて、化成処理液および白色塗料(詳しくは後述)を塗布・硬化させれば、前記連続塗装ラインを省略できるため更に好適である。
【0031】
(白色塗膜)
前記鋼板の少なくとも片面の化成処理皮膜上に、酸化チタンと、防錆顔料(カルシウム修飾シリカ)と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗膜を1層のみ形成する。塗膜中の酸化チタンの添加量は塗膜中に30〜60質量%とし、35〜55質量%であることが好ましい。酸化チタンが30質量%未満では白色度が不十分であるからである。また、塗膜中の酸化チタン量が60質量%を超えると、塗膜が脆くなり、加工密着性や耐汚染性が劣化する。塗膜中の酸化チタンが35〜55質量%である場合、白色度と塗膜性能を高いレベルで両立することができる。
【0032】
酸化チタン(TiO)は原板(めっき鋼板)の隠蔽と意匠が目的であり、ルチル型、アナターゼ型のいずれでも良く、また、CaSO、MgSO、BaSOなどを配合した複合顔料としての酸化チタン、表面をAl、Sb、ZnOなどで被覆した酸化チタン等でも良い。
【0033】
さらに、白色塗膜は防錆顔料を有する。防錆顔料には、カルシウム修飾シリカを用いる。これに加えて、リン酸アルミニウム、Mg処理−リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムなどと併用しても良い。カルシウム修飾シリカは、シリカ微粒子の表面にシリカより小さいカルシウムの微粒子が吸着した形態になっている。カルシウム修飾シリカは、シリカ微粒子の表面にカルシウムが吸着しているので、多孔度が増し、光を乱反射し易くなる。本発明者らは、白色塗膜に含有させる防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、図5に示すように光沢度を所定の範囲に調整しつつ、ランダムな波長の光を反射させることが可能になり、加えて図4に示すようにプレコート鋼板の白色度を向上させる効果があることを見出した。そこで、本発明では、白色塗膜(白色塗膜を形成する際に用いる白色塗料)に、カルシウム修飾シリカを含有させる。図2に、本発明のプレコート鋼板(実線)と従来のプレコート鋼板(点線)の、白色塗膜の厚さと白色度(L*値)との関係の概念図を示す。図2に示したように、本発明のプレコート鋼板は、従来のプレコート鋼板よりも白色塗膜の厚さを薄くしても、L*値を大きくすることが可能である。これは、本発明のプレコート鋼板では、白色塗膜に、白色顔料である酸化チタンと共に含有させる防錆顔料として、カルシウム修飾シリカを用いているためである。白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの添加量は、0.5〜10質量%とし、1.0〜8.0質量%であることが好ましい。白色塗膜中における防錆顔料の量が少な過ぎると、耐食性が劣化する。また、プレコート鋼板の製造において、焼付時に溶剤が突沸して生じる外観不良が発生し易くなり、通板速度が制限される場合がある。一方、白色塗膜中における防錆顔料の量が多すぎると塗膜密着性や光沢の劣化を伴う。
【0034】
本発明において、防錆顔料として用いるカルシウム修飾シリカは、一般に公知のシリカ表面のシラノール基にカルシウムをイオン交換させたタイプのものを使用することができ、市販のものを使用することもできる。市販のものとしては、GRACE社製の「SHIELDEX(商標)」等が挙げられる。
【0035】
カルシウム修飾シリカに加えてリン酸アルミニウムを防錆顔料として使用する場合は、一般に公知のリン酸アルミニウムを使用することができる。市販のもの、例えば、テイカ社製のトリポリリン酸2水素アルミニウムである「K−WHITE」(商標)等を使用することができる。トリポリリン酸2水素アルミニウムは、亜鉛、カルシウム等で処理されたもの、例えば、テイカ社製の「K−WHITE/#105」(亜鉛処理)、「K−WHITE/Ca650」(カルシウム処理)等であっても良い。また、マグネシウム等で表面処理をしたリン酸アルミニウムも使用することもできる。これら商品名としては、テイカ社製のマグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウムである「K−WHITE/K−G105」が挙げられる。
しかし、図4に示すようにリン酸アルミニウムは単独では白色度を上げることが出来ない。したがって使用量の上限が有りその値はカルシウム修飾シリカの量の100%以下とすべきである。
【0036】
カルシウム修飾シリカに加えてリン酸マグネシウムを防錆顔料として使用する場合は、一般に公知のリン酸マグネシウムを使用することができる。市販のもの、例えば、純正化学社製リン酸2水素マグネシウム等を使用することができる。
しかし、リン酸マグネシウムは単独では白色度を上げることが出来ない。したがって使用量の上限が有りその値はカルシウム修飾シリカの量の100%以下とすべきである。
【0037】
白色塗膜は、白色度、密着性、耐薬品性および耐食性などを並立しなければならず、主樹脂としてポリエステル樹脂を用いる。ポリエステル樹脂の数平均分子量は3000〜30000で、ガラス転移温度Tgが0〜80℃程度のものが好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量は5000〜25000が好ましく、9000〜23000がより好ましい。ガラス転移温度Tgは、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。また、硬化剤としてはメラミン樹脂が好ましいが、イソシアネートを用いることもできる。
【0038】
白色塗膜は、さらに、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は黄色の要素を含んでいるため、白色塗膜にエポキシ樹脂を含有させることにより、亜鉛系めっき鋼板素地の青味がかった色を相殺して、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能である。この効果を発現できるようにするため、白色塗膜中におけるエポキシ樹脂の添加量は0.5質量%以上とする。一方、白色塗膜に多量のエポキシ樹脂を含有させると、白色塗膜の表面に存在するエポキシ樹脂によって黄色が強調され易くなる。この黄色の影響を低減して白色度を高め易くするために、白色塗膜中におけるエポキシ樹脂の添加量は5質量%以下とする。白色塗膜における主樹脂はポリエステル樹脂であるため、エポキシ樹脂の添加量は、ポリエステル樹脂よりも少なくする。また、エポキシ樹脂には、化成処理皮膜と白色塗膜との密着性を向上させる効果も期待できる。
【0039】
白色塗膜の厚さが8μm程度であっても、プレコート鋼板のL*値を84以上にするためには、エポキシ樹脂の添加により下にある鋼板の青みを抑制しながら、カルシウム修飾シリカを添加することで光沢度を抑制してエポキシ樹脂の黄色みが表面から見て目立たなくすることが必要である。
本発明では、白色塗膜に含有させるカルシウム修飾シリカとエポキシ樹脂との量の比を調整することが好ましい。カルシウム修飾シリカを用いることにより光を乱反射させ易くなるので、エポキシ樹脂の黄色の影響を低減して白色度を高めることが可能になる。白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの含有量Aとエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bは、0.25〜20とし、1.0〜10であることが好ましい。Xが0.25未満の場合は白色度が不足したり黄味が強くなったりするため目的の外観が得られにくくなる。また、耐食性が劣化しやすくなる。一方、Xが20超の場合は加工密着性や耐薬品性が劣化する。
【0040】
前記白色塗膜は、潤滑剤をさらに含有することが好ましい。潤滑剤を含有することで、塗膜表面の摩擦係数低減によるプレス加工性向上や取り扱いキズの低減などの効果が期待される。これらは加工用途に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化合物から選ばれる1種または2種以上を用いるのが好ましい。白色塗膜中における潤滑剤の含有量は0.5〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%であることが更に好ましい。0.5質量%未満の場合は十分な潤滑性が得られず、また20質量%超の場合は潤滑剤起因の淀みや発泡性等の課題が生じる。潤滑剤添加量が1.0〜10質量%の場合、より安定して低い摩擦係数が得られ、塗料起因の不具合も生じ難くなる。
【0041】
前記白色塗膜は、さらに黄色顔料を含有することができる。黄色顔料を含有することで、亜鉛系めっき鋼板素地の青味がかった色を打ち消すことができる。黄色顔料は特に限定されるものではないが、酸化鉄、ビスマス化合物、チタン化合物等が耐熱性や耐食性の観点から好ましい。
【0042】
前記白色塗膜の膜厚は、8〜24μmである。塗膜厚が8μm未満の場合、顔料の絶対量が少なくなるため色調が安定せず、素地が透けて見える。また、防錆顔料の量も少なく、十分な性能が発現できなくなる。また、前記白色塗膜が24μm超では、製造コストの点で不利となる。更に、塗料が熱架橋型の場合、焼付時に溶剤が突沸して生じる外観不良が生じ易くなる。特に、本発明では塗膜厚が8〜20μmの場合に、白色度を確保しながら膜厚を薄く出来るという顕著な効果を奏する。なお、塗装膜厚は重量法(塗膜剥離前後の鋼板重量および塗料の乾燥比重から算出)により求めることができる。
なお、本願の白色塗膜において膜厚を薄くすることで、加工時に塗膜に生じる残留応力が小さくなるため、塗膜密着性が向上するというメリットが生じる。
【0043】
さらに、白色塗膜にはSi系および/またはTi系のカップリング剤を含有させることができる。塗膜にカルシウム修飾シリカやリン酸アルミニウムなどの防錆顔料を添加すると加工密着性が劣化する場合がある。Si系および/またはTi系のカップリング剤を併用することで加工密着性を向上することが可能である。塗料中のSi系および/またはTi系のカップリング剤添加量は特に限定されるものではないが、樹脂100質量部に対して0.2〜5.0質量部添加すると効果的である。
【0044】
前記白色塗膜の塗装方法は、特に限定されず、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、リンガーロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬法、カーテンコート、静電塗装法等が採用できる。さらに、これらの塗布装置を完備した一般的コイルコーティングライン、シートコーティングラインと呼ばれる連続塗装ラインで塗布すると、塗装作業効率が良く大量生産が可能であるため、より好適である。
【0045】
(裏面)
本発明のプレコート鋼板を、家電の筺体等に使用する場合には、プレス加工性、防錆性等の性能を考慮した裏面とする必要がある。裏面には、公知の化成処理皮膜をそのまま使用できる。また、化成処理皮膜の上に更に1層以上の有機樹脂塗膜を形成しても良い。
【0046】
2.プレコート鋼板の製造方法
以下、本発明によるプレコート鋼板の製造方法の実施形態を詳細に説明する。
図3は、本発明のプレコート鋼板の製造方法を説明する図である。図3に示した本発明のプレコート鋼板の製造方法は、冷延鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき処理を施すめっき工程(S1)と、クロム化合物および酸化チタンを含有しない化成処理皮膜を形成する化成処理工程(S2)と、化成処理皮膜上に、酸化チタンと、カルシウム修飾シリカと、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗料を塗布する塗布工程(S3)と、白色塗料を硬化させる硬化工程(S4)と、を有し、これらを有する連続ラインで製造することを特徴とする。
【0047】
2.1.めっき工程(S1)
めっき工程(S1)は、連続ラインで、冷延鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき処理を施す工程である。冷延鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき処理を施して亜鉛系めっき鋼板を得る連続ラインとしては、公知のめっきラインを用いることができる。例えば、溶融亜鉛めっきラインおよび電気亜鉛めっきライン等が挙げられ、めっき層中に亜鉛を含有していれば特に限定されない。
【0048】
2.2.化成処理工程(S2)
化成処理工程(S2)は、上記めっき工程(S1)で得られた亜鉛系めっき鋼板に、クロム化合物および酸化チタンを含有しない処理液による化成処理を施すことにより、化成処理皮膜を形成する工程である。使用する化成処理液とその塗装方法は、先に説明したとおりである。
【0049】
2.3.塗布工程(S3)
塗布工程(S3)は、上記化成処理工程(S2)で形成した化成処理皮膜の上に、酸化チタンと、カルシウム修飾シリカと、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する白色塗料を塗布する工程である。白色塗料中の固形分濃度は総計で30〜75質量%であることが好ましく、45〜65質量%であることが更に好ましい。白色塗料の固形分濃度が30質量%未満である場合、高速製造を行う際の焼付時に溶剤が突沸して生じる外観不良が発生する可能性がある。また、固形分濃度が75質量%よりも大きい場合、塗料中の添加剤が相互作用を起こし、貯蔵時に経時で増粘やゲル化による塗料劣化が懸念される。
【0050】
白色塗料にカルシウム修飾シリカを含有させることにより、光を乱反射し易くなるので、光沢度を所定の範囲に調整しつつ、製造されるプレコート鋼板の白色度を高めることが可能になる。白色塗料の固形分中のカルシウム修飾シリカ含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、1.0〜8.0質量%であることがより好ましい。0.5質量%未満では、耐食性が劣化する。また、プレコート鋼板の製造時に、焼付時に溶剤が突沸して生じる外観不良が発生し易くなり、通板速度が制限される場合がある。一方、10質量%を超えると塗膜密着性や光沢の劣化を伴う。
【0051】
また、白色塗料にエポキシ樹脂を含有させることにより、亜鉛系めっき鋼板素地の青味がかった色を相殺して、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能になる。加えて、白色塗料にエポキシ樹脂を含有させることにより、化成処理と白色塗膜の密着性を向上させる効果が得られる。特に防錆顔料であるカルシウム修飾シリカやリン酸アルミニウムを増量した場合に有効である。白色塗料の固形分中のエポキシ樹脂含有量は、0.5〜5質量%が好ましい。0.5質量%未満では添加の効果が薄く、5質量%を超えると加工時に塗膜に亀裂が生じたり(加工性の劣化)、紫外線による変色が生じたり(耐侯性の劣化)する。白色塗料の固形分中のエポキシ樹脂含有量は、1.0〜4.0質量%が好ましく、1.5〜3.5質量%がより好ましい。
【0052】
白色塗膜の厚さが8μm程度であっても、プレコート鋼板のL*値を84以上にするため、白色塗料に含有させるカルシウム修飾シリカとエポキシ樹脂との量の比を調整することが好ましい。カルシウム修飾シリカを用いることにより光を乱反射させ易くなるので、エポキシ樹脂の黄色の影響を低減して白色度を高めることが可能になる。白色塗料中におけるカルシウム修飾シリカの含有量Aとエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bは、0.25〜20とし、1.0〜10であることが好ましい。Xが0.25未満の場合は白色度が不足したり黄味が強くなったりするため目的の外観が得られにくくなる。また、耐食性が劣化しやすくなる。一方、Xが20超の場合は加工密着性や耐薬品性が劣化する。
【0053】
白色塗料中にはSi系および/またはTi系カップリング剤を含有することができる。これらカップリング剤を塗料中に含有させることにより、化成処理皮膜と白色塗膜との密着性を向上させる効果が得られる。特に防錆顔料であるカルシウム修飾シリカやリン酸アルミニウムを増量した場合に有効である。これらカップリング剤は公知のものを使用することができ、例えば信越シリコーン社製のSi系カップリング剤「3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン」や日本曹達社製のTi系カップリング剤「トリエタノールアミネート」などが挙げられる。
【0054】
2.4.硬化工程(S4)
硬化工程(S4)は、上記塗布工程(S3)で化成処理皮膜の上に塗布された白色塗料を硬化させる工程である。硬化工程(S4)は、白色塗料を硬化させることができれば、その形態は特に限定されず、公知の方法により、白色塗料を硬化させる工程、とすることができる。硬化工程(S4)は、例えば、熱風炉にて、到達板温(PMT)が220℃となるように焼付を行う工程、とすることができる。
【0055】
(通板速度)
前記連続めっきラインの通板速度は60〜200m/分であることが好ましく、100〜200m/分とすることが更に好ましい。生産効率の観点から、高速製造が望まれる。ただし通板速度に依らず一定膜厚を得ようとする場合、ロールコーターでは通板速度に応じてロールの周速を上げる必要があるが、120m/分以上の通板速度では液ハネやローピングといった外観不良が発生し易くなる。そのため、鋼板とコーターが非接触式であるカーテンコーターやダイコーターを用いることが好ましい。ダイコーターは鋼板表面近傍に設置しなければならないため、板の振動および板厚変動に応じて高さ方向に位置を変動させる必要があるため、カーテンコーターでの塗装が更に好適である。カーテンコーターとしては公知のものを使用することができ、特に限定されない。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。試験板の調製、実施例、参考例、および比較例、ならびに金属材料用表面処理剤の塗布方法について以下に説明する。
【0057】
(1)鋼板
以下の2種類の冷延鋼板を亜鉛系めっき鋼板の原板として用いた。
・JIS G 3131に記載の熱間圧延軟鋼板であるSPHDを酸洗した。その後、冷間圧延により板厚を3.2mmから0.5mmとした(鋼板X)。
・JIS G 3141に記載の一般冷延鋼板の絞り用であるSPCDのうち、板厚0.5mmのものを用いた(鋼板Y)。
【0058】
(2)溶融めっき鋼板
連続溶融めっきラインにおいて、前記鋼板Xを昇温速度4℃/秒で800℃まで昇温した後、60秒間焼鈍した。焼鈍時の炉内は、酸素1ppm以下、二酸化炭素1ppm以下とし、水素5%とした窒素雰囲気とした。焼鈍後、10℃/秒の冷却速度で460℃に冷却した。その後、溶融金属ポットに浸漬させ、窒素ワイピングによりめっき付着量を調節した後、冷却・凝固することで冷延鋼板の両面に溶融めっきを施した亜鉛系めっき鋼板(GI、SD)を得た。溶融金属の組成は、Zn−0.2%Al(GI)およびZn−11%Al−3%Mg−0.2%Si(SD)の2種類を用いた。それぞれめっき付着量は片側30g/mとした。
【0059】
(3)電気めっき鋼板
連続電気亜鉛めっきラインにおいて、前記鋼板Yを脱脂、酸洗後に、鋼板Yを陰極とした電気めっき法により亜鉛めっき鋼板(EG)を得た。めっき浴には、Znイオンを80g/L含有したpH1.0の硫酸水溶液を用いた。通板速度に応じて電流密度を変化させて、亜鉛付着量が片面20g/mとなる様に製造した。
【0060】
(4)化成処理液−1
供試材に用いる化成処理液として以下のものを作製した。
シランカップリング剤として、信越シリコーン社製「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を5g/L、水分散シリカとして日産化学社製「スノーテック−N」を1.0g/L、ジルコニウム化合物として、炭酸ジルコニルアンモニウムをジルコニウムイオンで0.5g/L、水系アクリル樹脂としてポリアクリル酸を25g/L含む水溶液を作製し、化成処理液とした(以下、化成液−1)。
【0061】
(5)化成処理液−2
ウレタン樹脂としてADEKA社製「HUX−320」を80質量部、シリカゾルとして、日産化学工業株式会社製スノーテックスNを15質量部、水系ワックスとして三井化学株式会社製ケミパール(W500)を5質量部配合した後、イオン交換水を加えて固形分が20%となるように調整し、ウラ面用化成処理液を調製した(以下、化成液−2)。
【0062】
(6)白色塗料
東洋紡績社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(商標)270」(以下、PES)を、有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150(商品名)=1:1に混合したものを使用)に溶解した。次に、硬化剤として三井サイテック社製のメラミン樹脂「サイメル(商標)303」を添加した。メラミン樹脂の添加量は、樹脂固形分の質量比で、ポリエステル樹脂固形分:メラミン樹脂固形分=100:35となるように添加した。また、このポリエステル樹脂とメラミン樹脂の混合溶液には、さらに三井サイテック社製の酸性触媒「キャタリスト600」を0.5質量%添加した。また必要に応じて、DIC社製のエポキシ樹脂「EPICLON EXA−123」(以下、EP)および市販の潤滑剤ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)を添加し、これらを攪拌することでワニス塗料を得た。
【0063】
次に、このワニス塗料中に、トヨーカラー社製酸化チタン「マルチラック 106 ホワイト」、グレイス社製のカルシウム修飾シリカ「シールデックスC303」(以下、Ca−Si)および/またはテイカ社製のトリポリリン酸2水素アルミニウム「K−WHITEK−G105」(以下、P−Al)を必要量添加した。また、信越シリコーン社製の「3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(以下、Si−Capl)」および/または日本曹達社製「トリエタノールアミネート(以下、Ti−Capl)」をそれぞれ必要量添加した。その後、分散機を用いることで白色塗料を得た。作製した白色塗料と添加した顔料種および添加量(wt%)の詳細を表1に記載する。表1において、Xは、白色塗料中におけるCa−Siの含有量AとEPの含有量Bとの比(X=A/B)である。
【0064】
【表1】
【0065】
(7)プレコート鋼板の作製(化成処理)
前記鋼板の両面に亜鉛系めっき層を形成した後、ロールコーターにてオモテ面に化成液−1を塗布した。ウラ面には化成液−2を塗布した。その後、到達板温(PMT)が60℃となるように加温した。オモテ面の化成処理液の付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が0.3g/mとなるように塗装した。ウラ面の化成処理液付着量は乾燥皮膜全体の付着量が1.2g/mとなるように塗装した。各化成処理皮膜の付着量は蛍光X線により測定した。
【0066】
(8)プレコート鋼板の作製(白色塗膜)
(実施例1〜54、比較例1〜10)
前記化成処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板のオモテ面に前記白色塗料をスライドカーテンコーターにて所定の乾燥膜厚となる様に塗布した。その後、熱風炉にてPMTが220℃となる様に焼付後、水冷処理を行い、エアブローで乾燥させて目的のプレコート鋼板を得た。白色塗膜は三彩化工社製「ネオリバーSP751」を用いて剥離し、重量法により膜厚を算出した。通板速度(LS)は毎分80m〜200mとした。実施例1〜54の水準を表2に、比較例1〜10の水準を表3に、それぞれ示す。製造条件の表2においてLSとはラインスピード(m/分)、PMTとは加熱の到達温度である。後述する表4においても同様である。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(比較例11)
前記特許文献2に記載の実施例2を参照し、イオン交換水1L中にウレタン樹脂を100質量、酸化チタンを50質量部、タンニン酸を0.01質量部配合して化成液を得た(化成液−3)。また、前記(6)で説明したように調製したワニス塗料中のポリエステル樹脂固形分100質量部に対して、トヨーカラー社製酸化チタン「マルチラック 106 ホワイト」を100質量部添加し、その後分散機を用いることで白色塗料を得た(塗料40)。
前記(2)で説明したように作製したGIのオモテ面に、前記化成液−3を膜厚が1μmとなる様にロールコーターで塗布し、ウラ面に前記化成液−2が1.2g/mとなる様にロールコーターで塗装し、PMT150℃で乾燥させた。さらに、前記塗料40を乾燥膜厚が3μmとなる様にスライドカーテンコーターで塗布し、PMT220℃となる様に熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて硬化乾燥した。その後、水冷および乾燥工程を経て比較例11のプレコート鋼板を得た。
【0070】
(比較例12)
前記白色塗膜の膜厚を16μmとしたこと以外は、比較例11と同様の方法で比較例12のプレコート鋼板を得た。
【0071】
(比較例13)
前記特許文献2に記載の実施例29を参照し、前記化成液−3のタンニン酸添加量を5質量部とした化成液−4を作製した。
前記(2)で説明したように作製したGIのオモテ面に、前記化成液−4を膜厚が1μmとなる様にロールコーターで塗布し、ウラ面に前記化成液−2を付着量が1.2g/mとなる様にロールコーターで塗装し、PMT150℃で乾燥させた。さらに、前記塗料40を乾燥膜厚が20μmとなる様にスライドカーテンコーターで塗布し、PMT220℃となる様に熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて硬化乾燥した。その後、水冷および乾燥工程を経て比較例13のプレコート鋼板を得た。
【0072】
(比較例14〜16)
塗料26〜28を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0073】
(比較例17)
化成処理皮膜を省略したこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を製造した。
【0074】
(比較例18〜24)
塗料33〜39を用い、且つ、白色塗膜の膜厚を8μmとしたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0075】
(比較例25)
白色塗膜の膜厚を5μmとしたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0076】
各種比較材について、表4に作製方法の水準を示す。
【0077】
【表4】
【0078】
上記表2〜表4に示した、実施例および比較例について、以下の評価試験を実施した。なお、いずれの試験についても、白色塗膜面を評価面として試験を実施した。
【0079】
(外観)
コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。L*値が84以上のものを好適とした。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。G60は参考値とした。
【0080】
(1次密着性)
作製したプレコート鋼板を50mm×100mmに加工し、評価面が外側になるように180°折り曲げ加工を実施した。折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0.5mm厚の鋼板を間に1枚挟んで密着曲げ(1T)加工を行った。更に、加工部の塗膜上に24mm幅のセロテープ(登録商標、ニチバン社製)にて曲げ部の塗膜剥離を行い、剥離後の塗膜残存状態を目視観察した。塗膜の残存程度を次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :塗膜残存率100%
評点4 :100%>塗膜残存率>95%
評点3 :95%≧塗膜残存率>90%
評点2 :90%≧塗膜残存率>80%
評点1 :塗膜残存率≦80%
【0081】
(2次密着性)
エリクセン型の20tonプレス試験機を用いて、作製したプレコート鋼板の円筒絞り試験を行った。金型のダイス肩Rは5mm、ポンチ肩Rは5mm、ポンチ径はφ50mmとし、絞り比2.0、しわ押さえ圧1ton、潤滑油無しの条件で絞り抜くまでプレス加工し、カップ状の成形体を得た。加工した成形体の胴部にクロスカットを付与し、沸騰水中に1時間浸漬した。試験後エアブローにより水分を除去した。クロスカット部における塗膜の膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れなし
評点4 :膨れ幅<1.0mm
評点3 :1.0mm≦膨れ幅<2.0mm
評点2 :2.0mm≦膨れ幅<4.0mm
評点1 :膨れ幅≧4.0mm
【0082】
(耐薬品性)
作製したプレコート鋼板を50mm×50mmに加工し、端面および裏面に日東電工社製のポリテトラフルオロエチレンテープ「ニトフロン(商標)テープ」にてシールを施した。各試験片を5%−塩酸(耐酸)および5%−水酸化ナトリウム水溶液(耐アルカリ)に浸漬した。試験温度は20℃とし、浸漬時間は24時間とした。試験終了後、水洗およびエアブローによる乾燥を行った。平面部における膨れ個数を測定し、次の様な段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れなし
評点4 :膨れ個数<2
評点3 :2≦膨れ個数<5
評点2 :5≦膨れ個数<10
評点1 :膨れ個数≧10
【0083】
(耐食性)
作製したプレコート金属板を横50mm×縦100mmのサイズに切断し、長辺の端面部については、切断時の返り(バリ)が白色塗膜面に来るように(上バリとなるように)切断した。また、平面部中央にカッターナイフにて地鉄まで達するカットキズをクロス状に作製した(クロスカット)。その後、横の端面部はテープにてシールすることで、耐食性試験用サンプルを作製した。そして、JIS−Z−2371に記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。塩水は、白色塗膜を有する面に拭きかかかるように噴霧した。試験時間は240時間とした。その後試験片を水洗および乾燥させた後、各部位における膨れ幅を以下に示す方法で評価した。
【0084】
(耐食性:端面膨れ幅)
試験片のテープシールを施していない縦辺の端面からの最大膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れ幅<2.0mm
評点4 :2.00mm≦膨れ幅<4.0mm
評点3 :4.00mm≦膨れ幅<6.0mm
評点2 :6.00mm≦膨れ幅<8.0mm
評点1 :膨れ幅≧8.0mm
【0085】
(耐食性:クロスカット部膨れ幅)
試験片のクロスカット部における最大膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れ幅<1.0mm
評点4 :1.00mm≦膨れ幅<2.0mm
評点3 :2.00mm≦膨れ幅<3.0mm
評点2 :3.00mm≦膨れ幅<4.0mm
評点1 :膨れ幅≧4.0mm
【0086】
実施例1〜54の評価結果を表5に、比較例1〜10の評価結果を表6に、比較例11〜25の評価結果を表7に、それぞれ示す。
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
以下に、評価結果の詳細について述べる。
(白色度)
本発明のプレコート鋼板は何れもL*値が84.8以上であり、目標の白色度(L*値84以上)を満足した。その中でも、塗膜中の酸化チタン量が30質量%である水準(実施例1)は他の多くの水準と比較してL*値が劣っていた。塗膜中の酸化チタン量は35質量%以上とすることがより好適である。
また、本発明のプレコート鋼板は、白色塗膜の膜厚が8μmであっても目標の白色度を満足した(実施例2、18、27、30、33、51〜54)。これらの中で、白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの含有量Aとエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが0.25に満たなかった実施例54は、Xが0.25〜20の範囲内であった水準(実施例2、18、27、30、33、51〜53)よりも、L*値が小さくなり、耐食性がやや劣化した。これに対し、白色塗膜中にカルシウム修飾シリカが含有されておらず白色塗膜の膜厚が8μmであった比較例1〜3のプレコート鋼板は、L*値が目標値よりも低く不適である。
比較例11では化成処理皮膜中に酸化チタンを添加して白色度向上を図っているものの、白色塗膜の膜厚が不足しているためL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例16では塗膜中に酸化チタンを含有しておらず、L*値が小さくなるため不適である。また、比較例20では白色塗膜中における酸化チタン含有量が不足しているため、白色塗膜の膜厚を8μmにするとL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例21では白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカ含有量が不足しているため、白色塗膜の膜厚を8μmにするとL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例25では白色塗膜の膜厚が不足しているためL*値が目標値よりも低く不適である。
【0091】
(密着性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の密着性を満足した。その中でも、エポキシ樹脂を塗膜中に含有していない水準(比較例4〜10)は、エポキシ樹脂を含有している水準と比較して密着性が劣位となる傾向を示した。このとおり、エポキシ樹脂の添加は防錆顔料の増量に伴う塗装密着性低下の抑制に有効であり、このことは、特に耐食性向上のために添加している防錆顔料のカルシウム修飾シリカが7.5質量%以上の水準(実施例16(7.5wt%)、17(10wt%))において防錆顔料増量に伴い劣化傾向を示す密着性が、エポキシ樹脂の増量によりその低下が抑制される効果が示されたことで確認された(実施例23、17、20(ともに防錆顔料10wt%、エポキシ樹脂はそれぞれ0.5、2、5wt%の条件で、1次/2次密着性評点がそれぞれ3/3、4/3、4/4))。カルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの添加により劣化する密着性の向上にエポキシ樹脂が寄与しているため、本発明では、カルシウム修飾シリカと共にエポキシ樹脂を用いる。
【0092】
また、酸化チタン、カルシウム修飾シリカ、ポリエステル樹脂、および、エポキシ樹脂と共にSi系カップリング剤を含有する水準(実施例51〜53)は、1次密着性および2次密着性が極めて良好であった。
化成処理皮膜中に酸化チタンを含有している水準(比較例11〜13)は特に2次密着性が劣位であり、不適である。また、化成処理皮膜を省略した水準(比較例17)は1次密着性および2次密着性が大きく劣化し、不適である。また、白色塗膜中に多量のカルシウム修飾シリカを含有させた水準(比較例18〜19、22)は1次密着性および2次密着性の一方または両方が劣位であり、不適である。また、白色塗膜中におけるエポキシ樹脂の含有量が不足している水準(比較例23)は1次密着性および2次密着性が劣位であり、不適である。また、白色塗膜中に多量のエポキシ樹脂を含有させた水準(比較例24)は2次密着性が劣位であり、不適である。なお、比較例24は加工性が劣化した。
【0093】
(耐薬品性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の耐薬品性を満足した。その中でも、塗膜中のカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの増量に伴い、耐薬品性が僅かに劣化する傾向を示した(実施例13〜17、24、27)。また、エポキシ樹脂の増量により耐薬品性が向上する傾向が確認された(実施例17、20、23)。よって、耐薬品性は密着性に依存しており、前述の通り、Si系カップリング剤の併用が好適である。
化成処理皮膜を省略した水準(比較例17)は耐薬品性が大きく劣っており不適である。化成処理皮膜省略による密着性劣化が原因と考えられる。
【0094】
(耐食性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の耐食性を満足した。特に必須成分である防錆顔料のカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの量に大きく依存していた(実施例13〜17、25、28)。耐食性を向上させるには防錆顔料であるカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの増量が有効であるが、前述のとおり密着性の劣化が懸念されるため、防錆顔料の添加量は1.0〜8.0質量%がより好適である。前述の通り、エポキシ樹脂の併用により密着性劣化を抑制でき、さらにSi系カップリング剤を併用することで密着性劣化を抑制できるためより好ましい。
【0095】
白色塗膜中にカルシウム修飾シリカおよびリン酸アルムニウムを含有しない水準(比較例11〜15)は耐食性が劣位であった。なお、比較例11は塩水噴霧により塗膜膨れが生じたが、白色塗膜厚が3μmと薄いため、比較的小さい膨れ幅であった(白色度および密着性が目標性能に到達しなかった、不適)。また、白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの含有量が不足している水準(比較例21)は、耐食性が劣位であった。なお、プライマー層を有する場合には、下に有る鋼板の青みがかった色がプライマー層により目立ちにくくなる。そのため、上塗り塗料(白色塗料)にカルシウム修飾シリカおよびエポキシ樹脂を使った場合には、むしろ黄色が強調されてL*値が低くなる結果、L*値を84以上にすることが困難になる。
【0096】
次に、防錆顔料の種類と白色度および光沢度との関係を調査した結果について説明する。
(参考例1)
上述の方法で得た亜鉛めっき鋼板(EG)のオモテ面に、ロールコーターにて化成液−1を塗布した。ウラ面には化成液−2を塗布した。その後、PMTが60℃となるように加温した。オモテ面の化成処理液の付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が0.3g/mとなるように塗装した。ウラ面の化成処理液付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が1.2g/mとなるように塗装した。各化成処理皮膜の付着量は蛍光X線により測定した。
このようにして得られた化成処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板のオモテ面に、上記酸化チタン50質量部、上記PES34質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤12質量部、および、上記潤滑剤2.0質量部を添加した白色塗料を、スライドカーテンコーターにて乾燥膜厚が16μmとなるように塗布した。その後、熱風炉にてPMTが220℃となるように焼付後、水冷処理を行い、エアブローで乾燥させることにより、白色プレコート鋼板(参考例1)を得た。白色塗膜は三彩化工社製「ネオリバーSP751」を用いて剥離し、重量法により膜厚を算出した。通板速度(LS)は毎分80m〜200mとした。
このようにして作製した白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。その結果、L*値は90であり、G60は73.6であった。
【0097】
(参考例2〜13)
防錆顔料の種類と白色度および光沢度との関係を調査するため、平均粒径3μmの上記Ca−Si、平均粒径3.5μmの上記P−Al、および、マグネシウムで表面処理をした平均粒径2.3μmのトリポリリン酸2水素アルミニウムであるテイカ社製の「K−WHITE/K−G105」(以下、P−Al−Mg)からなる群より選択した1種を、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が1.25wt%、2.5wt%、または5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料を用いたほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例2〜13の白色プレコート鋼板を作製した。
このようにして作製した白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。結果を表8、図4、および図5に示す。
なお、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が1.25wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES33質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11.75質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料1.25質量部を添加した。また、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が2.5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES32質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11.5質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料2.5質量部を添加した。また、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES30質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料5.0質量部を添加した。
【0098】
【表8】
【0099】
表8および図4に示したように、防錆顔料としてCa−Siを添加した参考例2〜4は、防錆顔料の添加量が増えるにつれてL*値が増大した。これに対し、Ca−Si以外の防錆顔料を添加した参考例5〜13は、防錆顔料を添加することにより、防錆顔料を添加していない参考例1よりもL*値が低下した。この結果から、防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能であることが確認された。
一方、表8および図5に示したように、Ca−Siは他の防錆顔料よりも、G60が低下し易かった。これは、Ca−Siが他の防錆顔料よりも多孔度が高く、拡散反射成分が増大しているためであると推察される。Ca−Siは多孔度が高いため、白色度を高めることが可能と考えられる。
なお、上記参考例1〜13のほかに、エポキシ樹脂を添加せずにCa−Siの添加量を3段階(0wt%、2.5wt%、5wt%)に変更した白色塗料を用いて、白色塗膜の厚さを3段階(5μm、7μm、10μm)に制御したプレコート鋼板を作製し、L*値およびG60を評価した。その結果、参考例1〜4と同様に、Ca−Siの添加量が増えるにつれてL*値が増大し、G60が低下した。また、Ca−Siの添加量が一定の場合、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、L*値およびG60が増大した。この結果からも、防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能であることが確認された。このような効果が得られるのは、Ca−Siが他の防錆顔料よりも多孔度が高いからであると推察された。
【0100】
次に、エポキシ樹脂と白色度および黄色度との関係を調査した結果について説明する。
(参考例14〜16)
エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料を、乾燥膜厚がそれぞれ、5μm、7μm、10μmとなるように塗布したほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例14〜16の白色プレコート鋼板を作製した。
【0101】
(参考例17〜19)
白色塗料を、乾燥膜厚がそれぞれ、5μm、7μm、10μmとなるように塗布したほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例17〜19の白色プレコート鋼板を作製した。
【0102】
(参考例20〜22)
2.5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料)を用いたほかは、上記参考例14〜16と同様の方法で、参考例20〜22の白色プレコート鋼板を作製した。
【0103】
(参考例23〜25)
2.5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されている白色塗料)を用いたほかは、上記参考例17〜19と同様の方法で、参考例23〜25の白色プレコート鋼板を作製した。
【0104】
(参考例26〜28)
5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料)を用いたほかは、上記参考例14〜16と同様の方法で、参考例26〜28の白色プレコート鋼板を作製した。
【0105】
(参考例29〜31)
5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されている白色塗料)を用いたほかは、上記参考例17〜19と同様の方法で、参考例29〜31の白色プレコート鋼板を作製した。
【0106】
参考例14〜31の白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*値、赤色度(a*値)、および黄色度(b*値)を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。エポキシ樹脂の有無が異なり防錆顔料の添加量が同一である白色塗料を用いて作製した白色プレコート鋼板とのb*値の差(Δb*)とともに、結果を表9、図6、および、図7に示す。
【0107】
【表9】
【0108】
表9および図6に示したように、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、L*値が増大した。また、エポキシ樹脂単体の効果を確認し易いCa−Siの添加量が0wt%である場合に着目すると、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、エポキシ樹脂を添加することによるL*値の増大効果が顕著になった。
【0109】
また、表9および図7に示したように、エポキシ樹脂を用いた形態を比較した場合、白色塗膜の厚さが7μmから10μmに増大すると、Δb*の値が増大した。Δb*の値が増大することは、黄色みが増すことを意味するので、白色塗膜の厚さが増大すると、白色塗膜の表面に存在するエポキシ樹脂に由来する黄色が強調されやすくなることが示唆された。
これらの参考試験の結果から、本来黄色味を帯びているエポキシ樹脂も適切な量を使用する事で白色度(L*値)を高める作用があることが判った。また、Ca−SiにもL*値を高める作用があり、両者を適正な比率で使用することで白色度を高くすることが出来る。加えて、Ca−Siにはエポキシ樹脂の黄色がかった色を抑制する作用があるので、両者を添加することで光沢度G60も60以下、更には50以下に抑えることが出来て、より白色を強調できる。更に両者の作用が相互に働くことで下地塗装(プライマー)無しでも白色度を出しながら密着性の高い表面処理鋼板を製造することが出来る。
【符号の説明】
【0110】
1…鋼板
2…亜鉛系めっき層
3…化成処理皮膜
4…白色塗膜
10…プレコート鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7