【実施例】
【0056】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。試験板の調製、実施例、参考例、および比較例、ならびに金属材料用表面処理剤の塗布方法について以下に説明する。
【0057】
(1)鋼板
以下の2種類の冷延鋼板を亜鉛系めっき鋼板の原板として用いた。
・JIS G 3131に記載の熱間圧延軟鋼板であるSPHDを酸洗した。その後、冷間圧延により板厚を3.2mmから0.5mmとした(鋼板X)。
・JIS G 3141に記載の一般冷延鋼板の絞り用であるSPCDのうち、板厚0.5mmのものを用いた(鋼板Y)。
【0058】
(2)溶融めっき鋼板
連続溶融めっきラインにおいて、前記鋼板Xを昇温速度4℃/秒で800℃まで昇温した後、60秒間焼鈍した。焼鈍時の炉内は、酸素1ppm以下、二酸化炭素1ppm以下とし、水素5%とした窒素雰囲気とした。焼鈍後、10℃/秒の冷却速度で460℃に冷却した。その後、溶融金属ポットに浸漬させ、窒素ワイピングによりめっき付着量を調節した後、冷却・凝固することで冷延鋼板の両面に溶融めっきを施した亜鉛系めっき鋼板(GI、SD)を得た。溶融金属の組成は、Zn−0.2%Al(GI)およびZn−11%Al−3%Mg−0.2%Si(SD)の2種類を用いた。それぞれめっき付着量は片側30g/m
2とした。
【0059】
(3)電気めっき鋼板
連続電気亜鉛めっきラインにおいて、前記鋼板Yを脱脂、酸洗後に、鋼板Yを陰極とした電気めっき法により亜鉛めっき鋼板(EG)を得た。めっき浴には、Znイオンを80g/L含有したpH1.0の硫酸水溶液を用いた。通板速度に応じて電流密度を変化させて、亜鉛付着量が片面20g/m
2となる様に製造した。
【0060】
(4)化成処理液−1
供試材に用いる化成処理液として以下のものを作製した。
シランカップリング剤として、信越シリコーン社製「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を5g/L、水分散シリカとして日産化学社製「スノーテック−N」を1.0g/L、ジルコニウム化合物として、炭酸ジルコニルアンモニウムをジルコニウムイオンで0.5g/L、水系アクリル樹脂としてポリアクリル酸を25g/L含む水溶液を作製し、化成処理液とした(以下、化成液−1)。
【0061】
(5)化成処理液−2
ウレタン樹脂としてADEKA社製「HUX−320」を80質量部、シリカゾルとして、日産化学工業株式会社製スノーテックスNを15質量部、水系ワックスとして三井化学株式会社製ケミパール(W500)を5質量部配合した後、イオン交換水を加えて固形分が20%となるように調整し、ウラ面用化成処理液を調製した(以下、化成液−2)。
【0062】
(6)白色塗料
東洋紡績社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(商標)270」(以下、PES)を、有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150(商品名)=1:1に混合したものを使用)に溶解した。次に、硬化剤として三井サイテック社製のメラミン樹脂「サイメル(商標)303」を添加した。メラミン樹脂の添加量は、樹脂固形分の質量比で、ポリエステル樹脂固形分:メラミン樹脂固形分=100:35となるように添加した。また、このポリエステル樹脂とメラミン樹脂の混合溶液には、さらに三井サイテック社製の酸性触媒「キャタリスト600」を0.5質量%添加した。また必要に応じて、DIC社製のエポキシ樹脂「EPICLON EXA−123」(以下、EP)および市販の潤滑剤ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)を添加し、これらを攪拌することでワニス塗料を得た。
【0063】
次に、このワニス塗料中に、トヨーカラー社製酸化チタン「マルチラック 106 ホワイト」、グレイス社製のカルシウム修飾シリカ「シールデックスC303」(以下、Ca−Si)および/またはテイカ社製のトリポリリン酸2水素アルミニウム「K−WHITEK−G105」(以下、P−Al)を必要量添加した。また、信越シリコーン社製の「3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(以下、Si−Capl)」および/または日本曹達社製「トリエタノールアミネート(以下、Ti−Capl)」をそれぞれ必要量添加した。その後、分散機を用いることで白色塗料を得た。作製した白色塗料と添加した顔料種および添加量(wt%)の詳細を表1に記載する。表1において、Xは、白色塗料中におけるCa−Siの含有量AとEPの含有量Bとの比(X=A/B)である。
【0064】
【表1】
【0065】
(7)プレコート鋼板の作製(化成処理)
前記鋼板の両面に亜鉛系めっき層を形成した後、ロールコーターにてオモテ面に化成液−1を塗布した。ウラ面には化成液−2を塗布した。その後、到達板温(PMT)が60℃となるように加温した。オモテ面の化成処理液の付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が0.3g/m
2となるように塗装した。ウラ面の化成処理液付着量は乾燥皮膜全体の付着量が1.2g/m
2となるように塗装した。各化成処理皮膜の付着量は蛍光X線により測定した。
【0066】
(8)プレコート鋼板の作製(白色塗膜)
(実施例1〜54、比較例1〜10)
前記化成処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板のオモテ面に前記白色塗料をスライドカーテンコーターにて所定の乾燥膜厚となる様に塗布した。その後、熱風炉にてPMTが220℃となる様に焼付後、水冷処理を行い、エアブローで乾燥させて目的のプレコート鋼板を得た。白色塗膜は三彩化工社製「ネオリバーSP751」を用いて剥離し、重量法により膜厚を算出した。通板速度(LS)は毎分80m〜200mとした。実施例1〜54の水準を表2に、比較例1〜10の水準を表3に、それぞれ示す。製造条件の表2においてLSとはラインスピード(m/分)、PMTとは加熱の到達温度である。後述する表4においても同様である。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(比較例11)
前記特許文献2に記載の実施例2を参照し、イオン交換水1L中にウレタン樹脂を100質量、酸化チタンを50質量部、タンニン酸を0.01質量部配合して化成液を得た(化成液−3)。また、前記(6)で説明したように調製したワニス塗料中のポリエステル樹脂固形分100質量部に対して、トヨーカラー社製酸化チタン「マルチラック 106 ホワイト」を100質量部添加し、その後分散機を用いることで白色塗料を得た(塗料40)。
前記(2)で説明したように作製したGIのオモテ面に、前記化成液−3を膜厚が1μmとなる様にロールコーターで塗布し、ウラ面に前記化成液−2が1.2g/m
2となる様にロールコーターで塗装し、PMT150℃で乾燥させた。さらに、前記塗料40を乾燥膜厚が3μmとなる様にスライドカーテンコーターで塗布し、PMT220℃となる様に熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて硬化乾燥した。その後、水冷および乾燥工程を経て比較例11のプレコート鋼板を得た。
【0070】
(比較例12)
前記白色塗膜の膜厚を16μmとしたこと以外は、比較例11と同様の方法で比較例12のプレコート鋼板を得た。
【0071】
(比較例13)
前記特許文献2に記載の実施例29を参照し、前記化成液−3のタンニン酸添加量を5質量部とした化成液−4を作製した。
前記(2)で説明したように作製したGIのオモテ面に、前記化成液−4を膜厚が1μmとなる様にロールコーターで塗布し、ウラ面に前記化成液−2を付着量が1.2g/m
2となる様にロールコーターで塗装し、PMT150℃で乾燥させた。さらに、前記塗料40を乾燥膜厚が20μmとなる様にスライドカーテンコーターで塗布し、PMT220℃となる様に熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて硬化乾燥した。その後、水冷および乾燥工程を経て比較例13のプレコート鋼板を得た。
【0072】
(比較例14〜16)
塗料26〜28を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0073】
(比較例17)
化成処理皮膜を省略したこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を製造した。
【0074】
(比較例18〜24)
塗料33〜39を用い、且つ、白色塗膜の膜厚を8μmとしたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0075】
(比較例25)
白色塗膜の膜厚を5μmとしたこと以外は、実施例5と同様の方法で白色プレコート鋼板を作製した。
【0076】
各種比較材について、表4に作製方法の水準を示す。
【0077】
【表4】
【0078】
上記表2〜表4に示した、実施例および比較例について、以下の評価試験を実施した。なお、いずれの試験についても、白色塗膜面を評価面として試験を実施した。
【0079】
(外観)
コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。L*値が84以上のものを好適とした。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。G60は参考値とした。
【0080】
(1次密着性)
作製したプレコート鋼板を50mm×100mmに加工し、評価面が外側になるように180°折り曲げ加工を実施した。折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0.5mm厚の鋼板を間に1枚挟んで密着曲げ(1T)加工を行った。更に、加工部の塗膜上に24mm幅のセロテープ(登録商標、ニチバン社製)にて曲げ部の塗膜剥離を行い、剥離後の塗膜残存状態を目視観察した。塗膜の残存程度を次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :塗膜残存率100%
評点4 :100%>塗膜残存率>95%
評点3 :95%≧塗膜残存率>90%
評点2 :90%≧塗膜残存率>80%
評点1 :塗膜残存率≦80%
【0081】
(2次密着性)
エリクセン型の20tonプレス試験機を用いて、作製したプレコート鋼板の円筒絞り試験を行った。金型のダイス肩Rは5mm、ポンチ肩Rは5mm、ポンチ径はφ50mmとし、絞り比2.0、しわ押さえ圧1ton、潤滑油無しの条件で絞り抜くまでプレス加工し、カップ状の成形体を得た。加工した成形体の胴部にクロスカットを付与し、沸騰水中に1時間浸漬した。試験後エアブローにより水分を除去した。クロスカット部における塗膜の膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れなし
評点4 :膨れ幅<1.0mm
評点3 :1.0mm≦膨れ幅<2.0mm
評点2 :2.0mm≦膨れ幅<4.0mm
評点1 :膨れ幅≧4.0mm
【0082】
(耐薬品性)
作製したプレコート鋼板を50mm×50mmに加工し、端面および裏面に日東電工社製のポリテトラフルオロエチレンテープ「ニトフロン(商標)テープ」にてシールを施した。各試験片を5%−塩酸(耐酸)および5%−水酸化ナトリウム水溶液(耐アルカリ)に浸漬した。試験温度は20℃とし、浸漬時間は24時間とした。試験終了後、水洗およびエアブローによる乾燥を行った。平面部における膨れ個数を測定し、次の様な段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れなし
評点4 :膨れ個数<2
評点3 :2≦膨れ個数<5
評点2 :5≦膨れ個数<10
評点1 :膨れ個数≧10
【0083】
(耐食性)
作製したプレコート金属板を横50mm×縦100mmのサイズに切断し、長辺の端面部については、切断時の返り(バリ)が白色塗膜面に来るように(上バリとなるように)切断した。また、平面部中央にカッターナイフにて地鉄まで達するカットキズをクロス状に作製した(クロスカット)。その後、横の端面部はテープにてシールすることで、耐食性試験用サンプルを作製した。そして、JIS−Z−2371に記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。塩水は、白色塗膜を有する面に拭きかかかるように噴霧した。試験時間は240時間とした。その後試験片を水洗および乾燥させた後、各部位における膨れ幅を以下に示す方法で評価した。
【0084】
(耐食性:端面膨れ幅)
試験片のテープシールを施していない縦辺の端面からの最大膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れ幅<2.0mm
評点4 :2.00mm≦膨れ幅<4.0mm
評点3 :4.00mm≦膨れ幅<6.0mm
評点2 :6.00mm≦膨れ幅<8.0mm
評点1 :膨れ幅≧8.0mm
【0085】
(耐食性:クロスカット部膨れ幅)
試験片のクロスカット部における最大膨れ幅を測定し、次のような段階に区分して評価した。評点3以上を好適とした。
評点5 :膨れ幅<1.0mm
評点4 :1.00mm≦膨れ幅<2.0mm
評点3 :2.00mm≦膨れ幅<3.0mm
評点2 :3.00mm≦膨れ幅<4.0mm
評点1 :膨れ幅≧4.0mm
【0086】
実施例1〜54の評価結果を表5に、比較例1〜10の評価結果を表6に、比較例11〜25の評価結果を表7に、それぞれ示す。
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
以下に、評価結果の詳細について述べる。
(白色度)
本発明のプレコート鋼板は何れもL*値が84.8以上であり、目標の白色度(L*値84以上)を満足した。その中でも、塗膜中の酸化チタン量が30質量%である水準(実施例1)は他の多くの水準と比較してL*値が劣っていた。塗膜中の酸化チタン量は35質量%以上とすることがより好適である。
また、本発明のプレコート鋼板は、白色塗膜の膜厚が8μmであっても目標の白色度を満足した(実施例2、18、27、30、33、51〜54)。これらの中で、白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの含有量Aとエポキシ樹脂の含有量Bとの比X=A/Bが0.25に満たなかった実施例54は、Xが0.25〜20の範囲内であった水準(実施例2、18、27、30、33、51〜53)よりも、L*値が小さくなり、耐食性がやや劣化した。これに対し、白色塗膜中にカルシウム修飾シリカが含有されておらず白色塗膜の膜厚が8μmであった比較例1〜3のプレコート鋼板は、L*値が目標値よりも低く不適である。
比較例11では化成処理皮膜中に酸化チタンを添加して白色度向上を図っているものの、白色塗膜の膜厚が不足しているためL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例16では塗膜中に酸化チタンを含有しておらず、L*値が小さくなるため不適である。また、比較例20では白色塗膜中における酸化チタン含有量が不足しているため、白色塗膜の膜厚を8μmにするとL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例21では白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカ含有量が不足しているため、白色塗膜の膜厚を8μmにするとL*値が目標値よりも低く不適である。また、比較例25では白色塗膜の膜厚が不足しているためL*値が目標値よりも低く不適である。
【0091】
(密着性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の密着性を満足した。その中でも、エポキシ樹脂を塗膜中に含有していない水準(比較例4〜10)は、エポキシ樹脂を含有している水準と比較して密着性が劣位となる傾向を示した。このとおり、エポキシ樹脂の添加は防錆顔料の増量に伴う塗装密着性低下の抑制に有効であり、このことは、特に耐食性向上のために添加している防錆顔料のカルシウム修飾シリカが7.5質量%以上の水準(実施例16(7.5wt%)、17(10wt%))において防錆顔料増量に伴い劣化傾向を示す密着性が、エポキシ樹脂の増量によりその低下が抑制される効果が示されたことで確認された(実施例23、17、20(ともに防錆顔料10wt%、エポキシ樹脂はそれぞれ0.5、2、5wt%の条件で、1次/2次密着性評点がそれぞれ3/3、4/3、4/4))。カルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの添加により劣化する密着性の向上にエポキシ樹脂が寄与しているため、本発明では、カルシウム修飾シリカと共にエポキシ樹脂を用いる。
【0092】
また、酸化チタン、カルシウム修飾シリカ、ポリエステル樹脂、および、エポキシ樹脂と共にSi系カップリング剤を含有する水準(実施例51〜53)は、1次密着性および2次密着性が極めて良好であった。
化成処理皮膜中に酸化チタンを含有している水準(比較例11〜13)は特に2次密着性が劣位であり、不適である。また、化成処理皮膜を省略した水準(比較例17)は1次密着性および2次密着性が大きく劣化し、不適である。また、白色塗膜中に多量のカルシウム修飾シリカを含有させた水準(比較例18〜19、22)は1次密着性および2次密着性の一方または両方が劣位であり、不適である。また、白色塗膜中におけるエポキシ樹脂の含有量が不足している水準(比較例23)は1次密着性および2次密着性が劣位であり、不適である。また、白色塗膜中に多量のエポキシ樹脂を含有させた水準(比較例24)は2次密着性が劣位であり、不適である。なお、比較例24は加工性が劣化した。
【0093】
(耐薬品性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の耐薬品性を満足した。その中でも、塗膜中のカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの増量に伴い、耐薬品性が僅かに劣化する傾向を示した(実施例13〜17、24、27)。また、エポキシ樹脂の増量により耐薬品性が向上する傾向が確認された(実施例17、20、23)。よって、耐薬品性は密着性に依存しており、前述の通り、Si系カップリング剤の併用が好適である。
化成処理皮膜を省略した水準(比較例17)は耐薬品性が大きく劣っており不適である。化成処理皮膜省略による密着性劣化が原因と考えられる。
【0094】
(耐食性)
本発明のプレコート鋼板は何れも目標の耐食性を満足した。特に必須成分である防錆顔料のカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの量に大きく依存していた(実施例13〜17、25、28)。耐食性を向上させるには防錆顔料であるカルシウム修飾シリカやリン酸アルムニウムの増量が有効であるが、前述のとおり密着性の劣化が懸念されるため、防錆顔料の添加量は1.0〜8.0質量%がより好適である。前述の通り、エポキシ樹脂の併用により密着性劣化を抑制でき、さらにSi系カップリング剤を併用することで密着性劣化を抑制できるためより好ましい。
【0095】
白色塗膜中にカルシウム修飾シリカおよびリン酸アルムニウムを含有しない水準(比較例11〜15)は耐食性が劣位であった。なお、比較例11は塩水噴霧により塗膜膨れが生じたが、白色塗膜厚が3μmと薄いため、比較的小さい膨れ幅であった(白色度および密着性が目標性能に到達しなかった、不適)。また、白色塗膜中におけるカルシウム修飾シリカの含有量が不足している水準(比較例21)は、耐食性が劣位であった。なお、プライマー層を有する場合には、下に有る鋼板の青みがかった色がプライマー層により目立ちにくくなる。そのため、上塗り塗料(白色塗料)にカルシウム修飾シリカおよびエポキシ樹脂を使った場合には、むしろ黄色が強調されてL*値が低くなる結果、L*値を84以上にすることが困難になる。
【0096】
次に、防錆顔料の種類と白色度および光沢度との関係を調査した結果について説明する。
(参考例1)
上述の方法で得た亜鉛めっき鋼板(EG)のオモテ面に、ロールコーターにて化成液−1を塗布した。ウラ面には化成液−2を塗布した。その後、PMTが60℃となるように加温した。オモテ面の化成処理液の付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が0.3g/m
2となるように塗装した。ウラ面の化成処理液付着量は、乾燥皮膜全体の付着量が1.2g/m
2となるように塗装した。各化成処理皮膜の付着量は蛍光X線により測定した。
このようにして得られた化成処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板のオモテ面に、上記酸化チタン50質量部、上記PES34質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤12質量部、および、上記潤滑剤2.0質量部を添加した白色塗料を、スライドカーテンコーターにて乾燥膜厚が16μmとなるように塗布した。その後、熱風炉にてPMTが220℃となるように焼付後、水冷処理を行い、エアブローで乾燥させることにより、白色プレコート鋼板(参考例1)を得た。白色塗膜は三彩化工社製「ネオリバーSP751」を用いて剥離し、重量法により膜厚を算出した。通板速度(LS)は毎分80m〜200mとした。
このようにして作製した白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。その結果、L*値は90であり、G60は73.6であった。
【0097】
(参考例2〜13)
防錆顔料の種類と白色度および光沢度との関係を調査するため、平均粒径3μmの上記Ca−Si、平均粒径3.5μmの上記P−Al、および、マグネシウムで表面処理をした平均粒径2.3μmのトリポリリン酸2水素アルミニウムであるテイカ社製の「K−WHITE/K−G105」(以下、P−Al−Mg)からなる群より選択した1種を、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が1.25wt%、2.5wt%、または5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料を用いたほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例2〜13の白色プレコート鋼板を作製した。
このようにして作製した白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。結果を表8、
図4、および
図5に示す。
なお、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が1.25wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES33質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11.75質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料1.25質量部を添加した。また、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が2.5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES32質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11.5質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料2.5質量部を添加した。また、白色塗膜中の防錆顔料の添加量が5wt%となる量の防錆顔料を添加した白色塗料には、具体的には、上記酸化チタン50質量部、上記PES30質量部、上記EP2.0質量部、上記硬化剤11質量部、上記潤滑剤2.0質量部、および、防錆顔料5.0質量部を添加した。
【0098】
【表8】
【0099】
表8および
図4に示したように、防錆顔料としてCa−Siを添加した参考例2〜4は、防錆顔料の添加量が増えるにつれてL*値が増大した。これに対し、Ca−Si以外の防錆顔料を添加した参考例5〜13は、防錆顔料を添加することにより、防錆顔料を添加していない参考例1よりもL*値が低下した。この結果から、防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能であることが確認された。
一方、表8および
図5に示したように、Ca−Siは他の防錆顔料よりも、G60が低下し易かった。これは、Ca−Siが他の防錆顔料よりも多孔度が高く、拡散反射成分が増大しているためであると推察される。Ca−Siは多孔度が高いため、白色度を高めることが可能と考えられる。
なお、上記参考例1〜13のほかに、エポキシ樹脂を添加せずにCa−Siの添加量を3段階(0wt%、2.5wt%、5wt%)に変更した白色塗料を用いて、白色塗膜の厚さを3段階(5μm、7μm、10μm)に制御したプレコート鋼板を作製し、L*値およびG60を評価した。その結果、参考例1〜4と同様に、Ca−Siの添加量が増えるにつれてL*値が増大し、G60が低下した。また、Ca−Siの添加量が一定の場合、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、L*値およびG60が増大した。この結果からも、防錆顔料としてカルシウム修飾シリカを用いることにより、プレコート鋼板の白色度を高めることが可能であることが確認された。このような効果が得られるのは、Ca−Siが他の防錆顔料よりも多孔度が高いからであると推察された。
【0100】
次に、エポキシ樹脂と白色度および黄色度との関係を調査した結果について説明する。
(参考例14〜16)
エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料を、乾燥膜厚がそれぞれ、5μm、7μm、10μmとなるように塗布したほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例14〜16の白色プレコート鋼板を作製した。
【0101】
(参考例17〜19)
白色塗料を、乾燥膜厚がそれぞれ、5μm、7μm、10μmとなるように塗布したほかは、上記参考例1と同様の方法で、参考例17〜19の白色プレコート鋼板を作製した。
【0102】
(参考例20〜22)
2.5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料)を用いたほかは、上記参考例14〜16と同様の方法で、参考例20〜22の白色プレコート鋼板を作製した。
【0103】
(参考例23〜25)
2.5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されている白色塗料)を用いたほかは、上記参考例17〜19と同様の方法で、参考例23〜25の白色プレコート鋼板を作製した。
【0104】
(参考例26〜28)
5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されていない白色塗料)を用いたほかは、上記参考例14〜16と同様の方法で、参考例26〜28の白色プレコート鋼板を作製した。
【0105】
(参考例29〜31)
5wt%の上記Ca−Siが添加されている白色塗料(エポキシ樹脂が添加されている白色塗料)を用いたほかは、上記参考例17〜19と同様の方法で、参考例29〜31の白色プレコート鋼板を作製した。
【0106】
参考例14〜31の白色プレコート鋼板について、コニカミノルタ社製の色彩計「CR−400」を用いて、L*値、赤色度(a*値)、および黄色度(b*値)を測定した。また、コニカミノルタ社製の光沢度計「MULTI GLOSS 268PLUS」を用いて、60度光沢(G60)を測定した。エポキシ樹脂の有無が異なり防錆顔料の添加量が同一である白色塗料を用いて作製した白色プレコート鋼板とのb*値の差(Δb*)とともに、結果を表9、
図6、および、
図7に示す。
【0107】
【表9】
【0108】
表9および
図6に示したように、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、L*値が増大した。また、エポキシ樹脂単体の効果を確認し易いCa−Siの添加量が0wt%である場合に着目すると、白色塗膜の厚さが増えるにつれて、エポキシ樹脂を添加することによるL*値の増大効果が顕著になった。
【0109】
また、表9および
図7に示したように、エポキシ樹脂を用いた形態を比較した場合、白色塗膜の厚さが7μmから10μmに増大すると、Δb*の値が増大した。Δb*の値が増大することは、黄色みが増すことを意味するので、白色塗膜の厚さが増大すると、白色塗膜の表面に存在するエポキシ樹脂に由来する黄色が強調されやすくなることが示唆された。
これらの参考試験の結果から、本来黄色味を帯びているエポキシ樹脂も適切な量を使用する事で白色度(L*値)を高める作用があることが判った。また、Ca−SiにもL*値を高める作用があり、両者を適正な比率で使用することで白色度を高くすることが出来る。加えて、Ca−Siにはエポキシ樹脂の黄色がかった色を抑制する作用があるので、両者を添加することで光沢度G60も60以下、更には50以下に抑えることが出来て、より白色を強調できる。更に両者の作用が相互に働くことで下地塗装(プライマー)無しでも白色度を出しながら密着性の高い表面処理鋼板を製造することが出来る。