(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0019】
図1は、本実施形態に係るディスプレイのカバー部材1の模式的断面図である。カバー部材1は、ディスプレイの前面に配されて使用される部材である。具体的には、カバー部材1は、第1の主面1aが外側(観者側)を向き、第2の主面1bが内側を向くようにディスプレイに設けられて使用される。カバー部材1は、例えば、ディスプレイの前面板を構成する部材であってもよいし、前面板の上に設けられる部材であってもよい。
【0020】
カバー部材1の第1の主面1aは、凹凸面2により構成されている。
【0021】
詳細には、本実施形態では、カバー部材1は、透光板10と、コーティング膜11とを有する。もっとも本発明において、カバー部材は、ひとつの部材により構成されていてもよい。
【0022】
透光板10は、ディスプレイからの光を透過させるものである限りにおいて特に限定されない。透光板10は、例えば、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラスなどのガラス板、Li
2O−Al
2O
3−SiO
2系結晶化ガラスなどの結晶化ガラス板、樹脂板等により構成することができる。例えば、カバー部材1に高い機械的強度が求められるような場合には、透光板10を強化ガラス板により構成することが好ましい。
【0023】
透光板10の厚みは、特に限定されない。透光板10の厚みは、例えば、0.03mm〜10mm程度とすることができる。なお、透光板10は、剛体であってもよいが、可撓性を有していてもよい。透光板10は、シート状であってもよい。
【0024】
なお、透光板10として好適に用いられる強化ガラス板は、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 50〜80%、Al
2O
3 5〜25%、B
2O
3 0〜15%、Na
2O 1〜20%、K
2O 0〜10%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。
【0025】
SiO
2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO
2の含有量は、好ましくは50〜80%、52〜75%、55〜72%、55〜70%、特に55〜67.5%である。SiO
2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiO
2の含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなる。
【0026】
Al
2O
3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。Al
2O
3の含有量は5〜25%が好ましい。Al
2O
3の含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Al
2O
3の好適な下限範囲は7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、特に16%以上である。一方、Al
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Al
2O
3の好適な上限範囲は22%以下、20%以下、19%以下、18%以下、特に17%以下である。
【0027】
B
2O
3は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、液相温度を低下させる成分である。またクラックレジスタンスを高める成分である。しかし、B
2O
3の含有量が多過ぎると、イオン交換処理によって、ヤケと呼ばれる表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したり、圧縮応力層の応力深さが小さくなる傾向がある。よって、B
2O
3の含有量は、好ましくは0〜15%、0.1〜12%、1〜10%、1超〜8%、1.5〜6%、特に2〜5%である。
【0028】
Na
2Oは、主要なイオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Na
2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。Na
2Oの含有量は1〜20%である。Na
2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、Na
2Oを導入する場合、Na
2Oの好適な下限範囲は10%以上、11%以上、特に12%以上である。一方、Na
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、Na
2Oの好適な上限範囲は17%以下、特に16%以下である。
【0029】
K
2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の応力深さを増大させる効果が大きい成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。K
2Oの含有量は0〜10%である。K
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、K
2Oの好適な上限範囲は8%以下、6%以下、4%以下、特に2%未満である。
【0030】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を導入してもよい。
【0031】
Li
2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。またヤング率を高める成分である。更にアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を増大させる効果が大きい。しかし、Li
2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなる。また、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなると、かえって圧縮応力値が小さくなる場合がある。従って、Li
2Oの含有量は、好ましくは0〜3.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、特に0.01〜0.2%である。
【0032】
Li
2O+Na
2O+K
2Oの好適な含有量は5〜25%、10〜22%、15〜22%、特に17〜22%である。Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合もある。なお、「Li
2O+Na
2O+K
2O」は、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合量である。
【0033】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる。よって、MgOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に4%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを導入する場合、MgOの好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0034】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0.01〜4%、0.1〜3%、特に1〜2.5%である。
【0035】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%未満である。
【0036】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%未満である。
【0037】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を増大させる効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の応力深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%未満が好ましい。
【0038】
ZrO
2は、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrO
2の好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrO
2を導入することが好ましく、その場合、ZrO
2の好適な下限範囲は0.001%以上、0.01%以上、0.5%、特に1%以上である。
【0039】
P
2O
5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の応力深さを大きくする成分である。しかし、P
2O
5の含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる。よって、P
2O
5の好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%未満である。
【0040】
清澄剤として、As
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2、F、Cl、SO
3の群(好ましくはSnO
2、Cl、SO
3の群)から選択された一種又は二種以上を0〜30000ppm(3%)導入してもよい。SnO
2+SO
3+Clの含有量は、清澄効果を的確に享受する観点から、好ましくは0〜10000ppm、50〜5000ppm、80〜4000ppm、100〜3000ppm、特に300〜3000ppmである。ここで、「SnO
2+SO
3+Cl」は、SnO
2、SO
3及びClの合量を指す。
【0041】
SnO
2の好適な含有範囲は0〜10000ppm、0〜7000ppm、特に50〜6000ppmである、Clの好適な含有範囲は0〜1500ppm、0〜1200ppm、0〜800ppm、0〜500ppm、特に50〜300ppmである。SO
3の好適な含有範囲は0〜1000ppm、0〜800ppm、特に10〜500ppmである。
【0042】
Nd
2O
3、La
2O
3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分であり、また補色となる色を加えると、消色して、ガラスの色味をコントロールし得る成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に導入すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は、好ましくは4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下である。
【0043】
本発明では、環境面の配慮から、実質的にAs
2O
3、F、PbO、Bi
2O
3を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAs
2O
3を含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAs
2O
3を添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、As
2O
3の含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にBi
2O
3を含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBi
2O
3を添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Bi
2O
3の含有量が500ppm未満であることを指す。
【0044】
透光板10は、第1の主面10aと、第2の主面10bとを有する。本実施形態では、第1及び第2の主面10a、10bは、それぞれ、平坦面である。カバー部材1の第2の主面1bは、透光板10の第2の主面10bにより構成されている。透光板10の第1の主面10aの上には、コーティング膜11が設けられている。このコーティング膜11によって、凹凸面2を構成している第1の主面10aの少なくとも一部が覆われている。コーティング膜11は、例えば、第1の主面10aの全体を覆っていてもよいし、第1の主面10aの一部分を覆っていてもよい。コーティング膜11は、例えば、島状に設けられていてもよい。コーティング膜11が第1の主面10aの一部分を覆っている場合、カバー部材1の第1の主面1aは、コーティング膜11と第1の主面1aとにより構成される。
【0045】
カバー部材1が、例えばタッチセンサ等に用いられる場合は、カバー部材1の表面の耐久性(耐擦傷性など)が高いことが求められる。このため、コーティング膜11が硬質であることが好ましい。コーティング膜11の鉛筆硬度は、6H以上であることが好ましく、7H以上であることがより好ましく、8H以上であることがさらに好ましく、9H以上であることがなお好ましい。
【0046】
コーティング膜11は、例えば、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、ZrO
2などの無機酸化物からなる無機膜により構成することができる。なかでも、コーティング膜11は、SiO
2により構成されていることが好ましい。
【0047】
コーティング膜11の厚みは、例えば、0.1μm〜5μmであることが好ましい。
【0048】
なお、本実施形態では、コーティング膜11が透光板10の第1の主面10aに直接設けられた例について説明する。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、コーティング膜と透光板との間に、反射防止膜等が設けられていてもよい。また、透光板の第2の主面10bの上にも反射防止膜や透明導電膜等が設けられていてもよい。
【0049】
なお、反射防止膜は、例えば、透光板10よりも屈折率が低い低屈折率膜、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜であってもよい。反射防止膜は、例えば、スパッタリング法やCVD法などにより形成することができる。
【0050】
透明導電膜は、透光板10をカバーガラスとして使用する場合には、タッチセンサ用の電極として機能する。透明導電膜としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜などが挙げられる。なかでも、ITO膜は電気抵抗が低いため好ましく用いられる。ITO膜は、例えば、スパッタリング法により形成することができる。また、FTO膜やATO膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。
【0051】
本実施形態では、コーティング膜11がカバー部材1の表面を構成している。但し、本発明は、この構成に限定されない。コーティング膜の上に、例えば、指紋の付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するためのアンチフィンガープリント膜(AF膜)や反射防止膜等の別の膜がさらに設けられていてもよい。
【0052】
なお、AF膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、−Si−O−Si−ユニットを有し、かつ、フッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体が挙げられる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
【0053】
透光板10の凹凸面側に、反射防止膜とAF膜とを形成する場合には、凹凸面の上に反射防止膜が形成され、反射防止膜の上にAF膜が形成されることが好ましい。
【0054】
前述の通り、カバー部材の表面における光の正反射を抑制する観点からは、カバー部材のヘイズを大きくすることが好ましい。しかしながら、ヘイズの大きなカバー部材を前面に配したディスプレイは、解像度が低くなるという問題がある。すなわち、ヘイズを調整するだけでは、背景の映り込みの抑制と、高い解像度とを両立させることができない。
【0055】
本発明者らは、鋭意研究の結果、高い解像度を得るために、ヘイズをある程度小さくした場合であっても、下記の条件(A)と条件(C)または条件(B)と条件(C)が満たされるようにするか、若しくは、下記の条件(C)及び条件(D)が満たされるようにすることにより、背景の映り込みを抑制できることに想到した。
【0056】
条件(A):凹凸面の粗さ曲線の平均傾斜角(θ)が0.5°〜1.5°
条件(B):凹凸面のJIS B0601−2013で規定される粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1.0μm〜21.0μm
条件(C):(H
1−H
2)/Ra≧0.25
条件(D):凹凸面の粗さ曲線の平均傾斜角(θ)と凹凸面のJIS B0601−2013で規定される粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の積θ×RSmが0.5〜40°・μm
【0057】
但し、
H
1:凹凸面2の粗さ曲面のベアリングカーブにおいて、面積率が70%であるときの高さ、
H
2:凹凸面2の粗さ曲面のベアリングカーブにおいて、面積率が99%であるときの高さ、
Ra:凹凸面のJIS B0601−2013で規定される算術平均粗さ、である。
【0058】
ベアリングカーブとは、表面の粗さ曲面の高さ分布を解析する手法であるベアリングカーブプロット法により作成されたグラフである。ベアリングカーブプロットは、表面粗さデータにより表される曲面から基準面積だけ抜き取った部分において、中心面に平行な切断平面の位置(高さ成分)を変化させたとき、それに伴って変化する面積率(上記切断平面により切断される山の総断面積の基準面積に対する割合)をグラフで表したものである。ベアリングカーブでは、縦軸が、面積率(積算値)(%)とされ、横軸が高さ(nm)とされる。例えば、ベアリングカーブの、(高さ、面積率)が(Hnm,S%)であるポイントにおいては、凹凸面の全体の面積に対する、高さがHnm以上の領域の面積の比((高さがH以上の領域の面積)/(凹凸面の全体の面積))がS%であるということになる。
【0059】
そこで、カバー部材1では、凹凸面2の粗さ曲線の平均傾斜角(θ)が0.5°〜1.5°とされており、かつ、(H
1−H
2)/Raが0.25以上に設定されている。従って、カバー部材1を用いることにより、背景の映り込みが少なく、高い解像度を有するディスプレイを実現し得る。以下、この効果についてより詳細に説明する。
【0060】
本実施形態では、凹凸面2の粗さ曲線の平均傾斜角(θ)が0.5°〜1.5°とされている(条件(A))。このため、凹凸面2は、なだらかな凹凸により構成されている。それに加え、(H
1−H
2)/Raが0.25以上とされている(条件(C))。ここで、(H
1−H
2)/Raは、凹凸面2の谷部における、平坦な面の面積割合の指標と考えることができる。凹凸面2の谷部において平坦な部分が多いほど、(H
1−H
2)/Raが小さくなり、逆に、凹凸面2の谷部において平坦な部分が少ないほど、(H
1−H
2)/Raが大きくなる。このため、凹凸面2の谷部に占める、第1の主面10aと平行な領域の割合が少ない。よって、透過光が拡散しにくいにも関わらず、正反射が生じにくい。従って、カバー部材1を用いることにより、背景の映り込みが少なく、高い解像度を有するディスプレイを実現し得る。
【0061】
例えば、ヘイズを一定とすると、平均傾斜角θが小さくなるほど凹凸面を構成する凹凸が平坦に近くなり、凹凸面に占める、第1の主面10aと平行な領域の割合が多くなる傾向にある。同様に、(H
1−H
2)/Raが小さいほど、凹凸面の谷部に占める、第1の主面10aと平行な領域の割合が多くなる傾向にある。従って、平均傾斜角θが大きかったり、(H
1−H
2)/Raが小さかったりする場合は、正反射が生じやすくなり、背景が映り込みやすくなる。
【0062】
同様に、第1の主面10aが露出している場合も、背景が映り込みやすくなる。このため、コーティング膜11が第1の主面10aの全体を覆っていることが好ましい。例えば、コーティング膜11が島状である場合は、第1の主面10aの露出率が高くなる。このため、コーティング膜11は、島状でないことが好ましい。
【0063】
条件(B)(凹凸面のJIS B0601−2013で規定される粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1.0μm〜21.0μm)を満たすようにすることにより、優れた耐擦傷性と、高い解像度とを両立させることができる。粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が小さすぎると、表面の耐久性(耐擦傷性)が低下する場合がある。粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が大きすぎると、解像度が低下する場合がある。
【0064】
条件(D)(凹凸面の粗さ曲線の平均傾斜角(θ)と凹凸面のJIS B0601−2013で規定される粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の積θ×RSmが0.5〜40°・μm)を満たすようにすることにより、映り込みを抑制しつつ、高い解像度を得ることができる。積θ×RSmが小さすぎると、映り込みが目立つようになる場合がある。積θ×RSmが大きすぎると、解像度が低下する場合がある。
【0065】
なお、θやRSmに関する条件(A)、条件(B)及び条件(D)を好ましい範囲とする観点からは、透光板10の一主面の少なくとも一部を覆っており、凹凸面を構成しているコーティング膜11を設けることが好ましい。
【0066】
コーティング膜11は、微粒子分散膜などのように散乱粒子を含んでおらず、均質な膜であることが好ましい。その場合、解像度をより高めることができると共に、映り込みをより効果的に抑制することができる。
【0067】
コーティング膜11は、透光板10よりも低屈折率であることが好ましい。その場合、映り込みをより効果的に抑制することができる。
【0068】
高い解像度を有するディスプレイをより効果的に実現する観点から、平均傾斜角θは、0.9°以下であることが好ましく、0.8°以下であることがさらに好ましい。
【0069】
背景の映り込みをより効果的に抑制する観点から、(H
1−H
2)/Raは、0.45以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。
【0070】
高い解像度を有するディスプレイをより効果的に実現する観点から、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、20.0μm以下であることが好ましく、18.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0071】
高い解像度を有するディスプレイをより効果的に実現する観点から、積θ×RSmは、39°・μm以下であることが好ましく、38°・μm以下であることがさらに好ましい。
【0072】
なお、本発明において、平均傾斜角θは、具体的には、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0073】
平均傾斜角θの測定方法: 平均傾斜角θは、下記数式(1)で定義される。
【0074】
平均傾斜角θ=tan
−1Δa ……… (1) 数式(1)において、Δaは、下記数式(2)に示すように、JIS B 0601−2013に規定される粗さ曲線の基準長さlにおいて、隣り合う山の頂点と谷の最下点との差(高さh)の絶対値の合計(h1+h2+h3・・・+hn)を前記基準長さlで割った値である。
【0075】
Δa=(h1+h2+h3・・・+hn)/l ……… (2) 平均傾斜角は、具体的は、以下のように測定することができる。
【0076】
凹凸面2の上を、一の方向に沿ってレーザーや触針を走査させることにより、凹凸面2の表面の高さを一の方向に沿って測定する。この高さ測定を行う一の方向に沿った長さ(測定長さ)は、例えば、200μm〜350μm程度とすることができる。高さの測定は、例えば、0.5μm間隔で行うことができる。
【0077】
次に、中心線Lを決定する。具体的には、凹凸面の高さの平均値を通過する中心線Lを決定する。
【0078】
次に、0.5μm間隔毎に、凹凸面2と中心線Lとのなす角の大きさの絶対値を測定していく。そして、0.5μm間隔毎に測定された0.5μm間隔毎に、凹凸面2と中心線Lとのなす角の大きさの絶対値を平均することにより、平均傾斜角θを算出することができる。
【0079】
ヘイズは、拡散透過光の全光線透過光に対する割合である。このため、ヘイズを小さくすることにより、拡散透過光を少なくすることができる。従って、高い解像度を実現し得る。カバー部材1のヘイズは、10%未満であることが好ましく、4%未満であることがより好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。但し、カバー部材1のヘイズが小さすぎると、背景の映り込みが生じやすくなる場合がある。従って、カバー部材1のヘイズは、0.5%以上であることが好ましく、0.8%以上であることがより好ましい。
【0080】
次に、カバー部材1の製造方法の一例について説明する。
【0081】
まず、透光板10を用意する。次に、透光板10の第1の主面10aの上に、スプレー法により透光性材料を塗布し、乾燥させることによりコーティング膜11を成膜することができる。スプレー法を用いてコーティング膜11を形成することにより、θやRSmに関する条件(A)、条件(B)及び条件(D)を好ましい範囲とすることが容易となる。
【0082】
より詳細には、コーティング膜11の成膜は、以下のように行うことができる。コーティング室中を、透光板10を搬送しながら、透光板10の搬送方向に対して垂直な方向にノズルを往復走査させながら、ノズルから透光性材料を透光板10に向けて吐出していく。その後、得られた塗布膜を乾燥させることによりコーティング膜11を完成させることができる。成膜中は、コーティング室に、上方から下方に向かって流れる層流を付与することが好ましい。
【0083】
製造されるカバー部材1の平均傾斜角θや(H
1−H
2)/Raは、例えば、ノズルから吐出する液滴の粒径、吐出圧、単位面積あたりに吐出する量、層流の流量等を制御することにより調節することができる。
【0084】
例えば、ノズルから吐出する液滴の粒径を小さくすることにより、平均傾斜角θを小さくすることができ、(H
1−H
2)/Raを大きくすることができる。また、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を小さくすることができる。ノズルから吐出する液滴の粒径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0085】
例えば、ノズルからの吐出圧を高くすることにより、平均傾斜角θを小さくすることができ、(H
1−H
2)/Raを大きくすることができる。ノズルからの吐出圧は、例えば、0.25MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることがより好ましい。
【0086】
ノズルからの吐出圧を低くすることにより、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を小さくすることができる。この観点から、ノズルからの吐出圧は、0.34MPa以下であることが好ましい。
【0087】
例えば、単位面積あたりの塗布量を少なくすることにより、平均傾斜角θを小さくすることができ、(H
1−H
2)/Raを大きくすることができる。単位面積あたりの塗布量は、例えば、50g/m
2以下であることが好ましく、48g/m
2以下であることがより好ましい。
【0088】
例えば、層流の流量を多くすることにより、平均傾斜角θを小さくすることができ、(H
1−H
2)/Raを大きくすることができる。層流の流量は、例えば、25m
3/分以上であることが好ましい。
【0089】
なお、透光板10を強化ガラス板により構成する場合は、強化ガラス板の上にコーティング膜11を成膜してもよいし、ガラス板の上にコーティング膜11を成膜した後に、ガラス板を化学強化や風冷強化することにより強化してもよい。
【0090】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0091】
(実施例1
、参考例1、2及び比較例1) ガラス平板(日本電気硝子株式会社製無アルカリガラス平板、厚み0.7mm)の上に、SiO
2成分を含む液をスプレー法により塗布し、乾燥させることにより、コーティング膜を形成し、カバー部材を得た。詳細な条件は、表1に示す。
【0092】
(実施例4) ガラス平板(日本電気硝子株式会社製強化ガラス平板、厚み0.7mm)の上に、SiO
2成分を含む液をスプレー法により塗布し、乾燥させることにより、コーティング膜を形成し、カバー部材を得た。詳細な条件は、表1に示す。
【0093】
(比較例2,3) ガラス平板(日本電気硝子株式会社製無アルカリガラス平板、厚み0.7mm)の一主面をエッチングすることによって凹凸を形成し、カバー部材を得た。
【0094】
(ヘイズの測定) JIS K 7136(2000)に基づいて、実施例1
、4、参考例1、2及び比較例1〜3で作製したカバー部材のヘイズを測定した。結果を表1に示す。
【0095】
(平均傾斜角θ及び(H
1−H
2)/Raの測定) 上記平均傾斜角θの測定方法により、実施例1
、4、参考例1、2及び比較例1〜3で作製したカバー部材の平均傾斜角θを求めた。なお、今回の測定において、基準長さは317μmとした。また、317μm×238μmの範囲の表面粗さ曲面から、ベアリングカーブプロット法により、(H
1−H
2)/Raを求めた。結果を表1に示す。また、測定した凹凸面の粗さ曲線及びベアリングカーブプロットを
図2〜
図8に示す。各カバー部材の凹凸面の斜視図を
図9〜
図14に示す。
【0096】
(解像度の評価) 線の太さ1mm、高さ4mm、幅4mmの大きさの文字「c」の上方、高さ20mmの位置にカバー部材を設置し、500mm離れた位置から目視で文字「c」を観察した。その際、文字「c」がはっきり見えるものを◎、はっきり見えるもののややぼやけているものを○、ぼやけているが判別できるものが△、ぼやけて判別できないものを×という判定を行った。
【0097】
(映り込み度合いの評価) カバー部材の裏面にメンディングテープ(3M社製)を貼り付け、カバー部材凹凸面に蛍光灯を反射させた。その反射させた蛍光灯がぼやけて全く見えないものを◎、やや見えるもののぼやけているものを○、蛍光灯が見えるがややぼやけているものを△、蛍光灯がくっきり見えるものを×という判定を行った。