【文献】
山口博司他,竹繊維およびガラス繊維混入流体の流動特性,日本流体力学会年会2004講演論文集,2004年,A241,258〜259
【文献】
久保拓也他,竹繊維懸濁液の抵抗減少効果に関する研究,日本機械学会2012年度年次大会講演論文集,2012年,S054043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリマーは機械的劣化があるため循環系で使用し続けると抵抗低減効果が失われてしまい実用には不向きである。一方,界面活性剤は機械的せん断による劣化がほとんどなく循環系に利用でき,実用的に優れた性質を持つ。そのため近年、都市の熱エネルギー供給パイプラインシステムやビルの冷暖房空調システムに使用されているものの、界面活性剤水溶液は流体である液体に溶解してしまうため排水の際に簡単に回収することができない。そのため、その応用は閉回路のパイプラインシステムに限定されてしまう。
これに対して繊維は界面活性剤やポリマーと異なり,懸濁液中から回収することが可能であると考えられ,排水の際のコストを大幅に下げることが期待できる。
現在までの繊維に関してはナイロン(登録商標)、レーヨン(登録商標)などの合成繊維,アスベストなどで多く行われているが、現状では合成繊維ではかなりの高濃度に添加しないと十分な効果が得られず、アスベストは人体や環境への配慮から使用が制限されている。
【0007】
要するに、従来の流体の制御方法で使用されている抵抗低減剤では、十分な抵抗低減効果と環境負荷の低減とを両立したものがないのが現状であり、この点を充足する抵抗低減剤の開発が要望されているのが現状である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、流体を汚染することがなく、環境負荷が少なく、流体の抵抗低減効果にも優れた抵抗低減剤及び該抵抗低減剤を用いた流体制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、界面活性剤のように流体から分離不可能に溶解又は分散されない植物由来の繊維であっても流体の抵抗低減作用を発揮しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の各発明を提供するものである。
1.配管内を流れる流体の抵抗を低減する抵抗低減剤であって、植物由来繊維からなり、平均繊維長が0.3〜2.5mmで、平均アスペクト比が70〜120であることを特徴とする抵抗低減剤。
2.上記植物由来繊維のヤング率が15〜28である1記載の抵抗低減剤。
3.上記植物由来繊維が竹由来の繊維である1記載の抵抗低減剤。
4.配管内を流れる流体の抵抗を低減する流体制御方法であって、上記流体を上記配管内に流通させる前に、1記載の抵抗低減剤を混合することを特徴とする流体制御方法。
5.上記植物由来繊維の上記流体に対する濃度が2000〜10000ppmである4記載の流体制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抵抗低減剤は、流体を汚染することがなく、環境負荷が少なく、流体の抵抗を低減させることができるものである。
本発明に係る流体制御方法によれば、流体を汚染することがなく、環境負荷が少なく、流体の抵抗を低減させることができる。
この点さらに詳細に説明すると、本発明の流体制御方法は、植物由来繊維を抵抗低減剤として用いるので、該植物由来繊維が流体に溶解せず、流体に混入することがないため環境負荷が少ない。回収可能で再利用することが可能である。また、エネルギー損失が少ないため、ポンプの稼働など配管内の流体の流通に要するエネルギー消費量を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について適宜図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(抵抗低減剤)
まず、本発明の抵抗低減剤について説明する。
上記抵抗低減剤は、竹由来の繊維からなり、平均繊維長が0.3〜2.5mm、好ましくは0.5〜1.5mmで、平均アスペクト比が70〜120、好ましくは80〜100 である。
上記平均繊維長が0.5mm未満であると、流体からの分離が困難となり、2mmを超えると、抵抗低減効果が低下する。
また、アスペクト比が上記範囲外であると、抵抗低減効果が低下すると共に、流体からの分離が困難となる。
【0014】
また、上記植物由来繊維における好ましい由来植物は、竹、針葉樹、広葉樹、ワラ、木綿、マニラ麻ヨシ、ケナフ、リンター、サトウキビ、クワ等が挙げられ、本発明の流体制御方法においては特に竹が好ましい。また、竹以外の植物についてはそれらのパルプを原料として繊維化したものを本発明の抵抗低減剤として使用することができる。
すなわち、本発明において特に好ましく用いられる植物由来繊維(本発明の抵抗低減剤)は、竹由来の繊維からなり、平均繊維長が0.5〜2mmで、平均アスペクト比が70〜100である植物由来繊維である。
【0015】
また、上記植物由来繊維のヤング率は、15〜28GPaであるのが、抵抗低減効果をより高める点で好ましく、18〜25GPaであるのがさらに好ましい。
また、平均繊維径は、5〜30μmとするのが好ましく、5〜20μmとするのがさらに好ましい。
繊維(繊維一本ごと)の形状は、特に制限されないが、直線状となっているのが好ましい。
【0016】
上記植物由来繊維は、たとえば竹単繊維であれば以下のようにして得ることができる。
生の原料竹を適当な大きさに割り,繊維を分離する際の妨げとなる内・外皮を取り除いた後、アルカリ処理を効率化するためにロールプレス機を用いて圧搾を行い,柔細胞組織に亀裂を入れる。
ついで、2〜3wt%の水酸化ナトリウム水溶液で2時間煮沸し、水洗後に再度プレス圧搾を行って,柔らかくなった柔細胞組織の破壊をさらに進め、十分な水洗で柔細胞組織を洗い流し繊維束を得る。
繊維束を水と共にミキサーで1〜2分攪拌し,繊維束を竹単繊維に分離し、粗い金網中で水洗することによって残存する柔細胞を分離除去し、純粋な竹単繊維、すなわち上記植物由来繊維としての竹単繊維を得る。
【0017】
(流体制御方法)
ついで本発明の流体制御方法について説明する。
本発明の流体制御方法は、配管内に流体を流通させるに際して、上記流体を上記配管内に流通させる前に、該流体に上記植物由来繊維を混合することにより実施することができる。
本発明の流体制御方法で制御対象となる流体としては、液体が好ましく用いられる。液体としては、特に制限されないが、水、温水、エチレングリコールなどの各種冷媒、汚水(下水)、消防用消化剤 等を挙げることができる。
配管の形成材料、管径等は特に制限されないが、形成材料は、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ステンレス、鋼、銅、アルミニウム、ポリエチレン 等を挙げることができる。また、管径は通常用いられている内径であれば特に制限されないが、5mm以上であるのが好ましく、7mm以上であるのがさらに好ましく、内径の上限は通常の配管として用いられる径の大きさであれば特に制限されない。また、配管の形状も、直線状、L字状、S字状、U字状等種々形態とすることができる。配管の内径は、円形、矩形等種々の形状に対応可能である。
以下、本発明の流体制御方法が適用される装置の1実施形態を示した後、本発明の流体制御方法の詳細について説明する
【0018】
〔配管装置〕
図1に示す配管装置1は、流体としての水を入れておくタンク10と、配管20とからなり、配管20には、ポンプ21とバルブ22と、フローメータ23とを備えている。また、フローメータ23よりも下流側には圧力損失計測用のアクリル製の配管部分24が設けられている。そして一定距離をもってどの程度の圧力損失ができるのかを測定する。測定したデータは、圧力変異計で測定し、測定データはパソコン26に送られて保存されると共に表計算ソフトに入力されて時系列で推移を把握するなどして管理されている。
配管20全体は、アクリル樹脂製の管により形成されており、本実施形態においては上述の測定用の配管部分24が設けられている。しかし、この配管部分24は特に設ける必要はなく、また、配管は全体を一つの形成材料で形成しても、2以上の形成材料で形成してもよい。本実施形態においては、アクリル製の管の部分は全体で900mmの長さがあり、圧力損失の測定ができるように圧力測定孔の間隔は300mm、助走区間は600mm取ってある。配管20の内径は10mmとしてある。
本発明が適用される配管装置としては、
図1に示す例に制限されるものではなく、種々適用場面における配管装置に好適に用いることができる。たとえば、化学プラントの冷媒循環装置、ビルや都市などの温水冷水循環システム等が挙げられる。
【0019】
〔使用量(混合濃度)〕
上記植物由来繊維の使用量は、上記植物由来繊維の混合濃度として、下限を2000ppmとし、上限を10000ppmとするのが、抵抗低減効果を十分に発揮させる点で好ましい。さらに好ましい濃度の上限は7000ppmであり、最も好ましい濃度の下限は、4000ppmである。
なお、混合濃度は、乾燥した植物由来繊維を溶媒に分散させてなる混合分散液の重量と該植物由来繊維の重量との比である。
【0020】
〔制御操作〕
流体の制御操作について説明する。
まず、タンク10に流体としての水を投入して、配管20の流入口と排出口とがタンク10の水に浸漬されるようにする。ついで、ポンプ21を作動させて水をバルブ22方向(図の矢印で示す流れ方向)に向けて移送する。バルブ22を開放して流体を流通させる。この際フローメータ23で流量を確認しつつ適宜バルブ22の開放度を調節する。
そして所定の流路(配管)を流通した水は配管の排出口から排出されてタンク10へと戻ることになる。この際、特に図示しないが、所定メッシュのネットを配管の排出口に設置し、流体を通過させることで水に混合された植物由来繊維を除去することができる。
また、タンクに恒温装置を備え付けておけば流体の温度を一定に保つこともできる。
【0021】
〔効果〕
以上のように流体の制御を行うことで、流体の抵抗を低減させることができ、ポンプの出力を抑制できるなど、エネルギー効率の高い流体流通を可能にすることができる。
その他、本発明の抵抗低減剤は流体に溶解しないため、流体への異物の混入がなく、例えば流体が水である場合には、そのまま廃棄しても環境への負荷がない。また、回収して再利用が可能であり、省資源化に資する。流体を流通させる際のエネルギー損失が少ないため、省エネルギー効果が高い。
【0022】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕
植物由来繊維として、上述の製造方法に準じて得られた竹単繊維を使用し、
図1に示す配管装置を用いて流体である水を流通させて配管部分24における圧力損失を測ることで流体の抵抗低減効果を測定した。
使用した竹単繊維を流体である水に分散させた状態の顕微鏡写真を
図2に示す。この繊維の平均繊維長は1.19mm,平均直径は13.3μmで平均アスペクト比は89.7であった。また、
図2から繊維は直線状で両端が針状になっていることが確認できる。以下、種々測定を行っているが、いずれもこの竹単繊維を用いている。
竹単繊維の濃度を
図3に示す各量に種々変更して、濃度と抵抗低減率DRとの関係を測定した。竹単繊維の混合濃度Cwは、乾燥した繊維の質量と水道水の質量の比〔繊維の質量/(繊維の質量+水の質量)〕で決定した。その結果を
図3に示す。
DRは以下に示す式より求めた。
DR〔%〕={(λwater−λsuspension)/λwater}×100〔%〕・・・(1)
λ
waterは水の管摩擦係数,λ
suspensionは供試流体の管摩擦係数である。
図3に示す結果から明らかなように、DRはCwの増加に伴い大きくなっていくがCw=3500ppmを過ぎたあたりから変化しなくなった。繊維長及び繊維径がほぼ同じであるナイロンなどの合成繊維では低減効果を得るのに約Cw=10000ppm必要という結果が報告されているので、本発明によれば従来の技術より低い濃度で十分な抵抗低減効果が得られていることがわかる。
【0025】
ついで、管径を
図4に示す大きさに種々変更して、管径と抵抗低減効果との関係を測定した。
図4はCw=3500ppmにおけるDRとレイノルズ数Reとの関係を管径dごとに示したものである。
管径が大きくなるにつれてDRも大きくなっていることがわかる。また、DRはReによって変化し、どの管径においてもRe=20000前後で最大のDRを示していることがわかる。この結果から、本発明の抵抗低減剤は、種々管径で有効であることがわかる。
【0026】
次に、濃度Cw=3500ppmとし、配管の排出口に孔径0.3mmのネットを設置して繊維を回収できるようにし、ネットを設置後、繊維が回収されるか否かを、DRがどのように変化するか測定することで確認した。横軸にはネットを設置してからの時間t、流量から算出したタンク内の水がネットを通過した回数Nを表している。DRはt、Nの増加とともに減少し、t=300s、N=25でほぼ0になり、水の管摩擦係数に戻ったということがわかる。この結果から、上記ネットを通過させることで、繊維を完全に回収することができることがわかる。
また、本実施例の竹単繊維を濃度Cw0.35wt%(3500ppm)として水中に混合した場合のヤング率を測定した。その結果を表1に示す。また、その際のDRは2〜20であり、抵抗低減剤を添加しない場合に比して抵抗が低減している。
比較として繊維なしの場合のDR、ナイロン繊維、レイヨン繊維、およびアスベスト繊維を用いた場合にDRの低減が見られた濃度とヤング率及びDRとをそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
抵抗低減効果は濃度3500ppmでのDRの低減があったか否かで判定し、低減していた場合は○、低減していなかった場合は×とした。
表1に示す結果から明らかなようにナイロン繊維やレイヨン繊維では本実施例の竹短繊維と同程度の低濃度では十分な効果が得られず、また、これらの合成繊維では環境に対する負荷も高い。また、アスベスト繊維では効果が見られた場合にあまりにアスペクト比が高過ぎて、回収が困難であり環境負荷の高いものであった。
【表1】
【0027】
上述の実験結果から、次のことがわかる。
(1)所定の繊維長及びアスペクト比を有する竹単繊維を懸濁させた流体は、高い抵抗低減効果を奏し、溶液において、Re=20000で最大で約20%の抵抗低減を得た。
(2)孔径0.3mmのネットを使うことで懸濁液中から繊維を回収することが可能で、リサイクル可能であると共に環境負荷が少ない。