(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、プラズマを治療に用いる研究が活発になされてきている。例えば、患部の消毒である。また、その他に、ガンの治療についても研究されてきている。また、本発明者らも、プラズマ照射によるガンの治療について研究を行っている(非特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載の液中プラズマ発生装置等、従来のプラズマ発生装置では、人体の内部にプラズマを発生させることは容易ではない。仮に、開腹した後にその開口部から患部にプラズマを照射するとしても、プラズマを照射するたびに患者に開腹を強いることとなる。これでは、患者に与える肉体的負担が大きい。
【0007】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、人体内の患部にプラズマを照射することのできるプラズマ発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様におけるプラズマ発生装置は、円筒形状の円筒電極と、円筒電極の内部に収容されている内部電極と、円筒電極と内部電極との間に位置する絶縁部材と、を有する。そして、円筒電極は、注射針形状をしている電極である。
また、内部電極の先端部分に、マイクロホローが形成されている。
【0009】
このプラズマ発生装置は、人体に注射する要領で人体の内部に円筒電極を挿入し、人体の内部にプラズマを発生させることができる。円筒電極が注射針形状であるためである。また、円筒電極の外径をごく小さいものとすることができる。円筒電極の内部に内部電極を収容するためである。
また、マイクロホローが形成されているため、電子が高濃度で放出される。これにより、プラズマ密度の高いプラズマが発生する。そして、ラジカル密度の高いラジカルが発生する。
【0010】
第2の態様におけるプラズマ発生装置
は、円筒形状の円筒電極と、円筒電極の内部に収容されている内部電極と、円筒電極と内部電極との間に位置する絶縁部材と、を有する。そして、円筒電極は、注射針形状をしている電極である。円筒電極の先端部分の内側面の少なくとも一部は、絶縁部材に覆われずに露出している露出部を有する。また、露出部に、マイクロホローが形成されている。このため、円筒電極の露出部と内部電極との間で、好適にプラズマを発生させることができる。また、マイクロホローが形成されているため、電子が高濃度で放出される。これにより、プラズマ密度の高いプラズマが発生する。そして、ラジカル密度の高いラジカルが発生する。
【0011】
第3の態様におけるプラズマ発生装置
においては、内部電極の先端部分に、マイクロホローが形成されている。
【0012】
【0013】
第4の態様におけるプラズマ発生装置では、絶縁部材と内部電極との間に、ガスを流すためのガス供給路が設けられている。これにより、ラジカル源となるガスを電極間の空間に形成することができる。
【0014】
第5の態様におけるプラズマ発生装置では、内部電極と円筒電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有する。電圧印加部により、内部電極と円筒電極との間に電圧を印加することができる。
【0015】
第6の態様におけるプラズマ発生装置では、円筒電極は、接地されているものである。これにより、プラズマを発生させても、患者が感電するおそれはほとんどない。円筒電極は、人体に挿入されるときに実際に人体に接触している箇所である。
【0016】
第7の態様におけるプラズマ発生装置では、電圧印加部は、内部電極および円筒電極を液体中に浸漬した状態で内部電極と円筒電極との間に電圧を印加するものである。これにより、人体の体液の中にプラズマを発生させることができる。また、人体の内部に生理食塩水等を注入し、その状態でプラズマを発生させることもできる。これにより、好適にプラズマを人体に照射することができる。
【0017】
第8の態様におけるプラズマ発生装置では、円筒電極の外径が0.2mm以上5.0mm以下の範囲内である。外径が小さいため、人体に挿入してプラズマを発生させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人体内の患部にプラズマを照射することのできるプラズマ発生装置が提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、具体的な実施形態について、人体の内部の液体中にプラズマを発生させるプラズマ発生装置を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
1.プラズマ発生装置の構成
本実施形態のプラズマ発生装置は、注射器のように人体に挿入して、体内の患部にプラズマを照射するためのものである。
図1は、本実施形態のプラズマ発生装置100の全体の構成を示す模式図である。
図1に示すように、プラズマ発生装置100は、電極体E10と、ホルダー110と、高電圧電源120と、を有している。
【0022】
電極体E10は、後述するように、電極を有している。また、電極体E10は、人体の皮脂下に挿入できるように注射針の形状をしている。そのため、電極体E10の外径は、0.2mm以上5.0mm以下の範囲内と細い。この径は、通常の注射器と、同程度である。そして、電極体E10の先端部分には、円筒を斜めにカットした形状である端面S1が形成されている。
【0023】
ホルダー110は、電極体E10を支持するとともに、人体への挿入時に、医者等の治療行為を行う者がプラズマ発生装置100を保持するための保持部である。ホルダー110の材質は、絶縁部材である。例えば、樹脂である。治療行為を行う者が感電しないようにするためである。
【0024】
高電圧電源120は、後述する電極体E10の電極間に電圧を印加するための電圧印加部である。高電圧電源として、例えば、60Hz交流または50Hz交流を昇圧した高電圧電源や、その他の高周波高電圧電源を用いることができる。
【0025】
2.電極体の構成
図2は、電極体E10の内部構造を示す断面図である。
図2に示すように、円筒電極10と、管状絶縁部材20と、内部電極30と、を有している。
【0026】
円筒電極10は、円筒形状の電極である。その外径は、0.2mm以上5.0mm以下の範囲内である。もちろん、これ以外の値であってもよい。円筒電極10の材質は、例えば、ステンレス鋼(SUS)である。もちろん、これ以外であってもよい。そして、円筒内部に管状絶縁部材20と、内部電極30とを収容している。そして、円筒電極10の先端部分の端面S1は、円筒電極10の中心軸と斜めに交差する。円筒電極10は、注射針の役割を果たすものである。したがって、円筒電極10は、注射針形状をしている。したがって、円筒電極10の外径も、一般的な注射針の外径と同程度である。なお、一般的な注射針の外径および内径の規格の一部を表1に示す。ただし、これらは例示であり、本実施形態の適用範囲を限定するものではない。
【0027】
管状絶縁部材20は、管状の絶縁部材である。管状絶縁部材20は、先端部分を除く円筒電極10の内部の領域で、円筒電極10と内部電極30との間に放電が生じないようにするためのものである。そのため、円筒電極10と内部電極30との
間に位置している。そして、内部電極30を先端部分まで覆っている。これにより、円筒電極10と内部電極30との間の放電箇所を限定し、電極体E10の先端部分にプラズマを発生させるのである。
【0028】
内部電極30は、円筒電極10の円筒内部に収容されている内部電極である。内部電極30は、例えば、金属線である。このように内部電極30の形状は、線状あるいは細長い円柱形状である。内部電極30の外径は、例えば、0.5mm程度である。もちろん、内部電極30の外径は、管状絶縁部材20の内径よりわずかに小さい。内部電極30の材質は、例えば、ステンレス鋼(SUS)である。もちろん、その他の金属であってもよい。そして、内部電極30は、その先端部分に至るまで管状絶縁部材20により被覆されている。そして、内部電極30の先端部分には、ホローH1が形成されている。ホローH1は、微細な凹部を繰り返し形成されたマイクロホローである。
【0029】
[表1]
ゲージ 外径(mm) 内径(mm)
32G 0.236 0.108
18G 1.273 0.840
07G 4.583 3.819
【0030】
ここで、円筒電極10と、内部電極30とにおける電極の性質について説明する。円筒電極10は、グラウンドに接地された第1の電極である。円筒電極10は、使用時において、常に接地されている。したがって、電位は常にゼロである。患者に直接触れる部分であるため、患者を感電させることのないようにするためである。
【0031】
内部電極30は、高電圧電源120により周期的に変化する電位を与えられる第2の電極である。そのため、円筒電極10と内部電極30との間に高電圧の電圧が印加されることとなる。
【0032】
円筒電極10の先端部分Lの内側面の少なくとも一部は、管状絶縁部材20に覆われずに露出している。内側面S2は、その露出している露出部である。そのため、円筒電極10と内部電極30との間に電圧が印加された場合には、円筒電極10の内側面S2と、内部電極30のホローH1との間で主に放電が生じる。
【0033】
3.使用時におけるプラズマ発生装置の動作
図3は、円筒電極10と内部電極30との間に電圧を印加した場合を示す図である。これにより、円筒電極10の内側面S2と、内部電極30のホローH1との間で放電が生じる。この放電により、液体中にガスG1が発生する。具体的には、円筒電極10の内側面S2と、内部電極30のホローH1との間にガスG1が発生する。そして、ガスG1の内部にプラズマP1が発生する。
【0034】
4.プラズマ発生装置を用いた治療方法
まず、注射針形状の電極体E10を人体に挿す。次に、電極体E10の先端部分、すなわちプラズマを発生させる部分を患部に近づける。そして、そのまま、円筒電極10と、内部電極30との間に電圧を印加する。つまり、円筒電極10および内部電極30を人体内の液体中に浸漬した状態で円筒電極10と内部電極30との間に電圧を印加するのである。これにより、前述したように、ガスG1中にプラズマP1が発生する。このプラズマP1を患部に当てる。これにより、患部を治療することができる。
【0035】
なお、円筒電極10は接地されているので、円筒電極10の電位はゼロである。そのため、円筒電極10と内部電極30との間に電圧を印加しても、円筒電極10と接触している箇所から、患者が感電するおそれはない。また、放電領域も極めて限定的であるため、放電により患者を感電させるおそれはない。また、ガスG1が患者の体内で発生しても、それにより患者に加わる負担はほとんどない。また、患者の体内からガスG1を吸引して回収することとしてもよい。
【0036】
このように、患部が人体の体液に浸かっている場合には、上記のように、プラズマを照射すればよい。そうでない箇所においても、生理食塩水等で患部の周囲を浸すことにより、患部を治療することができる。
【0037】
5.実験
ここで、本実施形態のプラズマ発生装置100を用いて、水中でプラズマを発生させた実験の観察結果を示す。用いた円筒電極10の外径は、表1の18Gと同じものである。つまり、電極体E10の外径は、1.273mmである。注射針、すなわち、電極体E10の長さは、45mmである。
図4は、プラズマ発生装置100を水槽の中に浸けた様子を示す写真である。この段階では、未だ円筒電極10と内部電極30との間に電圧を印加していない。すなわち、プラズマは発生していない。
【0038】
図5は、プラズマ発生装置100に、円筒電極10と内部電極30との間に電圧を印加したところを示す写真である。
図5に示すように、電極体E10の先端部分でガスG1が発生している。電極体E10の外径と比較すると、ガスG1の発生領域はそれほど広くはない。ただし、プラズマを患部に照射することが可能であることに変わりない。
【0039】
6.変形例
6−1.円筒電極におけるホローの形成
本実施形態では、内部電極30のホローH1と、円筒電極10の内側面S2との間で放電を生じさせることとした。しかし、
図6に示すように、円筒電極10の内側面S2の少なくとも一部に、ホローH2を形成することとしても良い。ホローH2は、微細な凹部を繰り返し形成されたマイクロホローである。この場合には、内部電極30のホローH1と、円筒電極10のホローH2との間で放電が生じる。そのため、プラズマ密度のより高いプラズマを生成させることができる。
【0040】
6−2.内部電極の位置
図2では、内部電極30の先端部分は、管状絶縁部材20の先端部分よりも円筒電極10の先端から遠い位置にある。しかし、内部電極30の先端部分を、管状絶縁部材20から突出するようにしてもよい。その場合には、管状絶縁部材20の先端面を、円筒電極10の先端から遠い方の位置に配置してやればよい。この場合においても、プラズマの発生は可能である。
【0041】
7.まとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態に係るプラズマ発生装置100は、注射針形状の円筒電極10と、その内部に配置されている内部電極30とを有するものである。そのため、注射器による注射のように、人体の内部に注射針形状の電極体E10を挿入しつつ、人体の内部でプラズマを発生させることができる。これにより、ガンの治療に用いることのできるプラズマ発生装置100が実現されている。
【0042】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、また、電極および絶縁体の材質については、記載したものに限らない。
【0043】
(第2の実施形態)
1.プラズマ発生装置の構成
第2の実施形態について説明する。第1の実施形態のプラズマ発生装置100では、人体内の液体中で放電することにより、ガスG1とその内部のプラズマP1とを発生させることとした。しかし、プラズマ発生装置からプラズマを発生させるためのガスを供給することとしてもよい。本実施形態のプラズマ発生装置では、ガスを供給するためのガス供給部を有する点が第1の実施形態のプラズマ発生装置100と異なっている。そのため、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。そして、第1の実施形態と共通する部分については、記載を省略する。
【0044】
図7に、本実施形態のプラズマ発生装置200の構成を示す。
図7に示すように、プラズマ発生装置200は、電極体E30と、ホルダー110と、高電圧電源120と、ガス供給部210と、を有している。これらのうち、ホルダー110および高電圧電源120については、第1の実施形態のものと同様である。電極体E30については、後述する。
【0045】
ガス供給部210は、電極体E30にガスを供給するためのものである。ガス供給部210は、弁の開閉により、電極体E30にガスを供給する供給状態とそれを停止する停止状態とをとることのできるものである。もちろん、電極体E30での放電時には、ガスを供給し、それ以外にはガスの供給を停止する。ガス供給部210が電極体E30に供給するガスは、例えば、Arガスである。また、その他の希ガスであってもよい。そして、ガンの治療に用いるラジカル源となるガスを含んでいてもよい。つまり、第1の実施形態と異なり、ガンの治療に特に有効なラジカルを生成するためのラジカル源を外部から供給することができる。
【0046】
2.電極体の構成
図8は、電極体E30の内部構造を示す断面図である。
図8に示すように、円筒電極10と、管状絶縁部材20と、内部電極40と、を有している。
【0047】
内部電極40は、第1の実施形態とほぼ同様である。そのため、内部電極40の先端部分には、ホローH1が形成されている。ただし、
図8に示すように、内部電極40と管状絶縁部材20との間には、隙間がある。この隙間は、ガス供給部210により供給されるガスを流すためのガス供給路50である。ガス供給路50は、内部電極40の外側面41と、管状絶縁部材20の内側面21との間に形成された空間である。これにより、人体の体内にプラズマを注入することができる。
【0048】
3.プラズマ発生装置を用いた治療方法
まず、注射針形状の電極体E30を人体に挿す。次に、電極体E30の先端部分、すなわちプラズマを発生させる部分を患部に近づける。そして、そのままの状態で、ガス供給部210からガスを供給するとともに、円筒電極10と、内部電極40との間に電圧を印加する。これにより、前述したように、ガスG1中にプラズマP1が発生する。そして、ガスG1の内部で、治療に好適なラジカル種とその量を制御することができる。このプラズマP1を患部に当てる。これにより、患部を治療することができる。
【0049】
なお、円筒電極10は接地されているので、円筒電極10の電位はゼロである。そのため、円筒電極10と内部電極40との間に電圧を印加しても、円筒電極10と接触している箇所から、患者が感電するおそれはない。また、放電領域も極めて限定的であるため、放電により患者を感電させるおそれはない。また、ガスG1が患者の体内で発生しても、それにより患者に加わる負担はほとんどない。また、患者の体内からガスG1を吸引して回収することとしてもよい。
【0050】
4.変形例
4−1.円筒電極におけるホローの形成
第1の実施形態のように、円筒電極10の内側面S2に、ホローH2を形成することとしてもよい。
【0051】
4−2.内部電極の位置
図8では、内部電極40の先端部分は、管状絶縁部材20の先端部分よりも円筒電極10の先端から遠い位置にある。しかし、内部電極40の先端部分を、管状絶縁部材20から突出するようにしてもよい。その場合には、管状絶縁部材20の先端面を、円筒電極10の先端から遠い方の位置に配置してやればよい。この場合においても、プラズマの発生は可能である。
【0052】
4−3.内部電極の被覆
本実施形態では、管状絶縁部材20は、内部電極40を収容しているものの、内部電極40の表面を被覆していない。ガス供給路50があるからである。そのため、内部電極40の表面を被覆する絶縁部材を別途設けることとしてもよい。
【0053】
5.まとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態に係るプラズマ発生装置200は、注射針形状の円筒電極10と、その内部に配置されている内部電極40とを有するものである。そのため、注射器による注射のように、人体の内部に注射針形状の電極体E30を挿入しつつ、人体の内部でプラズマを発生させることができる。これにより、ガンの治療に用いることのできるプラズマ発生装置200が実現されている。
【0054】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、また、電極および絶縁体の材質については、記載したものに限らない。