特許第5979355号(P5979355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979355
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】スピーカ装置及びスピーカボックス
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20160817BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H04R1/02 101B
   H04R1/00 311
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-130062(P2012-130062)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-255116(P2013-255116A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】渥美 和也
【審査官】 武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−285978(JP,A)
【文献】 実開平05−091089(JP,U)
【文献】 特開2008−187464(JP,A)
【文献】 特開昭58−033392(JP,A)
【文献】 特開2009−218763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面にスピーカを配置させたスピーカボックスと、
前記スピーカボックスと一体的に形成され又は前記スピーカボックスに組み付けられて、一端にて前記スピーカボックスの外部に開口し、かつ他端にて前記スピーカボックス内に開口したバスレフポートと、
前記スピーカボックス内に配置され、外部からの音響信号を前記スピーカに導く電気回路装置とを備えたスピーカ装置において、
前記スピーカボックス内に配置され、前記スピーカに対向する側を開口させて、前記電気回路装置と前記バスレフポートの他端側とを隔離する防滴壁を設けたことを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したスピーカ装置において、
前記電気回路装置は、前記スピーカボックス内にて前記スピーカの後方に配置されており、
前記防滴壁は、前記スピーカボックス内にて前記スピーカの後方に配置され、前記スピーカの後方に空間を形成した状態で、前記電気回路装置と前記バスレフポートの他端側とを隔離するスピーカ装置。
【請求項3】
前記防滴壁は、前記スピーカに対向する前記スピーカボックスの内面から立ち上げた壁である請求項1又は2に記載したスピーカ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載したスピーカ装置において、
前記防滴壁の前記スピーカ側の端面は、前記バスレフポートの他端よりも前記スピーカ側に位置するスピーカ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一つに記載したスピーカ装置において、
前記防滴壁は、前記スピーカボックスの内側面から延設させた一対の側壁部と、前記一対の側壁部の端部を連結する連結壁部とを有し、前記一対の側壁部と前記連結壁部とによって囲まれた空間を形成し、前記空間内に前記電気回路装置を収容するようにしたスピーカ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一つに記載したスピーカ装置において、
前記スピーカボックスを、内部に空間を形成したキャビネットと、前記キャビネットの前面に組み付けられるとともに前記スピーカを組み付けたバッフル板とで構成し、
前記防滴壁を前記キャビネットと一体成型したスピーカ装置。
【請求項7】
前面にスピーカを配置させ、かつ
バスレフポートを一端にて外部に開口するとともに他端にて内部に開口するように配置させてなり、
外部からの音響信号を前記スピーカに導く電気回路装置を配置させるための空間を形成したスピーカボックスにおいて、
前記スピーカに対向する側を開口させて、前記電気回路装置を配置させるための空間と前記バスレフポートの他端側とを隔離する防滴壁を設けたことを特徴とするスピーカボックス。
【請求項8】
請求項7に記載したスピーカボックスにおいて、
前記電気回路装置を前記スピーカの後方に配置させるための空間を形成しており、
前記防滴壁は、前記スピーカの後方に配置され、前記スピーカの後方に空間を形成した状態で、前記電気回路装置を配置させるための空間と前記バスレフポートの他端側とを隔離するスピーカボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水滴が発生する場所での使用に好適なスピーカ装置及びスピーカ装置を構成するためのスピーカボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、屋外又は施設内に配置されるスピーカ装置においては、長距離伝送でのロスを防ぐために、一定電圧システム(Constant Voltage System)が用いられることが多い。この一定電圧システムにおいては、図5に示すように、音響信号を増幅する増幅器1を備え、増幅器1の出力に複数のスピーカ装置2を並列に接続し、電圧振幅の大きな音響信号が複数のスピーカ装置2に供給されるようになっている。例えば、100Vの振幅を有する音響信号が複数のスピーカ装置2に供給される。複数のスピーカ装置2は、ステップ・ダウン・トランス2aをそれぞれ備え、入力された音響信号をステップ・ダウン・トランス2aで通常のスピーカ(例えば、4Ω又は8Ωのスピーカ)用の音響信号に変換して、複数のスピーカ2bにそれぞれ供給する。
【0003】
また、この種のスピーカ装置においては、下記特許文献1に示されるように、スピーカボックス内に、低音域の音響特性を良好にするためのバスレフポートが設けられている。このバスレフポートは、通常、円筒状に構成され、その一端はスピーカボックス外に開口するとともに、その他端はスピーカボックス内に開口している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4560792号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前記バスレフポートを有する従来のスピーカ装置においては、スピーカ装置を屋外に配設した場合、雨天時には、バスレフポートを介して雨滴(水滴)がスピーカボックスの外部から内部に侵入することがある。この内部への雨滴の侵入は、特に風の強い日に激しい。また、室内に配設したスピーカ装置においても、シャワー、水道などの水滴が発生する場所では、シャワー水、水道水などによる水滴がスピーカボックス内にバスレフポートを介して侵入することがある。一方、スピーカボックス内に収容され、前記ステップ・ダウン・トランス2aを含む電気回路装置には、増幅器1からの大振幅すなわち高電圧の音響信号が供給されている。このため、前記侵入した水滴により、電気回路装置がショートしたり、前記ショートによって電気回路装置が故障したりするという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、バスレフポートを備えたスピーカ装置において、屋外で使用したり、水滴が発生する屋内で使用したりしても、バスレフポートを介して侵入する水滴により、電気回路装置がショートしたり、前記ショートによって電気回路装置が故障したりすることがないようにしたスピーカ装置を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、この実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、前面にスピーカ(51,52)を配置させたスピーカボックス(SB)と、スピーカボックスと一体的に形成され又はスピーカボックスに組み付けられて、一端にてスピーカボックスの外部に開口し、かつ他端にてスピーカボックス内に開口したバスレフポート(22,23)と、スピーカボックス内に配置され、外部からの音響信号を前記スピーカに導く電気回路装置(40)とを備えたスピーカ装置において、スピーカボックス内に配置され、スピーカに対向する側を開口させて、電気回路装置とバスレフポートの他端側とを隔離する防滴壁(16,71〜74)を設けたことにある。
【0008】
この場合、例えば、電気回路装置は、スピーカボックス内にてスピーカの後方に配置されており、防滴壁は、スピーカボックス内にてスピーカの後方に配置され、スピーカの後方に空間を形成した状態で、電気回路装置とバスレフポートの他端側とを隔離するとよい。また、防滴壁は、例えば、スピーカに対向するスピーカボックスの内面から立ち上げた壁であるとよい。また、防滴壁のスピーカ側の端面は、バスレフポートの他端よりもスピーカ側に位置するとよい。さらに、防滴壁は、スピーカボックスの内側面から延設させた一対の側壁部(16a,16b)と、一対の側壁部の端部を連結する連結壁部(16c)とを有し、一対の側壁部と連結壁部とによって囲まれた空間を形成し、前記空間内に電気回路装置を収容するようにするとよい。
【0009】
上記のように構成したスピーカ装置においては、雨天時であり、特に風が強い場合には、雨滴が、バスレフポートからスピーカボックス内に侵入することがある。また、室内に配設したスピーカ装置においても、シャワー、水道などの水滴が発生する場所では、水滴がスピーカボックス内にバスレフポートを介して侵入することがある。このような場合でも、電気回路装置は、防滴壁によりバスレフポートの他端とは隔離された空間に配置されており、防滴壁は水滴の前記空間内への侵入を防ぐ。したがって、本発明によれば、水滴が電気回路装置に達することが防止され、電気回路装置の一部がショートしたり、前記ショートによる電気回路装置の故障の発生が防止される。また、防滴壁が、スピーカボックス内にてスピーカの後方に配置され、スピーカの後方に空間を形成するようにすれば、スピーカボックス内の共振周波数を低く保つことができ、スピーカボックス内の音響特性、特に低音域の音響特性を良好に保つことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、スピーカボックスを、内部に空間を形成したキャビネット(10)と、キャビネットの前面に組み付けられるとともにスピーカを組み付けたバッフル板(20)とで構成し、防滴壁を前記キャビネットと一体成型したことにある。これによれば、防滴壁をスピーカボックス内に簡単に設けることができる。
【0011】
さらに、本発明の他の特徴は、前面にスピーカを配置させ、かつバスレフポートを一端にて外部に開口するとともに他端にて内部に開口するように配置させてなり、外部からの音響信号をスピーカに導く電気回路装置をスピーカの後方に配置させるための空間を形成したスピーカボックスにおいて、スピーカに対向する側を開口させて、電気回路装置を配置させるための空間とバスレフポートの他端側とを隔離する防滴壁を設けたことにある。この場合、例えば、スピーカボックスは、電気回路装置をスピーカの後方に配置させるための空間を形成しており、防滴壁は、スピーカの後方に配置され、スピーカの後方に空間を形成した状態で、電気回路装置を配置させるための空間とバスレフポートの他端側とを隔離するとよい。
【0012】
この本発明の他の特徴は、電気回路装置を組み込む前のスピーカ装置を構成するスピーカボックスに適用したものであるが、防滴壁は、スピーカに対向する側を開口させて、電気回路装置を配置させるための空間とバスレフポートの他端側とを隔離するものである。したがって、スピーカボックスに電気回路装置を組み込んだ状態では、上記本発明の特徴の場合と同様に、水滴による電気回路装置の一部のショート及び前記ショートによる電気回路装置の故障発生の防止が期待される。また、防滴壁は、スピーカの後方に配置され、スピーカの後方に空間を形成するようにすれば、スピーカボックス内の音響特性、特に低音域の音響特性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るスピーカ装置の正面図である。
図2図1の2−2線に沿って見たスピーカ装置の縦断面図である。
図3図1の3−3線に沿って見たスピーカ装置の横断面図である。
図4】(A)はスピーカ装置を垂直な壁面に取り付けた概略図であり、(B)はスピーカ装置を水平な天井面に取付けた概略図である。
図5】複数のスピーカ装置に音響信号を供給する一定電圧システムの概略ブロック図である。
図6】(A)は第1変形例に係る防滴壁を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。
図7】(A)は第2変形例に係る防滴壁を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。
図8】(A)は第3変形例に係る防滴壁を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るスピーカ装置について説明する。図1は、スピーカ装置の正面図である。図2は、図1の2−2線に沿って見たスピーカ装置の縦断面図である。図3は、図1の3−3線に沿って見たスピーカ装置の横断面図である。
【0015】
スピーカ装置は、キャビネット10及びバッフル板20からなり、内部に略四角錐台状の空間を有するスピーカボックスSBを備えている。キャビネット10は、上側部11(図2にて上側の部分)、下側部12(図2にて下側の部分)、左側部13(図3にて左側の部分)、右側部14(図3にて右側の部分)、及び底面部15(図2にて右側の部分であり、かつ図3にて上側の部分)からなり、合成樹脂により一体成型されている。上側部11及び下側部12は、正面側(図2にて左側かつ図3にて下側)にて幅広に形成され、裏面側(図2にて右側かつ図3にて上側)に向かって幅狭となる台形状にそれぞれ形成されている。左側部13及び右側部14も、正面側にて幅広に形成され、裏面側に向かって幅狭となる台形状にそれぞれ形成されている。これにより、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14によって形成される正面側の開口部は長方形状であり、キャビネット10は正面側から裏面側に向かうに従って断面積が徐々に小さくなる四角錐台状の空間を形成する。そして、底面部15は、前記正面側の開口部よりも面積の小さな長方形状に形成され、キャビネット10の裏面側を閉止している。
【0016】
キャビネット10の裏面側に相当する底面部15の一部には、4つの側壁部15a,15b,15c,15d(図2に側壁部15a,15cのみを図示)及び底壁部15eにより囲まれて、キャビネット10の正面側に向かう直方体状の凹部が設けられている。なお、これらの側壁部15a,15b,15c,15d及び底壁部15eは、底面部15の前記凹部以外の他の部分と一体成型されており、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14と一体成型された底面部15を構成する。底壁部15eの中央部分には、方形状の貫通孔15e1が形成されている。
【0017】
底壁部15eには、後述する接続端子47を取り付けるための支持プレート31が組み付けられるようになっている。支持プレート31は、貫通孔15eと同形状で貫通孔15eより僅かに小さな方形状の厚い部分31aと、前記厚い部分31aの周囲に設けられて貫通孔15eより大きな方形状の薄い部分31bとを合成樹脂により一体成型したプレートである。この支持プレート31は、厚い部分31aを底壁部15eの貫通孔15e1にキャビネット10の裏面側から正面側に向けて押し込まれて、ねじ32により底壁部15eに固定される。なお、支持プレート31を底壁部15eに固定する方法は、ねじ32に限らず、ボルト、ロックピン、接着など他の方法を用いてもよい。また、支持プレート31には、接続端子47に配線するための貫通孔31cと、後述するインピーダンスセレクタ43の操作子を突出させるための貫通孔31dとが設けられている。
【0018】
また、底面部15に設けた凹部には、防水カバー33が組み付けられるようになっている。防水カバー33は、前記凹部と同じ方形状であって前記凹部よりも大きなプレート部33aと、内部に直方体状の空間を形成する方形状の脚部33bとを一体成型したものである。脚部33bの先端面にはクッション部材が添着されていて、防水カバー33を底面部15に組み付けた状態では、支持プレート31の上面にクッション部材が密着して防水性が良好に保たれるようになっている。この防水カバー33は、左右両側位置にて、ねじ34により底面部15に固定される。また、接続端子47に配線するために、プレート部33aには貫通孔33cが設けられているとともに、脚部33bにも貫通孔33dが設けられている。
【0019】
底面部15の凹部近傍には、底面部15と一体成型された複数のボス15fが底面部15の内側面からキャビネット10の正面側に向けて延設されている。複数のボス15fの先端面には、電気配線を施した電気回路基板41がねじ35により固定されている。
【0020】
また、キャビネット10の内部には、上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15と一体成型された防滴壁16が設けられている。防滴壁16は、一対の側壁部16a,16bと、側壁部16a,16bの一端部(図1及び図2の下側端部)を連結する連結壁部16cとからなり、キャビネット10の正面側から見てU字状に形成されている。この防滴壁16は、側壁部16a,16b及び連結壁部16cの裏面側にて底面部15の内面に接続されて、底面部15の内面から正面側に向けて垂直に均一高さで立ち上げられている。側壁部16a,16bの連結壁部16cと反対側の端部(図1及び図2の上側端部)は、上側部11の内面に接続されている。言い換えれば、側壁部16a,16bは、上側部11の内面から図1及び図2の下方に互いに平行に延設されるとともに、下端側にて連結壁部16cによって連結され、側壁部16a,16b及び連結壁部16cの裏面側は底面部15の内面に接続されている。このように構成した防滴壁16は、キャビネット10内にて、キャビネット10の正面側にて開口し、かつ側壁部16a,16b及び連結壁部16cによって囲まれた断面U字状の内部空間を形成している。
【0021】
バッフル板20は、正面プレート21と2本のバスレフポート22、23とを合成樹脂により一体成型して構成されている。正面プレート21は、長方形状のプレートにより構成され、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14の正面側の先端面に固定される。この固定においては、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14とそれぞれ一体成型された複数のボス(図2にボス11a及びボス12aのみ表示)が、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14の内側面の適宜箇所からキャビネット10の正面側に向けて延設されている。そして、正面プレート21は、ねじ36により、上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14のそれぞれに固定されている。
【0022】
正面プレート21には、円形の貫通孔21a,21bが設けられている。貫通孔21aには、スピーカを構成するツィーターユニット51が放音側をキャビネット10の正面側にして正面側から挿入されて、ねじ37により正面プレート21に固定されている。貫通孔21bには、スピーカを構成するウーファーユニット52が放音側をキャビネット10の正面側にして正面側から挿入されて、ねじ38により正面プレート21に固定されている。また、正面プレート21には、その4隅に水抜き穴21cが設けられている。
【0023】
バスレフポート22,23は、それぞれ筒状、例えば円筒状に形成されて、ウーファーユニット52の下方位置にて、キャビネット10の正面側から裏面側に向けて延設されている。バスレフポート22,23は、それぞれ、正面プレート21側にて外部に開口し、かつ正面プレート21と反対側にてスピーカボックスSB内に開口している。バスレフポート22,23のスピーカボックスSB内の開口端は、防滴壁16の正面側の端面よりも裏面側に位置している。言い換えれば、防滴壁16の底面部15から正面側へ向けた立ち上がり高さは、バスレフポート22,23のスピーカボックスSB内の開口端と底面部15との距離よりも大きく設定されている。なお、これらのバスレフポート22,23は、スピーカボックスSB内の共振周波数を下げる機能を有し、スピーカボックスSBの音響特性、特に低音域の音響特性を良好にするためのものである。
【0024】
次に、スピーカボックスSB内に組み込まれた電気回路装置40について説明する。電気回路装置40は、前述した電気回路基板41に加えて、ステップ・ダウン・トランス42、インピーダンスセレクタ43、クロスオーバーネットワーク44、コネクタ45,46及び接続端子47からなる。ステップ・ダウン・トランス42は、ねじ39により、底面部15に固定されている。インピーダンスセレクタ43、クロスオーバーネットワーク44及びコネクタ45,46は、電気回路基板41上に配置されている。接続端子47は、支持プレート31上に配置されている。
【0025】
ステップ・ダウン・トランス42は、外部からの音響信号を入力する高インピーダンスの一次側コイルと、ツィーターユニット51及びウーファーユニット52に音響信号を出力する低インピーダンス(ツィーターユニット51及びウーファーユニット52にマッチしたインピーダンス)の2次側コイルからなり、入力した音響信号の電圧振幅を減圧して出力する。インピーダンスセレクタ43は、ステップ・ダウン・トランス42の複数のタップのいずれに外部からの音響信号を入力するかを切換える操作子であり、操作子の先端部は支持プレート31に設けた貫通孔31dを介して底面部15に設けた前記凹部に突出しており、防水カバー33を取り外した状態でユーザが切換え操作できるようになっている。
【0026】
クロスオーバーネットワーク44は、ステップ・ダウン・トランス42の2次側の出力信号を周波数分離して、ツィーターユニット51及びウーファーユニット52に出力するための音響信号を生成して出力する。コネクタ45は、電気回路基板41とステップ・ダウン・トランス42の間で信号を伝送する接続線L1の一端を接続するためのものである。コネクタ46は、接続端子47から電気回路基板41に信号を伝送する接続線L2の一端を接続するためのものである。接続線L2は支持プレート31に設けた貫通孔31cを貫通し、接続線L2の他端は接続端子47に接続されている。接続端子47には、外部からの音響信号が接続線L3を介して入力されるようになっている。接続線L3は、防水カバー33に設けた貫通孔33c,33dを介して外部に引き出される。また、電気回路基板41とツィーターユニット51とは接続線L4を介して接続されており、電気回路基板41とウーファーユニット52とは接続線L5を介して接続されている。
【0027】
このように構成したスピーカ装置においては、図4(A)及び図4(B)に示すように、前記説明では省略したブラケットBLが、スピーカボックスSBの底面部15の外側面に固定されている。ブラケットBLは、各種施設の建造物にスピーカボックスSBを固定するための固定機構と、スピーカボックスSBの角度を変更する回転機構とを備えている。図4(A)は壁61にスピーカボックスSBを固定した例を示し、図4(B)は天井62にスピーカボックスSBを固定した例を示している。
【0028】
このように構成したスピーカ装置においては、ねじ34を緩めて防水カバー33をスピーカボックスSBの底面部15から取り外して、外部からの音響信号を伝送する接続線L3を接続端子47に接続し、インピーダンスセレクタ43の操作子を回転させて、ステップ・ダウン・トランス42における外部からの音響信号を入力する1次側コイルのタップを選択切換えする。その後、防水カバー33をスピーカボックスSBの底面部15に組み付けて、ねじ34を締めて固定する。そして、ブラケットBLを用いて、図4(A)及び図4(B)に示すように、スピーカボックスSBを壁61、天井62などに固定する。
【0029】
このようにスピーカ装置を建造物にセットした状態で、接続線L3を介して外部からスピーカ装置に音響信号を供給すると、外部からの音響信号は、接続端子47、接続線L2、コネクタ46、電気回路基板41上の配線、インピーダンスセレクタ43、電気回路基板41上の配線、コネクタ45及び接続線L1を介して、ステップ・ダウン・トランス42の1次コイルに供給される。1次コイルに供給された音響信号は、その電圧振幅が減圧されてステップ・ダウン・トランス42の2次コイルから出力され、接続線L1、コネクタ45及び電気回路基板41上の配線を介してクロスオーバーネットワーク44に供給される。クロスオーバーネットワーク44は、供給された音響信号を周波数分離し、周波数分離された音響信号を、電気回路基板41上の配線及び接続線L4,L5を介してツィーターユニット51及びウーファーユニット52にそれぞれ供給する。ツィーターユニット51及びウーファーユニット52は、供給された音響信号をそれぞれ放音する。
【0030】
この場合、バスレフポート22は、スピーカボックスSB内の音響特性、特にウーファーユニット52による低音域の音響信号波の特性を良好に保つ。また、防滴壁16は、ウーファーユニット52に対向する側を開口させていて、スピーカボックスSB内の音響空間を狭めることなく広く保ち、スピーカボックスSB内の共振周波数を低く保つので、スピーカボックスSB内の音響特性、特に低音域の音響特性を良好に保つことができる。
【0031】
一方、雨天時、特に風の強い雨天時には、屋外に配置したスピーカ装置においては、雨滴(水滴)がスピーカボックスSB内にバスレフポート22,23を介して侵入することがある。また、室内に配置したスピーカ装置においても、シャワー、水道などの水滴が発生する場所では、シャワー水、水道水などによる水滴がスピーカボックスSB内にバスレフポート22,23を介して侵入することがある。このような場合、電気回路装置40は、防滴壁16により囲まれた空間に配置されており、すなわち防滴壁16によりバスレフポート22,23の他端とは隔離された空間に配置されており、防滴壁16は、図4(A)及び図4(B)に示すように、水滴(雨滴)の前記空間内への侵入を防ぐ。特に、防滴壁16の正面側の開口端は、バスレフポート22,23のスピーカボックスSB内の開口面よりも正面側に位置しており、防滴壁16は、水滴の前記空間内への侵入を確実に防ぐ。その結果、水滴が電気回路装置40に達することが防がれ、電気回路装置40の一部のショート、及び前記ショートによる電気回路装置40の故障の発生が防止される。
【0032】
また、スピーカボックスSB内に侵入した水滴の量があるレベルまで達すると、水滴によってスピーカボックスSB内に蓄積された水が水抜き穴21cから外部に放出される。一方、このような機能をもつ防滴壁16は、キャビネット10の上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15と一体成型されているので、防滴壁16をスピーカボックスSB内に簡単に設けることができる。さらに、この防滴壁16は、上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15からなるキャビネット10の補強部材としても機能する。
【0033】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0034】
上記実施形態においては、防滴壁16を、一対の側壁部16a,16b及び連結壁部16cとからなって、キャビネット10の正面側から見てU字状に形成するようにした。しかし、この防滴壁16は、スピーカボックスSB内の音響特性を良好に保つとともに、バスレフポート22,23から電気回路装置40への水滴の侵入を防止する機能を有していればよいので、上記実施形態の防滴壁16を変形した種々の防滴壁を採用することができる。次に、前記種々の変形例に係る防滴壁について、図面を用いて説明する。
【0035】
図6(A)は第1変形例に係る防滴壁71を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、図6(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、図6(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。なお、図6(A)〜(C)においては、スピーカボックスSBと電気回路装置40とを2点鎖線で示している。この第1変形例に係る防滴壁71は、縦断面形状を下側に張り出した円弧状(又は楕円弧状)に形成されるとともに、所定の厚さで前後方向に延設されており、その後端面にて底面部15に接続されるように、上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15と一体成型されている。
【0036】
この防滴壁71の下端はバスレフポート22,23の上端よりも若干高い位置にあり、その上端は電気回路装置40の下端よりも若干高い位置にあり、その左右両側端はバスレフポート22,23の左右両側端近傍に位置する。また、防滴壁71の前端は、バスレフポート22,23の裏面側の開口端よりも正面側であって、電気回路装置40の前端よりも若干量だけ正面側に位置する。この第1変形例によっても、スピーカボックスSB内の音響特性が良好に保たれるとともに、バスレフポート22,23からの水滴が電気回路装置40へ侵入しなくなる。
【0037】
図7(A)は第2変形例に係る防滴壁72を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、図7(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、図7(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。なお、図7(A)〜(C)においても、スピーカボックスSBと電気回路装置40とを2点鎖線で示している。この第2変形例に係る防滴壁72は、方形状の平板の前端中央部を方形状に切り欠いて、後部に方形状の基部72aを有するとともに、左右両端部にて前方に張り出した一対の凸部72b、72bを備え、基部72aの後端面にて底面部15に接続されるように、上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15と一体成型されている。
【0038】
この防滴壁72はバスレフポート22,23の上端と電気回路装置40の下端との間の高さに位置し、基部72aの前端は、バスレフポート22,23の裏面側の開口端よりも正面側であって、電気回路装置40の前端よりも若干量だけ正面側に位置し、凸部72b,72bの前端はバッフル板20よりも若干後方に位置する。また、防滴壁72の左右両側端はバスレフポート22,23の左右両側端近傍に位置する。なお、防滴壁72の左右両側端と左側部13及び右側側部14との間には隙間がある。この第2変形例によっても、スピーカボックスSB内の音響特性が良好に保たれるとともに、バスレフポート22,23からの水滴が電気回路装置40へ侵入しなくなる。
【0039】
なお、前記第2変形例において、防滴壁72の左右両側端を左側部13及び右側側部14に接続するようにしてもよい。また、防滴壁72を単に方形状に形成、すなわち凸部72b,72bをなくして、基部72aのみにより構成してよい。
【0040】
図8(A)は第3変形例に係る一対の防滴壁73,74を備えたスピーカ装置の概略正面図であり、図8(B)は前記スピーカ装置の概略側面図であり、図8(C)は前記スピーカ装置の概略平面図である。なお、図8(A)〜(C)においても、スピーカボックスSBと電気回路装置40とを2点鎖線で示している。この第3変形例に係る一対の防滴壁73,74は、それぞれ縦断面形状を上側に張り出した円弧状(又は楕円弧状)に形成されるとともに、所定の厚さでそれぞれ前後方向に延設されており、それらの後端面にて底面部15及び左側部13、並びに底面部15及び右側部14にそれぞれ接続されるように、上側部11、下側部12、左側部13、右側部14及び底面部15と一体成型されている。
【0041】
これらの防滴壁73,74の下端はそれぞれバスレフポート22,23の中心近傍の高さ位置にあり、それらの上端はそれぞれバスレフポート22,23の上端と電気回路装置40の下端との中間位置にある。防滴壁73の左右両側端はバスレフポート22の左右両側よりも若干外側に位置し、防滴壁73の左右両側端はバスレフポート22の左右両側よりも若干外側に位置する。防滴壁73,74の前端は、バスレフポート22,23の裏面側の開口端よりも正面側であって、電気回路装置40の前端よりも若干量だけ正面側に位置する。この第3変形例によっても、スピーカボックスSB内の音響特性を良好に保たれるとともに、バスレフポート22,23からの水滴が電気回路装置40へ侵入しなくなる。
【0042】
なお、この第3変形例においては、図8(A)に破線で示すように、防滴壁73,74の縦断面形状の円弧を緩やかにして、防滴壁73,74の内側端を外側端よりも低い位置に設定するようにしてもよい。また、図8(A)に破線で示した防滴壁73,74の縦断面形状を直線状にして、防滴壁73,74をそれぞれ平板状にしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、防滴壁16を側壁部16a,16b及び連結壁部16cにより縦断面形状をU字状に形成するようにしたが、この防滴壁16は電気回路装置40を囲む空間を形成すればよいので、特に縦断面形状をU字状に形成する必要はない。例えば、この防滴壁16の縦断面形状を方形状とするようにしてもよい。この場合、連結壁部16cを平板のプレート状に形成して、側壁部16a,16bを連結するようにすればよい。
また、上記実施形態においては、防滴壁16は底面部15の内面から正面側に向けて垂直に均一高さで立ち上げるようにしたが、特に、防滴壁16を垂直に立ち上げる必要もなく、また均一高さで立ち上げる必要もない。
【0044】
また、上記実施形態では、バスレフポート22,23を正面プレート21と一体成型するようにした。しかし、これに代えて、バスレフポート22,23を正面プレート21、すなわちバッフル板20と別体に構成して、正面プレート21に組み付けるようにしてもよい。また、上記実施形態では、バスレフポート22,23を2つ設けるようにしたが、このバスレフポート22,23の数は、1つであっても、3つ以上であってもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、正面プレート21に設けた貫通孔21a,21bの形状を円形としたが、貫通孔21a,21bの形状を他の形状、例えば4角形状、6角形状、8角形状などの多角形状にしてもよい。また、正面プレート21には、4隅に水抜き穴21cを設けるようにしたが、この水抜き穴21cは少なくとも1つあればよく、1つ乃至3つのうちのいずれかでもよい。また、水抜き穴21cを5つ以上設けてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ツィーターユニット51及びウーファーユニット52からなる2ウェイスピーカシステムをスピーカ装置に適用した。しかし、これに代えて、フルレンジスピーカシステム、3ウェイスピーカシステム、その他のスピーカシステムをスピーカ装置に適用するようにしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態においては、ステップ・ダウン・トランス42を用いて、外部からの音響信号の電圧振幅を減圧するようにした。しかし、これに代えて、電圧増幅回路、信号処理回路などの電気回路を用いて、外部からの音響信号の電圧振幅を減圧するようにしてもよい。
【0048】
さらに、上記実施形態においては、ツィーターユニット51及びウーファーユニット52の前面に、着脱可能なネットを設けるようにしてもよい。また、上記実施形態においては、水抜き穴21cを正面プレート21の4隅に設けるようにしたが、この水抜き穴21cは、正面プレート21の4隅近傍であれば、細かな位置は問わない。例えば、この水抜き穴21cを、前記着脱可能に設けたネットの内側に設けても、外側に設けてもよい。また、この水抜き穴21cをバッフル板20の正面プレート21ではなく、キャビネット10の上側部11、下側部12、左側部13及び右側部14に設けてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…キャビネット、11…上側部、12…下側部、13…左側部、14…右側部、15…底面部、16,71〜74…防滴壁、20…バッフル板、21…正面プレート、22,23…バスレフポート、31…支持プレート、33…防水カバー、40…電気回路装置、41…電気回路基板、42…ステップ・ダウン・トランス、43…インピーダンスセレクタ、44…クロスオーバーネットワーク、47…接続端子、51…ツィーターユニット、52…ウーファーユニット、61…壁、62…天井、BL…ブラケット、SB…スピーカボックス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8