特許第5979360号(P5979360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979360
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】エンジンのオイルパン構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/00 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   F01M11/00 Q
   F01M11/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-166002(P2012-166002)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-25407(P2014-25407A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 均
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水野 恵
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−275675(JP,A)
【文献】 実開昭60−185011(JP,U)
【文献】 実開昭58−62112(JP,U)
【文献】 実開昭57−107940(JP,U)
【文献】 実開昭53−40143(JP,U)
【文献】 特開2001−152825(JP,A)
【文献】 実開昭54−147343(JP,U)
【文献】 特開2006−77696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタオイルパンの底壁にインナオイルパンが設置されてオイルパンが構成され、前記インナオイルパン内に潤滑油を貯留する第1の貯留室を有するとともに、前記アウタオイルパンと前記インナオイルパンとの間に潤滑油を貯留する第2の貯留室を有し、
前記潤滑油が所定温度未満のときに前記第1の貯留室と前記第2の貯留室との間での前記潤滑油の流通を規制する規制手段を備え、
前記第1又は第2の貯留室内のどちらか一方に貯留された前記潤滑油を吸い込み、エンジンの潤滑箇所に供給して、前記一方の貯留室に戻す、前記潤滑油の循環経路を有するエンジンのオイルパン構造であって、
前記アウタオイルパンの底壁と前記インナオイルパンの底壁との間に前記第2の貯留室に対して開口する開口部を有して一部隙間が設けられるとともに、当該隙間に対向する前記インナオイルパンの底壁に連通孔が設けられて、前記開口部、前記隙間及び前記連通孔により前記第1の貯留室と前記第2の貯留室とを連通する連通路が形成され、
前記第2の貯留室に面して前記アウタオイルパンに、前記第2の貯留室内の潤滑油を排出可能なドレーン孔を備えたことを特徴とするエンジンのオイルパン構造。
【請求項2】
前記連通路の前記隙間は、前記インナオイルパンの底壁の一部に前記アウタオイルパンの底壁から離間する方向に突出した突出部と前記アウタオイルパンの底壁とで囲まれた空間として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのオイルパン構造。
【請求項3】
前記第1の貯留室内の潤滑油を吸い込む吸い込み口が前記インナオイルパン内に設けられ、前記吸い込み口と前記連通孔とが水平方向に互いに離間して配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのオイルパン構造。
【請求項4】
前記インナオイルパンに前記第1の貯留室と前記第2の貯留室とを挿通する挿通孔を設け、前記規制手段は前記挿通孔を開閉する開閉手段であり、
前記突出部は、前記開閉手段と前記吸い込み口との間に形成されることを特徴とする請求項2に記載のエンジンのオイルパン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナオイルパンとアウタオイルパンとを有する2重構造のオイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの下部に設けられて潤滑油を貯留するオイルパンとして、アウタオイルパン内にインナオイルパンが設置されて構成された2重構造のオイルパンが広く知られている。
当該2重構造のオイルパンを有するエンジンでは、インナオイルパン内に潤滑油を貯留可能な第1の貯留室と、インナオイルパンとアウタオイルパンの間に潤滑油を貯留可能な第2の貯留室とが形成されている。更に、第1の貯留室からストレーナを介して潤滑油を吸い出してエンジン内の潤滑を必要とする部位に供給し、第1の貯留室に戻して循環させる構成となっており、第1の貯留室と第2の貯留室とがサーモバルブを介して連通可能となっている。そして、暖機運転時のような低温時にはサーモバルブが閉状態となって、第1の貯留室内の潤滑油のみ循環させ、潤滑油の迅速な温度上昇を図るとともに、高温時にはサーモバルブが開状態となって第1の貯留室と第2の貯留室とを連通させ、循環可能な潤滑油量を増大させて潤滑油の過度な温度上昇を防止する機能を有する(特許文献1)。
【0003】
ところで、オイルパンの底部には、潤滑油の交換時にオイルパン内から潤滑油を抜くためにドレーン孔が設けられており、当該ドレーン孔はドレーンプラグによって閉塞されている。そして、上記のように2重構造のオイルパンでは、オイルパン内からの油抜き時に、アウタオイルパン内だけでなく、インナオイルパン内(第1の貯留室内)の潤滑油も排出可能とすることが要求される。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、インナオイルパンの底壁に小径のドレーン孔が設けられている。
また、その他には、インナオイルパン及びアウタオイルパンに夫々ドレーン孔を同軸上に設け、ドレーンプラグをインナオイルパンのドレーン孔を閉塞するインナプラグとアウタオイルパンのドレーン孔を閉塞するアウタプラグによって構成し、油抜き時にはインナプラグ及びアウタプラグの両方を外してインナオイルパン及びアウタオイルパンの両方から潤滑油を排出可能とする方法も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−207521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように、単純にインナオイルパンにドレーン孔を設けては、常にインナオイルパン内とアウタオイルパン内との間を潤滑油が流通し、暖機運転時においてインナオイルパン内の潤滑油の温度上昇を妨げるといった問題点がある。
また、上記のようにドレーンプラグをインナプラグとアウタプラグとによって構成した場合には、ドレーンプラグの構造が複雑化してコスト増加を招くとともに、ドレーンプラグの取り外し、特にインナプラグの取り外しが困難となり、油抜き時において工数増加を招くといった問題点がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡単な構造で、オイルパン内からの油抜きを容易に可能とするとともに、暖機運転時にインナオイルパン内とアウタオイルパン内との間での熱移動を抑制するエンジンのオイルパン構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、アウタオイルパンの底壁にインナオイルパンが設置されてオイルパンが構成され、インナオイルパン内に潤滑油を貯留する第1の貯留室を有するとともに、アウタオイルパンとインナオイルパンとの間に潤滑油を貯留する第2の貯留室を有し、潤滑油が所定温度未満のときに第1の貯留室と第2の貯留室との間での潤滑油の流通を規制する規制手段を備え、第1又は第2の貯留室内のどちらか一方に貯留された潤滑油を吸い込み、エンジンの潤滑箇所に供給して、一方の貯留室に戻す、潤滑油の循環経路を有するエンジンのオイルパン構造であって、アウタオイルパンの底壁とインナオイルパンの底壁との間に第2の貯留室に対して開口する開口部を有して一部隙間が設けられるとともに、当該隙間に対向するインナオイルパンの底壁に連通孔が設けられて、開口部、隙間及び連通孔により第1の貯留室と第2の貯留室とを連通する連通路が形成され、第2の貯留室に面してアウタオイルパンに、第2の貯留室内の潤滑油を排出可能なドレーン孔を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1において、連通路の隙間は、インナオイルパンの底壁の一部にアウタオイルパンの底壁から離間する方向に突出した突出部とアウタオイルパンの底壁とで囲まれた空間として形成されていることを特徴とする。
また、請求項3の発明は、請求項1または2において、第1の貯留室内の潤滑油を吸い込む吸い込み口がインナオイルパン内に設けられ、吸い込み口と連通孔とが水平方向に互いに離間して配置されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項2において、インナオイルパンに第1の貯留室と第2の貯留室とを挿通する挿通孔を設け、規制手段は挿通孔を開閉する開閉手段であり、突出部は、開閉手段と吸い込み口との間に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、アウタオイルパンの底壁とインナオイルパンの底壁との間に一部隙間が設けられて第1の貯留室と第2の貯留室とを連通する連通路が設けられるので、アウタオイルパンに設けられたドレーン孔から第2の貯留室内の潤滑油を排出することで、連通路を介して第1の貯留室内の潤滑油を排出することができ、容易にオイルパン全体の油抜きをすることができる。
【0012】
また、第1の貯留室と第2の貯留室とを連通する連通路は、インナオイルパンに単純に孔を開けて設けるのではなく、アウタオイルパンの底壁とインナオイルパンの底壁との間に一部隙間を設け、互いに離間した位置で第1の貯留室及び第2の貯留室と連通させて形成されているので、第1の貯留室と第2の貯留室との間で潤滑油が流通し難くなる。よって、潤滑油が所定温度未満のとき、規制手段によって第1の貯留室と第2の貯留室との間での潤滑油の流通が規制され、第1の貯留室内の潤滑油と第2の貯留室内の潤滑油との間での熱移動が簡単な構成で抑制される。このため、潤滑油が所定温度未満のときに循環される第1又は第2の貯留室内のどちらか一方に貯留された潤滑油の温度低下を抑制することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、連通路の隙間を、インナオイルパンの底壁の一部をアウタオイルパンの底壁から離間する方向に突出した突出部とアウタオイルパンの底壁とで囲まれた空間として形成したため、アウタオイルパンの形状を変更したり部品点数を増加させることなく、容易にアウタオイルパンの底壁とインナオイルパンの底壁との間に隙間を設け、連通路を形成することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、第1の貯留室内の潤滑油を吸い込む吸い込み口がインナオイルパン内に設けられ、吸い込み口と連通孔とが水平方向に互いに離間して配置されるので、連通路を介して第2の貯留室内の潤滑油を吸い込むことが抑制される。このため、潤滑油が所定温度未満で規制手段によって第1の貯留室と第2の貯留室との間での潤滑油の流通が規制されている場合に吸い込み口から吸い込む潤滑油の温度低下をより確実に抑制することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、突出部はインナオイルパンに設けられた挿通孔を開閉する開閉手段と吸い込み口との間に形成されるので、潤滑油が所定温度以上となって挿通孔が開放され第1の貯留室と第2の貯留室との間での潤滑油の流通が可能となったとき、第2の貯留室から第1の貯留室に流入した低温の潤滑油が吸い込み口から吸い込まれにくい。即ち、挿通孔から流入した潤滑油は突出部の手前で一時停滞するため、低温の潤滑油が吸い込み口から吸い込まれることによる潤滑性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のオイルパン構造を採用した本実施形態に係るエンジンの概略構造を示す縦断面図である。
図2】本実施形態に係るオイルパンの構造を示す上面図である。
図3】本実施形態に係るオイルパンの構造を示す横断面図である。
図4】本実施形態に係るインナオイルパンの連通孔、ストレーナ及びサーモバルブの位置関係を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図1図4に示す実施形態にもとづいて説明する。
図1は本発明のオイルパン構造を採用した本実施形態に係るエンジン1の概略構造を示す縦断面図である。
本実施形態に係るエンジン1のシリンダブロック2の下部には、潤滑油を貯留するためのオイルパン3が設けられている。
【0018】
オイルパン3は、上部が略矩形状に開口したアウタオイルパン4とインナオイルパン5により構成した2重構造のオイルパン3となっている。
インナオイルパン5はアウタオイルパン4より小さく、アウタオイルパン4内に配置されており、その内部に潤滑油を貯留可能な第1の貯留室6を有している。
インナオイルパン5の底部はアウタオイルパン4の底壁4a上に載置され、一部で接続されている。インナオイルパン5は、下部及び上下方向中間部でアウタオイルパン4より側方に小さく形成され、上部が広がってアウタオイルパン4と略同一の大きさになっている。よって、アウタオイルパン4とインナオイルパン5との間には、潤滑油を貯留可能な第2の貯留室7が設けられている。
【0019】
インナオイルパン5内には、潤滑油を吸い込むためのストレーナ10が設置されている。ストレーナ10は、シリンダブロック2に設けられたオイルポンプ11に配管12を介して接続されている。インナオイルパン5内の潤滑油は、エンジン1の運転に伴って作動するオイルポンプ11によりエンジン1内の動弁装置等の各潤滑部に供給され、当該潤滑部を潤滑した後、インナオイルパン5内に落下して戻るようになっている。
【0020】
ストレーナ10の吸い込み口13は、インナオイルパン5内の潤滑油の貯留量が低下したときにも、潤滑油を吸い込めるように、インナオイルパン5の底壁5aに近接した位置に配置されている。
また、インナオイルパン5の前後方向に延びる一方の側壁5bの前後方向中央部には、第1の貯留室6と第2の貯留室7とを連通する挿通孔14が設けられるともに、当該挿通孔14を開閉するサーモバルブ15(規制手段、開閉手段)が設けられている。
【0021】
サーモバルブ15は、第1の貯留室6に貯留している潤滑油の温度に基づいて開閉作動する。詳しくは、サーモバルブ15は、潤滑油の温度が所定温度(例えば摂氏80度)より低い温度、即ちエンジン1が暖機状態であるときには閉作動し、所定温度より高温である場合には開作動するように設定されている。
図2は、本実施形態に係るオイルパン3の構造を示す上面図である。図3は、本実施形態に係るオイルパン3の構造を示す横断面図である。
【0022】
図2、3に示すように、アウタオイルパン4の側壁4b下部には、アウタオイルパン4内の第2の貯留室7と外部とを連通するドレーン孔20が設けられているとともに、当該ドレーン孔20を閉塞可能なドレーンプラグ21が設けられている。
更に、本実施形態では、インナオイルパン5の底壁5aがT字状に上方に突出して突出部22が形成されている。突出部22の幅は略1cm、突出高さは数mm程度である。そして、インナオイルパン5の底壁5aとアウタオイルパン4の底壁4aとは突出部22以外の部位で接触し、スポット溶接等により接続されている。これにより、突出部22においてインナオイルパン5の底壁5aとアウタオイルパン4の底壁4aとの間にT字形の隙間23が形成されている。
【0023】
インナオイルパン5の底壁5aに形成された突出部22は、インナオイルパン5の左右方向略中央部を、サーモバルブ15を配置した側壁5bと略平行に前後方向に延びる部位22aと、当該部位22aの中央部からサーモバルブ15に対して離間する方向(図中右方)に延びる部位22bとを有している。
突出部22の各部位22a、22bの端部には、夫々第2の貯留室に面して開口部24が設けられている。
【0024】
また、突出部22のサーモバルブ15から離間する方向に延びる部位22bの端部付近上面には、突出部22内の隙間23と第1の貯留室6とを連通する直径7mm程度の連通孔25が設けられている。当該連通孔25の上下位置は、アウタオイルパン4の下部に設けられたドレーン孔20の下端位置hbより下方に位置している。
したがって、第1の貯留室6と第2の貯留室7とは、隙間23、開口部24及び連通孔25から構成される連通路26を介して連通しており、第1の貯留室6から潤滑油が連通路26を通過して第2の貯留室7に流入可能となっている。
【0025】
図4は、本実施形態に係るインナオイルパン5の連通孔25、ストレーナ10及びサーモバルブ15の位置関係を示す上面図である。
図4に示すように、ストレーナ10の吸い込み口13は、T字状の突起部22の前後方向に延びる部位22aから図中右方に延びる部位22bの端部付近に設けられた連通孔24と左右方向に互いに離間している。また、吸い込み口13は前後方向に延びる部位22aよりも図中右方寄りに位置しており、挿通孔14を開閉するサーモバルブ15は前後方向に延びる部位22aよりも図中左方に位置している。
【0026】
このような構成により、本実施形態では、暖機運転時においては、サーモバルブ15が閉状態であるので、第1の貯留室6内の潤滑油のみ用いてエンジン1の潤滑が行なわれる。したがって、比較的少量の潤滑油で循環されるので、潤滑油を迅速に温度上昇させて潤滑性能を確保することができる。
一方、オイルパン3から潤滑油を排出する油抜き作業を行なう場合には、アウタオイルパン4に締結されているドレーンプラグ21を取り外せばよい。
【0027】
ドレーンプラグ21を取り外すことで、インナオイルパン5とアウタオイルパン4との間の第2の貯留室7内の潤滑油が排出される。また、第1の貯留室6と第2の貯留室7とが下部で連通路26を介して連通しているので、第2の貯留室7内の潤滑油が排出される際に第1の貯留室6内の潤滑油も排出される。これにより、アウタオイルパン4に締結されているドレーンプラグ21を取り外すことで、第1の貯留室6内及び第2の貯留室7内の両方から潤滑油を排出することができる。
【0028】
そして、第1の貯留室6と第2の貯留室7とを連通する連通路26を構成する隙間23は、T字型に形成されているので、単純にインナオイルパン5に孔を設ける場合と比較して複雑な経路になっており、更に流路断面積が比較的細くなっていることと相俟って、第1の貯留室6と第2の貯留室7との間で潤滑油が循環し難い形状となっている。したがって、第1の貯留室6内の潤滑油と第2の貯留室7内の潤滑油との間での熱移動がし難くなっており、エンジン1の運転時、特にサーモバルブ15が閉状態である暖機運転時において、第1の貯留室6内の潤滑油の温度低下を抑制することができる。
【0029】
このように、本実施形態では、インナオイルパン5の底壁5aをT字状に突出した形状とすることで、インナオイルパン5とアウタオイルパン4との間に容易に隙間23を設けて連通路26を形成することができる。また、潤滑油を排出するためのドレーン孔20を塞ぐドレーンプラグ21は、アウタオイルパン4のみ設ければよいので、簡単な構成とすることができ、インナオイルパン5とアウタオイルパン4を有する2重構造のオイルパン1において、潤滑油を排出する油抜き作業が容易となる。また、突出部22の突出高さがドレーン孔20の下端よりも低くなるように形成されているため、油抜き作業時にインナオイルパン5の内部に残る潤滑油を少なくすることができる。
【0030】
また、隙間23と第1の貯留室6とを連通する連通孔25は、突出部22のサーモバルブ15から離間する方向に延びる部位22bの端部付近に設けられ、インナオイルパン5の底壁5aの右方に配置されており、ストレーナ10の吸い込み口13は連通孔25よりも突出部22の前後方向に延びる部位22a側に位置しており、連通孔25と吸い込み口13とが離間して配置されているので、ストレーナ10の吸い込み口13から連通路26を介して第2の貯留室7内の潤滑油を吸い込み難くなる。よって、暖機運転時のような低温時においてサーモバルブ15が閉状態であるときに第2の貯留室7内の低温の潤滑油を吸い込むことが抑制され、潤滑油の迅速な昇温を図ることができる。
【0031】
また、ストレーナ10の吸い込み口13は突出部22の前後方向に延びる部位22aよりも右方寄りに位置し、サーモバルブ15は突出部22の前後方向に延びる部位22aよりも左方配置されているので、例えば暖機運転直後にサーモバルブ15が開作動したときに、第2の貯留室7内に貯留している低温の潤滑油が直ぐに吸い込み口13から吸い込まれ難くなる。このとき、挿通孔14を通過して第1の貯留室6内に流入した低温の潤滑油は、突出部22の手前で一時停滞して第1の貯留室6内の比較的高温の潤滑油と混合した後に吸い込み口13から吸い込まれるので、潤滑性能を十分に確保することができる。また、故障等によりサーモバルブ15が低温時に十分に閉塞していない場合であっても、第1の貯留室6内よりも更に低温の可能性の高い第2の貯留室7内の潤滑油を吸い込むことが抑制され、潤滑性能を確保することができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。例えば突出部22の形状は、T字型以外の形状であってもよく、第1の貯留室6と第2の貯留室7とを連通する連通路26が迷路状になっていればよい。本発明は、インナオイルパンとアウタオイルパンからなる2重構造としたエンジンのオイルパンに対して広く適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
3 オイルパン
4 アウタオイルパン
5 インナオイルパン
6 第1の貯留室
7 第2の貯留室
13 吸い込み口
14 挿通孔
15 サーモバルブ(規制手段、開閉手段)
20 ドレーン孔
23 隙間
24 開口部
25 連通孔
26 連通路
図1
図2
図3
図4