(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プラスチック耐火物は、耐火性の骨材、耐火粘土、粘結剤等を水で練り合わせた練り土状の耐火物である。プラスチック耐火物は、打ち込み施工、あるいは手によるパッチング施工等による耐火壁の形成や、耐火壁補修用の材料として使用される。実質的に同一のプラスチック耐火物であっても、その施工方法によっては、スタンプ材あるいはパッチング材と称呼されることがある。
【0003】
アルミナ−シリカ質骨材を使用したプラスチック耐火物では、バインダーとして各種の燐酸が使用されることが多い。燐酸系バインダーは適度の粘着性と可塑性を有し、耐火耐熱性にも優れるという特徴がある。しかしながら、プラスチック耐火物を製造後(混練後)、保管中に混合物が次第に可塑性を失い、作業性が悪化するとともに成形体の強度が低下するという経時変化がしばしば観察される。
【0004】
経時変化の原因は、耐火骨材あるいは耐火粘土中に含まれる多価金属イオンと燐酸との反応により燐酸塩が生成され、当該反応により燐酸が減少することにあると考えられている。例えば、非特許文献1は、燐酸と多価金属イオンであるAl
3+が反応して燐酸塩を生じることが経時変化の原因であり、耐火骨材中の不純物に起因する活性な金属イオン、すなわち、Fe
3+、Al
3+、Ca
2+、Mg
2+等と燐酸が重要な役割を負うと開示している。
【0005】
アルミナ系のプラスチック耐火物の場合、高純度のアルミナ原料を使用した場合に比べて、金属不純物を多く含むばん土頁岩等の天然原料を使用した場合に経時変化が大きくなることからもこの考え方は支持される。
【0006】
このような経時変化を抑制するために、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0007】
例えば、特許文献1は、リン酸アルミニウムを外掛け5〜10重量%含有するアルミナ系のプラスチック耐火物に対し、1〜3重量%の硼酸または蓚酸あるいはその両者を添加する手法を開示している。
【0008】
特許文献2は、オルソリン酸アルミニウムを外掛け3〜8重量%含有するアルミナ系のプラスチック耐火物に対し、1〜3重量%の硼酸または蓚酸あるいはその両者を添加する手法を開示している。
【0009】
特許文献3は、正燐酸溶液または第一リン酸アルミニウムをバインダーとして外掛け3〜15重量%含有する骨材をシャモット質、アルミナ質、珪石質、ロー石質などとした不定形耐火物に、外掛け0.5〜3重量%の有機酸と外掛け0.1〜3重量%の第一リン酸ナトリウムとを添加する手法を開示している。
【0010】
特許文献4は、経時変化の原因が水分の蒸発にあるとし、水分の蒸発を抑制するために、常温で液体であるサラダ油等のオイルを配合する手法を開示している。
【0011】
特許文献5は、苦汁飽和溶液をバインダーとして使用したマグネシア質、ドロマイト−マグネシア質の塩基性のスタンプ材において、多価アルコール0.1〜5重量部、乳酸カルシウム0.1〜3重量部を添加する手法を開示している。塩基性材料の経時変化の原因は、苦汁溶液と塩基性材料の反応、すなわち、塩基性材料の水和の進行であるとし、含有水分が少なく塩基性材料との親和性がよいと考えられる多価アルコールおよび塩基性骨材表面に保護膜を形成する乳酸カルシウムを添加することで水和の進行を抑制できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1が開示する技術は、特許文献1が実施例で開示するようなアルミナ成分が95質量%以上の高純度のアルミナ原料に対してはある程度の効果は認められるものの、その効果は十分なものとはいえなかった。また、硼酸の添加は耐火物の融点低下、耐食性低下等の要因になるため、その使用は好ましくない。この点は、硼酸を添加する特許文献2が開示する技術においても同様である。
【0015】
また、特許文献3は、非特許文献1を引用し、有機酸としてカルボン酸の使用を開示しているが、カルボン酸の使用だけでは経時変化抑制効果が十分でなく、第一リン酸ナトリウムを併用することで有機酸の働きを補っている。特許文献3では、有機酸は3価の金属イオンに有効であり、第一リン酸ナトリウムは1価と2価の金属イオンに対して有効であるとしているが、その真偽は定かではない。当該技術も、ある程度の経時変化抑制効果は認められるものの、金属不純物の多い原料に対する経時変化抑制効果は十分とはいえない。加えて、第一リン酸ナトリウムの添加は、プラスチック耐火物の可塑性を低下させ、作業性を低下させるため好ましい技術とはいえない。
【0016】
さらに、特許文献4が開示する技術は、多価金属イオンの溶出による経時変化には対応できない。また、特許文献5が開示する技術は、塩基性材料に適用される技術であり、燐酸バインダーを使用したプラスチック耐火物にそのまま適用することは困難である。
【0017】
以上のように、従来、様々な経時変化抑制のための手法が提案されているが、いずれの手法も十分な経時変化抑制効果が得られる技術ではなく、満足できるものとはいえない。
【0018】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、燐酸系バインダーを使用した経時変化の少ないプラスチック耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者らは、燐酸塩結合プラスチック材の経時変化抑制に対して有効な材質を探索すべく、まず、従来技術に基づいて経時変化抑制効果の原因を再考察した。
【0020】
上述の特許文献において、特許文献3が開示する第一リン酸ナトリウムは、単にリン酸イオンの数を増大させる効果を奏するものである。そのため、経時変化抑制効果の原因としては本質的ではないので有効な材質の候補から除外した。
【0021】
一方、経時変化抑制効果が認められた蓚酸などの有機酸について考察すると、有機酸では結合する酸素原子の電子軌道に孤立電子対が存在している。この孤立電子対は、金属多価イオンと緩い結合を形成することでキレートを生成する。このようなキレートを生成することで多価金属イオンと燐酸との結合を抑制し、経時変化が抑制されることが想定される。これに対し、硼酸は、水に溶解してB(OH)
4−1イオンを形成するがこのイオンは対称性が良くキレートを生成しない。しかしながら、水に溶解した未解離の硼酸(H
3BO
3)には、酸素の孤立電子対が存在する。そのため、機構は不明であるがキレートを形成し得ることも想定される。以上のことから、効率的にキレートを生成することができる孤立電子対の多い化合物であれば、より大きな経時変化抑制効果が得られるであろうと結論づけた。
【0022】
有機酸において孤立電子対の割合が大きいのは、炭素原子数の最も少ない蓚酸であり、従来技術では、これが利用されてきたことになる。上述の結論に基づき、他の有機酸についても検討したところ、酸素原子を多く含み、複数個のカルボキシル基(−COOH)を有する化合物、あるいはカルボキシル基1つとヒドロキシ基(−OH)を1ないし複数個有する有機酸において経時変化抑制効果が得られることを見出した。
【0023】
さらに、これらの有機酸と併用することを条件に有機物を探索の対象範囲に絞った場合、酸素の孤立電子対を有する化合物は、C−O−Hの原子結合を有するアルコール類になる。アルコール類にはある程度のキレート効果を期待し得る。そこで、種々のアルコール化合物について、経時変化抑制効果を奏するか否かを試行錯誤的に検討したところ、低分子量のジオール化合物を有機酸と組み合わせることで、経時変化抑制効果が相乗的に増大することを見出した。
【0024】
本願発明者らは、以上のようにして得られた新たな知見に基づいて本発明に至った。すなわち、本発明に係るプラスチック耐火物は、耐火骨材、耐火粘土および燐酸系バインダーからなる原料と、当該原料100質量%に対して有機酸を外掛けで0.5〜3質量%と、当該原料100質量%に対してジオール化合物を外掛けで0.5〜4質量%とを含有する。このプラスチック耐火物は、従来に比べて極めて優れた経時変化抑制効果を奏することができる。
【0025】
上記有機酸は、炭素原子数6以下、当該有機酸中の炭素原子数Aと酸素原子数Bとの比(B/A)が、1≦(B/A)≦2、かつ水可溶性である有機酸の1種または2種以上であることが好ましい。また、上記ジオール化合物は、炭素原子数2の化合物および炭素原子数3の化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えば、アルミナ系プラスチック耐火物等の、燐酸系バインダーを使用したプラスチック耐火物において、多価金属イオンと燐酸との反応を抑制することができる。その結果、当該反応に起因する経時変化による可塑性低下や成形体の強度低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明におけるプラスチック耐火物は、耐火骨材、耐火粘土および燐酸系バインダーからなる原料と、有機酸およびジオール化合物を含む。
【0029】
耐火骨材には、例えば、アルミナ質、高アルミナ質、ムライト質、シャモット質、粘土質、シリマナイト質、ろう石質、珪石質、ジルコン質、クロム質、スピネル質、炭化珪素質等の材料から選ばれる1種または2種以上の骨材を使用することができる。なお、マグネシア質、ドロマイト質など塩基性の骨材からは、Ca
2+イオンやMg
2+イオンなどの多価金属イオンが多量に溶出しやすい。そのため、有機酸やジオール化合物を添加してもこれらの多価金属イオンと燐酸系バインダーとの反応が発生してしまい、経時変化抑制効果を十分に発現させることが困難になるため好ましくない。
【0030】
耐火粘土には、例えば、水篩粘土、蛙目粘土、木節粘土、カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイト、クレー等、各種の粘土を使用することができる。また、これらの粘土を任意に組み合わせて使用することもできる。しかしながら、耐火粘土からは含有不純物が混練水に溶出しやすいという特徴がある。多価金属不純物の多い粘土は、プラスチック耐火物の経時変化を助長し、経時変化抑制効果を十分に発現させることが困難になるため好ましくない。このため、耐火粘土に含まれる多価金属不純物であるFe
2O
3、CaO、MgOの総和を、耐火粘土の8質量%以下にすることが好ましい。
【0031】
燐酸系バインダーには、燐酸や燐酸アルミニウム等を使用することができる。燐酸としては、例えば、正燐酸を使用でき、通常の工業品である85%溶液あるいは75%溶液をそのまま使用することができる。また、燐酸アルミニウムとしては、第一燐酸アルミニウム等を使用などが利用でき、通常の工業品である、例えば、P
2O
5濃度が38%、Al
2O
3濃度が8%程度のものを使用することができる。
【0032】
なお、耐火骨材と耐火粘土との配合割合は、これらの総和を100質量%とした場合、耐火骨材が75〜95質量%(75質量%以上かつ95質量%以下)、耐火粘土が5〜25質量%(5質量%以上かつ25質量%以下)であることが好ましい。より好ましくは、耐火骨材が80〜90質量%(80質量%以上かつ90質量%以下)、耐火粘土は10〜20質量%(10質量%以上かつ20質量%以下)である。耐火粘土が5質量%未満である(すなわち、耐火骨材が95質量%より多い)場合、プラスチック耐火物を練り土状とした際の可塑性が低下するため好ましくない。また、耐火粘土が25質量%より多い(すなわち、耐火骨材が75質量%未満)場合、可塑性は確保できるが、焼成後の収縮が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0033】
また、燐酸系バインダーの配合量は、耐火骨材および耐火粘土の全量に対して、燐酸あるいは燐酸塩成分として外掛けで2〜10質量%(2質量%以上かつ10質量%以下)であることが好ましい。より好ましくは、燐酸系バインダーの配合量は、耐火骨材および耐火粘土の全量に対して、燐酸あるいは燐酸塩成分として外掛けで3〜8質量%(3質量%以上かつ8質量%以下)である。燐酸系バインダーの配合量が2質量%未満ではプラスチック耐火物の接着性と熱間強度が低下するため好ましくない。また、燐酸系バインダーの配合量が10質量%より多いと、プラスチック耐火物の接着性と強度を高める効果が飽和状態になるため、費用対効果の観点で好ましくない。
【0034】
本発明では、有機酸とジオール化合物とを組み合わせて添加することで、極めて優れた経時変化抑制効果を実現している。従来技術に開示されているように、燐酸塩をバインダーとしたプラスチック耐火物に対し、有機酸単独での経時変化抑制効果はある程度認められる。また、ジオール化合物のうちエチレングリコール単独では、蓚酸ほど効果的ではないが、少しの経時変化抑制効果が認められる。しかしながら、その双方、つまり、有機酸とジオール化合物とを併用した場合、その効果は相加的ではなく相乗的である。
【0035】
プラスチック耐火物は水を添加して混練することで生成されるため、添加する有機酸は、水溶性であることが好ましい。例えば、炭素原子数が7より大きいと、疎水性のアルキル鎖が大きくなるため水に対する溶解度が小さくなり、十分な経時変化抑制効果を得にくくなる。そのため、有機酸分子中の炭素原子数は6以下であることが好ましい。より好ましくは炭素原子数が2〜4(2以上かつ4以下)である。
【0036】
また、有機酸分子中の炭素原子数をA、酸素原子数をBとした場合、B/Aは1以上、かつ2以下であることが好ましく、また、この範囲では、B/Aの値が大きいほど1分子中に占める孤立電素対の比が大きくなるため好ましい。
【0037】
なお、有機酸では、B/Aの値が2より大きくなることはない。例えば、カルボキシル基(−COOH)では、炭素原子が有する4つの結合手のうち、2つが酸素原子と結合し、1つはヒドロキシル基(−OH)と結合し、残りの結合手は1つである。この残りの結合手にカルボキシル基が結合したものが蓚酸(HOOC−COOH)であり、B/A=2となる。例えば、この残りの結合手に、酸素原子数のみを増大させるヒドロキシル基が結合することも想定できる。この場合、B/A=3になるが、この物質は炭酸(H
2CO
3)であり有機酸には含まれない。また、蓚酸よりも炭素原子数が多くなる場合、カルボキシル基間に介在する炭素原子は、隣接する炭素原子との結合に2つの結合手を使用している。そのため、残りの2つの結合手にヒドロキシル基が結合しても、B/A=(2(A−2)+4)/A=2となる。すなわち、有機酸では、酸素原子が最も多く結合した状態がB/A=2となる。
【0038】
上述の炭素原子数Aと酸素原子数Bの関係を満足する有機酸として、カルボキシル基を複数個有する、蓚酸、マロン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アコニット酸等を使用することができる。また、1のカルボキシル基と1以上のヒドロキシル基(−OH)を併せ持つグリセリン酸、乳酸、グルコン酸等も使用することができる。さらに、これらの有機酸を任意に組み合わせて使用することもできる。なお、コハク酸、フマル酸は水に対する溶解度が小さいため好ましくない。これらの有機酸の中でも蓚酸をジオール化合物と組み合わせた場合には、経時変化抑制効果が極めて高い。
【0039】
カルボン酸は一般にR−COOHと記述されるが、Rが直鎖の炭化水素の場合は、特に、脂肪酸と呼ばれる。脂肪酸もカルボン酸の一種ではあるが、この種のカルボン酸では上述のB/Aが1未満であり、不対電子対の数が十分でないため好ましくない。
【0040】
上記有機酸の添加量は、原料100質量%に対して外掛けで0.5〜3質量%(0.5質量%以上かつ3質量%以下)が好ましい。より好ましくは、1〜2.5質量%(1質量%以上かつ2.5質量%以下)である。有機酸の添加量が0.5質量%未満では、十分な経時変化抑制効果を得ることができないため好ましくない。また、有機酸の添加量が3質量%より超えると、経時変化抑制効果が飽和するため費用対効果の観点で好ましくない。
【0041】
また、有機酸と併用するジオール化合物としては、炭素原子数2のエチレングリコールや炭素原子数3のプロパンジオールを使用することができる。プロパンジオールとしては、1,2−プロパンジオールと1,3−プロパンジオールのいずれもが使用可能である。また、これらのジオール化合物を任意に組み合わせて使用することもできる。なお、ジオール化合物の酸素原子数は2であるため、炭素原子数が2のジオール化合物では炭素原子数と酸素原子数の比は1:1であり、炭素原子数が3のジオール化合物の炭素原子数と酸素原子数の比は3:2である。上述のように、キレート生成の観点からジオール化合物も孤立電子対の多い化合物であることがより好ましい。孤立電子対は、酸素原子(ヒドロキシル基中)に存在するため、炭素原子数が少ない方が1分子に占める孤立電子対の数が相対的に大きくなる。したがって、炭素原子数の少ないエチレングリコールを使用することがより好ましい。
【0042】
上記ジオール化合物の添加量は原料100質量%に対して外掛けで0.5〜4質量%(0.5質量%以上かつ4質量%以下)が好ましい。より好ましくは、1〜3.5質量%である(1質量%以上かつ3.5質量%以下)である。ジオール化合物の添加量が0.5質量%未満では、十分な経時変化抑制効果を得ることができないため好ましくない。また、ジオール化合物の添加量が4質量%を超えると、乾燥後の成形体が収縮して亀裂を生じるため好ましくない。
【0043】
有機酸とジオール化合物とを併用することで経時変化抑制効果が相乗的に向上した理由は定かではないが、以下の2つの場合が推察される。1つは、多価金属イオンとキレートを生成する際、立体構造的に、有機酸とジオール化合物とが補完し合い、キレート生成効果が向上するというものである。もう1つは、有機酸とジオール化合物とがエステル重合してより分子量の大きい分子となり、その形成された化合物のキレート生成効果が、有機酸単独あるいはジオール化合物単独の場合と比較して、大きくなるというものである。本願発明者らは、前者の可能性が高いと考えている。
【0044】
なお、プラスチック耐火物は適宜水を添加するが、水の添加量は、原料100質量%に対して外掛けで1.5〜6質量%(1.5質量%以上かつ6質量%以下)であることが好ましい。より好ましくは2〜5質量%(2質量%以上かつ5質量%以下)である。水の添加量が1.5質量%未満では、十分な可塑性が得られないため好ましくない。また、水の添加量が6質量%を超えると保形性が低下するため好ましくない。
【0045】
また、プラスチック耐火物保管中の水分の蒸発による作業性の変化や、混練後の製品の可塑性や粘度を調整するために、保水剤や増粘剤を、原料100質量%に対して外掛けで1質量%以下程度添加することができる。これらの保水剤や増粘剤としては、澱粉、デキストリン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ソルビトール、グリセリン等を使用することができる。
【0046】
さらに、焼成後の焼結性を高めるために、フリット、硼酸等のフラックスを生成する焼結助剤を、原料100質量%に対して外掛けで1質量%以下程度添加してもよい。
【0047】
以上のような配合により、本発明に係るプラスチック耐火物を得ることができる。プラスチック耐火物は、練り土状の製品として出荷されるが、練り土状の製品を得る混練機には各種の混練機を利用できる。例えば、ロールパンを使用し、耐火骨材と有機酸を予備混合後、燐酸系バインダー、ジオール化合物、水を順に添加し数十分間混練する等の方法で製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を提示して、本発明のプラスチック耐火物を説明する。
【0049】
表1、表2に示す配合割合でアルミナを主体とするプラスチック耐火物を作成し、その特性を評価した。各プラスチック耐火物で使用した骨材原料はアルミナおよびカイアナイトサンドである。また、各プラスチック耐火物で使用した耐火粘土は水篩粘土である。なお、燐酸系バインダーには正燐酸を使用している。
【0050】
各プラスチック耐火物について、作業性および線変化率を評価し、表1、表2中に記載した。作業性はワーカビリティ・インデックス値(以下、WI値という。)により評価した。WI値は、JIS R 2574「粘土質プラスチック耐火物のワーカビリチー・インデックス試験方法」にしたがって測定している。WI値は、その値が大きいほど作業性に優れ、逆にWI値が小さいと作業性が劣ることを示す。表1、表2中では、混練直後のWI値を100とし、水の蒸発を押さえるためにプラスチック製の袋に入れ、60日間室内に保管したプラスチック耐火物のWI値の相対値(%)を記載している。相対値の大きいものほど経時変化が少ないことを示している。なお、表1および表2の配合について、混練直後のWI値は30.5〜34.5の範囲であり、エチレングリコールの添加量が多いほど、WI値は大きくなる傾向を示した。
【0051】
線変化率は、混練直後、所定形状とした試験サンプルを100℃で24時間乾燥した場合と、1400℃で24時間乾燥した場合とについてそれぞれ評価した(JIS R 2554 準拠)。線変化率の値が、マイナス側に大きい場合、乾燥後や焼成後に亀裂発生をともなうため、好ましくない。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1、表2から理解できるように、実施例1〜8では、比較例1〜8に比べて、60日後のWI相対値(%)、線変化率の各特性について総合的に優れているといえる。
【0055】
ここで、表1および表2に示す配合について簡単に説明する。
【0056】
表1および表2において、実施例1〜8、比較例1〜8は、耐火骨材、耐火粘土、燐酸系バインダーの配合量をすべて同一である。そして、実施例1〜4では、有機酸として蓚酸、ジオール化合物としてエチレングリコールをそれぞれ使用し、エチレングリコールと水の配合割合を変更している。実施例5、6は、実施例2の配合における蓚酸の配合割合を変更している。実施例7は、実施例2の配合において、有機酸として蓚酸に代えてマレイン酸を使用するとともに、水の配合を「0」に変更している。実施例8は、実施例2の配合において、ジオール化合物としてエチレングリコールに代えて1,2プロパンジオールを使用するとともに、水の配合を「0」に変更している。
【0057】
表2において、比較例1は、有機酸およびジオール化合物を添加せず水のみを使用している。比較例2、3は、比較例1の配合において、有機酸である蓚酸を単独で添加している。また、比較例2は、実施例1〜4の配合において、エチレングリコールをより減少させて「0」にした場合の配合に対応する。この比較例2は、特許文献1〜特許文献3が開示する耐火物に相当する。比較例4、5は、比較例1の配合において、ジオール化合物であるエチレングリコールを単独で添加し、エチレングリコールの添加量に合わせて水の添加量を減じている。この比較例4、5は、特許文献5が開示する耐火物に相当する。比較例6は、実施例1〜4の配合において、エチレングリコールをより増大させて水を「0」にした場合の配合に対応する。比較例7は、実施例2の配合において、蓚酸の添加量を増大している。比較例8は、実施例2の配合において、蓚酸に代えてプロピオン酸(C
2H
5COOH)を使用している。
【0058】
表1および表2から理解できるように、有機酸とジオール化合物を併用した実施例1〜8(および比較例6、7)では、有機酸単独、あるいはジオール化合物単独で配合した比較例1〜5に比べて、60日経過後のWI相対値が大きくなっており、経時変化に起因する作業性の低下が抑制できている。また、実施例1〜8では、110℃×24h乾燥後の線変化率が若干マイナスに大きい傾向にあるが実用上問題になるレベルではない。さらに、1400℃×24h乾燥後の線変化率も若干マイナスであるが一般的なレベルである。
【0059】
これに対し、有機酸、ジオール化合物のいずれも添加していない比較例1、蓚酸を単独で添加した比較例2、3、エチレングリコールを単独で添加した比較例4、5では、十分な経時変化抑制効果は得られていない。
【0060】
また、比較例6は、蓚酸とエチレングリコールとの併用により、経時変化に起因する作業性の低下が抑制できている。しかしながら、110℃×24h乾燥後の線変化率は−0.35%であり、収縮亀裂が発生した。
【0061】
また、比較例7は、蓚酸とエチレングリコールとの併用により、経時変化に起因する作業性の低下が抑制できている。また、110℃×24h乾燥後、および1400℃×24h焼成後の線変化率についても実用上問題はない。しかしながら、蓚酸の添加量増大に起因して、耐火物のpHが1.5と小さくなっている。MSDS(Material Safety Data Sheet)では、pHが2.0以下の場合、皮膚腐食性、眼に対する重篤な損傷性が、最も厳しい管理が要求される区分1に分類され、作業者の安全上問題が発生する可能性がある。そのため、当該観点では好ましくないといえる。
【0062】
比較例8は、プロピオン酸とエチレングリコールとを併用した例であるが、十分な経時変化抑制効果は得られていない。プロピオン酸はカルボン酸であり、かつ脂肪酸(R−COOHでRがC
2H
5)に分類される。上述のように、脂肪酸は上述のB/Aが1未満(プロピオン酸はB/A=2/3)であり、不対電子対の数が十分でないため経時変化抑制効果が発現しない。
【0063】
続いて、実施例と比較例について、60日が経過するまでのWI相対値の変化について説明する。
図1は、実施例2、3、4および比較例1、2、3について、WI相対値の経時変化を示す図である。
図1において、横軸は経過日数に対応し、縦軸はWI相対値に対応する。
【0064】
図1から理解できるように、有機酸、ジオール化合物のいずれも添加していない比較例1は、混練後10日間でWI相対値が40%まで低下しており、経時変化が著しいことが理解できる。また、蓚酸のみを添加した比較例2は、WI相対値が40%付近に達する日数が約30日まで増加しており、経時変化の抑制効果が確認できる。しかしながら、その抑制効果は十分に満足できるものではない。比較例2に対して蓚酸の添加量を増大した比較例3は、WI相対値が40%付近に達する日数が約60日まで増加しており、さらなる経時変化の抑制効果が確認できるが、まだ十分とはいえない。
【0065】
これに対し、実施例2、3、4では、60日経過後のWI相対値が80%以上であり、従来に比べて、極めて優れた経時変化抑制効果が実現されている。
【0066】
以上説明したように、有機酸とジオール化合物とを併用する本発明の各実施例によれば、多価金属イオンと燐酸との反応に起因する経時変化を抑制した、総合的に優れた特性を有するプラスチック耐火物を得ることができる。