(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二軸延伸処理する工程、又は、前記収縮処理する工程の後、フィルムを80℃以上180℃以下の温度で熱処理する工程をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の発明>超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法
第1の発明は、超高分子量ポリエチレン原料を用いてフィルムを成形する工程、前記工程で得られたフィルムを、該フィルムの融点以上、且つ、180℃以下の温度範囲でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程、二軸延伸処理した後、収縮処理する工程、
前記収縮処理する工程の後のフィルムを、降温処理を行う工程の直前の工程における最終温度よりも10℃から160℃低い温度に降温する降温処理を行う工程と、ならびに
x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に延伸する開孔処理工程を含む、超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法であって、前記開孔処理を14
5℃
を超え170℃以下の温度範囲で
、行うことを特徴とする方法に関する。
【0011】
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法では、まず、超高分子量ポリエチレンを原料に用いてフィルムを成形する。
ここでフィルム成形に用いられる超高分子量ポリエチレン原料としては、粘度平均分子量(Mv)が100万〜1200万のポリエチレンが好ましく、120万〜600万のポリエチレンがより好ましい。尚、前記粘度平均分子量は、デカリン溶媒(135℃)中において測定した値であり、極限粘度([η])は、5dl/g〜50dl/gが好ましく、8dl/g〜40dl/gがより好ましく、10dl/g〜30dl/gが更に好ましい。
なお、超高分子量ポリエチレンにおいては、上記の粘度平均分子量と極限粘度は、例えば、特開2005−314544号公報および特開2005−313391号公報に記載されるように、下記式で表される関係にあることが知られている。
Mv=5.37×10
4[η]
1.49
上記式を用いて、測定した極限粘度から粘度平均分子量を求めることができ、本発明においてもこのようにして求めた値を採用している。
【0012】
超高分子量ポリエチレンの分子量の測定は既述の通りであるが、デカリン溶媒への溶解が困難な場合、本発明に好適な超高分子量ポリエチレンの分子量は以下の方法で測定される。この方法は、ASTM D 1430−65T法を応用したものであり、まず、超高分子量ポリエチレンを製膜したフィルムを準備し、その降伏値を測定して分子量を算出するものである。
分子量を測定しようとする超高分子ポリエチレン原料を溶融プレス成形によりフィルム状に製膜して、ASTM D 1430−65T法に規定するダンベル型の試験片を作製する。得られたダンベル型試験片を複数用意し、それぞれに異なる荷重を負荷し、150℃に加熱したグリコール浴に浸漬する。負荷した荷重により試験片が伸びるので、600%の伸びをおこすために必要な時間を測定する。対数座標軸上に、前記で得られた伸びに要する時間を、試験片に負荷された引張応力(荷重を試験片の断面積で割った値)に対してプロットする。プロットした値には直線性が見られ、このグラフより、10分の伸び時間に必要な降伏値と称する応力(N/mm
2)が求められる。本発明に使用される超高分子ポリエチレンでは、降伏値は0.05N/mm
2〜1.5N/mm
2の範囲であることが好ましい。例えば、超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)Hostalene GUR カタログ(Hoechst Aktiengesellschaft, August 1993)等の文献によれば、降伏値と前記粘度法により測定された粘度平均分子量は相関するため、降伏値測定法により分子量を検知しうる。
フィルム成形に用いられる超高分子量ポリエチレン原料の形状は特に制限されないが、顆粒状または粉末状の超高分子量ポリエチレンが好ましく、粉末状の超高分子量ポリエチレンがより好ましい。粉末状超高分子量ポリエチレンの粒径としては、体積平均粒径(D
50)で、2000μm以下が好ましく、1μm〜2000μmがより好ましく、10μm〜1000μmが更に好ましい。
【0013】
超高分子量ポリエチレンは公知の触媒を用いて重合された重合体であればよいが、チーグラー触媒やメタロセン触媒を用いて重合された超高分子量ポリエチレンが好適に用いられる。なお、フィルム成形の際には溶媒やシリカなど超高分子量ポリエチレン原料以外の成分を加えてもよい。
この他、フィルム成形の際に加えられる化合物としては、公知の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤、染料、顔料を含む着色剤などの通常ポリオレフィンに添加混合される配合剤を1種あるいは2種以上を、本発明の目的を損なわない範囲で目的に応じて含有させることができる。
このうち、酸化防止剤としては、チバガイギー製Irganox1076(商品名)等のフェノール系酸化防止剤や旭電化工業製アデカスタブHP−10(商品名)等のリン系酸化防止剤、あるいは、硫黄系酸化防止剤等が好適に用いられる。
これらの添加剤を含有させる方法としては、そのまま、原料と混合する方法のほか、添加剤を他の溶剤に分散あるいは溶解させたのち、これを原料に混合あるいは噴霧し、溶剤のみを揮発除去する方法や、超高分子量ポリエチレン原料を溶融させた状態で添加剤を混練りする方法などの公知の添加法が挙げられる。
【0014】
また、該超高分子量ポリエチレンは、結晶化度が高く強度等の物性に優れる点でエチレンのみを構成単位とすることが望ましいが、エチレンから誘導される構成単位を含む重合体もしくは共重合体であってもよい。該超高分子量ポリエチレンが共重合体である場合、エチレン構成単位と共に超高分子量ポリエチレンを構成する構成単位としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、および4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンから誘導される構成単位を挙げることができる。すなわち、本発明の「超高分子量ポリエチレン製多孔化膜」および「超高分子量ポリエチレン製フィルム」にはポリエチレンの共重合体を原料とするものも含まれる。
【0015】
超高分子量ポリエチレンからのフィルムの成形の方法は特に制限されないが、プレス成形、ロール成形、混練・押出成形、スカイブ法、インフレーション成形等が例示され、その中ではプレス成形およびロール成形がより好ましい。
ロール成形については特開2003−165155に記載されているが、ロール成形としては、一対のロール同士の間隙にポリエチレン重合体粉末を通過させることによりフィルムを成形する方法が好ましい。ロール成形の際のロール同士の間隙としては、得られるポリエチレン製フィルムの均一性・薄膜性の点で、0.005mm〜10mmが好ましく、0.005mm〜0.1mmがより好ましく、0.005mm〜0.05mmが更に好ましい。ロール成形の際のロールの回転速度としては、0.1m/min〜10m/minが好ましく、ポリエチレン重合体粉末の密着性、得られるポリエチレン製フィルムの透明性・均一性、及び、破断強度等の力学物性に優れる点で、1m/min〜10m/minがより好ましい。
ロール成形に用いるロールの形状としては、回転可能な形状であれば特に制限はなく、例えば、円筒体、円柱体のほか、回転可能な無限ベルト体等も挙げられる。また、ロールの材質としては、前記ポリエチレン重合体粉末を好適にロール成形し得れば特に制限はなく、ステンレス鋼等の金属、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、より好適に、ポリエチレン重合体粉末をロール成形し得る点で、ステンレス鋼等が好ましい。
ロール成形は、該成形に供する超高分子量ポリエチレン(粉末あるいはフィルム)の融点を超える温度で行うのが好ましく、120℃〜180℃が好ましく、136℃〜180℃がより好ましい。
【0016】
一方、プレス成形は0.01MPa〜100MPaの圧力で行うことが好ましく、0.01MPa〜50MPaの圧力で行うことがより好ましく、0.1MPa〜10MPaの圧力で行うことがさらに好ましい。
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法においては、好ましくは上記ロール成形あるいはプレス成形を行い、特に好ましくは、ロール成形とプレス成形の両方を行う。この場合、ロール成形とプレス成形はどちらを先に行ってもよいし、ロール成形とプレス成形を繰り返してもよいが、好ましくは、後述する本願実施例に記載されるように、まず、ロール成形によりフィルムを形成し、これを複数枚切り出した後、ロール方向が互いに異なるように重ねて置き、これをプレス成形する方法であり、より好ましくはロール方向が直交するように重ねて置き、これをプレス成形する方法である。これにより、より均一なフィルムを成形することができる。
【0017】
フィルム成形の際は、原料の超高分子量ポリエチレン粉末を、該超高分子量ポリエチレンの融点を超える温度でロール成形あるいはプレス成形することが好ましく、具体的には120℃〜250℃で成形することがより好ましい。ロール成形を行ってからプレス成形を行う場合、ロール成形を120℃〜180℃の範囲で行い、プレス成形を130℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。尚、本発明において、「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)にて測定し得られたDSC曲線のピークにおける温度(℃)を指し、超高分子量ポリエチレン(粉末あるいはフィルム)の製造方法や分子量にもよるが、約120℃〜145℃である。なお、複数の融解ピークがある場合は、最も強度(吸熱量)の大きいピークの温度を融点とする。
【0018】
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法においては、次に、成形されたポリエチレン製フィルムを、その融点以上の温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する。二軸延伸は、まず、一方向(x軸)に延伸し、次いで該方向と垂直方向(y軸)に延伸する逐次二軸延伸でもよいが、x軸およびy軸方向(縦横)同時に延伸する同時二軸延伸が好ましい。
【0019】
二軸延伸処理における温度は、該超高分子量ポリエチレンフィルムの融点以上の温度であり、且つ、180℃以下である温度範囲で行われ、120℃〜180℃の温度範囲であることが好ましく、130℃〜180℃がより好ましく、136℃〜180℃がさらに好ましく、136℃〜170℃が最も好ましい。なお、この温度範囲内であれば二軸延伸処理中に温度を変動させてもよい。
二軸延伸処理における温度条件は、超高分子量ポリエチレンフィルムの分子量により適宜選択すればよい。例えば、分子量が100万近傍であると、融点近傍の136℃〜145℃程度が好ましいが、分子量が大きくなるにつれて、フィルムの熱特性が変わるために、より高い温度条件における二軸延伸処理が可能となる。
二軸延伸における延伸倍率は、x軸方向、y軸方向ともに、延伸前の長さの2倍〜50倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。
また、二軸延伸処理の前に、二軸延伸する温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。
【0020】
なお、溶融状態での二軸延伸を効率よく行うため、熱風吹き付け型の二軸延伸機などを用い、フィルム中心部のみを溶融させ、チャック部(端部)は溶融させない状態での延伸を行うことが好ましい。この際、二軸延伸が溶融状態で行われていることを確認できるよう、応力検知機構を備えた二軸延伸機であることが好ましい。また、チャック部(端部)は延伸に伴って次第に膜厚が薄くなり、滑りやすくなるので、エアー・チャック機構等の常に一定の掴み力がかかるチャック機構を備えていることが好ましい。
【0021】
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法においては、二軸延伸を行った後に、該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理(戻し処理)を行う。二軸延伸を行った後すぐに収縮処理を行っても良いし、二軸延伸を行った後、収縮処理を行う温度に一定時間(好ましくは、1分から180分、より好ましくは、1分から10分)保持した後に収縮処理を行っても良い。収縮処理の温度は、120℃〜180℃が好ましく、130℃〜180℃がより好ましく、136℃〜180℃がさらに好ましく、136℃〜170℃が最も好ましい。なお、この温度範囲内であれば収縮処理中に温度を変動させてもよい。
x、y両軸に沿って収縮処理を行う場合は、まず、一方向に収縮させ、次いで該方向と垂直方向に収縮させてもよいが、x軸およびy軸方向同時に収縮させることが好ましい。
収縮率は、x軸方向、y軸方向ともに、収縮後の長さが、収縮前の長さ(延伸後の長さ)の5%〜95%になるようにすることが好ましく、20%〜75%になるようにすることがより好ましい。x軸方向とy軸方向の収縮率は同じでも異なってもよい。
また、収縮処理の前に、収縮処理する温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は、好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。その場合、前記収縮前の長さとは、延伸工程後の特定温度における保持工程後の長さを指す。
さらに、収縮処理前または収縮処理後に、熱処理する熱処理工程を含んでよい。熱処理温度としては、好ましくは80℃〜180℃、より好ましくは120℃〜165℃、熱処理時間としては、好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。なお、この温度範囲内であれば熱処理中に温度を変動させてもよい。
【0022】
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法においては、さらに、x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って再延伸処理を行ってもよい。収縮処理を行った後すぐに再延伸処理を行ってもよいし、収縮処理を行った後、上記熱処理を行った後に再延伸処理を行っても良い。再延伸処理の温度も最初の二軸延伸処理と同様、該超高分子量ポリエチレンフィルムの融点を超える温度であればよいが、120℃〜180℃が好ましく、130℃〜180℃がより好ましく、136℃〜180℃がさらに好ましく、136〜170℃が最も好ましい。なお、この温度範囲内であれば再延伸処理中に温度を変動させてもよい。x、y両軸に沿って再延伸処理を行う場合は、まず、一方向に延伸し、次いで該方向と垂直方向に延伸してもよいが、x軸およびy軸方向同時に延伸することが好ましい。再延伸の延伸率は、x軸方向、y軸方向ともに、再延伸前の長さの1.1倍〜50倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。この再延伸処理により、引っ張り破断強度をさらに高めることができる。
このような再延伸処理の前に、延伸温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1分〜180分、より好ましくは1分〜10分間である。
また、このような再延伸処理の後に、さらに前記の収縮処理する工程あるいは熱処理する工程を行ってもよい。さらに、これら延伸処理する工程、収縮処理する工程、熱処理する工程、及び再延伸処理する工程から選ばれる少なくとも一工程を適宜、繰り返してもよい。前記各処理工程を繰り返し行う場合、各工程の順番や回数は任意に変えてよい。
例えば、熱処理工程を前記延伸処理する工程の後、収縮処理する工程に先だって行う場合には、前記収縮処理工程における「収縮前の長さ」とは、延伸処理する工程後に行われる熱処理工程の後の長さを指すことになる。
【0023】
本発明の超高分子量ポリエチレン製多孔化膜の製造方法では、これらの処理の後に、得られた超高分子量ポリエチレン製フィルムに開孔処理を施す。延伸処理、収縮処理または熱処理後、一旦、該超高分子量ポリエチレン製フィルムの融点以下あるいは結晶化温度以下に温度を下げてラメラ構造を確定(結晶化)させる降温処理を行った後に開孔処理を行うことが好ましい。開孔処理を行う際の温度は142℃〜170℃であるが、より好ましくは145℃〜165℃である。これらの温度範囲で開孔処理を行うことにより、多孔化膜のガス透過性を高めることができる。
また、この開孔処理の前に、開孔処理する温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1秒間〜1時間、より好ましくは1分間〜10分間である。
開孔処理は、例えば、収縮処理して得られたフィルムを一旦、融点以下あるいは結晶化温度以下に温度を下げてラメラ構造を確定(結晶化)させてから、さらに142℃〜170℃で一軸延伸あるいは二軸延伸することにより行うことができる。これにより有機溶剤を用いることなく、細孔径が数十nm〜数μmの微多孔化膜が調製できる。
なお、開孔処理は一軸延伸で行ってもよく、二軸延伸で行ってもよく、延伸倍率は、x軸方向、y軸方向ともに、開孔処理前の長さの1.1倍〜10.0倍が好ましい。二軸延伸の場合、同時延伸である必要はなく、x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。また、上記の温度範囲であれば、開孔処理中に温度が変動してもよい。また、二軸延伸は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれであってもよい。
【0024】
本発明においては、前記二軸延伸処理する工程、収縮処理する工程、又は前記熱処理す
る工程の後、開孔処理工程に先立ち、二軸延伸処理及び収縮処理したフィルムを一旦、融点以下あるいは結晶化温度以下に降温する降温処理を行うことが好ましい。降温処理は、前工程における最終温度よりも10℃から160℃低い温度に降温する条件で行われ、20℃から150℃低い温度に降温することがより好ましい。例えば、延伸工程を180℃の温度範囲で行った後、これを室温(20℃)近傍まで降温すると、前工程の最終温度よりも約160℃低い温度に降温したことになる。
なお、ここで降温処理における「前工程」とは、降温処理工程が行われる前に行われた工程を指し、前工程とは、「延伸処理工程」、「収縮処理工程」、及び「熱処理工程」から選ばれるいずれであってもよく、これら全ての工程の後に降温処理工程を行ってもよい。
【0025】
なお、開孔処理後に、多孔構造が破損あるいは閉塞しない程度に延伸処理、収縮処理、熱処理、降温処理および/または開孔処理を適宜繰り返してもよいし、これらの処理を繰り返し行う際の順番や回数は任意に変えてよい。また、開孔処理を繰り返す際は、一旦温度を融点以下あるいは結晶化温度以下に下げてから行ってもよいし、温度を下げずに開孔処理温度に保持して行ってもよい。
既述のように、開孔処理を繰り返す場合も、一度開孔処理したフィルムを融点以下あるいは結晶化温度以下に降温処理することが好ましい。降温条件としては、好ましくは、前工程における最終温度よりも10℃から160℃低い温度に降温することであり、最終的には室温である20℃以上120℃未満程度の温度まで降温することが好ましい。このような降温処理を行った後に、再度142℃〜170℃に加熱して開孔処理を行うことが好ましい。
【0026】
本発明においては、このような各種処理工程を施した後、得られたポリエチレン製多孔化膜を最終的には室温で取り出して様々な用途に使用する。
ポリエチレン製多孔化膜の有する細孔の形状については、後述する実施例で明らかなように、走査型電子顕微鏡(SEM)像などで確認することができる。また、本発明の多孔化膜は、微細な貫通孔を有することから、室温にて測定した酸素透過係数は、5×10
−10cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)以上であり、細孔の形状や密度は製造条件により制御しうるため、本発明の製造方法の如く溶媒を使用しない方法により、1×10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)以上の酸素透過係数を有する多孔化膜を製造することも可能である。
本発明の製造方法により得られた本発明のポリエチレン製多孔化膜は、超高分子量ポリエチレンの高強度な膜に均一に微細な孔が形成されており、イオン透過性、ガス透過性に優れるための種々の用途に使用される。特に、その特性から、リチウムイオン電池のセパレーターとして有用である。
【0027】
従来、リチウムイオン電池セパレーターの製造方法としては、フィルムを成形し、あらかじめ混入させておいた有機溶剤(デカリン、パラフィンなど)を揮発あるいは抽出除去することで開孔し、この膜を延伸して細孔サイズを調整している(特開2004−182763)。これに対し、本発明では溶媒を用いずに細孔径が数十nm〜数μmの微多孔化膜が調製できるので、環境に負荷が少なく、製造作業者の健康に害のない製造方法であると言える。
【0028】
リチウムイオン電池は、動作電圧が高い、エネルギー密度が高い、メモリー効果がない、充放電のサイクル寿命が長いなどの優れた特徴を備えており、ノートブック型パーソナルコンピューター、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話等の二次電池として広く用いられている。
リチウムイオン電池の基本的な構造は、少なくとも、正極活物質及び正極集電体を備えた正極、負極活物質及び負極集電体を備えた負極、セパレーター及び電解液を含んで構成され、一般的には、正極と負極とは電解液を透過可能なセパレーターを介して配置され、この状態で外装材にて密封されている。正極集電体にはアルミ箔、負極集電体には銅箔が用いられている。セパレーターは、電解液中のイオン伝導性が良好で、且つ、機械的強度や熱安定性を求められるため、従来の溶剤除去により得られる多孔化膜よりも均一でイオン伝導性に優れ、機械的強度の高い本発明の多孔化膜はセパレーターとして好適である。
【0029】
<第2の発明>超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法
第2の発明は、超高分子量ポリエチレン原料を用いてフィルムを成形する工程、前記工程で得られたフィルムを該フィルムの融点以上、且つ、180℃以下の温度範囲でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程を含む、超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法であって、前記フィルム成形工程をプレス成形工程とロール成形工程の少なくとも2工程を行うことを特徴とする方法に関する。
第2の発明は、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れ、厚さの薄い超高分子量ポリエチレン製フィルムを、安価かつ効率的に製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
第2の発明は、さらに、上記の方法で得られた超高分子量ポリエチレン製フィルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造において、フィルムの成形をロール成形とプレス成形の両方を行った後に二軸延伸処理を行うことにより、フィルム強度およびガスバリア性が高く膜厚の薄いフィルムを効率よく製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
第2の発明は以下の通りである。
(7)粘度平均分子量が100万〜1200万である超高分子量ポリエチレン原料を用いて、プレス成形工程、及びロール成形工程の少なくとも2工程を行うことでフィルムを成形するフィルム成形工程と、前記工程で得られたフィルムを該フィルムの融点以上、且つ、180℃以下の温度範囲でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程と、を含む超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(8)前記フィルム成形工程が、粘度平均分子量が100万〜1200万である超高分子量ポリエチレン原料をロール成形してフィルムを成形するロール成形工程と、前記ロール成形工程により得られたフィルムを、複数枚積層した後、プレス成形するプレス成形工程と、をこの順で含む(7)に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(9)前記プレス成形工程において、前記ロール成形工程により得られたフィルムを、ロール成形した方向が互いに異なるように複数枚積層する(8)に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(10)前記二軸延伸処理する工程の後に、前記工程で得られた二軸延伸処理したフィルムを、該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理する工程を有する(7)〜(9)のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(11)前記収縮処理する工程が、120℃以上180℃以下の温度範囲で行われる(10)に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(12) 前記二軸延伸処理する工程、又は、前記収縮処理する工程の後、フィルムを80℃以上180℃以下の温度で熱処理する工程をさらに含む、(7)〜(11)のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(13)前記二軸延伸処理する工程、前記収縮処理する工程、前記熱処理する工程、及び、前記開孔処理する工程の少なくとも1つの工程を、該工程の順序を任意として複数回実施する(7)〜(12)のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(14)前記二軸延伸処理する工程、前記収縮処理する工程、又は、前記熱処理する工程の後、x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に延伸して、得られたフィルムを多孔化膜とする開孔処理工程をさらに含む(7)〜(13)のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(15)(7)〜(13)のいずれか一項に記載の製造方法により得られた、膜厚が0.1μm〜100μmであり、室温で測定した酸素透過係数が1×10−10cm3(STP)cm/(cm2・s・cmHg)以下であり、且つ、破断強度が30MPa以上である超高分子量ポリエチレン製フィルム。
第2の発明によれば、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れ(結晶化度が高い)、各種分野への応用が可能な超高分子量ポリエチレン製フィルムを安価かつ効率的に提供することができる。
【0030】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法では、まず、超高分子量ポリエチレンを原料に用いてフィルムを成形する。フィルム成形に用いられる超高分子量ポリエチレンの原料や重合触媒については、第1の発明と同様のものを使用することができる。
【0031】
超高分子量ポリエチレンからのフィルムの成形はプレス成形およびロール成形の両方で行う。プレス成形とロール成形の好ましい条件等については第1の発明において述べたとおりである。
【0032】
フィルム成形の際は、原料の超高分子量ポリエチレン粉末を、該超高分子量ポリエチレンの融点を超える温度でロール成形およびプレス成形することが好ましく、具体的には120℃〜250℃で成形することがより好ましい。ロール成形とプレス成形はどちらを先に行ってもよいし、ロール成形とプレス成形を繰り返してもよいが、ロール成形を120℃〜180℃の範囲で行い、プレス成形を130℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。好ましくは、後述する本願実施例に記載されるように、まず、ロール成形によりフィルムを形成し、これを複数枚切り出した後、ロール方向が互いに異なるように重ねて置き、これをプレス成形する方法である。プレス成形およびロール成形の両方をこの順で行うことにより、より均一なフィルムを成形することができ、さらに後述するように延伸処理を行うことによりガスバリア性に優れた薄膜を得ることができる。
【0033】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法においては、次に、成形されたポリエチレン製フィルムを、その融点以上の温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する。二軸延伸は、まず、一方向(x軸)に延伸し、次いで該方向と垂直方向(y軸)に延伸する逐次二軸延伸でもよいが、x軸およびy軸方向(縦横)同時に延伸する同時二軸延伸が好ましい。
【0034】
二軸延伸処理における温度は、該超高分子量ポリエチレンフィルムを該フィルムの融点以上、且つ、180℃以下の温度範囲で行うが、120℃〜180℃が好ましく、130℃〜180℃がより好ましく、136℃〜180℃がさらに好ましく、136℃〜170℃が最も好ましい。なお、この温度範囲内であれば二軸延伸処理中に温度を変動させてもよい。
二軸延伸における延伸倍率は、x軸方向、y軸方向ともに、延伸前の長さの2倍〜50倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。
また、二軸延伸処理の前に、二軸延伸する温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。
【0035】
なお、溶融状態での二軸延伸を効率よく行うため、熱風吹き付け型の二軸延伸機などを用い、フィルム中心部のみを溶融させ、チャック部(端部)は溶融させない状態での延伸を行うことが好ましい。この際、二軸延伸が溶融状態で行われていることを確認できるよう、応力検知機構を備えた二軸延伸機であることが好ましい。また、チャック部(端部)は延伸に伴って次第に膜厚が薄くなり、滑りやすくなるので、エアー・チャック機構等の常に一定の掴み力がかかるチャック機構を備えていることが好ましい。
ロール成形とプレス成形の両方を行うことによって得られたフィルムを二軸延伸処理することによりガスバリア性に優れた薄膜が得られる。
【0036】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法においては、二軸延伸を行った後に、さらに、該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理(戻し処理)を行ってもよい。この場合、二軸延伸を行った後すぐに収縮処理を行っても良いし、二軸延伸を行った後、収縮処理を行う温度に一定時間(好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分)保持した後に収縮処理を行っても良い。収縮処理の温度は、120℃〜180℃が好ましく、136℃〜180℃がより好ましく、140℃〜165℃がさらに好ましく、140℃〜155℃が特に好ましい。なお、この温度範囲内であれば収縮処理中に温度を変動させてもよい。
x、y両軸に沿って収縮処理を行う場合は、まず、一方向に収縮させ、次いで該方向と垂直方向に収縮させてもよいが、x軸およびy軸方向同時に収縮させることが好ましい。
収縮率は、x軸方向、y軸方向ともに、収縮後の長さが、収縮前の長さの5%〜95%になるようにすることが好ましく、20%〜75%になるようにすることがより好ましい。x軸方向とy軸方向の収縮率は同じでも異なってもよい。
また、収縮処理の前に、収縮処理する温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。
さらに、収縮処理前または収縮処理後に、熱処理を行う熱処理工程を含んでもよい。熱処理温度としては、好ましくは80℃〜180℃、より好ましくは120℃〜165℃であり、熱処理時間としては、好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分である。なお、この温度範囲内であれば熱処理中に温度を変動させてもよい。
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法においては、二軸延伸処理を行った後に、収縮処理を行わず、そのまま熱処理を行ってもよい。この際の熱処理時間は1分から180分が好ましく、1分から10分がさらに好ましい。また、熱処理温度は、80℃〜180℃が好ましく、120℃〜165℃がより好ましい。
【0037】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法においては、さらに、収縮処理を行ったのちに、x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って再延伸処理を行ってもよい。収縮処理を行った後すぐに再延伸処理を行ってもよいし、収縮処理を行った後、フィルムの最終的な取り出し温度(通常は室温)よりも高い温度に一定時間(好ましくは1分から180分、より好ましくは1分から10分)保持する工程(熱処理工程)を行った後に再延伸処理を行っても良い。再延伸処理の温度も最初の二軸延伸処理と同様、該超高分子量ポリエチレンフィルムの融点を超える温度であればよいが、120℃〜180℃が好ましく、130℃〜180℃がより好ましく、136℃〜180℃がさらに好ましく、136〜170℃が最も好ましい。なお、この温度範囲内であれば再延伸処理中に温度を変動させてもよい。
x、y両軸に沿って再延伸処理を行う場合は、まず、一方向に延伸させ、次いで該方向と垂直方向に延伸してもよいが、x軸およびy軸方向同時に延伸させることが好ましい。
再延伸の延伸率は、x軸方向、y軸方向ともに、再延伸前の長さの1.1倍〜50倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。
このような再延伸処理の前に、延伸温度で一定時間保持する保持工程を含んでいてもよい。この際、温度保持する時間は好ましくは1分〜180分、より好ましくは1分〜10分間である。
この再延伸処理により、引っ張り破断強度をさらに高めることができる。
また、このような再延伸処理の後に、さらに前記の収縮処理あるいは熱処理を行ってもよい。さらに、これら延伸処理、収縮処理、熱処理、再延伸処理を適宜、繰り返してもよい。これらの処理の順番や回数は任意に変えてよい。
【0038】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法によって、以下に示すように高物性で厚さが薄い超高分子量ポリエチレン製フィルムが得られる。すなわち、本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムの厚みは0.1μm〜100μmが好ましく、0.5μm〜80μmがより好ましい。
即ち、本発明の製造方法により得られた超高分子量ポリエチレン製フィルムは、膜厚が0.1μm〜100μmの範囲において、室温で測定した酸素透過係数が5×10
−10cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)以下であり、且つ、破断強度が30MPa以上であるという高物性を達成する。
本発明の製造方法により得られた高分子量ポリエチレン製フィルムは、膜厚が0.1μm〜60μm、より好ましくは0.5μm〜40μmの如き薄膜であっても、好ましくは、酸素透過係数が5×10
−11cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)以下、より好ましくは、1×10
−12cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)以下という優れた酸素遮断性を達成しうる。
フィルムの厚さを薄くすることにより、より高密度にフィルムを積層させることができる。このため、印刷用の基板フィルムやインクリボン・テープ、磁気テープ基材等として好適に用いることができる。また、電子回路基板等に用いる封止材、バリア膜、コート膜等として用いることができる。また、これらの応用態様として、気体遮断性を必要とする包装材料などにも好適に使用される。
また、本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムは均一性が非常に高く、好ましくは、後述するDSC融解ピークの半値全幅(FWHM)が20.0℃より狭く、より好ましくは10.0℃より狭く、6.0℃より狭いことが特に好ましい。FWHMは
図6のようにして計算することができる。
【0039】
第2の発明では、さらに、得られた超高分子量ポリエチレン製フィルムに開孔処理をする工程を含んでもよい。即ち、前記二軸延伸処理する工程の後、x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に延伸して、得られたフィルムを多孔化膜とする開孔処理工程をさらに含んでもよい。
例えば、延伸処理および/または収縮処理によって得られたフィルムをさらに固相(融点以下、好ましくは0℃〜140℃、より好ましくは20℃〜130℃)で一軸延伸あるいは二軸延伸して開孔処理し、多孔化膜を成形することが可能である。あるいは、溶融状態(融点以上、好ましくは140℃〜180℃、より好ましくは142℃〜170
℃)で一軸延伸あるいは二軸延伸して、多孔化膜を成形することも可能である。これにより有機溶剤を用いることなく、細孔径が数十nmの微多孔化膜が調製できる。
この開孔処理を施す場合は、一旦温度を融点以下あるいは結晶化温度以下に下げてから行ってもよいし、温度を下げずに開孔処理温度に保持して行ってもよい。
なお、延伸倍率は、x軸方向、y軸方向ともに、開孔処理前の長さの1.1倍〜10.0倍が好ましい。二軸延伸の場合、同時延伸である必要はなく、逐次延伸であってもよいし、x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。また、上記の温度範囲であれば、開孔処理中に温度が変動してもよい。
【0040】
また、開孔処理後に、多孔構造が破損あるいは閉塞しない程度に延伸処理、収縮処理、熱処理および/または開孔処理を適宜繰り返してもよいし、これらの処理の順番や回数は任意に変えてよい。また、開孔処理を繰り返す際は、一旦温度を融点以下あるいは結晶化温度以下に温度を下げる降温処理を行ってからでもよいし、温度を下げずに開孔処理温度に保持して行ってもよい。ここで、延伸処理する工程、収縮処理する工程を、順次、複数回繰り返すことにより、機械的強度及び膜均一性の向上が見られる。
本発明においては、前記二軸延伸処理する工程及び収縮処理する工程の後、開孔処理工程に先立ち、二軸延伸処理及び収縮処理したフィルムを一旦、融点以下あるいは結晶化温度以下に降温処理し、好ましくは、前工程における最終温度よりも10℃から160℃低い温度に降温する降温処理を行うことが好ましい。
さらに、このような降温処理あるいは開孔処理の後に、前記の二軸延伸処理、収縮処理あるいは熱処理を行ってもよい。また、これら延伸処理、収縮処理、熱処理、再延伸処理、降温処理あるいは開孔処理を適宜、繰り返してもよい。これらの処理の順番や回数は任意に変えてよい。
本発明においては、このような各種処理工程を施した後、得られたポリエチレン製フィルムあるいは多孔化膜を最終的に室温で取り出して様々な用途に使用する。
【0041】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムは、引張り破断強度および引き裂き強度が共に高く、実用上充分な力学物性を有し、機械物性のバランスに優れているので、粘着テープ、耐摩耗テープやフィルム、耐傷付テープ等の各種工業用保護テープあるいはフィルム、バリア膜、撥水コート膜、包装用フィルム、リチウムイオン電池セパレーター、白色反射フィルム、中性子遮断フィルム、磁気テープのスリップシート等の各種の分野に好適に利用される。また、他の高分子フィルムや金属シートなどとラミネートすることにより複合材料として利用される。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1−1]
ロール成形
ポリエチレン重合体粉末(粘度平均分子量3.5×10
6)(三井化学株式会社製ハイゼックスミリオン340M:粒子径150μm)を用い、145℃、ロールの回転速度3m/minで特開2003−165155公報の記載に準拠してロール成形を行い、続いて下記条件でプレス成形を行った。
【0044】
プレス成形
図1のように、直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板(1)の上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜(2)を置き、次に直径110mmφ×厚さ0.25mmの円盤状ステンレス板に70mm×70mmの矩形窓をくり抜いたもの(3)を置き、その矩形窓内に上記ロール成形で得られた厚さ約75μmのフィルムを70mm×70mm に切り出したものを4枚、ロール方向が互い違い(直交状態)になるように重ねて置いた。その上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜(4)を置き、さらにその上に直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板(5)を置いた。
【0045】
これら全体を室温にて真空チャンバー内に設置されたプレス機(株式会社ボールドウィン製)中の上下板の間に置き、10
−1Torrまでロータリーポンプで減圧後、上下のプレス板の間隔を応力がかからないようになるべく近付け、180℃に加熱し、180℃のまま5分間保持し、その後、4.5MPa(シリンダー圧力60MPa)の圧力でプレスしたままヒーター電源を切って減圧状態で室温まで徐冷した。その後、真空チャンバーを開けて成形フィルム(ロールプレスフィルム)を取り出した。
【0046】
このようにして得られたフィルムを25mm×25mmの正方形に切り出し(未延伸:1×1倍)、これを、エアー・チャック機構を備えた平面拡張延伸装置(アイランド工業株式会社製)を用いて融点以上の150℃で5分間保持した後、その温度を維持したまま縦×横方向に7×7倍まで同時二軸延伸した。次に、150℃を保ったままで4×4倍まで「収縮処理」を行った。さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで冷却してラメラ構造を固定化した。なお、このフィルムの厚さは30μmであった。
その後、それぞれ130℃、140℃、145℃、150℃、155℃で1.75×1.75倍(総延伸倍率:7×7倍)に同時二軸延伸することによって開孔処理を行った。その後、室温に冷却して取り出した。
【0047】
得られたポリエチレン製多孔化膜について、酸素透過率の測定を行った。結果を
図2に示す。
図2から、開孔処理を145℃以上で行うことにより、酸素透過係数が顕著に向上することがわかった(開孔処理温度155℃で調製した多孔化膜では4.72x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった)。これは多孔化効率の向上を示しており、145℃以上では、大孔径の細孔が得られることがわかった。なお、酸素透過係数はツクバリカセイキ(株)製K−325N改によって室温(20℃)にて測定した。
【0048】
図3に155℃で開孔処理して得られた多孔化膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。SEM観察は、(株)日立ハイテクノロジーズ製S−4800を用い、加速電圧1kVで室温にて行った。長さが約5μmで幅が約1μm程度のスリット状の細孔が得られたことが確認できた。
【0049】
(実施例1−2)
実施例1-1と同様にして得られたロールプレスフィルムを25mm×25mmの正方形に切り出し(未延伸:1×1倍)、これを、エアー・チャック機構を備えた平面拡張延伸装置(アイランド工業株式会社製)を用いて融点以上の150℃で5分間保持した後、その温度を維持したまま縦×横方向に12×12倍まで同時二軸延伸した。次に、150℃を保ったままで6×6倍まで「収縮処理」を行った。さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで冷却してラメラ構造を固定化した。なお、このフィルムの厚さは20μmであった。
その後、155℃で1.75×1.75倍(総延伸倍率:10.5×10.5倍)に同時二軸延伸することによって開孔処理を行った後、室温に冷却して取り出した。
実施例1−1と同様に室温で酸素透過率の測定を行ったところ、7.10x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
【0050】
[実施例2−1]
延伸により開孔処理する工程を155℃において逐次延伸とする以外は、予め、150℃で7×7倍まで同時二軸延伸し、150℃を保ったまま4×4倍まで収縮処理し、さらに150℃で熱処理後、室温まで冷却して得た延伸収縮処理フィルムを用いた実施例1−1と同様に多孔化膜を調製した。この開孔処理工程である逐次二軸延伸については、横方向を固定したまま縦方向に1.75倍延伸を行い、次いで横方向を1.75倍に延伸した(総延伸倍率:7×7倍)。得られた多孔化膜の酸素透過係数を実施例1−1と同様に測定したところ、2.73x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
[実施例2−2]
開孔処理する工程を155℃において逐次延伸とする以外は、予め、150℃で12×12倍まで同時二軸延伸し、150℃を保ったまま6×6倍まで収縮処理し、さらに150℃で熱処理後、室温まで冷却して得た延伸収縮処理フィルムを用いた実施例1−2と同様に多孔化膜を調製した。この開孔処理工程である逐次二軸延伸については、横方向を固定したまま縦方向に1.75倍延伸を行い、次いで横方向を1.75倍に延伸した(総延伸倍率:10.5×10.5倍)。得られた多孔化膜の酸素透過係数を実施例1−1と同様に測定したところ、4.10x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
図4(A)に実施例2−2で得られた多孔化膜のSEM像を示す。長さが約6μmで幅が約2μm程度のスリット状の細孔が得られたことが確認できた。
[実施例2−3]
開孔処理における延伸倍率を2.0倍(総延伸倍率:12×12倍)とする以外は実施例2−2と同様に多孔化膜を調製した。得られた多孔化膜の酸素透過係数を実施例1−1と同様に測定したところ、2.50x10
−8cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
図4(B)に実施例2−3で得られた多孔化膜のSEM像を示す。長さが約7μmで幅が約1μm程度のスリット状の細孔が得られたことが確認できた。
【0051】
[実施例3−1]
開孔処理における延伸倍率を1.5×1.5倍(総延伸倍率:6×6倍)とした以外は、予め、150℃で7×7倍まで同時二軸延伸し、150℃を保ったまま4×4倍まで収縮処理し、さらに150℃で熱処理後、室温まで冷却して得た延伸収縮処理フィルムを用いた実施例2−1と同様に多孔化膜を調製した。得られた多孔化膜の酸素透過係数を実施例1−1と同様に測定したところ、1.68x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
[実施例3−2]
開孔処理の倍率を1.5×1.5倍(総延伸倍率:9×9倍)とした以外は、予め、150℃で12×12倍まで同時二軸延伸し、150℃を保ったまま6×6倍まで収縮処理し、さらに150℃で熱処理後、室温まで冷却して得た延伸収縮処理フィルムを用いた実施例2−2と同様に多孔化膜を調製した。得られた多孔化膜の酸素透過係数を実施例1−1と同様に測定したところ、2.52x10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)であった。
図4(C)に実施例3−2で得られた多孔化膜のSEM像を示す。長さが約4μmで幅が約2μm程度のスリット状の細孔が得られたことが確認できた。
【0052】
[実施例4−1]
実施例1−1と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行った。ただし、プレス成形においては、フィルム厚を調整するために、
図1の直径110mmφの円盤状ステンレス板に70mm×70mmの矩形窓をくり抜いたもの(3)の厚さを0.1mm、0.25mm(実施例1−1と同じ)、および0.5mm、1.0mmとし、矩形窓内に上記ロール成形で得られた厚さ約75μmのフィルムを70mm×70mmに切り出したものをそれぞれ、2枚、4枚(実施例1−1と同じ)、8枚、16枚、とした。得られた成形フィルム(ロールプレスフィルム)を150℃で5分間保持した後、温度を150℃に保ったままで、縦×横方向に8×8倍まで同時二軸延伸し、さらに室温まで冷却して取り出した。ここで最終的に得られたフィルムを「ロールプレス延伸フィルム」とした。
別のサンプルは上記のロール成形およびプレス成形後のフィルムを150℃で5分間保持した後、150℃を保ったままで縦×横方向に7×7倍まで同時二軸延伸した後、150℃を保ったままで縦×横方向に4×4倍まで収縮させ、さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで冷却して取り出した。ここで最終的に得られたフィルムを「ロールプレス延伸緩和処理フィルム」とした。
【0053】
[比較例1]
ロール成形で得られた厚さ約75μmのフィルムを2枚〜16枚重ねて置く代わりに、
図1の矩形窓(3)内に粘度平均分子量3.5×10
6の超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)粉末(三井化学株式会社製ハイゼックスミリオン340M:粒子径150μm)を0.7g〜10.0g置いてプレス成形を行った以外は、実施例4と同様にして成形フィルム(プレスフィルム)を作製し、得られたフィルムを150℃で5分間保持した後、150℃を保ったままで縦×横方向に4×4倍まで同時二軸延伸した。ここで最終的に得られたフィルムを「プレス延伸フィルム」とした。
別のサンプルは150℃で縦×横方向に7×7倍まで同時二軸延伸した後、150℃で5分間保持し、次いで150℃で縦×横方向に4×4倍まで収縮させた、さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで冷却して取り出した。ここで最終的に得られたフィルムを「プレス延伸緩和処理フィルム」とした。
【0054】
得られたフィルムについてフィルム厚と酸素透過係数との関係を調べた。結果を
図5に示した。その結果、ロールプレス延伸フィルム(8×8倍)およびロールプレス延伸緩和処理フィルム(4×4倍)は10
−14オーダー(単位:cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg))という低い酸素透過係数を示し、このことから、ロール成形とプレス成形を両方行うことによって超高分子量ポリエチレン製フィルムのガスバリア性を高めることができることがわかった。また、ロールプレス延伸フィルムでは、厚さ15μmの極薄フィルムであっても8.69×10
−15cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)の極めて低い酸素透過係数が得られた。さらに、ロールプレス延伸フィルムでは、厚さ8μmの超極薄フィルムであっても1.19×10
−14cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)の極めて低い酸素透過係数が得られた。以上のことから、本発明においてはフィルム厚が極めて薄くとも、ガスバリア性に優れる超高分子量ポリエチレンフィルムが得られた。
【0055】
<力学強度>
これらのフィルムについて、引張り破断強度、引き裂き強度を測定した。これら力学物性の測定はボールドウィン株式会社製RTC−1325Aを用いて室温で行なった。このうち、引張り破断強度の測定では、フィルムから短冊状(供試する直線部分30.0mm、幅5mm)に試料片を切り出して試験に供し、引張り速度20mm/minで記録された応力チャートの最大応力をフィルム断面積で割った値を引張り破断強度とした。一方、引き裂き強度の測定では、幅25mm×長さ40mmの帯の縦方向に20mmのノッチを入れ、両方の持ち手をRTC−1325Aに接続して引き裂き速度200mm/minで引き裂き試験を行い、試験機に搭載された応力検知セルで記録した応力チャートの最大応力をフィルム厚で割った値を引き裂き強度とした。
その結果、実施例4−1の8×8倍のロールプレス延伸フィルム(厚さ15μm)では、引張り破断強度は93MPaであった。
また、実施例4−1の4×4倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ30μm)では、引張り破断強度は47MPa、引き裂き強度は15N/mmであった。
これに対して、比較例1の4×4倍のプレス延伸フィルム(厚さ104μm)では、引張り破断強度は23MPa、引き裂き強度は9.8N/mmであった。
また、比較例1の4×4倍のプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ56μm)では、引張り破断強度は42.5MPaであった。
このことから、ロール成形とプレス成形を組み合わせてフィルムを成形し、これを該フィルムの融点以上で二軸延伸することにより、より強度の高い超高分子量ポリエチレン製フィルムを調製できることがわかる。
【0056】
<融解ピーク幅>
実施例4−1の4×4倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ30μm)について、50℃から180℃まで昇温速度10℃/minにて昇温してDSC測定(PerkinElmer, Inc.製Diamond DSC:アルミパン)を行った。なお、温度および熱量は標準物質(インジウムおよびスズ)で校正した。その結果、融解ピーク温度は133.5℃であった。また、
図6のようにして計測した融解ピークの半値全幅(FWHM)は4.95℃であった。ここで、FWHMは、融解ピーク温度において、ベースラインからのピークトップの高さを正確に1/2にした高さにおける融解ピークの幅のことであり、融解ピークの広がりを示す指標である。ポリエチレンの融解ピーク形状は結晶の厚さ分布を反映しており(高分子論文集, vol.58, no.7, pp.326−331 (2001))、融解ピークが狭いほど結晶厚のサイズ分布も狭いことが知られている。
【0057】
[実施例4−2]
実施例4−1と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行った。得られた成形フィルムを150℃で5分間保持した後、温度を150℃に保ったままで、縦×横方向に14×14倍まで同時二軸延伸し、さらに室温まで冷却して取り出した。
別のサンプルは上記のロール成形およびプレス成形後のフィルムを150℃で5分間保持した後、150℃を保ったままで縦×横方向に12×12倍まで同時二軸延伸した後、150℃を保ったままで縦×横方向に6×6倍まで収縮させ、さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで冷却して取り出した。
これらのフィルムについて、実施例4−1と同様に室温で酸素透過係数を測定した。その結果、14×14倍のロールプレス延伸フィルム(厚さ9μm)では、1.34×10
−14cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)の酸素透過係数が得られた。また、6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ20μm)では、2.88×10
−14cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)の酸素透過係数が得られた。
これらのフィルムについて、実施例4−1と同様に力学物性の測定を行った。その結果、14×14倍のロールプレス延伸フィルム(厚さ9μm)では、引張り破断強度は116MPaであった。また、6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ20μm)では、引張り破断強度は71MPa、引き裂き強度は13N/mmであった。
これらのフィルムについて、実施例4−1と同様にDSC測定を行った。
図8には、実施例4−2の延伸倍率6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルムのDSC融解曲線(A)以外に、同じDSC測定条件で得られた延伸倍率14×14のロールプレス延伸フィルム(B)および未延伸のロールプレスフィルム(C)の融解曲線を示す。
これより、高倍率(14×14倍)まで150℃で溶融二軸延伸したロールプレス延伸フィルム(B)では、ラメラ結晶の融解に起因する136℃付近の主ピーク以外に、伸び切り鎖結晶の融解に起因する155℃付近の副ピークが明瞭に観察されている。一方、(A)のロールプレス延伸緩和処理フィルム(6×6倍)では、ロールプレス延伸フィルム(B)に比べてラメラ結晶の融解ピークが鋭くなるとともに大きくなっている。また、高温側ピークは非常に小さくなっている。このロールプレス延伸緩和処理フィルム(6×6倍)について、実施例4−1と同様にFWHMを求めたところ4.80℃であった(融解ピーク温度は133℃)。なお、未延伸のロールプレスフィルム(C)の融解ピーク温度は137℃である。したがって、実施例4−1および4−2の二軸延伸ならびに緩和処理温度である150℃は、該ロールプレスフィルムの融点以上であり、溶融状態で延伸ならびに緩和処理が行われたことが明らかである。
【0058】
これに対して、比較例1の延伸倍率4×4倍のプレス延伸緩和処理フィルムについて、上述のロールプレス延伸緩和処理フィルムと同様にFWHMを求めたところ5.05℃であった(融解ピーク温度は132℃)。このことから、ロール成形とプレス成形を組み合わせてフィルムを成形し、これを該フィルムの融点以上で二軸延伸することにより、よりラメラ厚分布の狭い超高分子量ポリエチレン製フィルムが調製できることがわかる。
【0059】
実施例4−1で得られたロールプレス延伸緩和処理フィルム(4×4倍)についてSEM像を
図7(A)に示す。均一なラメラ構造が見られ、膜面内にクラック等の構造欠陥が発生していないことが確認できた。
[実施例4−3]
また、ロールプレス緩和処理フィルム(4×4倍)について25℃まで温度を低下させた後、さらに120℃にて1.75×1.75倍(総延伸倍率:7×7)に同時二軸延伸し、開孔処理を行った。このとき得られた多孔化膜のSEM像を
図7(B)に示す。その結果、サイズの小さい細孔が多く得られた。これらの結果は、均一ラメラ構造に応力を印加することによって結晶間にトラップされた非晶鎖が選択的に変形し、結果として結晶間が剥離してナノポーラス構造が得られたことを示している。
【0060】
また、実施例4−2で得られた延伸倍率14×14倍のロールプレス延伸フィルムおよび延伸倍率6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルムについてSEM像を
図9(A)および
図9(B)に示す。延伸倍率6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(B)では主にラメラ構造が観察されているが、延伸倍率14×14倍のロールプレス延伸フィルム(A)では伸びきり鎖結晶に由来するフィブリル状構造(左上から右下に走る線状構造)も観察されている。このように2種類の構造が共存することは
図8のDSC測定の結果と一致する。
【0061】
これに対して、比較例1で得られた延伸倍率4×4倍および比較例1と同様に調製した延伸倍率8×8倍のプレス延伸フィルム、および、比較例1の延伸倍率4×4倍のプレス延伸緩和処理フィルムのSEM像を
図10(A)〜
図10(C)に示す。実施例4−1および実施例4−2のロールプレス延伸フィルムおよびロールプレス延伸緩和処理フィルム(
図9および
図7(A))と比較して、フィルム構造の均一性に劣ることがわかる。このことから、ロール成形とプレス成形を組み合わせてフィルムを成形し、これを該フィルムの融点以上で二軸延伸することにより、より構造均一性の高い超高分子量ポリエチレン製フィルムが調製できることがわかる。
【0062】
[実施例5−1]
実施例4−1の4×4倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ30μm)に対して、開孔処理を行った。開孔処理条件としては、100℃において1.75×1.75倍(総延伸倍率:7×7)に逐次二軸延伸して多孔化膜を調製した。この開孔処理工程である逐次二軸延伸については、横方向を固定したまま縦方向に1.75倍延伸を行い、次いで横方向を1.75倍に延伸した。得られた多孔化膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像を撮影して観察したところ、連通細孔が形成されていることが確認できた。
[実施例5−2]
実施例4−2の6×6倍のロールプレス延伸緩和処理フィルム(厚さ33μm)に対して、開孔処理を行った。開孔処理条件としては、100℃において1.75×1.75倍(総延伸倍率:10.5×10.5)に逐次二軸延伸して多孔化膜を調製した。この開孔処理工程である逐次二軸延伸については、横方向を固定したまま縦方向に1.75倍延伸を行い、次いで横方向を1.75倍に延伸した。得られた多孔化膜のSEM像を観察したところ、連通細孔が形成されていることが確認できた。
【0063】
[実施例6−1]
実施例1−1と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを150℃で縦横7×7倍まで同時二軸延伸し、次いで150℃で縦横4×4倍まで収縮させ、さらに150℃で横方向(4倍)は固定したまま縦方向のみ1.5倍に再延伸し、室温まで冷却して6×4倍のフィルムを得た。このフィルムのSEM像を
図11に示す。なお、
図11のSEM像における縦・横の方向が延伸/緩和処理における縦・横の方向(6×4)と一致している。この図から、一旦4×4倍まで収縮させた後、縦横方向に異なる倍率で再度延伸することにより、主に延伸倍率の大きい方向に対して垂直にラメラが均一に並ぶことがわかった。なお、この膜の厚さは25μmであった。
この膜の引張り破断強度(縦方向)は70MPaであった。また、引き裂き強度(縦方向)は10N/mmであった。
【0064】
上記6×4倍のフィルムについて、前記の平面拡張延伸機を用いて120℃で縦方向(6倍)を固定したまま、横方向のみに2倍延伸することにより開孔処理を行い、6×8倍の多孔化膜を得た。得られた多孔化膜のSEM像を観察したところ、連通細孔が形成されていることが確認できた。
【0065】
[実施例6−2]
実施例1−1と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを150℃で縦横12×12倍まで同時二軸延伸し、次いで150℃で縦横6×6倍まで収縮させ、さらに150℃で横方向(6倍)は固定したまま縦方向のみ1.5倍に再延伸し、室温まで冷却して9×6倍のフィルムを得た。なお、この膜の厚さは15μmであった。
この膜の引張り破断強度(縦方向)は110MPaであった。また、引き裂き強度(縦方向)は8N/mmであった。
【0066】
上記9×6倍のフィルムについて、前記の平面拡張延伸機を用いて120℃で縦方向(9倍)を固定したまま、横方向のみに2倍延伸することにより開孔処理を行い、9×12倍の多孔化膜を得た。得られた多孔化膜のSEM像を観察したところ、連通細孔が形成されていることが確認できた。
【0067】
[実施例7]
プレス温度を160℃とする以外は実施例4−2と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを実施例4−2と同様に150℃で5分間保持した後、150℃を保ったまま縦横12×12倍まで同時二軸延伸し、次いで150℃を保ったまま6×6倍に収縮処理し、さらに、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温に冷却してロールプレス延伸緩和処理フィルムを調製した。
実施例4−2と同様に、このロールプレス延伸緩和処理フィルム(延伸倍率6×6倍)の引張り破断強度を測定したところ、40MPaであった。また、引き裂き強度は25N/mmであった。
[実施例8]
実施例4−2と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを140℃で縦横4×4倍まで同時二軸延伸し、次いで150℃で2×2倍に収縮処理し、さらに、150℃を保ったままで14×14倍に再度同時二軸延伸し、室温に冷却してフィルムを取り出した。
実施例4−2と同様に、このフィルム(延伸倍率14×14倍)の引張り破断強度を測定したところ、175MPaであった。これにより、延伸処理を繰り返すことにより、フィルム強度が向上することがわかる。
[実施例9−1]
実施例4−2と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを140℃で縦横3×3倍まで同時二軸延伸し、次いで140℃で2×2倍に収縮処理し、この温度で5分間熱処理した後、さらに、150℃で12×12倍に再度同時二軸延伸し、この温度で5分間熱処理した後、室温に冷却してフィルムを取り出した。
実施例4−2と同様に、このフィルム(延伸倍率12×12倍)の引張り破断強度を測定したところ、120MPaであった。
実施例7〜実施例9−1より、各処理工程を繰り返し行うことで得られるフィルムの物性が改良されることがわかる。
【0068】
[実施例9−2]
実施例4−2と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを150℃で5分間保持した後、150℃を保ったまま縦横6×6倍まで同時二軸延伸し、この状態で5分間保持して熱処理した後、さらに室温まで冷却して取り出した。
実施例4−2と同様に、このロールプレス延伸フィルム(延伸倍率6×6倍)の引張り破断強度を測定したところ、31MPaであった。
[実施例10]
原料として、チーグラー系触媒で合成された粘度平均分子量1×10
7の超高分子量ポリエチレン重合パウダーを用いる以外は、実施例9−2と同様にして、ロール成形およびプレス成形を行い、得られたフィルムを実施例9−2と同様に150℃で5分間保持した後、150℃を保ったまま縦横6×6倍まで同時二軸延伸し、この状態で5分間保持して熱処理した後、室温に冷却してフィルムを調製した。
実施例実施例9−2と同様に、このフィルム(延伸倍率6×6倍)の引張り破断強度を測定したところ、90MPaであった。
この値は、前記実施例9−2のロールプレス延伸フィルム(延伸倍率6×6倍)で得られた破断強度の値よりもかなり大きく、原料となるポリエチレンの分子量の上昇により、得られるフィルムの物性が向上することを示している。
【0069】
[実施例11]
原料として、メタロセン系触媒で合成された粘度平均分子量1×10
7の超高分子量ポリエチレン重合パウダーを用いる以外は、実施例10と同様にして、延伸倍率6×6倍のフィルムを調製した。
このフィルムの引張り破断強度を測定したところ、100MPaであった。メタロセン系触媒で合成された超高分子量ポリエチレンの分子量分布はチーグラー系触媒で合成された超高分子量ポリエチレンのそれよりも狭いことが知られており、このような分子量分布によっても本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの強度は異なることがわかる。
実施例10及び実施例11より、分子量1000万といった超高分子量のポリエチレンを用いても本発明の優れた効果が発現され、さらに、分子量の上昇、分子量分布をシャープにすることなどにより、さらなる効果の向上が見られることがわかる。
【0070】
[参考例1]
市販の厚さ25μmの超高分子量ポリエチレン多孔化膜(旭化成イーマテリアルズ(株)製「ハイポア」:リチウムイオン電池セパレーター用途)について、実施例1と同様にして酸素透過係数を測定したところ、1.8×10
−9cm
3(STP)cm/(cm
2・s・cmHg)が得られた。したがって、本発明の多孔化膜の酸素透過性はこれら市販品と同レベルかそれ以上であることが確かめられた。