【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリポソーム複合体は、近赤外領域に吸収波長を有するインドシアニングリーン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素及びジインモニウム色素からなる群より選択される光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質を含み、かつ、リポソーム内に薬剤を含む。
本明細書において、「光吸収化合物」とは、近赤外領域の光を吸収してリポソームを開裂させるのに十分な熱を発生する化合物であり、好ましくはさらに、一重項酸素を発生させ、かつ/又は腫瘍細胞を死滅させるのに十分な熱を発生させる。「近赤外領域の吸収波長」とは、光吸収化合物の最大吸収波長として、700〜1400nm、好ましくは800〜1000nm、特に好ましくは800〜900nmを表す。
本明細書において、「リポソーム膜構成物質」とは、脂質二重膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではなく、例えば、脂質、膜安定化剤、抗酸化剤、荷電物質、膜タンパク質等が挙げられる。
脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、これらの水素添加物等が挙げられる。
糖脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)等が挙げられる。
ステロールとしては、例えば、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)等が挙げられる。
飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸等の炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。
膜安定化剤は、リポソーム膜を物理的又は化学的に安定させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりするために添加できる任意のリポソーム膜成分である。膜安定化剤としては、例えば、ステロール、グリセリン又はその脂肪酸エステル等が挙げられる。
ステロールとしては、上記と同様の具体例が挙げられ、グリセリンの脂肪酸エステルとしては、例えば、トリオレイン、トリオクタノイン等が挙げられる。
抗酸化剤は、リポソーム膜の酸化を防止するために添加できる任意のリポソーム膜成分であり、例えば、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
荷電物質は、リポソーム膜に正荷電又は負荷電を付与するために添加できる任意のリポソーム膜成分であり、正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミン等の飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン等の飽和又は不飽和カチオン性合成脂質等が挙げられ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等が挙げられる。
膜タンパク質は、リポソーム膜の構造を維持したり、リポソーム膜に機能性を付与したりするために添加できる任意のリポソーム膜成分であり、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質等が挙げられる。
「光吸収化合物に結合した」リポソーム膜構成物質とは、リポソーム膜構成物質と光吸収化合物とが共有結合されている化合物を表し、「光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質」としては、好ましくは、前記式(I)で示されるものが挙げられる。
前記式(I)において、Mで表されるアルカリ金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
前記式(I)において、E
1又はE
2で表される炭素数8〜18の炭化水素基としては、例えば、炭素数8〜18、好ましくは炭素数12〜18のアルカン、アルケン(好ましくは二重結合は2つ以下)、アルキン(好ましくは三重結合は2つ以下)が挙げられ、より好ましくは炭素数14〜18のアルカン、アルケン又はアルキンである。これらの炭化水素基は、例えばハロゲン原子、C
1−6アルコキシ等で置換されていてもよい。
前記式(I)において、aは0〜4、好ましくは0〜2の整数である。また、bは0〜6、好ましくは0〜2の整数である。また、cは1〜10、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2の整数である。
前記式(I)において、B
1及びB
2として前記のものを採用することにより、本分子そのものをリポソーム表面のリン酸基と親和させて安定化させることができる。また、Dとして前記のものを採用することにより、リポソームの疎水性領域へのアンカーリングが可能になる。また、E
1及びE
2として前記のものを採用することにより、室温から体温程度で膜流動性を低下させずに、温度上昇に伴って、膜流動性を急激に増大もしくは減少させることができる。また、a及びbを前記の範囲にすることにより、色素が側鎖構造から数Å離れ、リポソーム表面の電気的な化学状態の一重項酸素発生への影響を減らすことができる。
本発明の「リポソーム複合体」は、前記の光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質を、脂質二重膜を構成する物質の総配合量として、通常0.01〜50%(モル比)、好ましくは0.1〜5%(モル比)、より好ましくは0.1〜1%(モル比)含む。脂質二重膜を構成する物質として、脂質は必須成分であり、その配合量は、脂質二重膜を構成する物質の総配合量として、通常20〜99.9%(モル比)、好ましくは50〜99%(モル比)、より好ましくは80〜95%(モル比)含む。さらに、脂質膜を安定化させるために、コレステロール等を加えることが好ましい。コレステロール等は、本発明の目的を損なわない範囲の配合量で用いることができる。
また、リポソームを生体内で安定化させるために、リポソームの外表面を親水性ポリマーで修飾することができる。このような親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール、ポリメチルエチレングリコール、ポリヒドロキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリメチルプロピレングリコール、ポリヒドロキシプロピレンオキシド等が挙げられる。特に好ましいものはポリエチレングリコールである。その配合量は、脂質二重膜を構成する物質の総配合量として、通常0.01〜10%(モル比)、好ましくは0.1〜1%(モル比)含む。
また、リポソーム複合体を標的部位に送達させるために、細胞膜の表面上に存在する受容体又は抗原と結合できる物質(細胞膜結合性物質)に結合したリポソーム膜構成物質を、リポソームの脂質二重膜の構成成分としてもよく、細胞膜結合性物質としては、例えば、トランスフェリン、インシュリン、葉酸、ヒアルロン酸、抗体又はその断片、糖鎖、成長因子、アポリポタンパク質等が挙げられる。
本発明のリポソーム複合体は、リポソーム内に薬剤を包含する。薬剤は、特に限定されず、例えば、抗癌剤等の薬剤や、タンパク質、ペプチド、核酸等を用いることができる。抗癌剤としては、当業者に公知のものを用いることができ、例えば、以下の化合物が挙げられる:アルキル化剤、例えばシクロホスファミド、メルファラン、ラニムスチン、イホスファミド、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド等;代謝拮抗剤、例えば6−メルカプトプリン、リボシド、エノシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスフェホート、テガフール、5−フルオロウラシル、ドキシフルウリジン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メトトレキサート、メルカプトプリン等;抗腫瘍性抗生物質製剤、例えばアクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ピラルビシン、ジノスタチンスチマラマー、硫酸ブレオマイシン、塩酸ブレオマイシン、マイトマイシンC、ネオカルチノスタチン、硫酸ペプロマイシン等;抗腫瘍性植物成分製剤、例えばエトポシド、塩酸イリノテカン、ドセタキセル水和物、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、パクリタキセル、その他、アセグラトン、ウベニメクス、シスプラチン、シゾフィラン、ソブゾキサン、クレスチン、クエン酸トレミフェン、酢酸メドロキシプロゲステロン、クエン酸タモキシフェン、カルボプラチン、塩酸ファドロゾール水和物、塩酸プロカルバジン、塩酸ミトキサントロン、L−アスパラギナーゼ、トレチノイン、ネダブラチン、ピシバニール、フルタミド、ペントスタチン、ポルフィマーナトリウム、レンチナン等。
前記インドシアニングリーン色素としては、例えば下記式(II−1):
[式中、X
1及びX
2は、−C(CH
3)
2−、O又はSであり、Y
1及びY
3は、水素又はOCH
3であり、Y
2及びY
4は水素であり、又は、Y
1とY
2、及びY
3とY
4は、それぞれ一緒になって、これらが結合している環と縮合したベンゼン環を形成してもよく、Q
1及びQ
2は、水素又は、これらが結合して6員環を形成してもよく、R
1〜R
3のいずれか1つが、−(CH
2)
a−B
1−(CH
2)
b−B
2−D−E
1[式中の記号は前記式(I)と同義である]であり、P
1は1価の陰イオンである塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンであり、R
1〜R
3は、以下の基:
からなる群より選択される基であり、ここで、Z
1又はZ
2は、−O−、−NH−、−S−、−SO
2−、−CH=CH−、−SO
2NH−、−NHSO
2−、−CONH−、−NHCO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−C
6H
4−であり、P
2は1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、Mは1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、R
4は、炭素数が1〜18、好ましくは4〜10のアルカン、アルケン又はアルキンであり、n又はmは0〜22、好ましくは0〜4の整数であり、lは1〜22、好ましくは1〜4の整数であり、pは0〜17、好ましくは0〜2の整数であり、xは2〜2000、好ましくは2〜150の整数である]
で表される化合物が挙げられる。
前記フタロシアニン色素としては、下記式(II−2):
[式中、R
1〜R
16は、以下の基:
であり、但し、R
1〜R
16のうち少なくとも1つが、−(CH
2)
a−B
1−(CH
2)
b−B
2−D−E
1[式中の記号は前記式(I)と同義である]であり、ここで、Z
1又はZ
2は、−O−、−NH−、−S−、−SO
2−、−CH=CH−、−SO
2NH−、−NHSO
2−、−CONH−、−NHCO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−C
6H
4−であり、ここで、R
17は炭素数が1〜24、好ましくは6〜18のアルカン、アルケン又はアルキンであり、P
1は1価の陰イオンである塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンであり、M
1は水素(2原子)又は、陽イオンである亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、コバルトイオン、錫イオン、チタンイオン、又はニッケルイオンであり、Mは1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、P
2は1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、n又はmは0〜22、好ましくは0〜4の整数であり、lは1〜22、好ましくは0〜4の整数であり、pは0〜17、好ましくは0〜2の整数であり、xは2〜2000、好ましくは2〜150の整数である]
で表される化合物が挙げられる。
前記スクアリリウム色素としては、下記式(II−3):
[式中、R
1〜R
8は、以下の基:
であり、但し、R
1〜R
8のうち少なくとも1つが−(CH
2)
a−B
1−(CH
2)
b−B
2−D−E
1[式中の記号は前記式(I)と同義である]であり、ここで、Z
1又はZ
2は、−O−、−NH−、−S−、−SO
2−、−CH=CH−、−SO
2NH−、−NHSO
2−、−CONH−、−NHCO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−C
6H
4−であり、ここで、R
9は炭素数が1〜24、好ましくは6〜18のアルカン、アルケン又はアルキンであり、Mは1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、P
2は1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、n又はmは0〜22、好ましくは0〜4の整数であり、lは1〜22、好ましくは1〜4の整数であり、pは0〜17、好ましくは0〜2の整数であり、xは2〜2000、好ましくは2〜150の整数である]
で表される化合物が挙げられる。
前記クロコニウム色素としては、下記式(II−4):
[式中、R
1〜R
6は、以下の基:
であり、但し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが、−(CH
2)
a−B
1−(CH
2)
b−B
2−D−E
1[式中の記号は前記式(I)と同義である]であり、ここで、Z
1又はZ
2は、−O−、−NH−、−S−、−SO
2−、−CH=CH−、−SO
2NH−、−NHSO
2−、−CONH−、−NHCO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−C
6H
4−であり、ここで、R
7は炭素数が1〜24、好ましくは6〜18のアルカン、アルケン又はアルキンであり、Mは1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、P
2は1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、n又はmは0〜22、好ましくは0〜4の整数であり、lは1〜22、好ましくは1〜4の整数であり、pは0〜17、好ましくは0〜2の整数であり、xは2〜2000、好ましくは2〜150の整数である]
で表される化合物が挙げられる。
前記ジインモニウム色素としては、下記式(II−5):
[式中、R
1〜R
6は、以下の基:
であり、但し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが、−(CH
2)
a−B
1−(CH
2)
b−B
2−D−E
1[式中の記号は前記式(I)と同義である]であり、ここで、Z
1又はZ
2は、−O−、−NH−、−S−、−SO
2−、−CH=CH−、−SO
2NH−、−NHSO
2−、−CONH−、−NHCO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−C
6H
4−であり、ここで、R
7は炭素数が1〜24、好ましくは6〜18のアルカン、アルケン又はアルキンであり、P
1は1価の陰イオンである塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンであり、Mは1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、P
2は1価の陽イオンである水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンであり、n又はmは0〜22、好ましくは0〜4の整数であり、lは1〜22、好ましくは1〜4の整数であり、pは0〜17、好ましくは0〜2の整数であり、xは2〜2000、好ましくは2〜150の整数である]
で表される化合物が挙げられる。
前記式(II−1)で示されるインドシアニングリーン色素は、例えば、WO2011/152046号パンフレット、WO1995/007888号パンフレット、特開平9−124599号公報、特開平3−171136号公報、J.Org.Chem.(1995)60,2391等に記載の公知の方法に従って合成することができる。
具体的には、下記のスキームに従って合成することができる。
[式中の記号は前記式(II−1)と同義である]。
インドール誘導体(例えば、2,3,3−トリメチル−4,5−ベンゾ−3H−インドール)を臭素化合物(Br−R
1)でアルキル化してN−R
1置換インドール誘導体とした後、グルタコンアルデヒドジアニル類と反応させて、ヘキサトリエン鎖に連結し、次いで、N−R
2置換インドール誘導体をカップリングさせることにより、目的とするインドシアニングリーン色素を得ることができる。
前記式(II−2)で示されるフタロシアニン色素は、例えば、特開2004−18561号公報等に記載の公知の方法に従って合成することができる。
前記式(II−3)で示されるスクアリリウム色素は、例えば、特開2011−69846号公報等に記載の公知の方法に従って合成することができる。
前記式(II−4)で示されるクロコニウム色素は、例えば、特開2007−31644号公報等に記載の公知の方法に従って合成することができる。
前記式(II−5)で示されるジインモニウム色素は、例えば、Reports Res.Lab.Asahi Glass Co.,Ltd.(2005)55,67−71「11.ジイモニウム系化合物を用いた近赤外線吸収フィルムの耐久性向上」等に記載の公知の方法に従って合成することができる。
本発明のリポソーム複合体は、当該技術分野において知られる任意の方法を用いて製造することができ、例えば、光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質とリン脂質と薬剤とを適当な有機溶媒中に溶解し、これを乾燥後に水性溶液中に分散させて、フィルターに繰り返し通過させることにより製造することができる。あるいは、当技術分野において知られるように、超音波処理又は逆相蒸発法により製造してもよい。
一例として、光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質、リン脂質(例えばホスファチジルコリンを含む卵黄レシチン)、脂質(例えばコレステロール)、親水性ポリマーのリン脂質誘導体(例えばポリエチレングリコール修飾リン脂質)を適当な有機溶媒中に溶解し、有機溶媒を除去して薄膜を形成させた後に、薬剤を含む水溶液を加える。水溶液としては、生理学的に許容しうる緩衝液であれば、任意のものを用いることができる。生体内でリポソーム複合体を安定化させるために、アルブミンを含む緩衝液を用いることもできる。
次に、緩衝液中にリン脂質が分散している懸濁液を孔径0.1〜0.2μmのフィルターに約10〜30回通すと、リポソーム複合体を形成することができる。リポソーム複合体の粒子径は、用いるリン脂質、脂質及び/又は修飾リン脂質の種類、濃度、フィルターの孔サイズ、フィルターの材質、さらにフィルターを通過させる回数等を変化させることにより、適宜調節することができる。必要であれば、形成されたリポソームをサイズ分画して、所望の直径を有するリポソームを調製することもできる。例えば、腫瘍組織に長時間繋留させるためには、リポソームの粒子径は20〜250nm、より好ましくは50〜200nmの範囲であることが好ましい。
本発明のリポソーム複合体を用いた光線温熱療法及び/又は光線力学療法は、例えば、本発明のリポソーム複合体を所定濃度含んだ生理食塩水を静脈投与又は腫瘍内投与し、一定時間後、近赤外光を照射可能な装置により患部を光照射することによって行うことができる。リポソーム複合体の濃度や光照射時間等は、所望する治療効果を考慮して適宜設定することができる。
本発明のリポソーム複合体を用いた光線温熱療法及び/又は光線力学療法は、各種の腫瘍、例えば脳腫瘍、インスリノーマ、鼻腔癌、口腔癌、腎臓癌、肺癌、大腸癌、軟部肉腫、転移癌(胸膜転移、腹膜転移)等に対し、治療効果を示す。
本発明のリポソーム複合体を蛍光イメージングで用いる場合は、本発明のリポソーム複合体単独で、あるいは、リポソーム複合体の脂質二重膜の構成成分として、近赤外蛍光色素に結合したリポソーム膜構成物質をさらに含むリポソーム複合体、又は近赤外蛍光色素をリポソーム内に包含させたリポソーム複合体を適宜用いることができる。場合により、本発明のリポソーム複合体と、近赤外蛍光色素に結合したリポソーム膜構成物質を含むリポソーム複合体及び/又はリポソーム内に近赤外蛍光色素を包含したリポソームとを適宜組み合わせることもできる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2011−223273の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【実施例】
【0009】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]インドシアニングリーン色素ICG−8の合成
本発明のインドシアニングリーン色素であるICG−8は、下記のスキームに従って合成した。
[2,3,3−トリメチル−1−(4−スルホブチル)−4,5−ベンゾインドリウム内塩(2)]
25ml四つ口フラスコに2,3,3−トリメチル−4,5−ベンゾ−3H−インドール(1)(3.1g,15mmol)と,4−ブタンスルトン(2.1g,15mmol)を混合し、容器内を窒素置換した。80℃で4時間攪拌した後、室温まで放冷し、アセトンを加えて反応混合物を析出させた。しばらく攪拌してから結晶をろ別し、アセトン10mlで洗浄した後、風乾させて灰色結晶(2)(1.17g,23%)を得た。
[2−(6−アセトアニリド−1,3,5−ヘキサトリエニル)−3,3−ジメチル−1−(スルホブチル)−4,5−ベンゾ[e]インドリウム内塩(3)]
25ml四つ口フラスコにインドリウム塩(2)(1.04g,3.0mmol)とグルタコンアルデヒドジアニル塩酸塩(0.94g,3.3mmol)とを混合し、120℃で1時間攪拌した。室温まで放冷し、1時間攪拌後、結晶をろ別した。得られた結晶をアセトンでけん洗し、ろ別した後、風乾させて暗紫色結晶状の目的物(3)(0.91g,58%)を得た。
[ヨウ化1−オクタデシル−2,3,3−トリメチル−4,5−ベンゾ[e]インドリウム(4)]
100ml四つ口フラスコに2,3,3−トリメチル−4,5−ベンゾ−3H−インドール(8.4g,40mmol)、1−ヨードオクタデカン(16.8g,44mmol)及び2−ブタノン(30ml)を混合し、70℃で18時間攪拌した後、室温まで放冷し、酢酸エチル(40ml)を加えて結晶をろ別した。得られた結晶を酢酸エチルでけん洗(2回)し、ろ別した後、風乾させて灰色結晶状の目的物(4)(4.4g,19%)を得た。
[4−(2−((1E,3E,5E,7E)−7−(1,1−ジメチル−3−オクタデシル−1H−ベンゾ[e]インドール−2(3H)−イリデン)ヘプタ−1,3,5−トリエニル)−1,1−ジメチル−1H−ベンゾ[e]インドリウム−3−イル)ブタン−1−スルホン酸(5)]
50ml三つ口フラスコに化合物(3)(1.58g,3.0mmol)、インドリウム塩(4)(1.77g,3.0mmol)及びピリジン16mlを混合して溶解させ、これを窒素雰囲気下、50℃で1時間反応させた。反応後、水(40ml)に排出して析出した結晶をろ別した。得られた粗結晶を酢酸エチルで解した後、ろ別し得られた結晶をクロロホルム/酢酸エチル(1/1)40mlで再結晶させて、濃緑色の結晶状目的物(5)(1.39g,53%)を得た。
LC−MSの主な分子イオンピークはm/z=867(negative)であった。また、エタノール中における極大吸収波長、モル吸光係数は、それぞれ、λmax=787nm、ε=2.30×10
5であった。
[実施例2]
(1)蛍光スペクトル
・ICGを内包するリポソーム分散液(ICG)
卵黄由来ホスファチジルコリンを10.0mM及びICG(ジアグノグリーン注、第一三共)を3.2×10
−2mMとしたクロロホルム/メタノール(9:1、v/v)溶液を調製し、そのうち3mLを減圧下で溶媒留去し、生成した薄膜に生理食塩水3mLを添加し、0.22μm孔径のフィルターで処理してリポソームを得た。
・ICG−8を脂質二重膜に有するリポソーム分散液(LP−ICG−8)
卵黄由来ホスファチジルコリンを10.0mM及びICG−8を3.2×10
−2mMとしたクロロホルム/メタノール(9:1、v/v)溶液を調製し、そのうち3mLを減圧下で溶媒留去し、生成した薄膜に生理食塩水3mLを添加し、0.22μm孔径のフィルターで処理してリポソームを得た。
前記のリポソーム分散液それぞれについて、蛍光スペクトルを測定したところ(日本分光FP−6600)、励起波長736nmとして
図2に示す蛍光スペクトルを得た。ICGの蛍光最大波長は852nmであり、ICG−8の蛍光最大波長は854nmであった。
(2)静脈投与後の近赤外線カメラ映像
・ICG水溶液(ICG)
ICGを3.2mMとなるよう純水に溶解し、生理食塩水で100倍希釈した。
・ICG−8を脂質二重膜に有するリポソーム分散液(LP−ICG−8)
卵黄由来ホスファチジルコリン(10.0mM)、コレステロール(1.0mM)、ポリエチレングリコール修飾型ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)(5.0×10
−1mM)、ICG−8(3.2×10
−2mM)を含むクロロホルム/メタノール(9:1,v/v)溶液を調製し、5mLを減圧下にて留去し、生成した薄膜に生理食塩水5mLを添加し、0.22μm孔径のフィルターで処理した後、0.05μm孔径のフィルターでさらに処理してリポソームを得た。
・ラット
試験には、F344/Jc1 34−36 weeks 9Lのラットを用いた。これは、脳腫瘍細胞9Lを用いて皮膚下に担癌(グリオーマ)させたラットである。腫瘍組織は、腫瘍径約30mmのものを用いた。腫瘍箇所の毛を刈り上げた後に、ICG水溶液又はLP−ICG−8を、頸静脈からそれぞれ500μL投与した。投与5分後に蛍光観察(瑞穂医科工業,Hyper Eye Medical System,励起波長760〜780nm,蛍光波長>780nm)を行った(
図3)。ラットとカメラヘッドとの距離は50cmとした。
図3より、ICG水溶液(ICG)を用いた場合では、色素が拡散してしまい腫瘍組織にICGが蓄積しなかったが、LP−ICG−8を用いた場合では、ICG−8を脂質二重膜に含むリポソーム(LP−ICG−8)が腫瘍組織に蓄積したことが理解される。
(3)光線力学療法/光線温熱療法
・ICG水溶液(ICG)(2.5mg/mL)
ICGを2.5mg/mLとなるよう純水に溶解させた。
・ICG−8を脂質二重膜に有するリポソーム分散液(LP−ICG−8)
卵黄由来ホスファチジルコリン(10.0m)、コレステロール(1.0mM)、ポリエチレングリコール修飾型ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)(5.0×10
−1mM)、ICG−8(3.2×10
−2mM)を含むクロロホルム/メタノール(9:1,v/v)溶液を調製し、10mLを減圧下にて留去し、生成した薄膜にICG水溶液(2.5mg/ml)10mLを添加し、0.22μm孔径のフィルターで処理した後、0.05μm孔径のフィルターでさらに処理してリポソームを得た。
・ラット
F344/Jc1 34−36 weeks 9Lラットにおいて、腫瘍径約30mmの腫瘍組織を用いた。腫瘍箇所の毛を刈り上げた後に、2mLの各溶液を腫瘍内投与した。投与直後、光照射装置(東京医研、スーパーライザー、Hyper5000)により、600〜1600nmの波長、5W出力で20分間光照射した。その際、腫瘍内部へ温度計を挿入し皮膚表面温度の測定を行って、皮膚表面が45℃になった場合はエタノールを表面にかけて、皮膚のやけどを防止した。ラット皮下腫瘍モデルにおける光線力学療法/光線温熱療法の概要を
図4に、LP−ICG−8又はICG水溶液を腫瘍内投与した直後及び48時間後の腫瘍の写真を
図5に、当業者に公知の方法でヘマトキシリン・エオシン(HE)染色したそれぞれの組織切片の写真を
図6に示す。
図5より、LP−ICG−8を用いた場合では、ICG水溶液を用いた場合に比べ、有意に腫瘍が退縮しており、また、
図6より、死細胞が全細胞に占める割合が増大したことが理解される。
(4)近赤外光による内包薬剤の放出制御の確認
ICG−8(3.2×10
−2mM)、卵黄由来ホスファチジルコリン(10.0mM)を含むクロロホルム/メタノール(9/1,v/v)溶液を調製し、そのうち3mLをとって減圧下で溶媒留去した。生成した薄膜に対し、フルオレセイン水溶液(5.0×10
−2mM)を1.5mL添加して薄膜を膨潤させた後、蛍光消光剤として塩化コバルト水溶液(2.0mM)を1.5mL添加した。分光蛍光光度計(日本分光FP−6600)により、励起波長496nmとして蛍光スペクトルを得た。その後、約1Wの808nmレーザーの1分間照射を5回繰り返し、同様に蛍光スペクトルを測定した(
図7)。
図7より、光照射後の蛍光強度が低下していることから、本発明のリポソーム複合体に内包されたフルオレセインが、光照射によるリポソームの開裂により徐放されたことが確認される。
(5)近赤外光によるシスプラチン(CDDP)の放出制御
・ICG及びシスプラチン(CDDP)を含む水溶液(ICG+CDDP)
生理食塩水9mlに、3.2mMとなるように25mgのICGを溶解させ、1mlのシスプラチン(ランダ注,日本化薬)と混合した。
・ICG−8を脂質二重膜に有するリポソームに、シスプラチンを内包させたリポソーム複合体を含む水溶液(LP−ICG−8_CDDP)
1mLのCDDP、及びICG−8(3.2mM)を含む生理食塩水9mLを混合した水溶液を調製した。一方、卵黄由来ホスファチジルコリン(10.0mM)、コレステロール(1.0mM)、ポリエチレングリコール修飾型ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)(5.0×10
−1mM)、ICG−8(3.2×10
−1mM)としたクロロホルム/メタノール(9:1,v/v)溶液を調製し、そのうち10mLを減圧下にて留去し、薄膜を生成した。この薄膜に、シスプラチンを含むICG溶液10mLを添加し、0.22μm孔径のフィルターで処理した後、0.05μm孔径のフィルターでさらに処理してリポソーム複合体を得た。
・ラット
F344/Jc1 34−36 weeks 9Lのラットにおいて、腫瘍径約30mmの腫瘍組織を用いた。腫瘍箇所の毛を刈り上げた後に、2mLの各溶液を腫瘍内投与した。投与直後、光照射装置(東京医研、スーパーライザー、Hyper5000)により、600〜1600nmの波長、5W出力で20分間光照射した。その際、腫瘍内部へ温度計を挿入し皮膚表面温度の測定を行い、皮膚表面が45℃になった場合は、エタノールを表面にかけて、皮膚のやけどを防止した。
図8に、ICG+CDDP又はLP−ICG−8_CDDPを腫瘍内投与した直後及び48時間後の腫瘍の写真を、また、
図9に、HE染色によるそれぞれの組織薄膜の写真を示す。
図8より、LP−ICG−8_CDDPを用いた場合では、ICG+CDDPを用いた場合に比べ、有意に腫瘍が退縮しており、また、
図9より、死細胞が全細胞に占める割合が増大したことが理解される。
[実施例3]ICG−8の一重項酸素測定
ICG−8が一重項酸素産生能力を有していることを以下の測定により確認した。その結果、ICG−8は、光線力学療法を行うために必須である一重項酸素産生能力を有していることが判明した。
測定条件は以下のとおりである。
励起波長690nm、平均出力20mW、繰返し30Hz、パルス幅約10nm、DCMを用いた色素レーザーで励起した。
検出は、−80℃に冷却したゲート付近赤外イメージインテンシファイア(NIR−PII)を用いて分光器(焦点距離250mm、グレーティング600L/mm)で分光し、励起30μ秒後から200μ秒間計測した。
結果を
図10に示す。
図10において、赤線はICG−8に由来する一重項酸素(1270nm)の発生を示し、青線はβ−カロチン(濃度;4μM)による一重項酸素の補足を示す。
[実施例4]インドシアニングリーン色素ICG−11の合成
本発明のインドシアニングリーン色素であるICG−11は、下記のスキームに従って合成した。
[臭化2,3,3−トリメチル−1−(2−カルボキシエチル)−4,5−ベンゾインドリウム(6)]
25ml四つ口フラスコに2,3,3−トリメチル−4,5−ベンゾ−3H−インドール(1)(2.3g,11mmol)、3−ブロモ−1−プロピオン酸(1.5g,9.8mmol)及びアセトニトリル(10ml)を混合し、65℃で16時間攪拌した後、室温まで放冷し、酢酸エチル(50ml)に排出した。結晶をろ別して、得られた結晶をアセトンでけん洗し、ろ別した後、風乾させて灰色結晶状の目的物(6)(1.68g,47%)を得た。
[4−(2−((1E,3E,5E,7E)−7−(3−(2−カルボキシエチル)−1,1−ジメチル−1H−ベンゾ[e]インドール−2(3H)−イリデン)ヘプタ−1,3,5−トリエニル)−1,1−ジメチル−1H−ベンゾ[e]インドリウム−3−イル)ブタン−1−スルホン酸(7)(ICG−6)]
25ml四つ口フラスコに化合物(6)(0.55g,1.5mmol)、実施例1に記載の化合物(3)(0.80g,1.5mmol)及びピリジン(8ml)を混合し、50℃で45分攪拌した後、室温まで放冷した。反応液を減圧下濃縮し、残渣に水(20ml)を加え攪拌し、次いで10%塩酸を少しずつ加えてしばらく攪拌した(pH3〜4)。結晶をろ別後、風乾させて粗生成物(1.12g)を得た。得られた結晶にメタノール/クロロホルム(5/1)20mlを加え加熱攪拌し、放冷後結晶をろ別した。得られた結晶をメタノール/クロロホルムで再結晶させて、ろ別後、風乾させて深緑色結晶状のICG−6(0.38g,37%)を得た。
LC−MSの主な分子イオンピークはm/z=687(negative)であった。また、エタノール中における極大吸収波長、モル吸光係数は、それぞれλmax=786nm、ε=1.86×10
5であった。
[4−(2−((1E,3E,5E,7E)−7−(3−(2−(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミノカルボニル)エチル)−1,1−ジメチル−1H−ベンゾ[e]インドール−2(3H)−イリデン)ヘプタ−1,3,5−トリエニル)−1,1−ジメチル−1H−ベンゾ[e]インドリウム−3−イル)ブタン−1−スルホン酸(8)(ICG−11)]
25mL四つ口フラスコにICG−6(7)(0.5g,0.73mmol),N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(0.17g,1.5mmol),アセトニトリル(3mL)とクロロホルム(10mL)を仕込み、容器内を窒素置換した。2℃に保ちながらN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.30g,1.5mmol)とクロロホルム(2mL)の混合液を10分かけて滴下した。ゆっくり室温まで昇温し、30分攪拌した後、反応液をろ過した。ろ液を25℃以下に保ちながら減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルでほぐして結晶をろ集後、アセトンで懸洗することでICG−11前駆体(N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル)の粗結晶(0.66g)を得た。続いて、得られた結晶(0.66g,ca.0.73g)とクロロホルム(10mL)を25mL四つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下で1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE;NOF CORPORATION製COATSOME ME−8181)(0.54g,0.73mmol)、トリエチルアミン(0.10g,1.0mmol)及びクロロホルム(5mL)の混合液を20分かけて滴下した。室温下で2.5時間撹拌、反応液をろ過後、ろ液を濃縮し、残渣をフラッシュカラム(SiO
2,CHCl
3/MeOH=4/1〜3/1)で精製することでICG−11(8)(0.37g,36%)を得た。
[実施例5]
(1)ICG−11の蛍光スペクトル特性
ICG−11の物性を極性の異なる水溶液中において、ICGと検討した。その結果、ICG−11は、ICGよりも強い蛍光を発することが判明した。
(a)極性溶媒であるメタノール中での比較
ICG−11は、ICGと比較して、1.5倍の強さの蛍光を発することが判明した。
(b)非極性溶媒であるクロロホルム中での比較
ICG−11は、ICGが蛍光を発しないのとは、対照的に十分な強さの蛍光を発することが判明した。
結果を
図11に示す。
図11において、黒線及び赤線は、それぞれICG−11(濃度;1μM)及びICG(濃度;1μM)についての結果を示す。
(2)ICG−11の一重項酸素測定
ICG−11が一重項酸素産生能力を有していることを以下の測定により確認した。その結果、ICG−11は、光線力学療法を行うために必須である一重項酸素産生能力を有していることが判明した。
測定条件は以下のとおりである。
励起波長690nm、平均出力20mW、繰返し30Hz、パルス幅約10nm、DCMを用いた色素レーザーで励起した。
検出は、−80℃に冷却したゲート付近赤外イメージインテンシファイア(NIR−PII)を用いて分光器(焦点距離250mm、グレーティング600L/mm)で分光し、励起30μ秒後から200μ秒間計測した。
結果を
図12に示す。
図12において、赤線はICG−11に由来する一重項酸素(1270nm)の発生を示し、青線はβ−カロチン(濃度;6μM)による一重項酸素の補足を示す。
(3)ICG−11の熱発生能力
ICG−11が有する熱発生能力を以下の条件により測定した。その結果、ICG−11は、温熱療法を行うために必須である熱発生能力(37℃から43℃への組織温度の上昇)を有していることが判明した。
測定条件は以下のとおりである。
励起波長808nm、出力0.5W/m
2で励起した。温度は、1秒間隔で測定した。
結果を
図13に示す。
図13において、黒線、赤線、青線及び緑線は、それぞれICG−11濃度が0μM、1μM、2μM及び4μMのときの結果を示す。
(4)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)の作成法
(4−a)成形方法
ICG−11と脂質二重膜の主成分であるジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)との混合比を変えることにより、リポソームへのICG−11の搭載可能量を検討した。比較検討のために、ICGの搭載可能量を検討した。
DOPC(10mM)、コレステロール(5mM)、ポリエチレングリコール修飾型ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE,0.5mM)、及びICG−11(0〜5mM)又はICG(0〜0.5mM)をクロロホルム/メタノール(9:1,v/v)溶液により溶解し、一部を減圧乾燥し、生成した薄膜に生理食塩水を添加し、孔径100nmのフィルターで処理してリポソーム分散液を得た。
(4−b)搭載量
ICG−11がリポソームを形成する際の、脂質二重膜への組み込み量を以下の条件により測定した。
ICG−11又はICGが組み込まれたリポソームと脂質二重膜に組み込まれずリポソーム分散液中に遊離するICG−11又はICGをゲル濾過カラム(PD−10、GE社製)により、分離定量した(
図14)。
その結果、ICG−11は、脂質二重膜の主成分であるDOPCと最大でICG−11:DOPC=1:2の割合まで組み込み可能であることが判明した(
図14a)。
一方、ICGは、脂質二重膜の主成分であるDOPCと最大でICG:DOPC=1:100の割合まで組み込み可能であることが判明した(
図14b−(1))。
ICG:DOPC=1:40(
図14b−(2))、ICG:DOPC=1:20(
図14b−(3))の割合でリポソームを形成した際は、脂質二重膜に組み込まれなかったICGが分散液中で増加していることが確認された。
(4−c)粒子径
ICG−11がリポソームを形成する際の、脂質二重膜への組み込み量と粒子径との関係を以下の条件により測定した。
リポソームに様々な割合でICG−11を組込み、脂質二重膜への各含有量(0.0、0.5、1.0、5.0、10.0%)における粒子径を、動的光散乱測定装置SZ−100を用いて測定した。
その結果、ICG−11の含有量の増加に伴い、リポソームの粒子径分布(
図15)がブロードになると共に、算術平均径(表1)も増加したが、いずれの場合もEPR効果の条件を満たす範囲内であることが確認された。
【表1】
(4−d)ゼータ電位
ICG−11がリポソームを形成する際の、脂質二重膜への組み込み量とゼータ電位との関係を以下の条件により測定した。
リポソームに様々な割合でICG−11を組込み、脂質二重膜への各含有量(0.0、3.1、6.3、12.5、25.0%)におけるゼータ電位を、動的光散乱測定装置SZ−100を用いて測定した。
その結果、ICG−11の含有量の増加に伴い、リポソームのゼータ電位の絶対値が増加し(表2)、安定なリポソームを形成していることが確認された。
【表2】
(5)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)のUVスペクトル特性
ICG−11を脂質二重膜中に組み込んだリポソーム分散液(LP−ICG−11)が有するUVスペクトル特性に関し、ICGと検討した。その結果、ICG−11は、脂質二重膜中に組み込まれることにより、ICGよりも長波長側に吸収スペクトルが変化することが判明した。
結果を
図16に示す。
図16において、黒線及び赤線は、それぞれLP−ICG−11(濃度;10μM)及びICG(濃度;10μM)についての測定結果を示す。
(6)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)の蛍光スペクトル特性
ICG−11を脂質二重膜中に組み込んだリポソーム分散液(LP−ICG−11)が有する、蛍光スペクトル特性に関し、ICGと検討した。その結果、ICG−11は、脂質二重膜中に組み込まれることにより、ICGよりも長波長側に蛍光スペクトルが変化すると共に、発光強度の上昇が認められた。
結果を
図17に示す。
図17において、黒線及び赤線は、それぞれLP−ICG−11(濃度;1μM)及びICG(濃度;1μM)についての測定結果を示す。
(7)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)の熱発生能力
LP−ICG−11が有する熱発生能力を以下の条件により測定した。その結果、LP−ICG−11は、温熱療法を行うために必須である熱発生能力(37℃から43℃への組織温度の上昇)を有していることが判明した。
(7−a)試験管内
測定条件
試験管内に1.5mLの溶液を充填し、励起波長808nm、出力0.5W/m
2で励起した。温度は、1秒間隔で測定した。
結果を
図18に示す。
図18において、黒線、赤線及び青線は、それぞれLP−ICG−11、ICG及びコントロール(生理食塩水)についての測定結果を示す。
(7−b)生体内
測定条件
LP−ICG−11又は生理食塩水をヌードマウスの尾静脈より投与し、その3日後に励起波長800nm、出力0.22W/m
2で励起した。温度は、1秒間隔で測定した。
結果を
図19に示す。
図19において、黒線及び青線は、それぞれLP−ICG−11及びコントロール(生理食塩水)についての測定結果を示す。
(8)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)の体内分布変化
(8−a)腫瘍と体表との比較
LP−ICG−11が有する腫瘍特異的集積能力を、時間変化を追って体表と比較することにより検討した。LP−ICG−11は、ヌードマウスの尾静脈より投与し、1時間後、1日後、2日後、3日後に分布状況を測定した。その結果、投与1日後より、腫瘍への特異的集積が観測され、時間の経緯と共に、特異的集積が顕著となってきた。
結果を
図20に示す。
(8−b)腫瘍と各臓器との比較
LP−ICG−11が有する腫瘍特異的集積能力を、時間変化を追って他の臓器と比較することにより検討した。LP−ICG−11は、ヌードマウスの尾静脈より投与し、1時間後、1日後、2日後、3日後に分布状況を測定した。その結果、投与1日後より、腫瘍への特異的集積が観測され、時間の経緯と共に、特異的集積が顕著となってきた。
結果を
図21に示す。
(9)ICG−11を脂質二重膜中に有するリポソーム分散液(LP−ICG−11)の治療効果
(9−a)ラット;脳腫瘍
LP−ICG−11が有する抗癌効果をラット(F344/Jc1)の脳腫瘍モデルにより検討した。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を尾静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
1日目(月曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
2日目(火曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
3日目(水曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
5日目(金曜日);MRIによる腫瘍測定
12日目(金曜日);MRIによる腫瘍測定
治療経過
治療終了後のラットの脳を摘出し、LP−ICG−11の腫瘍組織への特異的集積を近赤外線蛍光観測装置により確認したところ、
図22に示すように、腫瘍組織のみにLP−ICG−11が集積していることを確認することができた。
治療結果
LP−ICG−11の抗癌効果により、通常、4週間で致死するところを、7週間以上の延命効果がもたらされた(
図23)。完治には至っていないものの、有効な治療効果がもたらされた。
図23において、青線、赤線及び紫線は、それぞれコントロール、近赤外線照射、LP−ICG−11・近赤外線照射を示す。
(9−b)猫;アポクリン腺癌、肺及び結腸転移
LP−ICG−11が有する抗癌効果をアポクリン腺癌・肺及び結腸転移の猫(猫種;雑、年齢;18歳齢)により検討した。
既往歴
アポクリン腺癌を原発巣とする肺及び結腸転移癌を併発。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
1日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
3日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
5日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
8日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
10日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
12日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
治療経過(
図24)
1クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。血便量は減少。
2クール目;肺転移腫瘍の一部消失を確認(
図24、下)。
3クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
4クール目;小康状態を維持。自宅で死亡。
治療結果
LP−ICG−11の抗癌効果により、肺転移腫瘍の一部消失及び結腸からの出血の減少が確認されると共に、小康状態を長期に渡り維持可能であることが判明した。
緩和医療における有効性を示唆する結果が得られた。
(9−c)犬;肛門周囲腺癌・リンパ節転移
LP−ICG−11が有する抗癌効果を肛門周囲腺癌・リンパ節転移の犬(犬種;パピヨン、年齢;11歳齢)により検討した。
既往歴
肛門周囲腺癌を原発巣とする腰下リンパ節転移を併発。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
1日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
3日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
5日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
8日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
10日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
12日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
治療経過(
図25及び26)
1クール目;自力排便が可能になる(PR;Partial Response)(
図25)。
2クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)(
図26)
飼い主との協議により、手術によるリンパ節腫瘍の減容積を行ったが、翌日、死亡。
治療結果
LP−ICG−11の抗癌効果により、腫瘍が縮小することにより自力排便が可能となり、QOLの向上がもたらされると共に、小康状態を長期に渡り維持可能であることが判明した。
QOLの向上と緩和医療における有効性を示唆する結果が得られた。
(9−d)猫;鼻腔・眼窩腫瘍(リンパ腫)
LP−ICG−11が有する抗癌効果を鼻腔・眼窩腫瘍の猫(猫種;雑種、年齢;15歳齢)により検討した。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
1日目(月曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
3日目(水曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
5日目(金曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
8日目(月曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
10日目(水曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
12日目(金曜日);近赤外光照射(飛鳥メディカル社製、DVL−30D)
治療経過(
図27〜30)
1クール目;病状が進行(PD;Progression Disease)。
2クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
3クール目;治療効果が認められた(PR;Partial Response)。
治療結果
1クール目より、高濃度ビタミンC療法、丸山ワクチン療法、オゾン療法を併用することにより、LP−ICG−11の抗癌効果が顕著になり、有効な治療効果がもたらされた。
(9−e)犬;腎臓腫瘍
LP−ICG−11が有する抗癌効果を腎臓腫瘍の犬(犬種;チワワ、年齢;5歳齢)により検討した。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
2日目(火曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
5日目(金曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
9日目(火曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
12日目(金曜日);近赤外光照射(800nm LEDライト、0.25W/m
2、20分間)
治療経過
1クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
2クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
3クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
4クール目;低エコー領域が拡大し、治療効果が現れてきたことが確認された(
図31)。また、血液検査の結果(表3)からも症状の改善が診られた(PR;Partial Response)。
治療結果
LP−ICG−11の抗癌効果により、腎臓腫瘍の縮小が認められると共に、健康状況が改善された。完治には至っていないものの、有効な治療効果がもたらされた。
【表3】
(9−f)犬;軟部組織肉腫
LP−ICG−11が有する抗癌効果を右前腕部・軟部組織肉腫の犬(犬種;雑種、年齢;6歳齢)により検討した。
既往歴
右の前腕部の軟部組織肉腫の摘出手術実施。
ICG局注による光線温熱療法週1回2カ月、2週に1回2カ月、次のクールを実施しようとしたところ再発したため、再度、摘出手術実施(不完全摘出)。
治療方法
LP−ICG−11(17.5mg含有)を静脈注射により投与し、以下のプロトコールで治療を行った。
1クール/2週間での治療計画
1日目(月曜日);LP−ICG−11投与
1日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
3日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
5日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
8日目(月曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
10日目(水曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
12日目(金曜日);近赤外光照射(東京医研社製、スーパーライザー、Hyper5000)
治療経過(
図32)
1クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
2クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
3クール目;小康状態を維持(SD;Stable Disease)。
4クール目;再手術した近位の縫合線状の皮膚に小腫瘤ができ、徐々に肥大化(PD;Progression Disease)
5クール目;小腫瘤は潰瘍化し、さらに肥大化した後、壊死した(PR;Partial Response)。
治療結果
LP−ICG−11の抗癌効果により、軟部組織肉腫に壊死が誘導され、完治には至っていないものの、有効な治療効果がもたらされた。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。