(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5979404
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】分散型電源の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/18 20060101AFI20160817BHJP
H02J 3/16 20060101ALI20160817BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
H02J3/18
H02J3/16
H02J3/38 120
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-76443(P2016-76443)
(22)【出願日】2016年4月6日
【審査請求日】2016年4月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幹介
【審査官】
緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−177882(JP,A)
【文献】
特開2007−124779(JP,A)
【文献】
特開2014−87239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/18
H02J 3/16
H02J 3/38
G05F 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備に接続され、かつ電力系統に連系して運転される電力変換器を備えた分散型電源の制御方法であって、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記電力系統と前記電力変換器との連係点の電圧変動を抑制するようにした分散型電源の制御方法において、
前記連系点の一定期間の電圧及び電流から連系点電圧変動量、連系点有効電力及び連系点力率を演算し、前記連系点有効電力と前記連系点電圧変動量との関係を一次関数により近似して前記一次関数の傾きを最小二乗法により求め、
所定の演算周期に従って演算した前記連系点力率の増減及び前記傾きの増減に応じて力率変動量を設定し、前記力率変動量を最新の前記連系点力率に加算して前記傾きをほぼ0にするような力率指令を演算すると共に、
前記力率指令に基づいて前記電力変換器の半導体スイッチング素子を駆動することにより、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記連係点の電圧変動を抑制することを特徴とした分散型電源の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載した分散型電源の制御方法において、
前記連系点電圧変動量が前記電力系統の定格電圧を含む前後の所定電圧範囲にある時を除いて、前記力率指令の演算処理を実行することを特徴とする分散型電源の制御方法。
【請求項3】
発電設備に接続され、かつ電力系統に連系して運転される電力変換器を備えた分散型電源の制御装置であって、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記電力系統と前記電力変換器との連係点の電圧変動を抑制するようにした分散型電源の制御装置において、
前記連系点の一定期間の電圧及び電流から連系点電圧変動量、連系点有効電力及び連系点力率を演算する手段と、
前記連系点有効電力と前記連系点電圧変動量との関係を一次関数により近似して前記一次関数の傾きを最小二乗法により求める傾き演算手段と、
所定の演算周期に従って演算した前記連系点力率の増減及び前記傾きの増減に応じて力率変動量を設定し、前記力率変動量を最新の前記連系点力率に加算して前記傾きをほぼ0にするような力率指令を演算する力率演算手段と、
前記力率指令が与えられる制御器と、
を備え、
前記制御器が前記力率指令に基づいて生成した駆動信号によって前記電力変換器の半導体スイッチング素子を駆動することにより、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記連係点の電圧変動を抑制することを特徴とした分散型電源の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載した分散型電源の制御装置において、
前記連系点電圧変動量が前記電力系統の定格電圧を含む前後の所定電圧範囲にある時を除いて、前記力率演算手段による演算処理を実行することを特徴とする分散型電源の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電システムや風力発電システム等からなる分散型電源の制御方法及び制御装置に関し、詳しくは、分散型電源と電力系統との連系点における電圧変動を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムや風力発電システム等の実用化が進んでおり、これらの分散型電源を電力系統に連系させるために、通常、インバータ及びその制御器を含むパワーコンディショナーが使用されている。この場合、分散型電源から出力される有効電力は気象条件等によって変動するものであり、有効電力の変動は電力系統との連系点における電圧を変動させ、系統の安定化を阻害する原因となる。
上記の点に鑑み、従来から、連系点における電圧変動を抑制するために種々の技術が提供されている。
【0003】
例えば、
図8は特許文献1に記載された風力発電システムの全体構成図である。
図8において、30は風力発電装置を有する分散型電源、31は風車ブレード、32は発電機、33はコンバータ及びインバータからなる電力変換器、34は電圧検出器、35は電流検出器、36は制御器、37は風車コントローラ、40は抵抗成分R
1及びリアクトル成分X
1により表した連系線、50は電力系統、60は抵抗成分R
2及びリアクトル成分X
2により表した一般負荷、Aは分散型電源30と系統側との連系点である。
【0004】
また、
図9は制御器36の内部構成を示すブロック図である。
この制御器36は、連系点Aの電圧検出値V及び電流検出値Iが入力されて有効電力Pと電圧振幅値V
pを演算する電力電圧演算器36aと、有効電力Pの変動成分ΔPを検出する変動検出器36bと、電圧振幅値V
pの変動成分ΔV
pを検出する変動検出器36dと、有効電力P及び変動成分ΔP,ΔV
pから無効電力指令値Q
*を演算する無効電力指令演算器36cと、
図8の風車コントローラ37から入力される有効電力指令値P
*及び無効電力指令値Q
*を用いてゲートパルス指令G
*を生成する電力制御器36eと、を備えている。そして、ゲートパルス指令G
*により電力変換器33の半導体スイッチング素子をオン・オフさせて無効電力Qを制御し、有効電力Pの変動に伴って発生する電圧振幅値V
pの変動成分ΔV
pをゼロに近付けている。
【0005】
なお、無効電力指令演算器36cでは、変動成分ΔP,ΔV
pを乗算してその結果を積分することにより、制御パラメータαを電力系統側の合成インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分との比に収束させ、この制御パラメータαと有効電力P及び(−1)を乗算して無効電力指令値Q
*を求めている。
【0006】
次に、
図10は特許文献2に記載された太陽光発電システムの全体構成図である。
図10において、連系線40上の連系点Aには、変圧器71及び構内配線72を介して複数台の太陽光発電装置80が互いに並列に接続されている。これらの太陽光発電装置80は、太陽電池81、電力変換器82及び制御器85を備えており、各検出器73,83,84により検出した全体の出力電流I、自己の出力電流I
1及び出力電圧V
1が入力される制御器85によって電力変換器82に対するゲートパルス信号G
1を生成するように構成されている。
【0007】
図11は、制御器85の内部構成を示すブロック図である。
この制御器85は、電圧V
1及び電流I,I
1が入力されて電圧V
1,電流I
1のd,q軸成分V
1d,V
1q,I
1d,I
1qと全体の有効電力Pを演算する電圧電流電力演算器85aと、連系点Aの電圧振幅V
Sを推定する電圧推定演算器85bと、電圧振幅V
Sの変動成分ΔV
Sを検出する変動検出器85cと、合計有効電力Pの変動成分ΔPを検出する変動検出器85dと、有効電力Pの変動成分ΔPの増減方向を示す符号信号ΔP
SIGNを生成する不感帯付符号器85eと、変動成分ΔV
Sと符号信号ΔP
SIGNとを乗算する乗算器85fと、その出力を積分して特許文献1と同様の制御パラメータαを得る積分器85gと、連系点Aの有効電力P
1と制御パラメータαとを用いて無効電力補償量Q
1*を演算する無効電力補償演算器85hと、有効電力Pの変動成分ΔPと制御パラメータαとを用いて有効電力変動指令ΔP
1*を演算する出力変動発生器85iと、を備えている。
【0008】
上記の無効電力補償量Q
1*、有効電力変動指令ΔP
1*は、電圧V
1及び電流I
1と共に電力制御器85jに入力されている。電力制御器85jは、有効電力変動指令ΔP
1*のもとで無効電力補償量Q
1*に等しい無効電力Qが出力されるようにゲートパルス信号G
1を生成して電力変換器82の半導体スイッチング素子をオン・オフさせ、電圧振幅V
Sの変動成分ΔV
Sをゼロに近付けている。
【0009】
以上のように、制御パラメータαに基づき適切な力率で無効電力を調整することにより連系点Aの電圧変動を抑制する原理は、非特許文献1に詳しく記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4575272号公報(段落[0025]〜[0034]、
図1,
図2等)
【特許文献2】特許第5329603号公報(段落[0022]〜[0033]、
図1,
図2等)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】内山倫行ほか3名,「大規模太陽光発電システムの無効電力制御による電圧変動抑制」,電気学会論文誌B,130巻3号,2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1,2に記載されている技術では、分散型電源30や太陽光発電装置80の出力が変動しないと、最適な制御パラメータαを求めることができない。このため、例えば特許文献2では、電力制御器に有効電力の変動指令を与えて有効電力Pを意図的に変動させている。
しかしながら、有効電力Pを変動させることは本来的に出力可能な発電電力を減少させることにもなり、発電機会の損失につながると共に、系統の安定化という観点からは決して好ましいものではない。
【0013】
そこで、本発明の解決課題は、太陽光発電装置等の分散型電源から出力される有効電力を変動させずに力率を最適化して電力変換器を制御することにより、連系点における電圧変動を抑制するようにした、分散型電源の制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、発電設備に接続され、かつ電力系統に連系して運転される電力変換器を備えた分散型電源の制御方法であって、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記電力系統と前記電力変換器との連係点の電圧変動を抑制するようにした分散型電源の制御方法において、
前記連系点の一定期間の電圧及び電流から連系点電圧変動量、連系点有効電力及び連系点力率を演算し、前記連系点有効電力と前記連系点電圧変動量との関係を一次関数により近似して前記一次関数の傾きを最小二乗法により求め、
所定の演算周期に従って演算した前記連系点力率の増減及び前記傾きの増減に応じて力率変動量を設定し、前記力率変動量を最新の前記連系点力率に加算して前記傾きをほぼ0にするような力率指令を演算すると共に、
前記力率指令に基づいて前記電力変換器の半導体スイッチング素子を駆動することにより、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記連係点の電圧変動を抑制するものである。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した分散型電源の制御方法において、前記連系点電圧変動量が前記電力系統の定格電圧を含む前後の所定電圧範囲にある時を除いて、前記力率指令の演算処理を実行するものである。
【0016】
請求項3に係る発明は、発電設備に接続され、かつ電力系統に連系して運転される電力変換器を備えた分散型電源の制御装置であって、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記電力系統と前記電力変換器との連係点の電圧変動を抑制するようにした分散型電源の制御装置において、
前記連系点の一定期間の電圧及び電流から連系点電圧変動量、連系点有効電力及び連系点力率を演算する手段と、
前記連系点有効電力と前記連系点電圧変動量との関係を一次関数により近似して前記一次関数の傾きを最小二乗法により求める傾き演算手段と、
所定の演算周期に従って演算した前記連系点力率の増減及び前記傾きの増減に応じて力率変動量を設定し、前記力率変動量を最新の前記連系点力率に加算して前記傾きをほぼ0にするような力率指令を演算する力率演算手段と、
前記力率指令が与えられる制御器と、を備え、
前記制御器が前記力率指令に基づいて生成した駆動信号によって前記電力変換器の半導体スイッチング素子を駆動することにより、前記電力変換器から出力される無効電力を制御して前記連係点の電圧変動を抑制するものである。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載した分散型電源の制御装置において、前記連系点電圧変動量が前記電力系統の定格電圧を含む前後の所定電圧範囲にある時を除いて、前記力率演算手段による演算処理を実行するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分散型電源から出力される有効電力を変動させずに、連系点における電圧変動量と有効電力とに基づいて最適化した力率に従って無効電力を制御することにより、連系点の電圧変動を抑制することができる。
このため、分散型電源の発電電力の有効利用及び系統の安定化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態を太陽光発電システムに適用した場合の全体構成図である。
【
図2】連系点の有効電力と電圧変動量との関係を示す概念図である。
【
図3】力率と一次関数の傾きとの関係を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施形態における力率演算器の機能ブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態における力率指令を変更する処理のフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態における力率演算実行判定手段の動作説明図である。
【
図7】連系点の有効電力と電圧変動量との関係を示す概念図である。
【
図8】特許文献1に記載された風力発電システムの全体構成図である。
【
図9】
図8における制御器の内部構成を示すブロック図である。
【
図10】特許文献2に記載された太陽光発電システムの全体構成図である。
【
図11】
図10における制御器の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態を太陽光発電システムに適用した場合の全体構成図である。
【0021】
図1において、20は分散型電源としての太陽光発電システムである。
この太陽光発電システム20は、太陽電池21と、その直流出力電圧を交流電圧に変換するインバータ等の電力変換器22と、電力変換器22の半導体スイッチング素子を駆動するための制御器23と、を備えている。上記構成の太陽光発電システム20と連系変圧器26との直列回路は複数、並列に接続され、連系変圧器26の一次側が連系点Aに接続されている。
【0022】
太陽電池21の出力電圧(PV電圧)及び出力電流(PV電流)は電圧・電流検出手段24により検出され、電力変換器22の出力電圧及び出力電流は電圧・電流検出手段25により検出される。制御器23は、これらの各検出値と後述する力率指令とに基づいて駆動信号(ゲート信号)を生成し、電力変換器22の半導体スイッチング素子をオン・オフ制御する。
【0023】
また、連系点Aと連系変圧器26の一次側との間には電圧検出器27及び電流検出器28が接続され、これらによって検出された連系点電圧及び連系点電流が力率演算器29に入力されている。力率演算器29は、連系点電圧及び連系点電流に基づいて生成した力率指令を前記制御器23に送出する。
なお、上記構成において、太陽光発電システム20は三相出力であり、三相の電力系統50及び連系線40に連系しているものとする。
【0024】
次に、力率演算器29の動作原理を説明する。
力率演算器29では、力率を変化させない一定時間(例えば10分間)に測定した連系点電圧及び連系点電流から、連系点Aの有効電力と電圧変動量との関係を一次関数(比例関数)により近似し、その一次関数の傾きが0になるように力率指令(=力率の移動平均値+力率変動量)を最適化して出力する。
【0025】
ここで、
図2は、連系点Aの有効電力と電圧変動量との関係を示す概念図である。
図示するように、連系点電圧変動量を連系点有効電力の一次関数によって近似した場合、一次関数の傾きが正である場合には力率が高過ぎ、また、傾きが負である場合には力率が低過ぎると考えられる。
従って、
図3における一次関数の傾き(△にて示す)がほぼ0に収束するように、すなわち、連系点有効電力の変動に関わらず連系点電圧変動量がほぼ0となるように力率を最適化する。
【0026】
上記一次関数の傾きは、連系点Aの有効電力が0の時に電圧変動量が0になることを前提とした最小二乗法により求め、また、力率を最適化する方法としては、局所探索法の一種である山登り法を用いることとした。
なお、力率演算器29は、連系点Aの電圧のばらつきが定格電圧を中心とした所定電圧範囲に収まっている場合には、力率を変化させずに従前の値を用いることとした。
【0027】
図4は、力率演算器29の機能ブロック図である。
図4において、連系点演算手段1は、一定時間(例えば10分間)に所定のサンプリング周期により検出した連系点Aの電圧、電流(何れも瞬時値)から、三相各相の電圧実効値の平均値V
s、連系点Aの有効電力P
s、連系点Aの力率φを演算して出力する。
【0028】
次に、移動平均手段2は、平均値V
sから移動平均値V
saveを求め、この移動平均値V
saveを定格電圧(電圧変動量を求めるためのベース分)として出力する。ただし、電力判定手段4によって有効電力P
sが電圧変動を起こさないレベルであると判定した場合には、入力された移動平均値V
saveを更新して出力するサンプルホールド手段3が設けられている。
【0029】
減算手段5では、サンプルホールド手段3から出力されたV
saveと平均値V
sとの差を演算し、連系点Aの電圧変動量V
sval(=V
save−V
s)を求める。
この電圧変動量V
svalを、例えば10分間のデータを格納するリングバッファ6に入力する。すなわち、リングバッファ6には、常に10分前までのデータ(電圧変動量V
sval)が格納されており、10分経過した古いデータは順に廃棄されるようになっている。
連系点Aの有効電力P
sについても、リングバッファ7によって常に10分前までのデータ(有効電力P
s)が格納される。
【0030】
ここで、電圧変動量V
svalを関数y(i)、有効電力P
sを関数x(i)とすると、傾き演算手段8では、両者の関係を一次関数:y(i)=ax(i)によりモデル化し、最小二乗法により、以下の数式1〜3に示すごとく、残差平方和Sの偏微分値(∂S/∂a)が0となる傾きaを演算する。数式3による傾きaの演算は、リングバッファ6,7に格納されている過去10分間のデータy(i),x(i)を対象として実行する。
【0031】
[数式1]
S=Σ(y(i)−ax(i))
2
[数式2]
∂S/∂a=0
[数式3]
a=Σx(i)y(i)/Σx(i)
2
【0032】
一方、前述した連系点演算手段1により演算された連系点Aの力率φは、移動平均手段9に入力されており、力率φの移動平均値の今回値、及び、サンプルホールド手段11により保持された前回値が、力率演算手段16に入力されている。
また、傾き演算手段8により演算された傾きaの今回値、及び、サンプルホールド手段13により保持された傾きaの前回値が、力率演算手段16に入力されている。
なお、10,12はサンプルホールド手段11,13及び後述のアンドゲート15にそれぞれ入力されるクロック信号を生成する定周期タイマである。
【0033】
力率演算手段16では、
図5のフローチャートに従って力率指令を生成する。なお、力率指令とは、前述したように力率の移動平均値に力率変動量を加えた値である。
【0034】
まず、前回の力率指令の変更後に(ステップS1)、傾きaの今回値すなわちa(i)の正負を判断する(同S2)。前述の
図2,
図3に示したように、傾きaが正側に大きい場合には力率φが高すぎるため(同S2Yes)、次に、力率φの増減傾向について判断する(同S3)。
【0035】
力率の今回値φ(i)が前回値φ(i-1)より減少しており(同S3Yes)、更に、傾きの今回値a(i)が前回値a(i-1)より減少している場合には(同S4Yes)、その方向(力率φを低下させて傾きaを0に近付ける方向)に力率φを調整していけば良いため、力率変動量を(−Δφ)とし(同S5)、これを力率の今回値φ(i)に加算して力率を変更する(同S1)。
また、力率の今回値φ(i)が前回値φ(i-1)より減少していても(同S3Yes)、電圧変動量V
svalの増加や有効電力P
sの減少により傾きの今回値a(i)が前回値a(i-1)より増加しているか、または前回値a(i-1)と変わらない場合には(同S4No)、力率φを逆方向に変化させるために、力率変動量を(+Δφ)とし(同S6)、これを力率の今回値φ(i)に加算して力率を変更する(同S1)。
【0036】
前述したステップS3において、力率の今回値φ(i)が前回値φ(i-1)より増加しているか、または前回値φ(i-1)と変わらない場合には(同S3No)、傾きaの増減傾向について判断する(同S7)。そして、電圧変動量V
svalの増加や有効電力P
sの減少により傾きの今回値a(i)が前回値a(i-1)より増加している場合には(同S7Yes)、力率φを逆方向に変化させる必要がある。
よって、力率が低くなるように力率変動量を(−Δφ)とし(同S8)、これを力率の今回値φ(i)に加算して力率を変更する(同S1)。
【0037】
また、傾きの今回値a(i)が前回値a(i-1)より減少しているか、または前回値a(i-1)と変わらない場合には(同S7No)、力率φを逆方向に変化させるために力率変動量を(+Δφ)とし(同S9)、これを力率の今回値φ(i)に加算して力率を変更する(同S1)。
【0038】
更に、
図2,
図3に示したように、傾きaが負側に大きい場合には力率φが低すぎるため(同S2No)、ステップS3〜S9と同様に力率φの増減傾向、傾きaの増減傾向を判断し(同S10,S11,S14)、傾きaの増減に応じてステップS5,S6,S8,S9とはそれぞれ逆の力率変動量を設定して力率を変更する(同S12,S13,S15,S16,S1)。
【0039】
ここで、
図4における力率演算実行判定手段14は、電圧変動量V
svalが定格電圧を中心として±ΔV
s(ΔV
sは、例えば定格電圧の2[%])の電圧範囲に含まれるときには力率演算手段16が力率演算を実行しないように、
図6に示す如く“1”または“0”の論理値を発生し、この論理値が定周期タイマ12からのクロック信号と共にアンドゲート15に入力されている。
【0040】
以上のように、本実施形態では、有効電力P
sの変動量が小さくても、
図7に示すように原点を通る一次関数y(i)=ax(i)により連系点有効電力と連系点電圧変動量との関係を近似している。このため、
図4の力率演算手段16、言い換えれば
図1の力率演算器29は、y(i)及びx(i)(電圧変動量V
sval及び有効電力P
s)に基づいて傾きaを求めることができ、この傾きaを0に近付けるように力率指令を最適化することが可能である。
【0041】
こうして生成された力率指令は、
図1の制御器23に送られている。制御器23では、入力された力率指令に従って電力変換器22が所定の無効電力を出力するように半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成してオン・オフ制御する。これにより、電力変換器22が出力する有効電力を意図的に変動させずに連系点Aの電圧変動を抑制することができる。
従って、太陽光発電システム20の発電能力を有効に利用可能であると共に、系統の安定化にも寄与する。
【0042】
図1の実施形態では、太陽光発電システム20が複数、並列に接続されているが、本発明は、単一の分散型電源が電力系統50に連系されている場合にも勿論、適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、太陽光発電システムだけでなく、風力発電システムや燃料電池発電システム等、各種の発電設備を備えた分散型電源に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
A:連系点
1:連系点演算手段
2,9:移動平均手段
3,11,13:サンプルホールド手段
4:電力判定手段
5:減算手段
6,7:リングバッファ
8:傾き演算手段
10,12:定周期タイマ
14:力率演算実行判定手段
15:アンドゲート
16:力率演算手段
20:太陽光発電システム(分散型電源)
21:太陽電池
22:電力変換器
23:制御器
24,25:電圧・電流検出手段
26:連系変圧器
27:電圧検出器
28:電流検出器
29:力率演算器
40: 連系線
50: 電力系統
【要約】
【課題】有効電力を変動させずに最適な力率を演算して電力変換器を制御し、連系点の電圧変動を抑制するようにした制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】系統に連系した電力変換器から出力される無効電力を制御して連係点の電圧変動を抑制する分散型電源の制御方法において、一定時間内の連系点の電圧及び電流から連系点電圧変動量、連系点有効電力及び連系点力率を演算し、連系点有効電力と連系点電圧変動量との関係を一次関数により近似してその傾きを最小二乗法により求め、所定の周期に従って演算した連系点力率の増減及び傾きの増減に応じて力率変動量を設定し、この力率変動量を最新の連系点力率に加算して前記傾きをほぼ0にする力率指令を求め、この力率指令に基づいて電力変換器を駆動することにより、電力変換器から出力される無効電力を制御して連係点の電圧変動を抑制する。
【選択図】
図4