特許第5979457号(P5979457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5979457
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】虫忌避材料及び虫忌避部材
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/06 20090101AFI20160817BHJP
   A01N 35/02 20060101ALI20160817BHJP
   A01N 31/08 20060101ALI20160817BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20160817BHJP
   A01N 35/06 20060101ALI20160817BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20160817BHJP
   A01N 25/24 20060101ALI20160817BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20160817BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20160817BHJP
【FI】
   A01N65/06
   A01N35/02
   A01N31/08
   A01N27/00
   A01N35/06
   A01N25/08
   A01N25/24
   A01P17/00
   A01M29/34
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-197107(P2015-197107)
(22)【出願日】2015年10月2日
【審査請求日】2015年12月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596087812
【氏名又は名称】株式会社エルブ
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】宮松 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴美
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/104894(WO,A1)
【文献】 特開平04−013607(JP,A)
【文献】 特開2002−154902(JP,A)
【文献】 特開2001−302409(JP,A)
【文献】 国際公開第1992/009196(WO,A1)
【文献】 特開2003−206575(JP,A)
【文献】 特表2009−526644(JP,A)
【文献】 特開2005−029472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス及び/又は炭素材料からなり1μm以下の孔径をもつ多孔質材料と、
前記多孔質材料の孔内に担持された虫忌避作用をもつ虫忌避剤と、
を有し、
前記虫忌避材料は、ヒバ油、シトロネラール、カルバクロール、ツヨプセン、及びβドラブリンからなる群より選択される1種又は2種以上であり、
銀、銅、鉄、ニッケル、及びアルミニウムからなる群から選択される1種又は2種類以上の金属イオンと共に前記多孔質材料の孔内に分散されている虫忌避材料(液状の水に接触させて使用するものを除く)。
【請求項2】
繊維状及び/又は発泡体状の樹脂材料から形成された基材と、
前記基材内に分散されているか及び/又は前記基材の表面に付着している請求項1に記載の虫忌避材料からなる粒子状材料と、
を有する虫忌避部材。
【請求項3】
前記粒子状材料と前記基材との間にはケイ酸塩、リン酸塩、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルエマルション、及びウレタンエマルションからなる群から選択される1種又は2種以上の結着材が介在している請求項2に記載の虫忌避部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニなどの虫を忌避できる虫忌避材料及びその虫忌避材料を用いた虫忌避部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒノキチオールなどの天然素材にはダニなどの虫を忌避する作用があることが知られており、徐々に蒸散させるダニ忌避剤が提供されている(特許文献1、2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−244756号公報
【特許文献2】特開平8−336698号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】http://www.iph.pref.osaka.jp/merumaga/back/9.htm、「抗菌加工繊維製品中のヒノキチオールの分析法と光分解による抗菌効果の増強について」
【非特許文献2】Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. P.H., 54, 247-250, 2003、台所用品からのヒノキチオールの分析
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヒノキチオールなどの天然物由来の成分を内包するマイクロカプセルは長期間にわたって放出を継続することが困難であった(非特許文献1、2など)。特許文献1の技術ではマイクロカプセル中に有効成分を閉じ込める構成を採用するが、マイクロカプセルを構成する材料としてアクリル樹脂などが採用されており徐放性を制御することが困難であった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり虫を忌避する虫忌避剤を長期間にわたって継続的に放出可能な虫忌避材料及びその虫忌避材料を用いた虫忌避部材を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、ナノメートルオーダーの細孔をもつ材料であって、セラミックス、炭素材料から構成される基材の細孔中に虫忌避剤を担持させることにより担持させた虫忌避剤が細孔中にて安定的に存在できることにより長期間にわたって担持した虫忌避剤を放出し続けることが可能であることを発見し以下の発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の虫忌避材料は、セラミックス及び/又は炭素材料からなり1μm以下の孔径をもつ多孔質材料と、
前記多孔質材料の孔内に担持された虫忌避作用をもつ虫忌避剤と、
を有する。
【0009】
また、本発明の虫忌避部材は、繊維状及び/又は発泡体状の樹脂材料から形成された基材と、
前記基材内に分散されているか及び/又は前記基材の表面に付着している上記発明の虫忌避材料からなる粒子状材料と、
を有する。
【0010】
繊維状、発泡体状の形態をもつ基材は比表面積が大きく、多くの虫忌避材料を付着乃至練り込むことが可能である。その上で、本発明の虫忌避材料は長期間にわたって持続的に虫忌避剤を放出可能であるため虫忌避作用に優れた虫忌避部材を提供することが可能になる。ここで、「長期間にわたって持続的に虫忌避剤を放出可能である」とは使用条件下では虫忌避剤を放出できると共に保管時には虫忌避剤の減少(放出)が少ないことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の虫忌避材料及び虫忌避部材について実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0012】
(虫忌避部材)
本実施形態の虫忌避部材は、繊維状、発泡体(泡)状の形態を採用することが可能である。発泡体状とすることでベッド、ソファ、椅子などのクッションとして用いることができるほか、平板状に加工して敷物として用いることも可能である。虫忌避部材から放出される虫忌避剤の効果でダニやゴキブリを忌避することができる。虫忌避部材は虫を忌避するための用途にのみ用いることもできる(例えばゴキブリ忌避用として周知のゴキブリ団子のような使用形態)。
【0013】
更に板状体とした上で床材、壁材、天井材に採用できる。虫害のおそれがある物品を保存する倉庫などに用いることが好ましい。また、浴室の床材、壁材、天井材に採用することによりヒノキ風呂を用いた場合と同様な効果を発揮することもできる。浴槽自体を本実施形態の虫忌避部材にて形成することもできる。
【0014】
また、貫通する貫通孔を設けることにより内部に空気が通過できるようにすることで空気中に虫忌避剤を効果的に放出することができる。貫通孔は複数設けることが望ましい。複数設けることにより空気と接触する面積が大きくできる。貫通孔内には虫忌避材料が充填されていても良く、その場合には貫通孔の存在は視認できない場合もある。
【0015】
繊維状にする場合には織物としたり不織布としたりした上で衣類袋、衣服、布団カバーなどに適用することができる。網、紐にすることもできる。
【0016】
更に、布団乾燥機、衣類乾燥機、空気清浄器の空気吹き出し口や空気取り入れ口に本発明の虫忌避部材を配設することにより吹き出される空気中に虫忌避剤を含有させた状態にすることができる。特に布団乾燥機や衣類乾燥機などにおいて温風が吹き出されるようにした装置に対し、その温風が通過するように虫忌避部材を配設することにより使用していないときには虫忌避剤を放出せず、必要なときだけ効果的に虫忌避剤を放出することができる。つまり、温風が通過することで適正量の虫忌避剤が放出するように調節することができるため、使用していない常温の状態では虫忌避剤の放出が抑制できる。
【0017】
本実施形態の虫忌避部材は基材と虫忌避材料とを有する。虫忌避材料については後述する。基材は繊維状又は発泡体状である。基材は樹脂材料から形成されている。樹脂材料としてはポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレンが例示できる。基材は内部乃至表面に虫忌避材料を配設する。この場合は虫忌避材料は粒子状にする。粒径としては基材の大きさによる。基材が繊維状である場合には繊維径よりも充分に小さいことが望ましい。例えば粒子の大きさの上限としては10μm、5μm、3μm、2μmなどが挙げられる。
【0018】
内部に配設する際には樹脂材料中に分散させた状態で、紡糸したり発泡させたりすることができる。また、適正な分散媒中に分散させた状態で基材を浸漬することで基材の表面に虫忌避材料を付着乃至展着(以下単に「付着」という場合には「展着」の意味も含む)させることができる。樹脂材料の内部に虫忌避材料を分散させた樹脂組成物(虫忌避部材)について細分化して、更に樹脂材料中に分散させることにより、更なる虫忌避剤の除放化が実現できる。例えば繊維状の虫忌避部材を製造した後、その繊維状の虫忌避部材を短繊維化して他の樹脂材料中に分散させることで更なる虫忌避剤の除放化が実現できる。
【0019】
基材に虫忌避材料を分散させたり付着させたりするために結着材を用いることができる。粒子状にした虫忌避材料の表面に予め結着材を被覆した状態で基材を構成する樹脂材料中に分散させたり、虫忌避材料を分散させた分散媒中に結着材を溶解乃至分散させた状態で基材を浸漬したりすることができる。結着材としてはケイ酸塩、リン酸塩、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルエマルション、及びウレタンエマルションからなる群から選択される1種又は2種以上の材料を用いることできる。
【0020】
ケイ酸塩としてはケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが例示できる。ケイ酸塩のほか、コロイダルシリカも採用できる。リン酸塩としてはリン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムが例示できる。
【0021】
(虫忌避材料)
本実施形態の虫忌避材料は多孔質材料と虫忌避剤とを有する。多孔質材料は1μm以下の孔径をもつ多孔質である。例えば孔径1μm以下(望ましくは孔径0.5μm以下)の孔が多孔質材料の体積を基準として20体積%以上(望ましくは30体積%以上)存在する。多孔質材料はセラミックス、炭素材料からなる。セラミックスとは金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、更にはそれらの複合物や混合物である。炭素材料からなる多孔質部材としては活性炭などが挙げられる。多孔質の材料に虫忌避剤を担持させることで、虫忌避剤が孔内に物理的に安定して取り込まれるほか、多孔質がもつ孔の存在により断熱性が向上して虫忌避剤が過熱することを防止できるために長期間の使用条件下にわたって虫忌避剤を放出し続けることが可能になったものと推測できる。
【0022】
虫忌避剤は多孔質部材がもつ孔内に担持されている。孔内に担持することで虫忌避剤を強固に多孔質部材に結合させることができる。孔内に担持させる方法としては適正な分散媒中に分散乃至溶解させた状態で多孔質材料を浸漬する。その時に銀、銅、鉄、ニッケル、及びアルミニウムからなる群から選択される1種又は2種類以上の金属イオンと共に担持させることにより強固に孔内に担持できる。詳細は明らかではないが金属イオンが虫忌避剤と錯体を形成することにより安定性が向上できるものと考えられる。
【0023】
浸漬後に乾燥させることで強固に担持される。乾燥は噴霧乾燥を行い粉粒体状の虫忌避材料を得たり、そのまま行った後に固化した塊を粉砕して粉粒体状としたりできる。多孔質材料を浸漬して担持した後にそのまま乾燥する前に前述の基材を浸漬することもできる。
【0024】
虫忌避剤は特に限定しないが天然素材であることが好ましい。例えばヒバ油が挙げられる。また、天然素材に含まれるシトロネラール、カルバクロール、ツヨプセン、及びβドラブリンからなる群より選択される1種又は2種以上の化合物を含んでいることが好ましい。これらの化合物はヒノキチオールに匹敵する虫忌避作用を発現できる上に蒸発しにくく長期に渡って安定的に存在できるからである。更にナノメートルオーダーの粒径をもつプラチナ粒子(例えば粒径10nm程度)、ビタミンCを虫忌避剤と併用することができる。
【実施例】
【0025】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0026】
(虫忌避材料の製造)
多孔質材料としてのセラミックス(コージェライト)の粉体(体積平均粒径1μm)に虫忌避剤としてのヒバ油の10質量%水溶液に浸漬し、その後、噴霧乾燥することでヒバ油が担持された虫忌避材料が得られた。ヒバ油が全体の質量を基準として5%になるように担持させた。
【0027】
(虫忌避部材の製造)
繊維状の虫忌避部材を製造した。基材を構成する樹脂材料としてはポリプロピレンを採用した。全体の質量を基準として虫忌避材料の添加量が0%(比較例)、3質量%(実施例1)、5質量%(実施例2)になるようにポリプロピレン中に分散させた状態で紡糸してそれぞれの試験糸とした。糸の太さは330デニールとした。
【0028】
(忌避作用評価試験)
ダニに対する忌避効果を評価した。評価方法は「JIS L 繊維製品の防ダニ性能試験方法忌避試験 侵入阻止法」に準拠して行った。
【0029】
各実施例及び比較例の試験糸60cmを4cm四方のポリエチレン製の板に一様に巻き付けたものをそれぞれの試験試料とした。それぞれの試験試料を直径4cmのシャーレ上に載置した状態で直径9cmのシャーレ内に静置し、ダニの忌避効果を評価した。直径9cmのシャーレ内には試験試料を載置した4cmのシャーレの下にダニ約1万匹を含むダニ培地を入れ、試験試料の中央部には誘引餌(マウス用飼料とビール酵母との当量混合物)50mgを設置した。
【0030】
9cmのシャーレに蓋をした状態で25℃・24時間静置したときに4cmのシャーレ上に存在するダニの数を測定した。比較例の4cmシャーレに誘引されたダニの数が1000匹を少し越える程度になるように試験条件を設定した。試験を5回行った結果の和を以下に示す。
【0031】
対照区(比較例)では5回の総和が5658匹(100%:忌避率0%)であったのに対して実施例1の実験区では876匹(15%:忌避率85%)、実施例2の実験区では342匹(6%:忌避率94%)であった。
【0032】
糸中に虫忌避材料を分散させることによりダニの忌避効果が認められた。また、添加量が5%でも忌避効果は飽和しておらず更なる添加による効果の増進が推測された。
【0033】
(耐久性試験)
コージェライト製のハニカム(多孔質部材)に対して上述の虫忌避材料をヒノキチオールの担持量が全体の質量を基準として5%となるように担持させたものを試験試料Aとした。担持は虫忌避材料を水中に分散させた中にハニカムを浸漬・乾燥させることで行った。
【0034】
試験試料Aの虫忌避材料に代えて試験試料Bの虫忌避材料を同様に用いた虫忌避部材を作成した。虫忌避材料Bはヒバ油を担持させるときに金属イオン(銅イオン)を全体の質量を基準として0.5%になるように溶液中に添加した。銅イオンは硫酸銅として添加した。
【0035】
試験試料A及びBについて布団乾燥機(象印製:品番 RF-AA20)の温風吹出し口に載置した。所定時間ごとに吹き出される空気をサンプリングして放出されるヒノキチオールの量を測定した。
【0036】
その結果、試験試料Aではヒノキチオールの担持量は160時間経過で初期値の39%になっていたのに対して、試験試料Bでは160時間では73%、200時間でも70%と長期間にわたってヒノキチオールを放出し続けることができることが分かった。
【0037】
なお、布団乾燥機の吹出し口に載置せず大気中に保存した試験試料A及びBは殆どヒノキチオールの減少が認められなかった。
【0038】
以上の結果から、従来のマイクロカプセルでは室温放置でもすぐに消失していたヒノキチオールが長期間にわたって残存させることができることが分かった。また、布団乾燥機から吹き出す空気中にはヒノキチオールを含むクラスター(以下、「ヒノキクラスター」又は「ヒノキチオールクラスター」と称する)が存在しておりヒノキチオールが放出できることが分かった。また、その放出の程度は制御できることが分かった。ヒノキクラスターは空気中に放出されたヒノキチオールが自身がもつ電荷により、単独で凝集するか雰囲気中の水分などと共に凝集して形成されることが考えられる。ヒノキチオールは多孔質体の孔内に担持させたことにより電子状態が単体で存在する場合と異なっており電荷をもつようになるものと思われる。この傾向は金属イオンと共に共存させていることで強化されていることが実験結果から推測される。クラスターの形成により大気中の酸素などとの接触が抑制されるためヒノキチオールの効果が持続することが推測される。
【要約】
【課題】虫を忌避する虫忌避剤を長期間にわたって継続的に放出可能な虫忌避材料及びその虫忌避材料を用いた虫忌避部材を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】ナノメートルオーダーの細孔をもつ材料であって、セラミックス、炭素材料から構成される基材の細孔中に虫忌避剤を担持させることにより担持させた虫忌避剤が細孔中にて安定的に存在できることにより長期間にわたって担持した虫忌避剤を放出し続けることが可能であることを発見し以下の発明を完成した。すなわち、本発明の虫忌避材料は、セラミックス及び/又は炭素材料からなり1μm以下の孔径をもつ多孔質材料と、前記多孔質材料の孔内に担持された虫忌避作用をもつ虫忌避剤とを有する。
【選択図】なし