特許第5979488号(P5979488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979488高濃度で経時的に粘度が安定化したアルミナゾルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979488
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】高濃度で経時的に粘度が安定化したアルミナゾルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   C01F7/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-180574(P2012-180574)
(22)【出願日】2012年8月16日
(65)【公開番号】特開2014-37335(P2014-37335A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宣勝
(72)【発明者】
【氏名】山口 良延
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−003020(JP,A)
【文献】 特開2008−007379(JP,A)
【文献】 特開平02−097418(JP,A)
【文献】 特開2007−277427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 − 7/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒中で、α−アルミナ1水和物及び解膠剤をテトラオールの存在下に反応させることを特徴とするアルミナゾルの製造方法であって、前記テトラオールが、ジグリセリン又はペンタエリスリトールである、アルミナゾルの製造方法
【請求項2】
解膠剤が、一価の無機酸又は有機酸である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無機酸が、硝酸又は塩酸である請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記有機酸が、蟻酸、酢酸及びモノクロル酢酸からなる群から選ばれる有機酸である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
水系溶媒中のアルミナゾル濃度が、2〜30質量%である請求項1記載の法。
【請求項6】
水系溶媒中、α−アルミナ1水和物を解膠剤と反応させてアルミナゾルを得る工程、及び
得られたアルミナゾルにテトラオールを添加して撹拌する工程、
を有することを特徴とするアルミナゾルの製造方法であって、前記テトラオールが、ジグリセリン又はペンタエリスリトールである、アルミナゾルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電気、電子工業、陶磁器、鋳物工業における耐熱性バインダー、コーチング材、紙類の表面改質剤、毛玉防止、帯電防止、塗料、ポリマー強化剤、化粧品、医薬品、ペイント、印刷インクの乳化剤、吸着剤、セラミック、接着性向上剤、石油工業における触媒担体等として有用な低粘度でかつ高濃度のアルミナゾルを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、無機系の水性ゾルは、粘度変化が大きく、経時安定性の優れたアルミナゾルを得ることは、困難であった。
【0003】
例えば、アルミニウム塩水溶液又はアルミニウム塩水溶液を生成させる酸溶液に金属アルミニウム粉末を溶解させことを含むアルミナゾルの製法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法は、非常に工程が煩雑であり、経済的に不利であるなど問題となっていた。
【0004】
また、水溶性塩基性アルミニウム塩をアルカリで中和したアルミナゲルを有機酸の存在下で水熱処理するアルミナゾルの製法も開示されている(特許文献2及び3)。しかしながら、水熱処理に120〜300℃の高温を要し、分散性の優れたアルミナゾルが得がたいなど問題となっていた。
【0005】
酸性アルミニウム化合物とアルカリ性物質との液相中和反応により得られるアルミナゲルを一価の無機酸の存在下に水熱処理するアルミナゾルの製造方法が開示されている(特許文献4)。しかしながら、反応で副生した中和塩が用途における弊害を生じる、反応で副成した中和塩でζ電位が低下する、アルミナゾルの安定性に影響を与える、など問題となっていた。
【0006】
水可溶性アルミニウム塩と炭酸又は炭酸塩とを反応させて得たアルミナ水和物を水熱処理した後、一価の酸と混合するアルミナゾルの製法も開示されている(特許文献5)。しかしながら、この方法は、高温で熱処理する必要があり、生産性が悪いなど問題となっていた。
【0007】
アルミン酸アルカリ金属塩の水溶液と有機ヒドロキシル酸の水溶液とを中和反応によるアルミナゾルの製造法も開示されている(特許文献6)。しかしながら、反応で副生した中和塩が用途により弊害を生じる、反応で副成した中和塩でζ電位が低下する、アルミナゾルの安定性に影響を与える、など問題となっていた。
【0008】
水溶性中性脂肪族アミノ酸或いはその誘導体であるラクタム類を添加してなるアルミナゾル組成物も開示されている(特許文献7)。しかしながら、アルミナゾルにラクタム類を添加し、70〜130℃の温度条件で熱処理する必要があるなど問題となっていた。
【0009】
アルミナゾルに酸アミドを含有してなる粘度の安定化した水性アルミナゾルが開示されている(特許文献8)。しかしながら、水性ゾルに対して0.1〜20倍重量の酸アミドを添加する必要があるなど問題となっていた。
【0010】
アルミナゾルに無機塩、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酒石酸ナトリウム等の有機塩を添加した低粘度高濃度アルミナゾルも開示されている(特許文献9)。しかしながら、反応で副生した中和塩でζ電位が低下し、アルミナゾルの安定性に影響を与えるなど問題となっていた。
【0011】
アルミニウムアルコキシドを稀酸水溶液で加水分解して得られたアルミナ1水和物に新たに酸を加えてから水熱処理して解膠するアルミナゾルの製造方法も開示されている(特許文献10)。しかしながら、15%以上の高濃度品を反応中にゲル化して製造不能となるなど問題となっていた。
【0012】
酸化アルミニウム粉末を、水相中で酸の存在下で、強酸性陽イオン交換樹脂で処理、イオン交換樹脂を取り除き、室温まで冷却後、アルミナコロイドの製造方法も開示されている(特許文献11)。しかしながら、アルミナコロイドの塩基性が非常に強いなど問題となっていた。
【0013】
アルミナゾルに水素イオン以外の陽イオンを添加して調整することも開示されている(特許文献12)。しかしながら、アルミナゾル濃度が10%以上あることが必要であり、濃度が10%以下の場合は、使用できないなど問題となっていた。
【0014】
更に、アルミナ水性ゾルの粘度を安定化させる添加剤としてグリセリンは、公知である(非特許文献1)
【0015】
従来、高濃度のアルミナゾルの低粘度化が種々提案されているが、いずれも高粘度化を防止するため濃度を下げる必要があった。高濃度のアルミナゾルは、経時的にゲル化する問題もあった。また、液相中和反応により得られるアルミナゲルは、中和反応で生成する塩が混在し用途により悪影響を及ぼすなど問題となっていた。
【0016】
従って、アルミナゾルとしては、低粘度で取り扱い易く、高濃度で運搬効率の高い安定化した純度の高いものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特公昭39−20150号公報
【特許文献2】特開昭53−112299号公報
【特許文献3】特開昭54−116398号公報
【特許文献4】特開昭55−27824号公報
【特許文献5】特開昭57−111237号公報
【特許文献6】特開昭59−223223号公報
【特許文献7】特開昭61−283335号公報
【特許文献8】特開平1−171633号公報
【特許文献9】特開平8−295509号公報
【特許文献10】特開平7−10535号公報
【特許文献11】特開平7−89717号公報
【特許文献12】特開平8−295509号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】色材,43巻179頁(1970年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来のアルミナゾル製造方法で得られるアルミナゾルは、それ自体、あるいはアルミナゾルへ種々の添加剤を加えても、アルミナゾルの増粘の抑制、ゲル化を防止する能力が乏しく、用途により使用が甚だ困難であった。
【0020】
従って、本発明は、高濃度で経時的に粘度が安定化したアルミナゾルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、ベーマイトを出発原料とする低粘度高濃度アルミナゾルを開発すべく鋭意検討した結果、本発明に達したものである。
即ち、本発明は、水系溶媒中で、ベーマイト及び解膠剤をテトラオールの存在下に反応させるものである。これにより、アルミナゾル粒子の粒子成長を抑制し、平均粒子径及び粒度分布の変化を抑制することができ、高濃度であっても、安定して、粘度を維持することを可能とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の高濃度の安定化したアルミナゾルは、水系溶媒中で、ベーマイトと、解膠剤とをテトラオールの存在下に反応させるものである。
【0023】
ここで、ベーマイト、α−アルミナ1水和物のことである。β−アルミナ一水和物では、アルミナゾルが得られない。水系溶媒、ベーマイト、解膠剤、アルミナゾル安定剤の総計重量(以下、反応マス重量と称する。)に対するベーマイト濃度は、例えば、30質量%を超えると高粘度で取り扱いに問題を生じ易い。一方、3質量%未満では、効率が悪く経済的に有効でない。従って、2〜30質量%の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは、5〜25質量%である。更に好ましくは、10〜20質量%である。
【0024】
解膠剤としては、一価の無機酸又は有機酸が使用される。
無機酸としては、例えば、硝酸や、塩酸などが挙げられる。その使用量は、反応マス中のベーマイトに対して無機酸の酸根/ベーマイトのモル比が、例えば、0.005〜0.30、より好ましくは、0.01〜0.20、更に好ましくは、0.05〜0.15である。なお、0.005未満になると解膠が困難となり易く、生産性が低下し易い。また、0.30以上になると高濃度ベーマイトにおいては、ゲル化し好ましくない。
【0025】
解膠剤としての有機酸としては、例えば、蟻酸や、酢酸などが挙げられる。その使用量は、反応マス中のベーマイトに対して有機酸の酸根/ベーマイトのモル比が、例えば、0.01〜0.80、より好ましくは、0.05〜0.40、更に好ましくは、0.10〜0.30である。なお、0.01未満になると解膠が困難となり易く、生産性が低下し易い。また、0.80以上でも解膠効果は、向上せず経済的に好ましくない。
【0026】
本発明のテトラオールとしては、例えば、ジグリセリンや、ペンタエリスリトールなどが好適に挙げられる。その存在量は、反応マス組成中に、例えば、0.05〜8.0質量%、より好ましくは、0.1〜5.0質量%、更に好ましくは、0.5〜3.0質量%である。0.05質量%未満では、アルミナゾルの経時安定性に欠け易く、また、8.0質量%以上では、アルミナゾルの経時安定性の更なる効果は、得られ難い。
【0027】
本発明の水系溶媒としては、蒸留水や、イオン交換水、水道水を使用するこができ、アルミナゾルの用途により、適宜選択をすることが出来る。
【0028】
〔作用〕
本発明の高濃度アルミナゾルの経時安定化に特異的であることの作用機構は、明確ではないが、次のように推察される。ベーマイトが解膠剤で解膠して、アルミナゾルの一次粒子を形成する。この際、鎖状脂肪族化合物のジグリセリンが強く水和した層に何らかの作用で関与し、一次粒子の核としての成長、一次粒子から二次粒子への凝集が抑制される。更に、テトラオールがアルミニウムイオンとキレートを生成し凝集を抑制していると思われる。
【0029】
本発明は、アルミナゾルに適当量のテトラオールを添加して攪拌するという簡単な操作で目的を達することができる。添加するタイミングは、アルミナゾル合成前に添加してもよく、また、アルミナゾル合成後に添加しても良い。
【0030】
本発明の実施においては、水系溶媒に予め所定量の解膠剤、テトラオールを溶解させ、攪拌しながら、ベーマイトを水系溶媒中に添加してもよい。ベーマイトの添加は、連続添加、非連続添加、或いは一括添加でも良い。ただ、一括添加は、水系溶媒中で塊を生じないように注意を要する。
【0031】
本発明の実施において、水系溶媒の攪拌は、モーター攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波攪拌など特に、限定されるものでなく、攪拌することにより攪拌・混合できれば良い。
【0032】
本発明の実施において、水系溶媒の温度範囲は、例えば、室温〜90℃である。好ましくは、15〜50℃、更に好ましくは、20〜40℃である。
【0033】
本発明の実施に置いて、水系溶媒中で、ベーマイト、解膠剤をテトラオールの存在下に反応させる反応時間は、例えば、0.5〜3時間である。反応後、更に、0.5〜1時間熟成させても良い。
【0034】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、更に詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、以下の実施例及び参考例により、何ら限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、適宜、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0035】
実施例
アルミナゾルの平均粒子径及び粒度分布の測定
得られたアルミナゾルは、蒸留水で稀釈し、1質量%の濃度に調製した。レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社、Microtrac HRA(X‐100)))を用いて測定した。
アルミナゾルの経時安定性の測定
実施例1〜11及び比較例1〜7で得られたアルミナゾルは、25℃に保管し、調整日(保管1日)、1カ月(調製日より30日経過)、2カ月(調製日より60日経過)のアルミナゾルの平均粒子径及び粒度分布を測定した。
実施例1
攪拌機(新東科学(株)製スリーワンモーター回転数:650r.p.m)、温度計、冷却管を備えた2Lガラスビーカーにイオン交換水937g、36%塩酸(キシダ化学(株)製 試薬)特級)3.33g、ジグリセリン(阪本薬品工業(株)製)10gを入れ攪拌、混合した。該水溶液にベーマイト(Condea(株)製SB Pural)50gを1.5時間かけて連続的に投入した。更に、1時間攪拌した。反応温度は、25℃〜27℃であった。
実施例2〜9
実施例1と同様の操作で、表1に示した条件に従い、アルミナゾルを合成した。
【0036】
比較例1〜7
実施例1と同様の操作で、表2に示した条件に従い、アルミナゾルを合成した。
実施例10
攪拌機(新東科学(株)製スリーワンモーター回転数:650r.p.m)、温度計、蛇管冷却管を備えた2Lガラスビーカに、イオン水840g及び36%塩酸9.99gを入れて、攪拌しながら混合した。得られた水溶液にベーマイト150gを2.0時間かけて連続的に投入した。更に1.5時間攪拌しながら混合した。反応温度は、28℃〜30℃であった。次に、ジグリセリン10gを攪拌しながら添加した。更に、1時間攪拌を進め、混合した。
【0037】
実施例11
実施例3において、ジグリセリン10gの代わりに、ペンタエリスリトール10gを使用した以外は、実施例3を繰り返した。
【0038】
上記実施例及び比較例の結果を、以下の表1〜3に纏めた。表1及び2では、実施例及び比較例におけるアルミナゾルの製造条件を示した。表3では、実施例及び比較例で得られたアルミナゾルの経時安定性試験の結果を示した。
ここで、得られたアルミナゾルの安定性試験結果の評価は、次のように行った。
【0039】
実施例3〜11及び比較例1〜7は、アルミナゾルを表3に記載の経過後にサンプリングを行い、アルミナゾル濃度を15%に調製し、この調製したアルミナゾル水溶液を水道法試験管(サイズ:φ32×210(mm)、容量:100mlに入れ、肉眼観察で5段階に評価した。評価基準は、以下の通りである。但し、実施例1、実施例2は、蒸留水で希釈せずに試験に供した。
5:アルミナゾル水溶液は透明
4:アルミナゾル水溶液は半透明
3:アルミナゾル水溶液は若干濁りあり。
2:アルミナゾル水溶液は、やや白濁
1:アルミナゾル水溶液は、白濁
【0040】
表3に示すデータから明らかなように、本発明のアルミナゾルは、60日の経過後もアルミナゾルの平均粒子経に変化なく、極めて安定であった。他方、テトラオールを配合しないで製造されたアルミナゾル及び従来公知のアルミナゾル安定剤を添加して製造されたアルミナゾルは、いずれも経時に不安定であった。
【0041】
本発明によれば、本発明のテトラオールの存在下で、ベーマイトを解膠剤で解膠して得たベーマイトゾル、又は解膠したベーマイトにテトラオールを添加したものは、長期間を経てもベーマイトゾルの粒子径に変化なく、極めて安定であった。更に、従来公知の無機塩及び有機塩を添加して、ベーマイトの安定化を図る方法に比較して、電荷イオンは、無く、各種塩の影響を受け易い用途に使用できるという性能の点で望ましい特徴がある。
【0042】
【表1】
【0043】
表2(比較例)
【0044】
表3