特許第5979551号(P5979551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979551
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】バナジウムレドックス電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20160817BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160817BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 10/38 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M8/02 E
   H01M10/36 Z
   H01M10/38
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-285409(P2012-285409)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-127428(P2014-127428A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125106
【弁理士】
【氏名又は名称】石岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】山村 朝雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂樹
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−016217(JP,A)
【文献】 特開昭62−090875(JP,A)
【文献】 特開平09−101286(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/049103(WO,A1)
【文献】 特開2012−054035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/92
H01M 4/96
H01M 8/02
H01M 10/36 − 10/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極が配置された正極室と、
第2の電極が配置された負極室と、
前記正極及び前記負極のうち少なくとも一方に配置された補助電極と、を備え
前記補助電極は、前記正極室に配置され、当該正極室に配置された前記第1の電極と当該補助電極との間に電圧印加されることによって、正極活物質の酸化還元状態を調整するための調整用電極、もしくは、前記負極室に配置され、当該負極室に配置された前記第2の電極と当該補助電極との間に電圧が印加されることによって、負極活物質の酸化還元状態を調整するための調整用電極であることを特徴とするバナジウムレドックス電池。
【請求項2】
前記補助電極は、前記正極室に配置され、当該正極室に配置された前記第1の電極と当該補助電極との間の電位を測定するための測定用電極、もしくは、前記負極室に配置され、当該負極室に配置された前記第2の電極と当該補助電極との間の電位差を測定するための測定用電極であることを特徴とする請求項1に記載のバナジウムレドックス電池。
【請求項3】
前記補助電極は、カーボン、白金、または金からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバナジウムレドックス電池。
【請求項4】
前記正極及び前記負極を仕切る隔膜を備え、
前記補助電極は、前記隔膜の表面に積層された絶縁体膜、カーボン膜、及び多孔性膜によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバナジウムレドックス電池。
【請求項5】
正極及び負極のうち少なくとも一方に設けられた補助電極と、
前記正極及び前記負極を仕切る隔膜と、を備え、
前記補助電極は、前記隔膜の表面に積層された絶縁体膜、カーボン膜、及び多孔性膜によって構成されていることを特徴とするバナジウムレドックス電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムレドックス電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、デジタル家電製品のみならず、モーター動力を用いた電気自動車、ハイブリッド自動車にも広く使われるようになってきた。
【0003】
バナジウムを活物質とし、電解質溶液中において酸化還元(Reduction/Oxidation、レドックス)反応を生じる2組の酸化還元対(レドックス対)を利用して、イオンの価数変化によって充放電を行うバナジウム・レドックスフロー電池が知られている(特許文献1)。
【0004】
特に、+2価及び+3価の酸化状態のバナジウムイオン、即ちV2+及びV3+、並びに、+4価及び+5価の酸化状態のバナジウムイオン、即ちV4+及びV5+をレドックス対として含み、タンクに貯蔵したバナジウムの硫酸溶液を流通型セルに供給して充放電させるバナジウム・レドックスフロー電池は、大型電力貯蔵分野で使用されている。
【0005】
バナジウム・レドックスフロー電池の構成は、正極側の活物質である正極液及び負極側の活物質である負極液を入れてある正極液タンク及び負極液タンク、並びに充放電を行うスタックとからなる。正極液及び負極液は、ポンプで正極タンク及び負極タンクからスタックに送られ、循環される。スタックは、イオン交換膜を正極及び負極で挟んだ構造をしている。正極液中及び負極液中の電池反応式は、それぞれ以下の式(1)、(2)の通りである。
【0006】
正極:VO2+(aq)+HO ⇔ VO(aq)+e+2H …(1)
【0007】
負極:V3+(aq)+e ⇔ V2+(aq) …(2)
【0008】
上式(1)及び(2)において、「⇔」は化学平衡を示す。またイオンに付与された添字の(aq)は、そのイオンが溶液中に存在することを意味する。
【0009】
上記の反応はすべて正極液、負極液である硫酸溶液中で起こるため、金属電極を使った鉛蓄電池のように、充電時における電極表面でのデンドライトの生成による性能の劣化が生じることがなく、原理的には無限回の充放電反応の繰り返しが可能である。
【0010】
ゼロ充電状態、即ち正極液がV4+(aq)のみを含み、負極液がV3+(aq)のみを含む状態では、電池の開放電圧はおよそ1.1ボルトである。
【0011】
充電をするために、外部電源を用いて正極及び負極間に十分に大きな電圧を印加し、バナジウム・レドックスフロー電池に強制的に電流を流すと、正極液中のV4+(aq)はV5+(aq)に酸化され、同時に負極液中のV3+(aq)はV2+(aq)に還元される。充電が完了して、充電状態が100%に達すると、電池の開放電圧は、およそ1.58ボルトとなる。
【0012】
バナジウム・レドックスフロー電池の蓄電容量は、電解質に溶解しているバナジウムの量によって決定される。例えば、一定モル濃度の異なる二つの電解質溶液を含むバナジウム・レドックスフロー電池の場合、蓄電容量はこれら二つの電解質溶液の体積に正比例する。つまり、正極液及び負極液の濃度を濃くするか、正極液及び負極液の体積を増やすことによって、蓄電容量を増加させることができる。正極液及び負極液の体積の増加は、正極タンク及び負極タンクの体積の増加によって達成することができる。
【0013】
また、従来、軽量小型で高出力性能を有するレドックス電池を得るために、液静止型バナジウムレドックス電池が提案されている(特許文献2)。この液静止型バナジウムレドックス電池は、正極側電解槽及び負極側電解槽を備え、正極側電解槽及び負極側電解槽内に、活物質であるバナジウムイオンを含む電解液と電極である導電性物質、例えば炭素の粉末又は小片との混合物である電極混合電解液が充填されたものである。
【0014】
従来のバナジウム・レドックスフロー電池では、正極液及び負極液として液体を用いるので、エネルギー密度が低くなるという問題があった。
また、従来のバナジウム・レドックスフロー電池の電解液を静止させた液静止型バナジウムレドックス電池では、電解液は相変わらず液体として存在しているので、高い蓄電容量を有しつつ高いエネルギー密度を得ることと、電池の小型化を両立させることが難しいという問題があった。
【0015】
高い蓄電容量及び高いエネルギー密度を両立し得るバナジウムレドックス電池として、バナジウム固体塩電池が提案されている(特許文献3)。このバナジウム固体塩電池は、酸化及び還元反応によって2価及び3価の間で酸化数が変化するバナジウム又はそのようなバナジウムを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含み、負極となる表面を含む第一のバナジウム化合物と、還元及び酸化反応によって5価及び4価の間で酸化数が変化するバナジウム又はそのようなバナジウムを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含み、正極となる表面を含む第二のバナジウム化合物と、第一及び第二のバナジウム化合物に挟まれ、イオンを選択的に通過させるセパレータと、を含んでいる。
【0016】
なお、本明細書では、バナジウム、バナジウムイオン、あるいはバナジウムを含む化合物を活物質として用いるレドックス電池全般のことを、「バナジウムレドックス電池」と呼ぶことにする。上記したバナジウム・レドックスフロー電池、液静止型バナジウムレドックス電池、及びバナジウム固体塩電池は、すべて「バナジウムレドックス電池」に含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第4,786,567号公報
【特許文献2】特開2002−216833号公報
【特許文献3】国際公開WO2011/049103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来のバナジウムレドックス電池では、電池の充放電が繰り返されるうちに正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れてしまい、電池容量が低下してしまうという問題があった。
【0019】
すなわち、例えば製造されたばかりのバナジウムレドックス電池では、電池が未充電の状態(充電状態=ゼロ)において、正極の活物質は4価、負極の活物質は3価となっている。電池の充電が進行するに従い、正極の活物質は4価から5価に変化し、負極の活物質は3価から2価に変化する。電池の充電が完了すると(充電状態=100%)、正極の活物質はすべて5価となり、負極の活物質はすべて2価となる(図1参照)。
【0020】
しかし、正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れてしまうと、電池が未充電の状態において、負極の活物質に4価のバナジウムが含まれてしまう。この場合、電池の充電が完了しても、負極の活物質の一部が2価ではなく3価のままであり、活物質の一部からは電気的エネルギーを取り出すことができなくなってしまう(図2参照)。
【0021】
正極及び負極における酸化還元状態を検出するためには、反応物質の濃度(活量)と電位との関係を表したネルンストの式を用いる方法が従来から知られているが、バナジウムレドックス電池の正極及び負極における酸化還元状態を個別に検出することのできる技術は存在していなかった。また、バナジウムレドックス電池の正極及び負極における酸化還元状態の均衡が崩れた場合に、酸化還元状態の均衡を回復させることのできる技術は存在していなかった。
【0022】
そこで、本発明は、正極及び負極における酸化還元状態を個別に検出することのできるバナジウムレドックス電池を提供することを目的とする。また、正極及び負極における酸化還元状態の均衡が崩れた場合に、酸化還元状態の均衡を回復させることのできるバナジウムレドックス電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明のバナジウムレドックス電池は、正極及び負極のうち少なくとも一方に補助電極が設けられていることを特徴とする。
【0024】
前記補助電極は、前記正極及び前記負極のうち少なくとも一方の電位を測定するための測定用電極であることが好ましい。
【0025】
前記補助電極は、前記正極に電圧を印加して、正極活物質の酸化還元状態を調整するための調整用電極であることが好ましい。
【0026】
前記補助電極は、前記負極に電圧を印加して、負極活物質の酸化還元状態を調整するための調整用電極であることが好ましい。
【0027】
前記補助電極は、カーボン、白金、または金からなることが好ましい。
【0028】
前記正極及び前記負極を仕切る隔膜を備え、
前記補助電極は、前記隔膜の表面に積層された絶縁体膜、カーボン膜、及び多孔性膜によって構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、正極及び負極における酸化還元状態を個別に検出することのできるバナジウムレドックス電池を提供することができる。また、正極及び負極における酸化還元状態の均衡が崩れた場合に、酸化還元状態の均衡を回復させることのできるバナジウムレドックス電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】バナジウムレドックス電池の正極及び負極の酸化還元状態の均衡を説明するための図である。
図2】バナジウムレドックス電池の正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れた状態を説明するための図である。
図3】正極に補助電極が配置されたバナジウム固体塩電池の構成例を示している。
図4】正極及び負極に補助電極が配置されたバナジウム固体塩電池の構成例を示している。
図5】隔膜に接するように設けられた第1の補助電極の正面図である。
図6図5に示す第1の補助電極のA−A線断面図である。
図7】格子状に設けられた第1の補助電極を示す正面図である。
図8図7に示す第1の補助電極のB−B線断面図である。
図9】バナジウム固体塩電池の酸化還元状態の測定結果を示している。
図10】バランスが崩れたバナジウム固体塩電池の酸化還元状態の測定結果を示している。
図11】負極の酸化還元状態を調整した後のバナジウム固体塩電池の電圧の測定結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のバナジウムレドックス電池は、正極及び負極における活物質として、バナジウム、バナジウムイオン、あるいはバナジウムを含む化合物を用いている。バナジウム(V)は、2価、3価、4価、及び5価を含む異なる数種の酸化状態を取り得るのみならず、電池に有用な程度の電位差を有する元素である。バナジウムレドックス電池には、バナジウム・レドックスフロー電池、液静止型バナジウムレドックス電池、バナジウム固体塩電池等が含まれる。以下では、本発明をバナジウム固体塩電池に適用した例について説明する。
【0032】
バナジウム固体塩電池とは、負極活物質として、酸化及び還元反応によって2価及び3価の間で酸化数が変化するバナジウムイオン又はそのようなバナジウムイオンを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含む化合物を用いるとともに、正極活物質として、還元及び酸化反応によって5価及び4価の間で酸化数が変化するバナジウムイオン又はそのようなバナジウムイオンを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含む化合物を用いた電池である。バナジウム固体塩電池は、正極及び負極の活物質として固体のバナジウム塩若しくは錯塩を含む化合物を用いるため、液漏れなどの心配が少なく、安全性に優れ、かつ、高いエネルギー密度を有する。
【0033】
ここで、「酸化及び還元反応によって2価及び3価の間で酸化数が変化するバナジウムイオン又はそのようなバナジウムイオンを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩」として、硫酸バナジウム(II)・n水和物、硫酸バナジウム(III)・n水和物等を例示することが出来る。
【0034】
また、「酸化及び還元反応によって2価及び3価の間で酸化数が変化するバナジウム又はそのようなバナジウムを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含む化合物」として、上記の硫酸バナジウム(II)・n水和物、硫酸バナジウム(III)・n水和物、又はこれらの混合物に硫酸水溶液を加えたものを例示することが出来る。このようなバナジウム化合物は、活物質を含む電解質としての機能を有する。
【0035】
また、「還元及び酸化反応によって5価及び4価の間で酸化数が変化するバナジウム又はそのようなバナジウムを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩」として、オキシ硫酸バナジウム・n水和物、ジオキシ硫酸バナジウム・n水和物等を例示することが出来る。
【0036】
また、「還元及び酸化反応によって5価及び4価の間で酸化数が変化するバナジウム又はそのようなバナジウムを含む固体バナジウム塩若しくは錯塩を含む化合物」として、上記のオキシ硫酸バナジウム、ジオキシ硫酸バナジウム、又はこれらの混合物に硫酸水溶液を加えたものを例示することが出来る。このようなバナジウム化合物は、活物質を含む電解質としての機能を有する。
【0037】
バナジウム固体塩電池の充放電時における正極活物質の反応式は、以下の式(3)に示す通りである。
【0038】
正極:VOX・nHO(s)⇔ VOX・mHO(s)+HX+H+e …(3)
【0039】
バナジウム固体塩電池の充放電時における負極活物質の反応式は、以下の式(4)に示す通りである。
【0040】
負極:VX・nHO(s)+e ⇔ 2VX・mHO(s)+X …(4)
【0041】
上記式(3)及び(4)において、Xは1価の陰イオンを表す。
【0042】
上記式(3)及び(4)において、nは様々な値をとりうる。たとえば、オキシ硫酸バナジウム(IV)・n水和物とジオキシ硫酸バナジウム(V)・n水和物は、必ずしも同じ個数の水和水を持っているとは限らない。以下に登場する化学反応式や物質名においても同様である。
【0043】
図3は、バナジウム固体塩電池の構成例を示している。
図3に示すように、バナジウム固体塩電池10は、隔膜12によって仕切られた正極室20及び負極室30を備えている。正極室20には第1の電極22(正極)が配置されており、負極室30には第2の電極32(負極)が配置されている。第1の電極22と隔膜12の間には、第1の集電体24が設けられている。第2の電極32と隔膜12の間には、第2の集電体34が挟まれている。第1の集電体24には、正極活物質であるオキシ硫酸バナジウム(IV)・n水和物と硫酸水溶液との混合物中の活物質が担持されている。第2の集電体34には、負極活物質である硫酸バナジウム(III)・n水和物と硫酸水溶液との混合物中の活物質が担持されている。第1の電極22と第2の電極32との間に適当な大きさの電気抵抗を接続することによって、電池の放電を行うことができる。また、第1の電極22と第2の電極32との間に十分な大きさの電圧を印加することによって、電池の充電を行うことができる。
【0044】
第1の電極22は、第1の集電体24に接している。これにより、第1の電極22が第1の集電体24を介して正極活物質との間で電子のやり取りを行うことができるため、効率よく電池の出力を高めることができる。
【0045】
第2の電極32は、第2の集電体34に接している。これにより、第2の電極32が第2の集電体34を介して負極活物質と電子のやり取りを行うことができるため、効率よく電池の出力を高めることができる。
【0046】
第1の集電体24としては、炭素繊維からなるフェルト、炭素繊維からなるシート、活性炭等を用いることが好ましい。これらの中では、炭素繊維からなるフェルトを用いることが特に好ましい。第1の集電体24として炭素繊維からなるフェルトを用いることによって、第1の集電体24と正極活物質との接触面積を増やすことができるため、電池の出力をより高めることができる。
【0047】
第2の集電体34としては、炭素繊維からなるフェルト、炭素繊維からなるシート、活性炭等を用いることが好ましい。これらの中では、炭素繊維からなるフェルトを用いることが特に好ましい。第2の集電体34として炭素繊維からなるフェルトを用いることによって、第2の集電体34と負極活物質との接触面積を増やすことができるため、電池の出力をより高めることができる。
【0048】
隔膜12は、水素イオン(プロトン)を通過させることのできるものであればどのようなものを用いることも可能であり、例えば、水素イオンを選択的に通過させることのできるイオン交換膜、多孔質膜等を用いることができる。
【0049】
隔膜12としては、例えば、Selemion APS(登録商標)(旭硝子社製)やNafion(登録商標)(デュポン社製)等のイオン交換膜を用いることができる。また、ネオセプタ(登録商標)(アストム社製)等のイオン交換膜を用いることができる。
【0050】
図3に示すように、正極室20には、第1の補助電極26が配置されている。第1の補助電極26は、導電性の良好なカーボン、白金、または金からなることが好ましい。第1の補助電極26は、正極室20内であればどこに配置することも可能であるが、隔膜12に隣接した場所に配置することが好ましい。
【0051】
上記で説明したように、バナジウム固体塩電池が未充電の状態(充電状態=ゼロ)において、正極活物質であるバナジウムは4価であり、負極活物質であるバナジウムは3価となっている。電池の充電が進行するに従い、正極のバナジウムは4価から5価に変化し、負極のバナジウムは3価から2価に変化する。電池の充電が完了すると(充電状態=100%)、正極のバナジウムはすべて5価となり、負極のバナジウムはすべて2価となる(図1参照)。
【0052】
しかし、電池の充放電が繰り返されるうちに正極及び負極の酸化還元状態の均衡(バランス)が崩れてしまうと、未充電の電池の負極活物質に4価のバナジウムが含まれてしまう場合がある。この場合、電池の充電が完了しても、負極活物質の一部が2価ではなく3価のままであり、活物質の一部からは電気的エネルギーを取り出すことができなくなってしまう(図2参照)。従来のバナジウムレドックス電池では、正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れてしまうとこれを回復させる手段がなく、電池の蓄電容量が低下したままの状態で電池の充放電を繰り返すしかないというのが実情であった。また、正極と負極の間の電圧の測定結果から酸化還元状態を推定するしか方法がないため、正極と負極それぞれの酸化還元状態を正確に検出することが困難であるという問題があった。
【0053】
このような問題を解決するために、本実施形態のバナジウム固体塩電池10(バナジウムレドックス電池)では、正極室20に第1の補助電極26を配置している。この第1の補助電極26を用いることによって、正極及び負極の酸化還元状態をそれぞれ検出することが可能である。また、正極と負極の酸化還元状態をそれぞれ調整することが可能である。
【0054】
具体的には、第1の電極22と第1の補助電極26との間の電圧(電位差)を測定することによって、正極の酸化還元状態を測定することができる。活物質の濃度(活量)と電極電位との関係は、ネルンストの式によって表される。このため、第1の電極22と第1の補助電極26との間の電圧(電位差)を測定することによって、正極活物質の濃度、あるいは、正極の充電状態(State of Charge)を検出することができる。
【0055】
また、第1の電極22と第1の補助電極26との間に所定以上の電圧を印加することによって、正極の酸化還元状態を調整することができる。これにより、正極及び負極の酸化還元状態の均衡(バランス)を回復させることができる。
【0056】
すなわち、電池の充放電を行う場合には、正極と負極のそれぞれで同数の電子の受け渡しが行われるため、正極及び負極において1対1で活物質の反応が進行する。このため、何らかの原因で正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れた場合、電池の充放電を行うだけでは、正極及び負極の酸化還元状態の均衡を回復させることができない。
【0057】
本実施形態のバナジウム固体塩電池10によれば、第1の電極22と第1の補助電極26との間に所定以上の電圧を印加することによって、正極のみにおいて電池の充電を行うことが可能である。あるいは、第1の電極22と第1の補助電極26との間に適当な大きさの電気抵抗を接続することによって、正極のみにおいて電池の放電を行うことが可能である。これにより、正極の酸化還元状態を個別に調整することができるため、正極及び負極の酸化還元状態の均衡を回復させることができる。
【0058】
本実施形態のバナジウム固体塩電池10によれば、正極及び負極の酸化還元状態の均衡を回復させることができるため、電池の充放電を繰り返した場合でも蓄電容量がほとんど低下しないバナジウム固体塩電池10を実現することができる。
【0059】
上記実施形態では、正極室20に第1の補助電極26を配置した例を示したが、負極室30に第1の補助電極26を配置した場合も同様である。この場合、第2の電極32と第1の補助電極26の間の電圧(電位差)を測定することによって、負極の酸化還元状態を測定することができる。また、第2の電極32と第1の補助電極26の間に十分な大きさの電圧を印加することによって、負極の酸化還元状態を調整することができる。
【0060】
図4は、正極及び負極の両方に補助電極を設けたバナジウム固体塩電池40の構成例を示している。
図4に示すように、正極室20に第1の補助電極26を配置するとともに、負極室30に第2の補助電極36を配置してもよい。この場合、第1の電極22と第1の補助電極26との間の電圧(電位差)を測定することによって、正極の酸化還元状態を測定することができる。また、第2の電極32と第2の補助電極36との間の電圧(電位差)を測定することによって、負極の酸化還元状態を測定することができる。
【0061】
また、第1の電極22と第1の補助電極26との間に所定以上の電圧を印加することによって、正極の酸化還元状態を調整することができる。これにより、正極及び負極の酸化還元状態の均衡(バランス)を回復させることができる。
【0062】
また、第2の電極32と第2の補助電極36との間に所定以上の電圧を印加することによって、負極の酸化還元状態を調整することができる。これにより、正極及び負極の酸化還元状態の均衡(バランス)を回復させることができる。
【0063】
正極及び負極に第1の補助電極26及び第2の補助電極36をそれぞれ設けたバナジウム固体塩電池40によれば、正極及び負極のいずれかに補助電極を1つだけ設ける場合よりも、正極及び負極の酸化還元状態をより精密に測定することができる。また、正極及び負極の酸化還元状態をより精密に調整することができる。したがって、電池の充放電を繰り返した場合でも蓄電容量がほとんど低下しないバナジウム固体塩電池40を実現することができる。
【0064】
図5は、隔膜12に接するように設けられた第1の補助電極26の正面図である。図6は、図5に示す第1の補助電極26のA−A線断面図である。
図5及び図6に示すように、隔膜12の正極側の表面の略中央部には、絶縁体膜50が塗布されている。絶縁体膜50の表面には、カーボン膜52が塗布されている。カーボン膜52の表面には、絶縁体膜54が塗布されている。カーボン膜52の上端部52aには、絶縁体膜54が被覆されておらず、多孔性膜56が被覆されている。つまり、第1の補助電極26は、隔膜12の表面に、絶縁体膜50、カーボン膜52、及び多孔性膜56が積層されて構成されている。
【0065】
絶縁体膜54と多孔性膜56によって、カーボン膜52が第1の集電体24から電気的に絶縁されている。絶縁体膜50、54としては、例えば絶縁性ワニスを用いることができる。カーボン膜52としては、例えばカーボン塗料膜を用いることができる。多孔性膜56としては、例えばポリプロピレン製の多孔性膜を用いることができる。
【0066】
また、カーボン膜52の下端部52bには、絶縁体膜54が塗布されておらず、下端部52bが露出している。この露出した下端部52bに対して、第1の電極22と第1の補助電極26の間の電圧を測定するための端子、あるいは、第1の電極22と第1の補助電極26の間に電圧を印加するための端子が接続される。
【0067】
図7は、第1の補助電極26の別の実施形態を示す正面図である。図8は、図7に示す第1の補助電極26のB−B線断面図である。
図7に示すように、隔膜12の正極側の表面には、第1の補助電極26が全面にわたって格子状に設けられている。第1の補助電極26をこのように格子状に設けることによって、正極の酸化還元状態をより正確に測定することが可能になる。また、正極の酸化還元状態をより正確に調整することが可能になる。
【0068】
図7及び図8に示すように、隔膜12の正極側の表面には、絶縁体膜50が格子状に塗布されている。絶縁体膜50の表面には、カーボン膜52が塗布されている。カーボン膜52の表面には、多孔性膜56が被覆されている。つまり、第1の補助電極26は、隔膜12の表面に、絶縁体膜50、カーボン膜52、及び多孔性膜56が積層されて構成されている。多孔性膜56によって、カーボン膜52が第1の集電体24から電気的に絶縁されている。絶縁体膜50としては、例えば絶縁性ワニスを用いることができる。カーボン膜52としては、例えばカーボン塗料膜を用いることができる。多孔性膜56としては、例えばポリプロピレン製の多孔性膜を用いることができる。
【0069】
なお、図5図8を用いて第1の補助電極26の具体的な構成例について説明したが、第2の補助電極36についても同様に構成することができる。
【0070】
以下は、本発明の実施の電池の使用例について説明する。
まず、上記で説明したバナジウム固体塩電池を用いて、正極及び負極の酸化還元状態を測定する実験を行った。結果を図9及び図10に示す。
【0071】
図9及び図10において、横軸は充電深度(%)を示しており、縦軸は電位(V)を示している。図9は、正極及び負極の酸化還元状態が均衡している状態を示しており、図10は、正極及び負極の酸化還元状態の均衡(バランス)が崩れた状態を示している。
【0072】
図9に示すように、正常なバナジウム固体塩電池では、充電深度の上昇にともない、正極では4価のバナジウムが5価のバナジウムに変化し、負極では3価のバナジウムが2価のバナジウムに変化した。つまり、正極及び負極の酸化還元状態の均衡がとれていた。
【0073】
図10に示すように、正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れたバナジウム固体塩電池では、負極において3価のバナジウムの一部が2価に変化しなかった。このため、負極活物質の電気的エネルギーの一部を取り出すことができず、電池の蓄電容量が低下する結果となった。
【0074】
つぎに、上記で説明したバナジウム固体塩電池を用いて、正極及び負極の酸化還元状態をそれぞれ調整する実験を行った。具体的には、第2の電極(負極)と第2の補助電極との間に電圧を印加することによって、負極のみの過充電を行った。結果を図11に示す。
【0075】
図11において、横軸は時間(min)を示しており、縦軸は正負極間の電圧(V)を示している。
図11の左側のグラフに示すように、正極及び負極の酸化還元状態の均衡が崩れているバナジウム固体塩電池では、充電カット電圧2.0V、放電容量710mAhであり、十分な放電容量を得ることができなかった。
図11の右側のグラフに示すように、負極の過充電を行い、負極の酸化還元状態を調整した後のバナジウム固体塩電池では、充電カット電圧2.4V、放電容量750mAhであり、製造直後のバナジウム固体塩電池によって得られていた十分な放電容量を回復することができた。
【0076】
なお、上記の実施例では、本発明をバナジウム固体塩電池に適用した例を示したが、本発明はその他のバナジウムレドックス電池(バナジウム・レドックスフロー電池、液静止型バナジウムレドックス電池)に適用することも可能である。
【0077】
以上説明したように、本発明のバナジウムレドックス電池によれば、正極及び負極における酸化還元状態を個別に検出することが可能になる。また、正極及び負極における酸化還元状態の均衡が崩れた場合に、酸化還元状態の均衡を回復させることが可能になる。
【符号の説明】
【0078】
10、40 バナジウム固体塩電池(バナジウムレドックス電池)
12 隔膜
20 正極室
22 第1の電極
24 第1の集電体
26 第1の補助電極
30 負極室
32 第2の電極
34 第2の集電体
36 第2の補助電極
50 絶縁体膜
52 カーボン膜
54 絶縁体膜
56 多孔性膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11