特許第5979569号(P5979569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5979569
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】浅孔アンカー
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   E04B1/41 503Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-250572(P2015-250572)
(22)【出願日】2015年12月22日
【審査請求日】2016年1月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515356661
【氏名又は名称】中山 実
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】中山 実
【審査官】 西村 直史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−328667(JP,A)
【文献】 特開昭63−201226(JP,A)
【文献】 特許第4113922(JP,B2)
【文献】 登録実用新案第3136058(JP,U)
【文献】 特許第3771134(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に形成された環状溝内に嵌合される筒部と、この筒部の一端部に一体に設けられ、この筒部の一端部を閉塞する天板部と、この天板部の表面に設けられる連結部材とからなり、前記筒部が、この筒部を前記環状溝内に嵌合させてその他端部を前記環状溝の底面に当接させた状態において、前記天板部の内面と前記コンクリート構造物の上面との間に隙間を形成する長さに形成されているとともに、前記筒部の内外面と前記環状溝内壁との間に隙間を形成する厚みに形成され、前記天板部には、この天板部を貫通する空気抜き孔が形成され、かつ、前記筒部の他端部には、その端面側に開口し前記筒部の内外面側に形成される隙間間を連通させる切り欠きが、その周方向に間隔をおいて複数形成され、前記筒部の外側面には、前記環状溝の内壁に対峙させられる複数の突起がその周方向に間隔をおいて設けられていることを特徴とする浅孔アンカー。
【請求項2】
前記筒部の内外面、および、前記天板部の内面のそれぞれに、多数の線状浅溝が格子状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の浅孔アンカー。
【請求項3】
前記連結部材が、前記天板部に、外方へ向かって一体に立設されたボルトであることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の浅孔アンカー。
【請求項4】
前記天板部に貫通孔が形成されているとともに、前記天板部の内側に、前記貫通孔に連通させられた袋ナットが止着され、この袋ナットに、前記連結部材が、前記天板部の外側から螺着固定されるようになされていることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の浅孔アンカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に取り付けられる浅孔アンカーに係わり、特に、前記コンクリート構造物の施工後に取り付けられる浅孔アンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を施行した後で、このコンクリート構造物に取り付けられる浅孔アンカーとして、たとえば、特許文献1に示される技術が提案されている。
【0003】
この技術は、筒状の胴部と、この胴部の一端部を閉塞するように一体に設けられた平板部とからなる、略キャップ状のアンカー本体を備え、前記平板部に、その外方へ向かうように連結部材を突設して構成されている。
【0004】
そして、前記浅孔アンカーは、前記コンクリート構造物に、前記胴部の厚みより大きな幅を有する環状溝を穿設しておき、この環状溝内、および、この環状溝によって取り囲まれた前記コンクリート構造物表面に接着剤を充填ないしは塗布した後に、前記胴部を前記環状溝内に嵌合させるとともに、前記天板部内面を前記コンクリート構造物の表面に圧着させることによって、前記コンクリート構造物に仮止めされる。
【0005】
そして、前記接着剤の硬化によって、前記浅孔アンカーが前記コンクリート構造物に固定されるとともに、前記天板部に取り付けられた連結部材を介して、種々の設備や機器の固定に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3136058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の技術では、アンカー本体とコンクリート構造物との接合面が広く、また、胴部と環状溝との嵌合によって倒れ方向における抗力が効率よく得られることで、強固なアンカー機能を得ることができる。
【0008】
ところで、前記浅孔アンカーの固定強度を安定して得るためには、前記環状溝と前記胴部との嵌合具合を周方向おいて均一にする必要がある。
すなわち、前記環状溝の内面と前記胴部の内外面との距離すなわち隙間を周方向において均一にし、この隙間に充填される接着剤の厚みを周方向において均一にする必要がある。
【0009】
一方、接続強度を確保するための前記接着剤の必要厚みがあり、その厚みを確保するために、前記環状溝の幅を前記胴部の厚みよりも大きくしなければならない。
【0010】
しかしながら、従来技術においては、前記環状溝と前記胴部との、その径方向における相対的な位置規制のための手段がないため、前述した前記環状溝と前記胴部との隙間が周方向において不均一になりやすく、したがって、その隙間に充填される接着剤の厚みも周方向において不均一になりやすい。
【0011】
この結果、前記アンカー本体の固定強度が前記胴回りにおいて不均一となり、この固定力が低下してしまうことが想定される。
【0012】
本発明は、このような従来において残されている問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート構造物に形成された環状溝内に嵌合される筒部と、この筒部の一端部に一体に設けられ、この筒部の一端部を閉塞する天板部と、この天板部の表面に設けられる連結部材とからなる浅孔アンカーにおいて、前記胴部と前記環状溝との径方向における位置決めを容易にして、これらの間に充填される接着剤の厚みを前記胴部の周方向において均一化し、これによって、浅孔アンカーの固定強度の低下を防止することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の浅孔アンカーは、前述した課題を解決するために、コンクリート構造物に形成された環状溝内に嵌合される筒部と、この筒部の一端部に一体に設けられ、この筒部の一端部を閉塞する天板部と、この天板部の表面に設けられる連結部材とからなり、前記筒部の外側面には、その周方向に間隔をおいて複数の突起が設けられ、前記筒部の他端部には、その端面側に開口した切り欠きが、その周方向に間隔をおいて複数形成されていることを特徴とする。
【0014】
このような構成とすることにより、前記胴部を前記環状溝内に嵌合させた際に、前記胴部の外側面に設けられた複数の突起が前記環状溝の内面に近接して対峙させられる。
【0015】
これにより、前記胴部と前記環状溝との径方向における位置決めがなされるとともに、これらの間に形成される隙間が周方向において均一に保持される。
【0016】
したがって、前記隙間に充填される接着剤の厚みも周方向において均一化されて、この接着剤による固着強度が確保される。
【0017】
また、前記隙間は、前記胴部の内外面両方に形成されるが、これらの隙間が、前記切り欠きによって連通させられている。
【0018】
このように前記胴部の内外に形成される両隙間が連通させられていることにより、両隙間に充填される接着剤が、その充填時において両隙間間で自由に移動し、これによって、接着剤が前記両隙間に円滑に充填され、均一に充填される。
この点からも、前記アンカー本体の固着強度が高められる。
【0019】
一方、前記筒部の内外面、および、前記天板部の内面のそれぞれに、多数の線状浅溝を格子状に形成することが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、接着剤と前記胴部や天板部との接触面が増加するとともに、前記胴部の抜け方向に対して交差する接触面が形成されることにより、前記アンカー本体の抜け止め強度が向上する。
【0021】
また、前述した線状浅溝により、前記胴部の周方向に対して交差する接触面も形成される。
これによって、前記アンカー本体のその軸回りの回動も拘束され、この結果、前記アンカー本体の固着強度が高められる。
【0022】
また、前記連結部材は、前記天板部に、外方へ向かって一体に立設されたボルトによって構成される。
【0023】
前記ボルトは、前記天板部に溶接等の手段によって固着されて、被支持体との連結に用いられる。
【0024】
さらに、前記天板部に貫通孔が形成されているとともに、前記天板部の内側に、前記貫通孔に連通させられた袋ナットが止着され、この袋ナットに、前記連結部材が、前記天板の外側から螺着固定されるようにすることもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、アンカー本体の胴部をコンクリート構造物に形成された環状溝に嵌合させた際に、胴部の内外面と前記環状溝の内面との間に形成される隙間を均一化し、これによって、前記隙間に充填される接着剤の厚みを均一化して固定強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態を示す正面図である。
図2】本発明の第1の実施形態を示す底面図である。
図3】本発明の第1の実施形態を示す平面図である。
図4】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態を示すもので、取り付け手順を示す拡大縦断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態を示すもので、取り付け手順を示す拡大縦断面図である。
図7】本発明の第1の実施形態を示すもので、取り付け手順を示す拡大縦断面図である。
図8】本発明の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施形態について、図1ないし図7を参照して説明する。
これらの図において符号1は、本実施形態にかかる浅孔アンカーを示す。
本実施形態にかかる浅孔アンカー1は、図7に示すように、たとえばコンクリートスラブや基礎等のコンクリート構造物Cに形成された環状溝Dに嵌合させられて、これら間に充填ないしは塗布される接着剤Bによって前記コンクリート構造物Cに接着固定されて使用される。
【0028】
さらに詳述すれば、前記浅孔アンカー1は、前記環状溝D内に嵌合される筒部2aと、この筒部2aの一端部に一体に設けられ、この筒部2aの一端部を閉塞する天板部2bからなるアンカー本体2と、前記天板部2bの表面に、上方へ向けて突設された連結部材3とから構成されている。
【0029】
前記筒部2aの外側面には、その周方向に間隔をおいて複数(本実施形態においては8個)の突起4が設けられ、前記筒部2aの他端部には、その端面側に開口した切り欠き5が、その周方向に間隔をおいて複数形成されている。
【0030】
前記筒部2aの内外面、および、前記天板部2bの内面のそれぞれには、多数の線状浅溝Gが格子状に形成されており、本実施形態においては、この線状浅溝Gの断面形状がV字状となされている。
【0031】
また、前記連結部材3は、本実施形態においてはボルトが用いられており、その基部が、図4に示すように、前記天板部2bに形成された貫通孔6内に嵌合させられるとともに、溶接によって前記天板部2bに一体に固着されている。
【0032】
さらに、前記天板部2bには、この天板部2bを貫通する空気抜き孔7が、前記連結部材3を取り囲むようにして8カ所に形成されている。
【0033】
そして、前記複数の突起4は、本実施形態においては、略球殻状に形成されており、その突出端を結んで得られる仮想円の直径が、前記環状溝Dの外側の内壁の内径とほぼ等しくあるいは若干小さくなるように、その突出量が設定されている。
【0034】
また、前記筒部2aの長さは、この筒部2aの他端部(図1における下端部)を前記環状溝Dの底面に当接させた状態において、前記天板部2bの内面を、前記コンクリート構造物Cの上面から所定距離離間させる寸法に設定されている。
【0035】
このように形成された本実施形態に係わる浅孔アンカー1を前記コンクリート構造物Cに設置するには、まず、図5に示すように、前記筒部2aの開口端を前記コンクリート構造物Cに形成されている前記環状溝Dの上方に位置合わせする。
【0036】
ついで、前記アンカー本体2を前記コンクリート構造物Cへ向けて下降させて、図6に示すように、前記筒部2aを前記環状溝Dに嵌合させるとともに、前記筒部2aの開口端を前記環状溝Dの底部に当接させる。
【0037】
このように、前記筒部2aを前記環状溝Dに嵌合させる際に、前記筒部2aの外面が、前記突起4の突出量の分、前記環状溝Dの内面より後退させられていることにより、嵌合初期の段階において、前記筒部2aと前記環状溝Dの内面との間に十分な距離が形成される。
これによって、前記アンカー本体2にある程度の倒れが生じても、前記筒部2aと前記環状溝Dの内面との接触が防止されて円滑な嵌合操作が可能となる。
【0038】
前述した嵌合を進めると、前記各突起4が前記環状溝Dの開放端縁に当接させられるが、これらを同時に前記開放端縁に接触させた後に、さらに嵌合を進めると、前述したように、前記各突起4が球殻状に形成されていることにより、これらの各突起4が円滑に前記環状溝D内に入り込む。
【0039】
そして、前記筒部2aの下端部を前記環状溝Dの底面に当接させて嵌合を終了する。
【0040】
このような嵌合操作を終えた状態において、前記各突起4が前記環状溝Dの外側の内面に対して至近距離で対峙される。
これによって、前記筒部2aと前記環状溝Dとが、径方向および嵌合方向において位置決めされる。
【0041】
この結果、前記環状溝Dの両内面と前記筒部2aとの間に、この筒部2a回りに均一な隙間S1・S2が形成されるとともに、前記天板部2bの内面と前記コンクリート構造物Cの上面との間に所定の隙間S3が形成される。
【0042】
そして、前記筒部2aの内外に形成される隙間S1と隙間S2とは、図6に示すように、前記筒部2aに形成されている複数の切り欠き5によって連通させられている。
【0043】
これより、前記各隙間S1・S2・S3内に、図7に示すように接着剤Bを充填して固化させることにより、本実施形態の浅孔アンカー1が前記コンクリート構造物Cに固定される。
【0044】
ここで、前記各隙間S1・S2・S3が均一に形成されていることから、充填される接着剤Bの厚みも均一化され、したがって、固化後に生じる固着力も前記筒部2a回りにおいて均一なものとなり、前記浅孔アンカー1の固着強度が十分に確保される。
【0045】
また、前記切り欠き5の存在により、前記各隙間S1・S2・S3が連続させられていることから、充填される接着剤Bの良好な流動が確保される。
この結果、接着剤Bの充填効率が高められ、この点からも、接着剤が均一に充填される。
【0046】
また、本実施形態においては、前記天板部2bに空気抜き孔7が形成されていることから、前記接着剤Bを前記環状溝D側から充填した場合、充填方向の前方の空気が円滑に排出されることから、充填が円滑に行なわれる。
【0047】
このように接着剤Bの充填がなされると、この接着剤Bは、前記線状浅溝Gにも入り込み、また、前述したように、前記切り欠き5にも入り込む。
さらに、前記接着剤Bによって前記複数の突起4が取り囲まれる。
【0048】
したがって、充填された接着剤Bによって、前記アンカー本体2の引き抜き方向および周方向の全方向において引っ掛かりが形成される。
この点からも、前記浅孔アンカー1の固着強度が高められる。
【0049】
一方、前述した接着剤Bを、前記アンカー本体2を前記環状溝Dに嵌合した後に充填する例について示したが、前記アンカー本体2を嵌合する前に、前記環状溝D内やその内側の前記コンクリート構造物Cの上面に充填ないしは塗布しておくことも可能である。
【0050】
図8は、本発明の第2の実施形態を示すもので、前記天板部2bに貫通孔8を形成するとともに、前記天板部2bの内側に、前記貫通孔8に連通させられた袋ナット9を止着し、この袋ナット9に前記連結部材3を前記天板部2bの外側から螺着固定するようにしたものである。
【0051】
なお、前記各実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 浅孔アンカー
2 アンカー本体
2a 筒部
2b 天板部
3 連結部材
4 突起
5 切り欠き
6 貫通孔
7 空気抜き孔
8 貫通孔
9 袋ナット
B 接着剤
C コンクリート構造物
D 環状溝
G 線状浅溝
S1 隙間
S2 隙間
S3 隙間

【要約】
【課題】コンクリート構造物に形成された環状溝内に嵌合される筒部と、この筒部の一端部に一体に設けられ、この筒部の一端部を閉塞する天板部と、この天板部の表面に設けられる連結部材とからなる浅孔アンカーにおいて、前記胴部と前記環状溝との径方向における位置決めを容易にして、これらの間に充填される接着剤の厚みを前記胴部の周方向において均一化し、これによって、浅孔アンカーの固定強度の低下を防止する。
【解決手段】コンクリート構造物Cに形成された環状溝D内に嵌合される筒部2aと、この筒部の一端部に一体に設けられ、この筒部の一端部を閉塞する天板部2bと、この天板部の表面に設けられる連結部材3とからなり、前記筒部の外側面には、その周方向に間隔をおいて複数の突起4が設けられ、前記筒部の他端部には、その端面側に開口した切り欠き5が、その周方向に間隔をおいて複数形成されていることを特徴とする。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8