(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979577
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】抗インフルエンザウイルス用粒子および該粒子を含有する抗インフルエンザウイルス用製品
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20160817BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20160817BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20160817BHJP
C08L 101/08 20060101ALI20160817BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20160817BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160817BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20160817BHJP
A01N 37/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01P1/00
C08F8/30
C08L101/08
C09D201/00
C09D7/12
C09D5/14
A01N37/00
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-10795(P2012-10795)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-147473(P2013-147473A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小見山 拓三
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−237126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.5〜12mmol/gのH型カルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体からなり、インフルエンザウイルスに対する不活化率が90%以上であることを特徴とする抗インフルエンザウイルス用粒子。
【請求項2】
ビニル系重合体が、ビニル基を2以上有する化合物を共重合成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子を樹脂により固着させたことを特徴とする抗インフルエンザウイルス用製品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子を練り込んだことを特徴とする抗インフルエンザウイルス用繊維。
【請求項5】
請求項1または2に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス用スプレー。
【請求項6】
請求項1または2に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス用塗料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の抗インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス性能を有する粒子および該粒子を付与して得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は、ウイルス感染者から放出されたウイルスを含む飛沫(くしゃみ等)に直接接触する場合のみならず、ウイルス感染者が触れた衣服やタオルなどに接触(間接接触)することによっても生じる。例えばウイルス感染を防止する手段として一般的にマスクが使用されているが、使用時間が長くなると、マスクのフィルター部にウイルスが濃縮された状態となるため、マスクの脱着時にマスク本体に触れるとウイルスが手に付着し、その手でタオルや衣服に触れることによって、ウイルスがタオルや衣服に付着する。そして、第三者が該ウイルス付着箇所に触れると、手にウイルスが付着し、二次感染を引き起こす。
【0003】
こうした問題に鑑み、ウイルスを撲滅するあるいはウイルスの増殖を抑制する技術が各種提案されている。例えば、銀を利用するもの(特許文献1、2)、4級アンモニウムを利用するもの(特許文献3、4)、金属ピリチオンを利用するもの(特許文献5、6)などを挙げることができる。
【0004】
一方、従来からカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体粒子については検討が進められてきており、高吸放湿性(特許文献7)やpH緩衝性(特許文献8)などの機能を発現させることができることなどが知られている。しかし、これらの重合体粒子について、抗ウイルス性能があることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/083171号パンフレット
【特許文献2】特開平11−19238号公報
【特許文献3】特開2008−115506号公報
【特許文献4】特開2001−303372号公報
【特許文献5】特開2006−9232号公報
【特許文献6】特開2005−281951号公報
【特許文献7】特開2001−11320号公報
【特許文献8】特開平10−237126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は抗ウイルス性能を有するビニル系重合体粒子および該粒子を含有する抗ウイルス性能を有する製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、高吸放湿性、pH緩衝性などの機能を有することが知られているカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体粒子がウイルスを不活性化する機能を有することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)
2.5〜12mmol/gのH型カルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体からな
り、インフルエンザウイルスに対する不活化率が90%以上であることを特徴とする抗
インフルエンザウイルス用粒子。
(2) ビニル系重合体が、ビニル基を2以上有する化合物を
共重合成分とするものであることを特徴とする(1)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子。
(
3) (1)
または(2)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子を樹脂により固着させたことを特徴とする抗
インフルエンザウイルス
用製品。
(
4) (1)
または(2)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子を練り込んだことを特徴とする抗
インフルエンザウイルス
用繊維。
(
5) (1)
または(2)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗
インフルエンザウイルス
用スプレー。
(
6) (1)
または(2)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗
インフルエンザウイルス
用塗料。
(
7) (1)
または(2)に記載の抗
インフルエンザウイルス用粒子を含有することを特徴とする抗
インフルエンザウイルス
用製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗ウイルス用粒子は、ウイルスを効率よく不活性化することができる。また、乾燥粉末状、水分散エマルジョン状、有機溶媒分散体状などの形態を取れるため、さまざまな用途、分野の製品に容易に適用でき、抗ウイルス性能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抗ウイルス用粒子はビニル系重合体からなるものであるが、該ビニル系重合体はH型カルボキシル基および架橋構造を有していることが必要である。本発明において、H型カルボキシル基はウイルスを除去する機能を発現させる要因となっていると考えられる。カルボキシル基の型としては、H型であることが重要であるが、金属塩型カルボキシル基が共存していてもよい。また、架橋構造は、カルボキシル基による重合体の親水性を抑制するのに有効である。重合体の親水性が高まれば、吸水して膨潤したり、溶出したりして形状を維持できなくなり、用途展開するうえで大きな支障となりうる。
【0011】
ビニル系重合体へのH型カルボキシル基の導入の方法としては、特に限定は無く、例えばH型カルボキシル基を有する単量体を単独重合又は共重合可能な他の単量体と共重合することによって重合体を得る方法、化学変性によりH型カルボキシル基を導入する方法、あるいはグラフト重合によりH型カルボキシル基を導入する方法等が挙げられる。
【0012】
H型カルボキシル基を有する単量体を重合してH型カルボキシル基を導入する方法としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボキシル基を含有するビニル系単量体の単独重合、あるいは2種以上の該単量体からなる共重合、あるいは、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合により、共重合体を得る方法が挙げられる。
【0013】
化学変性によりH型カルボキシル基を導入する方法としては、例えば化学変性処理すればカルボキシル基を得られるような官能基を有する単量体よりなる重合体を得た後に、加水分解によって塩型またはH型カルボキシル基に変性し、塩型カルボキシル基の場合にはイオン交換樹脂等でH型カルボキシル基に変換する方法が挙げられる。このような方法をとることのできる単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等の誘導体などが挙げられ、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等のエステル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、ノルマル−t−ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。
【0014】
このほかにも、二重結合、ハロゲン基、水酸基、アルデヒド基等の酸化可能な極性基を有する重合体に酸化反応によりH型カルボキシル基を導入する方法も用いることができる。この酸化反応については、通常用いられる酸化反応を用いることができる。
【0015】
上述のようにしてビニル系重合体にH型カルボキシル基を導入することができるが、該ビニル系重合体においては上記の単量体だけでなく、これらと共重合可能な他の単量体を共重合してもよい。例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のビニリデン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸およびこれらの塩類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メチルイソブテニルケトン、メチルイソプロペニルケトン等の不飽和ケトン類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ジクロロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、モノフルオロ酢酸ビニル、ジフルオロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリルアミドおよびそのアルキル置換体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ビニルステアリン酸、ビニルスルフィン酸等のビニル基含有酸化合物、またはその塩、その無水物、その誘導体等;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレンおよびそのアルキルまたはハロゲン置換体;アリルアルコールおよびそのエステルまたはエーテル類;N一ビニルフタルイミド、N一ビニルサクシノイミド等のビニルイミド類;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N一ビニルピロリドン、N一ビニルカルバゾール、ビニルピリジン類等の塩基性ビニル化合物;アクロレイン、メタクリロレイン等の不飽和アルデヒド類;グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができる。
【0016】
導入するH型カルボキシル基の量としては、実用上効果があるレベルとするため、抗ウイルス用粒子に対して、0.5mmol/g以上、好ましくは2mmol/g以上、より好ましくは3mmol/g以上とするのが望ましい。一方、粒子の膨潤や形状維持の観点から、H型カルボキシル基量は12mmol/g以下、好ましくは10mmol/g以下、より好ましくは8mmol/g以下であることが望ましい。
【0017】
また、本発明に採用する架橋構造は特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。架橋構造を導入する量としては、上述したH型カルボキシル基量および最終的に得られる抗ウイルス用粒子に必要なその他の特性を勘案して決定すればよい。すなわち、高い抗ウイルス用性能が必要であれば、架橋構造を少なくし、できるだけ多くのH型カルボキシル基を導入することが望ましいし、形態安定性が求められるならば、架橋構造を多くすることが望ましい。
【0018】
また、架橋構造を導入する方法においても、特に限定はなく、骨格となる重合体の重合段階における架橋性単量体による架橋、重合体を得た後での後架橋、物理的なエネルギーによる架橋構造の導入など、一般に用いられる方法によることができる。特に、骨格となる重合体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、および重合体を得た後の後架橋による方法では、共有結合による強固な架橋を導入することが可能である。
【0019】
例えば、架橋性単量体を用いる方法では、既述の架橋性ビニル化合物を、カルボキシル基を有する、あるいはカルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体と共重合することにより共有結合に基づく架橋構造を導入することができる。なお、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体を採用する場合には、架橋構造導入後に加水分解処理などによってカルボキシル基への変性を行うことになるので、かかる処理において損なわれることのない架橋構造を導入できる架橋性単量体を採用することが望ましい。
【0020】
このような方法により導入される架橋構造としては、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物により誘導されたものを挙げることができ、なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、カルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0021】
具体的な例としては、架橋性単量体としてジビニルベンゼン、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体としてアクリロニトリルを採用する例が挙げられる。共重合組成については、最終的に得られる抗ウイルス用粒子に求められる抗ウイルス性能、すなわち、上述したH型カルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよく、例えば、ジビニルベンゼンを10重量%以上、アクリロニトリルを50重量%以上使用する例が挙げられる。
【0022】
また、後架橋による方法としても特に限定はなく、例えば、ニトリル基を有するビニルモノマーを共重合させたニトリル系重合体の含有するニトリル基と、ヒドラジン系化合物またはホルムアルデヒドを反応させる後架橋法を挙げることができる。なかでもヒドラジン系化合物による方法は酸、アルカリに対しても安定であり、好ましく採用できる。なお、該方法により得られる架橋構造に関しては、その詳細は同定されていないが、トリアゾール環あるいはテトラゾール環構造に基づくものと推定されている。
【0023】
ここでいうニトリル基を有するビニルモノマーとしては、ニトリル基を有する限りにおいては特に限定はなく、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、コスト的に有利であり、また、単位重量あたりのニトリル基量が多いアクリロニトリルが最も好ましい。
【0024】
後架橋による方法の具体的な例としては、アクリロニトリル系重合体とヒドラジン系化合物との反応により架橋構造を導入する例が挙げられる。かかる例においては、アクリロニトリル系重合体の共重合組成については、最終的に得られる抗ウイルス用粒子に求められる抗ウイルス性能、すなわち、上述したH型カルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよいが、アクリロニトリル50重量%以上を採用することが望ましい。また、架橋構造の導入量に関わるヒドラジン系化合物との反応条件については、アクリロニトリル系重合体をヒドラジン系化合物濃度が5〜60重量%の水溶液中で、50〜150℃、5時間以内で処理する条件などを挙げることができる。
【0025】
なお、ここに使用するヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネイト等のヒドラジンの塩類、およびエチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のヒドラジン誘導体を例示することができる。
【0026】
次に、加水分解反応によりH型カルボキシル基を導入する方法については、既知の加水分解条件を利用することができる。例えば、上述のようにして得られた架橋構造を有するニトリル系重合体に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア等の塩基性水溶液、或いは硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸または、蟻酸、酢酸等の有機酸を添加し、加熱処理する手段等が挙げられる。なお、前記の架橋導入と同時に加水分解反応を行うこともできる。
【0027】
また、本発明の抗ウイルス用粒子の形態は、乾燥粉末状、水分散エマルジョン状、有機溶媒分散状など用途に応じて任意に選定できる。粒子径が5μm以下の場合、取り扱いおよび安定性の点から、水に分散したエマルジョン状のものが有利である。
【0028】
本発明において採用する重合方法としては、特に限定はないが、懸濁重合や乳化重合などを挙げることができる。上述したアクリロニトリルを用いたニトリル系重合体の場合、重合体自体の凝集力が強いため乳化重合が難しい場合があるが、重合温度100℃以上の高温高圧下での乳化重合を行うことにより良好なエマルジョンを得ることができる。
【0029】
また、本発明の抗ウイルス用粒子は、これをさまざまな製品に含有させることにより、その用途がより広範となる。例えば、繊維、紙、不織布、織物、編み物、シート、発泡体などに含有させた場合、気体との接触面積が大きく、かつ形態保持性が優れていることより、抗ウイルス用製品として有用なものが得られる。
【0030】
本発明の抗ウイルス用粒子を含有させる方法としては、特に制限はなく、さまざまな方法を採用することができる。例えば、該粒子を繊維、紙、不織布、織物、編み物、シート、発泡体等に対して、製造過程で混入する方法やバインダーとともに塗布する方法が挙げられ、エマルジョン状であれば、そのまま含浸、塗布する方法も可能である。また本発明の抗ウイルス用粒子は塗料に混ぜて用いたり、スプレーに添加することもできる。
【0031】
また、繊維の場合には、紡糸原液に本発明の抗ウイルス用粒子を添加して含有させる、いわゆる繊維に練り込む方法を採用することができる。樹脂成形体の場合には樹脂組成物に本発明の抗ウイルス用粒子を添加して含有させ、成形加工する方法を採ることができる。
【0032】
上記繊維として制限は無いが、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート繊維等が挙げられる。
【0033】
上記バインダーとして使用できるものとしては特に限定はされず、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリメタクリレート樹脂系、ポリビニルアルコール系バインダー等を例示することができる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。
【0035】
<抗ウイルス性能の評価>
抗ウイルス性能はインフルエンザウイルスA(H1N1)PR8株を用いた50%感染価法[TCID
50]で評価した。乾燥試料10mgに対してウイルス液を10mLを加え、28℃に維持しながら1時間振盪した後、遠心分離処理(3000rpm、30分間)する。遠心分離処理後、上澄液を10倍段階希釈し、Madin−Darby Canine Kidney細胞(MDCK細胞)を用いてTCID
50(50%感染価)を測定し、ウイルス感染価log
10(TCID
50/mL)を算出した。また、ブランクに関しては、試料を用いず上記と同様の操作を行い、ウイルス感染価を算出した。得られたウイルス感染価を用いて、下記式より、ウイルスの不活性化率を算出した。
ウイルス不活性化率(%)=100×(10
ブランクのウイルス感染価−10
試料のウイルス感染価)/(10
ブランクのウイルス感染価)
【0036】
<H型カルボキシル基量の測定>
純水100mlに固形分(A[%])のエマルジョン状の抗ウイルス用粒子(B[g])を加え、スターラーで攪拌しながら0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からH型カルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(C[ml])を求め、次式によってカルボキシル基量を算出した。
H型カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×C/(B×A×0.01)
【0037】
<実施例1〜
3、比較例1〜2>
アクリロニトリル58%、アクリル酸メチル9%、ジビニルベンゼン30%、及びp−スチレンスルホン酸ナトリウム3%からなるモノマー混合物30部を、モノマー比で1.2%の過硫酸アンモニウムを含む水溶液70部に添加し、攪拌機つきの重合槽に仕込んだ後に135℃、25分間重合した。得られた重合体エマルジョン90部に40%水酸化ナトリウム水溶液10部を加え、95℃で加水分解を行った。この時の反応時間を調整することで抗ウイルス用粒子のカルボキシル基量を調整した。得られたエマルジョンを陽イオン交換樹脂によりpH2.5に調整することでカルボキシル基をH型とし、エマルジョン状の抗ウイルス用粒子を得た。このエマルジョンを120℃の乾燥機で3時間乾燥させて得られた抗ウイルス用粒子10mgを用いて抗ウイルス性能を評価した結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1からH型カルボキシル基量が増えるにつれてウイルス不活性化率が向上していることが分かる。医療分野のように高度の抗ウイルス性能が求められる分野においては、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上のウイルス不活性化率が求められるが、実施例1〜3の抗ウイルス用粒子はかかる分野に対しても十分利用できるような優れた抗ウイルス性能を示すものである。