特許第5979586号(P5979586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979586
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】ボックスカルバート
(51)【国際特許分類】
   E03F 3/04 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   E03F3/04 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-105566(P2012-105566)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234430(P2013-234430A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】米澤 健次
(72)【発明者】
【氏名】江尻 譲嗣
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−332683(JP,A)
【文献】 特公昭48−011135(JP,B1)
【文献】 特開平11−021984(JP,A)
【文献】 特開平09−021299(JP,A)
【文献】 特開平09−060493(JP,A)
【文献】 米国特許第04685829(US,A)
【文献】 特開2011−202471(JP,A)
【文献】 特開平09−125740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03B 7/02−23/09
E03F 1/00−11/00
E21D 11/00−19/06、23/00−23/26
E02D 29/00−37/00
E04B 1/00−1/36
E04H 1/20−9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版、該底版の両側方縁部からそれぞれ立設された一対の側壁、該一対の側壁の間に前記底版から立設された中壁及び前記一対の側壁の頂部と前記中壁の頂部に接合された頂版とで構成された鉄筋コンクリート製のボックスカルバートにおいて、
前記中壁を、単一壁と該単一壁の上方又は下方に配置された集合壁とで構成するとともに、該集合壁を、壁厚方向に沿って配置された複数の薄壁で構成したことを特徴とするボックスカルバート。
【請求項2】
前記各薄壁を、それらの壁厚の合計が前記単一壁の壁厚とほぼ同等になるように形成した請求項1記載のボックスカルバート。
【請求項3】
前記薄壁を、前記単一壁を構成する鉄筋よりも高い強度の鉄筋を用いて構成した請求項1又は請求項2記載のボックスカルバート。
【請求項4】
前記薄壁を、前記単一壁を構成するコンクリートよりも高い強度のコンクリートを用いて構成した請求項3記載のボックスカルバート。
【請求項5】
前記集合壁を前記単一壁の上方と下方にそれぞれ配置するとともに、該集合壁のうち、前記単一壁の上方に配置された集合壁の頂部を前記頂版に、前記単一壁の下方に配置された集合壁の脚部を前記底版にそれぞれ接合した請求項1乃至請求項4のいずれか一記載のボックスカルバート。
【請求項6】
前記各集合壁の高さを、それぞれ前記中壁の高さの1/10〜1/3とした請求項5記載のボックスカルバート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路等に供されるボックスカルバートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市下水道、都市内共同溝、地下横断歩道、鉄道・道路の盛土部分の横断用通路あるいは水路、工場等の地下施設として、盛土や地盤内に地中構造物を構築することが頻繁に行われているが、かかる地中構造物として鉄筋コンクリート製のボックスカルバートが広く活用されている。
【0003】
ボックスカルバートは、底版の両側方縁部からそれぞれ一対の側壁を立設するとともに該側壁の頂部に頂版を接合して構成され、設計の際には、鉛直土圧、水平土圧、カルバート上方に作用する活荷重あるいはカルバート内の活荷重、地盤反力などが設計荷重として考慮される。
【0004】
ボックスカルバートのうち、一対の側壁の間に中壁を設けた連設タイプのボックスカルバート(以下、特に連設カルバートと呼ぶ)、例えば2ボックスカルバートは、鉛直土圧の一部を中壁に支持させることにより、頂版や底版の断面力を小さくすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−21299号公報
【特許文献2】特開平11−21984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連設カルバートにおける中壁は、上述したように鉛直荷重を軸力として支持するためのものであるため、その意味において曲げ抵抗を持たせる必要はない。
【0007】
しかしながら、例えば2ボックスカルバートを水路として用いる場合、2つの内部空間のうち、一方をドライにして保守点検する際に、他方の内部空間に満たされた水による静水圧あるいは動水圧が中壁に作用するため、これらの水圧を支持できるように鉄筋量を定めて該中壁に配筋しなければならず、結果として中壁に曲げ抵抗を持たせることになる。
【0008】
そのため、地震時においては、そのときの強制変形によって中壁の配筋量に応じたせん断力が該中壁に生じることとなり、せん断力を負担する必要がなかったはずの中壁にせん断補強筋を配筋せねばならなくなるとともに、その際、中壁がせん断破壊して鉛直荷重支持機能が喪失することがないように十分な量のせん断補強筋を配筋する必要があるという問題を生じていた。
【0009】
また、地震時には、そのときの強制変形によってせん断力のほかに曲げモーメントが生じるが、該曲げモーメントは底版や頂版あるいは側壁に伝達して該底版等の部材力を増加させるため、これら底版等の配筋量も増やさねばならないという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、中壁の鉛直荷重支持機能を保持しつつ、該中壁に作用する水圧に対する曲げ耐力を有し、さらに地震時強制変形を受けたときの作用せん断力を低減することが可能なボックスカルバートを提供することを目的とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るボックスカルバートは請求項1に記載したように、底版、該底版の両側方縁部からそれぞれ立設された一対の側壁、該一対の側壁の間に前記底版から立設された中壁及び前記一対の側壁の頂部と前記中壁の頂部に接合された頂版とで構成された鉄筋コンクリート製のボックスカルバートにおいて、
前記中壁を、単一壁と該単一壁の上方又は下方に配置された集合壁とで構成するとともに、該集合壁を、壁厚方向に沿って配置された複数の薄壁で構成したものである。
【0012】
また、本発明に係るボックスカルバートは、前記各薄壁を、それらの壁厚の合計が前記単一壁の壁厚とほぼ同等になるように形成したものである。
【0013】
また、本発明に係るボックスカルバートは、前記薄壁を、前記単一壁を構成する鉄筋よりも高い強度の鉄筋を用いて構成したものである。
【0014】
また、本発明に係るボックスカルバートは、前記薄壁を、前記単一壁を構成するコンクリートよりも高い強度のコンクリートを用いて構成したものである。
【0015】
また、本発明に係るボックスカルバートは、前記集合壁を前記単一壁の上方と下方にそれぞれ配置するとともに、該集合壁のうち、前記単一壁の上方に配置された集合壁の頂部を前記頂版に、前記単一壁の下方に配置された集合壁の脚部を前記底版にそれぞれ接合したものである。
【0016】
また、本発明に係るボックスカルバートは、前記各集合壁の高さを、それぞれ前記中壁の高さの1/10〜1/3としたものである。
【0017】
本発明に係るボックスカルバートにおいては、中壁を、単一壁と該単一壁の上方又は下方に配置された集合壁とで構成するとともに、該集合壁を、壁厚方向に沿って配置された複数の薄壁で構成する。
【0018】
このようにすると、集合壁で形成された高さ区間では、単一壁で形成された高さ区間より曲げ剛性が大幅に小さくなるため、周辺地盤からボックスカルバートに地震時強制変形が作用したとき、該地震時強制変形によって中壁に生じる相対水平変位は、主として集合壁の曲げ変形によって吸収されるとともに、曲げ剛性が小さい分、集合壁に生じるせん断力と曲げモーメントがいずれも大幅に小さくなる。
【0019】
一方、中壁への水平設計荷重、例えば内部空間に満たされた水による静水圧あるいは動水圧に対しては、単一壁あるいは中壁の高さに対する集合壁の高さを適宜設定することにより、集合壁の薄壁に生じる曲げモーメントの大きさが過大にならないよう、抑制することができる。
【0020】
そのため、中壁への水平設計荷重に対しては、全区間を単一壁で構成した従来の中壁と同程度のせん断耐力及び曲げ耐力を保有しつつ、地震時の強制変形に対しては、発生せん断力の大きさを、全区間を単一壁で構成した従来の中壁に生じるせん断力よりも大幅に低減することが可能となる。
【0021】
本発明に係るボックスカルバートは、中壁で仕切られた各内部空間が取水路、放水路などの水路として供されるものを主として対象とするが、水路以外の用途に供される場合であっても、中壁に作用する水平荷重を設計上考慮する必要があるのであれば、どのようなボックスカルバートにも本発明を適用することが可能であり、例えば水路として利用しない場合であっても、災害時に放水路として一時利用され、あるいは不測の事態によって雨水の流入が懸念される場合には、水路に準じて本発明を適用することが可能である。
【0022】
集合壁は、外力を支持することができる限り、該集合壁を構成する薄壁の壁厚をどのように設定するかは任意であって、合計の壁厚を単一壁の壁厚と同等にする、合計の壁厚を単一壁の壁厚よりも薄くする、あるいは逆に合計の壁厚を単一壁の壁厚よりも厚くするといった構成が可能であるが、各薄壁を、それらの壁厚の合計が単一壁の壁厚とほぼ同等になるように形成したならば、集合壁として構成される高さ区間であるか、単一壁として構成される高さ区間であるかにかかわらず、中壁を全区間で同一壁厚とすることが可能となり、効率的な施工が可能となる。
【0023】
集合壁は、公知のコンクリート打設方法を用いて適宜構成することが可能であって、例えば、底版から頂版に至る高さにわたって一対の堰板を互いに平行に立設するとともに、該堰板に挟まれた空間のうち、底版近傍箇所と頂版近傍箇所に発泡スチロール等で形成された埋設板を必要枚数建て込み、次いで、堰板と埋設板に挟まれた空間あるいは埋設板同士に挟まれた空間に鉄筋を適宜配置した上、一対の堰板間にコンクリートを打設することで、単一壁と一体的に構築することができる。
【0024】
このような施工方法においては、堰板と埋設板に挟まれた空間、あるいは埋設板同士に挟まれた空間がそれぞれ薄壁となる。
【0025】
薄壁を構成するための鉄筋やコンクリートの種類は任意であるが、薄壁の枚数増加に伴って該各薄壁が負担すべき部材力は減少するものの、一枚あたりの鉄筋総断面積や応力中心距離も小さくなるため、それらの兼ね合いによっては、鉄筋比などの仕様を単一壁と同じにすることが難しくなる場合がある。また、単一壁と同じ仕様で構成することができる場合であっても、薄壁の枚数を減らし、あるいは合計壁厚を小さくしたい場合もある。
【0026】
かかる場合においては、薄壁を、単一壁を構成する鉄筋よりも高い強度の鉄筋を用いて構成し、場合によってはさらに、単一壁を構成するコンクリートよりも高い強度のコンクリートを用いて構成するようにすればよい。
【0027】
集合壁は、単一壁の上方のみ、単一壁の下方のみ又は上下に配置された単一壁に挟み込まれるように配置する構成のほか、集合壁を単一壁の上方と下方にそれぞれ配置するとともに、該集合壁のうち、単一壁の上方に配置された集合壁の頂部を頂版に、単一壁の下方に配置された集合壁の脚部を底版にそれぞれ接合した構成とすることが可能である。
【0028】
かかる構成において、単一壁あるいは中壁の高さに対する各集合壁の高さをどのように設定するかは任意であるが、例えば各集合壁の高さを、それぞれ中壁の高さの1/10〜1/3、特に概ね1/5程度とした構成とすることができる。
【0029】
このような範囲が望ましいのは、1/10未満であると、地震時強制変形を集合壁に吸収することが難しくなり、1/3を超えると、動水圧等の水平荷重に対する中壁の曲げ強度が不足するからである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本実施形態に係るボックスカルバート1の断面図であり、(a)は全体断面図、(b)は中壁5の詳細断面図。
図2】本実施形態に係るボックスカルバート1の作用を示した説明図。
図3】本実施形態に係るボックスカルバート1において中壁5に水平荷重が作用するときの状態を検証する場合の説明図であり、(a)はそのときの様子を示した断面図、(b)はモデル図、(c)は発生部材力の分布図。
図4】本実施形態に係るボックスカルバート1において地震時強制変形が作用するときの状態を検証する場合の説明図であり、(a)はそのときの様子を示した断面図、(b)はモデル図、(c)は発生部材力の分布図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るボックスカルバートの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
図1は、本実施形態に係るボックスカルバートを示した図である。同図に示すように、本実施形態に係るボックスカルバート1は、地盤2に埋設された鉄筋コンクリート製の連設カルバートであって、底版3と、該底版の両側方縁部からそれぞれ立設された一対の側壁4,4と、該一対の側壁の間に底版3から立設された中壁5と、一対の側壁4,4及び中壁5の各頂部に接合された頂版6とで構成してある。
【0033】
ボックスカルバート1内には、中壁5によって2つの中空空間7,7が形成されており、それぞれ放水路、取水路といった水路に供される。
【0034】
中壁5は図1(b)でよくわかるように、高さHからなる全区間のうち、底版3側に位置する高さhの下方区間に配置された集合壁11aと、頂版6側に位置する同じく高さhの上方区間に配置された集合壁11bと、それらの間に位置する高さ(H−2h)の中央区間に配置された単一壁8とで構成してあるとともに、集合壁11aの脚部を底版3に、集合壁11bの頂部を頂版6にそれぞれ接合してある。
【0035】
集合壁11a,11bは、3枚の薄壁10を壁厚方向に沿って配置してそれぞれ構成してあるとともに、各薄壁10は、それらの壁厚D2の合計が、単一壁8の壁厚D1とほぼ同じになるように形成してある。
【0036】
各薄壁10の間には、発泡スチロール等の埋設板からなるスリット9を設けてあり、該スリットによって鉛直方向に沿った荷重伝達が薄壁10,10間で実質的に行われないようになっている。なお、単一壁8及び薄壁10のそれぞれの壁厚に関する上述の記載においては、スリット9の厚みが薄壁10の厚みに対して十分小さいため、該スリットの厚みは無視した。
【0037】
集合壁11a,11bを形成するには、ボックスカルバート1を工場で製作し又は現場で構築するにあたって、例えば底版3から頂版6に至る高さ、図1(b)では高さHにわたり、一対の堰板を、それらの内法寸法が距離D1となるように互いに平行に離間配置するとともに、該堰板に挟まれた空間のうち、底版3の近傍箇所、すなわち高さhの下方区間と頂版6の近傍箇所、すなわち高さhの上方区間に発泡スチロール等で形成された埋設板を2枚ずつ建て込み、次いで、堰板と埋設板に挟まれた2つの空間と埋設板同士に挟まれた空間、計3つの空間に鉄筋を適宜配置した上、一対の堰板に挟まれた空間にコンクリートを打設することで、3枚の薄壁10からなる集合壁11a,11bを単一壁8と一体的に形成する。
【0038】
本実施形態に係るボックスカルバート1においては、中壁5を、単一壁8と該単一壁の上方及び下方にそれぞれ配置された集合壁11a,11bとで構成するとともに、該各集合壁を、壁厚方向に沿って配置された3枚の薄壁10でそれぞれ構成するとともに、該各薄壁を、それらの壁厚D2の合計が、単一壁8の壁厚D1とほぼ同じになるようにそれぞれ形成してある。
【0039】
このようにすると、中壁5のうち、集合壁11a,11bで形成された高さhの上方区間及び下方区間では、単一壁8で形成された高さ(H−2h)の中央区間よりも曲げ剛性が大幅に小さくなる。
【0040】
そのため、図2(a)に示すように、周辺の地盤2からボックスカルバート1に地震時強制変形δが作用したとき、該地震時強制変形によって中壁5に生じる相対水平変位は、主として集合壁11a,11bの曲げ変形によって吸収されるとともに、曲げ剛性が小さい分、集合壁11a,11bに生じるせん断力と曲げモーメントがいずれも大幅に小さくなる。
【0041】
一方、図2(b)に示すように、ボックスカルバート1内の2つの内部空間7,7のうち、左側をドライにして保守点検する際、右側の内部空間7に満たされた水21による動水圧が中壁5に作用するが、かかる動水圧に対しては、単一壁8の高さ(H−2h)に対する集合壁11a,11bの高さhの比率を適宜調整することにより、集合壁11a,11bを構成する薄壁10に生じる曲げモーメントの大きさが過大にならないように抑制することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係るボックスカルバート1を、簡易モデルによって従来のボックスカルバートと比較検証したので、以下にその内容を説明する。
【0043】
最初に、ボックスカルバート1の中壁5に水平荷重が作用する場合において、該中壁の集合壁11a,11bに要求される性能を調べる。
【0044】
図3(a)は、図2(b)と同様、ボックスカルバート1内の2つの内部空間7,7のうち、左側をドライにして保守点検する際、右側の内部空間7に満たされた水21の地震時の慣性力が分布荷重wとして中壁5に作用している状況を示した図、図3(b)はそのモデル図、図3(c)は、発生部材力の分布図である。モデル化にあたっては、単一壁8を剛体、集合壁11a,11bを構成する3枚の薄壁10をそれぞれ3本の梁とした。
【0045】
まず、高さHにわたる全区間が単一壁8で構成されている従来の中壁において、上記と同様の分布荷重wが作用する場合の該中壁の上下端に生じるせん断力と曲げモーメントは、両端固定の梁理論から、
従来の中壁の上下端に生じるせん断力 ;wH/2
従来の中壁の上下端に生じる曲げモーメント;wH2/12
と表すことができるので、従来の中壁における曲げ耐力(降伏曲げモーメント)をMyとすると、そのときのせん断力は、
従来の中壁の曲げ耐力に対応するせん断力;6・My/H (1)
となる。
【0046】
一方、薄壁10の上下端にそれぞれ生じる曲げモーメントをm1、薄壁10の枚数を一般化してN枚(本実施形態では3枚)とすると、集合壁11aに生じるせん断力は、薄壁10の高さがhであることから、
N・(2m1/h) (2)
となる。なお、薄壁10が配置された高さ区間hでは、曲げモーメントが直線的に変化すると考え、簡略化のためにせん断力は一定であるとした。
【0047】
(1)式及び(2)式が等しいとおくと、曲げモーメントm1は、
1=(3/N)・(h/H)・My (3)
となる。なお、集合壁11bについては、構造及び荷重の対称性から集合壁11aと同様ゆえ、その説明を省略する。
【0048】
(3)式は、集合壁11a,11bが従来の中壁と同様のせん断耐力を保有するために必要となる各薄壁10の曲げ耐力を示すものであって、同式のm1を特にm1Tと表す。すなわち、
1T=(3/N)・(h/H)・My (3´)
【0049】
ちなみに、(3´)において、薄壁10が3枚(N=3)の場合には、
1T=(h/H)・My
となり、さらに(h/H)=0.2の場合には、
1T=0.2My
となる。また、薄壁10が2枚(N=2)の場合には、
1T=1.5・(h/H)・My
となり、さらに(h/H)=0.2の場合には、
1T=0.3My
となる。
【0050】
これにより、(h/H)が0.2の場合、すなわち、集合壁11a,11bの高さhが中壁5の高さHの1/5の場合、薄壁10が3枚であれば、各薄壁の曲げ耐力は1枚あたり、従来の中壁の曲げ耐力Myの0.2倍、薄壁10が2枚であれば1枚あたり、曲げ耐力Myの0.3倍で足りるため、鉄筋断面積や応力中心距離が減少しても、場合によっては鉄筋の強度を若干高めてやることで、曲げ耐力の確保が可能であろうと推定できる。
【0051】
次に、ボックスカルバート1に地震時強制変形が作用する場合に中壁5の集合壁11a,11bに要求される性能を調べる。
【0052】
図4(a)は、図2(a)と同様、ボックスカルバート1に地震時強制変形δが作用したとき、該地震時強制変形によって中壁5が変形している様子を示した図、図4(b)はそのモデル図、図4(c)は、発生部材力の分布図である。
【0053】
まず、高さHにわたる全区間が単一壁8で構成されている従来の中壁において、該中壁の上下端に生じるせん断力S0は、両端での曲げモーメントが降伏曲げモーメントMyに達しているとすると、
0=2My/H
と表すことができる。
【0054】
次に、集合壁11a,11bに生じるせん断力Sは、せん断力S0よりも小さなせん断力S(=k・S0(kを低減率と呼ぶ。0<k<1))でなければならないので、薄壁10の上下端にそれぞれ生じる曲げモーメントをm2、薄壁10の枚数を一般化してN枚(本実施形態では3枚)とすると、
N・(2m2/H)=k・S0
=k・2My/H (4)
となり、薄壁10の上下端にそれぞれ生じる曲げモーメントm2は、
2=k・My/N (5)
となる。
【0055】
(5)式は、集合壁11a,11bで生じるせん断力Sが、従来の中壁で生じるせん断力S0よりも小さな値、すなわちk・S0であるために必要となる各薄壁10の曲げ耐力を示すものであって、同式のm2を特にm2Tと表す。すなわち、
2T=k・My/N (5´)
【0056】
ちなみに、低減率kが0.6(60%)の場合、薄壁10が3枚(N=3)だと、
2T=0.2My
となり、薄壁10が2枚(N=2)だと、
2T=0.3My
となる。
【0057】
これにより、低減率kが0.6の場合、薄壁10が3枚であれば、各薄壁の曲げ耐力は1枚あたり、従来の中壁の曲げ耐力Myの0.2倍、薄壁10が2枚であれば1枚あたり、曲げ耐力Myの0.3倍で足りる。
【0058】
次に、薄壁10の曲げ耐力(降伏曲げモーメント)が、(3)式で示された曲げモーメントm1T及び(5)式で示された曲げモーメントm2T以上となるための条件について検討すると、降伏曲げモーメントは一般に、
降伏曲げモーメント=As・σy・j・d
ここで、
s; 引張鉄筋の断面積
σy; 引張鉄筋の強度(降伏応力度)
j ; 応力中心距離
d ; 壁の断面有効高さ
と表され、かかる式によれば、梁せい(壁の厚さ又は壁の断面有効高さ)が1/N倍になると、As及び応力中心距離がいずれも1/N倍となるので、曲げ耐力は従来の中壁における曲げ耐力の1/N2に減少する一方、(3´)式によれば、曲げモーメントm1Tは、降伏曲げモーメントMyの3/N・(h/H)倍に減少することがわかる。
【0059】
したがって、これらの兼ね合いにより、引張鉄筋の降伏応力度σyを、3/N・(h/H)/(1/N2)倍、すなわち、3・(h/H)・N倍に高めることができればよいことになる。
【0060】
具体的には、h/Hを0.2とした場合、N=3だと引張鉄筋の降伏応力度σyを1.8倍に高めてやり、N=2だと引張鉄筋の降伏応力度σyを1.2倍に高めてやる、例えば従来の中壁に用いる鉄筋がSD345であれば、該SD345を、それぞれSD685、SD490に代えてやれば、345×1.8=621N/mm2<685、345×1.2=414N/mm2<490となるので、上述した条件を満たすことが可能となる。
【0061】
また、(5´)式によれば、曲げモーメントm2Tは曲げモーメントMyよりもk/N倍だけ低減される。
【0062】
したがって、引張鉄筋の降伏応力度σyを、k/N/(1/N2)倍、すなわち、k・N倍に高めることができればよいことになる。
【0063】
具体的には、低減率kを0.6とした場合、N=3だと引張鉄筋の降伏応力度σyを1.8倍に高めてやり、N=2だと引張鉄筋の降伏応力度σyを1.2倍に高めてやればよい。具体的な鉄筋の種類は上述したと同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0064】
一方、使用する鉄筋をSD345からSD685に代えることは、余裕のある代替となるため、その分、各薄壁の厚みを、従来の中壁の壁厚に対し、N=3であれば1/3倍ではなく、621/685/3=1/3.3倍に軽減することが可能であり、N=2であれば1/2倍ではなく、414/490/2=1/2.3倍に軽減することが可能であることを示しているとともに、全体の厚みとしては、従来の中壁の壁厚に対し、それぞれ3/3.3倍(91%)、すなわち9%減とし、2/2.3倍(87%)、すなわち13%減とすることが可能であることを示している。
【0065】
以上の結果を含め、h/Hを0.2としたときのまとめを表1に示す。
【表1】
【0066】
なお、同表においては、便宜上、中壁5の高さをL、集合壁11a,11bの高さをbとしてあるとともに、参考のため、中壁を単一壁のみで構成する場合において該単一壁を高強度鉄筋及び高強度コンクリートを用いた例を併せて示してある。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係るボックスカルバート1によれば、内部空間7に満たされた水による動水圧に対しては、集合壁11a,11bの高さhが小さくなるように単一壁8の高さを適宜調整することで、集合壁11a,11bを構成する薄壁10に生じる曲げモーメントの大きさが過大にならないよう抑制し、従来の中壁と同様にせん断耐力及び曲げ耐力を保有する一方で、地震時の強制変形δに対しては、該強制変形を集合壁11a,11bの曲げ変形によって吸収するとともに、曲げ剛性が小さい分、集合壁11a,11bに生じるせん断力と曲げモーメントをいずれも大幅に小さくすることが可能となる。
【0068】
したがって、中壁5に設けるせん断補強筋は、地震時強制変形ではなく、動水圧による水平荷重で定まることとなり、大地震時にせん断補強筋の不足によってせん断破壊するおそれが従来よりも格段に低くなるとともに、集合壁11a,11bに生じる地震時の曲げモーメントが大幅に小さくなるため、頂版や底版あるいは側板については、水平土圧、鉛直土圧といった常時荷重による断面設計を行っておけば足りる。
【0069】
また、本実施形態に係るボックスカルバート1によれば、集合壁11a,11bを構成する各薄壁10を、それらの壁厚D2の合計が、単一壁8の壁厚D1とほぼ同じになるように形成したので、集合壁11a,11bとして構成される高さ区間であるか、単一壁8として構成される高さ区間であるかにかかわらず、中壁5を全区間で同一壁厚とすることが可能となり、効率的な施工が可能となる。
【0070】
本実施形態では特に言及しなかったが、作用効果の検証でも述べたように、薄壁の枚数増加に伴って該各薄壁が負担すべき部材力が減少するものの、一枚あたりの鉄筋総断面積や応力中心距離も小さくなるため、鉄筋比などの仕様を単一壁と同じにすることが難しくなる場合があるが、かかる場合には、薄壁に配置する鉄筋の強度を、単一壁に配置する鉄筋の強度よりも高くする、例えば、単一壁に配置する鉄筋としてSD345を用いるのであれば、薄壁10に配置する鉄筋をSD685やSD490とすればよい。
【0071】
また、本実施形態では、薄壁10の枚数を3枚としたが、作用効果の検証でもわかる通り、薄壁の枚数がこのような枚数に限られるものではなく、3枚に代えて、2枚あるいは4枚以上とすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ボックスカルバート
2 地盤
3 底版
4 側壁
5 中壁
6 頂版
8 単一壁
10 薄壁
11a,11b 集合壁
図1
図2
図3
図4