特許第5979595号(P5979595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5979595-水洗大便器 図000002
  • 特許5979595-水洗大便器 図000003
  • 特許5979595-水洗大便器 図000004
  • 特許5979595-水洗大便器 図000005
  • 特許5979595-水洗大便器 図000006
  • 特許5979595-水洗大便器 図000007
  • 特許5979595-水洗大便器 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979595
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/13 20060101AFI20160817BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   E03D11/13
   E03D11/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-207730(P2012-207730)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-62390(P2014-62390A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 省吾
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋式
(72)【発明者】
【氏名】関 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】古谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】永冨 実花
【審査官】 七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−265525(JP,A)
【文献】 特開2002−097701(JP,A)
【文献】 特開2002−088861(JP,A)
【文献】 特開2009−243052(JP,A)
【文献】 特開2005−213881(JP,A)
【文献】 特開2006−241728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00− 7/00
E03D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物受け面及び上縁部に位置するリム部を有するボウル部と、洗浄水を前記ボウル部に吐水する吐水口と、便器本体に設けられ洗浄水が供給される給水口と、この給水口と前記吐水口とを連絡する導水路と、を備えた水洗大便器において、
前記給水口に供給される洗浄水を前記導水路内部へと導く整流管を設け、
この整流管は、一端から他端に亘って同一断面積を有し、前記導水路内部で導水路方向に屈曲していることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記吐水口は、前記リム部に洗浄水を吐水して前記汚物受け面を洗浄する少なくとも1つのリム吐水口を含み、
前記整流管は、前記リム吐水口側へ向けて屈曲しており、前記整流管の断面積は、前記リム吐水口の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記吐水口は、前記ボウル部の底部へ洗浄水を吐水する底部吐水口を含むことを特徴とする請求項2に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗大便器において、ボウル部に洗浄水を吐水する吐水口を有し、ロータンク内に貯留された洗浄水を、便器本体の後方上部に設けられた導水路を介して吐水口へ供給するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この種の水洗大便器においては、導水路内への洗浄水の供給が開始されると、ロータンクから流下した洗浄水は、導水路の底面に当たって導水路内で飛散することで圧力損失を生じる。また、導水路内での洗浄水の流動方向は一定にならないため、洗浄水が吐水口へ至るまでに、洗浄水の導水路内壁への衝突が増えやすく、それにより圧力損失が生じやすい。
【0003】
一方、水洗大便器において、導水路内に設けられたディストリビュータにより、ロータンク内に貯留された洗浄水を、ボウル部にまで導いて吐水するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
この種の水洗大便器によれば、洗浄水がディストリビュータに導かれ、洗浄水の流動方向は一定になるため、洗浄水の流動方向が一定でないことで生じる圧力損失は軽減される。ただし、一般的に、ディストリビュータはボウル部に近づくにつれて内径が小さくなるため、ディストリビュータ内を通過する洗浄水の流速が変化し、それによる圧力損失が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−058300号公報
【特許文献2】特開2001−271408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水洗大便器においては、ロータンク内に貯溜された洗浄水が供給される構成のほか、水道管からの水がフラッシュバルブを介して洗浄水として供給される構成がある。上述した従来の水洗大便器において、ロータンクからではなくフラッシュバルブを介して水道管から洗浄水を供給した場合、ロータンクから洗浄水を供給する場合に比べて、供給される洗浄水の瞬間流量は少なくなる。供給される洗浄水の瞬間流量が少ない水洗大便器で、例えば節水化等を目的として便器洗浄に使用する洗浄水量を小さく設定する必要がある場合、導水路内やディストリビュータ内での圧力損失により、ボウル部へ吐水される洗浄水の水勢が弱くなり、十分な洗浄性能が確保できないという懸念があった。
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、節水化等のために便器洗浄に使用する洗浄水量を小さく設定する必要がある場合であっても、十分な洗浄性能を確保することが可能な水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、汚物受け面及び上縁部に位置するリム部を有するボウル部と、洗浄水を前記ボウル部に吐水する吐水口と、便器本体に設けられ洗浄水が供給される給水口と、この給水口と前記吐水口とを連絡する導水路と、を備えた水洗大便器において、前記給水口に供給される洗浄水を前記導水路内部へと導く整流管を設け、この整流管は、一端から他端に亘って同一断面積を有し、前記導水路内部で導水路方向に屈曲していることを特徴とする水洗大便器である。
【0008】
このように構成された本発明においては、洗浄水を給水口から導水路内部へと供給する際、一端から他端に亘って同一断面積を有し導水路方向に屈曲した整流管を介して供給する。そのため、整流管が設けられていない構成、あるいは整流管が一端から他端に亘って同一断面積でない構成に比べ、導水路内へ入水してから吐水口に至るまでの洗浄水の圧力損失を抑制することができる。圧力損失を抑制することができるため、より少ない洗浄水量でも、吐水口から吐水される洗浄水の水勢は弱くなりにくく、十分な洗浄性能を確保することができる。
【0009】
本発明においては、前記吐水口は、前記リム部に洗浄水を吐水して前記汚物受け面を洗浄する少なくとも1つのリム吐水口を含み、前記整流管は、前記給水口から前記リム吐水口側へ向けて屈曲しており、前記整流管の断面積は、前記リム吐水口の断面積よりも大きい構成としてもよい。
【0010】
このように構成された本発明においては、整流管の断面積がリム吐水口の断面積よりも大きいため、導水路内部に流入する洗浄水量よりもリム吐水口から流出する洗浄水量の方が少なくなる。そのため、導水路内部を洗浄水により満たしていくことで、導水路内部にて洗浄水により水圧を高め、リム吐水口から洗浄水を勢いよく吐水させることができる。従って、より少ない洗浄水量でも、リム吐水口から吐水される洗浄水の水勢は弱くなりにくく、十分な洗浄性能をより確実に確保することができる。
なお、ここでいうリム吐水口の断面積とは、リム吐水口を1つ含む構成の場合はそのリム吐水口の断面積を示し、リム吐水口を複数含む構成の場合はその複数のリム吐水口の断面積の和を示すものである。
【0011】
本発明においては、さらに、前記吐水口は、前記ボウル部の底部へ洗浄水を吐水する底部吐水口を含んでもよい。
【0012】
このように構成された本発明においては、整流管により導水路方向へと洗浄水の水勢が保たれ、整流管を設けていない場合に比べ、洗浄水はリム吐水口へ向かいやすい。したがって、より早くリム吐水口から洗浄水を吐水することができるため、速やかにボウル部の洗浄を行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水洗大便器によれば、水洗大便器において、節水化等のために便器洗浄に使用する洗浄水量を小さく設定する必要がある場合であっても、十分な洗浄性能を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における水洗大便器を示す横断面図。
図2図1に示す水洗大便器の平面図。
図3】(a)図2のA−A断面図。(b)図2のB−B断面図。
図4図2の導水路内部を示す部分拡大図。
図5】(a)本発明の一実施形態における整流管を示す外観斜視図。(b)同じく整流管を示す横側面図。
図6】(a)図5(b)のC−C断面図。(b)図5(b)のD−D断面図。(c)図5(b)のE−E断面図。
図7】(a)整流管が設けられていない水洗大便器における各吐水口への洗浄水の分配比と時間との関係を示す線図。(b)本発明の一実施形態における各吐水口への洗浄水の分配比と時間との関係を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態による水洗大便器1について説明する。図1は本発明の一実施形態による水洗大便器を示す横断面図であり、図2図1に示す水洗大便器の平面図、図3(a)は図2のA−A断面図、図3(b)は図2のB−B断面図、図4図2の導水路内部を示す部分拡大図である。
図1図2及び図4に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器1は、床面FLに載置される便器本体2と、便器本体2の前方上部に形成されるボウル部4と、便器本体2の後方上部に形成される導水路5と、この導水路5の後方上面に開設される給水口8とを備える。また、水洗大便器1は、給水口8から一端が便器本体2外へ突出して他端が導水路5内へ延出する整流管10と、この整流管10と連通し図示しない給水源からの洗浄水を供給する洗浄水供給路12と、この洗浄水供給路12を開閉するフラッシュバルブ14とを備える。
【0016】
ボウル部4は、上方に向けて開口したボウル形状の汚物受け面16と、このボウル部4の上縁部に位置するリム部18とを有する。ボウル部4の下方には、溜水により溜水面Wが形成され、ボウル部4の底部4aの後方からは、サイホン作用により汚物を洗浄水とともに排出する排水トラップ管路20が延出している。
【0017】
導水路5の前方底面からは、下方に向けてゼット導水路6aが延出している。また、導水路5の前方から左右方向へとそれぞれ第1リム導水路6b及び第2リム導水路6cが延出している。
【0018】
汚物受け面16の前方から見て左側の側壁の溜水面Wより上方であって、ボウル部4の底部4aの上方には、ゼット吐水口24aが形成されている。ゼット吐水口24aは、導水路5とゼット導水路6aを介して連通し、洗浄水を吐水する底部吐水口である。このゼット吐水口24aから洗浄水が底部4aに向けて吐水される。ゼット吐水口24aから吐水された洗浄水は、溜水に上下方向の旋回流を生じさせる。
【0019】
リム部18は、その内周面が、洗浄水が外に飛び出さないようにオーバーハングした形状に形成される。
【0020】
リム部18の前方から見て左側後方の位置には、第1リム吐水口24bが形成されている。第1リム吐水口24bは、導水路5と第1リム導水路6bを介して連通し、洗浄水を吐水するリム吐水口である。図3(a)に示すように、第1リム吐水口24bは、略矩形状の開口であり、その断面積S4は略390mmである。この第1リム吐水口24bからは洗浄水が前方へと吐水される。第1リム吐水口24bから吐水された洗浄水は、ボウル部4内において略水平方向に回転する旋回流を形成する。
【0021】
また、リム部18の前方から見て右側の第1リム吐水口24bより後方の位置には、第2リム吐水口24cが形成されている。第2リム吐水口24cは、導水路5と第2リム導水路6cを介して連通し、洗浄水を吐水するリム吐水口である。図3(b)に示すように、第2リム吐水口24cは、略矩形状の開口であり、その断面積S6は略220mmである。この第2リム吐水口24cからは洗浄水が後方へと吐水される。第2リム吐水口24cから吐水された洗浄水は、ボウル部4内において、第1リム吐水口24bから吐水された洗浄水が形成する旋回流と同じ向きの旋回流を形成する。
【0022】
なお、本実施形態の水洗大便器1は、洗浄水をボウル部4に吐水する吐水口として、ゼット吐水口24a、第1リム吐水口24b及び第2リム吐水口24cを有する構成であるが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。例えば、ゼット吐水口24aを形成せず、第1リム吐水口24b及び第2リム吐水口24cのみから洗浄水が吐水される構成としても良い。また、第2リム吐水口24cを形成せず、第1リム吐水口24bのみから洗浄水が吐水される構成や、ゼット吐水口24a及び第1リム吐水口24bのみから洗浄水が吐水される構成としてもよい。また、リム吐水口は3箇所以上に設けられてもよい。
【0023】
排水トラップ管路20は、ボウル部4の底部4aの後方から延出し、図示しない排水ソケットを介して床面FLに引き出された図示しない排出管に接続される。また、排水トラップ管路20により、洗浄を行なっていない待機状態における溜水面Wの水位が規定される。
【0024】
フラッシュバルブ14は、各種水洗大便器等に使用される周知の構成のフラッシュバルブであり、使用者に操作されることで洗浄水供給路12を開閉し、便器洗浄を開始させる。
【0025】
整流管10は、スパッド26を介して洗浄水供給路12と連通する。スパッド26は、略円筒状の部材で、この略円筒状の形状における内周面に形成した凸条により整流管10と係合する。また、スパッド26の下部においては、その一部が下方に向けて拡径している。スパッド26は、その下部の拡径した部分がパッキンを介して給水口8に挿入されるとともに、一部が給水口8から上方に突出した状態で、上方の開口から洗浄水供給路12の一端を受け入れる。このような構成により、整流管10は、給水口8から一端が便器本体2外へ突出して洗浄水供給路12と連通し、他端が導水路5内部へと延出した状態で固定される。
【0026】
次に、図5及び図6を参照して本発明の一実施形態による整流管10について詳細に説明する。図5(a)は本発明の一実施形態における整流管を示す外観斜視図、図5(b)は同じく整流管を示す横側面図、図6(a)は図5のC−C断面図、図6(b)は図5のD−D断面図、図6(c)は図5のE−E断面図である。
図5及び図6に示すように、整流管10は、屈曲した略L字形状ないしは略直角のエルボ管状の外形を有する管路である。具体的には、整流管10は、上下方向に延びて洗浄水が入水する入水部10aと、入水部10aと略直角の前方に延びて洗浄水が出水する出水部10cと、入水部10aと出水部10cとを接続する屈曲した屈曲部10bとから構成される。屈曲部10bは、直角状ではなく曲面状に形成され、その曲率半径は上面側が25mm、下面側が48mmである。さらに、上流側の外周面にはスパッド26と係合する複数の係合部10dが設けられている。また、入水部10aの上下方向の長さは、出水部10cの下端面が、両リム導水路6b、6cの下端面よりも上方に位置する大きさに形成される。
【0027】
整流管10の上流側の垂直部分、即ち入水部10aの断面は円形状であり(図6(a)参照)、その外径の縦寸法A1及び横寸法B1は31.5mmであり、断面積(流路面積)S8は略780mmである。整流管10の断面における縦寸法は下流側に向けて連続的に小さくなり、横寸法は下流側に向けて連続的に大きくなっていく。即ち、整流管10の断面形状は、上流側から下流側に向けて、円形状から連続的に偏平になっていき上面及び下面が平坦な長孔形状へと変化する。ただし、整流管10の断面形状は変化しつつも、その断面積(流路面積)は一定に保たれる。即ち、整流管10の屈曲部10bの中間部の略楕円形状の断面(図6(b)参照)における断面積(流路面積)S10は入水部10aの断面積S8と同じ大きさとなる。同様に、整流管10の下流側の水平部分、即ち出水部10cの長孔形状の断面(図6(c)参照)の外径の縦寸法A6は21.35mm、横寸法B6は40mmとなり、断面積(流路面積)S12は入水部10aの断面積S8と同じ大きさとなる。
【0028】
以下、本実施形態の水洗大便器1の動作について説明する。
上述した水洗大便器1において、使用者がフラッシュバルブ14により洗浄開始の操作を行うと、洗浄水が給水源(図示せず)から洗浄水供給路12を介して整流管10の入水部10aに入水し、整流管10内に流下する(図4における流れF2)。
【0029】
整流管10内に流下した洗浄水は、整流されつつ、整流管10内の屈曲部10bで前方方向へと流れ方向を変えられ、出水部10cから導水路5内へ流出する(図4における流れF4)。導水路5内へ流入した洗浄水はゼット導水路6aへ流下し、洗浄水の一部は第1リム導水路6b及び第2リム導水路6cへ流れ込む。
【0030】
ゼット導水路6aへ流下した洗浄水は、ゼット導水路6a内の空気を押し出しながらゼット導水路6a内を洗浄水で満たすとともに、ゼット吐水口24aから洗浄水を吐水する。吐水される洗浄水は、汚物受け面16の側壁及びボウル部4の底部4aに衝突することで上下方向に旋回する旋回流を形成する。この上下方向に旋回する旋回流は、溜水を上下方向に撹拌することで溜水面W付近に浮かぶ浮遊系汚物をその流れに引き込む。この際、溜水面Wの前方では、底部4aにより水深が浅くなるとともにゼット吐水口24aが底部4aの上方に形成されているため、溜水を上下方向に撹拌し易くなっている。
【0031】
次に、徐々に導水路5内が洗浄水により満たされていき、導水路5内の水圧が増加していくとともに、第1リム導水路6b及び第2リム導水路6cへと洗浄水が流れ込んでいく。導水路5内の高まった水圧により、両リム導水路6b、6cに流れ込む洗浄水の水勢が高まり、先に両リム導水路6b、6cへ流れ込んでいた一部の洗浄水とともに、第1リム吐水口24b及び第2リム吐水口24cから洗浄水が勢いよく吐水される。
【0032】
第1リム吐水口24bから吐水される洗浄水は、リム部18と汚物受け面16の間の内周面上に、便器本体2の前方方向へ向けて吐水される。同様に、第2リム吐水口24cから吐水される洗浄水はリム部18と汚物受け面16の間の内周面上に、便器本体2の後方方向へ向けて吐水される。両リム吐水口24b、24cにより吐水された洗浄水は、水平方向の流れとなって旋回流を形成しつつ溜水面Wへ向かい、汚物受け面16を洗浄する。溜水面Wに到達した洗浄水は、溜水とともに旋回しつつ流下していき、排水トラップ管路20へと流れ込んでいく。
【0033】
ゼット吐水口24a及び両リム吐水口24b、24cから吐水される洗浄水により、溜水面Wの水位が上昇するとともに、排水トラップ管路20内が満水状態となると、サイホン作用が生じる。また、この時、排水トラップ管路20内に溜まっている汚物は、サイホン作用による床下の排水管(図示せず)に向かう吸引力と、上述した両リム吐水口24b、24c及びゼット吐水口24aからの吐水により形成される、排水トラップ管路20への旋回しつつ勢いよく流れ込む旋回流による押し込み力とにより効果的に排出される。
【0034】
上述した本発明の一実施形態における水洗大便器1においては、洗浄水供給路12から供給された洗浄水を供給する際、一端から他端に亘って同一断面積であり、導水路5の流路方向(導水路方向)に屈曲した整流管10を介して導水路5内部へ供給する。本実施形態では、整流管10は、洗浄水供給路12の下端側に連通する部分であって上下方向に沿う入水部10aに対して、屈曲部10bを介して水平に前方に延設されて前側に向けて開口する出水部10cを有することで、水平前方を導水路5の流路方向として屈曲した形状を有する。整流管10が設けられていない場合は、導水路5内部で洗浄水の流動方向が交差し、洗浄水同士が複雑に重なり合うことになるが、整流管10を備えることにより、洗浄水の流れ方向は整流管10の屈曲部10bにより両リム導水路6b、6cへと向くため、圧力損失や乱流の発生を抑制することができる。また、整流管10の断面積(流路面積)を全体として均一にすることで、整流管10が一端から他端に亘って同一断面積でない場合に比べ、洗浄水の流速に変化が少ないため、圧力損失や乱流の発生を抑制することができる。さらに、整流管10の屈曲部10bは、滑らかな曲面状であるため、洗浄水の流れ方向を下方(図4における流れF2)から前方(図4における流れF4)へと変化させる際に、曲がりによる圧力損失を抑えることができる。圧力損失や乱流の発生を抑制することができるため、より少ない洗浄水量でも、ゼット吐水口24a及び両リム吐水口24b、24cから吐水される洗浄水の水勢は弱くなりにくく、十分な洗浄性能を確保することができ、節水化が可能となる。
【0035】
また、上述した本発明の一実施形態における水洗大便器1においては、両リム吐水口24b、24cの断面積の和(断面積S4+断面積S6)は、略610mmとなり、整流管10の断面積である略780mm(S8)よりも小さくなる。この両リム吐水口24b、24cと整流管10との断面積の大小関係により、ゼット導水路6aが満水となった以降は、導水路5内へ流入する洗浄水量よりも両リム導水路6b、6cから流出する洗浄水量の方が小さくなる。そのため、徐々に導水路5内部を洗浄水により満たしていき、導水路5内部での洗浄水による水圧を高め、両リム吐水口24b、24cから洗浄水を勢いよく吐水させることができる。従って、より少ない洗浄水量でも、両リム吐水口24b、24cから吐水される洗浄水の水勢は弱くなりにくく、十分な洗浄性能をより確実に確保することができ、節水化が可能となる。
【0036】
さらに、上述した本発明の一実施形態における水洗大便器1においては、整流管10により両リム導水路6b、6cに向けての水勢が保たれた洗浄水が導水路5内へと流入する。そのため、整流管10が設けられていない場合に洗浄水の大部分がゼット導水路6aに向かうのに比べ、洗浄水が両リム導水路6b、6cへ向かいやすい。洗浄水が両リム導水路6b、6cへ向かいやすいため、より早く両リム吐水口24b、24cから洗浄水を吐水することができるとともに、速やかにボウル部4の洗浄を行うことができる。
【0037】
さらに、洗浄水が両リム導水路6b、6cへ向かいやすいため、図7(a)及び(b)に示すように、導水路5に供給される洗浄水のゼット吐水口24a及び両リム吐水口24b、24cへの分配比は、整流管10が設けられていない場合に比べて、両リム吐水口24b、24cへの比率が大きくなる。ここで、図7(a)及び(b)は、導水路5へ流入した洗浄水についての、ゼット吐水口24a及び両リム吐水口24b、24cそれぞれへ流入した流量の割合をシミュレーションにより求めたものである。図7(a)は整流管が設けられていない水洗大便器における各吐水口への洗浄水の分配比と時間との関係を示す線図であり、図7(b)は本発明の一実施形態における各吐水口への洗浄水の分配比と時間との関係を示す線図である。なお、図7(a)に示す比較例における水洗大便器は、整流管10を備えていない点を除いて、上述した本発明の一実施形態における水洗大便器1と同一の構成を備えている。
【0038】
図7(a)に示すように、比較例における整流管10が設けられていない水洗大便器においては、洗浄開始当初から洗浄水の大部分がゼット吐水口へと分配され、それが続く。ただし、洗浄性能を考慮した場合、洗浄開始当初から両リム吐水口へ洗浄水がより多く分配されることが、両リム吐水口から吐水された洗浄水により形成される旋回流により汚物を排水トラップ管路へ押し込む点からも好ましい。そこで、本実施形態における水洗大便器1においては、整流管10の屈曲部10bにより洗浄水の流れ方向が両リム導水路6b、6cに向けた流れとなる(図4における流れF4)。さらに、出水部10cの下端面が両リム導水路6b、6cの下端面よりも上方に位置しているため、洗浄水が両リム導水路6b、6cへとより向かいやすい。そのため、図7(b)に示すように、本発明の一実施形態における水洗大便器1においては、比較例に比べて、洗浄開始当初から両リム吐水口24b、24cへと洗浄水がより多く分配されている。これにより、比較例に比べて、ゼット吐水口24a及び両リム吐水口24b、24cそれぞれから吐水される洗浄水の流量バランスの点で優れ、より洗浄性能は高いものとなる。従って、少ない量の洗浄水であっても十分な洗浄性能をより確実に確保することができ、節水化が可能となる。
【0039】
なお、上述した本実施形態においては、整流管10は、一端から他端に亘って断面積一定のまま断面形状が変化するが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、整流管10の断面積は、一端から他端に亘って略同一でもよい。ここでいう略同一とは、整流管10の一端から他端に亘って製造工程上の断面積の微差を許容するとともに、上述した効果を得ることのできる程度を指す。また、整流管10を、一端から他端に亘って断面積一定で、断面形状も一定に構成してもよい。さらに、整流管10の屈曲の態様については、本実施形態のように全体として略直角状に限定されず、給水口8から導水路5内に設けられる整流管10において、給水口8から突出する部分(入水部10a)と、導水路5内での流路方向、つまり洗浄水を吐水させる方向に向けて延びる部分(出水部10c)とがなす適宜の屈曲の態様が含まれる。
【0040】
また、上述した本実施形態においては、例として、サイホン式の水洗大便器に適用した形態について説明しているが、このような形態に限定されるものではなく、本発明は他の水洗大便器の形態についても適用可能である。例えば、排水トラップ管路内の水位上昇による落差を利用して汚物を排出する、いわゆる、洗い落とし式の水洗大便器等、サイホン式の水洗大便器以外の便器形態についても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…水洗大便器
2…便器本体
4…ボウル部
4a…底部
5…導水路
6a…ゼット導水路
6b…第1リム導水路
6c…第2リム導水路
8…給水口
10…整流管
10a…入水部
10b…屈曲部
10c…出水部
12…洗浄水供給路
14…フラッシュバルブ
16…汚物受け面
18…リム部
20…排水トラップ管路
24a…ゼット吐水口
24b…第1リム吐水口
24c…第2リム吐水口
26…スパッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7