特許第5979609号(P5979609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000013
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000014
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000015
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000016
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000017
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000018
  • 特許5979609-セラミック電子部品 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979609
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20160817BHJP
   C04B 35/30 20060101ALI20160817BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20160817BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20160817BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H01F1/34 B
   C04B35/30 C
   C01G53/00 A
   H01F17/04 F
   H01F17/00 D
   H01F1/34 A
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-70896(P2014-70896)
(22)【出願日】2014年3月31日
(62)【分割の表示】特願2012-503285(P2012-503285)の分割
【原出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-179621(P2014-179621A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2014年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2010-49457(P2010-49457)
(32)【優先日】2010年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】野宮 裕子
【審査官】 ▲吉▼澤 雅博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−102215(JP,A)
【文献】 特開2005−112903(JP,A)
【文献】 特表平10−510954(JP,A)
【文献】 特開2009−238912(JP,A)
【文献】 特開平11−154611(JP,A)
【文献】 特開平06−096940(JP,A)
【文献】 特開2002−175916(JP,A)
【文献】 特開2006−219306(JP,A)
【文献】 特開2010−018482(JP,A)
【文献】 特開平05−175032(JP,A)
【文献】 特開2005−001894(JP,A)
【文献】 特開2010−278075(JP,A)
【文献】 特開2010−106947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを実質的に含まない非鉛系のフェライト材料からなる磁性体部と、Cuを主成分とする導電部とを有し、複数の前記磁性体部と複数の前記導電部とが交互に積層されると共に、
前記磁性体部は、3価のFeと少なくとも2価のNiを含む2価元素とを含有すると共に、前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で20〜48%であり、
Fe及びMnの総計に対するMnの比率が、Mn及びFeにそれぞれ換算し、モル比で2%以上50%未満となるように、前記磁性体部は前記Mnを含有し、
かつ、前記磁性体部と前記導電部とが同時焼成されてなることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で25〜47%であることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で30〜46%であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記磁性体部は、CuOに換算し、モル比で10%以下のCuを含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記磁性体部は、ZnOに換算し、モル比で33%以下のZnを含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記磁性体部は、ZnOに換算し、モル比で6%以上のZnを含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記磁性体部の比抵抗が、1.0×10Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
コイル部品であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック電子部品に関し、より詳しくは、フェライト材料からなる磁性体部とCuを主成分とした導電部とを有するコイル部品等のセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Ni−Zn等のスピネル型結晶構造を有するフェライト系磁器を使用したセラミック電子部品が広く使用されており、フェライト材料の開発も盛んに行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フェライト母体の原料組成が、Ni−Zn系フェライト100重量部に対し、PbO成分を0.3重量部以上5.0重量部以下の割合で添加した銅導体一体焼成型フェライト素子が提案されている。
【0004】
さらに、この特許文献1には、フェライト母体の原料組成が、Ni−Zn系フェライト100重量部に対し、PbO成分を0.3重量部以上5.0重量部以下、B成分を0.03重量部以上1.5重量部以下、SiO成分を0.03重量部以上1.5重量部以下の割合で添加した銅導体一体焼成型フェライト素子が提案されている。
【0005】
この特許文献1では、フェライト材料にPbO、又はPbO、B、SiOの低融点のガラス成分を添加することにより、窒素雰囲気下、950〜1030℃の低温での焼成を可能としている。
【0006】
また、特許文献2には、Feが44〜47mol%、CuOが5〜13mol%、ZnOが15〜23mol%、残部が実質的にNiOからなる主成分に対して、副成分としてMnを0.1〜0.5wt%含有する組成を有し、平均結晶粒径が0.7〜1.2μmである焼結体から構成される酸化物磁性材料が提案されている。
【0007】
この特許文献2では、0.1〜0.5wt%のMnを含有させて比抵抗ρの向上を図ると共に、内部電極材料にAgを使用することにより、内部電極用ペーストと酸化物磁性層用ペーストとを同時焼成し、これにより焼結密度を低下させることなく、品質係数Qが良好で直流重畳特性に優れた積層型インダクタを得ている。
【0008】
また、この特許文献2には、内部電極材料としてCu系材料を使用することも可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−97525号公報(請求項1、請求項2、第(3)頁第5欄第7行目〜同頁同欄第8行目)
【特許文献2】特開2006−219306号公報(請求項1、段落番号〔0013〕、〔0019〕、〔0035〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Ni−Zn系フェライトは、大気雰囲気で焼成されるのが一般的であり、例えば、積層コイル部品の場合は、通常、内部電極材料にAgを使用し、930℃以下の低温でフェライト材料と内部電極材料とを同時焼成している。
【0011】
一方、生産コスト等を考慮すると、低抵抗で導通性に優れかつAgよりも安価なCuを主成分としたCu系材料を内部電極材料に使用するのが望ましい。
【0012】
しかしながら、Cu−CuOの平衡酸素分圧とFe−Feの平衡酸素分圧との関係から、800℃以上の高温ではCuとFeとが共存する領域が存在しないことが知られている。
【0013】
すなわち、800℃以上の温度では、Feの状態を維持するような酸化性雰囲気に酸素分圧を設定して焼成を行った場合、Cuも酸化されてCuOを生成する。一方、Cu金属の状態を維持するような還元性雰囲気に酸素分圧を設定して焼成を行った場合は、Feが還元されてFeを生成する。
【0014】
したがって、特許文献1では、窒素雰囲気下、Cuとフェライト材料とを同時焼成しているものの、CuとFeとが共存する領域が存在しないことから、Cuが酸化しないような還元性雰囲気で焼成すると、FeがFeに還元されるため比抵抗ρが低下し、このため電気特性の劣化を招くおそれがある。
【0015】
しかも、特許文献1では、ガラス成分であるPbO、B、SiOを添加しているため、焼成処理中にこれらのガラス成分が異常粒成長を引き起こして透磁率の低下等を招き、このため所望の良好な磁気特性を得るのが困難であり、またフェライト中にPbOが含有されるため、環境負荷の面でも問題がある。
【0016】
また、特許文献2では、内部電極材料にCu系材料を使用することが可能と記載されているものの、Agを内部電極材料に使用し大気雰囲気で焼成した実施例しか記載されていない。
【0017】
すなわち、Cuを主成分としたCu系材料を導電部に使用し、磁性体部と同時焼成する場合は、Cuの酸化を防ぐ観点から、還元性雰囲気での焼成が求められるが、上述したように800℃以上の高温ではCuとFeとが共存する領域が存在しないことから、Cuの酸化を防ぐような還元性雰囲気で焼成すると、Feの還元を避けることができない。
【0018】
しかしながら、特許文献2には、Cu系材料を導電部に使用した場合に生じる上述した課題が何ら記載されておらず、したがって、特許文献2からは、Cu系材料を導電部に使用した場合であっても、良好な絶縁性を有し、インピーダンス特性等の電気特性が良好なセラミック電子部品を得るのは困難である。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、Cuを主成分とする導電部と磁性体部とを同時焼成しても、絶縁性を確保でき、良好な電気特性を得ることができるコイル部品等のセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、一般式X・MeOで表わされるスピネル型結晶構造のフェライト材料について鋭意研究を行ったところ、Feの含有量を20〜48mol%(好ましくは、25〜47mol%、より好ましくは、30〜46mol%)の範囲に調整して他の含有成分を増量させ、かつFe及びMnに対するMnの比率を、Fe及びMnに換算して50%未満とすることにより、所望の良好な絶縁性を得ることができ、これにより、Cuを主成分とする複数の導電部とフェライト材料からなる複数の磁性体部を積層し、Cu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、電気特性が良好なセラミック電子部品を得ることができるという知見を得た。
【0021】
また、Feの含有量が上述した20〜48mol%の範囲内であれば、Fe及びMnの総計に対するMnの比率を、Mn及びFeに換算し、モル比で2%以上とすることにより、良好な絶縁性を確保できると同時に、透磁率も向上することが分かった。
【0022】
そして、フェライト材料を上述した組成範囲とすることにより、Cu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、Cuが酸化されることなく、絶縁性や透磁率が良好な所望の電気特性が得ることができる。
【0023】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るセラミック電子部品は、Pbを実質的に含まない非鉛系のフェライト材料からなる磁性体部と、Cuを主成分とする導電部とを有し、複数の前記磁性体部と複数の前記導電部とが交互に積層されると共に、前記磁性体部は、3価のFeと少なくとも2価のNiを含む2価元素とを含有すると共に、前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で20〜48%であり、Fe及びMnの総計に対するMnの比率が、Mn及びFeにそれぞれ換算し、モル比で2%以上50%未満となるように、前記磁性体部は前記Mnを含有し、かつ、前記磁性体部と前記導電部とが同時焼成されてなることを特徴としている。
【0024】
また、本発明のセラミック電子部品は、前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で25〜47%であるのが好ましい。
【0025】
さらに、本発明のセラミック電子部品は、前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で30〜46%であるのがより好ましい。
【0026】
また、本発明のセラミック電子部品は、前記磁性体部が、CuOに換算し、モル比で10%以下のCuを含有しているのが好ましい。
【0027】
また、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、より一層良好な特性を得る観点からは、磁性体部にZnOを含有させるのが好ましいが、ZnOの含有量が33%を超えるとキュリー点Tcが低下し、高温での動作保証が損なわれて信頼性の低下を招くおそれがあることが分かった。
【0028】
すなわち、本発明のセラミック電子部品は、前記磁性体部が、ZnOに換算し、モル比で33%以下のZnを含有しているのが好ましい。
【0029】
さらに、本発明者らの研究結果により、フェライトの透磁率μを考慮すると、ZnOの含有量は6mol%以上であるのが望ましいことが分かった。
【0030】
すなわち、本発明のセラミック電子部品は、前記磁性体部が、ZnOに換算し、モル比で6%以上のZnを含有しているのが好ましい。
【0031】
また、本発明のセラミック電子部品は、前記磁性体部の比抵抗が、1.0×10Ω・cm以上であるのが好ましい。
【0033】
また、本発明のセラミック電子部品は、コイル部品であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
上記セラミック電子部品によれば、Pbを実質的に含まない非鉛系のフェライト材料からなる磁性体部と、Cuを主成分とする導電部とを有し、複数の前記磁性体部と複数の前記導電部とが交互に積層されると共に、前記磁性体部は、3価のFeと少なくとも2価のNiを含む2価元素とを含有すると共に、前記Feの含有量が、Feに換算し、モル比で20〜48%(好ましくは、25〜47%、より好ましくは30〜46%)であり、前記Fe及びMnの総計に対するMnの比率が、Mn及びFeにそれぞれ換算し、モル比で2%以上50%未満となるように、前記磁性体部は前記Mnを含有し、かつ、前記磁性体部と前記導電部とが同時焼成されてなるので、Cu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、Cuが酸化されることもなく、比抵抗ρを向上させることができ、所望の絶縁性を確保することができる。そしてその結果、絶縁性が良好でインピーダンス特性等の電気特性が良好なコイル部品等の積層型のセラミック電子部品を得ることができる。
【0035】
具体的には、比抵抗ρはlogρで5.0以上の良好な絶縁性を得ることができる。そしてこれにより、インピーダンス特性等の電気特性の良好な所望のセラミック電子部品を得ることが可能となる。
【0036】
しかも、上述したようにFe及びMnの総計に対する前記Mnの比率が、Mn及びFeに換算し、モル比で2%以上となるように、前記Mnを含有することにより、より良好な絶縁性を確保できると共に、Mn無添加の場合に比べ透磁率を向上させることが可能となる。
【0037】
また、前記磁性体部が、CuOに換算し、モル比で10%以下のCuを含有することにより、インピーダンス特性の良好なセラミック電子部品を得ることができる。
【0038】
また、前記磁性体部が、ZnOに換算し、モル比で33%以下のZnを含有した場合は、十分なキュリー点を確保することができ、使用時の温度の高い条件下での動作が保証されたセラミック電子部品を得ることができる。
【0039】
さらに、磁性体部は、ZnOに換算し、モル比で6%以上のZnを含有することにより、良好な透磁率を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係るセラミック電子部品としての積層コイル部品の一実施の形態を示す断面図である。
図2】上記積層コイル部品の製造方法を説明するための分解斜視図である。
図3】ZnOの含有量とキュリー点Tc及び透磁率μとの関係を示す図である。
図4】磁性体部の成分組成が本発明範囲外の場合にCu−CuOの平衡酸素分圧で焼成したときのインピーダンス特性の一例を示す図である。
図5】磁性体部の成分組成が本発明範囲内の場合にCu−CuOの平衡酸素分圧で焼成したときのインピーダンス特性の一例を示す図である。
図6】磁性体部の成分組成が本発明範囲外の場合にCu−CuOの平衡酸素分圧の1/100で焼成したときのインピーダンス特性の一例を示す図である。
図7】磁性体部の成分組成が本発明範囲内の場合にCu−CuOの平衡酸素分圧の1/100で焼成したときのインピーダンス特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0043】
図1は、本発明に係るセラミック電子部品としての積層コイル部品の一実施の形態を示す断面図である。
【0044】
この積層コイル部品は、フェライト素体1が、磁性体部2と、該磁性体部2に埋設されたCuを主成分とするコイル導体(導電部)3とを有している。また、コイル導体3の両端には引出電極4a、4bが形成されると共に、フェライト素体1の両端にはAg等からなる外部電極5a、5bが形成され、該外部電極5a、5bと引出電極4a、4bとが電気的に接続されている。
【0045】
磁性体部2は、スピネル型結晶構造(一般式X・MeO)を有するフェライト材料で形成され、少なくとも3価の元素化合物であるFeと2価の元素化合物であるNiO、及び3価の元素化合物であるMnを含有し、さらに必要に応じて2価の元素化合物であるZnO、CuOを含有している。
【0046】
そして、磁性体部2中のFeの含有モル量が、20〜48mol%となるように配合されている。
【0047】
このようにFeの含有モル量を20〜48mol%とすることにより、良好な所望の絶縁性を確保することができ、これによりインピーダンス特性等の電気特性の良好なコイル部品を得ることが可能となる。
【0048】
ここで、磁性体部2中のFeの含有モル量を、20〜48mol%としたのは以下の理由による。
【0049】
Cuを主成分としたCu系材料とフェライト材料とを同時焼成する場合、大気雰囲気で焼成するとCuは容易に酸化されてCuOを生成することから、Cuが酸化しないような還元性雰囲気で焼成する必要がある。一方、フェライト材料の主成分であるFeを還元性雰囲気で焼成するとFeを生成することから、Feに対しては酸化性雰囲気で焼成する必要がある。
【0050】
しかしながら、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、Cu−CuOの平衡酸素分圧とFe−Feの平衡酸素分圧との関係から、800℃以上の温度で焼成する場合、Cu金属とFeとが共存する領域が存在しないことが知られている。
【0051】
そこで、本実施の形態では、3価のFeを含有したFeの含有モル量を化学量論組成から減量させ、Feに代えて例えば2価元素、具体的には2価のNiを含有したNiOを化学量論組成から増量させることにより、Feの耐還元性を向上させ、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で焼成しても、FeのFeへの還元をし難くしている。
【0052】
すなわち、スピネル型結晶構造(一般式X・MeO)の場合、化学量論組成では、X(X:Fe、Mn)とMeO(Me:Ni、Zn、Cu)との比率は50:50であり、XとMeOとは、通常、概ね化学量論組成となるように配合される。
【0053】
しかるに、3価のFeを含有したFeの含有モル量を化学量論組成に対し十分に減量させ、Feに代えて2価元素、例えば2価のNiを含有したNiOを化学量論組成に対し十分に増量させた場合、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成すると、Feに対しては還元雰囲気であるにも拘わらず、NiOが化学量論組成よりも十分に過剰に含有されていることから、FeはFeに還元され難くなる。すなわち、Feは、Fe・FeOで表わすことができるが、2価のNi化合物であるNiOが化学量論組成よりも十分に過剰に存在するため、Niと同様の2価のFeOの生成が妨げられる。このため、FeはFeに還元されずにFeの状態を維持することが可能となる。
【0054】
このようにFeの含有モル量を化学量論組成から十分に減量し、2価の元素化合物を化学量論組成に対して十分に増量させることにより、Cuとフェライト材料との同時焼成してもFeOが生成され難くなることから、FeはFeに還元されずにFeの状態を維持するようになる。すなわち、FeはFeに還元されずに済むことから、比抵抗ρが低下するのを回避することができ、これにより所望の良好な絶縁性を確保でき、その結果、良好な電気特性を有する積層コイル部品を得ることが可能となる。
【0055】
そして、そのためにはFeの含有モル量を48mol%以下にする必要がある。Feの含有モル量を48mol%を超える場合は、Feは化学量論組成から2mol%未満しか減量されておらず、Feの含有モル量が多すぎることから、Feが容易に還元されてFeを生成し、比抵抗ρの低下を招いて所望の積層コイル部品を得るのが困難となる。
【0056】
ただし、Feの含有モル量は、少なくとも20mol%は必要である。これはFeの含有モル量が20mol%未満になると、却って比抵抗ρの低下を招き、所望の絶縁性を確保できなくなるおそれがあるからである。
【0057】
したがって、磁性体部2中のFeの含有モル量は、20〜48mol%となるように調整する必要があり、より良好な絶縁性を確保する観点からは、好ましくは25〜47mol%であり、より好ましくは30〜46mol%である。
【0058】
また、上記磁性体部2にMnを含有させることにより、保磁力が低減し磁束密度が大きくなることから、透磁率μを向上させることが可能となる。
【0059】
そして、そのためにはMnを、Fe及びMnの総計に対するMnの比率(以下、「A値」という。)がモル比換算で2%以上となるように含有させるのが好ましい。
【0060】
ただし、A値が50%以上になると、Mnの含有量がFeの含有量よりも多くなり、却って絶縁性の低下を招くおそれがある。したがって、Mnを含有させる場合は、A値で2%以上50%未満にMn含有量を制御する必要がある。
【0061】
また、Feの含有モル量が20〜48mol%の範囲内であれば、Feの一部をMnで置換する形態で、2価の元素化合物に代えてMnを増量させることによっても、比抵抗ρを向上させることができ、これによっても所望の良好な絶縁性を得ることが可能となる。
【0062】
すなわち、800℃以上の温度領域では、MnはFeに比べ、より高い酸素分圧で還元性雰囲気となる。したがって、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の酸素分圧では、MnはFeに比べ強還元性雰囲気となり、このためMnが優先的に還元されて焼結を完了させることが可能となる。つまり、MnがFeに比べて優先的に還元されることから、FeがFeに還元される前に焼成処理を完了させることが可能となる。
【0063】
このように磁性体部2中にMnを含有させることにより、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下でCu系材料とフェライト材料とを同時焼成しても、Mnが優先的に還元されることから、Feが還元される前に焼結を完了させることが可能となり、Cu金属とFeとをより効果的に共存させることができる。そしてこれにより比抵抗ρが低下するのを回避でき、絶縁性を向上させることができる。その結果、特定周波数域でピークを有する山形形状のインピーダンス特性を得ることができ、電気特性を向上させることが可能となる。
【0064】
尚、この場合もA値が50%以上になると、Mnの含有量がFeの含有量よりも多くなり、絶縁性の低下を招くおそれがあり、またA値が2%未満の場合は、Mnの添加効果を十分に得ることができない。したがって、3価のFeの一部を3価のMnで置換する場合も、所望の絶縁性を得るためには、A値が2%以上50%未満となるようにMn含有量を制御するのが好ましい。
【0065】
このように本実施の形態では、磁性体部2は、FeとNiOとを含有し、Feが20〜48mol%であり、A値が50%未満となるように、NiO及び/又はMnを増量することにより、透磁率μを損なうことなく比抵抗ρが低下するのを回避できて絶縁性を確保することができ、これにより電気特性を向上させることが可能となる。
【0066】
具体的には、磁気特性を損なうこともなく比抵抗ρをlogρで5.0以上に改善することができ、特定周波数域で高いインピーダンスを有するノイズ吸収に適した積層コイル部品を得ることができる。そしてその結果、特定周波数域でインピーダンスが高く、山形形状のインピーダンス特性を有する積層コイル部品を得ることが可能となる。
【0067】
尚、磁性体部2中のNiO、ZnO、及びCuOの含有量は、特に限定されるものではなく、Feの含有モル量に応じて適宜設定することができるが、ZnOやCuOを含有させる場合は、ZnO:6〜33mol%、CuO:0〜10mol%、NiO:残部となるように配合するのが好ましい。
【0068】
すなわち、ZnOの含有モル量が33mol%を超えると、キュリー点Tcが低下し、高温での動作保証がなされない可能性があることから、ZnOの含有量は33mol%以下が好ましい。
【0069】
一方、ZnOは透磁率μの向上に寄与する効果があるが、斯かる効果を発揮するためにはZnOの含有モル量は6mol%は必要である。
【0070】
したがって、磁性体部2がZnOを含有する場合は、その含有モル量は6〜33mol%が好ましい。
【0071】
また、CuOの含有モル量が10mol%を超えると、比抵抗ρが低下するおそれがあることから、CuOの含有量は10mol%以下が好ましい。
【0072】
次に、上記積層コイル部品の製造方法を、図2を参照しながら詳述する。
【0073】
まず、セラミック素原料として、Fe、NiO、及び必要に応じて3価化合物であるMn、2価元素化合物であるZnO、及びCuOを用意し、Feの含有モル量が20〜48mol%、A値が50%未満(0%を含む。)となるように、各セラミック素原料を秤量する。
【0074】
次いで、これらの秤量物を純水及びPSZ(部分安定化ジルコニア)ボール等の玉石と共にポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、800〜900℃の温度で所定時間仮焼する。
【0075】
次いで、これらの仮焼物に、ポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及びPSZボールと共に、再びポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを作製する。
【0076】
次に、ドクターブレード法等を使用して前記セラミックスラリーをシート状に成形加工し、所定膜厚の磁性体セラミックグリーンシート(以下、単に「磁性体シート」という。)6a〜6hを作製する。
【0077】
次いで、これらの磁性体シート6b〜6gが互いに電気的に接続可能となるようにレーザ加工機を使用して磁性体シート6b〜6gの所定箇所にビアホールを形成する。
【0078】
次に、Cuを主成分としたコイル導体用導電性ペーストを用意する。そして、該導電性ペーストを使用してスクリーン印刷し、磁性体シート6b〜6g上にコイルパターン8a〜8fを形成し、かつ、ビアホールを前記導電性ペーストで充填しビアホール導体7a〜7eを作製する。尚、磁性体シート6b及び磁性体シート6gに形成された各コイルパターン8a、8fには、外部電極と電気的接続が可能となるように引出部8a′、8f′が形成されている。
【0079】
次いで、コイルパターン8a〜8fの形成された磁性体シート6b〜6gを積層し、これらをコイルパターンの形成されていない磁性体シート6a及び磁性体シート6hで挟持して圧着し、これによりコイルパターン8a〜8fがビアホール導体7a〜7eを介して接続された圧着ブロックを作製する。その後、この圧着ブロックを所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。
【0080】
次に、このセラミック積層体をCuが酸化しないような雰囲気下、所定温度で十分に脱脂した後、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下となるようにN−H−HOの混合ガスで雰囲気調整された焼成炉に供給し、900〜1050℃で所定時間焼成し、これにより磁性体部2にコイル導体3が埋設されたフェライト素体1を得る。
【0081】
次に、フェライト素体1の両端部に、Ag等を主成分とした外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させた後、750℃で焼き付けて外部電極5a、5bを形成し、これにより積層コイル部品が作製される。
【0082】
このように本実施の形態では、Fe化合物及び少なくともNi化合物を含む2価元素化合物を、Feに換算し、Fe化合物がモル比で20〜48%となるように前記Fe化合物及び前記2価元素化合物を秤量すると共に、Fe及びMnの総計に対する前記Mnの比率が、Mn及びFeに換算し、モル比で50%未満(0%を含む。)となるようにMn化合物を秤量し、これら秤量物を混合した後、仮焼して仮焼粉末を作製する仮焼工程と、前記仮焼粉末からセラミックグリーンシートを作製するセラミックグリーンシート作製工程と、Cuを主成分とする導電性ペーストを前記セラミックグリーンシートに塗布して所定パターンの導電膜を形成する導電膜形成工程と、前記導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定順序に積層し、積層体を形成する積層体形成工程と、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成し、前記セラミックグリーンシートと前記導電膜とを同時焼成する焼成工程とを含んでいるので、Cu−CuOの平衡酸素分圧以下の焼成雰囲気で前記積層体を焼成しても、FeがFeに還元されることもなく、CuとFeとが共存した状態で焼結させることが可能となる。したがって、比抵抗ρが低下するのを回避でき絶縁性を確保することができ、これにより電気特性を向上させることができる。
【0083】
具体的には、比抵抗ρをlogρで5.0以上に改善することができ、特定周波数域で高いインピーダンスを有するノイズ吸収に適した積層コイル部品を得ることができる。そしてその結果、特定周波数域でインピーダンスが高く、山形形状のインピーダンス特性を有する積層コイル部品を得ることが可能となる。
【0084】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では、本発明の積層コイル部品について説明したが、単板コイル部品や積層LC部品のような積層複合部品に適用できるのはいうまでもない。
【0085】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0086】
セラミック素原料として、Fe、NiO、ZnO、CuO、及びMnを用意した。そして、ZnO:25mol%、CuO:1mol%、Mnを1mol%とし、Fe及びNiOの含有モル量が表1に示すような組成となるように、これらセラミック素原料を秤量した。次いで、これら秤量物を純水及びPSZボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、850℃の温度で仮焼した。
【0087】
次いで、これら仮焼物を、ポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)、エタノール(有機溶媒)、及びPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを得た。
【0088】
次に、ドクターブレード法を使用し、厚さが25μmとなるようにセラミックスラリーをシート状に成形し、これを縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜き、磁性体シートを作製した。
【0089】
次いで、このようにして作製された磁性体シートを、厚さが総計で0.5mmとなるように複数枚積層し、60℃に加熱し、100MPaの圧力で60秒間加圧して圧着し、その後、直径10mmの大きさの円板状に切り出し、セラミック成形体を得た。
【0090】
次いで、得られたセラミック成形体を加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HOの混合ガスを焼成炉に供給して酸素分圧を1.8×10-1Paに調整した後、前記セラミック成形体を焼成炉に投入し、950℃の温度で2時間焼成した。すなわち、酸素分圧1.8×10-1Paは950℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧であり、セラミック成形体をCu−CuOの平衡酸素分圧で2時間焼成し、これにより試料番号21〜33の円板状試料を得た。
【0091】
次に、試料番号21〜33の各試料の両面にAg電極を形成し、50Vの直流電圧を印加して絶縁抵抗を測定し、試料形状から比抵抗ρを求めた。
【0092】
また、上述と同様にして得られた磁性体シートを、厚さが総計で1.0mmとなるように複数枚積層し、60℃に加熱し、100MPaの圧力で60秒間加圧して圧着し、その後、外径20がmm、内径が12mmとなるようにリング状に切り出し、セラミック成形体を得た。
【0093】
次いで、得られたセラミック成形体を上述と同様の条件で脱脂、焼成を行い、これにより試料番号21〜33のリング状試料を得た。
【0094】
そして、試料番号21〜33の各リング状試料について、軟銅線を20ターン巻回し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、E4991A)を使用し、周波数1MHzでのインダクタンスを測定し、その測定値から透磁率μを求めた。
【0095】
表1は試料番号21〜33の磁性体部の組成、A値(Fe及びMnの総計に対するMnの含有量)、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0096】
【表1】
【0097】
試料番号21は、比抵抗logρが3.6と低くなった。これはFeの含有量が49.0mol%と多いため、950℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧である1.8×10-1Paで焼成した場合、FeがFeに還元されてしまい、その結果、比抵抗logρが低下したものと思われる。
【0098】
また、試料番号33は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、このため比抵抗logρが4.6と低くなることが分かった。
【0099】
これに対し試料番号22〜32は、A値は2.0〜4.8であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは6.4〜8.7と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0100】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号23〜31は、比抵抗logρが7.3以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号24〜30は、比抵抗logρが7.9以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0101】
また、Mnを1.0mol%含有させたことから、透磁率μも38〜330となり、Fe含有量が同一の場合の実施例1と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【実施例2】
【0102】
Mnを2.0mol%含有させ、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号41〜53の円板状及びリング状試料を作製した。
【0103】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0104】
表2は試料番号41〜53の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0105】
【表2】
【0106】
試料番号41は、Feの含有量が49.0mol%と多く、このため上記実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.7と低くなった。
【0107】
また、試料番号53は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、比抵抗logρが4.7と低くなった。
【0108】
これに対し試料番号42〜52は、A値は4.0〜9.1であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは6.8〜8.9と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0109】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号43〜51は、比抵抗logρが7.7以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号44〜50は、比抵抗logρが8.2以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0110】
また、Mnを2.0mol%含有させたことから、透磁率μも42〜500となり、Fe含有量が同一の場合の実施例と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【実施例3】
【0111】
Mnを5.0mol%含有させ、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号61〜73の円板状及びリング状試料を作製した。
【0112】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0113】
表3は試料番号61〜73の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0114】
【表3】
【0115】
試料番号61は、Feの含有量が49.0mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.6と低くなった。
【0116】
また、試料番号73は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、比抵抗logρが4.8と低くなった。
【0117】
これに対し試料番号62〜72は、A値は9.4〜20.0であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは6.4〜8.6と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0118】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号63〜71は、比抵抗logρが7.4以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号64〜70は、比抵抗logρが7.8以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0119】
また、Mnを5.0mol%含有させたことから、透磁率μも50〜640となり、Fe含有量が同一の場合の実施例3と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【実施例4】
【0120】
Mnを7.5mol%含有させ、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号81〜93の円板状及びリング状試料を作製した。
【0121】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0122】
表4は試料番号81〜93の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0123】
【表4】
【0124】
試料番号81は、Feの含有量が49.0mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.5と低くなった。
【0125】
また、試料番号93は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、比抵抗logρは4.8に低下した。
【0126】
これに対し試料番号82〜92は、A値は13.5〜27.3であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは6.0〜8.2と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0127】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号83〜91は、比抵抗logρが7.0以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号84〜90は、比抵抗logρが7.3以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0128】
また、Mnを7.5mol%含有させたことから、透磁率μも55〜760となり、Fe含有量が同一の場合の実施例4と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【実施例5】
【0129】
Mnを10.0mol%含有させ、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号101〜113の円板状及びリング状試料を作製した。
【0130】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0131】
表5は試料番号101〜113の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0132】
【表5】
【0133】
試料番号101は、Feの含有量が49.0mol%と多いため、実施例1の試料番号1と同様の理由から、比抵抗logρが3.4と低くなった。
【0134】
また、試料番号113は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、比抵抗logρは4.3に低下した。
【0135】
これに対し試料番号102〜112は、A値は17.2〜33.3であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは5.6〜7.5と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0136】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号103〜111は、比抵抗logρが6.4以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号104〜110は、比抵抗logρが6.7以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0137】
また、Mnを10.0mol%含有させたことから、透磁率μも70〜900となり、Fe含有量が同一の場合の実施例5と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【実施例6】
【0138】
Mnを13.0mol%含有させ、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号121〜133の円板状及びリング状試料を作製した。
【0139】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0140】
表6は試料番号121〜133の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0141】
【表6】
【0142】
試料番号121は、Feの含有量が49.0mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.3と低くなった。
【0143】
また、試料番号133は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、比抵抗logρは3.6に低下した。
【0144】
これに対し試料番号122〜132は、A値は21.3〜39.4であり、Feの含有量が20〜48mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは5.0〜6.7と大きく十分な絶縁性を確保できることが分かった。
【0145】
特に、Feの含有量が25〜47mol%の試料番号123〜131は、比抵抗logρが5.6以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号124〜130は、比抵抗logρが6.0以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【0146】
また、Mnを13.0mol%含有させたことから、透磁率μも87〜1050となり、Fe含有量が同一の場合の実施例6と比較すると、透磁率μは向上することが分かった。
【0147】
このように実施例1〜6から明らかなようにFeの含有量が20〜48mol%とすることにより、比抵抗logρは5.0以上となって十分な絶縁性を確保でき、Mnの含有量を増量させることにより、透磁率μが向上することが分かった。
【実施例7】
【0148】
NiO:26.0mol%、ZnO:25.0mol%とし、CuOを含まず、Feの一部をMnで置換する形態でこれらFe及びMn表7に示すような組成となるように秤量した。
【0149】
そして、実施例1と同様の方法で試料番号141〜154の円板状試料を作製し、比抵抗logρを求めた。
【0150】
表7は試料番号141〜154の磁性体部の組成、A値、及び比抵抗logρを示している。
【0151】
【表7】
【0152】
試料番号141、142は、Feの含有量が49.0mol%、48.5mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが4.0、4.9と低くなった。
【0153】
また、試料番号153、154は、A値が50%以上であり、磁性体中のMn含有量がFe含有量よりも多いため、比抵抗logρは4.8、4.5と却って低下した。
【0154】
これに対し試料番号143〜152は、Feの含有量が29.0〜48.0mol%であり、A値も2.0〜40.8%であり、いずれも本発明範囲内であるので、比抵抗logρは5.3〜7.9となり、良好な絶縁性が得られることが分かった。
【実施例8】
【0155】
実施例でCuOの含有量を5.0mol%とし、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号161〜174の円板状試料を作製し、比抵抗ρを求めた。
【0156】
は試料番号161〜174の磁性体部の組成、A値、及び比抵抗logρを示している。
【0157】
【表8】
【0158】
試料番号161、162は、Feの含有量が49.0mol%、48.5mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.5、4.5と低くなった。
【0159】
また、試料番号173、174は、A値が50%以上であり、磁性体中のMn含有量がFe含有量よりも多いため、比抵抗logρが4.7、4.4と却って低下した。
【0160】
これに対し試料番号163〜172は、Feの含有量が29.0〜48.0mol%であり、A値が2.0〜40.8%と本発明範囲内であるので、比抵抗logρは5.2〜7.9となり、良好な絶縁性が得られることが分かった。
【実施例9】
【0161】
実施例でCuOの含有量を10.0mol%とし、それに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号181〜194の円板状試料を作製し、比抵抗ρを求めた。
【0162】
表9は試料番号181〜184の磁性体部の組成、A値、及び比抵抗logρを示している。
【0163】
【表9】
【0164】
試料番号181、182は、Feの含有量が49.0mol%、48.5mol%と多いため、実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.2、4.2と低くなった。
【0165】
また、試料番号193、194は、A値が50%以上であり、磁性体中のMn含有量がFe含有量よりも多いため、比抵抗logρが4.8、4.5と却って低下した。
【0166】
これに対し試料番号183〜192は、Feの含有量が29.0〜48.0mol%であり、A値が2.0〜40.8%と本発明範囲内であるので、比抵抗logρは5.0〜7.6となり、良好な絶縁性が得られることが分かった。
【実施例10】
【0167】
Fe:47mol%、Mn:1.0mol%、CuO:1.0mol%とし、表10に示すように、ZnOの含有量を1.0〜35.0mol%の範囲で異ならせ、これに応じてNiOの含有量を調整した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号201〜210のリング状試料を作製した。
【0168】
そして、実施例1と同様の方法・手順でリング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0169】
また、実施例1と同様のインピーダンスアナライザを使用し、各リング状試料について、透磁率μの温度特性を測定し、透磁率μの極大温度を求め、これをキュリー点Tcとした。
【0170】
表10は試料番号201〜210の磁性体部の組成、A値、透磁率μ、及びキュリー点を示している。
【0171】
【表10】
【0172】
試料番号210は、ZnOの含有量が35.0mol%と多いため、キュリー点Tcが110℃に低下し、このため動作保証温度が125℃以下となり、高温雰囲気での使用に支障が生じ得ることが分かった。
【0173】
これに対し試料番号201〜209は、ZnOの含有量が33.0mol%以下であるため、130℃以上のキュリー点Tcを確保できることが分かった。
【0174】
ただし、試料番号201、202は、ZnOの含有量が3.0mol%で透磁率は20に低下し、1.0mol%で透磁率μが15まで低下した。
【0175】
したがって、磁性体部中にZnOを含有する場合は、ZnOの含有量は33.0mol%以下が好ましく、より好ましくは6.0〜33.0mol%であることが確認された。
【0176】
図3はZnO含有量とキュリー点Tc及び透磁率μとの関係を示す図であり、横軸がZnO含有量(mol%)、左縦軸はキュリー点Tc(℃)、右横軸は透磁率μを示している。図中、●印がキュリー点、◆印が透磁率である。
【0177】
この図3から明らかなように、ZnO含有量の増加に伴い、透磁率μは上昇するが、キュリー点Tcが低下し、動作保証温度125℃を確保するためには、ZnO含有量は33mol%以上は必要である。
【0178】
一方、ZnO含有量の減少に伴い、透磁率μは低下し、ZnO含有量は6mol%未満で35未満となる。したがって、ZnOの含有量は6〜33mol%、好ましくは9〜33mol%であることが分かった。
【実施例11】
【0179】
実施例で使用した試料番号161(Fe:49.0mol%、Mn:0mol%、ZnO:25.0mol%、NiO:21.0mol%、CuO:5.0mol%)及び試料番号167(Fe:44.0mol%、Mn:5.0mol%、ZnO:25.0mol%、NiO:21.0mol%、CuO:5.0mol%)の磁性体シートを用意した。
【0180】
そして、レーザ加工機を使用し、磁性体シートの所定位置にビアホールを形成した後、Cu粉末、ワニス、及び有機溶剤を含有したCuペーストを磁性体シートの表面にスクリーン印刷し、かつ前記Cuペーストをビアホールに充填し、これにより所定形状のコイルパターン及びビアホール導体を形成した。
【0181】
次いで、コイルパターンの形成された磁性体シートを積層した後、これらをコイルパターンの形成されていない磁性体シートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを所定のサイズに切断し、セラミック積層体を作製した。
【0182】
次に、このセラミック積層体を、内部導体であるCuが酸化しない雰囲気で加熱して十分に脱脂した。そしてその後、N−H−HOの混合ガスにより酸素分圧が制御された焼成炉にセラミック積層体を投入し、3℃/分の昇温速度で950℃に昇温し、2時間保持して焼成し、これにより磁性体部にコイル導体が埋設されたフェライト素体を作製した。ここで、酸素分圧は、950℃におけるCu−CuOの平衡酸素分圧である1.8×10-1Paに設定した。
【0183】
次に、Ag粉、ガラスフリット、ワニス、及び有機溶剤を含有した外部電極用導電ペーストを用意し、この外部電極用導電ペーストをフェライト素体の両端に塗布して乾燥した後、750℃で焼き付けて外部電極を形成し、これにより試料番号161′、167′の試料を作製した。尚、試料番号161′、167′の各試料の外径寸法は長さ:1.6mm、幅:0.8mm、厚み:0.8mmであり、コイルのターン数は9.5ターンであった。
【0184】
次に、試料番号161′、167′の各試料について、実施例1と同様のインピーダンスアナライザを使用し、インピーダンス特性を測定した。
【0185】
図4は試料番号161′のインピーダンス特性を示し、図5は試料番号167′のインピーダンス特性を示している。横軸は周波数(Hz)、縦軸はインピーダンス(Ω)である。
【0186】
試料番号161′は、Fe含有量が49.0mol%と多く、比抵抗logρが低いため、図4から明らかなように、インピーダンスは最大でも220Ω程度であり、所望の高インピーダンスを得ることはできなかった。
【0187】
これに対し試料番号167′は、Fe含有量が44.0mol%、A値は10.2%であり、本発明範囲内であるので、比抵抗logρが大きくなり、その結果、図5に示すように、インピーダンス特性も顕著な山形形状を有している。そして、最大で約520Ωの高インピーダンスが得られ、特定周波数域で高いインピーダンスが得られることが分かった。
【実施例12】
【0188】
酸素分圧を950℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧の1/100である1.8×10-3Paに設定した以外は、実施例11と同様の方法・手順で試料番号161″、167″の試料を作製し、インピーダンス特性を測定した。
【0189】
図6は試料番号161″のインピーダンス特性を示し、図7は試料番号167″のインピーダンス特性を示している。横軸は周波数(Hz)、縦軸はインピーダンス(Ω)である。
【0190】
試料番号161″は、Fe含有量が49.0mol%と多く、しかもCu−CuOの平衡酸素分圧の1/100の低い酸素分圧で焼成しているため、比抵抗logρも更に低くなり、その結果図6に示すように、インピーダンスは100Ω以下となり、広範な周波数域で平坦となり、良好なインピーダンス特性を得ることはできなかった。
【0191】
これに対し試料番号167″は、Fe含有量が44.0mol%、A値は10.2%であり、本発明範囲内であるので、比抵抗logρも大きくなり、その結果、図7に示すように、実施例12の試料番号167′と略同様、インピーダンス特性も顕著な山形形状を有している。そして、最大で約570Ωの高インピーダンスが得られ、特定周波数域で高いインピーダンスが得られることが分かった。
【0192】
また、実施例11の試料番号167′と実施例13の試料番号167″との比較から明らかなように、Fe含有量が本発明範囲内の場合は、酸素分圧に依存することなく高いインピーダンスを得ることができることが分かった。
【0193】
このように本発明の磁性体組成を有するセラミック電子部品は、比抵抗logρが良好であり、これにより透磁率を損なうこともなく、高いインピーダンスを確保することができることが分かった。すなわち、内部電極材料にCuを主成分とした材料を使用した場合であっても、絶縁性が良好でインピーダンス特性が良好な積層コイル部品の得られることが確認された。
【参考例1】
【0194】
セラミック素原料としてMnを使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号1〜13の円板状及びリング状試料を作製した。
【0195】
そして、実施例1と同様の方法・手順で円板状試料を使用して比抵抗logρを求め、リング状試料を使用して透磁率μを求めた。
【0196】
表11は試料番号1〜13の磁性体部の組成、A値、比抵抗logρ、及び透磁率μを示している。
【0197】
【表11】
【0198】
試料番号1は、Feの含有量が49.0mol%と多く、上記実施例1の試料番号21と同様の理由から、比抵抗logρが3.6と低くなった。
【0199】
また、試料番号13は、Feの含有量が15.0mol%と少なく、この場合も比抵抗logρが4.5と低くなった。
【0200】
これに対し試料番号2〜12は、Mnは含有されていないものの、Feの含有量が20.0〜48.0mol%と本発明の範囲内であるので、比抵抗logρは5.5〜8.2と大きく十分な絶縁性を確保でき、しかも透磁率μも35〜290と良好な結果が得られることが分かった。
【0201】
特に、Feの含有量が25.0〜47.0mol%の試料番号3〜11は、比抵抗logρが6.5以上となってより好ましい結果が得られ、またFeの含有量が30〜46mol%の試料番号4〜10は、比抵抗logρが7.1以上となって更に好ましい結果が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0202】
Cuを主成分とする材料を導電部に使用し、導電部と磁性体部とを同時焼成しても、絶縁性が良好で、良好な電気特性を有するコイル部品等のセラミック電子部品を実現できる。
【符号の説明】
【0203】
2 磁性体部
3 コイル導体(導電部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7