(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979640
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】研磨工具
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
B24D3/00 310Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-35985(P2013-35985)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-161967(P2014-161967A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 勝彦
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第4420908(US,A)
【文献】
特開2003−071692(JP,A)
【文献】
特開2002−346424(JP,A)
【文献】
特開2001−328066(JP,A)
【文献】
特開2000−296449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
B24B 13/01
B24D 5/00 − 7/18
B24B 27/00
B24B 5/00 − 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の回転支持バーと、前記回転支持バーの先端に設けられた砥石チップを有してなる研磨工具であって、
前記回転支持バーは、その中間部に屈曲自在なヒンジ部を有すると共に、前記ヒンジ部より砥石チップ側に回転中のバランス不良の発生を抑制するバランサーを有し、
前記ヒンジ部は、前記回転支持バーの軸方向と直交する方向に延びるよう前記回転支持バーの外周面に設けられた対向する2対以上の円弧状の底面を有する溝で構成されており、
それら各溝は、前記回転支持バーの軸方向から見て等角度置きに設けられていることを特徴とする研磨工具。
【請求項2】
前記各溝は、互いに交差しないように前記回転支持バーの軸方向にずらせて設けられている請求項1記載の研磨工具。
【請求項3】
前記回転支持バーの直径Dに対し、前記溝の深さはD/3〜D/5である請求項1または2記載の研磨工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料、アルミニウム材料、銅材料などの金属材料の表面を均一な研磨力で自在に研磨する研磨工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料、アルミニウム材料、銅材料などの金属材料の表面を研磨するために従来から研磨工具が用いられていたが、従来からの研磨工具を用いた研磨では、手動若しくはNC制御された加工機を用いて研磨工具を動かすことで、平面或いは平面に近似する形状の表面の研磨は支障なく行えたものの、曲面或いは不均一な表面の研磨では、研磨工具の先端に設けられた砥石チップと金属材料の表面の位置関係を均一な状態として研磨することが難しく、金属材料の表面を均一な研磨力で研磨することは困難であった。
【0003】
その結果、研磨後の金属材料の表面に研磨不足部分や研磨過多部分が発生することになり、時によっては金属材料の表面に疵を負わることもあった。更には、研磨時に過負荷がかかり、研磨軸が折損したり、砥石チップに異常磨耗が発生したりすることもあり、このような問題が発生することのない研磨工具の開発が従来から待ち望まれていた。
【0004】
以上説明したような背景もあり、所望の研磨工具を実現するために従来から様々な検討がなされてきた。無機長繊維を50容量%以上含有する回転工具は、被加工物に当接させる角度を格別に考慮する必要がなく、あらゆる方向に亘って優れた切れ味を有するとした知見をもとに提案された発明が、特許文献1記載の発明である。この特許文献1には、回転工具の一例として、回転する回転チップと該回転チップを回動させる回動軸よりなる研磨するのに適するとした回転工具が開示されている。
【0005】
この回転工具は、砥石に替えて高い硬度の繊維を使用し、熱硬化性樹脂をバインダーとして空孔のないように密に形成している。このように構成することで、切削(研磨)に際してマトリックスの熱硬化性樹脂が無機長繊維より僅かに先行して磨耗するため、無機長繊維がマトリックスの表面から僅かに突出した刷毛状の面を形成し、この刷毛状の無機長繊維が切削要素となるため、被加工物に当接させる角度を格別に考慮する必要がなく、あらゆる方向に亘って優れた切れ味を有するとしている。
【0006】
しかしながら、実施例としては、鋼板を切削する円板状の回転工具しか例示されておらず、更には、そのメカニズムの説明ばかりか示唆すらなく、引用文献1記載の回転工具があらゆる方向に亘って優れた研磨力を有するか否かは不明である。
【0007】
また、特許文献2により、加工面に複数本の無機長繊維の先端が達している無機長繊維強化樹脂体からなる砥石チップと、該砥石チップが連結された砥石チップ支持部材とを有する研磨工具が提案されており、この研磨工具は、砥石チップ支持部材が、該砥石チップ支持部材の長さ方向と直交する方向に弾性変形可能であることを特徴としている。
【0008】
しかしながら、特許文献2記載の研磨工具は、砥石チップ支持部材の長さ方向と直交する方向に砥石チップ支持部材が弾性変形する場合に、研磨工具の先端に設けられた砥石チップと金属材料の表面の位置関係(距離)が変わるので、同様に砥石チップに加わる加工力も変わることになり、金属材料の加工面形状、砥石チップの磨耗量などが影響を受けることとなると考えられる。その結果、均一な研磨力で安定した加工を行うことができなくなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−232174号公報
【特許文献2】特開2006−35414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、鉄鋼材料、アルミニウム材料、銅材料などの金属材料の表面を研磨するにあたり、金属材料の表面が曲面或いは不均一な面であっても、均一な研磨力で自在に研磨することができる研磨工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、円柱状の回転支持バーと、前記回転支持バーの先端に設けられた砥石チップを有してなる研磨工具であって、前記回転支持バーは、その中間部に屈曲自在なヒンジ部を有すると共に、前記ヒンジ部より砥石チップ側に回転中のバランス不良の発生を抑制するバランサーを有し、前記ヒンジ部は、前記回転支持バーの軸方向と直交する方向に延びるよう前記回転支持バーの外周面に設けられた対向する2対以上の円弧状の底面を有する溝で構成されており、それら各溝は、前記回転支持バーの軸方向から見て等角度置きに設けられていることを特徴とする研磨工具である。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記各溝は、互いに交差しないように前記回転支持バーの軸方向にずらせて設けられている請求項1記載の研磨工具である。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記回転支持バーの直径Dに対し、前記溝の深さはD/3〜D/5である請求項1または2記載の研磨工具である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研磨工具によると、鉄鋼材料、アルミニウム材料、銅材料などの金属材料の表面を研磨するにあたり、金属材料の表面が曲面或いは不均一な面であっても、平面である場合と同様、或いはそれに近い均一な研磨力で自在に研磨することができる。その結果、研磨後の金属材料の表面に研磨不足部分や研磨過多部分が発生することはなく、研磨時に金属材料の表面に疵を負わせたり、回転支持バーが折損したり、砥石チップに偏った異常磨耗が発生したりするという問題を発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る研磨工具を示し、(a)は正面図、(b)は回転支持バーのヒンジ部のみを抽出した側面図である。
【
図2】本発明の異なる実施形態に係り、(a)は溝が2対のタイプの研磨工具の回転支持バーのヒンジ部のみを示す正面図、(b)はそのヒンジ部のみを抽出した斜視図、(c)はその回転支持バーの軸方向に直交する方向の断面図であり、溝底の位置を仮想線で示している。
【
図3】本発明の更に異なる実施形態に係り、(a)は溝が3対のタイプの研磨工具の回転支持バーを示す正面図、(b)はそのヒンジ部のみを抽出した斜視図、(c)はその回転支持バーの軸方向に直交する方向の断面図であり、溝底の位置を仮想線で示している。
【
図4】様々な砥石チップの形状を示す斜視図である。
【
図5】実施例の変形解析で回転支持バーの下端に荷重をかける方向を示す説明図である。
【
図6】実施例の変形解析で回転支持バーが変形した状態を示す説明図である。
【
図7】実施例の変形解析の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る研磨工具1を示す。この研磨工具1は、円柱状の回転支持バー2と、その回転支持バー2の先端にネジ止め等で固定された砥石チップ3を有して構成されており、回転支持バー2は、鉄、銅、アルミニウムや、それらの合金などの金属材料、或いはGFRP、CFRPなどの繊維強化プラスチックなど、強度を有する材料で形成されており、砥石チップ3は、カーボランダム砥石やアルミナ砥石などの材料で形成されている。回転支持バー2の基端側(
図1の上側)には、特に図示はしないが、例えば回転装置等にチャックされるシャンクを設けることができる。
【0018】
回転支持バー2の大きさは、長さが、例えば10mm〜500mm、直径が、例えば2mm〜50mmである。この回転支持バー2の中間部には屈曲自在なヒンジ部4が形成されており、ヒンジ部4より砥石チップ3側、すなわちヒンジ部4と砥石チップ3の中間には、研磨工具1が回転中にバランス不良を発生することを抑制するためのバランサー5が設けられている。
【0019】
ヒンジ部4は、回転支持バー2の軸方向と直交する方向に延びるように回転支持バー2の外周面に設けられた2対以上の円弧状の底面を有する溝(R溝)4aで構成されており、その断面形状は、半円形、半楕円形、或いは幾つかの曲率を有する形状である。これら溝4aは、背中合わせに対になって設けられており、
図2に示す実施形態の場合は2対・合計4本、
図3に示す実施形態の場合は3対・合計6本であり、
図2(c)、
図3(c)に示すように、回転支持バー2の軸方向から見て等角度置きに設けられている。尚、
図2,3に示す寸法は実施例のモデルに用いた寸法であり、必ずこの寸法である必要はない。
【0020】
図2(a)〜(c)に示すように、ヒンジ部4を構成する溝4aの本数が2対の場合は、2対の溝4aが夫々背中合わせに設けられることになり、この場合、4本の溝4aは、回転支持バー2の軸方向から見て90°の等角度置きに設けられていることになる。詳しく説明すると、
図2(c)に示すように、4本の溝4aに夫々直交する仮想線4bが90°の等角度置きに交差することとなる。
【0021】
また、各溝4aは互いに交差しないように背中合わせの対毎に回転支持バー2の軸方向にずらせて設けられることが好ましい。回転支持バー2の軸方向の1箇所に2対・合計4本の溝4aをまとめて設けた場合、溝4aをまとめて設けた部位のみが他の部位に比べて細くなりすぎ、強度上の支障が出る可能性がある。
【0022】
図3(a)〜(c)に示すように、ヒンジ部4を構成する溝4aの本数が3対の場合は、3対の溝4aが夫々背中合わせに設けられることになり、この場合、6本の溝4aは、回転支持バー2の軸方向から見て60°の等角度置きに設けられていることになる。詳しく説明すると、
図3(c)に示すように、6本の溝4aに夫々直交する仮想線4bが60°の等角度置きに交差することとなる。
【0023】
また、各溝4aは互いに交差しないように背中合わせの各対毎に回転支持バー2の軸方向に3段になるようにずらせて設けられることが好ましい。回転支持バー2の軸方向の1箇所に3対・合計6本の溝4aをまとめて設けた場合、溝4aをまとめて設けた部位のみが他の部位に比べて細くなりすぎ、強度上の支障が出る可能性がある。
【0024】
また、特に図示はしないが、ヒンジ部4を構成する溝4aの本数が6対の場合は、6対の溝4aが夫々背中合わせに設けられることになり、この場合、12本の溝4aは、回転支持バー2の軸方向から見て30°の等角度置きに設けられていることになる。詳しく説明すると、12本の溝4aに夫々直交する仮想線4bが30°の等角度置きに交差することとなる。
【0025】
また、各溝4aは互いに交差しないように背中合わせの各対毎に回転支持バー2の軸方向に6段になるようにずらせて設けられることが好ましい。回転支持バー2の軸方向の1箇所に6対・合計12本の溝4aをまとめて設けた場合、溝4aをまとめて設けた部位のみが他の部位に比べて細くなりすぎ、強度上の支障が出る可能性がある。
【0026】
回転支持バー2の直径Dに対し、溝4aの深さはD/3〜D/5である。溝4aの深さがD/3より深い場合、強度上の支障が出る可能性がある。一方、溝4aの深さがD/5より浅い場合、研磨時の回転支持バー2の変形が不十分となり、研磨する金属材料の表面が曲面或いは不均一な面である場合、均一な研磨力で自在に研磨することができなくなる。
【0027】
バランサー5は、回転支持バー2を形成する材料より比重が大きい材料で形成されており、例えば鋼球、鉛球などを採用することができる。これらバランサー5は、回転支持バー2の周りを取り巻くように回転支持バー2の表面に埋め込まれることで回転支持バー2に取り付けることができる。
【0028】
また、砥石チップ3の形状は、
図1に示すように円柱状のものの他、
図4に示すような円錐状、半球状、球状等様々な形状を採用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0030】
図2および
図3に示す回転支持バーのモデルを用いて変形解析を行った。
図2に示すタイプのものは溝が2対・合計4本のもの、
図3に示すタイプのものは溝が3対・合計6本のものである。
【0031】
本発明に係る研磨工具の回転支持バーのモデルを用いて、上端を固定した状態とし、下端に1.5kgfの荷重をかけるものとして変形解析を実施した。詳しくは、荷重方向は回転支持バーの軸方向に直交する方向とし、
図5に示すように15°刻みで荷重方向を変化させる方法で変形解析を実施した。尚、最初に変形解析実施した荷重方向を、仮に0°とし、以降、15°、30°、45°、60°、75°、90°とした。実施結果は、0°を荷重位置:1、15°を荷重位置:2、30°を荷重位置:3、45°を荷重位置:4、60°を荷重位置:5、75°を荷重位置:6、90°を荷重位置:7として示す。参考までに回転支持バーが変形した状態を
図6に示す。結果は、表1および
図7に示す通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
溝が2対・合計4本タイプでは変位量の最大差が約3.4μmであるのに対し、溝が3対・合計6本タイプでは変位量の最大差が約1.4μmである。このように、回転支持バーの外周面に多くの溝を形成したものほど変位量の最大差が少なくなるということできる。尚、溝が1対・合計2本タイプでは溝の長さ方向と同じ方向に荷重をかけた場合の変位量が、曲面或いは不均一な表面の研磨に適さないほどの小さな変位量となり、また、変位量の最大差は溝が2対・合計4本タイプより更に大きくなると想定できる。
【符号の説明】
【0034】
1…研磨工具
2…回転支持バー
3…砥石チップ
4…ヒンジ部
4a…溝
4b…仮想線
5…バランサー