(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
シリコンフォトニクスは、シリコン薄膜を成膜するシリコンテクノロジーを用いた光デバイスや光回路等を形成する技術であり、LSI中に光配線や光回路を導入してLSIを高速化する光インターコネクションを形成したり、LSIのシリコンプロセスを転用することによって光通信デバイスやセンサーデバイスの安価な製造への適用が期待されている。
【0003】
シリコンフォトニクスに用いる光配線や光回路を構成する基本的な要素として分岐あるいは結合を行う光カプラがあり、多モード干渉光導波路(MMI(Multimode Interference)導波路)を用いた光カプラが知られている。
【0004】
MMI導波路を用いた多モード干渉光カプラは、構造が単純で、小型であり、屈折率や波長による特性変化が小さいという特徴を有し、光の分岐、合流、異なる波長の分波・合波、異なる光路の光の干渉を組み合わせた変調器やスイッチング、フィルタリング等に用いられる。MMI導波路を用いた多モード干渉光カプラとして、様々な入出力数のものがあるが、最も多いのが2入力2出力型である。
【0005】
MMI導波路を用いた多モード干渉光カプラは、同様の機能を有する方向性結合器よりも製作許容誤差が大きいという利点があるため、シリコンCMOS技術を利用した高密度に集積された微小な光導波路において、重要な基本コンポーネントとなることが期待されている。
【0006】
従来、方向性結合器と比較して過剰損失が大きいという多モード干渉光カプラの課題を解決するために、入力光導波路及び出力光導波路において導波路幅を変化させたテーパー状の形状とすることで、入力光導波路及び出力光導波路における電界分布を空間的に緩やかな成分に変換し、多モード光導波路の放射モードとの結合による損失を減少させる多モード干渉光カプラが提案されている。(特許文献1参照)
【0007】
図16は、従来の多モード干渉光カプラの一構成例を説明するための図である。
図16において、多モード干渉光カプラ110は、多モード干渉光導波路からなる光結合部111と入力側の接続部112a,112b、および出力側の接続部113a,113bを備える。
【0008】
光結合部111は、入力した光を分岐あるいは結合する部位であり、例えば、幅広の矩形形状からなる多モード干渉光導波路で形成される。また、接続部112a,112b,113a,113bは光結合部111と光導波路とを接続する部位であり、接続部112a、112bにはそれぞれ入力光導波路122a,122bが接続され、接続部113a、113bにはそれぞれ出力光導波路123a,123bが接続される。
【0009】
入力側の接続部112aと接続部112bは、光結合部111の入力端114において間隔を開けて配置され、それぞれ光軸116a,116bに対して対称な外側と内側の傾斜面を有したテーパー形状であり、入力光導波路122a,122bに接続される。
【0010】
一方、出力側の接続部113aと接続部113bは、光結合部111の出力端115において間隔を開けて配置され、それぞれ光軸117a,117bに対して対称な外側と内側の傾斜面を有したテーパー形状であり、出力光導波路123a,123bに接続される。
【0011】
多モード干渉光カプラ110において、入力光導波路122aから接続部112aを介して光結合部111に導入された入力光、あるいは入力光導波路122bから接続部112bを介して光結合部111に導入された入力光は分岐され、接続部113aおよび接続部113bを介して出力光導波路123a,123bからそれぞれ出力光として導出される。
【0012】
本願の発明者は、導波路幅をテーパー状に変化させた入力光導波路及び出力光導波路の構成例を示している。(非特許文献1参照)
【0013】
また、テーパー状の入力光導波路及び出力光導波路において、入力光導波路及び出力光導波路を挟んでダミー導波路を設け、光導波路とダミー導波路との間に凹溝を設けることによって、光導波路の周囲の等価屈折率をMMI導波路の幅方向に関して対称に分布させることが提案されている。(特許文献2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
多モード干渉光カプラの基本的な性能として過剰損失および分岐比がある。ここで、過剰損失は主に多モード干渉光カプラの光結合部で発生する損失である。また、分岐比は、光結合器で分岐された2つの出力光の光強度の比率であり、例えば、二入力/二出力の多モード干渉光カプラでは、入力光導波路の光軸の延長上にある出力光導波路から導出される光強度(Through)と入力光導波路の光軸の延長から外れた光軸上にある他方の出力光導波路から導出される光強度(Cross)との比率(Through/Cross)で表される。
【0017】
多モード干渉光カプラを多段に接続する構成では、接続された系全体の損失は各段の多モード干渉光カプラの損失を加算したものであるため、系全体の損失を低減するには各段の多モード干渉光カプラの過剰損失が小さいことが求められる。
【0018】
例えば、各段の多モード干渉光カプラの過剰損失が0.3dB以下であれば、10段の多モード干渉光カプラを直列接続した場合の損失は3dB以下に抑えることができる。
【0019】
また、所望とされる分岐比は目的によって異なるものの、基本的には二つの出力光導波路に対して分岐の比率が1:1であることが求められる。
【0020】
多モード干渉光カプラに求められる過剰損失の低減と1:1の分岐比の要求を満たすために、多モード干渉光カプラの設計パラメータの最適化が行われる。設計パラメータの最適化は、はじめに光結合部を構成する幅広の矩形形状の導波路部分の幅と長さを最適化し、次に接続部を構成する二入力/二出力光導波路を最適化する。
【0021】
接続部の最適化では、一般に接続部の外形形状を緩やかな傾斜を有したテーパー形状とすることによって、光結合部の矩形導波路の光を二出力光導波路に導くことで損失を低減させている。
【0022】
また、接続部と光結合部の矩形導波路との接続個所において、隣接する接続部の光導波路を接近させると、矩形導波路から光導波路間の隙間を抜けて放出される成分が減少するため、放出による損失を低減させることができる。
【0023】
しかしながら、接続部の最適化において、接続部を緩やかな傾斜を有するテーパー形状とし、共に接近させて配置すると、隣接する2つの接続部の光導波路間において光の結合が発生して光導波路間でパワーのやり取りが起こり、分岐比が1:1に定まらないという問題がある。
【0024】
したがって、
・光結合部の矩形形状の光導波路部分の幅と長さの最適化
・接続部を構成する二入力/二出力光導波路のテーパー形状の長さの最適化
・接続部の隣接する光導波路間の間隔の最適化
の多モード干渉光カプラの設計パラメータの最適化において、接続部の隣接する光導波路間の光結合によって分岐比が不安定となるという問題がある。
【0025】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、多モード干渉光カプラの設計パラメータの最適化において、接続部の隣接する光導波路間の光結合による分岐比の不安定さを解消することを目的とする。
【0026】
また、多モード干渉光カプラにおいて、損失の低減と安定した分岐比との両要求を満たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本願発明は、多モード干渉光カプラにおいて、接続部のテーパー形状を光軸方向に対して非対称とする。この接続部の非対称構造によって、
1.接続部の隣接する光導波路が結合面から所定の距離の間において、光導波路間の間隔を離して光導波路間の結合を抑制し、分岐比を安定化させる。
2.光結合部の矩形の多モード光導波路中の伝搬光の波面と、接続部のテーパー形状の単一モード光導波路中の波面との整合を保って、波面の不整合による損失を低減する。
ものであり、これによって上記課題を解決するものである。
【0028】
本願発明の多モード干渉光カプラは、基板上に、多モード干渉光導波路からなる光結合部と、単一モード光導波路からなる接続部とを光学的に接続して備える。
【0029】
本願発明の光結合部は矩形形状であり、本願発明の接続部は、少なくとも一つの第1の接続部及び少なくとも二つの第2の接続部、あるいは少なくとも二つの第1の接続部及び少なくとも一つの第2の接続部を備える。
【0030】
第1の接続部は、単一モード光導波路からなる光導波路と光結合部の一端との間を光学的に接続する。第2の接続部は、単一モード光導波路からなる光導波路と光結合部の他端との間を光学的に接続する。
【0031】
第1の接続部と第2の接続部の少なくとも何れか一方の接続部は、光結合部側の幅が光導波路側の幅よりも広いテーパー形状である。テーパー形状は、接続部の光軸方向に対して非対称な台形形状である。
【0032】
テーパー形状は、接続される光結合部の両端間を結ぶ方向に対して外側の壁部と内側の壁部の内、外側の壁部は光結合部の結合面に対して直交する垂直辺を形成し、内側の壁部は光結合部の結合面に対して外側に傾斜する傾斜辺を形成し、接続部の光軸方向に対して非対称な片側垂直辺の台形形状である。
【0033】
従来知られている多モード干渉光カプラが備えるテーパー形状はテーパー部分の中心軸に対して対称形状である。このような対称なテーパー形状において、光導波路を外側に向かう構成(例えば、特許文献3,4参照)とした場合には、矩形導波路の中の伝搬光の波面とテーパー形状部分内の波面とが不整合を起こし損失が発生する。
【0034】
本願発明の非対称なテーパー形状による接続部は、二つの光導波路のテーパー状部分の外側の壁部の側面を光結合部の矩形導波路の矩形形状の側面と平行とし、テーパー状部分の内側の壁部の側面を外側に傾斜させることで、光結合部の矩形の多モード干渉光導波路中の伝搬光の波面と、接続部のテーパー形状の単一モード光導波路中の波面との整合を保持し、波面の不整合による損失を低減すると共に分岐比を保持する。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本願発明の多モード干渉光カプラによれば、光結合部の矩形の多モード干渉光導波路中の伝搬光の波面と、接続部のテーパー形状の単一モード光導波路中の波面との整合を保持し、波面の不整合による損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本願発明の多モード干渉光カプラの一構成例を説明するための図である。
【
図3】光結合部の長さLに対する分岐比の変化を示すシミュレーション結果である。
【
図4】光結合部の長さLに対する過剰損失の変化を示すシミュレーション結果である。
【
図5】接続部間の配置間隔gapに対する過剰損失の変化を示すシミュレーション結果である。
【
図6】設計パラメータとして光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gapを用いて得られた最適値における伝搬モードのy方向(面垂直方向)の磁界分布Hyを示す図である。
【
図7】設計パラメータとして接続部の配置間隔gapを変化させたときの伝搬モードのy方向(面垂直方向)の磁界分布Hyを示す図である。
【
図8】最適化したモデルの磁界分布を示す図である。
【
図9】テーパー長taperLに対する分岐比および過剰損失の変化を示す図である。
【
図10】設計パラメータとして接続部のテーパー長taperLを加えた最適化例を示す図である。
【
図11】テーパー形状が対称形状である場合と非対称形状である場合の磁界分布を示す図である。
【
図12】光結合部の長さLに対する分岐比および過剰損失の変化のシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】光結合部の幅Wに対する分岐比および過剰損失の変化のシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】接続部の配置間隔gapに対する分岐比および過剰損失の変化のシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】テーパー長taperLに対する分岐比および過剰損失の変化のシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】従来の多モード干渉光カプラの一構成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、
図1を用いて本発明の多モード干渉光カプラの構成例を説明し、
図2〜
図10を用いてシミュレーションによる設計パラメータの最適化について説明し、
図11〜
図15を用いて本願発明による非対称なテーパー形状による多モード干渉光カプラと従来の対称なテーパー形状による多モード干渉光カプラとを比較して説明する。
【0038】
[多モード干渉光カプラの構成例]
図1は、本願発明の多モード干渉光カプラの一構成例を説明するための図である。
図1において、多モード干渉光カプラ10は、多モード干渉光導波路からなる光結合部11と入力側の接続部12a,12b、および出力側の接続部13a,13bを備える。
【0039】
光結合部11は、入力した光を分岐あるいは結合する部位であり、幅広の矩形形状からなる多モード干渉光導波路で形成される。また、接続部12a,12b,13a,13bは光結合部11と光導波路とを接続する部位であり、接続部12a、12bにはそれぞれ入力光導波路22a,22bが接続され、接続部13a、13bにはそれぞれ出力光導波路23a,23bが接続される。
【0040】
入力側の接続部12aと接続部12bは、光結合部11の入力端14において間隔gapを開けて配置され、それぞれ光軸16a,16bに対して非対称な外側と内側の傾斜面を有したテーパー形状であり、入力光導波路22a,22bに接続される。
【0041】
一方、出力側の接続部13aと接続部13bは、光結合部11の出力端15において間隔gapを開けて配置され、それぞれ光軸17a,17bに対して非対称な外側と内側の傾斜面を有したテーパー形状であり、出力光導波路23a,23bに接続される。
【0042】
多モード干渉光カプラ10において、入力光導波路22aから接続部12aを介して光結合部11に導入された入力光、あるいは入力光導波路22bから接続部12bを介して光結合部11に導入された入力光は分岐され、接続部13aおよび接続部13bを介して出力光導波路23a,23bからそれぞれ出力光として導出される。
【0043】
また、多モード干渉光カプラ10において、入力光導波路22aから接続部12aを介して光結合部11に導入された入力光、および、入力光導波路22bから接続部12bを介して光結合部11に導入された入力光は、光結合器11において結合され、接続部13aを介して出力光導波路23aから出力光として導出されると共に、接続部13bを介して出力光導波路23bから出力光として導出される。
【0044】
2×2(二入力/二出力)カプラの場合には、接続部12,13はそれぞれ一対の接続部12a,12bおよび13a,13bを備える構成であるが、少なくとも一つの接続部12及び少なくとも二つの接続部13による構成、あるいは少なくとも二つの接続部12及び少なくとも一つの接続部13による構成としてもよい。接続部12は、単一モード光導波路からなる入力光導波路22a,22bと光結合部11の一端との間を光学的に接続し、接続部13は、単一モード光導波路からなる出力光導波路23a,23bと光結合部11の他端との間を光学的に接続する。
【0045】
接続部12と接続部13の少なくとも何れか一方の接続部は、光結合部11側の幅が光導波路側の幅よりも広いテーパー形状であり、このテーパー形状は、接続部12、13の光軸方向に対して非対称な台形形状である。
【0046】
接続部12,13の非対称なテーパー形状は、光結合部11の両端間を結ぶ方向に対して外側に面する壁部18と内側に面する壁部19の内、外側の壁部18は光結合部11の結合面20に対して直交する垂直辺を形成する。一方、内側の壁部19は光結合部11の結合面20に対して外側に向かって傾斜する傾斜辺を形成する。
【0047】
この構成によって、接続部12,13は、接続部の光軸方向に対して非対称な片側垂直辺を有する台形形状の形状となる。例えば、接続部12a,12b,13a,13bはそれぞれ光軸16a,16b,17a,17bに対して非対称な、片側垂直辺を有する台形形状である。
【0048】
接続部12a,12b,13a,13bの台形形状において、光結合部11の結合面20側のテーパー幅taperW1は、光導波路側のテーパー幅taperW2よりも幅広に形成される。
【0049】
設計パラメータとして、光結合部11の長さL、光結合部11の幅W、隣接する接続部間の配置間隔であるテーパー間隔gapが設定され、入力光導波路22a,22bおよび出力光導波路23a,23bの幅が定められることで光導波路側のテーパー幅taperW2が設定され、さらに、結合面20側のテーパー幅taperW1がシミュレーション等によって設定されている場合には、接続部12a,12b,13a,13bの傾斜辺である内側壁部19の傾きは、接続部12,13のテーパー長taperLを設計パラメータとして設定される。
【0050】
[シミュレーション]
以下、分岐比1:1の多モード干渉光導波路(MMI)型の2×2(二入力/二出力)カプラについて、時間領域差分法(FDTD)を用いた光伝搬シミュレーションによって低損失となるパラメータの最適設計について説明する。なお、シミュレーションの演算は、R-SOFT社の商用ソフトウェアFULLWAVE(登録商標)を用いた例を示している。
【0051】
以下、分岐比1:1の多モード干渉光導波路(MMI)型の2×2(二入力/二出力)カプラについて、時間領域差分法(FDTD)を用いた光伝搬シミュレーションによって低損失となる最適設計について説明する。
【0052】
(FDTDの原理)
時間領域差分法 (Finite Difference Time Domain: FDTD) は、電磁場のふるまいを記述したMaxwellの方程式をYeeセルで分割した領域に対して時間領域と空間領域で差分化し、直接、逐次計算する手法である。
【0053】
信頼出来る計算結果を得るために、計算精度が保証されるためのYeeセルサイズを媒質内波長の1/10以下とし、計算安定のため計算ステップ数Δtを式(1)のCourantの安定条件を満たすように設定する。
c・Δt≦{(1/Δx
2)+(1/Δy
2)+(1/Δz
2)}
−1/2 …(1)
【0054】
また、計算空間の周囲を終端するPML層を光導波路の端から500nm程度とすることで、十分な厚みが確保されているものとする。
【0055】
(計算条件)
計算モデルは3次元であり、基本的にSi薄膜に形成された導波路構造の周囲が全てSiO
2で埋め込まれた形状を想定している。
図2は解析モデル例を示している。
【0056】
図2は、多モード干渉光カプラが2×2(二入力/二出力)カプラである例を示している。このカプラの例では、長さL、幅Wの多モード干渉光導波路(MMI)から成る光結合部と、この光結合部の両端に設けられた二対のテーパー形状の接続部とを有している。光結合部の一端に設けられた接続部には入力光導波路が接続され、光源(source)から入力光が導入される。また、光結合部の他端に設けられた一対の接続部には出力光導波路が接続され、一方の出力光導波路には光結合部をそのまま通過した光がthrough光として導出され、他方の出力光導波路には光結合部を交差した光がcross光として導出される。
【0057】
ここで、多モード干渉光導波路(MMI)の光結合部の長さL、幅W、および光結合部に結合面に配置される一対のテーパー形状の接続部の配置間隔gapを多モード干渉光カプラの設計パラメータとして解析している。
【0058】
励振点や光導波路などの解析条件を以下の表1に示す。
【表1】
【0059】
(解析結果)
以下に、前記シミュレーションにより、光結合部の長さL、幅W、および光結合部に結合面に配置される一対のテーパー形状の接続部の配置間隔gapを設計パラメータとし、これら設計パラメータを変化させた場合の分岐比と過剰損失の変化の解析結果例を示す。
【0060】
図3〜
図5は、光結合部の長さLを5.3μm,幅Wを2.2μm、テーパー状の接続部の配置間隔gapを0.2μmとする設計パラメータの付近において、これら設計パラメータを変更した際の分岐比および過剰損失の変化をシミュレーションで求めた例を示している。なお、分岐比はThroughの光導波路の光強度とCrossの光導波路の光強度との比(Through/Cross)で表し、分岐比が1:1のときはThrough/Crossは1.0となる。
【0061】
図3は光結合部の長さLに対する分岐比の変化を示し、
図4は光結合部の幅Wに対する過剰損失の変化を示している。
【0062】
図3に示すシミュレーション結果から、分岐比は光結合部の長さLに対して周期性を有することが確認される。また、
図3に示すシミュレーション結果から、光結合部の長さLが5μmの近傍においては、分岐比が1:1に近くなると共に、過剰損失が小さく成ることが確認される。
【0063】
図4に示すシミュレーション結果から、光結合部の幅Wを大きくした場合には、分岐比は1:1に近づくが、過剰損失は大きく変動することが確認される。光結合部の幅Wに対する過剰損失の変動は変動幅が大きいことから、光結合部の幅Wの設計パラメータによって過剰損失を微調整することは困難である。
【0064】
図5に示すシミュレーション結果から、接続部の配置間隔gapが大きくなると過剰損失が増えることが確認される。
【0065】
図3〜
図5に示す設計パラメータに対する分岐比および過剰損失の変動特性に基づいて、分岐比が1:1に近く、かつ過剰損失が小さくなる光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gapの最適値を設定する。
【0066】
図6は、設計パラメータとして光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gapを用いて得られた最適値における伝搬モードのy方向(面垂直方向)の磁界分布Hyを示している。このときの分岐比はThrough/Cross=0.97であり、過剰損失は0.59dBであった。
【0067】
図7は、設計パラメータとして接続部の配置間隔gapを変化させたときの伝搬モードのy方向(面垂直方向)の磁界分布Hyを示している。
図7(a)〜(d)は接続部の配置間隔gapが0.2μmの場合を示し、
図7(e)〜(h)は接続部の配置間隔gapが0.3μmの場合を示している。
【0068】
設計パラメータの内の接続部の配置間隔gapを0.3μmから0.2μmに狭くすると、光結合部の出力側の接合面において光導波路に結合することなく直進して放出される光が減少する。
図7(a)の符号Aおよび
図7(e)の符号Bは、放出される光の状態を示し、符号Aに示す接続部の配置間隔gapが0.2μmの場合の光の放出状態は、符号Bに示す接続部の配置間隔gapが0.3μmの場合の光の放出状態よりも低減していることが確認される。
【0069】
接続部の配置間隔gapを狭めることで放出される光は減少するものの、このときの分岐比は1:1から大きくずれる。このとき、分岐比を1:1に調整するために光結合部の長さLを変化させると、光結合部の長さLが4.6μmのときに分岐比が所望のものとなることが確認される。しかし、過剰損失は1.43 dBとなり、前記した最適設計で得られる0.59dBと比較して大きくなる。
【0070】
これらのシミュレーション結果から、過剰損失は、接続部の配置間隔gapを狭くすることで減らすことができるが、光結合部の長さLを調整して分岐比を1:1に近づけるとすると再び増加する。
【0071】
設計パラメータの光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gap の調整によって得られる最低損失モデルはL=5.2μm、W=2.2μm,gap=0.2μmであり、
図8はこのときの磁界分布を示している。
【0072】
[テーパー形状]
本願発明は、隣接する接続部間における光の結合に注目し、この接続部のテーパー形状をテーパー部分の外側の側壁が光結合部の結合面に対して直角となる非対称な台形形状とし、接続部の光結合部側のテーパー幅W1および光導波路側のテーパー幅W2は、光結合部側の幅が光導波路側の幅よりも広いテーパー形状であり、このテーパー幅Wを固定したとき、接続部の光軸方向の長さであるテーパー長taperLを設計パラメータとして調整することによって、過剰損失を増やすことなく分岐比のみを調整する。
【0073】
したがって、本願発明の多モード干渉光カプラは、光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gapに加えて接続部のテーパー長taperLを分岐比および過剰損失を調整する設計パラメータとする。
【0074】
テーパー形状は、接続される光結合部の両端間を結ぶ方向に対して外側の壁部と内側の壁部の内、外側の壁部は光結合部の結合面に対して直交する垂直辺を形成し、内側の壁部は光結合部の結合面に対して外側に傾斜して傾斜辺を形成し、接続部の光軸方向に対して非対称な片側垂直辺の台形形状である。非対称なテーパー形状による接続部は、二つの光導波路のテーパー状部分の外側の壁部の側面を光結合部の矩形導波路の矩形形状の側面と平行とし、テーパー状部分の内側の壁部の側面を外側に傾斜させることで、光結合部の矩形の多モード干渉光導波路中の伝搬光の波面と、接続部のテーパー形状の単一モード光導波路中の波面との整合を保持し、波面の不整合による損失を低減すると共に分岐比を保持する。
【0075】
図9は、テーパー長taperLに対する分岐比および過剰損失の変化を示している。
図9のシミュレーション結果によれば、テーパー長taperLが3.3μmのときに分岐比を1:1に保持したまま過剰損失を0.3 dB以下の低損失となることが確認される。
【0076】
(最適化例)
図10は、設計パラメータとして、光結合部の長さL、幅W、接続部の配置間隔gapに加えて接続部のテーパー長taperLを用いて多モード干渉光カプラを最適化したときの一例であり、このときに最適パラメータ値は、表2に示すように、L=5.2μm、W=2.2μm、gap=0.2μm、taperL=3.3μmである。
【0078】
図10(a)は、設計パラメータの最適値例を示し、
図10(b)はこのときに得られる伝搬モードの磁界分布を示している。
【0079】
(テーパー形状による比較)
テーパー形状が従来の対称形状の場合と本発明の非対称形状の場合とを、設計パラメータをL=5.2μm、W=2.2μm、gap=0.2μmとした場合について比較する。
図11はテーパー形状が対称形状である場合と非対称形状である場合の磁界分布を示している。また、表3にテーパー形状が対称形状である場合と非対称形状である場合について、分岐比、過剰損失、および反射特性を示している。
【0081】
シミュレーションによる計算結果を比較すると、過剰損失0.19dBと反射34dBはほぼ等しく、分岐比には大きな違いが見られる。損失および反射に変化していないことから、接続部のテーパー部分で光が行き来して分岐比が1:1から変化したと考えられる。テーパー間隔gapを広げると、光結合部の多モード干渉光導波路(MMI)で調整された1:1の分岐比を保ったまま出力することができる。このことは図 11の磁界分布からも確認することができ、
図11(a)に示す対称なテーパー形状と
図11(b)に示す非対称なテーパー形状とでは、接続部のテーパー部分間での磁界の局在が減していることが確認される。さらに、入射側において、光を入射していない側の接続部のテーパー部分の光導波路での光の結合が抑制されていることが確認される。
【0082】
実際にデバイスを製作した際には完全に設計値通りに製作することは困難である。
【0083】
以下、本発明の非対称なテーパー形状によれば、設計パラメータの最適設計の製作誤差に対して耐性を有し、製作誤差に対して分岐比および過剰損失の変動が対称なテーパー形状と比較して小さいことを示す。
【0084】
図12〜
図15は、対称なテーパー形状と非対称なテーパ形状とを比較するものであり、光結合部の長さL、光結合部の幅W、接続部間の配置間隔gap、およびテーパー長taperLによる分岐比および過剰損失の変化を示している。
【0085】
図12〜
図15に示すシミュレーション結果は、非対称なテーパー形状とすることによって低損失と分岐比Through/Cross=1とを両立できることが確認される。
【0086】
対称なテーパー形状では0.3 dB以下の低損失になるパラメータ付近では、分岐比がThrough/Cross=0.6前後の値である。この状態から、分岐比Through/Cross=1となるように、光結合部の長さL、光結合部の幅W、接続部間の配置間隔gapの設計パラメータを変えることは可能であるが、損失は1dB以上と高くなる。
【0087】
図12に示す光結合部の長さLに対する過剰損失の変化、および
図13に示す光結合部の幅Wに対する分岐比および過剰損失の変化は比較的大きな変動を示すが、実際の製作では0.01μmオーダーの製作精度が得られるため、許容範囲とすることができる。
【0088】
図14に示す接続部間の配置間隔gapに対する分岐比および過剰損失の変化によれば、精密な製作が要求される接続部間の配置間隔gapに対しても、十分大きな製作許容を得ることができる。
【0089】
また、
図15に示す接続部のテーパー長taperLに対する分岐比および過剰損失の変動は小さく、十分大きな製作許容を得ることができる。
【0090】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。