特許第5979664号(P5979664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979664
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】シリコン結晶鋳造炉
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20160817BHJP
   H01L 31/04 20140101ALI20160817BHJP
【FI】
   C01B33/02 E
   H01L31/04
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-167854(P2012-167854)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-24729(P2014-24729A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、太陽エネルギー技術研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】関口 隆史
(72)【発明者】
【氏名】宮村 佳児
(72)【発明者】
【氏名】原田 博文
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−049510(JP,A)
【文献】 特開2001−010810(JP,A)
【文献】 特開平01−261213(JP,A)
【文献】 特開2000−203825(JP,A)
【文献】 特公昭34−004806(JP,B1)
【文献】 特開2012−056796(JP,A)
【文献】 米国特許第04272488(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
H01L 31/04−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液からシリコン結晶を析出させるルツボと、前記ルツボに不活性ガスを導入するガス導入装置とを設け、
前記ガス導入装置の内の前記不活性ガスが接触する箇所の内面の少なくとも一部はタングステンである、
シリコン結晶鋳造炉において
前記不活性ガスが接触する前記箇所は前記不活性ガスを前記ルツボに導入する管及び前記ルツボを覆うキャップを含む、シリコン結晶鋳造炉
【請求項2】
前記不活性ガスはアルゴンである、請求項1に記載のシリコン結晶鋳造炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に太陽電池の製造に使用するシリコン結晶の製造装置に関し、特に鋳造法でシリコン結晶を製造する際の炭素混入を低減することができるシリコン結晶鋳造炉に関する。
【背景技術】
【0002】
現在安価な太陽電池用シリコン結晶は、通常は鋳造法で育成されるが、商用の鋳造炉はヒーターや断熱材に炭素を使っているものが殆どである(本発明の実施例のシリコン鋳造炉の概略構造を示す図1も参照のこと。同図では、従来炭素を使用するのが普通であった箇所にはそのまま炭素を使用する構造を図示している)。鋳造炉は一般にその全体が1000℃以上の高温になるため、環境からの炭素混入による汚染が大きくなるという問題があった。シリコン結晶中の炭素濃度が高くなると、炭素の固溶限界を超えて炭化ケイ素が析出し、シリコン結晶の多結晶化が進む。このようなシリコン結晶で太陽電池を作製すると、リークが増大するなど太陽電池の効率を下げる原因になっている。
【0003】
炭素汚染を低減するには、溶融したシリコン融液にヒーターその他の外部環境から与えられる一酸化炭素などの炭素を含むガスが触れないようにするのが重要である。従来より、この種の接触を排除・低減するため、シリコン融液が入っている鋳造炉中にアルゴンガスなどの不活性ガスを強制的に導入し、排出するガス換気システムが使用されている(非特許文献1、2)。しかしながら、鋳造炉の周囲環境の炭素含有ガス濃度が高いため、この種のガス換気システムによる炭素含有ガスの排除効果は必ずしも満足できるものではなかった。また、ガス換気システムを構成するガス管の内壁に一酸化炭素などが接触すると、上述したように高温になっている内壁がこの種のガスと反応し、その反応生成物が内壁から剥落してシリコン融液に到達するという問題も起こっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解消し、従来に比べて炭素混入量の少ないシリコン結晶を製造することができるシリコン結晶鋳造炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、シリコン融液からシリコン結晶を析出させるルツボと、前記ルツボに不活性ガスを導入するガス導入装置とを設け、前記ガス導入装置の内の前記不活性ガスが接触する箇所の内面の少なくとも一部はタングステンである、シリコン結晶鋳造炉が与えられる。
ここにおいて、前記不活性ガスが接触する前記箇所は前記不活性ガスを前記ルツボに導入する管及び前記ルツボを覆うキャップを含んでよい。
また、前記不活性ガスはアルゴンであってよい。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成により、本発明のシリコン鋳造炉では周囲環境から内部に入り込む炭素含有ガスをその導入経路を通過する間にWCの形で固定するとともに、導入経路中に炭素を含有する固形物であるごみを生成しないので、シリコン鋳造炉内のルツボ中で成長するシリコン結晶への炭素混入量を、装置や製造工程を複雑化することなく大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例のシリコン鋳造炉の概略構造を示す図。
図2】本発明の実施例のシリコン鋳造炉の蓋の各種の概略構造を示す図。
図3】本発明の実施例及び比較例によって製造されたシリコン結晶中の炭素濃度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、シリコン鋳造炉において、炭素を含むガスをシリコン融液あるいはシリコン結晶から隔離するため、アルゴンなどのガスを強制的に結晶成長炉に導入し排出するガス導入装置に関するものである。このガス導入装置では、高温の炉内にガスを注入するのに用いるガス管や周辺の覆いの少なくとも内面をタングステンにすることで、高温に耐え、炭素を含まない高純度ガスをシリコン融液まで吹き付けることが可能となる。本発明により、炭素濃度は、従来法より1桁以上改善することが期待できる。
【0009】
タングステンは炭素を含むガス(主に一酸化炭素:CO)と反応し、その表面に炭化物(WC)を形成する。従って、少なくとも内面がタングステンでできた管やキャップが高温でこれらのガスに触れるとガスをWCの形でその表面に固定するが、この反応の際に煤などの炭素を含有しているごみを析出させることはなく、また管やキャップが腐食することもない。また、WCは表面に固着した態様で形成されるため、これが表面から剥落することもない。従って、管やキャップなどの炭素を含むガスの経路をタングステンで構成することにより、炭素を含むごみがシリコン融液中に落下することはない。一般にガス導入装置は、シリコン融液の上に位置しているため、ごみが融液に落ちやすい構造になっている。ごみを出さない素材は、低炭素濃度で純度の高い太陽電池用シリコン結晶を育成するために非常に重要である。
【実施例】
【0010】
図1は本発明の一実施例のシリコン鋳造炉の概略構造を示す図である。図1によれば、石英ルツボ内に投入したシリコンを溶融させ、ルツボの周囲に設けられたカーボンヒーターによって温度を調節しながら、適切な温度プロファイルに基いて溶融シリコンを冷却して結晶化させる。なお、図1に示すシリコン鋳造炉においては、本発明の特徴部分以外はこの種のシリコン鋳造炉の典型的な構造及び材料を採用している。
【0011】
図1からわかるように、このような石英ルツボの周囲には、石英ルツボが収容されているカーボンルツボ、加熱用のカーボンヒーター、またカーボン断熱材などの多くの炭素含有部材が存在している。上述のように、シリコン鋳造炉は通常その全体が1000℃以上の高温に加熱されているため、ヒーターなどのカーボン製部材から一酸化炭素などの炭素含有ガスが発生することは避けられない。このような炭素源がシリコン原料や溶融シリコンに近づいてそれに混入することを防止するため、ルツボ上部にキャップを被せ、ガス供給機構(図示せず)からガス管を経由して炭素源を含まないアルゴンガスを吹き込む。ここで、ガス管とキャップの少なくとも内面はタングステン製とする。
【0012】
なお、石英ルツボに被せるキャップの構造は、図1及び図2(A)に示すように、平板状であってシリコンが入っている石英ルツボの上端とほぼ同じ高さに置かれていても良いが、図2(B)に示すように、石英ルツボとの接続部を下方向へ延長することによって、キャップとシリコンの融液との間の距離を大きくしてもよい。その逆に、図2(C)に示すように、キャップの石英ルツボとの接続部を上方にオフセットすることによって、キャップと融液との間の距離を短くすることもできる。
【0013】
このようなシリコン鋳造炉を使用してシリコン結晶を製造するに当たって、吹き込まれるアルゴンガス中に混入したり、あるいはその他の経路から坩堝内の雰囲気に混入してくる炭素含有ガスは、高温になっているガス管あるいはキャップの内壁に接触することでタングステンと反応して炭化タングステン(WC)を生成する。このようにして生成された炭化タングステンはガス管あるいはキャップの内壁と一体となるため、そこから自然に剥落することはない。また、この反応により炭素単体やその他、炭素を含む固体や液体の微粒子(煤など)は発生しない。従って、アルゴンガス中の炭素成分はWCの形でガス管あるいはキャップの内壁に固定され、その他の炭素含有微粒子も生成されないため、溶融シリコンには炭素成分が気体、液体、固体の何れの形態でも到達しないか、あるいは到達量が大幅に低減される。
【0014】
図3は、図1に示した本発明の一実施例のシリコン鋳造炉で製造したシリコン結晶の炭素含有量分布、及び比較例として図1と同様な構造であるがガス管及びキャップの材料として従来のカーボンあるいは石英を使用したシリコン鋳造炉で作成したシリコン結晶の炭素含有量分布を示す図である。図3中に示すように、実験1〜3は比較例であり、図1に概略的に示すシリコン鋳造炉においてガス管とキャップの材質としてカーボンと石英との組合せとした場合のものである。具体的には、ガス管及びキャップの材質の組合せをカーボン−カーボン(実験1)、石英−カーボン(実験2)、石英−石英(実験3)とした。また、実験4は、ガス管とキャップの両者の材質をタングステンとしたものである。図3中のグラフは、ガス管及びキャップの材質の組合せを上述のように四通りに変化させて鋳造した結晶シリコン内の場所による格子間炭素濃度をプロットしたものである。ここで結晶シリコン内の場所としては、結晶高さ、すなわち結晶の底部から測定した高さを使用した。
【0015】
図3のグラフから明らかなように、比較例である実験1〜3では、炭素混入への従来技術における対策、すなわち鋳造過程中にガス管からアルゴンガスを導入し続けるという処置を行ったにもかかわらず、鋳造後の結晶シリコン中にはかなりの炭素混入が見られた。ガス管とキャップの材質として炭素を含まない石英を採用した実験3でも、ガスの経路の材料としてカーボンを使用した実験1,2に比べると格子間炭素濃度は1桁程度低下するものの、まだ満足できる結果は得られなかった。
【0016】
これに対して、ガス導入装置、つまりガスの経路の壁面にタングステンを使用した本発明の実施例である実験4では、格子間炭素濃度が測定装置の検出限界である3.E+15原子/cm以下であることが確認された。これは比較例中では最良の結果が得られた実験3と比較してもほぼ1/3〜1/20倍低濃度であった。これにより、ガスの経路として単にカーボンを含まない材質を使用するだけではなく、ガス中に混入した炭素成分と反応してそれを経路の壁に強固に固着させるタングステンを使用することによる炭素混入量の一層の低減という効果が確認された。
【0017】
なお、ガス導入装置の全体がタングステン製である必要はなく、上で説明したタングステンの作用から明らかなように、ルツボに導入するガスと接触する部分だけがタングステンであれば良い。また、このようなガスと接触する部分全体がタングステンで覆われていることは必ずしも必要ではなく、ガスが上述したタングステンの作用が十分に発揮されるに足る面積でタングステンに接触することでシリコンへの炭素混入量を大幅に低減できる。従って、炭素混入量を要求水準にまで低下させることができるのであれば、ガス導入装置内壁の一部はタングステンでない構成も可能であることに注意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば装置や製造工程を複雑化することなくシリコン結晶の炭素含有量を大幅に低減することができるため、コストの増大をほとんど伴わずに太陽電池の効率を改善することが可能になるなど、産業上の利用可能性には大きいものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Journal of the Japanese Association of Crystal Growth Vol.36, No.4 (2009) 261-267, B. Gao, S. Nakano, K. Kakimoto
【非特許文献2】Journal of Crystal Growth 312 (2010) 1572-1576, B. Gao, X.J. Chen, S. Nakano, K. Kakimoto
図1
図2
図3