(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
人工タンパク質ポリマー(A)1分子中の、GAGAGS配列(1)とGVGVP配列(3)及びGKGVP配列(13)の合計との配列の数の比率(配列(1):GVGVP配列(3)及びGKGVP配列(13)の合計)が、1:2〜1:20である請求項1に記載のタンパク質水溶液。
人工タンパク質ポリマー(A)のSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法による分子量が15〜200kDaである請求項1又は2に記載のタンパク質水溶液。
人工タンパク質ポリマー(A)が、ポリペプチド鎖(Y)中の1個のアミノ酸がリシンで置換されたポリペプチド鎖(Y’1)を有する人工タンパク質ポリマー(A1)である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質水溶液。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、人工タンパク質ポリマー(A)は、動物由来成分を排除するために、人工的に製造されるものであり、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって製造できる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。有機合成法及び遺伝子組み換え法とも、人工タンパク質ポリマー(A)を作製できるが、アミノ酸配列を簡便に変更でき、安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0009】
本発明において、人工タンパク質ポリマー(A)は、VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(4)のうちいずれか1種のアミノ酸配列(X)が2〜200個連続したポリペプチド鎖(Y)並びに/又は下記ポリペプチド鎖(Y’)を有し、(A)中の(Y)と(Y’)との合計個数が1〜100個であり、(A)の疎水性度が0.2〜1.2である人工タンパク質ポリマーである。
ポリペプチド鎖(Y’):(Y)中の1〜100個のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されているポリペプチド鎖。
【0010】
人工タンパク質ポリマー(A)は、VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(4)のうちいずれか1種のアミノ酸配列(X)を有していればいいが、VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群から選ばれる2種以上の(X)を有していてもいい。2種以上の(X)を有している場合は、それぞれの種類の(X)が2〜200個連続したポリペプチド鎖を(Y)とする。2種以上の(X)を有するタンパク質ポリマー(A)として、具体的には、ポリペプチド鎖(Y)が(VPGVG)
b配列、(GVGVP)
c配列、(GPP)
d配列、(GAP)
e配列及び(GAHGPAGPK)
f配列から選ばれる2種以上の配列である人工タンパク質ポリマー(A)である(なお、b〜fは、それぞれ、アミノ酸配列(X)の連続する個数であり、2〜200の整数である)。
【0011】
アミノ酸配列(X)としては、細胞親和性の観点から、VPGVG配列(2)又はGVGVP配列(3)が好ましい。つまり、細胞親和性の観点から、(A)が、ポリペプチド鎖(Y)として(VPGVG)
b配列を有するもの又はポリペプチド鎖(Y)として(GVGVP)
c配列を有するものが好ましい。
アミノ酸配列(X)として、VPGVG配列(2)、GVGVP配列(3)、GPP配列、GAP配列及びGAHGPAGPK配列(4)からなる群から選ばれる2種以上の配列を有する場合、細胞親和性の観点から、GPP配列、GVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)から選ばれる2種以上の配列であることが好ましく、特に好ましくはGVGVP配列(3)及びGAHGPAGPK配列(4)である。
【0012】
また、人工タンパク質ポリマー(A)中にアミノ酸配列(X)が同種類のポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、上記(X)の連続する個数は、(Y)ごとに同一でも異なっていてもよい。すなわち、上記b〜fが同じポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよく、(X)の連続する個数b〜fが異なるポリペプチド鎖(Y)を複数有してもいい。
【0013】
ポリペプチド鎖(Y)は、アミノ酸配列(X)が2〜200個連続した(上記b〜fが2〜200)配列であるが、肉芽組織形成を促進させるという観点から、連続する個数は2〜50個(上記b〜fが2〜50)が好ましく、さらに好ましくは2〜30個(上記b〜fが2〜30)である。
【0014】
本発明において、(A)は、アミノ酸配列(X)中の1〜5個のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されているアミノ酸配列(X’)を有するものであってもいい。アミノ酸配列(X’)において、アミノ酸配列(X)中のアミノ酸の置換の数(リシン及び/又はアルギニンで置換される数)は、親水性(水への溶解性)の観点から、1〜4が好ましく、さらに好ましくは1〜3である。
アミノ酸配列(X’)として、親水性の観点から、GKGVP配列(13)、GKGKP配列(14)、GKGRP配列(15)及びGRGRP配列(16)から選ばれる1種以上の配列であることが好ましく、さらに好ましくはGKGVP配列(13)及びGKGKP配列(14)である。
【0015】
ポリペプチド鎖(Y’)は、ポリペプチド鎖(Y)を構成するアミノ酸配列(X)が、一部アミノ酸配列(X’)に置換され、ポリペプチド(Y)中の1〜100個のアミノ酸がK(リシン)及び/又はR(アルギニン)で置換されたものとなったポリペプチド鎖である。ポリペプチド鎖(Y’)であるかどうかは、人工タンパク質ポリマー(A)の配列中の全てのK及びRを、他のアミノ酸(G、A、V、P又はH)に置きかえたときに、ポリペプチド鎖(Y)となるかによって判断する。
(Y’)において、(Y)中の置換されるアミノ酸の数は、水への溶解性の観点から、1〜70個が好ましく、さらに好ましくは1〜30個である。
【0016】
人工タンパク質ポリマー(A)中に、(X)の種類及び/又は連続する個数が異なる(Y)を有している場合は、それぞれを1個として数え、(Y)の個数はその合計である。(Y’)も同様である。
【0017】
人工タンパク質ポリマー(A)は、(A)1分子中にポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を合計1〜100個有するが、肉芽組織形成を促進させるという観点から、1〜80個が好ましく、特に好ましくは1〜60個である。
【0018】
本発明において、(A)の疎水性度は0.2〜1.2であり、(A)の溶解性及びゲル化する観点から、0.3〜1.1が好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.0であり、特に好ましくは0.5〜1.0である。
(A)の疎水性度は、(A)分子の疎水性の度合いを示すものであり、(A)分子を構成するそれぞれのアミノ酸の数(M
α)、それぞれのアミノ酸の疎水性度(N
α)及び(A)1分子中のアミノ酸の総数を、下記数式に当てはめることにより算出することができる。なお、それぞれのアミノ酸の疎水性度は、非特許文献(レ−ニンジャ−の新生化学 上,p.346−347)に下記の数値が記載されている。
疎水性度=Σ(M
α×N
α)/(M
T)
M
α:(A)1分子中のそれぞれのアミノ酸の数
N
α:各アミノ酸の疎水性度
M
T:(A)1分子中のアミノ酸の総数
A(アラニン):1.8
R(アルギニン):−4.5
N(アスパラギン):−3.5
D(アスパラギン酸):−3.5
C(システイン):2.5
Q(グルタミン):−3.5
E(グルタミン酸):−3.5
G(グリシン):−0.4
H(ヒスチジン):−3.2
I(イソロイシン):4.5
L(ロイシン):3.8
K(リシン):−3.9
M(メチオニン):1.9
F(フェニルアラニン):2.8
P(プロリン):−1.6
S(セリン):−0.8
T(トレオニン):−0.7
W(トリプトファン):−0.9
Y(チロシン):−1.3
V(バリン):4.2
例えば、(A)が(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(8)である場合、(A)の疎水性度={16(Gの数)×(−0.4)+15(Vの数)×4.2+8(Pの数)×(−1.6)+1(Kの数)×(−3.9)}/40(アミノ酸の総数)=1.00である。
【0019】
本発明においては、人工タンパク質ポリマー(A)が上記ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有していることで、細胞親和性が高く、肉芽組織形成及び上皮化促進効果が優れた組織再生用材料となる。また、上記ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、且つ(A)の疎水性度が上記範囲内であることにより、組織再生用材料である人工タンパク質ポリマー(A)を水に溶解することができ、また、この水溶液をゲル化することができる。さらに、この水溶液がゲル化することで、組織再生用材料として用いた際に、組織再生用材料が創傷部に密着し、細菌の増殖を抑制することができる。
【0020】
本発明において、人工タンパク質ポリマー(A)は、さらにGAGAGS配列(1)を有していてもいい。(A)がGAGAGS配列(1)を有している場合、(A)がゲル化する観点から、GAGAGS配列(1)が2〜100個連続して結合したポリペプチド鎖(S)を有していることが好ましい。
ポリペプチド鎖(S)において、配列(1)が連続する数は、ゲル化する観点から、2〜100個が好ましく、より好ましくは2〜50個であり、さらに好ましくは3〜40個であり、特に好ましくは4〜30個である。
(A)において、ポリペプチド鎖(S)を有する際、(A)1分子中に(S)を1つ有すればよいが、ゲル化する観点から、1〜20個が好ましく、さらに好ましくは3〜10個である。
【0021】
人工タンパク質ポリマー(A)において、ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)及びポリペプチド鎖(S)を合計2個以上有する場合は、ポリペプチド鎖とポリペプチド鎖との間に、介在アミノ酸配列(Z)を有していてもいい。(Z)は、アミノ酸1個、アミノ酸配列(X)1個又はアミノ酸が2個以上結合したペプチド配列である。(Z)を構成するアミノ酸の数は、細胞親和性の観点から、1〜30個が好ましく、さらに好ましくは1〜15個、特に好ましくは1〜10個である。(Z)として、具体的には、VAAGY配列(5)、GAAGY配列(6)及びLGP配列等が挙げられる。
【0022】
人工タンパク質ポリマー(A)中の両末端の各ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)及びポリペプチド鎖(S)のN及び/又はC末端には、末端アミノ酸配列(T)を有していてもいい。(T)は、アミノ酸1個、アミノ酸配列(X)1個又はアミノ酸が2個以上結合したペプチド配列である。(T)を構成するアミノ酸の数は、細胞親和性の観点から、1〜100個が好ましく、さらに好ましくは1〜50個、特に好ましくは1〜40個である。(T)として、具体的には、MDPVVLQRRDWENPGVTQLNRLAAHPPFASDPM配列(7)等が挙げられる。
【0023】
人工タンパク質ポリマー(A)は、上記(T)以外に、発現させた(A)の精製または検出を容易にするために、(A)のN及び/又はC末端に特殊なアミノ酸配列を有するタンパク質又はペプチド(以下これらを「精製タグ」と称する)を有してもいい。精製タグとしては、アフィニティー精製用のタグが利用される。そのような精製タグとしては、ポリヒスチジンからなる6×Hisタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV−Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09
TM、CruzTag22
TM、CruzTag41
TM、Glu−Gluタグ、Ha.11タグ及びKT3タグ等がある。
以下に、各精製タグ(i)とそのタグを認識結合するリガンド(ii)との組み合わせの一例を示す。
(i−1)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS) (ii−1)グルタチオン
(i−2)マルトース結合タンパク質(MBP) (ii−2)アミロース
(i−3)HQタグ (ii−3)ニッケル
(i−4)Mycタグ (ii−4)抗Myc抗体
(i−5)HAタグ (ii−5)抗HA抗体
(i−6)FLAGタグ (ii−6)抗FLAG抗体
(i−7)6×Hisタグ (ii−7)ニッケル又はコバルト
前記精製タグ配列の導入方法としては、発現用ベクターにおける人工タンパク質ポリマー(A)をコードする核酸の5’又は3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用する方法等が挙げられる。
【0024】
人工タンパク質ポリマー(A)1分子中のアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(重量%)は、肉芽組織形成を促進させるという観点から、(A)の分子量を基準として10〜80重量%が好ましく、さらに好ましくは15〜75重量%である。
【0025】
人工タンパク質ポリマー(A)中のアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量は、プロテインシークエンサーによって求めることができる。具体的には、下記の測定法により求めることができる。
<アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の含有量の測定法>
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法から2種類以上を用いて、人工タンパク質ポリマー(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシークエンサーにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、人工タンパク質ポリマー(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量を測定する。
アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(%)=[{アミノ酸配列(X)の分子量}×{アミノ酸配列(X)の数}+{アミノ酸配列(X’)の分子量}×{アミノ酸配列(X’)の数}]/{(A)の分子量}×100
【0026】
タンパク質ポリマー(A)1分子中の、GAGAGS配列(1)とアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)との配列の数の比率(GAGAGS配列(1):アミノ酸配列(X)及び(X’)の合計)は、ゲル化する観点から、1:2〜1:20が好ましく、さらに好ましくは1:2〜1:10である。
【0027】
人工タンパク質ポリマー(A)の分子量は、菌増殖抑制の観点から、15〜200kDaが好ましく、さらに好ましくは15〜100kDaである。
なお、人工タンパク質ポリマー(A)の分子量は、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法により、測定サンプルを分離し、泳動距離を標準物質と比較する方法によって求められる。
【0028】
人工タンパク質ポリマー(A)は、上記のポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有していることにより、(A)を後述するタンパク質水溶液(B)とした際に、熱等の刺激により(B)の流動性が低くなるものがある。人工タンパク質ポリマー(A)1分子中のアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計含有量(重量%)が多ければ、(A)が刺激により流動性が低くなる可能性が高くなり、(X)及び(X’)の合計含有量が50重量%以上であれば非常に高い。
また、疎水性度が低すぎると、親水性が高くなりゲル化せず、また疎水性度が高すぎると、水に溶解してタンパク質水溶液とすることができない。
また、(A)がポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、疎水性度が0.2〜1.2であればゲル化するが、(A)がGAGAGS配列(1)を有していると、(A)のゲル化能がさらに高くなる。特に、GAGAGS配列(1)とアミノ酸配列(X)及び(X’)との比が1:2〜1:20であることで、さらに高くなる。
熱等の刺激により(B)がゲル化し、流動性が低くなれば、(B)を患部に投与した際に流出しにくくなり、また菌増殖抑制の効果が高くなる。
【0029】
上記刺激として熱を加えた場合、後述するタンパク質水溶液(B)の温度としては、人工タンパク質ポリマー(A)の熱安定性の観点から、25〜80℃が好ましく、さらに好ましくは25〜50℃、特に好ましくは30〜40℃である。
【0030】
好ましい人工タンパク質ポリマー(A)の一部を以下に例示する。
(1)アミノ酸配列(X)がGVGVP配列(3)の人工タンパク質ポリマー
(1−1)GVGVP配列(3)が連続したポリペプチド鎖(Y1)中の1個のアミノ酸がK(リシン)で置換されたポリペプチド鎖(Y’1)を有する人工タンパク質ポリマー(A1)であり、さらに好ましくは、(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(8)であるポリペプチド鎖(Y’11)及び(GAGAGS)
4配列(9)であるポリペプチド鎖(S1−1)を有する人工タンパク質ポリマー(A11)、ポリペプチド鎖(Y’11)及び(GAGAGS)
2配列(10)であるポリペプチド鎖(S1−2)を有する人工タンパク質ポリマー(A12)、並びにポリペプチド鎖(Y’11)、ポリペプチド鎖(S1−1)及びポリペプチド鎖(S1−2)を有する人工タンパク質ポリマー(A13)である。
具体的には、GAGAGS配列(1)が4個連続した(GAGAGS)
4配列(9)のポリペプチド鎖(S1−1)を12個及びGVGVP配列(3)が8個連続したポリペプチド鎖(Y11)中のV(バリン)のうち1個がK(リシン)に置換された(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(8)(Y’11)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、GAGAGS配列(1)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(10)のポリペプチド鎖(S1−2)1個が化学結合した構造を有する分子質量が約80kDaの配列(11)の人工タンパク質ポリマー(SELP8Kポリマー、疎水性度0.618);GAGAGS配列(1)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(10)のポリペプチド鎖(S1−2)及び(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(8)のポリペプチド鎖(Y’11)をそれぞれ17個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約82kDaの配列(12)の人工タンパク質ポリマー(SELP0Kポリマー、疎水性度0.718)等である。
(1−2)GVGVP配列(3)が連続したポリペプチド鎖(Y2)を有する人工タンパク質ポリマー(A2)であり、さらに好ましくは、GVGVP配列(3)が2個連続したポリペプチド鎖(Y21)及びGAGAGS配列(1)が6個連続したポリペプチド鎖(S2−1)を有する人工タンパク質ポリマー(A21)であり、具体的には、ポリペプチド鎖(Y21)とポリペプチド鎖(S2−1)が結合したアミノ酸ブロック(L−1)が29個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約93kDaの配列(18)の人工タンパク質ポリマー(SLP4.1ポリマー、疎水性度0.47)である。
(1−3)GVGVP配列(3)が連続したポリペプチド鎖(Y1)中の2個のアミノ酸がK(リシン)で置換されたポリペプチド鎖(Y’3)を有する人工タンパク質ポリマー(A3)であり、さらに好ましくは、GKGVP配列(13)が2個連続したポリペプチド鎖(Y’31)、GAGAGS配列(1)が6個結合したポリペプチド鎖(S2−1)及びGAGAGS配列(1)が10個結合したポリペプチド鎖(S2−2)を有する人工タンパク質ポリマー(A31)である。
具体的には、ポリペプチド鎖(S2−1)にポリペプチド鎖(Y’31)が結合し、さらにポリペプチド鎖(S2−2)が結合したアミノ酸ブロック(L−2)が10個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約73kDaの配列(26)の人工タンパク質ポリマー(SLP4.2ポリマー、疎水性度0.2)等である。
【0031】
(2)アミノ酸配列(X)がVPGVG配列(2)の人工タンパク質ポリマー
(2−1)VPGVG配列(2)が連続したポリペプチド鎖(Y4)を有する人工タンパク質ポリマー(A4)であり、具体的には、VPGVG配列(2)が160個連続したポリペプチド鎖(Y41)を有する分子質量が約65kDaの配列(21)の人工タンパク質ポリマー(ELP1、疎水性度1.2)である。
(2−2)VPGVG配列(2)が4個連続したポリペプチド鎖(Y5−1)及びVPGVG配列(2)が8個連続したポリペプチド鎖(Y5−2)を有する人工タンパク質ポリマー(A5)であり、さらに好ましくは、VPGVG配列(2)が4個連続したポリペプチド鎖(Y5−1)、VPGVG配列(2)が8個連続したポリペプチド鎖(Y5−2)及びGAGAGS配列(1)を有する人工タンパク質ポリマー(A51)であり、具体的には、ポリペプチド鎖(Y5−1)にGAGAGS配列(1)が結合し、さらにポリペプチド鎖(Y5−2)が結合したアミノ酸ブロック(L−3)が40個繰り返し化学結合した構造を有する分子質量が約220kDaの配列(17)の人工タンパク質ポリマー(ELP1.1ポリマー、疎水性度1.12)である。
【0032】
本発明の組織再生用材料は、上記人工タンパク質ポリマー(A)からなるものである。組織再生用材料の患部への適用方法としては、下記の方法が挙げられる。
(1)本発明の組織再生用材料及び水を所定量含む後述するタンパク質水溶液(B)を4〜25℃で作製する。(B)は必要により無機塩及び/又はリン酸(塩)を含んでもよい。また、(B)は必要により患部に投与する直前に温めてもよい。
(2)患部に(B)を投与する。
(3)投与後、(B)が患部から流出しないように、適当なドレッシングで被覆する。
【0033】
タンパク質水溶液(B)中の各成分の量は、後述する本発明のタンパク質水溶液(B)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
また、(B)を温める温度として、好ましい温度は、後述する本発明の(A)をゲル化させる方法と同様である。
【0034】
患部への投与方法としては、患部を被覆できれば特に制限はないが、肉芽組織形成及び上皮化促進の観点から、患部の欠損部分を埋めるように注入することが好ましい。
【0035】
上記(3)で使用するドレッシングの材質としては、特に限定されないが、ポリウレタン、シリコーン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体及びナイロン等が挙げられる。
ドレッシングの形状としては、(B)を投与後に、(B)が患部から流出しないように被覆できれば制限なく使用できるが、フィルム状が好ましい。
【0036】
本発明の組織再生用材料は、動物由来の血清等が含まれていないので、抗原性が低いと推察される。また、人工タンパク質ポリマー(A)は生物由来配列を有するので、生体適合性が高いと推察される。さらに、人工タンパク質ポリマー(A)は大腸菌等の細菌により、安価に大量生産できるので、組織再生用材料を容易に入手できる。
【0037】
本発明のタンパク質水溶液(B)は、組織再生用材料及び水を含有するタンパク質水溶液であって、タンパク質水溶液中の組織再生用材料の含有量が5〜30重量%、水の含有量が70〜95量%であるタンパク質水溶液である。
タンパク質水溶液(B)中の組織再生用材料の含有量(重量%)は、創傷治癒の観点から、タンパク質水溶液(B)の重量を基準として10〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは15〜30重量%である。
【0038】
タンパク質水溶液(B)中の水としては、滅菌されたものであれば特に限定するものではなく、滅菌方法としては、0.2μm以下の孔径を持つ精密ろ過膜を通した水、限外ろ過膜を通した水、逆浸透膜を通した水及びオートクレーブで121℃において20分加熱して過熱滅菌したイオン交換水等が挙げられる。
タンパク質水溶液(B)中の水の含有量(重量%)はタンパク質ポリマー溶解性の観点から、タンパク質水溶液(B)の重量を基準として70〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは70〜85重量%である。
【0039】
タンパク質水溶液(B)中には、上記組織再生用材料及び水以外に無機塩及びリン酸(塩)を含んでもいい。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等が挙げられる。リン酸塩は無機塩に含まない。
タンパク質水溶液(B)中の塩の含有量(重量%)は、人間の体液と同等にするという観点から、タンパク質水溶液(B)の重量を基準として0.5〜1.3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.7〜1.1重量%、特に好ましくは0.85〜0.95重量%である。
【0040】
リン酸(塩)は、リン酸及び/又はリン酸塩を意味する。
タンパク質水溶液(B)中のリン酸(塩)としては、リン酸及びリン酸塩が挙げられる。
塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等が挙げられる。
タンパク質水溶液(B)中のリン酸(塩)の含有量(重量%)は、創傷治癒の観点から、タンパク質水溶液(B)の重量を基準として0.10〜0.30重量%が好ましく、さらに好ましくは0.12〜0.28重量%、特に好ましくは0.14〜0.26重量%である。
【0041】
タンパク質水溶液(B)のpHは、組織親和性の観点から、5〜9が好ましく、さらに好ましくは6〜8である。
【0042】
本発明のタンパク質水溶液は、菌増殖抑制作用があり、かつ、肉芽組織形成作用や上皮化促進作用に優れている上記組織再生用材料を含んでいるので、熱傷、採皮創、皮膚剥削創及び外傷性皮膚欠損創等の疾患ないし創傷による患部の肉芽組織形成や上皮化の促進に有効であり、創傷部の被覆材や充填材として利用できる。
【0043】
本発明の組織再生用材料をゲル化させる方法は、組織再生用材料及び水を混合して組織再生用材料をゲル化させる方法である。
組織再生用材料は水と混合してタンパク質水溶液(B)とすることにより、室温(4〜25℃)でも流動性が低くなりゲル化するが、短時間でゲル化させる観点から、タンパク質水溶液(B)を25℃を超えて80℃以下の温度に温めてもいい。80℃以下であると、組織再生用材料の機能を低下させずにゲル化させることができ、また、ゲル化までの時間が適度である。
また、タンパク質水溶液(B)の温度は、組織再生用材料の熱安定性及びハンドリング性の観点から、4〜80℃が好ましく、より好ましくは4〜60℃、さらに好ましくは25〜50℃、特に好ましくは30〜40℃である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<製造例1>
○SELP8Kポリマーの生産
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345を作製した。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。以下、このSELP8K生産株を用いてSELP8Kポリマーを生産する方法を示す。
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加え、該培養液を30℃で攪拌しながら(200rpm)インキュベートした。培養液がOD600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となった時に、40mlを42℃に前もって温めたフラスコに移し、同じ温度で約2時間インキュベートした。該培養体を氷上で冷却し、培養液のOD600を測定した。大腸菌を遠心分離で集めた。集菌した大腸菌からタンパク質ポリマーを取り出すために、超音波破砕(4℃、30秒×10回)をして溶菌した。
この大腸菌により産生されたタンパク質ポリマーを、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーした。その後、一次抗体に抗ラビットSELP8K抗体、2次抗体に抗ラビットIgG−HRP標識抗体(GEヘルスケア社製)を用いたウエスタンブロット分析を行なった。該生成物の見かけ分子量は約80kDaであった。よってSELP8K生産株は、見かけ分子質量80,000の抗ラビットSELP8K抗体反応性を有するSELP8Kポリマーを生成したことが分かった。
【0046】
○SELP8Kポリマー精製
上記で得たSELP8Kポリマーを、菌体溶解、遠心分離による不溶性細片の除去、及びアフィニティークロマトグラフィーにより大腸菌バイオマスから精製した。このようにして、分子量が約80kDaの人工タンパク質ポリマーであるSELP8Kポリマー(A−1)を得た。実施例1においては、このSELP8Kポリマー(A−1)を組織再生用材料として用いた。
【0047】
○SELP8Kポリマーの同定
得られたSELP8Kポリマー(A−1)を下記の手順で同定した。
抗ラビットSELP8K抗体及びC末端配列の6×Hisタグに対する抗ラビット6×His抗体(Roland社製)を用いたウエスタンブロットにより分析した。見かけ分子質量80,000のタンパク質バンドが、各抗体に抗体反応性を示した。また得られたタンパク質をアミノ分析供した結果、該生成物が、グリシン(43.7%),アラニン(12.3%),セリン(5.3%),プロリン(11.7%)及びバリン(21.2%)に富むものであった。また、該生成物はリシンを1.5%含んでいた。下記の表1は、精製された生成物の組成と、合成遺伝子配列から推測された予測理論組成との相関関係を示す。
したがって、SELP8Kポリマー(A−1)がGVGVP配列(3)が8個連続したポリペプチド鎖(Y)であり、(Y)中のVのうち1個がKに置換された(GVGVP)
4GKGVP(GVGVP)
3配列(8)(Y’11)を13個及びGAGAGS配列(1)が4個連続した(GAGAGS)
4配列(9)のポリペプチド鎖(S1−1)を12個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、GAGAGS配列(1)が2個連続した(GAGAGS)
2配列(10)のポリペプチド鎖(S1−2)が化学結合した配列(11)の人工タンパク質ポリマーであることを確認した。
【0048】
【表1】
【0049】
<製造例2>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SELP0KをコードしたプラスミドpPT0364」を用いる以外は同様にして、分子質量が約82kDaの配列(12)の人工タンパク質ポリマー(A−2)を得た。
【0050】
<製造例3>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1.1をコードしたプラスミドpPT0102−1」を用いる以外は同様にして、分子質量が約220kDaの配列(17)の人工タンパク質ポリマー(A−3)を得た。
【0051】
<製造例4>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SLP4.1をコードしたpSY1398−1」を用いる以外は同様にして、分子質量が約93kDaの配列(18)の人工タンパク質ポリマー(A−4)を得た。
【0052】
<製造例5>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1をコードしたプラスミドpPT0102」を用いる以外は同様にして、分子質量が約65kDaの配列(21)の人工タンパク質ポリマー(A−5)を得た。
【0053】
<製造例6>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SLP4.2をコードしたpSY1398−2」を用いる以外は同様にして、分子質量が約73kDaの配列(23)の人工タンパク質ポリマー(A−6)を得た。
【0054】
<製造例7>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SLP4をコードしたpSY1398」を用いる以外は同様にして、分子質量が約70kDaの配列(19)の人工タンパク質ポリマー(A’−1)を得た。
【0055】
<製造例8>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「CLP3.7をコードしたpPT0312」を用いる以外は同様にして、分子質量が約66kDaの配列(20)の人工タンパク質ポリマー(A’−2)を得た。
【0056】
<製造例9>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「DCP2をコードしたプラスミドpPT0161」を用いる以外は同様にして、分子質量が約80kDaの配列(22)の人工タンパク質ポリマー(A’−3)を得た。
【0057】
<製造例10>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1.2をコードしたプラスミドpPT0102−2」を用いる以外は同様にして、分子質量が約37kDaの配列(24)の人工タンパク質ポリマー(A’−4)を得た。
【0058】
<ゲル化の可否の測定>
プラスティックチューブ容器中に、製造例1〜10で得た人工タンパク質ポリマー(A−1)〜(A−6)及び(A’−1)〜(A’−4)20mgを、80μLの4℃のリン酸緩衝液(PBS)にそれぞれ溶解し、タンパク質水溶液(B1)〜(B10)を作製した。このタンパク質水溶液を37℃で静置し、2時間後及び4時間後にゲル化したかを確認した。ゲル化したかの確認は、タンパク質水溶液が入ったプラスティックチューブ容器を転倒し、溶液が垂れない場合はゲル化しているとし、溶液が垂れる場合はゲル化しないと判断した。結果を表2に示す。なお、表中、タンパク質水溶液がゲル化したものを○、ゲル化しなかったものを×とした。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果から、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、疎水性度が0.2〜1.2である人工タンパク質ポリマー(A−1)〜(A−6)は、4時間後にはゲル化することが分かる。特に、人工タンパク質ポリマー(A−1)を含むタンパク質水溶液(B1)及び人工タンパク質ポリマー(A−2)を含むタンパク質水溶液(B2)は、2時間後にはゲル化しており、創傷部をより早く被覆・封鎖するのに有効であることが分かる。
一方、ポリペプチド鎖(Y)及びポリペプチド鎖(Y’)をいずれも有しない人工タンパク質ポリマー(A’−1)及び(A’−2)、並びに、疎水性度が0.2〜1.2の範囲外である人工タンパク質ポリマー(A’−3)及び(A’−4)は、ゲル化しないことが分かる。
【0061】
製造例1及び2で得た人工タンパク質ポリマー(A−1)及び(A−2)を、それぞれ下記表3の濃度に調整し、タンパク質水溶液(B1−1)〜(B1−5)及び(B2−1)〜(B2−4)を作製した。それぞれのタンパク質水溶液について、25℃、37℃及び50℃で静置し、ゲル化するまでの時間を測定した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3の結果から、タンパク質濃度が高ければゲル化時間は短くなり、また、加温温度が高ければゲル化時間が短くなることが分かる。
【0064】
<実施例1>
○タンパク質水溶液の作製
組織再生用材料であるSELP8Kポリマー(A−1)200mgを800μLの4℃のリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、SELP8Kポリマー(A−1)の20重量%水溶液(B−1)を作製した。
【0065】
<比較例1>
人工真皮として用いられているコラーゲンスポンジ(B’−1)(グンゼ株式会社製)を用いた。
【0066】
<評価1>
(糖尿病マウスを用いたIV度褥瘡モデルでの治療実験)
遺伝的糖尿病マウス♀(日本クレア社製)8週齢を麻酔下で除毛し、大腿第三転子部の皮膚を圧迫(400g/8mm×2時間×4)し、褥瘡(直径8mm)を作製した。圧迫終了後5日目に壊死組織を除去し、SELP8Kポリマー(A−1)の20重量%水溶液(B−1)56μlを注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。2時間後、(B−1)はゲル化していた。その後、創傷部の上にガーゼをあてて、シルキーテックス(アルケア社製)で固定した。治療期間14日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、病理標本(HE染色)を作製した。
(B−1)に変えて、コラーゲンスポンジ(B’−1)を、直径8mmに加工したものをナイロン糸で創傷部に固定し、同様に病理標本を作製した。
病理標本は、(B−1)又は(B’−1)を使用したものをそれぞれ9個作製した。
作製した病理標本用いて、組織学的検査を実施した。検査項目は、以下のとおりである。評価結果は表4に示す。
【0067】
(検査項目1)表皮の再生
表皮の再生を、以下の5段階の評価基準で評価し、点数化した。評価結果の点数は、9個の病理標本の平均点である。なお、点数が高いほど、より上皮化が促進されており、組織再生用材料の上皮化促進作用が優れていることを示している。
1点:欠損部に対して全く表皮が再生していない状態
2点:欠損部の全面積中の表皮の再生面積率が0%より大きく25%未満
3点:欠損部の全面積中の表皮の再生面積率が25%以上50%未満
4点:欠損部の全面積中の表皮の再生面積率が50%以上75%未満
5点:欠損部の全面積中の表皮の再生面積率が75%以上
【0068】
(検査項目2)肉芽組織の形成
未熟な毛細血管と繊維芽細胞が一体となった良好な肉芽組織を肉芽組織とみなした。ガス嚢胞やコレステリン血漿を含む肉芽組織は、肉芽組織ではないものとみなした。肉芽組織の形成を、以下の5段階の評価基準で評価し、点数化した。評価結果の点数は、9個の病理標本の平均点である。なお、点数が高いほど、より肉芽組織形成が促進されており、組織再生用材料の肉芽組織形成促進作用が優れていることを示している。
1点:欠損部に対して全く肉芽組織が形成していない状態
2点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が0%より大きく25%未満
3点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が25%以上50%未満
4点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が50%以上75%未満
5点:欠損部の全面積中の肉芽組織形成面積率が75%以上
【0069】
(検査項目3)細菌コロニー
組織切片(HE染色)の紫色の塊(細菌コロニー)の数や大きさから、5段階の評価基準で評価し、点数化した。評価結果の点数は、9個の病理標本の平均点である。なお、点数が低いほど、細菌増殖性が低く、組織再生用材料が細菌増殖を抑制できていることを示している。
1点:細菌コロニーが全くない
2点:細菌コロニーが欠損部の一部にあり、数が少ない且つ大きさが小さい
3点:細菌コロニーが欠損部の一部にあり、数が多い又は大きさが大きい
4点:細菌コロニーが欠損部の一部にあり、数が多い且つ大きさが大きい
5点:細菌コロニーが欠損部全体に存在している
【0070】
(検査項目4)ガス嚢胞
ガス産生菌が作り出すガス嚢胞の分布から、ガス産生菌の感染率について、5段階の評価基準で評価し、点数化した。評価結果の点数は、9個の病理標本の平均点である。なお、点数が低いほど、細菌感染率が低く、組織再生用材料が細菌に感染しにくいものであることを示している。
1点:欠損部に対して全くガス嚢胞が分布していない状態
2点:欠損部の全面積中のガス嚢胞感染率が0%より大きく25%未満
3点:欠損部の全面積中のガス嚢胞感染率が25%以上50%未満
4点:欠損部の全面積中のガス嚢胞感染率が50%以上75%未満
5点:欠損部の全面積中のガス嚢胞感染率が75%以上
【0071】
【表4】
【0072】
<評価2>
(糖尿病マウスを用いたIV度褥瘡モデルでの菌感染性試験)
評価1と同様の方法でIV度褥瘡モデルを作製し、同様の方法で(B−1)又は(B’−1)を創傷部に投与又は固定した。(B−1)を投与したものを7個、(B’−1)を投与したものを6個作製した。治療期間7日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取した。採取した皮膚を滅菌した生理食塩水中で細かく裁断し懸濁した。適宜希釈した懸濁液を普通寒天培地に塗布して、37℃で12時間培養した。培養後の寒天プレート上に得られたコロニー数を測定した。(B−1)の評価結果は7個の平均、(B’−1)の評価結果は6個の平均である。評価結果は表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
<評価3>
(健常モルモットを用いた全層欠損層モデルでの治療試験)
健常モルモット♀ std Hartley(日本エスエルシー社製)7週齢を麻酔下で除毛し、消毒したモルモット背部皮膚に脂肪層が完全に露出した創面10×10mmの全層皮膚欠損創を作製し、止血、乾燥した後、SELP8Kポリマー(A−1)の20重量%水溶液(B−1)を注入し、ポリウレタンフィルムを貼付した。その後、各創傷部の上にガーゼをのせて、ナイロン糸で創傷部周囲と固定した。治療期間5、10日目に検体を擬死させ、創傷部を含む皮膚を採取し、病理標本(HE染色)を作製した。治療期間5日目の病理標本を10個、治療期間10日目の病理標本を11個作製した。
(B−1)に変えてコラーゲンスポンジ(B’−1)を、直径8mmに加工したものをナイロン糸で創傷部に固定し、同様に病理標本を作製した。治療期間5日目の病理標本を6個、治療期間10日目の病理標本を12個作製した。
作製した治療期間5日目の病理標本用いて、パニキュラス(筋様膜)からの肉芽組織高をマイクロルーラーを使用して測定した。(B−1)の評価結果は10個の平均、(B’−1)の評価結果は6個の平均である。評価結果は表6に示す。また、治療期間10日目の病理標本用いて、正常組織から伸長した上皮化長をマイクロルーラーを使用して測定した。(B−1)の評価結果は11個の平均、(B’−1)の評価結果は12個の平均である。評価結果は表7に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
評価1(表4中の検査項目1及び2)及び評価3(表6〜7)の結果から、ポリペプチド鎖(Y’)を有する実施例1の組織再生用材料は、比較例1のコラーゲンスポンジと比較して、肉芽組織形成と上皮化促進作用が共に優れていることが分かる。また、評価1(表4中の検査項目3及び4)及び評価2(表5)の結果から、実施例1の組織再生用材料は、菌増殖抑制作用が極めて優れていることが分かる。