特許第5979676号(P5979676)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979676
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】アース金具、および接地用具
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20160817BHJP
   H01R 4/64 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H02G1/02
   H01R4/64 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-15964(P2013-15964)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-147274(P2014-147274A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000213884
【氏名又は名称】住電機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222015
【氏名又は名称】株式会社ユアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】井畑 恵作
(72)【発明者】
【氏名】田渕 靖裕
(72)【発明者】
【氏名】谷口 勉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 芳徳
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−84612(JP,A)
【文献】 特開2000−278830(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3152608(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
H01R 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁棒の先端に設けられる把持金具で導電部材を把持し、前記導電部材に流れる電流を接地極側部材に逃がす接地用具に用いられるアース金具であり、
互いに対向する上片および下片、並びにこれら上片と下片とを繋ぐ側片を有し、前記把持金具から延びるアース線が接続される金具本体と、
前記上片を貫通し、前記上片に対して進退自在に螺合されるネジ軸と、
前記ネジ軸のうち、前記下片側の先端に遊嵌され、前記下片との間で前記接地極側部材を挟み込む押圧片と、
前記ネジ軸のうち、前記上片よりも上方側に設けられ、作業者が前記ネジ軸を回転させる際に前記ネジ軸の軸方向周りに回転させるハンドルと、
を備えるアース金具であって、
前記ハンドルは、前記ネジ軸の軸方向における所定範囲内で移動可能に構成されており、
前記ネジ軸における前記ハンドルの位置によって、前記ハンドルが前記ネジ軸に対して空回りする非伝達状態と、前記ネジ軸が前記ハンドルの回転に供回りする伝達状態と、を切り替える切替機構を備えるアース金具。
【請求項2】
前記切替機構は、
前記ネジ軸に一体化され、前記ネジ軸の径方向外方に張り出す張出部と、
前記ハンドルに一体化され、前記張出部の外形に沿った切替凹部を有する筒状部と、
前記張出部と前記筒状部との間に配置され、前記筒状部を含むハンドルを前記張出部から離隔する方向に付勢する切替機構用バネと、
前記ネジ軸に設けられ、前記ハンドルと前記張出部との離隔距離の上限値を規定する当止部と、
を備え、
前記張出部と前記切替凹部とが嵌合することで前記伝達状態となり、前記切替機構用バネの付勢力によって前記張出部と前記切替凹部とが離隔することで前記非伝達状態となるように構成される請求項1に記載のアース金具。
【請求項3】
前記張出部と前記切替凹部とが嵌合された状態を維持する伝達状態維持機構を備える請求項2に記載のアース金具。
【請求項4】
前記伝達状態維持機構は、
前記張出部に設けられるボールプランジャと、
前記筒状部における前記切替凹部の位置に設けられ、前記ボールプランジャのボールが嵌まり込む維持凹部と、
を備える請求項3に記載のアース金具。
【請求項5】
前記押圧片と前記下片とによる接地極側部材の締付状態を目視によって確認するための締付状態確認機構を備え、
前記締付状態確認機構は、
前記ネジ軸における前記上片よりも下方で、かつ前記押圧片よりも上方に固定される固定片と、
前記押圧片と前記固定片との間に介在され、前記押圧片を前記ネジ軸の下方側に勢する確認機構用バネと、
を備える請求項1〜4のいずれか一項に記載のアース金具。
【請求項6】
前記ネジ軸の回転を必要に応じて物理的に抑制する回転抑制機構を備え、
前記回転抑制機構は、前記ネジ軸における前記上片よりも下方で、かつ前記押圧片よりも上方の位置に螺合される弛み止めナットを備える請求項1〜5のいずれか一項に記載のアース金具。
【請求項7】
前記回転抑制機構は、前記弛み止めナットと前記上片との間に介在されるスプリングワッシャを備える請求項6に記載のアース金具。
【請求項8】
導電部材に流れる電流を接地極側部材に逃がす接地用具であり、
絶縁棒と、
絶縁棒の先端に設けられ、前記導電部材を把持する把持金具と、
前記接地極側部材に取り付けられるアース金具と、
前記把持金具と前記アース金具とを電気的に接続するアース線と、
を備える接地用具であって、
前記アース金具が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアース金具である接地用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の停止工事などの際に、接地をするための接地用具に用いられるアース金具、およびこのアース金具を備える接地用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線は、通常、複数回線により送電を行なっている。この架空送電線の工事や保守作業を行なうときは、作業者の感電事故防止のために、作業する回線の送電を停止する。その際、作業を行なっていない回線では、通常通り送電が行なわれており、この送電に伴って、作業を行なっている回線に誘導電流が流れる。そのため、作業の前に、作業を行なう回線を鉄塔などに接地して、電流を逃がし、作業者の安全を確保する必要がある。
【0003】
接地は、具体的には、架空送電線自身や、この電線に取り付けられた被接地金具にアース線を接続するなどして行なわれる。この接地作業の際に使用される道具が接地用具である。接地用具としては、例えば、特許文献1に記載のようなものが挙げられる。
【0004】
図5は、特許文献1の図7に記載のようなフック型の接地用具の概略構成図である。この接地用具100は、伸縮式の絶縁棒101と、絶縁棒101の先端に設けられる把持金具102と、把持金具102にアース線103を介して接続されるアース金具104と、を有している。この接地用具100の取り付けは、まずアース金具104を鉄塔の腕金材などの接地極側部材に接続し、次に絶縁棒101を伸長して把持金具102により電線や被接地金具などの導電部材200を把持することで行なう。この作業により、把持金具102、アース線103、アース金具104を介して、導電部材200から接地極側部材に電流を逃がすことができる。それに伴い、作業中の回線に誘導電流が流れても、作業者が感電する事故を防止している。一方、接地用具100の取り外しは、まず把持金具102による導電部材200の把持を解除して絶縁棒101を短縮し、次にアース金具104を接地極側部材から取り外すことで行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−278830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接地用具については常にその安全性を高めるための改良が検討されている。例えば、接地極側部材からアース金具が外れると、接地極側部材に電流を逃がすことができなくなるため、感電事故が生じる虞がある。そのため、一旦、接地極側部材に取り付けたアース金具の取付状態が弛むことを確実に防止したいというニーズがある。
【0007】
上記アース金具104は、図5に示すように、概略C字状の金具本体104aと、金具本体104aの上片(図5では紙面下側に配置されている)を貫通するネジ軸104bと、ネジ軸104bの先端に遊嵌される押圧片104cと、ネジ軸104bを回転させるハンドル104dと、を備え、押圧片104cと金具本体104aの下片との間で接地極側部材を締め付けることで接地極側部材に取り付けられる。このような構成であるが故、ハンドル104dに偶発的な外力が作用すると、接地極側部材の締め付けが十分でなかった場合にハンドル104dとハンドル104dに繋がるネジ軸104bが回転し、アース金具104の取付状態が弛む恐れがある。偶発的な外力としては、アース金具104から把持金具に延びるアース線103が風などで揺れてハンドル104dに接触することで生じる外力や、風などで飛ばされてきた物体がハンドル104dに衝突することで生じる外力などを挙げることができる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接地極側部材に取り付けたアース金具の取付状態が偶発的に弛むことを大幅に低減できるアース金具、およびそのアース金具を用いた接地用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアース金具は、絶縁棒の先端に設けられる把持金具で導電部材を把持し、導電部材に流れる電流を接地極側部材に逃がす接地用具に用いられるアース金具であり、金具本体・ネジ軸・押圧片・ハンドルを備える。金具本体は、互いに対向する上片および下片、並びにこれら上片と下片とを繋ぐ側片を有し、把持金具から延びるアース線が接続される部材である。ネジ軸は、金具本体の上片を貫通し、その上片に対して進退自在に螺合される部材である。押圧片は、ネジ軸のうち、金具本体の下片側の先端に遊嵌され、下片との間で接地極側部材を挟み込む部材である。ハンドルは、ネジ軸のうち、金具本体の上片よりも上方側に設けられ、作業者がネジ軸を回転させる際にネジ軸の軸方向周りに回転させる部材である。これらの構成を備える本発明のアース金具では、ハンドルが、ネジ軸の軸方向における所定範囲内で移動可能に構成されている。そして、この本発明のアース金具は、ネジ軸におけるハンドルの位置によって、ハンドルがネジ軸に対して空回りする非伝達状態(ハンドルの回転動作がネジ軸に伝達されない状態)と、ネジ軸がハンドルの回転に供回りする伝達状態(ハンドルの回転動作がネジ軸に伝達される状態)と、を切り替える切替機構を備える。なお、この明細書では、ネジ軸のハンドル側を上方、押圧片側を下方として、各部材の上下を規定している。
【0010】
切替機構を備える本発明のアース金具によれば、必要に応じて非伝達状態と伝達状態とを切り替えることができる。具体的には、工事・保守作業にあたりアース金具を鉄塔などの接地極側部材に取り付けるときは、ハンドルの回転にネジ軸が供回りする伝達状態とし、ハンドルを回転させて、ネジ軸の先端にある押圧片とアース金具の下片との間で接地極側部材を締め付ける。アース金具を接地極側部材に取り付けた後は、ハンドルがネジ軸に対して空回りする非伝達状態とし、ハンドルに偶発的な外力が作用してハンドルが回転しても、ネジ軸は回転しないようにする。そうすることで、工事・保守作業中にアース金具が接地極側部材から外れる可能性を大幅に低減することができる。なお、工事・保守作業の終了時にアース金具を接地極側部材から外す際は、再び伝達状態とすれば良い。
【0011】
本発明のアース金具として、アース金具の切替機構が、張出部・筒状部・切替機構用バネ・当止部を備える形態を挙げることができる。ここで、張出部は、ネジ軸に一体化され、ネジ軸の径方向外方に張り出す部材である。筒状部は、ハンドルに一体化され、ネジ軸に一体化された張出部の外形に沿った切替凹部を有する部材である。切替機構用バネは、張出部と筒状部との間に配置され、筒状部を含むハンドルを張出部から離隔する方向に付勢する部材である。当止部は、ネジ軸に設けられ、ハンドルと張出部との離隔距離の上限値を規定する部材である。以上の構成を備える切替機構では、張出部と筒状部の切替凹部とが嵌合することで、ハンドルの回転にネジ軸が供回りする伝達状態となり、切替機構用バネの付勢力によって張出部と切替凹部とが離隔することで、ハンドルがネジ軸に対して空転する非伝達状態となる。
【0012】
上記構成によれば、常時は、切替機構用バネの作用によりアース金具が非伝達状態となるため、接地極側部材に取り付けたアース金具が外れることを防止することができる。一方、アース金具の取り付け・取り外し時にネジ軸を回転させる際は、切替機構用バネの付勢力に打ち勝つ力で筒状部を含むハンドルを張出部側に移動させ、筒状部の切替凹部とネジ軸の張出部とを嵌合させた状態(伝達状態)を維持した上でハンドルを回転させる。なお、後述する伝達状態維持機構を設けなければ、ハンドルから手を離すと、切替機構用バネの作用でアース金具は自動的に非伝達状態となる。
【0013】
本発明のアース金具として、張出部と切替凹部とが嵌合された状態を維持する伝達状態維持機構を備える形態を挙げることができる。
【0014】
上記構成によれば、アース金具を接地極側部材に取り付ける際、ハンドルと共にネジ軸を回転させる作業を容易にすることができる。ネジ軸を回転させる間、切替機構用バネの付勢力に打ち勝つ力をハンドルにかけ続ける必要がないからである。
【0015】
伝達状態維持機構を備える本発明のアース金具として、伝達状態維持機構が、張出部に設けられるボールプランジャと、筒状部における切替凹部の位置に設けられ、ボールプランジャのボールが嵌まり込む維持凹部と、を備える形態を挙げることができる。
【0016】
ボールプランジャを用いた伝達状態維持機構によれば、伝達状態を比較的強固に維持することができ、しかも伝達状態から非伝達状態への切替も容易にできる。
【0017】
本発明のアース金具として、押圧片と下片とによる接地極側部材の締付状態を目視によって確認するための締付状態確認機構を備える形態を挙げることができる。その場合、締付状態確認機構は、ネジ軸における金具本体の上片よりも下方で、かつ押圧片よりも上方に固定される固定片と、押圧片と固定片との間に介在され、押圧片をネジ軸の下方側に勢する確認機構用バネと、を備える構成とすると良い。
【0018】
上記構成によれば、常時は、ネジ軸に設けられる押圧片と固定片との間に隙間が形成され、押圧片による締め付けが行なわれていないことを目視にて確認できる。また、ネジ軸を金具本体の下片側に進出させ、押圧片と下片との間で接地極側部材を締め付けた状態であっても、その締め付けが十分でなければ、押圧片と固定片との間にはまだ隙間が形成されたままとなるため、締め付けが十分でないことを目視にて確認できる。つまり、押圧片と固定片との間に隙間がなくなるまでネジ軸を進出させれば、押圧片による締め付けが十分であることを目視にて確認できる。
【0019】
本発明のアース金具として、ネジ軸の回転を必要に応じて物理的に抑制する回転抑制機構を備える形態を挙げることができる。その場合、回転抑制機構は、ネジ軸における金具本体の上片よりも下方で、かつ押圧片よりも上方の位置に螺合される弛み止めナットを備える構成とすると良い。
【0020】
回転抑制機構を備えることで、より確実にネジ軸の回転を抑制できる。回転抑制機構を用いる場合、弛み止めナットを回転させて、弛み止めナットを上方に送り出せば良い。
【0021】
回転抑制機構を備える本発明のアース金具として、回転抑制機構は、弛み止めナットと金具本体の上片との間に介在されるスプリングワッシャを備える形態を挙げることができる。
【0022】
スプリングワッシャを備えることで、回転抑制機構によるネジ軸の回転防止効果をより向上させることができる。
【0023】
一方、本発明の接地用具は、導電部材に流れる電流を接地極側部材に逃がす接地用具であり、絶縁棒と、絶縁棒の先端に設けられ、導電部材を把持する把持金具と、接地極側部材に取り付けられるアース金具と、把持金具とアース金具とを電気的に接続するアース線と、を備える接地用具である。この本発明の接地用具のアース金具は、本発明のアース金具である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のアース金具を備える接地用具によれば、一旦、接地極側部材に取り付けたアース金具が接地極側部材から外れることをより確実に防止することができ、もってアース金具の脱落に伴う感電事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(A)は実施形態1に示すアース金具の部分断面図、(B)は(A)に示すアース金具に備わる金具本体の側面図、(C)は(A)に示すアース金具に備わるハンドルの上面図である。
図2図1(A)のアース金具を伝達状態にしたときのアース金具の部分断面図である。
図3】(A)は実施形態2に示すアース金具の部分断面図、(B)は(A)に示すアース金具に備わるハンドルの上面図である。
図4図3(A)のアース金具を伝達状態にしたときのアース金具の部分断面図である。
図5】従来のアース金具を備える接地用具の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の接地用具の実施の形態を図に基づいて説明する。ここで、本発明の接地用具のうち、アース金具を除く部材は、特に限定されず、例えば図5を参照した従来の接地用具に用いられる部材と同様のものを利用することができる。従って、以下の説明では本発明の接地用具に備わるアース金具についてのみ説明する。
【0027】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1(A)に示すアース金具αは、従来のアース金具と同様に、金具本体10と、ネジ軸20と、押圧片30と、ハンドル40と、を備える。このアース金具αの最も特徴とするところは、[1]ハンドル40が、ネジ軸20の軸方向における所定範囲内で移動可能に構成されていること、[2]ネジ軸20におけるハンドル40の位置によって、ハンドル40がネジ軸20に対して空回りする非伝達状態と、ネジ軸20がハンドル40の回転に供回りする伝達状態と、を切り替える切替機構1が備わっていること、の二つである。以下、アース金具αに備わる各部材を説明すると共に、それら部材のうちのどの部分が切替機構1を構成するかを説明する。なお、図1(A)のアース金具αは、後述するように、非伝達状態にある。
【0028】
≪金具本体≫
図1(A)に示すように、金具本体10は概略C字状の部材である。この金具本体10は、互いに対向する上片11および下片12、並びにこれら上片11と下片12とを繋ぐ側片13を有する。図1(B)に示すように、上片11と下片12のうち、互いに対向する部分は、平面状になっている。また、側片13には、図示しない把持金具から延びるアース線103の先端がネジ止めされている。
【0029】
≪ネジ軸≫
図1(A)に示すように、ネジ軸20は、上記金具本体10の上片11に貫通される部材である。より具体的には、ネジ軸20は、紙面上方側から順に上方部、中間部、下方部に分けることができ、上方部の上方側の部分と中間部の外周面にはネジ溝が切ってあり、下方部にはネジ溝が切られていない。また、中間部の外径は、上方部および下方部の外径よりも太く、この最も太い中間部が本体金具10の上片11に螺合されている。ネジ軸20を回転させれば、ネジ軸20全体が上片11に対して進退する。
【0030】
ネジ軸20の上方部には、ネジ軸20の中間部よりも径方向外方に張り出す六角ナット状の張出部21が設けられている。張出部21の下端は、ネジ軸20の上方部と中間部の境界に形成される段差に当て止めされ、その段差の位置に張出部21が固定されている。この張出部21の六つの側面のうち、一つ置きの三側面にはボールプランジャ210が設けられている。ボールプランジャ210は、張出部21の径方向内方に延びる穴の内部に嵌め込まれるボール、およびこのボールと穴底部との間に配置されるプランジャバネを備え、後述する伝達状態維持機構2の一部を構成する。
【0031】
また、ネジ軸20の下方部には、ネジ軸20の中間部よりも径方向外方に張り出す固定片23が設けられている。固定片23の上端は、ネジ軸20の下方部と中間部の境界に形成される段差に当て止めされ、その段差の位置に固定片23が固定されている。固定片23の下方側には後述する確認機構用バネS2を収納する固定片凹部230が形成されている。
【0032】
さらに、ネジ軸20の下方側先端には外れ止め部22が設けられている。外れ止め部22は、後述する押圧片30が、ネジ軸20の下方側先端から脱落することを防止するためのものである。
【0033】
その他、ネジ軸20の中間部における上片11よりも下方で、かつ固定片23よりも上方の位置には、弛み止めナットN2、ワッシャW1、およびスプリングワッシャW2が配置されている。弛み止めナットN2はネジ軸20に螺合され、ワッシャW1とスプリングワッシャW2は上片11と弛み止めナットN2との間でネジ軸20に貫通されている。これらの部材N2,W1,W2は、後述する回転抑制機構4を構成する。
【0034】
≪押圧片≫
押圧片30は、ネジ軸20の下方部の先端(即ち、ネジ軸20のうち、金具本体10の下片12側の先端)に遊嵌される部材である。この押圧片30と金具本体10の下片12との間で接地極側部材を挟み込んで締め付けることで、アース金具αが接地極側部材に取り付けられる。
【0035】
押圧片30には、先端係合凹部300と、その先端係合凹部300に繋がる貫通孔と、が形成されており、貫通孔にネジ軸20の下方部の先端が貫通されている。ネジ軸20の下方部の先端には、貫通孔よりも外径の大きなキャップ状の部材を取り付けることによって外れ止め部22が形成されている。外れ止め部22は、ネジ軸20の下方側先端から押圧片30が脱落することを抑制する機能を持っている。そのため、押圧片30は、ネジ軸20の下方部の先端に対して回転自在で、かつネジ軸20の軸方向に移動自在に遊嵌される。なお、ネジ軸20の先端に押圧片30を取り付けた後、ネジ軸20の先端をかしめることで外れ止め部22を形成しても良い。この場合も、外れ止め部22の外径が、押圧片30の貫通孔よりも大きくなるように、ネジ軸20の先端をかしめる。
【0036】
押圧片30の上端面と、固定片23の固定片凹部230の底部と、の間には確認機構用バネS2が配置されている。そのため、押圧片30は、常時はネジ軸20の下方部の先端方向に付勢され、固定片23と離隔された状態になっている。
【0037】
≪ハンドル≫
ハンドル40は、ネジ軸20を回転させるために作業者が掴む部分である。本実施形態におけるハンドル40は、図1(C)に示すように、輪郭が波うったように形成された盤状体であり、ネジ軸20の上方部を貫通させる貫通孔が形成されている。ここで、ハンドル40の形状は、図1に示される形状に限定されるわけではない。例えば、円盤状で、その周面に滑り止めとなる溝を形成したハンドルとしても良いし、蝶ネジのヘッド部分のような形状のハンドルとしても良いし、後述する実施形態2に示すように棒状のハンドルとしても良い。
【0038】
ハンドル40の下端面には筒状部41が一体化されている。筒状部41の内径は、下方から上方に向かって段階的に小さくなっている。その内径の異なる部分を下方側から順に第一内径部・第二内径部・第三内径部・第四内径部としたとき、第二内径部の内周面形状は、張出部21の外周面形状に沿った六角形状となっている。つまり、第二内径部は、筒状部41を下方に移動させたときに張出部21と嵌合する形状となっており、後述する切替機構1の切替凹部410を構成する。切替凹部410には周方向に均等な間隔で設けられた六つの維持凹部419が設けられている。この維持凹部419は、張出部21に設けられるボールプランジャ210と共に、後述する伝達状態維持機構2を構成する。
【0039】
一方、第二内径部以外の内径部の内周面形状は円形状となっている。第一内径部の内径は、張出部21の外径(六角形の外接円径)よりも大きく、第三内径部の内径は、後述する切替機構用バネS1の外径よりも大きくなっている。また、第四内径部の内径は、切替機構用バネS1の外径よりも小さく、かつネジ軸20の上方部の外径よりも大きくなっている。
【0040】
上述した筒状部41と張出部21との間には、後述する切替機構1の一部を構成する切替機構用バネS1が配置されている。より具体的には、切替機構用バネS1は筒状部41の内部に配置され、その一端面が張出部21の上面に、他端面が筒状部41の内部に嵌め込まれる円環部材41cに当接している。この切替機構用バネS1によって、筒状部41を含むハンドル40が上方側に付勢される。ここで、ネジ軸20の上方部には、ナットからなる当止部N1が螺合されている。この当止部N1は、切替機構用バネS1に付勢されたハンドル40がネジ軸20から脱落することを防止すると共に、ハンドル40の上端位置を規定している。この当止部N1によって、張出部21は、切替凹部410(第二内径部)よりも下方に位置する第一内径部の位置に配置される。
【0041】
≪切替機構≫
以上説明した構成を備えるアース金具αは、既に述べたように、ネジ軸20の軸方向におけるハンドル40の位置によって、ハンドル40がネジ軸20に対して空回りする非伝達状態と、ネジ軸20がハンドル40の回転に供回りする伝達状態と、を切り替える切替機構1を備える。本実施形態における切替機構1は、ネジ軸20に設けられる張出部21と、ハンドル40に設けられる筒状部41と、張出部21と筒状部41との間に配置される切替機構用バネS1と、ネジ軸20の上方側端部に設けられる当止部N1と、で構成されている。
【0042】
図1(A)に示すアース金具αは、ハンドル40がネジ軸20に対して空回りする非伝達状態にある。ハンドル40がネジ軸20に対して空回りするのは、切替機構用バネS1によってハンドル40が上方に移動され、筒状部41の第一内径部に張出部21が配置されているからである。既に述べたように、第一内径部の内径は、張出部21の外径(六角形の外接円径)よりも大きいため、筒状部41を含むハンドル40を回しても、筒状部41の第一内径部が張出部21に引っ掛かることがなく、空回りする。また、筒状部41が張出部21の外周をカバーし、張出部21に直接的に外力が作用することを抑制している。
【0043】
次に、非伝達状態から伝達状態(ハンドル40の回転にネジ軸20が供回りする状態)に切り替えるには、切替機構用バネS1の付勢力に打ち勝つ力でハンドル40を下方側に押し込めば良い。ハンドル40を下方側に押し込めば、図2に示すように、筒状部41の第二内径部(切替凹部410)と第三内径部との境界に形成される段差が張出部21の上端面に当接するまでハンドル40を押し込むことができる。その際、張出部21が切替凹部410に嵌合し、ハンドル40を回転させたときに、そのハンドル40の回転にネジ軸20が供回りする状態となる。供回りが起こるのは、切替凹部410が張出部21の外径に沿った六角形状となっているため、ハンドル40を回転させたときに切替凹部410が張出部21の角に引っ掛かるからである。
【0044】
≪その他の機構≫
上述した切替機構1の他に、本実施形態のアース金具αには、伝達状態維持機構2と、締付状態確認機構3と、回転抑制機構4と、が設けられている。以下、各機構の役割と、アース金具αに備わるどの部材が各機構を構成する要素であるかを説明する。
【0045】
[伝達状態維持機構]
伝達状態維持機構2は、手でハンドル40を押えることなく伝達状態を維持する機構である。本実施形態では、伝達維持機構2は、張出部21に設けられるボールプランジャ210と、筒状部41における切替凹部410の位置に設けられる維持凹部419と、で構成される。既に述べたように、維持凹部419は、切替凹部410の位置で周方向に均等な間隔を開けて六つ形成されている。
【0046】
図2に示すように、筒状部41を含むハンドル40を張出部21の側(紙面下方側)に押し込むと、ボールプランジャ210のボールが維持凹部419に嵌まり込み、張出部21と筒状部41とが一体化される。その結果、ハンドル40から手を離しても、張出部21と、筒状部41に形成される切替凹部410と、が嵌合された状態、即ちハンドル40の回転にネジ軸20が供回りする伝達状態が維持される。
【0047】
上記伝達状態を解除するには、筒状部41を含むハンドル40を張出部21から離れる方向(紙面上方側)に引っ張れば良い。その引っ張る力が閾値を超えれば、ボールプランジャ210のボールが張出部21の径方向内方に引っ込み、筒状部41が張出部21から離れる方向に移動する。その結果、筒状部41に形成される切替凹部410から張出部21が外れた状態、即ちハンドル40がネジ軸20に対して空回りする非伝達状態となる(図1(A)参照)。
【0048】
[締付状態確認機構]
締付状態確認機構3は、押圧片30と金具本体10の下片12との間で、鉄塔の腕金材などの接地極側部材を締め付けたときに、その締付状態を目視にて確認することができるようにする機構である(図1,2のいずれを参照しても可)。この締付状態確認機構3によって、アース金具αを接地極側部材に取り付ける際、その取付状態が不十分となることを回避することができる。本実施形態における締付状態確認機構3は、押圧片30と、固定片23と、確認機構用バネS2と、で構成される。
【0049】
既に述べたように、押圧片30は、常時はネジ軸20の下方部の先端方向に付勢され、固定片23と離隔された状態になっている。つまり、押圧片30と固定片23とが離隔していることを目視にて確認することで、押圧片30による締め付けが行なわれていないことを確認できる。また、ネジ軸20を金具本体10の下片12側に進出させ、押圧片30と下片12との間で接地極側部材を締め付けた状態であっても、その締め付けが十分でなければ、押圧片30と固定片23との間にはまだ隙間が形成されたままとなるため、締め付けが十分でないことを目視にて確認できる。つまり、押圧片30と固定片23との間に隙間がなくなるまでネジ軸20を進出させれば、押圧片30による締め付けが十分であることを目視にて確認できる。
【0050】
[回転抑制機構]
回転抑制機構4は、ネジ軸20の回転を必要に応じて物理的に抑制する機構である。本実施形態では、回転抑制機構4は、弛み止めナットN2と、ワッシャW1と、スプリングワッシャW2と、で構成されている。
【0051】
回転抑制機構4を用いるタイミングは、具体的にはアース金具αを接地極側部材に取り付けて、アース金具αを非伝達状態とした後である。回転抑制機構4を用いる場合、弛み止めナットN2を回転させ、弛み止めナットN2を上方に送り出せば良い。弛み止めナットN2によるネジ軸20の回転抑制効果は非常に強力で、ネジ軸20が回転することをほぼ完全に防止することができる。その結果、接地極側部材からアース金具αが外れることをほぼ確実に防止することができる。
【0052】
<実施形態2>
実施形態2では、主として切替機構と伝達状態維持機構の構成が実施形態1とは異なるアース金具βを図3,4に基づいて説明する。以下、実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0053】
≪ネジ軸≫
本実施形態のネジ軸20’は、外周面にネジ溝を切った上方部と、上方部よりも小径の下方部と、を備える。ネジ軸20’における金具本体10に螺合される部分よりも下側の構成は、実施形態1と同様である。
【0054】
≪張出部≫
本実施形態の張出部21’にはボールプランジャが形成されていない。つまり、張出部21’は、単なる六角ナット状の部材となっている。
【0055】
≪ハンドル≫
本実施形態のハンドル40’は、図3(B)に示すように、棒状体となっている。この形状に特に意味はなく、実施形態1のハンドル40と同様に、盤状体であっても構わない。
【0056】
≪筒状部≫
本実施形態の筒状部41’の内径も、実施形態1の筒状部41の内径と同様に、下方から上方に向かって段階的に小さくなっている。但し、その内径の異なる部分は、下方側から順に、第一内径部・第二内径部・第三内径部の三つに分けられており、第二内径部が切替凹部410となっている。
【0057】
≪維持機構用ナット≫
本実施形態では、ネジ軸20’におけるハンドル40’よりも上方側に維持機構用ナットN3が螺合されている。維持機構用ナットN3は、回転させることで、ネジ軸20’の軸方向に移動可能になっている。なお、この維持機構用ナットN3は、伝達状態維持機構2’の構成部材であると共に、切替機構1’の当止部を兼ねている。
【0058】
≪切替機構≫
本実施形態の切替機構1’は、張出部21’と、筒状部41’と、切替機構用バネS1と、維持機構用ナットN3(当止部)と、で構成されている。切替機構1’による伝達状態と非伝達状態との切り替えメカニズムは実施形態1と同様である。つまり、張出部21’と筒状部41’の切替凹部410とが嵌合することでアース金具βが伝達状態となり、張出部21’と切替凹部410とが離隔することでアース金具βが非伝達状態となる。
【0059】
≪伝達状態維持機構≫
本実施形態の伝達状態維持機構2’は、維持機構用ナットN3で構成されている。まず、図3(A)に示す非伝達状態では、維持機構用ナットN3は、切替機構1’の当止部として機能し、張出部21’と筒状部41’に設けられる切替凹部410との離隔距離の上限を規定する。ここで、張出部21’は、筒状部41’の第一内径部の位置に配置され、筒状部41’によって外部から保護されている。
【0060】
次に、非伝達状態から伝達状態に切り替える場合、図4に示すように、維持機構用ナットN3を回転させて、維持機構用ナットN3を下方に送り出す。その送り出しに伴い、筒状部41’も下方側に移動し、張出部21’と筒状部41’の切替凹部410とが嵌合し、アース金具βが非伝達状態から伝達状態に切り替わる。その際、維持機構用ナットN3が筒状部41’の上方への移動を規制するため、伝達状態が維持される。なお、言うまでもないが、筒状部41’を手で下方に移動させた後、維持機構用ナットN3を下方に送り出し、伝達状態を維持しても良い。
【0061】
<その他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるわけでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、ネジ軸に筒状部、ハンドルに張出部を設けて、切替機構を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の接地用具は、架空送電線の保守作業などに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
α,β アース金具
1,1’ 切替機構
2,2’ 伝達状態維持機構
3 締付状態確認機構
4 回転抑制機構
10 金具本体
11 上片 12 下片 13 側片
20,20’ ネジ軸
21,21’ 張出部 210 ボールプランジャ
22 外れ止め部
23 固定片 230 固定片凹部
30 押圧片
300 先端係合凹部
40,40’ ハンドル
41,41’ 筒状部 410 切替凹部 419 維持凹部
41c 円環部材
S1 切替機構用バネ S2 確認機構用バネ
N1 当止部 N2 弛み止めナット N3 維持機構用ナット(当止部)
W1 ワッシャ W2 スプリングワッシャ
100 接地用具
101 絶縁棒 102 把持金具 103 アース線
104 アース金具
104a 金具本体 104b ネジ軸 104c 押圧片
104d ハンドル
200 導電部材
図1
図2
図3
図4
図5