(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5979687
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】操舵制御装置、電動車および操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 7/15 20060101AFI20160817BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
B62D7/15 A
B62D6/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-148694(P2015-148694)
(22)【出願日】2015年7月28日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】ニチユ三菱フォークリフト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正人
【審査官】
三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−246347(JP,A)
【文献】
特開2013−086627(JP,A)
【文献】
特開平05−115105(JP,A)
【文献】
特開平09−110392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00 − 7/15
B66F 9/00 − 11/04
B60L 15/20
B60W 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左前輪および右前輪とステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車において、前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪の操舵を制御する操舵制御装置であって、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪が、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度を超えて操舵されている場合に、前記一方の前輪の操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う
ことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除する
ことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記プラギング操作は、前記電動車を方向転換させるためのアクセル反転操作と、前記電動車を停止させるためのアクセルOFF操作とを含み、
前記アクセル反転操作の場合、前記走行速度が前記設定速度よりも小さいときに前記操舵角固定制御を解除し、
前記アクセルOFF操作の場合、前記電動車が停止したときに前記操舵角固定制御を解除する
ことを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
左前輪および右前輪とステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車であって、
前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪を制御する操舵制御装置と、
前記プラギング操作を検出するプラギング操作検出手段と、
前記左前輪の操舵角を検出する第1角度検出手段と、
前記右前輪の操舵角を検出する第2角度検出手段と、
前記操舵制御装置の制御下で前記左前輪を操舵する第1操舵手段と、
前記操舵制御装置の制御下で前記右前輪を操舵する第2操舵手段と、
を備え、
前記操舵制御装置は、
前記プラギング操作検出手段の検出結果と前記第1角度検出手段または前記第2角度検出手段の少なくとも一方の検出結果とに基づいて、前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角が、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度を超えているか否かを判定し、
前記設定角度を超えていると判定した場合に、前記第1操舵手段または前記第2操舵手段を制御して、前記一方の前輪の操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う
ことを特徴とする電動車。
【請求項5】
前記後輪を回転させるための走行モータの回転量を検出する回転検出手段を備え、
前記操舵制御装置は、
前記回転検出手段の検出結果に基づいて前記電動車の走行速度を算出し、
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除する
ことを特徴とする請求項4に記載の電動車。
【請求項6】
操舵制御装置と、左前輪および右前輪と、ステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車において、前記操舵制御装置が前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪の操舵を制御する操舵制御方法であって、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角と、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度とを比較する第1ステップと、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角が前記設定角度を超えている場合に、当該操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う第2ステップと、を含む
ことを特徴とする操舵制御方法。
【請求項7】
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除する第3ステップを含む
ことを特徴とする請求項6に記載の操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置、当該操舵制御装置を備えた電動車、および操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、操舵制御装置を備えた電動車として、リーチ式全方向フォークリフトが知られている(例えば、特許文献1参照)。リーチ式全方向フォークリフトでは、オペレータにより選択された走行モードおよび後輪(ドライブホイール)の操舵角に応じて、操舵制御装置が左前輪(ロードホイール)および右前輪(ロードホイール)の操舵角をそれぞれ独立に制御することで、全方向走行を可能にしている。
【0003】
リーチ式全方向フォークリフトでは、デッドマンブレーキ装置が後輪にのみブレーキをかけるため、ブレーキ操作時における左前輪および右前輪の操舵角によっては、ブレーキ操作により車体の姿勢が大きく変化してしまう。具体的には、慣性と遠心力により、後輪と路面との接触点を中心に左前輪および右前輪が転動して車体が回転してしまう。そこで、リーチ式全方向フォークリフトでは、ブレーキ操作時に左前輪または右前輪の少なくとも一方を、車体が回転する方向と反対方向に回転させ(操舵させ)かつ所定の角度に固定する操舵角固定制御を行うことで、路面との間に摩擦力を発生させて車体が回転するのを防いでいる。
【0004】
この前輪に対する操舵角固定制御について、
図5を参照して具体的に説明する。リーチ式全方向フォークリフトは、
図5(A)に示すように、横移動モードで走行しているものとする。横移動モードの場合、操舵制御装置は、後輪40、左前輪20および右前輪30の操舵角をいずれも90°にする。横移動モードでは、オペレータがアクセルレバーをニュートラル位置から前傾させると車体10は左方向に移動し、オペレータがアクセルレバーをニュートラル位置から後傾させると車体10は右方向に移動する。
【0005】
車体10が左方向に移動しているときにオペレータによるステアリング操作が行われると、操舵制御装置は、
図5(B)に示すように、後輪40、左前輪20および右前輪30の操舵角を制御する。すなわち、操舵制御装置は、ステアリングの操作量に応じた操舵角に後輪40を操舵するとともに、右前輪30の操舵角を90°に固定し、右前輪30の回転軸の延長線H
Rと後輪40の回転軸の延長線H
Fとの交点Pを左前輪20の回転軸の延長線H
Lが通るように、左前輪20を操舵する。このとき、交点Pが車体10の旋回中心となり、後輪40、左前輪20および右前輪30の摩擦力(すべり)が最小となるので、円滑な旋回が可能になる。このように、左前輪20の回転軸の延長線H
Lと、右前輪30の回転軸の延長線H
Rと、後輪40の回転軸の延長線H
Fとが1点で交わるように操舵角を制御することを、アッカーマン操向による操舵制御という。
【0006】
アッカーマン操向による操舵制御が行われているときにオペレータによるブレーキ操作が行われると、操舵制御装置は、
図5(C)に示すように、左前輪20に対して操舵角固定制御を行う。すなわち、操舵制御装置は、左前輪20の回転軸の延長線H
Lと右前輪30の回転軸の延長線H
Rと後輪40の回転軸の延長線H
Fとが1点で交わらないように、左前輪20の操舵角を予め設定された設定角度(例えば、60°)に操舵して固定する。これにより、左前輪20と路面との間に摩擦力が発生するので、ブレーキ操作により車体10が回転するのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−246347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、リーチ式全方向フォークリフトでは、ブレーキ操作により後輪40を機械的にロックして車体10を停止させる場合よりも、プラギング操作により後輪40を回生制動して車体10を停止させる場合の方が多い。
【0009】
しかしながら、上記従来のリーチ式全方向フォークリフトでは、ブレーキ操作時にのみ操舵角固定制御が行われ、プラギング操作時には操舵角固定制御が行われないため、プラギング操作により車体10の姿勢が大きく変化してしまうおそれがあった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、プラギング操作により車体の姿勢が大きく変化してしまうのを防止することが可能な操舵制御装置、電動車および操舵制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る操舵制御装置は、
左前輪および右前輪とステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車において、前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪の操舵を制御する操舵制御装置であって、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪が、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度を超えて操舵されている場合に、前記一方の前輪の操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う
ことを特徴とする。
【0012】
上記操舵制御装置は、
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除するよう構成できる。
【0013】
上記操舵制御装置は、
前記プラギング操作は、前記電動車を方向転換させるためのアクセル反転操作と、前記電動車を停止させるためのアクセルOFF操作とを含み、
前記アクセル反転操作の場合、前記走行速度が前記設定速度よりも小さいときに前記操舵角固定制御を解除し、
前記アクセルOFF操作の場合、前記電動車が停止したときに前記操舵角固定制御を解除するよう構成できる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動車は、
左前輪および右前輪とステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車であって、
前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪を制御する操舵制御装置と、
前記プラギング操作を検出するプラギング操作検出手段と、
前記左前輪の操舵角を検出する第1角度検出手段と、
前記右前輪の操舵角を検出する第2角度検出手段と、
前記操舵制御装置の制御下で前記左前輪を操舵する第1操舵手段と、
前記操舵制御装置の制御下で前記右前輪を操舵する第2操舵手段と、
を備え、
前記操舵制御装置は、
前記プラギング操作検出手段の検出結果と前記第1角度検出手段または前記第2角度検出手段の少なくとも一方の検出結果とに基づいて、前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角が、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度を超えているか否かを判定し、
前記設定角度を超えていると判定した場合に、前記第1操舵手段または前記第2操舵手段を制御して、前記一方の前輪の操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う
ことを特徴とする。
【0015】
上記電動車は、
前記後輪を回転させるための走行モータの回転量を検出する回転検出手段を備え、
前記操舵制御装置は、
前記回転検出手段の検出結果に基づいて前記電動車の走行速度を算出し、
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除するよう構成できる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明に係る操舵制御方法は、
操舵制御装置と、左前輪および右前輪と、ステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により前記後輪が回生制動され、ブレーキ操作により前記後輪の回転が停止する電動車において、前記操舵制御装置が前記左前輪または前記右前輪の少なくとも一方の前輪の操舵を制御する操舵制御方法であって、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角と、前記電動車の前後進時における前記一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度とを比較する第1ステップと、
前記プラギング操作時における前記一方の前輪の操舵角が前記設定角度を超えている場合に、当該操舵角を前記設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う第2ステップと、を含む
ことを特徴とする。
【0017】
上記操舵制御方法は、
前記操舵角固定制御時において、減速中の前記電動車の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または前記電動車が停止したときに、前記操舵角固定制御を解除する第3ステップを含むよう構成できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プラギング操作により車体の姿勢が大きく変化してしまうのを防止することが可能な操舵制御装置、電動車および操舵制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電動車(リーチ式全方向フォークリフト)の構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る操舵制御装置と各種検出手段との関係を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る操舵制御方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る操舵制御方法のフローチャートである。
【
図5】従来のリーチ式全方向フォークリフトの一連の走行状態を示す図であって、(A)は左移動時の図、(B)はステアリング操作時の図、(C)はブレーキ操作時の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る操舵制御装置、電動車および操舵制御方法の実施形態について説明する。本発明に係る電動車としては、リーチ式全方向フォークリフトを例に挙げて説明する。前後、左右および上下の方向は、特に断りのない限り、リーチ式全方向フォークリフトの車体(操舵制御装置にあっては車体に装備された状態)を基準に考えるものとする。
【0021】
[第1実施形態]
図1に、本発明の第1実施形態に係るリーチ式全方向フォークリフト(以下、フォークリフト)100を示す。フォークリフト100は、本発明の第1実施形態に係る操舵制御装置1を車体10の内部に備える。
【0022】
フォークリフト100は、車体10の前側に延出された左右一対のストラドルレッグ2と、ストラドルレッグ2に沿って前後方向に移動するキャリッジ3とを備える。キャリッジ3には、左右一対のマスト装置4が上下方向に立設されている。マスト装置4には、左右一対のフォーク5が昇降可能に設けられている。また、フォークリフト100は、車体10の右後部に、オペレータが起立した状態で乗降できる運転席6を備える。運転席6の床部には、デッドマンブレーキ装置7が設けられている。
【0023】
左側のストラドルレッグ2には、左前輪(ロードホイール)20と、ステアリングモータ21と、左前輪20を旋回自在に支持するブラケット22と、例えばギアからなる伝達部材23と、例えばポテンショメータからなる第1角度検出手段24とが設けられている。ステアリングモータ21、ブラケット22および伝達部材23が、本発明の「第1操舵手段」に相当する。操舵制御装置1の制御下でステアリングモータ21が回転駆動すると、伝達部材23を介してステアリングモータ21の動力がブラケット22に伝達され、ブラケット22が旋回することで、左前輪20が旋回する。第1角度検出手段24は、ブラケット22の旋回角度を検出して、当該旋回角度に関する信号を操舵制御装置1に出力する。
【0024】
右側のストラドルレッグ2には、右前輪(ロードホイール)30と、ステアリングモータ31と、右前輪30を旋回自在に支持するブラケット32と、例えばギアからなる伝達部材33と、例えばポテンショメータからなる第2角度検出手段34とが設けられている。ステアリングモータ31、ブラケット32および伝達部材33が、本発明の「第2操舵手段」に相当する。操舵制御装置1の制御下でステアリングモータ31が回転駆動すると、伝達部材33を介してステアリングモータ31の動力がブラケット32に伝達され、ブラケット32が旋回することで、右前輪30が旋回する。第2角度検出手段34は、ブラケット32の旋回角度を検出して、当該旋回角度に関する信号を操舵制御装置1に出力する。
【0025】
車体10の左後部には、後輪(ドライブホイール)40と、走行モータ41と、ステアリングモータ42と、例えばポテンショメータからなる第3角度検出手段43と、ドライブ装置(図示略)とが設けられている。走行モータ41およびステアリングモータ42は、ドライブ装置を介してそれぞれ独立に後輪40と連結している。操舵制御装置1の制御下で走行モータ41が回転駆動すると、ドライブ装置を介して走行モータ41の動力が後輪40に伝達され、後輪40が正回転または逆回転する。また、操舵制御装置1の制御下でステアリングモータ42が回転駆動すると、ドライブ装置の少なくとも一部が旋回して、後輪40が旋回する。第3角度検出手段43は、ドライブ装置の旋回角度を検出して、当該旋回角度に関する信号を操舵制御装置1に出力する。なお、車体10の右後部には、車体10の走行安定性を確保すべくキャスタ輪(図示略)が設けられている。
【0026】
フォークリフト100は、車体10の上面に、後輪40を操舵するためのステアリングハンドル8と、レバー類9とを備える。操舵制御装置1は、ステアリングハンドル8のステアリング操作量に応じて、ステアリングモータ42を回転駆動させて後輪40を操舵する。レバー類9は、荷役レバー(リフトレバー、ティルトレバーおよびリーチレバー)とアクセルレバーとを含む。ニュートラル位置のアクセルレバーを前傾または後傾させるアクセルON操作が行われると、操舵制御装置1は、前傾の場合に後輪40を正回転させ、後傾の場合に後輪40を逆回転させる。前傾状態のアクセルレバーを後傾状態にさせたり後傾状態のアクセルレバーを前傾状態にさせたりするアクセル反転操作が行われると、操舵制御装置1は、後輪40を回生制動させて後輪40の回転方向を変える。前傾状態または後傾状態のアクセルレバーをニュートラル位置に戻すアクセルOFF操作が行われると、操舵制御装置1は、後輪40を回生制動させて後輪40の回転を停止させる。
【0027】
フォークリフト100は、車体10の上面に、走行モードを切り替えるためのモード切替ボタン11を備える。走行モードには、標準モード、小回りモード、横移動モード、斜め移動モード等が含まれる。標準モードは、車体10の中央を中心としてスピンターンし、その場での方向転換を可能にするモードである。小回りモードは、車体の側面を中心に旋回するモードである。横移動モードは、左右方向に移動するモードである。斜め移動モードは、車体10の姿勢を任意に変化させながら斜め移動を可能にするモードである。
【0028】
操舵制御装置1は、例えば、マイコンにより構成される。操舵制御装置1は、オペレータにより選択された走行モードおよびステアリングハンドル8のステアリング操作量に応じて、後輪40、左前輪20および右前輪30の操舵を制御する操舵制御を行う。例えば、オペレータにより横移動モードが選択された場合、操舵制御装置1は、後輪40、左前輪20および右前輪30を、いずれも操舵角が90°になるように操舵する。そして、横移動モード時にステアリング操作が行われた場合、操舵制御装置1は、後輪40をステアリングの操作量に応じた操舵角に操舵するとともに、右前輪30の操舵角を90°に固定し、右前輪30の回転軸の延長線と後輪40の回転軸の延長線との交点を左前輪20の回転軸の延長線が通るように、左前輪20を操舵する。
【0029】
さらに、操舵制御装置1は、一定の条件下で操舵角固定制御を行う。本実施形態に係る操舵角固定制御とは、後輪40を回生制動するプラギング操作時(アクセル反転操作時またはアクセルOFF操作)に、左前輪20または右前輪30の少なくとも一方を、プラギング操作により車体10が回転する方向と反対方向に回転させ(操舵させ)、かつ予め設定された設定角度に固定する制御をいう。設定角度は、車体10の前後進時における操舵角を基準として設定した操舵角、言い換えれば、車体10の前後進時における操舵角を0°として設定した操舵角である。本実施形態では、左前輪20に対する設定角度が反時計回り(左回り)に60°と設定されており、右前輪30に対する設定角度が時計回り(右回り)に60°と設定されている。また、本実施形態では、横移動モード時は左前輪20に対して操舵角固定制御を行い、斜め移動モード時は左前輪20および右前輪30に対して操舵角固定制御を行う。
【0030】
次に、本実施形態に係る操舵制御方法について説明する。本実施形態に係る操舵制御方法は、操舵制御装置1により行われるものであり、主に、
(1)プラギング操作時における左前輪20または右前輪30の一方の前輪の操舵角と、上述の設定角度とを比較する第1ステップと、
(2)プラギング操作時における上記一方の前輪の操舵角が設定角度を超えている場合に、当該操舵角を設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行う第2ステップと、
(3)操舵角固定制御時において、減速中の車体10の走行速度が予め設定された設定速度よりも小さいとき、または車体10が停止したときに、操舵角固定制御を解除する第3ステップと、
を含むものである。
【0031】
図2および
図3を参照し、本実施形態に係る操舵制御方法について、横移動モードが選択されている場合を例に挙げて説明する。ここでは、アクセルON操作(アクセルレバーを前傾させた操作)により、車体10を左に移動させているものとする。
【0032】
図3に示すように、車体10が左移動を開始すると、操舵制御装置1は、ブレーキ操作が行われたか否かを判定する(S1)。デッドマンブレーキ装置7には、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するためのブレーキ操作検出手段(例えば、ポテンショメータ)12が設けられている。操舵制御装置1は、ペダルの踏み込み量が所定の閾値を超えているときにブレーキ操作ありと判定し、所定の閾値以下のときにブレーキ操作なしと判定する。
【0033】
ブレーキ操作なしと判定した操舵制御装置1は、プラギング操作(アクセル反転操作またはアクセルOFF操作)が行われたか否かを判定する(S2)。アクセルレバーには、アクセルレバーの傾斜角を検出するためのアクセル操作検出手段(例えば、ポテンショメータ)13が設けられている。例えば、アクセルレバーの傾斜角についてニュートラル位置を0°とし、前傾側を正の角度、後傾側を負の角度とした場合、操舵制御装置1は、傾斜角が負の角度のときにアクセル反転操作が行われたと判定し、傾斜角が0°のときにアクセルOFF操作が行われたと判定し、傾斜角が正の角度のときにアクセル反転操作およびアクセルOFF操作が行われていないと判定する。なお、アクセル操作検出手段は、本発明の「プラギング操作検出手段」に相当する。
【0034】
アクセル反転操作およびアクセルOFF操作が行われていないと判定した操舵制御装置1は、再びブレーキ操作が行われたか否かを判定する(S1)。なお、ステップS1の判定とステップS2の判定は、順序を逆にしてもよいし、同時に行ってもよい。
【0035】
アクセル反転操作が行われたと判定した操舵制御装置1は、アクセル反転操作時における左前輪20の操舵角が設定角度(前後進時における操舵角を基準として反時計回りに60°)を超えているか否かを、第1角度検出手段24で検出した左前輪20の操舵角(ブラケット22の旋回角度)に基づいて判定する(S3)。本実施形態では、左前輪20の操舵角とブラケット22の旋回角度とが一致する。
【0036】
操舵制御装置1は、左前輪20の操舵角が設定角度を超えていると判定した場合、左前輪20に対して操舵角固定制御を開始する(S4)。一方、操舵制御装置1は、左前輪20の操舵角が設定角度以下であると判定した場合、操舵角固定制御を開始しない。例えば、横移動モードにおいて右旋回が行われたときに、左前輪20の操舵角が設定角度以下となる場合がある。
【0037】
左前輪20に対して操舵角固定制御を開始した操舵制御装置1は、左前輪20を旋回させるステアリングモータ21に駆動信号を出力し、左前輪20の操舵角を設定角度に戻して固定する。このとき、右前輪30の操舵角は90°のままであるが、左前輪20の操舵角が60°になることで、左前輪20と路面との間の摩擦力が発生する。この摩擦力により、後輪40と路面との接触点を中心に車体10が回転してしまうのを防ぐことができる。
【0038】
後輪40を回転させるための走行モータ41には、当該走行モータ41の回転量を検出するための回転検出手段(例えば、ベアリングセンサ)14が設けられている。操舵角固定制御を開始した操舵制御装置1は、走行モータ41の回転量に基づいて車体10の走行速度を演算し、当該走行速度が予め設定された第1設定速度V1(本実施形態では、1[km/h])を下回ったか否かを判定する(S5)。なお、走行速度は、操舵角固定制御開始時に車体10が進行している方向を正とする。
【0039】
操舵制御装置1は、走行速度が第1設定速度V1を下回ったと判定するまでステップS5の判定を繰り返す。走行速度が第1設定速度V1を下回ったと判定した操舵制御装置1は、操舵角固定制御を解除する(S6)。これにより、減速時に左前輪20の操舵角が設定角度から走行モードに応じた角度になるように左前輪20が操舵されるので、方向転換時にスムーズな再加速が可能となる。ここで、走行モードに応じた角度とは、横移動モード時は基本的には90°であるが、ステアリング操作が行われた場合は、右前輪30の回転軸の延長線と後輪40の回転軸の延長線との交点を左前輪20の回転軸の延長線が通るときの角度である。
【0040】
ステップS2の判定において、アクセルOFF操作が行われたと判定した操舵制御装置1は、ステップS3と同様に、左前輪20の操舵角が設定角度を超えているか否かを判定する(S13)。操舵制御装置1は、設定角度を超えていると判定した場合は左前輪20に対する操舵角固定制御を開始し(S14)、設定角度以下であると判定した場合は操舵角固定制御を開始しない。
【0041】
操舵角固定制御を開始した操舵制御装置1は、左前輪20の操舵角を設定角度に戻して固定するとともに、回転検出手段14の検出結果に基づいて車体10が停止したか否かを判定する(S15)。操舵制御装置1は、例えば、回転検出手段14で検出した走行モータ41の回転量が0になったときに、車体10が停止したと判定し、操舵角固定制御を解除する(S16)。このように、車体10が停止するまで操舵角固定制御を行うことで、制動性および安全性を向上させることができる。
【0042】
また、ステップS1の判定において、ブレーキ操作ありと判定した操舵制御装置1は、ステップS3、S13と同様に、左前輪20の操舵角が設定角度を超えているか否かを判定する(S23)。操舵制御装置1は、設定角度を超えていると判定した場合は左前輪20に対する操舵角固定制御を開始し(S24)、設定角度以下であると判定した場合は操舵角固定制御を開始しない。
【0043】
操舵角固定制御を開始した操舵制御装置1は、左前輪20の操舵角を設定角度に戻して固定するとともに、回転検出手段14の検出結果に基づいて車体10が停止したか否かを判定する(S25)。操舵制御装置1は、車体10が停止したと判定したときに、操舵角固定制御を解除する(S26)。なお、ステップS25の代わりに、ブレーキ操作検出手段12の検出結果に基づいてブレーキ操作が解除されたか否かを判定し、ブレーキ操作が解除されたと判定したときに、操舵角固定制御を解除してもよい。
【0044】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る操舵制御装置、フォークリフトおよび操舵制御方法は、操舵角固定制御の解除条件のみが第1実施形態と異なる。したがって、本実施形態では、第1実施形態と同じ参照符号を用いる。また、本実施形態に係る操舵制御装置1およびフォークリフト100の説明は、省略する。
【0045】
本実施形態における操舵制御方法フローは、
図4に示すとおりである。すなわち、ステップS5の判定の代わりにステップS5’の判定を行う点、およびステップS15の判定の代わりにステップS15’の判定を行う点が、第1実施形態と異なる。
【0046】
ステップS5’において、操舵制御装置1は、回転検出手段14の検出結果に基づいて車体10が停止したか否かを判定する。操舵制御装置1は、回転検出手段14で検出した走行モータ41の回転量が0になったときに、車体10が停止したと判定し、操舵角固定制御を解除する(S6)。このように、車体10が停止するまで操舵角固定制御を行うことで、方向転換時における制動性および安全性を向上させることができる。
【0047】
ステップS15’において、操舵制御装置1は、走行モータ41の回転量に基づいて車体10の走行速度を演算し、当該走行速度が予め設定された第2設定速度V2(本実施形態では、1[km/h])を下回ったか否かを判定する。走行速度が第2設定速度V2を下回ったと判定した操舵制御装置1は、操舵角固定制御を解除する(S16)。これにより、減速時に左前輪20の操舵角が設定角度(60°)から走行モードに応じた角度(例えば、90°)になるように左前輪20が操舵されるので、停止後において、または停止する直前にアクセルON操作が行われた場合において、スムーズな再加速が可能となる。
【0048】
以上、本発明に係る操舵制御装置、電動車および操舵制御方法の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。
【0049】
上記各実施形態では、電動車としてリーチ式全方向フォークリフト100を例に挙げて説明したが、本発明に係る電動車は、左前輪および右前輪とステアリング操作により操舵される後輪とを備え、プラギング操作により後輪が回生制動され、ブレーキ操作により後輪の回転が停止するものであればよい。例えば、リーチ式全方向フォークリフト100以外のフォークリフトでもよいし、フォークリフト以外のものでもよい。
【0050】
上記各実施形態では、操舵制御装置として、通常の操舵制御(例えば、アッカーマン操向による操舵制御)と操舵角固定制御とを行う操舵制御装置1を用いているが、本発明に係る操舵制御装置は、少なくとも操舵角固定制御を行うものであればよい。本発明に係る操舵制御装置が操舵角固定制御のみを行う場合、別途、通常の操舵制御を行う装置が必要になる。
【0051】
操舵角固定制御の解除条件は、適宜変更することができる。上記第1実施形態では、アクセル反転操作時に走行速度が第1設定速度V1を下回ったとき、またはアクセルOFF操作時に車体10が停止したとき、第2実施形態では、アクセル反転操作時に車体10が停止したとき、またはアクセルOFF操作時に走行速度が第2設定速度V2を下回ったときとしているが、例えば、アクセル反転操作時に走行速度が第1設定速度V1を下回ったとき、またはアクセルOFF操作時に走行速度が第2設定速度V2を下回ったときとしてもよいし、アクセル反転操作時に車体10が停止したとき、またはアクセルOFF操作時に車体10が停止したときとしてもよい。
【0052】
上記実施形態では、左前輪20に対する設定角度を反時計回り(左回り)に60°と設定し、右前輪30に対する設定角度を時計回り(右回り)に60°と設定しているが、これらの設定角度は、プラギング操作時またはブレーキ操作時に路面との間の摩擦力が発生する角度であれば、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 操舵制御装置
2 ストラドルレッグ
3 キャリッジ
4 マスト装置
5 フォーク
6 運転席
7 デッドマンブレーキ装置
8 ステアリングハンドル
9 レバー類
10 車体
11 モード切替ボタン
12 ブレーキ操作検出手段
13 アクセル操作検出手段(プラギング操作検出手段)
14 回転検出手段
20 左前輪(ロードホイール)
21 ステアリングモータ
22 ブラケット
23 伝達部材
24 第1角度検出手段
30 右前輪(ロードホイール)
31 ステアリングモータ
32 ブラケット
33 伝達部材
34 第2角度検出手段
40 後輪
41 走行モータ
42 ステアリングモータ
43 第3角度検出手段
100 リーチ式全方向フォークリフト
【要約】
【課題】プラギング操作により車体の姿勢が大きく変化してしまうのを防止することが可能な操舵制御装置を提供する。
【解決手段】電動車100の左前輪20または右前輪30の少なくとも一方の前輪の操舵を制御する操舵制御装置1であって、プラギング操作が行われたときの一方の前輪が、電動車100の前後進時における一方の前輪の操舵角を基準として予め設定された設定角度を超えて操舵されている場合に、一方の前輪の操舵角を設定角度に戻して固定させる操舵角固定制御を行うことを特徴とする。
【選択図】
図1