(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979695
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを迅速に切り離すための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B63B 35/44 20060101AFI20160817BHJP
B63B 35/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
B63B35/44 E
B63B35/00 M
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-546506(P2015-546506)
(86)(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公表番号】特表2015-536866(P2015-536866A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】US2013071516
(87)【国際公開番号】WO2014099269
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年6月8日
(31)【優先権主張番号】61/745,128
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500450727
【氏名又は名称】エクソンモービル アップストリーム リサーチ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】コッキニス セオドア
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フェンツ ダニエル
【審査官】
佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/087962(WO,A1)
【文献】
米国特許第7770532(US,B2)
【文献】
米国特許第5941746(US,A)
【文献】
米国特許第4616707(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0011320(US,A1)
【文献】
特開平09−170394(JP,A)
【文献】
特表2011−520698(JP,A)
【文献】
特開昭61−009387(JP,A)
【文献】
特開2012−171619(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0190393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/44
B63B 35/00
E21B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に接続された係留ブイを有する浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを切り離す方法であって、
前記海底に係合された海底構成要素から前記掘削ライザを切り離す段階と、
前記係留ブイを前記掘削ライザに取り付ける段階と、
前記係留ブイ及び前記取り付けられた掘削ライザを前記掘削プラットフォームから解放する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の数のライザジョイントを回収する段階をさらに含み、前記海底構成要素から切り離す前において前記掘削ライザは、第2の数のライザジョイントを備え、前記第1の数のライザジョイントは、第2の数のライザジョイント未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記海底構成要素は、噴出防止装置である、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記係留ブイは、圧縮クランプを解除することで前記掘削ライザに取り付けられる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記圧縮クランプは、前記係留ブイからライザジョイントに延びるストラットと、前記圧縮クランプか解除された場合に前記ライザジョイントに固定された一対の円錐表面に係合する嵌合部材とを備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記係留ブイは、張力ストラットをライザジョイント及び前記係留ブイに連結することによって前記掘削ライザに取り付けられる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
張力ストラットをピンと張るために、前記張力ストラットに作動可能に連結されたターンバックルを調整する段階をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記係留ブイはムーンプールを有し、前記掘削ライザは、前記ムーンプールの内部に位置決めされる、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
掘削ライザを浮遊式掘削プラットフォームから切り離すシステムであって、
少なくとも1つのブイ固定機構によって前記浮遊式掘削プラットフォームの船体に解放可能に連結され、複数の係船索によって海底に接続された係留ブイと、
前記係留ブイの外面に取り付けられたクランプシステムと、
を備え、
前記クランプシステムは、前記掘削ライザが前記係留ブイに対して自由に動くことができる解除位置を有し、前記クランプシステムは、前記掘削ライザが前記係留ブイに対して自由に動くのを阻止する係合位置を有し、前記クランプシステムは、前記係留ブイが前記浮遊式掘削プラットフォームの船体から解放された後、前記係合位置を維持するように構成及び配置される、ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
前記クランプシステムは、圧縮クランプを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記圧縮クランプは、前記係留ブイに固定されたフレームに第1の端部が連結されたストラットと、前記ストラットの第2の端部に取り付けられた嵌合部材とを備え、前記嵌合部材は、前記クランプシステムが前記係合位置にある場合、ライザジョイントに固定された一対の円錐面に係合するように構成及び配置される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記円錐面の少なくとも1つの内面に衝撃パッドが取り付けられている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ストラットは、油圧で操作される、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記ストラットは、バネを備えている、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記クランプシステムは、前記係留ブイに固定されたブイ取付け部と、ライザジョイントに固定されたライザ取付け部と、前記クランプシステムが前記係合位置にある場合に、前記ブイ取付け部及び前記ライザ取付け部に取り付くように構成及び配置された、張力ストラットとを備える、請求項9から14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記張力ストラットは、前記張力ストラットに作動可能に連結されたターンバックルを備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記係留ブイはムーンプールを有し、前記掘削ライザは、前記ムーンプールの内部に位置決めされる、請求項9から16のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2012年12月21日出願の米国特許仮出願番号61/745,128「浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを迅速に切り離すための装置及び方法」の恩恵を享受するものであり、その開示内容全体は本明細書に組み込まれている。
【0002】
(技術分野)
本開示の実施形態は、海洋掘削作業の分野に関し、詳細には、海氷、氷山、又は他の危険要因が近づいてくる場合に浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを迅速に切り離すシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本セクションは、本技術の種々の態様を紹介することを目的としており、本発明のいくつかの実施形態に関連する場合もある。本考察は、本発明の特定の形態をより良く理解するのを容易にするためのフレームワークを提供するのを助けると考えられる。従って、本セクションは、この観点から読み取る必要があり、必ずしも従来技術の自認ではないことを理解されたい。
【0004】
極寒地帯において石油・ガス事業をサポートする海洋井戸は、最大水深約100mに至る海底設置式プラットフォームから掘削することができる。この水深を超えると、このような井戸を掘削するには浮遊式船舶又はプラットフォームが必要になる。
図1には従来式の掘削ライザシステムによって海底に係留された浮遊式掘削プラットフォームが示されている。プラットフォーム101は、掘削地点の上方の水域103に位置決めされる。図示のように、プラットフォーム101は、掘削油井やぐら105、甲板107、及び船体109を備える。取外し式ブイ111は、船体109に隣接して配置され、ブイ固定機構119によって船体109に連結される。
【0005】
当業者であれば理解できるように、井戸の掘削時、浮遊式プラットフォーム101は位置保持システムによって所定の位置に保持される。
図1の実施形態において、位置保持システムは、海底117に係合したアンカー115によって所定位置に保持された複数の係船索113を備える。更に、従来型のトップテンション式垂直アクセス掘削ライザ121は、ロワーマリンライザーパッケージ(LMRP)125に組み込まれたコネクタを介して、プラットフォーム101を、海底117に位置決めされた噴出防止装置(BOP)127を含む井戸の頂部に連結する。当業者であれば理解できるように、ライザ121は、複数の独立したライザジョイント123で構成される。トップジョイント131により、掘削ライザをプラットフォームに取り付けることができる。トップジョイント131は、限定されるものではないが、伸縮式ジョイント131a、屈曲式ジョイント/ライザダイバータ131bを含むことができる。
【0006】
極寒海域において、氷は、掘削地点を横切って一年の大部分を又は一年を通して漂流することが予想され、厚氷は掘削プラットフォーム101に負荷をかける。極端な氷状態において、この負荷は、高い頻度でプラットフォームの係留システムの能力を越える場合がある。この状况で係船索113及び掘削ライザ121が損傷を受けないようにするための1つの手法は、安全に作業を中止し、ライザを回収して係留ブイを切り離し、氷状態が改善した場合に再連結することである。係留ブイが切り離されている間に、プラットフォーム101は、漂流氷の作用で掘削地点から離れて移動する場合がある。このことは
図2に示されており、矢印201は移動方向を示す。
【0007】
予想される多数回の切り離し及び再連結に起因して、この操作は迅速に行う必要がある。プラットフォーム101の係留システムの迅速な切り離し及び再連結のための1つの公知の手法は、全ての係船索113を係留ブイ111に接続した状態にしておくことである。一般に、このような構成は、プラットフォーム101を係留システムから迅速な切り離すこと、又はこれに迅速に再連結することを可能にする(一般に、1時間の何分の1程度)。
【0008】
係留システムをプラットフォーム101から切り離す必要がある場合、係船索113を伴うブイ111は、固定機構119の操作を通じて船体109から解放される。当該システムの切り離し操作に必要な時間は、係船索を個別に切り離す必要がある場合に比べて非常に短い。再連結に関しても同様であり、ブイ111はプラットフォーム101の船体109の内部の所定位置に引き戻され、固定機構119を用いて機械的に固定される。当業者には公知であるが、ブイ111は、切り離された後でも頭上を漂流する何らかの氷の特徴部、すなわち海氷隆起部又は氷山のキールとの接触を十分回避する深さに浮揚するようデザインされる。
【0009】
掘削プラットフォーム101の場合、係留ブイ111を備えるので、プラットフォームの本体を井戸の頂部に連結する海洋掘削ライザ121は、ムーンプール129と呼ばれる係留ブイ111中央の開口を通る。このことは、プラットフォーム101を移動できるように係留ブイ111を切り離し得る前に、BOP127上方のLMRP125においてライザ121を切り離し、
図2に示すように係留ブイ111をクリアにするためにライザをプラットフォーム101に回収する必要があることを意味する。
【0010】
別の点では、掘削ライザ121と係留ブイ111とが干渉する場合があり、同様に両者に損傷を与える。
図3にはこのような事例が示されており、円領域301は、ライザ121とブイ111との間の可能性のある干渉を明示する。
図3において、係留ブイ111は掘削プラットフォーム101から切り離されているので、プラットフォームは、201の方向に移動することができる。しかしながら、掘削ライザ121は、LMRP125においてBOP127から切り離されているが、依然としてプラットフォーム101に取り付けられている。従って、掘削地点から離れて移動する際に、ライザ121はブイ111に衝突する可能性があり、ブイ又はライザ、又はこれら両方に損傷を与えることになる。
【0011】
コンプライアンスによってライザはブイに直接連結することができ、さらにブイが切り離された場合に水コラム(column)の中を落下する際にブイと一緒に移動することができる、柔軟な非垂直石油・ガス産出ライザとは違って、垂直な海洋掘削ライザ121は、通常、プラットフォーム101の甲板107と伸縮式ジョイント(トップジョイント131の1つ)の下部バレルとの間に作用するライザテンショナ133を用いて張力が加えられている。張力が加えられたライザ121のコンプライアンスは、ブイ111が落下する際に、特にブイ111とライザ121とが衝突する際にライザを曲げて損傷を与える場合がある。
【0012】
しかしながら、ライザ121は引き上げの際にジョイント毎に分解してプラットフォーム上に戻す必要があるので、掘削ライザ121の全てをプラットフォーム101の甲板107に引き上げるには相当な時間がかかる。例えば、水深1000mでは、掘削ライザをプラットフォームに引き上げる作業は約20−30時間かかると予想され、極端な氷状の下で係留ブイを切り離すのに必要な時間よりも非常に長い。係留ブイ111を再連結した後にライザ121を再配置するには同様に長い時間が必要である。従って、切り離し作業の間に係留ブイと掘削ライザとが干渉しないために必要な時間を著しく短縮できる方法及びシステムに対する明らかなニーズが存する。
【0013】
ライザ121の全てをプラットフォーム101の本体に引き上げる必要性を無くし、切り離しの間の係留ブイ111との干渉を防ぐ可能性のある解決策は、
図4に示すように、ライザを下部401及び上部403に分割することである。下部401の最上部は、1つ又はそれ以上の浮力カン405で支持することができる。上部403は、下端にコネクタ407を備えたライザジョイントを有し、該コネクタは、通常、上部403を下部401に連結する。ライザジョイント407のコネクタは、ライザ上部403をライザ下部401から分離するために解除することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
切り離し時、ライザの上部403は下部401から切り離され、その後、
図5に示すようにプラットフォーム101に回収及び収容される。その後、係留ブイ111を切り離すことができ、プラットフォーム101は移動して離れていくことができる。このようなシステムは、全てのライザをプラットフォームに回収するのに必要な時間の一部を短縮するという目的を達成するが、依然としていくつかの欠点がある。例えば、ライザは2つの部分を有し、そのうちの1つは切り離した後に水コラム内で自立ライザとして留まることが意図されているので、従来の単一部品の掘削ライザとは異なり、挙動、安定性、及び構造設計に関して特別な工学的検討が必要となる。また、切り離し後、ライザの下部は、係留ブイの下にある必要があり(切り離し後のブイとライザとの干渉を防ぐために)、更に、係留ブイは、氷隆起部及び/又は氷山のキールとの接触を防ぐために十分な深さで静止する必要があるので、ライザの上部の長さは、ライザの全長の相当部分になる可能性がある。従って、一部のライザの回収による時間短縮は期待できない。
【0015】
さらに、係留ブイの静止深さがライザの下部の最上部の上にあったとしても、切り離し時に係船索113と、ライザの下部401及び/又は浮力カン405とが干渉する可能性がある。可能性のある干渉は、プラットフォーム101が井戸の頂部から著しくオフセットした状態で切り離しが起こった場合に生じる可能性がある。この例は
図6に示されている。更に、浮力カン405との干渉は、係留ブイ111が降下する際の過渡振動に起因して起こる可能性がある。
【0016】
従って、本分野では改善に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、掘削ライザを迅速に切り離すためのシステム及び方法を提供する。
【0018】
本開示の1つの実施形態は、海底に接続された係留ブイを有する浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを切り離す方法であって、本方法は、海底に係合された海底構成要素から掘削ライザを切り離す段階と、係留ブイを掘削ライザに取り付ける段階と、係留ブイ及び取り付けられた掘削ライザを掘削プラットフォームから解放する段階とを含む。
【0019】
前述のことは以下の詳細な説明をより理解できるように本開示の1つの実施形態の概要を述べたものである。また、本明細書には追加の特徴部及び実施形態が記載されている。
【0020】
本発明及び利点は、詳細な説明及び添付の図面を参照することでさらに良く理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来技術による、係留システムによって所定位置に保持されトップテンション式垂直アクセス掘削ライザによって海底井戸に連結された、極寒の浮遊式掘削プラットフォームの側面断面図である。
【
図2】従来技術による、係留システムから解放された、
図1の掘削プラットフォームの側面断面図である。
【
図3】従来技術による、ライザが回収されていない状態で係留システムから解放された、
図1の掘削プラットフォームの側面断面図である。
【
図4】従来技術による、掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図であり、掘削プラットフォームは2部品の掘削ライザを用いている。
【
図5】従来技術による、
図4の掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図であり、ライザの上部が回収されている。
【
図6】従来技術による、
図4の掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図であり、係船索がライザと干渉している。
【
図7】本開示の1つの実施形態による、係留ブイ及び掘削ライザの連結及び解放プロセスの基本ステップを示すフローチャートである。
【
図8】本開示の1つの実施形態による、掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図である。
【
図9】本開示の1つの実施形態による、ライザからジョイントが回収されている、
図7の掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図である。
【
図10】本開示の1つの実施形態による、ライザクランプが係合されている、
図8の掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図である。
【
図11】本開示の1つの実施形態による、係留ブイが船体から解放されている、
図9の掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図である。
【
図12】本開示の1つの実施形態による、ライザクランプの一部の側面断面図である。
【
図14】本開示の別の実施形態による、ライザクランプの側面断面図である。
【
図15】
図14のライザクランプの実施形態の拡大部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
各図面は、本発明の複数の実施形態の単なる実施例であり、これにより本発明の範囲が限定されないことに留意されたい。さらに、各図面は、縮尺通りではないが、本発明の特定の実施形態の種々の態様を好都合かつ明瞭に示す目的で描かれている。
【0023】
本発明の原理の理解を助けるために、以下に図面に示された実施形態を参照し、これを説明するために特定の専門用語を用いることになる。それにもかかわらず、本発明の範囲を限定することは意図されていないことを理解されたい。記載された実施形態の何らかの変更例及びさらなる変形例、及び本明細書に記載された発明の原理のさらなる適用例は、通常、本発明に関連する当業者であれば想定できると考えられる。本発明の1つの実施形態が詳細に示されるが、当業者であれば、本発明に関連のない一部の特徴部は明瞭化のために示されていないことを理解できるはずである。
【0024】
本開示の実施形態は、掘削プラットフォームを移動させるために掘削ライザを回収するのに必要な時間を短縮し、係留ブイが掘削プラットフォームから切り離された場合にライザと係留ブイとの干渉を防ぐという問題点に対する解決策を提供する。
【0025】
図7のフローチャートは、係留ブイ及び掘削ライザを連結及び解放するための本開示の1つの実施形態の説明に言及する。図示のプロセス700は、掘削ライザを海底の構成要素から切り離すことで始まる(ブロック701)。掘削ライザ及び井戸頂部を連結及び切り離すことが可能な機構及び構成要素は公知である。1つの実施形態において、LMRP内の連結手段は、掘削ライザをBOPから解放するために使用される。
【0026】
ブロック703において、掘削ライザを構成する各ライザジョイントの一部分を回収する。いくつかの実施形態において、ダイバータ、屈曲式ジョイント、伸縮式ジョイント、及び/又は複数の他のライザジョイントを回収することができる。回収されるライザジョイントの数は、限定されるものではないが、環境状態、氷状、BOP及び係留システムの高さといった種々の要因に基づくことができる。
【0027】
ブロック705において、残余のライザは、係留ブイにクランプされる。掘削ライザを係留ブイに取り付けるために種々の機構を利用することができる。以下に本開示の2つの実施形態が提供される。係留ブイ及びライザが連結されると、係留ブイ及びライザの連結体は、水コラムの中に解放することができる(ブロック707)。1つの実施形態において、ブロック703においてライザから取り除かれるジョイントの数は、係留ブイ及びライザの連結体が、頭上を漂流する氷山もしくは他の氷又は危険な特徴部分と接触するのを防ぐのに十分な深さに落下でき、一方でライザの下部と掘削地点の近傍に設けられた何らかの海底設備との間に十分な間隙をもたらすことを前提とする。
【0028】
図7に示した各ブロックは例示的なものであり、特定のブロックは発明性のある手法を実行する必要はないことに特に留意されたい。特許請求の範囲だけが発明性のあるシステム及び手法を定義する。
【0029】
図8は、本開示の1つの実施形態による掘削プラットフォーム及び係留システムの側面断面図である。
図8に示す掘削プラットフォーム及び係留システムは、多くの
図1に示すものと同じ構成要素を含む。プラットフォーム101は、掘削地点の上方の水域103に位置決めされる。プラットフォーム101は、海底117に係留されたアンカー115によって所定位置に保持された複数の係船索113を用いて所定位置に維持される。
【0030】
図1と同様に、脱着式係留ブイ807は、船体109に隣接して位置決めされ、ブイ固定機構119によって船体109に連結される。固定機構119の作動により、係留ブイ807は船体109に対して解放可能に連結される。
図1とは異なり、ライザクランプ801は、脱着式ブイ807の外側に取り付けられる。ライザクランプ801は、ライザ803を係留ブイ807にしっかり取り付けるように構成され配置される。しかしながら、
図8において、ライザクランプ801は、解放位置で示されているので、ライザ803は係留ブイ807に対して自由に動くことができる。ライザクランプ801については以下に詳細に説明する。
【0031】
図示のように、掘削ライザ803は、LMRP125に組み込まれているコネクタによって、プラットフォーム101を海底117に位置決めされたBOP127を含む井戸頂部に連結する。ライザ803は、複数の独立したライザジョイント805で構成される。本開示の1つの実施形態によれば、ライザジョイント805は、ライザクランプ801が配備又は係合される場合に、ライザジョイント805とライザクランプ801との間のしっかりした係合を可能にする連結機構を含むことができる。本開示の1つの実施形態において、掘削ライザ803は、限定されるものではないが、トップテンション型掘削ライザといった従来型の掘削ライザである。
図8に示す実施形態において、中深度でのライザの分離のための機構は設けられていない。
【0032】
本明細書で説明するように、掘削プラットフォームは、氷又は他の危険要因の作用による損傷を避けるために移動する必要がある。
図9は、プラットフォームを他の場所に移動させるための準備プロセスの初期段階を示す。
図9は、
図8に示す掘削プラットフォーム101及び関連の係留システムの側面断面図である。図示のように、ライザ803は、掘削作業が安全に中断された後に、LMRP125でBOP127から切り離されている。さらにトップジョイント131、ライザテンショナ133、及び一部のライザジョイント805が回収されている。
図9の実施形態において、係留ブイ807は、依然としてプラットフォームの船体109に連結している。
【0033】
図10は、
図9の掘削プラットフォーム101の側面断面図であり、本開示の1つの実施形態によってライザクランプ801が係合している。適度なライザが回収された状態で、ライザクランプ801が係合してライザ1001の残余部を係留ブイ807に連結し、残余のライザ部分1001が係留ブイ807に対して自由に動くことを阻止するようになっている。いくつかの実施形態において、クランプ801がセットされると、通常、最上部のライザジョイント805を掘削フロアに支持するために使用されるライザスパイダーは取り外すことができる。この時点で、残余のライザ部分1001だけが係留ブイ807に取り付けられる。図示の実施形態において、ライザクランプ801は、ブイムーンプール129の壁部と残余のライザ部分1001との間の間隙にわたって延びるストラットを備える。ライザクランプ801が係留ブイ807に固定されているので、クランプストラットと隣接したライザジョイント805との係合は、残余のライザ部分1001をブイ807にしっかりと取り付ける。1つの実施形態において、ライザクランプ801は、ブイ807に対するライザ部分1001の上方及び下方への垂直移動を抑制する。
【0034】
次に、係留ブイ807の固定機構119は解除可能なので、ブイ807と残余のライザ部分1001を水中103に落下させることができる。
図11は、
図10の掘削プラットフォーム101の側面断面図であり、本開示の1つの実施形態によって係留ブイ807が船体109から解放されている。1つの実施形態において、係留ブイ807は、ブイ807及びライザ1001が、頭上を漂流する場合がある氷隆起部及び氷山のキールに接触するのを防ぐために、十分な水深まで落下している。係留ブイ807が解放された状態では、結果的に掘削プラットフォーム101は、矢印1101で示すように、何ら干渉されることなく掘削場所から離れて自由に移動することができる。
図11に示すように、残余のライザ1001は、最下部、LMRP125が海底117に残ったBOP127から離れた状態で水コラム103に浮く。
【0035】
本開示の実施形態による海洋ライザを切り離すのに必要な時間は、ライザの上部の複数のジョイントを回収するのに必要な時間にブイを解放するのに必要な時間を加算した時間である。しかしながら、本開示の実施形態を利用する場合に必要な時間は、全てのライザを切り離して回収するための全時間よりも非常に短い。LMRPでライザを切り離し、複数のトップジョイントプラットフォームに回収し、残余のライザ部分を係留ブイにクランプして、係留ブイを解放する時間はほぼ3時間程度と想定され、水深1000mで全てのライザを切り離して回収するのに必要な20時間の推定時間に比べて非常に短い。本開示の実施形態を用いない場合、掘削船に係留能力を越える氷負荷を加える氷状が到来することを、本開示の実施形態を用いる場合よりも17時間早く予測する必要がある。狭いウインドウは既存の氷の検出、監視、及び予測能力で実現できるが、20時間のウインドウはこのような能力を越える。
【0036】
図示していないが(
図8−11の参照番号を使用するが)、掘削場所での氷状が改善すると掘削作業の再開のために、プロセスは、係留ブイ807及び残余のライザ1001の再連結を目的として逆に行われる。クランプされたライザ1001を含むブイ807は、引き上げられて固定機構119を用いて掘削プラットフォーム101に固定される。このステップの後で、係船索113は、掘削プラットフォームを所定位置に維持する。ライザスパイダーは、ライザを支持するために掘削フロアに適切に配置され、ライザを保持するライザクランプ801が解除される。先に取り外された各ジョイント(ダイバータ、伸縮式ジョイント、及び他のジョイント)がライザに付加される。次に、全ライザがLMRP125においてBOP127に再連結される。次に、掘削プラットフォーム101は掘削作業を再開できる状態になる。
【0037】
本開示の実施形態によれば、係留ブイは、ライザを保持するためのクランプシステムを備えている。いくつかの実施形態において、システムは、ブイから延びてライザに取り付くストラットで構成される。
図12は、本開示の1つの実施形態によるクランプシステム1201の一部の側面断面図である。図示のように、支持フレーム1203は係留ブイ807に取り付いている。ストラット1205の一端はフレーム1203に連結され、他端は嵌合部材1207を有する。
【0038】
嵌合部材1207との係合を可能にするために、ライザジョイント1209は係合部材1211を備える。1つの実施形態において、係合部材1211は、ライザジョイント1209に溶接された一対の円錐嵌合面である。図示の実施形態において、ストラット1205が配備された後に、嵌合部材1207及び係合部材1211が係合した場合の衝撃を緩衝するために、衝突パッド1213が係合部材1211上に設けられている。他の実施形態において、衝撃パッドは、嵌合部材に貼り付けることができる。1つの実施形態において、ストラット1205は、バネ及び/又は油圧シリンダを備えている。1つの実施形態において、クランプは、ストラット1205内のバネを解除すること及び/又は油圧シリンダを作動させることで配備される。
【0039】
ストラット1205がバネを用いる実施形態において、嵌合部材1207を後退位置に置くためにバネは圧縮される。嵌合部材1207は、後退位置では配備位置に比べてフレーム1203の近くに位置決めされる。後退位置において、嵌合部材1207は、係合部材1211が何ら干渉されることなく垂直方向に移動できるように、ライザジョイント1209から離れて位置決めされる。
【0040】
1つの実施形態において、係留ブイ801の切り離しのために、ライザを係留ブイ801に取り付ける必要がある場合、ストラット1205のバネが解除され、嵌合部材1207は、ライザジョイント1209の係合部材1211に係合し、結果的に、残余のライザをブイ807にしっかり取り付ける。他の実施形態において、ストラット1205の油圧シリンダが作動して、嵌合部材1207を後退位置と配備位置との間で移動させる。
図12の実施形態において、単一のライザジョイント1209のみが示されている。しかしながら、複数のライザジョイントをライザジョイント1209の上方及び/又は下方に取り付けることができる。
【0041】
図13は、
図12のライザクランプの実施形態の部分的は平面図である。図示の実施形態において、フレーム1203は、複数の取付け開口1301を含み、これにより、公知の機構又は装置を利用してフレームを係留ブイに連結することができる。いくつかの実施形態において、フレーム1203は係留ブイに溶接することができる。
図12に示す実施形態において、フレーム1203はブイ807の上部に設けられる。他の実施形態において、フレーム1203並びに関連機器は、ブイ807の内部又は底部に沿った任意の位置に設けることができる。いくつかの実施形態において、複数のフレーム及び関連のストラットを用いることができる。
【0042】
図14は、本開示の別の実施形態によるライザクランプの側面断面図である。
図15は、
図14のライザクランプの実施形態の拡大された部分側面図である。
図14及び15に示す実施形態において、クランプシステム1401は、張力クランプ設計を利用する。ブイ取付け部1403は係留ブイ807に固定され、ライザ取付け部1407はライザ1409に固定される。ライザを係留ブイ807に取り付ける必要がある場合、ストラット1405は、ブイ取付け部1403及びライザ取付け部1407に取り付けられる。1つの実施形態において、ストラット1405は鋼線であるが、他の張力部材を用いることもできる。このような複数ストラット構成は、ムーンプールの周りで放射状に設けることができ、ライザの適切な拘束が可能になる。
【0043】
図15に詳細に示すように、ストラット1405は、第1のコネクタ1501を介してブイ取付け部1405に、第2のコネクタ1503を介してライザ取付け部1407に連結される。いくつかの実施形態において、第1のコネクタ1501及び第2のコネクタ1503は、取付け点に対して回転可能に構成及び配置される。また、ストラット1405は、ターンバックル1505又は他のタイプの公知のテンショナを備えている。ターンバックル1505は、ストラット1405に対して作動可能に連結され、ストラット内の張力が増減可能になっている。いくつかの実施形態において、ストラット1405がブイ807及びライザ1409に連結された状態で、ライザ及びブイの相対移動を適切に抑制するために、ストラット1405の張力は所望レベルに増大される、いくつかの実施形態において、ブイに対するライザの回転並びに並進を阻止するために、ライザジョイント及び/又は係留ブイの種々の高さで、追加の取付け部及びストラットを設けることができる。
【0044】
下記に記載のパラグラフは、本開示の実施形態の説明を非限定的に説明するものである。
【0045】
A.海底に接続された係留ブイを有する浮遊式掘削プラットフォームの掘削ライザを切り離す方法であって、本方法は、海底に係合された海底構成要素から掘削ライザを切り離す段階と、係留ブイを掘削ライザに取り付ける段階と、係留ブイ及び取り付けられた掘削ライザを掘削プラットフォームから解放する段階とを含む。
【0046】
A1.第1の数のライザジョイントを回収する段階をさらに含み、海底構成要素から切り離す前に、掘削ライザは、第2の数のライザジョイントから構成され、第1の数のライザジョイントは、第2の数のライザジョイント未満である、パラグラフAに記載の方法。
【0047】
A2.海底構成要素は、噴出防止装置である、前記パラグラフのいずれかに記載の方法。
【0048】
A3.係留ブイは、圧縮クランプを解除することで掘削ライザに取り付けられる、前記パラグラフのいずれかに記載の方法。
【0049】
A4.圧縮クランプは、係留ブイからライザジョイントに延びるストラットと、圧縮クランプか解除された場合にライザジョイントに固定された一対の円錐表面に係合する嵌合部材とを備える、パラグラフA3に記載の方法。
【0050】
A5.係留ブイは、張力ストラットをライザジョイント及び係留ブイに連結することによって掘削ライザに取り付けられる、パラグラフA1、A2、又はA3に記載の方法。
【0051】
A6.張力ストラットをピンと張るために、張力ストラットに作動可能に連結されたターンバックルを調整する段階をさらに含む、パラグラフA5に記載の方法。
【0052】
A7.係留ブイはムーンプールを有し、掘削ライザは、ムーンプールの内部に位置決めされる、前記パラグラフのいずれかに記載の方法。
【0053】
B.掘削ライザを浮遊式掘削プラットフォームから切り離すシステムであって、本システムは、複数の係船索によって海底に接続され、少なくとも1つのブイ固定機構によって浮遊式掘削プラットフォームの船体に解放可能に連結される係留ブイと、係留ブイの外面に取り付けられたクランプシステムとを備え、クランプシステムは、掘削ライザが係留ブイに対して自由に動くことができる解除位置を有し、クランプシステムは、掘削ライザが係留ブイに対して自由に動くのを阻止する係合位置を有し、クランプシステムは、係留ブイが浮遊式掘削プラットフォームの船体から解放された後、係合位置を維持するように構成及び配置される。
【0054】
B1.クランプシステムは、圧縮クランプを備える、パラグラフBに記載のシステム。
【0055】
B2.圧縮クランプは、係留ブイに固定されたフレームに第1の端部が連結されたストラットと、ストラットの第2の端部に取り付けられた嵌合部材とを備え、嵌合部材は、クランプシステムが係合位置にある場合、ライザジョイントに固定された一対の円錐面に係合するように構成及び配置される、パラグラフB1に記載のシステム。
【0056】
B3.円錐面の少なくとも1つの内面に衝撃パッドが取り付けられている、パラグラフB1に記載のシステム。
【0057】
B4.ストラットは、油圧で操作される、前記パラグラフにいずれかに記載のシステム。
【0058】
B5.ストラットは、バネを備えている、前記パラグラフにいずれかに記載のシステム。
【0059】
B6.クランプシステムは、係留ブイに固定されたブイ取付け部と、ライザジョイントに固定されたライザ取付け部と、クランプシステムが係合位置にある場合に、ブイ取付け部及びライザ取付け部に取り付くように構成及び配置された、張力ストラットとを備える、パラグラフB1に記載のシステム。
【0060】
B7.張力ストラットは、張力ストラットに作動可能に連結されたターンバックルを備える、パラグラフB6に記載のシステム。
【0061】
B8.係留ブイはムーンプールを有し、掘削ライザは、ムーンプールの内部に位置決めされる、前記パラグラフにいずれかに記載のシステム。
【0062】
前記は本発明の特定の実施形態の単なる詳細な説明であり、本発明の範囲を逸脱することなく開示された実施形態に対する多数の変更例、変形例、及び代替例が可能であることを理解されたい。従って、前述の説明は発明の範囲を限定することを意図したものではない。むしろ、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ決定される。本実施例に具現化される構造及び特徴は、変更、再構成、置換、削除、複製、結合、又は互いに追加できることが想定されている。冠詞は必ずしも1つだけを意味するとして限定されるものではなく、むしろ随意的に複数の要素を含むものとして包括的かつ非制限的である。