特許第5979751号(P5979751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979751
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ブレーキ液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/48 20060101AFI20160818BHJP
   B60T 8/34 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B60T8/48
   B60T8/34
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-164618(P2012-164618)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-24388(P2014-24388A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篤 浩明
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−228543(JP,A)
【文献】 特開2006−111251(JP,A)
【文献】 特開2008−290692(JP,A)
【文献】 特開平10−217931(JP,A)
【文献】 特開2009−190535(JP,A)
【文献】 特開2012−245855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/48
B60T 8/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に加えられるブレーキ圧力を制御するためのブレーキ液圧制御装置であって、
前記ブレーキ液圧制御装置は、ブレーキレバーの操作量に応じた作動液の液圧を発生させるマスタシリンダと、連絡管路を介して供給された作動液の液圧によってブレーキを作動させるホイールシリンダとの間に配設でき、
前記ブレーキ液圧制御装置は、
単一のハウジングと、
該単一のハウジング内に設けられた1系統の液圧回路と備えており、
前記1系統の液圧回路は、
ノーマルモード実行時の作動液の流路と、ABSモード実行時の作動液の流路と、昇圧モード実行時の作動液の流路とが切替え可能な管路と、
前記ノーマルモード実行時の作動液の流路上におけるマスタシリンダ側の上流位置に配置される切替え弁と、
前記ノーマルモード実行時の作動液の流路上におけるホイールシリンダ側の下流位置に配置される込め弁と、
前記ABSモード実行時の作動液の流路上におけるホイールシリンダ側の上流位置に配置される弛め弁と、
前記ABSモード実行時の作動液の流路上における前記弛め弁の下流位置に配置されるリザーバと、
前記ABSモード実行時の作動液の流路上における前記リザーバの下流位置に設けられて作動液の液圧を増圧又は減圧するための第1液圧ポンプと第2液圧ポンプと、
前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプを同期させた状態で往復動させる単一のモータと
前記昇圧モード実行時の作動液の流路上に配置されている高圧吸入弁と、
前記ブレーキレバーの操作量と前記管路内を流れる作動液の圧力及び車輪速度の変化のうちの少なくとも1つとに基づいて前記4種類の弁の開閉とモータの駆動及び停止を制御する電子制御ユニットとを有しており、
前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、吐出サイクルが半周期ずれて駆動されるように設けられており、前記モータの出力軸が一回転する間に同一流路上に作動液を2回吐出し得るように構成されていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置において、
前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、第1吐出流路と第2吐出流路に分かれて並列的に配置されており、前記第1吐出流路と第2吐出流路の合流点で第1液圧ポンプによって吐出された作動液と第2液圧ポンプによって吐出された作動液が合流するように構成されていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置において、
前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、同一吐出流路上に直列的に配置されており、下流側に位置する第2液圧ポンプの吐出口で第1液圧ポンプによって吐出された作動液に第2液圧ポンプによって吐出された作動液が追加されるように構成されていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置において、
前記1系統の液圧回路は、前輪ブレーキの液圧制御を行う前輪用の液圧回路であることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置において、
前記ブレーキ液圧制御装置は、
第1の1系統の液圧回路が第1のハウジングに備えられた第1の液圧ユニットと、
第2の1系統の液圧回路が第2のハウジングに備えられた第2の液圧ユニットと、を備えており、
第1の液圧ユニットのハウジングには、前輪ブレーキの液圧制御を行う前輪用の液圧回路が備えられ、
第2の液圧ユニットのハウジングには、後輪ブレーキの液圧制御を行う後輪用の液圧回路が備えられていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用のブレーキ制御システムに好適なブレーキ液圧制御装置に関し、より詳細には、1系統の液圧回路のみを備えたブレーキ制御システムにおいて液圧ポンプの吐出量の増大を図ったブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用のブレーキ制御システムには、前後輪2系統のブレーキ制御システムが設けられており、これら2系統のブレーキ制御システムを液圧回路によって共に制御する、いわゆる2チャンネル式のブレーキ液圧制御装置が採用されている。そして、このような2チャンネル式のブレーキ液圧制御装置にあっては、単一のハウジング内に前輪用の液圧回路と後輪用の液圧回路とが下記の特許文献1に示すように一体に収容されている。
【0003】
また、自動二輪車用のブレーキ制御システムには、ブレーキレバーやブレーキペダルの操作によって、その操作量に対応した制動力を車輪に直接伝えるノーマルモードと、濡れた路面等、滑り易い路面の走行時に急ブレーキを掛けた場合等に生ずる車輪のロックを自動的に解除し、断続的な車輪の制動を行うABS(アンチロック・ブレーキ・システム)モードとが組み込まれている。そして、これらのモードを適宜切り替えて実行するための液圧回路と該液圧回路を構成している液圧回路部品が下記の特許文献1に示すように備えられている。
【0004】
また、下記の特許文献1では、ABS作動時に使用する液圧ポンプの吐出圧の脈圧によって生ずる振動音等の発生を防止する機構が設けられている。具体的には、偏心カムを挟んでその左右に配置されている2つのポンプ部に対しそれぞれポンプ室を2室ずつ設け、これら計4室のポンプ室と前後輪のホイールシリンダとの間に吸入用と吐出用の2本ずつの管路を計8本設けている。
そして、これら8本の管路には、それぞれ1個ずつ計8個の逆止弁が設けられていて、上記2つのポンプ部が180°の位相差を持って作動する構造を利用して偏心カムが一回転する間に2回ずつ作動液を圧送し得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−30474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示すように単一のハウジング内に前輪用と後輪用の2系統の液圧回路を一体に収容するとハウジングが大型化し構造が複雑になる。また、一方の液圧回路の動作に伴なう振動が他方の液圧回路に伝わって液圧回路の動作を不安定にする。
また、小型の自動二輪車等ではコストや取付けスペースの関係で、前輪用のブレーキ制御システムに液圧回路を使用した液圧式のブレーキ制御システムを採用し、後輪用のブレーキ制御システムに機械的なドラムを使用したブレーキ制御システムを採用している機種が数多く存在している。そして、このようなタイプの自動二輪車等に対しては上記機能を備えた2チャンネル式のブレーキ液圧制御装置を搭載することはできない。
【0007】
また、特許文献1に示すように左右のポンプ部にポンプ室を2室ずつ設け、8本の管路と8個の逆止弁で、上記2室のポンプ室と、前輪用のホイールシリンダ及び後輪用のホイールシリンダとを接続する機構を採用すると、ブレーキ液圧制御装置のハウジングが更に大型化してしまい、液圧回路の管路構成も複雑になり、液圧回路部品の部品点数の増大によって取付け・組立て・製品コストの増大を招いてしまう。
【0008】
そこで、本発明の課題は、ハウジングの小型・軽量化を図ることができる1系統の液圧回路のみを備えたブレーキ液圧制御装置において、複雑な管路構成を設けることなく、少ない部品点数で液圧ポンプの効率の良い吐出力を得ることができるノーマルモードとABSモードと昇圧モードとに対応したブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様のブレーキ液圧制御装置は、 車輪に加えられるブレーキ圧力を制御するためのブレーキ液圧制御装置であって、前記ブレーキ液圧制御装置は、ブレーキレバーの操作量に応じた作動液の液圧を発生させるマスタシリンダと、連絡管路を介して供給された作動液の液圧によってブレーキを作動させるホイールシリンダとの間に配設でき、前記ブレーキ液圧制御装置は、単一のハウジングと、該単一のハウジング内に設けられた1系統の液圧回路と備えており、前記1系統の液圧回路は、作動液の液圧を増圧又は減圧するための第1液圧ポンプと第2液圧ポンプと、前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプを同期して駆動するための単一のモータとを有しており、前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、吐出サイクルが半周期ずれて駆動されるように設けられており、前記モータの出力軸が一回転する間に同一流路上に作動液を2回吐出し得るように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ハウジング内に形成される液圧回路の単純化を図ることができ、液圧回路部品の部品点数の減少によってハウジングの小型・軽量化と、取付け・組立てコストの削減とが図られるようになる。また、単一のモータを使用して吐出サイクルが半周期ずれた第1液圧ポンプと第2液圧ポンプを交互に駆動させることによって、モータの出力軸が一回転する間に作動液を2回吐出できるから作動液の吐出量が2倍になって減圧ないし昇圧にかかる時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0011】
また、本発明の第2の態様のように、前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、第1吐出流路と第2吐出流路に分かれて並列的に配置されており、前記第1吐出流路と第2吐出流路の合流点で第1液圧ポンプによって吐出された作動液と第2液圧ポンプによって吐出された作動液が合流するように構成することが可能である。
本態様によれば、第1吐出流路と第2吐出流路を並列的に配置するだけの比較的簡単な管路構成によって、上述した2倍の作動液の吐出量を得ることができるようになる。また、第1液圧ポンプと第2液圧ポンプのプランジャ駆動方向を変更する必要がない。
【0012】
また、本発明の第3の態様のように、前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプは、同一吐出流路上に直列的に配置されており、下流側に位置する第2液圧ポンプの吐出口で第1液圧ポンプによって吐出された作動液に第2液圧ポンプによって吐出された作動液が追加されるように構成することが可能である。
本態様によれば、基本的に管路の数を増やすことなく、上述した2倍の作動液の吐出量を得ることができるようになる。尚、本態様の場合には、第1液圧ポンプと第2液圧ポンプのプランジャ駆動方向を変更する必要が生ずる場合もあるが、中継管路等を設けたり、管路の接続を工夫することによって、第1液圧ポンプと第2液圧ポンプのプランジャ駆動方向の変更を回避することも可能である。
【0013】
また、本発明の第4の態様のように、前記1系統の液圧回路を前輪ブレーキの液圧制御を行う前輪用の液圧回路とすることが可能である。
本態様によれば、前後輪2系統のブレーキ制御システムのセパレート化が可能になり、前輪側のブレーキ制御システムに本態様の前輪用の液圧回路を適用した液圧ユニットを使用し、後輪側のブレーキ制御システムに液圧式ないし機械式の別の液圧ユニットを使用することが可能になる。
したがって、ブレーキ液圧制御装置の配置と組み合わせの自由度が拡大する。
【0014】
また、本発明の第5の態様のように、前記ブレーキ液圧制御装置には、それぞれ1系統の液圧回路のみがハウジングに備えられた二組の液圧ユニットが設けられており、このうち一組の液圧ユニットのハウジングには、前輪ブレーキの液圧制御を行う前輪用の液圧回路が備えられ、他の一組の液圧ユニットのハウジングには、後輪ブレーキの液圧制御を行う後輪用の液圧回路が備えられるように構成することが可能である。
本態様によれば、液圧回路的には別体に構成されている二組の液圧ユニットを電気回路的に接続することで、二組の液圧ユニットに連動ブレーキシステムとしての機能を付加したり、後輪側の液圧ユニットにTCS(トラクションコントロールシステム)としての機能を追加することが可能になる。
【0015】
また、本発明の第6の態様のように、前記液圧回路は、ノーマルモード実行時の作動液の流路と、ABSモード実行時の作動液の流路と、昇圧モード実行時の作動液の流路とが切替え可能な管路と、前記ノーマルモード実行時の作動液の流路上におけるマスタシリンダ側の上流位置に配置される切替え弁と、前記ノーマルモード実行時の作動液の流路上におけるホイールシリンダ側の下流位置に配置される込め弁と、前記ABSモード実行時の作動液の流路上におけるホイールシリンダ側の上流位置に配置される弛め弁と、前記ABSモード実行時の作動液の流路上における前記弛め弁の下流位置に配置されるリザーバと、前記ABSモード実行時の作動液の流路上における前記リザーバの下流位置に設けられる第1液圧ポンプ及び第2液圧ポンプと、前記第1液圧ポンプと第2液圧ポンプを同期させた状態で往復動させる単一のモータと、前記昇圧モード実行時の作動液の流路上に配置されている高圧吸入弁と、前記ブレーキレバーの操作量と前記管路内を流れる作動液の圧力及び車輪速度の変化のうちの少なくとも1つに基づいて前記4種類の弁の開閉とモータの駆動及び停止を制御する電子制御ユニットと、を備えることによって構成することが可能である。
【0016】
本態様によれば、ブレーキレバーの操作によって、その操作量に対応した制動力を車輪に直接伝えるノーマルモードと、濡れた路面等の走行時に急ブレーキを掛けた場合等に生ずる車輪のロックを防止するABSモードと、車輪に伝える制動力を補填したり、前後輪の制動力が常時、理想的なバランスによるように制御する連動ブレーキシステムに利用できる昇圧モードとを適宜切り替えて実行することができるブレーキ液圧制御装置を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のブレーキ液圧制御装置によれば、ハウジングの小型・軽量化と構造の単純化を図って取付け・組立てコストを削減することができる。また、前後輪2系統のブレーキ制御システムのセパレート化を図って、ブレーキ液圧制御装置の配置と組み合わせの自由度を拡大することができる。更に、液圧式のブレーキ制御システムと機械式のブレーキ制御システムを併用している自動二輪車等にも対応できる応用範囲の広いブレーキ液圧制御装置を提供することが可能になる。
また、比較的簡単な管路構成によって液圧ポンプの効率の良い吐出量を得ることができ、減圧ないし昇圧にかかる時間を大幅に短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される液圧回路の一例を示す液圧回路図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置の検出要素と制御要素の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置の第1液圧ポンプの吐出量と偏心カムの回転角度の関係を示すグラフ(a)と、第2液圧ポンプの吐出量と偏心カムの回転角度の関係を示すグラフ(b)と、第1液圧ポンプと第2液圧ポンプを組み合わせた場合の吐出量と偏心カムの回転角度の関係を示すグラフ(c)である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される図1の液圧回路におけるノーマルモード実行時の作動液の流れを示す液圧回路図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される図1の液圧回路におけるABSモード実行時の作動液の流れを示す液圧回路図である。
図6】本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される図1の液圧回路における昇圧モード実行時の作動液の流れを示す液圧回路図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される液圧回路の一例を示す液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のブレーキ液圧制御装置を以下に示す第1の実施の形態と第2の実施の形態を例にとって、図面を参照しつつ説明する。
尚、以下の説明では、最初に図1に示す液圧回路図と図2に示すブロック図及び図3に示すグラフとに基づいて本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される液圧回路の構成とブレーキ液圧制御の概要について説明する。続いて、図4乃至図6に示す液圧回路図に基づいて、本発明の第1の実施に形態に係るブレーキ液圧制御装置を使用した場合のノーマルモード実行時と、ABSモード実行時と、昇圧モード実行時の液圧管路部品の作動態様と作動液の流れを説明する。
次に、図7に示す液圧回路図に基づいて、上記第1の実施の形態と相違する構成を中心として、本発明の第2の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置に適用される液圧回路の構成を説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
(1)液圧回路の構成とブレーキ液圧制御の概要(図1乃至図3参照)
本発明のブレーキ液圧制御装置1は、ブレーキレバー3の操作量に応じた作動液Lの液圧を発生させるマスタシリンダ5と、連絡管路7、8を介して供給された作動液Lの液圧によってブレーキ9を作動させるホイールシリンダ11との間に配設されている。
そして、本発明のブレーキ液圧制御装置1は、本発明の特徴的構成として単一のハウジング13内に作動液Lの液圧を、手動及び/又は自動で、増圧又は減圧し得る単一のモータ31によって同期して往復動するプランジャ式の第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bを有する1系統の液圧回路15のみが備えている。第1減圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bは、吐出サイクルを半周期ずらして、モータ31の出力軸が一回転する間に同一流路上に作動液Lを2回吐出し得るように構成されている。
【0021】
また、図1では、前輪17のブレーキ9の液圧制御に適用できる前輪用の液圧回路15が図示されている。
この液圧回路15は、ブレーキレバー3の操作によって、その操作量に対応した制動力を前輪17に直接伝えるノーマルモードと、濡れた路面等の走行時に急ブレーキを掛けた場合等に生ずる前輪17のロックを防止するABSモードと、前輪17に伝える制動力を補填(アシスト)したり、前後輪の制動力が常時、理想的なバランス(例えば7:3)になるように制御する連動ブレーキシステムに利用できる昇圧モードとを適宜切り替えて実行することができるように構成されている。
【0022】
具体的には、液圧回路15は、ノーマルモード実行時の作動液Lの流路と、ABSモード実行時の作動液Lの流路と、昇圧モード実行時の作動液Lの流路とが切替え可能な管路19と、上記ノーマルモード実行時の作動液Lの流路上におけるマスタシリンダ5側の上流位置に配置される切替え弁21と、ノーマルモード実行時の作動液Lの流路上におけるホイールシリンダ11側の下流位置に配置される込め弁(インレットバルブ)23と、上記ABSモード実行時の作動液Lの流路上におけるホイールシリンダ11側の上流位置に配置される弛め弁(アウトレットバルブ)25と、上記ABSモード実行時の作動液Lの流路上における弛め弁25の下流位置に配置されるリザーバ(アキュムレータ)27と、上記ABSモード実行時の作動液Lの流路上におけるリザーバ27の下流位置に設けられる第1液圧ポンプ29A及び第2液圧ポンプ29Bと、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bを同期させた状態で往復動させる単一のモータ31と、上記昇圧モード実行時の作動液Lの流路上に配置されている高圧吸入弁33と、ブレーキレバー3の操作量と管路19内を流れる作動液Lの圧力及び車輪速度の変化のうちの少なくとも1つに基づいて4種類の弁21、23、25、33の開閉とモータ31の駆動及び停止を制御する電子制御ユニット(ECU)39とを備えることによって、この液圧回路15は基本的に構成されている。
【0023】
管路19は、マスタシリンダ5から延びる連絡管路7の終端に一端が接続され、他端がホイールシリンダ11から延びる連絡管路8の終端に接続されている管路19aと、管路19aの途中から分岐して再び管路19aの途中に合流する管路19bと、管路19aの途中から分岐して管路19bの途中に合流する管路19cを主要な管路として備えている。
そして、管路19aには、上述した切替え弁21と込め弁23とが直列に配置されており、管路19bには、上述した弛め弁25と逆止弁(チェックバルブ)41とが直列に配置され、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bとが並列に配置されている。また、管路19cには、上述した高圧吸入弁33が配置されている。
【0024】
また、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bは、第1吐出流路30Aと第2吐出流路30Bに分かれて並列的に配置されており、第1吐出流路30Aと第2吐出流路30Bの合流点30Cで第1液圧ポンプ29Aによって吐出された作動液Lと第2液圧ポンプ29Bによって吐出された作動液Lが合流するように構成されている。
具体的には、第1液圧ポンプ29Aの吐出量とモータ31の出力軸に取り付けられる偏心カムの回転角度の関係は、図3(a)に示すようになっており、偏心カムが1回転する行程の一例として前半の半分の行程のみを利用した吐出量H1になっている。
【0025】
一方、第2液圧ポンプ29Bの吐出量と偏心カムの回転角度の間の関係は図3(b)に示すようになっており、偏心カムが一回転する行程の一例として後半の半分の行程のみを利用した吐出量H2になっている。
そして、上述した合流点30Cでは、第1液圧ポンプ29Aの吐出量H1に第2液圧ポンプ29Bの吐出量H2が付加された2倍の吐出量H=H1+H2が得られるように構成されている。
【0026】
更に、管路19aには、切替え弁21の上流と下流をつなぐバイパス管19dと、込め弁23の上流と下流をつなぐバイパス管19eが設けられており、バイパス管19dには逆止弁43が、バイパス管19eには逆止弁45がそれぞれ配置されている。
また、管路19bには、弛め弁25と逆止弁41との間に分岐管19fが設けられており、該分岐管19fの終端に上述したリザーバ27が設けられている。
また、管路19cには、管路19aとの分岐点47aと高圧吸入弁33との間に分岐管19gが設けられており、該分岐管19gの終端に上述した圧力センサ35が配置されている。
【0027】
また、上述した第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bは、プランジャ式のポンプであり、これらの液圧ポンプ29A、29Bの中間には、これらに摺接する図示しない一つの偏心カムが配置されている。そして、この偏心カムは、一例として直流モータによって構成されるモータ31の出力軸に取り付けられており、上述したように、この偏心カムが1回転する間に前記第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bがプランジャ駆動方向Aに所定ストローク、交互に作動して同一の流路に2倍の吐出量Hの作動液Lを吐出できるように構成されている。
また、リザーバ27は、2基の液圧ポンプ29A、29Bのポンプ作用の開始を待つことなく、速やかにホイールシリンダ11の液圧を下げるために作動液Lを逃す一時貯留タンクとしての役割を有している。
【0028】
また、4種類の弁21、23、25、33としては、一例として周知の2位置型電磁弁が適用可能である。この他、切替え弁21の上流位置及び下流位置と、込め弁23の上流位置及び下流位置と、弛め弁25のホイールシリンダ11側の上流位置と、高圧吸入弁33のマスタシリンダ5側の上流位置と、上述した第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bの上流位置には、フィルタ50が設けられており、上述した第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bの下流位置には、吐出量H1、H2を調節するための絞り52が設けられている。
【0029】
また、前輪17の近傍には前輪17の回転数から前輪17の速度変化を検出している速度センサ37が設けられており、該速度センサ37によって得られた前輪17の速度情報と、圧力センサ35によって得られた管路19内の圧力情報と、ブレーキレバー3の操作量とに基づいて、図2に示すように電子制御ユニット(ECU)39でノーマルモード、ABSモードあるいは昇圧モードに基づいたブレーキ液圧制御を行って、上述した4種類の弁21、23、25、33の開閉と、モータ31の駆動及び停止を適宜のタイミングで切り替えている。
【0030】
また、このようにして構成される液圧回路15は、図1中、仮想線で示す単一のハウジング13内に収容されており、該ハウジング13は対向する2面の面積が大きく、残りの4面の面積が小さな偏平な矩形ブロック状の部材によって一例として構成されている。
また、ハウジング13の材質としては、一例としてアルミニウム等、軽量で必要な剛性を備えた金属製材料等が適用可能である。また、ハウジング13には、作動液Lの流路を形成するための図示しない連通穴が形成されており、該連通穴によって上述した液圧回路15の管路19が形作られている。
【0031】
(2)各モード実行時の作動液の流れ(図4乃至図6参照)
次に、このようにして構成される本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置1の液圧回路部品の作動態様を、(A)ノーマルモード実行時と、(B)ABSモード実行時と、(C)昇圧モード実行時とに分けて、上記各モードを実行する時の作動液Lの流れにしたがって説明する。
(A)ノーマルモード実行時(図4参照)
ノーマルモードを実行する通常時は、管路19aに配置されている切替え弁21と込め弁23が開状態、管路19bに配置されている弛め弁25と管路19cに配置されている高圧吸入弁33は閉状態になっている。したがって、ドライバーがブレーキレバー3を操作すると、その操作量に応じた作動液Lの液圧が連絡管路7から管路19aにかかるようになり、切替え弁21と込め弁23を通り、更に連絡管路8を経由してホイールシリンダ11に達し、ブレーキレバー3の操作量に対応した制動力がブレーキ9によって前輪17にかかるようになる。
【0032】
(B)ABSモード実行時(図5参照)
濡れた路面等の走行時に速度センサ37によって前輪17のロックが確認されると、込め弁23を閉状態にしてマスタシリンダ5からの作動液Lの供給を停止する。また、ホイールシリンダ11にかかっていた作動液Lの液圧は分岐点47cから管路19bに流れ、開状態に移行する弛め弁25を通ってリザーバ27に一時貯留される。
その後、モータ31を起動して第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bを交互に作動させると、ホイールシリンダ11内の作動液Lとリザーバ27に一時貯留されていた作動液Lは、逆止弁41を通って第1液圧ポンプ29Aが存する第1吐出流路30Aと第2液圧ポンプ29Bが存する第2吐出流路30Bに流入する。そして、第1吐出流路30Aと第2吐出流路30Bの合流点30Cで作動液Lが合流して管路19b終端の合流点47bから再び管路19a内に流入し、開状態の切替え弁21を通って連絡管路7を経由してマスタシリンダ5に至る。
【0033】
尚、ホイールシリンダ11にかかっていた作動液Lの液圧が下がると、前輪17のロックが解除され、前輪17は再び回転を開始する。速度センサ37は前輪17の速度を再度計測し、これに基づいて、込め弁23と弛め弁25との閉鎖を維持してホイールシリンダ11に加わる作動液Lの液圧を保持し、あるいは、込め弁23を再び開いてマスタシリンダ5からの作動液Lの液圧をホイールシリンダ11に加えてブレーキ9によってかかる前輪17に対する制動力を強くする。
以下、同様の操作を数ミリ秒単位で断続的に繰り返し行い、車体の姿勢の安定性と操舵性を確保しながら走行停止状態へと移行して行く。
【0034】
(C)昇圧モード実行時(図6参照)
ブレーキレバー3の操作に基づく上記ノーマルモードでの前輪17の制動力が不十分であると判断された場合(ブレーキアシストが必要な場合)や連動ブレーキシステムが作動して前後輪の制動力を理想配分にするためのアクティブ増圧が行われる場合には、切替弁21を閉じて、閉状態であった高圧吸入弁33を開状態に切り替え、モータ31を起動して第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bを駆動する。
これにより、マスタシリンダ5から連絡管路7を経由して供給され、分岐点47aから管路19c内に流入した作動液Lは、高圧吸入弁33を通って管路19c終点の合流点47dに達する。
【0035】
更に、合流点47dで管路19bに流入した作動液Lは、逆止弁41を経て第1液圧ポンプ29Aの存する第1吐出流路30Aと第2液圧ポンプ29Bが存する第2吐出流路30Bへと流入する。
そして、第1吐出流路30Aと第2吐出流路30Bの合流点30Cで作動液Lが合流して管路19b終端の合流点47bから管路19a内に流入し、込め弁23を通って連絡管路8を経由してホイールシリンダ11に作動液Lを供給することで前輪17にかかる制動力を増加ないし適切な大きさにする。
【0036】
このようにして構成される本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置1によれば、液圧回路15を1系統にしたことによってハウジング13の小型・軽量化と構造の単純化を図ることができ、前後輪2系統のブレーキ制御システムのセパレート化を図って、ブレーキ液圧制御装置1の配置と組み合わせの自由度を拡大することができる。
また、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bの吐出サイクルを半周期ずらすことによって効率の良い作動液Lの吐出が可能になるから、減圧ないし増圧に要する時間の大幅な短縮を図ることができるようになる。
【0037】
[第2の実施の形態]
(1)液圧回路の構成(図7参照)
本発明の第2の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置1Bは、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bの配置態様が前述した第1の実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置1Aと相違しており、その他の構成については前述した第1の実施に形態と同様の構成を有している。
したがって、ここでは前記第1の実施の形態と相違する第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bの配置態様を中心に説明する。
【0038】
即ち、本実施の形態では、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bが同一の吐出流路30上に直列的に配置されており、下流側に位置する第2液圧ポンプ29Bの吐出口30Dで第1液圧ポンプ29Aによって吐出された作動液Lに第2液圧ポンプ29Bによって吐出された作動液Lが追加されるように構成されている。
【0039】
そして、このようにして構成される本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置1Bによっても、前述した第1の実施の形態と同様の作用、効果を発揮でき、更に本実施の形態にあっては、吐出流路30を並列的に2本設けていた第1の実施の形態よりも管路19を簡単に構成することができる。また、第1液圧ポンプ29Aと第2液圧ポンプ29Bのプランジャ駆動方向Aの変更は、中継管路等を設けたり、管路19の接続を工夫することによって回避することが可能である。
【0040】
以上が本発明の基本的な実施の形態であるが、本発明のブレーキ液圧制御装置1は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略、あるいは当業者において周知、慣用の技術を追加することが可能である。
例えば、前述した構成のブレーキ液圧制御装置1を後輪用のブレーキ液圧制御システムに適用することが可能である。そして、この場合には、ブレーキレバー3に代えてブレーキペダルが適用でき、液圧回路15中に発進・加速時の後輪の空転を防止するTCS(トラクションコントロールシステム)としての機能を付加することが可能である。
【0041】
また、本発明のブレーキ液圧制御装置1は、それぞれ1系統の液圧回路15のみがハウジング13に備えられた二組の液圧ユニットによって構成することが可能である。この場合には、一組の液圧ユニット(第1の液圧ユニット)のハウジング(第1のハウジング)13に前輪17のブレーキ液圧制御を行う前輪17用の液圧回路(第1の液圧回路)15を設け、他の一組の液圧ユニット(第2の液圧ユニット)のハウジング(第2のハウジング)に後輪のブレーキ液圧制御を行う後輪用の液圧回路(第2の液圧回路)を設けるようにする。
そして、前述した構成を有する二組の液圧ユニットを備えたブレーキ液圧制御装置1を採用した場合には、個々の液圧ユニットが有する前述した作用、効果に加えて、二組の液圧ユニットを連携させて動作させる前述した連動ブレーキシステム等の機能をブレーキ液圧制御装置1に付加することが可能になる。また、前輪用と後輪用にセパレート化された二組の液圧ユニットの配置は自由であり、一個所にまとめて配置させてもよいし、両者を離間させて別々の位置に配置することが可能である。また、前述した連動ブレーキシステムにおいて前輪用及び後輪用液圧制御装置間で通信を行うことを可能とするため、両液圧制御装置を直接ハーネスにより接続しても良いし、CAN(Car Area Network)等の車内LANを介して接続しても良い。
【0042】
本発明のブレーキ液圧制御装置は、自動二輪車の生産現場やその使用分野等で利用でき、ハウジングの小型・軽量化と液圧ポンプの効率の良い作動液の吐出を可能にしてホイールシリンダの減圧と増圧にかかる時間を短縮したい場合に利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0043】
1 ブレーキ液圧制御装置
3 ブレーキレバー
5 マスタシリンダ
7 連絡管路
8 連絡管路
9 ブレーキ
11 ホイールシリンダ
13 ハウジング
15 液圧回路
17 前輪
19 管路
21 切替え弁
23 込め弁(インレットバルブ)
25 弛め弁(アウトレットバルブ)
27 リザーバ(アキュムレータ)
29A 第1液圧ポンプ
29B 第2液圧ポンプ
30 吐出流路
30A 第1吐出流路
30B 第2吐出流路
30C 合流点
30D 吐出口
31 モータ
33 高圧吸入弁
35 圧力センサ
37 速度センサ
39 電子制御ユニット(ECU)
41 逆止弁(チェックバルブ)
43 逆止弁(チェックバルブ)
45 逆止弁(チェックバルブ)
47 分岐点(合流点)
50 フィルタ
52 絞り
L 作動液
A プランジャ駆動方向
H 吐出量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7