特許第5979762号(P5979762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979762
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ブドウ葉由来濃縮エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/87 20060101AFI20160818BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20160818BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20160818BHJP
【FI】
   A61K36/87
   A61K39/39
   A61P29/00
   A61P9/10 103
   A61P9/14
   A23L33/105
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-511625(P2013-511625)
(86)(22)【出願日】2011年5月20日
(65)【公表番号】特表2013-532134(P2013-532134A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】EP2011058282
(87)【国際公開番号】WO2011147754
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年5月16日
(31)【優先権主張番号】10164316.1
(32)【優先日】2010年5月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100147588
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】ショイリング ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ランガー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プローマン ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ファイステル ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルブローエル ベルント
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−511476(JP,A)
【文献】 米国特許第05912363(US,A)
【文献】 特開平02−048593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/105
A61P 9/10
A61P 9/14
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビチス・ビニフェラL.の葉のエキスの調製方法であって、下記工程:
a) ビチス・ビニフェラL.の葉から薬物を調製する工程、
b) この薬物を水及び水とアルコールの混合物の中から選択される溶出液で抽出して生エキスを得る工程、
c) この生エキスを抽出薬物から分離する工程、
d) 少なくとも部分的に前記溶出液を除去して濃厚エキスを得る工程、
e) この濃厚エキスを再び水に溶解させる工程、
f) いずれの不溶成分をも分離除去する工程、
g) 下記
i. 2相抽出又は
ii. 膜ろ過
によって選択的に二次植物成分を濃縮する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記溶出液が、水又は5〜95%(V/V)のエタノールを含有するエタノール-水混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出のために前記溶出液を40〜80℃の温度に加熱する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記2相抽出が固相抽出である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第2相が吸着剤樹脂である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記2相抽出が液液抽出である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第2相が、アルコール、ケトン、アルカン又はエステルの中から選択される水非混和性液体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項17のいずれか1項に記載の方法により調製されたエキス又はエキスを含むエキス製剤の、薬剤、医薬製剤又は栄養補助食品の製造のための使用。
【請求項9】
エキスが、12:1〜40:1の天然薬物とエキスの比(DEVnative)、少なくとも15質量%の全フラボノイド含量、及び少なくとも0.1質量%のアントシアニン含量を有する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記エキス製剤が、少なくとも1種の生理学的に許容できるアジュバントを含有する、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
血管若しくは胃腸管の炎症性疾患、静脈の微小循環性障害、虚血性疾患、痔核愁訴又は肛門周囲血栓症の治療又は予防のために使用するための医薬組成物の製造方法であって、請求項1〜7のいずれか1項に記載された方法によりエキスを調製する工程を含む、医薬組成物の製造方法
【請求項12】
前記血管の炎症性疾患が静脈炎である、請求項11に記載の方法
【請求項13】
前記静脈の微小循環性障害が慢性静脈不全(CVI)である、請求項11に記載の方法
【請求項14】
前記虚血性疾患が心疾患の中から選択される、請求項11に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ(ビチス・ビニフェラL.(Vitis vinifera L.))の葉由来エキス、その製法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
俗な言葉の静脈脱力という用語は、下肢の水貯留に関係があり、重い脚、疲れやすい脚等の倦怠感の形を取る症候群を指す。いわゆる脚の水貯蔵は、組織内における水の浮腫状蓄積を示し、水が血管から通り抜けられることを前提とする。従って、血管の透過性が過度に増加していると仮定しなければならない。
静脈脱力は慢性静脈不全(CVI)の初期とみなすことができる。慢性静脈うっ血症候群としても知られるCVI又は慢性静脈不全は、静脈流出への閉塞の結果として生じる血管の微小循環性障害に基づいている。慢性静脈不全を患うリスクは、年齢、肥満、また静脈炎、深部静脈血栓症及び重度の脚外傷の病歴とともに増加する。CVIは、女性に男性の約2倍見られる。
慢性静脈不全発症の重要因子は、表在静脈に病的高血圧が存在することである。通常、これは20〜30mmHgであるが、静脈血栓、一次若しくは二次病的静脈弁又は脱力した筋肉ポンプの結果として、それは60〜90mmHgに上昇する。この高圧が、後の合併症の原因である血管の解剖学的、生理学的及び組織学的変化の原因である。生理的条件下では、前毛細血管細動脈が反射的に収縮できるので、毛細血管床は圧力の過度の変化から保護されている。しかしながら、慢性的に静脈圧が高い患者はこの反射を失ったように見える。すなわち、体の位置への変化の場合、圧力変化は毛細血管床に直接伝えられる。
【0003】
持続的に上昇した静脈圧では、毛細血管壁に影響を及ぼす変化が起こる。これらには、毛細血管床の広幅化及び伸長、内皮表面増加、基底膜におけるコラーゲンIVの蓄積増加及びフィブリンの前毛細血管貯蔵が含まれる。上昇した静脈圧と、透過性が増加した異常な毛細血管との組合せが、間質空間への水、大きいタンパク質及び赤血球のフラッシング(flushing)をもたらす。蓄積フィブリンも容易には溶解しないようである。同時にガス交換が減少し、すなわち、皮膚が低酸素になる。このことが、とりわけ、白血球の活性化につながる。
同様のプロセスは、炎症の急性期反応からよく知られている。これらの反応では、血管壁の透過性が数分間ヒスタミン、プロスタグランジン(例えばPGE-2)、キニン及びセロトニン等の血管媒介物によって高められる。この種の急性期反応の典型的誘因は、とりわけ内皮細胞、線維芽細胞、マクロファージ、顆粒球及びリンパ球から放出されるインターロイキン-1(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、腫瘍壊死因子β(TGF-β)又はインターフェロンγ等のサイトカインである。これらの免疫担当細胞は、例えば隣接細胞への損傷又は隣接細胞の絶滅後にサイトカインを放出する。サイトカインは血流を通って肝臓に入り、そこでコルチゾールと一緒に、肝臓を活性化して約30種の異なる急性期タンパク質(APP)を生じさせる。APPは創傷治癒プロセスを促進し、組織損傷に対抗する。急性期反応の作用は局所及び全身の両方である。局所作用は感染の可能性を制限し、生体異物(例えば合成的に製造された色素、殺虫剤及び塩素化溶媒等)を排除すると想定される。死亡又は損傷した細胞は食作用により除去され、修復プロセスが惹起される。対照的に、全身作用は、全体として、例えば内毒素に対して生体の生存を保証するように意図される防御反応である。
【0004】
独国静脈学会の指針(AWMF指針登録第037/009号)によれば、慢性静脈不全の治療のアジュバント薬物療法薬として、とりわけ下記薬剤が用いられる:
アセチルサリチル酸、利尿薬、線維素溶解薬(デフィブロチド、スタノゾロール、スロデキシド)、線維素溶解ブースター、イロプロスト、ペントキシフィリン、プロスタグランジンE1、サポニン(ツボクサ属(Centella)、トチノキ(Hippocastanus)、ナギイカダ属(Ruscus)のエキス)、ベンザロン、ドベシル酸カルシウム、ナフタゾン、トリベノシド、イチョウ及びフラボノイドの大群に属する多くの物質[Havsteen BH, The biochemistry and medical significance of the flavonoids.) Pharmacol Ther 2002;96(2-3):67-202]。フラボノイドは浮腫の発生に対して明白にプラス効果を有することが示されている[Martinez MJ, Bonfill X, Moreno RM, Vargas E, Capella D. Phlebotonics for venous insufficiency. Cochrane Database of Systematic Reviews 2005, Issue 3. Art. No.: CD003229. DOI: 10.1002/14651858.CD003229.pub2.]。
静脈脱力の症候群はワイン生産地域で有意に少なく起こることが分かっている。これは、植物ビチス・ビニフェラL.がこの疾患に対して拮抗作用を有する化合物を含有するにちがいないと示唆するであろう。伝統的に、ブドウの葉は野菜として食され、かつ閉経期障害用又は痔核の治療用の浸出液及び注入液の形で医薬としても摂取されている。仏国薬局方では、赤ワインの葉のエキスが静脈強壮薬として推奨されている。過去数年間、慢性静脈不全(CVI)でうまく使用されている赤ワインの葉の水性エキスを含有する製剤が、名称Antistax(登録商標)で市販されている[Kiesewetter H, Koscielny J, Kalus U, Vix JM, Peil H, Petrini O, et al. 慢性静脈不全(段階I〜II)における赤ワインの葉AS 195(葉状ブドウ(ビチス・ビニフェラ))の効力(Efficacy of orally administered extract of red vine leaf AS 195 (folia vitis viniferae) in chronic venous insufficiency (stages I-II)). 無作為化二重盲検プラセボ対照試験(A randomized, double-blind, placebo-controlled trial.) Arzneimittel-Forschung 2000;50(2):109-117]。その中に含まれるエキスは、約5%のフラボノイド含量を特徴とする。別群のフェノール化合物として約0.1%のアントシアニンが存在する。
【0005】
従来のブドウの葉エキスはよく耐えられるという事実により、本発明の目的は、全範囲の炎症性疾患に使用するのにも適した新規エキスを提供することだった。局所的抗炎症作用は、炎症性疾患の治療又は予防で胃腸管全体に沿って役立つ可能性がある。歯肉炎、歯周炎、口内炎、食道炎及び胃炎は消化管の上部の炎症性疾患を表す。リンパ球性大腸炎、潰瘍性大腸炎及びクローン病は、腸領域の炎症性疾患の最もよく知られている例である。
痔核は、俗な言葉では、直腸と肛門の括約筋との間にある動静脈血管クッションの結節状静脈様又は結び目様の膨潤又は拡張を意味する。この血管クッションは、神経叢痔疾部(plexus haemorrhoidalis)とも呼ばれる。それは、動脈と静脈の網状組織から成り、括約筋と一緒に肛門をしっかり閉じられるようにする。しかし、用語痔核を使用するとき、これは一般的に痔核愁訴への言及である。典型的な症状は、わずかな出血、圧迫感、そう痒症、皮疹であり、進行期では、ガス及び大便の放出の制御に問題がある。原因は、とりわけ、肛門に近接した血管の結節状の静脈様拡張であり得る。肛門周囲血栓症(=偽性痔核)と称する同様の疾患は、肛門皮膚の静脈内における血餅(血栓)の形成が原因であり、肛門血栓症とも呼ばれる。肛門周囲血栓症は、長時間座ること、冷たい表面上に座ること、排便時の激烈かつ持続的な緊張(例えば硬い便で)によって、また妊娠及び出産中に起こることが多い。肛門周囲血栓症は、激しい咳嗽、労作、十分に飲まない結果として生じる脱水によっても、またくしゃみによってさえも生じることがある。この場合もやはり、血管が通常の量を超えて拡張され得る。痔核愁訴でも肛門周囲血栓症でも、外科処置に加えて、鎮痛又は抗炎症活性物質を含む座剤を投与するのが普通である(痔核愁訴に関する指針“www.uni-duesseldorf.de/AWMF/II/081-007p.htm”及び肛門血栓症に関する指針“www.derma/de/585.0.html”)。
【0006】
(従来技術)
植物ビチス・ビニフェラL.の他の部分、例えばブドウ種子については、いくつかの濃縮方法が既に開示されている。しかしながら、マイクロ波抽出(CN 1102589C)等の方法は収率を高めることによって低い濃縮係数を与えるのみであり、超臨界流体による抽出(CN 1107110C)は親油性構造にのみ適している。CN 1454896は、オリゴマープロアントシアニジンを濃縮するための液液抽出と共に酸性一次抽出を利用する。EP 348781は、ブドウ種子由来のオリゴマーフェノール化合物の膜ろ過による濃縮方法を開示しており、一方でWO 2005036988及びEP 1909750は、ポリフェノールを選択的に濃縮し、モノマーを除去するクロマトグラフ法を主張している。
GB 934554は、赤色を得るための赤ワイン葉の温アルコール水抽出(50〜80%のEtOH)とその後の酸性化について記載している。クロロフィル及びワックスを除去するため、ベンゼン又は四塩化炭素を用いる液液抽出、或いは純水での再沈殿が提案されている。塩析することによってタンニンの沈殿速度を上げることができる。この後にブタノール又はペンタノールで液液抽出する精製工程が続く。結果として生じるアルコール抽出エキス相からプロシアニジン画分を必要に応じてエーテル、石油又はベンゼンで沈殿させてからこれを穏やかに乾燥させる(真空中又は噴霧塔内)。このプロセスは非常に面倒かつコストがかかり、結果として生じる製品は参照エキスとは非常に顕著に異なる。従って低コストで製品を製造できる代替製造方法が要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ブドウの葉由来の代替活性エキスを提供することだった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、ビチス・ビニフェラL.の葉由来エキスの調製方法であって、下記工程:
a) ビチス・ビニフェラL.の葉から薬物を調製する工程、
b) この薬物を水及び水とアルコールの混合物の中から選択される溶出液で抽出して生エキスを得る工程、
c) この生エキスを抽出薬物から分離する工程、
d) 少なくとも部分的に溶出液を除去して濃厚エキスを得る工程、
e) この濃厚エキスを再び水に溶解させる工程、
f) いずれの不溶成分をも分離除去する工程、
g) 下記
i. 2相抽出又は
ii. 膜ろ過
によって選択的に二次植物成分を濃縮する工程
を含む方法によって解決される。
【0009】
本発明によれば、ビチス・ビニフェラL.の葉を使用する。これらは原則として新鮮又は乾燥形で使用し得る。
好ましくは抽出前に葉を粉砕する。
本発明の特定実施形態では、フラボノイド含量がそのピークの時にビチス・ビニフェラL.の葉を採取し、葉を乾燥させて粉砕し、必要に応じて葉を寸断することによって薬物を調製する。
生エキスを得るために抽出は水又は水とアルコールの混合物で行なう。乾燥薬物1kg当たり5〜30kgの量の抽出剤が特に適している。
好ましくは、水又は5〜95%(V/V)のエタノールを含有するエタノール-水混合物を溶出液として使用する。
水に加えて、25〜50%(V/V)の量のエタノールを含有する溶出液を使用するのが特に好ましい。
好ましくは、抽出は40〜80℃の範囲の温度で行なうが、使用する溶出液の沸点より15〜25℃低い温度が特に適していることが判明した。
抽出中に占める圧力は重要でなく、広範に及ぶ。しかしながら、抽出は一般的に900〜1500mbar、好ましくは950〜1100mbarの範囲の圧力、特に周囲圧力、すなわち、約1013mbarで行なう。
抽出薬物から粗製エキスを分離する。分離は通常、ろ過又は当業者に既知の他の方法で行なう。例えば、4mmの穴と、その下流に、250μmのメッシュサイズのポリアミドフィルターバッグのある有孔篩板を通すろ過を行なうと便利である。当業者はこのための他の適切な方法を知っている。
【0010】
次に、分離された生エキスから少なくとも部分的に溶出液を除去し、このようにして濃厚エキスを得る。溶出液の部分的除去とは、本発明の範囲内では、投入された溶出液の体積に対して30〜90%(V/V)、好ましくは75〜98%(V/V)の除去、特に実質的に全ての溶出液の除去、すなわち、少なくとも95%(V/V)の除去を意味する。通常、加熱することによって及び/又は減圧下で溶出液を除去するであろう。当業者はこの目的に適した方法及び機器を知っている。
このようにして得られた濃厚エキスを再び水に溶解させ、不溶成分を分離除去する。
通常、再溶解は、得られた生エキスの1部の量に対して1部〜10部の量で行なう。ろ過及び/又は遠心分離等の技術上周知の方法で不溶成分を分離除去する。
次に、2相抽出又は膜ろ過のどちらかによって、二次植物成分の選択的濃縮を行なう。
2相抽出を固相抽出として行なってよく、固相として吸着剤樹脂が適していることが判明した。例えば非イオン性疎水性ジビニルベンゼンコポリマー、脂肪族エステルポリマー及びホルモフェノール(formophenol)ポリマーの中から選択される好適な吸着剤樹脂は、名称Amberlite(登録商標)、Levatite(登録商標)、Miontech(登録商標)及ぶDiaion(登録商標)で市販されている。本発明の方法に好適な吸着剤樹脂は、好ましくは300〜700Å、好ましくは400〜500Åの範囲の平均内孔径を特徴とする。
吸着剤に結合する物質を溶出し、これをさらに使用し;非結合物質を捨てる。
通常、抽出は10〜30℃の温度範囲で行なうであろう。使用する供給溶液を一般的に3〜6、好ましくは4.5〜5.5、特に好ましくは5のpHに調整する。
2相抽出は液液抽出であってもよく、好ましくは第2相は水非混和性液体であり、アルコール、ケトン、アルカン又はエステルの中から選択される。1つの特定実施形態では、第2相は水非混和性アルコール、好ましくはC4〜C5アルコール、好ましくはn-ブタノールである。第2相へ移行する画分をさらに使用し、水相を捨てる。
通常、開始溶液の乾燥物質含量が3〜30%、好ましくは10〜20%、特に好ましくは15%で抽出を行なう。
原則として、選択的濃縮は膜ろ過であってもよく、30〜2000キロダルトン(kDa)の排除サイズを有する膜が満足できるものだと判明した。
透過物をさらに使用し、残余分を捨てる。
【0011】
本発明の特定実施形態では、選択的濃縮を行なった後、ビチス・ビニフェラL.の乾燥エキスを得るように、エキスを乾燥させる。例えば噴霧ベルト乾燥等の技術上周知の標準的方法を利用して乾燥を行なう。しかし、濃縮エキスを前もって乾燥させずに使用することもできる。
上記本発明の方法は、天然薬物とエキスの比(DEVnative)が12:1〜40:1であるビチス・ビニフェラL.のエキスを作り出す。本発明により得られたエキス及び本発明のエキスの全フラボノイド含量は通常、少なくとも15質量%、好ましくは少なくとも20質量%であり、アントシアニンの含量は少なくとも0.1質量%、好ましくは少なくとも0.2質量%、最も好ましくは少なくとも0.3質量%である。このようにして、参照エキス(従来技術による)と比較して、サイトカインを誘発する透過性抑制の向上が達成される。
従って、本発明はさらに、前述した方法の1つにより調製されたエキスに関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、本発明のエキスと、少なくとも1種の生理学的に許容できるアジュバントとを含有するエキス製剤に関する。適切な生理学的に許容できるアジュバントは当業者に知られている。
別の態様では、本発明は、本発明のエキス又は本発明のエキス製剤の、薬剤、医薬製剤又は栄養補助食品の製造のための使用に関する。これらは技術上周知の通常の方法で調製される。
別の態様では、本発明は、本発明のエキス又は本発明のエキス製剤の、血管若しくは胃腸管の炎症性疾患、静脈の微小循環性障害、虚血性疾患、痔核疾患又は肛門周囲血栓症の治療又は予防のための使用に関する。本発明により治療される血管の炎症性疾患は、さらに特に静脈炎である。本発明により治療される静脈の微小循環性障害は、さらに特に慢性静脈不全(CVI)である。本発明により治療される虚血性疾患は、さらに特に心疾患、特に心筋梗塞である。
別の態様では、本発明は、本発明のエキス又は本発明のエキス製剤の、胃腸管の急性若しくは慢性炎症又は痔核愁訴又は肛門周囲血栓症の治療又は予防のための使用に関する。
本発明の治療のための使用は、新規エキス又は新規エキス製剤の静脈内、経口、直腸又は経皮投与により行なえる。新規エキス又は新規エキス製剤は、局所又は全身作用を有する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を下記非限定例によりさらに詳細に説明する。
(使用する測定方法)
化学的パラメーター
フラボノイド含量は、フラボノイドイソクェルシトリン(isoquercitrin)、ケルセチン-3-O-β-D-グルクロニド及びカンファー油-3-O-β-D-グルコシドを検出するHPLC法で決定される。使用する固定相は、4μmの粒子を含み、寸法が125×4mmのSuperspher RP8分離カラムである。25℃のカラムオーブン内で1ml/分の流速にてアイソクラチック分離を行なう。溶出液は107部のテトラヒドロフラン、55部のアセトニトリル及び810部のリン酸(0.003mol/l)で構成される。検出は360nmで行なわれる。
アントシアニン含量は、Ph. Eur 6.4 Monograph 2394“精製及び標準化した新鮮なビルベリー果実乾燥エキス(Fresh Bilberry fruit dry extract, refined and standardised)”に類似して分離HPLC法で決定される。
サイトカイン抑制の生理学的in vitroモデル
ヒト単球を37℃及び5%のCO2で24時間LPS(10ng/ml)で刺激する。LPS添加の30分前にエキスを加えて、エキスがLPS刺激に影響を与え得るかどうかを調べる。10〜300μg/mlの測定濃度のエキスを試験した。24時間後に上澄み液を除去し、遠心分離し、ELISA/EIA(Biotrend/Immunotools)を用いて製造業者の使用説明書に従ってPGE-2、IL-6、IL-1、及びTNF-αの濃度に調整した。
【0014】
実施例1:水性参照エキス(従来技術)
2kgの薬物ビチス・ビニフェラ葉Ph. Eur.をパーコレーター内75℃にて24リットルの浸透水で抽出する。溶出物をろ過し、減圧下でエバポレートして約50%の乾燥物質を含有する濃厚エキスとする。このスピッサム(spissum)を4%の二酸化ケイ素と混合し、真空乾燥戸棚内50℃で乾燥させる。得られたエキスは、5:1のDEVnative、5.1%のフラボノイド含量及び0.15%のアントシアニン含量を特徴とする。
【0015】
【0016】
実施例2:本発明の吸着剤エキス(水性)
2kgの薬物ビチス・ビニフェラ葉Ph. Eur.をパーコレーター内75℃にて44リットルの浸透水で抽出する。溶出物を減圧下でエバポレートして約50%の乾燥物質を含有する濃厚エキスにする。このスピッサムを冷蔵庫で16時間保存し、浸透水で希釈して10%の乾物含量に戻す。24時間後、沈殿したタンニンをろ別してから希薄エキスを吸着剤材料XAD7HPに適用する。この装薬された吸着剤を浸透水で洗浄してからエタノールでエキス成分を溶出する。エタノール相をエバポレートして>50%の乾物含量にする。得られたスピッサムを真空乾燥戸棚内50℃で自然乾燥させる。得られたエキスは、19:1のDEVnative、21.1%のフラボノイド含量及び0.77%のアントシアニン含量を特徴とする。
【0017】
【0018】
実施例2の吸着剤エキスでは、実施例1の従来技術に比べてサイトカイン抑制が増すことが分かった。
IL-6の場合、同じ抗炎症効果を得るために必要な本発明のエキスの濃度は5倍低い。
PEG-2に対する効果はもっとさらに顕著である。実施例1の300μg/mlの測定濃度では、11.6%だけの抑制を測定できた。実施例2の新規エキスは、50μg/mlという6倍低い濃度でさえ32.1%の抑制を達成した。
これらの2つは、新規エキスの3.8という濃縮係数より、実施例1に比べてそれぞれ5倍又は18倍高い。3.8という濃縮係数は、比較しているエキスのDEVnativeの商から得られる。
【0019】
実施例3:本発明のエキス(液液抽出による)
2kgの薬物ビチス・ビニフェラ葉Ph. Eur.をパーコレーター内75℃にて44リットルの浸透水で抽出する。溶出物を減圧下でエバポレートして約50%の乾燥物質を含有する濃厚エキスを形成する。このスピッサムを冷蔵庫で16時間保存し、再び浸透水で希釈して10%の乾物含量にする。24時間後、沈殿したタンニン画分をろ別してから希薄エキスを3:2の比のn-ブタノールで2回処理する。ブタノール相をエバポレートして>50%の乾物含量にする。得られたスピッサムを真空乾燥戸棚内50℃で自然乾燥させる。得られたエキスは、16:1のDEVnative、21.7%のフラボノイド含量及び0.43%のアントシアニン含量を特徴とする。残存する水相は、5:1のDEVnative、<0.1%のフラボノイド含量及び検出限界未満のアントシアニン含量を特徴とする。
【0020】
【0021】
液液処理の2相の比較は、有機相(ブタノール)中に抗炎症素を濃縮できることを明白に示している。実施例3Aのブタノールで濃縮されたエキスでは、実施例3Bの分離除去された水相に比べてサイトカイン抑制が15倍(TNF-α)、42倍(IL-1β)及び91倍(PEG-2)高いことが分かった。
これは、3.2のみの濃縮係数(比較すべき実施例3A及び3BのエキスのDEVnativeの商)に匹敵する。
このことは、水相から有機相への活性素の選択的蓄積を明確に示す。
実施例3Aの新規エキスは従来技術よりも優れている。
【0022】
【0023】
実施例3Aのエキスは、実施例1の従来技術と比較してサイトカイン抑制を増やすことが分かった。
TNF-αでは、同じ抗炎症効果を得るために5倍低い新規エキス3Aの濃度を有する必要がある。
PEG-2に対する効果はもっとさらに顕著である。実施例1の300μg/mlの測定濃度では、11.6%だけの抑制を測定できた。実施例3Aの新規エキスは、50μg/mlという6倍低い濃度でさえ24.3%の抑制を達成した。
これらの2つは、新規エキスの3.2という濃縮係数より、実施例1と比較してそれぞれ5倍又は12倍高い(2倍良い%値×濃縮係数6)。3.2という濃縮係数は、比較しているエキスのDEVnativeの商から得られる。
【0024】
実施例4:本発明のエタノール性エキスの製剤
2kgの薬物ビチス・ビニフェラ葉Ph. Eur.をパーコレーター内45℃にて24リットルのEtOH40%V/Vで抽出する。溶出物をろ過し、減圧下でエバポレートして約50%の乾燥物質を含有する濃厚エキスを形成する。このスピッサムを冷蔵庫で16時間保存し、浸透水で再び希釈して10%の乾物含量にする。24時間後、沈殿したタンニンをろ別し、次に、希薄エキスから、他の共抽出された高分子物質を膜ろ過(MWCO 300kDa)で除く。結果として生じる画分(透過物)を真空中で50℃にて乾固させる。得られたエキスは、6.7:1のDEVnative及び7.6%のフラボノイド含量を特徴とする。
【0025】
実施例5:本発明の吸着剤エキスの製剤(EtOH性)
2kgの薬物ビチス・ビニフェラ葉Ph. Eur.をパーコレーター内75℃にて24リットルのEtOH20%V/Vで抽出する。溶出物を減圧下でエバポレートして約50%の乾燥物質を含有する濃厚エキスを形成する。このスピッサムを冷蔵庫で16時間保存し、浸透水で再希釈して10%の乾物含量にする。24時間後、沈殿したタンニンをろ別してから希薄エキスを吸着剤材料XAD7HPに適用する。この装薬された吸着剤を浸透水で洗浄してからエキス成分をエタノールで抽出する。エタノール相をエバポレートして、>50%の乾物含量にする。得られたスピッサムを真空乾燥戸棚内50℃で自然乾燥させる。得られたエキスは、21:1のDEVnative及び25.1%のフラボノイド含量を特徴とする。