【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕『GER高含有大根系統の選抜』
(1)「遺伝資源からの網羅的探索」
国内外の大根遺伝資源650品種系統に対して、グルコシノレート(GSL)の一種であるグルコエルシン(GER)を含有する個体を網羅的に探索した。
上記種子を暗黒条件下(24℃)で水耕栽培し、播種から6日目のスプラウト(子葉、胚軸)を1品種に付き20本程度サンプリングした。
得られたスプラウト約20本分の子葉及び胚軸の混合サンプルに、70%メタノールを加えて75℃ウォーターバス内で加熱することによって、酵素ミロシナーゼを失活させた。その後、組織を破砕してGSLをメタノール抽出した。
抽出した粗GSL溶液を定法により脱硫化し、デスルホグルコシノレートとした。デスルホグルコシノレートは定法に従ってHPLC分析した。分離された各デスルホグルコシノレートは外部標準であるシニグリン換算にて定量化することで、GSL組成を解析した。
【0047】
その結果、分析した650品種系統のうちの品種「西町理想」において、約20個体のスプラウト中に1〜2個体のGERを含有する個体が含まれていることが示唆された。
【0048】
(2)「西町理想からのGER高含有系統の作出」
次いで、西町理想に注目しこれを母集団にして、GER含有個体の選抜を行った。
当該品種の種子を圃場に播種し、生育した成熟根(大根)をサンプリングした。サンプリングした成熟根は、液体窒素で凍結した後に凍結乾燥させ、粉末化した後、上記(1)に記載の方法と同様にしてHPLCによりGSL組成を解析した。そして、GERを含有する個体の存在を調べた。
【0049】
その結果、西町理想373個体中GERを高含有する個体を11個体見出した。
そこで、得られた当該個体について自殖操作と個体選抜を行い、GERを安定的に高含有する形質が固定された系統を作出した。
そして、これらの成熟根(大根)中のGER含有量と4MTBG含有量の測定値を測定し、表1に示した。
【0050】
測定の結果、これらの系統の成熟根では、いずれも5μmol/g(乾燥重量)以上という高い値でGERを含有するものであった。また、これらの4MTBG含有量は検出限界以下であった。
本願発明者らは、これらの系統のうち、NMR154N-7-5系統(ダイコン安濃5号)を、品種「だいこん中間母本農5号」として品種登録する予定である。
【0051】
【表1】
【0052】
〔試料例1〕『大根品種系統』
実施例1(2)で作出したGER高含有系統を含め、以降の試験及び大根加工食品製造に用いた大根品種系統について、表2に整理して記載した。
なお、GER高含有系統であるNMR154N-7-5系統(品種:だいこん中間母本農5号)の成熟根の写真像図を
図1(1)に示した。また、比較として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図を
図1(2)に、原品種である西町理想(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図を
図1(3)に示した。
【0053】
NMR154N-7-5系統の成熟根(大根)の根形は、尻部がやや太いつまり状で、根長は30〜50cm、根径6〜10cmと細長い根形を示し、根重は600〜1200g程であった。また、肉質は緻密で柔らかく、煮食や、たくあん漬に適した品種であると判断された。
これは、原品種である西町理想と同様の性質であった。
【0054】
【表2】
【0055】
〔実施例2〕『GER高含有系統のGSL代謝系』
上記GER高含有系統の成熟根について、GSL代謝に関する以下の性質を調べ、通常の4MTBG高含有品種系統と比較した。
【0056】
(1)「成熟根におけるGSL総含有量とミロシナーゼ活性の測定」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の成熟根について、GSLの総含有量を測定した。GSLの総含有量は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 辛味199, 耐病総太り, WN8339)の大根を用いて、同様にして測定を行った。なお、含有量は、大根湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。結果を
図2に示した。
【0057】
また、これらの品種系統の大根について、GSLの一種であるシニグリンを基質としてミロシナーゼ活性を調べた。
大根を均一にホモジェナイズし、絞り液を回収した。当該絞り液にシニグリン溶液(基質)を加えて37℃で10分間反応を行い、生成したグルコース量をソモギー・ネルソン法によって測定した。そして、当該生成グルコース量の測定値からシニグリン分解量を換算して求め、大根湿重量あたりのミロシナーゼ活性(シニグリンmmol/g FW)を示す値とした。結果を
図3に示した。
【0058】
これらの測定結果から、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の大根のGSL総含有量およびミロシナーゼ活性は、漬物や生食に常用される通常の品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 耐病総太り, WN8339)とほぼ同レベルであり、差違がないことが示された。
なお、辛味大根である辛味199では、GSL総含有量とミロシナーゼ活性自体が顕著に高いことが確認された。これは、辛味大根では、辛味成分であるイソチアシアネート(ITC: GSLのミロシナーゼ加水分解産物)の含有量が高いことと一致する性質であった。
【0059】
(2)「漬物に加工した際のTPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)含有量の測定」
大根加工食品の黄変の原因となるTPMT(黄色色素)は、4MTBG(GSL)のミロシナーゼ加水分解産物である4MTBI(ITC)が、トリプトファン等との縮合による化学変化を起し、TPCC(代謝中間産物)を経て生成される物質である(
図4 参照)。
そこで、上記(1)の品種系統の成熟根を用いて、糖絞り(早漬系たくあん漬)を製造し、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)の含有量を調べた。
【0060】
各品種系統の成熟根を、8%の食塩で約1週間塩押しをし、糖液(20%液糖)中にて脱水工程を進め、糖絞りへと加工した。保管温度は常に0〜5℃を保ち27日間漬け込むことで、糖絞りを製造した。
得られた糖絞りについて、部位差が生じないように根の中心部に沿って1/4の縦切りにして、重量と同じ水を加えてホモジェナイズした。ナイロン濾布で絞った後、絞り液を遠心分離(15,000g×10分間)し、上澄み液についてHPLC分析に供した。
TPCC(代謝中間産物)の含有量の測定結果を
図5に、TPMT(黄色色素)の含有量の測定結果を
図6に示した。なお、含有量は、製品湿重量あたりの値(μmol/g FW)で示した。
【0061】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の大根の糖絞りでは、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)を全く含まないことが示された。即ち、当該系統の大根では、黄変の原因となるTPMT(黄色色素)が代謝生成されないことが明らかになった。
これは、GER(GSL)のミロシナーゼ分解産物であるエルシン(ITC)は、水中で安定性が高い物質であるため、ITC以降の代謝産物の生成が起こっていないためと推測された。
一方、通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 辛味199, 耐病総太り, WN8339)を用いた場合では、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)が検出され、4MTBI(4MTBCから生成されたITC)の分解を経た代謝産物生成が起こっていることが確認された。
特に、GSL総含有量とミロシナーゼ活性自体が高い辛味大根(辛味199)を用いた場合では、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)の含有量も高い値を示した。
【0062】
(3)「漬物に加工した際の黄色度合いの測定」
上記(2)で製造した糖絞りについて、黄色度合いを評価した。
各糖絞りを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を
図7に示した。
【0063】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の成熟根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統を用いた場合に比べて、有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有する漬物(糖絞り)が製造できることが示された。
【0064】
〔実施例3〕『糖絞りの製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、漬物製造業者である山義食品工業(株)の通常の製造工程に準じて糖絞り(早漬系のたくあん漬の一種)の製造を行った。
なお、ここで‘糖絞り’は、「塩押し大根の糖絞りによる浅漬」として製造した。
【0065】
(1)「糖絞りの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の成熟根を、8%の食塩で約1週間塩押しをし、20Lサイズの小樽にして実験条件毎に糖液(20%液糖)中にて脱水工程を進め、糖絞りへと加工した。
保管温度は常に0〜5℃を保ち最長2ヶ月間漬け込み、1又は2ヶ月を経過した際に回収することで、糖絞りを製造した。
また、対照として、漬物に常用される通常の4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)の成熟根を用いて、同様にして糖絞りを製造した。
【0066】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。
また、対照として、4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)の糖絞りに対して、同様にして解析を行った。結果を
図8に示した。
なお、漬け込み期間1ヶ月で製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの横断面の写真像図を
図9(A)に示した。また、比較として、4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りの横断面の写真像図を
図9(B)に示した。
【0067】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)を原料とした糖絞りでは、漬け込み期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、漬けてから2ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)を用いて製造した全ての糖絞りでは、漬け込む期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の大根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統の大根を用いた場合に比べて有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有する糖絞りが製造できることが示された。
また、当該糖絞りは、全く黄変しないことが明らかになった。
【0068】
(3)「ITC組成解析およびITC総含有量の測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、ITC組成解析およびITC総含有量の測定を行った。当該解析は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りに対して、同様にして解析を行った。
ITC総含有量の測定結果を表3に示した。なお、含有量は、製品湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。
また、ITC組成を示すHPLCの結果として、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの結果を
図10(A)に、秋まさり2号の結果を
図10(B)に示した。
【0069】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りには、ITCの一種であるエルシンが極めて高い含有量で含まれることが示された(
図10(A)の符号2)。
また、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りのITCの総含有量は、たくあん漬に常用される4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りに比べて、約20〜30倍であることが明らかになった。
この性質は、(i)漬け込み期間中にミロシナーゼ活性によりGER(GSL)からエルシン(ITC)が生成されること、(ii)エルシン分子は水中で安定性が高い性質を有することにより、当該エルシンが糖絞り中に蓄積したためと考えられた。
【0070】
一方、対照の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りでは、ITCの一種である4MTBIが微量に存在するだけであった(
図10(B)の符号3)。
これは、4MTBG(GSL)からミロシナーゼ活性により生成された4MTBIは、水中で極めて不安定であるため、分解代謝により糖絞り中にほとんど残存していないためと考えられた。
【0071】
【表3】
【0072】
(4)「各種官能評価」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、表4に示す各項目に関する官能評価を行なった。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りを用いた。
官能評価は、事前に訓練を受けたパネラー11人(20代前後の女性)により、8段階評価(1が最低点で8が最高点)を行い、平均値を求めた。
また、ANOVA検定及びTURKEY検定を行い、対照(秋まさり2号の糖絞り)と有意差(P<0.05)がある項目については「*」で示した。なお、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の間での有意差は認められなかった。結果を表4に示した。
【0073】
・色調
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、対照である4MTBG高含有系統(秋まさり2号)の糖絞りと比べて、有意に色が薄く白色性を有することが示された。
【0074】
・風味
また、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りの風味については、対照である4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りと比べて、辛味及びえぐみが有意に高く且つ甘味が有意に低いことが示された。
当該風味の違いは、GER高含有系統の糖絞りでは、ITC(辛味成分)であるエルシンを高含有することに起因するものと考えられた。
【0075】
・食感
食感に関する評価は、各糖絞りの間で有意な差異は認められなかったが、GER高含有系統のうちのNMR154N-7-5系統の糖絞りでは、やや硬い食感となることが示唆された。
このことから、NMR154N-7-5系統の大根(成熟根)を用いることで、新鮮な野菜のようなフレッシュな食感が付与された漬物が製造できることが示唆された。
【0076】
・匂い
糖絞りは漬け込み期間が短い浅漬であることから、硫黄臭の発生に差違は認められなかった。
【0077】
・たくあん様の印象
GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、従来の品種(秋まさり2号)の糖絞りと比較して、従来のたくあん漬とは異なる嗜好性を有し、全く新規の漬物となることが示された。
【0078】
・嗜好性
全項目の評価を総合して、パネラー全員が、「GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、従来の品種(秋まさり2号)の糖絞りよりも好適である」との評価を示していた。
本試験のパネラー全員が若い女性であることを踏まえると、GER高含有系統の糖絞りは、若い世代での嗜好にあった漬物であると考えられた。
【0079】
【表4】
【0080】
〔実施例4〕『たくあん漬(塩押し大根漬)の製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、漬物製造業者である山義食品工業(株)の通常の製造工程に準じてたくあん漬の製造を行った。
なお、ここで‘たくあん漬’は、「塩押し大根の糠漬(塩押し大根漬)」として製造した。
【0081】
(1)「たくあん漬けの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)の成熟根を、8%(重量パーセント)の食塩で約1週間塩押しをし、その後、食塩5%含有まで塩分を下げ、実験条件毎に20L樽に移しながら糠をまぶして糠漬けへと加工した。
保管温度は常に0〜5℃を保って最長12ヶ月間漬け込み、3, 6, 12ヶ月を経過した際に回収することで、たくあん漬を製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される通常の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)および4MTBG高含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2)の大根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0082】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造した各たくあん漬を均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を
図11に示した。
その結果、GER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)を原料としたたくあん漬では、漬け込み期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、漬けてから12ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2, 秋まさり2号)を用いて製造した全てのたくあん漬では、漬け込む期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の成熟根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統の成熟根を用いた場合に比べて有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有するたくあん漬が製造できることが示された。
また、当該糖絞りは、全く黄変しないことから、‘白色のたくあん漬’が製造できることが明らかになった。
【0083】
(3)「匂いの評価」
上記製造した各たくあん漬について、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)のたくあん漬では、たくあん臭い匂いがほとんどしないことから、硫黄臭の発生が起こりにくいことが示された。
この性質は、GER高含有系統では、ITCであるエルシンの安定性が高いため、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成がおこらないためと考えられた。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2, 秋まさり2号)では、硫黄臭の顕著な発生が認められた。これは、ITCである4MTBIの分解代謝に伴い、硫黄化合物が大量に生成されたものと考えられた。
【0084】
〔実施例5〕『たくあん漬(干したくあん漬)の製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、天日干し乾燥した大根を原料とする伝統的な製法によるたくあん漬を製造した。
なお、ここで‘たくあん漬’は、「天日干し大根の糠漬け(沢庵漬)」として製造した。
【0085】
(1)「たくあん漬の製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-7-5)の成熟根を、11月下旬の冬期に日陰の風通しの良い場所で1ヶ月間〜1ヶ月半の間つるし(日陰つるし状態)、元重量の25%〜30%程度になるまで干して乾燥させた。
その後、20L樽に移しながら糠をまぶして糠漬けへと加工した。保管温度は常に0〜5℃を保ち、最長12ヶ月間漬け込み、たくあん漬を製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される通常の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の成熟根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0086】
(2)「色調および匂いの評価」
上記製造した各たくあん漬について、色調および匂いを官能評価にて行った。
【0087】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)では、表面が天日干し乾燥により薄い茶褐色がかった色彩となったが、12ヶ月間糠に漬け込んだ後でも黄変自体は全く起こらず、白色性を有していた。
また、硫黄臭の発生はほとんど認められなかった。
【0088】
一方、対照である4MTBG高含有系統(秋まさり2号)では、天日干し乾燥後に表面が薄い茶褐色がかった色彩となり、さらに糠漬け工程開始直後からすぐに黄変が進行することが確認された。
また、硫黄臭の顕著な発生が認められた。
【0089】
〔実施例6〕『大根おろしの製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、食品製造業者であるインデアン食品(株)の通常の製造工程に準じて大根おろしの製造を行った。
【0090】
(1)「大根おろしの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-6-5)の成熟根の皮を剥いて傷を取り除いたのち、包丁である程度の大きさまで切り、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に3分〜5分浸漬後、流水でよく洗って洗浄した。
家電おろし器(電動ベジタブルスライサー, Iwatani)のパーティカルカッターで粗微塵切りした後、カッターミキサーにて細かいペースト状にすることで大根おろしを製造した。
製造した大根おろしは、透明の保存用袋に500gずつ小分けして真空充填し、-40℃(冷凍)で最長12ヶ月間保存した。
また、対照として、大根加工食品に常用される通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-5-6, YR鉄人(F1), 青首520)の成熟根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0091】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造した各大根おろしを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を
図12に示した。
なお、12ヶ月保存したNMR154N-6-5系統の大根おろしを撮影した写真像図を
図13(A)に示した。また、比較として、12ヶ月保存した秋まさり2号の大根おろしを撮影した写真像図を
図13(B)に示した。
【0092】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)を原料とした大根おろしでは、保存期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、製造してから12ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR348H-5-6, YR鉄人, 青首520)の大根を用いて製造した全ての大根おろしでは、保存期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の大根を原料に用いることによって、保存に伴う黄変が全く起こらない大根おろしを製造できることが明らかになった。
【0093】
(3)「経時変化に伴うITC総含有量の測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしについて、ITC総含有量の測定を行った。当該解析は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、4MTBG高含有品種系統(YR鉄人, 青首520)の大根おろしに対して、同様にして解析を行った。なお、含有量は、製品湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。ITC総含有量の測定結果を
図14に示した。
【0094】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしには、ITCが極めて高い含有量(3ヶ月保存時 約0.2μmol/g FW)で含まれることが示された。これは、大根加工食品として汎用される青首520の大根おろしと比べて、約6.7倍という高い値であった。
また、12ヶ月保存したものでも高い含有量(約0.08μmol/g FW)で保持されることが確認された。
一方、対照の4MTBG高含有品種(YR鉄人, 青首520)の大根おろしでは、ITCの含有量は製造直後でさえも極めて微量であり、12ヶ月の保存後にはほとんど残存していなかった。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、組織中に蓄積する性質があるためと推測された。
【0095】
(4)「匂いの評価」
上記製造した各大根おろしについて、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしでは、大根臭い匂いがしないことから、硫黄臭の発生が全く起こらないことが示された。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR348H-5-6, YR鉄人, 青首520)では、硫黄臭の発生が認められた。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成が起こらないためと推測された。
また、本例では、保存を冷凍条件で行ったため、ITC由来以外の硫黄化合物の生成も完全に抑制されていたと推測された。
【0096】
〔実施例7〕『切り干し大根の製造』
上記作出したGER高含有系統に由来する系統の成熟根を用いて、JA宮崎中央が管轄する生産農家の製法に準じて切り干し大根の製造を行った。
【0097】
(1)「切り干し大根の製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統間での交雑(NMR154N-7-5とNMR366N-3)によるF1系統の成熟根を、流水でよく洗浄後、傷んだ箇所があれば取り除いたのち、切干突(市販の切り干し製造調理器)を用いてランダムになるように切った後によく混合した。
切った大根(成熟根)は、冬期に家庭用の魚干し網を使って3日間吊し干し、天日乾燥させることで切り干し大根を製造した。
その際、天気の良い昼間は風通しのよい野外の直射日光のあたらない場所にて、夜間は夜露から避けられる室内の冷暗所にて吊し干しを行った。なお、当該天日乾燥は、冬季の3日間連続で晴天もしくは雨の降らない期間を定めて実施した。
出来上がった切干し大根は、真空パックに入れて小分けし、-25℃で、最長2ヶ月間保存した。
また、対照として、通常の4MTBG高含有品種系統(耐病総太り)の成熟根を用いて、同様にして切干し大根を製造した。
【0098】
(2)「匂いの評価」
上記製造した各切り干し大根を水で戻し、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根では、大根臭い匂いがしないことから、硫黄臭の発生が全く起こらないことが示された。
一方、対照である4MTBG高含有系統(耐病総太り)では、硫黄臭の発生が認められた。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成が起こらないためと推測された。
【0099】
(3)「メルカプタン類(硫黄臭・悪臭)の発生量の測定」
上記製造した各切り干し大根について、臭気成分の分析を行なった。具体的には、硫黄臭または悪臭として知られるメチルメルカプタン(悪臭防止法1号及び3号規制の対象物質)などメルカプタン類の発生量を定量した。
【0100】
上記製造した切り干し大根各10gを、100mLの水が入ったビーカーに加え、臭気捕集口の付いた密封ポリエチレンバック(6L容量)の中に室温(24℃)で1時間放置し戻し、その時に発生する臭気を充満させた。
なお、当該測定スケールは、調理時に実際に用いられる切り干し大根の量を想定して設定した。
検知管式気体測定器(GV-100, GASTEC社)に検知管(No.70L 又はNo.71, メルカプタン類用:メチルメルカプタン補正)を装着し、気体100mL中のメルカプタン類含有量(メチルメルカプタン換算値)を測定した。
測定は、同一試料をそれぞれ2サンプルずつ調製し、調製したサンプル毎に2度繰り返して測定(合計4回の測定)を行った。そして、当該4つの値を平均化して、測定値とした。
結果を、
図15に示した。
【0101】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根からは、わずか1.8ppmしかメルカプタン類の発生が認められなかった。
この発生量は、4MTBG高含有系統(耐病総太り)の切り干し大根からの測定値(69.0ppm)と比べて、約1/40の値であった。
これらのことから、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根は、4MTBG高含有系統(耐病総太り)の切り干し大根に比べて、硫黄臭が大幅に低減された切り干し大根であることが示された。
【0102】
(4)「色調および食味の評価」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根を水で戻し、色調および食味の官能評価を行なった。
【0103】
・色調
その結果、2ヶ月間の冷凍保存後でも、色調の変化が起こっておらず、黄変自体は起こっていないものと認められた。
【0104】
・風味
また、食味検査の結果、「2ヶ月間の冷凍保存後でも嫌な硫黄臭がなく、新鮮な大根を加工したばかりの風味がある」という意見に集約された。
このことから、GER高含有系統の切り干し大根は、長期間の保存後でも、新鮮な大根を用いた切り干し大根と同等の風味を有し、長期保存に極めて適した製品となることが示された。
また、嗜好性の点でも、従来の切り干し大根と異なる好適な嗜好性があるという意見に集約された。
【0105】
〔実施例8〕『漬物製造期間の延長』
業務用の大根加工食品のうち、白さを売りとしている「糖絞り」に代表される早漬系たくあん漬製品の製造では、大根収穫が最盛期である秋から冬の大根を加工し、収穫後の塩蔵(塩押し貯蔵)による黄変が顕著になるまでの大凡1〜2ヶ月という短い期間が実質的な製造可能期間となる。
そこで、GER高含有系統の糖絞りの製造工程において、塩押し貯蔵の期間の延長がどの程度可能かを検討した。
【0106】
(1)「糖絞り製造における塩押し貯蔵の期間の検討」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-7-5)の成熟根に対して、8%食塩水中で4〜5℃での塩押し貯蔵を、12月1日から開始し最長で7月まで行った。
塩押し貯蔵後の工程は、実施例3(1)に記載の方法と同様に行い、糖絞りを製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)を用いて、同様にして糖絞りを製造した。
【0107】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の大根(成熟根)は、塩押し貯蔵工程における黄変が全くおこらず、大根自体の肉質劣化が生じた7月でも白色性が維持されていた。
このことから、GER高含有系統を用いることで、少なくとも肉質の劣化が生じない6月上旬(塩押し貯蔵約6ヶ月間)までは、白色糖絞りを製造することが可能となった。
なお、6月に製造したNMR154N-7-5系統の糖絞りの横断面(白色のもの)を撮影した写真像図を
図16(A)に示す。また、比較として、6月に製造した秋まさり2号の糖絞りの横断面(黄変したもの)を撮影した写真像図を
図16(B)に示した。
【0108】
(2)「考察」
現在の技術では、製品に白色性が要求される糖絞り(早漬系たくあん漬)製品が製造できる期間は、原料大根の黄変が発生していない収穫期の秋から冬の間の数ヶ月間に限定(季節限定)される。
例えば、白首大根を原料として製造する白色の糖絞りは、12月上旬から製造が可能となるが、2月上旬には、原料である塩押し貯蔵大根自体の黄変が発生するため、製造が不可能となる。
本実施例の結果を踏まえると、GER高含有系統を大根加工食品の原料に用いることによって、黄変を理由として製造不能となっていた大根加工食品全般の製造期間が大幅に延長できると考えられた。
【0109】
〔実施例9〕『GER高含有系統の大根加工食品の発ガン抑制作用の検討』
上記のように、GER高含有系統の大根加工食品は、ITCを極めて高い含有量で含む食品であることが明らかになった。
そこで、当該大根加工食品の機能性を評価するために、肝細胞の第二相解毒酵素GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)誘導活性を指標として、発ガン抑制作用(抗ガン作用)を有するかを検討した。
【0110】
(1)「マウス経口摂取後の肝臓におけるGST誘導活性の測定(in vivo)」
実施例3(1)で製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、洗浄後、急冷にて凍結し、そのまま凍結乾燥機にセットして3日間凍結乾燥した。乾燥後、乳鉢にて均一な粉末とし、凍結乾燥物(粉末)を調製した。
そして、ICRマウス(雌)6匹/群に対して、当該乾燥物を50mg/kg体重/日となるように0.9%生理食塩水にて溶解し、胃内強制投与(ゾンデ投与)を毎朝4日間行った。
その後、5日目の朝に屠殺し、肝臓におけるGST誘導活性を測定した。なお、当該誘導活性は、生理食塩水のみをゾンデ投与した群(未投与群)の活性を1とした時の比活性として求めた。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りを用いて、同様の試験を行った。結果を
図17に示した。
【0111】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの乾燥物を投与した群のマウスでは、未投与群(生理食塩水のみを投与)のマウスに比べて、肝臓に対するGST誘導活性が有意に高くなることが示された。
一方、通常の4MTBG高含有品種(秋田まさり2号)の糖絞りの乾燥物を投与した場合では、このような作用は全く確認できなかった。
【0112】
(2)「考察」
以上より、GER高含有系統の漬物(大根加工食品)は、肝臓に対する高いGST誘導活性を有し、優れた発ガン抑制作用を有することが示された。
なお、当該GST活性の向上作用は、当該加工食品中に高含有されるITCの一種であるエルシンによって発揮されるものと考えられた。
従って、GER高含有系統の大根加工食品は、優れた発ガン抑制作用(抗ガン作用)を有する機能性食品として有効に利用できることが示された。