特許第5979779号(P5979779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5979779黄変および硫黄臭が発生しない大根加工食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979779
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】黄変および硫黄臭が発生しない大根加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20160818BHJP
   A23B 7/10 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   A23L19/00 A
   A23B7/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-68981(P2012-68981)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-198436(P2013-198436A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年2月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、農林水産省、低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】508078868
【氏名又は名称】山義食品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512077217
【氏名又は名称】インデアン食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086221
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 裕也
(72)【発明者】
【氏名】森光 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 正彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 隆由
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 智博
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 りま
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 育種学研究、2011年、13巻、別冊1号、47頁
【文献】 育種学研究、2011年、13巻、別冊2号、133頁
【文献】 Breed. Sci., 2012, 62(1), pp.63-70 (Epub 2012 Mar 20)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00−19/20
A01H 1/00−17/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する大根加工品の製造方法であって、
原料として、大根品種「西町理想」を用いて作出されたものであり、且つ、以下の(A)〜(C)に記載の性質を有する大根品種又は系統、の根肥大部を用いることを特徴とする、黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する大根加工食品の製造方法。
(A) 根肥大部におけるグルコエルシン含有量が1μmol/g(乾燥重量)以上である性質。
(B) 根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/5以下である性質。
(C) エルシン含有量が0.08μmol/gFW以上である性質。
【請求項2】
前記(B)に記載の性質の根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/10以下である、請求項1に記載の大根加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記大根加工食品が、漬物, 大根おろし, 切り干し大根, 又はつま, である、請求項1又は2に記載の大根加工食品の製造方法。
【請求項4】

原料が、大根品種「西町理想」を原品種とし、
根肥大部におけるグルコエルシン含有量が1μmol/g(乾燥重量)以上であり、
根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/5以下であり、
エルシン含有量が0.08μmol/gFW以上である、大根品種又は系統、の根肥大部である、
黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する、大根加工食品。
【請求項5】
前記イソチオシアネートの総含有量が0.08μmol/g(湿重量)以上であり、
前記イソチオシアネートの主成分がエルシンである、請求項4に記載の大根加工食品。
【請求項6】
前記大根加工食品が、漬物, 大根おろし, 切り干し大根, 又はつまである、請求項4又は5に記載の大根加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存の際に黄変せず且つ硫黄臭の発生が顕著に抑制された大根加工食品の製造方法に関し、詳しくは、原料として、グルコシノレートの主成分がグルコエルシンである大根品種又は系統の根肥大部を用いることを特徴とする、大根加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・大根生産量と加工食品の需要減少
「大根」は、アブラナ科ダイコン属のサティバス種に属する植物(Raphanus sativus L.)の根肥大部を指す野菜名であり、食材として利用価値の高い植物の一つである。
現在、大根は、日本の野菜生産の年間生産量全体の約7%を占める重要野菜の一つであり、ジャガイモを除けば作付面積、生産量、消費量共に一位の野菜である。
また、日本には8世紀後半以前に伝来し、古事記にもその存在が示されており、古くから全国で栽培されてきた。このため、地方に根付いた特徴的な形質を有する品種が数多く存在し、たくあん漬等の漬物を中心とした加工食品も多く知られている。
【0003】
しかし、近年、大根の生産量の減少が著しい。その原因の一つとして、主要加工食品であるたくあん漬等の漬物製品の需要減少が挙げられる。また、加工用原料を安価な海外産に依存する割合が大きくなっていることも主因の一つとなっている。
【0004】
・大根加工食品における黄変と硫黄臭の問題
たくあん漬では、製造工程における漬け工程において、黄色色素と硫黄臭が内生される。従来は、当該黄色色調や匂い(漬物香の一種)が、たくあんの嗜好性の点で好適な特徴として認められていた。
ところが、近年の食生活の変化に伴う一般消費者(特に若年層)の嗜好性の変化により、当該たくあんの黄色や硫黄臭は、フレッシュ感が喪失したものと認識されるようになり、敬遠される主な要因となった。
また、当該色調を生み出す黄色色素は、光によって退色しやすく、保存や流通過程において、表面が斑に退色し、見栄えが悪くなる傾向がある。
このため、製造業者によっては、食品添加物である着色料(さらには保存料も)を使用する場合があるが、食品添加物を嫌う現在の消費者の嗜好性と合致せず、敬遠される一因となっている。
【0005】
そこで、一般消費者の嗜好性に答えるべく、‘白色たくあん’を謳った漬物製品が店頭陳列されている。
当該白色のたくあんは、(i)製造工程を低温(冷蔵)で行うこと、又は、(ii)漬け期間の短い浅漬けにすることにより、黄変進行や硫黄臭の付与を遅延させる工夫をし、製造されたものである(例えば、非特許文献1,2参照)。
しかし、当該製品では、冷蔵保存であっても黄変化が進行する問題があり、流通過程において、均一でない黄色い斑が生じる「斑な黄変」現象が発生し、返品の対象となる問題が生じている。
さらに、原料である塩蔵保存大根自体の黄変は抑えることはできないため、上記(i)と(ii)の方法のいずれにおいても、国内での漬物用大根の収穫期(単価の安い10〜12月)からわずかの期間(遅くとも2月上旬迄)しか、実質的に製造することができない。
従って、これらの技術は、製造期間が大幅に限定された技術であり、商業的な加工食品として、春以降に長期間の白色を維持した業務用漬物(たくあん漬, 浅漬全般を含む)を製造できる技術は、現在のところ存在しない。
【0006】
また、「大根おろし」は、外食や中食、弁当、(調味添加物)等で業務用として利用される需要が大きい。当該業務用の大根おろしは、単価が安い秋から冬に収穫した大根を主原料とし、夏季用には専らこの冷凍保存品が利用されている。
しかし、冷凍保存が長期間に及ぶに従い、冷凍大根おろしの黄変と特有な大根臭(硫黄臭)の発生が問題となっている。このような黄変や臭いが発生した大根おろしは、返品の対象となる。
また、日持ちを向上させるために、大根おろしに高酸度酢酸を添加する技術が存在するが、酢酸臭が付与されてしまうが問題があり、使用用途が酢を用いた食品や調味料に限定されてしまう問題がある。
【0007】
さらに、「切り干し大根」や「つま」等の加工品についても、上記たくあん漬や大根おろしと同様に、保存時の黄変(着色化)と硫黄臭発生の問題がある。
【0008】
このように、大根加工食品全般において、保存に伴う経時的な黄変や硫黄臭(大根臭)の問題は、嗜好性や需要を減少させる主要因になっている。
そのため、日本人の嗜好や加工・業務ニーズに合った黄変しない大根加工食品の製造方法の開発が求められていた。
【0009】
・大根加工食品の機能性成分
また、大根に含まれるグルコシノレートは、内在性酵素ミロシナーゼ等の働きによって加水分解されると、イソチオシアネートとなる。
イソチオシアネートは、発ガン抑制酵素として機能する第二相解毒酵素(発ガン物質の活性化を打消す酵素)の働きを活性化させることから、高い抗ガン作用が注目される物質である(例えば、非特許文献3 等 参照)。
しかし、大根加工品では、機能性成分であるイソチオシアネートの多くが短時間で分解してしまうことからほとんど残存せず、イソチオシアネートによる生理機能を有する大根加工食品はこれまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】漬物学−その化学と製造技術, 前田安彦著, 幸書房, 2002年
【非特許文献2】漬物製造学, 小川敏男著, 光琳, 1989年
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91: 3147-3150 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では、上記課題を解決し、保存に伴う黄変, 及び, 硫黄臭が抑制された大根加工食品を製造することを課題とする。
また、本発明では、従来の大根加工食品には存在しない、イソチオシアネートを高含有する大根加工食品を製造することを課題とする。
これにより、本発明では、嗜好性が高い大根加工食品、さらには抗ガン作用を有する大根加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、グルコシノレート(GSL)の主成分がグルコエルシン(GER)である大根品種及び系統の作出に成功した。
当該大根品種及び系統では、成熟根にGERを高い含有量で含み, 且つ, 通常の大根品種系統に含まれる4MTBGをほとんど含まない性質を有するものであった。
【0013】
そして、本発明者らは、当該大根品種及び系統の成熟根(大根)を用いることによって、保存の際に黄変せず且つ硫黄臭が顕著に抑制された大根加工食品、が製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、当該方法によって製造した大根加工食品では、抗ガン作用を有する機能性成分であるイソチオシアネート(ITC)が、顕著に高含有されること(従来の製品の約20〜30倍であること)を見出した。
【0014】
なお、当該大根加工食品の優れた性質は、当該原料の大根中にGSLの主成分が、通常の大根品種系統に含有される4-methylthio-3-butenyl glucosinolate(4MTBG)でなく、‘グルコエルシン’であることに起因するものであると推測される。
具体的には、グルコエルシンの加水分解によって生成されるエルシン(ITCの一種)からは、黄変の原因となる黄色色素(TPMT)が生成されないため、黄変が防止されると考えられる。
また、エルシンは、従来の大根品種系統のITCに比べて、顕著に高い安定性を有する化合物であるため、加工食品中にも高濃度で残存することにより、優れた機能性食品となると考えられる。
また、当該エルシンの安定性により、硫黄化合物であるITCの分解が抑制されることになるため、硫黄臭の発生が顕著に防止されると考えられる。
【0015】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する大根加工品の製造方法であって、原料として、大根品種「西町理想」を用いて作出されたものであり、且つ、以下の(A)〜(C)に記載の性質を有する大根品種又は系統、の根肥大部を用いることを特徴とする、黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する大根加工食品の製造方法、に関するものである。
(A) 根肥大部におけるグルコエルシン含有量が1μmol/g(乾燥重量)以上である性質。
(B) 根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/5以下である性質。
(C) エルシン含有量が0.08μmol/gFW以上である性質。
また、〔請求項2〕に係る本発明は、前記(B)に記載の性質の根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/10以下である、請求項1に記載の大根加工食品の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項3〕に係る本発明は、前記大根加工食品が、漬物, 大根おろし, 切り干し大根, 又はつま, である、請求項1又は2に記載の大根加工食品の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項4〕に係る本発明は、原料が、大根品種「西町理想」を原品種とし、
根肥大部におけるグルコエルシン含有量が1μmol/g(乾燥重量)以上であり、根肥大部における4-methylthio-3-butenyl glucosinolate含有量が、グルコエルシン含有量の1/5以下であり、エルシン含有量が0.08μmol/gFW以上である、大根品種又は系統、の根肥大部である、黄変及び硫黄臭が抑制され、イソチオシアネートを含有する、大根加工食品、に関するものである。
また、〔請求項5〕に係る本発明は、前記イソチオシアネートの総含有量が0.08μmol/g(湿重量)以上であり、前記イソチオシアネートの主成分がエルシンである、請求項4に記載の大根加工食品、に関するものである。
また、〔請求項6〕に係る本発明は、前記大根加工食品が、漬物, 大根おろし, 切り干し大根, 又はつまである、請求項4又は5に記載の大根加工食品、に関するものである。

【発明の効果】
【0016】
本発明は、保存に伴う黄変が全く起こらず, 且つ, 硫黄臭の発生が顕著に抑制された大根加工食品(具体的には、漬物、大根おろし、切り干し大根、つま)を製造することを可能とする。
また、本発明では、従来の大根加工食品には存在しない、エルシンを主成分とするイソチオシアネート(ITC)を高含有する大根加工食品を製造することを可能とする。
これにより、本発明では、嗜好性が高い大根加工食品、さらには抗ガン作用を有する大根加工食品を提供することを可能とする。
【0017】
特に、本発明により、‘白色のたくあん漬’を、時期に限定されることなく製造することが可能となり、消費者の嗜好性に合致した製品となることが期待される。
また、保存によって黄変や硫黄臭のしない業務用の大根おろし、切り干し大根、つま等を、大量に製造し提供することが可能となる。
さらに、本発明により、これらの加工食品(特に、浅漬の漬物や大根おろし等)を、抗ガン作用を有する機能性食品として提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(1) 実施例1(2)で作出したGER高含有系統(NMR154N-7-5:だいこん中間母本農5号)の成熟根の写真像図である。(2) たくあん漬に常用される秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図である。(3) 原品種である西町理想(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図である。
図2】実施例2(1)において、成熟根中に含まれるGSL総含有量をHPLC分析にて測定した結果である。
図3】実施例2(1)において、成熟根に含まれるミロシナーゼの活性を、シニグリンの分解量に換算して測定した結果である。
図4】通常の4MTBG高含有品種系統の成熟根において、4MTBG(GSL)からTPMT(黄色色素)が生成される代謝経路を示した模式図である。
図5】実施例2(2)において、糖絞り中のTPCC(代謝中間産物)含有量をHPLC分析にて測定した結果である。
図6】実施例2(2)において、糖絞り中のTPMT(黄色色素)含有量をHPLC分析にて測定した結果である。
図7】実施例2(3)において、糖絞りの黄色度合いを420nmの吸光度にて測定した結果である。
図8】実施例3(2)において、糖絞りの黄色度合いを420nmの吸光度にて測定した結果である。
図9】実施例3(2)において、漬け込み期間1ヶ月で製造した糖絞りの横断面の写真像図である。(A):GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞り。(B):4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞り。
図10】実施例3(3)において、糖絞りのITC組成をHPLCにて分析したクロマトグラフを示す図である。(A):GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞り。(B):4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞り。なお図中の符号は、1:「3-methylthiopropyl ITC」, 2:「erucin(エルシン)」, 3:「4-methylthio-3-butenyl ITC (4MTBI)」, 4:「5-methylthiopentyl ITC」, をそれぞれ示す。
図11】実施例4(2)において、たくあん漬の黄色度合いを420nmの吸光度にて測定した結果である。
図12】実施例6(2)において、大根おろしの黄色度合いを420nmの吸光度にて測定した結果である。
図13】実施例6(2)において、製造した大根おろしを12ヶ月間冷凍保存した後に撮影した写真像図である。(A):GER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろし。(B):4MTBG高含有品種(青首520)の大根おろし。
図14】実施例6(3)において、大根おろし中のITC総含有量をHPLCにて測定した結果である。
図15】実施例7(3)において、切り干し大根からのメルカプタン類の発生量を、気体100mL中のメチルメルカプタン換算値として測定した結果である。
図16】実施例8(1)において、約6ヶ月の塩押し期間を経て製造した、糖絞りの横断面の写真像図である。(A):GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞り。(B):4MTBG高含有品種(秋田まさり2号)の糖絞り。
図17】実施例9(1)において、各種試料投与後にマウス肝臓(in vivo)におけるGST誘導活性を測定した結果である。
図18】推定された2種類のアリファティック系GSLの生合成経路を示す図である。図中の実線は4MTBG高含有品種系統(通常の大根品種系統)を、破線はGER高含有品種系統(本発明の作出品種系統)における生合成経路を示す。 (1) ジホモメチオニンからグルコエルシンを経ることなく、4MTBGが合成される場合の生合成経路図。(2) ジホモメチオニンからグルコエルシンを経て、4MTBGが合成される場合の生合成経路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、特定のGSL組成を有する品種又は系統の大根を原料に用いることにより、色調及び匂いの嗜好性が極めて高く、さらには薬理作用を有する、大根加工食品の製造方法に関するものである。
【0020】
〔原料である大根品種系統〕
・GSL組成
本発明における「大根」とは、アブラナ科ダイコン属のサティバス種に属する植物(Raphanus sativus L.)の根肥大部や葉部の野菜名を指すものである。
現在、大根は、世界中で1000以上の品種系統が存在するが、公知の品種系統の全ては、GSL(グルコシノレート)の主要成分として4-methylthio-3-butenyl glucosinolate(4MTBG, 別名:グルコラファサチン)を有するものである。
4MTBGは、以下の化学式(1)に示す構造からなる化合物であり、アリファティック系GSLの生合成経路において、ジホモメチオニンから4MTBGが合成されるものである。
また、4MTBGは、ダイコンの内在性酵素のミロシナーゼの働きによって、イソチオシアネート(ITC)の一種である4-methylthio-3-butenyl isothiocyanate(4MTBI, 別名:ラファサチン)に加水分解され、辛味成分の一つとなることが知られている。
【0021】
【化1】
【0022】
本発明の大根加工食品の製造方法では、原料としてGSLの主成分がグルコエルシン(GER)である大根品種又は系統を用いることを、必須の特徴とするものである。
ここで、通常の4MTBGをGSL主成分として含有する品種系統は、本発明の製造方法の原料として用いることはできない。
【0023】
本発明の原料として、具体的には、根肥大部におけるGER含有量が、乾燥重量に対して、1μmol/g以上, 好ましくは2μmol/g以上, さらには3μmol/g以上, さらには5μmol/g以上, さらには7μmol/g以上, さらには8μmol/g以上, さらには10μmol/g以上, さらには15μmol/g以上, さらには20μmol/g以上, を含有する性質を有する品種系統を、用いることができる。
また、当該品種系統は、4MTBGを、GERの1/5以下, 好ましくは1/10以下, さらには1/15以下, さらには1/20以下, さらには1/30以下, さらには1/50以下, で含有する性質を有するものである。
【0024】
ここで、グルコエルシン(GER, Glucoerucin)とは、以下の化学式(2)に示す構造からなる化合物であり、4MTBGに存在する二重結合が一つ存在しない点で構造が異なる。
【0025】
【化2】
【0026】
当該GER, 4MTBG含有量は、根肥大部(特には成熟根)における含有量を指すものであるが、根肥大部以外の組織等を用いて測定することも可能である。
GERや4MTBGは、大根植物体の発育が進むにつれて、その含有量が高くなり、一定の発育ステージ(発芽後4〜6週目)をピークにその後減少する傾向がある。また、種子や発育が未熟な段階では植物体全体に含まれるが、成熟するにつれて特に根部に多く含まれる傾向がある。
従って、成熟した本葉, 花茎等の値を測定し、上記基準値の条件を満たしていた場合は、根肥大部においても上記基準値を満たしているものと判断できる。
なお、GER, 4MTBGの含有量を測定する手段としては、これらを検出定量することができる方法であれば、如何なる方法(例えば、HPLC, ガスクロマトグラフィー, NMRなど)も採用することができる。
【0027】
・GER高含有大根品種系統の作出
本発明におけるGER高含有品種系統としては、大根品種「西町理想」を用いて作出された品種系統を挙げることができる。
ここで、現在までに公知の全て大根品種系統中には、全ての個体で安定してGERを高含有する品種系統は全く知られておらず、また、西町理想の品種自体も、通常の4MTBGを高含有する品種である。
ところが、西町理想品種を母集団として選抜を行うことによって、1/50程度より高い頻度(少なくとも1/100程度よりは高い頻度)で、GERを高含有する形質の個体を選抜することが可能となる。そして、当該個体を用いて、自殖や交配を行うことで、GER高含有品種系統を作出することが可能となる。
【0028】
ここで西町理想の成熟根(肥大根部)としては、肉質は緻密で柔らかく、煮食や、たくあん漬等、様々な大根加工食品や食材に適した品種である。
なお、現在の品種系統には存在しないが、仮に、辛味大根系の品種系統にGER含有品種系統が作出された場合、これらは通常の可食用途には全く適さないため、本発明における西町理想由来のGER高含有品種系統のような大根加工食品の原料として用いることはできない。
【0029】
なお、本発明におけるGER高含有品種系統の中には、種子やスプラウトにおいて、GERの硫黄原子が酸化されたGSLであるグルコラファニン(GRAHA:Glucoraphanin)を含有する品種系統が存在することがあるが、本発明では、これらの品種系統を用いることも可能である。
なお、GRAHAのITCであるスルフォラファンは、肝臓に対する高いGST誘導活性を有し、優れた発ガン抑制作用を有する物質である。
【0030】
本発明におけるGER高含有品種系統としては、具体的には、表1に示した西町理想品種からの作出系統を挙げることができる。また、品種としては「だいこん中間母本農5号」を挙げることができる。
ここで、だいこん中間母本農5号の成熟根(肥大根部)としては、根形は、尻部がやや太いつまり状で、根長は30〜50cm、根径6〜10cmと細長い根形を示し、根重は600〜1200g程である。肉質は緻密で柔らかく、煮食や、たくあん漬等、様々な大根加工食品や食材に適した品種である。
これらの特徴は、原品種である西町理想と共通する性質である。
【0031】
また、当然であるが、上記作出したGER高含有品種系統(だいこん中間母本農5号を含む)に由来する品種系統であり、上記のようなGERを高含有し, 且つ, 4MTBGをほとんど含まない性質を有するものであれば、本発明におけるGER高含有品種系統に含まれるものとなる。
例えば、(i)上記GER高含有品種系統(だいこん中間母本農5号を含む)を母集団として、さらに選抜により作出された品種系統, (ii)上記GER高含有品種系統(だいこん中間母本農5号を含む)を親とする交配によって作出された品種系統, (iii)上記GER高含有品種系統の突然変異によって作出された品種系統、等がここに含まれる。
【0032】
本発明におけるGER高含有品種系統は、アリファティック系GSLの生合成経路において、(1) ジホモメチオニンから4MTBGが合成されずにグルコエルシンが合成されるようになったためか、(2) グルコエルシンから4MTBGへの代謝が阻害されているため、いずれかの変異が生じたためと推測される(図18:推定された生合成経路図、参照)。
【0033】
〔大根加工食品〕
・原料及び製法
本発明の大根加工食品は、原料として上記GER高含有品種系統の大根を用いることを除いては、目的とする製品に応じて、従来の製法に準じて製造することが可能である。
なお、本発明の大根加工食品は、根肥大部(特に成熟根)を用いるものであるが、浅漬の漬物を製造する場合においては、未肥大根や葉部(特に本葉)を含むものであってもよい。
【0034】
・対象製品
本発明の大根加工食品としては、大根の根肥大部を原料とするものであれば、如何なる製品も製造することができる。
特に、本発明は、業務用の加工食品における黄変(変色)や硫黄臭の発生が、嗜好性低下の問題となっていた製品において、顕著な効果を奏するものである。
具体的には、漬物, 大根おろし, 切り干し大根, つま, とすることにより、白色性, 色調の維持, 及び匂いの嗜好性、に優れた大根加工食品とすることができる。
なお、当然であるが、色調の変化が問題にならない食品であっても、好適に用いることが可能である。
【0035】
なお、ここで、漬物としては、古漬と浅漬の全てを含むものである。
具体的には、塩押し大根漬(現在の一般的なたくあん漬である塩押し大根の糠漬), 干したくあん漬(伝統的なたくあん漬である天日干し大根の糠漬、例えば、渥美たくあん漬, 九州本干したくあん漬等), 糠漬, いぶりがっこ(燻製大根), 糖絞り(早漬系たくあん漬), 粕漬, 醤油漬, 鉄砲漬, 味噌漬, 酢漬, たまり漬, キムチ等、を挙げることができる。
特には、本発明は、黄変(変色)や硫黄臭の発生が問題であった、たくあん漬全般(糖絞りを含む)に対して好適に応用することができる。
【0036】
・黄変防止効果
本発明の大根加工食品は、保存によって黄変が全くおこらない性質を有するものである。当該性質、保存において白色性維持が重要な製品である漬物, 大根おろし, つま等において、特に重要な性質となる。また、製造当初から若干の着色が認められる切り干し大根等においても、更なる色調の変色(褐変)を防止することができる。
【0037】
また、当該GER高含有品種系統は、原料の大根自体の黄変が防止されたものとなる。
そのため、本発明の大根加工食品では、製造に長期工程が必要な製品であっても、全く黄変が起こっていない製品(特に、白色のたくあん漬)として、製造することが可能となる。
また、本発明では、糖絞り(早漬系たくあん漬), 大根おろし, つま等の白色性が重要となる製品の製造時期を、大幅に延長して製造することも可能となる。
【0038】
当該性質は、原料大根中にGER(GSL)の加水分解(内在性酵素ミロシナーゼによる分解)により生成されるエルシン(ITC)は、顕著に高い安定性を有する化合物であるため、黄変の原因となるTPMT(黄色色素)が生成されないことに起因する性質である。
一方、通常の大根品種系統の大根加工食品では、原料に含まれる4MTBG(GSL)の加水分解により4MTBI(ITC)が生成される。当該4MTBIは、水中で極めて不安定なため、分解代謝によりTPMT(黄色色素)が生成され、黄変が進行する。
【0039】
・硫黄臭防止効果
本発明の大根加工食品は、硫黄臭の発生が顕著に防止された性質を有するものである。当該性質は、たくあん漬, 切り干し大根, 長期保存された大根おろし等の匂いの発生が嗜好性に影響を与える製品にとって、特に重要な性質となる。
【0040】
当該性質は、上記のように、生成されたエルシン(ITC)が顕著に高い安定性を有する化合物であることに起因する性質である。即ち、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物が生成されないことに起因する性質である。
一方、通常の大根品種系統の大根加工食品では、ITCである4MTBIの分解代謝に伴い、硫黄化合物が大量に生成され、悪臭の原因となる硫黄臭が発生する。
なお、ここで、硫黄臭とは、メルカプタン類を臭気成分として含む悪臭のことで、大根臭やたくあん臭とも称されるものである。
【0041】
・発ガン抑制作用
本発明の大根加工食品は、肝細胞の第二相解毒酵素GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)に対して高い誘導活性を有し、優れた発ガン抑制作用(抗ガン作用)を有する性質を有するものである。
当該発ガン抑制作用は、有効成分であるITCであるエルシン(上記のように高い安定性を有する化合物)が、製品中に高濃度で蓄積することによって奏される。
一方、通常の大根品種系統の大根加工食品では、ITCである4MTBIの分解代謝に伴い、製品中にITCはほとんど残存しないものとなる。
【0042】
本発明の大根加工食品は、ITCであるエルシンを、極めて高い含有量(通常の大根加工食品の約20〜30倍)で含む機能性食品とすることができる。
具体的には、ITCの総含有量として、製品の湿重量に対して、0.08μmol/g以上, 好ましくは0.1μmol/g以上, さらには0.15μmol/g以上, さらには0.2μmol/g以上, で含有させることができる。なお、上限値としては特に制限はないが、具体的には、1.0μmol/g, 特には0.5μmol/g, さらには0.3μmol/g, を挙げることができる。
特には、製造工程に長時間を要さない製品である早漬系の漬物(特に糖絞り), 大根おろし, つま等、において高含有させることが可能となる。
【0043】
・風味
本発明の大根加工食品は、上記硫黄臭の発生抑制とITC残存の影響により、通常の大根加工食品と比べて、風味が大きく異なるものとなる。
具体的には、ITCの残存により、やや辛味が強くなる傾向にあるが、硫黄臭の抑制により、嗜好性が大きく向上したものとなる。特に、漬物として製造した場合、全く新規の風味を有する漬物とすることができる。
【0044】
・保存性
本発明の大根加工食品は、上記黄変抑制効果および硫黄臭の発生抑制効果により、長期保存に適した製品とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕『GER高含有大根系統の選抜』
(1)「遺伝資源からの網羅的探索」
国内外の大根遺伝資源650品種系統に対して、グルコシノレート(GSL)の一種であるグルコエルシン(GER)を含有する個体を網羅的に探索した。
上記種子を暗黒条件下(24℃)で水耕栽培し、播種から6日目のスプラウト(子葉、胚軸)を1品種に付き20本程度サンプリングした。
得られたスプラウト約20本分の子葉及び胚軸の混合サンプルに、70%メタノールを加えて75℃ウォーターバス内で加熱することによって、酵素ミロシナーゼを失活させた。その後、組織を破砕してGSLをメタノール抽出した。
抽出した粗GSL溶液を定法により脱硫化し、デスルホグルコシノレートとした。デスルホグルコシノレートは定法に従ってHPLC分析した。分離された各デスルホグルコシノレートは外部標準であるシニグリン換算にて定量化することで、GSL組成を解析した。
【0047】
その結果、分析した650品種系統のうちの品種「西町理想」において、約20個体のスプラウト中に1〜2個体のGERを含有する個体が含まれていることが示唆された。
【0048】
(2)「西町理想からのGER高含有系統の作出」
次いで、西町理想に注目しこれを母集団にして、GER含有個体の選抜を行った。
当該品種の種子を圃場に播種し、生育した成熟根(大根)をサンプリングした。サンプリングした成熟根は、液体窒素で凍結した後に凍結乾燥させ、粉末化した後、上記(1)に記載の方法と同様にしてHPLCによりGSL組成を解析した。そして、GERを含有する個体の存在を調べた。
【0049】
その結果、西町理想373個体中GERを高含有する個体を11個体見出した。
そこで、得られた当該個体について自殖操作と個体選抜を行い、GERを安定的に高含有する形質が固定された系統を作出した。
そして、これらの成熟根(大根)中のGER含有量と4MTBG含有量の測定値を測定し、表1に示した。
【0050】
測定の結果、これらの系統の成熟根では、いずれも5μmol/g(乾燥重量)以上という高い値でGERを含有するものであった。また、これらの4MTBG含有量は検出限界以下であった。
本願発明者らは、これらの系統のうち、NMR154N-7-5系統(ダイコン安濃5号)を、品種「だいこん中間母本農5号」として品種登録する予定である。
【0051】
【表1】
【0052】
〔試料例1〕『大根品種系統』
実施例1(2)で作出したGER高含有系統を含め、以降の試験及び大根加工食品製造に用いた大根品種系統について、表2に整理して記載した。
なお、GER高含有系統であるNMR154N-7-5系統(品種:だいこん中間母本農5号)の成熟根の写真像図を図1(1)に示した。また、比較として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図を図1(2)に、原品種である西町理想(4MTBG高含有品種)の成熟根の写真像図を図1(3)に示した。
【0053】
NMR154N-7-5系統の成熟根(大根)の根形は、尻部がやや太いつまり状で、根長は30〜50cm、根径6〜10cmと細長い根形を示し、根重は600〜1200g程であった。また、肉質は緻密で柔らかく、煮食や、たくあん漬に適した品種であると判断された。
これは、原品種である西町理想と同様の性質であった。
【0054】
【表2】
【0055】
〔実施例2〕『GER高含有系統のGSL代謝系』
上記GER高含有系統の成熟根について、GSL代謝に関する以下の性質を調べ、通常の4MTBG高含有品種系統と比較した。
【0056】
(1)「成熟根におけるGSL総含有量とミロシナーゼ活性の測定」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の成熟根について、GSLの総含有量を測定した。GSLの総含有量は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 辛味199, 耐病総太り, WN8339)の大根を用いて、同様にして測定を行った。なお、含有量は、大根湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。結果を図2に示した。
【0057】
また、これらの品種系統の大根について、GSLの一種であるシニグリンを基質としてミロシナーゼ活性を調べた。
大根を均一にホモジェナイズし、絞り液を回収した。当該絞り液にシニグリン溶液(基質)を加えて37℃で10分間反応を行い、生成したグルコース量をソモギー・ネルソン法によって測定した。そして、当該生成グルコース量の測定値からシニグリン分解量を換算して求め、大根湿重量あたりのミロシナーゼ活性(シニグリンmmol/g FW)を示す値とした。結果を図3に示した。
【0058】
これらの測定結果から、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の大根のGSL総含有量およびミロシナーゼ活性は、漬物や生食に常用される通常の品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 耐病総太り, WN8339)とほぼ同レベルであり、差違がないことが示された。
なお、辛味大根である辛味199では、GSL総含有量とミロシナーゼ活性自体が顕著に高いことが確認された。これは、辛味大根では、辛味成分であるイソチアシアネート(ITC: GSLのミロシナーゼ加水分解産物)の含有量が高いことと一致する性質であった。
【0059】
(2)「漬物に加工した際のTPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)含有量の測定」
大根加工食品の黄変の原因となるTPMT(黄色色素)は、4MTBG(GSL)のミロシナーゼ加水分解産物である4MTBI(ITC)が、トリプトファン等との縮合による化学変化を起し、TPCC(代謝中間産物)を経て生成される物質である(図4 参照)。
そこで、上記(1)の品種系統の成熟根を用いて、糖絞り(早漬系たくあん漬)を製造し、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)の含有量を調べた。
【0060】
各品種系統の成熟根を、8%の食塩で約1週間塩押しをし、糖液(20%液糖)中にて脱水工程を進め、糖絞りへと加工した。保管温度は常に0〜5℃を保ち27日間漬け込むことで、糖絞りを製造した。
得られた糖絞りについて、部位差が生じないように根の中心部に沿って1/4の縦切りにして、重量と同じ水を加えてホモジェナイズした。ナイロン濾布で絞った後、絞り液を遠心分離(15,000g×10分間)し、上澄み液についてHPLC分析に供した。
TPCC(代謝中間産物)の含有量の測定結果を図5に、TPMT(黄色色素)の含有量の測定結果を図6に示した。なお、含有量は、製品湿重量あたりの値(μmol/g FW)で示した。
【0061】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の大根の糖絞りでは、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)を全く含まないことが示された。即ち、当該系統の大根では、黄変の原因となるTPMT(黄色色素)が代謝生成されないことが明らかになった。
これは、GER(GSL)のミロシナーゼ分解産物であるエルシン(ITC)は、水中で安定性が高い物質であるため、ITC以降の代謝産物の生成が起こっていないためと推測された。
一方、通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-3, 秋まさり2号, 辛味199, 耐病総太り, WN8339)を用いた場合では、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)が検出され、4MTBI(4MTBCから生成されたITC)の分解を経た代謝産物生成が起こっていることが確認された。
特に、GSL総含有量とミロシナーゼ活性自体が高い辛味大根(辛味199)を用いた場合では、TPCC(代謝中間産物)とTPMT(黄色色素)の含有量も高い値を示した。
【0062】
(3)「漬物に加工した際の黄色度合いの測定」
上記(2)で製造した糖絞りについて、黄色度合いを評価した。
各糖絞りを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を図7に示した。
【0063】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-1, NMR366N-3)の成熟根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統を用いた場合に比べて、有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有する漬物(糖絞り)が製造できることが示された。
【0064】
〔実施例3〕『糖絞りの製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、漬物製造業者である山義食品工業(株)の通常の製造工程に準じて糖絞り(早漬系のたくあん漬の一種)の製造を行った。
なお、ここで‘糖絞り’は、「塩押し大根の糖絞りによる浅漬」として製造した。
【0065】
(1)「糖絞りの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の成熟根を、8%の食塩で約1週間塩押しをし、20Lサイズの小樽にして実験条件毎に糖液(20%液糖)中にて脱水工程を進め、糖絞りへと加工した。
保管温度は常に0〜5℃を保ち最長2ヶ月間漬け込み、1又は2ヶ月を経過した際に回収することで、糖絞りを製造した。
また、対照として、漬物に常用される通常の4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)の成熟根を用いて、同様にして糖絞りを製造した。
【0066】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。
また、対照として、4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)の糖絞りに対して、同様にして解析を行った。結果を図8に示した。
なお、漬け込み期間1ヶ月で製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの横断面の写真像図を図9(A)に示した。また、比較として、4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りの横断面の写真像図を図9(B)に示した。
【0067】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)を原料とした糖絞りでは、漬け込み期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、漬けてから2ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2号)を用いて製造した全ての糖絞りでは、漬け込む期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の大根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統の大根を用いた場合に比べて有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有する糖絞りが製造できることが示された。
また、当該糖絞りは、全く黄変しないことが明らかになった。
【0068】
(3)「ITC組成解析およびITC総含有量の測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、ITC組成解析およびITC総含有量の測定を行った。当該解析は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りに対して、同様にして解析を行った。
ITC総含有量の測定結果を表3に示した。なお、含有量は、製品湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。
また、ITC組成を示すHPLCの結果として、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの結果を図10(A)に、秋まさり2号の結果を図10(B)に示した。
【0069】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りには、ITCの一種であるエルシンが極めて高い含有量で含まれることが示された(図10(A)の符号2)。
また、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りのITCの総含有量は、たくあん漬に常用される4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りに比べて、約20〜30倍であることが明らかになった。
この性質は、(i)漬け込み期間中にミロシナーゼ活性によりGER(GSL)からエルシン(ITC)が生成されること、(ii)エルシン分子は水中で安定性が高い性質を有することにより、当該エルシンが糖絞り中に蓄積したためと考えられた。
【0070】
一方、対照の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りでは、ITCの一種である4MTBIが微量に存在するだけであった(図10(B)の符号3)。
これは、4MTBG(GSL)からミロシナーゼ活性により生成された4MTBIは、水中で極めて不安定であるため、分解代謝により糖絞り中にほとんど残存していないためと考えられた。
【0071】
【表3】
【0072】
(4)「各種官能評価」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、表4に示す各項目に関する官能評価を行なった。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りを用いた。
官能評価は、事前に訓練を受けたパネラー11人(20代前後の女性)により、8段階評価(1が最低点で8が最高点)を行い、平均値を求めた。
また、ANOVA検定及びTURKEY検定を行い、対照(秋まさり2号の糖絞り)と有意差(P<0.05)がある項目については「*」で示した。なお、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の間での有意差は認められなかった。結果を表4に示した。
【0073】
・色調
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、対照である4MTBG高含有系統(秋まさり2号)の糖絞りと比べて、有意に色が薄く白色性を有することが示された。
【0074】
・風味
また、GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りの風味については、対照である4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の糖絞りと比べて、辛味及びえぐみが有意に高く且つ甘味が有意に低いことが示された。
当該風味の違いは、GER高含有系統の糖絞りでは、ITC(辛味成分)であるエルシンを高含有することに起因するものと考えられた。
【0075】
・食感
食感に関する評価は、各糖絞りの間で有意な差異は認められなかったが、GER高含有系統のうちのNMR154N-7-5系統の糖絞りでは、やや硬い食感となることが示唆された。
このことから、NMR154N-7-5系統の大根(成熟根)を用いることで、新鮮な野菜のようなフレッシュな食感が付与された漬物が製造できることが示唆された。
【0076】
・匂い
糖絞りは漬け込み期間が短い浅漬であることから、硫黄臭の発生に差違は認められなかった。
【0077】
・たくあん様の印象
GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、従来の品種(秋まさり2号)の糖絞りと比較して、従来のたくあん漬とは異なる嗜好性を有し、全く新規の漬物となることが示された。
【0078】
・嗜好性
全項目の評価を総合して、パネラー全員が、「GER高含有系統(NMR154N-6, NMR154N-7-5)の糖絞りは、従来の品種(秋まさり2号)の糖絞りよりも好適である」との評価を示していた。
本試験のパネラー全員が若い女性であることを踏まえると、GER高含有系統の糖絞りは、若い世代での嗜好にあった漬物であると考えられた。
【0079】
【表4】
【0080】
〔実施例4〕『たくあん漬(塩押し大根漬)の製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、漬物製造業者である山義食品工業(株)の通常の製造工程に準じてたくあん漬の製造を行った。
なお、ここで‘たくあん漬’は、「塩押し大根の糠漬(塩押し大根漬)」として製造した。
【0081】
(1)「たくあん漬けの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)の成熟根を、8%(重量パーセント)の食塩で約1週間塩押しをし、その後、食塩5%含有まで塩分を下げ、実験条件毎に20L樽に移しながら糠をまぶして糠漬けへと加工した。
保管温度は常に0〜5℃を保って最長12ヶ月間漬け込み、3, 6, 12ヶ月を経過した際に回収することで、たくあん漬を製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される通常の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)および4MTBG高含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2)の大根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0082】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造した各たくあん漬を均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を図11に示した。
その結果、GER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)を原料としたたくあん漬では、漬け込み期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、漬けてから12ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG高含有品種系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2, 秋まさり2号)を用いて製造した全てのたくあん漬では、漬け込む期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の成熟根を原料に用いることによって、通常の4MTBG高含有品種系統の成熟根を用いた場合に比べて有意に黄色の呈色性が薄く、白色性を有するたくあん漬が製造できることが示された。
また、当該糖絞りは、全く黄変しないことから、‘白色のたくあん漬’が製造できることが明らかになった。
【0083】
(3)「匂いの評価」
上記製造した各たくあん漬について、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR366N-1-5, NMR154N-2, NMR154N-6, NMR154N-7-5)のたくあん漬では、たくあん臭い匂いがほとんどしないことから、硫黄臭の発生が起こりにくいことが示された。
この性質は、GER高含有系統では、ITCであるエルシンの安定性が高いため、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成がおこらないためと考えられた。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR349H-4-1, 秋まさり2-4-7-2, 秋まさり2号)では、硫黄臭の顕著な発生が認められた。これは、ITCである4MTBIの分解代謝に伴い、硫黄化合物が大量に生成されたものと考えられた。
【0084】
〔実施例5〕『たくあん漬(干したくあん漬)の製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、天日干し乾燥した大根を原料とする伝統的な製法によるたくあん漬を製造した。
なお、ここで‘たくあん漬’は、「天日干し大根の糠漬け(沢庵漬)」として製造した。
【0085】
(1)「たくあん漬の製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-7-5)の成熟根を、11月下旬の冬期に日陰の風通しの良い場所で1ヶ月間〜1ヶ月半の間つるし(日陰つるし状態)、元重量の25%〜30%程度になるまで干して乾燥させた。
その後、20L樽に移しながら糠をまぶして糠漬けへと加工した。保管温度は常に0〜5℃を保ち、最長12ヶ月間漬け込み、たくあん漬を製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される通常の4MTBG高含有品種(秋まさり2号)の成熟根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0086】
(2)「色調および匂いの評価」
上記製造した各たくあん漬について、色調および匂いを官能評価にて行った。
【0087】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)では、表面が天日干し乾燥により薄い茶褐色がかった色彩となったが、12ヶ月間糠に漬け込んだ後でも黄変自体は全く起こらず、白色性を有していた。
また、硫黄臭の発生はほとんど認められなかった。
【0088】
一方、対照である4MTBG高含有系統(秋まさり2号)では、天日干し乾燥後に表面が薄い茶褐色がかった色彩となり、さらに糠漬け工程開始直後からすぐに黄変が進行することが確認された。
また、硫黄臭の顕著な発生が認められた。
【0089】
〔実施例6〕『大根おろしの製造』
上記作出したGER高含有系統の成熟根を用いて、食品製造業者であるインデアン食品(株)の通常の製造工程に準じて大根おろしの製造を行った。
【0090】
(1)「大根おろしの製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-6-5)の成熟根の皮を剥いて傷を取り除いたのち、包丁である程度の大きさまで切り、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に3分〜5分浸漬後、流水でよく洗って洗浄した。
家電おろし器(電動ベジタブルスライサー, Iwatani)のパーティカルカッターで粗微塵切りした後、カッターミキサーにて細かいペースト状にすることで大根おろしを製造した。
製造した大根おろしは、透明の保存用袋に500gずつ小分けして真空充填し、-40℃(冷凍)で最長12ヶ月間保存した。
また、対照として、大根加工食品に常用される通常の4MTBG高含有品種系統(NMR348H-5-6, YR鉄人(F1), 青首520)の成熟根を用いて、同様にしてたくあん漬を製造した。
【0091】
(2)「経時変化に伴う黄変度合いの測定」
上記製造した各大根おろしを均一にホモジェナイズし、絞り液の黄変度合いを420nmの吸光度にて測定した。結果を図12に示した。
なお、12ヶ月保存したNMR154N-6-5系統の大根おろしを撮影した写真像図を図13(A)に示した。また、比較として、12ヶ月保存した秋まさり2号の大根おろしを撮影した写真像図を図13(B)に示した。
【0092】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)を原料とした大根おろしでは、保存期間の経過に伴う黄変が全く起こらず、製造してから12ヶ月を経過したものでも、黄変が見られなかった。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR348H-5-6, YR鉄人, 青首520)の大根を用いて製造した全ての大根おろしでは、保存期間の経過と共に、黄変が進行することが確認された。
このことから、GER高含有系統の大根を原料に用いることによって、保存に伴う黄変が全く起こらない大根おろしを製造できることが明らかになった。
【0093】
(3)「経時変化に伴うITC総含有量の測定」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしについて、ITC総含有量の測定を行った。当該解析は、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、HPLC分析により行った。
また、対照として、4MTBG高含有品種系統(YR鉄人, 青首520)の大根おろしに対して、同様にして解析を行った。なお、含有量は、製品湿重量あたりの含有量(μmol/g FW)で示した。ITC総含有量の測定結果を図14に示した。
【0094】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしには、ITCが極めて高い含有量(3ヶ月保存時 約0.2μmol/g FW)で含まれることが示された。これは、大根加工食品として汎用される青首520の大根おろしと比べて、約6.7倍という高い値であった。
また、12ヶ月保存したものでも高い含有量(約0.08μmol/g FW)で保持されることが確認された。
一方、対照の4MTBG高含有品種(YR鉄人, 青首520)の大根おろしでは、ITCの含有量は製造直後でさえも極めて微量であり、12ヶ月の保存後にはほとんど残存していなかった。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、組織中に蓄積する性質があるためと推測された。
【0095】
(4)「匂いの評価」
上記製造した各大根おろしについて、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR154N-6-5)の大根おろしでは、大根臭い匂いがしないことから、硫黄臭の発生が全く起こらないことが示された。
一方、対照である4MTBG高含有系統(NMR348H-5-6, YR鉄人, 青首520)では、硫黄臭の発生が認められた。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成が起こらないためと推測された。
また、本例では、保存を冷凍条件で行ったため、ITC由来以外の硫黄化合物の生成も完全に抑制されていたと推測された。
【0096】
〔実施例7〕『切り干し大根の製造』
上記作出したGER高含有系統に由来する系統の成熟根を用いて、JA宮崎中央が管轄する生産農家の製法に準じて切り干し大根の製造を行った。
【0097】
(1)「切り干し大根の製造」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統間での交雑(NMR154N-7-5とNMR366N-3)によるF1系統の成熟根を、流水でよく洗浄後、傷んだ箇所があれば取り除いたのち、切干突(市販の切り干し製造調理器)を用いてランダムになるように切った後によく混合した。
切った大根(成熟根)は、冬期に家庭用の魚干し網を使って3日間吊し干し、天日乾燥させることで切り干し大根を製造した。
その際、天気の良い昼間は風通しのよい野外の直射日光のあたらない場所にて、夜間は夜露から避けられる室内の冷暗所にて吊し干しを行った。なお、当該天日乾燥は、冬季の3日間連続で晴天もしくは雨の降らない期間を定めて実施した。
出来上がった切干し大根は、真空パックに入れて小分けし、-25℃で、最長2ヶ月間保存した。
また、対照として、通常の4MTBG高含有品種系統(耐病総太り)の成熟根を用いて、同様にして切干し大根を製造した。
【0098】
(2)「匂いの評価」
上記製造した各切り干し大根を水で戻し、匂いの官能評価を行なった。
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根では、大根臭い匂いがしないことから、硫黄臭の発生が全く起こらないことが示された。
一方、対照である4MTBG高含有系統(耐病総太り)では、硫黄臭の発生が認められた。
当該性質の違いは、実施例3(3)に記載したように、GER高含有系統のITC主成分(エルシン)の安定性が高く、ITCの分解代謝に伴う硫黄化合物の生成が起こらないためと推測された。
【0099】
(3)「メルカプタン類(硫黄臭・悪臭)の発生量の測定」
上記製造した各切り干し大根について、臭気成分の分析を行なった。具体的には、硫黄臭または悪臭として知られるメチルメルカプタン(悪臭防止法1号及び3号規制の対象物質)などメルカプタン類の発生量を定量した。
【0100】
上記製造した切り干し大根各10gを、100mLの水が入ったビーカーに加え、臭気捕集口の付いた密封ポリエチレンバック(6L容量)の中に室温(24℃)で1時間放置し戻し、その時に発生する臭気を充満させた。
なお、当該測定スケールは、調理時に実際に用いられる切り干し大根の量を想定して設定した。
検知管式気体測定器(GV-100, GASTEC社)に検知管(No.70L 又はNo.71, メルカプタン類用:メチルメルカプタン補正)を装着し、気体100mL中のメルカプタン類含有量(メチルメルカプタン換算値)を測定した。
測定は、同一試料をそれぞれ2サンプルずつ調製し、調製したサンプル毎に2度繰り返して測定(合計4回の測定)を行った。そして、当該4つの値を平均化して、測定値とした。
結果を、図15に示した。
【0101】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根からは、わずか1.8ppmしかメルカプタン類の発生が認められなかった。
この発生量は、4MTBG高含有系統(耐病総太り)の切り干し大根からの測定値(69.0ppm)と比べて、約1/40の値であった。
これらのことから、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根は、4MTBG高含有系統(耐病総太り)の切り干し大根に比べて、硫黄臭が大幅に低減された切り干し大根であることが示された。
【0102】
(4)「色調および食味の評価」
上記製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の切り干し大根を水で戻し、色調および食味の官能評価を行なった。
【0103】
・色調
その結果、2ヶ月間の冷凍保存後でも、色調の変化が起こっておらず、黄変自体は起こっていないものと認められた。
【0104】
・風味
また、食味検査の結果、「2ヶ月間の冷凍保存後でも嫌な硫黄臭がなく、新鮮な大根を加工したばかりの風味がある」という意見に集約された。
このことから、GER高含有系統の切り干し大根は、長期間の保存後でも、新鮮な大根を用いた切り干し大根と同等の風味を有し、長期保存に極めて適した製品となることが示された。
また、嗜好性の点でも、従来の切り干し大根と異なる好適な嗜好性があるという意見に集約された。
【0105】
〔実施例8〕『漬物製造期間の延長』
業務用の大根加工食品のうち、白さを売りとしている「糖絞り」に代表される早漬系たくあん漬製品の製造では、大根収穫が最盛期である秋から冬の大根を加工し、収穫後の塩蔵(塩押し貯蔵)による黄変が顕著になるまでの大凡1〜2ヶ月という短い期間が実質的な製造可能期間となる。
そこで、GER高含有系統の糖絞りの製造工程において、塩押し貯蔵の期間の延長がどの程度可能かを検討した。
【0106】
(1)「糖絞り製造における塩押し貯蔵の期間の検討」
実施例1(2)で作出されたGER高含有系統(NMR154N-7-5)の成熟根に対して、8%食塩水中で4〜5℃での塩押し貯蔵を、12月1日から開始し最長で7月まで行った。
塩押し貯蔵後の工程は、実施例3(1)に記載の方法と同様に行い、糖絞りを製造した。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)を用いて、同様にして糖絞りを製造した。
【0107】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の大根(成熟根)は、塩押し貯蔵工程における黄変が全くおこらず、大根自体の肉質劣化が生じた7月でも白色性が維持されていた。
このことから、GER高含有系統を用いることで、少なくとも肉質の劣化が生じない6月上旬(塩押し貯蔵約6ヶ月間)までは、白色糖絞りを製造することが可能となった。
なお、6月に製造したNMR154N-7-5系統の糖絞りの横断面(白色のもの)を撮影した写真像図を図16(A)に示す。また、比較として、6月に製造した秋まさり2号の糖絞りの横断面(黄変したもの)を撮影した写真像図を図16(B)に示した。
【0108】
(2)「考察」
現在の技術では、製品に白色性が要求される糖絞り(早漬系たくあん漬)製品が製造できる期間は、原料大根の黄変が発生していない収穫期の秋から冬の間の数ヶ月間に限定(季節限定)される。
例えば、白首大根を原料として製造する白色の糖絞りは、12月上旬から製造が可能となるが、2月上旬には、原料である塩押し貯蔵大根自体の黄変が発生するため、製造が不可能となる。
本実施例の結果を踏まえると、GER高含有系統を大根加工食品の原料に用いることによって、黄変を理由として製造不能となっていた大根加工食品全般の製造期間が大幅に延長できると考えられた。
【0109】
〔実施例9〕『GER高含有系統の大根加工食品の発ガン抑制作用の検討』
上記のように、GER高含有系統の大根加工食品は、ITCを極めて高い含有量で含む食品であることが明らかになった。
そこで、当該大根加工食品の機能性を評価するために、肝細胞の第二相解毒酵素GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)誘導活性を指標として、発ガン抑制作用(抗ガン作用)を有するかを検討した。
【0110】
(1)「マウス経口摂取後の肝臓におけるGST誘導活性の測定(in vivo)」
実施例3(1)で製造したGER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞り(1ヶ月経過のもの)について、洗浄後、急冷にて凍結し、そのまま凍結乾燥機にセットして3日間凍結乾燥した。乾燥後、乳鉢にて均一な粉末とし、凍結乾燥物(粉末)を調製した。
そして、ICRマウス(雌)6匹/群に対して、当該乾燥物を50mg/kg体重/日となるように0.9%生理食塩水にて溶解し、胃内強制投与(ゾンデ投与)を毎朝4日間行った。
その後、5日目の朝に屠殺し、肝臓におけるGST誘導活性を測定した。なお、当該誘導活性は、生理食塩水のみをゾンデ投与した群(未投与群)の活性を1とした時の比活性として求めた。
また、対照として、たくあん漬に常用される品種である秋まさり2号(4MTBG高含有品種)の糖絞りを用いて、同様の試験を行った。結果を図17に示した。
【0111】
その結果、GER高含有系統(NMR154N-7-5)の糖絞りの乾燥物を投与した群のマウスでは、未投与群(生理食塩水のみを投与)のマウスに比べて、肝臓に対するGST誘導活性が有意に高くなることが示された。
一方、通常の4MTBG高含有品種(秋田まさり2号)の糖絞りの乾燥物を投与した場合では、このような作用は全く確認できなかった。
【0112】
(2)「考察」
以上より、GER高含有系統の漬物(大根加工食品)は、肝臓に対する高いGST誘導活性を有し、優れた発ガン抑制作用を有することが示された。
なお、当該GST活性の向上作用は、当該加工食品中に高含有されるITCの一種であるエルシンによって発揮されるものと考えられた。
従って、GER高含有系統の大根加工食品は、優れた発ガン抑制作用(抗ガン作用)を有する機能性食品として有効に利用できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、嗜好性が高いことに加えて、さらに抗ガン作用を有する機能性食品ともなる、新たな大根加工食品の提供を可能とする。
即ち、本発明の大根加工品は、従来のものとは差別化された付加価値を有する製品となると認められる。
これにより、本発明は、漬物、大根おろし、切り干し大根、つま等を扱う加工食品メーカーにとって、有用な技術となることが期待される。
また、本発明の一態様である白色たくあん漬等は、たくあんの魅力回復に貢献することが期待され、農産物としての大根生産の需要を喚起することにも繋がると期待される。
【符号の説明】
【0114】
1: 3-methylthiopropyl ITC
2: erucin(エルシン)
3: 4-methylthio-3-butenyl ITC (4MTBI)
4: 5-methylthiopentyl ITC
図2
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