【実施例】
【0068】
II.ピリンペプチド
図1A−1Dは、シーケンス情報が利用可能な様々なバクテリアの属/種/株のジスルフィドループを含むC末端ピリンペプチド領域に関する配列を示す。所望の配列はジスルフィドループ配列(システイン残基(C)で始まり及び終了し、いくつかの場合、ループの一方の側に5までもしくはそれ以上の残基を含む)を含む。一文字の英字アミノ酸指示は標準規則によるものである。ペプチドの正常な酸化体では、ペプチドは、システイン残基間のジスルフィド架橋を含んでいる。
【0069】
本発明の中で用いる合成ペプチドは、
図1A−1Dの中で示される配列の1つ以上を含むか、これらに由来する。配列が、示された配列のうちの一つを含む場合、配列はそのジスルフィド・ループを単独で含んでよく、又はそのループは、ループのN末端又はC末端側のどちらか又は両方にて、10まで、好ましくは5未満の残基をさらに含んでよく、ここで、追加の非ループ残基が、典型的には隣接した非ループ配列の1以上を含むか、またはこれらに由来する。より一般的に、ループ及び非ループ領域両方の配列は、配列、好ましくは、ジスルフィド・ループ中に同じ数又はほとんど同じ数の残基を有する配列、を整列させることによる2つ以上の配列に由来してよい。例えば、
図1Aの中で、緑膿菌(P. aeruginosa)株PAO(配列番号:3)、PAK(配列番号:4)、PA82935(配列番号:7)及びK122−4(配列番号:9)に対応する4ペプチドは、14量体のジスルフィド・ループを含む。
図1Aの中の4つの緑膿菌株からのジスルフィド・ループ配列を整列させることによって、組み合わせた配列K/A/S/T−C−T/K/A−S/T−D/T/N−Q/V/A−D/E−E/IP/A/N−Q/M/K−F/Y−I/T/R/L−P−K/N−G/T−−C−S/D/T/Q/N−K/N/D/T(配列番号: 10)が明らかになる。この17の残基ペプチド(また、総称的にT4P17と呼ぶ)は14のジスルフィド・ループ残基、ひとつの上流(N末端側)非ループ残基及び2つの下流非ループ残基を含む。この配列内の配列の例は、配列番号:10に由来される実際の4つの異なる配列、つまりPAK(配列番号: 3)、PAO(配列番号: 4)、PA82935(配列番号: 7)、及びK−122−4(配列番号: 9)に対応する配列を含む。
【0070】
別の例は、2つの緑膿菌株G7−09(配列番号:1)及びPA110594(配列番号:2)はコンポジットシーケンスS/T−I−D−W−G/A−C−A/T−S−D/A−S−N−A−V/T−S/−−S−−G/A−T−D/A−R/Q−N/G−M/F−P/T−A/G−L/M−T/A−A−G−T/S−L/V−P−A/Q−R/E−F−A−P−S/A−E/Q−C−R(配列番号:21)を形成する。
【0071】
いったんピリンペプチド配列が選択されると、標準組み換え又は固相合成により合成され得る。例えば、E−コイルPAK(128−144)oxは、pRLD−Eプラスミドから組み換え的に発現され、ここで、PAK(128−144)oxDNA配列が合成オリゴヌクレオチドを利用するE−コイルを用いてインフレームでスプラシングされ、既知のテクニック(例えば、 Giltner et al., Mol. Microbiology (2006) 59(4):1083及び本明細書に引用されるレファレンスを参照願いたい)に従って大腸菌BL−21で発現された。発現されたペプチドは、金属親和性クロマトグラフィーにより精製され、純度及びジスルフィド架橋の構成は、質量分析とN末端タンパク質シーケンシングによって確認された。
【0072】
ある実施態様においては、本発明で使用されるピリン・ペプチドは、Lアミノ酸、つまり天然L−異性体形態を有するアミノ酸)から作られる。すべてのLアミノ酸から構成されるピリン・ペプチドは、従来の組み換え及び固相合成法の両方によって作ることができる。
【0073】
別の実施態様においては、ピリン・ペプチドは、D−アミノ酸又はD−及びL−アミノ酸の混合物から構成される。ピリン・ペプチドにD−アミノ酸を含む1つの目的は、ペプチドがさらされるかもしれない1つ以上のプロテアーゼ酵素によるタンパク質分解に対するペプチドの耐性を増加させることである。例えば、シュードモナス(Pseuodmonas)バクテリアは、ペプチド切断において、エラスターゼ、メタロプロテアーゼ、及びリジン及び/又はアルギニン残基を要求又は標的にする、古典的トリプシン様セリンプロテアーゼを含むプロテアーゼのコレクションがある。つまり、例えば、K122−4ピリン・ペプチド中のK136及びK140にてD−リジンを含むようにピリン・ペプチドを合成され得る。好ましくは、ペプチドをできるだけ多くのプロテアーゼに対して耐性にさせる場合、ピリン・ペプチドは完全にD−アミノ酸から形成されるはずだ。すべてD−アミノ酸又はDとLアミノ酸の混合物から構成されるピリン・ペプチドは、合成において、活性化されたD又はL型アミノ酸試薬を用いる従来の固相法によって作ることができる。(例えば、Guichard, G., et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA Vol. 91, pp. 9765−9769, 1994年10月を参照。)
【0074】
別の実施態様では、ピリン・ペプチドは、いわゆるレトロインバーソ(RI)ピリン・ペプチドを生産するために、逆の配列の方向に(すなわち、カルボキシ末端からアミン末端方向へ)合成されたD−アミノ酸からできている。またレトロインバーソ(RI)形態ピリンペプチドは、プロテアーゼに対する一層大きな耐性を有するという長所を持ち、ピリン塗装物がプロテアーゼにさらされるか(例えば生物学的なセッティングの中で)、細菌増殖にさらされる環境において、本明細書に記載の適用において有利な効果を有する。RI形態ペプチドを合成する方法は、Fletcher, M.D. and Campbell, M.M., Partially Modified Retro−Inverso Peptides: Development, Synthesis, and Conformational Behavior, Chem Rev, 1998, 98:763−795の中で、例えば詳述される。それは引用によって本明細書に組込まれる。
【0075】
III.金属表面の処理
ある態様においては、本発明は、材料の腐食の速度を低減するために、露出した粒界領域を有する表面があるステンレス鋼、スズ、鉄又はチタニウム金属材料を処理するための改善された方法を含む。方法は、別々に又はパッシベーションのような多くの他の耐食方法のうちの1つと組み合わせて使用されてもよい。金属材料は、粒界領域を有する単一の露出面や複数の処理される外部表面を有し得、又は材料の外部表面からアクセス可能な空隙又は内部の網目を有してよい。理解されるように、この方法は、例えば、酸化雰囲気中で、又は塩基性か酸性の液体のような腐食性液体との接触によって、化学腐蝕にさらされるあらゆる、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウム金属材料を処理するいずれの場合にも適している。
【0076】
方法を実行する際に、混入物質を除去するために、金属材料を最初に例えば、エタノール浴の中で1回以上洗浄してよい。その後、材料を、共有結合でピリンを材料の露出面に結合するのに効果的な条件の下にて、ピリンの溶液と接触させる。典型的な処理方法では、材料を、ほぼ中性のpH(例えばpH7)にて、水性の緩衝液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)中、2μg/mLと50μg/mLの間、例えば10μg/mL、のピリンペプチド濃度にて、ピリン・ペプチドの溶液中に放置し、ピリン・ペプチドの適切なコーティングが生ずるまで、例えば5−120分間、溶液と接触させる。
【0077】
あるいは、コーティングされる材料をピリン溶液で吹きかけ、所望の接触時間(例えば5−120分)にわたって、高湿環境中でスプレーされた溶液と接触させてよい。
【0078】
別の実施態様では、ピリン・コーティングは、例えば、ミクロファブリケーション操作において、又は材料上の露出した粒界領域にペプチドを選択的に塗布するために、選択された金属表面に塗られる。この実施態様では、ペプチドの溶液は、エリアに特異的な方法で(例えばインクジェット・プリンターなどによって)材料の露出面に供給される。
【0079】
IIIA.処理方法及び金属表面特性の変更
このセクションは、増加した耐食性に加えて、その耐食性を増強するために金属表面を処理するための典型的な方法、及び次のことを実施する発明をサポートするために行われた研究について記述する。
(i)処理した表面の低減した付着力、
(ii)処理した表面の改変した電子仕事関数、
(iii)処理した表面の増加した硬度、
(iv)低減したコンダクタンス、及び
(v)少なくとも2か月の期間にわたるコーティング安定性。
【0080】
試料調製 厚さ1mmの商用銘柄304 2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板を1cmx1cmの寸法を有するサンプルへカットした。サンプルを空気中1時間1140℃で焼き戻し、空気中で冷却した。表面を120、240、320、400、600及び800#グリットの研磨紙を使用して、磨き、その後、1200#グリットの研磨紙で最終磨きを行った。
【0081】
1cmx1cmx1cmの寸法を有するアルミニウムとステンレス鋼のサンプルは以前に記載された磨きプロトコルを使用して磨かれた。これらのサンプルのどちらも、みがきに先立って焼き戻されなかった。
【0082】
ペプチド又はモノマーの線毛でサンプルをコーティングする工程 ステンレス鋼とアルミニウムのサンプルを商業用の皿洗い用石鹸を使用して1分間洗浄し、その後、蒸留水ですすいだ。その後、サンプルを15分間穏やかな撹拌で95%のエタノールに浸し、蒸留水ですすぎ、1分間試薬用アセトン中へ浸した。サンプルを蒸留水で5回すすぎ、風乾させた。サンプルをペプチド又はモノマーの線毛の10μg/mLを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に浸し、穏やかな撹拌で1時間室温(RT)でインキュベートした。溶液を除去し、サンプルを蒸留水で6回洗い、風乾させた。
【0083】
炭素鋼サンプルを水にさらされた時に生じる迅速な空気腐食を防ぐために、アセトン洗浄ステップに続き、100%のメタノールですすぎ、100%のメタノールの中で直ちに浸した以外は、上記に記述されたプロトコールを使用して、きれいにした。ペプチドを100%のメタノールに溶解し、最終濃度10μg/mLを炭素鋼サンプルを浸すために使用した。サンプルを穏やかな撹拌で1時間RTにてインキュベートした。サンプルを100%メタノールで6回洗浄し、風乾させた。
【0084】
付着力測定 50−70nmのチップの丸みを有する標準AuコートAFM窒化ケイ素チップとペプチドコーティング面の間の付着力を原子間力顕微鏡(AFM)を使用して測定した。AFMチップとコート面の間の付着力を決定するために、AFMを「コンタクト」モードで使用した。チップを表面に近付け、接触させ、チップが表面から引き離される時、カンチレバーのデフレクション(deflection)を測定した。デフレクションの全量(それは付着力を反映する)を、レーザー光線によって検知した。カンチレバーのばね定数が知られている場合、付着力は、ビーム偏向から定量的に決定することができる。この研究では、カンチレバーばね定数は0.06N/mだった。各実験については、20と50の間で、付着力測定は1つのサンプル当たり得られた。
【0085】
K122−4又はPAOピリン・ペプチドのいずれかでコーティングしたステンレス鋼サンプルを用いた付着研究の結果を
図2A及び2Bそれぞれ中でプロットする。
図2Aで見られるように、付着力が約40−75nNの間で、平均約60nNで集団となった、コーティングがされないサンプルに比較して、約5−40nN(ナノニュートン(nanoNewton))の間の範囲の中で、平均約20nNで、コーティングされた金属の付着力は、集団となった。同様の結果はPAOピリン・コーティングで得られた。付着力が電子の反射活性、例えばファンデワールス相互作用、であるので、ペプチドをコーティングすることが金属表面エレクトロン層を覆う役目をすることが結論付けられる。
【0086】
ペプチドをコーティングしたアルミニウム板上の同様の付着測定は、コーティングした及びコーティングしていない、プレート間の接着力の差を実質的に示さなかった。
【0087】
仕事関数測定 コーティングした及びコーティングしていない、ステンレス鋼サンプルの電子仕事関数(EWF)をSKP370 走査型ケルビンプローブ(Scanning Kelvin Probe)で従来通りに測定した。方法は振動するキャパシタンスプローブを使用して操作され、掃引バッキングポテンシャル(swept backing potential)を通して、仕事関数の差はスキャニングプローブリファレンスチップとサンプル表面の間で測定される。調べられたサンプルは、PAKでピリン・ペプチドをコーティングしたサンプルも試験された以外は、付着試験の中で使用されるものに似ていた。
【0088】
研究の結果はコーティングされないサンプル及びK122−4ピリン・ペプチドコーティングサンプルについて
図3Aの中でプロットされ、コーティングされないサンプル及びPAO−及びPAKピリン・ペプチドコーティングサンプルについて
図3Bの中でプロットした。3つのコーティングすべてについては、ピリン・ペプチド・コーティングは少なくとも約0.5eVの差で、最終値約5eVまで、表面のEWFを上げた。
【0089】
ペプチドコーティングアルミニウム板上の同様のEWF測定は、実質的にはコーティング及び未コーティングプレート間のEWFの差を示さなかった。
【0090】
ペプチド・コーティングの安定性 図4は、コーティングの後に2か月の期間にわたって得られたK122−4ピリンペプチドコーティングサンプル上の測定の結果を示す。未コーティングのスライドに対して、コーティングサンプルのより大きなEFWは、2か月の試験期間にわたって観察され、少なくとも2か月のコーティング安定性を示した。
【0091】
ナノインデンテーション/硬度A トリボスコープ(triboscope)(Hysitron、ミネアポリス、アメリカ)は、ペプチドコーティングを施したサンプルの機械的性質の変化を検査するために使用された。トリボスコープ(triboscope)はナノメカニカルなプローブ及びAFMの組合せである。プローブ(ダイヤモンドのピラミッド形のビッカース(Vickers)圧子)は、100nNの荷重感度及び0.2nmの変位分解能を伴う150nmの名目上の半径を有する。ナノインデンテーション、力と変位の曲線は各インデンテーションについて得られ、サンプルの表面へのチップの全深さ変位は、このカーブから得られた。ナノインデンテーションテストは、50〜800μNの荷重を用いて行なわれた。5つの荷重‐変位曲線が各荷重について得られた。
【0092】
50〜800μNの間の荷重範囲の下で、ペプチドコーティング(暗い)、及びペプチド未コーティング(明るい)ステンレス鋼の荷重‐変位曲線を
図5に示す。800μN荷重の全変位はグラフの上に示され、コーティングスライドは範囲45−55nmあり、未コーティングスライドは約90−95nmの間にある。このテストに基づいて、コーティングスライドは、未コーティングスライドの硬度のほぼ2倍を有する。より一般的に、コーティングはステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムの金属表面の硬度を少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、及び50%以上まで増加させるのに効果的である。
【0093】
図6Aと6Bは、コーティング及び未コーティングスライドについて、20μN(6A)及び50μN(6B)で作られたナノインデンテーション有する変位をプロットする。コーティングが、未コーティングスライドより約20%−100%大きい硬度を持っていたことは、
図5からのデータと一致している。
【0094】
PAOコーティング(7A)及びK122−4コーティングについて、50−800μN(7A)及び50−400μN(7B)の荷重範囲にわたり、同じタイプの試験を
図7A及び7B中でプロットし、実質的に、同じ結果を伴う。両方の場合では、ピリン・ペプチドコーティングは、金属試料の表面硬度を約2倍にした。
【0095】
ペプチドコーティングアルミニウム板の同様のナノインデンテーションテストは、コーティング及び未コーティングのプレート間で実質的には表面硬度の変化を示さなかった。
【0096】
増加したコンダクタンス コンダクタンスは、材料が電流を導く能力を有することの尺度である。表面コンダクタンスを測定するための1つの標準分析法は、指定された低電圧用の電位のバイアスの下で表面上の指定された位置からAFMチップまで流れる電流を測定するために原子間力顕微鏡(AFM)を使用する。AFMは、それぞれ、未コーティング及びコーティングピリンステンレスプレートについて、
図8A及び8Bにおいて、異なる濃淡のレベルによって表わされて、特異的な色として表面とチップの間の電流(pA)を定量的に表示する。一般に、濃色から淡色への色調の変化は大量から小量への電流(28.0〜24.5pA間)の変化を示す。2つの図から、
図8A中の未コーティングステンレス鋼サンプルの表面領域が、サンプル表面にわたってかなり変化し得ることが観察され、比較的高い電流を示す濃い色調を有し、一方、
図8B中のピリンコーティングサンプル表面領域は著しく低いコンダクタンスで、実質的にコンダクタンス・プロファイルが均一である。ピリンコーティング材料中で実質的により高い金属仕事関数(表面電子を抽出するために必要な仕事関数の尺度)を示す。この結果は、
図3Aと3BからのEWFデータと一致する。
【0097】
耐食性 材料表面中の腐食に対する耐性又は腐食感受性の調査に利用可能な多くの方法がある。1つの方法は、固定電位で金属板をわたって流れる電流を測定することである。測定された電流は、酸化還元反応に伴い往復する表面電子を反映し、高い電流は腐食の大きなポテンシャルを示す。
図9A中のプロットは、K−122−4ピリン・ペプチドでコーティングされ又はコーティングされていないで、上記のように調製された304の2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板について測定した電流(Icorr)を示す。結果は、コーティング板について、著しくより低いIcorrを示した。これはより大きな耐食性を示す。
【0098】
上記の試験で観察されたIcorrの差が、電流が金属表面を横切って最初に流れ始めるポテンシャル(Ecorr)と関係があるかどうかが尋ねられるかもしれない。この質問は、金属中の電流が最初に流れ始めるポテンシャル(Ecorr)を見ることにより試験された。
図9Bの中で示される試験の結果は、
図9Aで見られたIcorr値の差が2つのサンプル間の電位レスポンスの差によらないことを示して、コーティング又は未コーティング金属試料が同様のEcorr値を持っていることを示す。
【0099】
K−122−4コーティング及び未コーティングサンプルについてミリ(mill)(ミリインチ(milliinch))/年(year)(mpy)で測定された、腐食速度測定を
図10A中でプロットした。結果は
図9Aで見られたIcorrの差と一致している。特に、平均速度が比較される場合、ピリン・ペプチド・コーティングは腐食速度を3倍以上に低減するように見える。
【0100】
腐食モニタリングで別の広く用いられる方法は、自由腐食電位にて電位電流密度曲線の傾きとして規定される、分極抵抗であり、既知の数学的関係によって腐食電流と関係がありうる抵抗性値Rpをもたらす。
図10Bは、コーティング及び未コーティングステンレス鋼値に対するRp値をプロットし、ペプチドコーティングが耐食性の尺度としてのRpを著しく増大することを示す。
【0101】
興味深いことには、ピリン・ペプチドが強い双極子及び/又は高い電荷密度を有する別のペプチドに結合する場合(この場合、ロイシンジッパー型Eコイル、又はそれに結合した同じEコイル、Eコイル/Kコイルペア中の反対に帯電したKコイル)、腐食の防止におけるピリン・ペプチドの影響は逆になり得る。
図11で見られるように、未コーティングステンレス鋼サンプルでの腐食速度は、ピリンE又はE/Kコイル中に結合ピリンを有するサンプルより実質的に低い。
【0102】
上記に議論された様々なステンレス鋼サンプルに対する腐食試験法の視覚的な影響は、
図12A−12Cで見られる。この試験では、サンプルはピリン・ペプチド未コーティング(12B)又はピリン・ペプチド(12A)コーティングいずれか又はE/Kコイルドコイル・ペアに結合したピリン・ペプチドであった。各場合では、サンプルは薄い食塩水中ですでに記載された腐食試験法を行った。未コーティングプレートと比較して、ピリンコーティング板は表面の腐食をほとんど示さず、その一方でピリン結合コーティングは、腐食を著しく増強するようだ。
【0103】
手短にいえば、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムのような金属を、IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来したジスルフィド・ループを含む、及び前記ループのN又はC末端側のどちらか又は両方上の0−10、好ましくは、0−5の追加の残基を含む、合成ピリン・ペプチドでコーティングすることは、金属表面の硬度及び耐食性両方を増加するのに効果的である。増加した耐食性は、例えば、0.2EFWユニット以上で金属表面の電子仕事関数を増加、並びに上述のように、Icorr、腐食速度及びRp値など、変化によって証拠づけられ、増加した硬度は、一定の力を有する原子間力顕微鏡のチップで金属表面を押し込んで、つくられた、20%以上低減されたナノインデンテーションにより証拠づけられる。
【0104】
方法の中で意図される他の金属は、周期表の列4−6及び9−12カラム由来の遷移金属であって、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金、及びメタロイドのシリコン及びゲルマニウム、及びそれらの酸化物を含む。
【0105】
IIIB.処理された金属へピリン・ペプチドの共有結合の追加的証拠
コーティング金属の改変された電子仕事関数及び増強された耐浸蝕性は、ピリン・ペプチドがコーティング表面の電子特性を変化させたことを示し、金属の自由電子軌道を変更させるペプチド及び金属の間の共有結合の形成を示唆する。この発見の追加的サポートは、このサブセクションの中で報告されるペプチド置換アッセイ及びX線光電子分光法(XPS)研究からもたらされる。
【0106】
ペプチド/線毛置換アッセイ 化合物と支持体の間の共有結合の相互作用のひとつの標識は、複合体が溶質の形態にある中、化合物の存在下にてインキュベートされる場合に、化合物が支持体から脱離できないことである。ここで、外来性のピリン・ペプチドがステンレス鋼表面に結合されたピリン・ペプチドを離脱させる能力を試験した。すでに記載したように、厚さ1mmの商用銘柄304 2B継目板(20ゲージ)ステンレス鋼板をきれいにした。これらの板は焼き戻しされなかったし磨かれなかった。板を96ウェルSchleicher and Schuell Minifold TM System (Mandel Scientific)の中へ集めた。ビオチン化PAKペプチド又はビオチン化精製線毛の10μg/mLを含む50マイクロリットルの溶液をウェル(5つの複製)に加え、マニホールドを穏やかな撹拌で1時間RTでインキュベートした。ウェルを1xPBSで6回洗浄した。ラベル化していないPAKペプチドを、量を増やしながら(0〜10μg/mL)、複製ウェルに加え、鋼マニホールドを穏やかな撹拌でRTにて1時間インキュベートした。その後、ウェルをPBSで6回洗浄した。結合ビオチン化ペプチド又は線毛の置換をストレプトアビジン・ホースラッディシュペルオキシダーゼ(streptavidin−horseradish peroxidase)(HRP)を使用して評価した。Strepavidin−HRP(シグマ)を1/500に希釈し、100μLを各ウェルに加え、マニホールドをRTで1時間インキュベートした。150マイクロリットルのデベロッピング緩衝液(developing buffer)(1mM2,2’−Azino−bis−(3−ethylbenzthiazoline−6−sulfonic acid) diammonium salt(ABTS)(シグマ)及び0.03%(v/v)過酸化水素含有0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝液pH4.2)を各ウェル加えた。マニホールドは穏やかな撹拌で10分間RTでインキュベートした。反応溶液を96ウェル平底マイクロタイタープレート(コーニング)に移し、405nmの吸光度をFLUOstar OPTIMAプレートレーダー(BMG LABTECH)を使用して測定した。
【0107】
図13にプロットされたデータから見られるように、可溶性ピリン・ペプチドの比較的高濃度にさえ、金属表面による結合ピリン・ペプチドの消失は測定できず、結合ピリン・ペプチドが非結合ペプチドと釣り合っていることを実証し、ペプチドと金属表面間の共有結合を示す。金属表面へのペプチドの共有結合の詳細な証拠は、耐食性試験によって下に提供される。
【0108】
XPS特性 X線光電子分光法(XPS)は、材料内に存在する元素の元素組成及び電子状態を測定する量的分光器の方法である。XPSスペクトルは、X線ビームで材料を照らし、一方、分析された物質の頂部1から10nmまでから放出される電子の運動エネルギー及び数を同時に測定することにより得られる。XPSは極めて高い真空(UHV)条件を必要とする。
【0109】
Axis−1651スペクトロメーター(Kratos Analytical)を未コーティングのサンプル及びピリンコーティングされたサンプルから発生した光電子(photo−emitted electron)を試験するために使用した。2つのサンプルから放出された電子についてのスペクトルを
図14に示す。見てわかるように、ピリンコーティングされたサンプルは、未コーティングのサンプルの中には存在しない、約100及び150eVの結合エネルギーを有する2つのユニークなピークを有する。1つの可能性は、2つのピークが、共役電子結合により、実質的に赤にシフトした、硫黄金属結合を表すということである。金属とN又はO結合形成の証拠はなく、ピリンと金属間との好ましい共有結合の(共有電子)相互作用は、ピリン・ペプチド中の2つの硫黄原子の1つ又は両方とであることを示唆する。
【0110】
IIIC. 粒界効果
粒界は、多結晶体中の2つの粒子(又は晶子)間の境界である。粒界は結晶構造の欠陥で、材料の電気的及び熱伝導性を減少させる傾向がある。ほとんどの粒界中の高い界面エネルギー及び比較的弱い結合形成は、しばしばそれらに腐食の発現及び固形物から新しい相の沈殿のための好ましい部位を作る。
【0111】
粒界が腐食のための開始部位として役立つことができるので、金属表面へ結合するピリン・ペプチドが粒界部位で優先的に生じたかどうか判断することは興味深かった。この問題を調べるために、ピリン・ペプチドコーティングAFMチップを用いる、上記に説明した付着力試験を、粒子内の及び粒界での付着力効果を調べるためにさらに改良した。試験における「テスト」及び「コントロール」表面は、PAOピリン・ペプチド又はPAOアミノ酸のスクランブル配列を有するペプチドでコーティングしたステンレス鋼プレートだった。各サンプルについては、粒子内の及び粒界での付着力を測定した。
【0112】
下記の表1の結果からわかるように、ピリン・ペプチドは、粒界の内側でスクランブル配列を有する同じ材料より約20nN低い付着力を有し、粒界で約43nN低い付着力を有する。結果は、ピリン・ペプチドが粒界で優先的に局在化している、言い換えると、ピリン・ペプチドが、粒界で大きなコーティング厚さを有するか、又はピリン結合の同じレベルは粒界で大きな付着力効果をもたらすかのいずれかを示す。いずれの場合も、データは、ピリン・ペプチドを金属表面に結合することにより見られる耐食効果の大きさについて説明する。
【0113】
【表1】
【0114】
IIID.ピリンのD形態及びRI形態によって結合しているピリンペプチド
金属(ステンレス鋼)サンプルに結合する、ピリンペプチドのD形態及びRI形態の能力及びピリンコーティング材料の特性を検討するために、K122−4ピリンペプチドのD及びRI形態を合成し、同じピリンペプチドのL形態に対して試験した。ステンレス鋼プレートは、L形態ピリン・ペプチド(3つの異なるバッチ)、D形態ピリン又はRI形態ピリンでコーティングし、1枚のプレートはコーティングしなかった。
【0115】
プレートは、付着力の変化について(
図2Aと2Bに関して上記に報告された試験と同様)最初に試験した。
図15Aでわかるように、付着力の大幅な低減は、未コーティングプレートと比較して、ピリン・ペプチドの3つの形態すべてに見られた。
【0116】
図3A−3Bに関して上記に記載されたものとして行なわれた同じ6つのサンプル上のEWF測定を
図15Bの中でプロットした。興味深いことには、D−アミノ酸形態は未コーティングプレートを含む他の5枚のプレートのうちのどれより実質的に低いEWFを与えた。しかし、RI形態は同程度又はL型ピリン・サンプルより高いEWF値を与えた。
【0117】
結果は、金属表面の電子特性を改変する方法において、ピリン・ペプチドのD形態及びRI形態の両方がステンレス鋼板と相互作用することができることを示す。
【0118】
D形態ピリンがステンレス鋼にしっかりと結合する能力は、コーティングしていないか、又はビオチン化コントロールペプチド(ピリン配列のスクランブル化又は非結合領域のいずれかの)でコーティングしたもの、又はビオチン化D形態ピリンペプチドでコーティングしたもののいずれかの、ステンレス鋼ステントに結合するペプチドの比較により調べた。個々のステント表面に結合したペプチドの量を37
oCでSDSの3%の溶液の表面を最初に洗い、引き続き、PBSで数回洗浄することにより測定した。洗浄表面を、ストレプトアビジンHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)(streptavidin−HRP (horse radish peroxidase))でインキュベートし、次に、ABTS基質にさらし、405nmで吸光度を測定した。
図16Aで見られるように、コントロール・ペプチドのものより、ステンレス鋼ステントに結合したD形態ピリン・ペプチドは約2倍だった。
【0119】
金属結合したL形態ピリン・ペプチドに比べて、金属結合したD形ピリン・ペプチドの酵素タンパク質分解に対する耐性を調査するために、ステンレス鋼プレートをL型ペプチド、D形ペプチド及びコントロール(スクランブル化ピリン配列)で、複製して、コーティングした。その後、各複製からの1つのサンプルを、0.25%、EDTA 1mM、pH7.4の濃度で、60分間37
oCにてトリプシンでインキュベートした。その後、サンプルを上記に記述したHRTアッセイ方法によって結合タンパク質について分析した。
【0120】
図17Aは、トリプシンへの暴露前後にL形態ピリンの結合したペプチド・レベルを示す。図からわかるように、ピリン・ペプチドの半分以上はプロテアーゼ処理によって除かれた。対照的に、結合D形ピリン・ペプチドの量は、プロテアーゼ消化(
図17B)に実質的に影響されなかった。結果は、(i)ステンレス鋼へのL形態ペプチドの共有結合がプロテアーゼ消化からの保護を与えない、及び(ii)結合D形態ピリン・ペプチドは、酵素タンパク質分解から実質的に防御される、ことを実証した。
【0121】
IIIE.関連する適用
また、ピリン・ペプチド結合がコーティングした材料の硬度を増加することができる能力は、本発明の別の態様に従って、板ガラス又は自動車安全ガラスのような、他の硬い材料表面に利用することができる。この適用では、掃除されたガラス表面が、ピリンの層で表面をコーティングするのに効果的な条件の下にてピリン・ペプチドで接触される。支持体に結合したタンパク質の量をHRPアッセイを使用して、上記のように測定した。
図16Bで見られるように、D形態ペプチドは、SDS処理によってでさえ除去に抵抗して、ガラス表面にしっかりと結合され、コントロール・ペプチドで行ったのより、ステンレス鋼ステントに結合されたピリン・ペプチドは約2倍であった。
【0122】
別の適用では、表面処理は機械中の互いとの可動接触子にあるコーティングした金属表面の潤滑性を増強するために使用される。ここで目的機械部品を、共有結合でピリン・コーティングを形成する条件の下で、上記のように、ピリン・ペプチドに部品をさらすことにより、増強された表面潤滑性のために前処理する。あるいは、ピリン・ペプチド溶液を機械操作の間に機械部品のより大きな潤滑性を維持するために、操作又は一時停止の間に機械の接触表面に塗布してよい。
【0123】
IV.コーティングした金属支持体及びバイオセンサー装置
このセクションは、検体に特異的な目標化合物(例えばレセプター)が発明に係るピリン・ペプチドを介して検出表面に付けられている診断装置への本発明の適用を考える。検出表面がピリン・ペプチドに共有結合で結合する金属である場合、下記に記載するように、金属表面と電子的相互作用を通じて、装置は電子バイオセンサー・モードで機能してよい。
【0124】
IVA.共有結合で結合した化合物を有する金属支持体
(i)上記に詳述するように、支持体へのピリン・ペプチドの共有結合及びピリンへの直接的又は間接的化合物の共有結合、言い換えると、ピリン化合物複合体を介する、という手段で、本発明の本態様は、例えば、レセプターなどの化合物が支持体にて共有結合する金属支持体を含む。未結合ピリンペプチドについて上記に説明のように、コーティングした支持体は、最初に金属表面へ結合していないピリン・ペプチドを付着させること、続いて、結合ピリンへ化合物を共有結合することにより、あるいは最初にピリン化合物複合体を作り、続いて、金属表面へのその複合体を結合することにより、作成される。ピリン・ペプチドに化合物を共有結合で結合する方法は、例えば、アミン又はカルボキシル基を介して直接的な化学結合により、又は二官能基カップリング試薬を使用することによって行うなど、周知である。化合物がそれ自体ペプチドである場合、ピリン化合物複合体は組み換え又は固相合成によって融合タンパク質として形成することができる。コーティングした支持体は、金属表面へのピリン結合による改変された表面電子特性を有し、下記に詳述されるように、本発明を実証するために行なわれた試験は、表面結合化合物に検体関連分子が結合することにより、支持体表面を流れる電流が調整されることを示し、支持体にわたって流れる電流の変化によって、そのような結合態様を記録することを可能にする。以下に見られるように、化合物も、支持体に(例えばE/Kコイルド‐コイル複合体によって)共有結合で間接的に結合してよい。
【0125】
IVB.結合ピリン支持体を有するバイオセンサー装置
図18Aと18Bは、発明の実施態様に従って構築されたバイオセンサー・アッセイ装置32を示す。装置は、金属検出プレート34上にピリン・ペプチド・コーティングで観察された、改変された電子特性の有益性を有する。すなわち、プレート34は、ステンレス鋼、スズ、鉄、又はチタニウムのような金属から作られ、ピリン・ペプチドによってコーティングされた場合、改変された電子表面性質を有する。上記のように、ピリン・コーティングは、プレート表面を上記のピリン・ペプチド36及び検体を結合する部分38の複合体にさらすことにより、又は結合した、非複合体ピリン・ペプチドに化合物を付けることにより形成される。プレートはそれ自体、その側面が装置中の壁40によって形成され、部分的に水性の導電媒体42で充填される浅いバイオセンサー反応容器41の下部表面を形成する。
【0126】
反対の回線接続が検出プレートの下部側面へある場合、装置中のバイオセンサー回線は容器、電圧ソース46及び電流計48へ伸びる電極44を含む。
【0127】
図19と20は、バイオセンサーの2つの表面の構成を示す。
図19では、レセプター(リガンド結合)分子(R)は、ピリン・ペプチド(かぎ型部分)に共有結合で結合し、次に、バイオセンサー表面に共有結合で結合される。バイオセンサー支持体を横切ったコンダクタンスは、(i)支持体表面とピリン・ペプチドの結合相互作用及び(ii)コンダクタンス上のレセプターRの影響によって決定される。リガンドL(例えば検体)がレセプターに結合する場合、表面での電子特性はさらに変調され、その結果観察されたバイオセンサー電流の変化を引き起こす。
図21に示された電流の変化は、リガンドがレセプターに結合後、高い電流から低い電流となる。
【0128】
図20では、レセプターRは、支持体へのピリン/Kコイル複合体の共有結合を通じて支持体表面に間接的に結合され、その後、レセプター‐Eコイル複合体とのコイルド‐コイル相互作用する。この実施態様の中で、結合している、バイオセンサー表面コーティングの形成は、ピリン・ペプチドとレセプターRに結合するKコイル、Eコイルの及びレセプターRに結合することができるリガンドLである、3−構成要素の複合体である。この実施態様では、表面上のコーティング、マスキングK−コイル部位に検体を結合するために、最初に、バイオセンサーを検体と反応させる。この反応をK−コイルのマスクキングによって引き起こされた電流の変化として直接に読んでもよく、又は検体反応の後にまだマスキングされていないK−コイルの量に応じて、E−コイルに結合するために、E−コイル試薬が、この段階で添加されてもよい。
【0129】
図22Aと22Bは、
図20に示したコイルドコイル構成によってHis部分(レセプター)が支持体表面に結合されるバイオセンサー相互作用についてボルタメーター・サイクル・カーブである。
図22Aは、それ自身及びその後Hisの部分の特異的抗‐His抗体を添加することにより、ピリン構築物を介してステンレス鋼に共有結合でリンクされたE−コイルに複合体化したK−コイルに表示されたHisの部分について完全な環式のボルタメトリーカーブを示す。
図22Bは、正電圧バイアスだけでなくマイナス電圧バイアスの下でHis部分に結合する抗体によって電流が変化させられることを実証する、左ねじれ部分の環式のボルタメトリーのカーブの増幅を示す。Hisレセプターにanti―His抗体を結合することは、最低の電流サイクルを生産し、バイオセンサー表面に結合する「検体」を有する電流の低下を証拠づける。Hisレセプターがピリン・ペプチドによってバイオセンサー表面に直接に結合された時、同様の結果は得られ、使用された検体はanti―His抗体だった。
【0130】
センサーの操作を理解するために、下記の表2からのデータであって、(i)コーティングがないステンレス鋼板(修飾されない)(ii)E−コイル(負に帯電したロイシンジッパー)ペプチド(E−PAK)に結合したピリン・ペプチドでコーティングしたステンレス鋼板、及び(iii)反対に帯電したK−コイルペプチドに結合した同じ複合体でコーティングされた第3のステンレス鋼板、すなわち、そのペプチドは、E−コイル/K−コイルヘテロダイマー(K−E−PAK)に結合する、ステンレス鋼板について、Icorr、Ecorr、腐食速度及びRpデータを示すデータからの耐食性データを考慮することは有用である。Icorrカラムを考慮すると、データは、プレートに結合するE−PAKがそのIcorr値を著しく増加させることを示し、PAKピリンで単独で見られた効力と反対である。(
図9Aを参照)。複合体が中和される場合(K−E−PAK)、Icorr値は、未コーティング金属より実質的に低く、未結合ペプチドで観察された効力に同様である。Ecorr、腐食速度及びRp値に対する同様の影響は、データから見られ、すなわち、反対に帯電したKコイルで結合することによるE−コイル影響を中和することが、E−PAKピリン結合によりもたらされた表面効果を改変させる。
【0131】
【表2】
【0132】
バイオセンサーの様々な利点は上記の記載から評価することができる。第一に、検体結合レセプターをバイオセンサー表面に共有結合で結合するピリン・ペプチドが、バイオセンサー表面にて直接に電子活性に影響するので、電流の中で、直接効果(例えば低減)をもたらすリガンド結合により、表面の複合体のサイズ及び電荷を改変させる。第2に、電子活性又は分子と直接に相互に作用する金属の表面の電子の能力が、相互作用の程度及び力を決定するので、金属表面と分子の相互作用はプラスチックとの相互作用とは基本的に異なる。酸化被膜を形成しない金属(金のような)は非常に活性のある表面の電子(結晶のエッジ効果による)を持っており、それらの表面への材料を容易に吸収する。これらの材料は、サンプル・マトリックスからのタンパク質及び他の分子の非特異性の吸着に影響を受けやすく、したがって、バイオセンサー・プラットフォームとして有用ではない。ステンレス鋼のような金属は、表面の酸化を受け、不動酸化物層(不動態化された)を形成し、非特異的に結合するイベントを最小化にし、材料をそれらの表面に容易に結合しない(従って医療と食品産業でのそれらの広範囲の使用)
4−6。T4P17ペプチドを使用して、特異的なペプチド/タンパク質成分を不動態化されたステンレス鋼に容易に結合させる能力は、バイオセンサー適用のリガンド・レセプター相互作用を検出する際に信号対ノイズ比を改善する際に有効な利点を与える。上述したように、ステンレス鋼に結合するT4P17は電子伝達を仲介し、電圧バイアスにさらされた時バイオセンサーとして機能することができる。上記に報告した実験は、金属表面に結合したピリン‐レセプター結合物に結合するリガンドに応答してバイオセンサー表面を横切って電子流を変調する能力を実証する。
【0133】
IVE.結合ピリン支持体を有する一般的なアッセイ装置
図23Aと23Bは、プレート18を有する検体探知装置16を示し、そのプレートの上部の検出表面がピリン・ペプチド20及び検体‐特異的ターゲット分子22の複合体でコーティングされる。プレートはピリン・ペプチドが結合する様々な材料から作られてよいが、プレートは、好ましくは、ピリンがそれに共有結合で結合する、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面のような金属である。共有結合は、生産、タンパク質安定性、コーティング安定性の容易さの点から多くの利点を与える。また、装置は、25で示されるように検出表面を照らすために、例えばUV源のような、ビーム源24及び光検出器26を含む。
【0134】
操作では、検出プレートの表面は、可溶性検体分子30として
図12Bの中で示される目的の検体を含む流体サンプルで覆われ、これらは、検出表面上の検体特異的な分子22と反応することを許される。示された蛍光検出器では、反応混合物は、検出表面に結合した検体と特異的に反応することができる蛍光性の標識抗体又は他の媒体を含んでよい。その後、検出表面は、非結合成分を除去するために洗浄される。ついで、
図12Bで示されるように、蛍光27が放射され、反応表面は結合螢光の存在の有無及び存在するときはその量について分析され、アッセイを完成する。
【0135】
便利な螢光アッセイが装置に組み入れられてよいと認識されるだろう。例えば、ピリン・ペプチドは蛍光性部分を含んでよく、検体結合部分は、ピリン蛍光性部分から螢光を消すのに有効な蛍光性の消光物質を含んでよい。この実施態様では、検体を検体結合部分に結合することは、消光物質の効果を覆うのに有効であり、検体結合部分に結合する検体の存在下にて、より大きな螢光を生産する。
【0136】
代替的な実施態様においては、ピリン・ペプチド及び検体結合部分は第1と第2の蛍光種をそれぞれ含んでよく、所定の励起波長で励起された時、それは蛍光共鳴エネルギー転移を生産するのに有効である。この構成において、検体結合種への検体の結合はそのようなエネルギー転移を阻害するのに有効であり、観察された螢光を低減させる。
【0137】
V.コーティングした金属表面を有する医療機器
例えば、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面のような、ある金属表面に結合するペプチドついて、上記に記載の試験は、ペプチドと金属の間の共有結合の(電子共有)結合の形成を示して、ピリン・ペプチド結合が金属の表面の電子特性を改変することを実証する。この発見は、ステンレス鋼、スズ、鉄、及びチタニウム表面に、例えばペプチド、脂質、核酸、代謝産物、又は薬物分子のような、生物活性の分子を共有結合で結合するための方法及びピリン・ペプチドを介して、露出した機器の金属に共有結合で結合する生物活性化合物を有する新しい医療機器を提供する。
【0138】
方法の中で意図する他の金属は、周期表の列4−6及びカラム9−12からの遷移金属であって、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、白金、金、及び水銀、及びそれらの混合物及び合金を含み、メタロイドのシリコン及びゲルマニウム、及びそれらの酸化物を含む。
【0139】
この方法では、金属の表面は、IVタイプ緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質から由来するジスルフィド・ループを含む、及びそのループのN又はC末端側上のどちらか又は両方の、0−10、好ましくは、0−5の追加の残基を含む、合成ピリン・ペプチドで接触される。
【0140】
共有結合された生物活性分子を含むように、前もってピリン・ペプチドを調製した場合、接触させる工程単独により、金属表面への生物活性分子の共有結合をもたらす。生物活性分子を有するペプチド(この場合ピリン・ペプチド)の複合体を調製する方法は、周知であり、ペプチドとペプチド生物活性分子の間の融合タンパク質を形成すること、及びペプチドへの生物活性分子の共有結合の反応サイトを提供するための具体的に改良した化学反応の使用を含む。例えば、ピリン・ペプチドの固相合成中の最終工程は、例えばアルデヒドのような、反応性基(それは生物活性分子と共有結合の反応に使用することができる)の追加を含んでよい。
【0141】
あるいは、金属表面へペプチドをつけた後に、金属表面上の結合ピリンに生物活性分子を共有結合でつなぐために、再度、従来の二価性試薬又は特定の化学基化学反応使用して、ピリン・ペプチドで生物活性分子を反応させてもよい。
【0142】
目的のポリペプチドを得る際に使用するポリペプチドための別の適用は、例えば、組み換えのポリペプチド合成によるように、目的のポリペプチドを有する、上記に記載されたタイプのピリン・ペプチドを含む、融合タンパク質を最初に合成することにより実行される。その後、融合タンパク質は、ステンレス鋼、スズ、鉄、チタニウム、クロム、プラスチック、ガラス、ケイ酸塩、セラミックス、又はそれらの混合物から作られた支持体で接触を受けて、それによって、支持体へのピリン・ペプチド部分の結合を介して、支持体へ融合タンパク質が結合する。
【0143】
非結合材料を除去するために支持体を洗った後に、支持体は、結合ピリン・ペプチドから目的のポリペプチドを特異的に切断することができる薬剤で処理される。これは融合タンパク質中の規定された配列リンカーを特異的に切断することができるタンパク質分解酵素で支持体を処理すること又は融合タンパク質中の前記リンカーの特異的に切断できる化学薬品又は放射エネルギー源で支持体を処理することを含んでよい。その後、放出された目的のポリペプチドは、実質的に精製された形態で、支持体から溶出される又は洗われる。
【0144】
結合方法の別の適用は、所望の表面性質を有するか、又はそれらの表面上の所望の生物活性分子を運ぶ移植可能な装置を調製する際にある。例えば、本発明の骨インプラントはステンレス鋼又はチタニウムの移植構造を含み、その一部は骨の領域内に、又はその領域に対して放置するのに適している。移植へのボンド・アタッチメントを加速するために、この部分は、上述の合成ピリン・ペプチド、及びRGDのような、骨形態形成タンパク質因子、又は骨形態形成タンパク質因子BMP2−BMP7の複合体でコーティングされる。
【0145】
関連する適用では、ピリン・ペプチドは、金属又はポリマーのステントの表面に適用され、例えば、血管内の移植組織部位での望まれない凝固又は瘢痕をもたらしうる表面反応が促進することをより少ない傾向にするような、改善された表面性質を有する、本発明によるステントを生産する。あるいは、コーティングは、例えばピリンと薬の間のエステル・リンカーのような、バイオリリーサブル(bioreleasable)リンカーを持つ、ピリン−limus薬剤複合体のような、ピリン・ペプチド及び生物活性分子の複合体によって形成されてよい。
【0146】
下記に見られるように、コーティングした金属表面は、装置に対して、身体におこりうる炎症反応を著しく低減する。
【0147】
VI.低減された炎症反応を備えた医療機器
感染又は細胞の損傷/ストレスによって伝達した炎症に加えて、莫大な量の医原性の炎症は、医療機器類によって引き起こされる。非生物学的適合の医療機器へのヒト組織、細胞、及びタンパク質の露出は、臨床効果が非常に過小評価される、機能障害の宿主レスポンスを引き起こす。実施例は、組織反応、及び血管グラフト、人工関節及び他の移植可能な装置を含む医療用人工装具の挿入に続く機能障害の創傷治癒を含む。同様に、白血球及び凝固系の活性は、心肺バイパスと血液透析のような体外循環血液回路に定期的にさらされる患者に重大な罹患率をもたらす。これらのイベントは、さらに急性及び慢性疾患を持った患者の治癒、再生及びリハビリテーションに影響を与える。
【0148】
発明の別の態様によれば、D−アミノ酸、DとLアミノ酸の混合物、及びレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸で作られたピリン・ペプチドで金属表面をコーティングすることにより、例えばチタニウムのような、医療機器の中で使用されるある金属への炎症反応を調査した。
【0149】
ある試験では、人間の末梢血単核細胞(PBMC)細胞を標準細胞培養状態の下で単独で、又はD形態ピリン・ペプチドでコーティングしていないか又はコーティングしたかいずれかである、チタニウム又は鋼板の存在下においてインキュベートした。37
oCにて、RPMI培地中24時間のインキュベーション後、培養培地をサイトカインIL−1β(それはPBMCの中の炎症反応のインジケータである)について分析した。チューブリンをハウスキーピング・コントロールとして分析した。
図25Aは、5つのサンプルの各々について測定されたIL−1β及びチューブリンのウェスタンブロットを示す。結果からわかるように、D形態ピリン・ペプチド・コーティングはステンレス鋼及びチタニウムサンプルの両方中の炎症反応を防止するのに効果的だった。この結果は、チタニウム・サンプルについて
図25Bの中で示される棒グラフで定量的に見ることができる。
【0150】
同様の試験が同じサンプルに対するヒトTHP−1マクロファージ細胞の炎症反応を試験するために行なわれたが、非結合ピリン・ペプチド配列を表わすコントロール・ペプチド1又は2でコーティングした、ステンレス鋼又はチタニウムから作られた追加サンプルを含んでいた。その後、コーティングした及びコーティングしていないサンプルを72時間37℃にてRPMI培地中THP−1マクロファージとインキュベートした。その後、培養培地及び細胞の溶解産物をサイトカインIL−1β及びハウスキーピング・タンパク質チューブリンについて分析した。結果を
図26Aの中の2つのウェスタンブロット中に示す。結果からわかるように、チタニウム単独が、D形態ピリン・コーティングによって実質的に縮小された強い炎症反応を引き起こした。
図26Bの中で与えられたステンレス鋼サンプルについての量的図は、コーティングしていないステンレス鋼への炎症反応はやや小さかったが、それにもかかわらず、結果はDペプチド・コーティングによって防止されたことを示す。D形態ピリン・コーティングの影響が、かなり特異的であることは2つのコントロール・ペプチドサンプル(それらは適度に強いレスポンスを示す)から明白である。
【0151】
ある態様においては、本発明は、身体に移植された時、炎症反応細胞に露出される表面がある医療機器を含み、ここで、身体中においてこれらの表面は、
(i)IV型緑膿菌(P. aeruginosa)(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループ、
(ii)前記ループのN又はC末端側上のいずれかの0−10、好ましくは、0−5の、追加的残基、及び
(iii)D−アミノ酸、D、Lアミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸から構成されること
を含む合成ピリン・ペプチドでコーティングされていることを特徴とする。
【0152】
図24A−24Dにおける結合試験は、ステンレス鋼(
図24A)、クロム・コバルト・ステント(
図24B)、ラテックス・カテーテル(
図24C)及びシリコーン静脈カテーテル(
図24D)を含む様々な医療機器及び機器表面へのD形態ピリン・ペプチドの強い結合を実証する。各ケースでは、サンプルはコーティングがない(
図24の中の白い棒グラフ)、コントロールスクランブルD形態ピリン・ペプチドでコーティングした(斜線を施した棒グラフ)、又はD形態ピリン・ペプチドでコーティングした、のどちらかだった。その後、サンプルを洗浄し、上記に記述されたHRTアッセイによって結合タンパク質について分析した。すべてのサンプルについては、結合ピリン・ペプチドのレベルが、実質的にコントロールのレベル以上であり、ステンレス鋼を有するサンプルが、最も高い、結合コーティングを生ずるようだった。本発明は、金属及び非金属ステントの両方、さまざまな弾力性のある材料から作ったカテーテル、カテーテルの末端の支持装置、及び心臓及び他の血管のバルブを含む、対象となる身体に移植されるか一時的に移植される他の医療機器を含み、前記機器が、身体中の炎症反応にさらされる表面を含み、D形態又はRI形態ピリン・ペプチドでコーティングされていることを特徴とする。
【0153】
関連する態様においては、本発明は、医療機器を移植する前に、
(i)IV型緑膿菌(T4P)ピリンのC末端レセプター結合タンパク質に由来するジスルフィド・ループ、
(ii)ループのNあるいはC末端側のどちらか又は両方上の0−10、好ましくは、0−5の追加の残基、及び
(iii)D−アミノ酸、DとLアミノ酸の混合物、又はレトロインバーソ(RI)形態でのD−アミノ酸の構成
を有する合成ピリン・ペプチドで機器の露出表面をコーティングすることにより、対象内に移植された医療機器に対する炎症反応を防止する方法も含む。
【0154】
本発明は特定の実施態様及び適用に関して記述されたが、様々な修飾が特許請求の範囲を逸脱せずに作ることができることが理解されるだろう。
【0155】