(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記捩り構造体の前記閉断面上の任意の点において、その点の板厚tとその点の接線に前記閉断面の剪断中心から下ろした垂線の長さrsとの積が、一定値又は予め定められた範囲内となるように設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水門。
【背景技術】
【0002】
高潮や津波などに対応するための大型の水門は、公知である。
【0003】
特許文献1の水門は、薄肉閉断面の扉体(捩り構造)と、これを支える軸式支承とを備えるフラップゲートである。前記扉体は、軸式支承により基礎地盤に支えられているとともに、その軸を中心に回転運動する。
【0004】
図1はフラップゲートの軸式支承の例を示す。
図1aは側面図、
図1bは、
図1aのA−A矢視断面図である。
【0005】
6は扉体(実線、全閉状態)、7は扉体(点線、全開状態)、8は支承台、9は回転軸、10はブラケットである。
【0006】
扉体6、7は、溶接等で剛接されたブラケット10を介して回転軸9に接続される。支承台8は地盤上の基礎で支持される。
【0007】
水門を使用していないとき、扉体(全開状態)7は、点線で示すように水面下に水平状態で格納されている。使用時は、扉体(全開状態)7は回転軸9を中心に回転して起立し、実線の扉体(全閉状態)6の位置にくる。
【0008】
図2は、捩り構造と曲げ構造の変形的特徴の違いの説明図である。
図2aは曲げ構造を、
図2bは捩り構造を示す。Lは径間長を示す。
【0009】
曲げ構造の変形的特徴は断面の平行移動である。これに対して、捩り構造の変形的特徴は断面の面内回転である。この回転中心は、断面の移動拘束点である軸式支承である。拘束点の有無により、捩り構造は曲げ構造と区別される。
【0010】
断面が薄肉閉断面構造である場合に構造特性が著しく異なる。即ち、捩り構造は(1)薄肉閉断面と(2)断面拘束により特徴付けられる。
【0011】
捩り構造は閉断面々積の自乗で荷重に抵抗するが、曲げ構造と軸力構造はそれぞれ部材の断面二次モーメントと軸力剛性で抵抗する。
【0012】
捩り構造の作用荷重は断面拘束点に伝達され、作用荷重と拘束点反力で形成される捩りモーメントが捩り剛性で径間端末に伝達されるが、曲げ構造と軸力構造の作用荷重はそれぞれ剪断剛性と軸力剛性で径間端末に伝達される。
【0013】
曲げ構造と軸力構造は3次元構造であるが、捩り構造は2.5次元構造と言える。
【0014】
この様な構造上の相違から捩り構造は様々な利点を持ち、有利さは径間が増すに従い顕著になる。例えば、径間400m級の超大型水門の場合、扉体重量は他の構造形式の1/2〜1/3以下である。低重量は低建設コストに繋がる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
捩り構造はコスト面で圧倒的利点を持つが、従来、水門への適用は軸式支承で地盤に固定されたフラップゲートに限られていた。この発明は、捩り構造を横移動式の防潮水門に適用することを可能にする。径間200m〜600m級の超大型防潮水門にも適用できる。
【0018】
この発明は、下記の課題について解決手段を開示し、捩り構造による防潮水門の実現に寄与しようとするものである。
課題1:捩り構造防潮水門の横移動
課題2:レール基礎の不等沈下
課題3:曲げ捩りの緩和
【0019】
課題1:捩り構造防潮水門の横移動
この発明により実現する機能は、(1.1)自由な捩り変形、(1.2)全閉時の作用水圧支持、(1.3)移動時の作用水圧支持である。以下に各々の機能について説明する。
【0020】
(1.1)自由な捩り変形
捩り構造は、作用水圧や自重等の作用荷重により捩り変形が発生する。捩り中心線に曲がりがあると捩り構造が付加的曲げ変形を受けるので、中心線の直線性を維持して自由な捩り変形を可能にする。
【0021】
(1.2)全閉時の作用水圧支持
全閉時には最大水圧が作用し、捩り構造に捩り変形が発生する。この状態で作用水圧をローラからレールに確実に伝達する。
【0022】
(1.3)移動時の作用水圧支持
開閉操作条件に見合った水圧が作用した状態で横移動が行われる。ローラのレール乗り上げ無しに横移動を行う。
【0023】
課題2:レール基礎の不等沈下
捩り構造防潮水門の横移動のためにレールを用いるが、水門の竣工後において基礎地盤の不等沈下によりレールの基礎が変形する可能性がある。このレール基礎の不等沈下が生じたときでも、横移動を可能にする。
【0024】
課題3:曲げ捩りの緩和
構造物の捩りには単純捩りと曲げ捩りがある。単純捩りでは単純捩りモーメントが発生して断面に単純捩り剪断応力が発生するが、曲げ捩りでは曲げ捩りモーメントが発生して単純捩り剪断応力に曲げ捩り剪断応力が加算される。単純捩り剪断応力は断面内一様に分布するが曲げ捩り剪断応力は断面内で大きく波打つので、両者を合計した応力の最大値が上昇する。
【0025】
捩り構造の水門は曲げ捩りが発生して断面応力が大幅に上昇する。
図3乃至
図11は計算例である。
図3の門扉の単純捩りが
図4、曲げ捩りが
図5である。
図6の門扉の単純捩りが
図7、曲げ捩りが
図8である。
図9の門扉の単純捩りが
図10、曲げ捩りが
図11である。
【0026】
曲げ捩りモーメントは絶対値が小さくて捩りモーメント伝達の貢献度が低いので、曲げ捩りの緩和は捩り構造のコスト削減に繋がる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
コスト的に優れた捩り構造体を使用した横移動方式の開閉式水門を実現するために、水門扉としての捩り構造体と、レールと、拘束点として機能するとともに、レールに従って移動する複数の軸式支承とを備える水門を提供する。軸式支承はローラを含み、レールの頭部の断面形状を凸状円弧とし、ローラの踏面の断面形状をレールの頭部の凸状円弧の半径に対応する半径の凹状円弧とする。嵌合により両者は軸式支承として作用する。
【0028】
または、レールの頭部を挟みこむように配置されている複数のローラを備える。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0030】
図12は、横移動方式の開閉式防潮水門を示す。
図12は防潮水門の海洋側から見た水門の左半分を表す。
図12aは平面図である。
図12bは正面図である。
【0031】
1は全閉状態の水門扉を示す。2は全開状態の水門扉である。
図12の水門は1又は2いずれかの状態をとる。
【0032】
3は格納ドック、4はレール基礎、5は防潮水門の中心線である。100は、水門扉1(以下「捩り構造体1」と記すことがある)の拘束点として機能するとともに、後述のレールに従って移動する軸式支承である。軸式支承100は水門扉の下部に多数設けられている。多数の軸式支承100はレールの配置に合わせて設けられている(例えば直線状)。軸式支承の構造については
図15乃至
図18及びこれらの説明を参照されたい。
【0033】
全開状態の水門扉2は格納ドック3に格納されている。使用時に、全閉状態の水門扉1の位置に横移動される。
【0034】
図12のレール基礎4はコンクリートと鋼の合成構造であり、造船ドック等で一体構造として建造され、現地に曳航して沈設される。竣工後の基礎地盤の不等沈下によりレール基礎4が変形する可能性がある。変形は、(1)直線状態での不等傾斜、又は、(2)凹凸変形である。(1)は格納ドック3内のレール調整で対応する。(2)の影響でローラの片当たりによるローラ荷重の増加が予想されるが、ローラ機能の喪失を回避する必要がある(実施例3参照)。
【0035】
本実施例における捩り構造を定義する。
図13は捩り構造を表す。
図13aは正面図、
図13bはA矢視図、
図13b1は変形前、
図13b2は変形後の捩り構造を示す。
【0036】
Lは捩り構造の径間長である。11が薄肉閉断面、12が断面拘束点(軸式支承100の回転軸)である。正面図aのL両端の実直線とそれに挟まれた点線が薄肉閉断面11の断面位置を示し、断面拘束点12が最寄り断面の面内変位の拘束点を示す。
【0037】
図13b1の点線は変形前の捩り構造の薄肉閉断面11の断面位置における断面形状を示している。作用荷重による変形が無いので、各断面は直立状態にある。
【0038】
図13b2の点線は変形後の捩り構造の薄肉閉断面11の断面位置における断面形状を示している。各断面はそれぞれの断面拘束点12を中心に回転し、薄肉閉断面11は捩り変形状態にある。捩り構造体1の両端は固定されているので変形しない。
【0039】
図14は、
図13の薄肉閉断面11と断面拘束点12の詳細を示す。
図13と同一又は相当部分については同一符号を付し、その説明は省略する(以下同様)。
【0040】
図14aは正面図、
図14bはA矢視断面図である。
図14b1は変形前、
図14b2は変形後を示す。
【0041】
13は、捩り構造体1を構成する部材の断面(以下「薄肉」と記すことがある)である。
【0042】
図14b1のように、作用荷重による変形が無い状態では、薄肉閉断面11は直立状態にある。薄肉閉断面11は連続して閉じた状態の薄肉13で形成される。
【0043】
捩り構造体1に荷重が作用すると、
図14b2のように変形する。薄肉閉断面11は断面拘束点12を中心に回転した状態にある。
【0044】
断面拘束点12は同図に示す断面の面内平行移動を拘束しているだけで、回転変位は拘束していない。
【0045】
本明細書の「捩り構造」とは、連続して閉じた状態の薄肉13で構成された薄肉閉断面11と、その断面の面内平行移動を拘束する断面拘束点12で特徴付けられる構造物である。
【0046】
実施例1の軸式支承100について
図15乃至
図17を参照して説明する。
図15及び
図16において、14はレール、15はレール頭円弧、16はレール頭中心、17はローラ、18はローラ中心線、19はローラの軸心、20はローラ踏み面円弧である。
【0047】
レール基礎4で支持されたレール14の頭は、レール頭中心16を中心とする円弧15である。ローラ17の踏み面は、レール頭円弧15に適応した半径の円弧20である。ローラ17は、その軸心19を通じて水門扉1(捩り構造体1)に固定されている。
【0048】
レール頭円弧15とローラ踏み面円弧20の公称半径は同一であるが、ローラ17の横移動時のレール14とローラ17の円滑な嵌合を実現する為に、両半径に適切な差を設ける必要がある。「適応した半径」とは適切に差を設けた半径のことである。
【0049】
図15aは変形前、
図15bは変形後を示す。
図15bでは、水門扉1が荷重を受けて捩り変形し、拘束点16を中心に回転した状態を示す。21はローラ荷重を示し、22はローラ17とレール14の接触面を示す。ローラ17とレール14の接触部分が弾性変形して接触面22が形成される。
【0050】
ローラ17はレール頭中心16を中心に回転するので、水門扉1は、捩れ中心の直線性が維持されて付加的曲げ変形を受けることなく、自由な捩り変形が可能である(前述の課題「(1.1)自由な捩り変形」に対応)。
【0051】
ローラ荷重21は、その方向がレール頭中心16を向いているので、ローラ17とレール14の接触面22を通して確実にレール14に伝達される(前述の課題「(1.2)全閉時の作用水圧支持」に対応)。
【0052】
水門扉1が荷重を受けて横移動時における、ローラ17のレール14への乗り上げについて、
図16及び
図17を参照して説明する。
【0053】
図16において、23は接触面22の接線である。θは、ローラ中心線18とローラ荷重21の作る角度である。
【0054】
図16aはθ=0度、
図16bはθ=45度、
図16cはθ=90度の状態を示す。
【0055】
接触面22の中心を含むローラ17の回転面はローラ中心線18とレール頭中心16を含む断面と平行である。
【0056】
ローラ18のレール14への乗り上げ力は、ローラ17の回転に伴う回転面上の点移動の下方向成分による接触面22の摩擦力である。この摩擦力は式(1)で与えられる。一方、乗り上げ防止力はローラ荷重21のローラ中心線18方向の成分であり、式(2)で与えられる。
摩擦力=ローラ荷重×cos(90−θ)×接触面の摩擦係数 (1)
乗り上げ防止力=ローラ荷重×sin(90−θ) (2)
【0057】
図17は、ローラ荷重=1000tf、接触面の摩擦係数=1として、
図16a〜
図16cケースについて摩擦力と乗り上げ防止力を式(1)および(2)により試算した結果である。
【0058】
この結果から明らかな如く、θが45度より小さければローラ17のレール14への乗り上げは発生しない。
【0059】
水中で水潤滑が期待できる接触面22の摩擦係数は試算での値の10%以下である可能性がある。ローラ荷重22の方向はθ=45度よりもはるかにローラ中心線18に近い可能性もある。したがって、開閉操作条件に見合った水圧が作用した状態でローラがレールに乗り上げることなく横移動できる可能性が高い(前述の課題「(1.3)移動時の作用水圧支持」に対応)。
【実施例2】
【0060】
実施例2について
図18を参照して説明する。25は移動時荷重を示す。
図18aに示すように、この実施例のローラ17はひとつの箇所に複数(2つ)設けられている。これらはレール14の頭部15を挟みこむように配置されている。これらローラ17は互いに異なる複数方向を向いている。これらローラ17の総て軸心19が水門扉1に固定されている。
【0061】
図18bは、移動時荷重25と複数方向のローラ荷重21の力の釣り合い関係を示す。
【0062】
図18において総てのローラ17のローラ荷重21がレール頭中心16に向かっているとともに、接触面の接線23はローラ中心線18と直角に交わっている。このため、移動時荷重25が作用した状態でも、ローラ17がレール14に乗り上げることなく横移動できる(前述の課題「(1.3)移動時の作用水圧支持」に対応)。
【実施例3】
【0063】
実施例3について
図19及び
図20を参照して説明する。
図19aはレール基礎4に不等沈下が無い状態を示し、
図19bは不等沈下で凹変形した状態を示す。
図19cは、2分割した水門扉1の不等沈下への対応の状況を示す。
【0064】
複数のローラ17は、通常、レール14上にあるが、不等沈下が生じると浮き上がり状態になる。それらを白抜きで示した。
【0065】
図19aの不等沈下が無い状態では、ローラ17は総てレール14の上にあり、概ね等分の荷重を分担している。
【0066】
図19bの不等沈下で凹変形した状態では、ローラ17は水門扉1の両端2個のみがレール14上にあって、そのローラ荷重は
図19aよりも増加する。図の例では約5培になる。
【0067】
そこで水門扉1をその長手方向で分割してレールへの追従性を良くすることを考える。
図19cの2分割した状態では、各分割ブロックでローラ17はその両端2個がレール14上にあるので、不等沈下で凹変形した
図19bの状態よりも少なくなる(図の例では約2.5倍となり、
図19bの半分になる)。
【0068】
分割数は、予想される不等沈下量、ローラ個数、ローラ強度等のローラの安全に関わる条件に応じて適切な数を選ぶ。これにより不等沈下によるローラ機能の喪失を回避することができる。扉体分割は構造コストの増加要因となるので、分割数は最小限が望ましい。
【0069】
図20は、水門扉1を分割した場合に、分割された部分同士をつないで捩りモーメントを伝達する継ぎ手の説明図である。
図20aは正面図、
図20bはA矢視断面図、
図20cはB矢視断面図である。
26は分割面、27は捩りモーメント伝達棒、28は捩りモーメント受け孔、29は偶力である。
【0070】
捩りモーメント伝達棒27は分割面26右側の水門扉1Rに固定されている。その先端は分割面26の左側の水門扉1Lに嵌合している。分割面26の右側の水門扉1Rの捩りモーメントは、捩りモーメント伝達棒27を通して分割面26の左側の水門扉1Lに伝達される。
【0071】
捩りモーメント伝達棒27の先端は捩りモーメント受け孔28と勘合状態にある。捩りモーメントは、偶力29の形で捩りモーメント伝達棒27の先端から捩りモーメント受け孔28の側壁に伝達される。捩りモーメント伝達棒27と捩りモーメント受け孔28はレール基礎14の不等沈下に追従するためにそれぞれ異なった動きをする。これに対応して、モーメント受け孔28は縦長とする。捩りモーメント伝達棒27先端と捩りモーメント受け孔28との嵌合は、充分な長さ的余裕を持たせる必要がある。
【0072】
分割面26の捩りモーメントを伝達する継ぎ手構造は多くの選択肢があるが、伝達は総て偶力の形で行われる。
【0073】
相対する分割面26の水密方法は別に工夫が必要である。
分割ブロックの移動時、全閉時、格納時において、相対する分割面26の間隔を維持する必要がある。維持方法は牽引方式、プッシュ方式、自走式、その他など公知の横移動方法により異なる。分割の数は任意であるが、少ないほうがコスト的に有利である。
【実施例4】
【0074】
捩り構造における反りの低減手段について、
図21〜
図22を参照して説明する。
【0075】
図21は、前記反りの低減方法の効果説明に必要なs座標を示している。既に示された要素と同一又は相当する部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0076】
30は、薄肉閉断面11の中心線に沿って設定したs座標である。31は、s座標30のプラス方向を示す。32は、薄肉閉断面11の剪断中心である。
【0077】
dsは、s座標30上の微小距離dsである。tは、dsにおける板厚である。35は、dsの接線である。rsは、剪断中心32から接線35に下ろした垂線の長さである。
【0078】
薄肉閉断面11の反りは、式(3)の関数Ψで表される。式(3)に含まれるAsは薄肉閉断面11の面積である。Ψ0は、周積分の出発点におけるΨの値(反り常数)であり、これは式(4)で表すことができる。式(3)と(4)の積分は総てs座標30の上で行う。
【数1】
【0079】
tは、「薄肉閉断面上の任意点の板厚」である。rsは、「その点の接線に薄肉閉断面の剪断中心から下ろした垂線の長さ」である。
【0080】
(薄肉閉断面上の任意点の板厚)×(その点の接線に薄肉閉断面の剪断中心から下ろした垂線の長さ)の値は、一定値である。
t×rs=断面毎に一定値=C (5)
【0081】
(5)を(3)と(4)に代入して積分を実行すると、ΨとΨ0は共に零になる。反り関数Ψと反り常数Ψ0が零であれば断面の反りが零であるので、反りに比例する垂直応力も零であり、これと釣り合う曲げ捩り剪断応力も零である。即ち、曲げ捩りの緩和が実現する(課題3)。
【0082】
具体的な形状を取り上げて、この実施例の反りの低減手段の効果を説明する。
【0083】
(1)箱型形状
図22の左側は箱型薄肉閉断面を示し、同右側はその具体的な寸法を示す。
既に示された要素と同一又は相当する部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0084】
Lfは、フランジ半巾である。Lwは、ウエッブ半巾である。tfは、フランジ板厚である。twは、ウエッブ板厚である。
【0085】
剪断中心32が図心と一致しているので、反り0の条件式(5)は、式(6)のようになる。
tf=tw×Lw÷Lf (6)
【0086】
図22の右側のLf、Lw、twに基づき式(6)でtfを求めると、tfは約12.4mmと算出される。
【0087】
図23〜
図26は、tfの値をtf=34mmから12.4mmまで変化させたときの反り関数Ψと曲げ捩り剪断流の計算結果を示す。
【0088】
図23ではtf=34mm、
図24ではtf=16mm、
図25ではtf=14mm、
図26ではtf=12.4mmである。
【0089】
tf=12.4mmに近づくに従って、反り関数Ψと共に曲げ捩り剪断流が0に近づいていく。曲げ捩り剪断流は曲げ捩りモーメントによる剪断応力の分布を示している。
【0090】
図27は、tfの値を34mmから12.4mmまでmm単位で減じた場合において、反り常数Ψ0、曲げ捩り剪断流常数qw0、曲げ捩り断面係数Cbd、及び、捩り断面係数Jtの計算結果を、tf=34mmの場合を100として%表示したものである。横軸はtfである。
【0091】
反り量と曲げ捩り剪断応力の大きさに関わるΨ0とqw0が、反り0の点に向かって急激に減少して行く。CbdとJtも減少する。Jt減少の影響は重大である。Jtは変形抑制の主役であり、その減少は変形の増加に繋がり、(応力)=(形状係数)×(変形量)×(ばね常数)の関係から反り(形状係数)の低減効果を帳消しにしかねない。Jtは、断面の形状変更で補強することができる。
【0092】
例えば、Lfの増加で自重低減が実現できる。反り=0で理論自重は極小になるが、最適設計に於ける反り低減の目的はコストの削減である。コストの構成要因は材料費、加工費、運搬費、現地建設費、等々様々であり、必ずしも自重最小がコスト最小に繋がらない。例えば、応力増加部分に特注板厚の高強度材をはめ込んで最小重量を維持する選択肢がある。しかし、材料費と加工費が上昇するので、自重を増して材料強度を維持する案がコスト的に有利かも知れない。
【0093】
断面応力として、捩り、曲げ捩り、反り、曲げ等構造物の全体変形で発生する応力を対象とした。しかし、作用水圧による扉板や防撓材の曲げ、支承部や支持端に作用する支持反力による局部曲げなど、局部応力にも対応する必要がある。このため、反り0で計画された構造が最小自重である保証はない。現実的には、複数計画案からの最良案選択が最適設計を得る常套手段であるから、最適設計に於ける選択は反り0条件への接近線とJt補強を目的とする形状変更線で作られた面状範囲が対象となる。この考え方が、この発明として、(薄肉閉断面上の任意点の板厚)×(その点の接線に薄肉閉断面の剪断中心から下ろした垂線の長さ)の値を最適設計から求められる範囲の一定値近くに維持したこととした背景である。最適設計とは、反り0を近似的に満たしつつ、主に、コストの点で有利な設計である。
【0094】
(2)レンズ型断面
図28は、レンズ型薄肉閉断面を示す。
Hgはレンズ扉高である。rは薄肉半径である。βは薄肉角度である。tは薄肉板厚である。sは剪断中心である。iとoはいずれも薄肉半径rの中心である。
【0095】
剪断中心sが図心と一致しているので、反り0の条件式(5)は、式(7)のようになる。
η(α)=(r−L(s,i))÷(r−L(s,i)×cos(α)) (7)
η(α)は、薄肉板厚tに対する反り0条件板厚の比率である。αは、薄肉半径rが線分oiと作る角度であり、0≦α≦βである。L(s,i)は線分siである。
【0096】
図29は、
図28のレンズ型薄肉断面の反り関数と曲げ捩り剪断流である。反り量と垂直応力の分布は反り関数に比例し、曲げ捩り剪断応力の分布は曲げ捩り剪断流のグラフに比例する。
【0097】
図30の右側は、11箇所(11個のα)について式(7)で算出したレンズ型薄肉断面の板厚を示す。レンズ型薄肉断面の板厚を
図30のようにすれば、曲げ捩りは取り除かれ、
図29の剪断流と反りは消滅する。(課題3)