(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5979807
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】歩行補助具
(51)【国際特許分類】
A61H 3/04 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
A61H3/04
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-119241(P2016-119241)
(22)【出願日】2016年6月15日
【審査請求日】2016年6月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316008097
【氏名又は名称】伊藤 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100155158
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌平
【審査官】
今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−158242(JP,A)
【文献】
特開2013−22287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
A45B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の前脚フレームと、前記前脚フレームに内挿された前脚シャフトと、前記前脚シャフトの上端に連結されたハンドルと、回転機構を介さず前記前脚シャフトと一体に回動するように前記前脚シャフトの下端に連結された前輪と、後脚フレームと、前記後脚フレームの下端に連結された後輪と、リンクとを備え、前記前脚フレーム及び前記後脚フレームの上部同士が連結されるとともに、前記前脚フレームと前記後脚フレームが前後方向に開脚状態となるように前記前脚フレームと前記後脚フレームの間が前記リンクで連結され、前記ハンドルの操作によって前記前輪の角度が変更可能となる歩行補助具であって、
前記前脚シャフトに対しその軸方向と直交する方向に取り付けられた回動制御部材と、
前記リンクに取り付けられ、前記前輪の角度が基準位置に復帰するように前記回動制御部材に付勢力を与える付勢手段とを備えることを特徴とする歩行補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行を補助する歩行補助具に係り、特に、直進復帰力と挙動の安定性を確保し、部品の破損を防止するのに好適な歩行補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行補助具としては、例えば、特許文献1記載の技術が知られている。
特許文献1記載の技術は、前脚フレームから後脚フレームを分岐して設け、前脚フレーム及び後脚フレームの下端にそれぞれ車輪を設け、前脚フレームと後脚フレームが前後方向に開脚状態となるように前脚フレームと後脚フレームの間をリンクで連結し、ハンドルの操作によって前輪の角度が変更可能となる歩行補助具である。
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の技術にあっては、直進時にふらつきやすいという問題があった。そこで、これを解決するために、特許文献2記載の技術を適用することが考えられる。
【0004】
特許文献2記載の技術は、前輪及び2つの後脚の下端にそれぞれ車輪を設けた歩行補助具において、前輪が直進方向に復帰するように前輪に付勢力を与える付勢手段を設けたものである(同文献〔0037〕及び
図8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭64−14019号公報
【特許文献2】特開2013−22287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の技術にあっては、次の3つの問題点があった。
第1は、前輪を直進方向に復帰させる力が十分に得られないという点である。すなわち、キャスターの旋回角度が小さいときは、付勢手段95の作用点(揺動プレート92との連結点)の位置変化量に対し付勢手段95の長さの変化量が少ないので、キャスターを直進方向に復帰させる力が十分に得られない。
【0007】
第2は、挙動が不安定になるという点である。すなわち、付勢手段95は、キャスターが旋回するとキャスターを直進方向に復帰させる直進復帰機能と、ブレーキをかけるとブレーキを解除するブレーキ解除機能の2つの機能を担っているので、キャスターが旋回している状態でブレーキを操作すると、2つの機能が同時に働き、挙動が不安定になる。
【0008】
第3は、付勢手段95が破損する可能性があるという点である。すなわち、歩行補助具に対し後ろ方向の推進力が生じると、キャスターが180度旋回しようとするので、付勢手段95に無理な力がかかり、付勢手段95が破損する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、このような従来の技術の有する未解決の課題に着目してなされたものであって、直進復帰力と挙動の安定性を確保し、部品の破損を防止するのに好適な歩行補助具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔発明1〕 上記目的を達成するために、発明1の歩行補助具は、筒状の前脚フレームと、前記前脚フレームに内挿された前脚シャフトと、前記前脚シャフトの上端に連結されたハンドルと、回転機構を介さず前記前脚シャフトと一体に回動するように前記前脚シャフトの下端に連結された前輪と、後脚フレームと、前記後脚フレームの下端に連結された後輪と、リンクとを備え、前記前脚フレーム及び前記後脚フレームの上部同士が連結されるとともに、前記前脚フレームと前記後脚フレームが前後方向に開脚状態となるように前記前脚フレームと前記後脚フレームの間が前記リンクで連結され、前記ハンドルの操作によって前記前輪の角度が変更可能となる歩行補助具であって、前記前脚シャフトに対しその軸方向と直交する方向に取り付けられた回動制御部材と、前記リンクに取り付けられ、前記前輪の角度が基準位置に復帰するように前記回動制御部材に付勢力を与える付勢手段とを備える。
【0011】
このような構成であれば、使用者は、歩行補助具を身体の側方に位置させ、ハンドルを片手で持ち、前輪及び後輪を転がしながら前方に進むことができる。そして、進行中にハンドルを操作すると、進行方向に対し前輪が旋回し、前輪と一体に前脚シャフト及び回動制御部材が回動する。このとき、リンクに取り付けられた付勢手段により回動制御部材に付勢力が与えられるので、前輪の角度が基準位置に復帰する。
【0012】
ここで、付勢手段としては、例えば、コイルバネ、板バネその他のバネ、ウレタンゴム、シリコンゴムその他のゴム、スポンジが含まれる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、発明1の歩行補助具によれば、前輪の角度が小さくても、前輪の角度に応じた付勢力が付勢手段により与えられるので、従来に比して、前輪の角度が基準位置に復帰する力を確保することができる。また、付勢手段が基準位置復帰機能のみ担っているので、前輪が旋回している状態で何らかの操作を行っても挙動が不安定になることはなく、従来に比して、挙動の安定性を確保することができる。さらに、前輪が、回転機構を介さず前脚シャフトと一体に回動するように前脚シャフトに連結されているので、歩行補助具に対し後ろ方向の推進力が生じても前輪が逆回転するだけで、付勢手段に無理な力がかかりにくく、付勢手段が破損する可能性を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至
図3は、本実施の形態を示す図である。
【0016】
本実施の形態に係る歩行補助具は、歩行訓練の仕上げの段階で使用するものである。手すり歩行と1本杖歩行の中間の段階で使用する。高齢者にとっては、歩行に合わせてリズミカルに杖をつくことが難しい。本実施の形態に係る歩行補助具は、これを解決するものである。
【0017】
まず、本実施の形態の構成を説明する。
図1は、歩行補助具100の外観図である。同図(a)は、歩行補助具100の側面図であり、同図(b)は、歩行補助具100の正面図である。
【0018】
図2は、歩行補助具100の断面図である。
図2(a)は、
図1(b)中のA−A'線に沿った断面図であり、
図2(b)は、
図1(a)中のB−B'線に沿った断面図である。
【0019】
歩行補助具100は、
図1及び
図2に示すように、筒状の前脚フレーム10と、前脚フレーム10に内挿された前脚シャフト12とを有して構成されている。
【0020】
前脚シャフト12の下端には、前輪14が連結されている。前輪14は、キャスターのような回転機構を介さず前脚シャフト12と一体に回動するように前脚シャフト12に連結されている。また、前脚シャフト12の上端には、ハンドル16が連結されている。ハンドル16の操作によって前輪14の角度が変更可能となる。
【0021】
歩行補助具100は、さらに、後脚フレーム20と、リンク30とを有して構成されている。
【0022】
後脚フレーム20の上部は、前脚フレーム10の上部に溶接により連結されている。そして、前脚フレーム10と後脚フレーム20の間は、前脚フレーム10と後脚フレーム20が前後方向に開脚状態となるようにリンク30で溶接により連結されている。したがって、前脚フレーム10、後脚フレーム20及びリンク30で三角形状の本体フレームを構成する。
【0023】
後脚フレーム20の下端には、後輪24が連結されている。後輪24は、キャスターのような回転機構を介さず後脚フレーム20に連結されている。前輪14と後輪24は、それぞれ1つの車輪からなり、一直線上に配置される。これにより、歩行補助具100を傾けて寄りかかっても直進安定性を確保することができる。自転車を傾けて手押しする要領である。また、滑りにくくするため、ゴムタイヤを採用するのがよい。さらに、特許文献1の第2図に示す前輪のように前輪14又は後輪24をダブルの車輪で構成すると、歩行補助具100を身体側に傾けたときにハンドル機能がある前輪14は外側を向く性質があり、強く傾けると外側の車輪は浮き上がり不安定となる。歩行補助具100を垂直に維持することは高齢者には難しい。これに対し、本実施の形態のように1つの車輪で構成することにより安定性を確保することができる。
【0024】
歩行補助具100は、例えば、次のように構成することができる。
前脚フレーム10は、長さが425[mm]、直径20[mm]のアルミパイプで構成し、前脚シャフト12は、長さが675[mm]、直径17[mm]のアルミパイプで構成する。また、後脚フレーム20は、長さが565[mm]、直径17[mm]のアルミパイプで構成し、リンク30は、長さが285[mm]、直径15[mm]のアルミパイプで構成する。
【0025】
前脚フレーム10とリンク30の角度は90度、前脚フレーム10と後脚フレーム20の角度は35度となる。また、前脚フレーム10と後脚フレーム20の連結点から下ろした垂線に対し、前脚フレーム10は前方に25度、後脚フレーム20は後方に10度それぞれ傾斜する。このため、ハンドル16、前輪14及び後輪24を頂点とする三角形は不等辺三角形となる。これに対し、折り畳み式のような二等辺三角形の構造では、ハンドルを片手で持ち、車輪を転がしながら前方に進んだときに、重心が身体の後方にあるように感じ、操作しにくい。本実施の形態のように不等辺三角形の構造であれば、重心は後輪24の僅か前方にかかることになる。身体より前方に出た前脚フレーム10が先導の役割を果たす。大きく方向転換するときは、後輪24を支点として前輪14を浮かせ、歩行補助具100全体を旋回させることができる。段差にぶつかったときも、後輪24を支点として前輪14を浮かせ、段差を乗り越えることができる。
【0026】
次に、歩行補助具100の直進復帰機能の構成を説明する。
図3は、
図1及び
図2中のC−C'線に沿った断面図である。
【0027】
前脚フレーム10の下端には、後輪24の側に開口するスリット10aと、スリット10aの反対側に開口するスリット10bとが形成されている。
【0028】
前脚シャフト12には、リンク30の伸長方向に沿って、スリット10a、10bに臨む貫通孔12aが形成されている。貫通孔12aには、針金等からなる回動制御棒32が嵌め込まれている。回動制御棒32は、前脚シャフト12の回動を制御するための部材である。
【0029】
回動制御棒32の末端は、スリット10bから若干外側に突出する位置に設定されている。このため、前脚シャフト12が大きく回動したときに、回動制御棒32がスリット10a、10bの左右端縁に接触し、前脚シャフト12の回動を制止するようになっている。ハンドル16の回動許容範囲が例えば左右30度ずつとした場合、スリット10a、10bの幅もこれに対応した長さにすればよい。これにより、不用意な大きな操舵を防止することができる。また、回動制御棒32は、前脚シャフト12が前脚フレーム10から抜け落ちないようにする役割も果たす。
【0030】
回動制御棒32の先端には、フック32aが形成されている。一方、リンク30には、回動制御棒32の先端から所定長の位置にフック30aが設けられている。そして、フック30a、32aの間には、コイルスプリング34が取り付けられている。コイルスプリング34により、前輪14が直進方向に復帰するように回動制御棒32に付勢力が与えられる。この機能によりハンドル16の操作が安定する。常にコイルスプリング34につながっているので、ハンドル16を操作する際に適度の粘りがあり好ましい。
【0031】
次に、本実施の形態の動作を説明する。
高齢者は、歩行補助具100を身体の側方に位置させ、ハンドル16を片手で持ち、前輪14及び後輪24を転がしながら前方に進むことができる。そして、進行中にハンドル16を操作すると、進行方向に対し前輪14が旋回し、前輪14と一体に前脚シャフト12及び回動制御棒32が回動する。このとき、リンク30に取り付けられたコイルスプリング34により回動制御棒32に付勢力が与えられるので、前輪14が直進方向に復帰する。
【0032】
次に、本実施の形態の効果を説明する。
本実施の形態では、前脚シャフト12に対しリンク30の伸長方向に取り付けられた回動制御棒32と、前輪14の角度が基準位置に復帰するように回動制御棒32に付勢力を与えるコイルスプリング34とを備える。
【0033】
これにより、前輪14の角度が小さくても、前輪14の角度に応じた付勢力がコイルスプリング34により与えられるので、従来に比して、前輪14の角度が基準位置に復帰する力を確保することができる。また、コイルスプリング34が直進復帰機能のみ担っているので、前輪14が旋回している状態で何らかの操作を行っても挙動が不安定になることはなく、従来に比して、挙動の安定性を確保することができる。さらに、前輪14が、回転機構を介さず前脚シャフト12と一体に回動するように前脚シャフト12に連結されているので、歩行補助具に対し後ろ方向の推進力が生じても前輪14が逆回転するだけで、コイルスプリング34に無理な力がかかりにくく、コイルスプリング34が破損する可能性を低減することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態では、回動制御棒32は、スリット10a、10bを跨いで取り付けられている。
【0035】
これにより、前脚シャフト12が大きく回動したときに、回動制御棒32がスリット10a、10bの左右端縁に接触し、前脚シャフト12の回動が制止されるので、不用意な大きな操舵を防止することができる。また、前脚シャフト12が前脚フレーム10から抜け落ちることを防止することができる。
【0036】
本実施の形態において、回動制御棒32は、発明1の回動制御部材に対応し、コイルスプリング34は、発明1の付勢手段に対応している。
【0037】
〔変形例〕
なお、上記実施の形態においては、歩行補助具100の各部の諸元(寸法、材質、角度等)を具体的に示したが、これに限らず、各部の諸元は任意に設定することができる。
【0038】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、前脚フレーム10、後脚フレーム20及びリンク30を溶接により連結したが、プラスチック等の連結部材で連結してもよい。
【0039】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、コイルスプリング34をフック32aで回動制御棒32に連結したが、これに限らず、回動制御棒32に直接固定してもよい。リンク30側の取付構造についても同様である。
【0040】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、コイルスプリング34を採用したが、これに限らず、他の種類の付勢手段を採用することもできる。
【0041】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、高齢者及び障害者の歩行訓練に使用する歩行補助具として本発明を適用したが、これに限らず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で他の場合にも適用可能である。例えば、訓練期間に限らず、日常使いにも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
100…歩行補助具、 10…前脚フレーム、 10a、10b…スリット、 12…前脚シャフト、 12a…貫通孔、 14…前輪、 16…ハンドル、 20…後脚フレーム、 24…後輪、 30…リンク、 32…回動制御棒、 30a、32a…フック、 34…コイルスプリング
【要約】
【課題】 直進復帰力と挙動の安定性を確保し、部品の破損を防止するのに好適な歩行補助具を提供する。
【解決手段】 歩行補助具100は、前脚フレーム10及び後脚フレーム20の上部同士が連結されるとともに、前脚フレーム10と後脚フレーム20が前後方向に開脚状態となるように前脚フレーム10と後脚フレーム20の間がリンク30で連結され、ハンドル16の操作によって前輪14の角度が変更可能となる。そして、直進復帰機能として、前脚シャフト12に対しリンク30の伸長方向に取り付けられた回動制御棒32と、前輪14の角度が基準位置に復帰するように回動制御棒32に付勢力を与えるコイルスプリング34とを備える。
【選択図】
図3