【文献】
Li CD, et al., Mesenchymal stem cells derived from human placenta suppress allogeneic umbilical cord blood lymphocyte proliferation, Cell Research, (2005.7), Vol. 15, No. 7, p. 539−547
【文献】
Zhang Y, et al., Human placenta−derived mesenchymal progenitor cel ls support culture expansion of long−term culture−initiating cells from cord blood CD34+ cells, Experimental Hematology, (2004.7), Vol. 32, No. 7, p. 657−664
【文献】
PALUDAN,C. et al, Placenta Derived Stem Cells (PDAC) suppress the Allo−MLR and the EBV regression assay, Blood, 2006, Vol.108, No.11, p.493A
【文献】
CHANG,C. et al, Placenta−derived multipotent cells exhibit immunosuppressive properties that are enhanced in the presence of interferon−γ, Stem Cells(Durham, NC, United States), 2006, Vol.24, No.11, p.2466−2477
【文献】
山口徹他編, 今日の治療指針 2004版(Volume 46), 株式会社医学書院, 2004, p.571,572
【文献】
山口徹他編, 今日の治療指針 2004版(Volume 46), 株式会社医学書院, 2004, p.838,839
【文献】
山口徹他編, 今日の治療指針 2004版(Volume 46), 株式会社医学書院, 2004, p.335−7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記治療が、次の症状:胃腸管の一部の炎症および腫脹、腹痛、腸の頻繁な排泄、下痢、直腸出血、貧血、体重減少、腸壁の肥厚、腸における瘢痕組織の形成、腸におけるただれもしくは潰瘍の形成、腸壁における1つもしくは複数の瘻孔の形成、肛門における1つもしくは複数の裂傷の発生、栄養失調の発生、出血性下痢、悪心、腹部痙攣、貧血、疲労、体重減少、食欲の喪失、体液および栄養素の喪失、正常より高いビリルビンレベル、上昇したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベル、上昇したアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベル、上昇したアルカリ性ホスファターゼ(AP)レベル、内出血、痙攣、または腸閉塞;のうち1つまたは複数において検出可能な十分な改善をもたらすことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
前記第2の治療薬が、メサラミン、5−ASA(5−アミノサリチル酸)剤、オサラジン、スルファサラジン(5−ASAとスルファピリジンの組合せ)、抗炎症性抗体、ステロイド、または免疫抑制物質である、請求項4に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0028】
5.詳細な説明
本明細書では、不適当な、望まれない、有害な、または害のある免疫応答を伴う、それから生じる、またはそれに関連する疾患、障害または状態、例えば自己免疫疾患を有する個体を治療する方法であって、疾患、障害または状態を有する個体に胎盤幹細胞および/または臍帯幹細胞を1回または複数回投与することを含む方法が提供される。そのような個体を治療する方法、および単独でまたは他の療法と組み合わせてそのような幹細胞を投与する方法を下記で詳細に論じる。
【0029】
5.1 胎盤幹細胞を使用した免疫調節
本明細書では、免疫細胞(複数可)を複数の胎盤幹細胞と接触させることによって、1つまたは複数の免疫細胞の活性、例えば増殖を調節、例えば抑制する方法が提供される。そのような免疫調節は、望まれないまたは有害な免疫応答によって引き起こされるまたはそれに関連する疾患、障害または状態、例えば炎症性腸疾患、移植片対宿主病、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、紅斑性狼瘡、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert−Bazin症候群)、または強皮症を有する個体の治療で有用である。そのような免疫調節は、例えば、同種異系組織、例えば移植された臓器、複合組織同種異系移植片などに対する宿主の免疫応答の低減または除去でも有用である。
【0030】
一実施形態では、免疫応答を抑制する方法であって、胎盤幹細胞が免疫応答を検出可能な程度に抑制するのに十分な時間、複数の免疫細胞を複数の前記胎盤幹細胞と接触させることを含み、前記胎盤幹細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイまたはリグレッションアッセイでT細胞増殖を検出可能な程度に抑制する方法が本明細書で提供される。
【0031】
胎盤幹細胞は、例えば、本明細書の他の箇所に記載した胎盤幹細胞である(第5.2節を参照)。免疫抑制に使用する胎盤幹細胞は、単一の胎盤または複数の胎盤に由来するものでもよく、またはそれから得ることもできる。免疫抑制に使用する胎盤幹細胞は、単一の種、例えば意図するレシピエントの種、または機能が低減しもしくは抑制される免疫細胞の種に由来するものでもよく、あるいは複数の種に由来するものでもよい。
【0032】
この方法との関連で「免疫細胞(immune cell)」とは、免疫系の任意の細胞、特にT細胞およびNK(ナチュラルキラー)細胞を意味する。したがって、その方法の様々な実施形態では、胎盤幹細胞を複数の免疫細胞と接触させ、複数の免疫細胞は、複数のT細胞(例えば、複数のCD3
+T細胞、CD4
+T細胞および/またはCD8
+T細胞)および/もしくはナチュラルキラー細胞であり、またはそれを含む。その方法との関連で「免疫応答(immune response)」とは、免疫細胞によって正常に認知される刺激に対する免疫細胞による任意の応答、例えば抗原の存在に対する応答でありうる。様々な実施形態では、免疫応答は、輸血もしくは移植片中に存在する抗原などの外来抗原、または自己免疫疾患などでの自己抗原に応答したT細胞(例えば、CD3
+T細胞、CD4
+T細胞および/またはCD8
+T細胞)の増殖でありうる。免疫応答は、移植片内に含まれるT細胞の増殖でもありうる。免疫応答は、ナチュラルキラー(NK)細胞の任意の活性、樹状細胞の成熟などでもありうる。免疫応答は、1つまたは複数のクラスの免疫細胞の活性の、局所での、組織もしくは臓器特異的な、または全身での効果でもあり得、例えば、免疫応答は、移植片対宿主病、炎症、炎症に関連する瘢痕組織の形成、自己免疫状態(例えば、関節リウマチ、I型糖尿病、紅斑性狼瘡など)などでありうる。
【0033】
これに関連して「接触させること(contacting)」は、胎盤幹細胞と免疫細胞を単一の容器(例えば、培養皿、フラスコ、バイアルなど)中に、またはin vivoで、例えば同じ個体(例えば、哺乳動物、例えばヒト)中に一緒に入れることを包含する。好ましい実施形態では、接触は、免疫細胞の免疫機能の変化が検出可能となるのに十分な時間で、十分な数の胎盤幹細胞および免疫細胞を用いて行う。より好ましくは、様々な実施形態において、前記接触は、胎盤幹細胞の不在下での免疫機能と比較して、免疫機能(例えば、抗原に応答したT細胞の増殖)を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%抑制するのに十分である。in vivoの状況でのそのような抑制は、in vitroアッセイで決定することができる(下記を参照);すなわち、in vitroアッセイにおける抑制の程度を、特定の数の胎盤幹細胞およびレシピエント個体中のいくつかの免疫細胞について、個体における抑制の程度に外挿することができる。
【0034】
特定の実施形態では、胎盤幹細胞を使用して、免疫応答、または1つもしくは複数の型の複数の免疫細胞の活性をin vitroで調節する方法が本明細書で提供される。胎盤幹細胞および複数の免疫細胞を接触させることは、複数の胎盤幹細胞の少なくとも一部が複数の免疫細胞の少なくとも一部と相互作用するように同じ物理的空間中で胎盤幹細胞と免疫細胞を混合すること;培地が共通する別々の物理的空間中で胎盤幹細胞および免疫細胞を維持することを含んでもよく、または胎盤幹細胞もしくは免疫細胞の1つもしくはその培養物に由来する培地を他の型の細胞と接触させること(例えば、胎盤幹細胞の培養物に由来する培地を得、単離免疫細胞をその倍地中で再懸濁すること)を含んでもよい。具体例では、混合リンパ球反応(Mixed Lymphocyte Reaction)(MLR)で接触を行う。別の具体例では、リグレッションアッセイで接触を行う。
【0035】
そのような接触は、例えば、特定の複数の胎盤幹細胞が免疫調節性、例えば免疫抑制性である程度を決定するように設計された実験的設定で起こすことができる。そのような実験的設定は、例えば、混合リンパ球反応(MLR)またはリグレッションアッセイでありうる。MLRおよびリグレッションアッセイを行う手順は当技術分野で周知である。例えば、Schwarz、「The Mixed Lymphocyte Reaction:An In Vitro Test for Tolerance」、J.Exp.Med.127(5):879〜890(1968);Lacerdaら、「Human Epstein−Barr Virus(EBV)−Specific Cytotoxic T Lymphocytes Home Preferentially to and Induce Selective Regressions of Autologous EBV−Induced B Lymphoproliferations in Xenografted C.B−17 Scid/Scid Mice」、J.Exp.Med.183:1215〜1228(1996)を参照されたい。好ましい実施形態では、複数の胎盤幹細胞が複数の免疫細胞(例えば、リンパ球、例えばCD3
+、CD4
+および/またはCD8
+Tリンパ球)と接触するMLRを行う。
【0036】
MLRを使用して、複数の胎盤幹細胞の免疫抑制能を決定することができる。例えば、CD4
+またはCD8
+T細胞、樹状細胞(DC)および胎盤幹細胞を約10:1:2の比で混合することを含むMLRで複数の胎盤幹細胞を試験することができ、ここで、T細胞は例えば娘細胞に分配されるCFSEなどの色素で染色し、T細胞を約6日間増殖させる。胎盤幹細胞の存在下での6日目のT細胞の増殖が、DCの存在下および胎盤幹細胞の不在下でのT細胞の増殖と比較して検出可能な程度に低減した場合、複数の胎盤幹細胞は免疫抑制性である。そのようなMLRでは、胎盤幹細胞を解凍し、または培養からそれを回収する。約20,000個の胎盤幹細胞を培地100μl(RPMI1640、1mM HEPES緩衝液、抗生物質、および5%プールヒト血清)中に再懸濁し、ウェルの底に2時間付着させる。全末梢血単核細胞Miltenyi磁性ビーズから、CD4
+および/またはCD8
+T細胞を単離する。細胞をCFSEで染色し、1ウェル当たり合計100,000個のT細胞(CD4
+T細胞単独、CD8
+T細胞単独、または等量のCD4
+およびCD8
+T細胞)を添加する。ウェル中の体積を200μlにし、MLRを進める。
【0037】
したがって、一実施形態では、免疫応答を抑制する方法であって、混合リンパ球反応(MLR)アッセイまたはリグレッションアッセイで胎盤幹細胞がT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制するのに十分な時間、複数の免疫細胞を複数の前記胎盤幹細胞と接触させることを含む方法が本明細書で提供される。一実施形態では、MLRで使用する前記胎盤幹細胞は、胎盤幹細胞のより大きな集団に由来する試料または胎盤幹細胞のアリコートとなる。
【0038】
異なる胎盤、または同じ胎盤内の異なる組織から得られた胎盤幹細胞の集団は、免疫細胞の活性を調節する能力が異なる可能性があり、例えば、T細胞の活性もしくは増殖またはNK細胞の活性を抑制する能力が異なる可能性がある。したがって、使用する前に、胎盤幹細胞の特定の集団の免疫抑制能を決定することが望ましい。そのような能力は、例えば、MLRまたはリグレッションアッセイで胎盤幹細胞集団の試料を試験することにより決定することができる。一実施形態では、その試料を用いてMLRを行い、そのアッセイにおいて、胎盤幹細胞に起因しうる免疫抑制の程度を決定する。次いで、この免疫抑制の程度が、試料採取した胎盤幹細胞集団に起因すると考えることができる。したがって、免疫機能を抑制する、胎盤幹細胞の特定の集団の絶対的および相対的な能力を決定する方法として、MLRを使用することができる。MLRのパラメーターを変化させて、より多くのデータをもたらし、胎盤幹細胞の試料の免疫抑制能を最良に決定することができる。例えば、胎盤幹細胞による免疫抑制はアッセイ中に存在する胎盤幹細胞の数にほぼ比例して増大するように見える(appears)ので、一実施形態では、1反応当たり2つ以上の数の胎盤幹細胞、例えば1×10
3、3×10
3、1×10
4、および/または3×10
4個の胎盤幹細胞を用いてMLRを行うことができる。アッセイ中のT細胞の数に対して胎盤幹細胞の数を変化させることもできる。比較的多数の胎盤幹細胞またはT細胞を使用できるが、例えば、アッセイ中の胎盤幹細胞およびT細胞は、任意の比、例えば約10:1〜約1:10、好ましくは約1:5で存在しうる。
【0039】
同様にリグレッションアッセイを使用することができる。
【0040】
本明細書では、胎盤幹細胞を使用して、免疫応答、または1つもしくは複数の型の複数の免疫細胞の活性をin vivoで調節する方法が提供される。例えば、複数の胎盤幹細胞のレシピエントである個体中で、胎盤幹細胞および免疫細胞を接触させることができる。個体中で接触を行う場合、一実施形態では、その接触は、外因性の胎盤幹細胞(すなわち、個体に由来しない胎盤幹細胞)と、その個体にとって内因性である複数の免疫細胞との接触である。具体的な実施形態では、個体内の免疫細胞は、CD3
+T細胞、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、および/またはNK細胞である。
【0041】
胎盤幹細胞を使用したそのような免疫抑制は、不適当なまたは望まれない免疫応答によって引き起こされるもしくは悪くなる、またはそれに関連する任意の状態に有利となるはずである。胎盤幹細胞媒介性の免疫調節、例えば免疫抑制は、例えば、1つまたは複数の個体自体の組織に対する、個体の免疫系によって生じた不適当な免疫応答の抑制で有用となるはずである。したがって、様々な実施形態では、免疫応答を抑制する方法であって、その免疫応答が、自己免疫疾患、例えば紅斑性狼瘡、糖尿病、関節リウマチ、または多発性硬化症である方法が本明細書で提供される。
【0042】
複数の胎盤幹細胞と1つまたは複数の型の複数の免疫細胞の接触は、例えば、レシピエント個体への1つまたは複数の型の組織の移植(graftingまたはtransplanting)との関連で、またはその補助として、in vivoで行うことができる。そのような組織は、例えば、骨髄または血液;臓器;特定の組織(例えば、皮膚移植片);複合組織同種異系移植片(すなわち、2つ以上の異なる型の組織を含む移植片)などでよい。これに関して、胎盤幹細胞を使用して、レシピエント個体内に、移植組織もしくは移植片内に、またはその両方に含まれる1つまたは複数の免疫細胞の1つまたは複数の免疫応答を抑制することができる。接触は、移植(graftingまたはtransplanting)の前、その間、および/またはその後に行うことができる。例えば、移植(transplantまたはgraft)時に胎盤幹細胞を投与することができる。あるいは、移植(transplantingまたはgrafting)の前、例えば、移植(transplantingまたはgrafting)の約1、2、3、4、5、6または7日前に胎盤幹細胞を投与することもできる。あるいは、移植(transplantingまたはgrafting)の後、例えば、移植(transplantingまたはgrafting)の約1、2、3、4、5、6または7日後に胎盤幹細胞を投与することもできる。好ましくは、レシピエント個体または移植組織もしくは移植片による免疫応答の任意の検出可能な徴候または症状、例えば、移植片対宿主病の検出可能な徴候もしくは症状または検出可能な炎症が検出可能となる前に、複数の胎盤幹細胞を複数の胎盤幹細胞と接触させる。
【0043】
別の実施形態では、個体内での接触は主として、外因性の胎盤幹細胞と、外因性の前駆細胞または幹細胞、例えば免疫細胞に分化する外因性の前駆細胞または幹細胞との接触である。例えば、癌療法の補助として部分的または完全な免疫除去または骨髄除去を受けている個体に、1つまたは複数の他の型の幹細胞または前駆細胞と組み合わせて胎盤幹細胞を投与することができる。例えば、胎盤幹細胞を複数のCD34
+細胞、例えばCD34
+造血幹細胞と組み合わせることができる。そのようなCD34
+細胞は、例えば、末梢血、臍帯血、胎盤血や骨髄などの組織供給源由来のCD34
+細胞でよい。そのような組織供給源からCD34
+細胞を単離することもでき、または組織供給源全体(例えば、臍帯血または骨髄の単位)もしくは組織供給源から部分的に精製された調製物(例えば、臍帯血由来の白血球)を胎盤幹細胞と組み合わせることもできる。胎盤幹細胞と、臍帯血、または臍帯血由来の幹細胞の組合せは、Hariri、米国出願公開第2003/0180269号に記載されている。
【0044】
個体中の既知のまたは予想される数の免疫細胞、例えばT細胞に対して約10:1〜約1:10、好ましくは約1:5の比で、胎盤幹細胞を個体に投与することができる。しかし、非限定的な例では、約10,000:1、約1,000:1、約100:1、約10:1、約1:1、約1:10、約1:100、約1:1,000または約1:10,000の比で複数の胎盤幹細胞を個体に投与することができる。一般に、レシピエント1キログラム当たり約1×10
5〜約1×10
8個の胎盤幹細胞、好ましくはレシピエント1キログラム当たり約1×10
6〜約1×10
7個の胎盤幹細胞を投与して、免疫抑制を実施することができる。様々な実施形態では、個体または対象に投与する複数の胎盤幹細胞は、少なくとも、約または多くとも1×10
5、3×10
5、1×10
6、3×10
6、1×10
7、3×10
7、1×10
8、3×10
8、1×10
9、3×10
9個、またはそれ以上の胎盤幹細胞を含む。
【0045】
1つまたは複数の第2の型の幹細胞、例えば骨髄由来の間葉系幹細胞と共に胎盤幹細胞を投与することもできる。そのような第2の幹細胞は、例えば約1:10〜約10:1の比で胎盤幹細胞と共に個体に投与することができる。
【0046】
in vivoでの胎盤幹細胞と免疫細胞の接触を促進するために、胎盤幹細胞と免疫細胞を互いに接触させるのに十分な任意の経路によって、胎盤幹細胞を個体に投与することができる。例えば、胎盤幹細胞を個体に、例えば静脈内、筋内、腹腔内、眼内、非経口、または臓器、例えば膵臓中に直接投与することができる。in vivo投与では、下記の5.6.1節に記載のように、胎盤幹細胞を医薬組成物として製剤化することができる。
【0047】
免疫抑制の方法は、特にin vivoの状況で、1つまたは複数の免疫抑制剤の添加をさらに含んでよい。一実施形態では、複数の胎盤幹細胞を個体中でin vivoで複数の免疫細胞と接触させ、免疫抑制剤を含む組成物をその個体に投与する。免疫抑制剤は当技術分野で周知であり、それには、抗T細胞受容体抗体(モノクローナルもしくはポリクローナル、またはその抗体断片もしくは誘導体)、抗IL−2受容体抗体(例えば、バシリキシマブ(SIMULECT(登録商標))またはダクリズマブ(ZENAPAX(登録商標)))、抗T細胞受容体抗体(例えば、ムロモナブ−CD3)、アザチオプリン、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、カルシニューリン阻害剤などがある。具体的な実施形態では、免疫抑制剤は、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−1αまたはMIP−1βに対する中和抗体である。好ましくは、前記個体におけるMIP−1αおよび/またはMIP−1βの量の検出可能な低減を引き起こすのに十分な量の抗MIP−1αまたはMIP−1β抗体を、例えば移植時に投与する。
【0048】
5.2 胎盤幹細胞および胎盤幹細胞集団
本明細書で提供される免疫抑制の方法は、胎盤幹細胞、すなわち胎盤またはその一部から得ることができる幹細胞を使用し、この細胞は、(1)組織培養基質に接着し、(2)非胎盤細胞型への分化能を有し、(3)十分な数で、混合リンパ球反応アッセイまたはリグレッションアッセイにおける免疫機能、例えばCD4
+および/またはCD8
+T細胞の増殖の検出可能な抑制能を有する。胎盤幹細胞は、血液、例えば胎盤血または臍帯血に由来しない。本明細書で提供される方法および組成物で使用される胎盤幹細胞は、個体の免疫系の抑制能を有し、その能力について選択される。
【0049】
胎盤幹細胞は、胎児または母系由来のものでありうる(つまり、母系または胎児の遺伝子型のいずれかを有しうる)。胎盤幹細胞の集団、または胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、胎児または母系のみに由来するものである胎盤幹細胞を含みうるか、あるいは胎児と母系の両方に由来する胎盤幹細胞の混合集団を含みうる。胎盤幹細胞、および胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、以下で論じる形態、マーカーおよび培養の特徴により同定して選択できる。
【0050】
5.2.1 物理的および形態学的特徴
本明細書に記載のように使用される胎盤幹細胞は、初代培養または細胞培養において培養する場合、組織培養基質、例えば組織培養容器表面(例えば組織培養プラスチック)に接着する。培養中の胎盤幹細胞は、全般的に線維芽細胞様の星型の外観を呈し、細胞の中心体からいくつかの細胞質内突起が延伸する。しかし、胎盤幹細胞は、同じ条件下で培養される線維芽細胞とは形態的に区別可能である。なぜなら、胎盤幹細胞は、線維芽細胞よりも多数のそのような突起を示すからである。形態学的に、胎盤幹細胞は、一般的により丸いまたは丸石の形態を培養において呈し、造血幹細胞からも区別可能である。
【0051】
5.2.2 細胞表面分子および遺伝子マーカー
本明細書で提供される方法および組成物において有用な胎盤幹細胞、および胎盤幹細胞集団は、幹細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団を同定および/または単離するために用いうる複数のマーカーを発現する。胎盤幹細胞、および幹細胞集団(つまり、2つ以上の胎盤幹細胞)は、胎盤またはその任意の部分(例えば羊膜、絨毛膜、胎盤絨毛叢など)から直接得られる幹細胞および幹細胞含有細胞集団を含む。胎盤幹細胞集団は、培養における胎盤幹細胞の集団(つまり、2つ以上)、および例えばバッグなどの容器内の集団も含む。しかし、胎盤幹細胞は、栄養膜(trophoblast)ではない。
【0052】
胎盤幹細胞は一般に、マーカーCD73、CD105、CD200、HLA−G、および/またはOCT−4を発現し、CD34、CD38、またはCD45は発現しない。胎盤幹細胞は、HLA−ABC(MHC−1)およびHLA−DRを発現することもできる。これらのマーカーを使用して、胎盤幹細胞を同定し、胎盤幹細胞を他の幹細胞型と区別することができる。胎盤幹細胞はCD73およびCD105を発現することができるので、それは、間葉系幹細胞様の特徴を有しうる。しかし、胎盤幹細胞は胎児特異的マーカーであるCD200およびHLA−Gを発現することができるので、それはCD200もHLA−Gも発現しない間葉系幹細胞、例えば骨髄由来間葉系幹細胞と区別することができる。同様に、CD34、CD38および/またはCD45の発現の欠如から、非造血幹細胞として胎盤幹細胞が同定される。
【0053】
一実施形態では、CD200
+、HLA−G
+である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団であって、前記複数の細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する集団が提供される。その単離集団の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD73
+およびCD105
+でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、CD73
+およびCD105
+でもある。別の実施形態では、前記単離集団は、胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに1つまたは複数の胚様体を産生する。
【0054】
別の実施形態では、CD73
+、CD105
+、CD200
+である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団であって、前記複数の細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する集団が提供される。前記集団の具体的な実施形態では、前記幹細胞はHLA−G
+である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-である。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、およびHLA−G
+である。別の具体的な実施形態では、前記細胞の集団は、胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに1つまたは複数の胚様体を産生する。
【0055】
本明細書で提供される組成物および方法で有用な単離細胞集団は、CD200
+、OCT−4
+である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含んでよく、前記複数の細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する。具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD73
+およびCD105
+である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞はHLA−G
+である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-である。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、CD73
+、CD105
+、およびHLA−G
+である。別の具体的な実施形態では、その集団は、胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに1つまたは複数の胚様体を産生する。
【0056】
本明細書では、CD73
+、CD105
+、およびHLA−G
+である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団であって、前記複数の細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する集団も本明細書で提供される。上記複数の細胞の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞はOCT−4
+でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞はCD200
+でもある。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、OCT−4
+およびCD200
+でもある。
【0057】
本明細書ではCD73
+、CD105
+幹細胞である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団であって、前記複数の細胞が、胚様体の形成を可能にする条件下で1つまたは複数の胚様体を形成し、前記複数の細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する集団がさらに提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞はOCT−4
+でもある。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、OCT−4
+、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある。
【0058】
OCT−4
+幹細胞である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団であって、前記集団が、胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに1つまたは複数の胚様体を形成し、前記複数の細胞が、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する集団も本明細書で提供される。様々な実施形態では、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の前記単離胎盤細胞がOCT−4
+幹細胞である。上記集団の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD73
+およびCD105
+である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-である。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞はCD200
+である。より具体的な実施形態では、前記幹細胞は、CD73
+、CD105
+、CD200
+、CD34
-、CD38
-、およびCD45
-である。別の具体的な実施形態では、前記集団は増殖させられており、例えば、少なくとも1回、少なくとも3回、少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも15回、または少なくとも20回継代している。
【0059】
本明細書で提供される免疫抑制性胎盤幹細胞には、単離胎盤幹細胞、単離胎盤幹細胞の集団、または胎盤幹細胞を含む細胞の単離集団があり、その胎盤幹細胞は、CD10
+、CD34
-、CD105
+およびCD200
+である。
【0060】
本明細書では、CD29
+、CD44
+、CD73
+、CD90
+、CD105
+、CD200
+、CD34
-およびCD133
-である複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含む単離細胞集団も提供される。
【0061】
別の実施形態では、本明細書で提供される組成物および方法で有用な幹細胞は、HLA−A、B、C
-、CD45
-、CD133
-およびCD34
-である単離胎盤幹細胞である。本明細書では、胎盤幹細胞の単離集団であって、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の前記胎盤幹細胞がHLA−A、B、C
-、CD45
-、CD133
-およびCD34
-である集団がさらに提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、幹細胞でない胎盤細胞を避けて単離する。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞の集団は、これらの特徴を示さない胎盤幹細胞を避けて単離する。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の前記単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%が非母系由来のものである。別の実施形態では、HLA−A、B、C
-、CD45
-、CD133
-およびCD34
-である胎盤幹細胞を得る方法であって、胎盤灌流液から前記細胞を単離することを含む方法が本明細書で提供される。
【0062】
別の実施形態では、CD10
+、CD13
+、CD33
+、CD45
-、CD117
-およびCD133
-である単離胎盤幹細胞が本明細書で提供される。本明細書では、胎盤幹細胞の単離集団であって、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の前記胎盤幹細胞がCD10
+、CD13
+、CD33
+、CD45
-、CD117
-およびCD133
-である集団がさらに提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、幹細胞でない胎盤細胞を避けて単離する。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の前記単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%が非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、これらの特徴を示さない胎盤幹細胞を避けて単離する。別の実施形態では、CD10
+、CD13
+、CD33
+、CD45
-、CD117
-およびCD133
-である胎盤幹細胞を得る方法であって、胎盤灌流液から前記細胞を単離することを含む方法が本明細書で提供される。
【0063】
別の実施形態では、CD10
-、CD33
-、CD44
+、CD45
-、およびCD117
-である単離胎盤幹細胞が本明細書で提供される。本明細書では、胎盤幹細胞の単離集団であって、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の前記胎盤幹細胞がCD10
-、CD33
-、CD44
+、CD45
-、およびCD117
-である集団も提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、幹細胞でない胎盤細胞を避けて単離する。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の前記単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%が非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、これらの特徴を示さない胎盤幹細胞を避けて単離する。別の実施形態では、CD10
-、CD33
-、CD44
+、CD45
-、およびCD117
-である胎盤幹細胞を得る方法であって、胎盤灌流液から前記細胞を単離することを含む方法が本明細書で提供される。
【0064】
別の実施形態では、CD10
-、CD13
-、CD33
-、CD45
-、およびCD117
-である単離胎盤幹細胞が本明細書で提供される。胎盤幹細胞の単離集団であって、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の前記胎盤幹細胞がCD10
-、CD13
-、CD33
-、CD45
-、およびCD117
-である集団がさらに提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、幹細胞でない胎盤細胞を避けて単離する。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の前記単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%が非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、これらの特徴を示さない胎盤幹細胞を避けて単離する。別の実施形態では、CD10
-、CD13
-、CD33
-、CD45
-、およびCD117
-である胎盤幹細胞を得る方法であって、胎盤灌流液から前記細胞を単離することを含む方法も本明細書で提供される。
【0065】
別の実施形態では、HLA A,B,C
-、CD45
-、CD34
-、CD133
-であり、CD10、CD13、CD38、CD44、CD90、CD105、CD200および/もしくはHLA−Gについて陽性であり、かつ/またはCD117について陰性である単離胎盤幹細胞が本明細書で提供される。本明細書では、胎盤幹細胞の単離集団であって、前記幹細胞がHLA A,B,C
-、CD45
-、CD34
-、CD133
-であり、集団中の幹細胞の少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または約99%が、CD10、CD13、CD38、CD44、CD90、CD105、CD200および/もしくはHLA−Gについて陽性であり、かつ/またはCD117について陰性である集団も提供される。具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、幹細胞でない胎盤細胞から単離されている。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞の単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%が非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞または胎盤幹細胞の集団は、これらの特徴を示さない胎盤幹細胞から単離されている。別の実施形態では、本明細書で、HLA A,B,C
-、CD45
-、CD34
-、CD133
-であり、CD10、CD13、CD38、CD44、CD90、CD105、CD200および/もしくはHLA−Gについて陽性であり、かつ/またはCD117について陰性である胎盤幹細胞を得る方法であって、前記細胞を胎盤灌流液から単離することを含む方法が提供される。
【0066】
別の実施形態では、抗体結合により決定されるようにCD200
+およびCD10
+であり、抗体結合およびRT−PCRの両方により決定されるようにCD117
-である胎盤幹細胞が本明細書で提供される。別の実施形態では、CD10
+、CD29
-、CD54
+、CD200
+、HLA−G
+、HLAクラスI
-およびβ−2−ミクログロブリン
-である胎盤幹細胞が本明細書で提供される。別の実施形態では、本明細書で、胎盤幹細胞であって、少なくとも1つのマーカーの発現が、間葉系幹細胞(例えば骨髄由来間葉系幹細胞)についてよりも少なくとも2倍高い胎盤幹細胞が提供される。別の具体的な実施形態では、前記単離胎盤幹細胞は非母系由来のものである。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞の単離集団中の前記細胞の少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%が非母系由来のものである。
【0067】
別の実施形態では、胎盤幹細胞の単離集団であって、前記複数の胎盤幹細胞が、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性アッセイにより評価されるように、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)について陽性である集団が本明細書で提供される。このようなアッセイは、当技術分野において知られている(例えば、BostianおよびBetts、Biochem.J.、173、787、(1978)を参照されたい)。具体的な実施形態では、前記ALDHアッセイは、ALDEFLUOR(登録商標)(Aldagen,Inc.、Ashland、Oregon)を、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性のマーカーとして用いる。具体的な実施形態では、前記複数の細胞は、前記細胞集団中の細胞の約3%〜約25%である。別の実施形態では、臍帯幹細胞の集団であって、前記複数の臍帯幹細胞が、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の指標としてALDEFLUOR(登録商標)を使用するアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性アッセイにより評価されるように、アルデヒドデヒドロゲナーゼについて陽性である集団が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記複数の細胞は、前記細胞集団中の細胞の約3%〜約25%である。別の実施形態では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞の前記集団は、細胞数が同じでかつ同じ条件下で培養された骨髄由来間葉系幹細胞の集団よりも、少なくとも3倍、または少なくとも5倍高いALDH活性を示す。
【0068】
上記胎盤幹細胞、または胎盤幹細胞の集団のいずれかについて、幹細胞、または胎盤幹細胞の集団は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、もしくは20回以上継代している、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38もしくは40回以上の集団倍加で増殖させている細胞であり、またはそれを含んでよい。
【0069】
上記胎盤細胞または細胞集団のいずれかの具体的な実施形態では、その細胞、または前記集団中の少なくとも約95%もしくは約99%の細胞の核型は正常である。上記胎盤細胞または細胞集団のいずれかの別の具体的な実施形態では、その細胞、または細胞の集団中の細胞は非母系由来のものである。
【0070】
上記マーカーの組合せのいずれかを有する単離胎盤幹細胞、または胎盤幹細胞の単離集団を任意の比で組み合わせることができる。任意の2つ以上の上記胎盤幹細胞集団を単離または濃縮して、胎盤幹細胞集団を形成することができる。例えば、上記に記載のマーカーの1つの組合せによって定義される胎盤幹細胞の第1の集団を含む胎盤幹細胞の単離集団を、上記に記載のマーカーの別の組合せによって定義される胎盤幹細胞の第2の集団と組み合わせることができ、前記第1と第2の集団を、約1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2、または約99:1の比で組み合わせる。同様に、任意の3、4、5つまたはそれ以上の上記に記載の胎盤幹細胞または胎盤幹細胞集団を組み合わせることができる。
【0071】
上記に挙げた胎盤幹細胞の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞は、IL−6、IL−8および単球走化性タンパク質(MCP−I)を構成的に分泌する。
【0072】
複数の免疫抑制性胎盤幹細胞は、約1×10
5、5×10
5、1×10
6、5×10
6、1×10
7、5×10
7、1×10
8、5×10
8、1×10
9、5×10
9、1×10
10、5×10
10、1×10
11もしくはそれより多く、または少なくともこれらの数、またはこれらの数以下の胎盤幹細胞を含みうる。
【0073】
5.2.3 胎盤幹細胞集団の選択および作製
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法が本明細書で提供され、その方法は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の細胞がCD200
+、HLA−G
+の胎盤幹細胞である胎盤細胞の集団を選択することを含み、前記胎盤幹細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する。具体的な実施形態では、前記選択は、CD73
+およびCD105
+でもある幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、CD73
+およびCD105
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに、1つまたは複数の胚様体を産生する複数の胎盤幹細胞を選択することも含む。
【0074】
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法であって、前記細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%がCD73
+、CD105
+、CD200
+胎盤幹細胞であり、前記胎盤幹細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞増殖を検出可能な程度に抑制する複数の胎盤細胞を選択することを含む方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記選択は、HLA−G
+でもある幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-、CD45
-およびHLA−G
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、胚様体の形成を可能にする条件下で集団を培養したときに、1つまたは複数の胚様体を産生する胎盤細胞の集団を選択することをさらに含む。
【0075】
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法であって、前記細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%がCD200
+、OCT−4
+胎盤幹細胞であり、前記胎盤幹細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞増殖を検出可能な程度に抑制する複数の胎盤細胞を選択することを含む方法も本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記選択は、CD73
+およびCD105
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、HLA−G
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、CD73
+、CD105
+およびHLA−G
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。
【0076】
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法であって、前記細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%がCD73
+、CD105
+およびHLA−G
+胎盤幹細胞であり、前記胎盤幹細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイでT細胞増殖を検出可能な程度に抑制する複数の胎盤細胞を選択することを含む方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD200
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-、CD45
-、OCT−4
+およびCD200
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。
【0077】
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法であって、前記細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%がCD73
+、CD105
+胎盤幹細胞である複数の胎盤細胞を選択することを含み、前記複数の細胞が、胚様体の形成を可能にする条件下で、1つまたは複数の胚様体を形成する方法も本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、OCT−4
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。より具体的な実施形態では、前記選択は、OCT−4
+、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。
【0078】
別の実施形態では、複数の胎盤細胞から複数の免疫抑制性胎盤幹細胞を選択する方法であって、前記単離胎盤細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%がOCT4
+幹細胞である複数の胎盤細胞を選択することを含み、前記複数の細胞が、胚様体の形成を可能にする条件下で、1つまたは複数の胚様体を形成する方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、前記選択は、CD73
+およびCD105
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD34
-、CD38
-またはCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。別の具体的な実施形態では、前記選択は、CD200
+でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。より具体的な実施形態では、前記選択は、CD73
+、CD105
+、CD200
+、CD34
-、CD38
-およびCD45
-でもある胎盤幹細胞を選択することを含む。
【0079】
本明細書で提供される方法に従って、胎盤幹細胞の免疫抑制性集団、または複数の胎盤幹細胞を作製することができる。例えば、本明細書では、細胞集団を作製する方法であって、上記に記載の複数の胎盤幹細胞のいずれかを選択することと、複数の胎盤幹細胞を、その他の細胞、例えばその他の胎盤細胞から単離することとを含む方法が提供される。具体的な実施形態では、細胞集団を作製する方法であって、(a)基質に接着し;(b)CD200およびHLA−Gを発現し、またはCD73、CD105、およびCD200を発現し、またはCD200およびOCT−4を発現し、またはCD73、CD105、およびHLA−Gを発現し、またはCD73およびCD105を発現し、胚様体の形成を可能にする条件下で幹細胞を含む胎盤細胞の集団を培養したときに前記集団における1つもしくは複数の胚様体の形成を促進し、またはOCT−4を発現し、胚様体の形成を可能にする条件下で幹細胞を含む胎盤細胞の集団を培養したときに前記集団における1つもしくは複数の胚様体の形成を促進し;(c)MLR(混合リンパ球反応)またはリグレッションアッセイでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤細胞を選択することと;他の細胞から前記胎盤細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む方法が本明細書で提供される。
【0080】
より具体的な実施形態では、(a)基質に接着し、(b)CD200およびHLA−Gを発現し、(c)MLR(混合リンパ球反応)でCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む方法によって、免疫抑制性胎盤幹細胞集団を作製することができる。別の具体的な実施形態では、その方法は、(a)基質に接着し、(b)CD73、CD105、およびCD200を発現し、(c)MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む。別の具体的な実施形態では、細胞集団を作製する方法であって、(a)基質に接着し、(b)CD200およびOCT−4を発現し、(c)MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む方法が本明細書で提供される。別の具体的な実施形態では、細胞集団を作製する方法であって、(a)基質に接着し、(b)CD73およびCD105を発現し、(c)胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに胚様体を形成し、(d)MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む方法が本明細書で提供される。別の具体的な実施形態では、その方法は、(a)基質に接着し、(b)CD73、CD105、およびHLA−Gを発現し、(c)MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む。細胞集団を作製する方法であって、(a)基質に接着し、(b)OCT−4を発現し、(c)胚様体の形成を可能にする条件下で培養したときに胚様体を形成し、(d)MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制する胎盤幹細胞を選択することと、他の細胞から前記胎盤幹細胞を単離して細胞集団を形成することとを含む方法。
【0081】
免疫抑制性胎盤幹細胞集団を作製する方法の具体的な実施形態では、前記T細胞および前記胎盤細胞は、前記MLRにおいて約5:1の比で存在する。その方法で使用する胎盤細胞は、胎盤全体に、または主として羊膜、もしくは羊膜および絨毛膜に由来するものでよい。別の具体的な実施形態では、胎盤細胞は、前記胎盤細胞の不在下での前記MLRにおけるT細胞増殖の量と比較して、前記MLRでCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、または少なくとも95%抑制する。その方法は、免疫調節、例えば他の免疫細胞の活性の、例えばナチュラルキラー(NK)細胞の活性の抑制が可能な胎盤幹細胞集団の選択および/または作製をさらに含んでよい。
【0082】
5.2.4 培養における増殖
任意の哺乳動物細胞の場合と同様に、本明細書に記載される胎盤幹細胞の増殖は、増殖のために選択される特定の培地に部分的に依存する。最適条件下において、胎盤幹細胞は、典型的には、3〜5日間で数が倍加する。培養の間に、本明細書で提供される胎盤幹細胞は、培養における基質、例えば組織培養容器(例えば組織培養皿のプラスチック、フィブロネクチン被覆プラスチックなど)の表面に接着して、単層を形成する。
【0083】
本明細書で提供される胎盤幹細胞を含む単離胎盤細胞の集団は、適切な条件下で培養したときに、胚様体を形成し、つまり、接着性幹細胞層の頂上に細胞の三次元クラスターが増殖する。胚様体の中の細胞は、例えばOCT−4、Nanog、SSEA3およびSSEA4などの非常に初期の幹細胞に関連するマーカーを発現する。胚様体の中の細胞は、典型的には、本明細書に記載される胎盤幹細胞と同様に、培養基質に接着しないが、培養の間は接着性細胞に付着したままである。胚様体は接着性幹細胞の不在下では形成されないので、胚様体の細胞の生存性は、接着性胎盤幹細胞に依存する。つまり、接着性胎盤幹細胞は、接着性胎盤幹細胞を含む胎盤細胞の集団において、1つまたは複数の胚様体の増殖を促進する。理論に束縛されることを望むものではないが、胚様体の細胞は、胚性幹細胞が支持細胞層上で増殖するのと同程度に接着性胎盤幹細胞上で増殖すると考えられる。例えば骨髄由来間葉系幹細胞などの間葉系幹細胞は、培養において胚様体を生じない。
【0084】
5.2.5 分化
本明細書で提供される、不適当または有害な免疫応答、例えば炎症に伴うまたはそれによって引き起こされる疾患、障害または状態を治療する方法で有用な胎盤幹細胞は、異なる系統に方向付けられた細胞系統に分化可能である。例えば、胎盤幹細胞は、脂肪生成、軟骨形成、神経性、または骨形成系列の細胞に分化することができる。そのような分化は、例えば、例えば骨髄由来間葉系幹細胞を類似した細胞系列に分化させることについて当技術分野で知られている任意の方法によって、または本明細書の他の箇所に記載の方法によって実現することができる。
【0085】
本明細書で提供される胎盤幹細胞および臍帯血幹細胞は、in vitro、in vivo、またはin vitroおよびin vivoで、特定の細胞系列への分化能を示すことができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される胎盤幹細胞および臍帯血幹細胞は、特定の細胞系列への分化を引き起こすまたは促進する状態に置いたときに、in vitroで分化することができるが、例えば、NOD−SCIDマウスモデルでは、in vivoで検出可能な程度には分化しない。
【0086】
5.3 胎盤幹細胞を得る方法
5.3.1 幹細胞回収組成物
本明細書で提供される方法に従って、胎盤幹細胞を回収および単離することができる。一般に、幹細胞は、生理的に許容される溶液、例えば幹細胞収集組成物を使用して、哺乳動物胎盤から得られる。幹細胞回収組成物は、2005年12月29日に出願された「Improved Composition for Collecting and Preserving Placental Stem Cells and Methods of Using the Composition」という名称の関連する米国仮出願第60/754,969号で詳細に記載されている。
【0087】
幹細胞回収組成物は、幹細胞の回収および/または培養に適する任意の生理的に許容される溶液、例えば塩溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水、クレブス溶液、改変クレブス溶液、イーグル溶液、0.9% NaClなど)、培地(例えば、DMEM、HDMEMなど)などを含みうる。
【0088】
幹細胞回収組成物は、回収時から培養時まで胎盤幹細胞を保存する傾向にある、すなわち、胎盤幹細胞の死滅を妨げるか、胎盤幹細胞の死滅を遅延させるか、死滅する細胞の集団中の胎盤幹細胞の数を低減するなどの1つまたは複数の成分を含みうる。このような成分は、例えば、アポトーシス阻害剤(例えばカスパーゼ阻害剤またはJNK阻害剤);血管拡張剤(例えば硫酸マグネシウム、降圧剤、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出ホルモン、ニトロプルシドナトリウム、ヒドララジン、アデノシン3リン酸、アデノシン、インドメタシンまたは硫酸マグネシウム、ホスホジエステラーゼ阻害剤など);壊死阻害剤(例えば2−(1H−インドール−3−イル)−3−ペンチルアミノ−マレイミド、ピロリジンジチオカルバメートまたはクロナゼパム);TNF−α阻害剤;および/または酸素保持ペルフルオロカーボン(例えばペルフルオロオクチルブロミド、ペルフルオロデシルブロミドなど)でありうる。
【0089】
幹細胞回収組成物は、1つまたは複数の組織分解酵素、例えばメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、RNアーゼまたはDNアーゼなどを含みうる。このような酵素には、それだけに限られないが、コラゲナーゼ(例えばコラゲナーゼI、II、IIIまたはIV、Clostridium histolyticumからのコラゲナーゼなど);ジスパーゼ、サーモリシン、エラスターゼ、トリプシン、リベラーゼ、ヒアルロニダーゼなどがある。
【0090】
幹細胞回収組成物は、抗生物質の殺菌有効量または静菌有効量を含みうる。特定の非限定的な実施形態では、抗生物質は、マクロライド(例えばトブラマイシン)、セファロスポリン(例えばセファレキシン、セファラジン、セフロキシム、セフプロジル、セファクロル、セフィキシムまたはセファドロキシル)、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン(例えばペニシリンV)またはキノロン(例えばオフロキサシン、シプロフロキサシンまたはノルフロキサシン)、テトラサイクリン、ストレプトマイシンなどである。特定の実施形態では、抗生物質は、グラム(+)および/またはグラム(−)細菌、例えばPseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureusなどに対して活性である。
【0091】
幹細胞回収組成物は、以下の化合物の1つまたは複数も含みうる:アデノシン(約1mM〜約50mM);D−グルコース(約20mM〜約100mM);マグネシウムイオン(約1mM〜約50mM);一実施形態では、内皮の完全性および細胞の生存性を維持するのに十分な量で存在する(例えば、約25g/l〜約100g/l、または約40g/l〜約60g/lで存在する合成もしくは天然のコロイド、デキストランのような多糖類またはポリエチレングリコール)、20,000ダルトンを超える分子量の巨大分子;抗酸化剤(例えば約25μM〜約100μMで存在するブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、グルタチオン、ビタミンCまたはビタミンE);還元剤(例えば約0.1mM〜約5mMで存在するN−アセチルシステイン);カルシウムの細胞への進入を妨げる因子(例えば約2μM〜約25μMで存在するベラパミル);ニトログリセリン(例えば約0.05g/L〜約0.2g/L);一実施形態では、残存血液の凝固の妨害を助けるのに十分な量で存在する抗凝固剤(例えば、約1000単位/l〜約100,000単位/lの濃度で存在するヘパリンまたはヒルジン);またはアミロライド含有化合物(例えば約1.0μM〜約5μMで存在するアミロライド、エチルイソプロピルアミロライド、ヘキサメチレンアミロライド、ジメチルアミロライドまたはイソブチルアミロライド)。
【0092】
5.3.2 胎盤の回収および取扱い
一般的に、ヒト胎盤は、出生後のその娩出後すぐに回収される。好ましい実施形態では、胎盤は、インフォームドコンセントを行った後で、患者の完全な病歴を聴取した後に、胎盤に関連する患者から回収される。好ましくは、病歴は、分娩後も継続される。このような病歴を使用して、胎盤またはそこから採集した幹細胞のその後の使用を調整することができる。例えば、ヒト胎盤幹細胞を、病歴に鑑みて、胎盤に関連する幼児、または幼児の両親、兄弟姉妹もしくは他の親類についての個別の医療に使用することができる。
【0093】
胎盤幹細胞を回収する前に、臍帯血および胎盤血を除去する。特定の実施形態では、分娩後に、胎盤内の臍帯血を回収する。胎盤は、通常の臍帯血回収プロセスにかけることができる。典型的には、針またはカニューレを用いて、重力の助けにより、胎盤を放血させる(例えば、Anderson、米国特許第5,372,581号;Hesselら、米国特許第5,415,665号を参照されたい)。針またはカニューレは、臍静脈内に配置され、胎盤を穏やかにマッサージして、胎盤から臍帯血が排出されるのを補助する。このような臍帯血の回収は、商業的に、例えばLifeBank Inc.、Cedar Knolls、N.J.、ViaCord、Cord Blood Registry and Cryocellで行うことができる。好ましくは、胎盤は、臍帯血回収の間の組織の破壊を最小限にするように、さらなる操作を行わずに重力で排出させる。
【0094】
典型的には、胎盤は、分娩室または出生室から例えば実験室などの別の場所に、臍帯血の回収および例えば灌流または組織の分解などによる幹細胞の回収のために輸送される。胎盤は、好ましくは、滅菌され断熱された輸送デバイス(胎盤の温度を20〜28℃に保つ)中で、例えば近位臍帯がクランプされた胎盤を、滅菌されたジップロックプラスチック袋中に入れ、これを次いで、断熱容器に入れることにより輸送される。別の実施形態では、胎盤は、2005年9月19日出願の係属中の米国特許出願第11/230,760号に実質的に記載されるような臍帯血回収キット中で輸送される。好ましくは、胎盤は、実験室に、分娩後4〜24時間で送達される。一実施形態では、近位臍帯は、臍帯血回収の前に、盤状胎盤(placental disc)内への好ましくは4〜5cm(センチメートル)の挿入によりクランプされる。別の実施形態では、近位臍帯は、臍帯血回収の後であるが、胎盤をさらに処理する前にクランプされる。
【0095】
幹細胞回収前の胎盤は、滅菌条件下で、室温または5〜25℃の温度(セ氏温度)のいずれかで貯蔵できる。胎盤は、48時間より長い期間、好ましくは4〜24時間、胎盤を灌流させていずれの残存臍帯血も除去する前に貯蔵してよい。胎盤は、好ましくは、抗凝固溶液中で、5〜25℃(セ氏温度)の温度で貯蔵される。適切な抗凝固溶液は、当技術分野において公知である。例えば、ヘパリンまたはワルファリンナトリウムの溶液を用いることができる。好ましい実施形態では、抗凝固溶液は、ヘパリンの溶液(例えば、1:1000溶液中に1%w/w)を含む。放血させた胎盤は、好ましくは、胎盤幹細胞を回収する前に、36時間以下貯蔵される。
【0096】
上記のように一旦回収して一般的に調製された哺乳動物の胎盤またはその一部分は、任意の当技術分野において知られる様式で処理でき、例えば、灌流させるかまたは破壊して、例えば1つまたは複数の組織破壊酵素を用いて消化して、幹細胞を得ることができる。
【0097】
5.3.3 胎盤組織の物理的破壊および酵素消化
一実施形態では、例えば上記の5.3.1節で記載した幹細胞回収組成物を使用して、臓器の物理的破壊、例えば酵素消化により、哺乳動物胎盤から幹細胞を回収する。例えば、胎盤またはその一部分は、例えば、緩衝液、培地または幹細胞回収組成物と接触させている間に、粉砕するか、せん断するか、みじん切りにするか、さいの目に切るか、乱切りにするか、浸解(macerate)させてよく、その後、組織を1つまたは複数の酵素で消化する。胎盤、またはその一部は、物理的に破壊して、1つまたは複数の酵素で消化し、得られた物質を、次いで、緩衝液、培地または幹細胞回収組成物に浸漬するか、または混合することもできる。破壊の方法は、例えばトリパンブルー排除により決定される、上記の器官中の細胞の複数、より好ましくは大部分、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%を生存したままにするという条件の下で、任意の物理的破壊方法を用いることができる。
【0098】
胎盤は、物理的破壊および/または酵素消化ならびに幹細胞回収の前に、各要素に解剖できる。例えば、胎盤幹細胞は、羊膜、絨毛膜、胎盤葉、もしくはその任意の組合せ、もしくは臍帯、またはその任意の組合せから得ることができる。好ましくは、胎盤幹細胞は、羊膜および絨毛膜、羊膜−絨毛膜および臍帯を含む胎盤組織から得られる。一実施形態では、幹細胞は、約1:1の重量比の羊膜−絨毛膜および臍帯から得られる。典型的には、胎盤幹細胞は、胎盤組織の小さいブロック、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900または約1000立方ミリメートルの容量である胎盤組織のブロックの破壊により得ることができる。
【0099】
好ましい幹細胞回収組成物は、1つまたは複数の組織破壊酵素を含む。酵素消化は、好ましくは、酵素の組合せ、例えばマトリックスメタロプロテアーゼと中性プロテアーゼの組合せ、例えばコラゲナーゼとジスパーゼの組合せを用いる。一実施形態では、胎盤組織の酵素分解は、ヒアルロン酸の消化のために、コラゲナーゼとジスパーゼとヒアルロニダーゼの組合せまたはリベラーゼ(Boehringer Mannheim Corp.、Indianapolis,Ind.)とヒアルロニダーゼの組合せのようなマトリックスメタロプロテアーゼと、中性プロテアーゼと、粘液溶解酵素の組合せを用いる。胎盤組織を破壊するのに使用することができるその他の酵素は、パパイン、デオキシリボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシンまたはエラスターゼのようなセリンプロテアーゼを含む。セリンプロテアーゼは、血清中のアルファ2ミクログロブリンにより阻害されうるので、消化に使用される培地は、通常、血清を含まない。EDTAおよびDNアーゼは、細胞回収効率を増大させるために、酵素消化手順において、通常、用いられる。消化物は、好ましくは、粘性の消化物中で幹細胞がトラップされることを防ぐように希釈される。
【0100】
組織消化酵素の任意の組合せを用いることができる。組織消化酵素についての典型的な濃度は、例えばコラゲナーゼIおよびコラゲナーゼIVについて50〜200U/mL、ジスパーゼについて1〜10U/mL、およびエラスターゼについて10〜100U/mLを含む。プロテアーゼは、胎盤幹細胞を遊離させるために、組み合わせて、すなわち、2種以上のプロテアーゼを同じ消化反応において使用することもでき、または逐次的に使用することもできる。例えば、一実施形態では、胎盤またはその一部分は、まず、2mg/mlでの適切な量のコラゲナーゼIを用いて30分間、次いで、0.25%のトリプシンを用いて10分間、37℃での消化により消化される。セリンプロテアーゼは、他の酵素の使用後に連続して使用することが好ましい。
【0101】
別の実施形態では、組織は、キレート化剤、例えばエチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’N’−4酢酸(EGTA)またはエチレンジアミン4酢酸(EDTA)を、幹細胞を含む幹細胞回収組成物に、または幹細胞回収組成物を用いる幹細胞の単離前に、組織を破壊および/または消化する溶液に加えることによりさらに破壊できる。
【0102】
胎盤全体、または胎児と母系の両方の細胞を含む胎盤の部分(例えば胎盤の部分が絨毛膜または胎盤葉(cotyledons)を含む場合)の場合、回収された胎盤幹細胞が、胎性と母系性の両方の供給源に由来する胎盤幹細胞の混合物を含むことが認識されるだろう。胎盤の部分が母系性細胞(例えば羊膜)を全く含まないか、または無視できる数で含む場合、回収された胎盤幹細胞は、ほぼ独占的に胎性の胎盤幹細胞を含む。
【0103】
5.3.4 胎盤灌流
胎盤幹細胞は、哺乳動物胎盤の灌流によって得ることもできる。哺乳動物胎盤を灌流して幹細胞を得る方法は、例えば、Hariri、米国出願公開第2002/0123141号、および2005年12月29日に出願された「Improved Composition for Collecting and Preserving Placental Stem Cells and Methods of Using the Composition」という名称の関連する米国仮出願第60/754,969号で開示されている。
【0104】
胎盤幹細胞は、例えば幹細胞回収組成物を灌流溶液として使用して、例えば胎盤の脈管構造を通して灌流することにより回収できる。一実施形態では、哺乳動物の胎盤を、臍動脈および臍静脈のいずれかまたは両方を通して灌流溶液を流すことにより灌流する。胎盤を通しての灌流溶液の流れは、例えば胎盤への重力流れを用いて行ってよい。好ましくは、灌流溶液は、例えば蠕動ポンプなどのポンプを用いて胎盤を強制的に通過させる。臍静脈には、滅菌配管のような滅菌連結装置に連結された、例えばTEFLON(登録商標)またはプラスチックのカニューレなどのカニューレを挿入できる。滅菌連結装置は、灌流マニホルドに接続される。
【0105】
灌流の準備において、胎盤は、臍動脈および臍静脈が胎盤の最高点に位置するような様式で配向させる(例えば懸垂する)ことが好ましい。胎盤は、例えば本明細書で提供される幹細胞回収組成物などの灌流流体を、胎盤脈管構造に、または胎盤脈管構造および周囲の組織に通過させることにより灌流できる。一実施形態では、臍動脈および臍静脈は、フレキシブルな連結器を介して灌流溶液の貯蔵器に連結されたピペットに同時に連結される。灌流溶液を、臍静脈および動脈に通す。灌流溶液は、胎盤の周囲の組織中に、血管壁から滲出し、かつ/または血管壁を通過し、妊娠中に母体の子宮に接着していた胎盤の表面から、適切な開放容器に回収される。灌流溶液は、臍帯の開口を通して導入し、母体の子宮壁と連結していた胎盤壁の開口から流出または浸出させてもよい。別の実施形態では、灌流溶液は、臍静脈を通過させて、臍動脈から回収するか、または臍動脈を通過させて、臍静脈から回収する。
【0106】
一実施形態では、近位臍帯は、灌流の間にクランプし、より好ましくは、盤状胎盤への臍帯の付着点から4〜5cm(センチメートル)以内でクランプする。
【0107】
放血プロセスの間の哺乳動物の胎盤からの灌流流体の最初の回収は、臍帯血および/または胎盤血の残存赤血球により、通常、着色している。灌流流体は、灌流が進むにつれてより無色になり、残存臍帯血細胞は、胎盤から洗い出される。通常、胎盤を最初に放血させるのに適当な灌流流体は、30〜100ml(ミリリットル)であるが、観察される結果に応じて、それより多くの又は少ない灌流流体を用いてよい。
【0108】
胎盤幹細胞の回収に使用される灌流液体の容量は、回収される幹細胞の数、胎盤のサイズ、単独の胎盤から行う回収の回数などに応じて変動してよい。様々な実施形態では、灌流液体の容量は、50mL〜5000mL、50mL〜4000mL、50mL〜3000mL、100mL〜2000mL、250mL〜2000mL、500mL〜2000mL、または750mL〜2000mLであってよい。典型的には、胎盤は、700〜800mLの灌流液体を用いて、放血後に灌流される。
【0109】
胎盤は、数時間または数日の期間にわたって複数回灌流できる。胎盤を複数回灌流する場合、容器またはその他の適切な器の中で、無菌条件下で胎盤を維持または培養することができ、幹細胞回収組成物または標準的な灌流溶液(例えば、抗凝固剤(例えばヘパリン、ワルファリンナトリウム、クマリン、ビスヒドロキシクマリン)を含むかもしくは含まず、および/または抗菌剤(例えばβ−メルカプトエタノール(0.1mM);ストレプトマイシン(例えば40〜100μg/ml)、ペニシリン(例えば40U/ml)、アンホテリシンB(例えば0.5μg/ml)のような抗生物質を含むかもしくは含まないリン酸緩衝塩水(PBS)のような通常の塩溶液を用いて灌流することができる。一実施形態では、灌流および灌流液の回収前に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23もしくは24時間、または2もしくは3日以上胎盤を維持または培養するように、単離された胎盤を、灌流液を回収せずにある期間にわたって維持または培養する。灌流した胎盤は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間以上、1または複数回にわたって維持でき、例えば700〜800mLの灌流流体を用いて2回目の灌流を行う。胎盤は、例えば1、2、3、4、5または6時間ごとに1回のように1、2、3、4、5回以上灌流できる。好ましい実施形態では、胎盤の灌流および灌流溶液、例えば幹細胞回収組成物の回収は、回収される有核細胞数が100細胞/ml未満になるまで繰り返される。異なる時点での灌流液は、細胞、例えば幹細胞の時間依存的な集団を回収するためにさらに個別に処理できる。異なる時点からの灌流液を貯留することもできる。
【0110】
いずれの理論にも束縛されることを望むものではないが、放血および十分な時間の胎盤の灌流の後に、胎盤幹細胞は、好ましくは灌流により回収器中に洗い出されることにより、胎盤幹細胞が、回収される胎盤の放血および灌流された微小環境中に移動すると考えられる。単離された胎盤を灌流することは、残存臍帯血を除去する役に立つだけでなく、酸素を含む適切な栄養分を胎盤に提供もする。胎盤は、好ましくは抗凝固剤を添加しない、残存臍帯血細胞を除去するのに使用した類似の溶液を用いて培養および灌流することができる。
【0111】
本明細書に記載される灌流により、上記の溶液を用いて灌流されず、幹細胞を得るためにも(例えば組織破壊、例えば酵素的消化により)処理されない哺乳動物の胎盤から得ることができる数よりも著しく多い数の胎盤幹細胞が回収される。この関係において、「著しく多い」とは、少なくとも10%より多いことを意味する。灌流により、例えば胎盤またはその一部分が培養された培養液から得ることができる胎盤幹細胞の数よりも著しく多い数の胎盤幹細胞が得られる。
【0112】
幹細胞は、1もしくは複数のプロテアーゼまたはその他の組織破壊性酵素を含む溶液を用いて灌流により胎盤から単離できる。具体的な実施形態では、胎盤またはその一部分(例えば羊膜、羊膜および絨毛膜、胎盤葉または絨毛叢、あるいはこれらの任意の組合せ)を、25〜37℃にし、200mLの培地中の1つまたは複数の組織破壊性酵素と共に30分間インキュベートする。灌流液からの細胞を回収し、4℃にし、5mM EDTA、2mMジチオスレイトールおよび2mMベータ−メルカプトエタノールを含む冷阻害剤混合物で洗浄する。幹細胞は、数分後に、本明細書の他の箇所で説明される冷(例えば4℃)幹細胞回収組成物を用いて洗浄される。
【0113】
パン法、すなわち胎盤の母体側から滲出した後に灌流液を回収する方法を用いる灌流により、胎性および母系性細胞の混合物が得られる。その結果、この方法により回収される細胞は、胎性および母系性の起源の両方の胎盤幹細胞の混合集団を含む。これとは対照的に、灌流流体を1または2つの胎盤血管に通し、残りの血管のみを通して回収する、胎盤脈管構造のみを通す灌流により、ほとんど胎児由来のみの胎盤幹細胞の集団が回収される。
【0114】
5.3.5 胎盤幹細胞の単離、選別および特徴付け
哺乳動物胎盤からの幹細胞は、灌流または酵素消化のいずれにより得られても、フィコール勾配遠心分離により他の細胞から純化(すなわち単離)できる。このような遠心分離は、遠心分離速度などについて、任意の標準的なプロトコルに従うことができる。一実施形態では、例えば、胎盤から回収される細胞は、室温にて5000×gで15分間の遠心分離により灌流液から回収され、これにより、例えば混入した破片および血小板から細胞が分離される。別の実施形態では、胎盤灌流液を、約200mlまで濃縮し、フィコールを静かに重層し、約1100×gにて20分間、22℃にて遠心分離し、細胞の低密度界面層をさらなる処理のために回収する。
【0115】
細胞沈澱物は、新鮮な幹細胞回収組成物、または幹細胞の維持に適する培地、例えば2U/mlヘパリンおよび2mM EDTA(GibcoBRL、NY)を含有するIMDM無血清培地に再懸濁できる。全単核細胞の画分は、例えばLymphoprep(Nycomed Pharma、Oslo、Norway)を、製造者の推奨する手順に従って用いて単離できる。
【0116】
本明細書において、胎盤幹細胞を「単離する」とは、インタクトな哺乳動物胎盤において幹細胞が通常結合している細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%を除去することを意味する。器官由来の幹細胞は、インタクトな器官において幹細胞が通常結合している細胞の50%未満を含む細胞集団中に幹細胞が存在する場合に、「単離され」ている。
【0117】
灌流または消化により得られる胎盤細胞は、例えば、さらにまたは最初に、例えば0.2% EDTA(Sigma、St.Louis MO)を含む0.05%トリプシン溶液を用いる差異的なトリプシン処理により単離できる。胎盤幹細胞は、典型的には約5分以内でプラスチック表面から脱着されるが、他の接着性の集団は、典型的には20〜30分を超えるインキュベーションを必要とするので、差異的なトリプシン処理は可能である。脱着された胎盤幹細胞は、例えばTrypsin Neutralizing Solution(TNS、Cambrex)を使用して、トリプシン処理およびトリプシン中和の後に収集できる。接着性細胞の単離の一実施形態では、例えば約5〜10×10
6細胞の一定量をいくつかのT−75フラスコ、好ましくはフィブロネクチン被覆T75フラスコのそれぞれに入れる。このような実施形態において、細胞は、商業的に入手可能なMesenchymal Stem Cell Growth Medium(MSCGM)(Cambrex)を用いて培養でき、組織培養インキュベータ(37℃、5%CO
2)に入れることができる。10〜15日後に、PBSでの洗浄により非接着性細胞をフラスコから除去する。次いで、PBSをMSCGMに置き換える。好ましくは、種々の接着性細胞の型の存在について、特に線維芽様細胞のクラスターの同定および拡大について、毎日、フラスコを調べる。
【0118】
哺乳動物胎盤から回収される細胞の数および型は、例えば、フローサイトメトリー、細胞分離、免疫細胞化学(例えば組織特異的または細胞マーカー特異的抗体を用いる染色)、蛍光標示式細胞分離(FACS)、磁気標示式細胞分離(MACS)のような標準的な細胞検出法を用いて形態および細胞表面マーカーの変化を測定することにより、細胞の形態を光学もしくは共焦顕微鏡を使用して調べることにより、かつ/またはPCRおよび遺伝子発現プロファイリングのような当技術分野において公知の技術を用いて遺伝子発現の変化を測定することによりモニターできる。これらの技術を用いても、1つまたは複数の特定のマーカーについて陽性である細胞を同定できる。例えば、CD34に対する抗体を使用して、上記の技術を用いて、細胞が、検出可能な量のCD34を含むかについて決定できる。もしそうであれば、細胞はCD34
+である。同様に、細胞が、RT−PCRにより検出できる十分なOCT−4 RNAを生成するか、または成体細胞よりも著しく多いOCT−4 RNAを生成する場合、細胞は、OCT−4
+である。細胞表面マーカー(例えばCD34のようなCDマーカー)に対する抗体、およびOCT−4のような幹細胞特異的遺伝子の配列は、当技術分野において公知である。
【0119】
胎盤細胞、特にフィコール分離、接着性の差またはそれらの組合せにより単離された細胞は、蛍光標示式細胞分離(FACS)により選別できる。蛍光標示式細胞分離(FACS)は、細胞を含む粒子を、粒子の蛍光特性に基づいて分離する、公知の方法である(Kamarch、1987、Methods Enzymol、151:150〜165頁)。個々の粒子の蛍光部分のレーザー励起により小さい電荷が生じ、混合物から正および負の粒子の電磁気的分離が可能になる。一実施形態では、細胞表面マーカーに特異的な抗体またはリガンドは、別個の蛍光標識で標識される。細胞を、細胞分離器を通して処理し、使用した抗体に結合するそれらの能力に基づいて細胞の分離が可能になる。FACSで選別された粒子は、分離およびクローニングを促進するために、96ウェルまたは384ウェルプレートのそれぞれのウェルに直接入れてよい。
【0120】
ある選別スキームにおいて、胎盤由来の幹細胞は、マーカーCD34、CD38、CD44、CD45、CD73、CD105、OCT−4および/またはHLA−Gの発現に基づいて選別される。このことは、培養におけるそれらの接着特性に基づいて幹細胞を選択する手順を伴って達成できる。例えば、幹接着性選択は、マーカー発現に基づく選別の前または後に達成できる。一実施形態では、例えば、細胞は、それらのCD34発現に基づいてまず選別される。CD34
-細胞を保持し、CD200
+HLA−G
+である細胞を、他の全てのCD34
-細胞から分離する。別の実施形態では、胎盤由来の細胞は、マーカーCD200および/またはHLA−Gのそれらにおける発現に基づく。例えば、これらのマーカーのいずれかを提示する細胞は、さらなる使用のために単離される。例えばCD200および/またはHLA−Gを発現する細胞は、具体的な実施形態では、それらのCD73および/もしくはCD105の発現、または抗体SH2、SH3もしくはSH4により認識されるエピトープ、またはCD34、CD38もしくはCD45の発現の欠如に基づいてさらに選別される。例えば、一実施形態では、胎盤細胞は、CD200、HLA−G、CD73、CD105、CD34、CD38およびCD45の発現またはその欠如により選別され、CD200
+、HLA−G
+、CD73
+、CD105
+、CD34
-、CD38
-およびCD45
-である胎盤細胞が、さらなる使用のために他の胎盤細胞から単離される。
【0121】
別の実施形態では、磁性ビーズを使用して細胞を分離できる。細胞は、磁性ビーズ(直径0.5〜100μm)に結合する粒子の能力に基づいて粒子を分離する方法である磁気標示式細胞分離(MACS)法を使用して選別することができる。特定の細胞表面分子またはハプテンを特異的に認識する抗体の共有結合を含む種々の有用な改変を、磁性微粒子に対して行うことができる。次いで、ビーズを、細胞と混合して結合を可能にする。次いで、細胞を、磁界に通して、特定の細胞表面マーカーを有する細胞を分離する。一実施形態では、次いで、これらの細胞を単離して、さらなる細胞表面マーカーに対する抗体と結合した磁性ビーズと再混合できる。細胞を再び磁界に通し、両方の抗体に結合した細胞を単離する。次いで、このような細胞を、クローン単離のために、マイクロタイターディッシュのような別のディッシュの中で希釈できる。
【0122】
胎盤幹細胞は、細胞の形態および増殖の特徴に基づいて特徴付けおよび/または選別することもできる。例えば、胎盤幹細胞は、例えば培養において線維芽様の外観を有すると特徴付けるか、および/またはそのような外観に基づいて選択することができる。胎盤幹細胞は、胚様体を形成する能力を有すると特徴付けるか、および/またはそのような能力に基づいて選択することができる。一実施形態では、例えば、線維芽様の形状であり、CD73およびCD105を発現し、培養において1つまたは複数の胚様体を産生する胎盤細胞が、他の胎盤細胞から単離される。別の実施形態では、培養において1つまたは複数の胚様体を産生するOCT−4
+胎盤細胞が、他の胎盤細胞から単離される。
【0123】
別の実施形態では、胎盤幹細胞は、コロニー形成単位アッセイにより同定および特徴付けできる。コロニー形成単位アッセイは、MesenCult(商標)培地(Stem Cell Technologies,Inc.、Vancouver British Columbia)のように、当技術分野において通常知られている。
【0124】
胎盤幹細胞は、生存性、増殖能力および寿命について、トリパンブルー排除アッセイ、フルオレセイン2酢酸取り込みアッセイ、ヨウ化プロピジウム取り込みアッセイ(生存性を評価するため);およびチミジン取り込みアッセイ、MTT細胞増殖アッセイ(増殖を評価するため)のような当技術分野において知られる標準的な方法を用いて評価できる。寿命は、長期培養における集団倍加の最大数を決定することなどによる当技術分野において公知の方法により決定してよい。
【0125】
胎盤幹細胞は、例えば所望の細胞の選択的増殖(ポジティブ選択)、不要な細胞の選択的破壊(ネガティブ選択);例えば大豆凝集素を用いるような、混合集団における異なる細胞凝集性に基づく選択;凍結−融解法;濾過;通常の遠心分離およびゾーン遠心分離;遠心浄化法(centrifugal elutriation)(対向流遠心分離);単位重力分離;対向流分配;電気泳動などの当技術分野において知られるその他の技術を使用して、他の胎盤細胞から分離することもできる。
【0126】
5.4 胎盤幹細胞の培養
5.4.1 培地
単離胎盤幹細胞もしくは胎盤幹細胞集団、またはそこから胎盤幹細胞が増殖する細胞もしくは胎盤組織を使用して、細胞培養を開始し、または細胞培養物を播種することができる。一般に、ラミニン、コラーゲン(例えば、天然または変性)、ゼラチン、フィブロネクチン、オルニチン、ビトロネクチン、および細胞外膜タンパク質(例えば、MATRIGEL(BD Discovery Labware Bedford、Mass))などの細胞外マトリックスまたはリガンドでコートされたまたはコートされない、無菌の組織培養容器に細胞を移す。
【0127】
胎盤幹細胞は、当技術分野で幹細胞培養用に許容されると認められる任意の培地中および任意の条件下で培養することができる。培地は血清を含むことが好ましい。胎盤幹細胞は、例えば、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレニウム)、LA+BSA(リノール酸−ウシ血清アルブミン)、デキストロース、L−アスコルビン酸、PDGF、EGF、IGF−1、およびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM−LG培地(低グルコースのダルベッコ改変基礎培地)/MCDB 201培地(ニワトリ線維芽細胞用基礎培地);10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEM−HG(高グルコース)培地;15%FBSを含むDMEM−HG培地;10%FBS、10%ウマ血清、およびヒドロコルチゾンを含むIMDM培地(イスコフ改変ダルベッコ培地);10%FBS、EGF、およびヘパリンを含むM199培地;10%FBS、GLUTAMAX(商標)、およびゲンタマイシンを含むα−MEM培地(最小基礎培地);10%FBS、GLUTAMAX(商標)、およびゲンタマイシンを含むDMEM培地などの中で培養することができる。好ましい培地は、2%FBS、ITS、LA+BSA、デキストロース、L−アスコルビン酸、PDGF、EGF、およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM−LG/MCDB−201培地である。
【0128】
胎盤幹細胞を培養するのに使用できる他の培地は、DMEM(高グルコースまたは低グルコース)培地、イーグル基礎培地、ハムF10培地(F10)、ハムF−12培地(F12)、イスコフ改変ダルベッコ培地、間葉系幹細胞用増殖培地(MSCGM)、リーボビッツL−15培地、MCDB培地、DMIEM/F12培地、RPMI 1640培地、アドバンストDMEM培地(Gibco)、DMEM/MCDB201培地(Sigma)、およびCELL−GRO FREE培地を含む。
【0129】
培地には、例えば、血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、好ましくは、約2〜15%(v/v);ウマ(馬)血清(ES);ヒト血清(HS);ベータ−メルカプトエタノール(BME)、好ましくは、約0.001%(v/v);1つまたは複数の成長因子、例えば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、白血病阻害因子(LIF)、血管内皮成長因子(VEGF)、およびエリスロポエチン(EPO);L−バリンを含むアミノ酸;および例えば、単独または組合せでのペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、アムホテリシンB、ゲンタマイシン、およびニスタチンなど、微生物汚染を抑制する1つまたは複数の抗生剤および/または抗真菌剤を含む、1つまたは複数の成分を補充することができる。
【0130】
5.4.2 胎盤幹細胞の拡大培養および増殖
胎盤幹細胞または幹細胞集団が単離された後(例えば、幹細胞または幹細胞集団が、in vivoにおいて幹細胞または幹細胞集団が通常関連する胎盤細胞の少なくとも50%から分離された後)、幹細胞または幹細胞集団をin vitroにおいて増殖し拡大培養することができる。例えば、幹細胞が70〜90%のコンフルエンスまで増殖するのに十分な時間にわたり、すなわち、幹細胞およびその子孫細胞が組織培養容器の培養表面積の70〜90%を占めるまで、組織培養容器、例えば、皿、フラスコ、マルチウェルプレートなどにおいて胎盤幹細胞集団を培養することができる。
【0131】
胎盤幹細胞は、細胞増殖を可能とする密度で培養容器内に播種することができる。例えば、細胞は、低密度(例えば、約1,000〜約5,000個/cm
2)〜高密度(例えば、約50,000個/cm
2以上)で播種できる。好ましい実施形態では、細胞は、空気中のCO
2容量約0〜約5パーセントで培養される。一部の好ましい実施形態では、細胞は、空気中に約2〜約25パーセントのO
2で、好ましくは、空気中に約5〜約20パーセントのO
2で培養される。細胞は、好ましくは、約25℃〜約40℃、好ましくは、37℃で培養される。細胞は、インキュベータ内で培養されることが好ましい。培地は、静置してもよく、例えば、培養槽を用いて撹拌してもよい。胎盤幹細胞は、低度の酸化ストレス(例えば、グルタチオン、アスコルビン酸、カタラーゼ、トコフェロール、N−アセチルシステインなどの添加による)下で増殖させることが好ましい。
【0132】
70%〜90%のコンフルエンスが得られた後、細胞を継代することができる。例えば、細胞を酵素的に処理、例えば、当技術分野で周知の技術を使用してトリプシン処理し、組織培養表面から分離することができる。ピペッティングにより細胞を除去し、細胞をカウントした後、約20,000〜100,000個の幹細胞、好ましくは、約50,000個の幹細胞を、新鮮な培地を含有する新規の培養容器に継代する。典型的には、新規の培地は、幹細胞を除去した培地と同じ種類である。本明細書では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、または20倍以上継代された胎盤幹細胞集団およびその組合せが提供される。
【0133】
5.4.3 胎盤幹細胞集団
特定の実施形態では、本明細書で提供される治療方法は、胎盤幹細胞の集団を使用する。胎盤幹細胞集団は、1つまたは複数の胎盤から直接に単離することができる、すなわち、胎盤幹細胞集団は、灌流液から得られるもしくは灌流液中に含有される、または、消化物(すなわち、胎盤またはその一部の酵素的消化により得られる細胞回収物)から得られるもしくは消化物中に含有される、胎盤幹細胞を含む胎盤細胞集団でありうる。本明細書に記載される単離胎盤幹細胞はまた、培養および拡大培養して、胎盤幹細胞集団を作製することもできる。胎盤幹細胞を含む胎盤細胞集団または培養および拡大培養して胎盤幹細胞集団を作製することもできる。
【0134】
本明細書に記載される胎盤幹細胞集団は、胎盤幹細胞、例えば、本明細書に記載の胎盤幹細胞を含む。様々な実施形態では、単離胎盤幹細胞集団中で少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%の細胞が、胎盤幹細胞である。すなわち、胎盤幹細胞集団は、例えば、最大で1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の非幹細胞を含みうる。
【0135】
本明細書では、例えば、酵素的な消化または灌流のいずれに由来するのであれ、特定のマーカーおよび/または特定の培養特徴もしくは特定の形態的特徴を発現する胎盤幹細胞を選択することにより、単離胎盤幹細胞集団を作製する方法が提供される。一実施形態では、例えば、細胞集団は、(a)基質に接着し、(b)CD200およびHLA−Gを発現する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む方法により作製することができる。別の実施形態では、細胞集団を作製する方法は、(a)基質に接着し、(b)CD73、CD105、およびCD200を発現する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む。別の実施形態では、細胞集団を作製する方法は、(a)基質に接着し、(b)CD200およびOCT−4を発現する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む。別の実施形態では、細胞集団を作製する方法は、(a)基質に接着し、(b)CD73およびCD105を発現し、(c)胚様体の形成を可能とする条件下で前記幹細胞を含む胎盤細胞集団を培養したときに前記集団における1つまたは複数の胚様体の形成を促進する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む。別の実施形態では、細胞集団を作製する方法は、(a)基質に接着し、(b)CD73、CD105、およびHLA−Gを発現する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む。別の実施形態では、細胞集団を作製する方法は、(a)基質に接着し、(b)OCT−4を発現し、(c)胚様体の形成を可能とする条件下で前記幹細胞を含む胎盤細胞集団を培養したときに、前記集団における1つまたは複数の胚様体の形成を促進する胎盤細胞を選択することと、前記細胞を他の細胞から単離して細胞集団を形成することとを含む。上記の実施形態のいずれにおいても、その方法は、ABC−p(胎盤特異的なABCトランスポータータンパク質;例えば、Allikmetsら、Cancer Res.、第58巻、第23号、5337〜9頁(1998)を参照されたい)を発現する胎盤細胞を選択することをさらに含んでよい。その方法はまた、例えば、間葉系幹細胞に特異的な少なくとも1つの特徴、例えば、CD29の発現、CD44の発現、CD90の発現、または前出の組合せの発現を示す細胞を選択することを含んでもよい。
【0136】
上記の実施形態において、基質は、その上で培養および/または細胞、例えば、胎盤幹細胞の選択が実施されうる任意の表面でありうる。典型的には、基質はプラスチック、例えば、プラスチック製の組織培養皿またはマルチウェルプレートである。プラスチック製組織培養器具は、生体分子、例えば、ラミニンまたはフィブロネクチンでコートすることができる。
【0137】
細胞、例えば、胎盤幹細胞は、当技術分野で知られる細胞選択の任意の手段により、胎盤幹細胞集団用に選択することができる。例えば、細胞は、例えば、フローサイトメトリー法またはFACS法における1つまたは複数の細胞表面マーカーに対する1つまたは複数の抗体を用いて選択することができる。選択は、磁性ビーズと組み合わせた抗体を用いて実施することができる。当技術分野では、特定の幹細胞関連マーカーに特異的な抗体が知られている。例えば、OCT−4に対する抗体(Abcam、Cambridge、MA)、CD200に対する抗体(Abcam)、HLA−Gに対する抗体(Abcam)、CD73に対する抗体(BD Biosciences Pharmingen、San Diego、CA)、CD105に対する抗体(Abcam;BioDesign International、Saco、ME)などである。他のマーカーに対する抗体もまた市販され、例えば、CD34、CD38、およびCD45は、例えば、StemCell TechnologiesまたはBioDesign Internationalから入手できる。
【0138】
単離胎盤幹細胞集団は、幹細胞でない胎盤細胞、または胎盤細胞でない細胞を含みうる。
【0139】
単離胎盤幹細胞集団は、1つまたは複数の非幹細胞集団または非胎盤細胞集団と組み合わせることができる。例えば、単離胎盤幹細胞集団は、血液(例えば、胎盤血または臍帯血)、血液由来幹細胞(例えば、胎盤血または臍帯血に由来する幹細胞)、血液由来有核細胞集団、骨髄由来間葉系細胞、骨由来幹細胞集団、粗骨髄、成体(体性)幹細胞、組織内に含有される幹細胞集団、培養幹細胞、完全に分化した細胞(例えば、軟骨細胞、線維芽細胞、羊膜細胞、骨芽細胞、筋細胞、心臓細胞など)の集団などと組み合わせることができる。単離胎盤幹細胞集団内の細胞は、各集団内における総有核細胞数を比較して、約100,000,000:1、50,000,000:1、20,000,000:1、10,000,000:1、5,000,000:1、2,000,000:1、1,000,000:1、500,000:1、200,000:1、100,000:1、50,000:1、20,000:1、10,000:1、5,000:1、2,000:1、1,000:1、500:1、200:1、100:1、50:1、20:1、10:1、5:1、2:1、1:1、1:2、1:5、1:10、1:100、1:200、1:500、1:1,000、1:2,000、1:5,000、1:10,000、1:20,000、1:50,000、1:100,000、1:500,000、1:1,000,000、1:2,000,000、1:5,000,000、1:10,000,000、1:20,000,000、1:50,000,000、または約1:100,000,000の比率で、複数の別の種類の細胞と組み合わせることができる。単離胎盤幹細胞集団内における細胞は、複数の細胞種類の複数の細胞とも同様に組み合わせることができる。
【0140】
一態様では、単離胎盤幹細胞集団を、複数の造血幹細胞と組み合わせる。このような造血幹細胞は、例えば、未加工の胎盤血、臍帯血、または末梢血中;胎盤血、臍帯血、または末梢血からの総有核細胞中;胎盤血、臍帯血、または末梢血から単離されたCD34
+細胞集団内;未加工の骨髄中;骨髄からの総有核細胞中;骨髄から単離されたCD34
+細胞集団内などに含有されうる。
【0141】
5.5 胎盤幹細胞の保存
胎盤幹細胞は、保存する、すなわち、長期保存を可能とする条件下、または、例えば、アポトーシスもしくは壊死による細胞死を阻害する条件下に置くことができる。
【0142】
胎盤幹細胞は、例えば、「Improved Composition for Collecting and Preserving Placental Stem Cells and Methods of Using the Composition」という名称の2005年12月25日に出願された関連する米国仮出願第60/754,969号で説明される通り、アポトーシス阻害剤、壊死阻害剤、および/または酸素運搬ペルフルオロカーボンを使用して保存することができる。一実施形態では、本明細書で、幹細胞の集団を保存する方法であって、前記幹細胞の集団をアポトーシス阻害剤および酸素運搬ペルフルオロカーボンを含む幹細胞回収組成物と接触させることを含み、アポトーシス阻害剤と接触していない幹細胞集団と比較して、幹細胞集団におけるアポトーシスを低減または阻止するのに十分な量で十分な時間にわたり前記アポトーシス阻害剤が存在する方法が提供される。具体的な実施形態では、前記アポトーシス阻害剤は、カスパーゼ阻害剤である。別の具体的な実施形態では、前記アポトーシス阻害剤は、JNK阻害剤である。より具体的な実施形態では、前記JNK阻害剤は、前記幹細胞の分化または増殖を調節しない。別の実施形態では、前記幹細胞回収組成物は、前記アポトーシス阻害剤および前記酸素運搬ペルフルオロカーボンを個別の相で含む。別の実施形態では、前記幹細胞回収組成物は、前記アポトーシス阻害剤および前記酸素運搬ペルフルオロカーボンを乳剤中に含む。別の実施形態では、前記幹細胞回収組成物は、乳化剤、例えば、レシチンをさらに含む。別の実施形態では、前記アポトーシス阻害剤および前記ペルフルオロカーボンは、幹細胞への接触時において、約0℃〜約25℃である。別のより具体的な実施形態では、前記アポトーシス阻害剤および前記ペルフルオロカーボンは、幹細胞への接触時において、約2℃〜約10℃、または約2℃〜約5℃である。別のより具体的な実施形態では、前記接触は、前記幹細胞集団の移送時に実施する。別のより具体的な実施形態では、前記接触は、前記幹細胞集団の凍結および融解時に実施する。
【0143】
別の実施形態では、前記幹細胞集団をアポトーシス阻害剤および臓器保存化合物と接触させることを含む方法であって、アポトーシス阻害剤と接触していない幹細胞集団と比較して、幹細胞集団におけるアポトーシスを低減または阻止するのに十分な量で十分な時間にわたり前記アポトーシス阻害剤が存在する方法によって胎盤幹細胞集団は保存されることができる。具体的な実施形態では、臓器保存化合物は、UW溶液(米国特許第4,798,824号に説明され、ViaSpanとしても知られる;Southardら、Transplantation、第49巻、第2号、251〜257頁(1990)もまた参照されたい)またはSternら、米国特許第5,552,267号に説明される溶液である。別の実施形態では、前記臓器保存化合物は、ヒドロキシエチルデンプン、ラクトビオン酸、ラフィノース、またはこれらの組合せである。別の実施形態では、幹細胞回収組成物は、2相でまたは乳剤として、酸素運搬ペルフルオロカーボンをさらに含む。
【0144】
その方法の別の実施形態では、灌流時に、胎盤幹細胞をアポトーシス阻害剤および酸素運搬ペルフルオロカーボン、臓器保存化合物、またはこれらの組合せを含む幹細胞回収組成物と接触させる。別の実施形態では、組織破壊、例えば、酵素的消化の工程中に、前記幹細胞を接触させる。別の実施形態では、胎盤幹細胞を、灌流による回収後、または組織破壊、例えば、酵素的消化による回収後における前記幹細胞回収化合物と接触させる。
【0145】
典型的には、胎盤細胞の回収、濃縮、および単離時において、低酸素ストレスおよび力学的ストレスに起因する細胞ストレスを最小化または除去することが好ましい。したがって、その方法の別の実施形態では、幹細胞または幹細胞集団が回収、濃縮、または単離時に低酸素状態に曝露されるのは、前記保存中に6時間未満であり、ここで低酸素状態とは、通常の血中酸素濃度未満の酸素濃度である。より具体的な実施形態では、該幹細胞集団が該低酸素状態に曝露されるのは、該保存中に2時間未満である。別のより具体的な実施形態では、前記幹細胞集団が回収、濃縮、または単離時に該低酸素状態に曝露されるのは1時間未満、もしくは30分間未満であるか、または、前記細胞集団は低酸素状態に曝露されない。別の具体的な実施形態では、前記幹細胞集団は、回収、濃縮、または単離時にせん断応力に曝露されない。
【0146】
本明細書に記載される胎盤幹細胞は、例えば、小型容器、例えば、アンプル内における凍結保存用培地中で凍結保存(cryopreservation)することができる。適切な凍結保存培地は、例えば、増殖培地、または細胞凍結培地、例えば、市販される細胞凍結培地、例えば、C2695培地、C2639培地、またはC6039培地(Sigma)を含む培地を含むがこれらに限られない。凍結保存培地は、例えば、約10%(v/v)の濃度でDMSO(ジメチルスルホキシド)を含むことが好ましい。凍結培地は、さらなる作用物質、例えば、Plasmalyte、メチルセルロースおよび/またはグリセロールを含みうる。胎盤幹細胞は、凍結保存時に約1℃/分で冷却されることが好ましい。好ましい凍結保存温度は、約−80℃〜約−180℃、好ましくは、約−125℃〜約−140℃である。凍結保存された細胞は、融解して使用する前に液体窒素に移すことができる。一部の実施形態では、例えば、アンプルが約−90℃に達した後、その細胞を液体窒素による保存領域に移す。凍結保存された細胞は、約25℃〜約40℃の温度、好ましくは約37℃の温度で融解させることが好ましい。
【0147】
5.6 胎盤幹細胞の使用
5.6.1 胎盤幹細胞を含む組成物
本明細書で提供される免疫抑制の方法では、胎盤幹細胞、またはそれ由来の生体分子を含む組成物を使用することができる。同様にして、本明細書で提供される複数の胎盤幹細胞集団は、例えば、研究または治療において用いる、任意の生理的に許容されるまたは医療的に許容される化合物、組成物、または機器と組み合わせることができる。
【0148】
5.6.1.1 凍結保存(cryopreserved)された胎盤幹細胞
本明細書に記載の免疫抑制性胎盤幹細胞および細胞の集団は、保存する、例えば、後の使用のために凍結保存することができる。幹細胞などの細胞の凍結保存法は、当技術分野でよく知られている。胎盤幹細胞集団は、個体に容易に投与される形態で調製することができる。例えば、本明細書に記載の胎盤幹細胞または胎盤幹細胞の集団を、医学的使用に適した容器内に入れることができる。このような容器は、例えば、無菌のプラスチック製バッグ、フラスコ、ジャー、または、胎盤幹細胞集団を容易に分注しうる他の容器でありうる。例えば、このような容器は、レシピエントに対する液体の静脈内投与に適する血液バッグ、または他のプラスチック製の医療的に許容されるバッグでありうる。容器は、複合幹細胞集団の凍結保存を可能とする容器であることが好ましい。
【0149】
凍結保存された免疫抑制性胎盤幹細胞集団は、単独のドナー、または複数のドナーに由来する胎盤幹細胞を含みうる。胎盤幹細胞集団は、意図されるレシピエントに対してHLAが完全に適合してもよく、HLAが部分的に適合してもよく、HLAが全く適合しなくてもよい。
【0150】
したがって、一実施形態では、容器内に免疫抑制性胎盤幹細胞集団を含む組成物が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、幹細胞集団は、凍結保存される。別の具体的な実施形態では、容器は、バッグ、フラスコ、またはジャーである。より具体的な実施形態では、前記バッグは、無菌のプラスチック製バッグである。より具体的な実施形態では、前記バッグは、前記胎盤幹細胞集団の静脈内投与に適する、またはこれを可能もしくは容易にする。前記バッグは、相互に接続されて胎盤幹細胞と、1つまたは複数の他の溶液、例えば、薬剤とを投与前、または投与時に混合することを可能とする、複数の管腔または区画を含みうる。別の具体的な実施形態では、組成物は、複合幹細胞集団の凍結保存を容易とする1つまたは複数の化合物を含む。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞集団は、生理的に許容される水溶液中に含有される。より具体的な実施形態では、前記生理的に許容される水溶液は、0.9%のNaCl溶液である。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞集団は、前記幹細胞集団レシピエントに対してHLAが適合する胎盤細胞を含む。別の具体的な実施形態では、前記複合幹細胞集団は、前記幹細胞集団レシピエントに対してHLAが少なくとも部分的に適合する胎盤細胞を含む。別の具体的な実施形態では、前記胎盤幹細胞は、複数のドナーに由来する。
【0151】
5.6.1.2 医薬組成物
免疫抑制性胎盤幹細胞集団または胎盤幹細胞を含む細胞集団は、in vivoで用いる医薬組成物に製剤することができる。このような医薬組成物は、薬学的に許容される担体、例えば、生理食塩液、または、in vivoでの投与に許容される、他の生理的に許容される溶液中に胎盤幹細胞集団または胎盤幹細胞を含む細胞集団を含む。本明細書で提供される医薬組成物は、本明細書の他の箇所で説明される任意の胎盤幹細胞集団、または胎盤幹細胞型を含みうる。医薬組成物は、胎性胎盤幹細胞、母系胎盤幹細胞、または胎性と母系両方の胎盤幹細胞を含みうる。本明細書で提供される医薬組成物は、単独の個体もしくは胎盤、または複数の個体もしくは胎盤から得られる胎盤幹細胞をさらに含みうる。
【0152】
本明細書で提供される医薬組成物は、任意の個数の免疫抑制性胎盤幹細胞を含みうる。例えば、単回用量単位の胎盤幹細胞は、様々な実施形態では、少なくとも、約1×10
5、5×10
5、1×10
6、5×10
6、1×10
7、5×10
7、l×10
8、5×10
8、1×10
9、5×10
9、1×10
10、5×10
10、1×10
11個以上またはこれ以下の胎盤幹細胞を含みうる。
【0153】
本明細書で提供される医薬組成物は、50%以上の生細胞(すなわち、集団内で少なくとも50%の細胞が機能的であるかまたは生存している)を含む細胞集団を含みうる。集団内で少なくとも60%の細胞が生細胞であることが好ましい。医薬組成物中の集団内で少なくとも70%、80%、90%、95%、または99%の細胞が生細胞であることがより好ましい。
【0154】
本明細書で提供される医薬組成物は、例えば、移植を容易にする1つまたは複数の化合物(例えば、抗T細胞受容体抗体、免疫抑制剤など);アルブミン、デキストラン40、ゼラチン、ヒドロキシエチルデンプンなどの安定剤を含みうる。
【0155】
5.6.1.3 胎盤幹細胞馴化培地
本明細書で提供される胎盤幹細胞を使用して、免疫抑制性である馴化培地、すなわち、1つまたは複数の型の複数の免疫細胞に対して検出可能な免疫抑制効果を有する幹細胞によって分泌または排出された1つまたは複数の生体分子を含む培地を作製することができる。様々な実施形態では、馴化培地は、胎盤幹細胞が少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日間以上にわたり増殖した培地を含む。他の実施形態では、馴化培地は、胎盤幹細胞が少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%のコンフルエンス、または100%までのコンフルエンスに増殖した培地を含む。このような馴化培地を用いて、別個の胎盤幹細胞集団または別の種類の幹細胞集団の培養をサポートすることができる。別の実施形態では、馴化培地は、胎盤幹細胞が成体細胞型に分化した培地を含む。別の実施形態では、馴化培地は、胎盤幹細胞および非胎盤幹細胞が培養された培地を含む。
【0156】
したがって、一実施形態では、本明細書で、胎盤幹細胞培養物からの培地を含む組成物であって、前記胎盤幹細胞が(a)基質に接着し、(b)CD200およびHLA−Gを発現し、またはCD73、CD105、およびCD200を発現し、またはCD200およびOCT−4を発現し、またはCD73、CD105、およびHLA−Gを発現し、またはCD73およびCD105を発現し、該集団が胚様体の形成を可能とする条件下で胎盤幹細胞を含む胎盤細胞集団を培養したときに前記集団における1つまたは複数の胚様体の形成を促進し、またはOCT−4を発現し、胚様体の形成を可能とする条件下で胎盤幹細胞を含む胎盤細胞集団を培養したときに前記集団における1つまたは複数の胚様体の形成を促進し、(c)MLR(混合リンパ球反応)でCD4
+またはCD8
+T細胞の増殖を検出可能な程度に抑制し、前記胎盤幹細胞の培養物が24時間以上にわたって前記培地中で培養された組成物が提供される。具体的な実施形態では、組成物は、複数の前記胎盤幹細胞をさらに含む。別の具体的な実施形態では、組成物は、複数の非胎盤細胞を含む。より具体的な実施形態では、前記非胎盤細胞は、CD34
+細胞、例えば、末梢血造血前駆細胞、臍帯血造血前駆細胞、または胎盤血造血前駆細胞などの造血前駆細胞を含む。非胎盤細胞はまた、間葉系幹細胞、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞などの他の幹細胞も含みうる。非胎盤細胞はまた、1つまたは複数の型の成体細胞または細胞株でもありうる。別の具体的な実施形態では、組成物は、抗増殖剤、例えば、抗MIP−1α抗体または抗MIP−1β抗体を含む。
【0157】
5.6.1.4 胎盤幹細胞を含むマトリックス
本明細書では、免疫抑制性胎盤幹細胞、例えば胎盤幹細胞の免疫抑制性集団を含むマトリックス、ヒドロゲル、足場(scaffolds)などがさらに提供される。
【0158】
本明細書で提供される胎盤幹細胞は、天然のマトリックス、例えば、羊膜材料などの胎盤生物材料上に播種することができる。このような羊膜材料は、例えば、哺乳動物胎盤から直接に切除された羊膜、固定または熱処理された羊膜、実質的に乾燥した(すなわち、<20%H
2Oの)羊膜、絨毛膜、実質的に乾燥した絨毛膜、実質的に乾燥した羊膜および絨毛膜などでありうる。胎盤幹細胞を播種しうる好ましい胎盤生物材料については、Hariri、米国出願公開第2004/0048796号において説明されている。
【0159】
本明細書で提供される胎盤幹細胞は、例えば、注入に適するヒドロゲル溶液中に懸濁させることができる。このような組成物に適するヒドロゲルは、RAD16などの自己集合ペプチドを含む。一実施形態では、細胞を含むヒドロゲル溶液は、例えば鋳型内で固めて、その中に細胞を分散させて移植するためのマトリックスを形成させることができる。このようなマトリックス内の胎盤幹細胞はまた、移植前に分裂により拡大培養できるように培養することができる。ヒドロゲルは、例えば、共有結合、イオン結合、または水素結合を介して架橋され、水分子を取り込んでゲルを形成する三次元的開格子構造を形成する有機重合体(天然または合成)である。ヒドロゲル形成材料は、アルギネートおよびその塩などの多糖類、ペプチド、ポリホスファジン、および、イオン的に架橋されるポリアクリレート、または、それぞれ、温度もしくはpHにより架橋される、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレングリコールブロック共重合体などのブロック重合体を含む。一部の実施形態では、ヒドロゲルまたはマトリックスは、生体分解性である。
【0160】
一部の実施形態では、製剤は、in situで重合化されるゲル(例えば、米国特許出願公開第2002/0022676号;Ansethら、J.Control Release、第78巻、第1−3号、199〜209頁(2002);Wangら、Biomaterials、第24巻、第22号、3969〜80頁(2003)を参照されたいを含む。
【0161】
一部の実施形態では、重合体は、水、緩衝塩溶液、または帯電した側鎖基もしくはその1価イオン塩を有する水性アルコール溶液などの水溶液中で少なくとも部分的に可溶性である。陽イオンと反応しうる酸性の側鎖基を有する重合体の例は、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、ポリ(酢酸ビニル)、およびスルホン化ポリスチレンなどのスルホン化重合体である。アクリル酸またはメタクリル酸と、ビニルエーテルの単量体または重合体との反応によって形成される酸性の側鎖基を有する共重合体を使用することもできる。酸性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくはフッ素化)アルコール基、フェノール性OH基、および酸性OH基である。
【0162】
胎盤幹細胞またはこの共培養物は、三次元的な骨組または足場上に播種し、in vivoで移植することができる。組織形成を刺激し、またはその他の形で本明細書の他の箇所に記載した治療方法の実施を促進しもしくは向上させる任意の1つまたは複数の成長因子、細胞、薬物または他の構成成分と組み合わせて、そのような骨組を移植することができる。
【0163】
本明細書に記載の治療方法で使用できる足場の例には、不織マット、多孔質発泡体、または自己集合ペプチドがある。不織マットは、グリコール酸と乳酸との合成吸収性共重合体(例えば、PGA/PLA)(VICRYL Ethicon,Inc.、Somerville、N.J.)を含む繊維を用いて形成することができる。例えば、フリーズドライ法または凍結乾燥法(例えば、米国特許第6,355,699号を参照されたい)などの工程により形成される、ポリ(ε−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)共重合体からなる発泡体もまた、足場として使用することができる。
【0164】
別の実施形態では、足場は、ナノ繊維足場、例えば、電気紡糸されたナノ繊維足場であるかまたはこれを含む。より具体的な実施形態では、前記ナノ繊維足場は、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、I型コラーゲン、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとの共重合体(PVDF−TrFE)、ポリ(−カプロラクトン)、ポリ(L−ラクチド−co−ε−カプロラクトン)[P(LLA−CL)](例えば、75:25)、および/またはポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)(PHBV)とI型コラーゲンとの共重合体を含む。別のより具体的な実施形態では、前記足場は、胎盤幹細胞の軟骨細胞への分化を促進する。ナノ繊維足場、例えば、電気紡糸されたナノ繊維足場を作製する方法は、当技術分野で知られている。例えば、Xuら、Tissue Engineering、第10巻、第7号、1160〜1168頁(2004)、Xuら、Biomaterials、第25巻、877〜886頁(20040);Mengら、J.Biomaterials Sci、Polymer Edition、第18巻、第1号、81〜94頁(2007)を参照されたい。
【0165】
本明細書に記載の胎盤幹細胞、例えば免疫抑制性胎盤幹細胞はまた、モノリン酸カルシウム、ジリン酸カルシウム、トリリン酸カルシウム、アルファ−トリリン酸カルシウム、ベータ−トリリン酸カルシウム、およびテトラリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムマグネシウム、BIOGLASS(登録商標)などの生物活性ガラス、およびこれらの混合物を含むがこれらに限られない、生理的に許容されるセラミック製材料上に播種してもよく、またはこれらと接触させてもよい。現在市販される多孔質の生体適合性のセラミック製材料は、SURGIBONE(登録商標)(CanMedica Corp.、Canada)、ENDOBON(登録商標)(Merck Biomaterial France、France)、CEROS(登録商標)(Mathys,AG、Bettlach、Switzerland)、ならびに、HEALOS(商標)(DePuy,Inc.、Raynham、MA)およびVITOSS(登録商標)、RHAKOSS(商標)およびCORTOSS(登録商標)(Orthovita、Malvern、PA)などの鉱化コラーゲンによる骨移植用生成物を含む。骨組は、天然材料および/または合成材料の混合物、ブレンド、または複合物でありうる。
【0166】
別の実施形態では、胎盤幹細胞は、例えば、PGA、PLA、PCLの共重合体もしくはブレンド、またはヒアルロン酸などの生物吸収材料から作製されたマルチフィラメント糸からなりうるフェルト上に播種してもよく、またはこれらと接触させてもよい。
【0167】
別の実施形態では、本明細書に記載の胎盤幹細胞は、複合構造でありうる発泡体の足場上に播種することができる。このような発泡体の足場は、修復、置換、または補強される体内の特定の構造の一部の形状などの有用な形状に鋳型成形することができる。一部の実施形態では、骨組は、例えば、細胞の接着を増強するため、免疫抑制性胎盤幹細胞の接種の前に、0.1Mの酢酸による処理に続き、ポリリジン、PBS、および/またはコラーゲン中でインキュベートする。マトリックスをプラズマ被覆すること、あるいは、1つもしくは複数のタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性繊維、網状繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン−4−スルフェート、コンドロイチン−6−スルフェート、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸など)、細胞マトリックス、ならびに/または、ゼラチン、アルギネート、寒天、アガロース、および植物ガムなどであるがこれらに限られない他の材料の添加などにより、マトリックスの外面を改変して、細胞の接着または増殖および組織の分化を改善しうる。
【0168】
一部の実施形態では、足場は、それを非血栓形成性とする材料を含むか、またはこれにより処理される。これらの処理および材料はまた、内皮の増殖、移動、および細胞外マトリックスの沈着も促進および維持しうる。これらの材料および処理の例は、ラミニンおよびIV型コラーゲンなどの基底膜タンパク質などの天然材料、EPTFEなどの合成材料、および、PURSPAN(商標)(The Polymer Technology Group,Inc.、Berkeley、Calif.)などのセグメント化されたポリウレタン尿素シリコーンを含むがこれらに限られない。足場はまた、へパリンなどの抗血栓剤を含むこともあり、足場はまた、胎盤幹細胞を播種する前に、表面電荷を変化させるように処理される(例えば、プラズマ被覆される)こともある。
【0169】
5.6.2 遺伝子改変された胎盤幹細胞
別の態様では、例えば、対象の核酸またはポリペプチドを生成するように遺伝子改変された胎盤幹細胞および臍帯幹細胞が本明細書で提供される。遺伝子改変は、例えば、非組込み型複製ベクター、例えば、パピローマウイルスベクター、SV40ベクター、アデノウイルスベクター;組込み型ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、またはアデノ関連ウイルスベクター;または、複製欠損型ウイルスベクターを含むがこれらに限られないウイルスベースのベクターを用いて達成することができる。DNAを細胞内に導入する他の方法は、リポソーム、電気穿刺、粒子銃、直接のDNA注入などの使用を含む。
【0170】
幹細胞は、例えば、1つまたは複数の適切な発現制御エレメント、例えば、プロモーター配列またはエンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位、内部リボソーム侵入部位との作動的な関連により、またはその関連において制御されるDNAにより形質転換することができ、または幹細胞にそのDNAをトランスフェクトすることができる。このようなDNAには、選択可能なマーカーを組み込むことが好ましい。外来DNAの導入後、遺伝子操作された幹細胞は、例えば、濃縮培地中で増殖させ、次いで、選択培地に切り替えることができる。一実施形態では、胎盤幹細胞を遺伝子操作するのに使用されるDNAは、対象のポリペプチド、例えば、サイトカイン、成長因子、分化作用物質、または治療用ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0171】
幹細胞を遺伝子操作するのに使用されるDNAは、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞におけるヌクレオチド配列の発現を駆動する、当技術分野で知られる任意のプロモーターを含みうる。例えば、プロモーターは、CMVプロモーター/エンハンサー、SV40プロモーター、パピローマウイルスプロモーター、エプスタイン−バーウイルスプロモーター、エラスチン遺伝子プロモーターなどを含むがこれらに限られない。具体的な実施形態では、プロモーターは、ヌクレオチド配列が所望の場合に限り発現するように調節される。プロモーターは、誘導的プロモーター(例えば、メタロチオネインおよび熱ショックタンパク質と関連するプロモーター)または構成的プロモーターでありうる。
【0172】
別の具体的な実施形態では、プロモーターは、組織特異的プロモーターであるか、または、組織特異性を示す。このようなプロモーターの例は、ミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readheadら、1987年、Cell、第48巻、703頁)(希突起膠細胞)、エラスターゼI遺伝子制御領域(Switら、1984年、Cell、第38巻、639頁;Ornitzら、1986年、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.、第50巻、399頁;MacDonald、1987年、Hepatology、第7巻、425頁)(膵臓腺房細胞)、インスリン遺伝子制御領域(Hanahan、1985年、Nature、第315巻、115頁)(膵臓ベータ細胞)、ミオシン軽鎖−2遺伝子制御領域(Shani、1985年、Nature、第314巻、283頁)(骨格筋)を含むがこれらに限られない。
【0173】
胎盤幹細胞を遺伝子操作して、1つまたは複数の遺伝子の発現を「ノックアウト」または「ノックダウン」することができる。例えば、遺伝子を完全に不活化することによる、例えば、相同組換えによる発現の阻害により、細胞にとって天然の遺伝子の発現を低下させることができる。一実施形態では、例えば、タンパク質の重要な領域をコードするエクソン配列、または、その領域に対する5’側のエクソン配列に、正の選択マーカー、例えば、neoを割り込ませて、標的遺伝子からの正常なmRNAの生成を阻止し、遺伝子の不活化をもたらす。遺伝子の一部に欠失を作製する、または、遺伝子全体を欠失させることによっても遺伝子を不活化しうる。ゲノム内で遠く離れた標的遺伝子に対する2つの相同領域を伴う構築物を使用することにより、2つの領域の間に介在する配列を欠失させることができる(Mombaertsら、1991年、Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.、第88巻、3084頁)。標的遺伝子の発現を阻害するアンチセンス、DNAザイム、siRNA(small interfering RNA)、およびリボザイム分子も用いて、幹細胞内における標的遺伝子の活性レベルを低下させることができる。例えば、主要組織適合遺伝子複合体(HLA)の発現を阻害するアンチセンスRNA分子は、免疫反応に関して最も多用途であることが示されている。三重らせん分子は、標的遺伝子活性のレベルを低下させるのに用いることができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれるL.G.Davisら(編)、1994年、「BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY」、第2版、Appleton & Lange、Norwalk、Connを参照されたい。
【0174】
具体的な実施形態では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞は、対象ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子により遺伝子改変することができ、該対象ポリペプチドの発現は、外因性因子、例えば、ポリペプチド、有機小分子などにより制御される。このようなポリペプチドは、治療用ポリペプチドでありうる。より具体的な実施形態では、対象ポリペプチドは、IL−12またはインターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)である。別のより具体的な実施形態では、対象ポリペプチドは、インターロイキン−1受容体アンタゴニストとジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)との融合体であり、外因性因子は、抗葉酸物質、例えば、メトトレキサートである。このような構築物は、メトトレキサートとの接触時にIL−1Ra、またはIL−1RaとDHFRとの融合体を発現する胎盤幹細胞または臍帯幹細胞の遺伝子操作に有用である。このような構築物は、例えば、関節リウマチの治療に用いることができる。この実施形態では、メトトレキサートなどの抗葉酸物質への曝露時に、IL−1RaとDHFRとの融合体の翻訳が上方調節される。したがって、別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を遺伝子操作するのに使用される核酸は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことができ、前記第1および第2のポリペプチドは、外因性因子の存在下において翻訳が上方調節される融合タンパク質として発現される。前記ポリペプチドは、一過性または長期的に(例えば、何週間かまたは何カ月間かにわたり)発現させることができる。
【0175】
このような核酸分子は、遺伝子操作された幹細胞のポジティブ選択を可能とする、または遺伝子操作された幹細胞を可視化することを可能とするポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含みうる。別のより具体的な実施形態では、ヌクレオチド配列は、例えば、適切な可視化条件下で蛍光性であるポリペプチド、例えば、ルシフェラーゼ(Luc)をコードする。より具体的な実施形態では、このような核酸分子は、IL−1Ra−DHFR−IRES−Lucを含んでよく、ここで、IRESは内部リボソーム侵入部位である。
【0176】
5.6.3 不死化胎盤幹細胞株
増殖促進遺伝子、すなわち、トランスフェクトされた細胞の増殖を適切な条件下で促進するタンパク質をコードする遺伝子を含有する任意の適切なベクターのトランスフェクションにより、該増殖促進タンパク質の生成および/または活性が、外因性因子により制御されるように、哺乳動物胎盤細胞を条件付きで不死化させることができる。好ましい実施形態では、増殖促進遺伝子は、v−myc、N−myc、c−myc、p53、SV40ラージT抗原、ポリオーマラージT抗原、E1aアデノウイルス、またはヒトパピローマウイルスE7タンパク質などであるがこれらに限られない癌遺伝子である。
【0177】
増殖促進タンパク質の外的な制御は、増殖促進遺伝子を外的に制御されるプロモーター、例えば、その活性を、例えば、トランスフェクトされた細胞の温度または細胞と接触する培地の組成を改変させることにより制御しうるプロモーターの制御下に置くことにより達成することができる。一実施形態では、テトラサイクリン(tet)制御型遺伝子発現系(Gossenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第89巻、5547〜5551頁、1992年;Hoshimaruら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第93巻、1518〜1523頁、1996年を参照されたい)を使用することができる。tetの不在下において、このベクター内におけるtet制御型転写活性化因子(tTA)は、tetオペレーター配列と融合させたヒトサイトメガロウイルスからの最小プロモーターであるph
CMV*-1からの転写を強力に活性化する。tTAは、大腸菌(Escherichia coli)のトランスポゾン−10由来tet耐性オペロンのリプレッサー(tetR)と、単純ヘルペスウイルスのVP16の酸性ドメインとの融合タンパク質である。非毒性の低濃度(例えば、0.01〜1.0μg/mL)のtetで、tTAによる転写活性化はほぼ完全に無効化される。
【0178】
一実施形態では、ベクターは、選択マーカー、例えば、薬剤耐性を賦与するタンパク質をコードする遺伝子をさらに含有する。細菌性のネオマイシン耐性遺伝子(neo
R)は、本明細書に記載の方法中で用いうるこのようなマーカーの1つである。neo
Rを有する細胞は、例えば、増殖培地への100〜200μg/mLのG418の添加など、当業者に知られる手段により選択しうる。
【0179】
トランスフェクションは、レトロウイルス感染を含むがこれに限られない、当業者に知られた種々の手段のいずれかにより達成することができる。一般に、細胞培養物には、ベクターの産生細胞株から回収された馴化培地およびN2栄養補充物質を含有するDMEM/F12培地の混合物とのインキュベーションによりトランスフェクトすることができる。例えば、上述の通りに調製された胎盤細胞培養物には、例えば、1容量の馴化培地およびN2栄養補充物質を含有する2容量のDMEM/F12培地中における約20時間にわたるインキュベーションによりin vitroで5日後に感染させることができる。次いで、選択マーカーを有するトランスフェクトされた細胞を、上述の通りに選択することができる。
【0180】
トランスフェクション後、例えば、24時間で少なくとも30%の細胞が倍加することを可能とする増殖を許容する表面上に培養物を継代する。該基質は、ポリオルニチン(10μg/mL)および/もしくはラミニン(10μg/mL)でコートされたプラスチック製組織培養器具からなるポリオルニチン/ラミニン基質、ポリリジン/ラミニン基質、またはフィブロネクチンで処理された表面であることが好ましい。次いで、1つまたは複数の増殖増強因子を補充することもありしないこともある増殖培地を、3〜4日ごとに培養物に栄養を与える。培養物が50%未満のコンフルエントである場合は、増殖増強因子を増殖培地に添加することがある。
【0181】
条件付きで不死化させた胎盤幹細胞株は、80〜95%のコンフルエントの場合、トリプシン処理などによる標準的な技法を用いて継代することができる。一部の実施形態では、約20代の継代までは、選択を維持する(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を含有する細胞に対するG418の添加による)ことが有益である。長期保存用には、細胞を液体窒素中で凍結しうる。
【0182】
上述の通りに調製された、条件付きで不死化させたヒト胎盤幹細胞株から、クローン細胞株を単離することができる。一般に、このようなクローン細胞株は、限界希釈法などの標準的な技法を用いて、または、クローニングリングを用いて単離し、拡大培養することができる。クローン細胞株は、一般に、上述の通りに栄養を与えおよび継代しうる。
【0183】
クローン細胞でありうるがそうである必要はない、条件付きで不死化されたヒト胎盤幹細胞株は、分化を促進する培養条件下において、増殖促進タンパク質の生成および/または活性を抑制することにより、分化するように誘導できる。例えば、増殖促進タンパク質をコードする遺伝子が外的に制御されるプロモーターの制御下にある場合、条件、例えば、温度または培地の組成を改変して、増殖促進遺伝子の転写を抑制できる。上記で論じたテトラサイクリン制御型遺伝子発現系の場合、分化は、増殖促進遺伝子の転写を抑制するテトラサイクリンの添加により達成することができる。一般に、分化を開始するには、4〜5日間にわたる1μg/mLのテトラサイクリンで十分である。さらなる分化を促進するためには、増殖培地中にさらなる作用物質を含めることができる。
【0184】
5.6.4 アッセイ
胎盤幹細胞をアッセイで使用して、幹細胞の増殖、拡大培養、および/または分化に対する、培養条件、環境因子、分子(例えば、生体分子、無機小分子など)などの影響を、このような条件に曝露されない胎盤幹細胞と比較して判定することができる。
【0185】
一実施形態では、胎盤幹細胞を、分子との接触時における増殖、拡大培養、または分化の変化についてアッセイすることができる。一実施形態では、例えば、本明細書では、複数の胎盤幹細胞の増殖を調節する化合物を同定する方法であって、増殖を可能とする条件下で前記複数の幹細胞を該化合物と接触させることを含み、前記化合物が、これと接触していない複数の幹細胞と比較して、前記複数の幹細胞の増殖の検出可能な変化を引き起こす場合、前記化合物が胎盤幹細胞の増殖を調節する化合物であると同定される方法が提供される。具体的な実施形態では、前記化合物は、増殖阻害剤として同定される。別の具体的な実施形態では、前記化合物は、増殖増強剤として同定される。
【0186】
別の実施形態では、拡大培養を可能にする条件下で複数の幹細胞を化合物と接触させることを含めて、前記複数の胎盤幹細胞の拡大培養を調節する化合物を同定することができ、前記化合物が、前記化合物と接触させていない複数の幹細胞と比較して前記複数の幹細胞の拡大培養における検出可能な変化を引き起こす場合、前記化合物が、胎盤幹細胞の拡大培養を調節する化合物として同定される。具体的な実施形態では、前記化合物は、拡大培養阻害剤として同定される。別の具体的な実施形態では、前記化合物は、拡大培養増強剤として同定される。
【0187】
別の実施形態では、分化を可能とする条件下で前記幹細胞を前記化合物と接触させることを含む方法であって、前記化合物が、これと接触していない幹細胞と比較して、前記幹細胞の分化の検出可能な変化を引き起こす場合、前記化合物が胎盤幹細胞の増殖を調節する化合物であると同定される方法によって胎盤幹細胞の分化を調節する化合物を同定することができる。具体的な実施形態では、前記化合物は、分化阻害剤として同定される。別の具体的な実施形態では、前記化合物は、分化増強剤として同定される。
【0188】
5.6.5 胎盤幹細胞バンク
分娩後の胎盤からの幹細胞を多数の異なる方法で培養して、胎盤幹細胞の一連のロット、例えば、個体に投与される胎盤幹細胞の一連の用量を作製することができる。このようなロットは、例えば、胎盤灌流液または酵素で消化した胎盤組織からの幹細胞から得ることができる。複数の胎盤から得られる胎盤幹細胞の一連のロットは、例えば、長期保存用の胎盤幹細胞バンク内に配置することができる。一般に、接着性幹細胞を胎盤物質の初代培養物から得て、種培養物を形成し、これを制御された条件下で拡大培養して、ほぼ同等回数の倍加から細胞集団を形成する。ロットは、単一の胎盤組織に由来することが好ましいが、複数の胎盤組織に由来することも可能である。
【0189】
一実施形態では、以下の通りに幹細胞ロットを得る。まず、例えば、みじん切りにし、適切な酵素、例えば、コラゲナーゼ(上記の第5.2.3節を参照されたい)で消化することにより胎盤組織を破壊する。胎盤組織は、例えば、単一の胎盤に由来する全羊膜、全絨毛膜、またはその両方を含むことが好ましいが、羊膜または絨毛膜の一部のみを含むことも可能である。消化された組織は、例えば、約1〜3週間、好ましくは約2週間にわたり培養する。非接着性細胞の除去後、形成される高密度コロニーを、例えば、トリプシン処理により回収する。これらの細胞を回収し、適量の培地中に再懸濁させ、継代0細胞と定める。
【0190】
次いで、継代0細胞を用いて、拡大培養物に播種する。拡大培養物は、別個の細胞培養装置、例えば、NUNC(商標)のCell Factoryの任意の配置でありうる。継代0培養物中の細胞は、例えば、1×10
3、2×10
3、3×10
3、4×10
3、5×10
3、6×10
3、7×10
3、8×10
3、9×10
3、l×10
4、l×10
4、2×10
4、3×10
4、4×10
4、5×10
4、6×10
4、7×10
4、8×10
4、9×10
4、または10×10
4個の幹細胞を拡大培養物に播種するように、任意の程度に分割することができる。約2×10
4〜約3×10
4個の継代0細胞を用いて、各拡大培養物に播種することが好ましい。拡大培養物の数は、継代0細胞の数に依存し、そこから幹細胞を得る(1つまたは複数の)特定の胎盤に依存して多くも少なくもなりうる。
【0191】
拡大培養物は、培養物中の細胞密度が特定の値、例えば、約1×10
5個/cm
2に達するまで増殖させる。細胞は、この時点で回収し凍結保存することもでき、上記の通りに新規の拡大培養物中に継代することもできる。細胞は、使用前に、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回継代することができる。集団の累積分裂回数記録は、拡大培養(複数可)時において維持することが好ましい。継代0培養物からの細胞は、拡大培養して、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、または40回の倍加、または60回までの倍加を行うことができる。しかし、個別用量に細胞集団を分割する前における集団の倍加回数は、約15〜約30回であることが好ましく、約20回の倍加であることが好ましい。細胞は、拡大培養工程を通して連続的に培養することもでき、拡大培養中の1つまたは複数の時点で凍結することもできる。
【0192】
個別用量に用いうる細胞は、凍結、例えば、後の使用のために凍結保存することができる。個別用量は、例えば、1mL当たり約100万個〜約1億個の細胞を含むことができ、合計で約10
6〜約10
9個の細胞を含むことができる。
【0193】
その方法の具体的な実施形態では、約4回の倍加で継代0細胞を培養し、次いで、第1の細胞バンクにおいて凍結する。第1の細胞バンクからの細胞を凍結し、第2の細胞バンクに播種し、さらに約8回の倍加でその細胞を拡大培養する。この段階における細胞を回収および凍結し、約8回のさらなる分裂に進むことを可能とする新規の拡大培養物に播種するのに用い、細胞倍加の累積回数を約20回とする。継代の中間点における細胞は、後続の拡大培養物中で使用する、1mL当たり約100,000〜約1000万個、好ましくは、1mL当たり約100万個の単位で凍結させることができる。約20回の倍加時における細胞は、投与または幹細胞を含有する組成物の作製時における使用のために、1mL当たり約100万〜約1億個の個別用量で凍結させることができる。一実施形態では、細胞を、10%HAS、10%DMSOのPlasmalyte中で約200万個/mlに希釈する。
【0194】
好ましい実施形態では、そこから胎盤が得られるドナー(例えば、母体)を、少なくとも1種類の病原体について検査する。検査した病原体について母体が陽性である場合、その胎盤からの全ロットを廃棄する。このような検査は、継代0細胞確立の前もしくは後、または拡大培養時を含む、胎盤幹細胞ロットの作製中の任意の時点において実施することができる。その存在について検査される病原体は、限定されないが、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全症ウイルス(I型およびII型)、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどを含みうる。
【0195】
5.6.6 疾患の治療
本明細書では、不適当なまたは望まれない免疫応答によって引き起こされる、またはそれに伴う疾患、障害または状態、例えば、免疫抑制によって有益に治療することができる疾患、障害または状態を有する個体を治療する方法であって、胎盤幹細胞を個体に投与することを含む方法が提供される。具体的な実施形態では、その量は、個体中で免疫応答を検出可能な程度に抑制するのに十分な量である。そのような免疫応答は、例えば、その個体由来のT細胞を使用して行うMLRまたはリグレッションアッセイにおけるT細胞の増殖でありうる。
【0196】
不適当なまたは望まれない免疫応答を伴う、またはそれによって引き起こされる疾患、障害または状態を有する個体、例えば、多発性硬化症を有する、または発症するリスクがある個体;炎症性腸疾患、例えば、クローン病または潰瘍性結腸炎を有する、または発症するリスクがある個体;移植片対宿主病を有する、または発症するリスクがある個体;強皮症を有する、または発症するリスクがある個体;関節リウマチを有する、または発症するリスクがある個体;糖尿病を有する、または発症するリスクがある個体;乾癬を有する、または発症するリスクがある個体;菌状息肉腫を有する、または発症するリスクがある個体などを、疾患の進行の間における任意の時点で、複数の胎盤幹細胞、および任意選択で1つまたは複数の治療薬で治療することができる。例えば、診断直後、もしくは診断から1、2、3、4、5、6日以内、または診断後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50週以上、もしくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10年以上の期間内に個体を治療することができる。疾患の臨床経過の間に個体を1回または複数回治療することができる。急性発作の間、寛解の間、または慢性変性相の間に適宜個体を治療することができる。
【0197】
そのような疾患、障害または状態の治療で有用な胎盤幹細胞は、本明細書で開示されている胎盤幹細胞のいずれかでよい。具体的な実施形態では、胎盤幹細胞は、CD200およびHLA−Gを発現し;CD73、CD105、およびCD200を発現し;CD200およびOCT−4を発現し;CD73、CD105、およびHLA−Gを発現し;CD73およびCD105を発現し、胚様体の形成を可能にする条件下で胎盤細胞の集団を培養したときに前記集団における1つもしくは複数の胚様体の形成を促進し;またはOCT−4を発現し、(c)胚様体の形成を可能にする条件下で胎盤細胞の集団を培養したときに前記集団における1つもしくは複数の胚様体の形成を促進し;または上記のいずれかの組合せを示す。具体的な実施形態では、胎盤幹細胞は、CD10
+、CD105
+、CD200
+、CD34
-の胎盤幹細胞である。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞はCD117
-である。
【0198】
一実施形態では、個体に約3億個の胎盤幹細胞を投与する。しかし、投与量は、個体の身体的特徴、例えば重量に従って様々となり得、投与1回当たり胎盤幹細胞100万〜100億個、好ましくは投与1回当たり胎盤幹細胞1000万個〜10億個、または投与1回当たり1億〜5000万個となりうる。投与は、好ましくは静脈内であるが、生細胞の投与について医学的に許容される任意の経路、例えば非経口、皮下、筋内、腹腔内、眼内などでよい。一実施形態では、胎盤幹細胞は細胞バンク由来である。一実施形態では、投与量の、例えば羊膜、羊膜/絨毛膜、絨毛膜または臍帯由来の胎盤幹細胞を、ボーラス注射またはカテーテルによる投与に適した血液バッグまたは同様のバッグ内に入れる。
【0199】
別の実施形態では、不適当なまたは望まれない免疫応答によって引き起こされる、またはそれに伴う疾患、障害または状態、例えば、免疫抑制によって有益に治療することができる疾患、障害または状態を有する個体を治療する方法であって、個体中で免疫応答を検出可能な程度に抑制するのに十分な量の、胎盤幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含む方法が本明細書で提供される。そのような免疫応答は、例えば、その個体由来のT細胞を使用して行うMLRまたはリグレッションアッセイにおけるT細胞の増殖でありうる。
【0200】
胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地は、単回または複数回投与することができる。胎盤幹細胞を複数回投与する場合、その投与は、不適当なもしくは望まれない免疫応答によって引き起こされる、もしくはそれに伴う疾患、障害もしくは状態の1つもしくは複数の急性の症状を軽減するように計画された治療計画の一部にもなり得、またはそのような疾患、障害もしくは状態の慢性経過を予防し、もしくはその重症度を小さくするように計画された長期の治療計画の一部にもなりうる。
【0201】
5.6.7 多発性硬化症の治療
別の態様では、多発性硬化症、または多発性硬化症に伴う症状を有する個体を治療する方法であって、個体中で免疫応答を検出可能な程度に調節、例えば抑制するのに十分な量および時間で、複数の胎盤幹細胞、または胎盤幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含む方法が本明細書で提供される。
【0202】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の慢性、再発性炎症疾患である。この疾患により、CNSを囲むミエリン鞘およびPNS軸索、乏突起膠細胞、ならびに神経細胞自体の傷害が生じる。この疾患は、自己反応性T細胞、特にCD4
+T細胞によって媒介され、この細胞は増殖し、血液脳関門を越え、細胞接着分子および炎症性サイトカインの影響下でCNSに入る。MSの症状には、肢の感覚障害、視神経機能障害、錐体路機能障害、膀胱機能障害、腸機能障害、性機能障害、運動失調、および二重視がある。
【0203】
4つの異なる型または臨床経過のMSが同定されている。第1の、再発/寛解型MS(RRMS)は、数日から数週間にわたって急性に現れる神経機能障害の自己限定的発作、その後の数カ月にわたる、時に不完全な回復の時期を特徴とする。第2の型の、二次進行型MS(SPMS)は、RRMSとして始まるが、その臨床経過が急性発作と無関係な機能の着実な悪化を特徴とするように変化する。第3の、一次進行型MS(PPMS)は、急性発作を伴わない、発症からの機能の着実な減退を特徴とする。第4の型の、進行/再発型MS(PRMS)も進行性の経過から始まり、時折の発作が機能の進行性の減退に重なって起こる。
【0204】
MSである者は一般に、任意選択でMRIを用いて、運動技能評価を使用して評価される。例えば、運動技能評価の1つである総合障害度評価尺度は、下記のように罹患個体の能力の程度をスコア化するものである:
0.0 正常な神経学的検査結果
1.0 能力障害なし、1つのFSにおける最小限の徴候
1.5 能力障害なし、複数のFSにおける最小限の徴候
2.0 1つのFSにおける最小限の能力障害
2.5 1つのFSにおける軽度の能力障害、または2つのFSにおける最小限の能力障害
3.0 1つのFSにおける中等度の能力障害、または3つもしくは4つのFSにおける軽度の能力障害。完全に歩行可能。
3.5 完全に歩行可能であるが、1つのFSにおける中等度の能力障害およびいくつかの他のFSにおける最小限を超える能力障害を伴う
4.0 比較的重度の能力障害があるにもかかわらず援助なしで完全に歩行可能であり、自分のことは自分ででき、1日に約12時間起き上がって動き回れる;援助および休息なしで約500メートル歩くことができる
4.5 援助なしで完全に歩行可能であり、ほぼ全日起き上がって動き回れ、丸1日働くことができるが、その他の場合完全な活動にいくらかの制限があり、または最小限の支援を必要とすることがある;比較的重度の能力障害を特徴とする;援助および休息なしで約300メートル歩くことができる。
5.0 援助および休息なしで約200メートル歩行可能である;完全な日常活動(特別な設備なしに丸1日働くこと)を損なうほど重度の能力障害
5.5 援助および休息なしで約100メートル歩行可能である;完全な日常活動が不可能になるほど重度の能力障害
6.0 断続的なまたは片側のみの持続的な支援(杖、松葉杖、装具)が、休息を伴うまたは伴わない約100メートルの歩行に必要である
6.5 持続的な両側の支援(杖、松葉杖、装具)が、休息を伴わない約20メートルの歩行に必要である
7.0 援助があっても約5メートルを超えて歩くことができず、基本的に車椅子から離れられない;自分で標準的な車椅子の車輪を動かし、単独で移動する;車椅子で1日に約12時間起き上がって動き回れる
7.5 数歩を超えて進めない;車椅子から離れられない;移動に援助を必要とすることがある;自分で車輪を動かすが、標準的な車椅子では丸1日乗り続けられない;動力付き車椅子を必要とすることがある
8.0 基本的にベッドもしくは椅子から離れられず、または車椅子で動き回るが、ほぼ全日ベッドから離れていることがある;多くのセルフケア機能を保持する;概して腕を有効に使用する
8.5 基本的にほぼ全日ベッドから離れられない;腕を一部有効に使用し、一部のセルフケア機能を保持する
9.0 ベッドに引きこもる;依然として意思伝達し食べることができる。
9.5 全体的に体の不自由な病床患者;有効に意思伝達し、または食べる/飲み込むことができない
10.0 MSによる死亡。
【0205】
上記のスコア化システムにおいて、「FS」は、錐体路、小脳、脳幹、感覚、腸および膀胱、視覚、大脳、および他の系を含めた、測定した8つの機能系(functional systems)をいう。
【0206】
Scripps神経学的評価尺度(Scripps neurological rating scale)、歩行可能指数(ambulatory index)、および多発性硬化症機能複合スコア(multiple sclerosis functional composite score)(MSFC)を含めて、他の類似するスコア化システムが知られている。
【0207】
発作率の決定によっても、MSの進行が評価されている。
【0208】
MSに伴う神経病変(例えば、新たな病変、亢進している病変、または混合した独特の活動性病変)を検出できる磁気共鳴映像法によっても、MSの進行が評価されている。
【0209】
したがって、一実施形態では、MSを有する個体、例えばMSと診断された個体を治療する方法であって、個体中で免疫応答を検出可能な程度に抑制するのに十分な複数の胎盤幹細胞を個体に投与することを含む方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、MSは再発/寛解型MSである。別の具体的な実施形態では、MSは二次進行型MSである。別の具体的な実施形態では、MSは一次進行型MSである。別の具体的な実施形態では、MSは進行/再発型MSである。別の具体的な実施形態では、その投与により、個体中のMSの1つまたは複数の症状が検出可能な程度に改善する。別の具体的な実施形態では、その症状は、例えば、肢の感覚障害、視神経機能障害、錐体路機能障害、膀胱機能障害、腸機能障害、性機能障害、運動失調、または二重視のうち1つまたは複数である。別の具体的な実施形態では、前記投与により、EDSS尺度で少なくとも0.5ポイントの改善が認められる。別の具体的な実施形態では、前記投与により、少なくとも1つのMSスコア化システムによれば、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11カ月にわたって機能が維持される。別の具体的な実施形態では、前記投与により、EDSS尺度で少なくとも1ポイントの改善が認められる。別の具体的な実施形態では、前記投与により、EDSS尺度で少なくとも2ポイントの改善が認められる。他の具体的な実施形態では、前記投与により、多発性硬化症評価尺度またはMRIで検出可能な改善が認められる。急性発作の間、寛解の間、または慢性変性相の間に適宜個体を治療することができる。別の実施形態では、分娩後のMSの女性に胎盤幹細胞を投与して、寛解の状態を維持し、または妊娠中に経験する再発を低減する。
【0210】
本明細書では、MSを有する個体、例えばMSを有すると診断された個体を治療する方法であって、個体中で免疫応答を検出可能な程度に抑制するのに十分な複数の胎盤幹細胞、および1つまたは複数の治療薬を個体に投与することを含み、その投与により、個体中のMSの1つまたは複数の症状が検出可能な程度に改善する方法も提供される。一実施形態では、治療薬はグルココルチコイドである。具体的な実施形態では、グルココルチコイドは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、メチルプレドニゾロン、またはデキサメタゾンである。別の実施形態では、治療薬は免疫調節または免疫抑制剤である。種々の具体的な実施形態では、免疫調節または免疫抑制剤は、IFNβ−1a、IFN−1b、酢酸グリアトリアマー(gliatriamer)、シクロホスファミド、メトトレキセート、アザチオプリン、クラドリビン、シクロスポリンまたはミトキサントロンである。他の実施形態では、治療薬は静脈内イムノグロブリン、血漿交換、またはスルファサラジンである。別の実施形態では、上記治療薬の任意の組合せを個体に投与する。
【0211】
5.6.8 炎症性腸疾患の治療
一実施形態では、胎盤幹細胞、胎盤幹細胞集団、および/または胎盤幹細胞もしくは胎盤幹細胞集団を含む組成物を使用して、炎症性腸疾患(IBD)、例えばクローン病または潰瘍性結腸炎を有する、または発症するリスクがある個体を治療する。したがって、別の態様では、炎症性腸疾患、または炎症性腸疾患に伴う症状を有する個体を治療する方法であって、個体中で免疫応答を検出可能な程度に調節、例えば抑制するのに十分な量および時間で、複数の胎盤幹細胞、または胎盤幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含む方法が本明細書で提供される。
【0212】
クローン病。
一実施形態では、IBDは、時に回腸炎または腸炎と呼ばれるクローン病である。クローン病は、消化管(胃腸管またはGI管とも呼ばれる)の炎症を引き起こす慢性障害である。クローン病は、口から肛門までのGI管の任意の部分を冒しうるが、最も一般的には、回腸と呼ばれる小腸の下位の部分を冒す。5つの型のクローン病が知られている。胃十二指腸クローン病は、胃および十二指腸(小腸の最も上位の部分)を冒す。空回腸炎は、小腸の最も長い部分である空腸のクローン病である。回腸炎は、小腸の下位の部分である回腸のクローン病である。クローン病の最も一般的な形である回結腸炎は、回腸および結腸を冒す。最後に、クローン結腸炎(肉芽腫性結腸炎)は結腸を冒し、クローン結腸炎では疾患組織の領域間に健常な組織の領域がしばしば認められるが、クローン結腸炎は直腸が関与しない場合は結腸しか関与しえない点で潰瘍性結腸炎と区別される。クローン病は、例えば食物、有益な細菌などを含めたGI管中の抗原に対する身体の免疫系の不適当な応答から生じ、その結果、小腸の裏打ち層中に白血球が蓄積すると考えられる。クローン病に伴う炎症はまた、サイトカインの腫瘍壊死因子(TNF−α)の作用にも起因している。
【0213】
潰瘍性結腸炎。
別の実施形態では、IBDは潰瘍性結腸炎である。潰瘍性結腸炎は、直腸および/または結腸の裏打ち層中に炎症およびただれ(潰瘍)を引き起こす疾患である。潰瘍は、通常は結腸を裏打ちする細胞を炎症が死滅させた場所にでき、潰瘍は、典型的にはその後出血し膿を生じる。炎症が直腸、および結腸の下位の部分に起こったとき、その疾患は潰瘍性直腸炎と呼ばれる。結腸全体が冒されたとき、その疾患は汎結腸炎(pancolitis)と呼ばれる。結腸の左側だけが冒されたとき、その疾患は限局性または遠位結腸炎と呼ばれる。潰瘍性結腸炎の症状には、それだけに限らないが、腹痛、出血性下痢、発熱、悪心、腹部痙攣、貧血、疲労、体重減少、食欲の喪失、直腸出血、体液および栄養素の喪失、皮膚病変、関節痛、ならびに(小児における)成長不全がある。潰瘍性結腸炎はまた、眼の炎症、肝疾患や骨粗鬆症などの合併症をも引き起こしうる。
【0214】
したがって、一実施形態では、炎症性腸疾患を有する個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞を前記個体に投与することを含み、前記治療有効量が、前記炎症性腸疾患(IBD)の少なくとも1つの症状が検出可能な程度に改善される量である方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、IBDはクローン病である。より具体的な実施形態では、前記クローン病は、胃十二指腸クローン病、空回腸炎、回腸炎、回結腸炎、またはクローン結腸炎である。別のより具体的な実施形態では、前記症状はクローン病の症状である。より具体的な実施形態では、前記クローン病の症状は、GI管の一部の炎症および腫脹、腹痛、腸の頻繁な排泄、ならびに/または下痢である。別のより具体的な実施形態では、前記クローン病の症状は、直腸出血、貧血、体重減少、関節炎、皮膚障害、発熱、腸壁の肥厚、腸における瘢痕組織の形成、腸におけるただれもしくは潰瘍の形成、腸壁における1つもしくは複数の瘻孔の形成、肛門における1つもしくは複数の裂傷の発生、栄養失調(例えば、タンパク質、カロリー、ビタミンのうち1つまたは複数の失調)の発生、腎結石の発生、胆石の発生、または肝もしくは胆管系の疾患である。
【0215】
別のより具体的な実施形態では、IBDは潰瘍性結腸炎である。より具体的な実施形態では、前記潰瘍性結腸炎は、潰瘍性直腸炎、汎結腸炎、限局性結腸炎または遠位結腸炎である。別のより具体的な実施形態では、前記症状は潰瘍性結腸炎の症状である。より具体的な実施形態では、前記症状は、腹痛、出血性下痢、発熱、悪心、腹部痙攣、貧血、疲労、体重減少、食欲の喪失、直腸出血、体液および栄養素の喪失、皮膚病変、関節痛、ならびに増殖不全である。別のより具体的な実施形態では、その症状は、骨粗鬆症、眼の炎症、または肝疾患である。
【0216】
別の具体的な実施形態では、胎盤肝細胞を投与する前記個体に1つまたは複数の第2の治療をさらに施し、前記第2の治療は、抗炎症剤、ステロイド、免疫抑制物質、および/または抗生物質を含む。クローン病または潰瘍性結腸炎の治療で有用な抗炎症薬の例として、それだけに限らないが、メサラミン、5−ASA(5−アミノサリチル酸)剤(例えば、ASACOL(登録商標)(メサラミン、遅延放出)、DIPENTUM(オサラジン(Osalazine))、PENTASA(登録商標)(メサラミン、制御放出))、スルファサラジン(5−ASAとスルファピリジンの組合せ)、抗炎症性抗体(例えば、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標)))などがある。クローン病または潰瘍性結腸炎の治療で有用なステロイドの例として、それだけに限らないが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレジゾン(predisone)、メチルプレドニゾンなどがある。典型的には、当技術分野で実施されるように、比較的多い投与量のステロイドを最初に送達し、その後炎症が鎮静するにつれて投与量を少なくする。クローン病の治療で有用な免疫抑制物質の例として、それだけに限らないが、シクロスポリンA、6−メルカプトプリンまたはアザチオプリンがある。例えば、アンピシリン、スルホンアミド、セファロスポリン、テトラサイクリン、および/またはメトロニダゾールを含めた任意の抗生物質をクローン病の治療で使用することができる。別の具体的な実施形態では、第2の治療はブタ鞭虫、例えばトリクリス・スイス(Trichuris suis)の卵の投与である。
【0217】
5.6.9 移植片対宿主病の治療
別の実施形態では、移植片対宿主病(GVHD)を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体、例えば、移植レシピエントまたは移植を受ける個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞、または胎盤幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、GVHDの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、またはGVHDの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。
【0218】
GVHDは、典型的には、完全にまたは部分的に同種異系の組織の移植後に、またはその結果、特に同種異系造血幹細胞の移植後に発症し、それには、典型的には移植してから5〜100日以内に発症する1つまたは複数の皮膚炎、腸炎および肝炎が含まれうる。GVHDは急性である可能性もあり、または慢性である可能性もある。急性GVHDは、典型的には移植後5〜47日目での掻痒性または有痛性の発疹の出現を特徴とし得る。超急性GVHDは、発熱、全身性紅皮症、および剥離を伴うこともある。上昇した(例えば、正常より高い)ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、およびアルカリ性ホスファターゼ(AP)のレベルによって示されるように、肝臓が関与することもある。急性GVHDにはまた結腸も関与し得、その結果、下痢、内出血、痙攣、腹痛、および腸閉塞が生じる。慢性GVHDは、急性GVHDを経験した、または以前は無症候性であった移植患者に起こりうる。慢性GVHDの症状発現には、眼における灼熱感、眼の過敏性、光恐怖症、涙分泌の低下による眼の疼痛;口の乾燥、香辛料の入ったもしくは酸味のある食品に対する敏感性、腹痛、嚥下困難(嚥下における困難性)、嚥下痛(嚥下時の疼痛)、体重減少、閉塞性肺疾患、筋力低下、神経因性疼痛、および/または筋肉痙攣がある。
【0219】
したがって、その方法の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の治療有効量は、急性GVHDの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、または急性GVHDの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量である。より具体的な実施形態では、前記1つまたは複数の症状は、皮膚炎、掻痒性の皮膚、発疹、腸炎、肝炎、発熱、紅皮症、剥離、上昇したALTレベル、上昇したASTレベル、上昇したAPレベル;上昇したビリルビンレベル;腹痛、痙攣、内出血、または腸閉塞を含む。その方法の別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞の治療有効量は、慢性GVHDの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、または慢性GVHDの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、眼における灼熱感、眼の過敏性、涙産生の低下、光恐怖症、涙分泌の低下による眼の疼痛、口の乾燥、香辛料の入ったもしくは酸味のある食品に対する敏感性、腹痛、嚥下困難(嚥下における困難性)、嚥下痛(嚥下時の疼痛)、体重減少、(喘鳴性の呼吸困難および/または慢性咳嗽のいずれかを含む)閉塞性肺疾患、筋力低下、神経因性疼痛、および/または筋肉痙攣を含む。その方法の他の具体的な実施形態では、急性GVHDおよび/または慢性GVHDの症状は、高ビリルビン血症、黄疸、門脈圧亢進、硬変、出血性結膜炎、偽膜形成、兎眼、慢性乾性角結膜炎、点状角膜症、口腔粘膜の萎縮、紅斑、頬もしくは口唇粘膜の苔癬様病変の発生、閉塞性細気管支炎、膣炎、膣狭窄、自己免疫性血小板減少症、および/または貧血を含む。
【0220】
その方法は、ドナーまたはレシピエントの性質によって限定されない。移植は、種の系統を越えることができる。好ましい実施形態では、ドナーとレシピエントは同じ種、例えばどちらもヒトである。移植レシピエントは、ドナーに対して完全または部分的に同種異系でありうる。移植は自家移植でよい。移植レシピエントまたはドナーは、5歳未満、1〜10歳、5〜15歳、10〜20歳、15〜25歳、20〜30歳、25〜35歳、30〜40歳、35〜45歳、40〜50歳、45〜55歳、50〜60歳、55〜65歳、60〜70歳、または70歳以上でよい。
【0221】
GVHDは一般に、症状の重症度によってグレード付けられる。例えば、一実施形態では、表1および2で示すように、皮膚、肝、および/または小腸の症状に従って、GVHDの症状が段階付けられ、GVHDが0(GVHDなし)〜IV(致命的なGVHD)にグレード付けられる。
【0224】
したがって、その方法の別の実施形態では、胎盤幹細胞の治療有効量は、例えば、個体、例えば移植を受けた個体(移植レシピエント)中で、移植片対宿主病の1つまたは複数の症状における改善を引き起こすのに十分な量であり、その結果、前記移植片対宿主病は、少なくとも1段階グレードが下がる。具体的な実施形態では、前記移植片対宿主病は、グレードIVからグレードIIIに、グレードIVからグレードIIに、グレードIVからグレードIに、グレードIVからグレード0に、グレードIIIからグレードIIに、グレードIIIからグレードIに、グレードIIIからグレード0に、グレードIIからグレードIに、グレードIIからグレード0に、またはグレードIからグレード0に下がる。その方法の別の実施形態では、胎盤幹細胞の治療有効量は、前記個体中の移植片対宿主病が移植後10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100日以内にグレード0、グレードI、グレードIIまたはグレードIIを越して進展しないような量である。
【0225】
種々の具体的な実施形態では、GVHDを有する、または発症するリスクがある個体は、同種異系造血幹細胞移植を受けている個体(例えば、GVHDの予防を受けていない個体;高齢の個体;HLAが同一でない造血幹細胞のレシピエント;アロ感作ドナー由来の移植片のレシピエント;無関係のドナー由来の移植片のレシピエント);固形臓器移植、特にリンパ組織を含む臓器の移植、例えば小腸移植を受けている個体;照射されていない血液製剤を投与されている個体(例えば新生児または胎児、先天性免疫不全症候群を有する個体、免疫抑制化学療法を受けている個体、部分的にHLAが同一であるHLA相同のドナーから直接供血を受けている個体)、複合組織同種異系移植(すなわち、複数の組織型を有する同種異系移植)を受けている個体などである。GVHDは、自家または同系造血細胞移植後にも起こりうる。別の具体的な実施形態では、個体は、移植の補助として、亜致死量または致死量の放射線を受けている(例えば照射されている)。
【0226】
具体的な実施形態では、移植の前14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1日以内に胎盤または臍帯幹細胞を個体に投与する。別の具体的な実施形態では、移植と同時に胎盤または臍帯幹細胞を投与する。別の具体的な実施形態では、移植から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日以内に胎盤または臍帯幹細胞を投与する。胎盤または臍帯幹細胞の投与は、複数回、例えば移植の前、それと同時もしくはその後、またはその任意の組合せで複数回行うことができる。別の実施形態では、グレードIIまたはそれより悪い移植片対宿主病の症状が個体(移植レシピエント)中で発現したとき、移植後の任意の時点で臍帯または胎盤幹細胞を投与する。
【0227】
その方法の別の実施形態では、個体、例えば、移植レシピエントまたは移植を受ける個体に胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を投与し、少なくとも1つの他の治療薬をさらに投与する。具体的な実施形態では、治療薬は、胸腺細胞グロブリン、ミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、Campath−1H、ケラチノサイト成長因子(KGF)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレジゾン、またはメチルプレドニゾンである。別の具体的な実施形態では、治療薬は免疫抑制剤または免疫調節剤である。GVHDに適用可能な免疫抑制剤および免疫調節剤が当技術分野で知られ、それには、それだけに限らないが、メトトレキセート、レフルノミド、シクロホスファミド、シクロスポリンA、マクロライド系抗生物質(例えば、FK506(タクロリムス))、メチルプレドニゾロン(MP)、コルチコステロイド、ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン(シロリムス)、ミゾリビン、デオキシスペルグアリン、ブレキナール、マロノニトリロアミンド(malononitriloaminde)(例えばレフルナミド(leflunamide))、T細胞受容体調節物質、およびサイトカイン受容体調節物質、ペプチド模倣物、および抗体(例えば、ヒト、ヒト化、キメラ、モノクローナル、ポリクローナル、Fv、ScFv、FabまたはF(ab)
2断片またはエピトープ結合断片)、核酸分子(例えば、アンチセンス核酸分子および三重らせん)、小分子、有機化合物、および無機化合物がある。具体的には、免疫調節剤には、それだけに限らないが、メトトレキセート、レフルノミド、シクロホスファミド、シトキサン、イムラン、シクロスポリンA、ミノサイクリン、アザチオプリン、抗生物質(例えば、FK506(タクロリムス))、メチルプレドニゾロン(MP)、コルチコステロイド、ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン(シロリムス)、ミゾリビン、デオキシスペルグアリン、ブレキナール、マロノニトリロアミンド(例えばレフルナミド)、T細胞受容体調節物質、およびサイトカイン受容体調節物質がある。T細胞受容体調節物質の例には、それだけに限らないが、抗T細胞受容体抗体(例えば、抗CD4抗体(例えば、cM−T412(Boeringer)、IDEC−CE9.I(IDECおよびSKB)、mAB4162W94、ORTHOCLONE(登録商標)およびOKTcdr4a(Janssen−Cilag))、抗CD3抗体(例えば、NUVION(登録商標)(Product Design Labs)、OKT3(Johnson&Johnson)、またはRituxan(IDEC))、抗CD5抗体(例えば、抗CD5リシン結合免疫複合体)、抗CD7抗体(例えば、CHH−380(Novartis))、抗CD8抗体、抗CD40リガンドモノクローナル抗体(例えば、IDEC−131(IDEC))、抗CD52抗体(例えば、CAMPATH(登録商標)1H(Ilex))、抗CD2抗体、抗CD1a抗体(例えば、Xanelim(Genentech))、および抗B7抗体(例えば、IDEC−114)(IDEC)))、CTLA4−イムノグロブリン、サリドマイド、または上記第5.6.6節中の化合物の1つがある。具体的な実施形態では、T細胞受容体調節物質はCD2アンタゴニストである。他の実施形態では、T細胞受容体調節物質はCD2アンタゴニストでない。別の具体的な実施形態では、その作用物質は抗体MEDI−501(T10B9)である。別の具体的な実施形態では、T細胞受容体調節物質はCD2結合分子、好ましくはMEDI−507である。他の実施形態では、T細胞受容体調節物質はCD2結合分子でない。GVHD、またはGVHDの症状の治療に適した上記治療薬の任意の組合せを投与することができる。胎盤幹細胞または臍帯幹細胞と任意に組み合わせて、同時にまたは別々の治療コースとしてそのような治療薬を投与することができる。
【0228】
5.6.10 関節リウマチの治療
別の実施形態では、関節リウマチ(RA)を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、RAの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、またはRAの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。関節リウマチは、身体の免疫系が関節、および典型的には身体の他の組織を攻撃する慢性の炎症性自己免疫状態である。
【0229】
具体的な実施形態では、投与は、RAを有する個体の少なくとも1つの関節において、RAの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こし、またはRAの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分である。別の具体的な実施形態では、投与は、RAを有する個体の少なくとも1つの非関節組織において、RAの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こし、またはRAの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分である。RAにより冒される可能性がある非関節組織の例として、それだけに限らないが、皮膚(真皮)、肺、自己免疫系または血液、腎組織、心血管組織、眼組織、または神経組織がある。
【0230】
具体的な実施形態では、RAの症状は、それだけに限らないが、(例えば、持続時間が1時間にわたる)朝のこわばり、1つもしくは複数の関節もしくは関節群の軟部組織の腫脹、関節痛、皮下小結節、第95百分位数より上に存在するリウマチ因子(reheumatoid factor)、または関節侵食を示唆する放射線医学上の変化である。
【0231】
具体的な実施形態では、投与は、RAに付随する1つもしくは複数の状態における検出可能な改善を引き起こし、またはRAに付随する1つもしくは複数の状態の発症を検出可能な程度に低減するのに十分である。そのような状態の例として、それだけに限らないが、壊疽性膿皮症、好中球性皮膚疾患、スウィート症候群、ウイルス感染、結節性紅斑、小葉性脂肪織炎、手指の皮膚の萎縮、手掌紅斑、びまん性菲薄化(ライスペーパースキン)、皮膚の脆弱性、外面上の、例えば肘上の皮下小結節、(例えば、メトトレキセート療法の結果としての)肺の線維化、カプラン小結節、血管炎障害、爪郭梗塞、神経障害、腎障害、アミロイドーシス、筋仮性肥大、心内膜炎、左室不全、弁膜炎、強膜軟化症、多発性単神経炎、環軸亜脱臼などがある。
【0232】
その方法の別の実施形態では、RAを有する個体に、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞、およびさらに少なくとも1つの他の治療薬を投与する。具体的な実施形態では、治療薬は、例えば鎮痛剤または抗炎症剤である。別の具体的な実施形態では、治療薬は疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)である。より具体的な実施形態では、DMARDは、1つまたは複数の生体異物(例えば、アザチオプリン、シクロスポリンA、D−ペニシラミン、金塩、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、メトトレキセート、ミノサイクリンまたはスルファサラジン)または生物学的作用物質(例えば、エタネルセプト(ENBREL(登録商標))、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、アダリムマブ(HUMIRA(登録商標))や、上記第5.6.8節で開示されている化合物の1つなどの腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)ブロッカー;インターロイキン−1ブロッカー;抗B細胞(CD20)抗体(例えば、リツキシマブすなわちRITUXAN(登録商標));またはT細胞活性化のブロッカー(例えば、アバタセプトすなわちORENCIA(登録商標)))である。別のより具体的な実施形態では、鎮痛剤または抗炎症剤は、グルココルチコイド、非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリン、オピエート、またはリドカイン(外用)である。GVHD、またはGVHDの症状の治療に適した上記治療薬の任意の組合せを投与することができる。胎盤幹細胞または臍帯幹細胞と任意に組み合わせて、同時にまたは別々の治療コースとしてそのような治療薬を投与することができる。
【0233】
具体的な実施形態では、RAを有する個体に投与する複数の胎盤幹細胞または臍帯幹細胞は、RAに治療効果のあるポリペプチドを発現するように遺伝子操作されている。より具体的な実施形態では、RAに治療効果のあるポリペプチドは、IL−1Ra(インターロイキン−1受容体アンタゴニスト)である。別のより具体的な実施形態では、RAに治療効果のあるポリペプチドは、IL−1RaおよびDHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)を含む融合タンパク質である。より具体的な実施形態では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を、IL−1Ra−DHFR融合タンパク質をコードする核酸で形質転換し、融合タンパク質の発現は、葉酸拮抗薬、例えばメトトレキセートによって促進される。別の具体的な実施形態では、RAを有する個体に複数の第2の型の幹細胞を投与し、複数の第2の型の幹細胞は、RAに治療効果のあるポリペプチド、例えば上記で開示されているポリペプチドのいずれかを発現するように遺伝子操作されている。さらにより具体的な実施形態では、核酸はIL−1Ra−DHFR−IRES−Lucをコードし、ここでIRESは内部リボソーム進入部位であり、Lucはルシフェラーゼである。別の具体的な実施形態では、前記核酸は、IL−1RaまたはIL−1Ra−DHFR融合ポリペプチドの発現の調節を可能にするヌクレオチド配列を含む。
【0234】
RAの治療に使用する、遺伝子操作された胎盤幹細胞、臍帯幹細胞、または他の種類の幹細胞は、遺伝子改変されていないそのような幹細胞と任意に組み合わせて、RAを有する個体に投与することができる。
【0235】
5.6.11 強皮症の治療
別の実施形態では、強皮症を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、強皮症の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、または強皮症の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。
【0236】
強皮症は、皮膚または他の臓器におけるコラーゲンの過剰な沈着を特徴とする慢性疾患である。強皮症は局在性である可能性もあり、または全身性である可能性もある。局在型の疾患は、能力障害となるが、致死性である傾向はない。びまん型強皮症または全身性硬化症として症状が発現する全身型の疾患は、心臓、腎臓、肺、または腸の損傷の結果致死性となりうる。3つの型の強皮症は、全身性であるびまん性強皮症および限局性(CREST症候群)強皮症、ならびに皮膚に限局している斑状/線状強皮症である。びまん性強皮症は最も重篤な型であり、被害者は急な発症、広範な皮膚の硬化、ならびに特に肺および胃腸管に対する著しい内臓損傷を起こす。
【0237】
限局型の強皮症はずっと軽度であり、緩やかな発症および進行を示す。皮膚の硬化は、通常は手および顔面に限定され、内臓の関与はびまん型より重篤でない。典型的には、レイノー現象が強皮症の数年前に起こりうる。レイノー現象は、寒い場所で露出した末梢、特に手および足の小さな動脈の血管収縮に起因し、古典的には、最初は白色、次いで青色、最後に復温後の赤色という三相性の色の変化を特徴とする。限局型はしばしばCREST症候群と呼ばれ、「CREST」は、石灰沈着(軟部組織、例えば皮膚でのカルシウム沈着)、レイノー症候群、食道運動不全、強指症(指の強皮症)、および毛細血管拡張(クモ状静脈)という5つの主要な特徴の頭字語である。
【0238】
強皮症の発症は、自己抗体、特に抗セントロメアおよび抗scl70/抗トポイソメラーゼ抗体の存在と相関している。罹患個体の最大90%が、検出可能な抗核抗体を有する。抗セントロメア抗体は全身型(10%)より限局型(80〜90%)で一般的であり、抗scl70は、びまん型(30〜40%)およびアフリカ系米国人患者でより一般的である。
【0239】
したがって、本明細書で提供される方法では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を投与すると、強皮症の1つまたは複数の症状の発症が阻害され、その重症度が低減し、またはその進行が低減する。一実施形態では、強皮症は限局性強皮症である。別の実施形態では、強皮症はびまん性強皮症である。別の実施形態では、強皮症は斑状強皮症である。別の具体的な実施形態では、その症状は、顔面の皮膚の硬化、指の皮膚の硬化、レイノー症候群、末端における不適当な血管収縮、石灰沈着、毛細血管拡張、または食道運動不全のうち1つまたは複数である。別の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を投与すると、1つまたは複数の抗核抗体、例えば抗セントロメア抗体または抗トポイソメラーゼ抗体の、個体由来の血液のミリリットル単位の量または濃度が検出可能な程度に低減する。
【0240】
別の実施形態では、本明細書で提供される治療方法は、第2の治療または治療薬を施すことを含み、第2の治療または治療薬は、抗炎症薬、例えばステロイド性抗炎症薬、または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、アセトアミノフェン、ナプロキセン、イブプロフェン、アセチルサリチル酸などである。NSAIDを投与するより具体的な実施形態では、プロトンポンプ阻害剤(PPI)、例えばオメプラゾールも投与する。別の実施形態では、第2の治療は、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミドやメトトレキセートなどの免疫抑制性化合物である。別の実施形態では、罹患個体が手指の潰瘍形成および肺高血圧を有する場合、プロスタサイクリン(イロプロスト)などの血管拡張剤を投与する。
【0241】
別の実施形態では、第2の治療は、1kg当たり細胞約10
5〜約10
9個の1回または複数回の投与における第2の型の細胞、例えば造血幹細胞、例えばCD34
+造血幹細胞である。具体的な実施形態では、前記第2の型の幹細胞は、間葉系幹細胞、例えば骨髄由来間葉系幹細胞である。第2の型の幹細胞、例えば造血幹細胞または間葉系幹細胞は、任意の比で、例えば約100:1、75:1、50:1、25:1、20:1、15:1、10:1、5:1、1:1、1:5、1:10、1:15、1:20、1:25、1:50、1:75または1:100で、胎盤幹細胞と共に投与することができる。そのような間葉系幹細胞は、商業的に得ることもでき、元の供給源、例えば骨髄、骨髄吸引液、脂肪組織などから得ることもできる。
【0242】
強皮症、または強皮症の症状の治療に適した上記治療薬の任意の組合せを投与することができる。胎盤幹細胞または臍帯幹細胞と任意に組み合わせて、同時にまたは別々の治療コースとしてそのような治療薬を投与することができる。
【0243】
胎盤幹細胞または臍帯幹細胞は、医薬組成物の形で、例えば、例えば静脈内、筋内または腹腔内注射に適した医薬組成物の形で、強皮症を患っている個体に投与することができる。
【0244】
5.6.12 乾癬の治療
別の実施形態では、乾癬を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、乾癬の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、乾癬の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、または乾癬の進行を低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。
【0245】
乾癬は、皮膚および関節を冒す疾患であり、一般に、皮膚上に現れる乾癬性局面と呼ばれる鱗屑性の赤斑を引き起こす。乾癬性斑は、炎症および過剰な皮膚産生の領域である。これらの部位に皮膚が急速に蓄積し、銀白色の外観を呈する。局面は、肘および膝の皮膚上に頻繁に生じるが、頭皮および生殖器を含めた任意の領域を冒す可能性がある。乾癬は免疫介在性であると仮定されている。
【0246】
下記のように、いくつかの異なる型の乾癬が同定されている。
【0247】
最も一般的な型の乾癬である局面状乾癬(尋常性乾癬(psoriasis vulgaris))は、典型的には、局面と呼ばれる、銀白色の鱗屑性の皮膚に覆われた、炎症を起こした皮膚の隆起した領域として現れる。
【0248】
間擦疹型乾癬(flexural psoriasis)(逆乾癬)は、皮膚のひだ、例えば生殖器の周り(大腿と鼠径の間)、腋窩、過重量の胃の下、および乳房の下で生じる、皮膚の平滑な炎症性の斑として現れる。
【0249】
滴状乾癬(guttate psoriasis)は、体幹、肢や頭皮など、身体の広い領域にわたって現れる多数の小さな卵円形の(涙滴の形状の)斑点として症状が発現する。滴状乾癬は、連鎖球菌の咽頭感染と関係する。
【0250】
膿疱性乾癬(pustular psoriasis)は、非感染性の膿(膿疱)で満たされた隆起部として現れる。膿疱性乾癬は、一般に手および足に局在する可能性もあり(掌蹠膿疱症)、または広範な斑が身体の任意の部分上にランダムに生じる全身性の可能性もある。
【0251】
爪乾癬は、爪甲の下の変色、爪の点食、爪を横断する線、爪の下の皮膚の肥厚、ならびに爪のゆるみ(爪甲剥離症)および崩壊を含めて、手足の指爪の外観に様々な変化を生じさせる。
【0252】
乾癬性関節炎には、例えば手足の指の関節における、関節および結合組織の炎症が関与し、その結果、指炎と呼ばれる、手足の指のソーセージの形状の腫脹が生じうる。乾癬性関節炎はまた、股関節、膝および脊椎(脊椎炎)も冒しうる。
【0253】
乾癬性紅皮症は、体表面のほとんどにわたる皮膚の広範な炎症および剥脱として症状が発現する。それは激しい痒み、腫脹および疼痛を伴うことがある。それはしばしば、特に全身治療を突然中止した後の、不安定局面状乾癬の増悪の結果起こる。極度の炎症および剥脱が温度を制御し皮膚に防壁機能を果たさせる身体の能力を破壊するので、この型の乾癬は致死性となりうる。
【0254】
一実施形態では、本発明では有効用量の胎盤幹細胞を乾癬に冒された個体に投与し、前記有効用量は、例えば、上記に列挙した乾癬の1つまたは複数の症状における検出可能な改善を引き起こし、その重症度を低減し、またはその進行を低減するのに十分な胎盤幹細胞の量である。
【0255】
例えば、乾癬面積重症度指数(PASI)によって、乾癬の重症度を評価することができる。PASIでは、病変の重症度の評価と、冒された面積を組み合わせて、0(疾患なし)〜72(最大限の疾患)の範囲の単一スコアにする。
【0256】
PASIを計算するために、身体を4つのセクション:脚、胴体(体幹領域(胃、胸部、背中など);腕;および頭部に区分する。これらの各領域をそれだけでスコア化し、次いで4つのスコアを組み合わせて最終的なPASIとする。各セクションについて、乾癬を患った皮膚の領域の百分率を見積もり、次いで、以下のようにそれを0〜6のグレードに変換する:
関与する領域の百分率 グレード
0 0
<10 1
10〜29% 2
30〜49 3
50〜69 4
70〜89 5
90〜100 6
【0257】
重症度は、0〜4のグレードが付けられる4つの異なるパラメーター:痒み、紅斑(発赤)、鱗屑化および厚さにより見積もられる。次いで4つ全ての重症度パラメーターの和を各セクションの皮膚について計算し、その和にその領域についての面積スコアを乗じ、それぞれのセクションの重み(頭部は0.1、腕は0.2、胴体は0.3、脚は0.4)を乗じる。例:(I胴体+E胴体+S胴体+T胴体)×A胴体×0.3=合計胴体。最後に、4つ全ての皮膚セクションの和として合計のPASIを計算する。
【0258】
乾癬を患った個体を写真撮影し、コンピュータにより、乾癬病変で覆われた身体面積の百分率を計算することによって、重症度の程度を評価することもできる。
【0259】
したがって、本明細書で提供される治療方法の具体的な実施形態では、乾癬は局面状乾癬(尋常性乾癬)、屈側性乾癬(逆乾癬)、滴状乾癬、膿疱性乾癬、爪乾癬、乾癬性関節炎、または乾癬性紅皮症である。その方法の具体的な実施形態では、胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地の治療有効量は、乾癬の1つまたは複数の症状における改善、その発症の遅延を引き起こし、またはその進行度を小さくするのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、皮膚の鱗屑化、皮膚の発赤、皮膚の肥厚、局面の形成、爪甲の下の変色、爪の点食、爪を横断する線、爪の下の皮膚の肥厚、爪甲剥離症、膿疱の発生、関節もしくは結合組織の炎症、皮膚の炎症、または皮膚の剥脱である。別の実施形態では、胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地の治療有効量は、乾癬面積重症度指数で5、10、15、20、25、30、35、40またはそれ以上のポイントの低減を引き起こすのに十分な量である。
【0260】
別の実施形態では、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を、第2の治療と併せて投与する。第2の治療は、外用薬、例えばコルチコステロイド(例えば、デスオキシメタジン(desoximetasine))、ビタミンD
3類似体(例えば、カルシポトリオール)、アントラリン、アルガンオイル、レチノイド、またはコールタールのうち1つまたは複数を含むクリームまたは軟膏でよい。別の具体的な実施形態では、第2の治療は、紫外線、例えば波長が約280nm〜約315nm、特に約311nm〜約312nmのUVBへの、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20分間の1回または複数回の曝露を含む。別の具体的な実施形態では、第2の治療は、UVA光への曝露と組み合わせたソラレンの局所投与を含む。別の具体的な実施形態では、第2の治療は、例えばメトトレキセート、シクロスポリン、レチノイド、チオグアニン、ヒドロキシ尿素、スルファサラジン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、経口タクロリムスおよび/またはフマル酸エステルのうち1つまたは複数の1回または複数回の全身投与を含む。
【0261】
5.6.13 紅斑性狼瘡の治療
別の実施形態では、紅斑性狼瘡(LE)を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、LEの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、LEの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、またはLEの進行を低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。
【0262】
LEの症状は多数あり、異なる個体でその疾患の進行が異なることがある。症状には、皮膚の症状発現(例えば、頬部発疹(蝶形紅斑とも呼ばれる)、円板状狼瘡(皮膚上の肥厚した鱗屑性の赤い斑点)、脱毛症、口、鼻、および膣の潰瘍、ならびに/または皮膚上の病変);筋骨格系の症状発現(例えば、関節痛);血液系の症状発現(例えば、貧血および鉄欠乏、正常より低い血小板および白血球数、抗リン脂質抗体症候群(リン脂質に対する自己抗体が患者の血清中に存在する血栓障害)、および/または血中における抗カルジオリピン抗体の存在);心臓の症状発現(例えば、心外膜炎、心筋炎、および/または心内膜炎);肺の症状発現(例えば、肺および/もしくは胸膜の炎症、胸膜炎、胸水、ループス肺炎、慢性びまん性間質性肺疾患、肺高血圧、肺塞栓、ならびに/または肺出血);肝臓の症状発現(例えば、自己免疫性肝炎;黄疸;血流中における抗核抗体(ANA)、平滑筋抗体(SMA)、肝/腎ミクロソーム抗体(LKM−1)および/または抗ミトコンドリア抗体(AMA)の存在);腎臓の症状発現(例えば、無痛性血尿またはタンパク尿、ループス腎炎、腎不全、および/または「ワイヤーループ」の異常を伴う膜性糸球体腎炎の発症);神経系の症状発現(例えば、てんかん発作、精神異常、脳脊髄液の異常);T細胞異常(例えば、CD45ホスファターゼの欠損および/またはCD40リガンドの発現増大);および/または非特異的な症状発現(例えば、ループス胃腸炎、ループス膵炎、ループス膀胱炎、自己免疫性内耳疾患、副交感神経機能障害、網膜血管炎、全身性血管炎、FcεRIγの発現増大、T細胞中で増大し維持されたカルシウムレベル、血中イノシトール三リン酸の増大、タンパク質キナーゼCリン酸化の低減、Ras−MAPキナーゼシグナル伝達の低減、および/またはタンパク質キナーゼAI活性の欠損が含まれうる。
【0263】
したがって、具体的な実施形態では、胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地の前記治療有効量は、LEの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに有効な量、LEの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、またはLEの1つもしくは複数の症状の悪化を低減するのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、LEの1つまたは複数の皮膚、血液系、筋骨格系、神経系、腎臓、肝臓、またはT細胞の症状発現を含む。別の具体的な実施形態では、前記治療有効量は、LEの1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、LEの1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、またはLEの1つもしくは複数の症状の悪化を低減するのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、頬部発疹、蝶形紅斑、円板状狼瘡、脱毛症、口、鼻、および膣の潰瘍、皮膚上の病変、関節痛、貧血および/または鉄欠乏、正常より低い血小板および白血球数、抗リン脂質抗体症候群、血中における抗カルジオリピン抗体の存在、心外膜炎、心筋炎、心内膜炎、肺および/または胸膜の炎症、胸膜炎、胸水、ループス肺炎、慢性びまん性間質性肺疾患、肺高血圧、肺塞栓、肺出血、自己免疫性肝炎;黄疸;血流中における抗核抗体(ANA)、平滑筋抗体(SMA)、肝/腎ミクロソーム抗体(LKM−1)および/または抗ミトコンドリア抗体(AMA)の存在、無痛性血尿またはタンパク尿、ループス腎炎、腎不全、および/または「ワイヤーループ」の異常を伴う膜性糸球体腎炎の発症);神経系の症状発現(例えば、てんかん発作、精神異常、脳脊髄液の異常);T細胞異常(例えば、CD45ホスファターゼの欠損および/またはCD40リガンドの発現増大);および/または非特異的な症状発現(例えば、ループス胃腸炎、ループス膵炎、ループス膀胱炎、自己免疫性内耳疾患、副交感神経機能障害、網膜血管炎、全身性血管炎、FcεRIγの発現増大、T細胞中で増大し維持されたカルシウムレベル、血中イノシトール三リン酸の増大、タンパク質キナーゼCリン酸化の低減、Ras−MAPキナーゼシグナル伝達の低減、および/またはタンパク質キナーゼAI活性の欠損を含む。
【0264】
胎盤幹細胞または臍帯幹細胞は、医薬組成物、例えば静脈内、筋内または腹腔内注射に適した医薬組成物の形で、強皮症を患っている個体に投与することができる。
【0265】
5.6.14 菌状息肉腫の治療
別の実施形態では、菌状息肉腫を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、または菌状息肉腫の進行を低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。
【0266】
菌状息肉腫は、皮膚中で増殖するまれな癌の群である皮膚T細胞リンパ腫の最も一般的なものである。T細胞が末梢血ならびに皮膚を冒すよりまれな形であるセザリー症候群が、菌状息肉腫の全例の約5%で起こる。菌状息肉腫は、皮膚の症状によって定義される段階:(1)皮膚が扁平な赤斑を有し、または肌の浅黒い個体では非常に薄いもしくは非常に濃い色の斑を有し、斑が非常に痒く、隆起し固い(局面)こともある斑形成相;(2)赤紫色の隆起した塊(小節)が現れ、それがドームの形状(キノコ様)であり、または潰瘍化することがある皮膚腫瘍相;(3)個体の皮膚が非常に痒く鱗屑性の大きな赤い領域を生じ、手掌および足裏の皮膚が肥厚しひび割れることがある皮膚発赤(紅皮症)段階;ならびに(4)菌状息肉腫がリンパ節を介して身体の他の部分に移動し始め、炎症を起こすようになり、しばしば癌性となり、それが肝臓、肺、または骨髄に広がることがあるリンパ節段階で一般に進行する。
【0267】
したがって、具体的な実施形態では、胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地の治療有効量は、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに有効な量、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、またはLEの1つもしくは複数の症状の悪化を低減するのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、菌状息肉腫の1つまたは複数の皮膚、血液系、筋骨格系、神経系、腎臓、肝臓、またはT細胞の症状発現を含む。別の具体的な実施形態では、前記治療有効量は、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、または菌状息肉腫の1つもしくは複数の症状の悪化を低減するのに十分な量であり、前記1つまたは複数の症状は、皮膚上の薄いもしくは濃い色の痒い斑、皮膚の局面、皮膚腫瘍の発生、皮膚上の隆起部、赤く、鱗屑性であり痒い皮膚領域の発生、足裏もしくは手掌の皮膚の肥厚、足裏もしくは手掌の皮膚のひび割れ、またはリンパ節の炎症を含む。
【0268】
別の実施形態では、治療有効量の胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を、第2の治療または第2の治療薬と併せて投与する。より具体的な実施形態では、第2の治療または治療薬は、日光もしくは紫外線への、前記個体の冒された領域の曝露、外用ステロイド、局所表在放射線療法、全身皮膚電子線照射、紅皮症に冒された皮膚への有機(マヌカ)ハチミツの塗布、または生物学的療法のうち1つまたは複数である。より具体的な実施形態では、前記生物学的療法は、インターフェロン、レチノイド、レキシノイド、ボリノスタット(例えば、ZOLINZA(登録商標))のうち1つまたは複数の個体への投与を含む。
【0269】
5.6.15 糖尿病の治療
別の実施形態では、糖尿病を有する、またはその症状を起こしている、またはそれを発症するリスクがある個体を治療する方法であって、治療有効量の接着性胎盤幹細胞もしくは接着性臍帯幹細胞、または胎盤幹細胞もしくは臍帯幹細胞で馴化した培地を個体に投与することを含み、治療有効量が、糖尿病の1つもしくは複数の症状における検出可能な改善を引き起こすのに十分な量、糖尿病の1つもしくは複数の症状の発症を検出可能な程度に低減するのに十分な量、または糖尿病の進行を低減するのに十分な量である方法が本明細書で提供される。具体的な実施形態では、糖尿病は真性糖尿病1型であり、それは1型糖尿病、I型糖尿病、T1D、またはインスリン依存性真性糖尿病(IDDM)としても知られる。
【0270】
疾患の経過の間に胎盤幹細胞を1回または複数回投与することができる。好ましくは、最初の診断から1、2、3、4、5、もしくは6日、または1週間以内に幹細胞を投与する。一実施形態では、幹細胞の前記治療有効量は、異常に高い血糖、ブドウ糖負荷試験によって決定されるインスリン抵抗性の欠如、疲労、または意識の欠失を含めた真性糖尿病1型の症状を反転させ、その重症度を低減し、またはその他の形で改善するのに十分な量である。
【0271】
胎盤幹細胞は、第2の治療、例えば移植膵臓組織および/または島細胞;自家または同種異系幹細胞療法などと併せて投与することができる。
【0272】
5.6.16 第2の治療用組成物および第2の治療
上記治療方法のいずれかにおいて、その方法は、第2の治療用組成物または第2の治療を施すことを含んでよい。上記の具体的な疾患を治療する方法における具体的な第2の治療用組成物または第2の治療の列挙は、限定的なものであることを意図していない。例えば、本明細書で論じた疾患、障害または状態のいずれかを、本明細書に記載の抗炎症性化合物または免疫抑制性化合物のいずれかで治療することができる。胎盤幹細胞を第2の治療薬と共に、または第2の型の幹細胞と共に投与する実施形態では、胎盤幹細胞と第2の治療薬および/または第2の型の幹細胞は、同じまたは異なるときに投与することができ、例えば、互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、もしくは50分以内に、または互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、もしくは22時間以内に、または互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10日以内に投与を行うことができる。
【0273】
具体的な実施形態では、不適当な、害のあるまたは有害な免疫応答を伴う、またはそれによって引き起こされる疾患、障害または状態の治療は、第2の型の幹細胞、または第2の型の幹細胞の集団の投与を含む。具体的な実施形態では、前記第2の型の幹細胞は、間葉系幹細胞、例えば骨髄由来間葉系幹細胞である。他の実施形態では、第2の型の幹細胞は、多分化能幹細胞、多能性幹細胞、前駆細胞、造血幹細胞、例えばCD34
+造血幹細胞、成体幹細胞、胚性幹細胞または胚性生殖細胞である。第2の型の幹細胞、例えば間葉系幹細胞は、任意の比で、例えば約100:1、75:1、50:1、25:1、20:1、15:1、10:1、5:1、1:1、1:5、1:10、1:15、1:20、1:25、1:50、1:75または1:100の比で、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞と共に投与することができる。間葉系幹細胞は、商業的に得ることもでき、本来の(original)供給源、例えば骨髄、骨髄吸引液、脂肪組織などから得ることもできる。
【0274】
別の具体的な実施形態では、前記第2の治療は免疫調節性化合物を含み、免疫調節性化合物は、3−(4−アミノ−1−オキソ−1,3−ジヒドロイソインドール−2−イル)−ピペリジン−2,6−ジオン;3−(4’アミノイソリンドリン(aminoisolindoline)−1’−オン(onw))−1−ピペリジン−2,6−ジオン;4−(アミノ)−2−(2,6−ジオキソ(3−ピペリジル))−イソインドリン−1,3−ジオン;またはα−(3−アミノフタルイミド)グルタルイミドである。より具体的な実施形態では、前記免疫調節性化合物は、構造
【0275】
【化1】
[式中、XおよびYの一方はC=Oであり、XおよびYの他方はC=OまたはCH
2であり、R
2は水素または低級アルキルである]を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩、水和物、溶媒和物、包接化合物(clathrate)、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、もしくは立体異性体の混合物である。別のより具体的な実施形態では、前記免疫調節性化合物は、構造
【0276】
【化2】
[式中、XおよびYの一方はC=Oであり、その他方はCH
2またはC=Oであり、
R
1は、H、(C
1〜C
8)アルキル、(C
3〜C
7)シクロアルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、(C
2〜C
8)アルキニル、ベンジル、アリール、(C
0〜C
4)アルキル−(C
1〜C
6)ヘテロシクロアルキル、(C
0〜C
4)アルキル−(C
2〜C
5)ヘテロアリール、C(O)R
3、C(S)R
3、C(O)OR
4、(C
1〜C
8)アルキル−N(R
6)
2、(C
1〜C
8)アルキル−OR
5、(C
1〜C
8)アルキル−C(O)OR
5、C(O)NHR
3、C(S)NHR
3、C(O)NR
3R
3'、C(S)NR
3R
3'または(C
1〜C
8)アルキル−O(CO)R
5であり、
R
2は、H、F、ベンジル、(C
1〜C
8)アルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、または(C
2〜C
8)アルキニルであり、
R
3およびR
3'は独立して(C
1〜C
8)アルキル、(C
3〜C
7)シクロアルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、(C
2〜C
8)アルキニル、ベンジル、アリール、(C
0〜C
4)アルキル−(C
1〜C
6)ヘテロシクロアルキル、(C
0〜C
4)アルキル−(C
2〜C
5)ヘテロアリール、(C
0〜C
8)アルキル−N(R
6)
2、(C
1〜C
8)アルキル−OR
5、(C
1〜C
8)アルキル−C(O)OR
5、(C
1〜C
8)アルキル−O(CO)R
5、またはC(O)OR
5であり、
R
4は、(C
1〜C
8)アルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、(C
2〜C
8)アルキニル、(C
1〜C
4)アルキル−OR
5、ベンジル、アリール、(C
0〜C
4)アルキル−(C
1〜C
6)ヘテロシクロアルキル、または(C
0〜C
4)アルキル−(C
2〜C
5)ヘテロアリールであり、
R
5は、(C
1〜C
8)アルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、(C
2〜C
8)アルキニル、ベンジル、アリール、または(C
2〜C
5)ヘテロアリールであり、
出現ごとに、R
6はそれぞれ独立してH、(C
1〜C
8)アルキル、(C
2〜C
8)アルケニル、(C
2〜C
8)アルキニル、ベンジル、アリール、(C
2〜C
5)ヘテロアリール、もしくは(C
0〜C
8)アルキル−C(O)O−R
5であり、またはR
6基は結合してヘテロシクロアルキル基を形成することができ、
nは0または1であり、
*はキラル炭素中心を表す]を有する化合物、
または薬学的に許容されるその塩、水和物、溶媒和物、包接化合物、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、もしくは立体異性体の混合物である。別のより具体的な実施形態では、前記免疫調節性化合物は、構造
【0277】
【化3】
[式中、
XおよびYの一方はC=Oであり、その他方はCH
2またはC=Oであり、
Rは、HまたはCH
2OCOR’であり、
(i)各R
1、R
2、R
3、もしくはR
4は、その他と独立して、ハロ、1〜4個の炭素原子のアルキル、もしくは1〜4個の炭素原子のアルコキシであり、または(ii)R
1、R
2、R
3、もしくはR
4の1つはニトロもしくは−NHR
5であり、残りのR
1、R
2、R
3、もしくはR
4は水素であり、
R
5は、水素または1〜8個の炭素原子のアルキルであり、
R
6は、水素、1〜8個の炭素原子のアルキル、ベンゾ、クロロ、またはフルオロであり、
R’はR
7−CHR
10−N(R
8R
9)であり、
R
7は、m−フェニレンまたはp−フェニレンまたは−(C
nH
2n)−(nは0〜4の値を有する)であり、
各R
8およびR
9は、他方と独立して、水素もしくは1〜8個の炭素原子のアルキルであり、またはR
8およびR
9は、一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、もしくは−CH
2CH
2X
1CH
2CH
2−(X
1は−O−、−S−、または−NH−である)であり、
R
10は水素、8個の炭素原子のアルキル、またはフェニルであり、
*はキラル炭素中心を表す]を有する化合物、
または薬学的に許容されるその塩、水和物、溶媒和物、包接化合物、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、もしくは立体異性体の混合物である。
【0278】
炎症性腸疾患、または炎症性腸疾患の症状の治療に適した上記治療薬の任意の組合せを投与することができる。胎盤幹細胞または臍帯幹細胞と任意に組み合わせて、同時にまたは別々の治療コースとしてそのような治療薬を投与することができる。
【0279】
胎盤幹細胞または臍帯幹細胞は、医薬組成物の形で、例えば静脈内、筋内または腹腔内注射に適した医薬組成物の形で、IBD、例えばクローン病を患っている個体に投与することができる。胎盤幹細胞は、単回または複数回投与することができる。胎盤幹細胞を複数回投与する場合、その投与は、IBD、例えばクローン病の1つもしくは複数の急性の症状を軽減するように計画された治療計画(regimen)の一部にもなり得、またはその疾患の慢性経過を予防し、もしくはその重症度を小さくするように計画された長期の治療計画の一部にもなりうる。胎盤幹細胞を第2の治療薬と共に、または第2の型の幹細胞と共に投与する実施形態では、胎盤幹細胞と第2の治療薬および/または第2の型の幹細胞は、同じまたは異なるときに投与することができ、例えば、互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、もしくは50分以内に、または互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、もしくは22時間以内に、または互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10日以内に投与を行うことができる。
【実施例】
【0280】
6.実施例
6.1 実施例1:接着性胎盤幹細胞の単離
この実施例は、接着性胎盤幹細胞の収集および単離を示すものである。
【0281】
材料および方法。
胎盤のドナーは、民間の臍帯血バンクプログラムに登録し、かつ、臍帯血の回収の後に、放血した胎盤を調査目的のために使用することを許可するインフォームドコンセントを提供している妊婦から採用した。これらのドナーは、冷凍保存のための自らの臍帯血試料の通常の処理で得られる盲検データの使用も許可していた。このことにより、収集された臍帯血の組成と、以下に記載するこの実験方法を用いて回収された流出灌流液の組成との間の比較が可能になった。
【0282】
臍帯および胎盤の放血の後、胎盤を無菌の断熱(insulated)容器内に室温で置き、出産の4時間以内に実験室に運んだ。検査の際に胎盤が器官の破砕または臍帯血管の剥離などの物理的損傷の跡を有していた場合は、胎盤を廃棄した。胎盤は、無菌容器で2から20時間、室温(23±2℃)で維持するかまたは冷蔵(4℃)した。定期的に、胎盤を25±3℃の生理食塩水に浸し、その中で洗浄し、あらゆる視認可能な表面の血液または残渣物を取り除いた。臍帯を、胎盤へのその付着点から約5cmのところで横に切断し、臍帯血管に、胎盤の双方向性の灌流および流出液の回収を可能にする無菌の流体経路に接続されたテフロンまたはポリプロピレン製のカテーテルを挿管(cannulated)する。ここで用いた系は、馴化、灌流、および流出液の収集の全ての態様を、制御された環境雰囲気条件下において実施することを可能にし、また、血管内圧および流速、コアおよび灌流液の温度、ならびに回収される流出液量をリアルタイムでモニターすることを可能にするものであった。馴化プロトコルの範囲を分娩後(postpartum)の24時間にわたって評価し、流出液の細胞組成物を、フローサイトメトリー、光学顕微鏡法、およびコロニー形成単位アッセイによって分析した。
【0283】
胎盤の馴化。
胎盤幹細胞の増殖および収集(recruitment)のために生理的に適合する環境をシミュレートし、持続させるために、胎盤を様々な条件の下で維持した。カニューレに、2U/mlのヘパリン(EJkins−Sinn、N.J.)を含むIMDM無血清培地(GibcoBRL、NY)を流した。約150mlの灌流液が収集されるまで、毎分50mLの速度で胎盤の灌流を実施した。この容量の灌流液は「初期画分」とラベル付けした。同じ速度で胎盤を灌流して約150mLの二次画分を収集し、それには「後期画分」とラベル付けした。手順の過程において、胎盤を穏やかに揉んで灌流プロセスを促進し、細胞材料の回収を促した。重力排水および動脈カニューレを介した吸引の両方によって、流出液を灌流回路から収集した。
【0284】
胎盤は、書面上の親の同意を得た後に、臍帯血と共に分娩室から入手し、分娩後12から24時間以内に室温で処理した。処理の前に、膜を取り除き、母系性の部位を洗浄して、残っている血液を取り除いた。臍帯血管に、20ゲージの翼状針で作製されたカテーテルを挿管し、血液試料の収集に用いる。次に、胎盤を、ヘパリン化した(2U/mL)ダルベッコ変法イーグル培地(HDMEM)を用いて、15mL/分の速度で10分間灌流し、灌流液を1時間以内に母系性の部位から収集し、有核細胞を計数した。灌流および収集の手順は、回収される有核細胞の数が100個/μLを下回るようになるまで1回または2回反復した。灌流液をプールし、軽い遠心分離にかけて、血小板、残渣物、および脱核細胞の膜(de-nucleated cell membrane)を取り除いた。次に、有核細胞をFicoll−Hypaque密度勾配遠心分離により単離し、洗浄の後、HDMEMに再懸濁した。接着性細胞の単離のために、5〜10×10
6個の細胞のアリコートをいくつかのT−75フラスコのそれぞれの中に入れ、BioWhittakerから入手した、市販の間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM)と共に培養し、37℃、5%CO
2の組織培養インキュベータの中に入れた。10から15日後、非接着性細胞をPBSで洗浄することにより取り除き、次にPBSをMSCGMで置き換えた。フラスコを、様々な接着性細胞型の存在について、とりわけ、接着性線維芽細胞様細胞塊の同定および拡大について、毎日調べた。
【0285】
細胞の回収および単離。
約200×gで15分間、室温で遠心分離することにより、灌流液から細胞を回収する。この手順は、汚染性の残渣物および血小板から細胞を分離する役目を果たすものであった。2U/mlのヘパリンおよび2mMのEDTAを含むIMDM無血清培地(GibcoBRL、NY)に、細胞ペレットを再懸濁した。全単核細胞画分を、製造者の推奨する手順に従ってLymphoprep(Nycomed Pharma、Oslo、Norway)を用いて単離し、単核細胞画分を再懸濁した。細胞は血球計を用いて計数した。生存率を、トリパンブルー排除によって評価した。0.05%のトリプシンと0.2%のEDTAとの溶液(Sigma)を用いて差異的(differential)にトリプシン処理することによって、間葉系細胞の単離を行った。線維芽細胞様細胞が約5分以内にプラスチック表面から離れた一方で、他の接着性集団は20〜30分を超えるインキュベーションが必要であったため、差異的なトリプシン処理が可能であった。離れた線維芽細胞様細胞を、トリプシン処理およびトリプシン中和溶液(TNS、BioWhitaker)を用いたトリプシン中和の後に採取した。細胞をHDMEM内で洗浄し、MSCGM内に再懸濁した。骨髄由来MSC(間葉系幹細胞)に対する既知のマーカーに基づいて選択された、FITC標識モノクローナル抗体およびPE標識モノクローナル抗体とを用いるBecton−Dickinson FACSCalibur機器を用いて、細胞のフローサイトメトリーを行った。抗体はB.D.およびCaltag laboratories(South San Francisco、Calif.)から購入し、SH2、SH3、およびSH4抗体産生ハイブリドーマは、AM.Cul.から入手し、抗体の、それらの培養上清における反応性を、FITC標識またはPE標識したF(ab)’
2ヤギ抗マウス抗体によって検出した。系統分化は、市販の誘導および維持培地(BioWhittaker)を製造者の指示のように用いて実施した。
【0286】
胎盤幹細胞の単離。
培養フラスコにおける接着性細胞の顕微鏡試験により、紡錘状の細胞、巨大な核および多くの核周辺の小さな空胞を有する円形の細胞、ならびにいくつかの突起を有し、その1つを介して細胞がフラスコに付着している星状の細胞を含む、形態的に異なる細胞型が明らかになった。類似の非幹細胞が、骨髄、臍帯、および末梢血の培養物において見られたため、これらのタイプの接着性細胞をさらに特徴付けるための試みは行わなかった。しかし、塊として存続し、視覚的な検査によって骨髄由来間葉系幹細胞に類似しているように見える線維芽細胞様細胞を、差異的なトリプシン処理により単離し、第2のフラスコで継代培養した。トリプシン処理の後に丸く見えた、細胞の位相顕微鏡観察により、これらの細胞が、非常に顆粒状(granulated)であり、実験室で作製されるかまたはBioWhittakerから購入される骨髄由来のMSCに類似していることが示された。
【0287】
継代培養すると、これらの接着性胎盤細胞は、それらの初期相とは異なって、数時間内に接着し、特徴的な線維芽細胞様の形態を取り、かつ、参考の骨髄由来のMSCに似た増殖パターンを形成した。さらに、継代培養およびリフィーディング(refeeding)の際、緩く結合した単核細胞は洗い落とされ、培養物は均質の状態を保ち、あらゆる視認可能な非線維芽細胞様細胞の汚染がないものであった。
【0288】
その後の実験において、異なる灌流実験から得られたこれらの接着性細胞の細胞表面マーカーの表現型を、または、OCT−4のケースにおいては遺伝子発現の表現型を、特徴付けた。これらの実験の結果を以下の表3に示す。
【0289】
【表3】
【0290】
6.2 実施例2:胎盤幹細胞の培養
分娩後の哺乳動物胎盤から、灌流または例えば酵素消化などの物理的破壊によって、胎盤幹細胞を得る。60%DMEM−LG(Gibco)、40%MCDB−201(Sigma)、2%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone Laboratories)、1×インスリン−トランスフェリン−セレニウム(ITS)、1×レノレン酸(lenolenic-acid)−ウシ血清アルブミン(LA−BSA)、10
-9Mのデキサメタゾン(Sigma)、10
-4Mのアスコルビン酸2−リン酸塩(Sigma)、10ng/mlの上皮成長因子(EGF)(R&D Systems)、10ng/mlの血小板由来成長因子(PDGF−BB)(R&D Systems)、および100Uペニシリン/1000Uストレプトマイシンを含む培地において細胞を培養する。
【0291】
細胞を培養する培養フラスコを以下のように準備する。5ng/mlのヒトFN(Sigma F0895)を含む5mlのPBSをフラスコに加えることにより、フィブロネクチン(FN)でT75フラスコを被覆する。FN溶液を含むフラスコを37℃で30分間放置する。次に、FN溶液を細胞の培養の前に除去する。処理の後にフラスコを乾燥させる必要はない。あるいは、フラスコを4℃で一晩またはそれ以上、FN溶液と接触させておき、培養の前に、フラスコを温めてFN溶液を除去する。
【0292】
灌流により単離された胎盤幹細胞
胎盤灌流液から得た胎盤幹細胞の培養物を以下のように樹立する。フィコール勾配から得た細胞を、上述のように調製したFNで被覆したT75フラスコ内に、50〜100×10
6個細胞/フラスコで、15mlの培地内に播種する。典型的には、5から10個のフラスコに播種する。フラスコを37℃で12〜18時間インキュベートし、接着性細胞を付着させる。10mlの温PBSをそれぞれのフラスコに加えて懸濁液内に細胞を取り出し、穏やかに混合する。次に、15mlの培地を除去し、15mlの新鮮な培地で置き換える。全ての培地を、培養の開始の3〜4日後に交換する。その後、培地の交換を行い、その間に50%または7.5mlの培地を除去する。
【0293】
約12日目から、顕微鏡下で培養物を確認し、接着性細胞コロニーの増殖を調べる。細胞培養物が約80%コンフルエントに達したら、典型的には培養の開始後13日目から18日目の間に、接着性細胞をトリプシン消化によって採取する。これらの初代培養物から採取された細胞を継代0(ゼロ)と称する。
【0294】
物理的破壊および酵素消化により単離された胎盤幹細胞
胎盤幹細胞の培養物を、消化された胎盤組織から以下のようにして樹立する。灌流された胎盤を、母系側を上にして無菌のペーパーシート上に置く。胎盤の母系側の約0.5cmの表面層を刃物で削り取り、刃物を用いて約1×2×1cmのサイズの胎盤組織ブロックを取り出す。次に、この胎盤組織を細かく切断して約1mm
3の切片とする。これらの切片を50mlのFalconチューブ内に収集し、コラゲナーゼIA(2mg/ml、Sigma)で30分間消化し、その後、ウォーターバス内において37℃で、トリプシン−EDTA(0.25%、GIBCO BRL)で10分間消化する。得られた溶液を400gで10分間、室温で遠心分離し、消化溶液を除去する。ペレットをPBSと共に約10倍の容積に再懸濁し(例えば、5mlのペレットを45mlのPBSと再懸濁する)、チューブを400gで10分間、室温で遠心分離する。組織/細胞ペレットを130mLの培地内に再懸濁し、フィブロネクチンで被覆したT−75フラスコ当たり13mlで細胞を播種する。細胞を、37℃で、5%CO
2の加湿環境でインキュベートする。場合により、胎盤幹細胞をこの段階で冷凍保存する。
【0295】
胎盤幹細胞の継代培養および拡大培養
冷凍保存した細胞は37℃のウォーターバス内で速やかに解凍することができる。胎盤幹細胞を10mlの温かい培地を用いて凍結バイアルから速やかに取り出し、15mlの無菌チューブ内に移す。細胞を400gで10分間、室温で遠心分離する。細胞を10mlの温かい培地内にピペッティングによって穏やかに再懸濁し、生存細胞数をトリパンブルー排除によって測定する。次に、上述のように調製した、FNで被覆したフラスコに、1cm
2当たり約6000〜7000個で細胞を播種する(T−75フラスコ当たり約5×10
5個細胞)。細胞を37℃、5%CO
2、および90%湿度でインキュベートする。細胞が75〜85%のコンフルエンスに達したら、全ての使用済みの培地をフラスコから無菌で取り除き、捨てる。3mlの0.25%トリプシン/EDTA(w/v)溶液を加えて細胞層を覆い、細胞を37℃、5%CO
2、および90%湿度で5分間インキュベートする。フラスコを1回または2回軽く叩き、細胞の剥離を促進する。95%超の細胞が円形になり剥離した後、7mlの温かい培地をそれぞれのT−75フラスコに加え、細胞層の表面全体にわたり数回ピペッティングすることで溶液を分散させる。
【0296】
上述したように細胞を計数し、生存率を測定した後、細胞を1000RPMで5分間、室温で遠心分離する。1つのT−75フラスコから得た細胞ペレットを培地に穏やかに再懸濁することにより細胞を継代し、FNで被覆した2つのT−75フラスコに細胞を均一に播種する。
【0297】
上述の方法を用いて、接着性胎盤幹細胞の集団を、CD105、CD117、CD33、CD73、CD29、CD44、CD10、CD90、およびCD133マーカーを発現するものとして同定する。この細胞集団はCD34またはCD45は発現しなかった。これらの胎盤幹細胞の全ての培養物ではないがいくつかは、HLA−ABCおよび/またはHLA−DRを発現する。
【0298】
6.3 実施例3:胎盤構造からの胎盤幹細胞の単離
6.3.1 材料および方法
6.3.1.1 目的の表現型の単離
5つの異なる胎盤細胞集団を、正常な満期妊娠の胎盤から得た。全てのドナーは、調査目的のための自らの胎盤の使用について完全な書面での同意を提供した。5つの細胞集団、すなわち、(1)胎盤灌流液(胎盤血管系の灌流から得たもの)から得た胎盤細胞;ならびに、(2)羊膜、(3)絨毛膜、(4)羊膜−絨毛膜板の酵素消化物、および(5)臍帯の細胞の酵素消化から得た胎盤細胞を試験した。様々な組織を無菌PBS(Gibco−Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)内で清掃し、個別の無菌ペトリ皿に置いた。様々な組織を、無菌外科用メスを用いて細かく切断し、50mLのFalconコニカルチューブ内に置いた。細かく切断した組織を1×コラゲナーゼ(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)で20分間、37℃のウォーターバス内で消化し、遠心分離し、次に、0.25%のトリプシン−EDTA(Gibco−Invitrogen Corp)で10分間、37℃のウォーターバス内で消化した。様々な組織を消化の後に遠心分離し、無菌PBS(Gibco−Invitrogen Corp)で1回すすいだ。次に、再構成された細胞を、1回は100μmの細胞ストレーナーを、1回は30μmの分離フィルターを用いて2回濾過し、あらゆる残余の細胞外マトリックスまたは細胞残渣物を除去した。
【0299】
6.3.1.2 細胞生存率の評価および細胞計数
手作業のトリパンブルー排除法を消化の後に行って細胞数を計算し、細胞生存率を評価した。細胞をトリパンブルー染料(Sigma−Aldrich)と1:1の比率で混合し、細胞を血球計で読み取った。
【0300】
6.3.1.3 細胞表面マーカーの特徴付け
HLA ABC
-/CD45
-/CD34
-/CD133
+である細胞を特徴付けのために選択した。この表現型を有する細胞を同定し、定量化し、Becton−Dickinsonフローサイトメーター、FACSCalibur、およびFACS Aria(Becton−Dickinson、San Jose、CA、USA)のうちの2つによって特徴付けした。様々な胎盤細胞を、100万個の細胞当たり約10μLの抗体の割合で、室温で30分間、振とう器上で染色した。以下の抗ヒト抗体を用いた。HLA−G(Serotec、Raleigh、NC)、CD10(BD Immunocytometry Systems、San Jose、CA)、CD44(BD Biosciences Pharmingen、San Jose、CA)、およびCD105(R&D Systems Inc.、Minneapolis、MN)に対するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合モノクローナル抗体、CD44、CD200、CD117、およびCD13(BD Biosciences Pharmingen)に対するフィコエリスリン(PE)結合モノクローナル抗体、CD117(BD Biosciences Pharmingen)に対するフィコエリスリン−Cy5(PE Cy5)結合ストレプトアビジンおよびモノクローナル抗体、CD33およびCD10(BD Biosciences)に対するフィコエリスリン−Cy7(PE Cy7)結合モノクローナル抗体、CD38(BD Biosciences Pharmingen)に対するアロフィコシアニン(APC)結合ストレプトアビジンおよびモノクローナル抗体、ならびに、ビオチン化CD90(BD Biosciences Pharmingen)。インキュベーションの後、細胞を1回すすいで未結合の抗体を取り除き、4%パラホルムアルデヒド(USB、Cleveland、OH)を用いて4℃で一晩固定した。翌日、細胞を2回すすぎ、30μmの分離フィルターを通して濾過し、1つまたは複数のフローサイトメーターにかけた。
【0301】
抗マウスIgG抗体(BD Biosciences Pharmingen)で染色した試料を陰性対照として使用し、光電子増倍管(Photo Multiplier Tubes)(PMT)を調整するために用いた。抗ヒト抗体で単染色した試料を陽性対照として使用し、スペクトルのオーバーラップ/補正を調整するために用いた。
【0302】
6.3.1.4 細胞の選別および培養
1セット(set)の胎盤細胞(灌流液、羊膜、または絨毛膜から得たもの)を、7−アミノ−アクチノマイシンD(7AAD、BD Biosciences Pharmingen)および目的の表現型に特異的なモノクローナル抗体で染色した。100万個の細胞当たり10μLの抗体の割合で細胞を染色し、室温で30分間、振とう器上でインキュベートした。次に、これらの細胞に、BD FACS Ariaで、目的の表現型を発現している生細胞についてポジティブ選別を行い、播種して培養した。選別された(目的の集団)および「全ての」(選別されていない)胎盤細胞集団を、比較のために播種した。細胞は、フィブロネクチン(Sigma−Aldrich)で被覆した96ウェルプレート上に、表4に記載した細胞密度(細胞/cm
2)で播種した。細胞密度、および、その細胞型を二重または三重のどちらで播種したかは、目的の表現型を発現している細胞の数によって決定および管理した。
【0303】
【表4】
【0304】
完全培地(60%DMEM−LG(Gibco)および40%MCDB−201(Sigma)、2%ウシ胎児血清(Hyclone Labs.)、1×インスリン−トランスフェリン−セレニウム(ITS)、1×リノール酸−ウシ血清アルブミン(LA−BSA)、10
-9Mのデキサメタゾン(Sigma)、10
-4Mのアスコルビン酸2−リン酸塩(Sigma)、10ng/mLの上皮成長因子(R&D Systems)、ならびに10ng/mLの血小板由来成長因子(PDGF−BB)(R&D Systems))を96ウェルプレートのそれぞれのウェルに加え、プレートを5%CO
2/37℃のインキュベータ内に置いた。7日目に、100μLの完全培地をそれぞれのウェルに加えた。96ウェルプレートを約2週間観察し、培養の最終的な評価を12日目に完了した。
【0305】
6.3.1.5 データ分析
FACSCaliburデータは、標準的なゲート作成技術を用いてFlowJo(Tree star,Inc)において分析した。BD FACS Ariaデータは、FACSDivaソフトウェア(Becton−Dickinson)を用いて分析した。FACS Ariaデータは、ダブレットを最小化するためのダブレット識別ゲート作成および標準的なゲート作成技術を用いて分析した。全ての結果はマイクロソフト社のエクセルにコンパイルし、ここでの全ての値は、平均±標準偏差(数、平均の標準誤差)として表す。
【0306】
6.3.2 結果
6.3.2.1 細胞生存率
消化後の生存率を、手作業のトリパンブルー排除法を用いて評価した(
図1)。消化した組織の大部分から得た細胞(羊膜、絨毛膜、または羊膜−絨毛膜板から得たもの)の平均生存率は約70%であった。羊膜から得た細胞は74.35%±10.31%(n=6、SEM=4.21)の平均生存率を有し、絨毛膜は78.18%±12.65%(n=4、SEM=6.32)の平均生存率を有し、羊膜−絨毛膜板は69.05%±10.80%(n=4、SEM=5.40)の平均生存率を有し、臍帯は63.30%±20.13%(n=4、SEM=10.06)の平均生存率を有していた。消化を行っていない、灌流から得た細胞は、89.98±6.39%(n=5、SEM=2.86)の最も高い平均生存率を保持していた。
【0307】
6.3.2.2 細胞の定量化
5つの異なる胎盤由来の細胞の集団を分析し、HLA ABC
-/CD45
-/CD34
-/CD133
+細胞の数を決定した。BD FACSCaliburデータの分析から、羊膜、灌流液、および絨毛膜が、それぞれ30.72±21.80個細胞(n=4、SEM=10.90)、26.92±22.56個細胞(n=3、SEM=13.02)、および18.39±6.44個細胞(n=2、SEM=4.55)の最大総数の、これらの細胞を含むことが観察された(データは示していない)。羊膜−絨毛膜板および臍帯は、それぞれ4.72±4.16個細胞(n=3、SEM=2.40)および3.94±2.58個細胞(n=3、SEM=1.49)の最小総数の、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(データは示していない)。
【0308】
同様に、目的の表現型を発現する全細胞のパーセントを分析すると、羊膜および胎盤灌流液が、それぞれ(0.0319%±0.0202%(n=4、SEM=0.0101)および0.269%±0.0226%(n=3、SEM=0.0130)の最大パーセンテージの、この表現型を発現する細胞を含むことが観察された(
図2)。臍帯は少数の、目的の表現型を発現する細胞を含んでいたが(
図2)、臍帯は、0.020±0.0226%(n=3、SEM=0.0131)の三番目に高いパーセンテージの、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(
図2)。絨毛膜および羊膜−絨毛膜板は、それぞれ0.0184±0.0064%(n=2、SEM=0.0046)および0.0177±0.0173%(n=3、SEM=0.010)の最小パーセンテージの、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(
図2)。
【0309】
BD FACSCalibur分析の結果と一致して、BD FACS Ariaデータによってもまた、羊膜、灌流液、および絨毛膜が、残りの供給源よりも多い数のHLA ABC
-/CD45
-/CD34
-/CD133
+細胞をもたらすと同定された。羊膜、灌流液、および絨毛膜の間の、目的の表現型を発現する細胞の平均総数は、それぞれ126.47±55.61個細胞(n=15、SEM=14.36)、81.65±34.64個細胞(n=20、SEM=7.75)、および51.47±32.41個細胞(n=15、SEM=8.37)であった(データは示していない)。羊膜−絨毛膜板および臍帯は、それぞれ44.89±37.43個細胞(n=9、SEM=12.48)、11.00±4.03個細胞(n=9、SEM=1.34)の最小総数の、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(データは示していない)。
【0310】
BD FACS Ariaデータにより、BおよびA細胞源が、それぞれ0.1523±0.0227%(n=15、SEM=0.0059)および0.0929±0.0419%(n=20、SEM=0.0094)の最大パーセンテージの、HLA ABC
-/CD45
-/CD34
-/CD133
+細胞を含むことが明らかになった(
図3)。D細胞源は、0.0632±0.0333%(n=9、SEM=0.0111)の三番目に高いパーセンテージの、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(
図3)。CおよびE細胞源は、それぞれ0.0623±0.0249%(n=15、SEM=0.0064)および0.0457±0.0055%(n=9、SEM=0.0018)の最小パーセンテージの、目的の表現型を発現する細胞を含んでいた(
図3)。
【0311】
それぞれの細胞源からHLA ABC
-/CD45
-/CD34
-/CD133
+細胞を同定および定量化した後、その細胞をさらに、細胞表面マーカーであるHLA−G、CD10、CD13、CD33、CD38、CD44、CD90、CD105、CD117、CD200、およびCD105の発現について分析および特徴付けした。
【0312】
6.3.2.3 胎盤灌流液由来の細胞
灌流液由来の細胞は、常に、HLA−G、CD33、CD117、CD10、CD44、CD200、CD90、CD38、CD105、およびCD13につき陽性であった(
図4)。灌流液由来の細胞についてのそれぞれのマーカーの平均発現は以下の通りであった。37.15%±38.55%(n=4、SEM=19.28)の細胞がHLA−Gを発現し、36.37%±21.98%(n=7、SEM=8.31)の細胞がCD33を発現し、39.39%±39.91%(n=4、SEM=19.96)の細胞がCD117を発現し、54.97%±33.08%(n=4、SEM=16.54)の細胞がCD10を発現し、36.79%±11.42%(n=4、SEM=5.71)の細胞がCD44を発現し、41.83%±19.42%(n=3、SEM=11.21)の細胞がCD200を発現し、74.25%±26.74%(n=3、SEM=15.44)の細胞がCD90を発現し、35.10%±23.10%(n=3、SEM=13.34)の細胞がCD38を発現し、22.87%±6.87%(n=3、SEM=3.97)の細胞がCD105を発現し、25.49%±9.84%(n=3、SEM=5.68)の細胞がCD13を発現した。
【0313】
6.3.2.4 羊膜由来の細胞
羊膜由来の細胞は、常に、HLA−G、CD33、CD117、CD10、CD44、CD200、CD90、CD38、CD105、およびCD13につき陽性であった(
図5)。羊膜由来の細胞についてのそれぞれのマーカーの平均発現は以下の通りであった。57.27%±41.11%(n=3、SEM=23.73)の細胞がHLA−Gを発現し、16.23%±15.81%(n=6、SEM=6.46)の細胞がCD33を発現し、62.32%±37.89%(n=3、SEM=21.87)の細胞がCD117を発現し、9.71%±13.73%(n=3、SEM=7.92)の細胞がCD10を発現し、27.03%±22.65%(n=3、SEM=13.08)の細胞がCD44を発現し、6.42%±0.88%(n=2、SEM=0.62)の細胞がCD200を発現し、57.61%±22.10%(n=2、SEM=15.63)の細胞がCD90を発現し、63.76%±4.40%(n=2、SEM=3.11)の細胞がCD38を発現し、20.27%±5.88%(n=2、SEM=4.16)の細胞がCD105を発現し、54.37%±13.29%(n=2、SEM=9.40)の細胞がCD13を発現した。
【0314】
6.3.2.5 絨毛膜由来の細胞
絨毛膜由来の細胞は、常に、HLA−G、CD117、CD10、CD44、CD200、CD90、CD38、およびCD13につき陽性であったが、CD33およびCD105の発現は変化した(
図6)。絨毛膜細胞についてのそれぞれのマーカーの平均発現は以下の通りであった。53.25%±32.87%(n=3、SEM=18.98)の細胞がHLA−Gを発現し、15.44%±11.17%(n=6、SEM=4.56)の細胞がCD33を発現し、70.76%±11.87%(n=3、SEM=6.86)の細胞がCD117を発現し、35.84%±25.96%(n=3、SEM=14.99)の細胞がCD10を発現し、28.76%±6.09%(n=3、SEM=3.52)の細胞がCD44を発現し、29.20%±9.47%(n=2、SEM=6.70)の細胞がCD200を発現し、54.88%±0.17%(n=2、SEM=0.12)の細胞がCD90を発現し、68.63%±44.37%(n=2、SEM=31.37)の細胞がCD38を発現し、23.81%±33.67%(n=2、SEM=23.81)の細胞がCD105を発現し、53.16%±62.70%(n=2、SEM=44.34)の細胞がCD13を発現した。
【0315】
6.3.2.6 羊膜−絨毛膜板胎盤細胞
羊膜−絨毛膜板から得た細胞は、常に、HLA−G、CD33、CD117、CD10、CD44、CD200、CD90、CD38、CD105、およびCD13につき陽性であった(
図7)。羊膜−絨毛膜板由来の細胞についてのそれぞれのマーカーの平均発現は以下の通りであった。78.52%±13.13%(n=2、SEM=9.29)の細胞がHLA−Gを発現し、38.33%±15.74%(n=5、SEM=7.04)の細胞がCD33を発現し、69.56%±26.41%(n=2、SEM=18.67)の細胞がCD117を発現し、42.44%±53.12%(n=2、SEM=37.56)の細胞がCD10を発現し、32.47%±31.78%(n=2、SEM=22.47)の細胞がCD44を発現し、5.56%(n=1)の細胞がCD200を発現し、83.33%(n=1)の細胞がCD90を発現し、83.52%(n=1)の細胞がCD38を発現し、7.25%(n=1)の細胞がCD105を発現し、81.16%(n=1)の細胞がCD13を発現した。
【0316】
6.3.2.7 臍帯由来の細胞
臍帯由来の細胞は、常に、HLA−G、CD33、CD90、CD38、CD105、およびCD13につき陽性であったが、CD117、CD10、CD44、およびCD200の発現は変化した(
図8)。臍帯由来の細胞についてのそれぞれのマーカーの平均発現は以下の通りであった。62.50%±53.03%(n=2、SEM=37.50)の細胞がHLA−Gを発現し、25.67%±11.28%(n=5、SEM=5.04)の細胞がCD33を発現し、44.45%±62.85%(n=2、SEM=44.45)の細胞がCD117を発現し、8.33%±11.79%(n=2、SEM=8.33)の細胞がCD10を発現し、21.43%±30.30%(n=2、SEM=21.43)の細胞がCD44を発現し、0.0%(n=1)の細胞がCD200を発現し、81.25%(n=1)の細胞がCD90を発現し、64.29%(n=1)の細胞がCD38を発現し、6.25%(n=1)の細胞がCD105を発現し、50.0%(n=1)の細胞がCD13を発現した。
【0317】
マーカーの発現の平均値の概要を
図9に示す。
【0318】
6.3.2.8 BD FACS Aria選別の報告
最大パーセンテージのHLA ABC、CD45、CD34、およびCD133を発現した胎盤細胞の3つの異なる集団(灌流液、羊膜、および絨毛膜に由来する細胞)を、7AADおよびこれらのマーカーに対する抗体で染色した。3つの集団に、目的の表現型を発現している生細胞についてポジティブ選別を行った。BD FACS Ariaの選別の結果を表5に記載する。
【0319】
【表5】
:
【0320】
ポジティブ選別された細胞(「選別されたもの」)の3つの異なる集団およびそれらの対応する選別されていない細胞を播種し、培養の結果を12日目に評価した。40600個/cm
2の細胞密度で播種された、選別された灌流液由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。共に40600個/cm
2の細胞密度で播種された、3組の選別されていない灌流液由来の細胞のうち2組は、大部分は小さな円形の非接着性細胞となり、いくつかの接着性細胞がウェルの周辺付近(around the periphery)にあった。93800個/cm
2の細胞密度で播種された、選別されていない灌流液由来の細胞は、大部分は、小さな円形の非接着性細胞となり、いくつかの接着性細胞がウェルの周辺付近にあった。
【0321】
6300個/cm
2の細胞密度で播種された、選別された羊膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。6300個/cm
2の細胞密度で播種された、選別されていない羊膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。62500個/cm
2の細胞密度で播種された、選別されていない羊膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。
【0322】
6300個/cm
2の細胞密度で播種された、選別された絨毛膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。6300個/cm
2の細胞密度で播種された、選別されていない絨毛膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。62500個/cm
2の細胞密度で播種された、選別されていない絨毛膜由来の細胞は、小さな円形の非接着性細胞となった。これらの細胞は、その後の培養で接着性となった。
【0323】
上記に関する実験を実施し、胎盤幹細胞をさらに培養した後、ストレプトアビジン結合抗体がビオチン結合フィコエリスリン(PE)で標識されている、CD117およびCD133に対する抗体の標識が、ポジティブ読み取りに類似するほどの大きなバックグラウンドを生じることが明らかになった。このバックグラウンドのため、最初は、胎盤幹細胞は両方のマーカーに対して陽性であると考えられた。異なる標識であるAPCまたはPerCPを用いると、バックグラウンドは減少し、胎盤幹細胞はCD117およびCD133の両方に対して陰性であると正しく決定された。
【0324】
6.4 実施例4:胎盤幹細胞の分化
接着性胎盤幹細胞は、いくつかの異なる細胞系統に分化した。接着性胎盤幹細胞を、羊膜、絨毛膜、胎盤葉、またはそれらのあらゆる組合せを含む、胎盤内の解剖部位から得た組織の物理的破壊によって胎盤から単離し、臍帯幹細胞を、臍帯組織の物理的破壊によって得た。
【0325】
胎盤幹細胞および臍帯幹細胞を、低濃度のウシ胎児血清および限定された成長因子を含む培地において樹立した。フローサイトメトリー分析により、胎盤幹細胞は典型的にはCD200
+CD105
+CD73
+CD34
-CD45
-表現型を70%以上のパーセンテージで表すことが示された。胎盤幹細胞は、脂肪細胞系統、軟骨細胞系統、および骨細胞系統を分化させることが明らかになった。
【0326】
IBMX、インスリン、デキサメタゾン、およびインドメタシンを含む誘導培地において、胎盤幹細胞は3から5週間のうちに、脂肪を含んだ脂肪細胞に変化した。骨形成誘導培養条件下において、胎盤幹細胞は骨性の小結節を形成し、自らの細胞外マトリックスにカルシウム沈着を有することが明らかになった。幹細胞の軟骨形成性の分化をマイクロペレットにおいて行い、組織凝集物におけるグリコサミノグリカンの形成によって裏付けられた。
【0327】
6.5 実施例5:胎盤幹細胞を用いた免疫調節(immunomodulation)
胎盤幹細胞は、T細胞およびナチュラルキラー細胞の増殖を抑制することを含む、免疫調節効果を有する。以下の実験は、混合リンパ球反応アッセイおよびリグレッションアッセイの2つのアッセイにおいて、胎盤幹細胞が、刺激に対するT細胞の応答を調節する能力を有することを示す。
【0328】
6.5.1 混合リンパ球反応アッセイ。
MLRにより、標的集団に対するエフェクター集団の反応を測定する。エフェクターは、リンパ球、または、CD8
+T細胞もしくはNK細胞などの精製された亜集団(subpopulations)でありうる。標的集団は、放射線照射された同種異系PBMCであるか、または、本研究においては成熟DCである。レスポンダー集団は、全T細胞の20%であると推定されているアロ特異的な細胞からなる。改変型の胎盤幹細胞MLRは、反応において胎盤幹細胞を使用する。
【0329】
胎盤幹細胞を96ウェルプレートのウェルに播種し、エフェクター集団を加えた。胎盤幹細胞、および5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートN−スクシンイミジルエステル(CFSE)で染色したエフェクターを24時間プレインキュベートし、その後、標的である成熟DCを加えた。6日後、上清および非接着性細胞を採取した。上清はLuminexビーズ分析によって分析し、細胞はフローサイトメトリーによって分析した。
【0330】
従来、MLRは、CD8
+T細胞区画およびCD4
+T細胞区画の両方において増殖応答を生じさせる。この応答は、2つの同種異系ドナーがそれまで互いに遭遇したことがないため、ナイーブT細胞応答である。CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞の両方は、標準的なMLRにおいて活発に増殖した。胎盤幹細胞をMLRに加えると、CD4T細胞およびCD8T細胞の増殖は、CFSE
Lowレスポンダー細胞のパーセンテージにより測定したところ、弱まった。
【0331】
MLR(PMLR)に対する胎盤幹細胞の添加の効果を、
図10Aおよび10B(PMLRの曲線(trace))ならびに
図11で見ることができる。CD4
+T細胞またはCD8
+T細胞のみを個別に用いても、同量のCD4
+T細胞およびCD8
+T細胞を共に用いても、結果は同様であった。羊膜−絨毛膜または臍帯間質から得た胎盤幹細胞は、同程度にMLRを抑制し、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞の間で抑制における差異は見られなかった。これはまた、バルクT細胞の反応にも当てはまった。
【0332】
別々のMLRを、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、またはCD4
+T細胞およびCD8
+T細胞の両方、ならびに同種異系樹状細胞(DC)を用いて行った。胎盤幹細胞をMLRに加え、胎盤幹細胞を有していないMLRを対照として用いて、T細胞の増殖の程度を評価した。
【0333】
MiltenyiMACSカラムおよびビーズを製造者の指示に従って用いて、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞、ならびにCD14
+単球を軟膜から単離した。1%ドナー血清、IL−4、およびGM−CSFを補充したRPMI1640において6日間単球を培養し、そしてIL−1β、TNF−α、およびIL−6を補充したRPMI1640において2日間培養することにより、樹状細胞を得た。T:DCが10:1の比率である同種異系T細胞およびDCをインキュベートして、従来の6日間のMLRを生じさせた。CFSE(カルボキシ−フルオレセインジアセテート、スクシンイミジルエステル)でT細胞を染色することでT細胞の増殖を評価し、その後、アッセイに加えた。CFSEを用いて、娘細胞集団間の染色の希釈度を測定することにより、増殖の程度を評価する。
【0334】
このアッセイのために、T:DC:PSCの比率を10:1:2として、胎盤幹細胞(PSC)を加えた。96ウェルプレート内の、5%プールヒト血清(R5)を補充した、最終容積が200μLであるRPMI1640において、反応を開始させた。6日後、非接着性細胞を手短に再懸濁し、RPMIで洗浄した5mLのチューブに移し、CD4抗体およびCD8抗体で染色した。CD4区画およびCD8区画の増殖を、BD FACS Caliburで評価した。
【0335】
胎盤幹細胞。
胎盤幹細胞を、上記の実施例1および2に記載したようにして得た。胎盤幹細胞は、羊膜(AM)または羊膜/絨毛膜(AC)である胎盤組織から得た。臍帯幹細胞は、臍帯(UC)の消化から得た。線維芽細胞(FB)および骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を対照として加えた。
【0336】
結果。
胎盤幹細胞をMLRに加えると、T細胞の増殖は弱まった(
図12)。
図10に示されている実験において用いた胎盤幹細胞は、61665と称される1つの胎盤に由来するものであった。試験した全ての胎盤幹細胞について、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞のいずれかを用いて両方を用いなかった場合、CD4
+区画はCD8
+区画よりも著しく抑制された(
図12A)。AM胎盤幹細胞およびUC胎盤幹細胞によるCD4
+の活性化の抑制は、約60%〜75%の抑制である、MSCを介した抑制とほぼ等しかった。CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞の両方を用いてMLRを行った場合、胎盤幹細胞は、CD8
+区画における増殖よりもCD4
+区画における増殖を非常に著しく抑制した(
図12B)。とりわけ、AM胎盤幹細胞によるCD4
+T細胞の増殖の抑制は90%に達し、MSCにより示される抑制を上回った。これらの2つの区画の間での抑制における差異は、AM胎盤幹細胞およびAC胎盤幹細胞で最も大きかった。
【0337】
異なるドナーから得た胎盤幹細胞は、MLRにおけるT細胞の増殖を異なる程度に抑制する(
図13)。65450と称される、異なる胎盤から得た胎盤幹細胞は、胎盤61665から得た胎盤幹細胞よりも、MLRにおけるCD4
+T細胞およびCD8
+T細胞の増殖を差異的に抑制した。顕著には、胎盤65450から得たACおよびUCのPSCはT細胞の増殖を80%から95%抑制し、MSCによるこのアッセイにおける抑制を上回った。しかし、胎盤65450から得たAC胎盤幹細胞はT細胞の増殖をかなりの程度には抑制しなかった(
図10AにおけるAM胎盤幹細胞の抑制を比較)。
【0338】
胎盤幹細胞はまた、MLRにおけるナチュラルキラー(NK)細胞の活性も抑制した。
【0339】
6.5.2 リグレッションアッセイ。
胎盤幹細胞は、リグレッションアッセイにおいて、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus)(EBV)抗原を発現するB細胞系統に対するT細胞の応答を抑制することが示された。リグレッションアッセイは、EBVにより形質転換されたB細胞のMHCクラスIおよびII上でのEBV抗原ペプチドの提示によりもたらされるエフェクターT細胞のメカニズムを測定するリコールアッセイ(recall assay)である。アッセイは、T細胞を、同一のドナーから得たリンパ芽球様細胞系統(lymphoblastoid cell line)(LCL)である、人工的に作製した形質転換B細胞系統と混合することにより実施する。LCLは、9個のエプスタイン・バーウイルス抗原を発現し、それは前記抗原間で様々な適応性のT細胞応答およびB細胞応答を引き起こすものであるが、従来のリグレッションアッセイにおいては、T細胞エフェクターのメカニズムのみが測定される。リグレッションアッセイは、活性化したB細胞のマーカーであるCD23をLCLが発現することから、自然に生じる病原体に感染した標的に対する細胞傷害性を測定する便利な方法を提供するものである。したがって、CD23を発現する細胞の細胞数は、アッセイにおいて生存しているLCLの数の尺度である。
【0340】
従来の17日間のリグレッションアッセイにより、
図14におけるバーの最初の群において見られるものと同様の結果が得られた。CD23
+細胞は検出されず、それはそれらが全て、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞によって死滅したからである。胎盤幹細胞を加えると、次の2つのバーの群において見られるように、CD23
+細胞の生存は増大した。理論に束縛されることを望むものではないが、観察された効果について2つの説明が可能である。T細胞が死滅し、LCLが自由に拡大することができるようになったこと、または、T細胞に対する影響をほとんど有することなく、胎盤幹細胞が主にLCLの寿命を増大させたことである。
【0341】
別のリグレッションアッセイにおいて、T細胞および樹状細胞を実験用ドナーから得た。末梢血単核細胞(PBMC)を、溶解EBV系統であるB95.8から得た上清、およびシクロスポリンAと共に2週間インキュベートすることにより、エプスタイン・バーウイルスで形質転換したB細胞系統であるLCLを得た。LCLは9個のEBV抗原を発現した。増殖しているLCL系統を、10%ウシ胎児血清を補充したRPMI1640内で維持する。CD4
+T細胞またはCD8
+T細胞と自己LCLとを、T:LCLの比率を10:1として混合することにより、リグレッションアッセイを実施した。アッセイは、96ウェルプレート内の、5%プールヒト血清(R5)を補充した200μLのRPMI1640において実施した。このアッセイに、T:LCL:PSCの比率を10:1:2として胎盤幹細胞を加える。アッセイは6、10、または17日間実施した。
【0342】
CSFE標識したT細胞を用いて、6日間のリグレッションアッセイを行った。胎盤65450から得た胎盤幹細胞は、リグレッションアッセイにおけるT細胞の増殖を、約65%から約97%抑制し、この結果は、MLRにおけるこれらのPSCについての結果に対応する(
図15)。ここでも、胎盤65450から得たUCおよびAC系統はT細胞の増殖を著しく抑制したが、65450 AM PSCは増殖を抑制しなかった。
【0343】
別の実験において、ナチュラルキラー細胞がMLRおよびリグレッションアッセイにおいて同様に抑制されることが明らかになった。MLRまたはリグレッションアッセイを行った際のNK細胞は50U/mlのIL−2を含み、抑制効果は約45%(約40%から約65%の範囲、SEM5%)であった。
【0344】
胎盤幹細胞は免疫原性ではない。
いずれの場合においても、あらゆるドナーまたはあらゆる胎盤解剖部位から得た胎盤幹細胞に対して、5%を超えるバックグラウンドのT細胞増殖は見られなかった。
【0345】
細胞間接触に対する要求。
リグレッションアッセイにおける細胞傷害効果およびMLRにおけるアロ認識は共に、標的とエフェクター細胞との間のTCR(T細胞受容体):MHCの相互作用に依存する。胎盤幹細胞を介した抑制における細胞間接触に対する要求を、トランスウェルアッセイを用いて評価した。このアッセイにおいて、T細胞と胎盤幹細胞とが膜により分離されるようにしてMLRを行った。
図16に見られるように、MLRにおいて用いた胎盤幹細胞の数が大きいほど、抑制の減少が大きく、このことは、特に高い密度では、胎盤幹細胞(UC)はT細胞の増殖を抑制するためにはT細胞との顕著な接触を要求することを示している。
【0346】
別のアッセイにより、胎盤幹細胞によるT細胞の免疫抑制が少なくとも部分的に可溶性因子を伴うと考えられることが確認された。胎盤幹細胞を介した免疫抑制が細胞間接触に依存しているかどうかを決定するために、トランスウェルアッセイを実施し、このアッセイにおいて、可溶性因子のみの通過が可能である膜を底に供えた挿入物内に胎盤幹細胞を置いた。ウェルの床面には、胎盤幹細胞から分離して、MLRまたはT細胞のみを置いた。観察された効果が胎盤幹細胞の相対的投与量に依存しているかどうかを決定するために、幹細胞を異なる相対密度でT細胞およびDCに加えた。臍帯胎盤幹細胞をMLRから分離すると、抑制効果は部分的に消失した。胎盤幹細胞を、
図11において用いたものと同様の密度で用いると、MLRの抑制は、CD4
+T細胞については75%消失し、CD8
+T細胞については85%消失した(
図17、
図18)。4分の1の投与量の胎盤幹細胞のみを用いた場合(UC OP 25)、抑制効果は依然として66%であり、12500個のUC胎盤幹細胞を加えると、バックグラウンドレベルまで低下した。挿入物を用いて分離した場合は、抑制における変化は見られなかった(
図17)。25000個の胎盤幹細胞では、抑制効果は依然として活発であったにもかかわらず、挿入物の導入に対する抑制の相対的低下は最小であることが観察された(
図18)。
【0347】
6.6 実施例6:胎盤幹細胞による免疫抑制の接触依存性は、骨髄由来の間葉系幹細胞のものとは異なる
免疫調節における接触依存性の程度を決定するための実験において、臍帯幹細胞は免疫調節のために、骨髄由来幹細胞のものとは大きく異なる、細胞間接触に対する要求を示した。とりわけ、胎盤幹細胞は、特に多数の胎盤幹細胞または間葉系幹細胞で免疫調節をもたらすためには、より多く細胞間接触に依存した。
【0348】
骨髄由来幹細胞(BMSC)および臍帯幹細胞(UC)は、混合リンパ球反応アッセイ(MLR)におけるT細胞に対する接着性細胞の比率に依存して、細胞間接触に対する異なる要求を有する。MLRにおいて胎盤幹細胞がT細胞および樹状細胞(DC)から分離されているトランスウェル実験において、抑制は2つのタイプの接着性細胞の間で変化した。
図19は、オープンウェルおよびトランスウェルから得た結果を並べて示している。約100000個または75000個のUCまたはBMSCをオープンウェルの形式において用いると、同様の抑制が観察された。しかし、トランスウェルの形式においては、UCはBMSCよりも低い程度でMLRを抑制し、このことは、これらの高い胎盤幹細胞/T細胞の比率ではより大きな接触依存性があることを示している。より低い、T細胞に対する胎盤細胞の比率を用いると、胎盤幹細胞は、細胞に対してより抑制的な細胞であった。
【0349】
抑制データから、接触依存性の程度を計算した。
図20は、UCおよびBMSCのMLRの接触依存性を示す。骨髄由来細胞は、高いBM/T細胞の比率で、UCよりも低い接触依存性である。言い換えると、UC胎盤幹細胞およびBMSCは、メカニズム上の重要なパラメーターである、細胞間接触に対する要求に関して、異なった挙動を示す。
【0350】
制御性T細胞(regulatory T cells)(Treg)は、BMSCを介したT細胞の抑制に必要である。AggarwalおよびPittenger、「Human Mesenchymal Stem Cells Modulate Allogeneic Immune Cell Responses」、Blood 105(4):1815〜1822(2004)参照。CD4
+CD25
+Tregを健康なドナーの末梢血単核細胞(PBMC)から除去し、自己EBV(エプスタイン・バーウイルス)形質転換細胞を用いてリグレッションアッセイを実施した。UCをいくつかの条件に加えた。
図21において見られるように、リグレッションアッセイにおける、胎盤幹細胞を介したT細胞応答の抑制は、Tregが存在していても不在であっても違いはない。したがって、T制御性T細胞は、報告によればBMSCを介したT細胞の抑制に必要である一方で、T制御性細胞は、胎盤幹細胞を介した免疫抑制においては役割を有さないと考えられる。
【0351】
MLRを実施し、ここで、胎盤幹細胞により抑制されたMLRからT細胞を取り、樹状細胞を新たに加えた。増殖の際に娘細胞に等しく分配されるCFSEでT細胞を染色した。CFSE
Hi細胞は、増殖しなかったT細胞である(例えば、
図21のパネルにおける最も左のピーク)。この集団を、染色されたT細胞をFACS Ariaで選別することにより得た。これらの細胞を、新鮮な樹状細胞と共に2回目のMLRにおいて用いた。
図22において見られるように、継続した抑制は見られず、以前に抑制された細胞はDCに対してよく増殖した。CFSE
Lo細胞(すなわち娘細胞)は、それ自体がその後増殖したため、これらの細胞は抑制に関与していたとは考えられない。CFSE
Hi集団は、このDCドナーに対して増殖しなかったであろう非アロ特異的細胞、および胎盤幹細胞により抑制されたT細胞からなる。一度胎盤幹細胞を取り除くと、抑制された細胞は増殖した。
【0352】
約10%の上清を、BMSCのMLRから得た上清により置き換えると、MLRはBMSCにより抑制される。極めて対照的に、胎盤幹細胞を含むMLRから得た上清で上清を置き換えると、例え培地の75%を置き換えた場合であっても、T細胞の増殖に変化は見られなかった(
図23)。
【0353】
DCまたは休止T細胞が、MLRの開始の前の異なる時間にわたる胎盤幹細胞とのインキュベーションにより影響される可能性がある。これを、アッセイを開始する前の様々な長さの時間にわたり、胎盤幹細胞またはBMSCをT細胞(
図24A)またはDC(
図24B)とインキュベートすることにより試験した。T細胞および胎盤幹細胞をプレインキュベートしても、抑制の表現型は認めうる程には変化しない(
図20A)。しかし、BMSCによるT細胞の抑制は、DC/胎盤幹細胞のプレインキュベーションの長さに依存して変化する。
図20Bに示すように、DCをT細胞の1日後に加えた場合、BMSCによる抑制は最も強い。しかし、DCをT細胞と同時に加えると、非常に低い抑制が現れる。より長い時間にわたりDCをBMSCとインキュベートすると、この抑制の喪失は逆転しうる。2日間のプレインキュベーションでは、抑制は、DCをT細胞の1日後(+1日)に加える状況に近づく。胎盤幹細胞を介した抑制では、同様の傾向は見られない。
【0354】
6.7 実施例7:MLRおよびリグレッションアッセイにおける胎盤幹細胞および臍帯幹細胞のサイトカインのプロフィール
臍帯幹細胞(UC)および羊膜絨毛膜板(amnion chorion plate)から得た胎盤幹細胞(AC)は、MLR培地内に特定のサイトカインを分泌することが明らかになった。
【0355】
いくつかのアッセイにおいて、サイトカインアレイを用いて、上清におけるサイトカインおよびケモカインのレベルを測定した。いくつかの因子が上清中に分泌されていることが明らかになり、MLRおよびリグレッションアッセイに最も関連するものはマクロファージ炎症性タンパク質(macrophage inflammatory protein)(MIP)−1αおよびMIP−1βであった。これらの走化性因子の両方はT細胞を誘引し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に応答してCD8
+T細胞により分泌される。MLRにおいてアッセイすると、これらの走化性因子の分泌は、MLRの胎盤幹細胞およびMSCの抑制と逆の相関を有する(
図25)。胎盤幹細胞もMSCもMIP−1αおよびMIP−1βを分泌しなかった。
【0356】
別の研究において、共に重要な免疫調節物質であるMCP−1およびIL−6の分泌に相関が見られた(
図26および
図27;
図11との比較)。胎盤幹細胞のみではIL−6またはMCP−1を分泌しなかった一方で、共にリグレッションアッセイにおいてMLRおよびT細胞の増殖を抑制した(
図11)UCおよびAC系統は、MCP−1およびIL−6を分泌する(
図26および
図27)。IL−6は炎症促進性作用と最も関連しているが(例えば、Kishimotoら、Annu.Rev.Immunol.23:1〜21(2005)参照)、それはまた、マウスにおける肝臓の損傷の際の保護的な役割などの、他の機能も有している(例えば、Kleinら、J.Clin.Invest 115:860〜869(2005)参照)。
【0357】
別の研究において、MLRまたはリグレッションアッセイにおいて用いたACを、サイトカインの分泌について分析した。サイトカインは、Luminexシステムで、6日間の幹細胞培養、幹細胞のMLR、または幹細胞のリグレッションアッセイから得た上清について測定した。MLRは、幹細胞、樹状細胞(DC)、およびT細胞を、2/1/10の比率で含むものであった。エプスタイン・バーウイルス(EBV)のリグレッションアッセイは、幹細胞、EBV腫瘍細胞(Ts)、およびT細胞を、TS:幹細胞:Tの比率で2:1:10として含むものであった。
【0358】
IL−6(11ng/ml)およびIL−8(16ng/ml)のレベルは、幹細胞のみの培養、MLR、およびリグレッションアッセイにおいて一定を保つことが明らかになった。MCP−1の濃度は、幹細胞のみの培養、ならびに非抑制性の対照接着性細胞のMLRおよびリグレッションアッセイにおいて約2ng/mlであることが明らかになったが、抑制された幹細胞のMLRおよび幹細胞のリグレッションアッセイにおいては約10ng/mlまで上昇した。これらの値は、MCP−1について記録された血清レベルの範囲内に含まれる。
【0359】
インターロイキン−2(IL−2)は、T細胞の生存因子であり、かつ、CD4
+CD25
+T制御性細胞にとっての必須の因子である。このT細胞小集団は、AC幹細胞によるT細胞の抑制を必要としないが、AC幹細胞によるMLRの抑制の際にはIL−2レベルは常に減少する。AC幹細胞の不在下におけるMLRの上清は約35pg/mlのIL−2を含んでいたが、一方で、AC幹細胞を伴うMLRは最大440pg/mlのIL−2を含んでいた。
【0360】
IL−2の濃度は抑制と相関していた。例えば、85%の抑制を示すCD4
+T細胞のMLRは330pg/mlのIL−2を含んでおり、AC幹細胞を用いる、85%の抑制を示すCD8
+T細胞のMLRは、66pg/mlのIL−2を含んでいた。これらの結果は、免疫応答の刺激物質であると従来から知られているIL−2およびMCP−1が、免疫抑制において役割を有しうることを示している。
【0361】
6.8 実施例8:冷凍保存された幹細胞生産物の生産および幹細胞バンク
この実施例は、胎盤幹細胞の単離および凍結された幹細胞に基づく生産物の生産を示すものである。
【0362】
概要:
胎盤組織を切開し、消化し、その後、初代培養および拡大培養を行って、多くの細胞量を生産する拡大細胞生産物を得る。細胞を、二層構造の細胞バンクに保存し、凍結細胞生産物として分配する。単一のドナー胎盤に由来する全ての細胞量を1つのロットとして規定し、1つの胎盤ロットを、専用室およびクラス100の層流フードにおける無菌技術を用いて一度に処理する。細胞生産物を、正常な核型を有し母系性の細胞含有物を含まないかまたは実質的に含まない、CD105
+、CD200
+、CD10
+、およびCD34
-であると定義する。
【0363】
6.8.1 幹細胞の取得
組織の切開および消化。
胎盤を娩出後24時間未満に得る。胎盤組織を、羊膜、羊膜と絨毛膜の組合せ、または絨毛膜から得る。組織を細かく切断して、約1mmのサイズの小さな切片にする。細かく切断した組織を1mg/mlのコラゲナーゼ1A内において、37℃で1時間消化し、その後、トリプシン−EDTAで、37℃で30分間消化する。PBS内の5%FBS内で3回洗浄した後、組織を培地内に再懸濁する。
【0364】
別の実施形態では、胎盤を娩出後24時間未満に得る。胎盤を清掃した後、止血鉗子を臍帯の遠位端にクランプする。臍帯を胎盤との接合部で切断し、無菌皿に移す。止血鉗子の下で臍帯を切断した後、臍帯を揉んで血塊を取り除き、ゲンタマイシンおよびアンホテリシンBを含む500mlのPBSに移す。この臍帯を5g用いる。メスを用いて、臍帯の付着点から半径約3インチを切断することにより、残っている胎盤材料を切り揃える。残っている材料から血塊を取り除き、臍帯の根部に集中している羊膜−絨毛膜を5g、臍帯と同じ容器に移す。臍帯および羊膜−絨毛膜の組織をスライスし、次に、約1mm
3のサイズの切片に細かく切断する。次に、組織を1mg/mlのコラゲナーゼ1A(20ml/g組織)を用いて37℃で1時間消化し、その後、トリプシン−EDTA(10ml/g組織)を用いて37℃で30分間消化する。PBS内の5%FBS内で3回洗浄した後、組織を培地(20ml/g組織)内に再懸濁し、約0.22ml/cm
2でTフラスコに移す。
【0365】
初代培養。
初代培養の目的は、消化された胎盤組織から細胞を樹立することである。消化された組織を培地に懸濁し、コーニングT−フラスコ内に置き、それを37℃、5%CO
2に維持した加湿室内でインキュベートする。培地の半分を培養の5日後に補充する。2週間の培養によって、高密度の細胞コロニーが形成される。トリプシン−EDTAを用いてコロニーを採取し、次にトリプシン−EDTAをPBS内の2%FBSでクエンチする。細胞を遠心分離し、拡大培養物を播種するための培地内に再懸濁する。これらの細胞は、分裂が0回である継代0細胞と定義される。
【0366】
拡大培養。
初代培養物から採取した細胞、拡大培養物から採取した細胞、または細胞バンクから解凍した細胞を、拡大培養物の播種に用いる。Cell Factories(NUNC(商標))を空気中5%のCO
2で、無菌フィルターを通して50ml/分/トレイで10分間処理し、37℃、5%CO
2に維持した加湿インキュベータ内において温める。細胞播種物をトリパンブルーを用いて血球計上で計数し、細胞の数、生存率、継代数、および分裂の累積数を記録する。細胞を培地内に約2.3×10
4個細胞/mlまで懸濁し、110ml/トレイをCell Factories内に播種する。3〜4日の培養の後、また、5〜6日の培養の後、培地を除去し、新鮮な培地で置き換え、その後、空気中5%のCO
2でもう一度処理を行う。細胞が約10
5個細胞/cm
2に達したら、トリプシン−EDTAを用いて細胞を採取し、その後、PBS内の2%FBSでクエンチする。次に細胞を遠心分離し、培地内に再懸濁する。
【0367】
冷凍保存。
凍結させるための細胞を、トリプシン−EDTAを用いて培養物から採取し(例えば、0.44ml/cm
2で5分間)、PBS内の2%FBSでクエンチし、血球計で計数する。遠心分離(例えば300×g)の後、FBS内の10%DMSOを用いて、細胞バンクの構築に用いるための細胞では約100万個細胞/mlの濃度となるように、個別の凍結細胞の1回投与量では1000万個細胞/mlの濃度となるように、細胞を再懸濁する。別の実施形態では、Plasmalyte内の10%HAS、10%DMSO中で、細胞を約200万個細胞/mlに希釈する。細胞溶液を凍結容器に移し、それを、−80℃のフリーザー内のイソプロピルアルコールバス内に置く。翌日、細胞を液体窒素に移す。
【0368】
6.8.2 幹細胞バンクの設計
「ロット」は、単一のドナー胎盤に由来する全細胞量と定義される。細胞は、正常な増殖、核型、および細胞表面マーカーの表現型を、拡大培養の間の8回の継代および30回の分裂を超えて維持した。この制限を考慮すると、1回投与量は、5回の継代および約20回の分裂から得た細胞を含むことになる。等しい細胞を供給するために、単一のロットを培養において拡大し、二層構造の細胞バンク内および凍結1回投与量(frozen dose)に保存する。とりわけ、分裂が0回である継代0細胞と定義される、初代培養から採取した細胞を、拡大培養を開始するために用いる。最初の継代の後、約4回の分裂が生じ、細胞を凍結してMaster Cell Bank(MCB)とする。MCBから得たバイアルを用いて、さらなる拡大培養物を播種する。MCBから解凍した細胞をさらに2回継代した後、約12回のさらなる分裂で、細胞を凍結させてWorking Cell Bank(WCB)とする。WCBから得たバイアルを用いて、さらに2回の継代のために拡大培養物を播種し、その結果、約20回の分裂で継代5の細胞が得られ、それを、凍結して個別の1回投与量とする。
【0369】
6.8.3 培養のための細胞の解凍
細胞の凍結容器を、密封したプラスチック製の袋の中に置き、37℃のウォーターバス内に浸す。小さな氷の欠片以外の全内容物が融解するまで容器を穏やかに回す。密封したプラスチック製の袋から容器を取り出し、10×容量の培地を、穏やかに混合しながらゆっくりと細胞に加える。試料を血球計で計数し、拡大培養物に播種する。
【0370】
6.8.4 注入のための細胞の解凍
細胞の凍結容器を、乾燥窒素輸送容器内で、投与の場所に移す。投与の前に、密封したプラスチック製の袋の中に容器を置き、37℃のウォーターバス内に浸す。小さな氷の欠片以外の全内容物が融解するまで容器を穏やかに回す。密封したプラスチック製の袋から容器を取り出し、等量の2.5%HSA/5%デキストランを加える。それ以上洗浄することなく細胞を注入する。
【0371】
6.8.5 試験および特徴付け
母系性の血液試料は全てのドナー胎盤に付随するものである。試料をB型肝炎のコア抗体および表面抗原、C型肝炎ウイルスの抗体および核酸、ならびにHIV IおよびIIの抗体および核酸についてスクリーニングする。胎盤の処理および初代培養は、試験の結果を受け取る前に開始するが、全てのウイルスに対して試験が陰性であった母系性血液試料を伴う胎盤についてのみ継続する。ドナーの試験がいずれかの病原体に対して陽性であった場合は、ロットを廃棄する。加えて、表6に記載する試験を、MCB、WCB、およびWCBのバイアルに由来する、細胞の1回投与量の材料の試料について実施する。全ての特徴が適合した場合のみ、ロットを出荷する。
【0372】
【表6】
*40ml凍結細胞/1回投与量および最大5EU/mlとなるように設計された生成物について、細胞生成物は、体重が40kgを超えるレシピエントでは、上限である5EU/kg/1回投与量を下回る。
【0373】
6.8.6 表面マーカーの表現型の分析
細胞をPBS内の1%パラホルムアルデヒド(PFA)内に20分間置き、染色するまで冷却装置内で保管する(最大1週間)。細胞をPBS内の2%FBS、0.05%アジ化ナトリウム(染色緩衝液)で洗浄し、次に、染色緩衝液内に再懸濁する。細胞を、以下の後退複合体で染色する:CD105−FITC、CD200−PE、CD34−PECy7、CD10−APC。細胞は、アイソタイプの対照でも染色する。30分間のインキュベーションの後、細胞を洗浄および染色緩衝液で再懸濁し、その後、フローサイトメーターで分析する。アイソタイプの対照と比較して増大した蛍光を有する細胞を、マーカーにつき陽性であるとみなす。
【0374】
6.9 胎盤幹細胞または臍帯幹細胞を用いた、免疫に関連した疾患の治療
この実施例は、免疫に関連した疾患または状態のための治療計画の例を提供するものである。
【0375】
6.9.1 クローン病の治療
ある個体は、クローン病の一形態である回結腸炎を有し、腹痛、出血性下痢、および発熱を起こしている。この個体に、0.9%NaCl溶液内の1〜5×10
8個のCD10
+CD34
-CD105
+CD200
+胎盤幹細胞および/または臍帯幹細胞を静脈内投与する。その後の2週間にわたり個体をモニターし、1つまたは複数の症状の減少を評価する。翌年の間にわたって個体をモニターし、同じ投与量の胎盤幹細胞を必要に応じて投与する。
【0376】
6.9.2 移植片対宿主病の治療
同種異系骨髄移植を待っている個体に、0.9%NaCl溶液内の5〜10×10
8個のCD10
+CD34
-CD105
+CD200
+胎盤幹細胞および/または臍帯幹細胞を、骨髄移植の24時間未満前に静脈内投与する。骨髄移植の24時間未満後に幹細胞の投与を繰り返す。個体をその後100日間にわたりモニターし、GVHDが発症し、重症度Iよりも進行した場合、追加の1回投与量の5〜10×10
8個のCD10
+CD34
-CD105
+CD200
+胎盤幹細胞および/または臍帯幹細胞を投与する。
【0377】
6.9.3 関節リウマチの治療
ある個体は、3個以上の関節に関節リウマチを有する。この個体に、胎盤幹細胞または臍帯幹細胞とIL−1RaおよびDHFRを含む融合ポリペプチドを産生するように修飾されている胎盤幹細胞の組合せを投与し、、ここで、この2つのタイプの幹細胞は1:1の比率で投与する。操作した、または操作していない細胞は、0.9%NaCl溶液内の1〜5×10
8個のCD10
+CD34
-CD105
+CD200
+胎盤幹細胞および/または臍帯幹細胞である。個体に標準的な投与量のメトトレキサートを投与し、関節の炎症の減少についてモニターする。
【0378】
等価物(equivalents):
本明細書において開示される組成物および方法は、本明細書に記載した特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際、記載されているものに加えた、組成物および方法の様々な変更が、前記の記載および添付の図面から当業者には明らかとなろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあるものとする。
【0379】
様々な刊行物、特許、および特許出願が本明細書において引用され、その開示は、参照によりその全体が組み込まれている。