(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、下記(1)及び(2)の条件を満たすエチレン系共重合体及び第一の鉱物油系軟化材を含み、前記第一の鉱物油系軟化材が、前記エチレン系共重合体100質量部に対して50〜150質量部含まれる油展エチレン系共重合体(B)と、を含有し、
前記エチレン系共重合体が、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体であり、
前記油展エチレン系共重合体(B)の含有割合が、前記α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と前記油展エチレン系共重合体(B)とを含む重合体成分の合計量100質量%に対して、30質量%以上である重合体組成物を、さらに、
架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られる、海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物。
(1):デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が、5.5〜9.0dl/gである。
(2):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が、3以下である。
前記重合体成分中の、前記α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と前記油展エチレン系共重合体(B)との質量の割合((A)/(B))が、5/95〜70/30である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
前記重合体組成物は、前記α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)、前記α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)、及び、前記油展エチレン系共重合体(B)の合計100質量%に対して、前記α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)を2〜50質量%、前記α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)を2〜10質量%、前記油展エチレン系共重合体(B)を40〜95質量%の割合で含有し、
前記α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)は、エチレンに由来する繰り返し単位、プロピレンに由来する繰り返し単位、及び、1−ブテンに由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種の繰り返し単位から構成されるものである請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
前記重合体組成物は、前記α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)、前記α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)、及び、前記油展エチレン系共重合体(B)の合計100質量部に対して、前記第二の鉱物油系軟化材(C)を5〜400質量部含有する請求項4〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
前記エチレン系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムにおける、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合が、3%以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0023】
[1]熱可塑性エラストマー組成物:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の一実施形態は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)(以下、「(A)成分」と記す場合がある)と、下記(1)及び(2)の条件を満たすエチレン系共重合体、及びエチレン系共重合体100質量部に対して、50〜150質量部の第一の鉱物油系軟化材を含む油展エチレン系共重合体(B)(以下、「(B)成分」と記す場合がある)と、を含有し、油展エチレン系共重合体(B)の含有割合が、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)とを含む重合体成分の合計量100質量%に対して、30質量%以上である重合体組成物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られるものである。このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム弾性、流動性、接着性、及び、軟化材保持性の全てが優れている。
(1):デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が、5.5〜9.0dl/gである。
(2):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が、3以下である。
【0024】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、外装用モール、ウインドシール用ガスケット、ドアシール用ガスケット、トランクシール用ガスケット等のウェザーストリップ、シール材、制振材、ロール、電線被覆材、スポンジ、ホース、ベルトなどの材料として好適に用いることができる。
【0025】
重合体組成物のα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)は、後述するように、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)とα−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)とを含有するものであることが好ましく、重合体組成物は、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)、α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)、及び、油展エチレン系共重合体(B)を含有するものであることが好ましい。
【0026】
そして、重合体組成物は、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)、α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)、及び、油展エチレン系共重合体(B)の合計100質量%に対して、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)を2〜50質量%(更に好ましくは、3〜30質量%)、α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)を2〜20質量%(更に好ましくは、3〜15質量%)、油展エチレン系共重合体(B)を40〜95質量%(更に好ましくは、50〜94質量%)の割合で含有していることが好ましい。更に、上記α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)は、エチレンに由来する繰り返し単位、プロピレンに由来する繰り返し単位、及び、1−ブテンに由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種の繰り返し単位から構成されるものであることが好ましい。
【0027】
このような重合体組成物を用いると、得られる熱可塑性エラストマー組成物は、溶融時の流動性及び加硫ゴム成形体に対する接着性(射出融着性)が優れるとともに、柔軟性及びゴム弾性が更に向上するという利点がある。そのため、例えば、ウェザーストリップの材料として好適に用いることができる。
【0028】
上記α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)は、80℃における溶出量が30質量%以下であり、融点(即ち、示差走査熱量測定法による最大ピーク温度)が155℃以下であるものを用いることが好ましい。このようなα−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)を用いると、熱融着時に分子拡散する時間が十分あるため、接着性が向上するという利点がある。
【0029】
ここで、本明細書において「80℃における溶出量」とは、以下のようにして求めた値である。まず、o−ジクロロベンゼンを用い、上記α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)の濃度が4mg/mlとなるように溶液を調製後、溶液を80℃で3時間攪拌する。その後、不溶分をろ過により分別して真空乾燥機にて40℃で24時間乾燥する。その後、以下の式(i)により算出する。
式(i):80℃における溶出量(%)={(o−ジクロロベンゼンに投入したα−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)の質量−乾燥させた不溶分の質量)/o−ジクロロベンゼンに投入したα−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)の質量}×100
【0030】
[1−1]α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A):
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物に含有されるα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)は、流動性に影響するほか、熱可塑性エラストマー組成物を補強して機械的強度や耐熱性を高めるように作用するものである。
【0031】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物に含有されるα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)は、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)及びα−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものであることが好ましく、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)とα−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)とを含有するものであることが更に好ましい。
【0032】
[1−1−1]α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1):
α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)(以下、単に「結晶質重合体(a1)」と記す場合がある)は、α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とするものである。このような結晶質重合体(a1)を含有することによって、結晶が、即ち、結晶質重合体(a1)の結晶構造が、補強効果を示すため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が向上するという利点がある。ここで、結晶質重合体(a1)において「α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とする」とは、上記結晶質重合体(a1)の総量を100質量%とした場合に、α−オレフィンに由来する構成単位を80質量%以上含有するものであることを意味し、α−オレフィンに由来する構成単位の含有量は、90質量%以上であることが好ましい。なお、α−オレフィンに由来する構成単位の含有量が80質量%未満であると、結晶の含有量が低下するため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0033】
上記結晶質重合体(a1)はα−オレフィンの単独重合体であっても、2種以上のα−オレフィンの共重合体であっても、α−オレフィンではない単量体との共重合体であってもよい。また、これらの異なる2種以上の重合体及び/または共重合体の混合物であってもよい。
【0034】
上記結晶質重合体(a1)が共重合体である場合、この共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。但し、ランダム共重合体の場合には、このランダム共重合体中の構成単位のうち、α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計含量が、ランダム共重合体の全体量100質量%に対して、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。上記α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計含量が15質量%超であると、結晶化が阻害されるため、十分な結晶化度を得ることが得られないおそれがある。また、ブロック共重合体の場合には、このブロック共重合体中の構成単位のうち、α−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計含量が、ブロック共重合体の全体量100質量%に対して、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。上記−オレフィンに由来する構成単位を除く構成単位の合計含量が40質量%超であると、結晶の含有量が低下するため、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0035】
結晶質重合体(a1)は、結晶性を有するものである限り特に制限はないが、結晶質重合体(a1)の結晶性としては、X線回折測定による結晶化度が50%以上であることが好ましく、53%以上であることが更に好ましく、55%以上であることが特に好ましい。ここで、結晶化度は、密度と密接に関係している値である。即ち、例えば、ポリプロピレンの場合、α型結晶(単斜晶形)の密度は0.936g/cm
3、スメチカ型微結晶(擬六方晶形)の密度は0.886g/cm
3、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.850g/cm
3である。また、ポリ−1−ブテンの場合、アイソタクチック結晶の密度は0.91g/cm
3、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.87g/cm
3である。このような結晶化度と密度との関係から、結晶化度が50%以上の結晶質重合体(a1)とは、密度が0.89g/cm
3以上である。そして、結晶質重合体(a1)は、その密度が、0.90〜0.94g/cm
3であることが好ましい。この結晶化度が50%未満、即ち、密度が0.89g/cm
3未満であると、耐熱性、強度等が低下するおそれがある。
【0037】
結晶質重合体(a1)は、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒などの既存の触媒の存在下で、単量体を重合させて得られる重合体であることが好ましい。このように、触媒としてメタロセン触媒を用いると、低分子量成分や低結晶性成分の含有量を低くすることができるため、耐熱性や耐油性が良好な重合体を得ることができるという観点から好ましい。具体的には、日本ポリプロ社製の商品名「WINTEC WMG03、WEG7T」、Basel社製の商品名「METOCENE HM562」等を挙げることができる。
【0038】
結晶質重合体(a1)は、温度230℃、荷重5kg(49N)におけるメルトフローレート(以下、単に「MFR」と記す場合がある)が、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜80g/10分であることが更に好ましい。上記MFRが0.1g/10分未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の混練加工性、押出加工性等が不十分となるおそれがある。一方、100g/10分超であると、熱可塑性エラストマー組成物によって得られる成形品の強度が低下するおそれがある。
【0039】
結晶質重合体(a1)は、上述したように、80℃における溶出量が、30質量%以下であることが好ましく、1〜25質量%であることが更に好ましく、1〜20質量%であることが特に好ましい。上記溶出量が30質量%超であると、低融点成分が増加するため、接着性が低下するおそれがある。
【0040】
以上の点から、結晶質重合体(a1)としては、具体的には、結晶化度が50%以上、密度が0.89g/cm
3以上であり、エチレン単位の含有量が20質量%以下であり、T
mが100℃以上であり、MFRが0.1〜100g/10分であり、融点が140〜155℃である、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンとの共重合体、または、プロピレンとエチレンと1−ブテンとの共重合体を用いることが特に好ましい。
【0041】
[1−1−2]α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂:
α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂「(以下、単に「非晶質重合体(a2)」と記す場合がある)は、α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とする。このような非晶質重合体(a2)を含有することによって、得られる熱可塑性エラストマー組成物を、加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーとともに射出融着する場合に、被着体との接着強度が向上するという利点がある。ここで、非晶質重合体(a2)において「α−オレフィンに由来する構成単位を主成分とする」とは、上記非晶質重合体(a2)の総量を100質量%とした場合に、α−オレフィンを50質量%以上含有するものであることを意味し、α−オレフィンに由来する構成単位の含有量は、60質量%以上であることが好ましい。α−オレフィンに由来する構成単位の含有量が50質量%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物を、加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーとともに射出融着した場合に、被着体との接着強度が十分に得られないおそれがある。
【0042】
上記非晶質重合体(a2)はα−オレフィンの単独重合体であっても、2種以上のα−オレフィンの共重合体であっても、α−オレフィンではない単量体との共重合体であってもよい。また、これらの異なる2種以上の重合体及び/または共重合体の混合物であってもよい。
【0043】
上記非晶質重合体(a2)としては、例えば、アタクチックポリプロピレン、アタクチックポリ−1−ブテン等の単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、1−ブテンと他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。なお、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体としては、プロピレンに由来する構成単位の含有量が、共重合体の総量に対して、50質量%以上であり、他のα−オレフィンが、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等である共重合体である。また、1−ブテンと他のα−オレフィンとの共重合体としては、1−ブテンに由来する構成単位の含有量が、共重合体の総量に対して、50質量%以上であり、他のα−オレフィンが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等である共重合体である。
【0044】
上記非晶質重合体(a2)が共重合体である場合、この共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。但し、ブロック共重合体の場合には、主成分となるα−オレフィン(上記プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、及び、1−ブテンと他のα−オレフィンとの共重合体においては、プロピレン、及び、1−ブテン)に由来する構成単位は、アタクチック構造で結合している必要がある。また、上記非晶質共重合体(a2)が炭素数3以上のα−オレフィンとエチレンとの共重合体である場合、上記α−オレフィンに由来する構成単位の含有量が、非晶質共重合体(a2)の全体量100質量%に対して、50質量%以上であることが好ましく、60〜99質量%であることが更に好ましい。
【0045】
上記非晶質重合体(a2)としては、プロピレンに由来する構造単位の含有量が50質量%以上であるアタクチックポリプロピレン、プロピレンに由来する構造単位の含有量が50質量%以上であるプロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンと1−ブテンとの共重合体を用いることが特に好ましい。
【0046】
非晶質重合体(a2)は、190℃における溶融粘度が、50000cps以下であることが好ましく、100〜30000cpsであることが更に好ましく、200〜20000cpsであることが特に好ましい。上記溶融粘度が50000cps超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物を、加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーとともに射出融着した場合に、被着体との接着強度が低下する、即ち、十分な接着性が得られないおそれがある。また、非晶質重合体(a2)のX線回折測定による結晶化度は、50%未満であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが特に好ましい。上記結晶化度が50%超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物を、加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーとともに射出融着した場合に、被着体との接着強度が低下する、即ち、十分な接着性が得られないおそれがある。
【0047】
非晶質重合体(a2)の結晶化度は、結晶質重合体(a1)と同様に、密度と密接に関係している値であり、非晶質重合体(a2)の密度は、0.85g/cm
3以上であり、0.89g/cm
3未満であることが好ましく、0.85〜0.88g/cm
3であることが更に好ましい。上記密度が0.89g/cm
3以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物を加硫ゴムまたは熱可塑性エラストマーと射出融着する場合に、被着体との接着強度が低下するおれがある。また、非晶質重合体(a2)の数平均分子量(Mn)は、1000〜20000であることが好ましく、1500〜15000であることが更に好ましい。ここで、本明細書において、「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるポリスチレン換算の値である。
【0048】
非晶質重合体(a2)としては、具体的には、Huntsman社製の商品名「REXTAC RT2280、RT2780、RT2880」、EvonicDegussa社製の商品名「VESTOPLAST 508,608,704,708,792,」等を挙げることができる。
【0049】
α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)は、エチレンに由来する繰り返し単位、プロピレンに由来する繰り返し単位、及び、1−ブテンに由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種の繰り返し単位から構成されるものであることが好ましい。このような構成であると、結晶質重合体(a1)及びエチレン・α−オレフィン系重合体(エチレン系共重合体)との相容性が向上するため、ゴム弾性及び接着性が向上するという利点がある。そして、このような熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、ウェザーストリップの材料として好適に用いることができる。
【0050】
[1−2]油展エチレン系共重合体(B):
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物に含有される油展エチレン系共重合体(B)は、上記(1)及び(2)の条件を満たすエチレン系共重合体、及び、このエチレン系共重合体100質量部に対して、50〜150質量部の第一の鉱物油系軟化材を含むものである。
【0051】
このような油展エチレン系共重合体(B)は、変形回復性に乏しい分子鎖が少ないため、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性が優れる。また、油展エチレン系共重合体(B)は、溶融粘度が高い超高分子量成分の含有量が少ないため、その他の成分(例えば、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A))との分散性が良好となり、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が優れる。また、油展エチレン系共重合体(B)、特に、エチレン系共重合体は、低分子量成分の含有量が少ないため、軟化材の保持性が高く、大量の鉱物油系軟化材を含有できる。そのため、得られる熱可塑性エラストマー組成物は、成形加工性が優れる。
【0052】
油展エチレン系共重合体(B)としては、エチレン系共重合体と第一の鉱物油系軟化材と溶媒とを含む混合液から脱溶媒して得られるものであることが好ましい。このようにして得られる油展エチレン系共重合体(B)は、エチレン系共重合体単独の場合に比べて、その粘度が低いため、その他の成分(例えば、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A))との分散性が向上することに加え、第一の鉱物油系軟化材がエチレン系共重合体に均一に分散するため、第一の鉱物油系軟化材がブリードアウトし難いという利点がある。
【0053】
[1−2−1]エチレン系共重合体:
油展エチレン系共重合体(B)に含まれるエチレン系共重合体は、上記(1)及び(2)の条件を満たすものである。このようなエチレン系共重合体を含むことによって、得られる油展エチレン系共重合体(B)は、変形回復性に乏しい分子鎖が少なく、溶融粘度が高い超高分子量成分の含有量が少ないという利点がある。
【0054】
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン/α−オレフィン二元共重合体、エチレン/α−オレフィン/非共役ポリエン三元共重合体等を挙げることができる。
【0055】
エチレン・α−オレフィン共重合体を得るためのα−オレフィンとしては、炭素数3〜20のα−オレフィンが好ましく、炭素数3〜12のα−オレフィンが更に好ましく、炭素数3〜8のα−オレフィンが特に好ましい。α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセンなどを挙げることができる。これらの中でも、工業的な入手が容易であるという観点から、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、特にプロピレンが好ましい。なお、これらのα−オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
また、エチレン・α−オレフィン共重合体中のエチレンに由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、50〜80質量%であることが好ましく、54〜75質量%であることが更に好ましく、60〜70質量%であることが特に好ましい。上記含有割合が、上記範囲内にあると、機械的強度と柔軟性とのバランスに優れるという利点がある。上記含有割合が50質量%未満であると、架橋効率が低下する傾向(特に、架橋剤として有機過酸化物を使用した場合)にあり、十分な機械的強度が得られにくくなる。一方、80質量%超であると、柔軟性が低下するおそれがある。
【0057】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体を得るためのα−オレフィンとしては、上記エチレン・α−オレフィン共重合体を得るためのα−オレフィンと同様のものを用いることができる。また、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体中のエチレンに由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、50〜80質量%であることが好ましく、54〜75質量%であることが更に好ましく、60〜70質量%であることが特に好ましい。上記含有割合が、上記範囲内にあると、機械的強度と柔軟性とのバランスに優れるという利点がある。上記含有割合が50質量%未満であると、架橋効率が低下する傾向(特に、架橋剤として有機過酸化物を使用した場合)にあり、十分な機械的強度が得られにくくなる。一方、80質量%超であると、柔軟性が低下するおそれがある。
【0058】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体を得るための非共役ポリエンとしては、例えば、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−プロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロオクタジエン、1,5−シクロオクタジエンなどの環状ポリエン、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,6−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、7−メチル−1,7−ノナジエン、8−メチル−1,7−ノナジエン、8−メチル−1,8−デカジエン、9−メチル−1,8−デカジエン、4−エチリデン−1,6−オクタジエン、7−メチル−4−エチリデン−1,6−オクタジエン、7−メチル−4−エチリデン−1,6−ノナジエン、7−エチル−4−エチリデン−1,6−ノナジエン、6,7−ジメチル−4−エチリデン−1,6−オクタジエン、6,7−ジメチル−4−エチリデン−1,6−ノナジエンなどの炭素数が6〜15の内部不飽和結合を有する鎖状ポリエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,10−ウンデカジエン、1,11−ドデカジエン、1,12−トリデカジエン、1,13−テトラデカジエンなどのα,ω−ジエンを挙げることができる。これらの中でも、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、7−メチル−1,6−オクタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンが好ましく、5−エチリデン−2−ノルボルネンが特に好ましい。なお、これら非共役ポリエンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
エチレン・α−オレフィン・非ポリエン共重合体を得るための非共役ポリエンの含有量は、エチレン・α−オレフィン・非ポリエン共重合体のヨウ素価が、0〜40となる量であることが好ましく、0〜30となる量であることが好ましい。このヨウ素価は、共重合体中の非共役ポリエンに由来する構造単位の含有量の目安となる値であり、ヨウ素価が40超であると、混練りの際、ゲル化を起こしやすくなるため、押し出しなどの成形工程でブツが発生するおそれがある。
【0060】
エチレン系共重合体は、上述した条件(1)を満たすものである。即ち、デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が5.5〜9.0dl/gであり、5.5〜8.5dl/gであることが好ましく、5.5〜8.0dl/gであることが更に好ましく、5.5〜7.5dl/gであることが特に好ましい。上記極限粘度[η]が5.5dl/g未満であると、ゴム弾性が低下する。一方、9.0dl/g超であると、粘度が高くなりすぎて工業的生産性が低下する。なお、本明細書における極限粘度[η]の測定は、例えば、ウベローデ型粘度計を用いて行うことができる。
【0061】
エチレン系共重合体は、上述した条件(2)を満たすものである。即ち、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が3以下であり、2.8以下であることが好ましく、2.0〜2.7であることが更に好ましい。重量平均分子量と数平均分子量との比が3超であると、ゴム弾性、軟化材保持性、及び、成形加工性が低下する。なお、本明細書において「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるポリスチレン換算の値である。
【0062】
エチレン系共重合体は、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムにおける、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合が、3%以下であることが好ましく、0〜3%であることが更に好ましく、0〜2.5%であることが特に好ましい。上記面積割合が3%超であると、ゴム弾性、及び、軟化材保持性が低下するおそれがある。
【0063】
ここで、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムにおける、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合」の算出方法を、
図1を用いて具体的に説明する。
図1は、エチレン系共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって分析して得られるクロマトグラムを示す図である。まず、
図1に示すクロマトグラムの溶出曲線1の積分値(溶出曲線1と横軸で囲まれた全面積(
図1中、「S
T」と示す))を算出する。次に、ポリスチレンに換算した分子量10万の成分が溶出する時間(溶出時間)T1以降に検出される部分の積分値(面積(
図1中、「S1」と示す))を算出する。次に、これらの値から、式:(S1/S
T)×100を算出して「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムにおける、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合」とする。
【0064】
エチレン系共重合体は、例えば、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの方法を適宜選択して製造することができる。これらの重合操作は、バッチ式でも連続式でもよい。また、上記溶液重合法またはスラリー重合法においては、反応媒体として、不活性炭化水素を使用することができる。不活性炭化水素溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などを挙げることができる。なお、これらの炭化水素溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
エチレン系共重合体を製造する際に用いられる重合触媒としては、例えば、V、Ti、Zr及びHfよりなる群から選択される遷移金属の化合物と有機金属化合物とからなるオレフィン重合触媒などを挙げることができる。なお、遷移金属の化合物及び有機金属化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
このようなオレフィン重合触媒としては、例えば、メタロセン化合物と有機アルミニウム化合物、またはこのメタロセン化合物と反応してイオン性錯体を形成するイオン性化合物とからなるメタロセン系触媒、またはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるチーグラー・ナッタ系触媒などを挙げることができる。なお、エチレン系共重合体の製造の際に、分子量調整剤として、水素ガスを用いることもできる。水素ガスの使用量は、触媒種、触媒量、重合温度、重合圧力などの重合条件、及び重合スケール、撹拌状態、チャージ方法などの重合プロセスによっても異なるが、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた溶液重合では、全単量体成分に対して、0.01〜20ppmであることが好ましく、0.1〜10ppmであることが更に好ましい。
【0067】
[1−2−2]第一の鉱物油系軟化材:
油展エチレン系共重合体(B)に含まれる第一の鉱物油系軟化材は、成形加工性や柔軟性を付与するとともに、製品外観を向上させるために用いられるものである。鉱物油系軟化材としては、例えば、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系等のものを挙げることができる。これらの中でも、エチレン系共重合体との相容性が高いため軟化材保持性が優れ、耐候性も優れる、アニリン点が90〜150℃のパラフィン系またはナフテン系の鉱物油系軟化材が好ましい。
【0068】
第一の鉱物油系軟化材の使用量は、エチレン系共重合体100質量部に対して、50〜150質量部であり、80〜140質量部であることが好ましく、90〜130質量部であることが更に好ましい。上記使用量が50質量部未満であると、柔軟性や成形加工性が低下する。一方、150質量部超であると、べた付きが発生して工業的な生産性が低下する。
【0069】
油展エチレン系共重合体(B)の形状は、ベール、クラム、ペレット等のいずれの形状でもよい。このような油展エチレン系共重合体(B)は、得られる組成物の柔軟性や弾性回復性を良好にするという観点から、非結晶または低結晶性であることが好ましい。なお、結晶化度は、密度に関係するため、結晶化度よりも簡便に測定できる密度で結晶化度を代用することが一般的に行われている。本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物に含有される油展エチレン系共重合体(B)は、その密度が、0.89g/cm
3以下であることが好ましい。更に、エチレン系共重合体のX線回折測定による結晶化度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが更に好ましい。上記結晶化度が20%超であると、エチレン系共重合体の柔軟性が低下するおそれがある。
【0070】
油展エチレン系共重合体(B)の製造方法は、特に制限はないが、例えば、エチレン系共重合体と第一の鉱物油系軟化材と溶媒とを含む混合液を得、得られた混合液から脱溶媒して製造することができる。具体的には、重合して得られた、溶媒を含むエチレン系共重合体溶液に、所定量の第一の鉱物油系軟化材を添加し、混練機によって混練して混練物を得た後、得られた混練物を、スチームストリッピング法、フラッシュ法等の方法で脱溶媒する方法や、重合後、乾燥させて得られたエチレン系共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒、またはクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒等の良溶媒に均一に溶解させて溶解液を得、得られた溶解液に所定量の第一の鉱物油系軟化材を添加し、混練機によって混練して混練物を得た後、得られた混練物を、スチームストリッピング法、フラッシュ法等の方法で脱溶媒する方法などを挙げることができる。混練機としては、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、またはロール等の、通常、ゴムの油展に用いられる装置を使用することができる。
【0071】
[1−2−3]その他の重合体:
重合体成分には、(A)成分、及び(B)成分以外の重合体(以下、「その他の重合体」と記す場合がある)を含有していてもよく、その他の重合体としては、例えば、ブタジエンゴム、ブチルゴムやNBR等のゴム質重合体、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂、水添ジエン系重合体等の熱可塑性エラストマー、オルガノポリシロキサン、変性オルガノポリシロキサン等を挙げることができる。その他の重合体の含有割合は、重合体成分の合計量100質量%に対して、1〜50質量%であることが好ましく、2〜45質量%であることが更に好ましく、3〜40質量%であることが特に好ましい。上記含有割合が1質量%未満であると、その他の重合体を添加したことによる効果が発現しないおそれがある。一方、50質量%超であると、ゴム弾性が低下するおそれがある。
【0072】
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、フルオロポリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン等の未変性のオルガノポリシロキサンを挙げることができる。また、変性オルガノポリシロキサンとしては、例えば、アクリル変性、エポキシ変性、アルキル変性、アミノ変性、カルボキシル変性、アルコール変性、フッ素変性、アルキルアラルポリエーテル変性、エポキシポリエーテル変性等の、官能基で化学修飾したオルガノポリシロキサンを挙げることができる。これらの中でも、摺動性が著しく向上するため、JIS K2283で規定される25℃における粘度が10000cSt未満である未変性のオルガノポリシロキサンと、上記粘度が10000cSt以上である未変性のオルガノポリシロキサンと、を併用することが好ましい。
【0073】
なお、その他の重合体は、重合体組成物中に添加しても良いし、重合体組成物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後に添加してもよい。
【0074】
重合体成分中の、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との質量の割合((A)/(B))は、5/95〜70/30であることが好ましく、10/90〜70/30であることが更に好ましく、10/90〜60/40であることが特に好ましい。α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との質量の割合が上記範囲にあると、ゴム弾性と流動性とのバランスに優れるという利点がある。油展エチレン系共重合体(B)の割合に対してα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)の割合が小さくなりすぎると、即ち、5未満になると、流動性が低下するおそれがある。一方、油展エチレン系共重合体(B)の割合に対してα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)の割合が大きくなりすぎると、即ち、70超になると、ゴム弾性が低下するおそれがある。
【0075】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物中の油展エチレン系共重合体(B)の含有割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)とを含む重合体成分の合計量100質量%に対して、30質量%以上であり、35〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることが更に好ましい。上記含有割合が30質量%未満であると、ゴム弾性が低下する。
【0076】
[1−3]第二の鉱物油系軟化材(C):
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るための重合体組成物は、第二の鉱物油系軟化材(C)を更に含有するものであることが好ましい。第二の鉱物油系軟化材(C)を含有させることによって、成形加工性や柔軟性を付与するとともに、製品外観を向上させることができる。第二の鉱物油系軟化材(C)としては、上述した第一の鉱物油系軟化材と同様のものを用いることができる。即ち、例えば、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系等の鉱物油系軟化材を挙げることができる。これらの中でも、エチレン系共重合体(油展エチレン系共重合体(B))との相容性が高いため軟化材保持性が優れ、耐候性に優れる、アニリン点が90〜150℃のパラフィン系またはナフテン系が好ましい。
【0077】
第二の鉱物油系軟化材(C)の含有割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)とを含む重合体成分の合計量100質量部に対して、0〜400質量部であることが好ましく、0〜100質量部であることが更に好ましく、0〜50質量部であることが特に好ましく、0〜30質量部であることが最も好ましい。上記含有割合が400質量部超であると、鉱物油のブリードアウトが発生し、製品の外観が悪くなるおそれがある。
【0078】
なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる重合体組成物は、その他の軟化材としてシリコーンオイルを更に含有するものであることが好ましい。
【0079】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、フルオロポリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン等の未変性のオルガノポリシロキサンなどを挙げることができる。また、変性オルガノポリシロキサンとしては、例えば、アクリル変性、エポキシ変性、アルキル変性、アミノ変性、カルボキシル変性、アルコール変性、フッ素変性、アルキルアラルポリエーテル変性、エポキシポリエーテル変性等の、官能基で化学修飾したオルガノポリシロキサンなどを挙げることができる。これらの中でも、摺動性が著しく向上するため、JIS K2283で規定される25℃における粘度が10000cSt未満である未変性のオルガノポリシロキサンと上記粘度が10000cSt以上である未変性のオルガノポリシロキサンとを併用することが好ましい。
【0080】
シリコーンオイルの市販品としては、「シリコーンオイルSH−200」(東レ・ダウコーニングシリコーン社製)、「X−21−3043」(信越化学社製)等を挙げることができる。
【0081】
なお、シリコーンオイルは、重合体組成物中に添加しても良いし、重合体組成物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後に添加してもよい。
【0082】
シリコーンオイルの含有量は、α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)、α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)、及び、油展エチレン系共重合体(B)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜8質量部であることが更に好ましく、1〜7質量部であることが特に好ましい。上記範囲でシリコーンオイルを含有させると、ウェザーストリップの材料として好適な熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。シリコーンオイルの含有量が0.1質量部未満であると、摩擦係数が増加するため、良好な摺動性が十分に得られないおそれがある。一方、10質量部超であると、材料強度が十分に得られなかったり、ブリードアウトにより成形品の外観が悪くなったりするおそれがある。
【0083】
[1−4]架橋剤:
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るために用いられる架橋剤は、EPMまたはEPDM等のエチレン系共重合体の架橋に通常使用されるものである限り特に制限はなく、例えば、硫黄、硫黄化合物、有機過酸化物、フェノール樹脂系架橋剤、キノイド系架橋剤、アクリル酸金属塩系架橋剤、ビスマレイミド系架橋剤等を挙げることができる。
【0084】
[1−4−1]硫黄、硫黄化合物:
硫黄及び硫黄化合物は、通常、ゴムの加硫用として、一般的に市販されているものを用いることができる。硫黄としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などを挙げることができる。また、硫黄化合物としては、例えば、塩化硫黄;二塩化硫黄;モリホルンジスルフィド;アルキルフェノールジスルフィド;ジブチルチオウレアなどのチオウレア類;メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−(4−モリフォリノジチオ)ベンゾチアゾールなどのチアゾール類;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどのジチオカルバミン酸塩類などを挙げることができる。なお、これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
硫黄及び硫黄化合物の配合割合は、それぞれ、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.3〜4質量部であることが更に好ましく、0.5〜3質量部であることが特に好ましい。上記配合割合が0.1質量部未満であると、架橋反応が不十分でゴム弾性が低下するおそれがある。一方、5質量部超であると、流動性が低下するおそれがある。
【0086】
[1−4−2]有機過酸化物:
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ第3ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第3ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−ジ(第3ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(第3ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(第3ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(第3ブチルペルオキシ)バレレード、ベンゾイルペルオキシド、p−クロルベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロルベンゾイルペルオキシド、第3ブチルペルオキシベンゾエード、第3ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、第3ブチルペルオキシド等を挙げることができる。これらの有機過酸化物の中でも、分解反応が穏やかで重合体成分が均一に混合した後で架橋反応が進むものが好ましい。
【0087】
分解反応が穏やかで重合体成分が均一に混合した後で架橋反応が進む有機過酸化物とは、1分間半減期温度が十分に高いもの、即ち、150℃以上のものが好ましい。このような有機過酸化物としては、具体的には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第3ブチルペルオキシ)−ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第3ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(第3ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどを挙げることができる。なお、これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
また、有機過酸化物とともに適当な架橋助剤を存在させると、架橋反応が、均一、かつ、穏やかに行われ、特に均一な架橋を形成することができるという利点がある。架橋助剤としては、例えば、イオウ、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジアリールファレート、ジアリールフタレート、テトラアリールオキシエタン、トリアリールシアヌレート、ジアリールフタレート、テトラアリールオキシエタン、トリアリールシアヌレート、N,N−m−フェニレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛、トリ(メタ)アクリル酸アルミ、ジ(メタ)アクリル酸マグネシウム等を挙げることができる。これらの中でも、均一な架橋を形成できるため、N,N−m−フェニレンビスマレイミド、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
有機過酸化物の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、0.02〜3.0質量部であることが好ましく、0.1〜2.0質量部であることが更に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、均一かつ穏やかな架橋を行うことができるという利点がある。上記配合割合が0.02質量部未満であると、架橋が不十分のためゴム弾性が低下するおそれがある。一方、3.0質量部超であると、機械的強度が低下するおそれがある。
【0090】
架橋助剤の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましく、0.2〜2質量部であることが更に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、相構造(海島構造)の均一性及びそれに伴う成形加工性が維持されるという利点がある。上記配合割合が3質量部超であると、未反応の単量体として熱可塑性エラストマー組成物中に残存するため、熱可塑性エラストマー組成物を成形加工する際の熱履歴によって熱可塑性エラストマー組成物が物性の変化を起こすおそれがある。
【0091】
[1−4−3]フェノール樹脂系架橋剤:
フェノール樹脂系架橋剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0092】
【化1】
【0093】
上記一般式(1)中、mは0〜10の整数、X、Yは水酸基またはハロゲン原子であって、同一であっても異なっていてもよい。Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基である。
【0094】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、米国特許第3287440号公報、及び、米国特許第3709840号公報の各明細書に記載されているように、ゴム用架橋剤として一般的に使用されている化合物である。そして、上記一般式(1)で表される化合物は、アルカリ触媒の存在下、置換フェノールとアルデヒドとを縮重合させることにより製造することができるものである。
【0095】
フェノール樹脂系架橋剤の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることが更に好ましく、0.4〜3質量部であることが特に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の部分架橋度を適切にし、耐油性、形状回復性、及び柔軟性を良好にすることができるという利点がある。上記配合割合が0.1質量部未満であると、架橋が不十分でゴム弾性が低下するおそれがある。一方、10質量部超であると、流動性が低下するおそれがある。なお、フェノール樹脂系架橋剤は、単独で使用してもよいが、架橋速度を調節するために、架橋促進剤と併用してもよい。
【0096】
フェノール樹脂系架橋剤と併用可能な架橋促進剤としては、例えば、塩化第一スズ、塩化第二鉄などの金属ハロゲン化物、塩素化ポリプロピレン、臭素化ポリプロピレン、臭素化ブチルゴム、クロロプレンゴムなどの有機ハロゲン化物を挙げることができる。更に、上記架橋促進剤以外に、酸化亜鉛のような金属酸化物や、ステアリン酸等の分散剤を併用してもよい。
【0097】
[1−4−4]キノイド系架橋剤:
キノイド系架橋剤としては、例えば、p−キノンジオキシムの誘導体などを挙げることができる。具体的には、p−ベンゾキノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジアミド等を挙げることができる。
【0098】
キノイド系架橋剤の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、0.2〜10質量部であることが好ましく、0.5〜7質量部であることが更に好ましく、0.8〜3質量部であることが特に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の部分架橋度を適切にし、耐油性、形状回復性、及び柔軟性を良好にすることができるという利点がある。上記配合割合が0.2質量部未満であると、架橋が不十分でゴム弾性が低下するおそれがある。一方、10質量部超であると、流動性が低下するおそれがある。なお、キノイド系架橋剤は単独で使用してもよいが、架橋速度を調節するために、架橋促進剤と併用してもよい。
【0099】
キノイド系架橋剤と併用可能な架橋促進剤としては、例えば、鉛丹、ジベンゾチアゾイルサルファイド、テトラクロロベンゾキノン等の酸化剤を挙げることができる。更に、上記架橋促進剤以外に、酸化亜鉛のような金属酸化物や、ステアリン酸等の分散剤を併用してもよい。
【0100】
[1−4−5]アクリル酸金属塩系架橋剤:
アクリル酸金属塩系架橋剤は、アクリル酸やメタアクリル酸などの、亜鉛やカルシウムなどの金属塩である。アクリル酸金属塩系架橋剤は、例えば、酸化亜鉛や炭酸亜鉛とメタクリル酸との反応により得ることができるものである。アクリル酸金属塩系架橋剤としては、具体的には、ジメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸カルシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、ジメタクリル酸モノヒドロキシアルミニウムやトリメタクリル酸アルミニウム、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸モノヒドロキシアルミニウムやトリアクリル酸アルミニウムなどを挙げることができる。
【0101】
アクリル酸金属塩系架橋剤の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、1〜20質量部であることが好ましく、4〜12質量部であることが更に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、ゴム弾性と流動性とのバランスに優れるという利点がある。上記配合割合が1質量部未満であると、架橋が不十分でゴム弾性が低下するおそれがある。一方、20質量部超であると、流動性が低下するおそれがある。
【0102】
[1−4−6]ビスマレイミド系架橋剤:
ビスマレイミド系架橋剤としては、例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドなどを挙げることができる。ビスマレイミド系架橋剤は、通常、有機過酸化物架橋の架橋助剤として用いられるが、単独で用いた場合でも架橋反応を起こすことが知られている。ビスマレイミド系架橋剤の配合割合は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)との合計量100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることが更に好ましく、0.2〜2質量部であることが特に好ましい。上記配合割合が上記範囲内であると、ゴム弾性と流動性とのバランスに優れるという利点がある。上記配合割合が0.05質量部未満であると、架橋が不十分でゴム弾性が低下するおそれがある。一方、10質量部超であると、流動性が低下するおそれがある。
【0103】
[1−5]その他の成分:
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)、油展エチレン系共重合体(B)、第二の鉱物油系軟化材(C)、及び架橋剤以外に、着色剤、充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、結晶核剤、難燃化剤、防菌剤、防かび剤、粘着付与剤、軟化材、可塑剤等の添加剤を適宜配合して熱処理して得ることができる。
【0104】
着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック等を挙げることができる。また、充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、ガラスビーズ、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウイスカー、タルク、硫酸バリウム、ガラスフレーク、フッ素樹脂等を挙げることができる。
【0105】
上記添加剤は、重合体組成物中に添加しても良いし、重合体組成物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後に得られるものに添加してもよい。
【0106】
[1−6]「動的に熱処理」:
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)成分と(B)成分とを含む重合体組成物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られるものである。ここで、「動的に熱処理」するとは、架橋剤の存在下で、(A)成分と(B)成分との溶融、混練、分散、及び、(B)成分の架橋反応を同時に行うことを意味する。このように動的に熱処理することによって、部分的または全体的に架橋された(B)成分が(A)成分中に浮かぶ構造、いわゆる海島構造を有するオレフィン系の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0107】
動的に熱処理する際の温度条件は、150〜250℃であることが好ましい。上記範囲内であると、(A)成分の溶融性と架橋反応性とのバランスが良好である。処理時間は、20秒間〜320分間とすることが好ましく、30秒間〜25分間とすることが更に好ましい。また、負荷する剪断力は、ずり速度で10〜20000/秒であることが好ましく、100〜10000/秒であることが更に好ましい。
【0108】
「動的に熱処理」するために用いる装置としては、例えば、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー等のバッチ式の混練機、一軸押出機、二軸押出機、連続式ニーダー、フィーダールーダー等の連続式の混練機、これらの機器を組み合わせた装置を挙げることができる。
【0109】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述したように、シール材の材料として用いることができる。このようにシール材の材料として用いる場合、更に水添ジエン系重合体を含有するものであることが好ましい。水添ジエン系重合体を含有すると、この水添ジエン系重合体によって鉱物油系軟化材(第一の鉱物油系軟化材と第二の鉱物油系軟化材(C))の保持性が向上するためである。
【0110】
水添ジエン系重合体としては、共役ジエン化合物に由来する単量体単位を含む重合体の水素添加物(D1)と共役ジエン化合物に由来する単量体単位及びビニル芳香族化合物に由来する単量体単位を含む重合体の水素添加物(D2)の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0111】
水素添加物(D1)としては、例えば、水添ブタジエンブロック共重合体等が挙げられる。水素添加物(D2)としては、例えば、水添スチレン・ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン・イソプレンブロック共重合体、水添スチレン・ブタジエン・イソプレンブロック共重合体が挙げられる。
【0112】
水添ジエン系重合体の水素添加率は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが特に好ましい。なお、この「水素添加率」とは、水素添加前のジエン系重合体を構成する共役ジエン単位の側鎖または主鎖中のオレフィン性不飽和結合の数に対する、水素添加された側鎖または主鎖中のオレフィン性不飽和結合の数の割合である。
【0113】
水添ジエン系重合体の含有量は、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)、油展エチレン系共重合体(B)、及び第二の鉱物油系軟化材(C)の合計量100質量部に対して、0〜50質量部であることが好ましく、0.5〜45質量部であることが更に好ましく、1〜40質量部であることが特に好ましい。上記含有量が50質量部超であると、熱可塑性エラストマー組成物の流動性が悪化するおそれがある。
【0114】
なお、水添ジエン系重合体は、動的に熱処理する前の原料組成物に含有させもよいし、動的に熱処理した後に添加して用いてもよい。
【0115】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述したように、制振材の材料として用いることができる。このように制振材の材料として用いる場合には、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で射出成形して縦120mm、横120mm、厚さ2mmのシート状の試験片を形成したとき、形成した試験片が、式:{流れ方向の引張破断伸び(E
B)/流れに対して垂直方向の引張破断伸び(E
B)}≦1.5を満たすものであることが好ましい。
【0116】
そして、制振材の材料として用いる場合、制振性付与材を更に含有するものであることが好ましく、温度25℃、周波数1.0Hzの条件で測定した損失正接(tanδ)が、0.1以上であることが更に好ましい。
【0117】
上記制振性付与材としては、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が、1.8〜2.3dl/gであるエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)と、からなる群より選択される少なくとも一種であり、油展エチレン系共重合体(B)と、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)との総量100質量%に対して、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)との総量が、10〜30質量%であるものであることが好ましい。このような制振性付与材を更に含有する熱可塑性エラストマー組成物によれば、振動吸収性に優れた制振材を得ることができる。
【0118】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)の極限粘度[η]は、上述したように1.8〜2.3dl/gであることが好ましく、1.8〜2.2dl/gであることが更に好ましく、1.9〜2.2dl/gであることが特に好ましい。上記極限粘度[η]が1.8dl/g未満であると、引張破断強さが低下するおそれがある。また、鉱物油系軟化材のブリードアウトが発生するおそれがある。一方、2.3dl/g超であると、損失正接(tanδ)が低下するおそれがある。
【0119】
エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)の配合割合は、油展エチレン系共重合体(B)と、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)との総量100質量%に対して、0〜30質量%であることが好ましい。上記配合割合が30質量%超であると、引張破断伸びの異方性が大きくなるおそれがある。また、鉱物油系軟化材のブリードアウトが発生するおそれがある。
【0120】
イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)としては、具体的には、米国特許第3,584,080号公報に開示されているような、イソブチレン、イソプレン、及び芳香族ジビニル化合物(例えば、ジビニルベンゼンなど)を共重合させたものなどを挙げることができる。
【0121】
イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)の配合割合は、油展エチレン系共重合体(B)と、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)との総量100質量%に対して、0〜30質量%であることが好ましい。上記配合割合が30質量%超であると、鉱物油系軟化材のブリードアウトが発生するおそれがある。また、制振材の機械物性が低下するおそれがある。
【0122】
スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)は、スチレンに由来する構成単位と、共役ジエンに由来する構成単位とを含む共重合体であり、共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、イソブチレンなどを用いることができる。
【0123】
スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)の配合割合は、油展エチレン系共重合体(B)と、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム(E1)と、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(E2)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(E3)との総量100質量%に対して、0〜30質量%であることが好ましい。上記配合割合が30質量%超であると、鉱物油系軟化材のブリードアウトが発生するおそれがある。
【0124】
[2]熱可塑性エラストマー組成物の製造方法:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、上述したα−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、上述した、下記(1)及び(2)の条件を満たすエチレン系共重合体、及びエチレン系共重合体100質量部に対して、50〜150質量部の第一の鉱物油系軟化材を含む油展エチレン系共重合体(B)とを含有し、油展エチレン系共重合体(B)の含有割合が、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と油展エチレン系共重合体(B)とを含む重合体成分の合計量100質量%に対して、30質量%以上である重合体組成物を得、得られた重合体組成物を、上述した架橋剤の存在下で動的に熱処理して得ることができる。
(1):デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が、5.5〜9.0dl/gである。
(2):重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が、3以下である。
【0125】
具体的な製造方法としては、以下に示す3つの態様を挙げることができる。第一の態様としては、(A)成分、及び(B)成分が十分に溶融する温度としたバッチ式の混練機によって、(A)成分、(B)成分、及び必要に応じて(C)成分を混練して混練物を得、得られた混練物に架橋剤を加え、架橋剤の存在下で動的に熱処理する態様である。第二の態様としては、まず、(A)成分、及び(B)成分が十分に溶融する温度としたバッチ式の混練機を用いて、(A)成分、(B)成分、及び必要に応じて(C)成分を混練し、混練物を得る。次に、得られた混練物と架橋剤とを連続式の混練機に投入し、上記混練機によって動的に熱処理する態様である。第三の態様としては、(A)成分、(B)成分、架橋剤、及び必要に応じて(C)成分を、連続式の混練機に投入し、上記混練機によって動的に熱処理する態様である。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例中の各種の測定は、下記の方法により行った。
【0127】
[極限粘度[η]]:
ウベローデ型粘度計を用いて、エチレン系共重合体の135℃のデカリン溶媒中における極限粘度[η]を測定する。
【0128】
[重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比の(Mw/Mn)の値]:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名「PL−GPC220」、ポリマーラボラトリー社製)を使用して、エチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比の(Mw/Mn)の値を算出する。表1中、「Mw/Mn」と示す。カラムは、ポリマーラボラトリー社製の商品名「MIXED−B」、移動相はオルトジクロロベンゼン、温度は135℃、濃度は0.1%、検知器は示差屈折計を用いる。
【0129】
[ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合]:
上記[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値]で得られたゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムから算出する。表1中、「面積割合(%)」と示す。
【0130】
[圧縮永久歪み]:
弾性回復性の指標として、JIS K6262に準拠して70℃で22時間、25%圧縮したときの圧縮永久歪みを測定する。圧縮永久歪みが小さい程、弾性回復性がよいと判断できる。
【0131】
[引張強さ、最大伸び、及び硬度]:
JIS K6301に準拠して射出成形した120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ)の平板について、引張強さ、最大伸び、及び硬度を測定する。この平板は、型締力110トンの射出成形機(日本製鋼社製、商品名「J−110AD」)を用いて作製する。
【0132】
[流動性]:
JIS K7210に準拠して、MFR(メルトフローレート)を、温度230℃、荷重21.2N(2.16kg)または49N(5kg)の条件にて測定する。得られた測定値を流動性の評価値とする。
【0133】
[射出成形性]:
型締力110トンの射出成形機(日本製鋼社製、商品名「J−110AD」)を用いて120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ)の平板を射出成形して成形品を得る。得られた成形品のヒケ、やけ、及び金型転写性について下記の2段階で評価する。
〇:ヒケ、やけがなく、金型鏡面も十分に転写しており(金型転写性が良好であり)、射出成形性が優れる。
×:ヒケ、やけ、または金型転写性不良のいずれかの現象が発生しており、射出成形性が劣る。
【0134】
[オイルブリード]:
上記射出成形した平板状の成形品を、−15℃に設定した冷凍槽の中で3日間静置し、成形品の表面の外観変化を目視にて観察して、軟化材保持性を下記の2段階で評価する。
○:成形品に外観変化が観察されず、軟化材保持性が優れる。
×:成形品にブリードなどの外観変化が観察され、軟化材保持性が劣る。
【0135】
[接着性]:
まず、上記[射出成形性]の評価で用いた射出成形機の割型内に、下記オレフィン系加硫ゴム被着体を予め貼り付ける。次に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、欠部(オレフィン系加硫ゴム被着体を貼り付けた割型内)に収まるように、上記欠部内に射出成形し、上記熱可塑性エラストマー組成物と上記オレフィン系加硫ゴム被着体とを射出融着した平板(120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ))を得る。次に、この平板を、JIS−3号ダンベルカッターで打ち抜いて接着性評価用の試験片(ダンベル状試験片)を得る。このとき、上記平板は、射出融着面(熱可塑性エラストマー組成物とオレフィン系加硫ゴム被着体とが射出融着した面)が、引張り方向に対して垂直であるとともに、標線の間に位置するように打ち抜く。次に、引張り試験機(島津製作所社製、商品名「AG−2000」)を用いて、本試験片の接着強度を測定する。接着強度の値が大きい方が、接着性に優れると判断することができる。
【0136】
上記[接着性]の評価に使用するオレフィン系加硫ゴム被着体は、以下のようにして作製する。まず、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体(商品名「EP 103AF」、JSR社製、エチレンに由来する構造単位の含有量59%、プロピレンに由来する構造単位の含有量36.5%、ムーニー粘度91、)100部に対して、カーボンブラック(商品名「シースト116」、東海カーボン社製)145部、パラフィン系のプロセスオイル(商品名「PW380」、出光興産社製)85部、活性亜鉛華(堺化学工業社製)5部、ステアリン酸(旭電化工業社製)1部、加工助剤(商品名「ヒタノール1501」、日立化成工業社製)1部、離型剤(商品名「ストラクトールWB212」、シル・アンド・ザイラハー社製)2部、及び、可塑剤(ポリエチレングリコール)1部を混合して混合物を得る。
【0137】
次に、得られた混合物をバンバリーミキサーを用いて、50℃、70rpm、混練時間2.5分の条件で混練して混練物を得る。次に、得られた混練物に、脱水剤(商品名「ベスタPP」、井上石灰工業社製)10部、加硫促進剤として大内新興化学工業社製の、商品名「M」1部、商品名「PX」1部、商品名「TT」0.5部、商品名「D」1部、及び、硫黄2.2部を添加し、オープンロールを用いて50℃で混練する。その後、170℃で10分間加硫して、120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ)の加硫ゴムシートを得る。このシートを、ダンベルカッターで長さ60mm、幅50mmに打ち抜き、オレフィン系加硫ゴム被着体とする。
【0138】
[初期摺動性、耐久摺動性]:
初期摺動性及び耐久摺動性の指標として動摩擦係数を測定し、この動摩擦係数により初期摺動性及び耐久摺動性を評価した。より具体的には、往復摺動試験機(東測精密社製)を用いて、室温にて荷重500g/8mm
2(面圧63g/mm
2)、ガラス試験片摺動速度1000mm/分(1ストローク100mm)の条件で、長さ25.7mm、幅3mmのガラス試験片に対する、上記[射出成形性]で作製したシート状の成形品の動摩擦係数を測定した。
【0139】
上記[初期摺動性]及び[耐久摺動性]評価用の評価試験片としては、熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して成形片を得、その後1日経過したものを用いた。なお、表3中、「初期摺動性」とは、1ストローク目の動摩擦係数の値を示しており、「耐久摺動性」とは、1000ストローク目の動摩擦係数の値を示している。
【0140】
以下に示す実施例及び比較例に用いた、α−オレフィン系熱可塑性樹脂(α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)及びα−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2))、第一の鉱物油系軟化材、第二の鉱物油系軟化材、架橋材、架橋助剤、老化防止剤、及びシリコーンオイルについて以下に説明する。
【0141】
α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)としては、プロピレン/エチレンランダム共重合体(商品名「プライムポリプロB241」、プライムポリマー社製、密度0.91g/cm
3、MFR(温度230℃、荷重21.2N(2.16kg))0.5g/10分、融点143℃、80℃における溶出量15%、表2中、「a−1−1」と示す)、プロピレン/エチレン/1−ブテンランダム共重合体(商品名「ノバテックPP FL02A」、日本ポリプロ社製、密度0.90g/cm
3、MFR(温度230℃、荷重21.2N)20g/10分、融点139℃、80℃における溶出量25%、表2中、「a−1−2」と示す)、プロピレン/エチレンランダム共重合体(商品名「ウィンテックWMG03」、日本ポリプロ社製、密度0.90g/cm
3、MFR(温度230℃、荷重21.2N)30g/10分、融点143℃、80℃における溶出量3%、表3中、「a−1−3」と示す)、プロピレン/エチレンランダム共重合体(商品名「ノバテックPP FX4E」、日本ポリプロ社製、密度0.90g/cm
3、MFR(温度230℃、荷重21.2N)5g、融点132℃、80℃における溶出量40%、表3中、「a−1−4」と示す)を使用する。
【0142】
α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)としては、プロピレン/1−ブテン非晶質共重合体(商品名「REXTAC RT2780」、ハンツマン社製、密度0.87g/cm
3、190℃の溶融粘度8000mPa・s、表2中、「a−2−1」と示す)、プロピレン/エチレン/1−ブテン非晶質共重合体(商品名「Vestoplast828」、エボニックデグサ社製、190℃の溶融粘度25000mPa・s、表3中、「a−2−2」と示す)を使用する。
【0143】
第一の鉱物油系軟化材、及び、第二の鉱物油系軟化材としては、出光興産社製の商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」(アニリン点128℃)を使用する。表1,2中、「鉱物油系軟化材」と示す。
【0144】
架橋剤としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名「パーヘキサ25B−40」、日本油脂社製、表2中、「d−1」と示す)を使用する。架橋助剤としては、ジビニルベンゼン(商品名「ジビニルベンゼン(81%)」、新日鐵化学社製、表2中、「d−2」と示す)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド(商品名「バルノックPM」、大内新興化学社製、表2中、「d−3」と示す)を使用する。老化防止剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品名「イルガノックス1010」を使用する。表2中、「老化防止剤」と示す。
【0145】
シリコーンオイルとしては、未変性ポリジメチルシロキサン(商品名「SH−200オイル」、東レ・ダウコーニング社製、動粘度100mm
2/s、表3中、「e−1」と示す)、未変性ポリジメチルシロキサン(商品名「SH−200オイル」、東レ・ダウコーニング社製、動粘度1000mm
2/s、表3中、「e−2」と示す)、ジメチルシリコーンガム(商品名「X−21−3043」、信越シリコーン社製、溶液粘度21000mm
2/s(30%キシレン溶液、25℃)、表3中、「e−3」と示す)を使用する。
【0146】
(合成例1)
[油展エチレン系共重合体(B)の作製]:
予め窒素置換した、攪拌機を備える内容積10リットルのステンレス鋼製のオートクレーブを用い、1MPaの圧力下で連続的に共重合反応を行った。上記オートクレーブの下部の供給口から重合溶媒であるヘキサンを毎時65Lの速度で連続的に供給するとともに、エチレン、プロピレン、及び5−エチリデン−2−ノルボルネンを、それぞれ毎時0.80Nm
3、2.0L、及び0.11Lの速度で連続的に供給した。また、同時に、触媒であるエチルアルミニウムセスキクロライドと三塩化バナジウムとを、それぞれ毎時13.585g、及び0.384gの速度で連続的に供給するとともに、分子量調節剤として水素を毎時0.4NLの速度で連続的に供給した。なお、オートクレーブ内の重合温度は22℃に保持して共重合させた。反応停止後、共重合反応によって得られたポリマーは、別の貯蔵機内に移した。この共重合ポリマー100部に対して、第一の鉱物油系軟化材として出光興産社製の「ダイアナプロセスPW90」(商品名)120部を添加し、攪拌して、スチームストリッピングにより共重合ゴムを析出させ、油展エチレン系共重合体(B)としての油展エチレン系共重合体(b−1)を作製した。
【0147】
作製した油展エチレン系共重合体(b−1)について、上記極限粘度[η]、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値、及び、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合の各評価を行った。その評価結果は、極限粘度[η]が6.7であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が2.4であり、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合が0.5%であった。また、油展エチレン系共重合体(b−1)は、エチレンに由来する構造単位(表1中、「エチレン」と示す)、プロピレンに由来する構造単位(表1中、「プロピレン」と示す)、及び、5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来する構造単位(表1中、「5−エチリデン−2−ノルボルネン」と示す)が、それぞれ、全構造単位100%に対して、67%、26.5%、及び、6.5%であった。
【0148】
(合成例2、4、5)
表1に示す配合処方となるように、エチレン、プロピレン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、エチルアルミニウムセスキクロライド、三塩化バナジウム、水素の供給量、重合温度を調整し、合成例1と同様にして、油展エチレン系共重合体(b−2)、(b−4)、及び(b−5)を作製した。
【0149】
作製した油展エチレン系共重合体(b−1)〜(b−5)について、上記各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
(合成例3)
エチレン、プロピレン、及び5−エチリデン−2−ノルボルネンを、それぞれ毎時0.75Nm
3、1.4L、及び0.10Lの速度で連続的に供給すること、触媒である三塩化バナジウムを毎時1.216gの速度で連続的に供給すること、水素を毎時0.06NLの速度で連続的に供給すること、重合温度を30℃に保持して共重合すること、及び、鉱物油系軟化材の添加量を100部とした以外は、合成例1と同様にして油展エチレン系共重合体(b−3)を作製した。
【0152】
作製した油展エチレン系共重合体(b−3)は、極限粘度[η]が4.7であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が3.7であり、ポリスチレンに換算した分子量10万以下の領域の面積割合が3.2%であった。
【0153】
(実施例1)
α−オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(a1)としてプロピレン/エチレンランダム共重合体3.5部、α−オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂(a2)としてプロピレン/1−ブテン非晶質共重合体3.5部、合成例1で作製した油展エチレン系共重合体(b−1)65部、第二の鉱物油系軟化材(商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」、出光興産社製)28部、及び、老化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1部を、150℃に加熱した加圧ニーダー(モリヤマ社製)に投入し、各成分が均一に分散するまで、40rpmで15分間混練した。その後、溶融状態の組成物を得、得られた組成物をフィーダールーダー(モリヤマ社製)にてペレット化した。得られたペレットに、架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1部、及び、架橋助剤としてジビニルベンゼン0.85部を添加し、ヘンシェルミキサーにて30秒間混合した。その後、重量式フィーダーを用いて二軸押出機(同方向非噛み合い型スクリュー、L/D=38.5、池貝社製、品名「PCM−45」)に吐出量40kg/時間で供給し、200℃、スクリュー回転数300rpm、滞留時間2分で動的熱処理を施しながら押出を行い、熱可塑性エラストマー組成物(I)を得た。
【0154】
本実施例の熱可塑性エラストマー組成物(I)についての上記各評価結果は、圧縮永久歪みが22%であり、引張強さが2.9MPaであり、最大伸びが660%であり、硬度(デュロA、10秒後)が28であり、流動性(230℃、49N)が79であり、射出成形性が「○」であり、オイルブリードが「○」であり、接着性が0.9MPaであった。
【0155】
(実施例2〜4、比較例1〜5)
表2に示す配合処方とすること以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物(II)〜(VIII)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物(II)〜(VIII)について、上記各評価(圧縮永久歪み、引張強さ、最大伸び、硬度(デュロA、10秒後)、流動性、射出成形性、オイルブリード、及び、接着性)を行った。評価結果を表2に示す。ただし、比較例3では、鉱物油系軟化材を保持することができず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかったため、表2中、「作製不可」と示す。
【0156】
【表2】
【0157】
(実施例5〜7、比較例6〜9)
表3に示す配合処方とすること以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物(IX)〜(XV)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物(IX)〜(XV)について、各評価(圧縮永久歪み、引張強さ、最大伸び、硬度(デュロA、10秒後)、流動性(230℃、21.2N(2.16kg))、射出成形性、オイルブリード、接着性、初期摺動性、及び、耐久摺動性)を行った。評価結果を表3に示す。なお、比較例6,7,9の耐久摺動性の評価における「測定不可」とは、1000ストロークに達する前に試験片が摩耗し、試験片に穴が生じたことを示す。即ち、耐久摺動性が大幅に劣ることを示している。
【0158】
【表3】
【0159】
表2から明らかなように、実施例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物(I)〜(IV)は、ゴム弾性、流動性、接着性、及び、軟化材保持性の全てに優れることが確認できた。比較例1の熱可塑性エラストマー組成物(V)は、油展エチレン系共重合体の極限粘度[η]の値、及びMw/Mnの値が、本発明の範囲外であるため、実施例1の熱可塑性エラストマー組成物と比べて、ゴム弾性、流動性、及び、軟化材保持性に劣る。比較例2の熱可塑性エラストマー組成物(VI)は、油展エチレン系共重合体のMw/Mnの値が、本発明の範囲外であるため、実施例2の熱可塑性エラストマー組成物と比べて、ゴム弾性、流動性、及び接着性に劣る。比較例3の熱可塑性エラストマー組成物は、油展エチレン系共重合体の極限粘度[η]の値が、本発明の範囲外のため、軟化材保持性が不十分であり、熱可塑性エラストマー組成物を作製することが不可能であった。比較例4、5の熱可塑性エラストマー組成物は、油展エチレン系共重合体の極限粘度[η]の値が、本発明の範囲外であるため、ゴム弾性、流動性、及び接着性に劣る。
【0160】
表3から明らかなように、実施例5〜7の熱可塑性エラストマー組成物(IX)〜(XI)は、ゴム弾性、流動性、接着性、軟化材保持性、初期摺動性、及び、耐久摺動性の全てに優れることが確認できた。比較例6〜9の熱可塑性エラストマー組成物(XII)〜(XV)は、油展エチレン系共重合体の極限粘度[η]の値、及び、Mw/Mnの値が、本発明の範囲外であるため、実施例5の熱可塑性エラストマー組成物(IX)と比べて、ゴム弾性、流動性、耐久摺動性に劣る
。