特許第5979870号(P5979870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979870抗真菌剤保持体の製造方法、抗真菌剤保持体、及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979870
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】抗真菌剤保持体の製造方法、抗真菌剤保持体、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/10 20060101AFI20160818BHJP
   A01N 43/50 20060101ALI20160818BHJP
   A01N 43/60 20060101ALI20160818BHJP
   A01N 43/653 20060101ALI20160818BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160818BHJP
   D06M 23/00 20060101ALI20160818BHJP
   B01J 3/00 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   A01N25/10
   A01N43/50 B
   A01N43/60
   A01N43/653 C
   A01P3/00
   D06M23/00 Z
   !B01J3/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-286619(P2011-286619)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-133327(P2013-133327A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390031093
【氏名又は名称】テイカ製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】藤下 繁人
(72)【発明者】
【氏名】塩田 聡
(72)【発明者】
【氏名】高畠 浩一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 宏子
(72)【発明者】
【氏名】堀 照夫
(72)【発明者】
【氏名】森 康充
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−069929(JP,A)
【文献】 特開2008−266829(JP,A)
【文献】 特表2007−502893(JP,A)
【文献】 特開2007−277759(JP,A)
【文献】 特開2004−143613(JP,A)
【文献】 特開2004−204189(JP,A)
【文献】 特開2011−094283(JP,A)
【文献】 特開平08−226078(JP,A)
【文献】 特開2009−149568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
D06M 23/00
B01J 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾール系抗真菌剤、ベンジルアミン系抗真菌剤、アリルアミン系抗真菌剤、ポリエンマクロライド系抗真菌剤、フッ化ピリミジン系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、及びグリセオフルビン系抗真菌剤からなる群より選択される少なくとも1種である抗真菌剤を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した該媒体を、フィルム状物質、繊維状物質又は繊維状物質から形成される織布若しくは不織布である担体に接触させることにより、該抗真菌剤を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする、抗真菌活性及び耐洗浄性を有する抗真菌剤保持体の製造方法。
【請求項2】
超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アゾール系抗真菌剤が、イソコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、イトラコナゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、ネチコナゾール、ミコナゾール、ボリコナゾール、又はそれらの塩であり;ベンジルアミン系抗真菌剤が、ブテナフィン、又はその塩であり;アリルアミン系抗真菌剤が、テルビナフィン、又はその塩であり;ポリエンマクロライド系抗真菌剤が、アムホテリシンB、ナイスタチン、又はそれらの塩であり;フッ化ピリミジン系抗真菌剤が、フルシトシン、又はその塩であり;キャンディン系抗真菌剤が、ミカファンギン、カスポファンギン、又はそれらの塩であり;グリセオフルビン系抗真菌剤が、グリセオフルビン、又はその塩である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜30MPaの条件下で行われる請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
担体が、通気性のある素材から形成されるものである請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
担体が、繊維状物質から形成されるものである請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である請求項又はに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする抗真菌剤保持体。
【請求項11】
界面活性剤、及び/又は水に対する耐洗浄性を有するものである請求項10に記載の抗真菌剤保持体。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする真菌症の感染予防又は治療用物品。
【請求項13】
手袋、靴下、マスク、サポータ、足拭きマット、靴中敷、スリッパ中敷、及びスリッパから選択されるいずれかの形態を有するものである請求項12に記載の真菌症の感染予防又は治療用物品。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなる真菌症の予防又は治療用外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌剤保持体の製造方法、該方法により製造される抗真菌剤保持体、及びその利用に関し、特に、真菌に起因する真菌症の感染予防又は治療に有効な抗真菌剤保持体及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌症は、真菌がヒト等の宿主の皮膚又は体内に侵入して定着することに起因する感染症であり、代表的な真菌症として、白癬菌による白癬症、カンジダによるカンジダ症等が挙げられる。
例えば表皮の真菌症を治療するために、多くの抗真菌剤が外用剤又は経口剤の形態で使用されている。外用剤は、通常、軟膏、液剤、スプレー剤、貼付剤等の形態で局所適用されるが、このような形態では、患部への塗布等が煩雑であるという取扱い面での問題や、適用した薬が患部から流れやすく薬剤の効果が不十分となる、薬が患者の衣服等に汚れを生じやすい等の問題があった。また、貼付剤の場合には、皮膚から貼付剤が脱落しないように粘着剤が使用されているが、粘着剤により患部に化学的な皮膚刺激があるという問題や、伸縮性に乏しいため激しい運動等によって、粘着剤により固定された貼付剤の脱落が発生するという問題点がある。さらに、外用剤は真菌症が完治するまでに時間がかかり、菌が完全に死滅する前に使用をやめてしまうと、再発するという問題もあった。
【0003】
また、抗真菌活性を有する成分を含む外用剤及び経口剤は、真菌症感染者の症状改善には有効であるが、当該感染者から他者への感染予防については効果が十分とはいえない。例えば、足白癬(水虫)は、感染者と共通のスリッパ、マット等を使用することにより感染が広がるものであるため、感染者本人の外用剤や経口剤の使用のみでは他者への感染を防ぐことが困難である。
【0004】
一方、抗真菌活性を有する素材、例えば抗白癬菌活性を有する繊維から構成される抗真菌性物品(例えば、マット、スリッパ等の日用品)を用いて足白癬等の症状改善及び感染予防を図る方法が提案されており、例えば、抗白癬菌活性を有する化合物を含む抗白癬菌性繊維材料が開示されている(特許文献1)。このような方法によれば、日常生活での使用によって真菌症の感染予防及び治療を行うことができるため、取り扱いが容易である、患者の負担が少ない等の利点がある。しかしながら、外用剤や経口剤を使用する場合に比べ、抗真菌活性が不十分であるという問題があった。
【0005】
例えば、医薬品の有効成分として使用されている抗真菌剤を繊維等に担持又は保持等させることができれば、取り扱いが容易であり、優れた抗真菌活性を有する外用剤、抗真菌性素材として有用であると考えられる。しかしながら、抗真菌剤を繊維等に担持又は注入した医薬品製剤や素材は、これまで報告されていない。さらに、抗真菌性物品がマット、スリッパ等の形態の場合には、洗浄又は洗濯後も十分な抗真菌活性を発揮できる(洗浄によって抗真菌活性が低下しない)耐洗浄性があることが望まれる。
【0006】
出願人は、薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体等の媒体に溶解させて担体に接触させることにより、該化学成分を担体に注入する工程を含む外用剤の製造方法について、既に出願しており(特許文献2)、このような方法によれば、繊維等の担体に効率よく薬剤を注入することができる。しかしながら、優れた抗真菌活性を有し、しかも耐洗浄性を有する抗真菌剤保持体及びその製造方法は、未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−300650号公報
【特許文献2】特願2011−138628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、治療上有効な抗真菌活性(薬効)を発揮することができ、しかも耐洗浄性を有するため洗浄又は洗濯後も引き続き十分な抗真菌活性を発揮することができる抗真菌剤保持体、及びその製造方法、並びに、該抗真菌剤保持体を用いてなる抗真菌性素材、真菌症の感染予防又は治療用物品、及び真菌症の感染予防又は治療用外用剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討し、抗真菌剤を超臨界流体に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した超臨界流体を担体に接触させることにより、該抗真菌剤を該超臨界流体と共に担体に注入することができること、このような方法により製造される抗真菌剤が注入された担体(抗真菌剤保持体)が、用時に治療上充分な薬効(抗真菌活性)を発揮することを見出した。このような製造方法を用いると、抗真菌剤保持体(抗真菌剤が注入された担体)自体を抗真菌活性を有する素材、又は真菌症の予防又は治療用外用剤等とすることができるため、担体を適宜選択することにより様々な抗真菌性物品、医薬等を製造することができる。
【0010】
例えば抗真菌剤保持体を外用剤とする場合、抗真菌剤保持体の製造に用いる担体に連続した空隙を設けると、通気性が良好な外用剤を製造できるため、蒸れ等の皮膚刺激を低減することができる。特に担体が繊維で形成されたものである場合には、極めて通気性がよい外用剤等となる。例えば通気性がない又は低いフィルム等を担体として用いると、通気性がない又は低い外用剤が得られるため、密封療法(ODT療法、密封包帯法ともいう)等に好適に用いることができる。また、このような製造方法によれば、抗真菌剤が注入された繊維等の担体自体をそのまま抗真菌性を有する素材、外用剤とすることができるため、伸縮性に富む抗真菌性を有する素材、外用剤等を製造できる。さらに、抗真菌剤保持体の製造に用いる担体、又は得られた抗真菌剤保持体を円筒状等にして体の各部にフィットするように成形したり、手袋状、靴下状等の形状としたりすれば、脱落の心配がなく、さらに、抗真菌剤保持体を服地、生地等として、各種被服、日用品、医療用物品等に使用すれば、大幅に有効成分と皮膚との接触面積(当該薬剤が経皮吸収性を有する場合には、経皮吸収面積)を増やすことができる。加えて、外用剤とする場合には、経皮吸収部位又は有効成分との接触部位に粘着剤を用いなくてもよいため、例えば既存の貼付剤よりも患部への皮膚刺激を低減できる。
【0011】
本発明者らはまた、このような方法により製造される抗真菌剤保持体は、洗浄又は洗濯しても抗真菌活性が低下しにくい耐洗浄性を有するものであることを見出した。上記製造方法により、上述したように用時に十分な薬効を発揮できる薬物放出性を有し、しかも抗真菌剤が担体から流出しにくい耐洗浄性を兼ね備える抗真菌剤保持体を製造できることは、驚くべき知見であった。このような抗真菌剤保持体を用いれば、例えば衛生面等から定期的に洗浄又は洗濯が必要である足拭きマット、スリッパ中敷等の日用品にも優れた抗真菌性を付与することができ、該抗真菌性足拭きマット等の物品によれば、感染者は意識的に治療しなくても、通常の日常生活における使用のみで真菌症の症状改善を図ることが可能となり、一方、非感染者においては、日用品等を介した感染を防止することができることになる。従って、効果的な真菌症の感染予防及び治療が容易に可能となることから、患者の負担を軽減でき、しかも長期間の継続使用が可能となる。さらに、本発明の抗真菌剤保持体は、洗浄又は洗濯しても抗真菌活性が低下しにくく洗濯して繰り返し使用できることから、環境面、費用面への負担も軽減されることになる。
本発明者らはさらに研究を重ね、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(15)に関する。
(1)抗真菌剤を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該抗真菌剤を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする抗真菌剤保持体の製造方法。
(2)超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)に記載の製造方法。
(3)超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)抗真菌剤が、アゾール系抗真菌剤、ベンジルアミン系抗真菌剤、アリルアミン系抗真菌剤、ポリエンマクロライド系抗真菌剤、フッ化ピリミジン系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、及びグリセオフルビン系抗真菌剤からなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)アゾール系抗真菌剤が、イソコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、イトラコナゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、ネチコナゾール、ミコナゾール、ボリコナゾール、又はそれらの塩であり;ベンジルアミン系抗真菌剤が、ブテナフィン、又はその塩であり;アリルアミン系抗真菌剤が、テルビナフィン、又はその塩であり;ポリエンマクロライド系抗真菌剤が、アムホテリシンB、ナイスタチン、又はそれらの塩であり;フッ化ピリミジン系抗真菌剤が、フルシトシン、又はその塩であり;キャンディン系抗真菌剤が、ミカファンギン、カスポファンギン、又はそれらの塩であり;グリセオフルビン系抗真菌剤が、グリセオフルビン、又はその塩である前記(4)に記載の製造方法。
(6)注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜30MPaの条件下で行われる前記(3)に記載の製造方法。
(7)担体が、通気性のある素材から形成されるものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)担体が、繊維状物質から形成されるものである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である前記(8)又は(9)に記載の製造方法。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする抗真菌剤保持体。
(12)界面活性剤、及び/又は水に対する耐洗浄性を有するものである前記(11)に記載の抗真菌剤保持体。
(13)前記(11)又は(12)に記載の抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする真菌症の感染予防又は治療用物品。
(14)手袋、靴下、マスク、サポータ、足拭きマット、靴中敷、スリッパ中敷、及びスリッパから選択されるいずれかの形態を有するものである前記(13)に記載の真菌症の感染予防又は治療用物品。
(15)前記(11)又は(12)に記載の抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなる真菌症の予防又は治療用外用剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、用時に治療上有効な抗真菌活性(薬効)を発揮することができ、かつ洗浄又は洗濯しても抗真菌活性が低下しにくい耐洗浄性を有する抗真菌剤保持体を製造できる。このような方法により製造される抗真菌剤保持体を抗真菌性物品、医薬等に用いることにより、真菌症の効果的な感染予防及び治療が容易に可能となり、患者の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の抗真菌剤保持体の使用方法の一例を示す図である。
図2図2は、ペーパーディスク法による試験に用いたシャーレの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「担体」とは、抗真菌剤保持体の製造に用いられる原料であり、通常抗真菌剤を含まない。「抗真菌剤保持体」とは、担体内部又は表面に抗真菌剤が支持、保持、又は担持されたものであり、少なくとも担体及び抗真菌剤から構成される。
【0016】
本明細書において、「抗真菌活性」、「抗真菌性」、「抗真菌作用」とは、真菌の増殖を抑制することを意味する。当該定義の趣旨の範疇であれば、「殺菌」、「除菌」、「減菌」、「制菌」、「静菌」のいずれの意味であってもよい。また、「増殖の抑制」とは、具体的には、抗真菌剤保持体、抗真菌性物品又は抗真菌性医薬を使用する前の状態(使用前の状態)と比較して、使用後に(1)使用後に生菌数が減少する場合、(2)使用前の状態と生菌数がほぼ同程度である場合、及び、(3)使用前の状態と比較した生菌数の増加が一定レベルに抑えられる場合を含む。
【0017】
抗菌対象となる「真菌」は、生物学的分類上の真菌に属するものであれば、特に限定されない。例えば、接合菌類、子嚢菌類、担子菌類、及び不完全菌類のいずれであってもよい。より具体的には、皮膚糸状菌(白癬菌属、表皮菌属、小胞子菌属)、ムコール属、ヒストプラズマ属、クリプトコッカス属、カンジダ属、黒色真菌、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トルロプシス属、ケトミウム属、ミロテシウムベルカリア属等が挙げられる。
【0018】
本明細書において、「治療」とは、症状を改善することの他、そのまま放置すればさらに悪化する状態を一定レベルに保持すること、又は悪化の程度を最小限に止めたりすることも含む。具体的に、例えば「治療」とは、症状が完全に消失すること以外に、完全には消失しないものの、症状が緩和される場合や、その進行を阻止又は遅延させる場合も含む。「感染予防」とは、感染を完全に防ぐこと、及び、感染を最小限に抑えるという完全防止以外の場合も含まれる。
【0019】
本発明の抗真菌剤保持体の製造方法は、抗真菌剤を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該抗真菌剤を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含む。
抗真菌剤(薬物)が担体に注入されるとは、抗真菌剤が担体内部又は表面に支持、保持、又は担持されることを意味する。本発明の方法により製造される抗真菌剤保持体とは、このように抗真菌剤が担体内部又は表面に支持、保持又は担持されているものである。
【0020】
本発明の方法は、本発明の効果を奏することになる限り、上記注入工程以外に、担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、担体を乾燥させる工程、担体を貼り合わせる工程等を含んでもよい。担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、及び担体を乾燥させる工程等は、抗真菌剤注入前に行ってもよく、注入後に行ってもよい。担体を乾燥させる工程は、好ましくは、抗真菌剤注入後に行なう。
本発明の抗真菌剤保持体の製造方法は、例えば、抗真菌活性を有する素材(抗真菌性素材)、外用皮膚剤等の製造方法として好適である。
【0021】
抗真菌剤は、抗真菌活性を有する化合物を1種又は2種以上用いることができるが、抗真菌活性を有する医薬の有効成分として用いられている化合物等が好ましい。中でも、通常外用剤に使用されるものが好ましい。より好ましくは、経皮吸収性を有するものである。抗真菌剤として、例えば、アゾール系抗真菌剤、ベンジルアミン系抗真菌剤、アリルアミン系抗真菌剤、ポリエンマクロライド系抗真菌剤、フッ化ピリミジン系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、グリセオフルビン系抗真菌剤等が好適に用いられる。具体的には、例えば、アゾール系抗真菌剤として、イソコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、イトラコナゾール(いずれも慣用名)、及びそれらの塩等のトリアゾール系抗真菌剤;ビホナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、ネチコナゾール、ミコナゾール(いずれも慣用名)、及びそれらの塩等のイミダゾール系抗真菌剤;ボリコナゾール(慣用名)、及びその塩等が挙げられる。ベンジルアミン系抗真菌剤として、ブテナフィン(慣用名)、及びその塩等が挙げられる。アリルアミン系抗真菌剤として、テルビナフィン(慣用名)、及びその塩等が挙げられる。ポリエンマクロライド系抗真菌剤として、アムホテリシンB、ナイスタチン(いずれも慣用名)、及びそれらの塩等が挙げられる。フッ化ピリミジン系抗真菌剤として、フルシトシン(慣用名)、及びその塩等が挙げられる。キャンディン系抗真菌剤として、ミカファンギン、カスポファンギン(いずれも慣用名)、及びそれらの塩等が挙げられる。グリセオフルビン系抗真菌剤として、グリセオフルビン(慣用名)、及びその塩等が挙げられる。中でも、通常外用剤に使用される抗真菌剤、例えば、アゾール系抗真菌剤であるイソコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、ネチコナゾール、ミコナゾール、又はそれらの塩;アリルアミン系抗真菌剤であるテルビナフィン、又はその塩;ベンジルアミン系抗真菌剤であるブテナフィン、又はその塩等から選択される1種又は2種以上が好ましい。また、本発明における抗真菌剤として、アゾール系抗真菌剤等が好ましく、中でも、トリアゾール系抗真菌剤等が好ましく、ケトコナゾール又はその塩、フルコナゾール又はその塩、クロトリマゾール又はその塩等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0022】
超臨界流体とは、臨界点以上の温度及び圧力下においた物質の状態のことであり、温度と圧力を共に臨界点以上にすると、物質は液体とも気体とも異なる特殊な状態をとる。臨界点とは、物質の気相−液相間の相転移が起こりうる温度及び圧力の範囲の限界を示す相図上の点である。
本発明の特徴に鑑み、超臨界流体に準じる亜臨界流体や、その温度が100℃を超える液体状態の水を担体に薬物を注入するための媒体として用いても、超臨界流体を媒体とした場合と同様の効果を得ることができることは、容易に予測される。
本発明においては、担体に薬物を注入するための媒体として超臨界流体、亜臨界流体、またはその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかを用いることができるが、好ましくは、超臨界流体を用いる。
【0023】
本発明における超臨界流体及び亜臨界流体は、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、アセトン等であることが好ましい。超臨界流体及び亜臨界流体は、これらの1種のみからなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。中でも、注入処理後の乾燥が楽であるため、常温で気体であるもの、例えば二酸化炭素等が好ましい。特に好ましくは、超臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である。二酸化炭素の超臨界流体(超臨界二酸化炭素)は、非可燃性である、常温で気体のため注入処理後の乾燥が楽であり、安価である、臨界点の温度及び圧力が比較的低い(二酸化炭素の臨界点:31.1℃、7.4MPa)、被注入担体(薬物が注入される担体)との反応性が小さい等の利点があるため好ましい。
【0024】
本発明における担体は、抗真菌剤を、その内部又は表面に支持、保持、又は担持することができる物体である。
本発明における担体は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、フィルム状物質、繊維状物質、繊維状物質から形成される織布、不織布等が挙げられる。また、2種以上の担体を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0025】
フィルム状物質として、例えば、レーヨン、キュプラ、アセチルセルロース、プロミックス、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、又はフィブロイン製のフィルム等が挙げられる。中でも、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムが好ましい。例えば、通気性がない又は低いナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムを担体として用いた抗真菌剤保持体は、密閉療法等に用いる外用剤に好適なものである。
【0026】
本発明においては、担体が、通気性のある素材から形成されるものであることが好ましい。通気性のある素材として、例えば、繊維状物質等が好適である。すなわち本発明における担体は、繊維状物質から形成されるものであることが好ましい。
その通気度は、使用時に、皮膚から蒸散される水分を充分に透過させることができれば、その程度は特に限定されないが、通常、JIS L-1096一般織物試験法の通気度測定(フラジール法)による測定値が、0.1cc/cm2/sec以上であり、好ましくは1cc/cm2/sec以上、より好ましくは、10cc/cm2/sec以上である。
また、担体が、繊維状であることは、薬物の放出面積の大きさの面からも有利である。
【0027】
繊維状物質は、しなやかで、凝集性のあるものが好適であり、例えば、繊維等が好適に用いられる。繊維は、化学繊維及び天然繊維のいずれであってもよい。化学繊維として、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維(アセタール化ポリビニルアルコール)、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。天然繊維として、綿、麻(ラミー、リネン等)、羊毛(ウール)、獣毛(モヘア、カシミア、キャメル等)、絹(シルク)等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、化学繊維が好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維等がより好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等がさらに好ましく、ポリエステル繊維が特に好ましい。ポリエステルは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体である。中でも耐薬品性、強度、価格等の面から、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維が好適に用いられる。
【0028】
本発明における担体として、繊維状物質から形成される織布又は不織布が好適である。不織布は、繊維を織ったり、編んだりしないで、適当な方法で、ウェブ状(薄綿状)又はマット状に配列し、次いで、接着剤や熱処理、又は繊維間の摩擦力によって、繊維相互を接合、製織させて、シート状としたものである。本発明における不織布として、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ(スパンレース、水流絡合)不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、ステッチボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、湿式不織布等が好適に用いられる。中でも、ニードルパンチ不織布、ウォータージャットパンチ(水流絡合)不織布等が好ましい。
【0029】
担体の大きさ及び形状は特に限定されず、患部の大きさ、用途等に応じて適宜選択することができる。例えば、シート状、リボン状等が挙げられる。また、本発明においては、担体が、体の各部にフィットするような形状に形成されていてもよい。これにより、例えば抗真菌剤保持体を経皮吸収製剤等の外用剤とした場合に、体の各部から脱落しにくくなる。このような担体として、例えば、円筒状、手袋状、又は靴下状のものが好適である。例えば、このような形状に形成された織布又は不織布は、本発明における担体の好ましい態様の1つである。円筒状等とする場合、一部に関節の曲げ対応のために開口部があってもよい。
【0030】
注入工程において、抗真菌剤を媒体である超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した媒体を担体に接触させる方法は特に限定されない。例えば媒体が超臨界流体であれば、通常、使用する流体の臨界点以上の温度及び圧力下で、抗真菌剤、担体及び流体(超臨界流体)を共存させればよい。例えば、超臨界流体を例に挙げて説明すると、通常、抗真菌剤及び担体を耐圧反応管等の耐圧反応容器に入れ、これに流体を加圧しながら注入することにより流体を超臨界状態にし、超臨界流体を所定の温度に保持することにより注入工程を行なうことができる。また、耐圧反応管等の耐圧反応容器を有する装置として、超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製、型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro)等を好適に用いることができ、例えば、抗真菌剤及び担体を超臨界流体抽出装置内に入れ、装置内の温度及び圧力を所定の範囲まで上昇させ、次いで装置内に流体を導入して装置内を所定温度及び圧力に保持することにより、抗真菌剤を超臨界流体に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した超臨界流体を担体に接触させることができる。抗真菌剤を溶解した超臨界流体が担体と接触することにより、該抗真菌剤が、該超臨界流体と共に担体に注入される。
【0031】
注入工程における温度及び圧力は、使用される媒体の種類等に応じて適宜選択すればよいが、担体及び抗真菌剤が安定な温度及び圧力範囲を選択することが好ましい。例えば、媒体として超臨界流体である二酸化炭素(好ましくは実質的に二酸化炭素のみからなる流体)を用いる場合、注入工程の温度は、好ましくは約150℃以下であり、より好ましくは約130℃以下であり、さらに好ましくは約120℃以下である。注入工程の温度の下限は、好ましくは約32℃である。注入工程の温度は、さらに好ましくは約80〜130℃である。圧力は、約7.8〜40MPaの条件が好ましく、約10〜35MPaの条件がより好ましく、約15〜30MPaがさらに好ましい。すなわちこのような温度及び圧力条件下で、抗真菌剤、担体及び二酸化炭素を共存させて、該抗真菌剤を二酸化炭素に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した二酸化炭素を担体に接触させることが好ましい。
【0032】
注入工程において、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール又はその塩等のアゾール系抗真菌剤等を注入する場合を例に挙げて説明すると、例えば、媒体として超臨界流体である二酸化炭素(好ましくは実質的に二酸化炭素のみからなる流体)を用いる場合、注入工程の温度は、好ましくは約120℃以下であり、より好ましくは約100℃以下である。注入工程の温度の下限は、好ましくは約40℃である。注入工程の温度は、さらに好ましくは約40〜100℃である。圧力は、約5〜40MPaの条件が好ましく、約10〜35MPaの条件がより好ましく、約15〜30MPaがさらに好ましい。すなわちこのような温度及び圧力条件下で、抗真菌剤、担体及び二酸化炭素を共存させて、該抗真菌剤を二酸化炭素に溶解させ、該抗真菌剤を溶解した二酸化炭素を担体に接触させることが好ましい。
【0033】
例えば、媒体である超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いて、ポリエステル製の不織布に対して注入を行う場合、温度約40〜120℃、かつ圧力約5〜40MPaの条件下で行われることが好ましく、温度約60〜120℃、かつ圧力約15〜35MPaの条件下で行われることがより好ましい。温度は、さらに好ましくは約60〜100℃である。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程におけるさらに好ましい注入条件は、温度約80〜100℃である。圧力は、約15〜30MPaがより好ましく、約20〜30MPaがさらに好ましい。
【0034】
注入工程において媒体として温度が100℃を超える液体状態の水を用いる場合、水の温度は、例えば、約100℃を超える温度〜150℃とすることが好ましく、110℃〜130℃がより好ましい。また、注入工程における圧力は、約0.105MPa〜0.5MPaとすることが好ましい。
【0035】
注入工程を行なう時間は、抗真菌剤の注入量、温度、圧力、及び担体への負荷等から適宜設定され、特に限定されないが、約15分〜48時間が好ましく、約30分〜24時間がより好ましく、約1時間〜18時間がさらに好ましい。注入工程の時間がこのような範囲であると、担体に負荷を与えず、充分な注入量が得られるため好ましい。
【0036】
例えば、ケトコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール又はその塩等のアゾール系抗真菌剤等を注入する場合、注入工程を行なう時間は、例えば、約15分〜48時間が好ましく、約30分〜24時間がより好ましい。
【0037】
注入工程における抗真菌剤の使用量は、通常担体質量に対して約5〜300質量%とすることが好ましく、約10〜200質量%とすることがより好ましい。このような範囲であると、充分な注入量が得られ、かつ、薬物のロスも少なく抑えることができるため好ましい。
【0038】
注入工程では、所望に応じて、抗真菌剤、及び媒体(超臨界流体、亜臨界流体又は温度が100℃を超える液体状態の水)以外の成分を担体に注入してもよい。このような成分は、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、経皮吸収促進剤、芳香剤、色素等が挙げられる。抗真菌剤と共に他の成分を担体に注入する場合には、注入工程において、抗真菌剤、その他の成分、担体及び媒体を共存させて、該抗真菌剤及びその他の成分を媒体に溶解させ、該媒体を担体に接触させればよい。
【0039】
注入工程を行なった後は、必要に応じて、得られる担体の表面を洗浄してもよい。通例、担体の表面は洗浄しないことが好ましい。
注入工程において抗真菌剤と共に担体に注入された媒体(超臨界流体、亜臨界流体又はその温度が100℃を超える液体状態の水)は、例えば、二酸化炭素等の常温で気体の流体を使用した場合には、該担体を常温下に置くことにより、担体から放出されて除去される。
【0040】
本発明においては、必要に応じて、上記工程により抗真菌剤が注入された担体を、乾燥させる工程を行なうことができる。乾燥工程を行なうことにより、媒体として用いられた超臨界流体、亜臨界流体、又は水を効率よく除去することができ、また、媒体として用いられた成分の残留を最小限に留めることができる。乾燥は、通常約0〜40℃、好ましくは約10〜20℃で行う。乾燥の時間は、通常約0.5〜4時間、好ましくは約1〜3時間である。抗真菌剤と担体の種類にもよるが、一般に、抗真菌剤注入後の加温による乾燥は、抗真菌剤が担体から流出してしまうことがあるため好ましくない。従って、乾燥は、減圧下で行われることが好ましく、その圧力は、通例約10−3mmHg以下、好ましくは約10−4mmHg以下、より好ましくは約10−5mmHg以下である。
【0041】
担体に注入された抗真菌剤の量(薬物注入量)の測定は、例えば、以下の手順により行うことができる。
(1)担体を適当な大きさに切断又は所望の形状に成形する。必要に応じて、該担体を真空デシケーターで乾燥させる。乾燥後の担体の質量(W)を測定する。
(2)超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製 型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro等)のセル内に、担体及び抗真菌剤を加える。
(3)セル内を所定の圧力及び温度に所定時間保つことにより、注入処理を行う。
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター(約10−5mmHg)中で約1〜3時間乾燥させる。乾燥後、抗真菌剤注入後の担体の質量(Wsc)を測定する。担体の表面は、洗浄せずに、保管する場合には常温、暗所にて保管することが好ましい。
【0042】
担体に注入された抗真菌剤の量(薬物注入量)は、簡易的には、Wsc−Wの計算式により、増加質量を求めることにより間接的に確認される。ただし、使用した担体及び媒体の組合せによっては、担体の構成成分(例えば、担体がポリマーである場合には、残存モノマー、可塑剤等)が注入工程で用いられた媒体に溶解し、質量が減少する可能性があるので、予め確認が必要である。より正確な薬物注入量は、例えば、イソプロパノール等の溶媒によって抽出した液中の抗真菌剤濃度(薬物濃度)を、HPLC、吸光度測定等により定量することにより容易に測定可能である。
【0043】
本発明の抗真菌剤保持体は、抗真菌剤の種類、抗真菌剤保持体の用途等によりその好ましい含有量は異なるが、一般に、有効成分である抗真菌剤の含有量が抗真菌剤保持体に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましい。このような範囲であると、後述する外用剤、抗真菌性素材等とした場合に、十分な抗真菌活性を発揮できるため好ましい。
【0044】
上記製造方法により、担体に抗真菌剤保持体が注入されて抗真菌剤保持体が得られる。上記製造される抗真菌剤保持体も、本発明の1つである。
上記製造方法により製造される抗真菌剤保持体は、例えば皮膚に適用されると担体に注入された抗真菌剤が放出されるため、治療上有効な薬効を発揮することができるものである。しかも、このような抗真菌剤保持体を用いると、有効成分である抗真菌剤の経皮吸収面積又は皮膚への接触面積を大きくすることができる。また、上記製造方法により得られる抗真菌剤保持体は、有効成分である抗真菌剤の経皮吸収部位又は抗真菌剤と皮膚との接触部位において剥離時に皮膚の角質層を損傷させない安全性にも優れるものであり、同時に、貼付時の冷たさを感じることがなく、使用性に優れるものである。
さらに、上記製造方法において、例えば繊維状物質から形成される織布、不織布等を担体として用いると、得られる抗真菌剤保持体は高い通気性を有するものであるため皮膚に適用した際のムレ等が軽減されたものである。さらに、担体として繊維状物質から形成される織布、不織布等を用いると、得られる抗真菌剤保持体は伸縮性に富むため使用感に優れ、かつ体の各部にフィットして脱落しにくいため体のあらゆる部位に適用できるものとなる。また、例えば通気性がない又は少ないフィルム等を担体として用いると、得られる抗真菌剤保持体は通気性がない又は少ないものであるため、皮膚に適用すると密閉療法の効果が得られるものである。
【0045】
本発明の抗真菌剤保持体は、上述したように用時に優れた抗真菌活性を発揮するものであが、さらに、界面活性剤を含む洗剤等を用いる洗浄又は洗濯、又はドライクリーニングを行っても、十分な抗真菌活性を発揮する耐洗浄性(耐洗濯性)を有するものであることが好ましい。例えば、界面活性剤、及び/又は水に対する耐洗浄性を有する抗真菌剤保持体は、本発明の好ましい態様の1つである。中でも、洗濯洗剤等に使用される界面活性剤、及び水に対する耐洗浄性を有するものが好ましい。このような、耐洗浄性を有する抗真菌剤保持体は、洗剤等を用いて洗浄又は洗濯等を行っても、用時に十分な抗真菌活性を発揮するものであることから、繰り返し使用することができるものである。
【0046】
本発明の抗真菌剤保持体は、例えば、真菌症の感染予防又は治療用外用剤として好適に使用される。
上記抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなる真菌症の感染予防又は治療用外用剤も、本発明に包含される。外用剤の形態は特に限定されず、全体又は少なくとも一部分が上記抗真菌剤保持体により構成されていればよい。外用剤は、好ましくは、外用皮膚剤であり、中でも、経皮吸収製剤が好ましい。
【0047】
「真菌症」とは、真菌感染による疾患の総称であり、病変部位の深さにより、表在性真菌症、深在性真菌症、及び、深部皮膚真菌症に大別される。表在性真菌症としては、体部、頭部、手足、爪等の白癬症;口角炎、手、爪等のカンジダ症、粘膜指間びらん、乳児寄生菌性紅斑等の皮膚・粘膜のカンジダ症;癜風等が挙げられる。深在性真菌症としては、クリプトコッカス症、アスペルギルス症、ブラストミセス症、ヒストプラマ症、コクシジオイデス症、肺カンジダ症、腸管カンジダ症、全身カンジダ症等が挙げられる。深部皮膚真菌症としては、クロモミコーシス、足菌腫、角膜真菌症等が挙げられる。本発明の真菌症の感染予防又は治療用外用剤は、表在性真菌症の感染予防又は治療に好適に用いられる。中でも、手足又は爪等の白癬症、口角炎等の皮膚・粘膜のカンジダ症等に好適に用いられる。
【0048】
本発明においては、上記抗真菌剤保持体をそのまま外用剤として使用してもよく、又は抗真菌剤保持体さらに加工(たとえば、切断若しくは裁断、縫製、貼付又は成形)することによって外用剤を製造することもできる。
【0049】
本発明の外用剤の形状は特に限定されず、シート状、リボン状、円筒状、手袋状、靴下状、マスク状等あらゆる形状とすることができる。また、外用剤を服地、生地等として、各種被服(肌着、下着を含む衣類)、シーツ等として用いることもできる。外用剤を成形する方法は特に限定されず、上述した製造方法において、注入工程に用いる担体を予め所望の大きさ又は形状に切断又は成形等して加工おいてもよく、注入工程後、得られた抗真菌剤保持体を所望の大きさ又は形状に加工(例えば、切断若しくは裁断、縫製、貼付又は成形)してもよい。
【0050】
本発明の外用剤は、抗真菌剤の種類等によりその適切な含有量は異なるが、一般に、有効成分である抗真菌剤の含有量が製剤(外用剤)に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましい。このような範囲であると、治療上必要な有効成分を患部又は全身に効果的に投与できるため好ましい。本発明の製造方法を用いると、上記量の抗真菌剤を含有する外用剤を製造することができる。また、例えば、皮膚(好ましくは患部)と接触する部分において、外用剤1cmあたりの抗真菌剤の含有量は、市販の軟膏剤等の外用剤を患部に適用した場合の抗真菌剤の1cmあたりの投与量を超えない程度とすることが好ましい。本発明においては、例えば外用剤に用いる抗真菌剤保持体の厚み等を調整することにより、面積当たりの抗真菌剤の含有量を適宜調整することができる。
【0051】
本発明の外用剤は、皮膚(好ましくは患部)に好適に適用され、通例、本発明の外用剤を投与部位に接触させることにより、有効成分である抗真菌剤を患部又は全身に投与することができる。本発明の外用剤を体の各部に適用する方法としては特に限定されず、例えば、製造に使用された担体自体が粘着性を有さない場合には、別途、粘着性を有する部材で、外用剤の一部又は全部を覆って投与部位に固定しても良く、包帯等を巻きつけて又はネット包帯等を用いて外用剤を固定することもできる。また、製造に使用された担体が伸縮性を有する素材の場合には、例えば外用剤を円筒状等とすると、図1に例を示すように、サポータのように用いて患部を覆う又は患部と接触させることもできる。手袋状、靴下状、マスク状等とした場合には、手袋、靴下、マスクのように着用して患部を覆う又は患部と接触させることができる。外用剤をシーツ等の形状として、患部と接触させることもできる。
【0052】
本発明の外用剤が適用される対象は特に限定されず、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(イヌ、ネコ、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ等)、その他有用動物等が挙げられる。好ましくは、ヒトであり、より好ましくは上記真菌症の患者等である。
【0053】
上記抗真菌剤保持体は、抗真菌作用を有する物品(抗真菌性物品)を製造するための抗真菌性素材としても好適に使用される。上記抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなる抗真菌作用を有する物品(抗真菌性物品)も、本発明に包含される。本発明においては、上記抗真菌剤保持体をそのまま抗真菌性物品として使用してもよく、又は抗真菌剤保持体をさらに加工等することによって抗真菌性物品を製造することもできる。
【0054】
本発明の抗真菌性物品の形態は特に限定されず、物品の全体又は少なくとも一部分が上記抗真菌剤保持体により構成されていればよい。例えば、上記の製造方法において、担体として繊維状物質、又は繊維状物質から形成される織布、不織布等を用いて製造された抗真菌剤保持体は、各種繊維製品に適用することができ、例えば、足拭きマット等のマット、スリッパ中敷、スリッパ、靴下、靴中敷、ストッキング、手袋、マスク、サポータ、包帯、帽子、肌着、下着を含む衣類、タオル、シート等のカバー、カーテン、カーペット等の抗真菌性物品に好適に用いられる。また、担体としてフィルムを用いて製造された抗真菌剤保持体は、上述の繊維製品を非繊維質で製する場合(例えば非繊維質のスリッパ中敷)等の抗真菌性物品に好適に用いられる。
このような抗真菌性物品は、上記注入工程に用いる担体を予め所望の大きさ又は形状に成形等しておくか、又は抗真菌剤保持体を所望の形態に加工(例えば、切断又は裁断、縫製、貼付等)することにより製造することができる。
【0055】
上記抗真菌剤保持体を用いてなる本発明の抗真菌性物品は、耐洗浄性に優れ、洗濯又は洗浄後も優れた抗真菌活性を発揮するため、例えば、水虫感染者の保有する白癬菌を媒介し、非感染者を感染させる恐れのある足拭きマット等のマット、スリッパ中敷、スリッパ、タオル、カーペット等の日用品用途に好適に使用され、保菌者からの感染を予防することに大きな効果を発揮することができる。また、抗真菌剤保持体を手袋、手袋、靴下、マスク、サポータ、足拭きマット、靴中敷、スリッパ中敷、スリッパ、パンスト、タイツ、肌着等の用途に用いて感染者自身の真菌症が悪化するのを防ぐのにも効果的である。
【0056】
本発明の抗真菌性物品は、優れた抗真菌活性を有し、さらに耐洗浄性をも有するものである。このため、例えば真菌症の感染予防又は治療用物品等として使用することにより、優れた真菌症の治療効果、症状改善効果、及び感染予防効果を得ることができる。上記抗真菌剤保持体を少なくとも一部に用いてなる真菌症の感染予防又は治療用物品も、本発明に包含される。真菌症の感染予防又は治療用物品の形態は特に限定されず、上述した抗真菌性物品と同じもの等が挙げられる。
【0057】
本発明の真菌症の感染予防又は治療用物品の使用態様は、真菌症の感染予防又は治療に用いられる態様であればよく、特に限定されない。例えば、抗真菌剤保持体は、所望の用途及び機能に合わせて適宜適切な形態に加工され、真菌症の感染予防又は治療用物品として使用される。例えば、白癬症、皮膚カンジダ症といった表在性真菌症に対しては、患部となる部分(手足、爪等)に少なくとも抗真菌剤保持体を直接的又は間接的に接触させる使用態様(例えば、足拭きマット等のマット、スリッパ中敷、スリッパ、靴下、靴中敷、ストッキング、手袋、マスク、サポータ、包帯、タオル、患部貼付パッド、衣類等)で用いられることが好ましい。真菌症の感染予防又は治療用物品の好ましい態様は、例えば、手袋、靴下、マスク、サポータ、足拭きマット、靴中敷、スリッパ中敷、及びスリッパから選択されるいずれかの形態を有することである。より具体的には、例えば白癬菌の感染予防又は治療用の靴下、スリッパ中敷、スリッパ、足拭きマット(バスマット);口角炎の感染予防又は治療用マスク;角質増殖型手白癬の感染予防又は治療用手袋等として好適に使用される。一方、深在性真菌症及び深部皮膚真菌症に対しては、感染予防を主たる目的とする使用態様で用いることが好ましい。例えば、真菌症の原因菌の吸入防止のため、大気中の真菌を抗菌すべく、マスク、カーペット、カーテン等に本発明の抗真菌剤保持体を用いてもよい。
【0058】
本発明の真菌症の感染予防又は治療用物品は、特に、患部に抗真菌剤保持体を直接的に接触させて抗真菌活性を発揮させる使用態様がより効果的であり、このため表在性真菌症の治療及び予防に特に好適に用いられる。さらに好ましくは、白癬症、より具体的には爪白癬症、手足白癬症(水虫)の感染予防又は治療、口角炎の感染予防又は治療、角質増殖型手白癬の感染予防又は治療等の用途に好適に用いられる。本発明の抗真菌剤保持体、並びにそれを用いてなる素材及び物品は、用時に優れた抗真菌活性を発揮でき、しかも洗浄又は洗濯後も治療に有効な抗真菌活性が持続するものであるため、上記真菌症の感染予防又は治療のための医療用途で用いることにより、真菌症を効果的に予防及び/又は治療することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0060】
実施例1
以下の手順により、担体(ポリエチレンテレフタレート製不織布)に抗真菌剤(薬物)を注入し、抗真菌剤保持体1〜3を作製した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製不織布(バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×10cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(W)を電子天秤で測定した。
(2)超臨界流体抽出装置(ISCO社製、型番 SFE System 2200)のセル内に、担体及び表1に示す薬物(クロトリマゾール(和光純薬工業株式会社)、ケトコナゾール(東京化成工業株式会社)又はフルコナゾール(東京化成工業株式会社))を入れた。薬物質量は、いずれも担体質量の150質量%(150%owf)とした。
(3)セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を80℃及び25MPaまで上げた後、二酸化炭素を送り込み、表1に示す時間注入処理を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター中で2時間乾燥させ、薬物注入後の担体の質量(Wsc)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
【0063】
各抗真菌剤保持体における薬物の注入量は、Wsc−Wの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)は、100×(Wsc−W)/Wの計算式により求めた。表2に、質量変化率を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
抗真菌剤保持体1〜3は、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0066】
実施例2
実施例1で作製した抗真菌剤保持体1〜3から、それぞれ検体1〜3を調製し、各検体についてペーパーディスク法によるin vitro評価試験を実施した。
【0067】
試験手法
モデル: ペーパーディスク法
供試菌株: Candida albicans(ATCC10231)
供試培地: ミューラーヒントンII寒天培地(2%グルコース及び0.5μg/mLメチレンブルーを含む)
例数及び群構成: 対照群(ブランク不織布及びブランクペーパーディスク) n=2×3
検体1(クロトリマゾール/不織布) n=2
検体2(ケトコナゾール/不織布) n=2
検体3(フルコナゾール/不織布) n=2
陽性対照群(イソコナゾール硝酸塩/ペーパーディスク) n=2×3
検体サイズ: 8mm径
【0068】
試験方法: 検体は予め、生検トレパン(カイ インダストリーズ社)を用いて8mm径のサイズに調製した。陽性対照であるイソコナゾール硝酸塩(ERREGIERRE S.p.A.社)は0.02%アセトン溶液を作製し、その50μLをペーパーディスク(8mm径、アドバンテック)に吸着させ、風乾させた。同時に高圧蒸気滅菌処理したミューラーヒントンII寒天培地をシャーレに分注し、冷却・固化させた。対照(陰性対照)として、ブランク不織布(実施例1で担体として用いた不織布)、及びペーパーディスク(8mm径、アドバンテック)を用いた。
【0069】
Candida albicans(ATCC10231)の新鮮菌を生理食塩液(シスメックス・ビオメリュー株式会社)にて、マクファーランド濁度1.0に調整し、コンラージ棒を用いて、その0.1mLを培地表面に均一に塗布した。図2に示すように、対照、検体及び陽性対照を、シャーレ1/4円の中央に置床し(黒丸で示す)、平板培地を裏側にし、37℃、48時間培養した。培養後、平板上に生じた阻止円直径を、プレートの裏側よりノギスを用いて円盤の中心を通る直交する2方向で計測し、算術平均を求めた。
【0070】
実施例2においては、図2中のA〜Dは、以下の通りとした。
A:対照(ブランクペーパーディスク)
B:対照(ブランク不織布)
C:検体(検体1〜3のいずれか)
D:陽性対照
【0071】
評価方法: 測定した阻止円直径から、次式により阻害活性を算出し、表3に示す6段階のスコアにより評価した。
【0072】
【数1】
【0073】
【表3】
【0074】
各検体に含まれる薬物の量を、表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
なお、表4に示す検体1枚あたりの薬物含有量は、以下の式より算出した。
・不織布(実施例1で製造した抗真菌剤保持体)1枚(5×10cm)あたりの薬物注入量 (g)
薬物注入量(g) = 注入後重量(g) − 注入前重量(g)
・不織布の面積は50cm2であるため、
不織布1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = (薬物注入量(g) ÷ 50 )× 1000
・検体1枚(8mm径)あたりの不織布面積は約0.5cm2であるため、
検体1枚あたりの薬物含有量(mg) = 1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) × 0.5
【0077】
例として、検体1のクロトリマゾール含有量の計算式及び結果を以下に示す。
薬物注入量(g) = 0.52510 − 0.50931
= 0.01579
1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = (0.01579 ÷ 50 )× 1000
= 0.3158
検体1枚あたりの薬物含有量(mg) = 0.3158 × 0.5
= 0.1579
【0078】
結果
検体1の結果を表5に、検体2の結果を表6に、検体3の結果を表7に、それぞれ示す。
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
【表7】
【0082】
表5〜7の結果より、クロトリマゾール、ケトコナゾール及びフルコナゾールをそれぞれ注入した全ての検体に抗真菌活性が認められた。
【0083】
実施例3
実施例1で作製した超臨界流体技術により薬物を注入した抗真菌剤保持体(超臨界流体技術検体)と滴下検体(薬物を担体に滴下した検体)を用いて、抗真菌効果への洗浄処置の影響について検討した。
【0084】
超臨界流体技術検体には、実施例2で調製した検体2及び検体3を用いた。これらの検体1枚あたりの薬物含有量は、上記表4に示すとおりである。
【0085】
滴下検体の調製: 上述した超臨界流体技術により作製した検体一枚あたりの算出含有量と同じになるように、表8に示すように薬物毎に各メタノール溶液を調整し、その30μLをブランク不織布に滴下・風乾して滴下検体を作製した。滴下検体1枚当たりの薬物含有量を表8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
試験手法
モデル: ペーパーディスク法
供試菌株: Candida albicans(ATCC10231)
供試培地: ミューラーヒントンII寒天培地(2%グルコース及び0.5μg/mLメチレンブルーを含む)
例数及び群構成: 対照群(ブランク不織布) n=2
検体/不織布(洗浄処置なし) n=2
検体/不織布(洗浄処置あり) n=2
陽性対照群(イソコナゾール硝酸塩/ペーパーディスク) n=2
検体サイズ: 8mm径
試験方法: 検体は予め、生検トレパン(カイ インダストリーズ社)を用いて8mm径のサイズに調製した。陽性対照であるイソコナゾール硝酸塩は0.02%アセトン溶液を作製し、その50μLをペーパーディスク(8mm径、アドバンテック)に吸着させ、風乾させた。同時に高圧蒸気滅菌処理したミューラーヒントンII寒天培地をシャーレに分注し、冷却・固化させた。対照として用いたブランク不織布は、実施例1で担体として用いた不織布である。
【0088】
Candida albicans(ATCC10231)の新鮮菌を生理食塩液(シスメックス・ビオメリュー株式会社)にて、マクファーランド濁度1.0に調整し、コンラージ棒を用いて、その0.1mLを培地表面に均一に塗布した。図2に示すように、対照、検体及び陽性対照を、シャーレ1/4円の中央に置床し(黒丸で示す)、平板培地を裏側にし、37℃、48時間培養した。培養後、平板上に生じた阻止円直径を、プレートの裏側よりノギスを用いて円盤の中心を通る直交する2方向で計測し、算術平均を求めた。
【0089】
なお、実施例3においては、図2のA〜Dは以下の通りとした。
A:対照(ブランク不織布)
B:検体(洗浄処置なし)
C:検体(洗浄処置あり)
D:陽性対照
【0090】
洗浄方法: 洗剤(アタック(商品名)、花王社)の手洗い基準である配合割合(洗剤3gに対して水4L)の洗浄液を調製し、濾過滅菌後、その50mLを遠沈管に分注した。そこに検体を投入し、数回振盪した後、検体を取り出した。次に、予め滅菌蒸留水50mLを入れた遠沈管に投入し、数回振盪後、検体を取り出し風乾した。この洗浄後の検体を、検体(洗浄処置あり)として使用し、上記のようにペーパーディスク法により抗真菌効果を評価した。
【0091】
評価方法: 測定した阻止円直径から、実施例2と同様の式により阻害活性を算出し、実施例2と同様に、6段階のスコア(上記の表3)により評価した。
【0092】
結果
検体2(超臨界流体技術によりケトコナゾールを注入した検体)の結果を、表9に、滴下検体(ケトコナゾール)の結果を、表10に、検体3(超臨界流体技術によりフルコナゾールを注入した検体)の結果を表11に、滴下検体(フルコナゾール)の結果を表12にそれぞれ示す。「洗浄処置なし」は、上記の洗浄処置を行わなかったものである。
【0093】
【表9】
【0094】
【表10】
【0095】
【表11】
【0096】
【表12】
【0097】
洗浄処置による抗真菌効果への影響について検討した結果、超臨界流体技術で薬物を注入された検体(検体2及び3)は、滴下検体と比較して、洗浄後も抗真菌効果をより強く維持することが認められた。
【0098】
実施例4
実施例3において、検体2及び3の代わりに検体1を用いた以外は、実施例3と同様に洗浄処置による抗真菌効果への影響について検討した(但し、滴下検体については実施しなかった)。
この結果を、表13に示す。
【0099】
【表13】
【0100】
超臨界流体技術により抗真菌剤が注入された検体1は、洗浄後も高い抗真菌効果を発揮した。
超臨界流体により抗真菌剤が注入された検体は、用時に放出されて高い抗真菌活性を発揮できるものであり、しかも耐洗浄性を有することから、洗浄又は洗濯後も持続して高い抗真菌効果を発揮することが確認された。
【0101】
上記実施例で用いたケトコナゾール、フルコナゾール、及びクロトリマゾールの代わりに、他の抗真菌剤を用いても、上記実施例と同様に、担体に抗真菌剤を注入することができ、高い抗真菌効果を示す抗真菌剤保持体を製造できる。例えば、上記実施例において、抗真菌剤としてイソコナゾール、イトラコナゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、ネチコナゾール、ミコナゾール、ボリコナゾール、又はそれらの塩等のアゾール系抗真菌剤;ブテナフィン、又はその塩等のベンジルアミン系抗真菌剤;テルビナフィン、又はその塩等のアリルアミン系抗真菌剤;アムホテリシンB、ナイスタチン、又はそれらの塩等のポリエンマクロライド系抗真菌剤;フルシトシン、又はその塩等のフッ化ピリミジン系抗真菌剤;ミカファンギン、カスポファンギン、又はそれらの塩等のキャンディン系抗真菌剤;グリセオフルビン、又はその塩等のグリセオフルビン系抗真菌剤等の抗真菌剤を用いても、上記実施例と同様に、高い抗真菌効果を示す抗真菌剤保持体を製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、医療分野等において有用である。
図2
図1