(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発することにより有機材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を実用的なものにした。具体的には、電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層し、両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m
2以上の高輝度が得られるようになった(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機エレクトロルミネッセンス素子の実用化のために多くの改良がなされ、各種の役割をさらに細分化して、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を設けた電界発光素子によって高効率と耐久性が達成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また発光効率の更なる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられ、燐光発光体の利用が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
発光層は、一般的にホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、蛍光体や燐光発光体をドープして作製することもできる。上記の非特許文献1および2に記載されているように、有機エレクトロルミネッセンス素子における有機材料の選択は、その素子の効率や耐久性など諸特性に大きな影響を与える。
【0007】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られるが、電子の移動速度より正孔の移動速度が速いため、正孔の一部が発光層を通り抜けてしまうことによる効率低下が問題となる。そのため電子の移動速度の速い電子輸送材料が求められている。
【0008】
代表的な発光材料であるトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以後、Alq
3と略称する)は電子輸送材料としても一般的に用いられるが、仕事関数が5.8eVなので正孔阻止性能があるとは言えない。
【0009】
正孔の一部が発光層を通り抜けてしまうことを防ぎ、発光層での電荷再結合の確率を向上させる方策には、正孔阻止層を挿入する方法がある。正孔阻止材料としてはこれまでに、トリアゾール誘導体(例えば、特許文献3参照)やバソクプロイン(以後、BCPと略称する)、アルミニウムの混合配位子錯体(BAlq)(例えば、非特許文献2参照)などが提案されている。
【0010】
一方、正孔阻止性に優れた電子輸送材料として、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(以後、TAZと略称する)が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
TAZは仕事関数が6.6eVと大きく正孔阻止能力が高いために、真空蒸着や塗布などによって作製される蛍光発光層や燐光発光層の、陰極側に積層する電子輸送性の正孔阻止層として使用され、有機エレクトロルミネッセンス素子の高効率化に寄与している(例えば、非特許文献3参照)。
しかし電子輸送性が低いことがTAZにおける大きな課題であり、より電子輸送性の高い電子輸送材料と組み合わせて、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製することが必要であった(例えば、非特許文献4参照)。
【0012】
また、BCPにおいても仕事関数が6.7eVと大きく正孔阻止能力が高いものの、ガラス転移点(Tg)が83℃と低いことから、薄膜の安定性に乏しく、正孔阻止層として十分に機能しているとは言えない。
【0013】
いずれの材料も膜安定性が不足しており、もしくは正孔を阻止する機能が不十分である。有機エレクトロルミネッセンス素子の素子特性を改善させるために、電子の注入・輸送性能と正孔阻止能力に優れ、薄膜状態での安定性が高い有機化合物が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、高効率、高耐久性の有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として、電子の注入・輸送性能に優れ、正孔阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い優れた特性を有する有機化合物を提供し、さらにこの化合物を用いて、高効率、高耐久性の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【0017】
本発明が提供しようとする有機化合物が具備すべき物理的な特性としては、(1)電子の注入特性が良いこと、(2)電子の移動速度が速いこと、(3)正孔阻止能力に優れること、(4)薄膜状態が安定であること(5)耐熱性に優れていることをあげることができる。また、本発明が提供しようとする有機エレクトロルミネッセンス素子が具備すべき物理的な特性としては、(1)発光効率および電力効率が高いこと、(2)発光開始電圧が低いこと、(3)実用駆動電圧が低いことをあげることができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで本発明者らは上記の目的を達成するために、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造が高い電子輸送能力を有していることと、耐熱性に優れているということに着目して、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を設計して化学合成し、該化合物を用いて種々の有機エレクトロルミネッセンス素子を試作し、素子の特性評価を鋭意行なった結果、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物;および一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられている、有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、Arは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、A、Bは相互に同一でも異なっていてもよく、水素原子もしくは下記一般式(2)で表される1価基を表す。但し、A、Bは同時に水素原子となることはないものとする。)
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、R
1〜R
8は、相互に同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、mは0または1ないし2の整数を表し、Xは炭素原子または窒素原子を表す。ここで、Xが窒素原子である場合、この窒素原子はR
1、R
2、R
3、R
4の置換基または結合基を有さないものとし、mが2である場合、複数個存在するR
1、R
2、R
3、R
4、Xはそれぞれ相互に同一でも異なっていても良いものとする。)
【0024】
一般式(1)中のArで表される、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、フラニル基、ピラニル基、チオフェニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基およびアクリジニル基をあげることができる。
【0025】
一般式(1)中のArで表される、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」として、具体的には、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、スチリル基、ピリジル基、ピリドインドリル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていても良い。
【0026】
一般式(2)中のR
1〜R
8で表される、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、フラニル基、ピラニル基、チオフェニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基およびアクリジニル基をあげることができる。
【0027】
一般式(2)中のR
1〜R
8で表される、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基およびピレニル基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていても良い。
【0028】
一般式(2)中のR
1〜R
8で表される、「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基およびt−ヘキシル基をあげることができる。
【0029】
本発明の一般式(1)で表される、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は新規な化合物であり、従来の電子輸送材料より電子の移動が速く、優れた正孔の阻止能力を有し、かつ薄膜状態が安定である。
【0030】
本発明の一般式(1)で表される、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と略称する。)の電子注入層および/または電子輸送層の構成材料として使用することができる。従来の材料に比べて電子の注入・移動速度の高い本発明の材料を用いることにより、電子輸送層から発光層への電子輸送効率が向上して、発光効率が向上すると共に、駆動電圧が低下して、有機EL素子の耐久性が向上するという効果を奏する。
【0031】
本発明の一般式(1)で表される、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は、有機EL素子の正孔阻止層の構成材料としても使用することができる。優れた正孔の阻止能力と共に従来の材料に比べて電子輸送性に優れ、かつ薄膜状態の安定性の高い本発明の材料を用いることにより、高い発光効率を有しながら、駆動電圧が低下し、電流耐性が改善されて、有機EL素子の最大発光輝度が向上するという効果を奏する。
【0032】
本発明の一般式(1)で表される、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は、有機EL素子の発光層の構成材料としても使用することができる。従来の材料に比べて電子輸送性に優れ、かつバンドギャップの広い本発明の材料を発光層のホスト材料として用い、ドーパントと呼ばれている蛍光体や燐光発光体を担持させて、発光層として用いることにより、駆動電圧が低下し、発光効率が改善された有機EL素子を実現できるという効果を奏する。
【0033】
本発明の有機EL素子は、従来の電子輸送材料より電子の移動が速く、優れた正孔の阻止能力を有し、かつ薄膜状態が安定な、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を用いているため、高効率、高耐久性を実現することが可能となった。
【発明の効果】
【0034】
本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は、有機EL素子の電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層あるいは発光層の構成材料として有用であり、正孔阻止能力に優れ、薄膜状態が安定で、耐熱性に優れている。本発明の有機EL素子は発光効率および電力効率が高く、このことにより素子の実用駆動電圧を低くさせることができる。発光開始電圧を低くさせ、耐久性を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物は新規な化合物であり、これらの化合物は例えば、以下のように合成できる。まず、1,2−ジアミノベンゼン誘導体とニトロアリール誘導体より、既知の方法によって、2−アミノアリールアゾベンゼン誘導体を合成し、ハロゲン化反応を行うことによって相当するハロゲノ−2−アミノアリールアゾベンゼン誘導体を合成することができる。このハロゲノ−2−アミノアリールアゾベンゼン誘導体に対してビス(アセタト−O)フェニルイオジンによる酸化的環化反応を行うことによってベンゾトリアゾール環を有するハロゲノ−2−アリールベンゾトリアゾール誘導体を合成し(例えば、非特許文献5参照)、このハライドとピナコールボランやビス(ピナコラート)ジボロンとの反応で合成されたボロン酸またはボロン酸エステル(例えば、非特許文献6参照)に対し、種々のハロゲノピリジンまたはピリジルアリールハライドをSuzukiカップリングなどのクロスカップリング反応(例えば、非特許文献7参照)を行うことによって、ベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を合成することができる。
【0037】
一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0116】
これらの化合物の精製はカラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行なった。物性値として、DSC測定によりガラス転移点(Tg)と融点の測定を行った。融点は蒸着性の指標となるものであり、ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものである。尚、融点は200℃以上であることが好ましい。
【0117】
融点とガラス転移点は、粉体を用いて、セイコーインスツルメンツ製の高感度示差走査熱量計DSC6200を用いて測定した。
【0118】
また仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、理研計器製の大気中光電子分光装置AC−3型を用いて測定した。仕事関数は正孔阻止能力の指標となるものである。
【0119】
本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極からなるもの、また、陽極と正孔輸送層の間に更に正孔注入層を有するもの、電子輸送層と陰極の間に更に電子注入層を有するものがあげられる。これらの多層構造においては有機層を何層か省略することが可能であり、例えば基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を有する構成とすることもできる。
【0120】
有機EL素子の陽極としては、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。正孔注入層としては銅フタロシアニン(以後、CuPcと略称する)のほか、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体などの材料や塗布型の材料を用いることができる。
【0121】
正孔輸送層にはベンジジン誘導体であるN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(以後、TPDと略称する)やN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(α−ナフチル)−ベンジジン(以後、NPDと略称する)、種々のトリフェニルアミン4量体などを用いることができる。また、正孔の注入・輸送層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOTと略称する)/ポリ(スチレンスルフォネート)(以後、PSSと略称する)などの塗布型の高分子材料を用いることができる。
【0122】
本発明の有機EL素子の発光層、正孔阻止層、電子輸送層としては本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物のほか、BAlqなどのアルミニウムの錯体、チアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、BCPなどのフェナントロリン誘導体や、TAZなどのトリアゾール誘導体など、正孔阻止作用を有する化合物などを用いることができる。
【0123】
アルミニウムの錯体、スチリル誘導体などの従来の発光材料を発光層に用い、本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を正孔阻止層または電子輸送層として用いることにより、高性能の有機EL素子を作製することができる。また、発光層のホスト材料として、例えば、キナクリドン、クマリン、ルブレンなどの蛍光体を用いることができる。燐光発光体としては、フェニルピリジンのイリジウム錯体Ir(ppy)
3などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp
2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体などが用いられ、このときのホスト材料としては正孔注入・輸送性のホスト材料として4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)や4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以後、TCTAと略称する)、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)などのカルバゾール誘導体などを用いることができ、電子輸送性のホスト材料として2,2’,2’’−(1,3,5−フェニレン)−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを用いることができ、高性能の有機EL素子を作製することができる。
【0124】
さらに、本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物に、従来からの電子輸送性の材料を重層、あるいは共蒸着して電子輸送層として用いることができる。
【0125】
本発明の有機EL素子は電子注入層を有していても良い。電子注入層としてはフッ化リチウムなどを用いることができる。陰極としては、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、アルミニウムマグネシウムのような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0126】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0127】
<4,6−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−2−フェニル−2H−ベンゾトリアゾール(化合物11)の合成>
窒素置換した反応容器に、2,4−ジブロモ−6−フェニルアゾ−ベンゼンアミンから合成できる(例えば、非特許文献5参照)4,6−ジブロモ−2−フェニル−2H−ベンゾトリアゾール7.6g、ビス(ピナコラート)ジボロン13.7g、酢酸カリウム13.2g、ジオキサン(予めモレキュラーシーブス4Aで脱水したもの)160ml、PdCl
2(dppf)−CH
2Cl
21.1gを加えて加熱し、80℃で72時間攪拌した。室温まで冷却した後、反応液を水500mlに加え、30分攪拌した。析出物をろ過によって除き、ろ液を酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/酢酸エチル)によって精製し、2−フェニル−4,6−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール6.7g(収率70%)の黄色粉体を得た。
【0128】
窒素置換した反応容器に、前記2−フェニル−4,6−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール4.0g、6−ブロモ−[2,2’]−ビピリジン5.0g、2M炭酸カリウム水溶液13.4ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.5g、トルエン160ml、エタノール40mlを加え、攪拌しながら5時間加熱還流した。室温まで冷却し、水100ml、トルエン100mlを加えて分液し、有機層をさらに水100mlで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:NHシリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、4,6−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−2−フェニル−2H−ベンゾトリアゾール(化合物11)3.8g(収率84%)の黄色粉末を得た。
【0129】
得られた黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図1に示した。
【0130】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の21個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.57(1H)、8.95(1H)、8.79(2H)、8.74(3H)、8.47(4H)、8.00(3H)、7.85(2H)、7.60(2H)、7.50(1H)、7.36(2H)。
【実施例2】
【0131】
<4,6−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−2−(ビフェニル−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール(化合物20)の合成>
窒素置換した反応容器に、2,4−ジブロモ−6−(ビフェニル−2−イルアゾ)−ベンゼンアミンから合成できる(例えば、非特許文献5参照)4,6−ジブロモ−2−(ビフェニル−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール10.9g、ビス(ピナコラート)ジボロン15.5g、酢酸カリウム15.0g、ジオキサン(予めモレキュラーシーブス4Aで脱水したもの)250ml、PdCl
2(dppf)−CH
2Cl
21.3gを加えて加熱し、90℃で7時間攪拌した。室温まで冷却した後、反応液を水500mlに加え、30分攪拌した。析出物をろ過によって除き、ろ液をクロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/酢酸エチル)によって精製し、2−(ビフェニル−2−イル)−4,6−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール8.6g(収率66%)の緑白色粉体を得た。
【0132】
窒素置換した反応容器に、前記2−(ビフェニル−2−イル)−4,6−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール4.0g、6−ブロモ−[2,2’]−ビピリジン4.3g、2M炭酸カリウム水溶液11.5ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.4g、トルエン80ml、エタノール20mlを加え、攪拌しながら6時間加熱還流した。室温まで冷却し、水100ml、トルエン100mlを加えて分液し、有機層をさらに水100mlで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:NHシリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、4,6−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−2−(ビフェニル−2−イル)−2H−ベンゾトリアゾール(化合物20)3.2g(収率73%)の白色粉末を得た。
【0133】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図2に示した。
【0134】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の25個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.48(1H)、8.80(1H)、8.72(4H)、8.48(1H)、8.42(1H)、8.07(1H)、8.00(3H)、7.84(3H)、7.64(3H)、7.35(2H)、7.28(2H)、7.18(3H)。
【実施例3】
【0135】
本発明実施例1および2の化合物について、高感度示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製、DSC6200)によって融点とガラス転移点を求めた。
融点 ガラス転移点
本発明実施例1の化合物 230℃ 78℃
本発明実施例2の化合物 235℃ 87℃
【0136】
本発明の化合物は70℃以上のガラス転移点を示し、薄膜状態が安定である。
【実施例4】
【0137】
本発明実施例1および2の化合物を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC−3型)で仕事関数を測定した。
仕事関数
本発明実施例1の化合物 5.92eV
本発明実施例2の化合物 6.06eV
【0138】
このように本発明の化合物はNPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVより大きい値を有し、更に、Alq
3の5.8eVよりも大きい値を有しており、大きな正孔阻止能力を有している。
【実施例5】
【0139】
有機EL素子は、
図3に示すような、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔輸送層3、発光層4、正孔阻止層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極(アルミニウム電極)8の順に蒸着して作製した。
【0140】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、酸素プラズマ処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔輸送層3として、NPDを蒸着速度6nm/minで膜厚50nmとなるように形成した。この正孔輸送層3の上に、発光層4としてAlq
3を蒸着速度6nm/minで膜厚20nmとなるように形成した。この発光層4の上に、正孔阻止層兼電子輸送層5および6として本発明実施例1の化合物(化合物11)を蒸着速度6nm/minで膜厚30nmとなるように形成した。この正孔阻止層兼電子輸送層5および6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを蒸着速度0.6nm/minで膜厚0.5nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚150nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。このように作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
【0141】
具体的には、本発明の実施例1の化合物(化合物11)を使用して作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【実施例6】
【0142】
実施例5において、正孔阻止層兼電子輸送層5および6の材料として本発明実施例1の化合物(化合物11)に代えて本発明実施例2の化合物(化合物20)を膜厚30nmとなるように形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
具体的には、作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【0143】
[比較例1]
比較のために、実施例5における正孔阻止層兼電子輸送層5および6の材料を電子輸送層6としてのAlq
3に代え、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
具体的には、作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【0144】
【表1】
【0145】
表1に示す様に、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの駆動電圧は、Alq
3の5.66Vに対して本発明の実施例1の化合物(化合物11)では3.44V、本発明の実施例2の化合物(化合物20)では3.73Vと低電圧化した。また、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの輝度、発光効率はほぼ同等あるいは向上した。そして、電力効率はAlq
3の1.50lm/Wに対して本発明の実施例1の化合物(化合物11)では2.41lm/W、本発明の実施例2の化合物(化合物20)では2.70lm/Wと大きく向上した。
【実施例7】
【0146】
膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒洗浄した後に、酸素プラズマ処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔輸送層3として、NPDを蒸着速度6nm/minで膜厚30nmとなるように形成した。この正孔輸送層3の上に、発光層4としてCBPとIr(ppy)
3を、組成比がCBP:Ir(ppy)
3=93:7となるように制御して二元蒸着(蒸着速度6nm/min)し、膜厚40nmとなるように形成した。この発光層4の上に、正孔阻止層5としてBCPを蒸着速度6nm/minで膜厚15nmとなるように形成した。この正孔阻止層5の上に、電子輸送層6として本発明実施例1の化合物(化合物11)を蒸着速度6nm/minで膜厚30nmとなるように形成した。この電子輸送層6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを蒸着速度0.6nm/minで膜厚0.5nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚150nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。このように作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
【0147】
具体的には、本発明の実施例1の化合物(化合物11)を使用して作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表2にまとめて示した。
【実施例8】
【0148】
実施例7において、電子輸送層6の材料として本発明実施例1の化合物(化合物11)に代えて本発明実施例2の化合物(化合物20)を膜厚30nmとなるように形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
具体的には、作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表2にまとめて示した。
【0149】
[比較例2]
比較のために、実施例7における電子輸送層6の材料をAlq
3に代え、実施例7と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
具体的には、作製した有機EL素子に電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの発光特性を測定した。その測定結果を表2にまとめて示した。
【0150】
【表2】
【0151】
表2に示す様に、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの駆動電圧は、Alq
3の11.04Vに対して本発明の実施例1の化合物(化合物11)では9.22V、本発明の実施例2の化合物(化合物20)では6.15Vと低電圧化した。また、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの輝度、発光効率はほぼ同等の値を示した。そして、電力効率はAlq
3の8.04lm/Wに対して本発明の実施例1の化合物(化合物11)では9.24lm/W、本発明の実施例2の化合物(化合物20)では13.10lm/Wと大きく向上した。
【0152】
これらの結果から明らかなように、本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を用いた有機EL素子は、一般的な電子輸送材料として用いられているAlq
3を用いた素子と比較して、電力効率の大きな向上や、実用駆動電圧の顕著な低下を達成できることがわかった。そして、本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を用いた有機EL素子は、一般的な電子輸送材料として用いられているAlq
3を用いた素子と比較して、単位電流(mA/cm
2)あたりの発光効率(cd/A)が同等であることから、単位電力量(W)あたりの発光効率(cd/W)の大きな向上が達成できることがわかった。
【0153】
本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物を用いた有機EL素子における顕著な駆動電圧の低下から、本発明のベンゾトリアゾール環構造とピリジン環構造を有する化合物の電子移動の速度は、一般的な電子輸送材料であるAlq
3より各段に速いものと予測される。
【0154】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなくさまざまな変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本発明は、2009年3月18日出願の日本国特許出願2009−065467に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。